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[28145] 【ネタ・メガテン】魔法少女リリカルれみりあ【別視点開始】
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/07/03 01:06
親が死んだ。

数年前のことである。

たまの休みに夫婦仲良く出かけて行って、高速道路で玉突き事故だそうな。

そりゃあ子供より親が先に死ぬのは自然の摂理、当然のことであるが少しばかり急すぎた。

なぜって俺はひきこもり。

中学で不登校になってから12,3年ほどになるベテランだ。

いや、世の中広いから俺ぐらいでもまだまだひよっこだという猛者もいるが、世間的に見たら十分だろう。

ともかく、ひきこもってた俺には収入のあてがない。

保険金や遺産で何とかしていたが、家賃やなんやらだけでもガリガリと削れていく通帳残高に脅威を覚えた俺は外国為替証拠金取引に手を出してみた。

FXというやつだ。

主婦でも簡単に儲けられるらしいし余裕だろ。

そう思い某掲示板の住人の助言に従ってしばらくやってみたところなぜかまだまだ余裕があったはずの通帳残高は明日をも知れないような有様になっていた。

俺は住人を痛烈に批判したが返ってきたのは罵倒と嘲笑のみであった。

昨日、いや、今朝未明のことだ。

働こうにもこの履歴書の空白は、などと言われたらどうしていいかわからない。

というか人前に出られない。

ユニクロに行く服がない。

しまむらに行く服もない。

死ぬしかないな。

うん、そうだ

死ぬ

しか








そうと決まればどう死ぬか。

線路に飛び込むか。

いや、人がいっぱいいるところに行くと動悸が激しくなるから無理だ。

マンションの屋上から飛び降りるか。

いや、かなり高いフェンスが張り巡らされていた。

よじ登るのはたぶん無理。

家の中にあるもので死ぬしかないな。

洗剤を混ぜればいいんだよな。

中性と、なんだっけ。

ググる。

塩素系と酸性だった。

探す。

無い。

というか、独りになって以来家事などまともにしていないから洗剤なんてない。

近所のコンビニが俺の生命線。

ただ荷造り用ロープがあった。

首をくくるか文字通り。

……そういえば、首をくくるで思い出したんだが、昔に某オクで自殺教本みたいなのを戯れに購入したような気がする。

探す。

……探す。

……………………あった。

押し入れにしまってあったそれのタイトルは『誰でも簡単☆転生読本(はぁと)』

あほか、と思うが意外と立派な装丁である。

作者の名前などは書かれていない。

奥付などもない。

久しぶりに読み返してみる。

………………………………………。

長々といろいろ書いてあったが、要するに、挿絵に書いてある通りに魔方陣を書いて、行きたい世界に関係のあるものとなりたい自分に関係のあるものを所定の位置に置いてそのうえで首をくくるだけでいいらしい。

簡単だ。

それに転生と言うのも魅力的。

ひ弱で根暗でいじめの対象になっていた自分以外になれるというのはとてもいい。

イケメンになってモテモテ、という妄想をした夜は数えきれないほどだ。

とりあえず持ってる漫画とかフィギュアを眺める。

どんな自分になりたいか?

難しい問題である。

今の自分でなければなんでもいい気もするが。

思うのは、ただイケメンになるだけではいけないのでは、ということだ。

自分がどれだけイケメンになっても言動でキモッとか言われない保証はないのである。

というかおおいにありそうなのだ。

三つ子の魂百までと言うし、転生しても人格を保つなら見た目がいくら変わっても無駄、無駄ァッである。

ああ、そうそう、転生しても人格は保たれたままだと『誰でも簡単☆転生読本(笑)』に書いてあった。

ならば、である。

かわいい女の子にもてるのではなく、俺がかわいい女の子になればいいんだ(迫真)

逆に考えるんだ、鏡を見るだけで幸せになれちゃうと考えればいい。

というわけでかわいい女の子を物色。

おっぱい大きいと肩が凝ったりするというし、ちっぱい派だし、ええと……

れみりゃ!君に決めた!

フィギュアを手に取る。

かわいくてかっこいい。

最高ジャマイカ。

行きたい世界は、適度なスリルとサスペンス……

なのはとかどうだろう。

管理局の紅い悪魔、いいじゃない。

あとそうだ、れみりゃの身体能力を活かす体術を習得するためにサブで、ええと……師匠!

東方不敗マスターアジア。

布でMF破壊するとかまじぱねえっす。

ついでに凄い布も持って行こう。

傾世元禳だな。

妲己ちゃんマジジャンプ最強ヒロイン。

よしOK

魔方陣を描く。

床に直接墨汁で、間違えないように慎重に。

フィギュアとDVDと漫画を設置。

準備完了だ。

たぶん新聞の隅っこに載ったりするんじゃないだろうか。

床にでっかく書かれた魔法陣。

散乱する漫画とかいろいろ。

そのうえで首吊ってるひきこもり。

馬鹿げた本に影響されたひきこもりすぎて頭おかしくなった男として某掲示板で有名になるかもしれない。

誰かがそれをみてげらげら笑って日々のストレスを少し解消するかもしれない。

そういうことに、俺は幸せを感じるんだ……

じゃあちょっと吊ってくるノシ



[28145]
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/07 22:46
目を覚ます、とたんにくらりとした。

立っている。

なんでだ、と思いながら体勢を立て直す。

びっくりするくらい体が軽い。

夢でも見ているのか。

いや、違う、俺は

俺は

死んだ。

死んだはずだ?

まさかあの本が本物だったとでもいうのかんな馬鹿な。

両手を目の前に持ってくる。

自分の腕とは明らかに違う透けるように真っ白で細くてきれいな腕。

よく見ればピンクのドレスのような服を着ている。

それになんかすーすーする。

スカートを捲り上げ、ドロワの中身を確認する。

そこには綺麗な一本のs

……落ち着こう。

周囲を見渡すとどこかの廃ビルのようであった。

外は真っ暗であるにもかかわらずなぜか昼間と変わらぬように、いや、ちょっと違うのだが説明しづらい。

赤外線カメラの映像みたいなのとかでもなく、とにかく見える。

背後には長い布がふわふわと浮いていた。

手に取るとしんなりする。

手を離すとまた浮いた。

歩くと後ろをついてくる。

犬みたいなやっちゃな。

これ、傾世元禳だろうか。

再び手に取ってみる。

宝貝は普通の人間は触れただけでもミイラになるとかいう設定だった気がするが特になんともない。

これはスーパー宝貝なのだから持ってるだけでなんか疲れたりするもんだと思うのだが。

使うことを意識してみる。

魅惑の香りのイメージ。

ふわり、と甘い香りが漂う。

それとほんの少し吸われてる感じ。

当然自分には効果がないのでほんとに使えてるかどうかは分からないがまあ使えるようだ。

「石破…」

呟き、掌に意識を集中するとぼんやりと赤く光った。

慌てて消す。

壁とかぶち抜く威力だしいろいろとシャレにならないぞ。

ともあれこれではっきりした。

してしまった。

あの本は“本物”だったらしい。

ナンテコッタイ

しかし、どうしよう。

これから吸血鬼として生きていかなければならないとは。

生きていくのには何が必要だろう。

血?

まあ傾世元禳があれば問題ないかな。

派手にやってばれるとミサイル攻撃とかされるかもしれないがこっそりやれば問題ない。

とりあえず外に出てみよう。

廃ビルの周囲はひっそりとしていたが、少し行くと普通の住宅街になっていた。

飛んでも大丈夫かな?

周囲を確認、誰もいない。

念のため視認速度を超えるイメージでジャンプしてから飛ぶ。

上手くできたかは全く分からないが見つかったときはその時だ、魅了してしまおう。

上空から見た町は海に近い、普通の地方都市と言う感じであった。

そういえばまだ確かめてなかったけどここが海鳴だったら確定だな。

夜が明けるまでにはまだまだありそうだが降りるとしたら人気のないところがいい。

あそこの神社っぽいところに降りるか。

飛んでいき、急降下。

なんか速く降りられているのかもよくわからない。

動体視力や対G性能が凄まじいことになってるみたいなのだ。

普通の神社だ。

近くを歩く。

電柱の住所を見ると海鳴××-××とあった。

はい、確定です。

どうしようか。

翠屋に近づくのはやめた方がいい絶対に。

問答無用で退治される恐れがある。

月村は吸血鬼とはいえたぶん俺とは違う。

どういう扱いになるかわからないし高町恭也に関わらざるをえなくなるからダメ。

管理局もやばい。

スカさんの実験体とかにされかねないし流石に脳みそを魅了できるとは思えない。

管理局の紅い悪魔(笑)誰だよそんなこと言ったの。

吸血鬼が普通にうろうろしてるとこに行けばよかった。

しかし時空管理局、気に入らないな。

管理、一つの思想を唯一絶対とし支配する。

奴を思い出させ、虫唾が走る。

生き物は闘争の中でこそ、その魂を真に輝かせる。

世界の人間どもを見よ。

闘争を忘れ、欺瞞に満ちた平和と言う名のぬるま湯につかりきり堕落した魂のなんと汚らわしいことか。

闘争が必要だ。

この世界に、全ての次元世界に混沌を。

原始の“Chaos”を再び蘇らせるのだ……




……ん?

なんか変だったな今。

まあいいか。

ともかく、下手に動くわけには、

【誰か……聞こえますか…誰か…助けて…くだ】

っておい。

言ったそばからなんだこれ。

今ちょうど原作が始まったらしい。

どうしたものか。

とりあえず原作通りになるかどうかはチェックするべきだよな。

しかし直接見に行って見つかるのは嫌だな。

……蝙蝠、飛ばせるかしらん。

飛ばせた。

普通に。

一匹だそうと思えば一匹、いっぱい出そうと思えばいっぱいでた。

これは技能などではなく種族特性なんだな。

それに都合のいいことに超音波で周囲を把握するタイプじゃなくて普通に目で見るタイプだったようでそのうえズームみたいなこともできるっぽいので監視には非常に便利だ。

ビバ、吸血鬼。

あとマルチタスク?も普通にできるようだ。

蝙蝠を動かしながら自分も動く。

自分が二人に増えたような、自分たちを鳥瞰しているような、不思議な感覚。

初めて自分の顔を見た。

レミリア・スカーレットだった。

蝙蝠で見ながらポーズをとったりしてみる。

にっこりと微笑んでみる。

……ポッ

自分にニコポなど前代未聞ではなかろうか。



[28145]
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/02 01:59
現在俺はバニングス邸にほど近い、富岡邸に棲みついている。

あの夜、未来の白い悪魔を監視していたところ、彼女は無事に相棒を譲渡され今では毎晩愉快に魔法少女している。

次の日は神社の中で日が沈むまで過ごしたがいつまでもそうしているわけにもいかない、というかじめじめして不快だったので新しい快適なねぐらを探すことにしたのだ。

海鳴には高級ホテルとかはなかったので金持ちっぽい家の人を魅了して住み着くのがいいと思った。

メイドさんとかいると良し。

ディ・モールトベネ!

とりあえず思いつくのはバニングス家だったのだが、直接の脅威はないといっても高町なのはと関係があり、高町恭也に気付かれる可能性があるのだから避けるべきだ。

前世では割と簡単に死んで今ではたぶん不老不死な身だが、死なないとなると逆に命冥加になるものらしい。

この街で、というかこの世界で単体戦闘力トップクラスと事を構える気は起きない。

師匠の技能もあるから負けるとは思えないが万が一と言うこともあるし、そもそも喧嘩なんてしたことないのだ。

サンドバックになったことはあるけど。

まあ、ともかくバニングス邸の周りの高級住宅街でメイドさんがいそうな家を探したのだ。

出入りする人間が少ないとなおよし。

というわけで三日ほど神社の中から蝙蝠を飛ばしての探索の結果、富岡さんちにお世話になることにしたのだ。

富岡夫人はそろそろ還暦を迎えようかと言うくらいの品のいい老婦人で大きなお屋敷、まあバニングス邸には劣るが一般的には十分でかい、に一人暮らしをしている。

メイドさんというには少々老けているな。

30半ばのこちらも優しげないい雰囲気の通いのお手伝いさんに家事を任せて悠々自適の暮らしをしているのだ。

侵入経路は普通に玄関。

インターホンを鳴らして、

「ごめんください。私、迷子になってしまって。道を教えていただけないかしら……」

と、しおらしい感じで言ってみたところすぐにお手伝いさん、ちなみに中西さんという、が出てきた。

そこで傾世元禳発動。

濃い甘い香りが周囲に漂ったかと思うと、中西さんの瞳が濁る。

レイプ目というやつです。

誰得?

と言うなかれ、なんかすごい美人なのだ、中西さんも富岡夫人も。

アニメキャラはモブでもかわいいの法則か。

まあ、今は少女なのでだからなんだという感じでもあるが。

れみりゃが一番です。

そして中に案内させて富岡夫人も魅了。

ミッションコンプリートである。

MGSの隠しアイテムとかでこれ欲しかったなあ。

難易度上げるとだいたい見つかって正面突破しようとして殺されてたから。

通いの中西さんが帰る前に一日がかりでしっかり洗脳。

密閉した部屋で傾世元禳の出力を上げまくってたからもの凄い匂いだったよ。

ただ、すごい匂いに感じたのは鼻もよくなってたかららしくて常人には匂いとしてはそこまで感じ取れないらしい。

二人の人間でいろいろと実験した結果である。

二人には俺がいることを疑問に思わない、俺の存在を第三者には教えない、というふうに魅了しながら暗示をかけてみた。

しばらく様子を見てみたところどうやら成功したようだった。

あんまり傾世元禳を使いすぎると頭がぱーになる可能性があるから匙加減が難しい。

しかしこれでのんびり快適に過ごせる。

中西さんには一応日傘やドレス以外の服を買いに行ってもらった。

お金は富岡夫人持ちである。

俺の存在に疑問を持たない、というのが変な方向に作用したのか自分の孫かなんかであるように接してくるのだ。

まあ、まんざらでもない。

そしてこれからは監視をしつつ闇の書事件が終わるまでひきこもりだ。

死亡フラグなんぞ立つ前に叩き折ってくれるわフハハ



そういえば、

「なんで貴女は一人でこんな大きな家に住んでいるの?」

ある日、気になったので聞いてみたことがあった。

「それは、う~ん」

言い淀んでしまったので傾世元禳発動。

「お話、してちょうだい?」

凄い笑顔でおねだりしてみる。

俺は部屋の隅に飛ばしている蝙蝠でだいたいいつも自分の顔やらを見ている。

そして今の顔はすごく良かった。

ぺったんこの体なのになぜか、元からか、妲己ちゃん要素があるからかはわからないが、すごくエロい。

そして溢れるオーラ!

これがカリスマというモノか……!

ちなみにソファで膝枕してもらっている。

でもカリスマ。

目からハイライトが消えた富岡夫人が語るところによると、要するに婿養子に入った旦那がメイドと駆け落ちしたという話らしい。

しかも、そのメイドというのが中西さんの実の母。

中西さんの祖母から親子三代富岡家でお手伝いさんをやっていたらしい。

そして中西さん母と旦那さんがどっちから誘ったのかはわからないがともかくも“男女の”仲になり逐電、二人とも行方知れずとなってしまったそうな。

富岡氏は新妻を、中西さん母はまだ幼い中西さんを残して。

中西さんは祖母と富岡夫人に育てられたらしい。

話すうちにだんだんと目に理性の光が戻ってきた富岡夫人は旦那さんが逃げたことについては私の不徳の為すところ、といって目を伏せた。

なんとまあそれなんてエロゲ?いや違う、昼ドラ?

この泥棒猫、と叫んでいいポジションの富岡夫人すげえ。

泥棒猫の娘を育ててしかも雇うとか懐が広すぎるだろう。

そのことについては中西さん祖母に世話になったから、とも言っていたがそれでも……

貴女はどこの聖人君子だまったく。

せめてまあ寂しさを紛らわすくらいはいたしましょう。

なにしろ今の俺は永遠に幼い紅い月……

くだらない、まったくもってくだらない。

なにが聖人だ?

この女の眼をよく見ろ。

昏い昏い感情が発露されずに長年かけて溜まりに溜まって澱の様に臓腑の底に沈殿し、魂を腐らせているのが見えるだろう!

この女は戦わなかった。

この女が盗人と裏切り者を地の果てまでも追いかけて殲滅していたなら、このような、生きているのか死んでいるのかわからないような年月に魂を腐らせることもなかっただろう。

懐が広い?

敗北主義者の間違いだ!

このような下等な魂、喰らっても胃にもたれるだけであろうがこれ以上放っておいても何も変わらん。

今すぐにでも八つ裂きにして魂を喰らい、残り滓は庭の肥やしにしてしまおう。

そして、磨き抜かれた魂が一つ、二つ、これから輝きを増していくであろう魂が二つ。

熟した果実は収穫し芽吹いた花には肥料を撒こう。

さあ、早く、早く!



……あれ?

なんか考えてた気がする。

なんだっけ。

ああ、外に出なくちゃ。

あれ、ひきこもらなきゃ?

なんだっけ?なんだっけ?外に引きこもる?

……ええと?



なのはちゃんは魔法少女しながら順調にジュエルシードを集めていたが猫にやられた。

いや、違う猫を襲った黒いのにやられた。

あれがフェイトちゃんか。

近い将来『おはなし』されてしまう可哀そうな子ですね南無。

しかし、これがボンキュッボンッの脱ぎ魔になるのかあ、と思いながら見るとなかなか感慨深い。

木立に隠れた蝙蝠でローアングルから眺めているとなんか目が合った気がした。

キノセイデスヨネ?



[28145]
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/04 02:20
なんとなく外に出たくなったのでここのところは毎晩近所を散歩している。

コンビニに行く以外の目的で外に出るのは久しぶりな気がする。

死ぬ前の記憶はすでにいまいち現実味の無いものになっているのだけども。

身体が少女になってしまったからか男であった時の記憶に違和感を覚えることもある。

まぁどうでもいいんだけども。

不老不死の悪魔としてこれからどんな風に生きていくか、それが問題だ。

日光は別に平気、少しヒリヒリするくらい、日傘をさすか日焼け止めを塗るかすれば問題ない、のだけれどもやはり夜の方が調子がいい。

血も特に飲みたくなったりしない。

さらに睡眠や食事も必要ないらしく、昼間は富岡夫人と一緒に本を読んだり編み物を教わったり紅茶を飲んだり優雅に過ごし、夜は魔法少女に鉢合わせないように注意して散歩をする。

神社に行って流派東方不敗の型?みたいなのを試してみたりもしている。

一般人からはどんなふうに見えるのかなあと思い中西さんに買っても来てもらったビデオカメラで撮影してみたところ、瞬間移動しまくっていた。

テラヤムチャ

いや、肉眼ならはっきり見えるけど。

職質とかは傾世元禳で前後不覚になっていただいています。

あとこれ犬とか猫とかにも効くことがわかった。

番犬に吠えられなくなりました。

あとはそうだねえ、満月が近づくにつれてすごくテンションが上がる。

血が騒ぐというか、滾るというか。

最高にハイってやつだうりいいいいい、というか。

今日は温泉で決闘の日だ。

蝙蝠はあらかじめ先回りさせている。

夜なら車と競争も余裕なんだけどね、昼間はスピードが下がるし目立つし日焼け止め塗るのも面倒だし。

結界張られなければ遠くから監視できるんだけど、結界の中は入らないと見えないのさ。

原作通り、なのははフェイトに負けてジュエルシードを取られていた。

アースラが来るのはいつだっけ?

そろそろだったような気がするけど。

管理局に見つかるのは避けたい。

まぁ見つかっても傾世元禳でクルー全員洗脳余裕ですな気もするけど。

見つかっちゃいけないのはあれだ、鍛え抜かれた精神力を持ってる人。

具体的には高町父子。

レジストされたら戦うしかない。

人質作戦とかでいけるかもだけどめんどくさい。

何が起こるかわからないのが戦場。

好き好んでそんなとこに行くのはお馬鹿さぁんなのだ。



しばらくたって、今夜は満月。

今までにないほどウキウキする。

なんかしらないけどやたらと楽しい。

こんな気分になったのは本当に久しぶり。

月の光は魔性の光。

そして満月の夜は魔物の夜。

私一人なのが残念だ。

いつものように神社へ行ってみる。

月明かりに照らされて普段よりいい感じの雰囲気になった神社の境内の中心に立ちくるりと回る。

くるりくるくる、踊ってみる。

マイムマイムくらいしか知らないけど、体が動くのに任せて、月明かりの導くままに。

くるくるくるる、楽しいが全身からあふれる。

うふふ、あはは

どれほど経っただろう。

よくわからない。

ただ家を出たときはまだまだ斜めだった月がちょうど天頂に来ていた。

ザリッと砂利を踏みしめる音。

くるる、くる、く

そちらを向いて立ち止まる。

目が回ったりはしていない。

確かな視界にとらえたのは黒髪の青年。

普段ならイケメン死ねっ、とでも思うはずなのに何故だろう。

月明かりに照らされたその顔がとても愛おしく思えた。

胸がドキドキする。

頭が少しぼうっとする。

ああ、これが恋なのかしらん。

人外をも魅了するとはエロゲ―主人公補正のなんと凄まじいことよ。

「君はいったい…?」

グリリバボイスで問いかけてくる。

なんでここに来たのか自分でもわからないという風だ。

俺と同じに、なんとなく、ここへ来たのだろう。

「いい月夜ね。でも私と貴方が愛し合うには嫌な色だわ」

そう、この青白い月の光は二人の舞台にふさわしくない。

血のような赤、紅い月でなければならぬ。

両手を胸の前で広げ霧を出す。

瞬く間に神社は紅い霧で覆われる。

そして月明かりは赤に染まる。

赤一色で埋め尽くされた世界で、両腕に絡めていた傾世元禳を持ち直し捻じり、まっすぐに伸ばす。

出来上がった桜色の槍に紅い魔力を纏わせる。

殺気を込めて一歩を踏み出すと恭也はそれに反応して小太刀を抜き、構える。

困惑に染まっていた目つきが変わる。

戦う者の眼。

完成されている、研ぎ澄まされている。

極上の魂だ……!

ごくりと唾を飲む。

それを隙と見たか高町恭也は先手必勝、こちらの懐に飛び込んできた。

確かに槍と小太刀では懐に入られれば勝ち目はない。

だが残念なことに私は人間ではない。

恭也の速度は人間としては最高峰、素晴らしいものだ。

だがそれだけだ。

魔物の速度に、人外の速度に対抗することは不可能だ。

高速で下がり、突きまくる。

こちらの突きの嵐を恭也は二本の小太刀で何とかしのいでいる。

だが私は何とかしのげる程度に加減して撃っているし、それを恭也も理解している。

しかしその目からは力が消えていない。

覚悟があり、意志があり、諦めなどは微塵もない。

素晴らしい、本当に。

彼の魂は今この瞬間にも輝きを増しているのだ。

ああ、美味しそう

食べてしまいたい今すぐに

いや待つのだ、もう少し

この魂はもっと輝くことができる

もう少し、もう少し

だがあまり時間をかけて邪魔が入るといけない。

名残惜しいが終わりにしよう。

楽しい時間の過ぎるのはなんと早いことだろう。

速度を上げ小太刀を弾く、一本、二本。

槍を回し手足の腱を裂く。

この場に及んでもまだ彼の目には光がある。

崩れ落ちそうになった彼を抱きしめ、首筋に口づける。

口の中に熱い血が溢れる。

どれほどそうしていただろう。

全身が凄まじい快楽に包まれている。

「私と一つになりましょう?一生愛してあげるわ」

両手を彼の頬に添え微笑みかける。

「君は、独りなんだな」

私の目に何を見たのか、血の気を失った青白い顔で彼は言った。

ああ、そうかもしれない。

ずっとひとり。

どこに行っても邪魔にされ、居場所を作るにも道具に頼らなければどうにもならない。

「ええ、一緒にいてくれる?」

「ああ、いいぞ」

拒絶への不安があったが、果たして彼は頷いた。

笑みさえ浮かべてだ。

「嬉しいわ」

この時私はすっかりこの男にやられてしまっていた。

彼の心臓に槍を突き立てる。

彼の全てを喰らい尽くす。

彼は見る見るうちにミイラのようになっていく。

すっかり乾ききった茶色のそれを槍の一閃で吹き飛ばす。

それで起きた風で霧も吹き飛ばされた。

いつの間にか月は雲に霞んでいる。

彼は紅き月の一部となった。

彼の魂は永遠に私とともにある。

満たされている。

これ以上ないくらい。

ああ、俺は今、幸せだ。




[28145]
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/04 02:15
高町恭也が家出したらしい。

昨晩突然得物を持って消えてしまったようだとか。

そんなイベントあったっけ?

まぁ山籠もりとかする様な人だし、突然熊と戦いたくなったのかもしれない。

高町家の人々の反応も概ねそのようなもので恭也だから仕方ない、というようなことを言い合っていた。

なのはちゃんは少し心配そうだったが、恭也が誘拐などされるはずもないし杞憂だろう。

何しろここにいるものねえ。

うふふ

もうずっと、永遠に私と一緒

彼は今や紅き月の住人

二人っきりがいいかしら

いいえ、たくさん、たくさん、人を増やしましょう

素晴らしい輝きを持った魂たちで月面を埋め尽くすのさ

きっともっと楽しくなる

もっと淋しくなくなる

あはは

なのはちゃんは先日の戦闘以来フェイトちゃんのことで悩んでいるようだ。

兄のこともありけっこう不安定になってるっぽい。

今までほぼ原作通りだけど、何か変わるようならデバイスの強奪とか考えなきゃなあ。

A's原作通りに行かなかったらなんだっけ日本消滅?地球だっけ?ともかく避難しないといけないし。

隻眼の神は魔術師でもあった。

だからこれは神槍にして呪杖、そんなものは必要ないよ。

あ、そうなの。

じゃあこのまま傍観でいいかな。

何事もないのが一番だ。

ん?

