短編小説『小さな魔法』ハルキョンLASヨシュエス3点セット ~同じ1つのテーマで3ジャンルのカップルの話を書いてみた~
短編小説『小さな魔法』 ハルキョンLASヨシュエス3点セット
~同じ1つのテーマで異なる3ジャンルのカップルの話を書いてみた~
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涼宮ハルヒの憂鬱SS
ハルキョンVer.サブタイトル『欲張り』
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未来人に仕組まれた事だとは言え、運命とはつくづく奇妙な物だと俺は思う。
俺は何となく流されるまま県立の高校を受験し高校生になり、涼宮ハルヒと出会った。
そして、俺はハルヒに強制的に引き込まれる形で、ハルヒが創った新しい部活、SOS団の団員一号(但し、雑用係)となる。
SOS団とは、
S=世界を
O=大いに盛り上げる
S=涼宮ハルヒの団
が正式名称だ。
まあ、ハルヒが気まぐれで作った部活だから、名称なんて形骸化しているんだがな。
とりあえず、宇宙人や未来人、超能力者、そして異世界人を探して一緒に楽しく遊ぶのが目的らしい。
傍から見れば、何て思考回路のおかしい女だと思うかもしれない。
俺も入学式の後の教室の自己紹介で、「普通の人間には興味が無い」と聞いた時は冗談かと思ったさ。
しかし、ハルヒのやつは本気だった。
しかも厄介な事にハルヒはとある解釈によると、自分の願望を無意識のうちに叶えてしまうパワーを持っているらしい。
高校が始まって数カ月も経たないうちに長門有希と言う宇宙人、朝比奈みくると言う未来人、古泉一樹と言う超能力者をSOS団に集めやがった。
だが、肝心のハルヒ本人は3人がレアな存在に気が付いておらず、気付かせてもいけないらしい。
だから、現在のSOS団の活動はオカルトめいた面白い事を探索しつつ、七夕などのイベントをお祭り騒ぎで楽しむレベルで落ち着いている。
ハルヒの退屈を紛らわすためにクラスの友達や妹までをメンバーに加えて市の野球大会に出たり、七夕の短冊に願い事を書いたり。
夏休みには古泉の提供で孤島の別荘に合宿にも行ったな。
こうして、俺もハルヒに雑用係としてしごかれながらも、SOS団に居心地の良さと愛着を覚え始めていた。
仲間である団員や我らが団長、涼宮ハルヒにもな。
しかし、ハルヒ発案の文化祭で公開すると言う自主製作映画の撮影中に事件は起きた。
ハルヒはいつもの”団長”の腕章の代わりに”超監督”の腕章をつけ、俺達相手に好き放題をやっていた。
以前にも入学早々にコンピ研からパソコンを巻き上げたり悪事は働いていたんだが、今回俺をキレさせたのはハルヒの一言だった。
朝比奈さんを酔わせて抵抗出来なくさせてから、古泉とキスをさせようとしたハルヒに俺はこう言ってやったんだ。
「無茶言うんじゃない、朝比奈さんも古泉もお前の人形じゃないんだぞ! 軽々しくキスなんてさせるな!」
「うるさいわね、あんた達は監督のあたしの言う通りに動く人形でいいのよ! 余計な演出は要らないわ!」
何て女だ、俺達を物扱いかよ!
裏切られた気持ちになった俺はハルヒをぶん殴って立ち去った。
後ろでハルヒが何やらわめいていたが、俺は顔も見たくなかったから、一度も振り返らなかった。
「どうしたのキョンくん、とっても恐い顔~」
家に帰ると、俺の雰囲気を察してか、妹が心配そうに声を掛けて来た。
まだ怒りの収まらない俺は、妹に笑顔を返す事も出来ずに部屋のベッドで仰向けになった。
「畜生、ハルヒのやつ……」
俺がそうつぶやきながら虚空に視線を泳がせていると、家のインターホンが鳴らされる音が聞こえた。
妹の友達でも来たのか?
