定期検査中の原発の運転再開を巡り迷走ぶりが目立つ菅直人政権。退陣論も出ているが、菅首相は強気の姿勢を崩していない。7日の参院予算委では「首相官邸に籠城(ろうじょう)し、震災復興と解散権を人質にしている。まさに官邸ジャックだ」と追及されたが、首相は「憲法上の権限の中で、全力を挙げて仕事をしている」と、解散権をちらつかせつつ切り返した。
菅内閣の支持率は、毎日新聞の7月上旬の調査では19%に過ぎず、8月までの早期退陣を求める声も7割を超えている。にもかかわらず「ポスト菅」に名乗りを上げる有力者が出てこない。各社の世論調査で次期首相候補のトップクラスに挙げられる前原誠司前外相は「党内抗争になると復興事業に穴が開くと思い、みんなブレーキをかけている」と説明する。
「菅、三木政権酷似説」(5月7日)を紹介したことがある。弱体な政権基盤をカバーするため、「大義」を掲げた。三木武夫首相はロッキード事件の真相解明であり、菅首相は東日本大震災の復興だった。しかし、菅首相の場合、消費税の引き上げ、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、一体改革、脱原発と、打ち出す政治課題は次々に変わってきた。「全体構造を持たないから、各論しか出てこない」(民主党幹部)。政界浄化を持論とする三木首相にとって、ロ事件の真相解明が当然の帰結だった点は異なる。
自民党の山崎拓前副総裁は、日本経済新聞電子版に連載していた「わが体験的政界論」で、中曽根康弘、田中角栄の両首相経験者を「強烈なオーラを発していた」と評する一方「(そんな政治家は)今は皆無だ」「おしなべて温室育ちが多く、人間的な魅力に乏しい」と酷評する。
00年の「加藤の乱」当時、党派を超えて菅首相と盟友関係にあった加藤紘一・自民党元幹事長は、首相について「上昇志向と権力意識が強い」と評した上で「小沢(一郎・民主党元代表)氏と菅氏がズバッと投げ出し『後は好きなようにやれ』と言うのが一番いいのだが……」とつぶやいた。
菅政権による大震災の復興が、後世の史家から「最悪のミスマッチ」と糾弾されぬことを願うばかりだ。(専門編集委員、65歳)
毎日新聞 2011年7月9日 東京朝刊
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