なんか満月が近づくとボーっとすることが多いな。

昨夜の記憶なんかすごくもやもやするし。

体調がすごく良くなったような感じがするからたぶん月光浴でもしたんだろうけど。

まさか自分が徘徊老人みたいになるとは思わなかった。

でもまあこれからは新月に向かっていくし意識もはっきりするだろう。

近頃は富岡夫人と一緒に本を読むのが楽しくて仕方ないのだ。

富岡夫人は大学時代生物学をやっていたそうで、その手の本をたくさん持っているのだ。

独りになってからは手慰みに物理学や化学にも手を出しているそうで非常に博識である。

中卒未満の俺は絶対ついていけないはずなのだがなぜかスイスイ理解できた。

一度覚えたことは忘れないし、頭の出来がまるで変ってしまった。

いや、冗談でなくそうなのかもしれない。

人間は寝てる時に記憶を整理して定着させたりするけど俺は寝てないのだ。

脳みそなんて科学的な器官に頼ってるから駄目だったんだな。

まあそんな感じで読書をメインに時折富岡夫人に質問したりしながら勉強している。

しかしなぜか生物工学については富岡夫人よりも、というか学会の最先端とかよりもはるかに進んだ知識を持っていた。

なんでだろうと思ったが、そうだ、妲己ちゃんの紂王様魔改造のアレかもしれない。

たしかに人体改造にわりと偏った知識を持っている気がする。

設備がないから何もできないけど。

時の庭園乗っ取り作戦とかスカさん洗脳数の子魔改造大作戦とか一瞬頭に浮かんだけどどう考えても死亡フラグです本当にありがとうございました。

出る杭は打たれるのだ。

嵐の夜は雨戸を閉めて閉じこもるのが最善。

アルカンシェルとか撃たれたら流石に死ぬと思うの。

マップ兵器回避はちょっとできるかわからないし。

なに、これから時間はいくらでもあるのだしメフィストフェレスごっこできるくらい知識をため込むのもいいだろう。

うん、それがいいな。

この世の全ての知識を集めてメフィストフェレスごっこ。

うは、夢が広がりんぐウフフ



しばらく後、フェイト、なのは再びがちバトル。

なんか素手でジュエルシード掴んであっちっちってなる回だった気がする。

うろ覚えだけど。

そんなことを思いながら蝙蝠を通してぼーっと眺める。

もう見る必要ない気もするんだけど、万が一フェイトちゃんが死んじゃったりしてなのはちゃんがなんとかできなかったら出なきゃいけない。

地球崩壊は駄目です。

熱い戦いが続く。

二人がジュエルシードに向かって突撃する。

あ、杖にひび入った。

これで素手封印かな、って、えっ。



緑髪の少女が暴風とともに突っ込んできてジュエルシードを二人から奪い取った。

そして発生させた光る蛙に掴んだそれを食べさせるとなんか封印されたっぽい。

さらに間髪入れずゆびぱっちん。

瞬間虚空からぶっとい石柱が唖然としている二人に向かって撃ち込まれる。

鈍い音、ぐちゅり、とか湿っぽい音もした気がする。

「あはは!神の国を作るため、ジュエルシードは全てこの現人神、東風谷早苗がいただいていきます!」

常識は投げ捨てるもの、と言わんばかりのいい笑顔でそう叫ぶと宙に投げ出されていたひび割れた二人のデバイス手に取り早苗さんは再び結界をぶち破って暴風とともに去って行った。

なんじゃこりゃあ。

いや、超展開に呆けている場合ではない。

ユーノ君とアルフがぐもっちゅした二人に必死で回復魔法をかけているけど到底間に合うまい。

こうなっては原作も糞もないから放っておいてもいい気もするが。

あの魂をここで終わらせるのは惜しいであろう。

救え。

常人には不可視の高速ダッシュで現場に向かい結界切り裂いて突入、霧を出す。

この霧、魔力を吸収する効果がある様なのだ。

戦闘直後で残留魔力が豊富だからよく集まる。

「誰っ!?」

「ああ、もう次から次へとォ!」

ペット二人が叫ぶ。

「うるさいなあ。ちょっと寝てな」

ユーノ君あっという間に撃沈。

凡人だな。

アルフは何とか耐えている。

「この魔力、いつも覗き見してたのはあんただね!?一体どういうつもりなんだい!」

あ、気付かれてたのか。

いかんなあ。

「夢だ、夢。全ては紅い霧の中。忘れてしまえ」

槍を構えて殺気を出してカリスマ3割増し!

傾世元禳の効果アップ!

糸の切れた人形のようにアルフは倒れる。

アスファルトにぶつかってごちんといい音がしていたがまあ大丈夫だろう。

問題はこちらの二人。

二人とも胴体に御柱?が直撃したようでたぶん内臓とか骨とかぐっちゃぐちゃになっている。

バリアジャケットの耐衝撃機能の許容量を余裕で越えた一撃だったようだ。

とりあえず集めた魔力で回復魔法っぽいものを使ってみよう。

発動体は槍状態からさらに捻じって杖っぽくした傾世元禳。

槍のままでもいいんだけど雰囲気は大事だし。

ええと、呪文、呪文、ベホマ?

「……治れ」

なんか勝手に口が動いた。

治れて。

それでいいのか。

と思ったが二人の体が光に包まれたかと思うと見る見るうちに顔色がよくなり呼吸も安定する。

祈るだけでいいとは。

簡単だなあ魔法。

まあたぶん効率はデバイス使った魔法と比べたら全然なんだろうけど、なにしろこっちは悪魔だし。

文字通り桁違いの魔力を持っているのだ。

そのうえ外部供給も豊富だし。

まあいいや。

とりあえず帰ろう。

これからの方針としてはやっぱり様子見。

あの早苗さんがなんなのかさっぱりわからない。

でももしかしたらボスがプレシアから早苗さんになるだけかもしれない。

しかしジュエルシードを大量に奪ってしかも原作から外れているからこの世界崩壊も十分あり得る。

だからそろそろアースラが来るはずだからなんとか次元跳躍魔法を見て覚えてさっさと安全なところにとんずらしよう。

モウヤダ



[28145]
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/07 23:22
暴風とともに消えた早苗さん(仮)は上空で転移したらしく行方は分からなかった。

治した二人は放置してきたが、アルフがいち早く立ち直りフェイトを連れて逃げ、なのはとユーノはかなりたってから目覚め、悲愴な表情で帰って行った。

相棒盗られちゃったものねえ。

二人ともどうするんだろう。

フェイトちゃんは予備のデバイスくらいあるだろうが、なのはちゃんの方はどうにもならないんじゃないか?

この次の戦闘の時アースラが来るんだ確か。

戦闘が発生しない可能性が高いけど、どうなるかなあ。

家に帰ってテレビを見ているとローカルニュースで――県海鳴市で突然の暴風。

窓ガラスが割れるなどの被害あり。

軽傷者数名、重傷者、死者なし。

などというニュースが流れた。

常識にとらわれないにもほどがあるだろうおい。

そのあと続いて、緑色の髪の女の子が吹き飛ばされているのを見た、と証言している男が出た。

逃げも隠れもしないとは、流石現人神は格が違った。

ちなみにパンツはしまs、と言いかけたところピンポンパンポーンという音とともに画面が切り替わり綺麗な花畑が映され、ただいま番組中で不適切な発言がありましたことを~というテロップが。

そういえばあの早苗さん(仮)なんか若かった気がする。

設定上は女子高生のはずだけど、あの子はせいぜい中学生くらい。

本物なのか、それとも俺と同じような存在なのか。

とりあえず仮に女子中学生早苗、JC早苗と呼ぶことにしよう。

蝙蝠を飛ばして探索しているけど未だ発見できていない。

海鳴にはいないのかもしれない。

転移先の割り出しとかができなかったのがいたい。

しかし転移を蝙蝠越しに見てやり方はなんとなくわかったような気がしたので試してみよう。

と、思ったがいしのなかにいる!くらいなら脱出できるかもしれない。

でも地球の中心部とかに転送事故を起こしたら終わりがないのが終わりで考えるのをやめなきゃならなくなるかもしれないからやめることにした。

感覚でワープするのは怖いです。

そのあと数日は何もなかった。

JC早苗はジュエルシードを十個くらいもっているはずなのになにもしない。

全部集める気なのだろうか。

なら、次のジュエルシード封印の時に姿を現すかもしれない。

その時にレイジングハートかバルディッシュを奪えそうなら奪って次元跳躍して逃げよう。

あれは奴の走狗だ。

いけ好かない匂いがした。

おおかたあの宝石を使って人間どもを洗脳しようとでもいうのだろう。

殺さねば。

奴の掲げる平和な世界とはつまるところ奴を崇める人間の養殖場だ。

奴を崇める者だけを生かし、増やし、奴らを崇めぬ者は殺す。

腐った沼の水のような停滞した世界。

それこそが奴の望みよ。

そのような世界に生きる人間どもの魂は今以上に下等で無価値なものになり下がるだろう。

そいつはいかんな殺さなくっちゃ?

ええ、きっと同郷の人だもの。

愛するに値するなら愛し合いましょう。

そうでないなら首を刎ねてしまいましょう。

いや、やっぱ人殺しはちょっと。

傾世元禳で何とかできないなら逃げよう。

それがいい。

そうしよう。



ジュエルシードが発動した。

一番最初に現れたのはフェイトちゃんって、なんかひどい。

頬には青黒い内出血の跡が痛々しく、露出している腕にも同じような跡がいくつもある。

そしてすごいレイプ目。

ハイライト完全消滅です。

ああ、原作で四つでも鞭打ちだったのに0個&デバイス紛失だったらこうなるのも道理か。

普通のストレージっぽいデバイスでバリア装備の木に対抗しているがどうにも分が悪い。

アルフもいない。

……生きてるのかなあ。

しばらく苦戦していると再び暴風とともにJC早苗が現れた。

「町の平和を乱す妖怪はこの私が許しません!成敗!」

などと主人公っぽいことを叫んだかと思うとゆびぱっちん。

木を直径5~60cm長さ4~5mの石柱が連続でぶち抜いていく。

初速が凄まじく、重力加速も加わった御柱の群れに木はなすすべもなく蹂躙されていく。

ボロボロになった木にJC早苗は光り輝く蛙を投げつけた。

閃光。

それでジュエルシードは封印されたようだ。

ジュエルシードを掴み、なんかポーズをとっている。

そこにフェイトがフォトンランサーを撃ち込むが暴風に軌道をそらされた。

ジュエルシードを奪うつもりなのだろうがその命、あまりに無謀(笑)

どうしよう、助けるべきかなあ。

「おや、あなたは先日の」

「ジュエルシードを、渡して」

「ふふ、これは私が使ってこそ意味のあるもの。あなたは私の代わりにこれを集めてくれましたから手加減してあげましょう」

「……」

手加減する、というのは本当のようでフェイトちゃんは遊ばれている。

普通のデバイスでは接近戦ができないようでひたすらフォトンランサーを撃っているがかすりもしない。

直接当たらないように撃たれた御柱はアスファルトを穿ち消滅していく。

フェイトちゃんはついには転んでしまった。

泣いてるっぽい。

「なんだか弱い者いじめをしてるみたいですねえ。でも大丈夫です。あなたにもすぐに救いが訪れます」

「そこまでだ!」

なんかキタ。

「時空管理局執務官、クロノ=ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせt」

無言でぱっちん。

吹き飛ばされるクロノ君。

なにしにきたんだ、と言っていいだろうか?

あ、生きてる。

打点をずらしてダメージを軽減したっぽい。

やるなあ。

「時空管理局とは…不届きな名前ですね。ですがあなたにもすぐに救いが訪れましょう。その傲慢を捨て、来たるべき時まで待つが良いです」

そう言うとまた暴風を纏って去って行った。

「ま、待て!」

ふらふらしながら制止するクロノ君だが当然のごとくスルー。

フェイトちゃんはいつの間にか現れたなのはちゃんとユーノ君に介抱されている。

そしてアースラクルーっぽい人たちがクロノ君を介抱しつつ転移。

ユーなのフェイも転移していった。

そして誰もいなくなった。

なのはちゃんについてはデバイスを失くしてデバイス無しのしょっぱい魔法の練習をしていたくらいだったからJC早苗探索にリソースを割くために放置していたのだけど、いつの間にかアースラと接触していたらしい。

もうフェイトちゃん保護されてしまった。

魔法少女リリカルなのは、完!

……いや、たぶん次が山だろうなあ。



[28145]
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/05 17:50
JC早苗の探索は蝙蝠を増やして続けているけど成果はほとんど上がっていない。

ジュエルシードが発動するとどこからともなくさっそうと現れ速攻で封印して去っていく。

クロノ君も毎回捕縛しようと試みているが風の守りで射撃魔法、バインド無効なのだ。

そのためバイキンマンとかR団のごとく毎回ふっとばされている。

その根性だけは認めよう。

そのおかげでJC早苗についてわかったことがいろいろあるのだ。

メインウェポンのぱっちん御柱は術者中心に半径100m程度の球形範囲の中なら任意の空間から射出可能。

この間慣れてきて回避率が上がってきたクロノ君にイラついたのか死角から情け容赦なしの一撃を放っていた。

さらに追撃として360°全方位からの御柱ラッシュ。

それでも生きてるクロノ君にはギャグ補正ついてるだろ間違いなく。

上から下に放つと重力加速で威力、速度ともに上昇。

ある程度進むか、何かにぶつかると消滅するっぽい。

初速は速いが全体が現れた後の速度はあんまり速くないから距離を取れば見て避けるのは余裕だろう。

でも死角から撃たれるとかなり避けづらいし、防御はたぶん無理。

シールド張っても連続で撃たれたら破られてぐもっちゅすると思う。

たぶん再生すると思うんだけど痛いのはヤなので試してないです。

次に爆裂蛙光弾はタメなしでばらまける小さいのとタメありで高威力のでかいのがある。

小さいのは空間制圧力が高いので御柱との組み合わせはかなり厄介だろう。

めくらましにもなるし。

でかいのは封印と御柱で倒せない相手に使うようだ。

消し炭にならずにボンバーヘッドになるクロノ君はやはり違う時空に生きてると思う。

そういえば、JC早苗探索中にデバイス二本を発見。

ゴミ捨て場にガムテープでぐるぐる巻きにされた状態で捨てられていた。

SOSを出していたのかやってきたなのはちゃんたちに無事回収されました。

レイジングハートからガムテープを剥がして手に持ったなのはちゃんが一瞬ちょっと嫌そうな顔をしていたのは粘着部分が残っていたからだろうか。

……レイハさん哀れ。

バルディッシュも回収されたけど、フェイトちゃんはどうしているのだろう。

なのはちゃんと一緒にいるのだろうし大丈夫か?

デバイス回収以降クロノ君となのはちゃんの二人だけが戦っている。

他の武装隊の人とかは何してんだろうね?

給料泥棒?

「あなたはなんでこんなことをするの!?」

「平和を守るため、人々を救うためですよ。あなたと同じです」

「なら一緒にやれば……!」

「あなたには神様の声が聞こえないでしょう?」

「えっ?」

「救世主になれるのはこの私だけなのです!」

クロノ君が前衛で足止めし、なのはちゃんが遠距離からディバインバスターを撃つという戦法をとっている。

ただの射撃では風の守りを抜けないし近くで隙を見せたらあっという間にフルボッコだからその作戦は正しい。

しかし射程外、といっても横や後ろからいきなり撃たれるということがなくなるだけで前からバンバン飛んでくるし、バインドが聞かないため足止めがほとんどできていない。

そしてJC早苗はかなり機動力が高いのでディバインバスターが当たらない。

見事につんでるなあ。

ただ身体能力に人外じみたところは無いっぽいからJC早苗を倒すには不可視速度で近づいてズドンすればいけるだろう。

速度をあげて動き回れば御柱にも当たりにくくなるし。

その戦法をとれるフェイトちゃんがいないのがなあ。

果たして復活できるのか。




少し前、山の中に転移魔法の気配を感じたので蝙蝠を向かわせてみた。

だいぶ転移を見たしそろそろ短距離の転移くらいから練習し始めるべきかもしれない。

デバイスはゴミ捨て場にあったのに呆気にとられて取りに行くタイミングを逃してしまったし。

ズームしてみるとズタボロのアルフが犬状態で倒れていた。

するとすぐにアリサちゃんが執事さんを連れてやってくる。

おお、原作通りだ。

なんかずいぶん久しぶりな気がする。

どうしてこうなったのか。

アリサちゃんがアルフを抱き寄せようとした瞬間、強力な魔力に時空がゆがむ。

えっ

視界が閃光に包まれた。

轟音

プレシアサンダーがアルフに直撃したようだ。

アルフであったモノらしき黒い塊が転がっている。

アリサちゃん、執事さんはともに吹き飛ばされたようだ。

執事さんは後頭部を石か何かで打ったらしく血だまりが広がっている。

アリサちゃんは両腕が焼けただれていてカッと開かれた目はなんか瞳孔開いてる気がする。

ああ、もったいない。

美味しくなりそうだったのに。

残念だ。

おや?

なんか黒いもやもやと赤いもやもやがアリサちゃんの死体のそばに湧き出てきた。

なんかけっこうな魔力を持ってるっぽい。

あれは……赤伯爵と黒男爵ではないか。

あの変態共め、まだこんなことをやっていたとは。

あれほど閣下のために働けと言ったのを忘れたか。

………。

…………………………。

光の線で魔方陣が描かれたかと思うとアリサちゃんの身体が光に包まれる。

光が収まるとそこには怪我などがすべて治ったアリサちゃんがいた。

もともと白かった肌がさらに白く透けるようになっている。

赤と黒のもやもやはもう消えている。

アリサちゃんはぼんやりとあたりを見回し、黒い塊に目を止めると少し悲しそうな顔をした。

執事さんの死体がなぜか猛烈な速度で腐っていく。

もやもやたちの魔力にあてられたのだろうか。

バイオよろしくゾンビになって復活した。

とことこ執事さんに近づいていくアリサちゃん。

え、大丈夫なの?

「アリサちゃん、ダメ!離れて!」

ダッシュで近づいてきたすずかちゃんが叫んだ。

足はええ。

なんか腕に機械のようなものをつけて、黒い丈夫そうなコートを着ている。

アリサちゃんは振り向いて不思議そうな顔ですずかちゃんを見て首を傾けた。

「アリサちゃん?」

その問いかけを無視してアリサちゃんは再び執事さんっていうかゾンビに近づいていく。

とことこと。

ゾンビもなんか意味不明な唸り声をあげてずるずるアリサちゃんの方へ近づいていく。

「っ!来て!」

そうすずかちゃんが叫ぶと突然赤い肌の小人と大きな袋を担いだ三日月の顔の男?が湧いて出てきた。

赤い小人はアリサちゃんとゾンビの間に立ちふさがり、三日月男は指先から雷を出してゾンビを焼いた。

「あ……」

アリサちゃんは崩れ落ちるゾンビを見てひどく悲しそうな顔をした。

「アリサちゃん、鮫島さんはもう……」

「……死んじゃえ」

アリサちゃんは赤い小人を睨みつけるとそう言った。

赤い小人に黒い靄がまとわりつくとぎえぇーと叫んでバッタリ倒れた。

「な、なんじゃと!すずか!この娘、人ではない!アナライズをはやk」

三日月男の言葉が途切れると、赤い小人と同じようにばったりと倒れる。

二人の体はなにか粒子のようになって消滅していった。

「ア、アリサちゃん……?」

「ねえ」

アリサちゃんの口が小さく動いた。

   死

  ん

    で

  く

     れ

        る  

     ?

すずかちゃんの体が先ほどよりもはるかに大きな黒い靄に包まれる。

「あ……」

ぱったりと、糸が切れたように倒れる。

それを無表情に眺めたあと、アリサちゃんはふらふらとどこかへ立ち去って行った。

ああ、もったいない。

身体から魂が離れる前に早く行って食べましょう。

ハイエナの真似事は気に食わないけど。

人に非ずも魔に非ず。

珍味に違いないよ。

お人形さんの方はどうしましょうか。

死んだ体に無理やり押し込められた魂だなんて。

きっとこれも珍味ね。

食べてみたいわ。

二人と約束したからダメだ。

それは残念。

でもまだ高町士郎もいるしね。

彼の形見の小太刀を送ったら、きっと美味しくなる。

うふふ

あはは

美味しいものが食べられると、幸せになるねえ。



[28145]
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/06 15:39
すずかちゃんの魂を食べに行ったらなんか知らないけど死体ごと消えてしまった。

どういうことなの。

仕方ないので夜に高町士郎を食卓に招待するために小太刀を翠屋のポストに放り込もうと思って出かけたら、なんかでた。

城である。

超でかい。

ありえん(笑)

海上に突如出現したそれはゆっくりと接岸する

そして中からロボのような鎧のようななにかがぞろぞろ出てきた。

傀儡兵というやつ?

プレシアさん何やってんすか。

人の食事の邪魔をするなんて許されざるよ。

でもなんか無差別攻撃してるっぽいので家に戻る。

ビームとかは撃ってないけど普通に突撃して家々をぶっ壊している。

中西さんとその旦那、娘を拉致して、富岡夫人と一緒に地下室に放り込んでおいた。

言ってなかったけど富岡邸にはグランドピアノ設置してあるでっかい地下室があるのだ。

金持ちぱないですまじ。

それはそうと生物相手だったら傾世元禳を強めに展開しておくだけでいいんだけど、あれに効くのかどうか。

宇宙人には効いてたけどあれも一応ナマモノだろうし。

結界っぽいものを張ってみるがなんだか心許ない。

瞬間耐久力ならそれなりだろうが、長時間持続するかというと、う~ん。

練習しておけばよかったなあ。

近づいてきたらいちいち破壊するしかないかな。

などと考えていたら町全体を覆うような広域の結界が張られ一般人ズは消えてしまった。

というかみんなを通常空間に残して俺だけ結界に取り込まれたんだろう。

魔力があるかないかで選別してるんだろうね。

外に出てみる。

結界が世界の果てはここであるというかのように広がっている。

なかなか壮観である。

この規模だからそれなりに取りこぼしはいるかもしれないが被害は格段に減るだろう。

夜中だったからパニックも起きてないし。

結界を張るのに合わせて転移してきたなのクロユーとアースラ武装隊御一行が傀儡兵と戦闘を始めた。

しかし多勢に無勢の感が強くかなり押されている。

しかも積極的に戦闘をしているのは飛行型の機体のみで陸戦型はなにかを探しているようなのだ。

なにを探しているのだろう。

ジュエルシードを探すならもう残りは海の中だし。

……ああ、なるほど。

蝙蝠を大量に放ち町中を探索する。

…………。

………………。

見つけた。

この世界で初めて立った場所。

廃ビルに向かう。

ビルの中で、金髪の少女がぼんやりと立っている。

人を生き返らせる方法を探している人間が、目の前で生き返った人間を放っておくわけないよなあ。

「あなた、だぁれ?」

「悪い吸血鬼さ」

俺はいったい何がしたいのか。

来なきゃいけない気がして、来てしまったが。

この子は食べちゃいけないのだし、何かに使えるとも思えないし、放っておけばいいのに。

「やだ、こわーい」

くすくすと笑う。

そのあとぼんやりと虚空を見つめていたかと思うとおもむろに口を開いた。

「赤おじさんと黒おじさんがあなたについていけって。いい?」

「ダメって言ったらどうするんだ?」

「困っちゃうー」

またくすくすと笑う。

「じゃあ、仕方ないな」

少女の背後から妙なプレッシャーを感じて、つい頷いてしまった。

なんだろうこのねっとりした感じは。

「うん、仕方ないよー」

まあいいか、袖振り合うも多生の縁と言うし。

「……ふーん。そう言えばいいの。えっとねー、おれさま、おまえ、まるかじりー。私は魔人アリサ、コンゴトモヨロシクー」

なんか保護者がネタに走っているがそれでいいのか。

ともあれ、魔人アリサが仲魔になった。

パーティアタックが心配だが俺って呪殺無効だよね?悪魔だし。

外に出るとJC早苗が大暴れしていた。

かなり劣勢だった戦況を五分にまで持ち込んでいる。

アースラの面々が協力するように動いているところをみると一時休戦というところか。

しかしあくまで五分だ。

数の暴力はいかんともしがたいらしい。

倒しても倒しても湧いて出てくる傀儡兵に皆疲弊している。

JC早苗も初めは威勢がよかったがだんだんと撃ち漏らしが増え大蛙弾で一網打尽にしようとするも、爆風が視界を塞いで逆に接敵を許す始末。

所詮は人間だな。

「あ、あの子ー」

「ん?どれ?」

「あの白い子」

アリサが指差したのはディバインバスターを今まさに撃とうとしているなのはちゃんだった。

「あの子がどうしたの?」

「なんか、お話しなきゃいけない気がするー」

『お話』とな。

「やめといたほうがいいよ。あれでやられてしまう」

極太レーザーに傀儡兵が何体も巻き込まれている。

しかしそれでも大型のものも出てきて苦戦しているのだが。

「うーん、でも」

そういったところでのっそりと傀儡兵が現れた。

「あ、ロボだ」

興味深げにそれを眺めた後死んでくれる?を使った。

しかし傀儡兵は生きていないから死なない。

持っていた剣をアリサに向かって振り下ろす。

「あ」

「ていっ」

一瞬で槍になった傾世元禳で肘から下を斬り飛ばす。

「わあ、ありがとー、ええと…」

「レミリアだよ。レミリア・スカーレット。レミリアでもレミィでも好きなように呼んでくれて構わない」

「じゃあ、レミ姉さんと呼ぶことにするよ」

なんだろう、敵の情報を伝えればいいのか。

それはともかく。

「目障りだな」

ぞろぞろと傀儡兵が集まってきた。

ええと、そうだ。

落ちた腕から反対の手で剣を取ろうとしているさっきの奴に足払いをかける。

気を込めてっと、原作よりだいぶ赤っぽいな。

「超級!!」

自分でやる気は起きないからなこれ。

絵面的に。

「覇王っ!!」

気がぐるぐると渦巻き轟々と音を立てる。

なんかすげー

「電影だぁぁんっ!!」

顔だけ出した傀儡兵がかっ飛んでいく。

軌道上の傀儡兵は次々と動きを止めていく。

JC早苗は…ちっ、避けたか。

「ぶわぁくはつっ!!」

動きを止めていた傀儡兵が一斉に消滅。

あはは、ロボがゴミのようだ!

ほぼ壊滅状態である。

城にもちょびっと被害を与えている。

なんか楽しいなあ。

「わー!レミ姉さますごい!」

「いや、ええと、うん」

照れる。

それはともかく、突然の攻撃に戸惑っているアースラの人々に見つかるとめんどくさい。

アリサを抱えて結界の外までダッシュ。

荷物持ってても並の人間に見つかる様な速度じゃないのだ。



[28145]
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/06 23:37
プレシアさんの海鳴侵攻から明けて翌日。

アースラクルー&JC早苗は昨夜傀儡兵を掃討してから増援がないのを確認してからアースラに戻っていった。

流石に疲労が激しかったのだろう。

時の庭園側も動きがない。

そのため町全体に張られていた結界は時の庭園を覆う程度に縮小されている。

とりあえず今回いろいろ危なかったので富岡さんと中西さん一家を適当なとこに避難させることに。

海鳴にいるのは危険です。

中西さん旦那は普通の会社員で関西の方の支社に栄転。

偉そうな人何人かたぶらかしてきたので。

社長とかにMが多いって本当だったんだね。

いや、傾世元禳使ったから実際どうだかは分かんないんだけど。

いい年こいたおっさんたちが見た目幼女になぶられているという図はなかなか興奮したよ。

うふふ

富岡夫人たちには瀬戸内の気候が穏やかなところでのんびり過ごしてもらいます。

お世話になったからこれくらいはねえ。

今度は私がここに残ることに違和感を持たないようにする。

前とは逆だなあ。

今は広い屋敷に俺とアリサの二人っきり。

二人とも普通の食事とかは必要ないから人を雇う必要もない。

引っ越しの準備をさせて4人を送り出したらもう夜になってしまった。

紅茶を飲んだりお茶菓子を食べたりして一息つく。

さて。

「どこいくのー?」

「ご飯食べにいくの」

向かう先は翠屋である。

「私も行っていい?」

ええと、どうしようかな。

「ね、いいでしょー?」

まあ、いいか。

「うん、じゃあついてきて」

空には爪のような、チェシャ猫の口のような、三日月が輝いている。

のんびりと歩いて翠屋へ。

なのはは昨夜の面々と時の庭園に突撃している。

フェイトちゃんもいた。

なんか立ち直ったっぽい。

“お話”すげえ。

上空からの監視にとどめているので中で何やってるかはわからないがやばそうになったらワープだ。

転移魔法習得は結局まだめどが立っていない。

でもアリサに憑いてる人々がいざってときは何とかしてくれるのではないかと期待してます。

なのはがいるときに行った方がいい気もしたのだけど、何度も食事を邪魔されたし、我慢の限界だっ。

到着。

分かりやすい演出として店の周囲を霧で包みます。

「きれー」

「隅っこの方にいてね」

アリサにそういった後、飛んで電柱の上に立ってみる。

槍装備、かっこいいポーズでカリスマアーップ!