と俺は大して気にも留めないでいたのだが、妹が息を切らせて部屋に入って来る。
「キョン君、ハルにゃんが来たよ! でも、さっきのキョンくんみたいにとっても恐い顔してる」
どうしてハルヒが俺の家に?
あいつは俺の家に来た事は無いはずだろ?
そんな疑問が俺の頭の中を巡ったが、それよりも俺はまだハルヒを許せない気持ちが強く残っていた。
「悪いな、俺は会いたくないんだ」
「でも……」
俺と妹が話していると、俺の部屋のドアがゆっくりと開かれ、隙間から怒りの表情をしたハルヒが顔をのぞかせた。
ここまで来てしまっては門前払いも出来ないと覚悟を決めた俺は、妹に部屋の外へ出て行くように促した。
妹が完全に部屋の外へ出て行くと、ハルヒは大声で俺に向かって怒鳴り散らす。
「何で映画の撮影中に勝手に家に帰ってんのよ!」
「別にナレーションの俺が居なくても、映画の撮影は続けられるだろう?」
俺はあきれたようにハルヒにそう言い返した。
すると、ハルヒの目から堰を切ったように涙が流れ出した。
もちろん、俺はハルヒが涙を流すのを見た事は無いから、自分が怒っていた事を忘れるほど驚いた。
「あの後みんな帰っちゃったわよ、みくるちゃんも古泉君も有希も!」
やっぱり、古泉や朝比奈さんや長門も腹にすえかねたんだろうな。
「もしこのままずっとあたし1人になったら、SOS団はどうなるのよ……」
こいつ、失って初めて大事な物に気が付いたんだな。
まあそれはハルヒに限らず人間誰しも大なり小なりある事だが。
「せっかく高校になって楽しくなって来たと思ったのに、キョン、あんたが側に居ないと全然楽しくない……」
そう言って子供のように泣きじゃくるハルヒを見て、俺はハルヒがかわいそうになって来た。
ハルヒは今まで他人の気持ちを考えるなんて少しも意識していなかった残酷な子供だったのだ。
しかし、今回の件でハルヒは身を以って成長しただろう。
俺は妹をあやす時のようにハルヒの頭を胸に抱き寄せて優しく言い聞かせるように話し掛ける。
「なあハルヒ、お前が俺達SOS団のメンバーの事を好きだと思って居てくれる事は解る。でもな、言葉ってのは気を付けなきゃいけないんだ。口から出たら取り消せないし、誤解させてしまう事もあるからな」
「うん……本当にゴメン、あたしバカだ、あんな事を言って……」
俺はハルヒが泣き止むまで、優しく背中をさすってやった。
泣き止んだハルヒは、不安そうな顔になって俺に尋ねる。
「ねえ、みくるちゃんと古泉も有希も、あたしの事を許してくれるかしら?」
こんな自信の無さそうなハルヒの顔を見たのも初めてだ。
俺はハルヒを元気づけるために肩を抱いて語りかける。
「お前が心を込めて謝れば、きっと朝比奈さんも古泉も長門も、解ってくれるはずさ。だって、SOS団の仲間だろう?」
「当たり前じゃない!」
そう言うと、ハルヒは俺に太陽のように光り輝く笑顔を向けて来た。
この分ならもうハルヒは大丈夫だろう。
俺の心も晴れ上がって行くのを感じた。
ハルヒは早速朝比奈さん達に謝りに行くと言って部屋を出て行った。
不安なら俺がついて行こうかと提案したが、ハルヒは自信たっぷりに一人で平気だと答えた。
ハルヒが出て行った後、不思議そうな顔をした妹が部屋へと入って来る。
「キョンくん、ハルにゃんがとっても嬉しそうな顔をしていたけど、どうしたの?」
「さあな、秘密だ」
「おかーさん、キョンくんがハルにゃんと部屋でした事は秘密だって教えてくれないの~」
「誤解を招くような発言は慎みなさい!」
俺は慌てて妹にツッコミを入れた。
次の日、登校するとニヤケ顔の谷口が俺に話しかけて来る。
「よおキョン、昨日涼宮にお前の家の場所を聞かれたんだが、あの後どうしたんだ?」
「さあな」
