パキスタン:きしむ対米関係 ビンラディン容疑者潜伏で

2011年5月12日 21時20分 更新:5月13日 0時54分

 【ニューデリー杉尾直哉】国際テロ組織アルカイダの最高指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者(54)の殺害を巡り、同容疑者が潜伏していたパキスタンと、殺害を単独で強行した米国の関係がきしみを立てている。「対テロ戦」の盟友である米国とパキスタンの相互不信が噴き出した形だ。しかし、米国はアフガニスタン安定や大量破壊兵器の拡散防止に核保有国パキスタンの協力を必要としている。パキスタンも、中国やロシアとの接近をちらつかせるが、インドへの対抗上、米国の支援は不可欠だ。米・パキスタン両国は腹の探りあいを続けながら、殺害で傷を負った関係の修復を図ることになりそうだ。

 ◇国軍のメンツつぶされ「主権侵害だ」

 殺害作戦はパキスタン軍のメンツをつぶした。潜伏先が首都イスラマバード近郊の軍駐屯地の街だった上、急襲作戦を実施した米軍ヘリの飛来をパキスタン軍が見逃したからだ。軍トップのキヤニ陸軍参謀長は5日、軍幹部会議で「主権侵害だ。同様の事件が再発したら対米協力関係を見直す」と警告した。ギラニ首相も9日の議会演説で「主権侵害」に言及し、軍の反米的な姿勢を踏襲した。

 インドのシンクタンク「防衛研究分析研究所」(IDSA)のスムルティ・パタナイク上席研究員は「潜伏はパキスタン軍トップの了解なしにはあり得ない。オバマ米大統領はそんな相手国(パキスタン)を信用しておらず、事前通告なしに作戦実施に踏み切ったのだ」と分析する。

 米国との確執が尾を引く中、ギラニ首相は来週、中国を訪問し、関係強化を呼びかける予定だ。パキスタンは米国が約束した75億ドルの経済支援が計画通りに拠出されていないことにいらだちを強めており、中国からの支援に期待している。また、中国が表明した原発開発協力を確実に実施するよう働きかける見通しだ。

 ◇離反はせず?

 だが、パキスタンが今後、米国からの離反を目指すかどうかについては懐疑的な見方が多い。インド政府筋は「米・パキスタン関係は曲折はあるものの50年代から続いてきた。(世界最大の軍事大国である)米国からの支持を維持することが国益にかなうとパキスタン軍側も考えている」と指摘する。

 敵対する隣国・インドも米国のパキスタンへの関与継続を望んでいる。「ソ連のアフガン撤退(89年)後に米国がこの地域への関与をやめ、その後の混乱をもたらした教訓を米国の政策決定者たちは肝に銘じている。ビンラディン容疑者がいなくなったからといって、米国がこの地域から撤退するのは危険だ」(インド政府筋)との認識があるからだ。

 ◆圧力と同盟継続 米国は両面にらみ

 【ワシントン白戸圭一】米政府はビンラディン容疑者殺害後、パキスタン政府に対して国内の「テロ支援ネットワーク」の解明を求めるなど圧力を強める一方、同盟継続のメッセージを送り続けている。国際テロ組織による「核テロ」の可能性を警戒する米国にとって、核保有国パキスタンの協力が欠かせないためだ。

 米国内にはパキスタン軍情報機関(ISI)などが同容疑者の潜伏を支援・黙認していたとの見方があり、議会には対パキスタン援助を見直すべきとの意見もある。だが、カーニー大統領報道官は9日の記者会見で、米・パキスタン関係を「複雑な関係」と認めながらも、「協力関係の維持が非常に重要だ。我々の国家安全保障上の利益だからだ」と述べ、関係見直しを求める主張を一蹴した。

 米国がパキスタンとの同盟を重視する一つの理由は同国の核兵器開発だ。米政府高官は「(ビンラディン容疑者の潜伏先からの)押収物に大量破壊兵器に関するものがないか調べることは、最優先事項の一つだ」と述べ、同容疑者が核物質や核兵器関連情報を入手した形跡の有無を調査する考えを明らかにした。

 調査にはパキスタン政府の協力が不可欠なため、米国は不信感を抱きつつも、同国との同盟関係の破綻は避けたいのが実情だ。04年大統領選の民主党候補だったジョン・ケリー上院外交委員長は11日、近くパキスタンを訪問すると明らかにした。米政府高官は「ケリー氏は米国とパキスタンの今後の関係について話し合う模様だ」と述べ、オバマ大統領に近いとされるケリー氏が同盟再構築へ向けた米側の考えをパキスタン側に伝える可能性を示唆した。

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