千葉県市川市のマンションで07年、英会話講師の英国人女性、リンゼイ・アン・ホーカーさん(当時22歳)の遺体が見つかった事件で、殺人と強姦(ごうかん)致死罪などに問われた無職、市橋達也被告(32)の裁判員裁判の初公判が4日、千葉地裁(堀田真哉裁判長)で開かれた。市橋被告は「殺意はありませんでした。しかし、私にはリンゼイさんの死に責任があります。責任は取るつもりです。本当に申し訳ありませんでした」と涙声で殺意を否定した。
弁護側は、強姦と傷害致死罪の適用を主張し、公判は殺意の有無や強姦致死罪が成立するかが争点になる。
検察側は冒頭陳述で「英会話レッスン料の支払いを口実に、暴行目的で自宅に連れ込み、手足を粘着テープなどで縛り性的暴行。発覚を恐れ、少なくとも3分程度、首を相当の力で圧迫し続けて殺害した」と殺意を強調した。
一方、弁護側は「暴行後、大声を出して逃げようとしたリンゼイさんの口を塞ごうと左腕を巻き付けた際、首が絞まり死なせてしまった」などと傷害致死罪の適用を主張。リンゼイさんの死亡は、最初の暴行翌日の午前2~3時ごろとし、時間も離れていることなどから、強姦致死罪成立も否定した。
市橋被告は黒の長袖シャツに黒のジーンズ姿で現れ、入廷直後、証言台の前でひざまずき、リンゼイさんの両親に向かって頭を下げた。
裁判長から起訴状に記載された事件の詳細について尋ねられると、しばらく沈黙後「リンゼイさんは私のせいで何も話せない。事件の日に何があったか話すのは私の義務だと思うので、これからの裁判で詳しくお話しします」と述べた。
この日は、被害者参加制度に基づき、リンゼイさんの両親が出席。父ウィリアムさん(58)はしわくちゃになった娘の写真を掲げ、法廷入り。両親は検察側の後方、リンゼイさんの姉妹は傍聴席に座った。証拠調べで、遺体写真が提示されると、ウィリアムさんは顔を紅潮させ、涙を流していた。
起訴状によると、市橋被告は07年3月25日ごろ、千葉県市川市のマンション自室で、リンゼイさんの顔を拳で殴り、手首を縛った上で性的暴行を加え、首を圧迫して窒息死させた後、ベランダの浴槽に土で埋めて遺棄したとされる。【斎川瞳、中西啓介】
毎日新聞 2011年7月5日 東京朝刊