俺は妹に答えたのと同じ返答をした。
ハルヒに教えたのはお前だったのか。
「何だよ、その余裕ぶった笑顔は? もしかして、お前涼宮とそんな関係になっちまったのか?」
どんな関係だよと心の中で谷口にツッコミを入れながらも俺は愉快で笑いが止まらない気分だった。
何しろ、俺はハルヒの喜怒哀楽をコントロールする力を持っていると気がついてしまったからだ。
もちろん、俺はハルヒをわざと泣かせる趣味なんて無いぞ。
これからお前をたくさん笑顔にさせてやるからな、ハルヒ。
この力を他の誰にも渡したくないなんて思う俺は、欲張りなんだろうな。
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英雄伝説 空の軌跡SS
ヨシュエスVer.サブタイトル『太陽が消える前に』
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ヨシュアは帝国の片田舎のハーメル村で暮らす普通の少年だった。
村は貧しくても、優しい姉カリンとカリンの恋人であり兄代わりだったレオンハルトに見守られ、ヨシュアは幸せな生活を送っていた。
しかし、平和な日常は突然破られた。
謎の武装集団がハーメル村を襲ったのだ。
為す術もなく殺されて行く村人達。
村の外れまで姉カリンと逃げ延びたヨシュア。
だが、村を襲ったやつらの追手が2人に迫った。
ヨシュアは目の前の地面に横たわる村人の死体が持っていたナイフを拾い上げると、追手の男の心臓に突き刺した!
まさか村の少年であるヨシュアが反撃してくるとは思いもよらなかった男は叫び声を上げて絶命した。
だが、ヨシュア達を追って来たのはその男だけでは無かった。
レオンハルトがヨシュアを助けに駆けつけた時、ヨシュアは人の命を奪ってしまった事と、目の前で姉の命が奪われた2重のショックで、すっかり心が壊れてしまった。
そして、レオンハルトとヨシュアは結社と呼ばれる組織に入った。
ヨシュアは結社に『漆黒の牙』と言う肩書きを授けられ、暗殺者としての技術を教え込まれて行った。
”Sランク遊撃士カシウス・ブライトを暗殺せよ”
結社から暗殺命令を受けて仕事中のカシウスを襲ったヨシュアだが、カシウスに歯が立たなかった。
”任務を失敗した自分には存在価値が無い”
自分で命を絶とうとしたヨシュアだったが、カシウスに阻止される。
「どうして、あなたは自分の命を狙った僕を助けようとするんだ。そのまま放って置いて死ねば、敵が減ると言うのに」
「何でだろうなあ、俺にもお前さんと同じ年頃の子供が居るからかな」
「そんなの理由になってない!」
その後もヨシュアはカシウスに質問を浴びせるが、カシウスはのらりくらりとはぐらかされてしまう。
さらにカシウスに言いくるめられたヨシュアはカシウスに引き取られてブライト家の家族となる事を了解してしまった。
しかし、名の売れた遊撃士である家を留守にすることが多い。
ブライト家の居候となったヨシュアの側にいつも居るのは、カシウスの実の娘、エステルだった。
カシウスに兄弟が欲しいとせがんでいたエステルだが、幼い頃に母が他界してしまったため、それも叶わなくなった。
そこにカシウスが新しい家族として連れて来たヨシュアは、エステルにとって待望の『兄弟』だった。
エステルはヨシュアより数ヵ月ほど年下だったのだが、ブライト家に長く居る身として、姉としての地位を主張し、ヨシュアの世話を焼き始めた。
しかし、その世話の焼き方はかなり個性的でヨシュアを困らせる事になる。
「ほら、ダンゴ虫をあげるから元気を出して!」
ブライト家の庭の木で寄りかかっていたヨシュアに、エステルが無邪気な笑顔で話し掛けた。
「……僕に構うな」
