気象・地震

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東日本大震災:暮らしどうなる?/48 避難所、女性の安全配慮を

 ◇着替え、トイレ…男女別に 暴力防止へ警戒、相談体制も

 東日本大震災では、保健師や女性支援のグループが、女性ならではの悩みや不安にも配慮した避難所運営や支援の必要性を訴えている。停電で暗くなった街や、他人同士が共同生活を送る避難所で、女性の安全・安心にどんな問題が起きたのか。

 「避難所の仕切りの隙間(すきま)から中をのぞく人がいる」「女子トイレ周辺をうろうろしている男がいる」

 福島県警は、震災直後から女性警官5~6人のチームで各避難所を回り、被災者の相談に乗った。不審な行動をとる男性への苦情が寄せられるたび、避難所のリーダーを通じて注意してもらった。県警生活安全部の星源一郎参事官は「避難生活で男性もストレスがたまっている。警察官が姿を見せてけん制することも大事」と話す。

 内閣府は5月下旬、避難所における女性のニーズを反映した取り組みを公表した。女性更衣室や下着を干せる女性専用物干し場の設置などを「好事例」と紹介している。しかし実際は、男女共用のトイレも珍しくなかった。現地に滞在する保健師らによると、入り口付近に男性がたむろしていて使用をためらう女性もいた。避難所のリーダーは地域の男性自治会長が務めていることが多く、要望を理解してもらえなかったり、女性自身も「みんな我慢しているから」と黙っているケースが少なくなかった。

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 岩手県立大学の福島裕子准教授(女性健康看護学)が5月下旬、知人の県内の産婦人科医や助産師6人に聞き取り調査すると、震災に関連した4件の性的暴行があったとわかった。余震で停電したすきに女子大生を襲った男が逮捕、起訴された事件は報道されたが、他にも、避難した友人を受け入れた女性が暴行されて緊急避妊薬の処方を受けに来た事例や、避難中の女性が自動車内で知人に襲われたケースがあったという。

 福島准教授は「把握したものがすべてかわからないが、落ち着いたら再度調査したい。避難所で女性相談も受けているが、顔見知りの集落で避難したせいか、心配していたほど深刻な話はない」と話す。

 阪神大震災でも性被害が起きていたというのは、性教育に取り組むアーニ出版代表の北沢杏子さん(81)だ。北沢さんは当時、主宰する「性を語る会」の現地会員と避難所を回った。保健師らから、「ボランティアの女性がリュックサックを引っ張られて半壊の建物に引きずり込まれ性的暴行を受けた」との報告が寄せられた。

 北沢さんは「被災者の頑張りや復興ムードで沸く街で、事件は隠されてしまった。現実を直視して対策を強化すべきだ」と、被災地に避妊具や緊急避妊薬を送ることを訴えている。

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 性暴力の防止のため、女性の意識改革を促すメッセージカードも。人身売買の防止に取り組む「ポラリスプロジェクトジャパン」(東京都渋谷区)などが設立した「震災後の女性・子ども応援プロジェクト」が発案した。支援物資を送る際、相談機関の電話番号を載せた名刺大のメッセージカードを添えている。

 カードでは「自分を大切にする」ことを強調。誰もが我慢を強いられる避難生活だが、身の安心や安全を優先することはわがままではないと呼びかける。子どもが読むことも考え「自分だけで行かないで、いっしょに行こう。トイレ・おふろ・着がえ・学校・あそぶとき」と平易なメッセージも加えた。ポラリススタッフの藤原志帆子さん(30)は「災害後の国際的な人道支援の現場では、ショックやストレスから女性や子どもへの暴力や性暴力が増えるのは常識と受け止められている。食事などの緊急支援と同時に暴力防止活動を始める」という。

 カードは計6万枚刷り、ボランティア活動前の安全研修でも使われた。15歳の娘を持つ母親は「こういうことが言いたかったの」と持ち帰ったという。

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 震災ストレスは家庭内暴力(DV)の再発や悪化にもつながる。

 被災地で女性支援に取り組む「災害時の性暴力・DV防止ネットワーク」発起人で東京都の看護師、山本潤さん(37)によると、福島県では4月末、夫から逃げていたDV被害者が避難所で夫に見つかってしまった。被災者の安否を伝える避難者名簿があだになった可能性が高い。男性の経済的・精神的な負担が高まるとDVは悪化するため、支援団体は警戒を強めている。

 仮設住宅への転居が進むことも、懸念材料の一つだ。避難所は以前住んでいた集落のコミュニティーでまとまっていたが、仮設住宅でばらばらになり、人目のある避難所では抑えられていた暴力や性行為の強要が、噴出する危険があるためだ。盛岡市の「もりおか女性センター」は、DVなど女性の相談窓口の設置を検討している。

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 政府の復興構想会議では国家レベルの青写真が作られ始めた。しかしメンバーには、脚本家の内館牧子氏ひとりしか女性が含まれていない。地域の復興会議も女性はほとんどいない。

 看護師の山本さんは、仮設住宅で新生活を始める女性が、子育てや仕事について相談できる機関や、震災で受けたショックを互いに分かち合う場の必要性を訴える。「女性の『こうしたい』という視点を入れてほしい。3分の1は女性を」と願っている。内閣府の男女共同参画会議のメンバーである大学教授ら4人も、4月末に「復興に男女共同参画の視点を」と提言している。【稲田佳代】=次回は4日

毎日新聞 2011年7月1日 東京朝刊

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