司会はジャーナリストの岩上安身氏 写真一覧(5件)
世界中の原発事故で死亡したのは60人だけ
電力時事通信社・岡下:原子力発電所の安全対策について、国の指示により安全検査をして、安全であるとお墨付きが経済産業大臣から出た。その後、総理からストレステストも必要だという方針が打ち出された。日本の原発の安全対策は、博士から見て、十分であるか。本来必要な安全対策とは何か?
博士:この問いは、たいへん重大な問題ですが、はじめに申し上げたいことは、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)で・・・・(訳者注:現場で正式名称が特定できなかったため、以下、若干委員会の説明)この委員会はすでに60年以上にわたり存在する機関で、放射線が人体に与える影響という分野において、世界で最も優秀な専門家の集まりであるということです。5年ごとにこのように分厚い本を発刊しています。この本にはすべての国々における、すべての情報が掲載されています。放射能の放出、そして、人体への影響等についてです。
司会者:これはもしかしたら、ICRPのことを言っているのですか?
博士:いえ、ICRPはまた別の機関で、放射線防護に関する勧告を策定している機関です。私が言っているのは、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)のことです。ウイーンではありません、国連なのでニューヨークです。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)です。
これまでの原子力エネルギー産業発展の過去の歴史の中で、原子力エネルギー施設における事故または事象によって死亡した方の人数は全部で60名です。原子力エネルギー産業の全歴史の中で、です。そして、237名の方が、高い放射線量を浴び、これによる健康被害が確認されています。この数値が、原子力エネルギー産業における安全性を語るうえでの第一の指標となるわけです。ちなみに、この数値には、チェルノブイリ事故によって基準値を超える高い線量を被ばくした方々、そして、チェルノブイリ事故によって死亡した方々の人数も含まれています。
しかし、(この数値を見て)こんなにも原子力エネルギーは安全だ、だから、何も対策を講じる必要はない!ということにはなりません。そんなことを誰かが言い出したとすれば、(その油断が)次の事故を招く結果となるでしょう。79年に起こった米国のスリーマイル島原発事故後、安全性を高めるための措置が全世界で講じられました。この時、当時のソ連政府は、「これは我々には関係のない問題だ」と表明しました。そして、チェルノブイリ事故が起こってしまったのです。チェルノブイリ事故後、全世界で、再び、安全性を高めるための措置が大々的に講じられました。(原子力施設では)補足的な安全システムを設備するようになりました。ロシアは大変厳しい批判を受け、このためロシア(の原子力発電所)では、(原子炉に)溶解核燃料拡散防止システム(訳者注:万一溶解した場合の核燃料が拡散しないように防止するシステム)取り付けられるようになりました。(これ以外にロシアでは)多くの安全システムが講じられ、新たな安全システムも開発されました。(これらすべてを講じると)、もちろん、原子力発電所、つまりは、原子力エネルギー産業自体が高額化してしまいます。
しかし、全ての人(原子力発電施設)により、チェルノブイリ事故の教訓から得られたすべての対策が講じられた訳ではありません。このことからも、様々なストレステストを実施することには意義があります。無論、地震や津波といった、甚大な被害をもたらす自然現象についても、より真剣に対応しなければなりません。実際には、3月11日の震災で、女川原発での状況のほうが過酷であったと聞いています。しかし、女川では、福島第一で起こってしまった事象は起こらなかった。なぜなら、津波対策という観点から、女川ではより適正な安全システムが講じられていたからです。このように、原子力発電所では、その被害が発電所の塀を超えて周辺に被害をもたらすことを阻止できる程度まで安全対策を高めていかなければならないわけです。
また、ここで考慮しなくてはならないのは、事故発生時に発電所員が何らかの対処をするというのではなく、このような事故発生時には自動制御システムが作動し安全性が確保されるという状態でなければならないという点です。私が挙げた数値からもお分かりいただけるかと思いますが、原子力発電所での事故自体が健康に与える影響はそれほど深刻なものではありません。それよりも大きな問題は、事故の後のことで、つまり、放射能で汚染された地域の状況です。住民は、「放射線を危険なもの」として敏感に反応を示します。ほかの危険物質に対する反応と比べ、はるかに過敏な反応を示します。地震と津波で亡くなった方の数、私が知っている範囲では、2万人くらいと聞いています。他方、原発では、基準値以上の線量を浴びた所員は一人もおりません(本日私が知る限りでは)。住民に関しても、健康被害が懸念される線量を浴びた人はいません。それにも関わらず、国民は、(実際にこれだけの被害を伴った)地震と津波よりも、放射線を恐れている訳です。
チェルノブイリに関しても、事故の情報が公開されたグラスノスチ政策が始まった88年以降、同様のことが起こりました。それ以降、チェルノブイリ問題が報道の中心となり、すべての人々が放射線の問題について話し合うようになりました。実際には、その当時のソ連には国・人々が憂慮すべき点は他にあったわけで、この憂慮すべき点が発展し、ソ連邦が崩壊してしまったわけですが、それにもかかわらず、人々にとっての最大関心事項はチェルノブイリ事故だったのです。その後、20年の間、多大な経済的問題が山積していたにもかかわらず、メディアはチェルノブイリ事故を常に主要な題材として取り上げ続けました。ここで重要なことは、(この情報によって)国民が再び被害者となることを避けなければいけないという点です。(メディアは今後)国民の不安を煽り、存在してもいない放射能の影響や放射能被ばくによる遺伝的後遺症などについて書き立てることでしょう。
ロシアでは、チェルノブイリ事故処理作業の従事者の大半は死亡したと報道されましたが、(事故処理に携わった)私たちはまだ生きています!社会全体が放射線はなにか怖いものである・・という理解をしてしまっていることは、とても残念なことですが、それが現状です。実際には、すべての生物が自然界に存在する放射線を浴びて、生活しているのですがね。自然バックグラウンド放射線の高い地域が存在しますが、ここでは何千年にもわたって人々が健康上なんら問題もなく暮らしています。チェルノブイリ原発エリアの住民の90%が、これらの自然バックグラウンド放射線の高い地域の数値以下の線量しか浴びていません。チェルノブイリ事故は大参事であり、この事故により数千人の犠牲者が出た・・という事実に反することを、今もって全世界が信じ込んでいます。なによりも問題だったのが、恐怖を感じていた国民の心のストレスです。存在していないものに対して恐怖心を抱いてしまうということが福島でも、もし同様に起こるようなことがあれば、それは大変残念なことです。
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