2011年5月7日 23時30分 更新:5月7日 23時45分
政府による反政府デモ弾圧が続くシリア情勢が緊迫の度を深めている。デモ隊の死傷者が増加する地方都市だけでなく、首都ダマスカスでも軍や秘密警察が市民の言動に目を光らせ、事実上の厳戒体制が敷かれている。デモ隊の一角を担うイスラム色の強い住民が独裁反対を訴える一方、極端なイスラム化を警戒し、宗教と距離を置くアサド大統領の路線を支持する若者もいる。政権に対する国際社会の圧力が強まる中、シリアの行方は流動的だ。【ダマスカスで鵜塚健】
商店の店頭からホテルのロビー、ビルの壁まで、ダマスカスはアサド大統領の肖像写真で埋め尽くされている。シリアはイスラム教シーア派の宗教国家イランの友邦だが、両国の宗教と政治・社会の関係は対照的だ。宗教抑圧的なイランに対し、シリアでは長髪をなびかせておしゃれを楽しむ若い女性、手をつなぐ男女が目立ち、街中のバーにはウイスキーが並ぶ。記者が駐在するテヘランに比べ格段に開放的だ。
だが、反政府的な動きに対するシリア当局の監視は厳しい。6日、ダマスカス中心部にバスに分乗した警察官が集結し、迷彩服の兵士らも銃を手にデモ警戒に当たった。外国人旅行客やビジネスマンの姿はまばらだ。同日午後には首都の南部と北部でデモが起き、警察が検問を強化した。
市内を案内してくれた反アサド派の煙突職人のムハマドさん(36)=仮名=は「あれが秘密警察だ」と、鋭い目つきの私服2人組を指さした。ムハマドさんの親類の男性は政府を批判したとして82年から30年近く刑務所暮らしだ。4月15日に首都郊外ハラスタでデモ弾圧の模様を携帯電話のカメラで撮影したムハマドさんは「市民に銃を向ける大統領は許せない」と語った。
シリアでは数年前からコメや小麦の価格上昇で国民の不満が募り、アサド大統領一族と企業の癒着も指摘される。外国企業誘致など改革の恩恵にあずかれるのは一部の高学歴者だけで、格差が広がる。来月、妻が出産予定のムハマドさんは「月収1万シリアポンド(約1万6000円)ではやっていけない。腐敗したアサド一族を追放したい」と話す。
一方、アサド大統領への「支持」を表明する市民もいる。露骨な大統領批判がご法度のシリアで市民の本音を聞き出すのは困難だが、ダマスカス大学に通うキャマルさん(26)は「酒を飲みながら歩いても、路上で彼女にキスしても大丈夫だ」と語る。市中心部のカフェにいた男性(30)も「デモはイスラム主義を加速させたい地方の人たちの運動だ」と指摘した。
米国はイラン政府のデモ弾圧には過剰に反応するが、シリア政府に対しては及び腰だ。イランのデモがイスラム支配からの離脱を求めているのに対して、シリアではイスラム色が濃いことも理由とみられる。
チュニジアやエジプトで実現した政権転覆はいずれも首都での若者らによるデモが転換点になった。だが、ダマスカスの若者の間では、反政府デモへの支持、不支持で意見が割れ、政権を倒すうねりに発展するかどうかは定かでない。