チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[28564] 【習作】伯爵令嬢が何やら企んでいるようです【ゼロの使い魔】
Name: アリエス◆8d2cb103 ID:5fd9ba0d
Date: 2011/07/09 11:37
 この作品は、『ゼロの使い魔』の二次創作です。
 時系列的には原作一年前からスタート。
 主人公は転生TS主人公というどうしようもない内容となっています。
 色々と独自設定を入れてしまっていますが、生温かい目で見ていただければありがたいです。

6/29 目立つミスを少し訂正しました。
7/7  改名と手直しをしました。
7/9  少しだけ訂正。



[28564] 第1話「ラ・ヴァリエールの従姉妹」
Name: アリエス◆8d2cb103 ID:5fd9ba0d
Date: 2011/07/07 17:38
 フェオの月の第二週。
 暖かな陽射しのもとで、色とりどりに咲き乱れる花の道を私は歩いていた。
 
 「~~~~~~♪」

 行き先は今月から入学することになる魔法学院。
 歩きながら口ずさむ歌は、ちょっとハルケギニアでは聞きなれない曲。
 私が前世と呼ぶ21世紀の日本で、よく口ずさんでいたお気に入りのもの。
 
 リリアーヌ・ド・フレイブル。それが今世での私のお名前だ。
 親しい人からは「リリア」と名前を縮めて呼ばれる。
 
 容姿の方は、金髪碧眼のスラリとした美少女さんなのは、もはやお約束。
物語の主人公的な意味で。
 代々治める領地がゲルマニアにほど近いためか、金髪さんなのは地理的にも妥当なのですけどね。
 腰辺りまでに伸ばしたストレートロングなヘアスタイルは完全に私の好みです。
 
 髪の長い女の子は可愛い。
 誰がそんなことを言い出したのかは知らないが、うざったい、手入に時間かかる、常に髪型が気になるなどなど中々大変。
 手入れの仕方は、香料と石鹸で洗った後に、艶出しのため生卵を少々。
洗い終わったら、香りにも気を使い、香水を少々振り掛けます。
 これで一日のうちの結構な時間を無駄にしていますが、如何お思いでしょうか。
 
 あ、そうそう。
 自己紹介をする際、物語的には、前世のことを語り、神様との邂逅なんかも話すべきなのだけど、いらないですよね。
 前世世界の日本人なんて、ビックチャンスに乏しいから人生平凡だし、それ以前に黒歴史が多いし。
  私のケースでは神様の邂逅なんてなかったし。(ここわりと重要)
  タコさんでもいいからあってみたかったにょー。
 
 「俺、卒業したら海外旅行に行くんだ。今、円高だし少々タカられてもきっとお得だよ!」
 
 生前、友人に死亡フラグ気味にそう語ったのですが、一生懸命貯めた飛行機の切符は、人生の片道切符になりました。
 異世界へようこそ。海へ墜落してこんにちわしちゃったんです。
 オーシャニックとか書いてある飛行機には乗るべきではありません。
 行き先が変な島でなかったのだけが救いだった気がしますけど。
 
 私が転生した世界はハルケギニア。人によっては憧れですよね。
 ルイズたんにクンカクンカできると。
 
 でも、あんまし期待しない方がいいですよ。
 そっちの世界と比べて娯楽水準滅茶苦茶低いですから。
 
 文化(笑)が大好きな身としては、中々生き辛い生活環境です。
 
 こっちの娯楽といえば一に交接、二にまぐわい、三にせくろす……以下略。
 実に原始的。生々しい。ケダモノどもめ、そんなに穴に入れるのが楽しいか!
 
 いくらそっちの世界でも、もう少しマシでしょと思うかもしれない。
 少子化社会の原因の一部は、せくろす以外の娯楽が発達してきた故の悲劇なのです。
 逆に言えば、せくろすくらいしか娯楽がなければ、せくろすに皆集中するわけで。
 
 「戦いは数だぜ、兄貴」
 
 国家の活力を考えると、この言葉は真理です。
 耳の痛い話ですね。元気な社会という意味では、こっちの世界の方が健全ともいえます。
 でもそっちの世界の方が私はいいです。
 野郎ならともかく、女の子で楽しめるかっ! というのが自論なんですけど。
 
 ボテ腹でらめぇ~とかいって腰振っていろというのは、何やら欲望に正直で魅力的な提案のようにも思えますが、女性は、出産時に子供共々死んじゃうケースも多いので。
 
 魔法に頼っている分、こっちの世界では医療技術の発展も大幅に遅れていますから。
 
 エカテ帝みたいな毎晩違う男を臥所に入れていた高貴なるビッチの例もあるけど、活字ジャンキーが、そんな極端な性に走る時点で、前提からして色々と間違っていると思います。
 私が欲しいのは娯楽の代替ではなくて、面白い作品な訳で。
 
 「ちょっと、いい加減に無視するのやめなさいよっ!」
 
 後方からそんな叫び声がしたかと思うと、私が二時間かけて手入れした髪に、土まみれの靴がぶつけられました。
 
 「ねえ、聞いているの!」
 
 そろそろ、物語風切り出しごっこをやめて、あげることにする。
 そして私の足元に落っこちた小ぶりの靴を拾い上げ、返答を返した。
 
 「聞いているよ」
 
 見れば、ピンクブロンドの従姉妹殿が、片手にトランクケースを持ってケンケンしてこちらに近寄ってくる姿が映る。
 お前らのルイズたんこと、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール公爵令嬢です。
 
 「先にいかないでよリリア! 身長差というものを考えなさいよ! 歩幅が違うから、貴女があわせてくれないと、私はどんどん離されるのよ!」
 
 と、愛しの従姉妹殿は実にお怒りのご様子だった。やれやれと少しだけ戻るかと考える。優しいですよね私。二時間かけた髪が台無しになっているというのに。
 
 「……」
 
 その前に、靴はルイズとは反対方向に投げてやりました。
 
 「きゃあああああ! 何やっているのよ馬鹿ぁぁぁ! 早く拾ってきなさいよぉぉぉ!」
 
 「遅いのはそっちだし、やって良いことと悪いことがあるでしょうがっ!」
 
 とてとてと、桃色ブロンドの少女のとこまで私は戻る。
 いわずと知れた原作『ゼロの使い魔』の主人公ちゃんを、身長差を利用して……とは言っても10センチ前後ですが、頭をぽんぽん叩いて仕返しをします。
 
 「やめなさい、物凄くむかつくわ」
 
 「荷物は持ってあげますから、けんけんして靴をとってきましょうね~」
 
 「~~~!」
 
 けんけん。けんけん。あ、こけた。
 こういっちゃなんだが、お前らの憧れのルイズは面倒臭い奴なんです。
 
 私の家ド・フレイブル伯爵家は、ルイズの家、ラ・ヴァリエール公爵家の領地から北に位置する沿岸部周辺に領地を持っている。
 ラ・ヴァリエール家が、ゲルマニアのツェルプストー家と代々争ってきたのは、原作1巻で触れられていた記述なのでご存知かと思う。
 ド・フレイブル伯爵家は、ラ・ヴァリエール公爵家にそうした戦時の際には度々支援を行っている。
 同じトリステイン貴族として、頑張っていきましょうね(キリッ
 ……なんていうのは表向きの理由で、ラ・ヴァリエールの領地をゲルマニアに併呑される展開はなんとしても避けたいというのが本音だったりします。
 いってしまえば、シールド、盾。あるいは壁。
 
 万が一、国境沿いの領地にでもなってしまえば、軍事費を余計に割かなければならなくなるし、伯爵家の本拠地があるアムステルの港街での経済活動が安心して行えなくなるダブルパンチの大きなダメージを受ける訳です。
 ウチハヴァリエールサンノメイユウダヨと嘯いて協力するのは、長い目を見ればうちの利益につながる。
 こうした観点から私達は、先祖代々仲良くやってきました。
 
 家同士が仲良くなると、当然のことながら、一緒に快楽と情熱……苦楽を共有しましょうよと、一族間の血のやりとりが始まる。
 少し前だと、ルイズの父であるラ・ヴァリエール公爵の妹に該当する私の母親のクリスティーヌが、ド・フレイブル家に嫁いできています。
 父のオリヴィエも、祖母がヴァリエール出身で、私は母と父方の曾祖母からラ・ヴァリエールの血が混ざっていることになります。
 ぶっちゃけ本家の人たちよりも濃そうなのですが。
 そのためか、嵐のメイジの家系と呼ばれたド・フレイブルも、今ではラ・ヴァリエール一門みたいな扱いを受けていて、微妙な軋轢が生まれていたり。
 
 うちは独自の伝統と、方針があるのに、何故ヴァリエール公爵と、マザリーニ枢機卿のいがみ合いに参加せねばならぬみたいな感じですねっ。
 経済都市かかえていますので、中央の情勢にはわりと過敏なんですよ。
 
 「リリアの馬鹿、どこまで私を舐めくされば気が済むのよ」
 
 転んで泥だらけになったせいか、ルイズはけんけんをやめて、普通に歩いて靴を拾い上げてきたようだった。
 鬼のような形相でこちらへやってくる従姉妹殿。怖いです。
 
 「はい、トランク」
 
 ルイズから預かっていた荷物を差し出す。
 
 「持っていなさいよ。こうでもして貰わなくちゃ割にあわないわ!」
 
 一つ5キロ以上。流石にふたつ持つのはきつい。
 何より優雅でない。
 ルイズの召使いみたいで嫌だし。
 
 「大体、せっかく確保した馬車に乗るの拒否したのはルイズじゃん。あれしか残っていなかったのにさ」
 
 と少し前の、私達のような家柄の良い子女が歩いているそもそもの原因に触れることにした。
 
 ルイズは気難しい。私たちは、都市郊外にある学院へ向かうため馬車に乗り、学院最寄の街に到着すると、お店で一緒にお昼ご飯を食べた。
 ここまではよかった。
 食事を終えて、馬車駅に戻ると馬車が消えていた。
 
 別に盗まれた訳ではなく、街に設置してある駅から別の駅に客を乗せる形で商売が成り立っているため、降りてしまえば契約は切れる。
 実際賃金を支払って、よろしければ食事が終わった後も乗せてくれ程度のニュアンスで頼んでおいた。
 
 私たちが昼食をとっている間に別の客が来たのだろう。
 見事にいなくなり、数時間ほど待たされることになった。
 考えてみてほしい。食事時が終われば、わざわざ街に降りる奴がどれくらいいるだろうか。学園まではあと10キロ程度と聞いている。
 あと一息だ。用もなければ一気に目指そうと考えるだろう。
 
 その後来た馬車は、客を乗せたまま綺麗に街をスルーしていった。
 一時間が経過し、ルイズが痺れを切らした頃、待っていた馬車が来たのだけれど。
 
 駆けていくルイズ。やれやれと私も少しだけ期待混じりに後に続く。
 
 「すいませんね。先ほどまで乗っていたお客さんが用を足したらすぐ戻ってくるといっておりやしたので、精算せずに待っているんですよ」

 私たちの場合とは違って随分義理堅い運転主だなと感心したのだが、馬車の中がお菓子の包み紙で散らばっており、鞄も置いてあった。
 というか、途中で漏らしかけたのだろう。ピーの香りがほのかに鼻腔をくすぐり、不快な気分にさせられた。
 これじゃあ運転主も、新しい客を乗せるわけにはいかないだろうなと苦笑していたところ、その客とやらがスッキリとした顔で戻ってくる。
 
 同じ年くらいの少年だ。
 肥満体質のようで少々臭いがきつい。
 ルイズが眉を潜めるのが端からみていてわかる。私は私で数歩後ろへ離れた。
 百合の香りが、スメルに変わってしまうのは美少女的にあってはならないことと思ったのだ。
 
 「ん、どうしたの。この人たち?」
 
 少年は私達に気がつくと、気さくに挨拶をし、運転手から事情を聞きだしているようだった。
 
 「うん、そういうことなら乗っていいよ。目的地も一緒みたいだしね」
 
 そう快い対応を見せてくれたのだが。
 
 回想終了。ルイズさんの結論はこうです。
 
 「あの豚が乗った馬車に乗るなんてありえないわよ。何かにやにやしていて気持ち悪かったし。あんなの馬車じゃないわ。豚小屋よ」
 
 私はう○こ馬車だと思いましたが。
 
 「大体、あんな臭い奴と一緒にいたら、今着ている服のみならず、鞄の中のものにまで匂いが移りそうで嫌だったわ」
 
 ですよねー。基本的に同じ意見なのですが、たまには良識めいたことを言ってみる。
 
 「酷いよね、ルイズは。同じ様なことを彼に言ったら泣いていたじゃないですか。馬車の運転手が気まずそうに出発してしまうし。人の善意を無碍にするものじゃないと思うよ」
 
 「じゃあ、あんた乗りたかったの?」
 
 「……断るにしても、もう少し言葉を選ぶべきだったと思うよ。これからあの人含めて共同生活送ることになるんだしさ」
 
 「アンタだって、乗りたくないんじゃない」

 「~~~♪」

 「ふんっ、何よ。いい子ぶりやがって。馬鹿じゃないの」
 
 鼻で哂うルイズさん。
 その後は二十分くらい経っても待ちぼうけ。
 それで我慢できなくなったのか、鞄もってつかつかと歩き出して、止めたのだけど。
 曰く、このまま待っていれば夜になっちゃうわ。最初からこうしていればもう着いているわよだとさ。
 
 ルイズはろくに魔法を使えないし、特殊な戦闘術を持っているわけでもないので、街道で賊などにでくわせば、対処するのは私なのだとわかっているのだろうか。
 わかってないんだろうなぁ。ルイズだし。
 
 私がルイズから離れて、歌っていたのはこのような事情から。
 歌っている無防備な馬鹿と、むすっとして用心深く歩いている少女なら、まずは私の方を狙ってくるだろう。
 少女の方は見るからにひ弱そうだから後にして、馬鹿(私)が警戒する前に無力化し、それからルイズをゆっくり対処する。
 どうしようもないロリコンが相手でもない限りそう期待できるのではないかと思う。
 
 勿論、一緒に歩かされていてイラッ☆ と来ていたのが理由の七割を占めるけど。
 私だって気を悪くすれば、一人でいたくもなる。
 
 「きっとルイズがあのぶたさ……ぽっちゃりな少年に酷いことを言った罰なんだよ、これは」
 
 そういって従姉妹を言葉で苛めてうさ晴らしをする。
 
 「何よ、文句でもあるわけ。そんなに嫌だったら一人でいけばいいじゃないっ!」
 
 「はぁ」
 
 これだ。だから心配なんだって。いくら面倒臭い従姉妹だとは思っていても、幼少の頃からそこそこお付き合いがあり、肉親でもある以上人並みには安否を気遣うだろう。
 この子、本気で一人で歩いて大丈夫とか思ってないよね?
 
 「人それぞれ価値観違うんだしさ、もうルイズはそれでいいよ。歩いているだけだと暇だから歌でも歌わせておいてよ」
 
 わかっていないだろうなぁ。
 指摘したらしたらで癇癪起こすのも、長い付き合いだからよく分かる。
 この面倒くさいのは「あんたの心配なんていらないわよ、私だってメイジなのだからね」とかいってあえて困難な道を選ぶ子だ。
 説明しても事態が面倒くさくなるので、説明はしない。
 面倒臭い子には扱いの注意が必要だ。
 
 「何よ、私と一緒じゃ嫌だって言うの」
 
 ね。これだよ。相手にせず、私は私のペースで歩き、そして歌う。
 
 「~~~♪」
 
 「リリアは、やっぱしエレお姉さまとも、ちい姉さまとも違うわね。なんていうか私に冷たい」
 
 変におっせっかい役の脇役とかになって、ルイズとその使い魔・才人の大冒険なんかに付き合いたくないし。
 思うんだけど、好感度上げすぎたら、来年あたり強制参加な気がするんだ本編に。
 私は面倒くさいことさせられる、いなくても多分ハッピーエンド。
 本編汚すなとか、前世世界からクレームがやってくる。手伝うだなんて誰特よ。
 
 「リリアなら、私に協力してくれるよね」
 
 なんて期待に満ちた目で頼まれたら私はきっと断れない。
 ぶっちゃけ、親友ポジの私が何で手伝わないの的な目で見られるのは嫌だ。
 だから、付かず離れず我関せずの立ち位置で仲良くやっていくのが大事だと思う。
 
 「これでも十分友好的なんだけどな」
 
 結局、歩きながらルイズの話に付き合ってあげるあたり、私は甘い。
 
 「……どこがよ。私の姉二人に比べたら、リリアなんて氷の様よ」
 
 俯きながらそんなことをいってくる。
 
 「だって、同じ年だし、お姉さんぶるのは必要なときだけでいいんじゃないかな」
 
 そういってやった。

 「ずるい。そんなんだからド・フレイブルの連中は虎の威を借る狐なんて言われるのよ」
 
 「狐ねえ。褒め言葉だと思うけど。勿論したたかって意味でね。正直、伯爵家としては頑張っている方だと思うようち」
 
 マザリーニ枢機卿が執政を取るようになってから、王家は中央集権化を狙っており、地方の土地持ち貴族なんてのは格好の餌食になりやすいんだよね。
 
 時代の流れといいますか。同じことやって、お隣のアルビオンは反乱起こっているのだけど。
 
 いずれにしても貴族たちは、機を見てうまく立ち回る能力が求められるようになっている。
王につくか、徒党を組んで反乱するかの。
 
 うまくいけば少しだけ領地や地位が増える。失敗すれば改易。
 ハイリスクローリターンなんていうとっても嫌な時代。
 
 父オリヴィエは戦場でも、政治でもそれなりに立ち回り、中央の人間への取り入り方も上手かったため、我が家はうまく生き残る一方で、狐と蔑まれることが多かった。

「父はどこ吹く風とばかりに、したたかであることは美徳なりとか私の目の前で語っていたいたけれど」

 「何よ、領内の平民が頑張っているだけじゃない」

 私の余裕な返答にルイズはそう切り返す。
 負け惜しみのように聞こえるけど、まあそれも一つの事実。
 アムステルという良港を本拠地に構え、財源が豊かなのは、彼らの頑張りのおかげだ。
 私の無理を聞いてくれて本当に感謝している。
 
 「一緒に感謝しましょうね」
 
 「?」
 
 反面、そうして集まった財は、ヴァリエール公爵を中心とした対ゲルマニア防衛ラインに投入されているのですから。
 
 「っ」
 
 ようやくルイズは自分のいった言葉の意味を理解したのだろう。顔が真っ赤になっていた。
 
 「お互いやめましょう。身内のことであれこれいうのはね」
 
 「まったくね」
 
 馬車が来なかったことから始まったイライラ感はある程度収まったようだった。
 元々、私が怒られる筋合でもないのだけど。
 
 それからしばらく歩いていると、学園の方から馬車がきたので呼び止めて運んでもらった。
 私達を見捨て、別の客に乗り換えた運転主殿だったので、少々気まずかった。
 
 桃色髪ちゃんはぶつぶつと文句たれてはいたが、鞄を持ちながら歩くのは相当辛かったようで乗せてもらうこと自体には異論はなかった様。
 
 面倒臭い奴は隣にいる桃色髪だけで十分だろうと思うので、寛容になって必要なことだけ言葉として紡ぐことにする。
 
 「料金下げてくださいね。下げてくれますよね。下げてくれないのですか? 下げてくれないと、私の髪の毛が土まみれになったのは貴方のせいにしますよ」
 
 「ひっ、おゆるしを。おゆるしを」
 
 割引どころかタダにしてくれるそうです。いい人だ、また利用させてもらおうか。
 ……冗談ですよ、テヘッ☆ 散々脅した後に、ちゃんと料金支払いました。
 「私」はですけど。
 
