ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第八話 崇宏とヴィヴィオと獣の喧嘩
「ふゎ……」
お世辞にも上品とは言えないほどの大きな欠伸。
退屈な授業を一通り終えてから、さっそく帰宅する準備を進める。
退屈な――などと表現すると、まるで私が不真面目な授業態度だと思われるかもしれないが、そんなことはない。
座学に関しては一応の知識は持っているつもりなので、退屈と感じるだけだ。
卓上には先程配られた、小テストの答案用紙。
77点という実に微妙な点数である。
仕方ないんだけれど……

「77点かぁー、ラッキー?」

不意に背後から声がした。

「嫌だなぁー、そんなに身構えなくても」

反射的に身構えて、ボールペンに手をかけていたわけだが。

「いや……背後から急に声をかけられたら、普通身構えるよ――委員長」

俺の通うSt.ヒルデ魔法学院は教会系列の魔法学院のため、シスターさんが多く在籍している。
彼女、委員長ことシスターシオンもその1人である。
机の上に行儀悪く座り込み、腰まで届くほどの銀髪を指で遊びながら、悪戯な笑みを浮かべつつ言った。

「その手に持ったボールペンは、どうするつもりだったのかしらねぇ。思いっきり先端をこちらに向けてるし……」
「おっと、失礼、先程まで授業で使っていたもので」
「嘘仰い、その妙に重厚でオサレなペンは何時も胸ポケットに刺さってたじゃない」
「よく見てますね」
「気になる男の子ですもの」
「そりゃあ、どうも」
「そっけないわね、真面目ちゃんは嫌い?」

ずいっと、彼女の顔が眼前にやって来る。
距離にして僅か5センチほど。
何かの弾みでぶつかってしまいそうな程の距離。

「いや……別に、それよりシスターの仕事はどうしたんですか?」
「私は雑用係だからねぇ。そこまで忙しくはないわけよん」

その語尾はどうかと思うけど、言うだけ無駄だろうな。

「雑用、ねぇ……」
「掃除とかがメインかな、最近は別の雑用も増えちゃったけど」
「別の雑用というと……?」

妙に意味深な台詞に聞こえたので、尋ねてみる。

「最近、とある傷害事件があってね。それの警戒のために夜出張ってるのよ」
「傷害事件ですか、物騒ですね」
「格闘戦技の実力者ばかりを狙った犯行で、自称“覇王”イングヴァルト」
「イングヴァルトっていうと、ベルカの王ですよね」

クラウス・G・S・イングヴァルト、別名“シュトゥラの覇王”
戦乱期の王の1人。
ベルカの王っていうと他に有名どころは――聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトだな。


「しかし、自ら“覇王”を名乗るね……」
「目的もよく分かんないし」

お手上げ状態と、両腕を軽く挙げて「困った」と呟くシスター・エリーゼ。

「私、目的を知ってるよ」
「ほぇ?」
「列強の王達全てを倒し、ベルカの天地に覇を成すこと、それが私の成すべき事ですって言ってたし」
「おぉ!」

納得行ったのか、「うんうん」と頷く。
まぁ、きっと彼女の上司さんはその事実に気付いているんだろうけど。


しかし、表向きの報道はない事件だよな。
隠そうとしてるってことは、あんまり手がかりがないってことか。
明らかに前線不向きな能力のシスターエリーゼにまで警戒の仕事がまわってきているという点を考慮すると、尻に火が付いた状態なのだろうか?

「シスターも気を付けて下さいよ」
「安心なさい、力はないけど、ひ弱ではないから」

ウィンクして見せる。
いや、魅せるってのがおあつらえ向きな表現かもしれない。

ちなみに、彼女は結界魔導師。
相手を拘束することに関してはトップクラスの腕前だが、単独任務には向かない能力でもある。

ツーマンセル前提としての魔法が多いってのもあるが、結界魔法は座標指定なんかがかなり面倒だから術式組むのにかなりの時間が必要となる。

「心配してくれるなら、私のピンチには主人公の如く駆け付けてくれると嬉しいわね」
「あなたには色々と借りがありますしね、承知しました」
「冗談なんだけどなぁ」
「それほどあなたには救われたということですよ、今でもあなたの笑顔に救われることもありますよ」
「…………平気でそういう台詞を言える君は、凄いと思うなぁ」
「?」
「なぁーんでもない。それじゃあ、私は夜回りのための準備でもしますかな、後崇くん、手を抜くのもほどほどにしておきなよ」

手元の答案用紙を指でピシッと弾いて机の上から、ぴょんと降り立って掛け足で去って行った。

「まったく……元気な人だ」

そこが彼女の魅力でもある。
色々と見抜かれているようだし、敵には回したくないタイプだ。

「さて、どうするかな」

教科書やらノートやらを詰め込んだバッグを片手に、今日のこれからの行動について少し考えてみる。
ふと、昨日の高町の「では、また学院で――!」という台詞が脳裏によぎった。

