きょうのコラム「時鐘」 2011年7月3日

 医師が臓器を金で買う。養子縁組を悪用し、暴力団が介在する。カネさえあれば命も買えると思わせる、いやな事件だ

シェークスピアの「ベニスの商人」は、借金の証文通りに「胸の肉を切らせろ」との悪徳商人の主張を裁判官が許可する話である。だが、一滴の血も流してならないとの判決で、どんでん返しとなるのは、ご存じの通りだ

明治初期、日本での初演は「何桜彼桜銭世中」(さくらどき・ぜにのよのなか)という題名だった。「世の中すべて金次第」の意味だが、シェークスピアの言いたかった「お金と命の交換はできない」の意味も込められている

移植治療には、今も賛否両論あるが、少なくとも「金で命が買える」現実があってはならない。「養子縁組」もそうだ。肉親や親族でなくても温かな家族の絆を生み出す制度が、カネで売買され悪用され、犯罪の道具になっている

移植と養子縁組、命にかかわる2つの制度に「欲とカネ」が絡むとこんなことが起きる。改正臓器移植法の施行から一年。移植医療に水をささないためにも厳正な捜査で制度の矛盾点を明らかにしてほしい。