心を閉ざしていたヨシュアは、エステルにも冷たく接した。
だがエステルはそんなヨシュアの態度にも臆すること無くヨシュアに対して暖かい笑顔を向け続ける。
「うーん、じゃあこの蝶ならどう? 変な模様があって面白いよ」
エステルはそう言ってヨシュアの前に蝶を差し出したが、ヨシュアは黙って顔を背けた。
「これでもダメか、じゃあとっておきのを持って来るから覚悟して置きなさい!」
エステルはヨシュアに人差し指をビシッと突き付けて宣言すると、家の中へ戻って行った。
そして2階の自分の部屋を引っかき回す音がヨシュアにも聞こえて来る。
ヨシュアの所へ戻ってきたエステルは手に大きな虫かごのようなものを持っていた。
「じゃーん。マルガオオトカゲだよ!」
結社によってあらゆる知識を詰め込まれたヨシュアは、マルガオオトカゲの事を知っていた。
マルガオオトカゲは口の中に伝染病の細菌を保有しており、人間がかみつかれたら死に至る場合もある。
そんな危険な生物を10歳前後の子供がペットにしているとは驚きである。
カシウスは家を空ける事が多いと聞いているが、知っているのだろうか。
ヨシュアが何も答えないでいると、エステルはその沈黙の意味を勘違いしたのか、悔しそうな顔になる。
「よーし、じゃあ森でヨシュアが思いっきり驚く虫を探して来る!」
エステルはそう言って、ミストヴァルトの森へ向かって駆け出して行ってしまった。
「別の意味で驚いたよ……」
ヨシュアは去って行くエステルの後ろ姿を見てそうつぶやいた。
エステルの気配が消えたのを確認したヨシュアは、マルガオオトカゲを家の庭から遠く離れた場所へと放す。
これでエステルが間違ってかまれてしまう事も無くなるはずだ。
いや、エステルがどうやって捕まえたのか知らないと安心はできない。
すると、ヨシュアは森に向かったエステルの事が気になって仕方が無くなって来る。
ヨシュアは急いでエステルを追いかけて行った。
「きゃあああっ!」
森に着いた途端に、ヨシュアの耳にエステルの悲鳴が聞こえて来た。
悲鳴が聞こえた場所に駆けつけると、そこには魔獣に囲まれたエステルの姿があった。
ヨシュアは素早くエステルの側に飛び込んで魔獣達を蹴散らす。
「何でこんな危険な事ばかりするんだ!」
「だって、どうしてもヨシュアに喜んで欲しかったんだもん」
ヨシュアが思いっきりしかると、エステルは目に涙を浮かべてそう反論した。
「僕なんかのために、そこまですること無いだろう……」
エステルの言葉を聞いたヨシュアは、ショックを受けてそうつぶやいた。
「ほら、捕まえた! この虫ならヨシュアも満足でしょ!」
泣いたカラスがもう笑ったと言うべきか、エステルの両手には巨大なカブトムシが握られていた。
そのエステルの太陽のような笑顔に、ヨシュアの凍りついた心も徐々に解け始めて行った。
そして、ヨシュアは見てて危なっかしいエステルの世話を焼き始める事になる。
料理を作らせてもヨシュアの方が器用。
日曜教会で授業中に寝てしまったエステルをヨシュアが起こす。
ヨシュアの心の中で、エステルの存在は大きくなって行った。
カシウスにこれからどう生きるかと尋ねられた時、ヨシュアは迷わずエステルと同じ遊撃士を目指すと答えた。
遊撃士になってもエステルを支え続けたいとヨシュアは本気で思うようになった。
エステルと言う太陽を得たヨシュアは、他人に心を開く様になり、遊撃士になるための修行の旅の中で様々な人々に触れ合って成長して行った。
ロレントの街の市長邸から盗まれた宝石を取り戻したり、ボースの街でおきた飛行船ハイジャック事件の解決に協力したり、ルーアンの街の市長の悪事を暴いたり……。
ついには王都グランセルの街で起きたクーデター事件の解決に協力した功績が認められ、表彰されるまでになった。
