きょうの社説 2011年7月3日

◎農業遺産活用委員会 「産業化」の芽を育てたい
 能登の里山里海が世界農業遺産に登録されたのを受け、石川県と能登地区の4市4町な どが「世界農業遺産活用実行委員会」を設立した。今後、農林水産物のブランド化など、豊かな里山里海を保全、活用しながら地域振興を図るプロジェクトを推進していく。最も重要なことは、過疎・高齢化が進む能登の農林水産業を「持続する産業」「成長する産業」とすることで、そのための新ビジネスや産業化の芽を育てる努力を一段と強めてもらいたい。県が今年創設した「里山創成ファンド」がその下支えとなることが期待される。

 能登の里山里海に育まれた資源は多く、それを生かす新たな試みが最近相次いでいるの は心強い。例えば、七尾市の定置網水産会社が、早朝に水揚げした鮮魚をその日のうちに金沢市内の飲食店に届ける直送サービスを開始した。また、同市内の水産会社は、能登の赤ナマコを粉末にして練り込んだうどんを開発し、干しナマコ以外の需要開拓に乗り出した。

 奥能登2市2町の店舗で構成する能登丼事業協同組合は、能登丼の地域ブランド登録を 特許庁に申請し、販売のテコ入れを図っている。能登丼の地域ブランド化は、素材を提供する農林水産業者の励みにもなる。

 一方、石川県農業総合研究センターと県立大は、伝統野菜の中島菜に電気を通すことで 、中島菜の成分が持つ血圧抑制効果を約3倍に高める技術を確立した。この電気処理技術が実用化されれば、高機能食品として中島菜の生産、販売の拡大が期待できる。同研究センターはさらに、能登を山菜の「1億円産地」にする県計画の一環として、紫ワラビの優良株を増産する試みに成功している。ワラビの栽培、販売を「産業」として定着させるうえで必要な定量・定質生産を大きく前進させるものである。

 歴史・文化的価値を含む里山里海の世界農業遺産登録は、そこで仕事をし、生活する人 がいてこそ意味がある。そのために第1次産業を「持続可能な産業」としていくことは能登だけでなく、各地域に共通の課題であり、行政のさらなる支援も求められる。

◎1人世帯が3割 支え合う仕組みが急務に
 2010年国勢調査の抽出速報で、「1人暮らし世帯」の総世帯数に占める割合が初め て3割を突破した。1人暮らし世帯は家族類型別でも夫婦と子どもで構成する世帯を上回ってトップとなり、世帯構成の変化に対応する国や自治体の施策の必要性があらためて裏付けられた。

 特に高齢者の1人暮らし世帯の増加に伴って、孤立や介護などの問題を抱える高齢者と 地域のつながりがより重要になってくる。地域全体で高齢者を支え合う仕組みづくりを急ぎたい。

 1人暮らし世帯の増加の原因は、高齢化に加え、若者層を中心に未婚者が増えているこ とにあるとされる。高齢化、未婚化が進むにつれて今後も1人暮らし世帯は増えるとみられ、日本の家庭の姿の変化は、医療や介護などの社会保障や防災などさまざまな制度、対策の見直しにかかわる問題を含んでいる。

 1人暮らしの高齢者のなかには、社会から孤立している人も多いと指摘されており、孤 独死の増加などが懸念されている。昨年、全国で高齢者の所在不明問題が発生し、北陸でも地域のつながりが希薄になってきているといわれる。このため、石川県は今年度、住民や企業の見守り活動を後押しする地域福祉支援計画の策定に取り組み、各市町も計画づくりを進めている。富山県は地域で高齢者を見守るケアネット事業を展開しており、今後もきめ細かい取り組みを進めていく必要がある。

 石川県は新たに高齢者の話を聞く傾聴ボランティアの養成に乗り出したが、地域福祉に かかわる人材育成にさらに力を入れてほしい。1人暮らしの高齢者を見守る民生委員は、地域と行政のパイプ役としての役割にあらためて期待がかかるものの、活動は多岐にわたり、委員自体も高齢化で全国的になり手不足となっている。

 行政が民生委員の活動を後押しするとともに、地域全体の福祉力を高めて、いざという 時に高齢者が頼れるまちづくりが求められる。より多くの人が参加する見守り活動は、災害時の迅速な避難活動や安否確認にも有効である。