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[28539] アニモ☆マギカ(魔法少女まどか☆マギカ)オリ主他参入・シリアスが失踪
Name: 木陰◆b3b6e2db ID:49465ea9
Date: 2011/07/07 01:34
思い余って投稿を始めた。
鬱要素はあまり入れたくないけど、入れざるを得ない。
……とか思っていたけど、シリアス書こうとしたらジンマシンが出たみたいに痒くなった。
シリアスさんマミったとか、シリアスは犠牲になったのだ……そう呟ける人、大歓迎な話になりそうです。
オリ主&オリ魔法少女、他妄想設定痛いお話何でもありありな作品ですが、感想がいただけると感謝感激雨霰。



[28539] 一発目「悪意のない余計な善意は迷惑極まりない」
Name: 木陰◆b3b6e2db ID:49465ea9
Date: 2011/06/25 02:41


「おめでと~ございまーす! お兄ちゃんは今日から念願の魔法使いです!!」
「え? は? 魔法使いって……僕、まだ十五だよ? 魔法使いまであと十五年はあるんだけど? っていうか急に何?」

 突然、部屋に入ってきて魔法使いの称号を贈り付けてきた妹に、少年――大橋渡は自身の『経験』の無さを暴露しながら、妹――大橋歩美の奇妙な発言に首を傾げた。

「うっふっふー、その魔法使いじゃないよ~。心配しなくても、お兄ちゃんの初めては私が貰ってあげるから!」
「いやいやいや、ダメだから。血の繋がり有る無しに兄と妹で家族で、そーいう発言ダメだから」
「いいじゃん別に~」

 拳を握って人差し指と中指の間から親指を覗かせるという、危険なハンドサインを見せる自分の妹の頭をはたく。
 口を尖らせる妹の顔に、本気と書いてマジと読む以外の文字が見当たらない辺りに寒気を覚えながら、渡は改めて先の魔法使い発言について問いかけた。

「で、魔法使いって何? 念願って言ってたけど、僕が好きなのは手から怪光線出して地形を変えたりする職業じゃなくて、変身して怪人と戦う系統の人達なんだけど」
「悪い奴吹っ飛ばすのは変わりないじゃん?」
「大違いだよ」

 頭の後ろで手を組んで歩美が言うが、こればっかりは断言しておく。
 正義の味方に憧れた少年にとって、細かく見えるところでも大きな違いがあるのだ。

「まあまあ、細かいことは脇に置いといて~。ちょっとさあ、なんか私、魔法少女にスカウトされちゃってさ。なんか話聞いてみたら、魔法少女になって魔女と戦う代わりに願い事をなんでも一つ叶えてくれる、つってたのよ」
「…………へえ」

 熱く自分が憧れた正義の味方の詳細について語ろうとする兄を黙らせ、ケタケタと笑いながら歩美が語った内容を聞いた渡が、微妙に距離を取って白い眼差しを向けてしまったのは仕方がない事だろう。
 今も心の片隅で正義の味方に憧れている部分があるとはいえ、悪の組織や秘密結社と戦う変身ヒーローがいない事を理解する程度の分別は持ち合わせているのだ。
 とりあえず今は妹と話を合わせて、もし話から重傷だと判断できるなら然るべき場所で診察してもらうべきだと考える渡を余所に、歩美は荒唐無稽な話を続けている。

「キュゥべえって言うんだけどね? この町の魔法少女がいなくなっちゃったせいで、少しマズイ状況になってるってわけ。で、どうしようかって困ってた時に、この歩美ちゃんが現れちゃったのよ。いや~、こういうの何て言うんだろ、劇的? もう漫画やアニメのお約束って奴だよね~」

 退屈な日常から一転、刺激あふれる非日常の世界に。
 確かに漫画やアニメで使い古された展開で、同時に廃れることのない心を躍らせる言葉だ。
 昔からアニメや漫画が好きで、よくそうした世界で活躍できる力が欲しいと口にしていた子だ。そのキュゥべえとやらの言葉に、一も二もなく飛びついたのは想像に難くない。

「一応聞いとくけど…………どこかで頭を打ったとか、街角で変な薬を勧められて購入した、みたいな事してないよね?」

 頭が痛くなってきた。眉間に指を当てて言外にアピールしながら問い質す渡に、歩美はやはりそういう方向で心配されるか、と苦笑いしながら懐を探る。
 取り出したのは、金色の装飾が施された台座に楕円形のエメラルド色の石が填められたアンティーク風の品。パッと見た渡の印象はホテルの朝食などで出される、やたらと派手な緑色のゆで卵を乗せたアレであったが。
 中に液体でも溜まっているのか、蛍光灯の明かりを受けて色を変える宝石を手のひらで転がしながら、歩美が自慢するように笑う。

「じゃじゃ~ん! これが証拠のソウルジェムで~す。ちょっと見ててね~、凄いんだよコレ、さすが魔法のアイテムって感じなんだから! むむむ~……」
「歩美? なにして――――?」
『えー、テステス。ただいまテレパシーのテスト中~。ヤッホー、お兄ちゃん聞こえる~?』

