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きょうの社説 2011年7月10日
◎食糧自給率低下 食文化の地力をつけたい
2009年度の食料自給率がまとめられた。政府の引き上げの掛け声にかかわらず、カ
ロリーベースの食料自給率は全国平均で40%と前年度より1%低下した。北陸農政局管内の北陸4県は、前年度と同じ79%で全国平均を大きく上回ってはいるものの、主要作物のコメを除いた自給率は13%に下がる。農林水産省は日本の食文化の世界無形文化遺産登録に向けて動き出し、各県も地域の料 理、食品の売り込みに懸命であるが、食文化を国、地域の自慢としてアピールしていくからには、食材を地元で調達できる能力をもっと高める必要があろう。食料安全保障ということだけではなく、農水産物の地産地消や農商工連携などで、いわば食文化の地力(じりき)をつける取り組みをさらに進めたい。 北陸農政局のまとめによると、北陸地域の食料自給率の高さは、ひとえにコメの自給率 の高さ(294%)のためである。大豆や鶏卵など一部を除き、多くの品目は全国平均を下回っており、稲作に偏る北陸の特性に変化はない。 県別では新潟県101%、富山県77%、福井県64%、石川県48%の順になってい る。新潟、富山は1〜2%アップしたが、福井、石川は1〜2%低下した。 品目別自給率も各県にばらつきがみられる。例えば、大豆(全国平均26%)は富山1 12%に対して石川28%。野菜(同80%)は石川46%、富山22%。魚介類(同62%)は石川86%、富山69%に対して新潟は29%といった状況である。コメ以外の農業生産の拡大とそれによる自給率向上が北陸の共通課題である。 北陸4県で石川の食料自給率が最も低い大きな理由は、コメ自給率が167%と新潟の 381%、富山の280%に遠く及ばないことにあるが、県が近年力を注いでいる石川の食文化の海外発信事業をさらに推進していくとなれば、その基盤となるべき地元の食材の供給力と品質を高める一層の努力が必要であろう。 コメ中心の北陸農業の構造改革は口で言うほど簡単ではないが、地域の生産者を育てる 地産地消やいわゆる6次産業化の試みをさらに強めてもらいたい。
◎中国が新幹線特許 経済提携に「甘さ」は禁物
中国が日本の新幹線技術を基に開発した高速鉄道(中国版新幹線)の技術を「国産」と
か「独自開発」と主張し、特許取得の国際申請手続きを進めている。中国企業に対する技術供与などの経済提携では、決して甘さは許されず、知的財産権保護の取り組みの強化が必要なことをあらためて示すものである。政府は新成長戦略の柱の一つにインフラ輸出を掲げている。福島第1原発事故で日本の 原発輸出が困難になったいま、大震災でも事故を起こさなかった新幹線が「頼みの綱」となる。中国の特許申請の内容次第で、日本側も即座に対抗措置を取る必要がある。 中国が国際的な特許取得をめざしているのは、北京―上海高速鉄道に投入している車両 CRH380Aの技術で、東北新幹線「はやて」などを製造した川崎重工からの導入技術を基に開発した。中国はドイツ企業の技術をベースにした車両も開発している。中国鉄道省は、自主研究で生み出した技術で最高速度を引き上げたと主張しているが、日独の技術を基にした特許申請に日本や欧州から批判が出ているのは当然である。 川崎重工側は、提供した技術は中国国内での使用に限る契約になっていると説明してい るが、技術供与契約に甘さはなかったか。中国の特許出願が川崎重工の知的財産権を侵害するものであれば、断固阻止しなければならない。 新幹線は日本の技術陣の「汗と涙の結晶」とも言われる。仮に米国などで中国の特許申 請が認められれば、価格で勝てない日本は高速鉄道の国際入札競争で不利な立場に追い込まれる。 中国との経済関係で慎重さが必要なのは新幹線問題に限らない。政府は、中国からの観 光客を増やすため、沖縄訪問を条件に数次査証(ビザ)の発給を認めるようになった。大震災で減少した中国人観光客の回復を図る切り札と見なされているが、沖縄は日米の対中共通戦略の要の場所でもある。中国人観光客の増加を単純に喜ぶばかりでなく、安全保障上の問題について絶えず意識を働かせる用心深さも必要であろう。
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