菅直人首相が指示した原発のストレステスト(耐性試験)を巡る政府内の混乱は、11日の統一見解発表によって一応の収束をみた。運転停止中の原発を再稼働させる条件として暫定的な「1次評価」を実施し、そのうえで稼働中を含む全原発を対象とした「2次評価」で運転継続か中止かを判断する2段階方式を採用。1次評価の手続きで事実上、8月末までと目される菅首相在任中の再稼働は「無理」(経済産業省幹部)な状況だ。ただ、評価基準の設定に関与することになった内閣府の原子力安全委員会は再稼働の条件化には慎重で、どこまで原発の安全性向上につながるかは未知数だ。
首相がストレステストの検討を指示したのは、海江田万里経産相が6月29日に九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)の再稼働を地元に要請した直後。それまで経産省の再稼働方針を黙認していた。
だが、佐賀県の古川康知事から同県訪問を求められ、自ら再稼働を要請せざるを得ない立場に追い込まれると「自分が地元と話すときには総合的に判断しなければならない」と突然、原子力安全委員会を関与させて安全審査をやり直すよう海江田氏に指示した。
はしごを外され、「怒り心頭」(経産省幹部)になった海江田氏が1次評価実施を受け入れたのは、約6カ月かかる欧州連合(EU)のストレステストに準じた2次評価を再稼働の条件にされれば国内のほとんどの原発が止まりかねないためだ。より短期間で終わる1次評価導入で、「脱原発・再生可能エネルギー推進」の流れを加速させたい菅首相の指示を守りながら、「早めの原発再稼働にめどをつけられる」(経産省幹部)ことになる。
ただ、1次評価に「安全重視のメッセージ発信」以上の効果があるかは未知数だ。2次評価基準ができる前に実施してしまうことにも「拙速」との批判は避けられそうにない。民主党の岡田克也幹事長は11日の記者会見で「(運転を)停止しなくても(2次評価が)できるなら、停止してから(の1次評価は)しなくていい。停止が長引いてしまう」と疑念を呈した。
海江田氏も11日の衆院東日本大震災復興特別委員会で「再稼働し、さらなる安全性確保(の目的)で(テストを)やらないといけないと思っていた。1週間ぐらい前の考えだ」と再稼働前のストレステスト実施に反対していたことを認めた。
立地自治体との関係にも禍根を残した。海江田氏の再稼働要請にいったん同意した玄海町は政府の迷走に反発して撤回。今後、1次評価で再稼働にゴーサインを出しても自治体側が受け入れる保証はない。首相の意向で自治体との信頼関係が崩れる展開は鳩山政権時代の米軍普天間飛行場移設問題と似ており、経産省内からは「これは菅政権の『普天間』だ」との声も上がった。
一方、玄葉光一郎・国家戦略担当相は11日、政府の新成長戦略実現会議(議長・菅首相)の会合で、「電力需給について、そう遠くない時期に首相から申し上げることになる」と述べ、原発の稼働低下を踏まえた電力需給の見通しや対策について、菅首相が説明するとの見方を示した。【田中成之、野原大輔、宮島寛】
毎日新聞 2011年7月12日 2時30分(最終更新 7月12日 3時48分)