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発信箱:たくさんの鍋=福本容子(論説室)

 ダイエットで10キロやせたいという人がいる。誘惑と闘い、やっと6キロ減まできた。さて、ここで「6キロやせられた」と思うのと「あと4キロやせなきゃ」と考えるのとでは、どちらが成功につながるか?

 前向き、楽観的な感じがするから、「6キロやせられた」の方かな、と思ったら違うらしい。アメリカの大学で実験してみると、「課題の48%がもうできた」と言われた学生より、「残り52%」と言われた学生の方が仕上げを目指して頑張ったそうだ。

 シカゴ大の研究結果を心理学者のハイディ・ハルボーソンさんがブログで紹介していた。人はなぜ物事を仕上げられないのか、というテーマを研究している。

 「残り52%」というふうに現状から目標までの距離を意識すると、脳が反応してやる気や情報処理力が増すのだとか。逆に「すでに48%できた」のタイプは途中経過に満足し、先に進む意志が衰えるらしい。新しいことを始めるのは得意だけど、成し遂げる前に達成感を覚えては次のことにとりかかる、の繰り返し。「コンロの上に次々と鍋が並ぶけれど料理は永遠に食べられない」(ハルボーソンさん)

 次々と並ぶ鍋--。民主党政権もいろいろ並べた。国家戦略室に始まり、「本部」とか「会議」とか「チーム」とか名の付く新しい組織。○○担当相というポストも用意した。けれど、肝心の料理がなかなかできあがらない。何を作ろうとしてたのかわからなくなった、なんてお鍋もありそう。

 そして今度は復興担当相と原発事故担当相。組織やポストをこしらえることは、終点じゃなくて、料理を作る鍋に過ぎないことを忘れてはいけない。ウオーキングシューズやヨガのウエアを新調しただけで1キロも減量していないのに、解散・総選挙なんて考えてもいけない。

毎日新聞 2011年7月1日 0時56分

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