その日のテスタロッサ家の朝は早かった。
「フェイト、朝ですよ」
この家の主の使い魔であるリニスが起こしに行くが、部屋の主はだらしなく布団をはだけさせて眠っていた。
「もう、フェイト、早く起きなさい」
そう言ってリニスは青い髪の少女を揺する。
「う~ん、リニス~あとごふ~ん」
お決まりのセリフを吐いてフェイトと呼ばれた少女は布団を巻きつけ芋虫となった。
はあ、とリニスはため息をつく。
「まったく、忘れたんですか? 今日はプレシアと旅行に行く予定だったでしょう?」
それを聞いた瞬間、フェイトはがばっと跳ね起きた。
「リ、リニス早く言ってよ! わーん、すぐ準備するよお!!」
と、どたばたとフェイトは着替えだす。
まったく、元気に育ってくれたのは嬉しいけど、なんでこんなあほの子になってしまったのかしらと、リニスは呆れつつも微笑むのだった。
どたばたとフェイトは家の中心にあるホールに駆け込む。
「か、母さんおはよー! それとごめんなさーい! 僕寝坊しちゃったあ!!」
ばっと母に頭を下げるフェイト。
そんな娘にふんわりとした笑顔を返す母プレシア。
「おはようフェイト。あらあら、今度からは気をつけなさいね」
と、フェイトの頭をプレシアは優しく撫でる。
「ははは、フェイト、あたしよりも寝てたらダメだろ~?」
と、フェイトの使い魔であるアルフが笑う。
「アルフ~、なんで僕を起こさないんだよお!」
フェイトがアルフに文句を言う。
「フェイトの方が姉なんだろう? なら、妹のあたしに起こされたくないかなあって思ったんだよ」
にししと意地悪に笑うアルフ。う~とフェイトは呻く。
先日、フェイトはアルフが大人モードを使ったときに、
『アルフは僕の妹だから、僕より高くなるの禁止!!』
なんて言ってしまった。
まさか、ここでそんなことを言われるとは思ってなかったフェイトは歯噛みしてから、
「妹なら、お姉ちゃんを助けるんだぞ!!」
なんて言い出す。それをはいはいとアルフは流す。
そして、戻ってきたリニスに促されて二人が座ると朝食を食べ始めた。
フェイトとアルフががつがつとかきこみ、リニスが行儀悪いと注意する。それを嬉しそうに眺めるプレシア。
(ほんと、あの子が生き返ったよう。でも、この子は違う。この子は『アリシアの妹』なんだから)
そう、プレシアはアリシアとの約束を覚えていた。
当初はフェイトを道具のように使おうと思っていたプレシアだったが、リニスと契約をした数日後、夢の中に現れた彼女の愛しい愛しいアリシアが、
『ママ、やくそくまもってくれてありがとー!!』
と、抱きついてきた。その時、プレシアは思い出したのだ。アリシアとの約束を。
以来、研究を止め、今ではリニスに手伝われながらも、フェイトの母親を立派に務めている。
(アリシア、あなたの妹は元気に育ってるわよ)
プレシアは天に昇った愛娘に今日もいつも通りの報告をしたのだった。
そして、朝ごはんを食べ終えてから、民間の次元航行船で、初めての家族旅行に向かうテスタロッサ家。
だが……
「これは……救難信号?」
まず最初に気づいたのはリニスだった。
リニスの言葉にプレシアも探知魔法を使ったら、確かに救難信号が微弱ながら届いていた。
それは、魔法技術のないはずの管理外世界からだった。
(これって、すごく厄介ごとの匂いがするわね)
せっかくの家族旅行だったけど、どうするかとプレシアは考える。できるなら管理局に丸投げしたいところだけど……
「ねえ、きゅーなんしんごーってなんなの?」
と、フェイトはリニスに尋ねる。
「えっとですね。救難信号というのは、誰かに助けを求める合図なんですよ」
と、わかりやすく説明するリニス。
ふーんとフェイトは頷いた後、
「なら、助けに行かないとね!」
その一言にプレシアはため息をついた。
我が娘ながら、なんとまっすぐな一言。まあ、ここでほっといて家族旅行なんて目覚めも悪い。
「そうね、残念だけど、旅行は中止にしましょう」
そうプレシアは頷いて、転移魔法の用意をする。
まだフェイトは知らない。
今これから行く場所にある大切な出会いを。
親友であり、ライバルである少女と、心をつかんで離さない少年との出会うことを。
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なんとな~く、雷ちゃんってアリシアっぽくね? という友人のセリフから作りました。
劇場版のあのセリフとかからあれ思い出してればもっと違う結末があったんじゃという思いも。
それでは、また。