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[28565] 【ネタ】我が名は九十九遊馬 (遊戯王ZEXAL 転生)
Name: りお◆e4a4d4a0 ID:575cb3f2
Date: 2011/06/29 14:40
そこはまさに断崖絶壁だった。

薄暗い周囲の中、細い道を歩いて行く。

どうしてここにいるのか分からない。
どうして歩き続けているのか分からない。

だが行かなければならない。


その先にあるのは鎖が巻きついた、獰猛な牙を持つ扉。

『その扉を開く者は、新たな力を得る』

声が響く。

『しかしその者は代償として、1番大事なものを失うであろう』


「オレの1番、大事なもの……?」


思わず数歩、後ずさる。

その足場がどれだけ不安定なものか忘れて。


結果、足場が崩れ……


「うわああああああっ!」



闇の中へと転落する。






それで目が覚めた。





「……また、あの夢か」
いつの頃から見るようになったのか、覚えていない。

いつも最後はあそこで終わるのだ。


少年……九十九遊馬は癖のある前髪を掻き揚げ……重い音を響かせる年代物の振り子時計の存在に気付いた。
鐘の数は7回。

「……朝か」
身支度を整えなければ遅刻してしまう。



「お早う、遊馬」

今日も観月小鳥は幼馴染みである遊馬に笑顔で挨拶をしてくる。
「ああ、お早う」

九十九遊馬
ここ、ハートランドに住む中学1年生。
ジャーナリストである姉、明里と祖母、春との3人暮らし。

取り立てて目立つというわけではない。遊馬は物静かな方で、確かに成績は優秀な方だが、それだけだ。
だというのに遊馬は目を引く。

生まれ持ったカリスマ性、とでも言うべきなのだろうか。
ただの中学生には似合わない言葉なのに、そうとしか言い表せないものがある。

小鳥の目に遊馬がいつも首から下げているペンダントが留まる。

「どうした、小鳥」
胸元を凝視していたのに気付かれる。
「そういえば遊馬、それって……」
「ん、ああ」
遊馬はペンダントを軽く持ち上げた。
「言ってなかったか? 親から貰ったんだ」
「遊馬のご両親って、確か……」
それは聞いたことがある。

冒険家である遊馬の両親は消息不明となっているのだ。

「ああ。……まるで鍵みたいだろ?」
「鍵?」
確かにあまり類を見ないデザインだが、鍵には見えない。
「これは何かを起こしてくれる……その『何か』の鍵のような気がするんだ」

そう言われても、小鳥にはよく分からない。
だが遊馬がそれを大事にしているのは知っている。

でなければ常に……体育の時でも肌身離さず持ち歩くはずがないのだから。









今日も放課後になると中庭で生徒たちがデュエルをしている。
「やってるな」
ポケットからD・ゲイザーを取り出し、セット。

とたんに立体化したモンスターが所狭しと現れる。中には建物を壊しているモンスターまでいる。
これが現実だったら大問題だが、これはソリットヴィジョン。建物が壊れて、コンクリートの破片が落ちてくるのだって立体映像だ。

「遊馬、あれ」
同じようにD・ゲイザーをセットした小鳥が指差す先には、鉄男がいた。

武田鉄男。
遊馬の悪友とも呼ぶべき存在。

鉄男の相手は神代凌牙、通称シャーク。

「オレはレベル3のスカル・クラーケンとビッグ・ジョーズをオーバーレイ!」
スカル・クラーケンとビッグ・ジョーズがフィールドに現れた渦の中に消える。

「エクシーズ召喚! 来い、潜航母船エアロシャーク!」

 『エクシーズ召喚』
フィールドに存在する2体以上の同レベルのモンスターを素材にして、「モンスターエクシーズ」をエクストラデッキから特殊召喚すること。
素材となったモンスターは墓地に送られずオーバーレイユニットとなり、モンスターエクシーズの下に重ねられる。そしてモンスターエクシーズは素材モンスターを墓地に送ることにより、その効果を発揮することが出来るのだ。