 額に当てて押し黙る妹に、何をしようとしているのか聞こうとしたところで頭の中に声が響き、出しかけていた言葉を引っ込めて渡はあんぐりと口を開けた。
 目の前で口を閉じて、悪戯っぽい笑みを浮かべている妹の声が確かに届いている。腹話術だろうか、それならそれで、彼女の声が耳ではなく直接頭の中に送られていると感じるのはどうした事か。

「え、あ? へ? ちょっとタンマ、待って、今種を考えるから」
『もー、手品じゃないんだから、種も仕掛けもないってば。言ったじゃん? 私、魔法少女にスカウトされたって』
「――――――――りありぃ?」
『いえ~す、ざっらぁい♪』

 口をパクパクと開け閉めした後、ゴクリと喉を鳴らして再度の確認を行った渡だが、妹が返した笑顔と頭に直送の言葉を聞くまでもなく、自分の身内が摩訶不思議な力を手に入れてしまった事実を理解していた。

「えー………何だコレ、どーいう状況? 妹が魔法少女とか、まったく訳がわからないよ」
「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」
「うん、まあ大丈夫じゃないけど、大丈夫だ問題ない」

 足の力が抜けて床に座り込んだ兄の顔を覗き込み、楽しそうな表情から一転、不安そうにする歩美に力無く混乱している事を伝えて嘆息。
 深呼吸を繰り返してある程度の落ち着きを取り戻してから、渡は妹の言っている事が空想や妄想の産物でないと踏まえて話を進めようと考えた。
 危機感のない妹に頭の痛みを増加させながら、ここに至ってようやく、自分の妹が不穏な発言と共に部屋にやって来た事を理解したからだ。

「と、とりあえず、お前が魔法少女になったのはいいとして……いや、お兄ちゃんとしては、そんな職業として続けられなさそうなものになる前に相談してほしかったんだけど、それは脇に置いておくとして」
「あ~、まあ二十歳近くになって魔法少女ー、なんて言ってたら痛いしね~。そういえばコレ、いつまで続ければいいんだろ、キュゥべえと契約して願い事叶えてもらうのに頭一杯で聞き忘れてたや」
「お願いだから、次から契約する時はちゃんと話を聞いてからしてね……」
「うっわ、お兄ちゃんそんな顔でお願いしないで、ちょっとゾクゾクしちゃう」

 弱々しく懇願する兄のどこに興奮する要素があるのか、足をモジモジさせて顔を赤らめる妹にため息を一つ溢して、渡は恐る恐る、まるでF判定だらけの模試の結果表を開くような心持ちで質問する。

「…………あのさ、歩美。お前が魔法少女になったっていうのがマジ話だとすると、部屋に入ってきた時の言葉が、僕には凄く不吉な発言に感じられるんだけど、『お兄ちゃんは今日から念願の魔法使いです』――って、どゆこと?」
「あ、説明するの忘れてた。うん、えっとね~、私的にお兄ちゃんが私にメロメロになってあんな事やこんな事をできるように~、でもよかったんだけどー」
「止めてよね、冗談でも妹にそんな不気味な願望口に出てほしくないよ、僕ぁ」

 ケアレスミスを指摘されたようにぺちり、と自分の額を叩いて、歩美は洋菓子屋の舌を出したマスコット人形の顔真似をしつつ、兄にとって衝撃的な願いの内容を明かした。

「キュゥべえも、こんな願い事は初めてで上手くいく保証はできないって言ってたんだけどね。私がお願いしたのは――――『魔法少女と一緒に戦える力を、お兄ちゃんにも持たせてあげて』、だよ」
「な、なんで?」

 寝耳に水や青天の霹靂なんていう言葉が可愛く聞こえる願いの内容。一体誰が頼んだのかと、驚きすぎて真顔になった渡が首を傾げる。

「え? 小学生ぐらいの時、言ってなかったっけ? 僕も正義の味方みたいに、悪い怪人をぶっ飛ばせる力が欲しいって。空手習い始めたのも、それが原因でしょ?」
「いや、まあ……うん、空手始めたのは、極めたら本気で気弾を出したりできるって思ったからだけど――って、僕の黒歴史発掘はいいから!」

 あの頃は純真だったのだ。男の子なら誰だって一度は、そうした不可思議な力に憧れて、「○○○スラッシュ!」と叫んだり、「○○流奥義!!」と言いながら剣代わりに傘を振り回した経験があるに違いない。
 胸中で言い訳を述べながら、小学生の頃から続けている空手を始めた理由に顔を真っ赤にしながら怒鳴る。

「いいわー、お兄ちゃんが恥ずかしがってるとこゾックゾク来るわー。あ、今夜のオカズはこれでイこっかな」
「絶対にダメ、止めて。っていうか、思春期まっさかりの女の子が、そういう発言恥ずかしげもなくしちゃいけないから。……それで何? 魔法少女と一緒に戦える力って、具体的にどーいうものなの」
「んー、その辺はちょっとよく分かんないから、後でキュゥべえに説明しに来てもらう約束してるんだ。安心して、ちゃんと成功したよって言ってたから」

