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社説:原発耐性試験 欧州以上に徹底せよ

 政府は全国の原発施設に「ストレステスト(耐性試験)」を課すことを決めた。本来、もっと早く実施すべき施策であり、ここに至った経過にも疑問は残るが、各原発の安全性を評価する上で一歩前進だ。

 東京電力福島第1原発の事故後、原子力安全・保安院は複数の応急措置を指示してきた。しかし、各原発の脆弱(ぜいじゃく)性が総合的にどう克服されたかは示されていない。

 福島のように設計上の想定を超える事象が起きた場合に、原発の安全性はどう確保されるか。さまざまな防護策が次々失敗し過酷事故にいたるまでにどれぐらい余裕があるか。ストレステストでは、総合的に示すことが求められる。

 テストの手法と実施計画は、原子力安全委員会の要請に基づき保安院が作成する。手法や項目はテストの信頼性の要だ。初めから「合格ありき」にならないよう、時間をかけて緻密に作ってほしい。テスト終了まで再稼働を見合わせるのは当然だ。

 福島の事故を踏まえた原発のストレステストは、すでに欧州連合(EU)が6月から実施している。地震や洪水、竜巻、豪雨といった自然災害に加え、航空機墜落やテロ攻撃なども評価対象としている。

 日本では主に津波・地震を対象とするが、過酷事故は何が要因で起きるかわからない。事故の当事者である日本のテストがEUより手薄というのもおかしい。中途半端なテストに終わらせず、欧州以上に徹底した試験を実施してほしい。

 EUのテストでは電力会社の報告を国が点検し、これをEUの専門家チームが相互審査する。日本では、原発推進の経済産業省と規制当局である保安院の一体化が懸念され、電力会社の報告を保安院がチェックするだけでは信頼性が保てない。

 少なくとも安全委が各原発のテスト結果について独立した立場で評価する必要がある。強い権限を持つにもかかわらず安全委のこれまでの姿勢は消極的過ぎる。もっと積極的に安全確保にかかわるべきだ。

 それにしても一連の経過はお粗末だった。海江田万里経産相は、応急措置に基づいて九州電力玄海原発など定検中の原発に「安全宣言」を出した。菅直人首相もこれに同調していたと見られるが、一転してブレーキをかけ、あつれきを生じている。

 テスト自体に意義があっても、こうした一貫性のなさは国民の不信につながる。ましてや、これも「首相の延命策」と見られる始末だ。

 混乱を背景に、経産相は「テストは安心のため」と述べている。しかし、国民は単なる安心を求めているのではない。実質的な安全評価にこそテストを役立ててほしい。

毎日新聞 2011年7月8日 2時32分

 

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