でも傾世元禳は控えめで。

辺りを覆う妖気に気付いたのか高町士郎が飛び出してくる。

桃子、美由希はガラス越しに不安そうに様子を窺っている。

他に客はいなかったようだ。

余分なものはない方がいいから好都合だな。

「何者だ!」

「こんばんわ、今夜は良い夜だね」

「何者だと聞いている!」

尋常ならざるモノの気に殺気立っているらしい。

ううん、でも少々鈍っているようだな。

技量は彼より上かもしれないけれど、魂が。

電柱から飛び降り、地面に彼の形見の小太刀を放り投げる。

目の前に刺さったそれを見て士郎は顔色を変えた。

「まさか…」

「美味しかったよ、彼」

うん、本当に。

この世のものとは思えないほど、脳髄が蕩けるほどに。

彼って誰だっけ。

「貴様ッ!」

うふふ

あはは

うん、味付けは成功だ。

鈍った魂が、切れ味を取り戻す。

切りかかってきた士郎の二刀を防ぐ。

彼よりずっと強い。

戦闘における勘が凄まじい。

瞬間移動じみた高速移動からの攻撃をギリギリではあるが防いでいる。

普通の人間には何やってるかわからないだろう。

多方向からの連続攻撃。

突き、薙ぎ払い、打ちおろし。

こちらが動き始める前に動いている部分がある。

経験とは恐ろしいものだ。

高町士郎は強い。

でも、それだけだ。

彼に感じたような昂ぶりがない。

もう終わりにしよう。

傾世元禳のグングニルは槍であり、布でもある。

薙ぎ払いを防いだ小太刀に巻きつき、固定。

悪魔の膂力で捻り上げる。

士郎はとっさに小太刀を手放し下がる。

しかし、二本でギリギリだったのだ。

即座に槍に戻して一閃。

小太刀を持った手首から先が飛ぶ。

もう一撃、袈裟掛けに。

片膝をついた首筋に噛みつく。

腹から溢れだす血液がドレスを濡らす。

うん、美味しいけど、美味しいけどやっぱり彼ののほうが美味しかったな。

でもまあ彼にはなかった長い年月の深み、みたいなものがあるからこれはこれで。

ううん、しかし飲みきれんなこれ。

ケップ

ああ、そっか前と同じように。

心臓に槍を突き刺す。

見る見るうちに乾いていく。

満たされていくのを感じる。

うん。

槍を振る。

それで高町士郎だったものは塵に還った。

「ねえ、遊びましょう?」

「アリサちゃん、どうして!」

「あはは、おもしろーい」

店の中に入るとアリサが美由希に小さな雷を放っていた。

桃子は吹き飛ばされたように店の隅に倒れている。

体中には火傷の跡。

一緒に遊んだ、のだろう。

「あ、レミ姉さん。終わったの?」

「うん」

「あなたはっ!」

俺の姿を見た美由希は血相を変えて叫んだ。

兄と父の仇だもんなあ。

いや、愛する従兄だっけ?

憎しみに染まったいい目をしている。

でも食べるにはまだ早いかな。

今美味しいものを食べたばっかりだし。

デザートにしてしまうには惜しいかも。

「ねえ、このお姉ちゃんにお友達になってもらってもいいー?」

「だめ」

「ぶー!いいじゃんちょっとくらいさ、え?うん、おじさん達がそう言うんなら」

よくわからんけど納得してくれたようだ。

「これ、あげる」

そう言ってもう一本の小太刀を投げ渡す。

「これはっ……!?」

「俺はレミリア・スカーレット。殺したければ、追ってくるといいよ」

尻の方で殴って気絶させる。

「なんで俺、なのー?」

なんでだっけ。

ん?俺ってなんだっけ。

「わかんない」

「ふーん、まあいっか」

俺?

おれおれおれおれおれおれおれおれ―――……

私?

俺はレミリア・スカーレットでご飯がおいしくて素敵で楽しくって気持ち良くて

あれ?

あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?あれ?

……。

………………。

………………………………。

なに考えてたっけ。

まあ、いっか。

とりあえず帰ろう。

そういえば時の庭園はなんか自爆したっぽい。

魔力炉を暴走させたとかなんとか。

結界を強化したから被害はあんまりなかったそうな。

望みが絶たれたー!って感じだったんだろうね、プレシアさん。

南無。

でもこれで今度こそ、

魔法少女リリカルなのは、完ッ!

だな。

いや、まだ早苗さんがいたか。

もうちょっとだけ続くんじゃ。



[28145] 10
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/08 00:39
満腹、満腹。

余は満足じゃー

ふっかふかのソファに体を沈める。

アリサが膝というかおなかに顔を乗せてくる。

ぐぇっ

今までは俺がやってもらってたのになあ。

なんだろうか。

この時の流れの早い感じ。

いや、実際は全然経ってない、高町家でのお食事会の翌日だし、見た目もそのまんまなんだけども。

テレビをつけてみる。

ローカルニュース。

海鳴沿岸部で謎の家屋倒壊、とか、喫茶店翠屋に強盗?マスター、長男、次女行方不明、妻軽傷、とか。

いやぁ、本当に物騒ですね近頃。

全国に放送されてもよさそうなもんだったけど地方紙の隅っこに載っただけだった。

不思議不思議。

早苗さんどうなったのかなあ。

昨夜の爆発以降行方が知れない。

アースラの人々は普通に脱出したみたいだから、巻き込まれてはいないだろうし。

早苗さんは殺さなくちゃいけない。

でも狂信者は食べてもまずそうだし。

正直イラネ

めんどくさいなあ。

無敵のディバインバスターで何とかしてくださいよぉ――ッ

まじめんどくせー

やるきでねー

ねむい

いやぜんぜんねむくないけど

「ねー、レミ姉さん」

「なにー?」

お腹に口をくっつけてしゃべるのはやめてください。

くすぐったいがな。

そういえばドレスは洗濯もしてないのに勝手に綺麗になりました。

不思議不思議。

「私、お友達が欲しいのー」

「ふーん」

友達のつくり方とか、聞くなよ?絶対聞くなよ?

「あの白い子をー」

「ダメ」

せっかく肥料を撒いたんだから駄目です。

美味しくなるまでじっくりことこと煮込むのさ。

「なんでぇー?おーぼーだよ、おーぼー」

「なんでも、ダメなもんはダメです。ああそうだわんこ、わんこ好きでしょアリサは」

「わんこ?」

ええと、ああ、そうだ時間的にやってるな。

チャンネルを回す。

『本日の、わんこー』

例のアレです。

ゴールデンレトリバーがでている。

かわいい。

でも柴がいいよ柴。

今はイメージ的に合わない気がするけど。

「おおー」

めっちゃ見入ってる。

「わんこを友達にすればいいよ」

名案である。

いや、その辺の人ならいくらやっても構わないんだけど、やっていい人とダメな人を区別させるのがめんどくせえ。

子育てとか、むり。

それに育たないし。

エターナルロリコンビです。

ロリ・コンビであってロリコン・ビじゃないよ念のため。

変態共と合わせたら両方になるがな。

まったく、いつもいつも仕事より趣味を優先しおってからに。

それはそうと早く奴の走狗を始末するべきだ。

何をしでかすかわからん。

「そーしよう!わんこどこにいるの!?」

「えーと、近所のお屋敷」

「よし、いこー」

行ってみた。

ぴんぽーん

普通にチャイム鳴らす。

横についてるカメラに手を振っているアリサを見て驚いたような声が聞こえた。

すぐにメイドさんが出てくる。

なんかいろいろ言ってるがアリサはわけわからんという顔をしている。

サクサクいこう傾世元禳発動。

庭に案内させると毛並みのいいのがたくさんいた。

流石はご近所で有名な犬屋敷である。

かわいいけどアリサを見て唸ったり、近づこうとして戻ったり挙動不審全開だ。

傾世元禳を使って一箇所にまとめる。

「さあ、どうぞ」

「うん。じゃあねー、みんな、 死 ん で く れ る ?」

真っ黒な靄に包まれた犬たちはあっという間に一匹残らず絶命した。

「あれ、おかしいなー」

アリサは犬の死体をぺたぺた触っている。

「えっ、そうなの。残念」

一人で納得している。

「えっとねー、みんなをお友達にするにはおじさんたちいないとダメなんだって」

この間自力で来てたんじゃないの?

……あれは分霊だ。

それも莫大な数のうちの一つ。

全て消させたがしばらく分霊はだせんだろう。

下らないことに力を使いおって。

本当に忌々しい。

奴らの趣味にかかずらわるのはやめるのだ。

「おじさんたちを呼ぶにはmagっていうのがいっぱいいるんだって」

「magってなに?」

「…………………………?……よくわかんないー」

首を傾げる。

こっちも首を傾げる。

わかんないなら仕方ない。

帰ろっか。

「お友達……」

ま、別に友達なんていなくても生きていけるさ。

生きてないけど。

家に帰って紅茶を飲みながら本を読む。

アリサはちくちくなにかを作っている。

ぬいぐるみだろうか。

なんとなくそんな感じ。

まったり過ごす。

……。

……………………。

結局今日は何も起きなかった。

アリサは一日かけて赤い服で金髪の男と黒い服で浅黒い肌の男の人形を作りあげた。

まとめて抱えられる程度の大きさで、意外とうまい。

「すごいでしょー」

二つの人形を持ち上げてくるくる回っている。

後ろの生暖い気配がなんとなく綺麗になった気がする。

すぐに元に戻ったけど。



[28145] 11
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/09 23:14
翌日昼、海の上にJC早苗が出てきた。

なぜかなのはちゃんとフェイトちゃんもその横にいる。

あるぇー?

なのはちゃんはなんか顔つきが変わってるなあ。

隈が浮いて泣きはらしたような赤い目。

しかし目つきは鋭く、海面を睨んでいる。

フェイトちゃんはなんか覇気にあふれているというか。

いい顔をしている。

早苗さんが御幣?なんか棒の先に長方形の白い紙を付けたやつ、を振ると巨大な五芒星を中心とした魔方陣が空に刻まれた。

っていうか、結界張ってなくね?

真昼間にこんなど派手なことしたらまずくないだろうか。

魔方陣から光とともに強力な魔力流、というか蛙弾の群れが海に向かって放たれる。

それに反応したのか海中のジュエルシードが強制発動。

巨大な竜巻が六つ。

風が強く吹き、空には暗雲が渦巻いている。

しかし、上空の三人は不動。

どうしたんだろう。

と、思っていると突如海面が大きく盛り上がる。

その数五。

海面を割って現れたのはアホかってくらい巨大な御柱だ。

てっぺん付近にジュエルシードが埋め込まれている。

巨大御柱は五芒星の頂点をそれぞれ貫いた。

魔方陣が輝きを増すと竜巻の動きが止まる。

そこに撃ち込まれていく大蛙光弾とサンダースマッシャー&ディバインバスター。

呆気ないほど簡単に六つのジュエルシードは封印されてしまった。

封印されたジュエルシードを早苗さんが手に取る。

これで21個すべてのジュエルシードがそろったことになる。

と、そこで広域の結界が張られる。

あらわれたのはクロノ君とその肩に乗るユーノ君。

いったいなにがあったの昨日?

「なのは!」

「高町なのは、君の気持はわかるが、東風谷早苗がやろうとしていることは明らかな犯罪だ!そしてフェイト・テスタロッサ!これ以上罪を重ねるんじゃない!」

「なにが、なにがわかるっていうの!?」

なのはちゃんが叫ぶ。

目がやばいよやばいよ。

なんだこれ。

「外野がぴーちくぱーちくうるさいですよ。なのはさんたちは神の御心にかなう道を歩むことを決めたのです。それはとても素晴らしいこと。では、始めましょう」

「うん」

「わかったの」

「なのは、駄目だ!その人はなのはを利用しようとしているだけだよ!」

ユーノ君いい勘してるね。

弱ってる人間の心に付け込むのは奴らの得意分野だってさ。

「なにを言っているのです?私たちは世界を平和に導くのです。私は神の愛を遍く世界に伝える神の御子たる救世主。彼女たちはにっくき悪魔どもから私を護る勇敢なる騎士なのです!」

高らかに宣言した早苗さんに対してなのはちゃんが微笑む。

なんか黒いです。

しかしなんとまあ、救世主ねえ。

これからはジーザスクライスト早苗、略してJC早苗と呼ぶことにしよう。

JC早苗が先ほど封印したジュエルシードを真下に落とす。

すると五芒星の中心直下、海面が先ほどより大きく盛り上がる。

ずももももと出てきたのはさっきよりかなり太くてずっと短い御柱、というか祭壇。

早苗さんがそこに降り立つと祭壇の表面に上空にあるものと同じような魔方陣が浮かび上がる。

「やらせないぞ!」

クロノ君が早苗さんに対して攻撃を仕掛ける。

しかし早苗さんを護るように二人がクロノ君の前に立ちふさがる。

「くっ」

「世界が平和になるの」

「もう誰も傷つかなくてよくなるんだ」

魔方陣の光が脈動する。

それに合わせるように上空の魔方陣が動き出す。

歌声。

讃美歌だ。

恐ろしく美しく

恐ろしく無機質な

神を称える歌

「ぐぅっ!?」

クロノ君がうめき声をあげる。

肩のユーノ君も辛そうだ。

結界越しにもここまで響いてくる。

吐き気を催す。

もうこの辺の敏感な人間には影響が出始めているだろう。

早苗さんの歌声を魔方陣を通してジュエルシードが増幅する。

魔力を帯びた歌声の圧力に結界が軋む。

転移してきたリンディさんが結界を強化しているが間に合うまい。

「レミ姉さん、なーに?これ」

アリサも気付いたのか顔をしかめて立ち上がる。

「毒電波。止めないと」

外に出る。

ついてきたアリサが結界の方を指差して言った。

「あそここれを出してるやつがいるの?」

「そうそう」

急がなきゃいけないのに。

袖をつかむ手をほどこうとすると両手でつかまれた。

「なにするの」

「びゅーんって行くよりー、ぱって行った方が早いでしょ」

えっ

ワープはまだできませんぞ。

「トラポート」

なんか体全体がぐわってなった。

なんじゃこりゃあ。

気付くと蝙蝠で見ていた結界内。

姉の威厳が危ういぞこれ。

ってやばい。

結界の中に入った途端に毒電波の圧力が凄まじいことに。

これに耐えてたクロノ君たち凄いな。

バリアジャケットに対洗脳機能でもついてるのかしらん。

慌てて傾世元禳発動。

横で苦しそうにしていたアリサの顔色も少し戻る。

考えなしにワープなんかするから。

あとついでに霧を出しまくる。

出したそばから吹き飛ばされていくが魔力を吸収する魔霧だ。

結界に対する圧力をかなり弱めることに成功。

これならしばらく持ちそうだ。

「あなたが」

いきなり現れた俺たち二人に注目が集まっている。

そしてなのはちゃんにはめっちゃ睨まれている。

「やっぱり来たの、悪魔。あなたが、レミリア・スカーレット?」

「そうだけど?」

表面上は平静を保つ。

たぶん、保ててる。

コエエー

なにこの殺気。

お前本当に小学生か?

「お兄ちゃんも、お父さんも、すずかちゃんも、私の大切な人たちをあなたは奪った」

後ろの一人はちが、ん?

前二人、お兄ちゃんとお父さんを奪った?

あれ?

高町恭也は家出して?

高町士郎は?

「今なら私、プレシアさんの気持ちがわかるよ。失くした大切な人を、取り戻したいって。なにをしてでも」

紅い夜。

満月の夜。

私たち二人。

「でも、あんなにすごい人でもできなかった。私にはきっとできないの」

楽しくって。

愛おしくって。

気持ちよかった。

「復讐なんて意味のないことだって、少し前までだったらきっと言えたの」

素敵な時間。

紅い世界。

彼の血で染まる。

「でも今は、みんなを殺したあなたが、今ここで生きて呼吸をしているというだけでっ!」

殺した?

「目の前が真っ暗になって体中の血が熱くなって心臓が張り裂けそうになって手足が冷たくなってがくがく震えてっ!」

みんなをころした。

誰が?

私が?

俺が?

だれをみんなをなぜおいしそうだったからおいしかったこのこもたべたいもっとたべたい

ああ、そうか。

「私の体全部が、あなたを許せないって言っているのっ!!」

新たな生の対価は人間一人の命などでは到底贖うことなどできはしない。

これから負債を払うのだ。

永遠をかけて。

悪魔として。

俺は、私は。

この世界に生まれ落ちたその時から。

ただしくあくまだったのだ。



[28145] 12
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/10 22:21
視界をピンク色の光が覆い尽くす。

殺意とともに放たれたそれは以前に見たものよりも格段に威力が上がっていた。

魔方陣を通してジュエルシードから魔力が供給されているようだ。

敵は実質無尽蔵の魔力を持った白い悪魔、いや、天使と言うべきか。

後ろにはアリサがいる。

アリサは傾世元禳がなければここにいるだけでまずいだろう。

避けられない。

しかし、俺も讃美歌でいろいろときつい。

耐えられるか?

どうする?

「トラフーリ」

気付くと少し離れたところにワープしていた。

ワープマジ便利だなあ。

「アリサちゃん」

はっとしたようになのはは呟いた。

気付いてなかったんかい。

「あなた、私のことを知ってるの?」

「そっか、そうだったね。早苗ちゃんが言ってた通りなの。すぐに元に戻してあげるから、少しだけ、待ってて」

「?」

そういうとなのはは無数の誘導弾を撃ってくる。

いかんなあ。

あれに紛れてバインドで止めて砲撃でとどめというのが常套手段だったはず。

無理ゲー臭がするぞ。

でも俺はChaosの悪魔。

神の走狗を見逃すことはできない。

なんとかなのはとフェイトを無力化してこの祭壇を破壊しなければ。

誘導弾に紛れてフェイトが突撃してくる。

「なのはの大切な人なら私にとっても大切な人だ。助けて、みせる!」

「くっ」

攻撃が重い。

そして速い。

フェイトもジュエルシードにより強化されているようだ。

反撃ができない。

アリサと離れることもできないし。

フェイトは高速でヒット&アウェイを繰り返し、なのははひたすら誘導弾を撃ち続けている。

「なのは!クロノ、どこへいくの!?」

「よくわからないがこれはチャンスだ。今のうちにジュエルシードを封印するぞ」

クロノ君と肩乗りユーノ君は上空へと飛んで行った。

頑張ってくれ。

バインドはなんとか見切って斬り捨てているがいつまでもつか。

「レミ姉さんってそれなくてもすっごく強かったよね?」

突然何を言い出す。

「まあ、けっこうねっ」

俺は槍でバインド破壊とフェイトの迎撃をし、アリサは雷や炎の魔法で牽制と誘導弾の迎撃をしている。

「じゃあ、それ貸して。私一人ならあっちの白い子はなんとかなるから」

まじで?

大丈夫か?

そんな目で見たのが分かったのかアリサは頬を膨らませた。

「ぶー。大丈夫だよー、たぶん。そんな気がするの」

本当に大丈夫か?でもこのままじゃジリ貧だし。

ええい、ままよ!

一番いい装備だ持って行け!

手に取った瞬間ミイラになったりしたらトラウマになるぞ。

「気を付けてよ?」

「任せてー」

傾世元禳を手渡すとアリサはワープしてなのはに攻撃を仕掛けた。

普通に大丈夫だった。

発動もしている。

アリサにも扱えるらしい。

槍のまま渡したそれを適当にぶんぶん振り回している。

隙だらけの体に誘導弾がいくつも命中、って跳ね返っただと?

えー

なのはが驚きに目を見開く。

なんとかシールドで防いだようだ。

距離を取って再び誘導弾を撃つがすべて当たった瞬間に跳ね返る。

銃撃反射?

あれって銃撃といえるのだろうか。

いや、反射してるから銃撃なんだろうけど。

なんかチート臭いぞ。

バインドで捕まえたり高速移動で距離を取って砲撃をしようとしているがワープ移動の連続で狙いを外している。

槍に交えて魔法を放ったり、死んでくれる?したり、……殺さないでよ?

なのはさんは戦闘民族としての勘なのか全力でかわしていた。

流石です。

アリサは体の動きは素人そのものだが戦闘ということなら一流の域のようだ。

こちらから離れるように戦域を誘導している。

……任せて問題なさそう。

こちらはこちらで援護がなくなったことで射撃を交えてくるようになったフェイトと対峙している。

傾世元禳がないので毒電波がだいぶきついが根性でなんとか。

速度やらはだいたい互角だろうか。

フェイトは魔力供給に頼った連続ブリッツアクション、こちらは素で瞬間移動じみたことができるマスターアジア式移動術by吸血鬼。

なんかドラゴンボールみたいなことになってると思う。

ぶつかり合う魔力を込めた爪や拳とバルディッシュ。

リーチと一撃の威力は武器持ってるあちらが上だが、懐に入れば素手のこっちが有利。

しかし射撃の牽制や一撃離脱でそれを許さない。

こちらは時間がたてばたつほど不利になる。

霧から魔力を回収できないのが痛いな。

なんとか短期決戦にもちこまないと。

話しかけてみる。

「なんであなたは、こんなことに協力しているの?」

「なのはは私を助けてくれた。だから今度は私がなのはを助ける!」

なんかこの子依存対象が母親からなのはにかわっただけじゃないの?

カオスの信奉者として言っておこう。

「自分の足で立って歩けないなら、いつまでたってもお人形さんのままだよ、あなた」

フェイトの顔色がさっと変わる。

「っ!」

ハッハッハひっかかったな明智君。

隙だらけだぜ。

突撃してきたフェイトをかわし、手首に手刀を叩き込む。

デバイスを取り落したフェイトが飛行魔法の制御を失い落ち始める。

掌に気を集中。

「ダークネス…」

赤いな。

黒っぽい紅。

スカーレットフィンガー、いや、ブラッディフィンガーとか?

次使うときは名前変えよう。

落ちていくフェイトの顔面を掴む。

「ぐっ!?」

海面に向かって加速。

そのまま、

「フィンガー!!」

「っっっっっ!」

叩きつける!

巨大な水柱が上がった。

あ、やべっ。

いや、大丈夫大丈夫死んでない。

ぐもっちゅとかしてないよ。

早苗さんじゃあるまいし。

気持ち的には非殺傷設定だったから、うん。

ぷかーっと浮いてきた。

良かった無事だ。

でっかいたんこぶが後頭部にできているあたり将来の兄妹の影響なのだろうか。

なんなんだろう、なんかすごいな。

アリサの方はどうなっただろうか。



[28145] 13
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/11 01:19
遠くの方で桃色の光の柱が天に昇っている。

射線上にいるのはバインドに捕らわれたアリサだ。

連続ワープ戦法が破られたらしい。

まあ基本接近戦だもんなあ。

砲撃が怖いから。

仕方なし。

でももしかして砲撃も跳ね返せるんじゃないの。

期待。

ギィイン

アリサの周りに球形のバリアが発生しスターライトブレイカーを防いだ。

流石に砲撃は跳ね返せなかったか、残念。

ガガガガッガッガガガ

ギギギギギギギギギギギ

早苗さんの美声をBGMにものすごい音が響いている。

でも流石傾世元禳バリアーだ、なんともないぜ!

ガッガガgッガガッガッガッガガッガッガガッガッガガッガガgggggggggg

ギギギイギギギギイッギギギギギギギギギギギギギggggggggggg

…………。

…………………………………。

長くね?

あ、そういえば今のなのはさん外部供給で魔力無尽蔵でしたね、ってうわあ助けないと。

早くしないとアリサがいろいろ搾り取られて真っ白になってしまう。

全力でなのはのところに向かう。

流派東方不敗は極めると空中を走れます。

普通に飛ぶより早いです。

右の足が落ちる前に左の足を出すのです。

嘘です。

短距離加速しかできないし今しんどいんで連続使用とか無理です。

でも急ぐ。

まだバリアは破られてない。

アチョー!

腕の二、三本いただくつもりで全力でひっかく。

空中に紅い軌跡が描かれる。

硬っ

爪痛い。

バリアジャケットも強化されてるみたいだ。

でも吹っ飛ばすことに成功。

ビームの照射が止まるがアリサがふらりとして落ち始めた。

うおおーキャッチ!

全力で飛んでキャッチ成功。

だいぶ憔悴しているようだが何とか無事のようだ。

「ありがとー」

「無事でよかったよ。結界の外までワープできる?」

「すんごくしんどいけどー、たぶん、なんとか」

アリサから傾世元禳を受け取り代わりに発動。

「あ、いけそう。……トラポート」

すっと腕の中から重みが消える。

「アリサちゃんっ!」

今の砲撃は愛の砲撃だったんですね分かります。

「……まあ、いいの。あなたさえ始末すれば、みんなうまくいく。アリサちゃんも戻ってくる。悲しいことも嫌なことも、この世からみんななくなっちゃうの」

「代わりに今の憎しみも、愛されたいという欲望も、怒りも嫉妬も何もかも、あなたの人間らしい感情は失われるのだけどね」

植物のように無機的な生。

それは本当に生きていると言えるの?

「いらない!そんなものあってもつらくなるだけ。みんないらないのっ!」

放たれる多数の誘導弾。

こちらはけっこう消耗しているがあちらは魔力全開だ。

しかし動きに精彩を欠く。

誘導弾の制御も甘い。

いくら無尽蔵の魔力タンクがあるからってあんな砲撃撃ったらねえ。

おおいに体に負担もかかろうというもの。

「そんなんじゃあ、悪魔を殺すことはできないな!」

「うるさいのっ!あなただけはっ、あなただけは絶対にぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

誘導弾はかわすか槍で撃ち落とし、バインドはいちいち斬っている。

ディバインバスターぶっぱなんぞ当たる要素がない。

どれだけ強い攻撃だろうと、当たらなければどうということはないっ!

フハハハハって、え?

うわあああああああ砲撃があああああ!?

撃ちっぱなしでぐるぐる回るとかどこのファイナルスパークだ。

かすった、まずい体勢が、

「スターライトォ……」

タメが早い。

恐ろしい速度で大量の魔力が魔方陣から流れ込む。

バリアジャケットの袖が破れ、のぞいた腕の血管が破れ血が噴き出している。

「ブレイ」

ええい、いけっ。

傾世元禳をぶん投げる。

無理やり投げたため威力は大したことないし、かすった程度だが狙いがずれる。

その隙に全力で近づく。

接近戦ならこっちのもんだ。

あ、そうだあれやろう。

できるかなあ。

「運命・ミゼラブルフェイト」

鎖でろーと思いながらやってみた。

出た。

ぐるぐる巻きにしてやる。

「きゃっ」

よいではないかーよいではないかー

なのはさんはカオスの素質がありそうなので殺しはしません。

気を込める。

渦巻く紅。

「なっ、何をする気なの!?」

楽しいことさ。

「超級ッ、覇王ッ、電影だぁぁぁんっ!!」

御柱のいくつかを巻き込むようにかっ飛ばす。

「いやあああああああああああああ!!!?」

ぎゃあああああああああ

うわあああああああああ!?

なんか巻き込んだような気がするが気にするまい。

「爆発っ!」

ぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――……

御柱はバリア張ってるようで大したダメージを与えることはできなかった。

しかしいままでの砲撃などでも不安定になっていたらしい魔方陣の一角が崩れる。

それにより結界内にあふれる魔力が非常に不安定になる。

攻撃をうけた御柱のジュエルシードも制御から外れ始める。

他のジュエルシードはそれを押しとどめるために魔力を使い、早苗さんの守りが薄くなる。

よし、あとは早苗さんを倒すだけ。

人は人の意志によって生きるべきなのだ。

この世にあるべき法はChaosのみ。



[28145] 14
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/12 01:26
魔方陣を一部破壊したから歌の影響力もだいぶ弱まっているはずなんだけどなんかしんどい。

なぜに?

あ、傾世元禳ぶん投げちゃったからか。

どうしよう。

かむばーっく!

