客を装った仲間を指す「さくら」について、大正時代の「隠語輯覧(しゅうらん)」は「『作楽』の文字、一般に用ゐらるるも、『さくら』は策略より出(い)づる詞(ことば)ならんか」と記す。作楽の表記も、策略の語源も初耳だが、そんな話があったのだ▲客を操って自分たちに都合の良い流れを作るなんて楽なこと--うそぶく顔がみえてきそうな「作楽」である。だがそんな「策略」で公共的な意思決定を左右されてはたまらない。もちろん九州電力の玄海原発の再稼働にまつわる「やらせメール」事件のことである▲国の住民向け説明番組の際、九州電力の職員が子会社社員らに原発再開を支持するメールを投稿するように指示していたというこの事件だ。やらせやさくらは「仕込み」が重要だが、「県民の共感を得うるような意見や質問を発信」という仕込みメールも残っている▲こうなってみればこの経済産業省の説明番組そのものが、はなから原発再開のための「仕込み」だと思われて当然だ。原発事故で従来の電力会社や国の説明が根本から信頼を失っているこの期に及んで、なおも情報操作で事態を動かそうとする策略体質は実に度し難い▲その玄海原発の再稼働へむけて動いていた政府が一転、再稼働の大幅延期の必要なストレステスト(耐性試験)実施を決めた。振り回された地元自治体は困惑顔である。そして国民をより不安にするのは事故を踏まえた安全の新たな基準への定見を欠く政府の迷走だ▲やらせメールでは九州電力トップの進退もとりざたされる。「安全」の太鼓判つきの原子力政策の高みから情報を操作できた「作楽」の時代はすでに終わったのだ。
毎日新聞 2011年7月8日 0時04分
7月7日 | 江戸は日本橋浮世小路の「百川」といえば… |
7月6日 | 2人の男がインドのカーシー産絹糸を… |
7月5日 | 中国の思想家・荀子というと性悪説が思い浮かぶ… |
7月4日 | もしアラビアのロレンスが東大の先生になっていたら… |
7月3日 | 「あの、こらえ性のないアイスクリームは… |
7月2日 | タコが陸で昼寝をしていると… |
7月1日 | 「万事良し。財宝に縁あり。商人は利徳倍増。… |
6月30日 | 中国の経済規模が日本を追い抜いた時… |
6月29日 | 試飲サービスというとデパ地下が思い浮かぶが… |
6月28日 | 鈴の愛好家でコレクターだった国学者の本居宣長は… |
6月27日 | 親指から順番に赤、緑、黒、黄、青… |
6月26日 | 「何という悲しい時代を迎えたことでしょう」という書き出しで… |
6月25日 | 江戸の奇才で、日本版ガリバー旅行記のような戯作も… |
6月24日 | 雨の夜、泥棒と狼が馬を盗もうと老夫婦の家に忍び込む… |
6月23日 | 一存で家来を切腹させられた江戸時代の大名だ… |
6月22日 | 紙をざっと大きめに切り、そのあと少しずつ… |
6月21日 | ある農民が地面を耕していると… |
6月20日 | 韓国の人々は「6・25」を決して忘れない… |
6月19日 | きょう19日は父の日。ちょっと照れながら… |
6月18日 | 客を集めて豪遊中の紀伊国屋文左衛門が初ガツオを… |
6月17日 | 「〇〇は、ちょっとエビの味さえする。… |
6月16日 | 「夫れ兵の形は水に象る」… |
6月15日 | 一昨年、300人以上の死者を出し… |
6月14日 | 一名「ジゴクソバ」というからおどろおどろしい… |
6月12日 | 先月、何年ぶりかで台北の故宮博物院を訪れ… |
6月11日 | 「遠野物語」に土淵村から海辺に… |
6月10日 | 英語の俗語辞書を見ると「ホットスポット」は… |
6月9日 | 幕末から明治に来日した西欧人は… |
6月8日 | その昔、コンゴの人は大祭司チトメが… |