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[28752] 予告風ネタ 狼とお稲荷さま
Name: MRZ◆a32b15e6 ID:c440fc23
Date: 2011/07/09 13:27
 それはある者がある村に居つく前の物語にして、ある者がある家の守り神にされる前の物語……





 のどかな街道を歩く十五、六の少女。頭にはフードのような物を被り、腰にはスカーフを巻いている。もし目ざとい者がいれば、その両方が細かに動く事に気付けたかもしれない。そう、彼女は普通の人とは違う存在なのだ。
 そんな彼女の隣を歩くのは、金髪が美しい女性。格好は少女と同じく旅人然としている。彼女も実は普通の人ではない存在。ここより遥か東の国よりやってきたのだ。

「な、ホロ。次の村はまだか?」

「そう急くでない。それに村人も言っておったろ。馬でも一日はかかる距離じゃと」

「……そうだったな。あ~あ、なら今日は野宿か」

「嫌ならば一人で先に行けばよい。クーゲンならばそれぐらいは出来る。違うかや?」

 隣の金髪女性へそう言いながら不敵な笑みを見せるホロ。そう、彼女はヨイツの賢狼と呼ばれたもの。正体は巨大な狼だ。対するクーゲンと呼ばれた方は、遥か東の日本と呼ばれる国で天狐と呼ばれた空幻という名の狐が正体。
 そう、彼女達二人は人の姿に化けた獣達。ただ、変化の術を完璧に近い形で出来る空幻と違い、ホロは不完全しか出来ないために狼の耳と尻尾が隠せないのだ。

「そうは言うがな。俺はこっちの金を持ってないんだ。村に着いても飯が食えねば意味がない」

「そうじゃったな。ならば我慢するのじゃな。わっちは急ぐ旅は好きじゃありんせん」

 そう言ってホロはもうこの話は終わりだとばかりに口を閉じた。それを感じ取り、空幻は小さく口を尖らせるもそれ以上文句は言わなかった。本来ならば出会う事の無かった二人。それが出会ったのは、空幻のちょっとした戯れが原因だった。

 ある日、空幻は港に止まっていた船へ乗り込んだ。ちょっとした旅行のつもりだったのだ。今居る場所から離れた場所へ行っていよう。その程度でしかなかった。だが、運悪くその船が難破。流れ着いた先がホロが滞在する港町。
 そこで意識を取り戻した空幻は、自分と似た雰囲気のホロを感じ取った。逆にホロもまた空幻の気配を感じ取り、二人は出会って意気投合。狼と狐という本来ならば狩る者と狩られる者の関係だったが、二人は互いに孤独を嫌う部分があったため、異国の相手だからその限りではないと自分に言い聞かせたのだ。

 こうして二人の旅が始まった。賢い二人は女性の外見を活かし、行く先々で短期間の仕事をして路銀を稼いだ。時にはそのまま続けていかないかと誘いを受ける事もあったが、旅をして見聞を広めたいと告げてそれらをやんわりと断っていた。
 空幻は最初こそ人を馬鹿にするような態度を取ったが、ホロはそんな空幻へ何度となく注意した。人は自分達が考える程愚かではないと。その証拠としてホロが見せたのは、王の居る大都市だった。それは空幻からすれば見た事のない規模の街だった。

 空幻が居た日本は、この頃戦国時代。つまり、まだ城下町であってもそこまでの発展を遂げる事が難しい頃だった。ホロがやや呆気に取られる空幻へこう告げた。人はこれ程の街を作り上げ、今も同じような街をあちこちで作ろうとしているのだと。

―――どうじゃ? これでも人を馬鹿に出来るかや?

―――分かった分かった。確かに人は馬鹿ではないな。俺でもこんな街は作れん。

 こんなやり取りもあって、空幻は人の事を少し見直す事にしたのだ。それもあって空幻は人の決まりを受け入れたのだ。それは通貨を使って物を買う事。術を使って脅かしたりして奪うのではなく、ちゃんと金を稼いで物を得る事をだ。

「しかし、この国は平和だな」

「そうじゃの。まぁ、わっちらが知らんだけで今もどこかでは戦をしておるかもしれんが」

「かもな。でも、人はよく飽きずに戦が出来るな。俺には理解出来ん」

 顔をしかめながら空幻は呆れるように言った。それにホロは同意するように頷くが、何かを思い出して苦笑するように告げた。

「じゃが、わっちもお主も飽きずに美味い物は食べられる。それと同じような事ではないかや?」

「あ、成程な。なら人は三度の飯より戦が好きって事か」

「そういう事じゃな」

 互いに楽しそうに笑って歩く二人。元来孤独が好きだった訳ではないが、様々な事情が二人をそうさせた。出会ってから今までたった一週間。それでも、もう多くの思い出が出来たのだ。きっとこれからもそれは続くだろう。
 そんな事を互いに思いながら話す二人。話題は次の村に着いた後の事。路銀を稼がなくてもいいかと空幻が尋ねれば、まだ余裕はあると返すホロ。ならば好きなだけ食べてもいいなと呟く空幻へ、別にいいが野宿での食事が途端に質が下がると小悪魔的な笑みと共に返すホロ。

 それにむうと唸る空幻にからからと笑うホロ。穏やかな空の下、狼と狐が行く。まだ旅は始まったばかり。この旅がいつ終わるか分からないが、きっと互いに忘れられないものになるだろう。そう思い、二人は互いの顔を見る。

―――さて、そろそろ今日の寝床を考えながら歩かねばな。

―――だな。水場が近くにあればいいんだが……

 隣合いながら歩くホロと空幻。その距離は互いの手が触れ合いそうな程近い。狼とお稲荷さま。二人の旅路に幸多からん事を……




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突発的思い付き。いや、何となく書いてみたかったんです。

続きを書ける自信はないので、ここで終わっておきます。気分的には新番組の予告的な感じです。


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