メルトスルーはしていない
ジャーナリスト・上杉隆:チェルノブイリ4号炉事故が起こったときに、燃料はどういう状況に最後はなったのか。現在、福島第一原発1号炉2号炉がメルトスルーを起こし、2トンもの燃料棒の塊が、格納容器を抜けて地中に埋まっている状況になっているという報道がある。この対処法と、どのように防げばいいのか。
博士:私自身、86年までは原子力エネルギー産業とは何ら関係のない業務に従事していましたが、その年の5月、我々の作業班、つまり、当研究所の前身となるグループですが、この作業班が取り組んだ第一の課題は、第4号機の核燃料に何が起こるのか、核燃料によって原子炉の構造物が溶解してしまう可能性があるのか、核燃料が地中にまで到達する可能性があるのか、という点でした。そして、86年5月に我々が達した結論は、最も考えられることとして、核燃料により原子炉の支持板(supporting plate)が溶解しているだろう、そして溶解した核燃料は、支持板の下にある(建屋内の)空間に広がり溜まるであろう、というものでした。チェルノブイリでは、我々が行った解析をもとに、念のための措置として、第4号炉の下部(床面)の更に下にもう一層、(コンクリートから成る)溶解核燃料拡散防止板(訳者注:万一溶解した場合の核燃料が拡散しないように防止する構造物)を取り付けるという措置を施しました。
これは、事故後に取り付けられたものです。私自身、88年に4号機の建屋内に入り、実際に溶解した燃料が冷えて固まっている状態を目にしています。つまり、86年に我々が理論として導き出した通りの光景を、実際に目にした訳です。底板(foundation plate)の溶解は見られませんでした。福島に関して、我々は次のようなシナリオを策定しました。つまり、我々の想定としては、それぞれ溶解の程度が実際に今どのようなものであるかは誰にもわからないことではありますが、全ての原子炉で燃料の溶解が起こる、しかし、溶解した燃料は圧力容器から漏れ出すことなく、圧力容器内に留まっているだろうというシナリオです。そして、底板の溶解は起こっていない(と想定しました)。
司会者:副所長の見解としては、(割愛)格納容器の外には漏れ出していないということですね?
博士:はい、原子炉内に留まっているはずです。また、このことは、公式に公表されている原子力保安院、そして東京電力の報告にもあります。もちろん、事故後の第1日目には、当研究所でもあくまで予測でしかありませんでしたが、実際にその通りの状態であることは、東京電力、原子力保安院およびIAEAから公式に発表されたデータからも確認することが出来ます。もちろん、(このような事故の場合)常にそうであるように、全てが明らかになったわけではありませんが、社会全体にとって最も重要なこととは、事故のもっとも危機的な段階は過ぎた、という点です。すでに冷却も再開し、冷却水の再循環システムをもっと効果的に稼働させるにはまだ問題が残っていますが、しかし、これも実質的にはほとんど解決できているようです。もちろんこの状態がふつうの状態だとは決して言いませんが、事故処理の作業として捉えれば順調ですし、我々も(チェルノブイリの事故処理として)86年5月〜11月の期間にわたって石棺を建設しました。
ジャーナリスト・上杉隆:東京電力の会見で、メルトスルーが起きていると言うことは、否定されてない。これは事実として、可能性はあると東京電力は言っている。なので、仮に、メルトスルーが起きてしまっていたばあい、どう対処すればいいのか、教えて欲しい。
(訳注:『東京電力が地中に到達した可能性もある』と言っているという部分が、ロシア語に通訳されておらず、「もし地中に入ったら」という部分だけが通訳を通じて伝わっているため、副所長からは東京電力からもらった情報には、そういった可能性はないと示されているという回答になっているとみられます)
博士:当研究所が理解している内容からも、また、東京電力および原子力保安院の情報からも、再度申し上げますがこれらはインターネット上で公開されている情報ですが、底板の溶解は起きておらず、また溶解した燃料が地中に達していないと言うには十分であるといえます。ですので、措置としては、単純に、冷却をし続けるということです。今行っていること以外で他の措置を講じる必要はありません。(通訳さんがもう一度確認、これを受けて)いえ、メルトスルーは起こっていません。(会場からの指摘を受けて)法的にということであれば、あなたがおっしゃる通りですね。これはチェルノブイリで我々が作業した時も同じ状況でしたが、法的に根拠を提示するためには、現場まで行き、そのものを測定し指し示す必要があります。ただ、もし仮にメルトスルーが起こっていた場合でも、溶解した燃料が地中に達し、どこか遠くへいってしまう、つまり(ロシア語でよく使われる表現ですが)「中国まで行ってしまう」という訳ではありません。地中に留まり冷えて固まるだけです。もちろん、これも問題ではありますが、大気中に放射性物質が拡散することに比べれば、危険度ははるかに低いと言えます。このことをきちんと理解しなくてはなりません。
今の「中国の・・」という表現に関連した冗談ですが、先ほども述べましたように、ロシア製の原子力発電所では、万が一の措置として、原子炉に溶解核燃料拡散防止システムを装備している訳ですが、ロシアが初めてこの装備を附帯してロシア製原子力発電所を建設したのが、中国でした。現在では、ロシアやほかの国々でも、原子力発電所建設の際に適用されている技術です。ですから、チャイナ・シンドロームは、ロシアのこの防止システムで蓋をすることで、おさまっているという訳です。実際に、この現象自体が引き起こす危険はそれほどのものではなく、より人体にとって有害であるのは、大気を通して放射性物質が周辺環境に放出されることです。
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