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FC 第二節「消えたエヴァンゲリオン」
第二十三話 オペレーション・ウルフ
<ボースの街 遊撃士協会>

早朝の遊撃士協会。
ルグラン老人はカウンターに黒いオーブメントを置いたまま、時々奥の本棚から本を取り出しては調べ物をしていた。
そこへ上の階の部屋に泊まっているエステル達が仕事の準備を終えて降りて来る。

「おはよう、ルグランさん!」

エステルの大きな声が部屋の中に響いた。
そのエステルの声を聞いたルグラン老人は嬉しそうに笑う。

「お前さんはいつも元気いっぱいじゃのう」
「朝からうるさくて仕方が無いわ」

ルグラン老人の言葉を聞いて、アスカは皮肉めいた言い方をした。

「でも、元気の無いエステルの姿なんか見たくは無いよ」
「まあ、そりゃそうだけどね」

ヨシュアが穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、アスカも同意した。

「それは僕達が持ち帰って来た物ですよね?」

シンジがカウンターの上に置かれたオーブメントを指差すと、ルグラン老人はうなずく。

「うむ、あれから過去に生産されたオーブメント製品を調べてみたんじゃが、よく解らんのじゃよ」
「それって今までないオーブメントって事?」
「原則として全てのオーブメントには生産された場所や日時を示す番号が刻まれているんじゃが、それが無いんじゃよ」

アスカの言葉にうなずいてルグラン老人がそう答えると、ヨシュアも考え込む仕草をする。

「秘密裏に製造された違法なオーブメントと言う事ですか」

険しい顔をして話したヨシュアの言葉に、エステル達にも緊張が走った。
部屋に張り詰めた空気が漂う中、ルグラン老人は静かに話し始める。

「そこでツァイス市の中央工房に居るラッセル博士に、このオーブメントの分析を依頼して正体を暴こうと思うんじゃ」
「ラッセル博士って?」
「リベール王国にオーブメントを広めた博士だよ。オーブメントの父って呼ばれているんだ」
「へえ、そんな凄い人が居るんだ」

シンジの質問に答えたヨシュアの言葉を聞いて、アスカは感心したようにつぶやいた。

「邪魔するぞ」

エステル達とルグラン老人が話していると、入口からアガットが姿を現した。

「おはようございます、アガットさん」
「おう」

アガットはヨシュア達のあいさつに答えながら、ルグラン老人からの話を聞いた。
ルグラン老人はアガットにこの黒いオーブメントをツァイス市に居るラッセル博士に届けて欲しいと頼んだ。

「へっ、それぐらい朝飯前だ、任せておきやがれ」

黒いオーブメントをルグラン老人から受け取ると、アガットは意気揚々と遊撃士協会の建物を出て行った。
そんなアガットの後ろ姿を見て、シンジはうらやましそうにつぶやく。

「良いなあ、アガットさんは。1人で遊撃士の仕事が出来るほど強くて」
「何よシンジ、アタシ達と組んでいるのがそんなに嫌なの?」

アスカに言われたシンジは慌てて言い訳を始める。

「そう言うわけじゃ無くて、大事な人を守れるぐらい強くなりたいなぁって……」
「ふふっ、分かってるわ、ほんの冗談よ」

アスカがそう言って微笑むと、シンジはほっと胸をなで下ろした。
そしてルグラン老人は優しく諭すようにエステル達に話しかける。

「まあ、慌てる事は無い。色々な場所で様々な経験を積んでゆっくりと時間を掛けて強くなって行けば良いんじゃ」
「でも、カシウスさんの安否が分からないと僕達はどこにも行けないじゃないか」