 こうして、私達がこれから暮らすことになるトリステイン魔法学院の前に降り立ったのだった。


<2>
私ことリリアンヌ・ド・フレイブルは思わず溜息をこぼした。
自分の不幸さ加減について。
 父、オリヴィエ・ド・フレイブル伯爵は、私の住むトリステイン王国にて智勇兼備の良将と評され、北東部の対ゲルマニア防衛ラインの一翼を担う重要な人物だったのだが、家庭を顧みない人だった。
 
 その結果いい感じに家庭崩壊を引き起こしていた。
 詳細は、父がまた外で平民との子を作ったとか、母の病みぐあいが進行したとか色々とあるが、私も身内の恥をおいそれと公言したくはないのでこの辺で止めておく。
 
 そんな悲しい家庭の事情から、ついつい現実逃避をしたくなるのだけれど、残念なことにこの世界の娯楽といったら、ギシアンくらいしかない。
 
 良き文学作品は、紙が貴重であるため手に入れにくいし、飯にも不満がある。
 味は悪くないのだが、輸送機能が未発達な都合上、代わり映えのしないメニューでローテーションを組まれていた。
 具体的には私は魚よりも鳥獣の類の肉を好んでいるのに、港町だけに毎日魚料理なんていう悲惨なメニュー。
 
 あと衛生面も水浴びと身体を拭くのが基本。そもそも毎日風呂に入る風習がないとか実際に住んでみると生活環境の劣悪さが残念。
 
 はっきり言おう。私が不幸だと言いたいのは、文化(笑)と独自のライフスタイルに慣れ親しんだ21世紀の日本人がこの世界に住むのはお勧めしない。
 
 あの快適な生活に比べたらこっちの世界なんて……貴族でも機能面の観点から考えれば、元の世界の庶民の生活レベル以下だよ。
 
 あ、未満でないのであしからず。

 原作でのファンタジー世界ならでの独自感と、それほど不便に感じない環境は、登場する町が国の最大都市でもある王都トリスタニアや、貴族の子弟が通う王立魔法学院であるから。そして作者であるノボル氏が面白おかしく書いてくれていることに気づこう。 

 ルイズたんを始めとしたヒロイン達を、原作知識を駆使して攻略できるなんて幻想もってたらきっと絶望する。
 
 私の場合は、それ以前の問題だったけど。
 うん、それとなく流しているけど女の子なんだよね。今世の私。
 
 誰得といったシチュなんだけど、こちらとしても男の方で生まれたかったよ!
 ルイズは才人に譲るにしても、シエスタあたりなら、父親から受け継いだであろうすけこまし能力を駆使して優しく攻略するくらいの楽しみはあったのに。
 
 もうね、貴族の女の子なんて悲惨だよ。
 基本的に結婚相手は親が決め、どこに嫁ぐかは、その時々の家の政治的立場が大きく左右される。
 場合によっては相手の家と婚姻関係を結べば利益があると判断されたら、日本のザ・グレート暗愚☆一条兼定みたいな、酒色に溺れて諌言した筆頭家老を手打ちにしちゃう様な無能貴族が相手になるという可能性も余裕であるということ。
 あ、でもこれ一条家滅ぼした大名側の言い分なんだけどね。
 
 あと王命でくっつけられる可能性もあるかもね。
 国王派陣営の強化目当てで、国王の佞臣とかに……。
 
 うう。考えたくもない。
 
 おまけに私は今のところ唯一の嫡出子。アムステルなんていうおいしい都市がついてくることを考えると、結婚したいという相手はいくらでもいるだろう。
 ついでに父は家庭を顧みないけど、智勇兼備の良将と評される能力に応じた野心の大きさも持っていた。二つ名が黒水のオリヴィエ。他にはフレイブルの狐などなど。

 甲斐の虎とか、越後の龍とかそんなノリです。狐といえば、某スレで大人気の鮭様こと出羽の狐、最上義光なんかが思い浮かびますね。
 うちのも腹黒いですが、松永久秀とか、宇喜多直家みたいな方向です。
何と言いますか。仁義なきANSATU? 皆さん、父がお茶を出したら逃げましょう。
 うん。こんな人だし、私たち親子への愛情の希薄さ見れば、間違えなく出世の道具に使われるだろうね。
 
 こんな状況だから私がやるべきことはある程度絞られていた。
 
 自立して反抗するか。自立してから逃げるか。自立して父を暗殺するか。大人しく受け入れるか。その時が来たら自害するかの五択くらいである。
 つまり何をするにしても「自立」が先決ということです。
 私は、まだまだ私は子供なのだから。
 後先考えずに家出なんかしても、のたれ死ぬか、怪しいお店の商品になる他ないだろう。
今の時期に逃亡するのは論外だ。
 少なくとも学校へ通う期間であるこの3年のうちに、一区切りつける必要がある。
 
 学生期間中に強引に縁談を進めてくる可能性もあるだろうが、粘りに粘って、双方妥協する形で婚約へ持ち込み、卒業後の自立と同時に即反故にしてやればいい。
 
 自立には、単独で反故に出来るだけ社会的な力を持つという意味が込められている。
 小娘にそれが出来るのかといえば、中々に過酷な道だが、やらねばならない。
 
 「どうしたのリリア。また物思いに耽って」
 
 一通り荷物と宛がわれた部屋を確認すると、私はルイズと一緒に食堂で夕食を食べていた。
 本当にこのかまってちゃんは。落ち着いてご飯も食べさせてくれないのか。
 
 「おいしいね、ここの料理」
 
 晩御飯のメニューは、若鶏の蒸し焼きと、バターをふんだんに使ったパン。
 それに上質な豚肉や玉葱などが入ったスープ。
 
 何よりも良いのが、比較的内陸地にある学園なので、魚料理が少ないということ。
 格段に魚料理の割合が減ることは実に喜ばしい展開だ。
 
 「そ、そう? 実家のものと比べると何だか安っぽいわ」
 
 これだから公爵家は。まあうちと比べても、材質的な面で多少は落ちるけど、魚料理じゃないのが喜ばしいじゃないか。
 スープを口に含んで味を楽しむ。
 
 「そんなに不味いのド・フレイブルの料理は」
 
 「いや、料理人は良く頑張っているよ。代々伯爵家に仕える一族だけあって料理の研究に余念がないし。ただ、魚料理が苦手なんだ」
 
 「難儀ね。港町ばかりじゃない。貴女の領地って」
 
 「本当に残念。まあ、位置的には文句ないんだけどね」
 
 古代から文明が栄えるのは、川、海問わず沿岸部と、平野にあることだ。
 ド・フレイブルの領地は平地にあり、沿岸部にありとまさに理想的な条件を満たしている。
魚料理が嫌いだからって他所へ行こうなんて考えは私は起こらない。
 
 ルイズとの夕食を済ませると、女子寮のある火の塔へと向かった。
 塔の部屋割りは、学園側が決めている。基本的には家格で割り振るのだが、「寄付」の多い学生には良い部屋を。貧しき学生にはしょぼい部屋をあてがう体制になっているのは公然の秘密。
 
 まったく腐ってやがるが、抗議するほど暇でもない。
 そこそこ快適に暮らせる部屋をもらえれば私個人としては文句はないからね。
 ルイズは一番上等な部類の部屋のようだった。
 20畳分くらい。全ての部屋を同じ間取りにすると、火の塔だけではとてもじゃないが収納できないため、ごく一部に限られたVIPルームだったりする。
 ちなみに底辺は4畳半の2人部屋。
 
 私の方は3階のはしっこ。8畳間だが、東側に窓があり日当たりがよく、風通しも良い部屋だ。
 伯爵家の娘が暮らす家格として広さ的に悪すぎず、嫌味にならない程度のちょうど良い空間。

 父も勿論「寄付」には惜しみなかったが、私自身でこの部屋を所望して学園側にかけあってみました。
 事前に下調べをした結果、知り得る限りではこの部屋が最適と判断したのです。
 ……格好つけましたが、母が学生時代使っていた部屋だそうです。

 家格の高い貴族の子弟は広い部屋を求めるけど、元日本人の私このぐらいの空間が丁度いい。
 そして、部屋の空間をフルに活用することに頭を使うのを好むクチだ。
 見た目の派手さよりも、機能的に使う。我ながらセコいなとは思ったが、自室は中々居心地がよさそうだった。まだ備えつきの家具しかなかったが。
 部屋に戻ると、ベッドに飛び込んで目を瞑る。
 
 正直長旅に疲れた。風呂に入って汗を流したいところだが、学期前であるためか公共浴場の開放は2日に一度になっているそうで、今日は入れないそうだ。
 汗と埃で悪臭とベトベトする感触がなんとも不快だったが、ひとまずは目を瞑ることにした。



[28564] 第2話「私とルイズの関係」
Name: アリエス◆8d2cb103 ID:5fd9ba0d
Date: 2011/07/07 17:39
 翌朝、目が覚め、身体を拭き着替えると、ルイズの部屋へと向かった。
 
 「ルイズ、朝ごはん食べよー」
 
 返事はない。寝起きは悪いって言っているからなぁ。アンロックの魔法を唱えて、中に入ると、パンツ一枚でベッドの上に眠っていた。
 どうやら、寝苦しかったのはこちらも同じだったらしい。
 わずかに膨らんだ胸部にあるピンク色の突起が実にいやらしいのだが、同性でしかも従姉妹のもの。
 親族に欲情するほどHENTAIさんでもないため、気にせずゆさゆさと揺らしてみる。揺れない乳を。
 
 「ほら、おきなさい」
 
 「いたい~あたまがいたい~」
 
 みれば、ベッドの横にワインが転がっている。
 こいつ、一本空けたのかよ。
 
 「朝ごはん食べられる?」
 
 「無理ー。だから寝かせておいて。できればサンドウィッチとミルクを運んできて」
 
 このお嬢様は……まったく。
 
 「それじゃあ、適当なメイドにお願いしておくから」
 
 運んでくれないの? ちい姉さまなら自分で運んで来てくれるのに的な表情でこっちを見てくるが気にしたら負け。
 ルイズの形良い鼻を優しくつまんであげる。
 
 「やめれっ、馬鹿リリア」
 
 「くすくす。私はルイズのお姉さんじゃありませんよ。まあ気が向いたら会いに来てあげるから。今日は実家から大量に荷物が届くだろうし、忙しいけどね」
 
 「うん。そっちが終わったら私の方もお願い。手伝って」
 
 「本当にルイズはしょうがないなぁ」
 
 やれやれといいつつ私は部屋からでて朝食を取りに出向くことにした。
 
 
 <2>
 従姉妹が部屋から出て行く。
 
 リリアーヌ・ド・フレイブル。エレ姉様に似て髪は金髪。
かといってエレ姉様のように目じりがきつ過ぎず、胸も程よくある。
 彼女の性格である何事も適度にが実に良く現れたバランスのいい体つきで、総合的にみて、美少女の範疇に余裕で含まれるだろうと思う。
 ド・フレイブル家の娘だが、リリアーヌは、ヴァリエールの血を色濃く受け継いでいる。
母親どころか、彼女の父親であるオリヴィエ卿も祖母がヴァリエール家出身だ。
 
 正直私はこの従姉妹が憎たらしかった。
 嫌いではないけど、憎たらしい。そうした感情が生まれた原因は、同じ年の彼女はいつも私の比較対象とされていたためだ。
 
 早くから勉学を始め、5歳でドット、10歳でラインとメイジとしての才能を伸ばしていく様を見て負の感情が募った。
 
 私は一歩も踏み出せていないのに、彼女は周囲の人より一足飛びに駆け抜けていく。
 
 かといって完全に嫌いになれないのは、彼女が貴族らしくない行為を好む変人だからだ。
 例えば下賤な商業に手を出したり、下々の平民共に気を掛けたり、偏屈的な芸術論を語るような。
 ド・フレイブル卿に似た智勇兼備の才媛なのに、趣味が悪い。
 これが周囲の彼女に対する評価。
 お父様は姪御を気に入りながらも、リリアーヌは容姿こそラ・ヴァリエール家そのものだが、高潔な貴族な精神を忘れてしまった残念な子とも評していた。
 正直、シスコンであるお父様は、妹の若いときそっくりの容姿だからこそあの子を気に入っている。
 私達を溺愛しつつも、ヴァリエールの燃えるような金髪の遺伝子を何とかして子孫に残したいなんて野望をもっているお父様にとっては、リリアーヌが男の子ならいいのにと零すのはそういう事情があるからだと思う。
 貴族の高潔な精神。私は引き継いでいる自信がある。
 敵に後ろを見せない者を貴族というならば、私にはその気概がある。
 才あれど貴族の精神がない彼女と、才なけれど貴族の精神をもつ気高い私。
 お互いにないものを持っているからこそ彼女とは対等な存在だと私は認識していた。
 凸凹コンビだけど、彼女が何かと私を気に掛けてくれるのは、私に惹かれるものがあるからだろうと思う。
 憎まれ口を叩きつつも、大抵は私のお願い事を聞いてくれるのだ。
 きっと、自身の手で朝ごはんを持ってきて、まだ寝ている私に対して、しょうがないなぁルイズはと、柔和な笑みを浮かべることだろう。
 だからもう少しだけ私は惰眠を貪ろうとした。
 素直じゃない従姉妹が、やれやれとした顔で私に構ってくれるのを、気に入っているのだから。


 <3>
 「公爵令嬢には困ったものです」
 
 そう呟きつつ、サンドウィッチとミルクが詰まったランチボックスを持って火の塔へと戻る。

 魔法学院は同年代の貴族の子弟が集う場所なのだが、21世紀の日本のように小学校、中学校といった高等教育の前段階に相当する教育機関があるわけではなく、それまでは家庭教師に勉強を見てもらうため、入学時点で実力の差が激しい。
 
 ついでに我侭に育てられているため、傲慢だったり、逆に人見知りの激しい子の割合も高い。
 要は精神的な安定感に欠ける子が多いのだ。
 こうした子供達に社会性もとい社交性を身につけてもらうのも、学院教育の目的の一つになっている。
 
 学院の入学は貴族であること以外は、別段何も条件は設けられておらず、極貧層の貴族の子弟を考慮して学費の設定も相当低い。
 
 そこそこの成績が取れているなら、貧しい生徒には生活費の支給までされて、安心して学べる環境が整ってもいる。
 
 とはいえだ。あくまでもその素晴らしき教育機関も表向きな訳で、貴族としてそれなりの生活環境と教育支援を受けたければ「寄付」という形で追加料金を支払わなければならない。
 
 優秀なメイジの先生に指導してもらいたいというなら、エキュー金貨の袋を上乗せしなければならないだろう。特別な施設・待遇一つ一つに追加料金が課せられる。
 言葉は柔らかくしてあったが、この事は入学要項にもきちんと記されている。
 
 加えて「寄付」には、金額設定がされておらず、一番多く払ってくれる生徒から順に良いサービスに漕ぎ着ける。
 そんな体制だからこそ、「寄付」競争は熾烈を極めた。
 
 道中ルイズの話では1万エキュー上乗せして学費を支払ったと聞いた。
 私は5千エキュー。
 希望通りの部屋を選ばせて貰えたとはいえ、5千エキューの差が、そのまま12畳分の広さの差として出たのも一つの事実だ。
 
 参考までにハルケギニアの平民一人の最低限の年間生活費が120エキュー。
 世帯収入主は平均して300~400エキュー程度だろうか。
 メイドは200エキュー程度が相場だと聞く。
 つまりメイドに換算すると、建前上1万エキューで年間50人雇える。
 ほぼ一生、個人でメイドさん一人を囲える金額ともいえる。
 この賄賂至上体制に嫌悪する者も数多くいるが、王室からの援助や、国の補助金の他は、この寄付で運営が成り立っているため、必要悪だとみられていた。
 
 誰もが平等に「寄付」できる機会が与えられているという意味で、学院教育は平等だった。
 そう、公言こそしないが、学院は生徒たちを競わせることを是とみなしていた。
 
 それが許されるのは、国もそして生徒の親の多くも、貴族の子弟として一番学ばなければならぬことをわかっているからに他ならない。
 
 ここは貴族社会の縮図だ。学生生活を通じて、貴族社会の格差の厳しさを肌で感じ取り、己の身をわきまえた立ち振る舞いを学び身に着けなければならない。

 そんな訳で、貴族という特権階層をひとくくりにして突っ込まれた魔法学院では、早くも学生達が誰と友好関係を築くかと、皆が手探りな状況だった。
 
 探るような視線は当然ながら容姿に目が向く。まだ内面が判らない以上、まずは外面で判断してくるだろう。
 
 最初そんなことを考えもせず暢気に食堂で朝食を取っていたのだが、女の子である私には視線が集中して非常に居心地が悪かった。
 偉そうなこと語ったけど、ここにきてようやく学院社会というものに気づかされたクチです。
 
 昨夜は薄汚かったのが幸いしたのだろう。
 私もルイズも、泥まみれの服、汗まみれの肌(私は髪も)のまま気にせず食事をとっていたから、きっと馬車にも乗れない家の子とでも思われ、見向きもされなかった。
 
 思い返せば、見目のいい女子生徒に限って、食事を半ばにしてそそくさと立ち去っていっていた気がする。
 
 今朝は、そこそこの身なりで出てきてしまったために、持ち前の美少女力もあってか、一方的に集中砲火をうけるような事態に陥っていた。
 
 これでも領内の下々の者達に視線を浴びていることから、耐性はそこそこあるのだが、性質が異なる。
 建前上、対等とされる者から、ねっとりと探るような気持ち悪い視線に晒される。これは中々きつい。
 
 畑の南瓜と思えよ、キティ(仔猫)と思うかもしれない。
 残念ながら、それが許されないのだ。
 
 路傍の石とみて、無碍に振舞っていたら、実は家格が上の人でしたなんて事態になれば目もあてられないだろう。
 その軋轢が引き金に、将来の政敵になる可能性があるし、家格の高い者に擦り寄る者は多い。
 その者を中心とする人的ネットワークごと敵に回る可能性もあるのだ。
 無論、逃げ回るべきではないが、情報がまったくなく、玉石混合なこの状況下で、全てを玉と見なして振舞うというのは、精神的に大きな負担を強いられる。
 はっきりするまでは自分よりも対等以上の者とみなさねばならないのだ。
 これでは戦略的撤退もやむえない。
一人二人ならまだしも、私に向けられた視線は玉か石かを判断するには少々数が多すぎた。
 