「また学院で、か」

気が付けば、歩みを図書館に向けている私がいた。
下心がないわけではないが、慕ってくれる後輩と言うのはどうにも可愛らしく感じてしまうものなのだ。
図書館は相変わらずガラガラだ。
活字離れとは本当らしい。最近は何でも電子化されているし、仕方のないことなのだが。
視線を彼女の指定席である、窓側2番目に向ける。
そこにはいつもの3人組が、楽しげに談笑していた。
邪魔したら悪いな、と思い踵を返そうとしたところで――

「あ、海保さん!」

見つかってしまったようだ。

ぶんぶんと大きく手を振る高町。

私は諦めたように、肩を脱力させてから彼女たちの座る席へと向かった。
途中、本棚に新書があったので適当に何冊か見繕う。

「昨日ぶり」
「はい、海保さんに会うためにここで待ってたんですよ」

よく恥ずかしげもなくそんな台詞が言えるなぁ……べ、別に照れてないよ⁉

「できれば、彼女たちを紹介してくれると嬉しいんだけど」

視線を彼女の連れに向ける。

「えっと、わたしはコロナ・ティミルです」

ツインテールで妙に気品がある。

続けて、隣に座っていた八重歯でショートヘアの子が自己紹介し始めた。

「リオ・ウェズリーです」

「中等科1年、海保崇宏だよ。ちなみに学院内のワースト成績だから敬語の必要はなし」

空いている、高町の隣の席に腰を下ろす。

「昨日、ウチのママが見てるのに気が付いてたんですか?」

妙に興奮した様子で尋ねてくる、高町。
ウチのママって言うと、高町なのはさんのことだろう。

「あぁ、やっぱり、アレ、高町さんだったのか、感知はしてたけど300メートル近くは離れてたから、エースオブエースは伊達じゃあないってことね」

うんうん、と頷いて納得する。
まぁ、望遠の魔法は砲撃魔導師にとってはなくてはならない存在だしね。

今度是非お会いしたいな。
サインも欲しいし、何より噂の集束砲撃魔法とやらをお目にかかりたいものだ。

「――すっごい!!」
「はい……?」

好奇心で目がキラキラしている、高町。
これが男ならギラギラした目付きなのだろうが、美少女は何から何まで補正がかかって見えてしまうものらしい。

「どうして分かったんですか?!エリアサーチしていた様子もありませんでしたし」
「それは、その――企業秘密、唯一の特技を他人に教えるってのは、存在意義を奪われるのと同義だし」
「うー、海保さんの意地悪ぅ」

や、やめて。
その上目遣い。
心が揺らぐから、勘弁してくれないだろうか……

だが、こちらとしても切り札は伏せておきたいし。
もっとも、使う機会がないってのが一番なのだが。

「海保、さんでしたよね……?」

ツインテールの子が申し訳なさそうな表情で尋ねた。
怯えも含まれているのかも。

「あぁ、きっと噂にはなってると思うけど」
「本当にあの“海保崇宏”なんですよね?」
「何……?私がこの場に存在してちゃマズいかな」

皮肉交じりに言ってみるが、年下の子に少し意地悪だったかもしれないと心の中で反省。
以後気を付けるとしよう。
1人でいることの方が多いから、他人と接するということ自体で一杯一杯です。

「いえ、その……聞いていた印象と全然違うから」
「高町もそんなこと言ってたね、別に成績が悪いだけで不良ってわけじゃあないし、努力した上での最下位だからなお性質が悪いとも言えるが」
「その、ごめんなさい」

いきなり頭を下げられた。
なに、この背徳感は……?

「えっと、私が何か……?」
「ヴィヴィオが海保さんと会って良い人で、また会いたいって言ってたから……」

もじもじと、制服の裾をひっぱたり握った込んだりしている。
この小動物的な仕草は……悪くない。うん。

「先輩の噂を聞いてたから、止めといた方が良いって言っちゃったの!」

彼女の脇にいた、短髪八重歯ちゃんが声を張り上げた。

「なんだ、そんなことか。別に黙ってれば済む話でしょうに」
「でも……」
「火のないところには煙は立たないって言うでしょ?実際俺が善か悪って言えば後者だし、友人のためにそう言える君達は凄い、誇っていいよ、ちなみに暗に俺に友人がいないことを表現しているわけでは決してないなからね!?」
「良いんですか?」
「そうですよ、だって先輩のことを噂だけで勝手に悪い人って思って――」
「んー、その辺は価値観の違いね?第三者の評価なんて私にはどうでも良いことだし、まぁ、納得できないなら私が器の大きいお兄さんだとでも思ってよ」

「器の」
「大きな」
「お兄さん?」

3人が呟いて、顔を合わせる。

「何、その笑いを堪えたような表情は⁉」








「全く、急に笑い出すから何かと思ったわ」

「すみません」

「あの短髪八重歯ちゃん目がまだ笑ってやがる、高町、何とかしてよ」

「わたしのことはヴィヴィオで良いですよ」

「はい?」

「名前です」

「んなことは、分かってる…………」

会って2日目の男に名前で呼ぶことを許可する、だと……?
いかんな、何かしらの罠、或いはこの出来事自体が夢の中の出来事――夢落ちというフラグもあり得る。
カメラかサーチャーでも仕掛けられているんじゃないか?

