世界線0.091015
―――――――もう無理だよ
黙れ
「暁美ほむらです」
何度目の自己紹介だろうか。いつもと同じガラス張りの変わった教室で、変わり映えのしないクラスメイト。変化の無い質問、回答。同じ授業、同じ時間。
―――――――無茶だよ
うるさい
「保険室まで案内してくれる」
何度目の再開だろうか。いつもと同じ席、いつものメンツ。
――――――もう無駄だよ
騒ぐな
「ほむらでいいわ」
何度目のやり取りだろうか。いつもと同じ――――――いや、魔法少女ではない鹿目まどかは、自分のことを過小評価しているようにみえる。私のことを自信なさげにみつめる。
―――――――誰も私をみてくれない
喚くな
「鹿目まどか、あなたには――――――
―――――――だって私は、ここにいる私は、世界でただ一人の放浪者。そして―
やめろ やめろ
「あなたには、大切な―――
―――――――尊敬するマミさんも、声を掛けてくれた美樹さやかも、協力してくれた杏子も見殺しにして―
やめろ やめて これ以上は
「た、たい・・たいせつ・・・ッ、・・・・たい――
―――――――まどかさえも、この手で――
やめろやめろやめろだまれだまれしゃべるなわめくなほざくなあきらめたぶんざいでさけぶなわたしはまだやれるあきらめないあがくぜったいたすけてみせるなんどくりかえしてもなんどだって―――
―――――――殺すの?また?なんどでも?彼女を?この手で?
指先が震える。声がどもる。視線をまどかにむけられない。体の感覚がぐらつく。今まで何度だって繰り返してきたのに。私は―――。
いけない。だめだ、この感情はだめだ。これがでてきたらもう保てない。動けない。耐えろ。今はたえろ、まどかを助ける。私はもどるんだ。彼女達と共にいたあのころに。
―――――――戻れるの?
「―――――ッ」
暁美ほむら。友達――――鹿目まどかの不遇の未来をかえるため何度も時を繰り返し、そのたびに絶望をあじわった。それでも絶望を払いのけここまできた。そして、繰り返すたびに、まどかとの関係がはなれていく。諦めず今度こそ乗り越えてみせると繰り返すたびに、仲間のもとから、この身は孤独になっていく。
(だめ、弱気になるな。私はまどかをたすける。たとえ無限の時間に閉じ込められても絶対にわたし――――――
「えっと、ほむら・・・ちゃんと、私ってさ、どこかで会ったことあったけ?」
「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ」
――――――――――――――絶叫
まどか、まどかまどかまどか―――――――――――私はいるよ ここだよ ここにいるよ 目の前に――――いるんだよ やだ やだやだやだ やめて そんな目で そんな声で よくしらない他人のように接しないで 私は 私は――――――――ここにいるんだよ まどか――――もう もう一人はいやだよ 寂しいよ 怖いよ
「・・・・・・・・・・・・・・・助けて」
一人はもういやだよ
それは叫びだった。
―――――叫びかもしれなかった。それは叫びとは言えないかもしれなかった。それは叫んだ本人の近くにいた人間にも解らなかったほど小さな叫び。仮に場所が満員のエレベーター内でも誰にも聞こえない、小さな、吐息のような小さな言葉。ゆえにそれは叫びとは言えないかもしれない。
―――――――私のしてきたことは、私の願いは、無理だったの?無茶だったの?無駄だったの?
リーディング・シュタイナー
世界線を観測する岡部倫太郎の有する力。世界線の移動にともなう記憶の再構築を受けぬかわりに、移動前の世界線での記憶を保持することができる。本来はありえない現象。過去が変われば世界線は移動する。過去が変われば未来、つまり現在が変わる。過去を変えた時からの現在までの経験が変わる。右の道に進む過去を、左の道に進む過去に変えれば、右の道に進んだ経験は消去され、左の道に進んだ現在までの経験しか残らない。右の道に進んだ記憶は、世界線の移動とともに、左の道に進んだ記憶に再構築される。ゆえに、リーディング・シュタイナーをもたないものは移動前の記憶を保持できない。
かつて岡部倫太郎の仲間はいった。
『みたこともないのに、きいたこともないのに、何故か知っていたり。見たことがあるように感じる――――デジャブってやつ?それは別の世界線での経験を少なからず覚えているのかもしれないよね――――――つまりリーディング・シュタイナーは誰しもが持っている可能性があるね』
それは叫びだった。
―――――叫びかもしれなかった。それは叫びとは言えないかもしれなかった。それは叫んだ本人の近くにいた人間にも解らなかったほど小さな叫び。仮に場所が満員のエレベーター内でも誰にも聞こえない、小さな、吐息のような小さな言葉。ゆえにそれは叫びとは言えないかもしれない。
――――ほむらの脳裏に聞いたことのない言葉がきこえる
『無理だったかもしれない。無茶だったのかもしれない。でも―』
それでも少女には,鹿目まどかにはそれが聴こえた―。聞いているだけで身がすくみ、目をそらし、耳を塞ぎたくなる―――――、ただ一言の、決して表にはださないときめた。小さな小さな、本人すらきずかないその絶叫が――――聴こえた。
――――知らない青年の声
『絶対に無駄なんかじゃ無かった。』
だから――――世界は――――
世界線0.091015 → 0.954815
「助けるよ。ほむらちゃん」
世界線0.954815 → 1.264856
越える。
「私は、ほむらちゃんをたすける」
世界線1.264856 → 4.687157
声が聴こえる。
世界線4.687157 → 7.684265
まどかの表情はいつか、どこかでみた。―――自信に満ちている―――大好きなやさしい笑顔
世界線7.684265 → 世界線9.678541
「私は――――― 『俺は―――――
世界線9.678541 →
「ほむらちゃんと――――― 『君と――――――
「ここに――― 『ともに―――
世界線x.091015