定期検査中の伊方原発3号機(伊方町)の再稼働問題で、四国電力は8日、予定していた10日の再稼働を断念した。中村時広知事は再稼働の条件として、従来の3条件に加え、新たに事故時に「国が全責任を負う」との“一筆”を求める考えを表明し、菅直人首相が全原発のストレステストの実施を急きょ発表するなど方針の定まらない国の姿勢に強い不信感をにじませた。四電は引き続き再稼働実現に意欲を見せる一方、反対する市民団体からは新安全基準の策定を求める声が挙がった。【栗田亨、門田修一】
「10日再稼働は四電が考える日程。県としては条件が整わないと合意できないので特にコメントはない」
8日の県議会閉会後、四電の再稼働断念について報道陣から聞かれた中村知事は、にべもない様子だった。
中村知事は同日の県議会で、3号機再稼働の条件について、(1)国の新安全基準設定(2)追加の揺れ対策など四電の姿勢(3)伊方町の同意--と従来からの3条件を満たした上で、県議会と県伊方原発環境安全管理委員会の議論を総合して判断する、と改めて説明した。
さらに、議会終了後には、経済産業相が説明に来県する際、事故発生時に国が全責任を負うとの文書を県に出すことを求める考えを明らかにした。玄海原発(佐賀県玄海町)の地元町長が再稼働容認後、菅直人首相がストレステスト実施を発表したことを挙げ、中村知事は「大臣と首相の連名の文書、というやり方もある」と方針が二転三転する国への不信感をにじませた。
伊方町の山下和彦町長も同日、町役場で記者会見。再稼働断念について、「国が妥当と判断するまで、見送りは妥当だと思う」と話した。再稼働については、「伊方町環境監視委員会と町議会が伊方原発を視察した後、経産相と会って判断したい」と従来通りの考えを強調した。
また、ストレステスト実施については、「(一旦、容認した)玄海町長が『はしごを外された』と怒っていたがその通りだ。私も同じ気持ちだ。今後は後戻りのないようにしてもらいたい」と強く国を批判した。
四電によると、9月上旬には1号機が、来年1月には2号機が、それぞれ定期検査に入る予定。複数の原発が同時停止する事態は回避したいとしている。3号機の再稼働断念については「定検を2週間延長して入念に行ったが、理解が得られなかった。引き続き、四電独自の安全対策など自社でできることを続けて、一日も早く再稼働できるよう努力したい」としている。
脱原発を訴える市民団体「原発さよなら四国ネットワーク」の大野恭子さんは「10日までの再稼働は無理だと思っていたので、当然のことだ。原子力安全委員会がこれまでの原発の安全基準の間違いを認め、それがまだ改定されていないのに経産相が再稼働を認めたことがそもそもおかしいし、動かそうと言う四電もおかしい」と話していた。
四国電力が伊方原発3号機の10日の再稼働を断念したことで、厳しい状況が必至となった今夏の電力需給。一方、他企業からの買電は、これまで明らかにしていた2社に加え、新たに1社から供給を受ける。供給は今月から始まったが、3号機再稼働の行方は不透明で、四電は綱渡りの対応を迫られそうだ。
四電は今夏の最高気温を平年並みの平均34・5度として、最大需要を570万キロワットと想定。四電全体の発電能力(666万キロワット)のうち、伊方3号機の発電量89万キロワットを差し引くと、発電能力は577万キロワットとすれすれの水準に落ち込む。
千葉昭社長は先月29日の記者会見で、今夏、数値目標を伴った節電要請は行わない考えを強調。新たに1社分の電力を加えると、十数万キロワットの電力を確保できたことになり、供給能力は587万キロワット以上になる。しかし、猛暑だった昨夏に記録した最大電力需要は、8月20日の596万キロワット。気温が1度上昇すると、需要は23万キロワット増える。このため、四電は火力発電所の点検日程見直しや水力発電所の効率的運用により、電力の余力を示す予備率を8%程度まで上げ、しのぎたい考えだ。
だが、国が全原発を対象にストレステスト(耐性試験)の実施方針を示したことで、不確定要素も加わっている。【浜名晋一】
毎日新聞 2011年7月9日 地方版