 「ねえ、君。隣いいかな」
 
 私の返事を待たずして、真横の席に男子生徒が座ってくる。
 どうやら私をロックオンした者の一人が、行動を開始したようだった。
 私の馬鹿。どうして戦略的撤退を早くしなかったんだと後悔する。
 容姿は微妙。アニメ化されたのなら、美景修正されてのっぺらぼうにされるクオリティ。
 
 「どこの貴族なの。うちは伯爵家なんだけどさ。よければ、食事を食べたら一緒に学院を見て廻らない?」
 
 馴れ馴れしい。何処の伯爵家か尋ねてみたところ、伯爵といっても底辺のようだった。
 
 「私、公爵家の方とご一緒する予定がありますので。それでは」
 
 無難にお断りの言葉を申し出て、食事の途中で席を立ち上がる。
 
 「あ、おい。食事途中じゃねえかっ!」
 
 呼び止められた。
 
 「これはご忠告ですけど、身の程は弁えた方がいいですよ。ド・フレイブル伯爵家としましても、懇意にしている公爵家の要求を無碍にはできませんですから」
 
 ド・フレイブル。同じ伯爵としても勢いのある家名だ。
 そして「背後にいる家」が見え隠れして、その他の男子生徒も含めて私を追跡することを諦めた様だった。
  それから、側で給仕をしていたメイドに話しかける。
 
 「サンドウィッチとミルク詰めていただけません?」
 
 「は、はい。畏まりましたお嬢様。こちらについてきてください」
 
 メイドにランチボックスに食事をつめてもらい、退出する。
 公爵家や、大公家の子弟でないことが救いだったね。
 公爵家をダシにして、逃げるという手段が機能しない可能性がある。
 ルイズシールドが使えないとなると、私は不愉快な朝食を強いられたことになっただろう。

 なおランチボックスをつめてもらう手間賃として10スゥ銀貨払わされた。
 日本円の感覚的には千円前後。
 ぼったくりも良いとこである。
 
 半分くらいは腹にたまっていたので、助けてもらったお礼も兼ねてルイズの要望通り、部屋で分けあって食べるかと思い、こうして火の塔へと戻ってきた訳だ。
 ルイズの部屋に辿りつけていないのは、階段がつっかえていて進みが牛歩ペースなため。
 上方を見上げれば、金髪を縦ロールにした少女が、身体の半分ほどもある大きな鞄二つを引きずるようにして運んでいて、直ぐには通れそうにはなかった。
 
 通行の邪魔だ、どけと言う訳にもいかず、ひとまず声をかけて、通してもらえるよう交渉してみることにする。
 
 「ごきげんよう、マドモアゼル」
 
 「え、え?」
 
 突然呼び止められて縦ロールの少女は混乱しているようだった。
 思わず荷物の片方を取り落として、それがこちらへ転がり落ちてくる。
 
 「レビテーション」
 
 懐から教鞭サイズの杖を取り出して素早く対処したため、事なきをえた。
 
 「ご、ごめんなさい」
 
 頭上の少女が謝ってきた。
 
 「風のメイジの私でなければ、これは大惨事だよ」
 
 特に10スゥのお弁当が無残なことになった可能性が高い。
 少女はペコペコと頭を下げて謝る素振りを見せる。

 「もういいですから。そっちの手は離さないでくださいね」
 
 「は、はい」
 
 そう言葉を交わしつつ、浮遊の魔法を解除せず、荷物を目的地である彼女のフロアまで運んであげることにした。
 少女は遠慮してきたが、明らかに助力を必要としている状況なので、私は有無言わせなかった。
 なんてことはない。また落とされても困るし、通行の邪魔だから、私のようなトラブルに巻き込まれる者が出る恐れがある。
 目的地に到着すると、少女の足元に荷物をそっと着地させて魔法を解除した。
 
 「ええと、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシといいますわ。貴女もこの学院の新入生でいいのかしら」
 
 初対面の相手には正式名をはっきりと。これ礼儀です。
 
 「私の名前は、リリアーヌ・ヴァネッサ・ラ・フェール・ド・モングラーヴ・ド・フレイブル」
 
 相手が正式名称で名乗ってきたので、こちらも正式名称で名乗り返す。
 
 ん……モンモランシ?
 おもいっきし、原作の登場人物だった。
 よくみれば、原作のイラストの面影がある。
 人間一年あれば容姿は結構変わる訳で、知っている人でもわからなかったりすることはままあるよね。私の場合は一方的に2次元絵を見知っているだけですし。
 
 「ええと、リリアーヌさん?」
 
 「ええ。普段はリリアーヌ・ド・フレイブルですよ。更に略して、リリアーヌでもリリアでもド・フレイブルでも好きに呼んで。私はあなたのことをモンモランシーって呼ぶから」
 
 「それじゃあリリアーヌって呼ばせていただきますね」
 
 若き日のモンモンは口調がちょっぴり丁寧だった。
 
 「気になりましたけど、ラ・フェール姓を名乗っているのはどういうことなのかしら」
 
 ついでに彼女は少し疑うような警戒するような目つきをなされる。
 
 貴族の名字は支配する土地を示す。それは日本だって同じだ。
 本姓が源だったり平だったりして、所領をもった地域の名前を名字とする。
 例えば足利将軍家の本姓は源で、栃木県足利に最初所領を持っていたからその名がついた。
 こっちのド・とかラ・とかの後に続くのは領地の名前だ。
 そこには私の家が現在領有している地名が含まれている。
 ド・フレイブルが該当するだろう。ド・モングラーヴは併合した土地の名前。
ならばラ・フェール姓とは何なのか。
 
 「父方の祖父がラ・フェール伯爵で、ド・フレイブル家に婿養子に入ったらしいですよ。その際にラ・フェールの土地の相続権を放棄したそうなのだけど、先祖伝来の姓だからって名前だけは残したと父は教えてくれました」
 
 「まあ」
 
 それを聞いてモンモランシーが顔を輝かせる。
 
 「私の母方のおじい様がラ・フェール伯爵ですのよ。ご兄弟か何かだったのかしら」
 
 まさかの一族説が浮上。まあ、私の瞳が碧眼なのを鑑みると、モンモランシーの先祖の血が混ざっていたとしてもおかしくはない。
 
 「貴族なんて数代遡れば、大体親族同士だよモンモランシー。ありがちな話さ」
 
 そもそもブリミルの血引いてないと、魔法使えないらしいから、広義的に貴族は皆同じ一族だったり。
 でも、ルイズみたいな面倒臭い子がいるから、新しい親戚の子はいらないです。
 
 「それでも何だかご縁を感じますわ。とても感じの良い方ですし」
 
 向こうはちょっと乗り気だった。なんだか嬉しそうで気が引ける。
 
 「ちょっと高評価なんじゃないかな?」
 
 「だって、私が荷物を取り落としても嫌な顔一つせずに、しかもここまで運ぶのを手伝ってくださったじゃない」
 
 それは、成り行き上で仕方がなくという訳で、別に善意でやったわけじゃない。
 とはいっても訂正しても何か得するわけでもないのでそういうことにしておく。
 
 「よろしければ、これからお部屋に来ませんか」
 
 どうやら彼女は私と関わることに利があると判断したのだろうか。
 誘いの声が掛けられた。
 ここでモンモランシーと仲良くなると、来年辺りから始まる原作に登場することに(ry
 うん、関係は顔見知り程度にしておこうか。
 ルイズに朝食を運んでやらなければいけないしね。
 謝絶しようと結論に至ったところで、耳寄りな話をもってこられた。
 
 「領内で取れる特製の紅茶を披露しますわ」
 
 そのワードに私は過敏に反応する。
 紅茶だと……!?
 私は前世から紅茶が大好きだった。
 朝昼晩と1日に3度は飲んでいたほどの、カフェイン中毒で、この世界にきて軽く絶望した理由の一つに紅茶が簡単には手に入らないことが含まれていた。
 それでも頑張って探してみたところ、ロマリアやガリア西部でわずかに緑茶が栽培されているのを知り、苗木を取り寄せて大事に大事に育てた。
 それから摘み取った茶葉を発酵させて作り上げたのだが、なんともいえない味に仕上がって以来、緑茶で我慢しているという状態に陥っている。
なんともいえない味ですか? ……靴下から絞った液体のような味がしました。
 諸外国でも一部の国で作られているが、嗜好品だけに、輸入するには税金やら、中間利益搾取やらで値段が馬鹿高い。
 一杯いくらかとか気になってしまって気軽に飲めないのが残念で仕方がなかったのだが。
 その紅茶をふるまうだと……!?
 
 「モンモランシー、私達良いお友達になれそうだね」
 
 そういって彼女の手を握る。
 
 「え、そうかな。そう思ってくださるのなら嬉しいですけど」
 
 恥らうおでこちゃんの反応が実にかわいらしかった。
 
 「好意的な反応ありがとう。私も素直に嬉しいよ」
 
 「まぁ」
 
 ごめんね、ルイズ。でも紅茶の誘惑には勝てないんだ。
 別に私自身が持っていくだなんて一言も言った覚えがないので、そこら辺を歩いていたそばかすが印象的な黒髪のメイドに、ランチボックスの配達を頼んで、2スゥ手渡した。
 それからモンモランシーの部屋に出向く。
 
 部屋の中は私の部屋同様、こざっぱり……ほとんど何もおいてなかった。
 部屋は四畳半。二人部屋ではないが、大分ケチっているようだ。
 
 「殺風景でごめんなさい」
 
 恥ずかしそうにいう彼女がいじらしい。
 
 「ううん。私の部屋も似たようなものだし。旅行鞄が一つ転がっているだけだよ。今日の昼過ぎには荷物届くと思うけどね」
 
 家人には一日遅れで出発するように指示を出しておいた。
 私とルイズの珍道中に同行させるよりも、はるかに能率的に物が運べるに違いないからだ。
 配送する方も、貴族の令嬢二人のお守りをしながら荷物を運ぶというのは嫌であろう。
 
 また、荷物が届けられたら、受け取るものが誰か学院にいる必要があったので、どうしても遅れて出発させざるをえなかった。
 この学院、特別な許可がない限り学生以外は、内部に入ることが出来ない。
 そのため部外者とのやり取りは正門周辺で行うことになる。また、物品の輸送は、正門から寮のロビーまでが警備兵が、ロビーから部屋に配置するまでがメイドが担当するという素敵な二段階支払いプランを設けられていて、全てお任せでのプランを頼むと軽く100エキューを超えるという。
 その際にはフロアデザイナーが出向いてきて、部屋を見事に仕上げてくれるというのだが、100エキューは高すぎだろ。
 ぼったくりもいいところである。
 
 まあ、荷物の話はさておき、振舞われた紅茶は素晴らしいものだった。
 私が紅茶好きなのを察してくれたのか数種類煎れてくれ、それぞれ口に付け味を堪能する。
 
 「これはアッサム、これはダージリン。セイロンもある……凄いね、どうやって再現したの」
 
 銘柄は産地名なので厳密には違うのだが、それに近い味が良く現れていた。
 
 「数世代前の当主が、領内に住み着いた平民から教えてもらったみたい。こういうものを自家栽培しているんだけど、協力してくれないかって話を持ちかけられて。それで開発資金と魔法の技術提供したら、今の銘柄をそれぞれ開発したそう。貴族の間で密かに好まれて飲まれているから結構な収入になっているのよ」
 
 なにその神平民。何故家の領地に沸かなかった!
 いや、こうして飲めるからいいんだけどさ。
 恐らくだけど、前世世界の人なんだろうなぁ。
 
 「紅茶って気候や地質によって仕上がりの味が変わるんですってね。領内で働いている紅茶職人が教えてくれたわ。でも流石ねリリアーヌは。口につけただけで言い当てるなんて」
 
 そりゃあポピュラーな銘柄ばっかりだし。
 前世の庶民レベルの紅茶知識で褒められるのは気恥ずかしいものを感じるけど。
 
 「よ、よろしければ、栽培法教えてくださらない」
 
 気恥ずかしさを誤魔化すように、自分の胸にうずまく欲望を吐き出してみる。
 
 「そ、それはちょっと……」
 
 モンモランシーが言いよどむ。
 ですよねー。ちょっと気まずい雰囲気が漂う。
 地雷踏んだかも。
 
 「ごめん。それじゃあ、私が飲む分を安く購入することはできるかな?」
 
 「それなら構わないわ。現在市場では1杯あたり5スゥで流通しているけど、3割程度までなら価格引き下げられるわ」
 
 「おお、それは凄い。そういえば私、家人にどこで栽培させているか調べさせたことあるんだけど、モンモランシーのところで栽培している報告はなかったなぁ」
 
 ちなみに海外からの取り寄せだと1杯10スゥ前後。
 流石に貴族の私でも1日3杯飲むには躊躇うお値段。
それでもいくらかは常備しているけど。
 
 「王命で緘口令しいているから仕方がないわよ。王室への供給が十分行き届いたらようやく、事情を知っている親しい貴族達にだけ販売しているわ」
 
 「へえ」
 
 調査不足だったようです。王家め許せない……。
 
 「……家の領地の一番の収入源がこれなの。お父様が数年前に開拓事業に失敗してしまいまして。借金の返済で貧困にあえいでいるのだけど、この事業でなんとか生活が成り立っているのですわ」
 
 うわ。切実だなぁ。
 
 「自分で荷物運んでいたのもそのため?」
 
 「ええ。恥ずかしながら」
 
 メイドさんに頼むと、荷物運びくらいは手伝ってくれるけど、ぼったくられます。
 先ほどのルイズの部屋へ朝ごはんの配送は2スゥほどですんだけど。
 貧乏貴族にも、それなりの学校教育を送らせてやるために、学生には必要ないが、貴族に必要ななサービスを対象にお金をとってくる。

 集めたお金は、学院の運営費に当てられるそう。
王家と国からの援助の他にも「寄付」がないとやっていけないそうだ。
下々の者のことも考えてやるのも「高貴なる者の義務」だとさ。
 プライドの高いトリステイン貴族は大抵それで黙る。
 サービスを受けるのに、金が払える貴族はせっせと「寄付」をし、払えない貴族は、自分で身の回りの世話できるようになる生活能力が身に付く。
身をわきまえさせるという意味でもこの体制は有用だ。
 私個人としては、ここで領地での貴族生活を求めるとやたらと金がかかるのが困るから嫌なんだけどさ。
 そんな「寄付」についての意見交換をモンモランシ―とのお喋りの題材として時間を潰した。

 「モンモランシ、私の部屋は3階の突き当たりにあるから、気兼ねなくに遊びに来てね。困ったことがあったら出来る範囲で協力するから」
 
 「ありがとう、リリアーヌ」
 
 それから、もうしばらく、二人だけのお茶会を楽しんだ。



[28564] 第3話「本と魔法と酷すぎる話」
Name: アリエス◆8d2cb103 ID:1e482d67
Date: 2011/07/09 11:26
モンモランシーにお暇を告げて自室へ戻ると、部屋の前でルイズがうらめしげに待っていた。
 ルイズはアンロックの魔法が使えないので勝手に入ることは出来ない。
 ……使えても勝手に入っては欲しくないけれど。
 扉の前に座り込み、待ちくたびれていかにも疲れたといった風に見えた。
 機嫌悪いのだろうなぁ。
 
 「どこにいっていたのよ、リリアっ!」
 
 「おはようルイズ。目は覚めたかな。そろそろ荷物来るだろうから一緒に取りに行かない?」
 
 そう言って、さりげなーく話題を逸らす。
 
 「ご、誤魔化すなぁぁぁ」
 
 色々と不満がありそうな表情だが、私の提案には異論はない様子だった。
 授業が始まるまでは、他には特にやることもないので、出費を抑えるのも悪くないってところかな。
 自室から本を取り出して、ルイズとともに正門へと向かう。
 到着したら木陰で森林浴をしつつ読書にいそしむことにした。
 
 周囲には、同じように正門へ到着する荷物の受け取りを待っている子は多い。
 
 同じように待っている一部の男子生徒達は、早くもボール遊びなんかをして騒いでいる。
 
 陰湿な貴族社会のこと語ったけど、中にはそんなの気にしない連中もいるんだよね。
 彼らには呆れを通り越して敬意を覚える。何というか、気持ちのいい馬鹿っていう奴。
 うん。頑張れ。
 
 「リリア。いいこと。私を放置するのはやめなさい」
 
 私と密着するくらい近い場所に座って、何故かそんなことを語ってくる従姉妹殿。
 ジト目でこちらを眺めてくるのだが、相手にはしない。
 ホームシックにでもかかったのかな。
 大人しくくっついてきたのもそういうことか。
 
 面倒臭い子は適度にかまってご機嫌とってやればそれで十分だろう。
 わーわー騒いでいたけど、何処吹く風とページを捲る。
 ルイズが涙ぐんだ表情で、杖を私の本に向け始めたところで、ようやく相手にしてあげた。
 
 「やめようね。ちゃんと構ってあげますから」
 
 燃やされたらかなわない。いや、爆散するのだろうか。
 杖を取り出してレビテーションの呪文で、ルイズの手から杖を取り上げる。
 
 「か、返しなさいよ、私の杖」
 
 「何ならラインメイジである私の魔法講座でも聞いてみる?」
 
 本を読むのは不可能と判断して、彼女の興味を引きそうな話題を持ちかけてみる。
 ルイズはひとまず、私から奪い返した杖を大事そうに懐にしまいこんだ。
 
 「べべ別にいらないわよ。何人もの先生に見てもらっているんだから」
 
 言葉とは裏腹に興味がありそうだったので、杖を軽く振って、お得意の氷細工を色々と作り出してみた。
 
 テーブルに、腰掛けるための椅子。そして手元には氷で作られたフルートが現れる。
 
 「ぐっ。流石は白創のリリアーヌ。その凄さと才能の無駄使いなところが、二つ名によく現れているわ」
 
 才能の無駄使いって。ルイズちゃん、それは酷いよ。
 立ち上がって、椅子に腰掛ける。ルイズもそれに続く。
 
 「無駄じゃないよー。こうして出かけ先で、すぐにテーブルと椅子が用意できるのって便利でしょう」
 
 「じゃあ、この笛は?」
 
 「どうぞ、マドモワゼル。お吹きになってよろしいですよ」
 
 「もっと派手な攻撃魔法覚えなさいよ。リリアなら、若い頃のお母様みたいな活躍できるでしょう!」
 
 何を無茶なことを。あの人は化け物だぞ。
 
 「ぴた」
 
 「きゃああああああ」
 
 氷製のフルート、ルイズのぽっぺたにくっつけてみたら叫ばれました。
 
 「あ、あんたねっ、驚かさないでよっ。ひんやりして冷たいのよっ」
 
 「いいから吹いてみなさい、お嬢さん」
 
 そういって、私特製の氷製のフルートを手渡してみたところ、ルイズは恐る恐る受け取ってくれた。
 
 「中々良い出来でしょ。氷だけで作ってあるから単純な作りなんだけどさ」
 
 「……」
 
 ルイズは無言でフルートを受け取り、緊張気味に笛口を咥え、吹き始める。
 見当違いの音色が鳴り響き、焦っているようだった。
 
 「くすっ」
 
 あまりにも可笑しい音とルイズの反応が面白かったので、つい笑ってしまった。
 
 「わ、私を騙したの。こんな不良品を掴ませてっ」
 
 涙目でこっちにフルートを返してくる。
 
 「返してみん、こうやって吹いてみるのさ」
 
 そういってルイズから返してもらうと一曲披露してみた。
 曲目はいえましぇん。
 
 「どうよ」
 
 「か、間接キス」
 
 ルイズが真っ赤な顔でそんなことを言い始める。
 
 「私の曲はスルーですか」
 
 「わ、わたしとちゅーするために作ったんじゃないでしょうねっ」
 
 どうしようこの脳みそのお目出度さ。
 
 「誤解。大体、同性同士だし、従姉妹だし気にするもんじゃないでしょ」
 
 至極もっともな事をいってみせた。
 といいますか指摘されるまで気がつかなかったんですけど。
 
 「そっか。女の子同士で従姉妹だもん。問題ないわよね」
 
 気にしすぎでしょう。
 
 「うん。それじゃあ、私ももう一度吹いてみたい」
 
 そういってひったくるようにして私から氷製のフルートを奪い取った。
 
 「あ、折れた」
 
 まあ、脆いのは仕方がないです。
 新しいのを作ってあけたら残念そうな顔していたんだけど、なんでだろう。
 
 「でも、どうしてリリアはこんなしょうもない魔法ばっか習得しようとするの」
 
 (どーせ無駄になるだろう)魔法講座そっちのけにして、一通りフルートの扱い方を教えてあげたところ、ルイズがそんな疑問をぶつけてきました。
 
 「別に軍人じゃないからかな。一応身体もそこそこ鍛えているし、戦闘訓練もつんでいるよー。私の家庭教師は軍人あがりだったから。でも、ものを再現するという方に私の業は引っ張られているんだろうね。最低限の攻撃魔法覚えたらこっち方面の魔法ばっかり探したり、創作している」
 
