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[11276] 【ゼロ魔】不審火【転生クロスネタ】
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:bc7bd65b
Date: 2011/07/08 23:17
つい火っとなって書いた。今は反省している。












カーサ・イ・ド・ブラッドは考える。人生とは本当に奇妙で数奇なモノである。

たとえば自分が貴族であること……それだけで上流の生活が保障される。

たとえば自分がメイジであること……それだけで頂上的な力を行使できる。

たとえば女であること……それだけで男に対して恐ろしい優位に立つことができる。

たとえば自分が赤ん坊であること……それだけで……すべてが他人任せになってしまう。


たとえば……自分がそんな存在である事こそ、カーサ・イ・ド・ブラッドとして、貴族としてメイジとして女性として赤ん坊とし存在していること。


それこそが『彼』にとって本当に奇妙で数奇なことである。





ハルキゲニアと呼ばれる世界、トリスティンと呼ばれる国。その一角にブラッド家は存在していた。
昔は中央政治にも発言力を持つ大貴族だったらしいが、数世代前の失敗でその座を追われ、今では歯牙無い地方貴族。

オーソドックスなプライドと伝統を愛するトリスティンの貴族らしい父親。
家と夫に忠実な良妻であり、なおかつ病弱で子宝に恵まれない母親。
父親以上に伝統と格式にこだわり、過去の栄光に縋って生きている祖父。
部下や使用人を数に入れなければ、その程度の小さな家庭。
その一家の長女として長女としてカーサは生まれる。

しかし待望の第一子でありながら、彼女はあまり祝福されなかった。
母親こそ難産の果てにようやく生まれた娘を可愛がっていたが、父と祖父は跡取りに相応しい男子で無いことに憤ったのだ。
それに加えてカーサ自身にも問題があったのである。はじめて彼女が言葉を発した時、笑った時のことだ。


「火火っ」


不気味と表現する他には無い笑い。聞いたことがない発音で、ニタリと口の端を釣り上げ自分を含んだ全てを見下げるような笑い。
それを聞いた母親は失神したし、父親は養育係を解任した。祖父に至っては秘密裏に葬ってしまうことさえ考えたほどだ。


もっともこれは数々の奇行のスタートに過ぎなかったのだが……

「カーサ様! 昼間からワインを飲まないでください!!」

「硬いこと言うなよ」

「キセルなんて二十年早い!!」

「本当はタバコが良いんだけどなぁ」

「町の賭博場に行くのも禁止です。弱いんですから」

「田舎の数少ない娯楽だっつうの」

「それと……メイドに色目を使うのは止めてください」

「火っとなってやった。後悔はしてない」

これはカーサが『五歳の時に』ブラッド家に仕えている執事とした会話である。

この会話を聞いて『この子は異常だ』と断じることができない人間など存在しない。
少なからず生まれながらにして問題を持つ子供は存在する。言葉がうまく喋れなかったり、上手に歩けなかったり。
それは人々の目に『大事な何かを持っていないから』だと判断される。故に奇異の目を向けられると同時に同情され、理解もある程度される。

だがカーサは違う。彼女は頭が良い。勉学にも熱心ではないが、必要以上の知恵を持っている。
ほかのどんな子供よりも早く立って歩いたし、言葉もすぐに話せるようになった。だが上記のような会話をする。
つまりカーサという人物は『酒を愛して、愛煙家。弱いけどギャンブルを嗜み、女性に色目を使う五歳の女児』なのである。

異常だ。


「他の子よりもちょっと進んでるだけ……そうよねぇ~カーサ?」

「あ~それは希望的観測だな、母上」

数少ない彼女の味方 母親はそう言って娘を擁護しては突き放される日々。
そんな人物が身内に居て、面白くないのはトリスティンの貴族の鏡である父と祖父だ。
折しも国王が隣国訪問からの帰途に訪問するという名誉ある日も迫っている。
これを機に昔の勢いを取り戻したいと企む腐敗貴族の鏡にとって、余りにも娘の存在は不快な要素。
部屋にでも押し込めておくか?とも考えるが、挨拶させない方がずっと無礼に当たるだろう。
王室にも娘が生まれたという報告は臣下の義務として行っているのだから。しかし陛下にあの『バケモノ』を会わせるのは家の終わりを意味する。

「いっそこれを機に消してしまうか?」

深夜にこっそりと行われたはずの父と祖父、二人だけの秘密の会合。
それを聞いていた少女が一人。暗闇で光るのは自作のタバコに火をつける魔法の炎。

「これに機に消す……か? そりゃあ~良い考えだ」

小さな明かりに照らされて、少女の顔が怪しく歪む。久し振りの『犯行』を前にして、子供らしからぬ愉悦が燃えていた。





次の日の早朝、ブラッドの屋敷で火事があった。失われた命は二つ、現当主と前当主。
夫人はパニックに陥り、臣下の貴族たちは誰もが自分の身の保身に必死になっているがゆえに、大きく問題視されなかったが……奇妙な火事だった。