 これっぽっちも安心できない適当な保証に頭を抱え、渡はフローリングの床に視線を落とす。
 木目を数えてみよう。とにかく今は、落ち着くために気を逸らせるものが欲しかった。
 もう少ししたら現れるというキュゥべえ――妹の言葉から判断するに、魔法少女に付き物のマスコット的存在だろう――なら、不安に溺れそうな自分に安心できる説明をしてくれるだろうと考えながら。




 それは、魔法少女になった妹に運命を変えられた兄の物語――
 それは、繰り返しの世界に加わった新しい魔法少女物語の一ページ――



[28539] 二発目修正(シリアス犠牲版)「選ばせてあげるって言う奴に限って、選択肢を一つしか提示しない事が多い」
Name: 木陰◆b3b6e2db ID:49465ea9
Date: 2011/07/02 13:21


 戦わなくちゃ生き残れない。戦わなくても生き延びられない。
 全ては願いを叶えた代償で、これは言うなれば当然の義務なんだから――
 とか格好付けて言ってたけど、とどのつまり、それって拒否権なんてないよっていう婉曲的な脅迫だよね?


 アニモ☆マギカ二発目(シリアス犠牲版)
 「選ばせてあげるって言う奴に限って、選択肢を一つしか提示しない事が多い」

 時は遡る事三日前――――
「つべこべ言わず、僕と契約して魔法少年になってよ」

 ガラス玉に似た、真っ赤な瞳が二つ、微動だにせず渡を見上げている。
 妹の魔法少女宣言(加えて、渡を魔法少女と一緒に戦えるようにしてもらった発言)による混乱から立ち直り、歩美との約束通り現れたウサギと猫のいいとこ取りをしたようなヌイグルミ生物――キュゥべえの発言は、どう表現すればいいのだろう、インテリ系ヤクザが醸し出す物騒な響きを持っていた。
 現在、妹の歩美は風呂に入るため、この場にはいない。魔法少女に付き物のマスコット的存在とはいえ、正体不明の生き物と差し向いで会話する状況に内心、怯えながら話を聞いていた渡の顔が、緊張とは別の理由で引きつった。

「いや、あの、キュゥべえさん? 会って早々そんな事を言われても困るんだよ……。やっぱりそれをやれと言うなら、それ相応の説明がないと。魔法少女とか魔女がどうとか、聞きたい事は山ほどあるんだけど」
「まあ、何も聞かずに了承するよりは賢いと、僕は思うね。それじゃ、少し長くなるけどちゃんと聞いてくれよ?」

 口元がヒクヒクと痙攣しているのを自覚しながら、それでも客人の手前、笑顔を維持して詳細を求めた渡に対し、キュゥべえは実に義務的で淡々とした口調で説明を続けた。
 どうして契約を対価に少女の願いを叶えるのか、魔法少女とは一体何なのか、そしてキュゥべえがどういった存在で、魔法少女達の敵である魔女がどこから現れ、その正体が何なのかまで――――出るわ出るわ、聞くほどに今までおぼろげながらに抱いていた、愛と希望に輝く魔法少女像が微塵に粉砕されてしまう内容目白押し。

「…………魔法の国の愉快な仲間たちかと思ったら宇宙生物か!」
「君たちから見ればそうなるのかもしれないね。とにかくまあ、これで僕の話は理解できたかな?」
「ああ、くそ、皮肉のつもりだったのに全然通じてない……」

 頭痛に耐えながらの渾身の突っ込みも素っ気なく流され、渡が悔しげに頭を抱えて唸る。
 夢も希望もありゃしないとは、正しくこういう状況を言うのだろう。
 キュゥべえことインキュベーターの話を頭の中で整理して、余計に気が滅入る。どうして魔法少女なんて単語が出てくる世界に、宇宙の寿命がどうのこうの、熱力学の第二法則がどうのと関わってくるのか。
 魔女を倒してグリーフシードを集めないと、魔法の国が滅んでしまうんだ、とか言われた方がよほど受け入れやすい。宇宙の死を防ぐために考案された延命措置に必要な魔法少女が魔女化する時に発生するエネルギー欲しさに、外見だけは可愛いキュゥべえが、モグリの金貸しも真っ青な営業活動に勤しんでいると知った今の心境だと。

「つまるところ、魔法少女として契約する時に願いを一つ叶えて借金させて、魔女退治でそれの利息を返済するけど、現実に打ちのめされて首が回らなくなった魔法少女は魔女になっちゃうと。ぶっちゃけ、キュゥべえ達が黒幕って事でいいんだよね?」
「それは斜めに見すぎだね。勘違いしないでほしいけど、別に僕たちは君たち人類に悪意があるわけじゃない。ただ、いずれこの星を離れて僕たちの仲間入りを果たすんだ、その時必要になる参加費を前払いをしてもらってるだけだよ」

