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国内最多の原発を抱える福井県が核燃料税の課税方式を変更するとして、条例改正案を県議会に提案した。原子炉を設置する電力事業者に課す自治体独自の地方税だが、この増税案には疑問がある。[記事全文]
日本のスパコン「京(けい)」が計算速度の世界ランキングでトップになった。久々に元気づけられるニュースだ。国産スパコンがトップになるのは、2002年6月から04年6月まで[記事全文]
国内最多の原発を抱える福井県が核燃料税の課税方式を変更するとして、条例改正案を県議会に提案した。原子炉を設置する電力事業者に課す自治体独自の地方税だが、この増税案には疑問がある。
現在は原子炉に核燃料が装填(そうてん)されるたびに、燃料価格に税率を掛けて徴税している。
しかしウラン価格の変動やトラブルによる原子炉停止で税収が安定しない。そこで税率を大幅に上げたうえで、その半分について許可出力に応じて固定的に徴税するという。これで停止中でも税収が入る。
その結果、電力会社の負担は5年間で約600億円(過去5年は約290億円)になる。それでも関西電力は「異議なし」との意見を県議会に伝えた。
増税の理由について福井県は「原発立地にともなう財政需要に応えるとともに、災害・事故を踏まえた安全対策のため」と、提案理由を議会に説明しただけで、具体的な使途を明らかにしていない。
関電もどう工面するのか、どの程度電気料金に転嫁するか、なぜ異議なしか、示さない。
増額分は電気料金に跳ね返る。負担させられる関西一円の家庭や企業は、こんな決め方に納得するだろうか。使い道や料金転嫁について、県と関電は説明責任を果たすべきだ。
核燃料税は1976年に福井県が初めて導入し、原発の立地する12道県が追随した。新方式が他に広がる可能性がある。
核燃料税とは別に、原発の地元には電源3法に基づく交付金が支払われる。国が電気料金の一部を電源開発促進税として集め、県と市町村に渡す。福井県には、09年度までの35年間で計3245億円が交付された。
独自の税も含めた「原発マネー」は、リスクを背負う地元への見返りともされてきた。
だが福島第一原発の事故で改めて思い知らされたのは、被害や放射能の影響は県境を超えて広がるという事実だ。
若狭湾の原発から十数キロ圏内に一部が入る京都府、滋賀県は地域防災計画の見直しを迫られている。今回の増税が安全のためというなら、近隣自治体への説明と話し合いも必要だろう。
滋賀県は脱原発を唱え、大阪府は原発への依存度を下げるため家庭への太陽光パネルの設置案を提言した。電力消費地でも、府県の枠を超えて安全確保を模索する機運が出ている。
福井県は原発の安全基準を明示するよう国に求めている。県も税収を生かした具体的な安全策を消費者に示す義務がある。
日本のスパコン「京(けい)」が計算速度の世界ランキングでトップになった。久々に元気づけられるニュースだ。
国産スパコンがトップになるのは、2002年6月から04年6月まで世界一の座を守った「地球シミュレータ」以来だ。
京は、その名の通り、1秒間に1京(1兆の1万倍)回の計算ができる能力を持つ。来年夏の完成をめざし、理化学研究所と富士通が共同開発している。総事業費は1120億円だ。
電話ボックスほどの計算機864台をつなぎ、並列に計算を進める。まだその8割程度しかできていないが、今回、毎秒8千兆回を超える計算能力を達成してトップに躍り出た。
京レベルのスパコンの開発は未経験の難事業とされてきた。東日本大震災で被災した協力会社も含め、関係者の熱意と努力のたまものだろう。
もっとも、喜んでばかりはいられない。
この分野の競争は厳しい。
昨年秋、中国製スパコンが米国を抑え、初めて世界一になった。アジア勢に後れを取った米国だが、京と同等以上の能力を持つ複数の開発計画が進んでおり、近く首位の座に返り咲くことは確実な情勢だ。
だが、スパコンはあくまで道具である。肝心なのは、その能力を存分に使って、科学や技術、産業を飛躍させるような研究成果を生み出すことだ。地球シミュレータは、気候変動の研究などに活躍した。
京レベルの高い能力によって、とりわけ注目されるのは複雑な生命現象の解明だ。病気の治療や薬の開発などにつながる成果が期待される。また、太陽電池の新材料開発や防災など、日本が直面する課題も多い。うまく使いこなすために、研究者の知恵を広く集めてほしい。
一方、これからの科学技術にとってコンピューターの重要性がますます高まることを考えれば、最先端から産業利用までを視野に入れた、コンピューターの国家戦略が必要だ。京の次のスパコンは、どんな目的でどんな性能のものをめざすべきか。
京は、行政刷新会議による09年秋の事業仕分けで、蓮舫・現首相補佐官に「2位じゃだめなんでしょうか」と問いつめられた。そのやりとりを通して、こうした戦略や説明が不足していたことも浮かびあがった。
震災からの復興の中で科学技術が果たすべき役割は大きい。「やっぱり1位じゃなくちゃ」と言えるめざましい成果を次々に上げて、次世代を担う若者たちを鼓舞してほしい。