被害は部屋一つ、当主の執務室だけ。壁一つ隔てた寝室で寝ていた夫人は気付かないほど静かな火事。
だが死者が二人も出ている。それなりに腕が立つ火のメイジが二人も焼け死んだのだ。
室内は調度品が原形を留めず崩れており、壁や床も黒コゲであるにもかかわらず、外から見ればまったくその事に気付かせない。
つまり二人が逃げる暇もなく最高の火力を生み出した後、瞬く間に消えたということになる。

「やっぱり不自然だ」

「あぁ……キセルやロウソクの不始末じゃない」

そんな話題が貴族・平民問わずに聞こえてくるのは仕方のないことだ。

「火の魔法と秘薬を使った暗殺では?」

「それだってあんな真似は不可能よ」

しかし真実を得る手段をだれも持っていない。つまりこれは迷宮入りの事件だった。

「何にせよ今は他にするべき事がある」

「後継ぎはどうするのか?」

国王陛下の訪問という大変名誉な事態も残念な事に間近に迫ってきているのだ。
辞退しようか?という意見も出たが、ただでさえ領主が火事で死ぬという不祥事。
それに加えて名誉ある仕事の辞退などした日には、どのような厳罰が待っているか分からない。

「普通に考えれば嫡子である……」

「カーサ様か? だがあの方は…「オレがどうかしたか?」…っ!!」

臣下だけで内密に交えていたはずの会合に現れた少女。本来ならば当事者でありながら、最もカヤの外に置かれるべき人物。
肉親の死を嘆いているべき彼女はズカズカと室内に入ってくると、どっかりと椅子の一つに腰をおろす。

「後継ぎはオレだ。成人までは母上を代理に立て、お前らの合議で領地を運営する」

すでに決定事項であるという態度でそれだけ宣言。もちろん臣下たちからは反論の声が上がる直前に……

「反対する奴……明朝には誰にも気付かれずに消し炭だ」

その少女の一言で誰もが先の不可解な事件の真相を理解し、そしてその真相を心の奥に仕舞い込んでしまった。
目の前の少女がやったのだ。二人の火のメイジを部屋一つだけを犠牲にして、一瞬で焼き殺すという偉業を。
異常なのは精神だけではなく、魔法の腕もということらしい。誰もが視線を辺りに向けて、頷いた。
すでに場の流れは決している。ここで反対とは言えない。それこそ燃やされるだろうし、声を大にすれば最悪の不祥事 親殺しが国王の耳にも届きかねない。

誰もが自分の身の保身を第一にした思考の結果……カーサ・イ・ド・ブラッド、古き名前を葛西善二郎という大犯罪者にして、中年オヤジ。
稀代の放火魔にして、新たなる血族の人差し指はこうして貴族であり地方領主としての地位を確立する。


これがカーサという誕生から数えて六年目の事。
物語はトリスティンの著名な魔法学院に彼女が入学するまでに飛ぶ……



[11276] 続き……だと?
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:154dc56b
Date: 2009/10/01 10:01
あまりにも中途半端なので続きを書いてみた。
しかし相も変わらず中途半端なままですいません。






どんな辺鄙な町でも『差』を内封しているものである。
たとえば大通りがあれば裏路地が在るように、一等地があれば貧民街が在るように。
その賭場を兼ねた酒屋も路地裏と貧民街の片隅でひっそりと営業している。

「おらぁ! 酒だぁ~酒を持ってこい!!」

もちろんそう言った場所にくる連中とは上流や上品という言葉には程遠い人たち。
暗い職業たる盗人や傭兵にヤクザモノ。喧嘩っ早い肉体労働者に情婦などなど。
荒々しく来店した彼らも傭兵崩れの盗賊の一団で在り……ここで新顔だった。

「おいおい、ここの女共はお酌にも来ないのかぁ!?」

そういう店では無いことなど、男たちも理解はしている。
ただ一仕事を終えた解放感と手に入れた小金が気を大きくしていたのだ。
ドンと机の上に置かれたのは薄汚れた革袋。結び目が解けて零れるのはやはり埃や血で汚れた金貨。
普通の店ならば受け付けないような汚い金であることは明白だが、この酒屋はそういう金で動いている。

店の中を見渡せばそれらしい派手な格好をした女性たちも数人見られた。しかし彼女たちは自分たちの方を見もせずに、一つのテーブルを囲んでいる。
それも至極楽しそうに……盗賊たちが面白いはずがない。

「テメエら! ちっとはこっちにきやがれ!!」

ズカズカと歩み寄れば、女性たちが取り囲んでいたテーブルが視界に入ってくる。
そこで行われていたのはこういう場所ならば珍しくもない遊戯 カードゲーム。
いわゆるトランプと呼ばれるカードを使用するゲームの名前はポーカー。
数枚のカードをランダムで引いて設定された役を作り、その強さを競うモノ。

「喧しいな……」

テーブルを囲みポーカーをする人数は三人。草臥れ果てた老人、筋骨隆々な大男、そして……

「なんだ、ガキがぁ!?」

少女。肩を超える辺りで僅かに外へと跳ねるのは、濡れたような質感をもつ珍しい黒髪。
身長は同年・同性の中では高い方だろう。かなり痩せ形の体型には女性の凹凸の自己主張が少ない。
白いワイシャツに黒のズボンがスレンダーな身を包む。血色のいい肌色にシンプルだが作りの良い服装から、金銭的に豊かな環境に居ることが窺えた。

