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2011年7月5日(火)付

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復興相発言―こんな人では心配だ

「私の心はただひとつ。被災者に寄り添うことだけ」初会見でのこの言葉は、何だったのか。松本龍復興担当相が就任後初めて訪れた東日本大震災の被災地で、い[記事全文]

選挙後のタイ―国民の意思、尊重を

タイの総選挙で、タクシン元首相派の政党が半数を超える議席を得て、勝利した。選挙戦の先頭にたったタクシン元首相の妹、インラック氏が次期首相となる見通しだ。[記事全文]

復興相発言―こんな人では心配だ

 「私の心はただひとつ。被災者に寄り添うことだけ」

 初会見でのこの言葉は、何だったのか。

 松本龍復興担当相が就任後初めて訪れた東日本大震災の被災地で、いきなり脱線した。政府の復旧・復興への取り組みを約束すると思いきや、岩手、宮城両県知事に対し放言を重ねた。

 いわく「知恵を出したところは助けるが、知恵を出さないやつは助けない」。

 いわく「県でコンセンサスをとれよ。そうしないと、我々は何もしないぞ」。

 この上から目線は何なのだ。政府と自治体は「上下・主従」でなく「対等・協力」の関係であることを知らないのか。

 もちろん復旧・復興の主役は被災者であり、その自治体だ。何でも政府に頼るのではなく、みずから青写真を描く責任がある。だが、財源も権限も情報も握る政府がそれを支えてこそ、作業は円滑に進むのだ。

 松本氏は「九州の人間だから東北の何市がどこの県とかわからない」とも言った。3カ月余り、防災担当相として日夜、東北の地図を見つめてきたなら、こんな軽口はたたけまい。

 極め付きが、宮城県の村井嘉浩知事への叱責(しっせき)だ。

 後から県庁の応接室に入ってきた知事に「お客さんが来る時は、自分が入ってから呼べ」と言ったばかりか、取材する報道陣にも「今の言葉はオフレコです。書いたら、その社は終わりだ」と続けた。

 相手が旧知の知事だという気安さはあったろう。復興相専任になったばかりの気負いもあったのかもしれない。

 だが、こんな発言はあり得ない。そもそも松本氏は「客」ではない。被災者とともに汗をかく役割を担っている。それに松本氏に、知事の後ろにいる被災者の姿が見えていれば、あんな言い方はできっこない。

 こんな人物が復旧・復興の司令塔として適任なのか。とても心配だ。野党は一斉に批判しており、またぞろ菅直人首相の任命責任も問われそうだ。

 松本氏は環境相だった昨年、日本であった国連地球生きもの会議(COP10)の議長として、名古屋議定書をまとめ上げる成果をあげた。そんな政治力が期待されただけに、この展開は本人にも不本意だろう。

 松本氏はきのう「被災者を傷つけたとすれば申し訳ない」と述べた。あすからの国会でも責任を問われる。

 約2週間ぶりに再開される国会で、こんな話題が出ること自体が腹立たしくてならない。

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選挙後のタイ―国民の意思、尊重を

 タイの総選挙で、タクシン元首相派の政党が半数を超える議席を得て、勝利した。

 選挙戦の先頭にたったタクシン元首相の妹、インラック氏が次期首相となる見通しだ。

 議会で絶対多数を握っていたタクシン氏を5年前、軍が首相の座から追放して以来、この国の政治は、タクシン支持派対反タクシン派の争いに終始し、社会は分裂してきた。

 前者は、東北・北部の農民や都市の貧困層が主体だ。これに対し軍・司法・官僚など、王党派とされる既得権層が民主党政権の約2年半を支えた。

 今回の選挙は民主党の実績や政権運営の評価が問われた。昨年5月、タクシン派の集会を武力で弾圧した軍と政権の行いも審判の対象となった。

 国民は結局、軍と結託した民主党政権のあり方にノーを突きつけた。初の女性首相候補として、インラック氏が期待を集めた面もあった。

 民主党とその背後にいる勢力が選挙結果を受け入れることがなにより肝要である。

 というのも、この10年であった5回の総選挙でタクシン派はすべて勝ったが、何度も政権を転覆させられたからだ。

 とりわけ軍が再びクーデターで選挙結果を覆すことなどあってはならない。そんな心配が頭をよぎるのは、軍幹部が選挙中もタクシン派へのあからさまな敵意を示してきたためだ。

 司法も政治介入を慎むことだ。タクシン派の首相をささいな理由で失職させたり、同派政党を解党したりする一方、空港を占拠した反タクシン派を訴追せず、「二重基準」と批判され、調停機能をなくしていた。

 タイではこれまで、政治的な危機の際には、国民に敬愛されるプミポン国王が調停に乗り出し、収束させてきた。だが高齢の国王は長期入院中だ。

 こうした状況で、社会の対立を乗り越えるきっかけは、投票で示された国民の意思を、すべての当事者が尊重することしかないのではないか。

 焦点は、汚職の罪で有罪となり、逃亡中のタクシン氏に新政権が恩赦を与えるかどうかだ。

 帰国が日程に上れば、政局は緊張するだろう。両派がどこで妥協を図るか、注目される。

 クーデター前、タクシン氏は強引な政治手法が都市中間層や王党派から反発を受けていた。

 兄タクシン氏の「クローン」を自称するインラック氏は、選挙戦で「国民和解」を訴えた。勝った側がよほど謙虚に、より大胆に譲歩する覚悟がなくては和解は進まない。

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