 「創作しているの?」
 
 「うん。機会があれば見せてあげるよ」
 
 「言ったからにはここで見せなさいよ。気になるじゃない」
 
 興味津々のルイズ嬢。
 
 「拒否します」
 
 「酷いわよ。のけ者にするなんて」
 
 「魔法は、そのものの威力のほかに、秘匿性が高いってのも立派なメリットの一つなの。時に、家伝魔法ってのがある」
 
 「う、うん」
 
 家伝魔法というのは、こっちに転生してから初めて知った存在なのだが、貴族(メイジ)の家系には、歴代当主や家人が創作・収集したとされる魔法が文献として残っているケースが多い。
 魔法学院で習うようなポピュラーなものも多いが、中には強力な実用性のある稀少魔法が残されていたりする。
 古い貴族の家系に優れたメイジが輩出されやすいのは、この稀少呪文の類を含めた、家独自の魔法技術が培われているからだ。
 
 大体家庭教師役になるのも、少し前の先祖をたどれば同じだったみたいな子爵から準爵までの譜代家臣ならぬ譜代メイジなる者が勤めていることが多いし、そうした譜代の人材の層の厚さと魔法知識の蓄積量が、メイジとしての素養の差を殆ど決定付けてしまう。
 
 ライン以上のメイジには、それを裏付けるだけの教育技術が施されていて、大抵はその背景に家柄というものが見え隠れしているということだ。
 
 適正が高くても、教育が伴わなければ人材は育たない。
 
 まあ、良い家に生まれても努力を怠ればアレな子になるし、教育方針が合わないこともあるし、多少確率が上がる程度に認識すべきだけどね。
 
 ところで、断絶したり、爵位、財産を取り上げられたメイジの家系の記録を、公共の魔法として保管するのもこの学院の役目の一つだったりする。
 膨大な蔵書数を誇る図書館の奥底の禁書棚には、滅びた家の家伝魔法の記録が並んでいるとか何とか。
 
 魔法学院で習う魔法は、トリステイン王家から一部提供された家伝魔法を基にしつつ、図書館に集められた魔法から、凡庸性の高いものを抽出して教えているらしい。
 
 「……まあ、ルイズにはどうでもいい知識か」
 
 説明してあげたところ、ぽかんとして聞き入っていた。
 
 「どうしたのかにゃー?」
 
 「余計なお世話よ」
 
 ヴァリエール家も結構な家伝魔法あるのに、虚無系統なせいで使いこなせないから、こうした背景事情を学べるほどの心の余裕が持てていないのだろう。
 
 ちなみにルイズに虚無のことは話していない。

 本人がどう思っているにせよ、端から見て作中のルイズは、トリステイン王国の都合の良い駒として利用されているわけで、駒の人生を早める必要はないだろうなという、従姉妹ならでの優しい気遣いからである。
 ……もしもそうなったら、サイトが出るまで私がサイトの役回りになりそうな気がしてならないから嫌という本心があるのも否定はしないけど。
 それよりも話を戻そう。
 
 「創作魔法ってのは、要は当代の家伝魔法なの。私はド・フレイブル伯爵家。貴女はラ・ヴァリエール公爵家。おいそれと教えられるわけないでしょ」
 
 「ほとんどヴァリエールじゃない。ド・フレイブル家なんて」
 
 家格は確かにラ・ヴァリエール公爵家の方が高い。始祖ブリミルの血を色濃く引き、トリステイン王家の一門筆頭格だ。
 あの(成金)グルテンホルフ大公家が頭が上がらないことから、ラ・ヴァリエール公爵家こそトリステイン王国第一の貴族とみなす者も少なくない。
 だから、外聞的にはラ・ヴァリエール一門で通した方が覚えはいいのだろう。
 だけれどド・フレイブルだって捨てたもんじゃないんだぞ。
 田舎貴族に過ぎないけど、生き残りをかけた舵取りの巧さと、歴代当主の功績を鑑みれば、ぽっと出の新貴族とは比較にならない程の伝統と魔法の蓄積をもっている。
 まあ、状況によっては父の代で潰れていただく訳だが。
 
 「親しき仲にも礼儀ありってね。ルイズ。弁明しておくと、私の創作魔法の大半はそのまま墓までもっていくわ。危険すぎるし」
 
 社会が崩壊しちゃう方向の意味でね。
 意味深げな笑みを浮かべてやった。
 
 「そ、そんなにやばい魔法なの」
 
 「さあねー」
 
 「教えなさいよー」
 
 「まずはコモンマジック覚えようねー」
 
 「馬鹿にするなー」
 
 「いひゃいひゃい。ひっぱらないでぇー」
 
 ルイズに頬を引っ張られ、もみくちゃにされているところで、正門のほうから警備兵が私達の名前を呼んでいるのが聞こえた。
 
 「呼ばれている?」
 
 「どうやら来たようだね。ルイズはここで待機。荷物を魔法で運んで来てあげるから、大人しくしていてね」
 
 正門の前に移動すると、見覚えのある大型の馬車が停止していた。
 魔法学院は治外特権を持っている。
 そのため、学生と学院関係者以外の者が入り込むのは禁止されていて、部外者は外で待たされ、警備兵やメイドが呼んでくるのを待たなければならない。
 
 正門の脇には中々立派な待合室も設けられており、1エキューほどから、対談室としての利用や、荷物を保管しておいてくれるオプションサービスがある。
 
 つまり、荷物が送られてきた際、呼ばれてすぐにこなかった場合、1エキューは少なくとも取られるということだ。
 荷物は私の家人がルイズのもあわせて一まとめに持ってくる話の段取りになっていたが、ルイズがついてきたところで、面倒臭いだけなので、一人で正門へと出向いた。
 
 「ベランジェ、待っていたわ」
 
 我が家の家人で私の腹心。年齢は40近い。精悍だが味のある顔の男だ。
 父オリヴィエの統率する部隊で従軍した経験もある元軍人は、うやうやしく一礼をし、私が差し出した手の甲に接吻をする。
 
 「リリア様とラ・ヴァリエール嬢の荷物を持って参りました」
 
 「ありがと。あと私の留守の最中お願いしますね」
 
 「承知しております」
 
 言葉少なくベランジェと別れる。
 馬車から降ろされた荷物は、等身大程の木製の大きな箱に収められている。
 ルイズのと思われる同じくらいの木の箱がもう一つ。
 警備兵が、金を払わないならさっさと持っていけ的な目つきでこちらを眺めてきたが、彼らに文句を言う権利はない。
 
 「今の誰?」
 
 どうやらついて来ていたようだった。
 
 「元家庭教師かな。さ、運びましょう。レビテーション」

 大きな木箱二つを宙に浮かべる。
 結構な重量があり、運ぶのに中々骨が折れそうだった。
 
 「私も早く魔法覚えたいなぁ」
 
 ため息混じりにルイズがそう呟く。
 ですねー。
 
 「学院の授業に期待してみようね」
 
 「うん」
 
 塔にたどり着くと、木箱を開けて、荷物を幾つかに小分けする。
 私もルイズも窓がちゃんとある部屋なので、庭先からレビテーションで物を浮かばせて運び込もうと考えたのだ。
 何組か私達同じようなことをしている連中がいたが、基本的には建物の入り口から入り、内部へ運び込む。

 
 お金に余裕のない生徒は自力や友人と一緒に。
 余裕がある人は、メイドや警備兵が手伝っている。
 そして季節柄どうしようもないくらい込んでいた。
 列を作って並んでいる具合に。

 私達は、まず私が下からレビテーションで荷物を少しづつ浮かばせて、ルイズが部屋で受け取る。
 ルイズの荷物を全部彼女の部屋に届けたら、今度は降りてきてもらう。
 荷物を見張っていてもらう合間に自分の荷物をフライで運び込む作業を往復すれば終了です。

 木箱はメイドさんにお願いして処分してもらうことにしました。
 薪に使うそうで、二箱で10スゥの出費ですみましたが、釈然としません。
 
 
 「それじゃあ、部屋の分類が終わったら、私の方にも来て手伝ってよね」
 
 面倒くさい従姉妹ともしばらくはお別れ。
 夕食は一緒にいこうと、私がルイズの部屋に出向く形で話がまとまりました。


 <2>
 自室へ戻ってくる私。
 服や、化粧品、雑貨類も多いですが、荷物の大半は本で占められている。
 そして何気にその殆どが自主制作本だったり。
 薄い本じゃないですよ。
 
 別に自身で書いたわけではなく、我が家の家伝魔法として<念複写>と呼ばれる「頭で考えていることを紙上に書き出す魔法」なんて凄いものがあったので、それを習得して作った代物。
難易度は水系統1枠。つまりドットスペルです。
 用途は「日記の手間隙が省ける」程度の記載しか家伝書には書かれていなかった。
 実際その様にしか利用されていなかった様で、私がこの魔法を教えて貰い、これでしばらく日記を書く練習をした時に、発想の見方を変えると凄い魔法へと化けることに気がついた。
 
 何と前世に読んだ好きな物語もとい、妄想を紙に再現することができるツールとして機能するのです。ハルケギニア版ワープロ。いえいえ、それ以上の性能です。
 妄想がちゃんと文字になるとか便利すぎます。
 
 さて、この家伝魔法。
 いつの時代の記録なのかといえば、曾祖母が書き残したもの。
 記述から察するに、ラ・ヴァリエール家から流れてきたらしい。
 
 これは私の推測なのだが、元々はトリステイン王家の家伝魔法なのではないかと思う。

 こんな便利な魔法があっていい筈が(ry
 王家補正が無ければそもそも納得が(ry
 
 といった先入観の他、始祖ブリミルの残したアイテム「始祖の祈祷書」の効力に似ているなと思った。
 
 ……おさらいしましょうか?
 「始祖の祈祷書」は、「始祖の指輪」をはめた虚無の使い手が求める虚無系統の魔法を教えてくれ、その際には本に記述が現れます。
 
 指輪と祈祷書の間で起こるこの不思議現象に、使った魔法から分離劣化した魔法なんじゃないですかねこれ。
 まさかの虚無補正(ry
 ……まあ、推測にはキリがありません。
 
 ところで、皆さんの目標とは何でしょうか。
 私と同じ年くらいの貴族の子なら、スクエアメイジになって、名を上げて、幸福な勝ち組人生を送ってやる、各自の願望をまとめると、大体こんなところじゃないでしょうか。
 まとめてしまったので、やや一般的過ぎますが、そこら辺は部分的に切り出し、当てはめて考えてみてください。
 
 私の場合は、少々特殊なので変人呼ばわりされるのですが、必ずしもトライアングルメイジ、スクエアメイジになる必要はありません。
 内容は、前世世界と同じような快適な生活を求めつつ、女伯爵として平穏に暮らすこと。
 うん、確かに変人だ。
 同年代はもう少し夢に飢えている。
 でも、それを維持するのが中々大変なのです。
 争い事は絶え間ないし、貴族娘には縁談なんてものがありますからね。
 何かを掴み取るために頑張るのではなく、今あるものを守るために頑張らなければなりません。
 私は、この問題の解決にあたって「逃げ道の確保」という保険をつくることを考えてことにあたろうと思いました。
 以前話した「自立」という奴です。
 この縁談いい話だから、結婚してねと親から言われ、出向いたときに相手がダメそうな奴だったら、速攻で独立してしまうなり、独立すると圧力をかけて縁談をぶち壊すのです。
 すっげえ子供じみた発想ですが、重要です。
 私が幸せに生きるために必要なことなのです。
 親族に約一名同じようなことをやって行き遅れた方がいますが、まあ私は大丈夫なはず。
 
 そんな目標を漠然と抱えて今まで生きてきました。
 馬鹿らしいと思うかもしれませんが、真面目に考えると「時間」がネックになってきて体勢整える難易度が高いのですよね。
 
 例えば何も考えず漠然と生きていた場合、「縁談」が持ち込まれた時点で、親が乗り気なら、まな板の上の鯉。
相手の出来にかかっています。運任せです。
 抵抗する力が無ければ、「言うこと聞かないと、お小遣いあげないぉ」と圧力をかけられて屈服せざるを得ませんから、相手が悪いと、らめぇ~な運命が……。
 
 貴族とはいえ、令嬢なんてのは、所詮は親の庇護下にいる弱者なんです。
 
 ルイズ含めて、他の娘がこうした状況を諦めて受け入れる中、反抗のための準備を始めちゃう辺り、私は「変人」なのでしょう。悔いはないですけど。
 このような考えの下、動き始めたのが8歳の時。
 しかし、いくら私が転生者とはいえ、外見は10歳未満の小娘。
できることなんて限られていました。
 ……手っ取り早く力を得るには、悪の道に手を染めざるをえません。
 
 この手を汚さねば何も手にすることは出来ない。
 父の口癖です。悔しいですが身に染みます。
 
 私がやったことは、某大国が恥知らずにも行う劣化コピーの真似事。
 オリジナルが手元に無いので、記憶だけが頼りですが、その記憶がマネーチャンスを生み出すという事態。
 再現してみたのです。<念複写>で前世好きだった作品の数々を。
 
 こっちの世界の人にはわからない風習、地名、それに教えたくない情報などは別のものに差し替えたり、他の作品と組み合わせたりして誤魔化す小細工をほどこして、わかりにくくしましたけど。
 大筋は丸パクリですね。
 まあ、私が思い出して楽しめるように纏めた側面もありますから。
 前世世界の人がみたら、何じゃこりゃあ、とか思うのではないでしょうか。
 文才に関係なく、面白いと思った感情を反映してくれるので、私の目からみた○○といった感じに仕上がっています。
 リリアーヌフィルターとでもいうんでしょうか。効果は劣化補正。
 まあ、読めないほどの出来ではないですよ。
むしろこの世界では、新鮮な物語として仕上っていたので、これは売れるかもしれないかなと思いました。
 
 悪いことをすると決断したら、あとは迅速に作り売りさばくのみ。
 リリアーヌ、8歳のときの決意でした。
 
 まず、特に懇意にしていたアムステルの商人と提携を組み、出版社まがいな商売を起こしてみたのです。
 最初はトントンな上、大きな問題がありました。
 それは紙の確保です。インクも一騒動ありましたが、紙の確保が大変でした。 
 この世界の紙は高いです。
 1枚50スゥ~100スゥ前後する羊皮紙はまだまだ主流だし、代替物として使用される紙は、使い古した衣類から繊維を取り出して作っているため質が悪く、少量生産です。
 それ以前に貴族にさえ行き渡れば良い風潮があります。
 庶民は、何とか買えるのであって気軽に買える訳では決してないのです。
 私、本読んだことあるんですよと、10冊にも満たない数で自慢げに話す平民の姿をみると居た堪れなくなりますよ。
 まず着目したのは、お洋服や麻酔などの材料となる麻。
 紙質として優れているんですが、うちでは少量生産ですし、それ全部使っても満足な数は確保できません。
 それなら、植える量をふやせばいいじゃないと思い、領内の麻を作っている人に頼んでみたのですが。
 
 「毎年作っていると収穫量が減るべさ」
 
 輪作の弊害があるそうなんですよねー。
 そうじゃなくても育つまで一年待ちとかなのに、どうすんのよこれと思っていたのですが、代わりにいい素材を見つけました。
 
 竹と桑です。
 
 最初期は桑が主流だったのですが、桑の実は美味しいですし、果実酒にもできるので材料として使うのは即中止。もったいない。蚕の餌にも使えますし。

 一方、竹って成長早いのですよね。
 出来上がった紙は少々破れやすい感じがしますが、工夫したのでまあ問題ないかと。
 本来は東アジアや、オーストラリアなどに分布するのですが、何故ハルケギニアでは、西方世界に生えているかは謎。
 伯爵領にも結構な量が生えていて、むしろ他の植物を脅かしている面もあったので、容赦なく切り倒して使いました。
 
 竹紙を生産して本の材料とすると共に、アムステルの特産品として、既存の紙よりも大分価格を抑えて販売したら、ちゃんと商品として扱われ始めました。
 最近では、麻を紙用に増産して、麻紙の割合も上がりつつありますが、竹紙がまだ主流です。
 
 一方、アムステルで写本業を営んでいた方々や、街の土のメイジを集めて、製紙法を伝授する傍ら、金属製や石製の凸型活版を作らせて、紙と印刷業を抱き合わせた商会を設立させました。
 主力商品は先ほどの桑や竹で作った紙。
資金は私の養育費の一部もといお小遣と、提携した商人からの援助。
 