 そうした言い分を、地球では詐欺とか詭弁と呼ぶのだと教えてやりたかったが、鯨を食べちゃいけませんと叫んでいる団体に、うちには鯨を食べる文化があるんですと理解を求めるようなものだろうと口を噤む。

「こんな話を聞いたのに魔法少女になったのか、歩美の奴……?」
「歩美には契約した後に説明したからね」
「オイ」
「もう、これでもかってぐらい僕を鉄パイプで殴打してくれたよ。けど、その後で出された質問に答えたら、手のひらを返したみたいに君との契約を勧めてくれたね」
「何でさ?」
「さあね」

 我が妹ながら、いろいろと頭のネジがゆるみ過ぎではなかろうか。首を傾げる渡に、キュゥべえはしれっと返した。

「でも不思議だね、君たちは。願いを叶えておいて、どうして詳しい話を聞くと契約なんかするんじゃなかったとか、騙されたなんて人聞きの悪い事を言うのかな。この間なんて、問答無用で銃撃してくる子もいたし……まったくわけがわからないよ」
「いや、分かれよ」

 諦め混じりの半眼で二度目の突っ込みを行った渡を完全に無視し、きゅっぷいと奇妙な鳴き声を上げて笑みを浮かべて首を傾げるという、媚を売った態勢でキュゥべえは少し前の言葉を繰り返す。

「というわけで渡、四の五の言わず僕と契約して魔法少年になってよ」
「さっきまでの話の流れで、どうして僕が契約すると思えるのかな!?」

 ヌイグルミじみた外見の下にある正体を知った後では、一ミリたりとも心ときめかない不思議生命体に、そろそろ渡の忍耐も打ち止めになりそうだった。

「ダメだこいつら、早くなんとかしないと……」

 ろくでもない雇用条件も聞かずに魔法少女になった妹に、契約する代わりに願われたという理由で、勝手に人を魔法少女ならぬ魔法少年になれるよう体を弄くり回してくれたらしい生物に向けて、精一杯のため息を吐き出しておく。
 身の危険が危ない。主に自分の。すでに峠のガードレールを突き破って、崖を奇跡のドライビングテクニックで駆け落ちている真っ最中な気もするが。
 ついこの間、着替え中の自分を押し倒して、本気の目で「やらないか」と妹が言ってきただけでも悩ましいのに、それに加えて魔法少女物と見せかけた似非SF風借金返済物語に関われと言われて、はいそうですかと頷く馬鹿がどこにいるのか。

「よく聞いてくれよ、キュゥべえ。絶対にごめん被――――るぅん?」

 恐らく宇宙史上初になるであろう、宇宙人に対してノウと言える日本人になろうとした渡だったが、ふと脳裏に浮かんだ考えに、語尾が尻上がりに止まる。
 自分と契約すると言う事は、即ちそれはどんな願いでも必ず一つは叶えるという事。
 インキュベーターなる存在がいかほどの能力を備えているのかは不明だが、少なくとも漫画の七つの玉から出てくる龍神様ぐらいの事はやってのけそうだ。
 頭の中で再度、魔法少女や魔女その他に関する情報を整理し直して問う。

「ね、ねえキュゥべえ? いざって時に無理とか言われたくないから、前もって聞いておくけど…………願い事って、例えば魔女になった魔法少女たちを元の女の子に戻してー、とかでも大丈夫なの?」
「君が願いさえすれば、それも不可能じゃないかもね。ただ先に教えておくけど、願い事は自分の力ー魔力だけじゃなくて、想いの力もだね。それに見合ったレベルにしておかないと、歪めすぎた因果に存在を食い尽くされちゃうよ? ついでに教えておくけど、歩美の願いで得た君の魔法少女……じゃないや、魔法少年としての力じゃ、とてもじゃないけど、ね」
「そ、そうかー」

 ガックリと肩を落とした渡にキュゥべえはかぶりを振って嘆息し、聞き分けのない子に話すように続ける。

「僕たちだって、むやみやたらに魔法少女を消費したいわけじゃないんだけど、こればっかりはどうしようもない。だって、魔法少女がいなきゃ魔女は生まれないんだから」

 いずれ魔女になる少女たちなんだ、魔法少女って呼び方が相応しいよね。
 目を見開いた笑顔という空恐ろしい表情で言い放ち、距離を開けて震える渡に歩み寄る。

「宇宙全体と毎秒百人ずつは生まれる君たちから選ばれる単一個体、どちらを重要視するかなんて考えるまでもないだろ?」
「き……奇麗事でお腹が満たされないのは重々承知してるけど。なんでかなー、キュゥべえの言葉に頷いちゃうと、人として終わりな気がするなー」