そう言ってしまったシンジは、エステルとアスカを見て焦ったようにまた言い訳を始めようとする。

「あっ、別にカシウスさんが悪いってわけじゃなくて……」
「いいのよ、悪いのは父さんなんだから」

シンジが謝ると、エステルは首を横に振った。

「そうじゃのう、連絡の1つも寄越さんとは」

ルグラン老人はそう言ってため息をついた。
カシウスの事を思い返してしまったのか、アスカは目を潤ませる。

「パパ……」
「あのー、こちらにエステル・ブライトさんはいらっしゃいますか?」

気まずい部屋の空気を切り裂いたのは、郵便配達人の声だった。
郵便配達人は空港に到着した郵便物の中に、エステル宛ての手紙があったので届けに来たのだった。

「この手紙……父さんの字だ……」

手紙を受け取ったエステルが肩を震わせながらそうつぶやくと、アスカは驚いてエステルに駆け寄る。

「アタシにも見せて!」

そう言って手紙をのぞき込んだアスカは、目から感激の涙を流し始めた。
力が抜けて倒れそうになったアスカの体をシンジが抱き寄せて支える。

「パパは無事だったんだ……」
「良かったね」

シンジは穏やかに微笑んで胸に抱いたアスカの頭を優しくなでた。
カシウスからの手紙には今まで連絡が取れなくて済まなかった事、エステル達がボース地方での事件の解決に貢献した事への喜びの言葉が書かれていた。

「父さん、事件が解決した事を知っているんだね」

エステルがほっとしたようにつぶやいた。
さらに手紙には、カシウスが解決に時間が掛かる依頼を引き受けてしまった事、シェラザードとオリビエの力を借りる事になった事などが書かれている。
シェラザードからもエステル達の所へ戻れない事を謝る言葉が手紙に書き添えられて居た。
そして、カシウスは自分は女王生誕祭の頃にはリベール王国に戻れる事、その時にエステル達の成長した姿を見るのを楽しみにしていると手紙を締めくくった。

「ふっ、面白いじゃない、やってやろうじゃないの」

手紙を読んだアスカはそう言って不敵な笑みを浮かべた。

「何をやるって?」
「決まっているじゃない、パパが帰って来るまでに正遊撃士の資格を取って、パパに正遊撃士の紋章を見せるのよ!」
「ええっ!?」

アスカの答えを聞いたシンジは驚きの声を上げた。

「そうと決まれば、このままボース支部でのんびりとはして居られないわ! ルグランさん、何か仕事は無い?」
「すっかり元気になったようじゃな」

目を輝かせているアスカを見て、ルグラン老人は愉快そうに笑った。
アスカは気合を入れていたが、空賊の事件が解決した今、ボース地方は平穏そのものだった。

「はあっ、何か大きな事件でも起こってくれないかしら」
「遊撃士の言葉とは思えない発言だね」

アスカが盛大なため息をつくと、ヨシュアは苦笑しながらツッコミを入れた。

「そうじゃな、ではお前さん達の卒業試験を行う事にするか」

ルグラン老人がそう発言すると、エステル達は驚いて目を丸くした。

「卒業試験……ですか?」
「いかにも。この依頼をこなせたら、ワシはお前さん達にボース支部の推薦状を書くとしよう」

シンジが尋ねると、ルグラン老人はしっかりとうなずいた。
ルグラン老人が提案した依頼の内容は、ルグラン老人をクローネ峠の関所まで護衛する事だった。

「護衛の依頼か、遊撃士の器量を計るのには最適な依頼だろうね」

ヨシュアは納得したようにそうつぶやいた。

「ようし、やってやろうじゃないの!」
「頑張ろう、おー!」

気合たっぷりに意気込むアスカに、一緒になってエステルも元気に声を上げた。



<ボース地方 西ボース街道>

クローネ峠に行く事になったエステル達は、色々と準備があると言うルグラン老人と別れて街の西門で合流した。

「さあて、いよいよ試験の始まりね!」

そう言ってにぎりこぶしを作るアスカをシンジがなだめる。

「アスカ、そんなに意識しないでさ、もっと自然な感じで行こうよ。力を入れ過ぎるといつもの通りの力も出せなくなるよ」
「ふぉっ、ふぉっ、シンジの言う通りじゃ。先は長い、適度に緊張を保つようにな」

ルグラン老人は愉快そうに笑いながらアスカに声を掛けた。
エステルとアスカのコンビが先頭を進み、間にルグラン老人を挟み、後ろをシンジとヨシュアが固める隊列で街道を進んで行った。
西ボース街道では死に際に自爆する魔獣などに遭遇したが、シンジとヨシュアがルグラン老人を上手く安全な場所まで誘導した。

