きょうの社説 2011年7月5日

◎日銀景気判断 消費自粛ムードの払拭を
 日銀が各支店からの報告をまとめた「地域経済報告(さくらリポート)」で、北陸など 7地域の景気判断を上方修正した一番の理由は、サプライチェーン(部品の調達・供給網)の復旧で、生産がV字回復してきたからだろう。ただ、それ以上に心強いのは、かなり遅れると見られていた企業経営者や消費者の心理が意外に早く持ち直してきたことである。

 国内総生産(GDP)の6割近くを占める個人消費が回復しないと、本格的な景気上昇 はおぼつかない。福島第1原発事故や夏場の電力不足懸念など不安材料も山積しているが、官民挙げて消費自粛ムードを払拭(ふっしょく)し、今度こそ景気回復に道筋をつけたい。

 日銀が1日に発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)を見る限り、企業の景気認 識は今が底にある。大企業の業況判断指数は、製造業が1年3カ月ぶりにマイナスに転落した。震災の影響がもろに出たためだが、先行きについては改善を予想する声が多く、生産や輸出、消費の下げ止まり感も鮮明になってきた。

 北陸はもともと、新興国経済向けのデジタル家電、携帯電話などの電子部品の生産・輸 出が好調で、富山県の医療品生産も拡大基調が続いていた。製造業全体でサプライチェーンの影響が比較的軽かったこともあり、企業は震災ショックからいち早く立ち直り、収益面での改善も続いている。

 個人消費については温泉旅館やホテルなど観光業種で厳しさが残るものの、アナログ放 送終了で駆け込み需要が高まっているデジタルテレビなど家電製品がよく売れており、消費マインドは震災前に戻り始めている。住宅投資も下げ止まり、3―5月の新設住宅着工戸数は前年比12・6%増加した。自動車販売の減少に歯止めが掛かり、温泉地に活気が戻ってくるようなら、見通しはかなり明るくなるのではないか。

 気になるのは、政府・与党による社会保障と税の一体改革論議で、消費税率引き上げが 既定路線とされたことだ。復興財源として臨時増税を求める声もくすぶっている。増税で、せっかく出てきた消費回復の芽をつぶすようなまねだけは願い下げにしたい。

◎塩硝蔵の史跡申請 加賀藩の広域的な財産に
 来年6月の国史跡申請が決まった金沢市の「土(つっ)清水(ちょうず)塩硝蔵(えん しょうぐら)」は、指定されれば藩の火薬製造施設としては全国初となる。火薬備蓄量は全国一とされ、藩の機密にかかわる施設の性格上、文献は極めて乏しかったが、4年間の発掘調査で絵図に記された施設群の存在が裏付けられ、謎に包まれた巨大な軍事拠点の輪郭が明らかになった。近世考古学の一つの成果と言ってよいだろう。

 国史跡への道筋が見えたいま、金沢市に望みたいのは、塩硝蔵を金沢の財産にとどめず 、石川、富山県に広がる加賀藩圏の広域的な財産と位置づけ、地域間交流にも積極的に生かすことである。

 市によると、塩硝蔵は辰巳用水と一体的な史跡とし、「国史跡辰巳用水附(つけたり) 土清水塩硝蔵跡」という名称が検討されている。もともと辰巳用水の国史跡調査のなかで塩硝蔵の調査が始まり、跡地は宅地や農地になっている。辰巳用水と関連付けた方が史跡になりやすいとの判断なのだろう。

 文化財保護行政ではこれが望ましい手法としても、塩硝蔵の歴史的なスケールは辰巳用 水との関連では見えてこない。活用の視点に立てば、塩硝の生産地だった五箇山と結びつけ、「塩硝の道」を含めて加賀藩軍政の一体的な遺産として位置づける必要がある。

 五箇山では来年、ユネスコ世界遺産委員会のモニタリング(審査)が予定され、南砺市 が新たな保存計画を策定している。塩硝蔵の史跡指定は五箇山の藩政史にあらためて光を当て、世界遺産の価値に厚みを加える契機にもなる。

 金沢に関しては、文化庁から「城下町の代表選手の割には文化財指定が少ない」との厳 しい指摘も受けたが、国史跡は2008年の金沢城跡を皮切りに、前田家墓所、辰巳用水と指定が続き、塩硝蔵が実現すれば四つ目となる。

 一方、高岡市でも高岡城跡の国史跡をめざす動きなど、文化財指定を得る取り組みが広 がってきた。加賀藩圏全体でこうした機運が高まってきたからには、点在する文化財を結びつけ、魅力的な歴史物語を発信していきたい。塩硝の歴史はそのモデルになる。