ヨシュアはこれからもずっと、エステルとコンビを組んで遊撃士の仕事を続けられると信じていた。
しかし、そんなヨシュアの希望を打ち砕くような無慈悲な出来事が起きる。
平和を祝う女王生誕祭の中でたまたま1人になったヨシュアに、結社の人間が接触して来たのだ。
「君が彼女の側に居ると彼女を不幸にする」「血で汚れ切った君に彼女の側に居る資格があるのか」
結社の人間はヨシュアの心の闇を突くような言葉を次々と投げ掛ける。
その言葉に負けてしまったヨシュアは、その日の夜エステルの側から黙って姿を消した。
エステルと別れたヨシュアは、単身で結社への復讐を行おうと決意を固め、その準備を進めた。
時間を掛けて慎重に情報収集を行ったヨシュアは、結社のアジトである飛行船の場所をつき止めた。
このアジトを飛行中に爆破する。
そうすれば結社に大きな被害を与えられるに違いない。
上手くすれば幹部の何人かを墜落に巻き込んで倒せるかもしれない。
もちろん、脱出のタイミングを間違えれば自分の命は無い。
それだけ危険な事は分かっているが、ヨシュアはためらわなかった。
しかし、そんなヨシュアの前に立ち塞がったのはまたもやカシウスだった。
「こんな所に居たのか、ずいぶんと探したぞ」
「あなたは、僕を連れ戻しに来たんですか?」
「そうだ、戻って来てはくれないか、俺のためでは無く他でもないエステルのために」
「でも、僕はエステルの側に居る資格なんかありません、彼女を不幸にするだけです」
ヨシュアが強い拒否の態度を示すと、カシウスは困ったような表情をして語りかける。
「お前が姿を消した後、エステルは悲しみを隠して周囲には笑顔を見せていた。いつかお前に再び会えると信じてな」
「くっ……」
カシウスの言葉を聞いて、ヨシュアは悔しそうに顔をしかめた。
「だが、この前結社の連中がお前の名前をエサにして、エステルをだまし討ちにしようとしたんだ」
「何だって?」
ヨシュアは目をむいて驚いた。
「それで今までこらえていた気持ちがあふれだしたんだろう、エステルはずっと泣きっぱなしだ。あの笑顔の絶えなかった娘がな……」
カシウスに言われて、ヨシュアはエステルの泣いた顔を想像しようとしたが、エステルの泣いた顔は数年前に1回見たきりだ。
なかなか想像する事は出来なかった。
その代わりに脳裏に浮かぶのはエステルの笑顔ばかり。
ヨシュアもエステルの笑顔が恋しくなっていた。
「このままエステルを泣かせたままで良いと思っているのか?」
「いいえ、僕の考えが浅かったようです」
カシウスが尋ねるとヨシュアは首を強く振って否定し、自分の決意をカシウスに伝えるのだった。
「ヨシュア!」
カシウスの計らいでグランセル城の空中庭園で2人は再会を果たした。
「こんなにエステルを泣かせてしまうなんて、僕は何て事をしてしまったんだ。だけど、これからはずっと側で君を守るから……」
泣き笑いの表情を浮かべるエステルを抱き締めてヨシュアはそっとそう誓うのだった。
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新世紀エヴァンゲリオンSS
LASVer. サブタイトル『黄色いワンピース』
(ラブラブアスカシンジ)
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シンジは幼少の頃、事故により母親を失ってから、父親により伯父の家に預けられた。
伯父夫婦は自分の子供達とシンジを区別して接したため、シンジは内向的な性格に育ってしまった。
中学2年の時、父によって第三新東京市のネルフにエヴァンゲリオンのパイロットとして呼ばれるまで、無気力な生活を送っていた。