 かといって、人の命は平等だとか人類皆兄弟で反論したところで、容易く論破されて終わりそうでもある。

「さあ渡、せっかく歩美がチャンスを与えてくれたんだ。宇宙を生き延びさせるための礎として、僕と契約して男性初の被検体……じゃなかった、魔法少年になってよ!」
「思い切り実験台扱いしたよね、今!?」
「気のせいさ。ただ、僕としては第二次性長期の男の子が持つ感情エネルギーが、女の子のそれに並ぶのか興味はあるけど」
「あ、悪魔だ……白い悪魔だよ、これ」

 きっと、悪魔が微笑むとこんな感じになるのだろう。見ていて腰が砕けそうになる笑顔を浮かべるキュゥべえに、いい加減掴みかかって中身が出るまでシェイクしてやろうかと渡が頭を抱えて唸る。
 今なら名誉毀損に人権侵害で情状酌量の余地が付きそうな気がする。
 ギリギリと歯を軋らせ、耐え難きを耐え云々と、昔の偉人が残した名言を口の中で繰り返して平静さを維持するという渡の涙ぐましい努力も、しかし感情をほとんど持たないインキュベーターに理解できるはずもなく。

「君は一体何をしているんだい?」
「……異文化コミュニケーションの大変さを噛み締めてたとこ」

 呑気に尋ねてくれるキュゥべえに、全てを胸の内に秘めて、ただ弱々しく答えた自分は正しかったのか。
 考えたところで意味はないのだろうな、と少し荒んだ眼差しで天井を見上げながら鼻を鳴らす。

「よし、それじゃあ善は急げだ。渡、願い事は決まったかい? 早く君の中からソウルジェムを取り出しちゃおうよ」
「なんだろうなー、こういう状況――――――――ああ、そうだ」

 顔は上に向けたまま、視線だけキュゥべえに向けていた渡だが、すぐに現状を表すのにこれ以上なく相応しい単語を思い出し、ぽつりと蚊の鳴くような声で呟いた。

「――――――――連帯保証人だ」

 その呟きに含まれた感情を、インキュベーターは理解できるのか。
 それとなく興味が湧いた気がしたが、きっとそれは現実逃避なのだろう。
 耳を蠢かして近寄るキュゥべえからジリジリと後退りしながら、そんな事を渡は考えていた。



[28539] 二話について
Name: 木陰◆b3b6e2db ID:49465ea9
Date: 2011/07/02 13:22
あの後続きを書いてみたけど、どうにもしっくりこなかったので、最初に考えていた設定の痛い方と、内容のひどい方の後者で進めなおす事にしました。
キュゥべえがなんかおかしくて、他のキャラもちっとばかし壊れてる、シリアスじゃなくてシリアルな内容ですが、それでも構わんという方、感想指摘アドバイスお願いします。



[28539] 三発目「例え体が朽ち果てようと、この魂だけは……って、そんなの無理に決まってるじゃないか」
Name: 木陰◆b3b6e2db ID:49465ea9
Date: 2011/07/07 01:35
アニモ☆マギカ三発目
「例え体が朽ち果てようと、この魂だけは……って、そんなの無理に決まってるじゃないか」




 力を手に入れる切っ掛けというのが幾つかある。
 例えば窮地に陥り、眠っていた力が覚醒する。例えば、何か神様的な存在に見出されて力を与えられる。例えば、遺跡などに封印されていたものに触れて――――等々。
 そういった力を手に入れる経緯をありきたりと呼ぶか、お約束、あるいは古典的と呼ぶかは人それぞれではあろうが、少なくとも誰もが一度は考えたはずだ。
 「自分にも不思議な力があったらなー」、と。
 常識から外れた摩訶不思議な力や能力を手に入れたい。子供じみた考えではあるが、齢三十半ばを過ぎて実家に寄生しているような、まるで駄目な中年――俗に言うニートなどが口にしない限り、少しだけ懐かしくて苦い笑いを提供してくれるはずだ。
 そのはず、だったのだ。幼き頃、変身して悪い怪人と戦うヒーロー達に憧れた大橋渡少年にとって。

「あっはっは、改造されて凄い力を手に入れるとか、定番中の定番だよねー」

 それが悪の手先どころか、諸悪の権化みたいな存在の手によるものなら尚更。
 自室の床に手をついて渡が項垂れていた。
 グルリグルリと視界が回る感覚。耐えがたい吐き気を覚えて嫌な汗を滴らせている。

「ふーん、やっぱり兄妹だからかな。渡と歩美のソウルジェムはよく似てるよ」

 渡から少し離れた場所で、キュゥべえが興味深げに呟いていた。
 ぺしぺしと前足を交互に出して、何かを左右に叩いて転がしている。

「うっぷ……だ、だから、さっきから止めてくれって言ってるだろ」
「ソウルジェムの大切さを理解してもらうためだ。もう少し頑張ってみてよ」
「僕……には、嫌がらせにしか思えないよ……こん畜生」

 ウサギと猫のいいとこ取りをしたようなヌイグルミ――キュゥべえが交互に繰り出す前足の間を、卵の形をした深緑色の宝石が転がっていた。
 どういう仕掛けか、キュゥべえが触れる度、装飾された鶏の卵大の宝石がぼんやりした光を生む。それが右にコロコロ、左にコロコロ弾かれて転がる度、渡の口から弱々しい呻き声が漏れるのは、端から見れば奇妙な光景であった。