「何、難しい表情してるんです先輩?」

八重歯ちゃんがこちらの表情を窺うようにして尋ねてくる。

「いや……」

疑っていたという行為自体が、彼女に失礼だな。
彼女の真っすぐな瞳を見て、思いを改める。

「ヴィヴィオ、これで良いな?」

確かめるようにゆっくりと名前を呼ぶ。

「はい」

「元気な返事で大変よろしい。私のことも海保じゃなくて、崇宏でいいよ、親しみを込めて、崇くんや崇ちゃん、或いはお姉ちゃんなんかの変化球でも良いよ」

「では、崇さんで」

ちなみにお姉ちゃん呼称を微妙に期待していたのだが、それは今後のお楽しみとして取っておくとしよう。

「じゃあ、わたしのこともコロナって呼んで下さい。宏さん」

「じゃ、あたしのことはリオで。お願いします。先輩」

「う、うん…………」



よく分からんが、年下の美少女3人とそれなりに仲良くなれたようだ。


俺が学院で最も出来の悪い人間で、変な噂が立つ男と知った上でわざわざ名前で呼び合う関係を望むってのは奇妙な話だな。


どれだけ彼女たちは心は寛容なのだろうか……保護者が知ったら注意するよ、多分。

そんな事を考えているとふとリオの頬に目が行った。

「リオ…頬が腫れてるけど?」
「これは…ヒック」
聞いた瞬間にリオが凄い勢いで涙目になった。
やば、地雷だった?
「崇さんの悪口を言ったらシュウ兄に殴られて…」

あいつ…何も殴らなくても

「痛いでしょ、すぐに治してあげる」
「え?」
「マルグリット」
「は‼」
「綺麗な人…」

チュ

「「「ええ⁉」」」
「なに?」
「崇さんのデバイスって人型だったんですか?」
「まあね、アマテラス」
「ビットですか?」
「そだよ」
「痛くない…治った」
「良かった…」
「「「す、す、」」」
す?
「「「すっご~い‼」」」
「そお?」

そんなやり取りをしていると
ズッカーン
突如、爆音がなり響いた。

「喧嘩だ‼」
「ええ⁉シュウ様と初等科の子が‼」

はぁ⁉
シュウが初等科の子と喧嘩?

「崇さん止めにいきましょう」
「でもヴィヴィオ此処から距離あるよ」
「どうしよう?シュウ兄…」
「三人とも私に掴まって」
「「「はい」」」
三人事、私は飛んだ。

訓練所

「ふざけるなガキンチョが‼断空光牙剣‼」
「上等だ、俺の前にひれ伏せ‼スラッシュ・クロー‼」

ヒュン

「「「え?きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「あら、ナイスタイミング‼」
「り、リオ‼止まらねぇ」
「ヴィ、ヴィヴィオ‼よけてくれ‼」
「ヒルデガード…アリス」
ズッカーン

「何だと⁉」
「あれを食らって無傷だと⁉」

「「「凄い‼」」」
「三人共そろそろ離して」
私は三人に抱き付かれる形になっている。
其れを見たシュウと男の子が
「「殺す‼」」
切りかかってくるが
ガキン
ガン
ギン
ギチチチ
当然ながら傷一つ付かない。

そんな光景を外野は唖然とヴィヴィオ達は目を輝かせながら見ていた。

「ヴィヴィオもう一度掴まって、今度は抱き付いた方がいいよ」
「えっとこうですか?」
ぎゅ
ぎゅ
ぎゅ

「「てめぇ~」」

「いくよ…ナイトメア」
私の背中から蝙蝠の羽が四枚生えて飛ぶ
「ふぇぇ、崇さん飛べたんですか⁉」
「そんなに珍しい?ヴィヴィオ?」
「飛行魔法は難しいんですよ」
リオが言ってきた。
「え?簡単だけど?」
「簡単って…」
私の発言にコロナの顔が引きつる。

とん

「三人共大人しくね、私は馬鹿2人を鎮圧して来るから」

「さてとシュウから行こうかな…」
私はシュウの斜め上に跳んだ後に4枚の羽にエネルギーを集め、それを一つに重ねて自分の10倍近い長大な槍に変形させた。

「さよなら…シュウ…ナイトメア・ストライク」
私はその槍でシュウを切り刻んだ。

「がは」
どさ

とん

「次は君ね…」
「上等だ‼」
「へえ~良いね、君には美しい花を贈ろう…」
両肩の回転式カッターを合体させる。
「なにをする気か知らないが先手必勝‼」
 キュィィィィィィィン
凄い音をたてながらカッターが高速回転する。
「この世との別れの花を‼秘技、ブルーム・イン・ヘヴン‼」
私は少年にカッターを放つ。
「何だと⁉」
カッターは少年の意識を刈り取り私の足元に刺さる。
「お前の魂を見送ろう……」

「凄い‼」
「崇さん…」
「恰好良い‼」
ヴィヴィオ達はその技に見惚れていた。

「さてシュウその子保健室まで運んで」
「分かったよ」
そのまま私達は保健室に向かった。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。