空を見上げる、流れていく星の光。遠い昔、大切な人を人間に殺され怒りに狂い壊してしまった過去が彼女にはある。今はその気持ちと向き合い乗り越えた。出会えたから、自分を大事に想ってくれる人達と。そんな事を思う夜、かつての祟り狐である久遠は変わった。
その人達と同じように今度は自分が誰かを助けたい、そう想う。だから頭に響いた声。
《誰か、魔法の力を……僕の声が聞こえるなら力を貸してください、お願いします!》
(きこえたよ。君の声)
風を切って走る、小柄な身体。狐耳をピンと逆立て久遠は駆け出した、助けを呼ぶ声に導かれて。
槇原動物病院、この世界の魔力素と不適合な状態になったためユーノ・スクライアは止むを得ず人間からフェレットへと変化した。この形態になれば少し魔力が回復できるから、それよりも問題は活性化したジュエルシード。ユーノが取り逃がしたものが今宵、再び舞い降りる。
手詰まりのユーノが取った手は念話によるSOS、だがこの世界は魔法がない管理外。届くかどうかは完全に賭け、その賭けにユーノは――
「くぅーん!」
雷鳴が鳴り響きジュエルシード暴走体へと直撃する。
「……えっ」
ユーノを守るように立ちはだかる一匹の狐、ばりばりと雷を纏っていた。その現象に助けてもらったユーノは状況を認識出来ない、だって狐だ。魔法文明がないこの世界だけど動物には不思議な力があるんだろうか、そう納得しようと……出来るわけがない。
「えええええっ、君は一体誰なの!?」
第三者から見れば叫ぶフェレットも十分に非常識、幸か不幸かこの場にはユーノと久遠と暴走体しか居ない。故に状況は進む、久遠は黒い靄みたいなものを睨み付ける。自分のような妖怪の類かと疑ったが雰囲気が違う、あれはもっと別の何か。先程放った雷撃は確実に効いている、ならば容赦はしない。
「くぅーん! くぅーん!」
鳴き声をあげるたびに強力な雷撃が暴走体へ何度も何度も放たれる、ユーノはそんな狐に戦慄し事情は後で聞こうと決意しそれだけじゃあ倒せないと告げる。ちゃんとした手順でなければ暴走体は封印できない、その説明を狐はじっと耳を逆立て聞いていた。暴走体は虫の息、ぴくぴく蠢いている。
あれは動物でも起動できるんだろうか、解らないけど賭けに勝ったユーノ。念話がこの狐に聞こえたのなら、手は有る。
「これを持って僕の後を続けて……鳴き声でも多分何とかなる! はず」
ユーノから久遠へ小さな手で渡されたそれは、赤い球。
「行くよ! 我、使命を受けし者なり」
「くぅーん!」
「……け、契約のもとその力を……」
「くぅーん!」
《……Stand by ready Set up!》
「嘘っ!?」
魔導端末である赤い球、レイジングハートが何故か起動できた。久遠の手で輝く、光に包まれた久遠は――
緩やかな金の髪、頭にぴょこんと立つ狐耳。円らな瞳と唇、幼い身体を包むのは赤と白に彩られた巫女服。臀部にふりふりと尻尾が揺れて、今此処に魔法少女が誕生した。
「リリカルマジカル、久遠がんばります!」
「……これから僕、どうなるのかなぁ」
気合いを入れる久遠にこれからの未来が不安になったユーノ、世界がこの瞬間大きく変わり始めた事を今は誰も知らない。
そんな夢を、見た。
「くぅーん?」
「夢じゃなかったんだなぁ」
太陽の光の下、八束神社の鳥居。その近くの林の影に寄り添う久遠とユーノ、リリカルが始まる。