残念ながらと言うべきか、遊馬は1枚もモンスターエクシーズを持っていないが。

「行けエアロシャーク! ダイレクトアタック!」
シャークの宣言によりエアロシャークが鉄男にダイレクトアタックを決めた。

その衝撃で鉄男は後ろに吹き飛ばされる。

残り800だった鉄男のライフがそれでゼロとなってしまった。
対するシャークのライフは4000。無傷のまま。

『WIN』の文字が消えるとともに、遊馬はD・ゲイザーを外す。
「鉄男……」

「フン……約束通りこいつはいただくぜ」
そう言ってシャークが拾ったのは、今まで使っていた鉄男のデッキ。

「そいつをどうするつもりだ!」
「……誰だお前」
シャークが鉄男との間に割り込んだ遊馬を見る。
「九十九遊馬。鉄男のクラスメートだぜ」

「お前……このお方が誰だか知ってるんだろうな?」
シャークの取り巻きの、パーマの生徒が遊馬を睨む。
「ああ、知ってるぜ。シャークだろ、お前」

神代凌牙。
全国大会にも出場したことのあるこの学校で1番の実力者である。
だが同時に札つきとも言われている。

「ああ、これは正当な報酬だぜ」
そう、シャークは鉄男のデッキを持ち上げる。
「今のデュエル、オレたちは互いのデッキを賭けた」
「……何でそんなことを」
鉄男が視線を逸らす。
「……こいつらに、オレはデュエリストを名乗る腕じゃないって因縁つけられて……」
それでアンティルールに乗ってしまったらしい。

互いの合意となれば、これは確かに正当な報酬だろう。

だが、遊馬はそれを放ってはおけなかった。

「……ならシャーク。オレとデュエルをしようぜ」
「何?」
「オレとデュエルをして、負けたら鉄男のデッキを返せ」


自分でも分からない。

だが気付いたらそう言ってしまっていた。
だが後悔はない。


言ってから何故かやけにすっきりとした気分になった。


「バーカ! シャークさんは全国大会に出場してたほどの腕だぜ!」
「テメーらが勝てる相手じゃねー!」

「そいつはどうかな? やってみなければ分からないだろう?」
それでも遊馬は不敵に笑ってみせる。

「……いいさ、このデッキを返してほしかったら、お前の1番大事なものを差し出しな」

「そいつは無理だな」

だが遊馬は堂々と胸を張る。

「何だと?」

「『見えるんだけど見えないもの』。それがオレの1番大事なものさ。こいつは、お前が奪うことなんか出来ないぜ!」
「なっ……!?」

『見えるんだけれど見えないもの』
突然そんなことを言われ、シャークも困惑したらしい。
だがそれも僅かな間だけ。

「……なら」
シャークが手を伸ばし、遊馬が胸元に下げている鍵を引き千切った。

「なっ……!」
それは両親の形見。

「奪えないっていうんなら、代わりにこいつを奪うまでさ」

取り巻きが遊馬の動きを拘束する。

「ずっと持ち歩いているんなら、これも大事なモンなんだろ?」
やけにシャークの動きが緩慢に見えた。

鍵が地面に、無造作に落ちる。

「大事な物ってのはな……失ってみると分かるんだよ。本当の価値がッ!」


バキンッ!


そんな音を立てて鍵がシャークの足の下で砕けた。

「「あっ!」」
小鳥と鉄男が声を上げる。

「お前の大事なものも……こうやって壊れ、消えていくんだよ!」
破片をシャークが蹴り飛ばすと、下の茂みへと落ちていってしまった。

これではどこにいったか分からない。
遊馬は歯噛みをし、シャークを睨む。

「残念だが、このデッキを返すわけにはいかない。だがチャンスをやろう。オレにデュエルで勝てばこのデッキは返してやる。しかし、オレが勝ったらお前のデッキを貰う! 今度の日曜、場所は駅前広場。デッキを取り返したかったらそこに来な。はっはっはっは!」

片手を挙げ、悠々とシャークは取り巻きを連れて去って行った。

その背中を遊馬は黙って見送るしかなかった。










表向き、遊馬は平静でいつも通りのように見えた。
「遊馬……」
それがかえって小鳥には痛々しく映る。

シャークの言っていた約束の日曜は明日なのだ。

「……気にすることはないぜ、小鳥。オレの本当に大切なものは、誰にも奪えない」
「それって、『見えないんだけれど』……ってやつ?」
「ああ」

「遊馬!」

スケボーに乗った鉄男正面から来る。
「鉄男」
「遊馬、明日のデュエル、行くつもりか?」
「ああ」
「行くな」
鉄男はまるで遊馬の道を塞ぐかのように立ち塞ぐ。
「お前には無理だ」
「どうしてだ?」