「この生意気なガキにここの女共は熱を上げてるってか?」

「喧しいって言ったんだぜ? 勝負の途中だ、静かにしろよ」

階段を一段飛ばしで駆け上がっていく盗賊たちの怒りのボルテージなど、まったく知ったことではないと少女は最後のカードを引いた。
手札の入れ替えは終了し、後は三人で出来た組み合わせを見せ合う。

「ツーペアだ」

まずは大男が冷静にそう呟く。

「悪いな、フルハウス」

老人は自信満々に手札を見せる。かなり強い分類に入るだろう組み合わせだ。
だがそれを前にしても少女は笑う。年齢に相応しくない口元をわずかに歪ませ、目が相手を見下すような嫌な笑い方。

「そんなもんで勝った気とはずいぶん…『どうでも良いからカード見せな』…ブタだよ、畜生」

口からこぼれかけた勝利宣言はただのフェイク。何の組み合わせにもなっていないカードを投げ捨て、少女は椅子に身を崩す。
辺りの女性陣から悲鳴にも似た歓声。

「カーサ様、また負けた~」

「ギャンブル弱いのにギャンブル好きって不幸よね?」

「それよりも約束!」

キャーキャー言いながら群がってくる女性たちと少女がした約束。
ギャンブルに弱い自分が勝ち越したら全員から抱擁とキスのプレゼント、もし負け越したら……

「マスター! この遠慮知らずのカワイ子ちゃんたちにこの店で一番高いワインを!!」

主のかすれた了解の声とそっちに遠ざかっていく女性たちの歓声を聞きながら、少女は『今度こそギャンブルは止めよう』と何度考えたか分からない決心を呟く。
そしてようやく自分に何か言いたげな見知らぬ雑魚共の存在に気がついた。

「テメエ、貴族の子女か?」

「だったらどうした?」

「こんな場所で遊ぶのは火遊びの元、世間の厳しさを教えてやろうと思ってな!!」

盗賊のリーダーが武骨な杖を引きぬく。貴族崩れが魔法を頼りに盗賊や傭兵になるのは珍しい話ではない。
一瞬で爆発したトラブルの気配に他の客たちは悲鳴を上げて距離をとった。

「おいおい、こっちもメイジだってわかってんのか?」

確かにメイジ同士のケンカともなれば大事に発展してしまう危険性は大きい。
だが盗賊たちにはすでに勝機が見えていた。

「修羅場を潜っている俺達とヌクヌク育った貴族様じゃあ勝負にならねえよぉ」

経験などの面からくる自信、そして相手よりも先に杖を抜いたという有利な状況。
メイジの魔法は強力だがその発動には『杖』という装備が必要になる。故に先にこれを手にした方が圧倒的な優位に立てるのだ。
少女は杖らしいものを持っているはずもなく、もちろん引き抜こうと構える仕草すらない。

「勝負にならねえか……確かにな」

ふっと少女の姿が消えた。一瞬だが視界から消え、気がつけば盗賊の頭の肩へと触れる小さく柔らかい手。

「チッ!」

それなりの場数を踏んでいた彼はその結果に舌打ちを一つ。
魔法を使った形跡はない。おそらく特殊な歩法の技、戦いの技法だ。
少々甘く見ていたかもしれないが、杖を構えていなければ魔法という選択は不可能。
つまり致命傷を少女の細腕から受ける訳もなく、こちらの優位は変わらない。そのはずのに……

「確かにお前とは潜った修羅場の数が違うだろうぜ……ただし俺の方が上だがな」

ニヤリと笑う。気味の悪い表情と言葉には理解できないほどの優越感。
それに苛立ちが臨界点を超えた盗賊が腕の一つでも切り落としてやろうかと呪文を唱えかけて……『燃やされた』。

「■■■■!!」

小さな火傷とは比べ物ならない熱が全身を駆け巡る感覚。正しく燃やされるという現象。
どんな呪文も無く、杖も持たず行われた現象は並みのメイジでは、杖を持ち呪文を唱えられたとしても難しい人体を一瞬で炎上させるという技。

「■■■……」

言葉にならない絶叫はすぐに終焉を迎える。意識が容易く形容しがたい痛みに刈り取られて沈黙。
魔法という超常の力をもってしても説明できない事態と頭が容易く倒された事で盗賊たちは悲鳴をあげて酒場を飛び出していく。

「おい、この燃えカス持ってけよな~」

人が燃えて出来た熱から火をとったキセルを吹かしながら、燻ぶる木偶の坊を投げ捨てる。
傍若無人にして慇懃無礼。爽快なまでに破天荒でメイジすら驚愕させる未知の力を振るう。
それなのにそこに居ることに疑問を感じさせない。それがこの少女 カーサ・イ・ド・ブラッドの魅力というか魔力だ。





「さてと……」

結局負け試合を三度ほどしてから、カーサは立ちあがった。
肩から掛けるのはマントではなく、黒いロングのコートを羽織るだけ。
頭にはこの世界では彼女だけが被るだろう不思議な形の帽子 いわゆる野球帽。