などと思っていたらどこからともなくふわりと飛んできて腕に絡みつく。

猫のマーキングのごとき動き。

伝説級の武器は投げたら戻ってくるの基本だものねそういえば。

結界の端まで吹き飛ばされていた霧を集める。

いままでずっと毒電波にさらされていたせいか凄まじい魔力をため込んでいる。

それを吸い取り回復。

五臓六腑に染み渡るぜえ。

早苗さんはまだ白目むいたまま歌っている。

こわひ

とりあえず攻撃してみようか。

全身に魔力集中。

「夜符・デーモンキングクレイドル」

祭壇の上の早苗さんに向かい紅い魔力を纏って高速突撃。

まだいくつか障壁が張られていたがすべて貫通。

早苗さんがふっとび祭壇の表面が砕け散る。

キラキラと光るなにかが飛び出したのでキャッチしてみるとジュエルシードだった。

とりあえずしまっておこう。

「くっ、いったいなにが!?まだ世界の全てを覆い尽くすには時間が足りないはず」

正気を取り戻した早苗さんがこちらに気付く。

「初めまして、ジーザスクライスト。あなたの創るミレニアム、反吐が出るほど素敵だったから遊びに来たよ」

「悪魔っ、やはり私の邪魔をしますか!あの二人はどうしたのです!?」

ちょっと遠くの海面とかなり遠くの空を指差す。

ぷかぷかぷか浮いているフェイトと、ぐったりしているクロノ君と一緒にユーノ君に治療されている意識を失ったなのはを見て苦々しげに吐き捨てる。

「チッ、役に立たないですねまったく」

おやまあ、ひどいねえ。

けっこう苦戦したのに。

回復したけど。

「……結局頼れるの己のみ、ですか。しかし、試練を乗り越えてこそ世界平和の実現という大業がなせるのです。神の至宝よ、私に力を」

ボロボロの魔方陣から早苗さんに魔力が供給される。

フェイトやなのはの時と違い供給量が安定していない。

ゆびぱっちん。

たくさんの石柱が前後左右から襲ってくるが見えてます。

遠くから蝙蝠で見ているのだ。

例えるならゲームの俯瞰視点。

死角なんぞ存在しない。

ただ見えてても普通の人間ならあっという間にミンチになる高速射出だけど生憎と悪魔なので。

小足見てから昇竜余裕です。

人間には物理的に不可能らしいけどね、脳みその電気信号の速度やらの関係とかで。

今ならできるだろうか。

そのうちゲーセン行ってみよう。

かわす、かわす、かわす

安定しない魔力供給に合わせて石柱の量が減ったり増えたり。

ぱっちんぱっちんぱちぱちぱちぱちぱぱぱぱぱぱ

ひたすら避ける。

瞬間移動じみた速度で移動しているのだが的確に撃ってくる。

風が妙な吹き方をしているからその動きでこちらの位置を探っているのかもしれない。

でもまあ基本的な反応速度が違うからなあ。

当たらぬわー

首を取るだけなら簡単なんだけど、ジュエルシード封印しないといけないし。

本人にやらせるのが一番手っ取り早い。

次元震起きて地球消滅とかは防がないと。

どうやっていうこと聞かせようか。

でもこいつらは痛みに強いからなー

めんどくさいし殺すか?

いや、もったいないし食べる?

でも狂信の味ってのは例えるならカレー粉とかマヨネーズとか、そういうのなんだよねえ。

美味しい不味い以前にまず料理じゃないというか。

ゲテモノ食いは趣味じゃない気がするし。

グルメなんです。

やっぱ殺すか。

そうするがいい。

四文字禿の手先なぞ皆殺しに限るわ。

あ、なんかお久しぶりです、いや、初めまして?

我は常にお前を見守っている。

精進するが良い。

御意です。

たぶん上司とかそんな感じなんだろうなあ。

この謎の声。

よくわかんないけどなぜかすごく親しみを感じる。

「これだけ?」

不安定な魔力を通し続けて疲弊した早苗さんに微笑みかける。

洗脳とかじゃなくて力で従えようってんなら見逃してもいいんだけどねえ。

争いの火種になるから。

「っ、夏場の台所によく出るあれの様にすばしっこくてしぶといですねっ!」

……黒色奇走虫よばわりとは、絶対に許さないぞ。

早苗さんは飛び上がって蛙弾をばらまき始めた。

綺麗な花火だ。

完全に空間を飽和させなければ無意味、ただの花火。

弾幕を目くらましに御柱を飛ばしてくる。

早苗さんの必勝戦法ですな。

でも背中ががら空きですぞ。

早苗さんの背後に高速移動して叩き落とす。

俯せに倒れている早苗さんの横に降り立つ。

「ねえ、ジュエルシードの発動を止めなさいな。これ以上やったって無駄だってわかったろう?」

「神の至宝を、渡すわけにはいきません……!」

渾身の力を振り絞って立ち上がる早苗さん。

まぁわかってたよ。

ここでやめるぐらいなら最初からやらないもんねえ。

じゃあとりあえず、腕一本。

槍を一閃。

立ち上がろうと突っ張っていた左腕の肘から下を切り落とす。

「ぐっ、ぎゃああああああああああああああ!!!私のっ腕がああああああ!?」

うるせ。

凄まじい叫び声をあげながら転げまわっている。

とりあえず軽く回復かけて止血。

「ダルマになるまでに止めてくれるかな」

これ見よがしに槍を振る。

「うわあああああああああ」

叫びながら立ち上がる早苗さん。

めんどくさいなあ、もう、っ!?

後頭部に衝撃。

しまった油断した。

まさか、ゆびぱっちんが飾りだったとは。

頭は潰れていないようだがよろめき倒れる。

そこに降ってきた追撃の御柱に左半身が潰される。

いってえ。

周りにいくつも御柱が落ちていく。

狙いが定まっていないようだ。

痛みによるものかそれともぱっちんで狙いを定めていたのか。

ともかく離れる。

「ハッ、ハハハ、アハハハ!死になさい!悪魔めっ!」

放たれた大蛙光弾の爆風を利用して飛ぶ。

ああ、もう初めから自分で全部まとめてふっとばしてやればよかったんだ。

そうすればこんな痛い目を見ずに済んだ。

激しく明滅を繰り返す巨大魔方陣の中心に滞空する。

一気に大量の霧をだし空間内の魔力をかき集める。

ついでに回復。

全部ふっとばし、封印するというイメージで。

必殺のスペルを使う。

「紅符・不夜城レッド」

紅い霧を吹き飛ばして紅い魔力の奔流が結界内を埋め尽くす。

真下の祭壇を包み込み、周囲の石柱も消滅させる。

すべてを吐き出した後に残ったのは、凪いだ海と、青い宝石たちの輝きだけだった。



[28145] 15
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/13 00:37
ふわふわと浮かぶジュエルシードを回収する。

1,2,3,4,……15。

十五個?

ぽっけにしまってあるのが三つあるから全部で十八個。

全部で二十一個のはずだから、三つ足りないな。

早苗さんには逃げられたらしい。

早苗さんはジュエルシードを完全に制御できてたっぽいし、それくらいはできるか。

迂闊。

急いで戻らないと。

アリサが心配だ。

あと結界が解けている。

最後のアレが原因っぽい。

かなり遠くにリンディさんの張った障壁に守られたらしいクロユーなのフェイがいる。

そうだ、一応こっちもなんとかしておかないと。

飛んで近づく。

リンディさんとユーノ君の顔に緊張が走る

クロノ君たちは寝てる。

とりあえず敵意がないことを示すためにスカートの端をつまんでちょこんとお辞儀。

不可解そうな顔をしたリンディさんに微笑んでみせる。

「あなたは、……いったい何者?」

「さきほどの女と敵対するもの」

「答えになっていないわ」

頭を振るリンディさん。

「あなたはいったいなんなの?あなたのような存在がこの世界のような魔法の無い世界にいるはずがない!」

笑みを深くする。

「あなた方の見ている“世界”というのはひどく限られた、一つの側面でしかない。見えぬもの、知らぬものを管理することはできない。そして人間の身で世界の全てを知ろうなどというのがそもそも愚かしい」

「いったいなにを……!?」

多様であり、ぶつかり合うからこその生命だ。

一元化などということは許されない。

絶句したリンディさんにジュエルシードを見せる。

「今夜、町はずれの廃ビルに一人だけで来てくださいな。こいつをお返ししよう」

「えっ、あっ、待って!」

返事を待たずに飛びたつ。

適当なところで降りて霧を出して魔力を隠し、さらに監視がないか確認。

大丈夫っぽい。

急いで家に帰る。

怪しい気配はない、けど。

リビングに行くとアリサは普通にソファに突っ伏していた。

「あ、レミ姉さん。おかえりー」

俺に気付くと寝転がったまま手を振ってくる。

心配しすぎだったか。

「大丈夫なの?」

「ちょっとだるいけど、まあ平気。レミ姉さんこそ大丈夫だったの?」

「もちろん」

「そっかー、すごいね。えへへ」

何故嬉しそうにするのか。

謎。

お姉ちゃんかっこいい!とか?

ソファに座るとにじり寄ってきて膝に頭をぽふっとのせる。

か、かわええ……!

なんかなのはに負けて以来ほんのり怒気を発していた後ろの気配も緩む。

そんな感じでうだうだしていると日が落ちた。

寝てしまったアリサをそっとおろす。

睡眠は必要ないと言っても消耗した時は寝るようだ。

寝顔……ぐっじょぶ!

自分の寝顔ってどうやったら見れるのかなあ。

あ、ビデオカメラあるじゃないか。

眠くなるくらい消耗したらやってみよう。

廃ビルに向かう。

まだ来ていないようだ。

仕込み開始。

ビルの周囲には薄く、今いる部屋に向かうほど濃くなるよう霧を出す。

あれだけの結界を張ったのだしまだ消耗しているだろう。

バリアジャケットだせない程度まで弱らせる。

あとは踏むとチェーンギャングで縛る魔方陣を作る。

紅い魔力光だから霧に紛れて全く見えないだろう。

念のためサーチャー警戒用の蝙蝠も飛ばす。

あれだけ力の差を見せたのだから舐めた真似はしないと思うんだけど。

しばらく待つと少し離れたところに結界が作られる。

結界が解かれると中からリンディさんが出てきた。

転移してきたのだろう。

そしてサーチャーもいくつか。

かなり高度な隠蔽が施されているのだろう、見えづらい。

でもこんなもんで悪魔を出し抜けると思われると困っちゃうねえ。

サーヴァントフライヤーを飛ばし撃墜させる。

一瞬驚いたような表情を見せるがそのまま霧に包まれた廃ビルの中に入ってきた。

だんだんと霧が深くなっていることに気付いたのか顔をしかめる。

どう考えても罠ですもんね。

でも進むしかない。

追加のサーチャーも撃墜。

そして部屋の中に入るとこちらに気付いた。

魔方陣まであと三歩というところ。

「こんばんわ」

「約束通り、一人で来たわ。ジュエルシードを渡してくれるのですね?」

「ええ、もちろん。代わりに少しお願いがあるのだけれど」

にこやかに告げる。

「お願い……?」

可哀そうなくらい警戒しているなあ。

でも、無駄無駄ッ。

実力で負けてる相手が搦め手を使ってくるというのだ。

「でもとりあえず、先にこれをお渡ししようか。三個はとられてしまったけど残りの十八個。全てここにあるよ」

手のひらにのせ、取りに来るよう促す。

一歩、二歩、三歩、発動。

「きゃっ、これはっ!?」

鎖でぐるぐる巻きにする。

しかし一児の母とは思えんよなあこれ。

未だバリアジャケットをだせる魔力が残っていたようなのでとりあえず手首を打ってデバイスを落とさせる。

さらに首筋に口づけ軽く魔力を吸う。

ふっと鎖を押しのけていた力場が消え鎖が食い込む。

よーし準備おっけー

「一体、どういうつもりなんですか……?」

「お願いがあるって言っただろう」

傾世元禳発動。

少し耐えるがだんだんと目から光が消えていく。

「あなたはアースラの長として私たちに関するすべての情報を破棄する、そして乗員には緘口令を敷く。いい?」

「……はい」

よく吸い込ませる。

とりあえずデバイスのデータとか船のデータを削除させれば問題ないだろう。

人の記憶なんてあてにならないものだし。

一番偉いやつに否定させるのだ。

下っ端はほっといても問題ない。

「よし、じゃあこれ持って帰りなさい」

「……はい」

ジュエルシードを持たせて帰らせる。

自分でもっとこうかとも思ったけど返した方が管理局の目につく可能性は低くなるだろう。

責められるより責める方が趣味だからできれば見つからない方がいい。

宇宙戦艦見学とか、ミッドチルダ侵攻とかも考えたけどまだ闇の書がある。

そっちが終わってからでもいいだろう。

よーし、魔法少女リリカルなのは、完ッ!



[28145] 16
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/14 01:15
あれから数か月がたちました。

けっこういろいろあったんです。

まず翠屋。

閉店しました。

道場も含めて処分してしまうようです。

桃子さんは精神的に不安定な状態で、月村家のお世話になっている。

忍さんが申し出たそうな。

美由希はなんか修行の旅に出たとかなんとか。

ヨーロッパだか中国だかに行ったらしい。

ま、縁があればそのうち会うこともあるでしょう。

そしてあのあとすぐ世間では謎の発光現象がワイドショーなんかを賑わわせていました。

突然海上に現れた巨大な光る魔法陣的な何か、そのしばらく後に現れた巨大な赤い光の柱。

自称専門家がプラズマ現象であるとか星辰がどうのとかあれこそ恐怖の大王の先駆けであるとかいったりしたけどまあ公的にはもちろん否定された。

証言や映像も昼間ということもあってぼちぼち出たのだけどフェイクだとか集団ヒステリーだとかもっともらしい感じの言葉で表面的には全くなかったことに。

しかしなぜだろう、人間というのは意外と敏感なものらしい。

再びノストラダムスが注目されたり、奇行に走る人間が春でもないのに増えたり。

終末論的なものが流行り出した。

もともと経済状況の慢性的悪化という土壌があったこともあるだろうけど恐るべき速度だ。

世の中終末論一色!というほどではもちろんないけれど、その辺を歩いている人間も笑顔の裏に不安を隠しているように思う。

厭離穢土欣求浄土

そんな落書きをよく見かけるようになった。

スプレーアートというやつはもっと英語とかを描くもんだと思っていたけど。

初めて見たときは笑ってしまった。

一体どんな奴が描いたのだろう。

残念なことにまだ描いてる現場を目撃したことはない。

同じ時間帯に出歩いてると思うんだけどなあ。

他の地域にもあるらしいから一人だけで描いてるわけでもないらしいけど。

まあ、これはどうでもいいんだ。

大事なのはそう、いま日本では二つの新興宗教が急速に勢力を拡大していること。

一つはメシア教。

未来永劫終わることのない、至福と喜びに満ちた世界。

神の統治による永遠の楽園、千年王国。

そんなものをもたらすメシア、救世主の出現を信じることを教義としている。

そして神の創った秩序を重んじ、全ては法をもって管理されるべきであるという信条をもつ。

普通なら気に入らんなあと思う程度なんだけど、問題があるのだ。

メシア教の高位の聖職者は天使を呼び出し、奇跡を行う、という。

不治の病が治ったとか先天的な失明が治ったとか。

それで急激に信者の数が増大しているらしいのだ。

まあ、ありがちな話ではあるけどなんとなく気になったので蝙蝠を潜入させてみた。

するとなんか本当に天使っぽいのが呼び出されて、治療やらを行っていた。

天使っぽいのはフェイクとかでなくなんか魔力みたいなもので構成されているようだった。

マジかよ、と思って調べてみるとそれは悪魔召喚プログラム、というものによるらしい。

世の中には異界と呼ばれる、悪魔たちの住む世界、いわゆる魔界との境界が薄くなった場所がけっこう存在する。

そこでは悪魔が出現し人を襲ったりするらしい。

ちなみにあの廃ビルも異界だったようだ。

どおりで居心地いいと思った。

その悪魔たちをいままでは裏稼業の人間、血筋だったり異界に触れたりして超能力や魔法が使えるようになった異能者と呼ばれる存在が細々と退治していた。

その中に悪魔召喚師、デビルサマナーというのがいる。

詳しくは知らないが悪魔絡みの事件専門の探偵だそうだ。

そいつらはその名の通り悪魔を使役する。

管につめて扱き使うそうだ。

ひどい話だがそいつらはそういう才能がある血筋なのだそうな。

そう、デビルサマナーというのは才能がなければできなかったのだ。

いままでは。

最近、件の悪魔召喚プログラムというのが裏社会に流され結構な数のなんちゃってサマナー生まれたのだ。

その一部がメシア教にいて天使の召喚などをしているらしい。

入信したのか金目当てかは知らないが。

ああ、悪魔召喚プログラムでなんで天使が呼べるのかというと、天使も悪魔だからだって。

うん、意図的に語弊があるようにいったさ。

裏の世界では天使も含めて超自然の存在を全部まとめて悪魔と言うんだそうな。

よくわからないけど慣習的なものらしいから合わせることにする。

まあ、メシア教の内部では明確に区別してるんだけど。

悪魔召喚プログラムの製作者はSHINOBUというらしい。

誰だか知らんが酔狂なことをする奴もいたものだ。

こんな便利なもの独り占めにしておけばいのに。

と、思っていたけど無理に自分より実力が上の悪魔を使役しようとするとひどい目に合うらしい。

具体的には性的な意味でなく食べられたり性的な意味で食べられたりとか。

操られたり脳みそ抜かれたりとか。

愉快犯か?

でも思想があえばそこまで問題でもないようだ。

そして、そんな感じで悪魔を利用するメシア教にガイア教の人間による高位聖職者の襲撃事件が多発しているらしい。

表沙汰になるものもないではなく、大部分は水面下の抗争。

一般信者は知らないが幹部レベルは裏社会にどっぷり浸かっている。

いま日本の裏社会はガイア教とメシア教の戦争状態にあるのだ。

何故ガイア教がメシア教と敵対しているかと言うと彼らの教義がメシア教とは正反対のものだからだ。

秩序を重んじるメシアに対して個人の自由を尊重するガイア。

神を崇めるメシアに対して自然崇拝のガイア。

厳密な身分秩序があるメシアに対して差別や区別を否定するガイア。

生きる者はいつか死ぬ、形あるものはいつか壊れる、と謳う。

諸行無常の響きありってやつ。

こういうとなんか悟っちゃってるみたいだなあ。

でも実際はどうせ最後は死ぬんだから秩序なんてぶっ壊して欲望の赴くままに楽しくやろうぜ、って感じ。

そして彼らの幹部レベル、裏社会に精通している、は悪魔との共存を掲げている。

とくに古代の神々たち。

人があるがままに生きた時代の神々こそ真に崇めるべき存在である、という。

メシア教は天使以外の悪魔は全て滅ぼすべきだと主張しているからここでも真っ向から対立している。

規模が大きく、それを利用しガイア教徒を迫害するメシア教。

それに対し襲撃と言う形で抵抗するガイア教。

事態は泥沼の様相を呈している。

そして二つの教団ではある予言のうわさが広がっている。

メシア教の異能者がした予言。

曰く、海鳴に世界を滅ぼす魔女が生まれる。

そのうわさの真偽を確かめるべく次々と両教団の人間がこの地に集まっている。

とりあえず全力でガイア教を支援してやりたいんですが構いませんねッ!



[28145] 17
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/18 23:07
ガイア教とメシア教の海鳴探索がぼちぼち始まった。

メシア教は市街の高級マンションの部屋をいくつか借りて拠点を置いたようだ。

ガイア教は市内の安アパートとかビジネスホテルとかを拠点にしている。

なんでこんなに差があるのかと言えば、組織力の違いだねえ。

メシア教は信者から金を集める仕組みがきちんとできているし信者の数も多い。

潤沢な資金を使って人海戦術で探索を進めている。

ガイア教はその辺適当。

行き当たりばったりでやっている。

夜になんとなくその辺をうろついて怪しい場所を探したり。

どう見ても不審者です本当にあr。

メシア教と少しいざこざを起こしたくらいで進展はなかった。

メシア教はローラー作戦が功を奏したのか数週間で認識阻害がかけられた民家を発見。

ここ数日はその家の監視に勤めていた。

そして小さな女の子の一人暮らしと気付いたようだ。

メシア教はその子が例の“魔女”である可能性が高いと結論した。

拉致って始末するつもりのようだ。

予言の異能者の信頼度は高いらしいねどうも。

ガイア教側はその予言の世界の破滅、とはメシア教の理想世界構築を阻止する、ということではないか?

という意見の下とりあえず保護しようという感じで動いている。

そして今夜、メシアは家捜し&誘拐部隊を結成し車でその家へと向かった。

しかしガイアはメシアがその家を監視していることに気付き今も見張っているのだ。

初期のぐだぐだっぷりがうそのよう。

八谷、山中、奥田の三人組。

八谷は風の刃を作る魔法、奥田は治癒の魔法などを使う異能者。

山中はサマナーだ。

死にそうになったら助けてやるつもりで待機中。

リーダー格の八谷は勘が鋭く、監視に気付いたのはこの男だ。

しかも猫二人にも気づいた。

そういうわけで今八神家付近ではメシアを待ち構える猫とその両者を出し抜くべく待機するガイアの三人組。

そいつらを見守っている俺、と言う構図が出来上がっている。

アリサはどう考えても向いてないのでお留守番です。

しばらく待っていると白いバンがやってきた。

メシア教だ。

家の前に車を止めるとぞろぞろ降りてくる。

あらかじめ合鍵を作っていたらしくすぐに玄関が開く。

それでいいのかメシア教。

リーダーらしき男が突入の指示を出す。

しかし突然現れた仮面の男が突入しようとしたメシア教徒たちを吹き飛ばす。

「くっ、何者です!?お前たち、応戦しなさい!」

メシア教徒たちは拳銃を抜くと男に向かって撃ちまくる。

乾いた音が響く。

しかし男は動きが速くほとんど当たらないし当たっても障壁で防がれる。

「フッ」

男の放った光弾によってまとめて倒されるメシア教徒たち。

「逃げるならば追いはしないぞ?」

武装しただけの普通の人間だったみたい。

そりゃあ異能者やらサマナーやらそんなうじゃうじゃいないか。

「なんですって?ええい、召喚、天使パワー!」

メシアのサマナーがそう叫ぶと騎士のような姿をした天使が現れた。

男に斬りかかる天使と銃を抜いてそれを援護するサマナー。

男は光弾で応戦するが天使は巧みに回避し反撃している。

その裏で我らが三人組は勝手口をピッキングして家の中に突入していた。

「山中、奥田!手分けして探すぞ!」

「うん!」

「了解!」

そうして家の中を駆け回り寝ている少女を発見する八谷。

微妙にしかめっ面で寝ている。

「外でドンパチやってるってのに、肝が太いなこいつ。おい、起きろ!」

八谷はそういうと少女を乱暴にゆすって起こした。

「ふぇっ?うわあっなんやあんたら!」

「今外で戦争やってんだ、死にたくなかったらついてこい!」

「ななななんやってー!大変や!…って待て意味わからん!どういうことなん!?戦争!?」

「うるせえ!黙ってついてこい!」

そういって少女を引き起こし床に降ろすと少女はそのまま尻餅をついてしまった。

「だー!急げ!ほんとにやばいんだから!」

騒いでいる二人に気付いたのか山中と奥田もやってきた。

「おい、何やってるんだ八谷」

「ああ、こいつが」

「その子、歩けないんだよ。車いす乗ってたじゃない」

「う、うん」

「ああ、もう、仕方ねえ」

そういうと八谷は少女に背を向けてしゃがみこんだ。

「え?え?」

「負ぶされ!早く!」

「わ、わかった」

「急ごう。メシアどもはともかくあの仮面の男、猫又なのかな?あいつらは拙い気がする」

「これもも持ってってあげよう」

そう言って奥田は畳んであった車いすを抱え上げる。

「そんなもんどうでもいいだろうが」

「え、でも」

無視して部屋の外に八谷が出るとドスン、と重いものが落ちる音がする。

「こんどはなんだ!」

「これは……?」

鎖で縛られた分厚い本が床に落ちていた。

「八谷、これは」

「なんでもいいから全部持ってこい、さっさとずらかるぞ!」

いろいろ担いで三人組が勝手口から出て逃げようとすると仮面の男のもう一方が現れる。

「その子を置いて行ってもらおう」

「ちっ、山中、奥田」

八谷が後ろ手で合図をすると二人は頷き身構える。

経験値泥棒な気もするがあの状態ではつらいだろう。

時間を掛ければ天使を片付けた相方が来るかもしれないし。

よーし。

殺す必要はないし軽めで槍を投げる。

「ッ!?」

男はなんとかかわし槍はアスファルトに突き刺さる。

「な、なんやー!?」

近くの家の屋根の上から飛び降り、槍を抜く。

「何者だ!」

叫ぶ男を無視して警戒している三人に声をかける。

「早く逃げなさい」

「……誰だか知らんが感謝する!」

「ありがとう!」

そう言うと三人は駆け出して行った。

「……どういうつもりだ?」

剣呑な雰囲気を醸し出す男。

「畜生風情とかわす言葉は持たないねぇ」

「貴様っ」

激昂して飛びかかってきた男を適当にあしらう。

……。

………………。

そろそろいいかな?