しかし、そんなシンジの暗い性格を心配したミサトはシンジを強引に自分の家へと住まわせる。
陽気な性格のミサトに引っ張られる形でシンジは少しずつ周囲に興味を向けるようになった。
新たに通う事になった第壱中学校でも友達と呼べる存在が出来た。
使徒と戦うエヴァンゲリオンのパイロットと普通の男子中学生と言う2足の草鞋を履いた生活を送るシンジ。
ドイツのヴィルヘルムスハーフェンを出て日本へと向かう船の甲板で、シンジとアスカは出会った。
黄色いワンピースを着て堂々とした態度で腰に手を当てたっぷりの余裕を持った笑みを浮かべたアスカの姿を見て、シンジはアスカに強く惹かれるものを感じた。
「ふーん、アンタがサードチルドレン? 何かさえないわね」
アスカがシンジを少しバカにするように声を掛けても、シンジはアスカに見とれていた。
自分には無い輝きのようなものを持っていると思ったからだ。
直後に使徒が2人と弐号機を載せる船に襲来し、シンジとアスカは2人で弐号機のエントリープラグに入る事になった。
目の前でアスカの操縦技術を見たシンジは目を見張り、エヴァのパイロットしてもアスカに憧れを抱くようになる。
次に出現した使徒に対して、シンジとアスカの攻撃のタイミングをピタリと合わせる必要があると判断したミサト。
そこでシンジとアスカの生活リズムを合わせるためにアスカもミサトの家で同居させると宣言した。
同じ屋根の下で暮らす事に猛反発したシンジとアスカだったが、作戦だと言われては逆らう事は出来なかった。
こうして、始まった同居生活も続けて行くうちに次第に家族へと変化して行く。
ある日の夜、寝ていたアスカが母親の名前を呼んで涙を流しながらうなされているのを見たシンジは、アスカが自分の境遇と似ているのだと知った。
惚れた男の弱みと言うべきか、それからシンジは出来る限りアスカの望みを叶えるように努力を始めるようになった。
アスカがドイツ風のハンバーグが食べたいと言えばいつもより遅くまで起きて料理本を読んで研究する。
愛用しているシャンプーが切れたならば、遠く離れた店まで買いに行く。
最初はエースパイロットして優遇されるのは当然だと受け止めていたアスカだったが、ある出来事をきっかけにシンジの好意に気がつく事になる。
ある日火山のマグマたまりの中に使徒を発見したネルフはエヴァによるせん滅を決定。
高熱のマグマに耐えられるように耐熱防護服を装備したアスカの乗る弐号機がその任務に当たった。
命綱となるワイヤーにつり下げられ、使徒の居るマグマの海の底へと潜って行く弐号機。
そして使徒と遭遇した弐号機はプログナイフを使った戦闘の末、使徒を撃破する事に成功する。
しかし、使徒の最後の攻撃がアスカの乗る弐号機をつり下げるワイヤーを全て切り裂いてしまった。
命綱を失った弐号機はゆっくりとマグマの底へと沈み始めた。
「これからだと思ったのに、もうアタシはここで終わっちゃうの……?」
アスカも自分の命運が尽きたと覚悟したその時、弐号機を引っ張り上げたのは火口で待機していたシンジの乗る初号機だった。
初号機は耐熱装備をしておらず、通常装備のままだった。
その初号機でマグマの中に手を伸ばし、弐号機を引き上げたのだ。
エヴァのダメージはシンクロしているパイロットにも伝わる。
乗っているシンジは熱湯に手を突っ込んで火傷したような痛みを感じているだろう。
「無茶しちゃって、バカシンジ……ありがとう」
アスカは目に嬉し涙を浮かべながらシンジにお礼を言うのだった。
これからアスカの方もシンジに心を許して行くようになる。
素直にシンジに好意を示す事が出来なかったアスカだが、揃って登下校をしたり、食材の買い物をする姿は夫婦のようだとからかわれた。
