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東日本大震災から100日余りで、やっと就任した松本龍復興担当相がもう辞めた。「キックオフをして3日でノーサイドになった」。本人がそう自嘲する辞任劇である。[記事全文]
平日に使う電気を減らすため、週末に働く。そんな夏が始まった。国が出した電力使用制限令を受けて、自動車産業では休日を土・日曜日から木・金曜日に振り替えた。対象となる働き手[記事全文]
東日本大震災から100日余りで、やっと就任した松本龍復興担当相がもう辞めた。
「キックオフをして3日でノーサイドになった」。本人がそう自嘲する辞任劇である。
引責理由は被災地の宮城、岩手両県知事への放言だ。
もう、あきれるやら、情けないやら。同じ日に、国会議員の平均所得が2100万円を超えるという記事を目にしただけに腹立たしさがいっそう募る。
菅直人首相は任命責任をかみしめるだけでなく、すでに政権の命脈が尽きていることの証しだと受けとめねばならない。
なにしろ首相が松本氏に頼み込んだのは、他に引き受け手がいなかったからだ。辞任の時期を示せという党執行部の説得になかなか応じないばかりか、自民党参院議員を引き抜き、首相は孤立を深めた。揚げ句に松本氏の後任人事でも、有力候補者らにそっぽを向かれた。
首相はもがけばもがくほど、泥沼にはまりこんでいる。政権が自滅していく。貧すれば鈍するとは、まさにこのことだ。
一方で、大震災からの復旧・復興をこれ以上、停滞させるわけにはいかない。
政府はきのう第2次補正予算案を閣議決定した。そして、きょうから約2週間ぶりに国会が議論を再開する。
6月に会期延長を決めてから、国会がずっと開店休業だったことが信じられないが、この辞任騒動で予算の成立が遅れたり、審議時間が空費されたりするような展開は絶対に避けなければならない。
きっと民主党内では、首相に早期退陣を求める声が大きくなるだろう。自民党など野党も、ふらつく首相への交代要求を強めるに違いない。
だが、そんな暇と余力があるなら、いますぐに必要な政策を法制化し、復興の具体化を急ぐべきだ。懸案を粛々と片づけることで、菅政権に幕を引く。それしか国会に道はない。
私たちはかねて、その方が生産的だと訴えてきた。延長国会は8月末までしかないのだ。
後任の復興相兼防災相の平野達男氏は、自身を「お客さん」と呼んだ松本氏の失敗に学び、しっかりと「当事者意識」を持つことが求められる。日々、知事や市町村長らとともに被災地に飛び込み、復興の陣頭に立つことが使命だ。
そのために、国会審議は副大臣らに任せたらいい。与野党が合意すれば、できることだ。
そうすることが、お粗末な辞任劇を演じた内閣のせめてもの償いといえる。
平日に使う電気を減らすため、週末に働く。そんな夏が始まった。
国が出した電力使用制限令を受けて、自動車産業では休日を土・日曜日から木・金曜日に振り替えた。対象となる働き手は約80万人に及ぶ。
心配なのは、保育の場の確保だ。通常、保育所は月曜日から土曜日までしか利用できない。小学生の学童保育も、同様の問題を抱える。制限令の期間である7月から9月まで、日曜日をどう乗り切るか。
保育所は全国に約2万3千あるが、これまで日曜・祝日に利用できるのは千に満たなかった。しかも、休日保育には追加で利用料を払う必要もあった。
今回、新たに日曜保育をすると決めた自治体もある。厚生労働省は、国が財政支援をするので「新たに保護者負担を徴収しないこと」を求めている。
だが、ここで「不公平」が生じている。国が無料化を想定しているのは、電力使用制限令により、やむをえず休日保育を利用するケースだけ。以前から休日保育を利用していた人は対象外だ。
「国の政策の影響を受けたかどうか」で線引きしたのだが、釈然としない人も多いだろう。普段から日曜日に働く人もいて、私たちの社会は機能する。
総務省の社会生活基本調査(2006年)によれば、仕事を持つ人のうち、調査期間中の日曜日に働いた人は34%いた。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの昨年末の調査では、「保育所に追加で実施を希望するサービス」として32%が「休日保育」をあげている。
もともと日曜・祝日に仕事がある人は、保育サービスの確保に苦労していた様子がうかがえる。その状況は、9月以降も変わらない。
多様な働き方に応じて、柔軟かつ公平に子育てを支援する必要があるのだ。待機児童の解消を急ぐことは言うまでもない。
その点で、政府が今年度中の法案提出を目指している「子ども・子育て新システム」は一つの道筋を示している。
早朝・夜間・休日保育をはじめ、学童保育も含め、多様な保育サービスを、市町村の責任で提供する。事業者として株式会社やNPOなどの参入も促す。地域の実情に合わせやすいよう、国は一括交付金で財源を確保する。
先週、政府・与党が決めた税と社会保障の一体改革案でも、子育て支援は重要な柱だ。改革を頓挫させられない理由は、ここにもある。