「あれ~もう帰っちゃうのぉ?」

「もっと遊ぼうよ~」

カーサから賭けの対象として強奪したワインを飲み干して、良い感じに酔っぱらった情婦たちがそう言い寄る。
シュルリと肩に回された美しい指先に、いつもの彼女ならば容易く誘惑されてしまうだろうが、今日は名残惜しそうにしながらも、それを振り払った。

「わりぃな、明日は朝早いもんでよ」

「えぇ!? じゃあ次はいつ来るのぉ?」

「当分は来れねえ……」

ギャンブルと酒と煙草と女を愛する中年オヤジそのものであるカーサの口から、この場所にしばらくは来れないという言葉。
その異常事態に常連たちの間で静かに広まる沈黙。それが自分の次の言葉へと向いていると知ってカーサは苦笑い。
どうやらついにこの変人がとんでもないことでも始めるのではないか?という恐怖と期待。

「トリスティン魔法学院へ行かなきゃならないんだ」

「「「「「「はぁ?」」」」」

だがそれを裏切るのは余りにも普通な答え。トリスティンの貴族ならば子供時代に確実に訪れるだろう学び屋の名前。
ギャラリーの残念さと安堵の混じる『はぁ?』にカーサこと葛西善次郎は悪戯が成功した子供のように笑い、こんな事を言った。



「何時も言ってるだろ? オレはどこにでも居る善良な貴族の子女様だってよ」



[11276] これだけ時間をかけて……これだけ、だと?
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:c0c05dff
Date: 2009/10/17 20:03
一つ言える……短い!!













キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー にとって、異国の地であるトリスティン魔法学院への留学すら、『新たな出会いの場』に過ぎない。
恋多き血筋に生まれた彼女は遺伝に背くこと無き恋多き乙女であり、エキゾチックにしてグラマラスなその姿から異性からのアプローチが多い。

「どんな恋がまってるかしら?」

しかし同じ場所に居れば出会いというのは限定されてくるものであり、熱しやすく冷めやすい微熱の彼女が感じるのは退屈。
そんな時に降って湧いたのがトリスティン魔法学院への留学話だった。期待されているのはメイジとして実力を上げることなどではない。
求められるのは『歴史あるトリスティン魔法学院を卒業したという箔』と『異国の地で得られる新たな人脈』だ。

「まっ! 私は私で楽しくやらせてもらうわ~」

娘の学業よりも自分たちの立身出世。まさしくゲルマニア貴族の鏡たる両親に対して、キュルケは怒りなど感じない。
ただ揺られ飽きた馬車の窓に映る三年を過ごす学び屋に、新たな恋の影を見つめるだけ……そのはずだったのだが……


教室に集合した新入生 いわゆる私にとっての同級生たちを見渡す。
留学先としては有名であるとはいえ、やはり新入生の多くはトリスティン貴族で構成されていた。
自分に向く好奇の視線を、メイジとしても女としても優れているという自負で跳ね除け、逆に観察するように睨み返す。
どれもこれも視線を逸らすつまらない子ばかり……やはり恋愛は先輩とするべきだろうか?
ふと射殺しそうな視線を向けてきたチンチクリンが一人……あぁ、ヴァリエールの末っ子だ。
他にはタバサなんて分かりやすい偽名を名乗るガリアからの留学生に若干興味を持ち……それを見つけた。

「なに……あの子?」

座っている場所こそ端の方だったが、『ソレ』は余りにも異彩を放っている。
珍しい漆のように黒い長髪、高い身長と凹凸の少ないボディーライン。自分と同じ性別 女性。
であるはずなのに……私に向ける視線が非常に『イヤらしい』。もしあれで近寄って来ようモノならば、燃やしてしまいたくなってしまう、

こちらが訝しげに見ていることを認識したうえで、ソレは舐めまわすように私を上から下まで……
背筋に走るのは鳥肌。
この微熱のキュルケが久しぶりに感じた感情の冷却、冷たさ。だがそれも一瞬のこと。

「ふっ……面白いじゃない」

燃え上がるのは好奇心。馬鹿にされたわけでもないが反抗心。
どうやら異国の地での三年間に及ぶ学習期間は私 キュルケにとって大変に有意義なものになりそうだ。









コルベールがその生徒の異常性に気がついたのは、まったくの偶然だった。
新入生歓迎のために食堂にて行われた立食パーティー。テーブルの中央には等間隔で花瓶が並び、綺麗な花が飾られ、何時も以上に煌びやかだ。

そんな中で私はその人物と『目が合った』。

ただそれだけだった。しかしすぐに分かった。『コレ』は過去の自分とすら比較できないバケモノだと。
過去の自分とはつまり実験部隊にて、躊躇い無く無抵抗な一般人を「国のために!」と虐殺できた者。
そこから一歩さらに踏み外して、人を燃やすことに快楽を見出してしまった愚かな部下もいた。

「それでは新入生諸君、軽く自己紹介などを……」

何度も見てきたそんなイベントには興味を払う余裕などない。教壇に上り名前や生まれ、二つ名を言う新入生たち。
同じく詰まらなそうな目を向けるその生徒 高い身長に黒い長髪が印象的な少女はそんな二者をも超えていた。
極論すればそこには目的が無い。燃やすこと……燃え尽きること自体を目的としたような源初の炎。
退屈そうな表情など唯のフェイクである。人間が方法の一つとして『火』を使うのに対して、少女はもっと根本的な部分が『火』と繋がっている。