「よく分かっただろう? これがソウルジェムに干渉されるって事さ。くれぐれも、落としたり無くしたりしないでくれ。もし下手に扱って砕けたら、それはそのまま君の死を意味するからね」
「だからって、これはやり過ぎ……………………か、か……回復したら……皮をひん剥いてやるからな……」

 ソウルジェムの大切さを教えるとの名目で、好き放題に転がされた恨み言が途切れ途切れに口から漏れる。
 ちらりと流し目を送り、キュゥべえは仕方がないとアピールするようにかぶりを振った。

「やれやれ、君のためを思っての行動だったのにな。体を潰されても困りはしないけど、勿体ないから精一杯、抵抗させてもらうよ。ねえ渡、今どんな気持ちだい? 文字通り手玉に取られて、今どんな気持ちだい?」

 ソウルジェムを取り返そうと伸ばした渡の手を軽々と躱し、全身を使って器用にリフティングしながらキュゥべえが尋ねる。
 無表情で同じ事を聞いてくるのが、たまらなく腹立たしい。倍増した吐き気に加え、眩暈まで感じ始めている。
 自分の魂を弄ばれるのが、ここまで辛いとは思わなかった。四つん這いの態勢も維持できず、床にうつ伏せで倒れた渡の口から、煙が立ち上るように言葉がのぼる。

「もう、無理……。神様仏様インキュベーター様……卑しい石ころに身をやつした私めに、どうか僅かばかりのお慈悲を……」

 ソウルジェムとは魂を物質化して、体外へ取り出したものらしい。原理はよく分からないが、とにかく凄い技術ではある。
 肉体と精神の連結を外す事で強すぎる痛みを軽減し、少しでも魔女と安全に戦えるようにとの配慮とはキュゥべえの言葉。それを説明なしに行っていたというのは迷惑極まりない話だが、そこさえ気にしなければ確かに効率的だ。
 うっかり落として紛失したり、盗難されたりした時が怖いが、生きている事に変わりはないと思えるなら、実に理に適ったシステムである――――そんな事を考えた少し前の自分に、これは言うほど便利なシステムではないと教えてやりたかった。

「やれやれ、こんなんじゃ先が思いやられるよ。いいかい渡、このソウルジェムは君自身なんだ、肌身離さず持っておくんだよ」
「りょーかい……」
「フウ……今日はもう遅いし、僕は帰るよ。じゃあね、渡」

 観察に飽きたのかソウルジェムを渡の手に乗せて、キュゥべえがさっさと部屋を出ていく。心なしか足取りが軽いのは、散々人の魂で遊んだからではないと思いたい。
 長い尻尾がドアの隙間から消えるのを顔だけ持ち上げて見送った後、渡は心底疲れた声で、しかし目だけは力強く光らせて呟いた。

「こ、この恨み……晴らさで……うっぷ……おくべきか」

 二度とキュゥべえには自分のソウルジェムを触らすまいと誓いを立て、今日はもう寝ることにする。
 ソウルジェムを返却してもらった途端、吐き気や眩暈があっさり消え去った事を喜ぶべきか、それとも、願い事を叶えてもらうためとはいえ、契約を結ぶのは軽率だったと後悔すべきかと悩みながら、渡はのろのろと這うようにしてベッドに向かった。




「あれー、どしたのキュゥべえ、帰っちゃうの?」
「うん、渡とも無事に契約は済ませたし、今日のところはね」
「味気ないな~。うち、私とお兄ちゃんだけだから、部屋余ってるんだよね。寝床ぐらい言ってくれれば貸すよ?」
「ありがとう。でも、これから他の場所にも用があるんだ」

 廊下の向こうから歩いてきた歩美が、反対側から現れたキュゥべえに気付いて声をかけた。風呂から上がったばかりで上気した顔を手で扇ぎつつ、無邪気な笑顔で宿泊を勧めてくる。
 会って間もないはずだが、その口振りには親しい知人に対する響きがある。
 やんわりと断りを入れたキュゥべえに歩美は苦笑いしながら残念と呟き、何かを思い出したようにパンッと手を打ち鳴らした。

「あっ、そーだそーだ、キュゥべえ。お兄ちゃんの願い事、どんなだった?」

 断り無く聞くことに多少の申し訳なさは感じるが、それでも兄のことだ、バレたらバレたで諦めた風に「別にいいけど」と許してくれるに違いない。

「やっぱり妹として、お兄ちゃんのやることなすこと、可能な限り把握しておかないとだめだからね!」

 根拠の不明な理由に身を任せ、自己弁護以外の何でもない断言と共に力強く拳を握る。

「へえ」

 そんなものか、とキュゥべえが素っ気ない返事をする。
 肉親血縁といったものを持たないキュゥべえからすると、歩美のこの考えは理解の範疇に含まれないが、お互いが持つ情報を共有して知識を均等化させるというのは、インキュベーターの間で常に行われている事だ。恐らく、それと似たようなものだろう。
 適当な推測を立て、キュゥべえは歩美との会話に意識を戻す。

