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震災痛手、築地にも 被災地の鮮魚復活まで「2、3年」

2011年7月3日0時51分

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 東日本大震災で東北などの漁港が壊滅的な打撃を受け、東京の築地市場から2割の魚類が消えた。西日本からの補給で総量は戻ったが、「三陸常磐物」と呼ばれるブランドの不在はなお長引きそうだ。風評被害などによる売り上げ低迷も深刻で、57年前の「第五福竜丸」以来の不振との声も聞こえる。

 6月の終わり。宮城県の気仙沼港で震災後初めて揚がったカツオは、築地の東京都中央卸売市場でキロあたり3千円と通常の3倍の値が付いた。

 「被災地への応援を込めたご祝儀だろう」。仲卸業者は言う。ただ、生鮮カツオ水揚げ量が日本一の同港では製氷会社や加工工場が一部しか復旧していない。現在の受け入れ態勢は50トン程度にとどまる。

 関係者によると、黒潮に乗って北上するカツオの群れは例年より遅れ、6月末現在でなお房総沖にいる。これを追う船団の水揚げ先は千葉県の勝浦港だ。さらに北上した場合、東北の少数の港では受け入れ枠が限定される。燃料費との見合いで勝浦に戻るか、とる量を抑えるか、各船は難しい判断を迫られるという。

 震災以降に途絶えた東北の港から築地への荷は、6月初めから「塩釜」(宮城県)や「宮古」(岩手県)と書かれた箱が見られるようになったものの、例年並みにはほど遠い。「完全復活までには2、3年はかかるだろう」というのが市場関係者の一致した見方だ。

 カツオばかりではない。同市場の週間市況によると、震災があった3月11日の翌日以降の1週間で、水産物の取扱量は前年の75%に落ち込んだ。西日本からの魚が不足分を埋めて、4月下旬には99%に回復したが、被災地からの水産物はなお全滅に近い。

 「岩手から千葉にかけての沿岸でとれる魚は三陸常磐物といって、ほかより比較的高値で取引される。カレイでもヒラメでも身が締まって人気も高い」と仲卸組合の安藤健司理事。

 例えば、福島県浪江町の請戸漁港は、魚を生きたまま水槽ごと市場に運ぶ「活物(いけもの)」で知られるが、福島第一原発から20キロ圏内で今も港の再建に着手できない。活魚仲卸の「尾坪水産」の担当者は「これから夏場はスズキが人気になる。ほかの魚で補ってるけれど、請戸から来ないならメニューからはずすといった料理屋さんもいる」という。

 国産の8割を占めた「三陸ワカメ」も姿を消した。乾物を扱う「村清」では国産にこだわり徳島県の鳴門産や愛知県産でカバーするが、市場では中国産などが増えた。「肉厚で歯ごたえがある三陸ワカメを待望する声は大きい」と言う。

■売り上げ低迷「第五福竜丸以来」の声も

 「第五福竜丸の時よりひどいんじゃないか」。まぐろの仲卸「泉寅(いずとら)」の斎藤隆社長(77)は言う。

 1954年3月。南太平洋のビキニ環礁で米国の水爆実験に巻き込まれた第五福竜丸は、静岡県の焼津港に荷揚げした。そのマグロが築地市場にも入荷した。当時、20歳で叔父の店を手伝っていた斎藤さんは騒ぎを覚えている。「でもね。あの時の売り上げへの影響は、3カ月くらいで収まったと思う」。今回、店の売り上げは半分近くに減ったまま、戻らない。

 当時は遠い海での被災だったが、今回は国内の原発の事故でなお危機は収束していない。料理屋やホテルとの取引が多い築地市場では、高級魚の売り上げの落ち込みがとりわけ目立つ。

 「やはり風評被害が大きいな」と仲卸「山治(やまはる)」の山崎康弘専務は感じる。得意先のすし屋の板前は、客がひとつひとつネタの産地を聞いてくる、と嘆いていた。原発の周辺県であがった魚というだけで避けられることも少なくない。

 「でも、大丈夫。被災地の知り合いに刺し身持って行ったら本当に喜んでくれた。魚食は健在ですよ」。山崎専務は少し強がりを言った。(菅沼栄一郎)

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