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きょうの社説 2011年7月12日
◎原発統一見解 信頼できる手法になるのか
原発の安全性に関する政府の統一見解で、新たに導入する安全評価を再稼働の条件にす
るのは妥当な判断といえる。評価の在り方について経済産業省原子力安全・保安院だけでなく、内閣府の原子力安全委員会が関与し、ダブルチェック態勢を取るのも当然だろう。問題はこれらの仕組みが有効に機能し、国民や地域住民の信頼を得られるかである。福島第1原発の事故を受け、中長期的な視点で原発依存度を減らす「脱原発」の流れは もはや避けられない。既存の原発については安全性を高め、安全が確認された施設を使っていくしかない。新たな安全評価は「脱原発」時代へ向けた一歩になりうるが、そうした国の原子力政策を画する大きな意味をもちながら、政府から明確な方向性が見えてこないのは極めて残念である。 統一見解では、安全評価は欧州のストレステスト(耐性評価)を参考に実施し、原発の 再稼働を判断する1次評価は、地震や津波が発生した際にどこまで耐えられるかを分析する。運転中の原発を対象にする2次評価は、欧州のストレステスト実施状況を踏まえ、運転継続の是非を判断するとしたが、現時点で二つの評価の位置づけはよく分からない。 原発の安全評価をめぐっては、菅直人首相が唐突に新たなルールづくりを言い出し、九 州電力玄海原発の再稼働に動いた海江田万里経産相との間であつれきが生じた。今回の統一見解は閣内の足並みの乱れを取り繕う内向きの意図があり、政府が原子力政策の軌道修正に踏み出す覚悟や国民に向けたメッセージは伝わってこない。 浜岡原発停止や、既存原発の「安全宣言」後の新たなルール導入など、一貫性のない説 明、ちぐはぐな手順に地元自治体や住民は振り回され、政府への不信感はますます強まっている。安全評価の項目など全体像を早く示さないと自治体の理解は得られないだろう。 安全評価の実施で経済界からは電力不足が長期化することへの不安が広がっている。原 発再稼働の可否を政府の責任で判断するなら、電力需給を安定させる具体策についても早急に示してほしい。
◎国連改革決議断念へ まず内政の立て直しから
国連安全保障理事会の常任理事国入りをめざしている日本、ドイツ、インド、ブラジル
の4カ国グループ(G4)が、9月までの今国連総会の会期中に安保理改革の決議案を提出するのを断念する方向という。2005年に続くG4の再度の挫折は、平和・協調の理想主義の旗を掲げながらも、加盟各国が国益をめぐる競争と足の引っ張り合いを演じる国連の実相をあらためて映し出していると言える。決議案の採択には、国連加盟国の3分の2(128カ国)以上の賛成が必要である。し かし、G4は現時点で八十数カ国の賛成しか確保できておらず、戦略の見直しを迫られている。国連を重視し、国連活動を通して国際社会に貢献することは日本外交の柱であり、安保理改革の挑戦を止めてはならないが、今の日本は内政の立て直しがまず肝要である。 日本の国連分担金の比率は現在12・5%で、米国に次いで2番目の位置を保ち続けて いる。財政的貢献度の高さに比して、日本の発言力の弱さや日本人の国連職員の少なさが指摘され続けていることについて、昨年着任した西田恒夫国連大使は「国際競争力があり、野心のある人材をどれだけ提供できるかが大事」と述べているが、この点に関しても日本は依然力不足と言わざるを得ない。 G4は05年に、常任理事国6カ国増などの具体的な安保理改革案を提出した。しかし 、加盟国の支持取り付けに失敗したことから、今回は「常任・非常任理事国双方の拡大」など大半の国が反対しにくい簡潔な改革案にした。 それでも、常任理事国の米中ロは安保理改革に消極的であり、特に中国が常任理事国の 拡大に強く反対し、アフリカ諸国などがG4を支持しないよう外交工作に走るという基本的な構図に変わりはない。しかも、イタリアや韓国などもG4の常任理事国入りに反対している状況では、G4の改革案採択はきわめて困難である。 3分の2以上の賛成が必要という国連ルールは、現体制の固定化を図るためのハードル とも言え、安保理改革の道はなお遠い。
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