「歩美もそうだったけど、君たち兄妹が願った奇跡は、僕にはどうにも理解できないよ」
「え~、そうかな?」

 キュゥべえの言葉に思い当たる節がないのか、不服そうな顔で歩美が首を傾げる。

「私の願い事はさ、ほら……お兄ちゃんが好きで好きでたまんない、可愛い妹からのプレゼントって感じだと思うんだけどねー」
「好きだった人間と自分を同一の存在にしてほしい、みたいな願いはあったけど。君みたいな、他人に力を持たせるような願いは初めてだよ。まあ、お陰でこれまでなかった男の子との契約が初めて成ったわけだし。これは極めて稀なケースとして今後に活かせるかもしれないね」

 最も自分達が期待しているのは、渡のソウルジェムが濁りきった時に生じるエネルギーにあるとは言わないが。
 既に魔法少女と魔女の関係を説明している以上、ある程度の察しはついているはずだ。特に抗議もしてこないのは、歩美も納得尽くで渡との契約を推奨してきたからだろう。
 キュゥべえの勝手な解釈を知ってか知らずか、歩美はぶつぶつと独り言を呟いている。

「お兄ちゃんが初めての男の子……初めての男の子がお兄ちゃん…………お兄ちゃんの初めてを私が……うん、なんかドキドキしてきた……!」
「君はいったい何を言ってるんだい?」
「何ってナニよ……って言わせないでよ、恥ずかしい」
「…………」

 そういえば、人間は地球上でも数少ない万年発情期の生物だった。
 一人妄想に身悶えする歩美を、あまり感情を持ち合わせていない瞳で冷ややかに見やる。

「……ゴホン。いやー、失敬失敬。そろそろ話を、お兄ちゃんの願いの内容に戻そっか」
「そうだね」

 真っ赤なはずのキュゥべえの瞳に白いもの感じたのか、わざとらしく咳払いした歩美が、とってつけた真面目面で提案した。
 こちらとしてもありがたい。色々な意味でついていけない会話が終わるのは、キュゥべえにとって歓迎すべき事なので、特に反対もせずに頷いておく。
 どうにも歩美と話すのは疲れを感じさせる。言葉を交わす度にそれを痛感する。
 渡と話した時、異文化コミュニケーションの大変さを噛みしめて云々と彼が言っていたが、それはこちらの台詞だと言いたい。

(感情なんて、僕らからすれば精神疾患の一種でしかないからね)

 宇宙の寿命を延ばすためとはいえ、その精神疾患と呼ぶ感情が生むエネルギーに頼るしかなかったのは、なんとも皮肉な話だが。
 わけがわからないよ、と声に出さずに毒を吐くキュゥべえに構わず、目を輝かせた歩美が詰め寄った。

「で? で? お兄ちゃんの願い事ってなんだった? 女の子にモテたいとか、精力絶倫で持て余すとかだと嬉しいんだけど、主に私が」
「君は結局、そこにしか興味を持ってないのかい?」

 思えば契約を交わした時も、「これでお兄ちゃんが感極まって、勢い余ってその場の空気で最後までイッちゃったら……エヘヘヘヘヘ」と怪しげな笑みを浮かべていた。

「この星には近親姦に対する禁忌があったはずだけど……」
「宇宙の大きさに比べれば、そんなの小っちぇ問題だよ」
「そうか、君がそう言うのならその通りなんだろうね」

 何故かしたり顔で舌を鳴らしながら指を振る歩美に、突っ込みを諦めてキュゥべえは話を合わせておく事にした。
 自分達から見て重度の精神病患者が言うこと。分からない事、理解できない事は放置しておくに限るのである。
 ため息が出そうになるのを堪えて、この場を去るために話を再開する。

「渡の願いはね、歩美。『魔法少女の絶望以外の感情エネルギーを優先して回収しろ』、だよ」
「…………えーっと?」
「まったく、初めての案件が二件も続くなんてね」

 言葉の内容がよく理解できなかったのか、きょとんとした顔で首を傾げた歩美に今度こそため息をついてキュゥべえは、渡と契約した時に言われた言葉を聞かせた。

「正確には、絶望からエネルギーを回収するのは最後の手段にして、魔法少女達が喜んで、楽しんで、幸せだと感じた時の感情エネルギーを優先して回収しろ。無理なら、回収できるようにソウルジェムをバージョンアップしろ……が渡の願いだったんだよ」

 こちらの苦労も知らず、好きに言ってくれると愚痴る代わりに、尻尾を使って床をリズミカルに叩く。
 自分達インキュベーターが、魔法少女が幸福から絶望に転じた時に生じる感情エネルギーを集めているのは、それが最も効率よく回収するための方法だったからだ。
 正直な話、絶望以外の感情から生じるエネルギーを優先して集めたところで、スズメの涙程度でしかならないというのに、面倒な願いを出してくれたものである。