 そして私が作った作品の数作の中から、皆で回し読みして一番評判よかったものを、まず生産して売ってみました。
 結果はまあ、もの珍しさに買っていった金持ちがいてくれたおかげで、採算と運営費をギリギリ回収できましたが、完全に自転車操業。
 この手の事業は数作も出すと飽きられちゃうものなんですねー。
 新刊出すペースだけは、元ネタあるし、殆ど脳内変換ですので、毎週のように完成するのですけど、やがて売れ残りが目立ち始め、私と商人とその部下たちは結構な絶望感を味わいます。
 仕方が無いので貸本という形でサービスを始めたらと私が提案してみたら、一気に口コミで広まりましたけど。この世界は、何故か識字率が高い。でも文化水準は低い。
理由は、教会が比較的安値で文字教えているんですよ。
数百年ほど前までは庶民は無知な方がいいと規制かけていたそうですけど。
 低俗な娯楽を求めているのは基本的に庶民な訳で、金持ちのようなインテリは、既に暇つぶしの方法をそれぞれ見つけている。
 魔法の修行だったり、騎士道と称して不倫に励んだり。
大抵の貴族は、気晴らしにしか娯楽本の類は読みません。
 娯楽に飢えていたのはむしろ平民だったのです。
 「貸す」という形を取ることで、初めて収入が大きく出始めました。
 聞いたこともないような珍しいお話を沢山揃えていましたからね。
 なんといいますか。それで収入が増え始めるとすごい複雑な気分になりました。
出版社始めたつもりが、気がついたらレンタル店に……。
 どうしてこうなったと。
 あと、アムステルは港町。近隣から海の男たちが船に乗ってやってくるわけで。
 基本的にこの人たちは、船上にいる間、暇を持て余していることがあります。
 それで、船が所属している商館が、アムステルで珍しい内容の本が流行っていることを聞きつけ、まとまった金払うから、我々にも貸し出させてくれと言い出しまして。
それが、火付けとなって、船乗りたちが、行き着く港町で私の妄想本を宣伝することで、ハルケギニア北岸の街々でブームが。
他の港町の貸本屋がうちの本を揃えようとやっきになって押し寄せてきたところで、利益を横取りされるのが嫌な私達はこう持ちかけました。
 うちの本から得られる利益を3割ほど差し出すなら、安値で新刊をおたくのお店に配置してあげますよと。
 つまり貸本屋に本を貸したのです。
 この世界の貸し本屋、偶々本を大量に入手する機会のあった人が、眠らせておくくらいなら、メシの種にする方がいいとか思って、お店やっている場合が多いです。
 私の様なケースがありますが、あくまでも例外。
 それにしたって、収入が取り立てて多いわけでもなく、本なんて高価なものを、借り手が多くつきそうだからって毎回ぽんぽんと買うわけにも行かない。
 出費を抑えられ、文明が円熟した時代の娯楽小説を入手できる美味しい機会。
 メシの種にありつけるのなら悪い話ではないと、乗ってきた。それも各地から。
 どこも似たり寄ったりの魔法騎士物語ばかりで、マンネリ化している以上そりゃあ欲しがります。
 結果、今度は売り物として本の数が減る。
一度に取れる紙の量や労働力に限度があるから、仕方が無いですし、適度な休息は必要だと考えていますので、生産量増やして値段を下げるなんて、私たちに得しないことはしませんでした。
 需要と供給のバランスが崩れると当然、本の値段が上がるわけで、買うのは貴族を始めとしたお金持ち、借りるのは平民と別れてきます。
 現状、売るのと、貸すのの両輪で結構な収入を得られるようになったけど、身分格差がで利用法がきっちり分かれる結果になっています。
 私の目的の一つ、面白い作品に出会える世界に住みたいというのをこの世界で実現させるなら、今後本を手に取る敷居を低くしていく必要がありますね。。
 最近では、私のせいで仕事が減った、お話の語り手、吟遊詩人の皆さんと和解するために雇って、短いお話を、文字の読めない人や小さい子供を対象に語り聞かせることで、下流の庶民層も取り込もうと務めています。
 気がついた方もおられるかもしれませんが、この事業は情報の発信源としての価値があります。
 私がやっていることは、前世世界でいうマスコミの真似事に他なりません。
 それとなく発展して欲しいなと思う技術を物語に織り込ませて格好よく見せたり、流行して欲しいものをよく見せたりして扇動していますとも。
 
 ここまで安定し始めると、私がいなくても商人に任せておけば、そこそこ収入入ってくるでしょと、作品を再現する似非執筆活動以外はすっかり手を引いて、不労所得のみを吸い取り始めています。
 
 それと、この程度の作品俺にも書けるぜと主張する人を募っています。
私以外の作者さんの話を出来が良ければ、私が書かない時の繋ぎにして利用させていただいております。てへっ☆
 当、アムステル=トマス商会は、新進気鋭な作家さんを求めています。
 
  ……その後も色々ありましたが、そこら辺は割愛。やりすぎた感はあります。
 余剰資金を眠らせておくよりも、経済市場に放出しようと、投資、特に領内へがばがばと行いましたから。
 そんで、投資先にチート知識投入ですよ。
 どのくらい稼いでいるかは伏せておくにしても、一つの事実として月百エキューの収入と、2百エキューのお小遣いの合計3百エキューで生活することは、贅沢ではなく、経済感覚を崩壊させないための縛りと見なしている懐具合になっていること。
 一応、年収3千6百エキュー(内2千4百エキューは育児養育費)。
かなり裕福な下級貴族の収入レベルです。
 
 参考までに。
 原作16巻で、才人が拝領した男爵領ド・オルニエールが1万2千エキュー。
 ただし、これは額面どおりの収入得られたのか謎ですし、建物維持費や人件費なども含まれています。
 ハルケギニアの貴族は周囲の同格の貴族がどのくらいの贅沢加減で生活しているのかを重視する一面がありまして、基本的に、伯爵家は領地収入のうち1万5千エキュー分くらいは手取りとして確保するのが妥当と考えられています。
 式典の際の衣装や、他の貴族との交遊費、子供の養育費や、結婚の際の持参金の積み立て、持ちかけてこられた事業への投資などなどで使いますからね。
 
  3千6百エキュー。これでも、伯爵の娘としては多すぎますね。
 あまり貰わないように気にかけているんですけど。
お小遣いとして使っていない部分は「自立」のために使っています。
 こちらの詳細も割愛。
 「自立」「自立」とうっさいですが、これで妥協できる相手が来てくれたら笑えます。
 私の頑張りは何だったんだと。
 今のところ、誰と結婚するのかどころか、結婚のけの字も出ていません。

 逃亡先の別プランとして、こちらの文化が発達しないようだったら、ロマリアの教皇ヴィットーリオと交渉して、この体のまま金塊と宝石持って前世世界に帰ろうかなと考えているのですが。
 交渉材料に、十字軍ネタの作品出して、聖戦キャンペーンを扇動してあげれば、意外と応じてくれると思いませんか。

 いずれにせよ、しばらくは腹心のベランジェにある程度任せつつも、学生生活を堪能したいと考えています。



[28564] 第4話「ルイズの嫉妬」
Name: アリエス◆8d2cb103 ID:1e482d67
Date: 2011/07/07 18:19
 「リリアーお風呂いこうー」
 
 午後の間、ずっと部屋の中の分類を行っていた。
 社会性とか自主性を成長させるとかいった方針で、慣れないことをさせられて私はクタクタ。屋敷の私の部屋の維持は乳母や、ちい姉様がやってくれる。
 そんな生活に慣れきっていた私には、少々大変だった。
 
 「絶対、今日明日じゃ終わらないわ」
 
 ただっ広い部屋。無造作に積み重ねられた荷物の包み。
 
 リリアは自分の仕事が終わったら、手伝ってくれるっていっていたけど、私と同じくらいの量の荷物持ち込んだ癖に、終わるわけがないじゃない。
 
 すぐに部屋の外に出て、適当なメイドを呼び止める。
 そばかすと黒い髪が印象的なメイドだった。
 ああ、この子は一度私に朝食を持ってきてくれた子だっけか。
 なら、多少は私の部屋のこともわかっているだろう。
 
 「何か御用ですか、お嬢様」
 
 「ええ。荷物の整理手伝って欲しいわ」
 
 「かしこまりました」
 
 メイドはそう返事をすると、私の部屋に入ってくる。
 
 「……そうですね。量的に多いですし、3人くらいでかからないと終わりませんね。今は何処も人手を必要としている時期です。30エキュー程度でいかがでしょうか。明日中には終わらせますけど」
 
 30エキュー。今月のお小遣いの十分の一ね。
 ラ・ヴァリエール家の収入は、手取りで年10万エキューを超える。
 エレ姉様が学生のとき、月千エキュー仕送りしてもらっていたそうだ。
 あの性格が定着したのは、学生時代の女王様待遇が原因だったそうで、お父様が育て方間違えたとぼやいていたのを思い出す。
 
 お母様がとりあえずリリアに合わせておきなさいっていったから、月3百エキューということに話がまとまったのだけど、いきなし1割も消えるのか。
 ……まあいいか。足りなくなれば催促すればいいんだし。
 
 「払うわ」
 
 「え、本当ですか?」
 
 メイドはびっくりしたようだった。
 
 「メイド長、凄いです。このフロアの生徒さんは言い値で引き受けてくれるって聞いたから試しにふっかけてみたんだけど……これで、出世コース間違えないかしら。ぶつぶつ」
 
 メイドが何言っているのかがよくわからない。
 
 「それじゃあ、頑張りなさいよ」
 
 そういって、金貨を30枚渡した。
 
 「はいっ。とびっきりの人材をつれてきます」
 
 そういってメイドはそそくさと退散する。
 しばらくすると、中年のメイドを二人連れて戻ってきて、手馴れた動きで分類を始めた。
 私は、退屈なので、ベッドに寝転がり、リリアの領内で買った本でも開いて読み始める。
 
 読書が趣味のちい姉様に尋ねてみたら、アリー・ボッターシリーズがお勧めといっていたが、確かにこれは面白かった。
 平民に育てられた捨て子のアリーが、実は救国の英雄の息子という設定で、周囲の人間がやたらと持ち上げてくれるのに爽快感を覚える。
 魔法学園という舞台もタイムリーだし、先ほど男の子達が遊んでいた玉蹴りは、この物語に登場するフットボールという奴だろう。
 アルビオン王国が舞台なのかだけが悔やまれる。トリステイン王国なら、絶対この魔法学院が舞台なのだろうに。
 
 「お、お嬢様、いかがなさいました? 手足をばたばたさせて」
 
 「べ、別に何でもいいでしょ! 仕事をしなさい!」
 
 数時間も経過すると、読み終わってしまうもので、私はベッドから身を乗り出した。
 
 「ちょっと、お風呂にでも入ってくるわ」
 
 「はい。いってらっしゃいませ」
 
 「「いってらっしゃいませ!」」
 
 リリアも誘ってあげるかな。一人で入るのは寂しいし。
 
 
そうして、私は従姉妹の部屋を目指して火の塔の内部を歩き回る。
 「リリアー」
  従姉妹の部屋の扉を無造作に開ければ、リリアは部屋の中にいた。
 どうやら、こういうところは私とよく似ているらしい。
 部屋に入って中を見渡すと、座り込んで、アリーを読んでいた。
 
 「夕食までまだ時間あるよ?」
 
 「そうね。だから、先にお風呂入りましょう」
 
 「ああ、部屋の掃除飽きちゃったんだね」
 
 リリアは本を棚にしまいこむと、入浴のための準備を始めた。
 勝手に判断して失礼しちゃうわ。
 一生懸命やっていたわよ……メイドが。
 
 リリアだって、見たところ、全然終わっていないし。
 どうやら私の部屋の手伝いはする気がなさそうだ。
 
 「ムカつくけど当たり。飽きたわ。でも、貴女だって、本読みながらやる気なさそうにして作業しているじゃない」
 
 「人間の集中力は一日のうちの三時間程度っていうんだよ。少し前までちゃんとやっていたもん」
 
 「どうだかね」
 
白い目でみてやる。
 
 「私が悪かった。ところで入浴するにしても少し早い気がするけど」
 
 だって他にすることがないんだもん。
 
 「特にすること無いのに、他の子の残り湯なんかに入るのも嫌だし」
 
 衛生的に考えて、病気が移りそうで怖いし。黒死病とかさ。
 同じこと考えて早く入る子がいるかもしれないけど、少人数なら最低限のリスクは抑えられるでしょう。
 
 「それに何よりも……」
 
 胸を見比べられるのが嫌。
 私の胸は慎ましい。そんなことはわかっている。
 でも、その一方でありえない大きなの奴ばかり。
 目の前の金髪女はDは平均だよとか言ったけど、何よDって!
 Aを舐めるな!

 「何よりも?」
 
 リリアが怪訝な表情で伺ってきたので、慌てて我に返る。

 「何でもない。私はちっぱいなんかじゃないわ!」
 
 あれ。何か墓穴掘ったかしら。
 
 
 浴場は、本塔の地下に設置されている大理石張の手の込んだ場所だった。
 サウナ室と、大きな浴槽に分かれている。
 ラ・ヴァリエール公爵領は、温泉が湧くので私はお湯に漬かるのが好きだ。
 そこはリリアも同じようで、軽く体を流すと、一緒にお湯に漬かった。
 目の前にいる従姉妹。そして胸がずんと視界に入る。

 「ずるい。ずるい。ずるい」
 
 ムカつくわ。綺麗な形しやがって。早く垂れなさいよ。
 そんな私にを見て何を思ったのか、こんなことを言ってきやがった。
 
 「大は小を兼ねるっていいますけど、小さいと動きやすいし、あまり維持を気にしなくていいじゃないですか」
 
 「Dなんでしょ! 十分大きいわよ! 半分寄越しなさいよっ!」
 
 本当に腹立たしいわ。従姉妹の癖にこの格差は何よ。
 突然変異なんて、ちい姉様だけで十分なのよっ!

 「私も維持が中々大変なんで、もう少し小さい方がいいなとも思うんですけど、こればかりはしょうがないですよ……遺伝ですから」
 
 憂いに満ちた顔でさらりと同情する素振りを見せる。
そんな潤んだ目でみたって騙されないんだからね。
私並に可愛いのに、その大きさはないわ。
 ちい姉さまには負けているけど。
 私が両手で掴もうとすると、さりげなく下がりやがった。
 
 「はは。でも、大きくていいね。この浴場。ルイズが意見通りこの時間で正解だったと思う。全然人いないから好き勝手できる」
 
 浴場には私達を除いてまだ数人ほどしかいなかった。
 リリアの目算では、縦25メイル、横15メイルだそうだ。
 張られたお湯には、香りのいい果物の香水がふんだんに混ぜられている。
 私的にはまあ合格。香水使った気になれる分得した気になれる。
 
 「しかし、弱ったね。ゴージャスさを出すために香水入れているのだろうけど、出来れば普通のお湯の方がいいと思いません?」
 
 何故か、自称並乳は不満な様だ。
 訳がわからない。
 
 「理由をいいなさい。おっぱい」
 
 「貴族のレディでありながら、皆同じ匂いというのは如何なものかと思うのです」
 
 「それなら、別個に用意すればいいじゃない」
 
 変なの。
 
 「そうしたいのだけど、匂いが混ざり合って、お気に入りの香りがでてこないのは嫌じゃないかな」
 
 というか、この女、香水つけているのか。
 私も真似すれば、リリアみたいになれるのかな。
 いやいや。別にこの馬鹿従姉妹みたいになりたいわけではなく、お父様やお母様の覚えが身近で一番良いってだけで。
 こいつ、変にしたたかでムカつくし。なしなし。
 
 「体石鹸で洗ってから、かけ直せばいいじゃない」
 
 「困るのは、髪の毛のほう。いい案だけど、長いので、付着したら洗い流すのが一苦労」
 
 そういえば、髪の毛を上に上げているな。私は気にせずそのまま入っているけど。
 
 「ちゃんと濡れないようにしてあるじゃない。それで問題ないんじゃないの」

 「悪魔がこう囁くのです。この広さだと泳ぎたくなるっ!」
 
 「泳ぐな、馬鹿っ!」
 
 結局誘惑に負けたようだった。髪の毛が濡れるのを気にせず、泳ぎ始めた。
 他の子がちらちらみている。やめて。
 
 
 入浴後は、私の部屋に引っ張って来た。
 見知らぬ部屋に一人で寝るのは、まだ慣れません。
 ちい姉様の代わりとしては、大分役不足ですが、いないよりはマシ。
 ちょぴり、寂しいし。
 食事は、まだ残って仕事をしていたメイジたちにお金払って、晩御飯を持って来させる。
 ルイズクオリティとかいわれて笑われたんだけど、何でよ。
 使用人を上手く使いこなすのも貴族として必要なことなのよ。
 私の部屋で髪の毛の手入れをした後は、紙になにやら色々と書き込んでいました。
 
 「何やっているの」
 
 「ん? トリステインの貴族の把握。誰が何処の領地の者なのか、親がどんな役職についているのかのチェック」
 
 「あんた家柄重視しすぎ」
 
 「別に家柄だけで重視するわけじゃないよー。家柄も重視するだけで」
 
 ぶっちゃけ生意気。私なんてどうやって友達作ればいいか悩んでいるのに。
 こいつは選んで作ろうとしている辺り、凄くムカつく。
 
 「ルイズも頑張れー。自分から動いてみるといい収穫もあるんだよー。今日それを思った」
 
 「?」
 
 何を言っているんだ、コイツ。上機嫌なのはわかっていたけど。
 紅茶は当たりだったとか呟いていて訳がわからない。
 
 「馬鹿馬鹿しい。もう、寝ましょう」
 
 変人な従姉妹の地図をしばらく一緒に覗き込んでいたが退屈なので、そう提案してみた。

 「そうだね」
 
 「ほら、こっち来なさい。特別に一緒に寝ることを許可してあげるわ」
 
 そういって招き入れる。
 部屋から出て行こうとしたから、寝巻きの裾を引っ張って無理やり招き入れた。
 
 「今夜だけだからね」
 
 「そういうことにしておくわ」
 
 リリアの金色の髪から花の香りがする。
 匂いに煩い分、拘っているのがわかった。
 
 「ねえ。リリア」
 
 「……」
 
 「できれば、私にも……こ」
 
 見ればもう寝息を立てていた。私より大きい癖して基本的に餓鬼よね。
 お風呂で泳ぐし。上級生に注意されるまでやめなかったし。
 可愛い寝顔だったので、先日の仕返しとばかりに鼻をつまむ。
 
 「ふわ」
 
 口で呼吸し始めた。間抜けなリリア。
 アンタが悪いのよ。私の前に無防備に身をさらすのを見て優越感を感じる。
 寝ているリリアをひとしきり苛めて満足した後は、ちい姉様と一緒に寝る時は良くやるように、抱きついて眠ることにした。
 
 
 <2>
 翌朝、部屋で人の気配がしたので目を覚ますと、メイドさんたちが仕事をしていた。
 朝早くから、ごくろうさまです。
 メイドさんの雇い主様が、私の胸を枕にして幸せそうに眠っていたので、とりあえず引き剥がす。
 昨日の朝食の一件を鑑みて、まだ出向くのはよそうと思い、メイドさんの一人に二人分の朝食を頼んで、寝起きのルイズと一緒に朝食を食べた後、退散をした。
 なお朝食の費用はルイズにつけておくように頼んだ。
 メイドさんが、お嬢様もワルですねと語っていたのだが、何だったのだろうか。
 
 
 部屋に戻ると整頓作業を再開。2時間ほどはまじめに作業を続けていたのだが、ノックの音が聞こえて中断する。
 
 「どうぞ、空いていますよ~」
 
 「お、おじゃまします」
 
 客人は従姉妹ではなくて、愛しの紅茶さ……いえいえ、モンモランシーだった。
 
 「これは意外なお客様です」
 
 「私以外にもお付き合いある方でも?」
 
 ちょっと嫉妬交じりに問いかけてくるモンモランシー嬢。
 
 「従姉妹が同学年に一人いるんだ」
 
 「そうなのですか」
 
 「うん。まあ、あの子のことはそのうち紹介するとして。折角来たのだからにはゆっくりしていってよ」
 
 そういいつつ、カップを取り出して、水で洗浄した後、緑茶を差し出してみた。
 
 「あら、こちらは?」
 
 「緑茶。紅茶を作ろうと頑張ってみたんだけど、ここまでしか出来なかった」
 
 モンモランシーは口につける。
 小声で「勝った」とか聞こえたが、気のせい気のせい。
 べ、別に悔しくなんてないもんねっ!
 