友達以上恋人未満の生活でも、2人はとても楽しかったのだ。
使徒との戦いも息のあったコンビネーションを発揮し、ミサトの立てた少し無茶だと思われた作戦も遂行して行った。
2機のエヴァが手を繋げば向かう所敵無しとまで言われた。
しかし次第に激しさを増して行く使徒との戦い。
そんな状況下でもシンクロ率を伸ばして自信を着けて行くシンジ。
ついには上回っていたアスカのシンクロ率を追い越してしまった。
焦るアスカは、シンクロ率を大幅に落として行ってしまう。
アスカは日常生活でも笑う事が無くなってしまった。
葛城家も灯が消えたような暗い雰囲気に包まれている。
大気圏外の衛星軌道上に出現した使徒に対して、ネルフは弐号機を出撃させた。
初号機は直前に現れた使徒との戦いで暴走したため、ネルフの司令であるシンジの父ゲンドウによって待機命令を下されたのだ。
空中の使徒から発せられる光線が弐号機を直撃し、エントリープラグの中のアスカが苦しそうな声を上げる。
「司令、このままでは弐号機パイロットが危険です、収容して下さい!」
ミサトはそう言って、オペレータに弐号機をネルフの中に引き上げさせようと合図を送ったが、ゲンドウは大声でそれをさえぎる。
「ならぬ、弐号機はそのまま使徒の攻撃を引きつけろ」
ゲンドウの言葉を聞いて、ネルフの誰もが弐号機は捨て駒に使われたのだと理解した。
しかし、ゲンドウの命令にネルフの誰も逆らえない。
それはミサトもシンジも例外では無かった。
「レイ、ドグマに降りて槍を使え」
「はい」
ゲンドウは冷静に命令を下し、零号機に乗る綾波レイも淡々と従う。
レイが地下に潜って地上へと戻るまでの間、シンジは目と耳を塞いでアスカが苦しんでいる姿と声をシャットアウトしようとした。
「ロンギヌスの槍、準備完了。3、2、1……」
オペレータの合図によって零号機から投げられたロンギヌスの槍は衛星軌道上に居た使徒の核を直撃し、弐号機はやっと使徒の攻撃から解放された。
戦闘が終わると、シンジは一人でたたずむアスカの所へゆっくりと歩いて行った。
「アスカが無事で良かったよ、綾波に感謝しないとね」
落ち込んでいるアスカの背中にシンジが声を掛けると、アスカは振り返らずにわめき散らす。
「何が感謝よ、へどが出るわっ!」
「そんな、綾波のおかげで助かったんだからさ」
空気の読めない発言を続けるシンジに堪忍袋の緒が切れたアスカは、怒りに燃えた表情でシンジの方を振り返った。
その青い瞳にはたくさんの涙が溜まっている。
「どうして、シンジが助けに来てくれなかったのよ!」
アスカに詰め寄られたシンジはアスカから目を反らして下を向いてボソボソと言い訳を始める。
「だって、初号機は父さんの命令で動かせなかったし、仕方無かったんだ」
「アタシが使徒の攻撃で苦しめられて居るのを初号機のエントリープラグの中で見ていたんでしょう、どうしてずっと黙ったままだったのよ!」
弐号機のエントリープラグからも、初号機のエントリープラグの様子は解る。
アスカは使徒の攻撃に苦しまされながらも、シンジが何もしていない事を覚えていたのだった。
「ネルフでは司令である父さんの命令は絶対じゃないか、だから抵抗しても無駄だったんだ」
シンジが話している事は、後付けの言い逃れであるとアスカは見抜いている。
「それは違うわ、シンジは使徒が怖かったんでしょう、この臆病者!」
図星を突かれてしまったシンジは顔を上げる事も、何も言い返す事も出来なかった。
「バカシンジに期待したアタシの方が大バカだったわ!」
「えっ?」
アスカの言葉を聞いてシンジが驚いて顔を上げると、シンジが何か言う前にアスカは走り去って行った。
「アスカ、泣いていたな……僕が泣かしてしまったんだ」