「ふ~ん。お兄ちゃん、そんな事に一度っきりのお願い使っちゃったんだ。もったいな~」

 パタパタと尻尾で床を叩いて不機嫌さを醸し出すキュゥべえを抱き上げて、頭を撫でてやりながら呟いた歩美の表情は、妙に落ち着きを感じさせた。
 つまらなさそうにしていると同時に、納得もしている。そんな様々な感情が入り混じった複雑な表情が、逆に歩美の表情をそのように見せているらしかった。

「ま、しょ~がないか、お兄ちゃんだし。よかったね、キュゥべえ」
「どういう意味だい? 僕としては、こんな効率の悪くなってしまうお願いをされるのは、非常に好ましくないんだけど」

 高い高いをされながら冗談ではないと抗議したキュゥべえに、歩美はどこか覚めた眼差しで見返して、同情するように告げた。

「お兄ちゃんって人畜無害そうな顔してるくせに、結構酷いこと平気で言ったりやったりするからさ。何でもしますって言った相手に、じゃあ死んでぐらいはお願いしちゃうんじゃないかなー」
「…………」
「とりあえず、無理に魔法少女たちを絶望させなくてもエネルギー回収できるようになってラッキー、ぐらいに考えとけばいいんじゃない? やったねキュゥべえ、エネルギー回収の機会が増えるよ!」

 それはつまり、自分達の存在を消滅させる類の願いもあり得たという事だろうか。
 冗談めかして話す歩美に好き放題弄られながら、口を噤んで考えていたキュゥべえだが、いつまでも黙っているわけにはいかないとは判断して問い掛ける。

「でも歩美。渡の願いは君たちからすれば、根本的な解決にはなってないんじゃないか?」

 結局のところ、渡の願いでは絶望した魔法少女が魔女化するのは避けられない。
 喜びや楽しみといった感情から生じたエネルギーも回収できるようになっただけで、絶望した時に生じる感情エネルギーが最も強大である事も変わりない。
 確かに歩美の言う通り、手間も増えたがエネルギー回収の機会も増えたに過ぎない。
 腕の中から訝しげに見上げたキュゥべえに視線を返し、歩美は微笑んだ。

「うん、けどこれで魔法少女は絶対に絶望させなきゃいけない、って訳じゃなくなったんでしょ? お兄ちゃん的にはそれで十分なんだよ」
「あのね、歩美――――おっと」

 別に自分達が率先して魔法少女を絶望させているわけではないのだが。そこを訂正しようとするよりも早く、歩美が地面に下したキュゥべえの鼻先を指で弾いた。

「あのねキュゥべえ、お兄ちゃんがどうしてそんな願い事をしたのかっていうとね。気さくな悪魔のおっさん風に言うと、人間のちっぽけな頭は迷路の出口が見つからないと、すぐにもう死ぬことを考えちゃうのさ。結局は辛抱し通した人の勝ちなのに。私たちみたいな魔法少女にとって何が悪趣味かって、絶望する魔法少女ほど悪趣味なものはまずありますまいっていうのにね~」
「……その話と渡の願いがどう繋がるんだい?」

 言うだけ言って、さっさと背を向けた歩美をキュゥべえが呼び止めたのは、後々利用できるであろう人間の心理を学習するため。
 でなければ、病人のうわ言で切って捨てることのできる言葉の意図するところを尋ねたりはしない。
 そんな考えも知らずに、興味を持たせることに成功したと言いたげな笑顔を浮かべる歩美を、何と呼ぶのか。少し考えて、すぐにキュゥべえの脳裏に相応しい言葉が浮かんだ。

「キュゥべえは本当にバカだなあ。嬉しい楽しい幸せ一杯。夢と希望がなきゃ、魔法少女は名乗れないんだよ♪」
「………………そこに渡は含まれているのかい?」
「あ、そうだった。まあまあ、細かいこと指摘するの禁止!」
「そうかい、分かったよ」

 そう、こういうのを人間なら滑稽と呼ぶのだろう。

「――――お兄ちゃん。おめでと~♪ これで私と一緒に、この町の平和を守れるね~」
「いや、魔女って元は魔法少女なんだし、できればそんな機会は無いに越したことはないんだけど……」
「ま、そうなんだけどね~……クンクン……クンカクンカ……エッヘヘヘ」
「……お願いだからさ、妹よ。兄の匂いを嗅いで恍惚とするのやめて……怖い」

 渡の部屋に駆けていった後、何やら心地良さそうにしている歩美と、そんな妹へ面倒そうに抗議する渡の声を背中に、キュゥべえは廊下を進む。

「まったく……わけがわからないよ」

 今日だけで、この台詞を何度口にさせられたのか。
 玄関の戸を開けることなく、大橋家から姿を消したキュゥべえの疑問に答える者はどこにもいない。
 それを幸運とするか、不幸とするか。残念ながら、感情らしい感情を持ち合わせないインキュベーターである彼に、判断する事は出来なかった。


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