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焼肉チェーン店の集団食中毒事件に端を発したユッケなどの生肉の安全性を巡る問題。
厚生労働省の審議会は生の牛肉を提供する業者に対して肉の表面だけを加熱して殺菌することを義務づける新たな基準案をまとめました。
この問題について、社会部厚生労働省担当の陶山美絵記者が解説します。
富山県や福井県の焼き肉チェーン店では、ことし4月から5月にかけてユッケなどを食べた6歳の子どもを含む4人が病原性大腸菌Oー111などに感染して死亡、43人が入院する集団食中毒事件が起きました。
生肉を客に提供する場合には、事前に肉の表面を削り取る「トリミング」を行うことが国の衛生基準で定められていますが、事件を起こした焼き肉チェーン店は「トリミング」を一切行っていませんでした。
さらに、現在の衛生基準には強制力がなく、行政側が違反を把握してもすぐに店側を罰することはできませんでした。
この事件をきっかけに厚生労働省は生肉を客に提供する際の基準を抜本的に見直すことを決め、違反した場合には罰則を適用する方向で検討を進めてきました。
そして、6日、「トリミング」だけでは生肉の表面に付着した菌を完全に取り除くのは困難だとして、生肉の表面だけを加熱して殺菌することを業者に義務づける新たな基準案をまとめました。
具体的には十分に殺菌するために肉の表面から1センチの部分をお湯などを使って60度の温度で2分間以上加熱する必要があるとしています。
厚生労働省によりますと、表面から1センチの部分までこれだけの熱を伝えるには肉の大きさによって加熱する温度や時間が変わるということです。
例えば、250グラムの生肉の場合、85度で10分間加熱する必要があります。
東京豊島区の「女子栄養大学」でお湯で加熱する方法で実演してもらったところ、254グラムの生肉から加熱によって色が変わった表面部分を切り取ると、残った生の部分は44グラム。
元の肉のおよそ6分の1になりました。
合計で3回試しましたが、同様に生の部分は5分の1から6分の1にまで小さくなりました。
この基準通りに調理すると客に生で提供できる肉はとても高価になってしまいます。
東京都内の焼き肉店で店主に話を聞くと、「この基準ではユッケの値段が今の2倍から3倍になる。
経営者としては安全とともに採算も考えなければならないので、基準が義務づけられればユッケを出すのはあきらめると思う。
手間もコストもかかるのでユッケは高級店でしか食べられなくなるだろう」と話していました。
また、焼き肉店を訪れていた男性客からは「味や食感がこれまでのものと変わらないか心配だ」という声が聞かれました。
厚生労働省は、客の安全を確保するのが第一だとして、この基準を義務化してことし10月にも運用を始めたいとしています。
一方、牛の生レバーについては表面だけではなく、内部にも菌が付いている可能性があることから、引き続き、基準を検討しつつ、当面は客に提供しないよう飲食店に呼びかけるということです。
病原性大腸菌は、菌が微量でも体内に入ると重い食中毒症状を引き起こすことがあります。
食中毒に詳しい専門家は牛肉を生で食べる以上は食中毒のリスクを完全になくすことは、不可能だと話しています。
厚生労働省はリスクを最小限にするには今回示した基準を徹底する必要があると考えています。
悲惨な食中毒事件を防ぐためには業者の側は手間やコストを惜しまずに新しい基準を順守しなければなりません。
行政側も基準が徹底されているか常に目を光らせていく必要があると思います。
(7月6日 20:35更新)