ふっとばして鎖で縛って逃げる。

これでもうしばらく動けないだろう。

四人は無事にアジトのアパートについたようだ。

シャムネコポジションは埋まってるから悪の幹部が欲しかったんだよね。

四天王的なさ。



[28145] 18
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/16 20:00
アリサを伴いアパートへ。

追手などはいないようだ。

メシア教は追加戦力の準備中。

猫たちの放ったサーチャーは全て撃墜した。

聞き込みなどの対策にアパート周囲の人間に軽い暗示がかかるよう傾世元禳発動。

若い男三人と車いすの少女が暮らしていることを気に留める者はいなくなる。

これでしばらくは安全だろう。

薄い扉の向こうからぎゃーぎゃー騒ぐ声がする。

「アリサ、静かにしててね」

唇に人差し指を当てる。

「なんで?」

「最高にかっこいいタイミングで突然現れるのが肝要なの。俺は霧になって入るからアリサはワープして入ってね」

「?……わかったー」

首を傾げつつも頷くアリサ。

では部屋の中の声に耳を傾けよう。

三人組ははやてを何とか落ち着かせたようだ。

そして異能者やサマナー、悪魔のこと、メシア教とガイア教の関係。

何故彼らがはやてを助けたのかなどを話していく。

三人はメシア教のサマナーの暴走で信者だった家族が殺されたという。

仇討ちってわけだね

そして何故メシア教がはやてを狙ったのか。

「でも、私が世界を破滅させるって、そんなことできるわけあらへんやん」

「それは、まあそうだな」

「異能者としての素養はありそうだけど」

「うーん」

よーし、ここだ。

霧になって突入。

窓際に凝結。

浮いている傾世元禳に座る。

「それについては私が教えてあげよう」

ワープしてきたアリサが横に現れる。

「な、あんたはさっきの!」

「こんばんわ。お邪魔するよ」

山中は腕についている機械を操作する。

そして奥田ははやてを背中に守るように立った。

「あなたは何をしに来たの?」

「今言ったでしょうに。お話さ」

バリバリ警戒中の三人に微笑みかける。

「まあ、さっきは助けてもらったしな。信用しよう」

八谷がそういうと二人も緊張を解いた。

「で、私が狙われる理由ってなんなん?……ええと」

「レミ姉さんだよ」

部屋の中を珍しげにきょろきょろ眺めていたアリサが言った。

「レミリア・スカーレット。見ての通りの吸血鬼」

「いや、見てわからんて!ってちゃう、ともかく聞かせてーな。とても納得いかへんわ」

不満げな顔で睨んでくるはやて。

そりゃそうだろうなあ。

いきなりたたき起こされて拉致られて。

でもまだけっこう余裕あるよね。

「じゃあとりあえず、一つ質問をしようか。百人の人間がいて、そのうちの一人を殺せば残りの九十九人が助かる。殺さなければ九十九人が死ぬ。あなたはこの時どうする?」

「それは関係あるのか」

黙ってろ眼鏡。

「え、そりゃあ……全員助けられればそれがいいけど」

「いい子の答えだね。仮定の話ならそれでいいだろう。だが現実問題それは不可能だ。ならばどうする?」

俯きしばらく考える。

三人組は不可解そうな顔をしている。

「……その、一人を殺すしかないんとちゃう?」

「ああ、そうだ正解だ。それが正義で、それのみによって秩序は保たれる。つまりはそういうことだよ」

「そういうことってどういうことや!……私は、私は絶対に他人を傷つけたりはせえへん!」

激昂するはやて。

怖い顔だ、うふふ。

「あなたの意志は関係ないよ。その本がなんだかわかる?」

鎖で縛られた分厚い本を指差す。

「……知らん。いつの間にか家にあったんや」

「あなたゲームとかする?」

「まあ、少しは」

「じゃあ村正とか村雨とか妖刀の類も知ってるでしょう?」

「……うん」

「あの本はそれと同じにあなたに人を殺させる。海の底に捨てようがガソリンかけて焼き尽くそうが必ずあなたの手元に戻ってきて人を殺させる。人を殺したあなたは正義の味方に殺される」

「!、そんなもんがなんでうちにあるんや!私は祟られるようなことしてへん!」

「運が悪かったのさ。いや運命であったと言おうか」

笑顔を向ける。

泣きそうな顔に。

理不尽に対する困惑や悲しみ、怒り。

「そんなんで、運命なんて言葉で、私は一人でも頑張ろうって、ずっと!ずっと!」

「なんであなたは一人だったの?」

「え?」

そんなことは考えたこともなかったというように。

「一人で泣いている子供がいたらだれか大人が助けてくれるものさ。なにせ子供なんだから」

「それは、グレアムおじさんが……」

嗤う

「それは酷いね。泣き叫ぶ子供の声に蓋をするなど」

「違う!グレアムおじさんは良い人で……!」

「ああ、そうだ。良い人間だとも!」

嗤う、嗤う

「この世に彼以上に良い人はいないだろうさ!何しろ正義の味方だからな!」

「正義の、味方」

この世の全ての悪意を

「そうさ。悪い魔女が悪いことをしないうちにやっつけてしまおうという、賢い、素晴らしい、正義の味方さ」

「違う、グレアムおじさんは私のことを大切に思ってくれてる!」

余すことなく伝えよう

「正義の味方は魔法をかけた。悪い魔女のお菓子の家に、哀れな子供が誘われぬよう。お菓子の家は藁のぼろ屋に、だーれも近づこうなんて思わない」

「そんなこと……」

この世の正義を伝えよう

「あの本は名前を闇の書という。今までいくつもの町を喰らい、国を喰らい、幾千万もの人間を皆殺しにしてきた呪いの本さ」

「闇の書……」

「闇の書は持ち主の命を吸って力を増す。ある程度吸ったら持ち主に他の生き物を殺させる。そして十分に力をため込んだら周りの全ての生き物を食い殺して次の持ち主を探す」

素晴らしいこの世の正義

「闇の書は十分に力をため込む前に正義の味方が倒そうとすると逃げてしまう。だから賢い正義の味方はじっくりと、時が来るのを待っているのさ」

「うそ、そんなん、うそや」

「本当だよ。あなたの下半身が動かないのは、闇の書に命を吸われているからに他ならない」

「お医者さんは何て言っていた?怪我?それとも病気?」

呆然としたようにつぶやく。

「……原因、不明」

「それはそうだ。どんなに腕のいい医者でもどうにもできない」

「あなたは死ぬ。数え切れぬほどの人間を殺して死ぬ。独り寂しく、誰にも看取られずに死ぬ」

「おい……!」

口を開きかけた八谷を睨みつけて黙らせる。

「嫌ぁ、そんなん嫌やぁ」

泣き出してしまった。

アリサはそんなはやてを無表情に見つめている。

「でも大丈夫。あなたは幸せ者だよ。なにせ正義の味方に見張られているのだから」

床に降り立ち、手を広げる。

「正義の味方はあなたを殺す。あなたに殺させずにあなたを殺す。あなたの最期を看取ってくれる」

頬に手をかけ微笑みかける。

「よかったね?」

「なんで、なんで、そんな……!」

涙が伝う。

「あなたが悪であるから」

「私は悪くなんか、ない」

「いいえ。あなたは悪で、どうあがいても死ぬ。殺される」

拭い、舐める。

しょっぱい

「でも、かまわないだろう?あなたが死ぬ代わりに大勢の命が救われるのだから。正義が行われるのだから」

「私が死ぬ代わりに……」

「あなたの死は称賛される。あなたを殺した正義の味方は英雄となる。ハッピーエンドだ」

頭を振る。

「そんなん全然ハッピーやない。私だけ、あんなに、頑張ったのに。そんなのってないわ……!」

「ならば、正義の味方の手にかかる前に自ら死になさい。それがあなたの最善。あなたの尊厳を、あなたの人生を守るためにできる唯一の方法。あなたの死はあなたのためだけのものになる」

「死……」

「そう」

瞳が濁る。

「私は、生きてちゃいけないん?」

「そう、あなたの生は罪。あなたの死は正義」

俯く。

駄目かな?

「……………………………………ヵ」

ん?

「そんなん!納得できるかぁ!!!」

おお、目に光が。

「なんで、なんで生きてるだけであかんなんて言われなあかんねん!そんなわけないやろ!生きてるだけであかんなんてことがあるわけない!」

興奮のあまり無理やり立ち上がろうとしてバランスを崩す。

畳の上に顔面を打つ。

座りなおす。

鼻が赤い。

「私は、私は幸せになるんや!幸せな家庭を築いて子供四、五人産んで孫に囲まれて畳の上で大往生するんや!」

天にほえる。

吼える。

抗いの咆哮を上げる。

ふふふ、ははは、あはははは

生まれたての獣に

食われるのを待つだけの家畜であったものに

手を差し伸べる。

「ならばこの手を取りなさい。神の定めた運命に抗うならば、悪魔の手をとらなければ」

掴む小さなその手は力強く



[28145] 19
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/18 00:45
掴んだ手からマグネタイトを両足に流し込む。

そしてぐっとひっぱり立ち上がらせる。

「わひゃあっ、なにすんねん……?お?」

震える足を動かす。

二度、三度。

持ち上げ、降ろす。

「え、え?なんやこれ。うわあ、うわあ!」

歩き出そうとするがバランスを崩す。

後ろからアリサが支える。

「大丈夫ー?」

「筋肉が萎えている。リハビリしないと駄目だね」

「うわーん!」

抱きついてくる。

おお、全身が柔らかひ

「ありがとーなー!うっぐすっ」

鼻水がぁぁぁぁ!

まあいいけど。

「レミ姉さんはすごいんだよー?」

涙と鼻水を拭っている。

ティッシュをあげよう。

「……レミ姉さんって、言ってるけど、姉妹なん?」

「うーん?」

アリサは首を傾げる。

その辺の常識は最近結構仕込んだはずなんだけどなあ。

「血縁はないけど、まあ家族みたいなもんだね」

うん、そんな感じ。

「そぉかあ……家族かぁ……」

遠い目をしている。

在りし日の幸せ。

「……私も、レミ姉さんって、呼んでええかな?」

「ええよー」

何故お前が言う。

いやええけど。

いかんうつった。

「いいよ。私はなんて呼ぼうか」

「はやて。はやてってよんで」

手を握られる。

少し不安そうな顔。

笑みを向ける。

「はやて」

「うん、うん……!」

ぱあっと、花が咲くような笑顔。

いやあ、いいことをすると清々しい気分になるねえ。

「ねえねえ、わたしはー?」

自分を指差す。

かわゆす。

「この子はアリサ。見た目同じくらいだし、名前でいいんじゃない?」

「ええっと、アリサちゃん?」

「はやてー」

「アリサちゃん!」

「はやてー!」

「アリサちゃーん!」

「はーやーてー!」

イェーイとかヒャッホウみたいな感じでひっついてはしゃぎまわる二人。

こけるぞおい。

「これでいいのか、おい」

隅っこの方でぼやき始める八谷。

「どうだろうねぇ。でも楽しそうだし……」

その隣に座りなおす奥田と山中。

「僕は良いと思うよ」

「……なんでだよ」

眼鏡が反射で輝いている。

「この子は僕たちとある意味似たような境遇だ」

「まあ、そうか?」

「どうして家族がいないのかは知らないけど、孤独を強いられた。僕たちは家族がいなくなっても三人だったし、半分大人みたいな年だったからそれほどでもなかったけど」

「そうだね。まだ小学生だもんね」

ぐすっ。

おい奥田でかい図体して何涙ぐんでるんだ。

「どんな形であれ、“救い”があったのはいいことだと思う」

「なーんとなく、気に入らねえけどな」

ぶちぶちうるさいぞ。

ぐるぐる回っていた二人を座らせる。

若干不満そう。

いきなりたくさん動かすのはあんまりよくないの。

「ところでレミ姉さん」

「なに?はやて」

ほうっ、とうっとりしたため息を漏らすはやて。

名前で呼ばれるだけでそんなにええのんか。

……ホロリ

「ええと、この人らとレミ姉さんはどーいう関係なん?」

「主人と下僕さ」

断言。

「おい!なに言ってんだ!」

「メシア教の塵芥どもを磨り潰すのを手伝ってやるというんだ。安いものだろ?」

むっと黙り込む八谷。

力の差は分かっているようだな。

感心感心。

「下僕ってなーに?」

素朴な疑問。

「雑用全般を押し付けていざって時の弾除け代わりにその辺に侍らせておくもの」

「おいぃぃぃ!」

睨む。

黙る。

ハッハッハ安心したまえ。

薄すぎるから弾除けには使わないよ。

「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。はやての現状と、これからの話をしよう」

緩みきっていたはやての顔が引き締まる。

「うん。私は、グレアムおじさんと戦わなあかんのやな」

薄い笑顔を向ける。

試すように。

「後悔しない?いざというとき、ためらわない?」

少しの沈黙。

「……私はグレアムおじさんのこと好きやねん。電話で聞いた優しい声や、手紙の気遣いの言葉が嘘やとも思わん」

淡々と言葉を吐く。

「きっとおじさんも好きでやるんとちゃうねん。……おじさんをどうこうするなんて考えられへん」

しかし瞳に映るのは覚悟の光。

「でも、私は生きたい!生きていきたい!」

素晴らしい欲望。

「幸せに、なりたい。たとえ他の誰かを犠牲にしても」

生命としてこれほど純粋な欲望が他にあるだろうか。

「もう寂しいのは嫌や、しんとした家にずっと一人でいるのも嫌、動かない足抱えて独りで生きていくのは嫌!」

つっと一筋伝う。

抱きしめ、耳元でささやく。

「あなたのその願いは誰にも否定できない。はやて。この私が、悪魔、レミリア・スカーレットがあなたの願いを聞き届けよう」

「……ん」

強く抱きしめられる。

しばらくそのまま。

……アリサが後ろから抱きついて顔をぐりぐり押しつけてくる。

くすぐったい。

はやてにやれ。

「大丈夫?」

「うん」

離れる。

目赤いなあ。

でも今は笑顔だ。

「じゃあ、具体的な話。ほっとくと本当に死んじゃうから」

「それは勘弁やなあ……」

アリサが膝に移動。

はやての目線が下に。

まあ、そのうちね。

「でも、足治してくれたやん。最近麻痺が広がってきてたんやけど、これならすぐにどうこうなるってことも」

「それはあくまで応急処置。根本的な解決にはなってない」

「え゛っ、そうなん?」

なんかすごい変な声でたぞ。

「無理やり突っ込んだだけだからねえ。大元の生命力を吸われてるから。Mag、マグネタイトっていうんだけど。自力で余計に生み出すかよそから取り込まないと」

ちょっと前にアリサを通して後ろの二人に聞きました。

「それ吸われないようにしたらいいんちゃう?」

首を振る。

「供給が止まったら即座に周辺の生き物を喰って転移する」

「なんやそれは!」

まさに外道!

「自力で余計に生み出すのは難しいからよそから取り込むのがいいね」

「なるほど」

ぽんっと手を打つ。

「で、どうすればいいん?」

「房中術とか」

「へえ、ぼーちゅーじゅつ。……房中術ゥ!?」

知ってんのかい。

九歳児のくせに、なんということだ。

「ななななな、なんというか、私はそういうのは好きな人とがええなぁというかなんというか」

耳まで真っ赤である。

「冗談だよ。まだ子供だし。本当は悪魔を殺せばいいの」

「えっ」

赤くなったり青くなったり忙しいねえ。

勘違いするな?

「私じゃないよ?もっとよわっちい奴をいっぱい殺す」

「……そうすれば、助かるん?」

思いつめた顔。

「とりあえずはね」

「とりあえずて。レミ姉さん、私は自分のために他を犠牲にする覚悟はしたけど、意味無いんはごめんやで?申し訳が立たん」

「絶対に必要なことだ」

「……それなら」

アリサを起こして立ち上がる。

「とりあえずは、はやてが自分の力で立てるようになることを目標にね」

明日から始めることにしよう。

また来るよ、と言って背を向けた。



[28145] 20
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/19 01:57
「ちょい待ちっ!」

ぐぃっと袖を引かれる。

せっかくかっこよく消えようと思ったのに。

「なに?」

「どこ行くん?」

「家に帰るの」

「私を置いて?」

寂しそうな顔をする。

「こいつらがいるじゃない」

いろいろと諦めたような表情の三人を指差す。

うん、焼肉定食、もとい弱肉強食がカオスの掟。

覆したいなら策を練ることだ。

させないけどね。

「男三人のむさくるしいところに美少女を一人にする気なん?」

げほっ、と八谷がむせる。

「アホかおめえは!十年早いってんだ!」

「あはは…」

「僕らはそういった変態的な性的嗜好を持っていない」

わからんでぇ、とにやにや笑うはやて。

どうしてそうなった。

今の時点でおっぱい好きなのかしらん。

……好きなんだろうなまず確実に。

「ま、メシア教のお偉いさんには多いって聞くけどな。ケッ」

ああ、そういうイメージあるなあ。

実際そうなんだろうか。

「ともかく、一緒に連れてってえな。レミ姉さんたちがここに泊まるんでもええけど」

メシア教の奴らに富岡邸が見つかるのは避けたいんだよねえ。

霧だしてるからたぶん大丈夫だけど。

濃度調整すれば魔力を普通の空間と同じにして隠蔽できるのだ。

便利。

「部屋はあるよ」

「家族向けだからな。連絡要員用に予備の布団もあるし」

お前ら、退路を塞ぐな。

いや、別にかまわないんだけど。

でも夜型、というか昼間出歩くの嫌いだし。

寝ないしご飯食べないし。

根本的に普通の人間とは生活パターンが噛み合わない気がするんだ。

「……駄目なん?」

上目遣いとは。

「いや、かまわない。じゃあしばらく泊まろうかな」

「じゃあ、一緒に寝よう!」

「わたしもー」

こっちの部屋が空いていると先導する山中。

その後ろをグレイ型宇宙人のごとく両サイドを挟まれて連行される。

まあ、たまにはいいか。

アリサと俺は新品のワイシャツを借りて寝巻にした。

川の字になって寝る。

腕にしがみついて眠るその顔はひどく穏やかだった。




「えっご飯食べないん?」

奥田が朝食を用意しようとしていたのでそういったらひどく驚いたような顔をされた。

お腹すかないんだよなあ。

「食べなくても死なないからね」

「お菓子は食べるけどー」

紅茶は飲むけど。

夜の散歩中にラーメンの屋台によったこととかもあるけど。

なんとなく食べたくなって。

微妙に臭いが気に食わなかったけどおいしかった。

「食べられないわけやないんやろ?なら食べなあかんて。美味しい食事は心の栄養補給やで!」

奥田さん、私も手伝います、と言って台所へ。

必要ないのに毎日食べるというのはめんどくさいしもったいないような気がするのです。

まあ、いいか。

ちゃぶ台囲んでみんなで朝ごはん。

納豆美味しい。

昔は臭いが苦手で食べらんなかったのになあ。

「そういや、服どうしたらええかな。一回取りに戻ってええ?」

ちょっとまってて。

蝙蝠を飛ばし八神家周辺の様子を探る。

……ああ、駄目だ。メシア教の監視と猫の監視がついてる。

家には戻せないな。

「監視がついてるから駄目だな。遠くに買いに行こう」

「え、でもそれじゃお金とか」

「気にしないでいい。美少女、はかわいい服を着ないとね?」

「あはは……じゃあお言葉に甘えるわ」

そんなわけで昼間はお買いもの。

着せ替え人形にしてやろうと思ったら逆にされた。

結局結構いっぱい買いました。

確かにドレス一着というのはあれだもんね。

いままでは傾世元禳でごまかしてたけど。

というわけで普段着をメインに買いました。

といってもやっぱりけっこうお嬢様風なのだけど。

麦わら帽子とか帽子類も買った。

ただZUN帽が一番軽くて楽。

はやて、アリサもそんな感じで普段着をまとめ買い。

アリサは服の生地とかもいっぱい買っていた。

そういえばアリサの格好だけどけっこう前から制服をゴスロリチックに改造したようなものになってます。

後ろの二人の要望なのか赤、黒がメイン。

そのあとはアパートに戻ってお昼寝強制。

夜にはやることがあるのです。

お買いものでテンションあがっていたからかなかなか眠れないようだった。

でも疲れてもいたようでうとうとし始めたらあとは早かった。

ちなみにねだられて膝枕。

そういえば足がしびれたりすることもなくなったなあ。



で、夜。

例の廃ビルにやってきました。

霧を張って見つからないようにする。

異界化したここはちょびっと魔界とつながっている。

そのため霊感の強い人間は悪魔を認識してしまう。

認識された悪魔はその人間を襲い、マグネタイトを手に入れ現実を侵食する。

と言ってもちょびっとなのでここに出てくるのは本当に最下級の悪魔だ。

異界を通して魔界を認識するという神秘体験。

これにより人は人を超えることができる。

今までは少しのマグネタイトを吸われ続けるだけで生命を脅かされていた。

しかし悪魔を殺し、自らマグネタイトを吸収すればそのくらいでは何ともなくなる。

「というわけで、ヤってみようか」

「いや、レミ姉さん。女子小学生やで私。返り討ち余裕やでの予感がビンビンなんやけど」

フッフッフこんなこともあろうかと。

パッパラッパッパッパー

「ベレッタM92ー」

「うぉう」

手渡したそれをしげしげと眺めるはやて。

以前に富岡さんに会いに行ったときついでに関西のやく○さんの事務所からパチって来ました。

長ドスとかもあるよ。

使い方を教える。

元から反動が弱いのに加えて特製の弾丸だから子供でも安心。

「弾はレミ姉さん謹製の弱装魅了弾だから先手とれれば余裕だよ」

「じゃくそーみりょー……ってなに?」

「射程がちょっと短い代わりに反動が弱い。そして一発当てると反撃する気がなくなる」

「酷いチートやなあ」

まあ、今までの不幸分だと思いねえ。

始める前に足にマグネタイトを注ぎ込む。

無理やり突っ込むと二、三日で霧散してしまうらしい。

既にけっこう感覚がなくなってきていたそうだ。

「落ち着いて、一発当てるだけでいい。いざという時は助けるから」

アリサと他三人はメシア教とかの襲撃に備えている。

はやてと二人きりだがよっぽどのことがなければ手を出す気はない。

自力でやるのが大事。

意を決したようにはやてはビルの中に踏み込んだ。



[28145] 21
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/19 21:43
薄暗い廃ビルの中にはほんのりと妖気が漂っている。

部屋の隅の暗がり。

遠くの街灯の光が少しだけ差し込む。

羽虫が集まっているのかその光はゆらゆらと揺れる。

誰もいないはず。

なのにそこかしこから何者かの息遣いを感じるのは何故?

静かである。

少し前をおっかなびっくり歩いていく少女の足音以外何も響かない。

賑やかである。

何者かの嗤い声、呻き声。

幻聴であろうか。

こんなに静かなのに。

ケラケラケラ

影が揺らめく。

じりじりと進む少女。

遠くで車の走る音。

暗がりをなにかが横ぎった。

ような気がする。

前を歩く少女が物陰を注視する。

廃材が積み重なっているだけで何もないはずの薄暗がり。

影が揺らめく。

いいや、空間そのものが揺らめいている。

初めからそこにいたかのように、現れる。

紫色の小さな体。

それと同じくらい大きな頭。

1mもないだろうか。

しかし細い腕の先についた鉤爪は鋭い。

口は大きく三日月に裂け、闇に赤く浮き上がるよう。

その端からはぬらぬらと汚らしい唾液が垂れ流されている。

「ゲッゲッゲッ、クイモノ、ウンガイイゼ」

ひどくしゃがれたおぞましい声で呟く。

「ひっ」

「落ち着いて、よーく狙って。一発当てるだけでいい」

両者の距離は3mほど。

銃が有利な間合いだ。

深呼吸をする。

「よく見て、引き金を絞る」

「っ!」

勢いよく飛びかかってくるそれに向けて反射的に引き金を引く。

パシュ、と軽い音。

尻餅をついて倒れたはやてのすぐ横にどさりと落ちる。

ひええ、と言いながら服で手を拭っているのは涎でもついたからか。

弾丸は横腹にあたったようだ。

どろどろとした何かが流れ出している。

ゆっくりと立ち上がったそれはぼんやりと頭を揺らしている。

魅了弾の効果で何も考えられなくなっているのだろう。

元から大したことは考えてなさそうだったが。

ずりずりと座ったまま後ずさっているが腰抜けた?

「大丈夫?立てる?」

「あ、うん。大丈夫や」

そう言って立ち上がる。

ああ、どろどろじゃないの。

お尻をはたいてやる。

「ひゃん!?……あ、ありがとーな」

「じゃあ、止めを刺して」

まだゆらゆらしているそれを指差しながら言う。

「とどめ……」

「ええ、殺すの。はやてが生きるために」

少し黙り込んだ後、銃口をそれの頭に押し付けた。

眼には覚悟がある。

小学生なのに。

すごいのう。

「……許してもらえるとは思わんけど、勘忍や」

パシュ、空気の抜けるような音。

頭に穴が開く。

「ギィッ!?」

ドサリと倒れぴくぴくと手足を痙攣させる。

「まだ生きてるね。もう一発」

「……」

「悪魔はしぶといのが多いからね。しっかり最後までやらないと」

「分かった」

頭を狙ってもう一発。

パシュッ

弾丸が当たるとそれは淡く光る煙になって消えた。

その煙ははやての体に吸い込まれる。

「あ、なんか、じわーって」

「それがマグネタイト。自力で取り込めば許容量が増えていくから」

「吸われても平気になるってわけやな」

「そう。それに戦闘の経験を積めば魔法とかも使えるようになるよ」

「まじで!それやったら頑張らんとなあ」

生き生きとした表情のはやて。

希望が見えてきたんだろうなあ。

諦めていた自分の体。

どれだけ医者にかかっても何もわからない。

それどころか徐々に悪くなっていく。

それが地道にやっていけば確実に治るのと分かったのだから。

「弾はいっぱいあるからがっつりレベル上げしていこう」

「おっしゃあー!やったるでぇー!!」

腕を振り上げ叫ぶはやて。

うんうん。

ちなみにさっきの奴、幽鬼ガキだけだとたぶん4桁近く殺さないといけないけど頑張ろうね。



それから数時間。

先ほどのガキを十数体。

ぼろ布をかぶった一頭身の変な生き物地霊ノッカー。

「なんかえらくぼろっちいなあ。こいつ」

「主に顔がきもい」

存在感の薄い幽霊みたいな緑色の人型地霊コダマ。

「ザン!」

「痛ぁー!やったなこら!」

「腕から血が。ちょっと舐めてもいい?」

「え゛」

「冗談だよ。ほら回復してあげる」

「あ、ありがとな」

羽をむしった鳥の頭を巨大玉ねぎに挿げ替えたような凶鳥オンモラキ。

「うぉ!火ぃ吹いた!」

「こいつ自体はよわっちくても火炎系は強力だよ。電撃や氷結はちがう意味で強力だけど」

「フハハ当たらなければどうということはないんやでっ!」

ほぼ鬼太郎のいったんもめんな妖鬼シキガミ。

「なんか銃効いてへん気が」

ぱすっぱすっ

穴が開くだけである。

「そういう時はこいつを使いたまへー」

「ヘアスプレーと着火マン……汚物は消毒やぁー!」

「おお、さすが紙、よく燃える」

「あっはっは、私の名前を言ってみろぉー!」

などなど合わせて二十体くらい。

ひたすら虐殺。

と言っても数分ごとに一匹ずつという感じなので後半はまったりだったのだけど。

はやても手馴れてきて、出てきた瞬間に連射して瞬殺したり。

足や腕を狙って行動不能にしてみたり。

銃の扱いがだいぶうまくなった。

「最初はすごいへっぴり腰だったのになあ」

「それは言わんといてやぁ」

「ま、でもそろそろお開きにしようか」

「え、まだいけるで?」

興奮しているから気付かないのだろう。

実際は疲労が出ている。

中身はどうあれ体は子供。

今日の成長分ですでにちょっと怪しいけど。

「これからしばらくは毎日やるんだから。ところで誕生日っていつ?」

「へ?誕生日?えーと、いつやったかな。独り暮らしが長いとそういうのどうでもよくなってもうて」

ブワワ

絶対祝ってあげるから。

絶対。

「えーと、そや、六月の頭やった気がする。あと二週間くらいやな」

「絶対祝ってあげるから」

「……うん、ありがとーな」

恥ずかしそうな、嬉しそうな。

薄暗がりの中でもほんのりと赤い頬。

「そうや!レミ姉さんの誕生日っていつなん?お返しせな」

「え?わかんない」

誕生日、誕生日ねえ。

ある意味ではこの世界に出てきたときともいえるし。

あの紅い夜であったかもしれないし。

高町なのはと対峙した時だったかもしれない。

人間であったころのは違うなあ。

というかもうあんまり覚えてないし。

「そうなん?じゃあ一緒の日に祝おう。アリサちゃんも一緒に。プレゼント交換とかしよう」

「それは、うん。いいねえ」

「せやろ!いやあ、誕生日が楽しみなんてほんと久しぶりやで……」

ううむ、言いづらい。



[28145] 22
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/21 18:56
それから一週間ほど。

はやては昼間は私と一緒に本読んだり。

ああ、俺っていうのはやめることにした。

身内には俺っていうことにしようと思っていたのだけど。

はやてにそう言ったら女の子がそんな言葉使いしたらあかん、と。

そう言われてそれもそうかな、と思ったので。

どこからどう見ても女の子なわけだし。

そもそも性別に意味なんてあんまりないし。

奥田に料理教わったり。

はやてより上手なのだ。

これは、おふくろの味っ……!

