関連書籍が世界15カ国で累計1650万部を突破するなど、人気を集めるライトノベル「涼宮ハルヒ」シリーズ。作者は西宮市出身で、西宮北高校(同市苦楽園二番町)を卒業した作家谷川流さん。西宮が舞台とされ、モデルという同校や市内の喫茶店は“聖地”として、国内外からファンが詰め掛ける。巡礼マップの作成など、新たな動きも広がっている。(竹本拓也)
純喫茶風の「珈琲屋ドリーム」(同市甲風園1)は、ハルヒが好むアイスエスプレッソを出す店として知られる。店主の細海研一さん(56)=伊丹市=は「2006年のテレビアニメ化以降、店内外で写真を撮る人が激増した」と話す。
09年春には、ファンで常連のちゃうけさん(35)=大阪府豊中市、ペンネーム=が、関連書籍や来店者ノートを並べたコーナーを作った。
店の人気に拍車をかけたのが、昨年7月に登場した「メロンクリームソーダ」だ。登場人物が喫茶店で飲んでいたため、メニュー化の要望が上がり、ちゃうけさんが提案。熱意に押された細海さんは、アニメの画像で、グラスやアイスクリームの盛り付けを忠実に再現した。
ゼミの研究の一環で来店する学生や、韓国や台湾、米国などの観光客も多い。5月の最新作発売前後には客が殺到した。
谷川さんもかつて常連客で、アイスラテとホットドッグを頼んでいた。細海さんは「ファンは礼儀正しく、マナーを守る雰囲気がある。ストーリー中の世界を楽しんでもらえれば」という。
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作品中の「北高校」とされる西宮北高校。西門は、休日になると、カメラを手にした中高年や外国人らファンでにぎわう。大半は外観を眺めるだけだが、昨年、グラウンドに白線で巨大な「SOS」が書き残され、同校は西宮署へ届け出た。「トイレを借りたい」といい、勝手に校舎内を回るケースもあった。
同校側は戸惑いを隠せず、「基本的に関係者以外の立ち入りは断っている」と、ホームページを通じて呼び掛ける。
3月まで同校事務長だった松永牧夫さん(54)は「アニメは全て見た。生徒もほとんどが、ハルヒや谷川さんを知っている。卒業生の活躍はうれしいし、生徒に良い影響があると思う」という。
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西宮市観光振興グループは、ハルヒ人気に喜びながらも、「市として、西宮を聖地として売り出すことはできない」と慎重だ。作者や出版社は、舞台が西宮と明言していないからだ。
一方、ちゃうけさんはジュンク堂書店西宮店(北口町)と協力し、西宮や尼崎など物語に登場する地点約120カ所を網羅する「聖地巡礼マップ」を作成した。同店が最新作の購入者に数量限定で配った。
映画や小説の舞台となったスポット巡りは、脚光を浴びている。ちゃうけさんは「もっと立ち寄れるスポットが増えてほしい」といい、「シリーズに登場する場所を、実際に調べ、探し当てるのは楽しい。聖地巡礼で、より多くの人に、新しい物語を見つけてもらいたい」と話している。
「涼宮ハルヒ」シリーズ
県立高校を舞台に、退屈な学校を変えようと、ハルヒは宇宙人などを探すクラブ「SOS団」を結成。未来人と宇宙人の団員らとともに、現実の学校生活と、超常現象を体験していく。
2003年の「涼宮ハルヒの憂鬱」を皮切りに、ライトノベル11巻が発売され、テレビアニメ、ゲーム、映画も公開された。4年ぶりの最新作「‐驚愕」は、初版部数51万3千部で、ライトノベル史上最高を記録。
(2011/07/04 09:30)
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