 「中々じゃない。まさか国内にお茶の商売敵がいるとは思わなかったわ」
 
 「緑茶としては微量ながら輸出品として出しているよ。でも紅茶にすると不味いんだよなぁ。この銘柄」
 
 なお、抹茶も作っていたり。
こちらの世界でも密かに茶道の文化が根付き始めていたりするのだけど、あいにく持ってきてはいない。
 ひとまずは、まだ残っている積荷を解いて、焼き菓子の入った包みを手渡す。
 
 「家の人間の手作りです」
 
 そういって差し出したのは狐色に焼けた小麦粉のお菓子。
 モンモランシーは恐る恐る手にとって口に含むと、実に幸せそうな表情をしてくれた。
 
 「美味しいわ、これ」
 
 「美味しそうに食べるね。フィナンシェっていうんだけど気に入った?」
 
 「甘いものが嫌いな女の子なんていないわよ。というか砂糖は貴重品なのに、これでもかというくらい含まれているわ」
 
 こっちの世界では、砂糖が貴重品なため、果物の甘みを利用したお菓子が多い。
 貴族でも、そう砂糖のお菓子ばかり食べれる機会はないだろう。
 
 「砂糖も自領栽培だったりします」
 
 砂糖大根を何件かの農家にちまちまと栽培させて、小規模ながら育てさせていますから。
 
 「凄いのね。あなたの領地」
 
 投資した事業では、成功した部類といって過言じゃないですね。
 最初は、米とサトウキビをロマリアで少量生産していると聞きつけ、ぱくってきたのだけど、トリステインの気候は寒めなのでちゃんと育たず枯れてしまった。
 米は小規模ながらも育ってくれ、「野菜」として認識されて領内で親しまれている。
 それなら砂糖大根はどうかと試してみたところ、うまくいった。
 甘いもの大好きな人は多いので、年々増産しているけれど、領内で賄うのに精一杯で輸出には至っていない。
 
 「ハルケギニア各地から色々なものを見つけ出してきては色々試させてもらっていますからね」
 
 「ねえ、リリアーヌ」 
 
 「ん?」
 
 「紅茶の変わりに私にお菓子の融通を利かせて欲しいなぁ」
 
 モンモランシーが甘えるような声色でそんなおねだりをしてきた。

 「かまわないよ。でも自宅から運ばせる形になっているから。毎日の供給は厳しいかもよ」
 
 「毎日お菓子食べていたら太っちゃうし、お財布も破綻しちゃうわ」
 
 「ごもっとも。それじゃあ、お友達価格で、フィナンシェ1つ1スゥでいいですよ」
 
 良心価格。倍以上とってもおかしくはない。でも、それを聞いてモンモランシーが固まる。
 「うーん。ごめんね。私魔法薬の方にもお金掛けるから」
 
 どんだけ貧乏なの、この子。でも紅茶……いやいや、友情のため!

 「……5ドエニ」
 
 10ドエニ銅貨=1スゥ銀貨。私の金銭感覚論でいうと50円。
 
 「素晴らしいわっ。貴女とお友達になれてよかったわっ!」
 
 「私も喜んでくれて嬉しいよっ!」

 材料費考えたら赤字。輸送費考えたら大赤字。
 でも紅茶のためにも我慢すべきだろうね。
 向こうも私に提示した金額じゃ利益なんて出てないだろうし。
 現金な人とか、やり手めと見下してはならない。
 こうしてお互い持ちつ持たれつつの関係の上で、徐々に友情は育まれるものだ。

 手っ取り早く人脈を築くなら、贈り物戦法取るのは、有効的な一つの手段。
 何気なく貸し借りの関係作っておくと、以後の交渉もやりやすくなるし、共通の話題にもなる。
 特に領内に特産物何かがあると、相手の心象を良くする手札となる一方で、貴族社会への宣伝にも繋がる。
 モンモランシーの方も、私と仲良くしたいと思ってくれたからこそ、紅茶というカードを切ってくれた訳なのはあからさまだったし。
 最も、お菓子と紅茶の話が尽きると、、お互いの共通の話題もわかっていない現状では、会話が途切れがちになるのだけど。
 モンモランシーは私の部屋を見て回る。
 
 「本が多いわね。読書家なんだ」
 
 「ええ。これとか貸してみましょうか」
 
 そういって手渡したのは、世界的に有名な魔法学校を舞台にした作品。
 今の私達にとっては実にタイムリーな内容な筈だ。
 前世世界の部分はこっちの世界の内容に置き換えたりして若干の修正を加えている。
 
 モンモランシーは興味深げに手渡された自家製の本を捲っていたが、数分後には夢中に読み進めていた。
 
 「リリアーヌ、喜んで借りていくわ。ありがとう」
 
 そういって帰っていく友人。まあ、わかるよ。前世でオリジナルのを初めて読んだとき、あのわくわく感は素晴らしかったからなぁ。授業中も読んでいたし。
 テスト前に、深夜3時まで読んでいるという中毒振り。
 テスト期間にだすんじゃねえと何度毒づいたことか。
 
 と布教がうまくいったことをほくそ笑みつつ、私も別の巻を取り出して久々に読み進めることにした。
 


 「こら、リリアーヌ」
 
 気がつけば、ルイズに踏まれていた。ベッドに仰向けに寝転がって夢中で読み進めていたのだが、何時の間にか眠ってしまったらしい。
ルイズの幼い生足が腹部に乗っかっていてちょっと苦しい。
 
 「いい時間だし晩御飯食べに行きましょう」
 
 少々怒っているご様子。確認の際に、踏み込んだ足の力が強まる。

 「了解~」

 何か私は悪いことしただろうか。ああ、掃除手伝ってないなぁ。ゴメンネ。
 どうも紅茶さんにペースを振り回されているようだ。


 アルヴィーズ食堂に出向くと、相変わらず探りあい状態が続いているようだった。
 とはいえ、私とモンモランシーが友情を育んだように、ペアやグループで食事を取っている面々も徐々にだが増えてきている。
 
 行動力のある人は、接近して仲良くなった相手を吟味中といったとこなんだろうね。
 嫌な視線は大分減っていた。
 
 「何かまとまってきていて不愉快だわ」
 
 一方で、横の従姉妹殿はそんな不快感を示した。
 基本的にプライドと劣等感が高すぎて、私やエレ姉様やちい姉様にしか接しようとしないので、こうした周囲の人間関係の構築に遅れを見せているのに不安をみせているようだ。
 
 私のほうは、食堂の方でモンモランシーが別の子と一緒に楽しく談笑しているのを見つけた。
そちらも銀髪の長い髪が印象的な可愛らしい女の子だ。
 中々やり手ですね、モンモランシーさん。
 とか思っているとこちらに気がつき、手を振ってきたので振り返す。
 
 「リリアの裏切り者……」
 
 横のルイズがそう言うとむすっとして黙りこくってしまったが、いくらなんでも狭量ではありませんか。
 何を思ったのかそのまま食堂の出口へ駆けていく。
 追いかけていくと、出口付近で止まってくれた。

 「ルイズ。晩御飯食べないの」
 
 「いい。いらない」
 
 そっぽを向く。本当に手間のかかる娘だなぁ。
 とはいえ下手に依存されて、ポスト才人になるのも嫌なので、どうしたものかとちょい戸惑う。
 
 「わかった。また何か食べ物を詰めてもらって外で食べましょうか」
 
 「……うん」
 
 それで仕方がなく、月明かりの下で、ルイズと一緒に晩御飯を食べるとする。
 やはり私はルイズを甘やかしすぎな気がする。

 「お弁当2箱とワイン2杯で、30スゥになりまーす」
 
 だからぼったくり!
 メイドの笑顔が腹立たしかった。
 3千円くらい妥当じゃねと思うかもしれないが、食費は学費込みですから。
 学生が食堂以外で食べるなんてけしからんってことなんですね。
いや、貴族がか。我侭な子にはペナルティってことで。
 メニューの方はハンバーグがパンに挟んであり、中々に美味しそうだったけど。
 ワインは赤色で、国内産のそこそこのもの。
 
 「中々中々」
 
 「こんな食べ方、ちょっと下品よ」
 
 「そう思うなら、食堂で食べようよルイズ」
 
 「い、嫌」
 
 そんなに顔を真っ赤にして嫌がられてもね。
 プイと私から顔をそむけるのが、可愛いけど。
 
 「明日の入学式の後クラス分けだってさ」
 
 と、先ほどモンモランシーが教えてくれた話を引き出して、ルイズとお喋りする。
 
 「クラス分け……?」
 
 「うん。3つのクラスに分けるそうだよ」
 
 「私、リリアと同じクラスがいい」
 
 「……そうだね」
 
 ワインを口に含む。こちらも中々美味しい。
 好みとしては蜂蜜混ぜて飲むのが好きなんだよね。
 それから一気に夕食を平らげると、ルイズの桃色の髪をぽんぽんと撫でてあげた。
 
 「色々あるとは思うけど頑張るんだよ」
 
 「……うん」
 
 そういって励ましのような言葉を掛けた。
 食事が終わると、今夜は足早に解散する。
 ルイズも私が部屋の分類を終えていないのを察しているのだろうか、呼び止められなかった。
 ……クラス分けについては少々心苦しいものを感じていたのだ。
 
 私は「寄付」の際に、他にもこんな注文も出しておいた。
 ミス・ヴァリエールとは一緒のクラスにしないでください。
 彼女が私に依存しちゃう娘になっちゃいますと。
 
 何も知らなければ、このままルイズとデレデレとした学園生活を送るのもいいのだが、あいにく一年後の未来を限定的に知っている。
 大冒険に巻き込まれるのは御免だ。暇ではないし、駒として扱わられるのは嫌いなのだ。
 そろそろ私も、ルイズ以外にもお友達関係を構築しないと色々と不都合が生じる状況だと肌で感じ取っていた。
ルイズは大事な存在だが、私までも依存しきっていていい筈もない。
 成長するという意味でも、原作の都合上の意味でも。
 
 トリステイン王立学校は同世代の国内貴族の大部分が一度に集う貴重な環境なのだ。
 将来的に自分がどの派閥に属するにせよ、ここで交友関係を築いておくことは、今後外交をする上で重要な機会になってくる。
 またその人の人なりを把握するのもまたとない機会。
 多くの子は未熟で、まだ自分というものを上手く隠す術を知らない。
 学園で知己になれなくても、将来的に交友関係を結べる相手かどうかを見極められるし。
 だから、私もルイズも、またとない機会を無駄にしてはならない。
 
 部屋に戻ると、時間が時間なので、半ばやっつけ気味に分類をしていく。
 そもそも一日や二日で何とかしろというのが無理な話なので途中で諦めた。
 貴族のお嬢様の持ち物を侮ることなかれ。
 
 こまごまとしたものが多すぎて、当面上つい必要なものだけ取り出して、残りは部屋の隅っこに寄せておく。
 
 「ヨシ、オワッタゾ」
 
 終わっていません。終わっていませんが、そういうことにしてしまいます。
 時期見てのんびり分類しましょう。
 今夜はお風呂に入れないことを残念に思いつつ、髪と肌の手入れだけはきっちりとやって眠ることにした。
 ……午前3時まで、続きを読んでいたなんてことはないよ。本当だよ。



[28564] 第5話「いよいよ入学式」
Name: アリエス◆8d2cb103 ID:1e482d67
Date: 2011/07/09 11:27
 私たちの入学式はアルヴィーズ食堂で厳かに執り行われた。
 
 このイベントは原作にも登場した場面で、既にミス・ツェルプストーが何人の男子生徒を引っ掛けたのかが噂になっていた。
 あのチートな色気でもって、この数日間やりたい放題やったのだろうなぁ。
 私は眠い目を擦りつつ、目の前のオールド・オスマン校長の話を聞く。
 
 「諸君! ハルケギニアの将来を担う有望な貴族たれ!」
 
 立派な言葉なのだが、少し前の奇行を眺めていると、素直に言葉を受け取ることも出来ない。
 この学院大丈夫かと本気で心配になってしまう。
 
 演説途中に高台から会場へ飛び降りるとかありえない。
馬鹿というよりボケ始めているのかな。
 失敗して怪我していたし。何がしたかったのだろうか、非常に理解に苦しむ。
 
 人間、あまりにも予想外なことが起こると、つい笑ってしまうもので、口元をむずむずと歪めながら押さえ込むのに必死だった。
 とにもかくにもオスマン校長に拍手を。
 
 「リリア、笑っちゃ駄目よ。大事な式典なんだから」
 
 ルイズに窘められる。
 
 「こ、これでも我慢しているんだよ」
 
 それから別の先生の話に切り替わるのだが、この手の式典というものは基本的に退屈。
 隣の面倒くさいのは基本的に頭が堅いので、態度に表すと中々に煩いから、真面目に聞いている振りをしている。
 昔、ラ・ヴァリエール領の教会の礼拝に一緒に参加した際、適当に聞いていたら怒られたものだ。
 前世日本人だけに、宗教というものはどうも苦手。
 宗教文化は、神々しく見せようとしている分、芸術家の魂が篭っていて、むしろ好きだったりするのだが、私の信仰心は神社の賽銭箱に5円しか入れたことがないレベル。
 神主さん、御免なさいっ。
 欧米諸国や中東ではでは宗教を重視していることは知っていたが、こちらも宗教にはうるさい。
個人的には、寛容であれと言い張りつつ、いかに政治的に利用できるかの観点に立って、表面上では信じた振りをするのがベストかなと考えている。
 宗教を利用して、相手を振り回すことは良しとしても、自分が振り回されてはならない。
 
 話は戻るが、この入学式。内容自体に価値があるのではなくて、行ったことに価値があるものだと私は思う。
 私たちが魔法学院の生徒になったとの、認識をはっきりさせるいい区切りであるからだ。
 だから、個人的にはイラネと思っていても、寛容に式典の価値を認め、反社会的な行動はとらない。
 それが、コミュニティで生きていくうえで大事なことだ。
 男子生徒の幾らかは居眠りをするものから、お喋り、挙句の果てには、こっそりトランプを行う連中まで。
 ……どう思っているかはさておき、トランプはやめようぜ、お前ら。
 横のルイズは、そんな不真面目な生徒を見つけてはイライラを募らせているんだからさ。

「諸君、ハルケギニアの将来を担う有望な貴族たれ!」の言葉はあなた達に向けられたものですよ皆さん。
 私も私で、うとうとしているけどさ。
 そんな訳でぼえーと聞き逃していたら、ついにルイズの癇癪が爆発した。
 
 「そこのあなた! 今、先生がたが大事なお話をなされているのよ! お黙りなさい!」
 
 突然のルイズの怒声。
 一瞬私にかと思い吃驚したのだけど、違うらしい。
 この面倒臭い少女は、何か不愉快なものでも見たというのだろうか。
 みれば、赤髪褐色肌の怖そうなお姉さんがこちらを睨んでいた。
 
 「あなた誰?」
 
 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! そしてこっちがリリアーヌ・ド・フレイブル!」
 
 私の肩をぽん手をおいてそんなことをほざき始める。 
 ……えーと。
 というか私だけ略称とか、ルイズさんあなた私の正式名覚えていないでしょう。
 
 「ラ・ヴァリエール?」
 
 褐色さんは問い返してきた。私の名前はスルーされていてほっとする。
 
 「と、ド・フレイブルもよ!」
 
 何か恨みあるのかしら、このピンクちゃんは。
 褐色さんが獰猛な笑みを浮かべて嬉しそうにこういってきた。
 
 「よろしく。ちなみにあたしはキュルケ・フォン・ツェルプストー。お隣さん方とお会いできるだなんて光栄だわ」
 
 私の肩を掴んだルイズの手に力が篭るのがわかった。
 滅茶苦茶痛いんですけど。
 らめぇ。リリアちゃんの真っ白なお肌に、赤い痣ができちゃう。
 
 「な、な、なんですってぇ?」
 
 仇敵とばかりに、ツェルプストーに睨みつける。
 うちもだけど、トリステイン王国北部の貴族にとって、ツェルプストーは共通の敵。
 対ツェルプストー&ゲルマニア戦の際のために、地方貴族の指揮系統を整えておくべきという、ラ・ヴァリエール公爵の提言が受け入れられて、度々貴族たちが抱える軍隊を合わせて合同演習をしているし、「防衛費用」として毎年結構な額のお金が、ヴァリエール公爵に流れている。
 10万エキューの収入が入るからくりはこれが原因。
 用途は不明だが、カリーヌ叔母様を始めとしたヴァリエールの精兵に扱かれるそうだから、一定の効果はありそうなんだろうなぁ。
何度か見に行ったけど、色々と過酷だった。そしてその色んな不条理さを、ツェルプストーに向けんと、巧妙に誘導しているあたり流石です。
 
 「よろしくねー」
 
 その皆の敵であるツェルプストー家の娘さんは、適当な返事を返した。
 あ、こいつ面倒臭そうと、ルイズを一目見て見抜いたのかもしれない。
 
 「静かにしたまえ」
 
 沸点の低い先生、恐らくは風をやたらと強調するギトー先生が怒鳴りつけてくる。
 後ろでトランプやっていた男子の一人が、スネイ○とか呟いて、思わず噴出しそうになって困った。
 そんな仕草をギトー先生は見逃さずに、こちらを睨み付けてきた。
 わ、私まで目をつけられたかな。
 
 
 <2>
 その後、クラス分けの発表され、見事にルイズとは別々となりました。
 私のクラスはシゲル組だった。
 ルイズはイル組。ツェルプストーはソーン組の様。
 見事に分かれて、よかったよかった。
 
 「あら、リリアーヌ」
 
 同じクラスには、モンモランシーがいた。
手招きされたので彼女へ近寄る。
 
 「どうやら同じクラスになれた様ね、モンモランシー」
 
 「うん。一年間よろしくね」
 
 「こちらこそ」
 
 入学前にできた友人とも運良く一緒になれて万々歳といったところだろうか。
 
 「へぇ、この娘が、リタが言っていた、鴨ね……いやいやお友達ね」
 
 となんかいたずらっ子ぽそうな笑みを浮かべた少女が混ざってくる。
 昨日モンモランシーと一緒にいた子だな。
 
 「あなたは?」
 
 原作でも見ない顔だ。オリキャラという奴だろうか。
 銀髪蒼眼の美少女さん。身長は、私より少し低い。
 
 「レティシア・フランシーヌ・ポワソン・ラ・フェール・ド・ヴァンディエールだよ」
 
 またラ・フェールですか。
 だからもう親族は要らないって、何度言ったら(ry
 
 「リタから貴女のこと聞いたよ。何世代か前にラ・フェールから婿入りしたんだってね」
 
 「ええ」
 
 「ラ・フェール本家とはうちのことなのです」
 
 本家さんですか。
 
 「でも、一番下の名前は違ったような」
 
 「先代当主の代に女の子しか生まれなくて。娘婿であるド・ヴァンディエール家、私のお父様の代で吸収合併されちゃったんだよね。家格もド・ヴァンディエール家の方が上だったから」
 