って感じ。

食に対して何やらこだわりがあるようだ。

その辺のことで談議に花を咲かせていた。

アリサに裁縫教わったり。

はやては裁縫はボタン付けくらいしかできないらしい。

小さなぬいぐるみを作ることからはじめている。

なにやらグネグネと歪んだ兎っぽい生き物のぬいぐるみができていた。

アリサの方は赤黒二人のと似たようなデザインでぬいぐるみを作っている。

出来上がったそれは私とアリサ。

そのあとに三人組とはやてのぬいぐるみも作ってずいぶんと賑やかになった。

はやては自分のぬいぐるみや私のぬいぐるみを見てとても嬉しそうにしていた。

その後自分のうさぎ?を見て何とも言えない顔をしていたが。

まぁいろいろ楽しくやってるっぽい。

そしてお昼寝をしたら夜中に出撃。

アンド虐殺。

メシア教には見つかっていない模様。

なんか本部らしきところがごたごたしているらしい。

メシアが生まれたとかなんとか。

よくわかんないけど。

三人が巡回中のメシア教徒を何人か捕獲して尋問したそうです。

他はアリサのお友達になってしばらくうろついた後夜明けとともに土に還ったっぽいけど。

はやての体は順調にはよくなっているようだ。

マグネタイトを注ぎ込む頻度が減った。

本人もそれを喜んでいる。

で、今日も廃ビル。

はやては銃の扱いにかなり熟達してきている。

そこら辺の軍人崩れには負けねえぜって感じ。

そろそろ弱装弾やめてもいいかもしれない。

発射姿勢がとても安定している。

膂力も少しついたみたい。

「ヘッドショットォ!」

スパーンと急所を打ち抜きガキを殺す。

「ん?なんか変な気配が」

戦闘者としての勘も磨かれた。

安心してみていられる。

ていうかほんとに才能だなあこれ。

順応っぷりがやばい。

原作ではひたすら広域殲滅魔法かましてたことしか覚えてないけど。

格闘術も仕込んでみようかなあ。

サブミッションは王者の技よ!

みたいな。

関節技わかんないから無理だけど。

でも秘孔はいけそうな気がする。

「お、なんか妖精みたいなんが。初めて見るなあ」

はやてが向かった先では手のひらサイズの小人が浮かんでいた。

透明な虫の羽のようなものが背中についている。

妖精と言えばこんな感じ、妖精ピクシーだ。

「きゃっ!?見つかっちゃった」

「見つけちゃったで。レミ姉さん、この子も悪魔なん?」

「うん。混乱させたりとか電撃連発とか見た目のわりにえげつないことするらしいから気を付けて」

ちょっと前に山中からCOMPを借りたのだ。

デビルサマナーの必需品、らしい。

予備だから大したことはできないって言ってたけどなかなか便利だ。

悪魔が近くにいると知らせてくれるエネミーソナー。

悪魔の詳しい情報がわかるようになるデビルアナライズ。

などなど。

デビルサマナーはやてちゃん、はマグネタイトを別のことに消費させるのは本末転倒なので無し。

私は別になくても仲魔にできるし。

よわっちい奴はいらないし。

というわけで本来の機能は使っていない。

妖精は腕を振り回して抗議をする。

「もー!そんなことしませんっ」

「ほんとにー?」

油断なく銃を構えるはやて。

見た目に騙されちゃあいかんというのも身に染みてわかっているのだ。

「そんなことより人間っ!私は知っているのよ!」

「?、なにをや?」

「ここでいっぱい、いーっぱい!悪魔を殺したでしょう!」

「……だから?」

そこまでいうほどでもないような。

そう思うのはゲーム脳か。

「だから!?人間、お前は悪魔を殺して平気なの!?」

お、有名なセリフを。

はい、と言えば嫌われて。

いいえ、と答えればうそつき呼ばわりされるという。

どう応えるかねえ。

「悪魔を殺して平気か、か……」

少し考え込む。

睨みつけるピクシーから銃口を外さない。

「初めは平気やなかったけど、慣れた」

「慣れたですって?この人で無し!」

パァン!

と、軽い音とともに妖精ピクシーははじけ飛んだ。

「んなこと、悪魔にいわれとぉないわ」

俯くはやて。

おお。

慣れた、か。

生きるための自然な行いとしての殺戮。

恥じることも、胸を張ることもなく。

ただ、殺す。

そこには建前による言い訳も、きれいごとによる誤魔化しもない。

「なあ、レミ姉さん。私は……」

はやての手を包むように握る。

いい答えだ。

嬉しい。

「誰もが他者を踏みつけにしている。誰もがそれから目をそむけている。あなたはそれに気付くことを強いられただけ」

「そっ、か……」

「当たり前の幸せがあれば、こんなことは考えなくても済んだろうに」

顔をあげる。

表情に曇りはない。

「大丈夫や。今、幸せやから」



[28145] 23
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/22 01:59
だいぶレベルが上がってきたので修行場所を廃ビルから移しました。

場所は郊外にある遊園地跡。

バブルの遺構はいろいろと集まって異界化しやすいのだ。

ヒーホーな悪魔たちがいたよ。

はやては氷結撃とか疾風撃とか銃弾に魔力を込めるスキルを習得。

魔法使いまであと一歩ってところか。

魔弾はまだ物理的な側面が強いし。

昼間はいつものごとくまったりです。

メシア教はガイア教との戦争が忙しくなってきたっぽい。

首都東京でドンパチやってるそうな。

そういうわけでメシア教は海鳴からいなくなった。

予言者も死んだそうだし。

こんなところに構ってる余裕はないのだろう。

あとメシアは緑髪の美しい少女、だそうな。

ええ、わかります。

東京では悪魔絡みの犯罪の多発しているそうだ。

そしてメシア教徒、ガイア教徒はどんどん増えているという。

悪魔召喚プログラムを持っているのはガイア教とメシア教と犯罪組織。

そりゃあ当然そうなるよねえ。

悪魔に法律は適用されない。

ならば自衛の手段を持つほかない。

海鳴では怪奇現象のうわさが少し増えたくらいだが。

三人にも招集が掛かった。

ガイア教の中でも実力のある方なのだから仕方ない。

はやては万全になるまでは戦場に出したくないし。

ここらでお別れ、か。

餞別としてどっさりの魅了弾と私の血をかけて祝福したナイフをあげました。

呪いのナイフじゃないかって?

相手を切ったら自分が回復するから祝福です。

一度装備したら外せないけど。

そんなわけで一日早いけどはやての誕生日パーティ&三人の送別会という形に。

どこからか酒を持ってきた八谷のせいでかなりひどいことになったよ。

成人してるの私だけじゃないかこの面子。

というかちびのくせによく買えたなあ。

田舎だからか。

八谷は絡み酒で、山中はざるで奥田は泣き上戸だった。

はやてとアリサはひたすら笑ってるし。

酔っぱらうのは状態異常じゃないのか。

そんな中なんとかという感じでやったプレゼント交換。

はやてには例のナイフと太腿に止めるバンド、アリサには破魔無効になるというお守り。

後者は通販で買った怪しい品だがなんかそれっぽい気配を感じるので一回くらいは効果ありそう。

喜んでくれたようだ。

よかったよかった。

アリサはデフォルメされた私とはやてのぬいぐるみ。

かわいい。

はやてはどでかいケーキ。

みんなで食べた、けど六人分でも明らかに多い。

食べきれなかった分は奥田が美味しくいただきました

それと若干ましになったけどまだなんか禍々しい感じのウサギぬいぐるみ。

うさぴーEX、という言葉が頭に浮かんだ。

そんなこんなでその日はひたすらどんちゃん騒ぎをした。

翌日二日酔いの頭を抱えて出発する三人をお見送り。

人間組が起きたのは昼過ぎだった。

そのためちょっと頭痛いというはやてを休ませたらもう夜だ。

今日ははやての誕生日なので午前零時にあれが出る。

その話をしなければならない。

「はやて、以前に言ったけど今夜こいつはある程度力を吸った状態、になる」

「持ち主に他の生き物を殺させる、やったっけ」

頭をかく。

もう体にはほとんど影響は出ていない。

「……最近いろいろありすぎて忘れてたわ。それをなんとかせなどうにもならんのやな、私は」

ちゃぶ台にティーポットとカップを置く。

合わねえ。

でもでかい家にいるよりこっちの狭い家の方が安心だろうし。

なのでメシア教がいなくなったけどアパートの契約は受け継ぎました。

アリサははやての膝の上で寝ている。

ちょっと物足りない。

「とりあえずこれについての詳しい説明をしようか」

呪われたアイテムとして有名な魔導書。

もともとは普通の魔導書であったが何者かの手により現在のような形になる。

周囲を巻き込み持ち主を殺し次々と宿主を代えてゆく。

災害のような存在。

呪いを解くために干渉をすると宿主を殺して転移する。

というか宿主以外からの干渉があると問答無用で宿主を殺して転移する。

魔力を持つ生き物からマグネタイトを奪い殺すことで完成に近づく。

そして完成すると周辺国家を纏めて滅ぼすほどの破壊をまき散らす。

完成させるための行動をとらないと宿主の命を蝕む。

そのため宿主になった時点で死亡が確定する。

「ほんと、なんやそれ。性質が悪いどころの話やないで……」

「改造した奴はよほど性格が悪かったのだろうねえ」

あるいはこの世の全てを滅ぼすことを望んだか。

何者かへの絶望。

救いのないこの世界、滅びこそが救い。

そういうことを、思ったのやも知れぬ。

しかしこの程度では足りないなあ。

「続けようか」

転移直後は宿主から少しずつマグネタイトを奪って起動のためのエネルギーを確保する。

「で、確保できたってわけやな」

「もうそろそろね」

すると宿主が闇の書を完成させる手助けをする使い魔を出す。

基本的には宿主の言うことを聞く人形。

しかし必ず完成のために行動する。

「あなたの命を吸って作られた人形」

「……」

問題の根本的な解決のためには外部から再度改造する必要がある。

しかし外部からの干渉を感知されてはならない。

宿主のはやてが自分で改造できればいいのだが。

当然無理。

なのではやてが外部干渉を感知する部分を停止させる。

これにより、呪いを解く、ことが可能になる。

「今までの宿主はただの人間だった」

「そして神様は奇跡を起こさへん」

「だけどあなたには悪魔がついている」

ふふふ、と笑う。

「なんや、案外結構簡単に何とかなりそうやな」

笑いあう。

「そうかもね」

宿主が干渉するためには魔導書を起動させる必要がある。

今から起こるのは仮起動、のようなものだ。

人形のためにエネルギーを使う。

それを起動のエネルギーに回してやればいい。

鎖で縛られた本がガタガタと震えだした。



[28145] 24
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/23 21:07
闇の書から光が溢れる。

光の粒子が集まり人影を成す。

その数は四。

大、中、中、小。

とりあえずは中のうちの白い方。

絶対やらなきゃいけないわけじゃないんだけど。

まぁヴォルケンズは嫌いじゃないし。

それにはやての調教次第でどうとでもなるかもだけど。

影は密度を増して形となる。

実体化。

その瞬間にはすでに槍は振りかざされている。

一閃。

首が飛ぶ。

それに反応したのか今更のようにかばおうと動く男。

再び粒子になって溶けていく二つ。

それに覆いかぶさろうとする犬耳マッチョを袈裟切りに。

続けて逆袈裟。

十字を刻まれたそれも光に還る。

込められたマグネタイトは槍に収まる。

あまくて少し酸っぱい。

絶望の味。

美味しい。

っていかんいかん。

吸ったものを槍に押しとどめる。

少しだけ、先っちょだけだから、ちょびっと舐めただけだから。

セーフだぜ。

パンッパンッと連続する銃声。

「む、防ぐか」

はやての放った銃弾は鎧の小手ではじかれた。

この距離だと銃よりナイフの方がいい気がするんだけど。

「敵対勢力、主の敵対行動を確認」

「敵対勢力を排除する。主は無力化のち説得を行う」

「了解」

無表情に、無感動に、呟く。

やられた二人のことも全く気にしていない。

シグナムがこちらに向かって斬りかかってくる。

あくびがでちゃうぜうへへってくらい遅いぞぉ。

斬ろうと思ったら横合いから電撃が放たれる。

「ッ!」

シグナムの動きが止まる。

アリサが寝起きの目をこすりながら小規模ながら魔力のこもった雷撃を連射する。

「うるさいー、ラスタ・キャンディ」

ご機嫌斜めである。

雷撃ついでに強化呪文をかけてくれた。

味方全体の戦闘能力を大幅に向上させる。

シグナムは四肢を痙攣させながらも戦闘の構えを崩さない。

「……排除する」

振り上げた腕を落とし片足を切って倒し頭蓋に穂先を叩き込む。

軽い感触がした。

人に非ずも悪魔に非ず。

めぐりあわせが悪くそれを覆す力も持たず。

己が道を切り開く可能性もとうの昔に閉ざされた。

過去の亡霊。

「ぐっ、主……」

「おお、さっくりいくなあ」

掴みかかってきたヴィータに対して即座に銃を投げつけナイフにスイッチ。

遊園地ではアタックナイフも使わせてました。

怪我が増えたけど身になったようで何より。

鎧の隙間を狙って突き込む。

本来ならば万遍なく張られている障壁によって防がれただろうが。

吸血鬼の牙は容易く穿った。

光に溶け、吸い込まれていく。

本来あるべきところへ。

「おお、馴染むっ!馴染むでぇっ!」

って取り込んじゃあかんのやったっけ、と言いながらナイフに戻すはやて。

器用になったねえ。

四騎士はすべて消えた。

まぁこの結末も仕方ないものであろう。

っていうか闇の書直ったら復活できるしね。

せいぜい扱き使ってやんよ。

槍に溜まったマグネタイトを闇の書に戻していく。

はやてのナイフからも同様に。

ドクリ、と鼓動を打ったような気がした。

「起動したようだな」

「で、私がこいつを黙らせればええんやな」

頷き、槍にたっぷりと魔力を込める。

紅く、紅く、輝きを纏う。

「グングニルの槍。神をも磔にする神の槍にして悪魔の槍」

もともとは傾世元禳だが、槍として使われるためにここにある。

吸血鬼の槍として使われるうち吸魔の能力を得た。

そして吸血鬼の槍が冠する名前は必中の神槍。

神を七日七晩世界樹に吊るした磔刑の釘。

「これは普通の人間だと持っただけで干物になっちゃうから」

「なるほど、それであの修行やったんやなあ」

うんうんとうなずくはやて。

「あとは中に入ってそれっぽいのにぶん投げるだけでおっけー」

「な、中に入る!?」

「そう、手、当てて入れろって願えば入れる」

名前の力により防御プログラムは停止するだろう。

たぶん。

いや、止まれーって感じでたっぷり魔力込めたし。

大丈夫だって。

できるできるどうしてそこであきらめちゃうんだもっとあつくなれよー

ほら雷を切ったから千鳥が雷切とかあるじゃないさ。

それと似たような感じでそういう名前付けられて悪魔に振り回されたからそういう能力を持つ。

十分あり得る。

実際吸血能力はあるし。

え、毛細管現象?

知らんなあ。

槍を手渡す。

「うぉ、なんか吸われてる感じが」

けっこう余裕あるっぽいね。

これならなんとかなるか。

「できるだけ手早く済ませること。適当に投げても当たるから」

「ん、わかった。じゃあ行ってくる」

そういうとはやては闇の書に手をかけ、消えた。

大丈夫だ問題ない。

っていうか停止しなくても破壊はできる気がする。

その場合はやて以外誰も助からないんだけど。

まあ、それもいいか。

「いいなー。私も本の中に入りたい」

直ったらいくらでも入ればいいさ。

でも入っても楽しいとは思えないけどねえ。

あ、これってもしかして二次元に入ったってことなんじゃないか?

……いまさらか。



[28145] 25
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/24 00:09
十数秒後、ぽんっとはやてが飛び出てくる。

「なんか黒いもやもやに包まれた別嬪さんがいたからそれ目がけて投げたらぐわわってなってぐわらごらがきーんってなって真っ暗になって放り出されたっ!」

成功したっぽい?

まぁよかった。

闇の書から放たれる気配は収まっている。

「その別嬪さんというのがこれの本来の姿で黒いもやもやが改造された部分だね」

「なるほどなあ。ってまとめて攻撃してもうたけど」

「まあ、いいんじゃない?改造された被害者であるけれど、それによってあなたを殺そうとした加害者でもある」

ふーん、じゃあ問題ないなと呟きながら持っていた槍をくるくる回す。

込めていた魔力の大半は霧散している。

「あ、これ返すな」

渡される槍。

「そういや、ぶん投げたはずなのになんで持ってたんやろ。不思議、不思議」

そういうもんなのだ。

この手の武器は投げたら帰ってくるのは基本。

繋ぎ止めるというのも概念的なものだし。

実際刺さっている必要はないのだろう。

たぶん。

「では、これを元に戻せる人のところに行きましょう」

「あ、あの人たちのとこ―?私も行きたいな」

デビルサマナー御用達の業魔殿というのがあると聞いたので行ってみたことがあるのだ。

池袋駅の地下からいけるというので行ってみた。

一見ごく普通の業務用扉の中に入るとそこにあったのは山中によれば小型の転移装置。

科学の力ってスゲーと思いながら使ってみる。

ぐねぐねする感じとともに出てきた場所は、月村邸地下。

「業魔殿へようこそ。造魔ノエルです」

「造魔ファリンでーす」

目が点になったね。

月村忍が悪魔合体のあれこれを一手に引き受けているらしい。

奥に入ったのは山中だけで私とアリサは紅茶とお茶菓子をいただいただけだったけど。

月村忍がこちらをどう思っているかはわからない。

業魔殿は完全な中立、を掲げているから滅多なことはないだろうけど。

翌日そんなわけで池袋へ。

転移していくのも風情がないから電車。

直接いけって?

それこそ野暮ってものさ。

アリサは二回目だけど楽しそう。

はやてはこんな遠出するのどんだけぶりやろ、としんみりしている。

ええい、売店で買ったぷっちょを喰うのだ、喰うのだ!

池袋に付いたらサンシャイン通りとかを適当にぶらぶらする。

UFOキャッチャーとかしたり服見たり小物見たり。

そういえば服装は若干お嬢様入ってるけど普通の格好です。

はやてもまあそんな感じ。

アリサはだいぶ活動的。

ちなみに一番ウケがよかったのはトイジャらスでした。

三人分のDSとポケモン買ったよ。

ああ、自転車で育て屋の前を往復する仕事が始まるぜ……

こどもでいたーい、ずっとーといじゃーらすきーっず

だい↓す↑き↓なおもちゃにかこまれてー♪

そんなこんなで夜まで遊ぶ。

そして転移装置のところへ。

一日遊んで思ったけどなんか前より人がちょっと少ないね。

あと歩いてる人たちもなんか享楽的というか刹那的というか、そんな雰囲気を纏っている。

あとは十字架じゃらじゃらつけてたり髑髏じゃらじゃらつけてたり。

これは元からいたか?

ともあれ数か月で変わるもんだ。

ワープで月村邸へ。

ぐねんぐねん。

「業魔殿へようこそ」

造魔二人組に出迎えられる。

おまえらロボじゃなかったの?

造魔ってなにさ。

と、こないだ聞いてみたところ月村に伝わる秘伝の技で作られた人造の悪魔だそうだ。

月村忍が失伝されていたその技術をわずかに残った資料などから復活させたそうな。

よーわからんけど、感情が薄かったりするらしい。

ファリンの方は結構表情くるくる変わってるけど。

「この本を正常な状態に戻してほしい。ただ大丈夫だとは思うけどこの子に影響が出るかもしれないからその時は中止で」

「承りました」

「では、こちらへどうぞー」

「え、レミ姉さんたちはついてきてくれへんの?」

だされた紅茶を飲みながら手を振る。

「ふぁいひょーふふぁひょー」

クッキーのみこんでからしゃべりなさい。

「大丈夫だ、問題ない」

「う、うん!じゃあ行ってくるな」

しばらくたってファリンが戻ってきた。

「少々時間がかかるとのことです。構いませんか?」

紅茶を飲みながら構わないと返事を返す。

ノエルにこの業魔殿のことや東京のことを聞きながらのんびり待つ。

この業魔殿では悪魔合体、というのをやっているらしい。

デビルサマナーが二体以上の悪魔を一体に合体させる。

悪魔はサマナーに従い、魔貨、悪魔のお金らしい、やMagを手に入れて自分を高める。

だがそれではおのずと限界がある。

しかし悪魔合体を行えば種族の限界を超えた力を得ることができる、というわけだ。

合体された悪魔はどうなるの?ときいてみた。

悪魔A、Bが合体されるとAでもあり、Bでもある、しかしどちらとも違った悪魔になるという。

大きな変化を得ることになるがそれを嫌う悪魔は少ないという。

自我の変容は得られる力に比べれば大した代償ではない、と。

まあ、たしかに。

それくらいはどうでもいいかもねえ。

積極的にしたいとは思わないけど。

機会があればやってみてもいいかもしれないな。

今の東京は表向きの平穏すらだいぶ怪しくなっているらしい。

人工的に異界を発生させる装置、ターミナル。

ある程度の数を集めれば東京を丸ごと異界化させることすら可能だという。

それを巡って争うメシア教とガイア教。

メシア教の東京異界化、そして天界の召喚による東京ミレニアム計画。

ガイア教はそれを阻止するために適当に襲撃。

それにより小規模な異界が発生して悪魔がいっぱいでてきたり。

頭がいないからねえ。

カリスマァッ、みたいな。

しかし

東京ミレニアム

神を信じる者たちの楽園。

ああ、素晴らしいね!

神を信じぬものすべてを殺す聖域だ。

そんなもんじゃあない。

生命の生き死にを決めるのはそんなくだらないものじゃあないのさ。

力と意志

ただそれのみ

神の箱庭など創らせはしない。

修羅界をこそこの世に創りだそう。

生命は競い合い、高めあい、世界は芳醇になる。

原始の活力にあふれた魂たちが還ってくる。

うふふ

ビーッ、ビーッ、ビーッ

突然の振動。

警報の音が鳴り響く。

なにが起きたんだ?

「合体事故だー」

なんだそれわ

はやてに何かあったのか。

だとしたら止まってなかった?

……てへっ

などと思っていたら奥から人影が歩いてきた。

はやてと、初代リインフォース?

なにがあったのいったい。



[28145] 26
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/25 01:20
ささやき

いのり

えいしょう

ねんじろ!

*はいになりました*

*はいになりました*

*はいになりました*

*はいになりました*

ささやき

いのり

えいしょう

ねんじろ!

*シグナムは まいそうされました*

*ヴィータは まいそうされました*

*ザフィーラは まいそうされました*

*シャマルは まいそうされました*

……

…………

…………………

「なんか不可逆的な変化がどうのこうので――――――私と切り離すのはうまくいったらしいんやけど――――――」

月村忍は業魔殿の主なんてもんをやっているだけあってなんかすごいらしい。

闇の書の改竄の跡から元の状態への復元に成功しかけたんだそうな。

しかも数時間で。

だがなにやら完全に壊れてしまっていた部分があったらしく復元中にはやてに影響が出そうに。

さっきの警報はそれだったらしい。

そして中にあった悪魔っぽいデータをぎりぎりでサルベージ。

残りの部分ははやてに影響が出ないように消滅させた、とのこと。

一緒にヴォルケンズも消滅しました

南無

「そして造魔の素体にインストールされました、闇の書の管制プログラムです」

「名無しの権兵衛だから名前付けてやれって言われてなあ」

ほぉ、やっぱリィンフォース?

「張り倒して跪かせた私の不幸。私の凶運」

ハードラックとでも名付けてやろうと思ったんやけど、と。

「逃れられぬ不幸フェアヘングニス。なれど主に飲み干される主の凶運。私にふさわしい名です」

「ちゅーから、それで決定や」

無表情だが、嫌そうではない。

納得しているのか。

「あとな、なんか合体できるらしいねん」

「通常の合体は人間にとっては自我を侵されるモノですが造魔との合体は違います」

大した自我など持っていませんから、と呟く。

「で、はいぱーぱわーあっぷできるんやて。どうしよ」

「償いになるとは思いませんが、主の力になるならばそれが最善かと」

闇の書にストレージされていた魔法は大半が失われましたし。

うつむき加減に言った。

「レミ姉さんはどう思う?」

いやあ、ちょっといきなり話が進みすぎて。

「合体って、戦闘中だけとかのやつ?」

あの羽が三対生えるやつ。

「造魔となったことでデバイスとしての機能が失われたため融合は不可能です。そのため悪魔合体をすることになります」

「元に戻れなくなるちゅうから少し不安なんやけど、見た目別嬪さんやし、ひどいことにはならんやろーと思うんやけど」

それは、うーん。

「まだ早いんじゃない?」

まだまだレベルアップの余地はある。

クラスチェンジは少し気が早いだろう。

「そか、レミ姉さんがそういうんなら、また今度にしよう」

はやてがそういうとリインフォースⅠが一歩こちらに踏み出した。

なあに?

「では、こほん、ワタシハ造魔フェアヘングニス。アナタノ命令ニシタガイマス」

……仲魔が増えるよ、やったね!



新たな仲魔を加えて家路につく。

と、なんかきな臭い気配を感じたので蝙蝠を先行させる。

チッ

アパートは荒らされていて周囲はサーチャーが無数の巡回している。

富岡邸の方は中に踏み込まれてはいないもののやはりサーチャーの巡回が。

怪しいと思われてはいるらしい。

帰ったら全面戦争か。

それでもいいけど、今はターミナル争奪戦の方に集中したい。

仕方ないな。

まぁ丁度いいともいえるし。

この機に拠点を移すことにしよう。

「突然だけど引っ越しをします」

「ええー」

いきなりすぎたか何とも言えない顔をするはやて。

「わ、やったー」

アリサはなんか知らないけど楽しそう。

「……」

リィンフォースⅠははやての斜め後ろを黙って歩いている。

というわけで雑司ケ谷にマンションを借りることに。

池袋に近いし、雑司ケ谷霊園はばっちり異界化してる。

修行場所には困らないね。

三人組と合流したかったけど連絡が取れなかった。

どっかに潜伏してるんだろうなー。

やっぱりメシア教徒の方が数多いし。

ガイア教側はこの東京砂漠でゲリラ戦だ。

早く見つけてやらねば。

連中が奪い合っているターミナル。

周囲を異界化させるものだという。

しかしそれは副作用のようなもので本来は転送装置。

魔界とつながってしまうことで結果的に周囲が異界化するという。

しかし数をそろえてきちんと動かせば東京丸ごと一定の異界にすることが可能。

つまり、東京にターミナルを使って天界を引っ張ってくる。

それがメシア教の東京ミレニアム計画なのだ。

逆にそれを利用して魔界を作ってやればいいのだが。

どうやればいいんだろうなあ。

まあ、最悪それを防ぐだけでもいいんだけど。

現物を奪うか。

適当なやつを拉致って拷問するか。

三人組は情報を持っているかなあ。

ぼーっとしているうちに部屋を見て回っていた三人が帰ってきた。

リビングでぐだぐだ。

畳が恋しいな。

「へへへ、よいではないか、よいではないかー」

「主が望むならばお好きなように」

はやてがリインフォースⅠのおっぱいをもみはじめる。

無表情でおっぱいもまれている絵面は何ともシュール。

「……つまらんなあ。お風呂いくで」

「御意」

そう言って二人はお風呂に行った。

「よいではないか、よいではないかー」

真似しなくていいから。

くすぐったい。

アフンッ

お風呂から戻ってきたはやてにリインフォースⅠ、フェアヘングニスのことを聞いてみる。

なんか普通にしてたし。

情がわいちゃったかなあ。

できれば管理局を滅ぼしてほしかったんだけど。

管理局に人生を狂わされた少女が悪魔の力を借りて復讐する!

劇的でいいじゃない?

「含むところがないわけやないけど、そのうち私の体の一部になるんやから可愛がってやらんとな」

合体は既定路線なのか。

向こうでフェアヘングニスの長い髪をアリサが乾かしている。

「闇の書は消えて、私の体はもう何の心配もない」

けれど、と続ける。

「でも、奪われた幸せの分復讐せなあかん。私が私として立つためにはグレアムおじさんを倒さんと」

レミ姉さんもそれを望んでるんやろ?と笑う。

あれ、言ったっけ?

