2011年5月7日 19時6分 更新:5月7日 20時26分
東日本大震災では、河川や海岸の堤防も甚大な被害を受けた。例年なら被災地もあと1カ月ほどで梅雨入りするだけに、損壊した堤防の周辺で暮らす住民からは、再度の浸水被害を懸念する声も上がる。国や自治体は対策を急ぐが、本復旧には時間がかかり、今年の梅雨や台風には応急復旧で対応せざるを得ないのが現状だ。【須藤唯哉、樋岡徹也】
北上川では、津波が河口の追波湾から約50キロ上流まで遡上(そじょう)したことが確認されている。川沿いの堤防には亀裂や沈下の被害が各地で発生。河口から約5キロ離れた宮城県石巻市谷地(やち)地区の集落では、民家が40軒程あったが、堤防を越えて津波が押し寄せ、被害を免れたのは3軒だけだった。
同地区の今野仁一さん(62)は自宅2階から見た津波を「真っ黒だった」と振り返る。震災後、妻や近くの親族と2階で寝泊まりしており、長年暮らしてきた土地を離れるつもりはないが、決壊した堤防が心配でたまらない。梅雨の大雨や台風を見据え、「堤防をきちんと整備してもらわないと必ずまた災害が来る」と訴える。国土交通省東北地方整備局北上川下流河川事務所は「6月いっぱいまでには堤防の機能を回復したい」と説明した。
国交省によると、東北と関東地方で国が管理する10水系では、計2115カ所の堤防などで決壊や亀裂、崩落の被害が確認された。東北では北上川646カ所、阿武隈川137カ所などで、関東でも利根川659カ所、那珂川129カ所などで被害が出た。
国交省はこれらのうち、堤防機能が著しく損なわれた6水系53カ所を緊急復旧事業の対象に指定。亀裂は土砂で埋め戻してブルーシートを張り、堤防が崩落した場所には盛り土をした上でコンクリートを張るなどの応急復旧措置を進めている。5日現在で35カ所の対策を終え、18カ所で対策を実施中という。
国交省治水課の担当者は「2115カ所の応急対策は梅雨までに終わらせたい」と説明する。本復旧に入るのは台風シーズン後になるといい、「地盤沈下している河口部では堤防のかさ上げも検討しないといけない」とさらなる課題も挙げる。
県などが管理する海岸の堤防も岩手、宮城、福島3県の計約300キロのうち、6割超にあたる計約190キロが全半壊した。国が自治体に示した復旧の基本的な考え方によると、各自治体は高潮などへの緊急防御対策として、梅雨までに土のうを積んだり、盛り土などの対策を実施。台風期までに、津波で流された消波ブロックを土のうの海側に置いて補強するなどの対応を行うとした。
ただ、被災した堤防の長さが膨大なため、対策は優先順位を付けて実施せざるを得ない状況だ。居住可能な家屋が残る場所や、復旧・復興に不可欠な公共施設やライフラインがある場所が優先対象とされた。
本復旧は台風期明けになるが、どこまで予算をかけ、どの程度の堤防を再建するかは議論が必要になる。国交省は専門家らの検討委員会を設置して議論を始めており、国交省海岸室の担当者は「被災地のまちづくり計画との調整も必要だ」と話す。