 ふーん。
 
 「私が生まれたときにはもう祖父は亡くなられていたから、ラ・フェール伯爵家の詳細までは知りませんでした」
 
 「あー。多分意図的に情報規制していたかもしれない。うちと貴女の家のド・フレイブル伯爵との間で領地の件でもめたから」
 
 あの腹黒、私の知らぬところで一体何を。
 
 「難癖つけたのはそっち、負けたのもそっち」
 
 「ということは家的にはお付き合いしない方がいいかな」
 
 いざ仲良くなったら、家同士が敵同士でしたってのも結構アレですからね。
 そういう事態を一度経験して苦い思いをしたこともありますし。

 上手くいく場合もあるけど、御家の事情で関係が崩れることの方が多い。
時間の有無の面から考えれば、双方に機会を無駄にしたという残念な結果を出す可能性もある。
 どうしたものだろうと考えていたら、レティシアの方から答えが返ってきた。

 「いえ。現在の関係は良好ですよ。貴女のお父上は、貰う物はきっちりいただいていきましたから。ラ・フェールの家伝魔法書の写しと、仲裁した王家から、色々と特権を引き出したそうです。恐らくは始めからそれらが目的だったのかと」

父よ。貴方って人は……。

「ド・ヴァンディエール家と、ラ・フェール家はトリステイン王国南部でお隣同士ですが、ド・フレイブルは北部。いくら父親がラ・フェール伯爵家の出だからって、飛び地過ぎて管理維持は難しいし、伯爵家領は、今のド・フレイブルに比べたら旨みは全然ないですしね。」
 
 「ふむ」

 確かに飛び地貰っても、誰を向かわせるのかで困りますよね。
 
 「ちなみに、毎年あの時は悪かったなとばかりに、ワインやら領内の特産品が送られてきます。ここ5年程はすさまじかったですね。お茶に、お菓子に、珍しい衣装に、見たことのない楽器、真珠の年もありましたね。ド・フレイブルの領地は一体どうなっているんだと家族が騒いでいました」
 
 腹黒め、ちゃっかり娘の成果物を外交活用しているんだな……。
というか知らなかったよそんな話。
会っても私の事業なんて興味ないとばかりに何も言ってこないし。
 
 「色々いちゃもんつけてきたけど、こっちのラ・フェールの正当性も、お父様が娘婿だったというだけでしたから、負い目はありました。家伝書は写し取られたといっても、私たちの手元にはあって実害は何もない、何故か済まなかったねと毎年送ってくる贈り物に感謝して態度が軟化しています。お宅の息子さん、家の長女と結婚しませんかみたいな話も持ちかけてくるくらいですし、仲良くしても大丈夫だと思いますよ」
 
 ……まて。何か今、聞き捨てならない発言を耳にしたぞ。
 
 「ん? どうしましたか。ああ、そうするとリリアーヌは将来の私の義理の姉様になる可能性があるんですね。おねーさまと呼んでいいですか」

 「待った、何、その縁談話。あいつ、いつの間にそんな行動に出ているの」
 
 「あれ、初耳ですかおねーさま」
 
 「それもやめて。クラスメイト的にも、私の精神衛生上にもよくない」
 
 アレな関係なのかと思われるじゃないですか。
 レティシアさんは、ニタと悪戯めいた笑みを浮かべる。
 
 確信犯!?
 
 「レティとしては、おねーさまみたいな美人さんなら、お兄様のお嫁さんに大歓迎なんですけどね。兄は中々格好いいですよ?」
 
 「本音は、お菓子が湧き出る領地とかいって喜んでいた癖に」
 
 「何のことかな? リタリタ?」
 
 モンモランシーが実にわかりやすい真相を教えてくれた。
 私が冷たく見据えると、動揺し始める。

 「リタ、私の努力を無に返しやがってぇ~!」
 
 「そういや、何でリタなの」
 
 「私のセカンドネームがマルガリタだからよ。ついでにですけど私の母親もラ・フェール伯爵家出身で、レティの母親とは姉妹同士。後継者騒動の際に、相続権を放棄すると同時に、貴方の家との争いの際レティの家に協力したお礼に、ラ・フェール姓を許されたそうね」
 
 「へえ」
 
 「この子の家、当時領内の開拓事業なんかを始めようと息巻いていたからね。少し資金援助したらころりと認めてくれたわ。無利子無期限なんていう破格の約束させたからこそ、擦り寄ってきた訳だけど」
 
 黒いなぁ貴族社会。お互いの欲望と利害関係がよくみえすぎていて。
 
 「おねーさまは顔にでやすいね」
 
 「何考えていると思った?」
 
 「生々しいなぁとかでしょ」
 
 「ご名答ね。親がアレな人だから、別に嫌いじゃないけどさ」
 
 「ピュアな友情を育みたいなら、あそこら辺の子お勧めだよっ」
 
 そういって指差した一段はいかにもな箱入り娘や、馬鹿やることが楽しい餓鬼な連中。
 
 「役に立たなそうね。むしろ足手まとい。手間のかかる子は足りているし、いらないわ」
 
 「うわ、ひどっ」
 
 そうはいわれても。ルイズの面倒見たくないばかりに別のクラスにして貰ったというのに意味がないではないか。
 
 「でもそんな黒いおねーさまにも憧れます。うちにお嫁に来ませんか」
 
 「それはお断りしておきます」
 
 「おおう、振られちゃったよリタリタ」
 
 「当たり前よ」

 モンモランシーがレティシアを嗜める。

「リリアーヌ、こんな喧しい子がついてくるけど、私たちは友情が維持できるかしら」
 
 具体的にフィナンシェは供給してくれるかしらといったところだろうか。
 
 「勿論、この程度で私たちの関係は崩れない」
 
 私は紅茶。私たちの友情を確認しあう。
 
 「おめえら……事情を把握している私から言わせてもらうと、打算的過ぎておっかないぜ」
 
 「あら、レティ。友情を育む第一歩なんてそんなものでしょ」
 
 「まったくだね。異論はないよモンモランシー。この私をおねーさま呼ばわりする子が少々うっとうしいけど、そんな理由で友情を破棄するのはあまりにも勿体無い」
 
 「え、何。私嫌われちゃったの。うちの本拠地フロラリアだよ」
 
 !?
 
 「あの南部の大都市」
 
 フロラリアなんて名前になってしまっていてわかりにくいが、レティの本拠地は、ベルギーの第三都市ガン(ヘント)に相当する織物業の一大産地の様である。

 「そそ。おねーさまのアムステルとは毛織物なんかのやり取りがある、あのフロラリア」
 
 「あ、貴女とも仲良く出来そうね……」
 
 「ですねー」
 
 ついでに、なんであの腹黒が気持ち悪いほどに友好的に接するのか把握した。
フロラリアはド・ヴァンディエール侯爵家なんてのは常識ではないか。
トリステイン王国の中枢で活躍している人物だぞ。
そりゃあ、喧嘩売ったままだと困ったことになります。
 
「ふしし。よろしくね、おねーさま」
 
 こいつ……うぜえ。
 可愛いだけに余計腹立つ。
 
 「ああ、可愛いなぁ。おねーさまのその怒った顔」
 
 おまけにHENTAIだった。
 
 
 <3>
 入学式の後は、クラスメイトと担任との顔合わせということで、指定された教室へ向かう私たち三人。
 真ん中くらいの位置の長いすに三人で腰掛けて、先生が来るのを待つ。
 他のクラスメイトもそわそわしつつも、すこぶる温和な雰囲気が漂っている。
 ちなみに、入学式でトランプをしていた一団は、うちのクラスだった。
 
 しばらくすると担任が入ってきた。
 うん。ハゲだ。
 ハゲは黒板に自分の名前を書くと柔和な笑みを浮かべて自己紹介を始めた。
 
 「ボクの名前はジャン・コルベール。二つ名は炎蛇。しがないトライアングルメイジさ。君達の面倒を一年間みさせてもらうことになる。皆、国許からこっちにきてまだ慣れていないだろうけど、一緒に仲良くやっていこうよ」
 
 いい人そうだな。
 トランプの一団を見ても、口元に柔和な笑みを浮かべるだけで、何も言わないし。
 正確には苦笑しているんだけど、暖かく見守っていこうとする優しさが感じ取れる。
 
 人によってはそうした温和さを馬鹿にして図々しくつけ込んだりするのだろうけど、私はこの手の先生は好感が持てて好きなタイプであった。
 あくまでも先生としてだが。
 
 コルベールはそれから、学園での生活環境のことや、明日以降の予定などを説明してくれた後、クラスメイト一人一人に自己紹介をさせていった。
 
 わかったことは、このクラスにいる原作キャラは、モンモランシー、ギーシュ、あとはレイナールくらいなもので、至って平和そうであること。
 そう、平和。魔法学院には実に似合わない言葉。
他の2クラスがどうなっているのかが恐ろしかった。

 「……それじゃあ、今日はこれでおしまいです。明日以降に備えてゆっくり休むといい」
 
 コルベールの話が終わると、モンモランシーとレティシアと一緒にぷらぷらと校内を徘徊する。
 
 「優しそうな先生でよかったよね。二人とも」

多分、私の学院生活が平穏に遅れそうでほっとする。

「入学式でヒステリックに怒鳴った奴とかじゃなくてよかったよ」
 
 レティシアがそう感想を漏らす。
 ギトー先生のことだろうか。
 
 「でも、あの件はあのゲルマニア人がいけなかったと思いますわ。あの眼鏡の女の子から本を無理やり奪い取ったりからかったりしていましたもの」
 
 「ああ、みたみた。これだから野蛮なゲルマニア人は」
 
 二人にとってキュルケの印象は最悪といった感じだ。
 かくゆう私もあの人は苦手な印象。
 私やそこのレティシアなんかは容姿のあどけなさもあって、黒い話をしても猫のじゃれあいみたいな可愛らしさが残っているのだけど、キュルケの場合は成熟し切っていていかにもビッチな女豹って印象が漂う。
 
 気の弱い子なら睨まれただけで涙ぐむかもしれない。
 
 「おねーさまはどう思う」
 
 「うーん。すさんでいる印象を受けるかな」
 
 とはいえ原作でのキュルケも知っている私は、一概に断定することも出来ず、曖昧な返答を返した。
 
 「ここは同調しておくもんよ、おねーさま。でもそういう決め付けない柔軟さがあるおねーさまも素敵かも。お嫁に来ません」
 
 「レティはそればっかだね」
 
 「あ、愛称で呼ばれちゃった。てへ」
 
 だって長いんだもん。こいつの為にいちいちフルネームで呼ぶの面倒臭いし。
 そう思っているとモンモランシーに服を引っ張られた。
 
 「わたしは?」
 
 「んー」
 
 機嫌を損ねてしまったらしい。急いで考えてあげなければ。
 モンちゃん……はだめだ。某星にいそうな蛮族のイメージが強い。
かといってレティみたいに、リタと呼ぶのも、原作知っているだけに違和感を感じる。
 
 もん、もんもん……は原作で本人が嫌がっていた覚えがある。
 
 「ちょっと、レティシアは愛称で呼べて、私は呼べないの」
 
 涙ぐみ始めたぞ。一年前のモンモランシーはまだあどけなさの残っていて可愛い。
 泣かせている場合じゃないよな。

 「泣かないでー。ちゃんと考えてあげるから」
 
 「ぷっ。何、その猫撫で声。なんか変だよ、寒いっていうか。もう少し言いようはあるんじゃないの。あはははは、うひゃひゃひゃ」
 
 うぜえ。私とモンモランシーの和やかタイムをぶち壊しやがって。
 うちのクラス、最大の邪魔者はこの銀髪女だな。
 
 「もう、いいわよ。ひとまず保留で」
 
 モンモランシーも気恥ずかしくなったのだろう。話題を変えるように促してくる。

 「あーあ、拗ねちゃった。リタじゃだめなの」
 
 「なんていうか、どうしてもモンモランシから略称を作りたくて」
 
 「ちなみにこの子、頭と語尾が同じ名前なの意外と気にしているんだよ。縮めちゃうとモンモランシー・ド・モンモランシ。変な名前よね。だから優しいレティは、セカンドネームから愛称つけてあげているわけ」
 
 「そうなの?」
 
 馬鹿の補足が事実かどうか確認を取ると、モンモランシーは気恥ずかしげに頷いた。

 「うん。モンモランシ家の長女は、慣例として、家の名前をそのままつけられる風習があるのよ。何でもご先祖様が水の精霊に、名前が二つあるのは間際らしいから、姓と名どちらもモンモランシと名乗れといわれたそうで」
 
 うわぁ……それは酷い。
 
 「特に今は、事情が事情だけにね」

 意味ありげに、レティが言葉を濁す。
原作知識から察するに、水の精霊との交渉権を剥奪されているんだっけか。
 原因はそれに関わることなのかな。いずれにしろ、面倒臭くなってきた。

 「それじゃあ、私もセカンドネームからリタって呼ぶね」
 
 「ぱくった!」
 
 「別にいいでしょう。呼び方を統一しておいた方が、リタって愛称が広がりやすいでしょうし。何か可愛らしい響きがしていいなと私は思う」
 
 「そ、そうかな。それじゃあリタって呼んでくれていいですわ。私はリリアかな」
 
 「リタとリリアは、間際らしくない?」
 
 ですねー。

「一応、リルって呼ばれることもあるけど、リリアの方が多いかなぁ」
 
 「リリアでいいわ。なんかしっくり来る」

 私のことはリリアと呼んでくださるようで。
 
 「そっか。それじゃあ今後ともよろしく」
 
 「んだねーよろしくー」
 
 そんな春の日の和やかなひと時でした
 ここで解散? いえいえ。
こんな会話を交わしつつ、皆で一緒の方向を歩くものだから可笑しくて笑い出す。
 
 「なんか、馬鹿みたい」
 
 「しょうがないよ帰る場所は、同じ火の塔なんだしさ」
 
 もうしばらく話し込み、火の塔に入ると、今度こそお別れをした。



[28564] 第6話「派閥抗争」
Name: アリエス◆8d2cb103 ID:1e482d67
Date: 2011/07/09 17:43
 自室に戻ってくると、何故かベッドに小山ができていた。
 うん。予想はできていたんだよ。
 
 「遅い」
 
 「何しているの。私の部屋で」
 
 不機嫌そうなルイズさんに問いかけてみると、寝そべったまま顔をこちら側に向ける。
 半泣き状態でした。
 
 「一緒のクラスじゃなかった」
 
 「あー……」
 
 泣かせたのは私のせいだよね。
 多少の罪悪感はある。
 でも、問題児1名を除けば至って平和なクラスであることを考えると、正解だったとの嬉しさを覚えている。
 
 「残念だったよね。でもあと2回チャンスはあるさ。前向きに行こう」
 
 前向きに、ルイズはルイズの生活環境を作ろうねっ。
 
 「でも今年も一緒がいい」
 
 私は嫌です。可哀想だけど嫌。ごめんなさい。そんな顔で見ないで。
 悪いことした気分になるじゃない!
 
 「そっちのクラスどう」
 
 それとなく話を逸らしてみる。
 
 「豚がいた」
 
 豚って、あの時の馬車のふとっちょか。
 
 「教室中悪臭放っていて最悪。あと私がラ・ヴァリエール家の娘と知って擦り寄ってくるのが多かった」
 
 北部どころか国内最大の貴族様だからね。
 仕方がない。
 レティの話では今年の入学生の中で国内第一の家柄は文句なしにラ・ヴァリエール公爵家らしい。
 ただし国外勢力も入れると、ガリア王国の管理統治下にあるとはいえ、イスパニアの王族であるテレサ・セレスティナ・デ・イスパニアがいる。
 噂では、ゲルマニア皇帝と結婚が決まってるそうだが、腹違いの兄であるアウストリア公が妃に狙っているらしい。
 テレサの母親が警戒し、トリステインへ避難させたとの噂が流れている。
 
 ガリア王国が、何故か異常に国土広いなと思いきや、ルシタニア王国の全土と、イスパニア王国の領地の大部分、北ロマリアの一部と、前世世界のバルカン半島の北部周辺部に相当するダルマティア、ノリクム、ダキアの一部を併合しているためでかくなっている。
 ついでにゲルマニア帝国は、前世世界で言う、神聖ローマ帝国の版図の他に、バルカン半島の一部(パンノニア、ダキア)や、ポーランド、バルト三国、北欧諸国などが統合されている様。
 その奥にはロシアに相当するオラーシャ大公国や、イラン周辺部(サファヴィー朝に相当?)の亜人の帝国などもあるそうだが、そこら辺は割愛しましょ。
 長くなるし、情報が少なくて実体が掴めていない。
 
 ひとつ言えることは、前世世界のヨーロッパに酷似しながらも、魔法の存在を手始めに、政治事情も地形も微妙に異なっていること。
 最もな例が、空に浮かんでいるアルビオン王国(イギリス)だろうか。
 あの島がちゃんと地上にあるのなら、家の収入ももっと増えるのに。
 アルビオンの諸都市と、海の交易網ができる形で。
 それでも、たまにくるけどね。飛行船。

 ちなみに二位以下の国内貴族は、第二位ド・ロレーヌ公爵家。
 第三位がド・ヴァンディエール侯爵家。こちらは、生意気にもレティ嬢。
 侯爵は王宮で、司法関係の要職を務めている。中々有能な人物だそうだ。
 
 私の家ド・フレイブル伯爵家は第六位。
 下にはモンモランシ伯爵家や、グラモン伯爵家などなど。
 伯爵家の中では、現在ではド・フレイブル家が勢いに乗っている。
 主な評価基準は、筆頭貴族であるヴァリエール公爵家の親族であることと、伯爵クラスにしては経済力が突出しているため。
 あとは、シャルル大帝の治世に十二聖騎士(パラディン)の一人オリヴィエを祖にしていることくらいか。
 父の名は聖騎士オリヴィエからつけたらしい。
 その、現当主オリヴィエ・ド・フレイブルは才能を認められながらも重用はされていない。
 取るに足らぬ中堅諸侯の一人ということ。色々やらかしましたから。
 一番の理由は、隣の領主ド・オルラント侯爵家との度重なる抗争だろう。
 でもド・オルラント家とは代々仲が悪いから、そこは仕方がない。
 仲が悪い原因は、アムステルが元は彼らの本拠地で、ド・フレイブル家の先祖が内乱のどさくさに掠め取ったため。
 トリステイン王国は、基本的には、前世世界で言うベネルクス3国+α分を指すんだけど、アムステルは位置的に、オランダの首都アムステルダムに相当するんだよね。

