東日本大震災では、多くの人がインターネットで情報収集したが、その陰にネットの特性を熟知して、奮闘したIT企業の技術者やパソコンの前のボランティアたちがいた。現在も続く、彼らの活躍ぶりとは?【岡礼子】
「自分たちに何かできないか」。震災後、IT各社では技術者らから続々とアイデアが寄せられ、企業としてのボランティア活動が展開された。
検索最大手のグーグル(本社・東京都港区)では、被災者の安否と居場所の情報に注目した。避難所の場所を以前の資料などから一つ一つ探し出し、徹夜作業でネット上に地図表示。ついで「避難所の名簿の写真を携帯電話のメールで送ってほしい」と一般利用者に呼びかけた。その一方で、写真を送信すると自動的に公開されるシステムを技術者が新たに開発した。
避難所に注目したのは、大学時代に阪神大震災に遭遇したウェブ責任者の三浦健さん。当時ネットは普及しておらず、誰がどこにいるのか大混乱した。「情報をまとめるのが我々の使命」と三浦さん。社内から続々と協力者が現れたという。
さらに、どの避難所に誰がいるか検索できるようにしようと、名簿の写真から、氏名を文字データにする作業を開始。同社の有志約200人と、ネットでの募集に応じたボランティア約5000人が協力、3月17日から29日までに、約14万人の氏名を消息情報システム「パーソンファインダー」に登録した。
東京電力が発表した計画停電のグループ分けや、電力の使用状況が分かりにくかったことも、技術者らを奮起させた。首都大学東京の大学院生、北原和也さん(システムデザイン研究科1年)と高田健介さん(同2年)は、計画停電のグループ分けを地図にした。住所を一つずつ入力していく作業は手間がかかるため、簡易型ブログ「ツイッター」などで協力を呼び掛けた。計画停電初日の3月14日の昼ごろまでかかって「計画停電マップ」を完成させた。
ボランティアの励みになったのが、ツイッターなどで直接わかる利用者の反応だ。「計画停電マップ」にも「見やすい」などのコメントが約7000件寄せられた。
通信事業者のIIJ(本社・千代田区)が、被災地の自治体サイトを独自に複製して「勝手ミラーサイト」を作ったのも、ツイッターに寄せられた「アクセスが集中して、サイトが見られない」「なんとかしてあげて、IT関係の会社の人」という“悲鳴”がきっかけ。自治体に連絡したがつながらず、複製の許諾がないところもあったが、「法的には問題もあるが社会的な意義がある」(堂前清隆主任)と、ミラーサイトであることを明記して公開に踏み切った。日本マイクロソフト(本社・港区)などほかのIT企業も、次々にミラーサイトを公開。自治体からの苦情もないという。
ツイッターなどで協力を募り、「災害ボランティア情報まとめサイト」を始めたブロガーの藤代裕之さんは、「ボランティアは使命感があるので、仕事と同じような作業でも、いつも以上の力を出せる」と話す。
現在は震災前後の風景や思い出の写真を募って保存するプロジェクトが、ヤフー(本社・港区)とグーグルで始まっている。ヤフーでは、被災地の思い出を保存し、災害当時の状況を記録するために、写真を永久に保存する。パソコン、携帯電話のメールから投稿でき、7月4日現在1万9226枚が公開されている。
企業として、また個人として、ネットが普及した今の時代ならではのボランティアが広がっている。
毎日新聞 2011年7月8日 11時13分(最終更新 7月8日 14時14分)