政府は欧州連合(EU)に倣って、全国の原子力発電所を対象にした新たな安全検査を実施する、と表明した。
海江田万里経済産業相は「より一層の安心感を得るため」と言い、菅直人首相は「原発の安全性について、従来のルールだけでは不十分だから」と説明した。
それは分かるが、出し遅れた証文のようだ。なぜ、いまごろになってと思う。やろうと思えばもっと早くできたのだ。
佐賀県の古川康知事も、同県玄海町の岸本英雄町長もキツネにつままれた気分ではないか。玄海町の九州電力玄海原発で定期検査のため停止した2、3号機の運転再開に協力を得ようと、海江田経産相が訪問したのは1週間ほど前だった。
玄海2、3号機の安全性は国がしっかり保証する。海江田経産相の言葉に岸本町長も古川知事も納得したのだった。そして、岸本町長は再開に「同意」した。
そこまで再開に段取りをつけた経産相が、今度は「地域住民のより一層の安心を得るため、より安心感を高めるため」に追加的な検査を実施するのだという。
ただ、検査内容の詰めはこれからというのだから、手順がばらばらである。
欧州で「ストレステスト」と呼ばれる包括的な特別検査の実施が決まったのは今年3月だった。もちろん東京電力福島第1原発の事故を受けてのことである。
大地震と大津波はすさまじい破壊力を見せつけた。福島第1原発事故は欧州にとって大きな衝撃だった。「予期せぬことが起き得る」ことを再認識させた。
しかも、深刻な事故が起きれば、影響は一国にとどまらず、周辺諸国に及ぶ。だからEU加盟国だけでなく、ロシアなど周辺国にも特別検査を呼びかけた。
4月に具体的な方法を詰め、5月に合意し、EU域内の143の全原発について順次、実施していくことになった。
欧州の検査では、地震や洪水など自然災害に加え、テロリストが航空機を乗っ取って原発に突っ込んできた場合なども想定しているのが特徴の一つといえる。
さらに、事業者による結果報告、規制当局による報告の点検に加え、第三者による検証の仕組みを整えたのも特徴だ。
検査の透明性、客観性を高めることで、仮に問題がある原発が見つかったら、世論の力によって改善を迫り、場合によっては廃炉まで進めようと考えた。
一方、日本では既に「安全宣言」が出ている。経産省原子力安全・保安院が3月30日に指示した緊急安全対策、6月7日に指示した追加的対策について、いずれも事業者の対応は適切と評価した。
だが、欧州に倣えば、事業者と規制当局のいわば身内のチェックでは国民の理解が得にくいことも想像できたろう。
安全と言いながら追加検査をする。一人芝居だ。性格付けも目的も、どこかあやふやで思い付きにも見える。今回の検査も、お茶を濁すようなことでは何にもならない。きちんとした基準や態勢を整えて厳正な検査を実施すべきだ。
=2011/07/07付 西日本新聞朝刊=