(補足として、王都トリスタニアは、ベルギーの首都であるブリュッセルに相当している)

 前世世界の一国の首都クラスに相当する都市を奪われ、それを取り合う争いの中で、流された血の量を鑑みれば、関係修復は 不可能といっても過言ではない。
 侯爵家だけに州を複数所持しているけど、うちが原因で、北オルラントと、南オルラントに分断されちゃっているし。
 特に南側は、腹黒父の策謀で少しずつ切り取られています。

 ところでオルラント侯爵家の令嬢も今年入学しているらしい。
 ミュリエル・ド・オルラントと言う。
 
 「ミュリエルがうちのクラスにいたわよ」
 
 ルイズは毛布に潜り込んだまま、そのミュリエルちゃんの存在報告をしてきた。
 
 「どうだった」
 
 「早速派閥作っていた。ヴァリエール家とオルラント家自体は同盟関係結んでいるから敵視はされていないわね。むしろ一定の敬意を払っていたわ。フレイブル家と同じくらい、ツェルプストー家が嫌いだから」
 
 「うん。出来ればツェルプストーの方に向いていてほしいなぁ。ところでルイズ。服くらいきたら」
 
 「いや。皺がつく」
 
 「そーですか」
 
 この従姉妹ちゃんも変人の類なので、気にせず読書にいそしむことにする。
 しばらくして読み終わり、感想を漏らしていると、ルイズに不審な目で見られた。
 
 「あんたが読んでいた本って、アムステルから出版されている娯楽小説よね」
 
 「詳しいね」
 
 なお、私が書いていることは、アムステル=トマス商会の主要人物しかしらない。
 明らかに一人で書ける量を逸脱しているため、不審に思われないよう、それぞれ原作者様のペンネームを弄って名乗っています。
 
 「カトレアお姉さまが大好きだったわ。同じ呪文を真夜中に呟いていたし。守護霊だっけ?」
 
 カトレアさん……深夜叫んじゃうカトレアさんを思うと、少し切なくなった。
 人のこといえないけどさ。
 
 「リリアも変にそういう怪しい物語好きだから、きっとお姉さまとは気が合いそう。夏領内に戻ったらラ・ヴァリエール領にも遊びにきなさいよ」
 
 「うん。いいよ」
 
 久々にラ・ヴァリエール家の皆さんにも会いたいし。
 
 食事時になると、ルイズと一緒に食堂へと出向いた。
 ルイズも学院生活初日を乗り切って耐性がついてきたらしい。ぶつくさ言いながらも、真向かいの席に座って、一緒に食事を取り始める。
 
 「今夜はビーフシチュー。気が利いているね。三日連続で肉料理だよ♪」
 
 「どんだけ魚料理嫌いよあなた」
 
 美味しく夕食を取り、自室へ戻ると、ルイズはまだくっついてきた。
 
 「いい加減帰らない? 私としても一人の時間を少しは欲しいのだけど」
 
 「嫌。あんな広い部屋に、一人で寝るのは寂しい」
 
 可愛らしいこと言ってくれるけど、同性だからそれほど萌えない。
 むしろ面倒臭い。
 
 「私お風呂入りにいきたいのだけど、留守は任せられるかな」
 
 「リリア冷たい」
 
 流石に身体拭いて、香水で誤魔化すにも限界なんだ。
 一日二度お風呂に入っていた私には、これ以上耐えられない。
 ぐちぐちうるさかったので、頭をくしゃくしゃ撫でて弄った後、ルイズを放置して浴場へと向かった。
 
 ちょうどいい湯加減だった。
 私は満足げに足を伸ばして、湯船でひと時を楽しむが、大抵の子はサウナ場のほうに集まって必死に身体のお手入れをしている。
 どうも元日本人と、西洋人もといハルケギニア人とじゃお風呂の楽しみ方も違うんだよなーとか思いつつ、ついついおっぱいの観察を始める。
 香水の風呂は、郷に入りては郷に従えということで、諦め気味。
 こちら側で、相性のいいものに切り替えるしかないかな。

「まあ、その分得られたものあったけど」

 今世同性だから何の問題もないけど、この乳がゆれゆれしている空間よくよく考えてみると、桃源郷のそれに近い。
 そう、同年代の貴族の女の子を眺められるのはここしかない。
 原作で、水精霊騎士隊が、危険を犯して覗き込んだ気持ちもわからなくもない。
 乳大きい子多いし、綺麗な子もわりかし多い。
 私が覗かれたらぬっ殺しますけど。
 こう、体を洗っている光景で、微妙に乳がふにょっと歪んでたり、戻ったりするのをみると、ちょっと幸せな気分になります。
 はあ……眼福眼福などと観察していると、背後から何者かに襲われた。
 
 「ひゃあああ」
 
 乳を掴まれ、思わず叫び声をあげてしまう。
 一応ミュリエルちゃんなんていう敵もいるので、もっと警戒すべきだったかなんて思ったりしたけど、どうやら別人の様だ。
 
 「はぁ。おねーさまのおっぱい程良く形良くで最高ですね」
 
 「レティ、あんたか」
 
 うちのクラスの馬鹿に抱きつかれていた。
 それと、観察するのではなくて、直に触られていることに気がつく。
 いくら女の子同士でも、見るのはよくても、触るのは犯罪なんだよっ!
 踊り子さんに触れちゃいけないんだよっ!
 
 「や、やめなさいっ。私にそっちの気はないわっ」
 
 「どうです、私のお嫁に来ませんか?」
 
 「同性愛別に否定しないけど、結婚はできないよ」
 
 異端扱いされる様な政治的な弱点になるからね。同性愛なんてものは。
 じゃれるのはともかくね。
 
 「おねーさまって、何気に大きいよねっ♪」
 
 「私は並だ。いいから、離せっ」
 
 レティを引き剥がすと、ついついレティの胸の方に視線が向いてしまう。
 慌てて肩までお湯につかって隠してしまったからあんまし見えなかったけど。
 ちょっと残念。

 「……みたいですか?」
 
 レティは結構かわいい。
 内面は非常に残念な子というのが私の結論なのだけど、可愛いのだ。
 蒼目の美少女。目鼻立ちは整っているし、肌もきめ細かい。
 銀色に輝く髪は、腰にまでかかり、前髪を作っているところも好みだ。
 よくみれば、唇にはさりげなく桃色の顔料が塗られているのに気がつく。
 
 レティは、私をじっと見つめた後そっと目を瞑る。
 何か企んでいるのだろうか。年相応のほのかな色気を感じる。
 
 ちょっとドキっとしたけど落ち着け。私は百合じゃない。
 またお風呂で遭遇する可能性はあるだろうし、こいつのペースに乗せられると色々と酷い目にあわされそうだ。
 
 「ちらっ」
 
 とかいって、湯船に漬かっている片乳を持ち上げて見せた。
 つい視線がそっちに向いてしまう。
 
 「にたー。やっぱし興味あるんだ」
 
 「うっ」
 
 そりゃあ、まあ。おっぱいはいいものですよ。
 自分のにも程よいのがついていますが、変態さんにはなりたくないので、悪戯するのは自重している。
 
 「おねーさまは、むっつりスケベ」
 
 「そんなに勿体つけられたら、ついつい見たくなるじゃない」
 
 「私の身体に興味があるのね♪ きゃーお姉さまに食べられちゃうわー♪」
 
 その一言を聞いて、くつろいでいたほかの女子生徒が一斉に警戒し始めた。
 
 「お、おま……」
 
 思わず顔が引きつる。
 なんてことしてくれるんだ。同性愛の変質者と誤解されたじゃないか。
 
 「べ、別にいいんだよ。私の身体をけだものの様に貪っても。ちゃんと責任とってくれるなら」
 
 その一言を聴かれて、周囲でひそひそ話が始まる。
 
 「お、鬼かあんたは。私に何の恨みがあるっ!」
 
 「お慕いしておりますわ。おねーさま♪」
 
 付き合ってられるかと思い、湯船から上がった。
 
 「あっ、どこにいくのかしらおねーさま、お待ちになって」
 
 「ついてくるな」
 
 何なのこの子。そう思いつつ出口へと向かうと、良く見知ったピンク髪の少女がわなわなと震えていた。
 気が変わって、お風呂に入りに来ていたのだろうか。
  
 「ル、ルイズ。誤解だよ。誤解なんだから、信じて」
 
 「わ、私という者がいながら、リリアの馬鹿ぁ―――!」
 
 何故かペチと頬を叩かれる。
 お湯に浸かっていた分、肌に水気が染み渡っていて、いい具合に痛みが響く。
 
 「どうせ私はちっぱいよぉぉぉ!」
 
 「……はい?」
 
 何なのでしょうか、この子は。
 従姉妹殿は、泣き顔で浴場から出て行きました。
 体と髪だけ洗って、湯船にもサウナにも入らないのですかっ!?
 
 「おねーさまは女心がわかっていませんねぇ」
 
 レティがしたり顔で、私の側に来るとそんなことを言い始めた。
 
 「私を侮辱して楽しいかな?」
 
 つい怒気をこめてそう言ってやった。
 私は誠実ではないが、無意味に悲しませるようなことをするのは好まない。
 そして百合などではない!
 急いで着替えてルイズの後を追っかけた。
 
 
 もう、訳がわからない。
 機嫌をそこねて、走り去ったのまではわかった。
 きっと私は、何か気に障るようなことでもやったのだろう。
 それで、何で「私の部屋」に立てこもる。ルイズさんよ。

 「アンロック」
 
 まあ。問題ないけどね。部屋の中に入ると、びしょびしょなまま、私の布団の上に寝そべっているピンクちゃんがいた。寝床が……。

 「でていってよ、裏切り者っ!」
 
 「いやいや、ここ私の部屋なんだけど。それに、なんだよその裏切り者って」
 
 「それは……」
 
 「それは?」
 
 「うるさいっ!」
 
 顔を真っ赤にしてキレ始める。面倒臭い。
 そんなことを考えていると、レティシアも部屋の中に入ってきた。

 「でていって。レティシア。これは不法侵入だよ」
 
 「一応弁解に」
 
 「何の弁解だよっ!」
 
 変態は、返答を待つまでもなく、私に水晶の小山を突き出した。
 それをみて私は青ざめる。

 「お二人さん。あの浴場危険地帯なの気がついていなかったでしょう」

 いくつもの水晶に私の裸体が映っていた。

 「だから、私はひっかきまわしてあげただけ。大胆なことすれば、連中が隙をみせ易くなるでしょう」
 
 「?」
 
 「あそこにいた連中の大部分は、ソーン組のトネー・シャラントの一団。そしておねーさまの宿敵ミュリエル・ド・オルラントの息のかかったイル組の女子生徒が集まっていたわ」
 
 私は水晶をレティから受け取る。
 
 「もう派閥抗争は始まっているってこと。水面下ではトネー・シャラントと、ミュリエル・ド・オルラントの閥が争っている」

 「いつから」

 「本格的に衝突したのは、今日の午後かな。ソーン組で一騒動があったからね。この時期の魔法学院にはありがちな展開だね。ド・オルラント派に組していた子に、トネー・シャラントらがちょっかいを出し始めた。この時点でもう戦争状態ね」

 「戦争? 学生同士でかい?」

 「ああ、別に殺し合いなんてする必要はないわ。どちらが格上かはっきりさせればいいのだから。トネー・シャラントは戦力増強を狙っておねーさまに目をつけていた。一方で、ド・オルラントは敵対勢力が即効で取り込みそうなリリアおねーさまを潰そうと目論んでいたってわけ」
 
 それにしても、どうやって映像を保存したのだろうか。
 一般には知られてないぞ、こんな魔法。
 家伝魔法って奴かな。

 「水晶をばら撒くと脅しにして、売春でもさせて更に鎖を強くするか、自主退学の二択にでも追い詰める気じゃなかったのかしら。私がいなければ、酷いことになっていたのよ。お姉さま」
 
 ここまでするのか。ウンザリさせられる。
 私は平穏に過ごしたいというのに。
 
 「ちなみに実行犯は、トネー・シャラントの方よ」
 
 「?」

 えーと、取り込みたいのですよね?
 
 「より大きな弱みを握って犬にして扱うのが基本だから。仲間にするにしても、力もたせたままじゃ、いつ裏切られるかわかったものではないでしょう。退学って言ったのは、必然的に対象者に恨みを買うわけだから、言うこと聞かないなら早いうち潰しておく他ないってこと。苛烈な虐めのスタートです」
 
 「……陰湿だね」
 
 レティは何度も頷き、得意げに言葉を紡ぐ。
 
 「そこで、このレティは、お姉さまを守るために大胆な行動にでることにしたのです。あそこまで露骨な痴態を見せれば、チャンスとばかりに一生懸命になるわけで、録画犯を完全に特定して、全部回収してきたってわけです」
 
 「そうなんだ、誤解していたよ。ごめん。いや、ありがとうかな」
 
 「私の有用性は証明できたでしょうか」

 「うん。色々と酷いこと言ってごめんね」

 ちょっと感謝。

 「でも、おねーさまが私とラ・ヴァリエールに二股かけているなんていう醜聞は間違えなく立ちましたね。てへ」
 
 こういう奴だから、「ちょっと」で十分。

 「それも目的の一つなのかな」
 
 「世の中は善意では出来ていないってことです」

 私への利益誘導かと思ったけど、自身の欲望のついでにやった訳ですね。

 「ところで。どうして私はこんなに情勢に詳しいのかはお判りでしょうか」
 
 そんなのは決まっている。派閥の動向を意識しているなら、何かしら企みがあるってことだろう。
 
 「どちらかの派閥に恨みでもあって、害をなしたいというところかな」
 
 レティはちょっと残念そうな表情になる。

 「どちらからの派閥の害も守りたいってことですよ。おねーさま。要は第三勢力の構築です。片方はソーン組、もう片方はイル組に拠点おいていますからね。うちのクラス空白地帯なのです。私としても不本意ですが、このまま何も手を打たなければシゲル組が草刈場や、戦場になる可能性が高いです」
 
 なるほど。凄いなこの子。そんなこと考えていたのか。
 
 「べ、別に派閥の頂点に立って、学年やクラスを牛耳ってやろうだなんて考えているわけじゃないんだからねっ」
 
 「それが本心なのね」
 
 私がそう言うと、レティシアは笑みを浮かべて頷いた。
 
 「そういう事にしておけば、わかりやすいでしょ。リタの話を聞く限りでも、おねーさまは十分信用できるし、戦力になるわ。だから協力して」
 
 「協力ねえ。具体的はどんなことをすればいいのかな」
 
 穏やかに過ごしたいのだけどな。学院生活。
 でも、平和な生活を送るには、守るために頑張らなくちゃいけないか。
 本当にこの学院は貴族社会の縮図を表しているな。

 「このままレティのお嫁さんになってください」
 
 「……」
 
 既に相手は、お兄さんですらないのかよ。

 「というのはある程度は冗談。うちのクラスみてもわかると思うけど、のんびりした子が多いから。私がお願いしたいのは、クラスメイトを統率する要員として、常日頃からカリスマ性磨いておいてねってこと。お姉さま外見がいいから、性別問わず寄ってくると思うし」

 横で黙って聞いているルイズが、首を縦にふって納得するのがみえる。

 「ところでお姉さまはメイジとしてはどうなのかな」
 
 「ラインだよ。風と水のね」
 
 「ふーん意外。とっくにトライアングルかと思っていた」
 
 「でもリリアは10歳でラインだったわよ」
 
 ルイズが自分のことのように自慢してくる。
 トリッパーじゃなくても、10歳でラインに行っちゃう子はいますよ。

 「……凄いですけど、何をやっていたんですか、その後の5年間」
 
 「それは言えないなぁ」
 
 「むむ。ド・フレイブルの繁栄の秘密と関係ありそうですね」
 
 「鋭いね。まあ、そっち方面」
 
 ここまで、話を続けたところで、リタが部屋に入ってきた。

 「リリア。一緒にお茶会でもしましょう……あら。何でレティがここに」
 
 「奇遇だね。リタリタ」
 
 「貴女にはお部屋の分類しとけって命じたはずだけど」

 「~~~♪」

 どこも状況は似たようなものらしい。
 モンモランシーもといリタによるレティへのお説教は、数分で事なきを得たが、少々気まずい空気が漂っていた。
 主にルイズから。
 一言で言い表すなら、自分の領域に入ってくるな。
 私の部屋なんですけどね。

 「……まさか、あのミス・ヴァリエールがこの部屋にいらっしゃるだなんて」

 折角なのでお互いの紹介をしてあげる私。
 リタはルイズに敬意を払っているようだった。

 「クラスでは、リリアーヌさんと懇意にさせて頂いております」
 
 「ですです~」

 ルイズはムスッとして返事を返さない。

 「機嫌直してルイズ。今夜、一緒に寝てあげるから」

 そんなビショビショなベッドでは、今夜はもう寝れませんから、ルイズの部屋で寝てあげます。
 その言葉が効いたのだろうか。

「わわわ、わかったわ。お二人とも、不束な従姉妹ですが、よろしくお願いね」

 不束。こんなに私はルイズのこと面倒見てあげているのに、不束!?
 まあいいや。ルイズだし。機嫌は直してくれたようだし。
 リタとレティがちょっと引いていたんだけど。
 見逃してやってください。
 少しホームシックにかかっているようなのです。
 
 「何はともあれ、馬鹿レティが迷惑かけてしまってごめんなさいね、ミス・ヴァリエール。私からきつく叱っておきますので。今夜はこれくらいにしておいて機嫌直して頂けませんか」
 
 「わ、わかったわ」
 
 「え。私悪者扱い」

 レティざまあ。

 「そんなことより。私をほっておいて、随分と短期間で他の子と仲良くなったのねぇ~リリア」
 
 ルイズの矛先が私へと移る。両頬を引っ張られた。
 
 「あぁ。おねーさまの綺麗なお顔に赤いあざが」
 
 黙っていて下さい変質者さん。
 
 「はい、レティはこっち。お部屋帰って説教しますからね~」
 
 「うぃー」
 
 とかいって、引っ張られていった。
 
 「私たちも、ルイズの部屋いこうか」
 
 「うん」
 
 さてルイズさんのお部屋。メイドさんの頑張りで、綺麗に分類が終わっていました。
 私はルイズの部屋に到着すると、持参した厚手の生地の寝袋を取り出してそれに潜り込みます。
 
 「リリア、こっちにきていいんだよ」
 
 そういって、ルイズが毛布を持ち上げると、幼い果実の太ももやらお腹がチラチラと見えた。
 こいつ、誘っていやがる。
 とはいえ、私はノーマルのつもりだし、今ルイズと仲良くなりすぎて、後で才人に盗られるのも嫌だし、盗って原作路線ぶち壊すのも嫌なので、見なかったことにして瞼を閉じる。
 ものの数分で、深い眠りへとついた。
 深夜目を覚ますと、私が詰まった寝袋は、ルイズの抱き枕にされていました。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.210247993469 / キャッシュ効いてます^^