「タバサ……雪風のタバサ」

余りにも分かり易い偽名を口走る留学生には若干の興味をひかれた。
だが次に席を立ち、壇上へ上がったのがあの少女であることから、すでに意識は其方にしか向かなくなってしまう。

「オレの名前はカーサ。生まれはトリスティンの外れ。家の名前はブラッド」

オレという若き女性 家柄を大事にする貴族としては適当ではない一人称。
それだけで室内をざわめきが満たす。『育ちが知れる』とか『下品だよ』など実に表面的な囁き。

「二つ名は……やっぱり一番呼ばれ馴れているヤツか?」

懐から取り出すのは杖……杖ではなくキセル。
コンコンと軽く自らの頭を叩き、クルクル回転させた後に……振る。それだけのアクション。
それだけだ……それだけでテーブルの上で花瓶の花が一斉に燃え上がった。
誰もが驚きの声と悲鳴を上げる。だが何人がその異常性を正しく認識しているだろうか?
メイジが火打石等を使わずにモノを燃やすことは簡単だ。魔法を使えばいい。

「バカな……」

だが魔法には二つの制限が存在する。つまり『杖』と『呪文』。これが無ければ魔法というルールは成立しない。
彼女はそのどちらも用いて居ないのだから、これを異常と呼ばずになんとしよう?
しかも! たとえ杖を持ち呪文を唱えたとて、食堂中にあった花瓶の花だけを一斉に燃やす魔法など存在しないのだ。

「危ないじゃないかっ!」

「礼儀も知らんとみえるな……」

やはり周りの者たちが上げるのは実に的外れな叱責の声。燃やした方法を『魔法だ』と一括りにしているからこそ。
魔法とは理論を持つ技術の一つに過ぎず、世界のすべてを支配し得るものではないのに……どうして分からないのだ!?とこちらが悲鳴を上げたくなるような気分だ。

そんな私の気持ちや周りの反応など気にした風もなく、傲岸不遜で嫌味な笑みを浮かべながら……
再び呪文を唱えることなく火をつけたキセルを咥え、煙を吐き出して堂々と少女は宣言した。


「二つ名は……不審火。不審火のカーサだ」


堂々と告げるのは文字通り『不審な』火のメイジが持つに相応しい二つ名。



[11276] やっぱり私は……ここに辿り着くのか?
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:c0c05dff
Date: 2011/07/08 20:10
進歩がないkuboっちをどうか許してください。
そして私的なイメージが混ざった葛西さんも許してください。












カーサ・イ・ド・ブラッドは考える。

「退屈だ……」

久し振り過ぎる学校生活というのは予想以上に享楽的な彼……いや彼女を苦しめていた。
習う魔法はすべて基礎ばかりで、やりつくした内容しかない。時たま間に入る貴族としての知識や教養とやらも面白みはゼロ。
そう言うのは昔からの感性で大嫌いだし、何よりも代理を立てているとはいえ、片田舎とはいえ領主という地位に居るのだ。
10にも満たぬ年齢で国王とその娘の領地への招待を完璧にこなし、それ以降も何度か外交という場所に立ってきた。
いま差教えられる礼儀も作法も無い。

「町も遠いしよ~」

酒を飲みたいという単純な欲求ならば酒場に直接赴く必要など無い。
なにせワインくらいならば学園にはいくらでもあるし、その質は並みの酒場などよりも良いほど。
だがカーサが欲しているのは物質だけではなく、酒場などで行われる『会話』が楽しいのだ。
もっと言えばそこで出会う女たちが目的だと言っても良い。

カーサ・イ・ド・ブラッドの中身である葛西善次郎は何処にでも居る中年オヤジである。
生まれながらの犯罪者だったり、放火魔だったり、新しい血族だったりした以外は。
故に綺麗な女性と煙草と酒を愛好することに何らおかしな点は無い。
ただ外見が十代半ばの少女であることから話が非常にややこしくなるのだが……

「ここの女どもはな……」

かといって学園に女性がゼロな訳ではない。しかしカーサとしては彼女たちでは満足できない理由があった。
まずは多くの女性が生徒 魔法学院に通う同年代の貴族であるということ。
貴族と呼ばれるモノたちは良識と世間体を愛して止まない生物であり、同年代の同性に言い寄られて良い気分になどならない。
酒場に居るような遊女たちならばお遊びとして、友人として、もっと言えば金づるとして、カーサのオヤジっぷりに付き合ってくれるわけだが、貴族の女子にそんな事を期待できるわけもないのだ。

「これだから貴族は嫌だね~」

自分が貴族であることなど棚に上げて……もっとも貴族っぽい姿など欠片も見せない少女はブツブツと呟いた。
教師に見られれば色々とうるさいキセルを思う存分吸うため、人気のない中庭の一角で見事なヤンキー座り。
地面に直に置かれたワインの瓶をラッパ飲みしながら、キセルの煙を吹く様は正しくただのチンピラか、疲れ果てたオヤジである。