「悪魔との契約の対価がただやなんて思ってないで」

まあね。

そりゃあね。

「私は、戦って戦って戦って、いつか死んで、レミ姉さんに食べられる。そうやろ?」

頬が紅潮し目が潤む。

良い匂いがする。

風呂上がりだから、だけではないのだろうな。

「それが、私の幸せ。レミ姉さんと永遠に一つに……」

頬に手が添えられる。

「いつやろうなあ。気付いてもうたのは」

引き寄せられる。

息がふれるほどの距離。

「人として生きるために人であることをやめていた」

首に手が回される。

「殺して殺して殺すうちに、もう、人間としての幸せ、なんてもんが手に届かないところにいってしまっていた」

ぎゅっと抱きしめられた。

そっと抱きしめ返す。

「なら、もう本格的に人間やめて、悪魔の幸せ、手に入れるしかないやん」

「家族と、ずっと、一緒に」

なんだ、そんな風に思っていたのか。

嬉しいなあ。

耳元でささやく。

「しかるべき時がきたならば、必ず私があなたを食べるよ」

「約束、やで」

「うん」

「へへ」

少し笑うと体を放し、照れ隠しの様に二人の方に走って行った。



[28145] 27
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/26 01:35
異能者が増えてるっぽいよ。

東京の空間そのものが不安定になってるっぽい。

丸ごと異界化を狙ってターミナル発動、失敗。

みたいなことを繰り返してるのが原因らしい。

丸焼けとか氷漬けとかバラバラとか、ニュースで流れない日はないねえ。

ニュースはだんだん減ってきたけど。

そういうのが中央線が止まるのと同じくらいの感覚になってるみたい。

あとはなんだか日本も銃社会になってきたようで、射殺も増えてる。

モデルガン専門店で本物売ってるらしいよ最近は。

あと日本刀とか。

いやあ物騒だねえ。

よきかなよきかな。

治安維持機構ももうあんまり機能していないみたい。

異能者とかは法律で裁けないし。

悪魔にも全く対応できていない。

唯一対応できるのが銃器そのほかの所持だけどこれもあんまり。

銃刀法違反で捕まえようとした警官が撃ち殺されたとかいうニュースもすごく多いよ。

今銃持ってるやつらはほとんど実戦経験あるから仕方ないね。

自衛隊とかは何やってるんだろう。

あ、政府がなんもやってないからかな。

まあいい感じにカオスってきているのさ。

ただ残念なことに完全に無法地帯になってるわけじゃない。

メシア教徒の都知事が都庁を東京カテドラルと改称。

メシア教の本拠地となる。

治安悪化に伴う市民の緊急避難、としてメシア教徒の受け入れを始めた。

もとから無くなりかけてた行政機能がほとんど停止。

都知事は対悪魔、異能者の特殊部隊、デビルバスター部隊を結成。

真っ白なおそろいの制服着て狂信に濁った眼をしている全員似たような雰囲気の奴らだ。

メシア教徒の異能者やサマナーを集めた部隊でほとんど緑髪のメシア直轄だってさ。

新宿付近の公的施設も大体そんな感じでメシア教徒どもの巣窟に。

ここにきて新宿を神宿と改称。

都内からメシア教徒が集まるメシア教の楽園に。

って言っても東京の人口の2~3割くらいがメシア教徒なのだから入りきるはずもなく。

メシア教徒の保護と言ってよそに出張。

争いの火種を増やしまくる、というのを繰り返しているのでそんなに平和でもない。

対してガイア教は人口の1割に満たない。

ただしっかり組織化されてないから潜在的にはもっと多いよたぶん。

ガイア教徒でなくともガイア教の思想に共感してるのもいるし。

メシア教が気に食わないってのもいっぱいいる。

どこにでもいるし、普通のかっこで武装してたらだいたいこいつら。

どっちも気に食わん全員ぶっ殺してやるって基地外もちょこちょこいるけどさ。

そんな感じの東京で私は昼間はジュンク堂で買ってきた本を読んだりして前と同じにぐだぐだ。

夜は三人組を探してふらふらしたりつまみ食いしたり。

蝙蝠もボチボチ飛ばしてるけど流石に人が多すぎて見つからないね。

もしかしたらもう死んでたり捕まってたりするのかも。

はやてのレベル上げはフェアヘングニスが一緒だから護衛には付かないことにした。

雑司ケ谷霊園など近場の異界でやっている。

けっこうそこら中が小規模な異界になっているのだ。

あとたまに野良異能者なんかと戦うのもいい経験になってるとか。

アリサは友達探し。

一夜のパーティを繰り返している。

カラオケボックスにいた人間丸ごと腐乱死体とか。

なかなか楽しくやってるみたい。

で、今日の夜。

ああ、今宵も戦の花が咲く。

えへへ

しあわせー

マンション屋上。

貯水タンクの上に立ち、大きく息を吸い込む。

美味しそうな匂いが夜の街に満ちているのだ。

さて、どうしようか。

今夜もつまみ食いに繰り出そうか。

今の状況はとてもいい。

変える必要はあんまり感じない。

いや、メシア教のグズどもは塵に還してやりたいかなあ。

でも人類滅亡させるわけにはいかないからマップ兵器は使えない。

魔界を顕現させればいいんだよなあ。

頑張ってみるかあ。

とりあえずはターミナルの使い方がわかるやつを探さないと。

メシア教の奴らもあんまりわかってないみたいだし。

今は試行錯誤の段階。

全部で13あるターミナル。

作ったのは悪魔召喚プログラムを作ったのと同じ奴らしい。

そのうち7個はメシア教の手にある。

3個は新宿に。

あとの4個は各地のメシア教施設に。

残りはガイア教とか犯罪組織とかが持っていてメシア教はそれを奪うために侵攻中。

襲ってきたDB部隊の下っ端っぽいのをg、優しく聞いてみたところこんな感じ。

どうしよっかなあ。

開発者を見つけるには手がかりがないし。

となれば現物を手に入れてみる?

意味無いかなあ。

パソコンもネットがせいぜいだから。

いや、とりあえずやるだけやってみようか。

なんでもやってみるもんさ。

「というわけで御茶ノ水、ニコライ堂を襲撃します」

三人を呼ぶ。

「どういうわけか知らんけど、やれというなら喜んで、やで」

はやてがそう言うと後ろのフェアヘングニスも頷く。

「あの白い人たち嫌いなんだけどなー」

破魔無効のお守りが壊されたらしい。

やっぱり一回だけだったか。

そのうち永続するものを探そう。

っていうかそういうアイテムため込んでそうだなメシア教。

ターミナルのついでにそういうのも探してみよう。

「じゃあ行く―」

ニコライ堂はメシア教の拠点。

ターミナルが置かれている。

それなりに厳しい警戒が敷かれているという話だが新宿と比べれば全然だろう。

よし、行こう。



[28145] 28
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/26 20:26
御茶ノ水に向かうよ。

電車で。

動いてるんだ、メトロ。

感動したので移動にはよく使っています。

反対のホームには仕事帰りのサラリーマンを乗せた電車が滑り込んでいた。

なんだかんだで東京の日常はまだ死んでいないのだ。

感動的だね。

どの人の懐も少し膨らんでいるけども。

で、ニコライ堂前。

「なんかすごいことになっとるなあ」

怒号が響き渡り、白の人影と雑多の人影が慌ただしく走り回り斬りあい刺し合い殺し合い。

銃声が響き渡り、異形の群れが飛び回り人も異形も撃ち殺され焼き殺され踏みつぶされる。

光の矢が降り火の玉が飛び交い氷の塊が飛び散る。

剣を持つ騎士のような天使、錫杖を持った僧衣の天使、なんか半透明なスライム系天使、赤い服着て正座で浮いてる女神。

でかい蜥蜴、スイカみたいな柄の猪、でっぷりと肥えた山羊頭の巨人、鬼、足軽、豹人間、☆、ラクダに乗った美しい女。

ガイア教のサマナーたちによる襲撃のようだ。

それをターミナル護衛のメシア教徒が迎え撃っていたのだろう。

既にそこらじゅうに死体が転がり、それを犬的な魔獣ががつがつ食べている。

「どーするのー?」

どうもメシア教とガイア教でかなり力の差があるようだ。

見る間にガイア教が優勢になっていく。

赤い☆が爆撃の魔法を放てば天使やメシア教徒が十数人まとめて消し飛ぶ。

パンツ一丁とマントの変態ルック豹人間は二刀でもって片っ端から切り殺していく。

メシア教徒の防衛網はズタズタに切り裂かれすでに乱戦の模様を呈している。

これではメシア教の売りである統率力も活かせない。

すぐに雑多の軍勢が天使の群れを駆逐する。

表にいたメシア教の生き残りは堂の中へ逃げ込み、ガイア教のサマナーと異能者たちがそれを追って突入していった。

そして退路を確保するためであろうか、一人の男がその場に残った。

あれは、

「あっ!奥田さんやん!おーい」

三人組の内の一人、ちょっと太めの奥田青年じゃないか。

無事だったんだなあ、よかったよかった。

突入した中には山中と八谷もいたのかな。

他にもいっぱいいたからわからなかったけど。

あちらも手を振るはやてに気付いたのか手を振り返してくる。

はやてが駆け出す。

その瞬間、ゾクリ、背筋が泡立つ。

地下で何かが震えた、ような気がする。

嫌な予感の命ずるままに走りはやてを抱えて無理やり連れ戻し跳び退り障壁展開。

全力を注ぐ。

音が消えた。

光が視界を埋める。

衝撃

衝撃

衝撃

がたがたと震える障壁にさらに魔力を込める。

どれほどの時間がたっただろう。

一瞬だったかもしれない。

五分くらいだったかもしれない。

光が戻り、視界に入ったのは、巨大なクレーター。

それとあたりに散らばる瓦礫の山。

それだけがほんの少し前まで目の前に存在していたモノの面影を伝えている。

ニコライ堂は爆発四散した。

目の前で。

笑顔で手を振るふとっちょの青年も道連れにして。

「あ、あ、おくださ……ぇ?」

腕の中のはやてから力が抜ける。

ああ、なんということだ。

こんなことになる前に見つけて食べてあげたかった。

「やっぱり、この程度じゃ悪魔さんは滅ぼせないの。あわよくばと思ったけれど」

上空から声。

白い。

夜空にひどく目立つ白の染みが浮かぶ。

以前とは違いごつごつとした機械のような装甲部分が身体のほとんどを覆っている。

白い鎧姿。

「あんた、誰や……!」

はやてが白を睨みつけ、叫ぶ。

無視して視線はこちらに向けたまま言う。

「この中には初めからターミナルなんてなかったの。あったのはいっぱいの爆弾。偽情報に踊らされたガイア教のお馬鹿さんたちは本当に、酷く滑稽なの」

薄く嗤う。

「なんやて?」

「これから神様の国ができるのに、邪魔をするなんて信じられない。神様の国に悪魔の手先なんていらないの。みんな、死んじゃえば良い」

くすくすと嗤う。

「アンタァァァァァァァッ!」

はやてが叫び、撃つ。

撃つ。

撃つ。

轟音が連続する。

燃え盛る炎を纏った弾丸が夜空の白に一直線に吸い込まれていく。

なのはは何もせず、ただ薄笑いを深めるのみ。

迫る炎を撃ち落としたのは金色の光。

元は槍であったのだろう、柄の長い大剣が数度閃く。

「なのはに、手は出させない」

そう呟くのは黒の鎧姿。

昏い空より滲み出た黒。

機械的な装甲を全身に纏い金色の光を背中から噴き出している。

三対のそれはまるで大天使の翼のごとく。

その分厚い装甲は速度を犠牲にしているだろうが代わりに背と足に大きな加速器がついている。

小回りが利かない分硬く、速い。

彼女の聖母を、護るためのものなのだろう。

「ねぇ悪魔さん、私、強くなったんだよ」

杖を掲げる。

いや、それは杖などではなく巨大な砲塔だ。

白と桃と金、面影は残っているがその形は大きく変わっている。

まさに撃つためだけのもの。

両手でなければ保持できないほどの巨砲。

「いっぱいいっぱい練習したし、早苗ちゃん、いいえ、メシア様に力をもらったの」

砲塔に凄まじい魔力が集中する。

以前とは桁違い。

「素晴らしい、天使様の力。今のこの子はレイジングハート・メタトロン」

集中する魔力のプレッシャーに耐えかねたのかフェアヘングニスが暗黒の魔弾を放つ。

再び閃く金が黒の塊を両断する。

巨大な片刃の黒剣の前からは刃としての、背面のスラスターからは加速のために、金色の光が溢れる。

「手は出させないといったはず。私も天使の力を得たんだ。バルディッシュ・サンダルフォン……もう、負けない」

なのはは魔力の集中を中断するとアリサの方を向いて懇願する。

「ねえ、アリサちゃん。あなたはその悪魔に騙されているの。一緒に来て、一緒に神様の国で幸せになろう?」

アリサは首を傾げながら答える。

見知らぬ人に言うように。

「私は、レミ姉さんのことが好きだよ」

ほんの一瞬、ひどく悲しげな色が覗く。

「……そう。なら、シナイの神火に焼かれて悪魔もろとも死んでしまえ。悪魔の手先」

無表情に呟くその背から桃色の翼が広がる。

三対の巨大なそれは莫大な反動をこらえるための物であろうか。

気圧され立ちすくむ二人を守りきるのは無理。

では、どうする?

「スターライトォォォ」

見捨てて避けて、反撃してもいいけれど。

それじゃあちょいとつまらない。

アリサに目配せ。

首肯が返る。

「ブレイカァァァァァァッッッ!!!」

魔力の奔流が迫る。

「トラフーリ」

三十六計逃げるが勝ちさ。



[28145] 29
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/28 00:00
――――諸君、私は自衛隊統合幕僚長、三島戒厳陸将である。

このような形で諸君に言葉を贈ることとなったのは誠に残念である。

しかしながら今、私は、諸君に一つの問いを放ちたい。

今のこの首都・東京の現状に疑問を持つ者はいないのか?

悪魔、創作の世界の中の生き物でしかなかったものが、今、実際に国民の平穏を脅かしている。

ともかくも一刻も早く悪魔を滅ぼさなければならないのは明白である。

しかし、我等自衛隊は文民統制のもとに自ら剣を取ることは許されぬ。

政府は意味のない議論を重ねることに終始し、自国の首都に切っ先を向けることの責任を押し付けあうばかりだ。

シビリアン・コントロールに毒されているのだ……

我らは剣を取らなければならない!

精神的にカラッポに陥り、ただ謀略・欺傲心のみの政治家どもをこれ以上待つことはできない。

今この瞬間にも、日本国民の命が失われている。

これから先も、我らが剣を取らねば失われ続けるであろう。

我等自衛隊の大義とはなんであろうか。

国民を守ることである!

日本国を守ることである!

大義を邪魔するものは全て逆賊である!

敵は悪魔だけではない。

東京カテドラル、そこにも我らの敵がいる。

日本国の、人類の根本を脅かさんとする大敵である。

本来行政施設であるものが知事の職権の濫用によりメシア教の、天使の根城となっている。

天使は人を救う。

結構なことだ。

全く結構なことだ。

しかしその救いとやらは人間にとっての救いではない。

思考を奪い、思想を強制し、人間の尊厳を著しく貶めるものだ!

そして従わぬ者は皆殺しというまさに悪魔の所業である!

日本国の平和と日本国民の尊厳が取り戻されねばならない!

東京に巣食う悪魔は全て我らが葬り去ろう。

案ずることはない、我らには日本国の古の神々の加護がある。

古の神々の力でもって侵略者を除き、神国たる日本を取り戻すのだ!

我らには大義がある。

我ら死すとも大義は死せず。

我らは大義ととともにある限り不滅。

ならば我らは不死である。

皇国の興亡この一戦に有り!

さあ不死の軍勢よ、進撃せよ!!

―――――――逆賊、死すべし!!!



なんじゃこりゃあ。

なぜかいきなりテレビが砂嵐になったかと思ったら軍服を着た少女が映ったのだ。

長い黒髪を軍帽から垂らした小柄な少女であった。

どのチャンネルも同じ。

どこかの基地の前で大勢の自衛官?を前にした少女の演説が流れだす。

演説が終わり、少女、ミシマが腰に差した軍刀を抜き、高々と掲げる。

演説を聞いていた自衛官?たちは統率のとれた動きで散開し、戦車や戦闘機、ジープ、戦闘ヘリが新宿に向かう。

ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、キュラキュラキュララ、バラバラバラバラ

エンジンの轟音、キャタピラの音、ローターの音

それに混じるのは異形の呻き声、嗤い声、雄叫び

そう、映されている兵器群のどれ一つとして本来の姿を保っているものはない。

機械的でありながら生物的。

悍ましき悪魔の兵器だ。

そして兵たちもまた異装である。

一様に金色のバケツのようなものをかぶっている。

正面ははのっぺりとして目の赤いガラス部分が光を反射している。

側頭部からは二本のパイプが突き出ておりまるで鬼のよう。

それと一体になったスーツ。

軽機関銃と時代錯誤に刀で武装している。

しかし、それらもまた悪魔の犠牲によるもの。

精神の弱いものが手に取ったならばその怨念により即座に発狂するだろう。

だが、彼らはそんなものを身に着けて平然としている。

最先端の科学と魔導の融合により生まれた今の彼らは鬼神に等しい。

ミシマの言う大義のためか。

誰もが覚悟を決めた者の気配が滲ませる。

ジュルリ

しばらくするとニュースのようなものが始まった。

どのチャンネルも同じである。

東京に戒厳令が敷かれたことを伝えている。

家から外に出ぬように、と繰り返し、繰り返し。

市ヶ谷駐屯地を中心に自衛隊がクーデターを起こしたのだ。

今まさに東京カテドラルに攻め込まんとしている。

「なあレミ姉さん、これって」

「うん、なかなか凄そう。あの子たちも殺されてしまうかもね」

逃げてきてからずっと鬱々としていたはやての顔つきが変わる。

「……私がやる。私がやらなあかん」

「人間やめるの?」

普通にやったらどう頑張っても無理。

単純に強くなっただけではない。

なのはとフェイトは今や信仰の力も受けている。

今のはやてがどれだけ策を練ったところで力押しでつぶされるだろう。

それだけの力の差がある。

「うん」

池袋に行く、と言って立ち上がる。

無言でフェアヘングニスがあとに続く。

合体かあ。

基本的に人間の方が悪魔より美味しいの。

できれば人間のまま強くなってほしかったんだけど。

ま、仕方ないか。

止める気はない。

大事なのは意志。

それは魂を腐らせる。

それは魂を無限に輝かせる。

ああ、素晴らしい意志を持った者たちが集っている。

戦いが始まる

戦いが始まる

素晴らしき魂たちが、その魂を一際輝かせるのだ。

その内に身を投じるならばどうしても一定以上の強さがいる。

ならばこれは必然。

急がないとね。

「のんびりしていては祭りに間に合わない。アリサ、お願い」

「合点承知ー」



転移の呪文により一瞬で月村邸へ。

二人の造魔に出迎えられる。

「この間言ってたあれ、頼むで」

「承りました。しかし、悪魔と人間の合体を行うのは当方では初の試みになります。構いませんか?」

はやては迷わず頷き、フェアヘングニスとともに奥へ向かおうとする。

「申し訳ありませーん。お洋服を脱いでいただけますかー?」

ええ?

はやても差し出されたカゴをみて不思議そうな顔をする。

「悪魔と違って人間の服は体の一部ではないので」

あ、なるほど。

そういや勝手に綺麗になったりしてたなあ。

「ん、了解や」

するすると服を脱いでいく。

肌白いなあ。

私の方が白いけど。

「あ、これは持って行ってもええかな。お守り代わりなんや」

そう言って手に持つのは誕生日にあげたナイフ。

ノエルはそれをしげしげと眺めた後頷いた。

少し口元が笑っていたような気がするのは気のせいかしらん。

「では、こちらへどうぞ」

「じゃあレミ姉さん、アリサ、行ってくるな。フェアヘングニス、大丈夫やな?」

「無論です。この日を待ち望んでおりました」

二人が奥へと消える。

しばらくたって雷の落ちるような音。

どうなったかなあ。

山中の悪魔たちは合体前後で見た目全然共通項がなかったし。

多少不安。



[28145] 30
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/06/29 00:13
奥から出てくる人影は一つ。

ん、でかくね?

カッカッカッ

近づいてくるシルエットはとても大柄、というか丸い。

明かりが照らし、見えたその姿は

「わぁ、おっきくなってるー」

「せやろーレミ姉さんよりでかくなったで私」

にこやかに飛びついてきたアリサを抱きしめる。

今まで背丈は若干私の方が高かったのに……!

ベースははやてだが、背が伸び、顔つきも少し大人っぽくなっている。

17,8歳と9歳を足して二で割った結果か14歳くらいの見た目。

シルエットは背中から生えている大きな黒い翼とそれにかかるマントのせいか。

「気分はどう?」

「絶好調や!今なら何でもできる気がするで」

ほんのり力こぶを作りながら答えた。

編上げのブーツに着物のような服、その上から鎧の腰から下の部分の奴をつけている。

カラーリングは原作っぽい。

そして腰に下げているのは野太刀であろうか。

長大な日本刀。

ん?

「お、レミ姉さん、お目が高いなあ。これあのナイフやでたぶん」

合体に使うから体に取り込まれるって話やったんやけどなー、と鞘をなでる。

私自身の気配は少し薄くなっているが強い力を感じる。

まあ今のはやてならばこんなデカぶつでも問題なく扱えるだろう。

「あ、そやそや。これやらんと」

はやてはアリサを放し正面に立つ。

バサリと翼を広げるとはらはらと黒い羽根が舞う。

翼にはいくつもの長銃が仕込まれている。

「私を呼ぶなんて、良いセンスやで。私は天魔はやて様、こんごともよろしゅう」

これはやらないといけないものなのか。

というか様?

「ここまで名前やって。魚君みたいな?」

レミ姉さんたちは普通に今まで通りでええけどな―、けらけらと笑う。

それはともかく。

「そろそろ、行く?」

笑みが深まる。

裂けるような笑み。

「うん。あの白いのも黒いのもメシア教の奴らは全部生まれてきたこと後悔させたる」

自衛隊はせいぜい利用させてもらうかなあー、イッヒッヒ。

悪い顔だなあ。

でも、うん、中身あんまり変わってないみたいだ。

これなら期待できるねえ。

よし、行こう。

戦場という名の食卓へ。



ゴォォォォォォォォォォ

きひーっひっひっひっひ、ひゃーははははははは

異形の戦闘機が空を駆ける。

市ヶ谷駐屯地から東京カテドラルまでは直線距離にして約三キロ。

低空飛行でも数分と掛からない距離。

あっというまにすぐそばまで飛んできた戦闘機群は次々にミサイルを放つ。

轟音を立てて直撃、直撃、直撃

都庁・カテドラルに張られていた結界が軋み悲鳴を上げる。

きゅらきゅらきゅらきゅら

びちゃびちゃびちゃびちゃ

異形の戦車が障害物を粉砕しながらひた走る。

その砲塔から打ち出されるのは超高密度の魔力の塊。

侵攻を食い止めるべく現れたメシア教徒たちを一撃で蒸発させていく。

随伴歩兵は金色の面を光らせながら凄まじい速度で走っている。

斬り捨てる、斬り捨てる、斬り捨てる

高位の天使たちが紙屑のように斬り殺されていく。

ばらばらばらばらばらばら

げーっげっげっげっげっげ、げーっげっげっげっげ

異形のヘリコプターから命綱もなしに飛び降りていく兵士たちの行く先はカテドラル周辺のビル屋上。

メシア教徒が守りを固めるそれらはカテドラルの結界を維持する装置を内包するもの。

悲鳴が上がる

火の手が上がる

それらのビルの入り口から出てくるのは赤い目を光らせた金色の兵士たちだけ。

「ははははははははははは、あははははははははははははははは」

哄笑が上がる。

戦車がつけた道をさらに巨大な戦車が瓦礫を踏みつぶしながら爆走する。

その上で長い黒髪を風になびかせているのは鬼神の軍勢の頭目ミシマ。

「さあ、頼むぞ我らが神々よ。来たれ!軍神タケミナカタ!国津神ミジャグジ!」

刀を振り上げ、叫んだ声に呼応し二つの影が現れる。

実体を結んだそれは、神奈子様と諏訪子様じゃないの。

何やってんのこんなとこで。

「あははははははははは、久方ぶりの戦だ!戦だ!私の民たちよ、土着神の加護ぞある!存分に力をふるえぇっ!」

幼女の叫び声とともに地面から何かがあふれ出す。

それは兵士たちの傷をあっという間に癒していく。

「この地にある限り汝らは不死!はははははははははは殺せ殺せ殺せぇっ!!!」

ミシマを挟んで反対側に浮いていた神奈子様は首をぽきぽきと鳴らす。

「まさかこいつを味方に戦争やることになるとはねえ。世の中何があるかわからないもんだ」

片手をついと挙げると戦場に風が巻く。

どのような場にあっても常に金色の兵士たちに追い風となる魔風、いや、神風だ

「さぁ軍神の加護ぞある。潰せ潰せ、天使どもの翼をもいで地に堕とせ」

気だるげに呟くその瞳はしかし獰猛な光を湛えている。

「八百万の神の国、日本にあっては唯一神も数多の内の一つに過ぎぬ!ましてその従僕など塵芥に等しきものよぉっ!」

白の軍勢を金色の軍勢が呑み込んでいく。

「救世主を名乗る逆賊の首級をあげよ!この日本にあっては救世など不要!神国たるを取り戻すのみっ!」

駆ける、駆ける、駆けてゆく。

騎士である天使が一合も合わせることなく金の兵士に両断されていく。

雨あられと魔法を放つも当たらない。

元より人の限界を超えた速さで駆けるのだ。

軍神の加護を受けたその姿は視認することも難い。

切り裂かれる

撃ち殺される

踏み潰される

白の聖衣がドス黒い血に染まる。

四方八方から魔力弾が放たれる。

金の軍勢が神の塔に迫る。

そこに現れるのは白と黒。

白は上空から敵を殲滅せんと。

黒は地上の軍勢を食い止めるべく。

「どうして、どうして!?この国の神様は、助けてくれなかったくせに、私は助けてくれなかったのになんでなの?」

膨大な魔力が集中し、天に放たれる。

桃色の光の柱。

高く高く、昇って行き、途切れる。

次の瞬間降ってくるのは無数の天の火。

桃色の閃光に貫かれた戦闘機が、ヘリが落ちていく。

地上に落ちる爆発し炎を上げる。

地上の戦車群にもかなりの損傷を与えたかに見えた。

しかし違う。

これらはただの機械ではないのだ。

邪神の加護を受けた異形の兵器。

炎の中から現れる。

うじゅりうじゅりと

裂けた胴体部から生えるのは異形の触腕。

這っていく、這っていく。

たどり着いたのは横転し同じく触腕を振り乱す戦車のもと。

触れ合った先からうじゅるうじゅると融合していく。

異界の交合、ひどく悍ましく、背徳的なそれはすぐに終わる。

一つになった戦闘機と戦車はところどころ面影を残す翼やキャタピラではなく触腕による四足で進む。

神の塔を目指して。

止まらない

止まらない

何度撃ち滅ぼしても止まらない。

桃色の光が貫く。

二つに分かれ四つに分かれ蜘蛛の子を散らすように。

天使を喰らい異能者を喰らいサマナーを喰らい進んで行く。

「人一人の生き死になんて大したことじゃあない。大事なのは国だ。あんたが私の国のために役に立っていたなら助けたかもねえ」

ケラケラケラケラ

「私はそこまで言わんけど。まあ、運が悪かったんだね。神ならぬ人の子には手の届かぬものがあると知れ」

兵士たちも止まらない。

腕がもげようと

足がもげようと

内臓がはみ出ようが頭蓋を半分砕かれようが心の臓を抉り出されようが止まらない止まらない止まらない

立ち上がる

「なんなんだ!お前たちはぁっ!なんで死んでるのに生き返るんだっ!」

金色の刃が兵士たちを切り飛ばす。

圧倒的質量、大天使の魔力による加速。

死ぬはずである。

死ぬはずである。

そんなことは知らぬとばかりに立ち上がる。

内臓がはみ出たままでも斬りかかる。

斬りかかる兵士を巻き込むように魔力塊が放たれる。

損傷

動きが鈍る。

弾け飛んだはずの兵士たちが斬りかかる。

加速、突撃、包囲を崩して体勢の立て直しを図る。

しかし動きが鈍い。

動きの全てに向い風。

敵軍の加護は自軍の呪いである。

不死の軍勢に白も黒も飲み込まれんとしている。

「希望を捨ててはいけません」

歌うような声。

塔の最上部。

緑色の髪がなびいている。

「神は乗り越えられぬ試練を与えません」

朗々と響く。

「すぐそこに神の国があるのです」

救世主の登場であった。



[28145] 31
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/07/01 00:23
「あなたたちは千年王国を作るにはまだターミナルが足りないと思っているでしょうが本当は今すぐ作れます!ていっ!」