「ふむ、ここまでの護衛は合格点じゃのう」
「やった!」

西ボース街道の終点、クローネ峠に差し掛かった所で、ルグラン老人が声を掛けると、アスカは嬉しそうに飛び上がった。

「だが、本当に依頼人の安全を考えるのなら、必要の無い戦闘を避けるべきじゃな」
「もう、アスカってば無駄にカッコつけようとするから」
「ゴメン」

ルグラン老人に指摘されて、シンジが困った顔でにらみつけると、アスカは舌を出して謝った。

「さあ、ここからは険しい道が続くから大変だよ」

ヨシュアがそう言って目の前に広がるクローネ山脈の間を縫うような細い山道を指差すと、エステル達は力強くうなずいた。
狭く曲がりくねった山道では魔獣の襲撃を避ける事は難しく、ルグラン老人が危険にさらされる事もあった。
シンジとヨシュアの体を張ったコンビネーションで何とかルグラン老人に攻撃が及ばないようにする。
しかし、谷に掛けられたつり橋を渡り始めた時、向こう側に数匹の狼型の魔獣が現れたのだった。

「待ち伏せ!?」

前を歩いていたエステルが驚きの声を上げた。

「うわっ、後ろからも!」

シンジが指差す方を見ると、今まで歩いて来た道からも狼型の魔獣が迫って来た。

「こうなったら、正面突破よ!」
「よしっ!」

突撃したエステルに続いて、ヨシュア達も急いでつり橋を渡り、待ち受けていた狼型の魔獣に戦いを挑む!
狼型の魔獣も襲いかかるが、気迫に満ちたエステル達はまったく引かずに狼型の魔獣達を追い散らした。

「シンジ、後ろからまた魔獣達がやって来るわよ!」
「よしっ!」

息を着く間もなくアスカとシンジはつり橋を渡って追いかけて来る狼型の魔獣達に向かって導力銃を撃った。
前を進んでいた狼型魔獣が動きを止める。
その間にエステル達は狼型魔獣達を迎え撃つ準備が整える。
そして、エステル達は被害を出す事も無く狼型魔獣を倒す事が出来た。

「とっさに突撃したのは見事な判断じゃったな」
「そう?」

ルグラン老人に褒められて、エステルは笑顔になった。

「うん、戦力の分散をさせるのは好ましくなかったからね」
「そうだったんだ……」

ヨシュアがエステルの質問に答えると、エステルは驚いたようにつぶやいた。
そんなエステルの表情を不審に思ったアスカがジト目でエステルに尋ねる。

「もしかして、深く考えずに突撃しちゃったんじゃないでしょうね」
「あはは、そんな事無いよ」

エステルはごまかすような笑みを浮かべた。

「まあまあ、エステルの勘は鋭いから」
「それ、フォローになって無い!」

ヨシュアの言葉に、エステルは不満そうな顔でツッコミを入れるのだった。



<ボース地方 クローネ峠・関所>

クローネ峠の難所であるつり橋を越え、所々で襲いかかる狼型魔獣を蹴散らして進んで行ったエステル達は、クローネ峠の関所が見える場所までたどり着いた。
そしてエステル達はすぐに関所の異変に気がついた。
関所の辺りから土煙が上がり、戦いの音が聞こえて来る。

「もしかして、関所もあいつらに襲われているの?」
「うん、僕らを襲ったのは足止めなのかもしれないね」

アスカの言葉にヨシュアはうなずいた。
エステル達はルグラン老人の護衛をしつつ、なるべく早く救援に駆けつける事にした。

「でえええいっ!」

関所の建物の前では、アガットと関所の兵士達が狼型魔獣と戦っていた。
かなり長い間戦っていたのか、アガットは滝のような汗を流している。

「くそっ、こいつら倒しても倒しても歯向かってきやがる!」
「やはり、これだけの人数では突破するのは無理だ」
「おいコラ、諦めるんじゃねえ!」

アガットの隣に居た兵士が弱音を吐くと、アガットはその兵士を怒鳴った。

「やはり、援軍が来るまで関所に閉じこもるべきでは無いですか?」
「そうしたら、怪我をしたやつの治療薬が届くまでかなり時間がかかっちまうだろ」

他の兵士がアガットに提案すると、アガットはそう反論した。
突然狼型魔獣の群れに関所が襲われた時、関所を警備していた兵士の1人がかみつかれ怪我を負わされてしまったのだ。
関所を守る兵士達は、分厚い扉を閉める事で狼型魔獣の侵入をとりあえず防いだ。
かみつかれた兵士は傷口から魔獣の感染症にかかってしまう恐れがあったのだが、その治療薬は街に行かないと手に入らない。
関所の通信機で救援を呼ぼうとしたが、何故か繋がらなくなってしまっていた。
そこで関所に居合わせたアガットはこちらの方から助けを求めに行こうと兵士数人と決死隊を募ったのだが狼型魔獣達に阻まれて先に進めずにいた。
狼型魔獣達とにらみあいを続けていたアガット達だったが、突然に狼型魔獣の隊列が乱れた。