「しゃ~ねぇ、休みを楽しみに頑張りますかね?」

近づいてきた午後の授業に憂鬱な気分ながらも立ち上がり、カーサは歩き出した。
鍛え上げてきた精神も退屈と憂鬱で草臥れ果てていたのだろう。二つ目の角を曲がった折、目の前に広がった白いシーツの山……それを避ける事が出来なかった。

「ってぇ!……あっちぃ!!」

「キャッ!」

カーサは強かに腰を打ちつけた痛み、さらにキセルの火種が跳ね上がって肌に付着したことによる激痛で二重の悲鳴。
そしてぶつかった相手もかわいらしい悲鳴を一つ。
『文句の一つでも言ってやろう! ついでに燃やしたろか!?』 
実に彼女らしい結論を導き出し、視界を遮っていたシーツを跳ね飛ばす。そして見てしまった。


「もっ申し訳ありません! どうかお許しください!!」

自分という存在を確認して頭を猛烈に下げる追突犯、それをカーサは念入りに観察していた。
服装からすぐにメイドであると分かる。何せ学院にいる若い女性の大部分はメイドだ。

「髪……」

彼女の心を捕えたのは、本当の故郷 日本では珍しくもない墨のような黒髪。
前世でのカーサ 葛西善次郎はエロい中年オヤジのテンプレートに漏れること無く、金髪美人とか大好きだった。
まぁ、茶髪だろうが赤髪だろうが良いのだが、金髪というのは日本男児の夢的なアレコレソレがあったりする。
しかしこの世界に来てからその価値観は一変することになる。金髪は沢山いた。しかし代わりに黒髪が絶滅したのである。

「ふ~ん、久し振りに見てみると黒も悪くないな」

「えっと……」

生まれつきの犯罪者、新たな血族に数えられる炎を支配する者。
そんな部分は決して揺れない軸、生まれ変わっても動かない軸を持っているカーサだったが、他の部分は見ればただの中年オヤジである。
つまり女性の好みなど、容易く変わってしまうのだ。

「嬢ちゃん、お名前は?」

立ちあがり飛んでしまった火種を点け直して、黒髪を舐めまわすように見聞。
胸もなかなかご立派だし、故郷を思い出させる黒髪はこれまた古い故郷でいうおかっぱ状。
ノスタルジーを誘いつつ、純情そうな村娘気質は実に小動物的な魅力を放っている。
まぁ、自分も同じような髪なのだがその点はノーカン。ひょいと高い身長と細腕に似合わない力でへたり込んだままのメイドを抱え上げる。

「シェスタと言います! あの! 私はどんな罰も受けますから……どうかその!!」

もう自分が何を言いたいのか分からない位にパニクっている様子を眺めるのはなかなか楽しい。
超どSな上司や次席どSの同僚の気持ちをちょっとだけ理解しつつ、カーサはにやりと笑った。

「どんな罰でもか……」

ゆっくりとメイド シエスタの背後に周り、カーサは罰を実行した。
さっきから黒髪以外に気になっていた『バショ』へと手を伸ばして……

「なるほど、良いセンス……良い胸だ」

揉んだ。
学園に来てから発散する先が見つからず、溜まり続けていたエロオヤジ分。
それが中々素晴らしい好みの女性を前にして、大爆発してしまったのだ。
まぁ、いくら理由があろうともやっている事はただのセクハラな訳だが……





「? ■■■!?」

シェスタは聞いたこともない悲鳴を上げていた。
貴族が与える『罰』と言えばある程度そう言った卑猥な手段も考えられる。だがそれは相手の貴族が男性である場合だ。
確かに自分がぶつかってしまった貴族様は背もお高かったが、自分と似た珍しい黒髪を伸ばした女性なのである。
女性がちょっとしたコンプレックスである大きめな自分の胸を、それはそれはイヤらしい手付きで揉んでいるのだ。
相手が貴族様だとかそんな事は脳内から吹き飛び、祖母仕込みの軍隊式格闘術を発動。
揉んでいた腕を決め→投げ飛ばし→倒れた相手に垂直落下式エルボーという三連コンボ。

「ゴファー!」

そして貴族が上げた余りにもらしくない悲鳴(某探偵が某助手に弄られる時の感じで脳内再生して)を聞いて正気に戻り、さらに顔を青くする。
生娘の純真がそうさせたとはいえ、粗相をして罰を受けていた自分が相手の貴族をノックアウトしてしまったのだ。
もはや死刑どころでは……

「グフ……このカーサ様を投げ飛ばすとは……良いもん持ってるじゃねぇか? 世界を狙えるぜ」

だけど目の前の貴族様は笑っている。まるでこのやりとりすら楽しんでいるかのようだ。

「オーライ、分かった! 罰は変更しよう」

「すっすみません!!」

さらにキツイ罰を想定して……

「一杯付き合ってくれ」

「はぁ?」

差し出された飲みかけのワインをみて、シェスタの口から気の抜けたセリフが零れた。





[11276] 久しぶりすぎてよくわかりません
Name: kuboっち◆d5362e30 ID:793507c9
Date: 2011/07/08 20:12
スランプでやんの私(笑)
















