きょうの社説 2011年7月9日

◎隣県知事との会談 富山がないのは不自然では
 石井隆一富山県知事が古田肇岐阜県知事と会い、観光や新エネルギー施策などについて 意見交換した。隣接する県のトップがこうして膝を突き合わせて話し合う機会を持つことは、共有する課題の解決に向けて協力して取り組む姿勢を県民にアピールする手法として有効であり、事務レベルの連携をよりスムーズにする効果も期待できよう。

 谷本正憲知事も、近年は古田知事や西川一誠福井県知事と、年1度の会談を重ねている 。ただ、2009年度以降の会談相手のリストに石井知事の名はない。石川県と富山県は、物理的な距離だけでなく歴史的にも文化的にも経済的にもつながりが非常に深い分、利害がぶつかる課題も少なくないため、かえって話しにくいという側面があるのかもしれないが、これには不自然さを感じる県民が多いのではないか。

 谷本知事と石井知事は、06年度の初会談にあたり、年に1度程度のペースで会うこと で合意し、実際に08年度まではその通り行われてきたという経緯もある。今年度はぜひ「復活」させてほしい。

 トップ会談で取り上げてもらいたいテーマはいくらでも考えられるが、特に「旬」なも のを一つ挙げるとすれば、やはり14年度の北陸新幹線金沢開業に伴ってJR西日本から経営分離される北陸線の将来像だろう。石川、富山県は先ごろ、北陸線を運営する第三セクター会社をそれぞれ独自で発足させることを決めたばかりである。もちろん、両県ともに、これから相互乗り入れなどの検討を行う方針を打ち出してはいるものの、北陸線を利用して金沢へ通勤・通学している人が多い富山県西部などでは、今よりも利便性が低下するのではないかと懸念する声が消えない。

 いくらトップ同士でも、現段階で具体的なダイヤや運賃体系などに関して踏み込んだ協 議を行い、そうした不安を打ち消すのはさすがに難しいかもしれない。それでも、トップ会談の俎上にこの件を載せ、石川、富山県の行き来が不便にならないよう、歩調を合わせて準備を進めていくことを確認するだけでも、不安を和らげられるのではないか。

◎レアアース紛争 「脱中国」の布石着実に
 世界貿易機関(WTO)の紛争処理小委員会が中国による一部レアメタル(希少金属) の輸出規制をWTO協定違反と認定した。この紛争には、レアアース(希土類)は含まれないが、日米欧が共同でレアアースについてもWTO提訴に踏み切る絶好のタイミングである。

 レアアースは中国が全世界の生産高の9割以上を占めており、日本は輸入量の8割を中 国に頼っている。昨年秋、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件をめぐって、レアアースの日本向け輸出を一時停止したように、中国はレアアースを国の戦略的資源として管理下に置く狙いを隠さない。

 WTO協定違反の報告書を受け、欧州連合(EU)は「中国は今後、自由で公正なレア アース貿易を行うべきだ」との声明を発表した。日本もあらためて輸出制限反対の意思表示をすべきではないか。さらに中国以外の供給地を求めて、オーストラリアやベトナム、米国などでの供給源の開拓を急ぎ、「脱中国」へ向けた布石を着実に進める必要がある。

 なかでも、日本の調査団が太平洋の海底で見つけたレアアースを含む広大な鉱床は有望 だ。2キロ四方の面積で、日本で使う1〜2年分を賄える上に、精錬の過程で問題になる有害な放射性元素がほとんどなく、探査も回収も比較的容易という。陸上での採掘とコスト競争力の問題は残るが、中国による値上げや輸出規制をけん制する意味でも発掘を進めていきたい。

 レアアースを含む巨大鉱床のほとんどは公海上にある。国際海底機構に申請し、発掘許 可を得ることになるが、関係国との調整が必要になる。日本の利益より国際協力を重視し、早期の合意形成を目指してほしい。

 ハイテク製品に欠かせないレアアースの価格が急騰し、商社やメーカーが警戒を強めて いる。生産の9割超を占める中国の輸出規制に加え、投機の対象にもなっている。中国当局はWTO協定違反を受けて、輸出規制を改める方針というが、期待はできない。このまま高騰が続けば、日本経済に悪影響を及ぼすのは間違いない。