きょうの社説 2011年7月6日

◎松本龍復興相辞任 理解し難い「上から目線」
 松本龍復興対策担当相が辞任に至る背景や本音がよく分からない。菅直人首相の要請を 断り切れずに引き受けてはみたものの、そもそも菅直人首相の延命工作に批判的だったから、本当はやりたくなかったのか。

 そうであれば、昨年9月の入閣後、ほとんど目立たなかった松本氏が復興相就任後、人 が変わったように言葉遣いが乱暴になり、奇矯(ききょう)な振る舞いを繰り返すようになった理由が分かる気もするが、当の本人は最後まで本音を語らずに政権を去るつもりらしい。

 もしかすると、松本氏の不満の矛先は、菅首相に向けられていたのではないだろうか。 政権に居座る菅首相の下で、復興に当たることに嫌気が差し、募る不満が失言や暴言というかたちで噴き出した印象が否めないのである。

 松本氏の言動で最も気になるのは、「上から目線」の傲慢(ごうまん)さである。国と 地方はあくまで対等であって、主従関係にあるかのような物言いは理解し難い。「自治体は自助努力をせず、国に責任を押しつけている」という見方が政府・与党内にくすぶっているとしたら、不眠不休で復旧に取り組む被災地は浮かばれない。松本氏は「知恵を出さないやつは助けない」と言ったが、知恵を出していないのは明らかに政府の方だ。

 新内閣の目玉だった閣僚の早期辞任は、被災地にとっては腹立たしい限りに違いない。 被災地には今なおがれきが散乱し、各地で道路が寸断している。ハエの発生や悪臭、断水に悩む地域もある。被災地の声を拾い上げ、問題点を整理し、一つ一つ必要な手を打って復旧を加速させていく当たり前のことが出来ていない。与野党から菅首相の任命責任や早期退陣を求める声がさらに強まるのは避けられないだろう。

 菅首相は、松本氏の後任に平野達男内閣府副大臣(復興担当)の起用を決めた。被災地 の岩手県出身で、小沢グループの一員である。菅首相としては避けたかった人事かもしれないが、震災以来、被災者支援を担当してきた人物だから、今後はよもや上から目線ということはあるまい。被災地のために全力投球し、復旧・復興の遅れを取り戻してほしい。

◎2次補正閣議決定 復興予算を遅らせまい
 東日本大震災に対応する2011年度第2次補正予算案が閣議決定された。菅直人首相 が自ら「1.5次補正」と呼ぶ中途半端な補正予算案で、歳出の7割近くが使い道を限定しない地方交付税と予備費に充てられた。2次補正予算案の編成は菅首相の延命策の一つともみられており、その意味では政治的駆け引きの産物と言えなくもない。

 2次補正予算案には、全福島県民の健康調査のための基金創設や放射性物質の監視装置 増設、被災者の「二重ローン」対策費など重要な事業が含まれているが、これにより本格的な復興予算の編成が大幅にずれ込むことになった。しかも、本格復興予算となる第3次補正予算は政局混迷でメドが立たない状況である。

 政府、日銀が景気について、秋口から回復軌道に戻るというシナリオを描いているのは 、一つには復興需要が本格化するのを見込んでのことである。先の日銀短観や地域経済報告は、このシナリオに沿った景気の持ち直しを示していると言えるが、東北地方からは、復興需要を取り込んでの景気回復シナリオの実現性を危ぶむ報告もなされている。被災地復興と日本経済再生に不可欠の本格復興予算の成立が、菅首相の退陣をめぐる政治抗争や駆け引きで遅れることがあってはならない。

 2次補正予算案は総額1兆9988億円で、5月に成立した1次補正予算と合わせると 約6兆円に上り、すでに阪神大震災時の補正合計額の2倍近くになる。

 今回の補正財源は、10年度に生じた2兆円の決算剰余金が充てられ、その枠内での編 成となった。菅首相が本格的な復興予算ではなく、1次補正を補う「1.5次補正」という指示を出したため、各省庁から出された具体的な予算要求は限られ、最大の歳出項目は不測事態に備える8千億円の復旧・復興予備費という変則的な補正予算案になっている。

 具体性に欠ける補正予算案というそしりは免れないが、予備費は3次補正の財源にもな る。政局優先で予算審議を滞らせては被災地のためにならない。