「今までデュエルをまともにやってこなかったやつが、シャークに勝てるわけないだろ!?」


確かに、遊馬は今までデュエルというものをほとんどやったことがない。
もちろんルールは知っているし、デッキも持っている。

だがデュエルをするとなると、どうしても乗り気がしかったのだ。
だから自分でも、シャークにデュエル啖呵を切ったことには驚いている。

「それに……元々オレのせいだ。借りなんて作りたくねえ」

電灯が次々と灯り、道を明るく照らしていく。

「……勘違いするな」
「え?」
「オレは、お前のために行くわけじゃないぜ。……目の前で、大事なものを否定されたんだ。引き下がるわけにはいかないぜ」
「大事なもの……?」
「『見えるんだけれど、見えないもの』。……オレは、オレのために戦うんだ」
そう、遊馬は笑みを浮かべて宣言する。
「遊馬……結局、それって何なの?」
小鳥の質問に、遊馬は自分の胸に拳を置いてみせた。

説得は無理。
そう悟ったのか鉄男が何かを投げてよこした。

「……勝手にしろ」
それは砕けて失ったはずの、ペンダントの欠片。
「鉄男……」
「へっ、たまたま見つけただけだ!」
だが遊馬は見逃さなかった。

鉄男の指が土で汚れていたのを。







『その扉を開く者は、新たな力を得る』

声が響く。

『しかしその者は代償として、1番大事なものを失う』


いつものように、そこで目を覚ました。


時刻はまだ深夜。
机の上には綺麗に整理されたカードが並べられている。

こうしてデッキに触れるのも久しぶりだった。

姉にデュエル禁止令が出ている、というのは関係ない。

遊馬はデュエルを1度辞めたのだ。

遊馬にとってデュエルとは文字通り決闘。

カードとは言わば剣。

その剣を遊馬は既に捨てている。

だというのに、またデュエルをしようとしている。


せっかく今はこうして「九十九遊馬」という名を得て、新たな生を受けているというのに。


遊馬は昔……まだ「九十九遊馬」と呼ばれる以前、本来の名ではなく別人の名と体を借りていたときのことを思い出す。

そこで彼は、相棒と共にデュエルチャンピオンとして名を馳せた。
全ては己の記憶を取り戻し、何者か思い出すため。

相棒の名で、器でデュエルを続け、求めていた記憶を思い出した先に待っていたのは……仲間たちとの別れ。


そして彼は相棒と戦い、剣を捨て、本来いるべき場所に帰った。


そして新しく与えられた名が「九十九遊馬」


ここでは彼が相棒たちとの過ごしていた世界と同じようにデュエルが流行していた。

だが決定的に違ったのは、ここに相棒たちが住んでいた町がないこと。
名を馳せていた大企業も、デュエリスト養成の学園も、カードの枠が白いモンスターも存在しない。

ここは、彼が生きていた世界ではない。
デュエルが普及しているいくつかの次元のひとつなのだろう。


彼は……というより彼が本来生きていた時代では死者が復活すると信じられていた。
だから自分がこうして「九十九遊馬」として生きているのに違和感こそあるが驚きはない。


だが、どうして「九十九遊馬」なのか。本来いた世界ではないのか。
疑問は尽きない。

それは物心つき、過去のことを思い出すようになってからずっと考えていること。

そのせいか遊馬は年の割に落ち着いているということを言われる。姉に言わせれば「手のかからない弟」だそうだ。


遊馬はデッキの中から迷わずカードを数枚抜く。


デュエルはしないと決めていたのに、カードだけは集めていた。
その中の数枚は、いつの間にか遊馬が持っていたもの。

買ったのではなく、カードの方から遊馬の元に集まったとしか考えられない。

「……お前たちは、これからもオレについて来てくれるのか?」


時間と世界を跳び越えて付き従ってくれる僕たちが笑った……気がした。











翌日。


「怖気つかなかったのは褒めてやるが、尻尾を巻いて逃げりゃお前のデッキだけは助かったものを」

全くだ。
どうして逃げなかったのだろう。

この身はデュエリストを止めたはずなのに。
しかも今回のデュエルのために父親のデッキに遊馬のカードを色々と混ぜてまで。

だが、恐怖はない。

むしろこれからのデュエルに対する高揚感の方が強い。

「御託はいい。さっさと始めようぜ」

デュエルディスクとD・ゲイザーをセット。

そしてデュエルターゲットをロックオン。

『デュエルヴィジョン、リンク完了』

通行人が視界から消える。
このデュエルを見ることが出来るのは、デュエルヴィジョンをリンクしている者たちだけ。

「「デュエル!!」」

 遊馬 :4000
シャーク:4000

「頑張れー! 遊馬ー!」

「行くぜ、オレのターン!」

手札が目の前に表示される。

遊馬はポーカーフェイスを保ち、手札からモンスターを1枚選ぶ。
「ズババナイトを守備表示で召喚」


ズババナイト:レベル3 地属性 戦士族 守備力900


「リバースカードを1枚セットし、ターン終了」

「フン……オレのターン、ドロー!」
シャークがドローしたカードを手札に加える。
「オレはビッグ・ジョーズを攻撃表示で召喚!」
渦と共にその名の通り巨大な鮫がフィールドに現れる。