プライドの高いアスカは人前で涙を流した事は無いとシンジはミサトからも聞いていた。
家に帰ったらひたすらアスカに謝るしかないと思ったシンジだが、なかなか家に帰る決意がつかず、葛城家に戻ったのは夜も遅くなってからの事だった。
「シンジ君おかえり……遅かったわね」
「ミサトさん」
玄関でシンジを出迎えたミサトは静かな怒りを押さえている様子だった。
そのミサトの雰囲気に圧されて後ずさりするシンジ。
そんなシンジの手をミサトがつかんで、アスカの部屋へと連れて行く。
「見てよこの部屋……さっきアスカが荒らして行ったのよ」
ミサトは皮肉めいた口調でシンジにそう話した。
アスカの部屋の中は、泥棒でも入ったかのように荒らされていた。
特にシンジとの思い出に関係すると思われる2人が映っている写真などは入念に引き裂かれていた。
そこからもアスカのシンジに対する憎しみの深さが分かる。
「アスカは泣き叫びながらシンジ君を何度も呼んでいたわ。私もアスカが人目も気にせずに泣くのを初めて見たわ」
「ごめんなさいミサトさん、僕のせいでアスカがこんな事に」
「そうね、アスカをこんなに弱くしてしまったのはシンジ君のせいかもね」
ミサトの言葉を聞いたシンジは驚いてミサトの顔を見つめた。
いつの間にかミサトは優しく微笑んだ表情へと変わっている。
「さあ、行きなさい。アスカは友達の洞木さんの家へ行ったわ。そこでシンジ君の思いをアスカに伝えるのよ」
「分かりました」
強くうなずいたシンジは床に落ちていたアスカの黄色いワンピースを拾い上げると、それを持って洞木ヒカリの家へと向かうのだった。
駆けつけたシンジの姿を見ると、ヒカリはほっとしたような表情を浮かべてシンジを自分の部屋へと案内する。
「碇君、アスカの事は任せたからね」
「うん、委員長こそありがとう」
ヒカリに見送られてシンジは部屋の中へと入ってアスカに声を掛ける。
「アスカっ!」
「今さら何よ」
背中を向けたアスカに、シンジは思い付く限りの謝罪の言葉を述べて家へ帰って来て欲しいと訴えたが、アスカは固く拒否し続けた。
決して振り返ろうとしないアスカをシンジは後ろから抱きしめた。
思わぬシンジの行動にアスカは驚きの声を上げる。
「ちょっと、どういうつもりよシンジ!」
すると、シンジはアスカを抱き締めたまま、黄色いワンピースをアスカの前にかざして訴えかける。
「この黄色いワンピースは僕とアスカが出会った時にアスカが着ていたんだよね」
「それがどうしたのよ」
シンジの言葉の意味が分からないアスカは、不機嫌そうな声でシンジに聞き返す。
「あの時の自信たっぷりのアスカの笑顔、僕は好きだったよ」
「フン、どうせ今のアタシは可愛げのない顔をしているわよ」
「それって、アスカが自分で自分を追い詰めているだけじゃないのかな」
「何ですって!?」
アスカは怒った顔になってシンジの体を振り払った。
そしてシンジに人差し指を突き付けて怒鳴る。
「シンジにアタシの何が解るって言うのよ!」
「解らない……解らないよ……でも、僕はアスカを泣かせてしまった分だけ、今度はアスカを笑わせてあげたい。その気持ちだけは本物だから」
シンジはアスカの目をしっかりと見つめてそう訴えかけた。
そして、アスカはシンジの目を見つめ返してゆっくりと尋ねる。
「今度こそ、信じて良いのね?」
「うん、僕はもう逃げない」
シンジが力強くうなずくと、アスカは泣き笑いの表情になってシンジの胸に飛び込んで行った。
そしてそれからしばらくして、シンジの隣で黄色いワンピースを着て笑顔を浮かべるアスカの姿があったのだった。
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