あ~ぁ! 朝なんか来なきゃ良いんだ」

カーサ・イ・ド・ブラッド―前世の名は葛西善次郎という―はベッドの上でゴロゴロとシーツにくるまりながら、身悶えていた。
彼女は朝が嫌いだ。何故嫌いなのかと言うと眠いのに起きなければ成らないから。
そして何よりも退屈な授業が待っているからである。あ~寝てたい……『クゥ』……腹が鳴る。


「ったく腹が減って起きるなんて育ち盛りのガキか……って」

そういえばガキなのだった。十代真っ只中、青春真っ只中な『女』の子。
一分少々、理不尽な神様とやらの悪戯にグチグチと文句を垂れてから、カーサはベッドから文字通り這い出す。
別に貴族用だからと言って華美な装飾は無いベッド、ただ少し広い作りなだけ。
シーツの下から這い出してくるのは裸体。局所の出っ張りが身長と比較すると物足りない点を除外すれば、同年代の同性たちと比較しても恥ずかしくは無いだろう。

「他人様の体なら拝む楽しみもあるんだがなぁ」

中身は素晴らしいまでの中年オヤジであるカーサだったが、自分の裸体では色々と昂ったりはさすがにしないし、できないし、したくない。
飾り気と色気のない白い下着、学園の制服と順々に身につけて行く。一応姿見は存在するがそれで何かを確認する事は無い。
如何して伸ばし始めたか定かではないが、肩下まで伸びる濡れたような黒髪もテキトウにブラシで撫で付ける。
何時も通りの強さで何時も通りの回数、ブラシを往復させて終了。

「さてと……」

次にベッドから離れて向かうのは机。酒と煙草を愛する彼女の印象からすれば、机という物にはかかわりが薄いように誰もが思うだろう。
だがそれは間違いだ。一人で使うには大きな机の上には沢山の物が並べられている。

「まずは……」

最初に手に取るのはマント。本人はあんまりマントという物が好きではないのだが、貴族とメイジの鏡を育てる学院ではそういう事には五月蠅い。
かなり長くて厚手、ローブに近い構造。その内側には無数のポケットが備えられた特注品。

「それから……」

そのポケットに納めるのはコルクで栓がされたガラスの試験官が数本。中身はメイジどころか平民見ても『危険物です!』と分かるオーラを放つ液体。
更には鈍い銀色を放つ何に使うのか分からない何かを数個、アクセサリーにしては綺麗とはいえない。
そして指先だけが覗く黒い皮の手袋。指揮者が振るうタクトのような杖をぞんざいな仕草で懐へ。

「最後には……コイツだな」

何よりも大事に取り出したのはパイプだ。飾り気のない杖とは対照的に深紅と金の細工がイヤ味の無い程度に価値を主張している。
本当ならば愛好していた絶版煙草が吸いたいのだが、それはこのファンタジー世界に生まれ落ちた時から諦めていた。


「さて、朝飯だ~」










「よぉ、ちっこいの。今日も良く食べるな」

大食堂の食事の席では特に明確な席順が決まっている訳ではない。各学年ごとに分かれてこそいるが、それ以上のルールは存在しない。
故に隣に座る相手も、目の前に座る相手も仲が特に良い者たちを覗けば、ほぼランダムで決まる。
そして今回カーサの隣に座ったのは短い髪と短い身長の少女だった。

「……」

当人から帰ってきたのは沈黙……ではなく『ムシャムシャ』という咀嚼音。
食事の手が止まらない。ハシバミ草と呼ばれるトンでも無く苦い草を使ったサラダを食べる手に一切の淀みがない。

「よし、じゃあこいつはお前にやろう」

カーサは自分の前に置かれていたハシバミサラダをタバサの前へ。
そして少女の前に置かれていた焼きベーコンを自分の方へ。
世の中はギブ&テイクだが、食材の値段的にも一般的な人気的にも一方的なトレードだ。
しかし当人 青い髪の小柄な少女 タバサという名の留学生は無表情ながらも嬉しそうな顔。


「そういえば……貴女に聞きたかった事がある」

二皿目のハシバミサラダの完食を目前にして、タバサはカーサへと初めて視線を向けた。
三杯目のワインに口を付けていたカーサはその視線を受けて笑みを浮かべた。

「ほぉ? そりゃなんだ」

カーサはこの家名を名乗りすらしない、あからさまな偽名を名乗る留学生が気には成っていた。
他の生徒たちとは全く異なる雰囲気。幾つもの死線を潜ってきた匂い。こちらの異常性にある程度気が付いている。


「新入生歓迎の席での自己紹介。どうやって卓上の花を一斉に燃やしたのか」

「おいおい、随分と古い話だな? もうすぐ使い魔の召喚やらがあって二年生だぜ?」

「せっかくだから聞いておきたい」

おどける様なカーサに追及する目のタバサ。交差する視線。しばらく感じていなかった興奮。
『炎のように燃え尽きる人生』という理想を追うならば欠かせないだろう『好敵手』となりうる存在。
ゆっくり育てたいとカーサは考える。故に……

「そうだな……そのまま教えても面白くない。代わりに同じ方法をいまから見せてやろう。
 もしソレで分かったんなら、しばらく飯に出たハシバミサラダはお前にくれてやるよ」

「っ! 受けて立つ」

なんだか食欲的な不純な動機付けも加わり、カーサのお遊びに乗り気を出したタバサは大きく同意。
取り出されたのは杖ではなくキセル。あの時と同じアクション クルクルと魅せつけるような動き。