「お前ら!」
「アガットさん!」

互いの姿を見たアガットとエステルは声を掛け合った。
再会も束の間、狼型魔獣達との大乱闘が始まった。
人数が増えたアガット達は次第に取り囲んでいた狼型魔獣達を押し返し始めた。
アガットの攻撃のタイミングと、エステルとヨシュアの息も合って来た。
シンジとアスカは、ルグラン老人の護衛をしながら、関所の兵士達と共に狼型魔獣の足止めのための射撃をしてサポートした。
やがて、勝てないと判断したのか、ジリジリと退いていた狼型魔獣は逃げて山の中へと姿を消した。
敵の気配が消えると、アガット達は安心したようにため息をつく。

「ふーっ、どうやら終わったようだな。お前らが来てくれて助かったぜ」
「アガットさんに素直にお礼を言われるなんて、くすぐったい感じね」
「うるせえな、俺を何だと思ってやがる。まあ、カシウスのおっさんの手ほどきを受けただけあってそれなりにやるようだって事は認めてやる」

アスカの言葉に少しムッとした表情になりながらも、アガットはそう付け加えた。

「ありがとう、君達が来てくれて助かったよ。さあ、疲れただろう、関所の中へ入って休んでくれ」

兵士達もエステル達にお礼を言い、関所の建物中へと案内した。
エステル達は兵士の言葉通り一息入れようとしたが、医務室の中に怪我をした兵士が寝かされているのを見て顔色を変える。

「そうだ、この兵士さんの薬を取りに行けばいけないんじゃない?」
「ああ、それは我々が行こうと思っている」

兵士がそう言うと、エステルは首を横に振る。

「そう言う仕事は遊撃士のあたし達に任せてよ」
「あなた方は関所の守りを固めて下さい」
「すまないな、本当に助かるよ」

エステルに続いてヨシュアがそう言うと、兵士は感謝の言葉を述べた。

「ルグランさん、すぐに戻る事になって大丈夫ですか?」
「まだまだ、若い者には負けんぞ」

シンジが尋ねると、ルグラン老人は穏やかな笑顔で答えた。

「お前ら、その件は頼んだぞ」

アガットがすでに関所を越える手続きをしているのを見て、エステルが驚きの声を上げる。

「アガットさん、もう行っちゃうの?」
「ああ、早い所こいつを届けてしまいたいからな」

アガットの返事を聞いたアスカはあきれ顔でつぶやく。

「あんなに息を切らして戦っていたのに、とんだ体力バカね」
「お前にバカ呼ばわりされるのは、こいつで十分じゃないか」
「なっ……!」

アガットがシンジを指差すと、アスカは顔を赤くして言葉を詰まらせた。
ルグラン老人がその様子を見て愉快そうに笑う。

「それでは、例のオーブメントはラッセル博士に届けてくれよ」
「おう」

アガットはルグラン老人の言葉に軽く手を振って、関所の先へと姿を消した。
そしてその頃、関所の側にある高山から関所を眺める2つの人影があった。
1人はエステル達に黒いオーブメントを渡した銀髪の少年。
もう1人はピンク色のスーツを着た緑髪の少年だった。

「どうやら、またオーブメントの回収に失敗したようだね」
「僕が甘かったみたいだ」

緑髪の少年が銀髪の少年に話し掛けると、銀髪の少年はとぼけるような仕草をして言葉を返した。
その答えを聞いた緑髪の少年はおかしくて仕方が無いと言った様子で笑い出す。

「君はわざと手を抜いているんじゃないのかな?」
「そう思うなら報告するかい?」

銀髪の少年が尋ね返すと、緑髪の少年は笑って答えなかった。
そして、関所から出て来たアガットの姿を見つけると遊びにでも誘うかのように声を掛ける。

「どうやら、まだ取り戻す機会はありそうだよ」
「そのようだね」

銀髪の少年はそう答えて緑髪の少年と一緒にアガットの後ろ姿を追いかけるのだった。
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