叫び、何かのボタンを押す。

その瞬間、カテドラルの中から覚えのある魔力があふれ出す。

ジュエルシード。

以前に奪っていった三つでターミナルを強化しているのだろう。

「ふふふ、今こそ地上に楽園が誕生する。祈りなさい神の愛を知らぬ哀れな人間たちよ」

空間が塗り替えられていく。

じわり、じわりと嫌な空気が広がる。

それに呼応するように遠くから同じような気配。

東西南北、ここを囲むように配置されているみたい。

戦場の気配が変わる。

今まであったのは血と鉄と硝煙の臭い。

しかしそれらが薄まり清浄な気が漂う。

きもちわるい

軍神の加護と邪神の加護もかなり薄くなっているようだ。

今までは瞬時に再生していた傷もゆっくりとしか治らない。

風も凪いでいる。

それでも兵士たちは立ち上がり黒の大天使に斬りかかるが



天を衝くほどの巨大なそれは二つ。

うっすらと見えるその色は白と黒。

煙のように揺らめき、吸い込まれていく先は無論二人の少女である。

「ああ、私はまだ戦える。なのはの、ために。悲しみの無い、世界のために……っ!」

傷つき削れていた装甲が修復されていく。

手足に力が戻る。

大剣から溢れる金は力強く輝きを増していく。

一閃。

赤眼の兵士たちが吹き飛ぶ、異形の戦車たちが吹き飛ぶ。

うじゅるうじゅると再生を試みるそれらに追い打ち。

「焼き尽くせ真理の雷・ジェットザンバーッ!」

雷を纏った大剣の一振りが蠢く肉片を残らず消し飛ばす。



「なあ、神奈子さんや」

「なんだい、諏訪子さんや」

「あれ、よく見たら早苗じゃね?」

「本当だ。でも本物のはずがない」

「本物は私らの本体のところにいるはずだものねえ」

「ならばあれはなんだ?」

「偽物だ」

「偽物ならばどうしてくれよう」

「ぶっ殺そう」

「ぶっ殺そうか」

そういうことになったらしい。

「させないの」

桃色の光線が撃ち込まれ巨大戦車が大爆発。

「ぎゃわああああああ」

「おっと」

「むっ、私の指揮官機がっ」

上に乗っていた三人が飛び降りる。

「なにさらすんじゃこら!たたりころすぞぉっ!」

吼える幼女。

黒いねばねばとした何かがなのはに迫る。

「そんなもの効かない。滅べ悪魔。お前たちはこの世界にいらないの」

「あまりに不遜。これだから天使ってやつは嫌いだよ」

光弾の群れをすり抜け軍神が駆ける。

「螺旋の、蛇っ!」

巨大な砲の懐に潜り込み、抉る様な掌底を放つ。

吹き飛ばされる。

「げっぅ」

口の端からは血がにじむ。

「ふふふ、あはは、この程度」

歪んだ装甲が即座に修復。

砲撃。

大天使の力を以て放たれる致命の一撃。

かわそうとするが、足が地面に縫い付けられたよう。

バインド。

「あらまぁ」

直撃。

しかし消えたのは一柱。

「土着神舐めんなあぁぁぁぁぁぁ!!!」

自身の身長の倍はある巨大な鉄の輪を振り下ろす。

届かない。

止めたのは黒の大剣。

高速で飛んできてなのはをかばう。

弾き飛ばし、射線を開ける。

再びの砲撃。

「畜生ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

消滅。

その陰から放たれる一刀。

黒の大剣と切り結ぶ。

莫大な質量、速度の一撃を受け流し斬る。

魔力によって加速された一閃をかわし踏み込み斬る。

体術と魔力が合わさりもはや同時に多方向から襲ってくるような剣を切り伏せる。

援護として放たれた魔弾を最小限の見切りでかわす。

布石としておかれたバインドを踊るように避ける。

単なる人間が大天使二人を相手に一歩も引かず。

「大義ある限り戒厳は死なず!戒厳ある限り大義は死なずっ!」

「邪魔を、するなぁっ!」

鉄の打ち合う音が連なり激流となる。

周りにもはや味方はいない。

しかし止まらず。

前に、進む。



うふふふふ

カテドラル直下、激戦区から少し離れたところ。

ターミナル発動とともにわらわらと現れた天使たちと戦う兵がいる。

最精鋭ではない。

それらはもう死んだ。

しかしそれでも強い。

次々と現れる天使たちを斬り捨てていく。

うん、じゃあ、いただきまーす

後ろからグサリ。

膝をつかせ金の仮面を飛ばし首筋に牙をあてがう。

ああ、やっぱり。

人間だ。

人間なのだ。

これほどの高みにあって未だなおヒトである。

おいしい

信念があった

血のにじむような努力があった

仲間との思い出があった

恩師への敬慕の念があった

死闘により研ぎ澄まされたそれらが濃厚に絡まり素晴らしい風味を生む

下腹部が熱くなるのを感じる

いけないいけないこれはまだ前菜なんだから

近づいてくる天使を蝙蝠で殺す

食事の邪魔をするなんて全く無粋

その上不味いんだからほんと救えないよねえ



「来なさい、四大天使よ」

その呟きに応じて早苗の周りに強大な力を持つであろう気配を放つ天使が四体。

「さぁ今こそ審判の時。堕落した地上を一掃し世界に平和をもたらすのです」

うっとりと呟く。

「全ての悲劇は失われる。ああ、私はやり遂げたのですね」

そこに叫び。

「ごちゃごちゃうるさいわっ、ぼけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

声の尾を引きながら高速で黒い塊が突撃する。

あ、はやてがいない。

さっきまで殺しあえーとか言ってたのに。

アリサはその辺で次々湧き出てくる天使の群れに死んでくれる連射。

魔力が尽きたらエナジードレイン。

「あはは、おもしろーい」

はやてはカテドラル屋上に飛んで行く。

闇の魔力を纏った高速突撃。

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「な、なんなんですかっ!?」

ミカエルが早苗をかばう。

闇の魔力が解かれ見えるようになったのは野太刀を肩に担いだはやて。

振り下ろす。

障壁にガキンと食い込む。

拮抗しているかに見えたが障壁の魔力を野太刀が吸い取っていく。

数瞬ののち障壁が割れる。

袈裟掛けの一閃。

「ぐぁぁっ」

「あんたらは私の身内に手を出した!だから皆殺しや。単純明快やろ、あーゆーおーけー?わかったら死ねぇっ!」

開いた方の手で中指おったて叫ぶはやて。

早苗に斬りかかる。

「くっ、ガブリエルは回復を。ラファエル!ウリエル!足止めしなさい!」

「ええい、雑魚がうっとーしい!よし、死騎召喚!来るんや私の下僕ども!」

はやてが刀を掲げそう叫ぶと四つの人影が湧き出てくる。

「天の火シグナム、敵対勢力を確認」

騎士たちが現れる。

「天の鎚ヴィータ、戦闘行動を開始する」

四人の騎士。

「天の盾ザフィーラ、防衛行動準備」

剣士と少女と犬耳マッチョ。

「天の薬シャマル、後方支援準備」

そして癒し系お姉さん。

ヴォルケンズまさかの復活である。

ザフィーラがラファエルの攻撃を防ぎシャマルが足止め。

その隙にシグナム、ヴィータがウリエルを撃破。

そしてシグナム、シャマルがラファエルを倒す。

はやてが翼に仕込まれていた長銃を乱射。

治療されていたミカエルに止めを刺しガブリエルに傷を負わせる。

ガブリエルの決死の一撃はザフィーラに防がれシグナムの一閃、ヴィータの一撃で消滅。

出現から瞬く間の出来事であった。

以前よりかなり強くなっている。

はやてのレベルアップに合わせて強くなったのだろうか。

あと騎士甲冑のデザインがところどころちょっと和風に。

「なんて役立たず!こうなれば是非もなし、箱舟ノア!起動しなさい!」

大地が震える。

カテドラルの基部が崩れていく。

巨大な質量がゆっくりと浮かび上がる。

ターミナルがこじ開けた天界への穴。

そこから凄まじい魔力が流れ込みカテドラルの形を変えていく。

それは船であった。

世界の破滅から神に選ばれた者のみを救う箱舟ノア。

「な、なんじゃこりゃあ!」

「堕ちなさい悪魔ども!」

早苗はそう叫ぶと御柱を連射。

防御するが衝撃は殺し切れず地上方向に飛ばされる。

さらに蛙弾も連射。

爆圧が上空に上がることを阻止する。

「地上の一掃とともに滅べ悪魔!メギド・アーク発射準備!」

カテドラルに膨大な魔力が集中する。

天使たちが玉砕覚悟で突っ込んでくるため上空には上がれない。

「くっ、ええい邪魔や!……お前らぁっ!」

「「はっ」」

天使たちを斬り捨て潰し串刺しにしながら答える。

「私のために道をつけるんや!なにがなんでもやっ!」

「「御意」」

全力の魔法行使により天使の群れに風穴を開ける。

攻撃を受ける

攻撃を受ける

そんなものは無視

主のために道をつけるのみ

「いくでぇ!」

刀に魔力が、いや、気も集まっていく。

「レミ姉さんにもらった必殺奥義!」

箱舟に向かって加速する。

「石破ぁ!」

刀に纏った紅い輝きが白く染まっていく。

「天驚剣っっっっっっ!!!」

光の柱が箱舟を貫いた。

巨大な箱舟、カテドラル・ノアが真っ二つに割れていく。

「そんな、嘘、こんなこと、あり得ない……!」

火の手が上がりゆっくりと地上に落ちる。

「へっ、へへ。ざまあみろ、や」

はるか上空から光。



満身創痍であった。

片腕は落ち、片目も潰れ、美しかった長い黒髪も今は見る影もない。

血で汚れ半ばから断たれている。

しかし目は全く死んでいない。

気迫で二人の少女を圧倒している。

「空間殺法っ!」

「くっ」

損傷はすぐさま回復する。

こちらは実質的なダメージはない。

しかし相手は倒れない。

焦りが生まれる。

焦りは隙を生み被弾する。

「フェイトちゃん」

サポートに専念していたなのはが名前を呼ぶ。

「うん、大丈夫だ」

目に強い意志の光が戻る。

「逆賊っ、死すべぇぇぇぇしっっっっ!!」

大振りの一撃に合わせカウンターを叩き込む。

防がれたが吹き飛ばすことに成功。

「フォトンランサー・ファランクスシフトっ!」

無数の魔力弾が少女に殺到する。

撃ち終わったとき、そこにはぼろ雑巾のようになったミシマがいた。

しかし、立ち上がる。

「っ!?」

「我死すとも大義は死なず、必ずや、第二、第三の戒厳が現れるであろう……!」

「それは素敵だね」

刀を杖に何とか立っている少女の顎を上げ首を出させ、口づける。

「む、お前、私を喰らう気か」

むぐむぐと血を吸うことで返答。

おいしい

やばい、さっきのとは比べ物にならない。

脳みそが蕩ける。

あははははははははははは









「私を喰らうならばその腹突き破って生まれ変わり大義を成そう!」

やれるもんならやーぁってーみなー

吸いつくし、槍でもって消滅させる。

口の端を拭う。

さぁーてメインディッシュだ。

「どこまでも立ちふさがるの、悪魔」

「今日で終わりだよ、おちびさん」

あいさつ代わりの砲撃を避け槍の一撃。

黒剣に防がれる。

狙いをフェイトに変更。

多方向からのヒット&アウェイ。

ある程度は対応してくるが、足りないねえ。

どれだけ強力な武器を手に入れようと

本当に天使の力を手に入れようと

結局のところ根本は人間だ。

人間を越えたように見えてもまだ、残っている。

根っからの魔物には敵わない。

大剣を弾き装甲を割り誘導弾を避ける。

紅霧を展開、魔力を奪う。

ついでに傾世元禳も。

周囲の天使たちに同士討ちをさせる。

「ぅああああああっ!」

フェイトが突っ込んでくる。

隙だらけだぞ、ってうわあ。

フェイトを巻き込んでの砲撃。

手加減なしだ。

障壁を張る、しかしもたない。

槍でできる限り吸って軽減。

痛たたたた。

ドレスが焦げた。

しかしフェイトボロボロ。

「づがま゛え゛だ」

足を掴まれる。

いや、そんなもん、え?

体が動かない。

足を掴むフェイトの動きも止まっている。

「これが私の全身全霊、バインド。ごめんねフェイトちゃん。でも私も一緒に行くから」

あ、やば、全然動かない。

巨大な船が燃えながら落ちていくのが見える。

「やっぱり、こうなっちゃった。でもあなたを殺せるなら満足だよ。やって、クロノ君」

上空から光。



[28145] 終末
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/07/01 01:34
荒野が広がっている。

見渡す限りの荒野が広がっている。

そこは東京であった場所であった。

今は赤茶けた大地が広がる不毛の地だ。

高空からそれを見下ろしている。

あれは、アルカンシェルの一斉射撃であろう、たぶん。

数十の艦船から放たれたそれはこのあたり一帯をすっかり破壊しつくしたようだ。

とりあえず上空の気に食わない感じの気配に向けて槍を投げる。

瞬時に大気圏を突破したそれは宇宙戦艦の一つに突き刺さる。

爆発。

誘爆してまとめてふっとんだ、気がする。

あれ、なんで生きてんのかなあ。

流石に死んだと思ったんだけど。

「レミ姉さん」

ぽすっ、とお腹に衝撃。

アリサが抱きついてくる。

あーアリサが助けてくれたのかなあ。

あのバインドもエナジードレインすれば外せそうだし。

ありがとうねー

なでなで

「声が聞こえなくなっちゃったの」

なんぞ?

「赤おじさんの声も黒おじさんの声も」

そういえばあの二人のこゆい気配が薄くなっているような。

「そのかわりに、声が聞こえるの」

あの二人の他にも似たようなことする奴がいたのか、もしかして。

「悲しいって、辛いって、みんな泣いてる」

ええ、誰?

遠くから閃光。

キノコ雲が上がる。

もわもわと

もわもわと

さらに遠くで閃光が続く

キノコ雲

閃光

キノコ雲

キノコ雲

閃光

キノコ雲

閃光

閃光

閃光

「私が助けてあげないといけないの、だから、レミ姉さんとはもう会えない」

ほわっつ?

遠くからラッパの音が聞こえた気がする。

バシュ、バシュ、バシュ、バシュ

稲津とともに現れたのは四人の馬に乗った骸骨。

ああ。

なるほど。

「我ら悲しみを止めるものなり」

「我ら涙を止めるものなり」

「我ら慈悲を持って救うものなり」

「さあ、参ろう。新たな魔人よ」

手を差し伸べる。

「さよなら」

そういうと五人はどこかへ消えてしまった。

彼らは死神なんだろう。

アリサは新たな死神になったのだろう。

遠くで涙が炎に焼かれて消えた気がした。

遠くで涙が凍り付いて砕けた気がした。

遠くで涙が風に切り刻まれて溶けた気がした。

遠くで死を振りまく気配。

世界中の人々の悲鳴の声。

それを聞き届けているのだろう。

ああ、世界は滅ぶのだ。

……ちょっと待て

そんなことになったらご飯が食べられない

それはいけない

だめだだめだだめだ人間は私のごはん

紅い月の住人はまだまだ全然足りない

なら、どうする?

そうだ食いだめしよう

まだこのあたりにも魂が揺蕩っている

紅霧を展開

食べる

食べる

おいしい

さらに拡大していく

あんまりおいしくない

でもしょうがない

拡大

拡大

食べる

食べる

食べる食べる食べる食べる食べる食べる食べる食べる食べる食べる食べる食べる

星を紅が覆い尽くす

あれ、なんかおいしそう

真っ赤なリンゴ

いただきます

ぱっくりと

えぐれる

うん、なかなか

二口三口

もっとたべたいな

もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと

宇宙の暗黒を紅色が染めていく






―――――ワールドゴージャー






第九十七管理外世界は消滅しました




―――――ワールドゴージャ―




第九十六管理外世界は消滅しました



―――――ワールドゴージャ―



第二十六管理世界は消滅しました



―――――ワールドゴージャ―



未到世界は消滅しました

第二――三十――百二十―――千一――十二――五十六―――二万三千二百九十一

1938576307566325421398610273657213512465137451736456355713p943:41・45174:31おい4539174@315493174@8134315:397:31t:934

・137@417481:3485:194745#1374861@94

消滅しました

消滅しました

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暗い水面に寄り添い浮かぶ無数の泡

一つが弾けます

その横の一つが弾けます

その隣の一つが弾けます

弾けます弾けます弾けます

ぱちんぱちんぱちんぱちんぱちぱぱちぱちぱちぱちぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ

絨毯の様に浮かんでいた泡たちはすっかり消えてしまいました

最後の一つが弾けます




どろり



溢れる



紅いナニカ



体積を増していく



増していく




溢れだす



どろどろと、どろどろと




それは不定形のなにか




紅い、紅い





混沌の海に産まれた獣





それはこの世のどのような生き物にも見えた




どろどろと、立ち上がる





―――――――泡沫の怪翼





翼を広げる






#$RIYFO#"D(F"LVEHD"ODIG"EODF"LDUI"TO'RP")'$TP






咆哮が上がる





それは竜であった




不定形の紅い竜





混沌の海を飛び立ち、空を目指す





空に浮かぶのは月のような





光り輝くナニカ





突入する



























ぷくり


泡が立つ


混沌の海は静かに揺れている



[28145] あとがき
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/07/03 00:44
最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございます。

これにて魔法少女リリカルれみりあは一応終了となります。

このSSでは

・一話5kくらい
・一行短文
・サクサク読める、書ける、目が疲れない
・基本主人公視点のみ
・上により文量を少なくして速攻で完結させることでエタ―防止

というのをやってみるテストでした。

嘘です・後付・勢いで始めました

でも目が疲れないというのは大事だと思うのです。

いかがでしたでしょうか。

まあ、いろいろと相応に薄くなりましたので別キャラ視点とか書くかもしれません。

途中何度も書いては消し書いては消ししていた時は感想などとてもありがたかったです。

本当にありがとうございます。

指摘もとても助かりました。

ほぼ即興だったので、消し残しとかでひどい矛盾が。

重ねてお礼申し上げます。

ではとりあえず、これで失礼いたします。



























ちなみに

すずかちゃんは

蘇生→十六代目葛葉ライドウ就任→メシア教、ガイア教、犯罪組織サマナーと激闘→市ヶ谷駐屯地で恐ろしい研究がおこなわれているという噂を聞く→市ヶ谷駐屯地潜入→戦闘機人と悪魔を合体できないか研究しているスカさんを発見→重傷を負わせるもミシマに見つかり取り逃がす→三島戒厳と戦闘→ケロたんのたたり生唾で気絶→戒厳ちゃん(>△<)ノに即死コンボを叩き込まれて死亡

という感じでした
れみりゃの見ていないところだったので描写されないという
これを書いて途中分岐か死亡直後からIFルートを書きたいなあ、と


7/2
メガテン的世界では命の価値、特に人の命の価値はかなり低いです。理由はもちろん人間なんか腕の一振りで殺せる悪魔(いわゆる神仏や天使などを含めた超常的存在)が跋扈しているからです。悪魔の命の価値も低いです。低級な悪魔はぽこぽこ生まれますし上級の悪魔は本体は魔界(いわゆる天界なども含む)に居るからです。地上界にいる高位の悪魔はごく一部の例外を除いて全て分霊です。(上級~下級までいろいろ。レベルが高いほど本体の性質を強く受け継ぐ)そんな中で人間がどのようにして抗うか、という話。本編エンディングはストレンジジャーニーのカオスルートのパロディのつもりなので(地球食べるとこはSJのゲームオーバーな感じ)神によって導かれた旧世界は滅び、新たな、神のいない世界で人間は悪魔に規定された自由を謳歌しています。意志とそれを通す暴力こそを至上とする自由な、原始の世界。れみりゃが自我失ったまま無限湧きする四文字禿をひたすら食い殺しているのでこの世界には神は影響を与えません。カオスルートが好きなので本編こんな感じになりました。ロウルートは上に立つのが変わるだけでまぁ結局似たような感じ。人間が人間の価値を回復できるのはニュートラルルートだけ、って感じです。この辺の説明を本編でするのは無理な気がしたので書かなかったのですが。筆力が足りないです。

4B投稿



[28145] 4B
Name: あすぱら◆f8931cec ID:3658557d
Date: 2011/07/03 00:43
夜中、突然目が覚めた。

珍しいな。

寝つきはいい方なんだが。

何故だろう、と思うと閉め忘れたカーテンの隙間から明るい月の光が差し込んで枕を照らしている。

これが原因か。

窓の外を見てみると満月が思いのほか明るく町を照らしていた。

明かりがないと月の光は驚くほど明るいものだ。

ぼんやりと月を眺める。

たまには夜の散歩でもしてみるか。

着替え、家を出る。

あてもなく歩いていると、神社の方からなにかの気配がする。

なんだろう。

うっすらと漂うその気配はなんとなく花の香りのようで、いや違う、なんだろうこれは。

よくわからない何かに少し心が惹かれた。

夜中の神社なんて不気味なだけだろうと思いながらも行ってみる。

すると、どうだろう。

月明かりの下、青白い光を浴びながら一人の美しい少女がくるくると踊っていた。

あいにくと剣一筋で生きてきたからそれが何の踊りなのかはわからないが、少女の美しさとこの場の妖気のようなものが相まってこの世の物とは思われぬほどの美しさであった。

見惚れていたのか、足元がおろそかになり大きな足音を出してしまう。

少女は踊るのをやめてこちらを見た。

正面から見た彼女の顔は本当に美しかった。

俺の周りには恋人や母を初めとしておかしなくらい綺麗な女性がたくさんいるが、彼女の容貌は将来その誰よりも美しくなるのではないか、と思わせた。

運動をしたせいなのか青白いこの光の下でもわかるほどその頬は赤く上気していた。

「君はいったい…?」

こんな夜中に君のような女の子が一人で出歩くのはよくない、などということを言おうとしたのだが、彼女はそのようなものとは全く無縁の存在なのであろうということが見ているだけで自然と諒解された。

人ではない。

妖怪、魔物、化生の類。

だが目の前のモノはこれまで見たどのようなものとも違うのだ。

「いい月夜ね。でも私と貴方が愛し合うには嫌な色だわ」

質問には答えず、そういった彼女は胸の前で両手を広げる。

その指先から紅い霧が出てあっという間に周囲は紅い霧で覆われてしまった。

全てのものが赤くかすむ中で彼女の姿だけはなぜかはっきりと見えている。

月明かりの下では青白く見えていたドレスが今は紅く染まっている。

少女が腕に絡めていた布を手に取るとそれは自然と絞られて細長い棒のようになる。

いや違う、2mほどであろうか、それは悪魔の槍だ。

薄いピンク色であったそれを彼女からあふれ出す何かが覆い、周囲の霧より紅く染め上げていく。

それとともに溢れ出すのは今まで受けた中でも最上級の濃密な殺気。

小太刀を抜く。

戦わなければ、死ぬ。

なぜか一瞬殺気が緩む。

ともかくも圧倒的な実力差がある。

一太刀でも入れねば勝負にならない。

目の前の少女は人外。

見た目で侮るなどということは一切しない。

全力で踏み込み、一閃。

生涯でも最高の一撃だったと思う。

しかし容易くかわされた。

紅い槍による恐ろしい速度の突きの連打がくる。

なんとか防いでいくが反撃の隙がない。

しかも俺の限界を試すかのように徐々に速度が上がっていく。

俺は、ここで死ぬだろう。

しかし、どんどん感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。

楽しい。

なぜ?

世界から音が消える。

きっともう恋人とも家族とも会うことはできないだろう。

だが、この命が削れていく感覚。

届かぬ高みに手を伸ばすという行為。

それがたまらなく楽しい。

そんな俺に対して彼女は笑みを深める。

防ぐ、防ぐ、防ぐ

ふと彼女が顔を歪めた。

残念だ、というような表情を浮かべた直後、今までより数段早く、全く認識できない一撃が放たれ、小太刀が飛ばされる。

即座の追撃、残った一本も弾き飛ばされた。

そして手足に衝撃。

感覚が消え、立ち続けることもままならない。

ああ、糞、悔しいなあ。

地面に倒れそうになったところを彼女に抱きとめられる。

優しげな、壊れ物を扱うような手つきだった。

実際はどうだか知らないが見た目一回り以上も年下の少女にこんな風にされるのは少し気恥ずかしい。

彼女が首筋に顔をうずめたかと思うと一瞬、ライターで焼かれたかと思うような熱を感じた。

自分の中の大事な何かが彼女の中に流れ込むのを感じる。

それとともに凄まじい快感に襲われる。

血を、吸われている。

恋人にも定期的に吸われているが、なんというか、もっていかれるモノの質が違う気がする。

どれくらいたっただろう。

頭がぼーっとしてよくわからない。

彼女はおもむろに体を離すと俺の顔に両手を当てていった。

「私と一つになりましょう?一生愛してあげるわ」

こちらの目をまっすぐに見つめる彼女の瞳は先ほどの行為の余韻か濡れたように光っている。

その奥に、悲しげな色がのぞいているのは何故だろう。

こんな目を俺は見たことがある。

そう、なのはの目だ。

「君は、独りなんだな」

父が大怪我をしたとき、俺が代わりにならなければいけなかったのに。

あの子は気付いた時には家族に頼ることを恐れるような子供になってしまっていた。

だからこそ、もう二度と一人にはするまいと思っていたのだが。

友達も増えたようだし、近頃は何か打ち込めることを見つけたようで生き生きとしている。

なのはは、俺がいなくてもきっと大丈夫だ。

代わりにこの子に、あの時できなかったことを。

偽善だろうか。

呪いの言葉を吐くべきだろうか、罵倒すべきだろうか。

きっと違う。

少女は驚いたような表情を浮かべた。

「ええ、一緒にいてくれる?」

瞳には不安の色が覗いている。

だから答えた。

「ああ、いいぞ」

花が咲いたような笑みを浮かべて言った。

「嬉しいわ」

彼女は俺の体を丁寧に地面に横たえると頭上に槍を掲げた。

突き刺されたそれから先ほどとは比べ物にならないほどの量のなにかが吸い出されていく。

意識が紅い世界に広がっていく。

美しく、しかしすべてが死に絶えた世界。

彼女はずっとここで独りでいたのだろう。

溶けていく

溶けていく

俺が俺でなくなり、俺は彼女の一部になる


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