2011年5月12日 10時37分 更新:5月12日 13時56分
【ワシントン古本陽荘】米上院軍事委員会のレビン委員長(民主)らは11日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)をキャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市)の代替施設に移設するとした日米合意案を見直し、普天間の機能を空軍嘉手納基地(同県嘉手納町など)に統合するよう求める声明を発表した。
現行計画に対する沖縄県の反対が根強いことや、東日本大震災への対応で今後、日本側に膨大な財政支出が見込まれることから抜本的な計画変更が必要と判断した。日米両政府は当面、現行計画を進める姿勢を維持するものとみられるが、変更は米側の財政支出削減も念頭に置いたもので、米議会内に賛同が広がる可能性が高い。
声明はレビン氏と、マケイン筆頭理事(共和)、ウェッブ東アジア太平洋小委員長(民主)の3上院議員の連名で発表された。普天間飛行場を14年までにキャンプ・シュワブ沿岸部に移設するとした日米合意(06年)を「非現実的で、実現不可能、財政支出不能な計画」と批判した。また、嘉手納統合の条件として、嘉手納基地の航空部隊の一部をグアムや日本国内の別の米軍基地に移設し、地元の負担軽減を図ることも提案。嘉手納弾薬庫地区の倉庫の縮小も求めた。
米国防総省のハルライド海軍中佐(広報担当)は「国防総省は再編合意を堅持している。計画が完了すれば、沖縄の負担軽減につながる」と述べ、日米合意を進める姿勢に変わりがないことを強調した。軍事委員会は、国防関連予算の大枠を決める国防権限法の承認権限を持つ。
【ワシントン古本陽荘】米上院軍事委員会の有力議員らが米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画見直しを提言したのは、米議会で、財政赤字削減を求める声が高まり、国防費でさえ聖域ではなくなっている事情が背景にある。東日本大震災の復興で日本政府が膨大な財政支出を強いられる事情も重なり、数千億円規模の事業となるキャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市)の代替施設建設は、もはや「非現実的」と日米両政府に計画断念を迫ったものだ。
レビン軍事委員長は「今日の厳しい財政事情では、この計画に関連し拡大している財政負担は支出が可能とは言えない」とコメントした。
米議会では、2012会計年度(11年10月~12年9月)予算の審議が本格化しているが、財政赤字が膨らんでおり、法律で定められた財政赤字の上限を上回る見通し。上限を変更しなければ、財政破綻に追い込まれるが、保守系草の根運動「ティーパーティー」の一部が強く反発。これを受け、共和党は、財政赤字の一時的な拡大は容認するものの、大胆な財政削減の計画を示すようオバマ大統領に迫っている。
こうしたなか、共和党の大統領候補指名に意欲を示すロン・ポール下院議員が、アフガニスタンからの即時撤退を求め、一定の世論の支持を受けるなど、同時多発テロ(01年9月11日)以来、安全保障予算を聖域とする空気はもはや崩れている。
レビン委員長らの判断には、米国の国防政策上、優先順位の高いアフガン戦争やテロ対策のための予算を確保するためにも、実現のめどが立たない普天間移設問題でのけじめが必要との問題意識があったものとみられる。政治的にも軍事的にも困難と判断され、過去に頓挫した経緯のある普天間の嘉手納基地への統合を提案したのは、実現可能性を模索したというよりは、巨額の財政支出を伴う普天間移設の計画を中止させること自体に主眼が置かれたものとも言えそうだ。
枝野幸男官房長官は12日午前の記者会見で、レビン委員長が日米合意見直しを求めたことについて「国家と国家の関係では行政府同士の合意が大変重い。日本政府としては沖縄の負担を速やかに軽減するとの考え方のもとに、合意を着実に進めていく」と述べ、普天間の移設先を沖縄県名護市辺野古とする日米合意を堅持する意向を示した。
沖縄県の仲井真弘多知事は12日午前、訪問先の岩手県庁内で、記者団に対し、米議会が嘉手納基地統合案の検討を求めたことについて「騒音問題があり、クリアしなければならない課題がたくさんある。心もとない案ではある」と否定的な見方を示した。一方で「政府ではないが、米側が弾力性を出しているのは注目すべきものだ」と述べた。【山中章子】