「……」

当然タバサの視線はそのキセルへと集中する。
『これから何かをする!』と宣言されている以上、動きがあった場所へと視線が行くのは人間が生物である以上は仕方がない。
クルクルと回るキセルに目を取られた刹那、反対側の手がマントの内側へと滑る。何かを取り出したようだが、ソレにタバサは気がつかなかった。
カーサは回転させていたキセルで食べ終わった食器を軽く叩く。

「キャッ!」

その瞬間、少し離れた場所を食器の片付けをしていたメイドが悲鳴。

「?……ッ!」

タバサがそちらへと目を向けるとメイドが運んでいたバケットの中で、パンが燃えていた。
ざわざわと生徒たちが色めき立ち、全く身に覚えのないメイドが泣き出しそうになった時、席を立ったカーサが燃えているパンを平然と齧る奇怪な構図を展開。
その要素を見て生徒が興味を失った。誰もがこう思ったのである『なんだ……また、ブラッドか』と。


「っと、まぁ……こんなもんだ」

実に些細な事だと、言いたげな表情で程良く火が通ったパンを齧るカーサと……

「ぜんぜん分からなかった」

珍しく感情 悔しさを滲ませるタバサ。周りの人間は近づきたくないオーラが満載。

「先住魔法でも無ければ無理」

メイジというもの、それが使う系統魔法の特性を理解しているメイジ 歴戦のガリア北花壇騎士としてタバサはそう結論付けた。
系統魔法とは異なるルールによって奇跡を起こす先住魔法 エルフや吸血鬼、翼人が使うソレらと同質である、と結論。

「おいおい! 俺は何処にでも居るただの地方貴族の娘さ。異端審問にかけられるのは御免だ」

カーサはもちろんブリミル教なんて欠片も信じてはいないのだが、宗教が肯定する暴力と非道の強大な力は良く理解している。
やんわりと否定しながら続ける。

「他のガキ共よりはやるみたいだが、まだ少し頭が固い。火の魔法じゃなくても火をつける方法はあるだろ?」

彼女が行ったのは全てが人の技術と知識で行える技。奇跡などではなく平凡な奇術。
新しい血族の圧倒的な力に頼らず、最後まで『人間の』犯罪者を貫いた葛西善次郎という人の全て。










一日の授業を終えてキセルを吹かしながら、中庭を散策するカーサが見つけたのは爆発だった。
別に難しい表現をしている訳ではない。中庭の一角で爆発音が響き、地面には無数のクレーターを刻んでいる。

「よぉ、ピンクのちっこいの。今日も絶好調だな」

クレーターの中心で荒い息を吐いている綺麗なピンクブロンドにカーサは話しかける。

「うるさい!!」

帰ってきたのは怒声だった。

「私にはルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールって言う名前があんのよ!!」

「はいはい、悪うございました、ルイズお嬢様。しかし今日も凄いな」

全く悪びれた様子など無く、カーサはルイズと名乗った少女に近づき、辺りを見渡した。
そこにあるのは穴ぼこの数々。これらは全て目の前の少女の魔法で作られた物だ。

「なによ……アンタはわざわざ私の聴こえる所で悪口を言いに来たの!? そうよ! どうせ私はゼロのルイズよ!」

そう、魔法は魔法でも失敗魔法。彼女が本来唱えていたのはレビテーションなどのコモンマジック。
だが起きるのは爆発。どんな魔法でも爆発、失敗。かのヴァリエール家にあるまじき陰口的な二つ名 それがゼロのルイズ。

「ゼロか……これだけ凄まじい威力なのにな?」

「むきぃ!! これ以上の侮辱は許さないわ! 決闘よ!!」

「イヤだね」

杖を構えたルイズとそれに躊躇い無く背を向けるカーサ。全く噛み合わない二人である。

「コモンマジックの速度と連射性を持った攻撃の軌道も読めず防御も効かない爆発を放つメイジと真正面から闘うなんて馬鹿らしい。
 やるならこっそりと燃やすに限る」

怒り狂っていたルイズは最後のカーサの語群に僅かながらに違った要素を感じ取ったのだろう?
なぜだかちょっとだけ嬉しそうに問いかける。

「ねっねぇ! それってもしかして褒めてたりするわけ?」

「んにゃ、褒めては無い。ただゼロはゼロなりに使い道があるだろ?って話だ」

「グガァ!!」

ルイズに唱えられた呪文はアンロック。普通ならば相手に殺意を持って唱える物ではない。
だが彼女だけは別だ。『ヤバい!』とカーサが逃げようと思ってももう遅い。とくに何を狙った訳でもないアンロックはカーサの足元の地面を爆発させる。

「■■■!!」

足元を爆破させられて、転ばないなんて絶対に不可能だ。走り出したばかりの勢いにも盛大に裏切られ、カーサは見事に転倒。

「オオォぉ……」

顔面をしたたかに打ちつけて、起き上る事も出来ずにズリズリと這いずりながら、逃げて行くカーサを勝ち誇った表情で見送って、ルイズは少しだけ気が楽になった気がした。




ごめん、全然わからない(ぁ


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