2011年5月15日 20時21分 更新:5月15日 23時1分
震災の津波で、岩手県陸前高田市にあった漁船1346隻のうち、すぐに使えるのは約4%の53隻しか残っていないことが地元漁協への取材で分かった。政府は11年度第1次補正予算に対策費用を盛り込んだが、漁協などが共同で使用する船が対象。個人所有の船を失った漁師たちも支援を求めている。
陸前高田市広田町長洞(ながほら)の漁業、前川勇一さん(64)は、個人で所有する漁船3隻すべてを津波で流された。アワビやワカメの養殖やタコ漁などに使っており、購入額は計約1100万円。「落ち着いたら収入が見込みやすいワカメの養殖から再開したい」と望むが、養殖に使う1トン級の船や、近海に出る1.8トン級の船を手に入れるあてはない。漁船保険で約300万円もらえることは決まったが、その時期も未定だ。
地元の広田湾漁協によると、管内の漁船1346隻のうち、すぐに使えるのは53隻。修理すれば使えるのが287隻、残りは修理不能か所在不明という。
政府は第1次補正予算に「共同利用小型漁船建造事業」約75億円を計上。漁協などが共同使用する小型船を造った場合、国と都道府県が費用を3分の1ずつ負担する。個人所有の船は「個人の財産形成につながる」(水産庁)として対象外だ。
しかし「商売道具」を失った前川さんの貯金はこのままだと1年ほどで底をつく。「漁船は家と同じぐらい大事。個人の支援は難しいと分かっているが、それでも漁船がほしい」。水産庁によると、全国では約2万1000隻、約1400億円分の漁船が被災。このうち共同使用の船はわずかという。同庁沿岸沖合課は「各漁協などから(組合員の)要望を聞き、2次補正予算案の方針を考えたい」とコメントしている。【山口知】