ビッグ・ジョーズ:レベル3 水属性 魚族 攻撃力1800


「バトルだ! いけ、ビッグ・ジョーズ! ビッグマウス!」
ビッグ・ジョーズが巨大な口でズババナイトを噛み砕く。

「オレはカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

「オレのターン!」
カードをドローし、手札に加える。

ビッグ・ジョーズの攻撃力は1800。
だが、それよりも警戒するのはビッグ・ジョーズがレベル3だということ。

シャークには鉄男とのデュエルで見たエクシーズ召喚がある。
『潜航母船エアロシャーク』をエクシーズ召喚するためにはレベル3のモンスターが2体必要なのだ。

……しかし。

遊馬はちらりとシャークのフィールドに伏せられているカードを見る。

あれは恐らくこちらの攻撃を防ぐカード。

エクシーズ召喚をするためには特定のレベルモンスターを2体以上揃えなければならない。
ならば、ビッグ・ジョーズを守るはずだ。


「……オレは、『ビッグ・シールド・ガードナー』を守備表示で召喚!」


ビッグ・シールド・ガードナー:レベル4 地属性 戦士族 守備力2600


「これでターンを終了するぜ」
「ハッ、防戦か……オレのターン!」
シャークはドローしたばかりのカードをフィールドに出した。
「オレは『スカル・クラーケン』を召喚!」


スカル・クラーケン:レベル3 闇属性 水族 攻撃力600


地面が割れ、骸骨の蛸が現れる。
……余談だが、蛸は軟体動物であり、骨はない。



スカル・クラーケンのレベルは3。
奇しくも鉄男がやられたときと同じ組み合わせ。



それに鉄男も気づいたらしい。

「奴はエクシーズ召喚するつもりだ。……やっぱ遊馬じゃ勝てねえ」
「遊馬……」

「……いいこと思いついたぜ。オレがお前のデッキを奪ったら、その鍵同様目の前で破り捨ててやる」
「貴様……!」

デッキを破り捨てる。
その発言が遊馬の怒りを買う。

「デッキはデュエリストの魂だ! それを破り捨てるなんて、許さないぜ!」

遊馬の感情に反応するかのように、鍵が眩い光を放った。






気付いたとき、遊馬はいつもの夢の場所にいた。
「鍵が……」
しかもシャークに壊されたはずの鍵が復元されている。

『さあ、扉を開けろ』

また声が響く。

『扉を開けろ。さすればお前は新たな力を手に入れる。だがその代償として、1番大事なものを失う』

「大事なもの……」


見えるけれど、見えないもの。

それは誓い。
仲間との絆。


だがそれは「九十九遊馬」となったときに消えたもの。


それでも、仲間への想いに偽りはない。



唐突に、遊馬は理解した。

遊馬はただ縋っていただけ。
「九十九遊馬」として生きながらも過去に執着していたから、デュエルをしなかった。


だが、過去を見ているだけではいけない。


未来へと進むために剣を捨てたというのに、今は過去を懐かしんで剣を握らなかっただけ。


「……すまない、相棒。皆」
これでは泣きながら送り出してくれた彼らに顔向けができない。


……ならば。


手にした鍵を、扉の隙間に差し込む。
そこが鍵穴であったかのように、自然に鍵がはまった。


扉の隙間から青白い光が漏れ出す。


「くっ!」
何故か遊馬は後ろに弾き飛ばされた。

尻餅をつくことは逃れ、扉の向こうを見透かすように目を細める。


鎖が砕け、音をたてて扉が開いていく。


次の瞬間、遊馬は100枚はあろうかというカードに包まれていた。



だがそれもつかの間、カードが飛び散り……遊馬はあの駅前広場に戻ってきていた。



「今のは……」

右手に固い感触。
はっとして見てみると、元通りになった鍵を握っていた。


「ぐおお……」
そんなうめき声が聞こえ、遊馬は声の主……シャークを見る。
「何だ……力が……、漲る……。ぐおおおおおおおお!」
シャークが衝動に任せて叫ぶ。

その叫びに反応するかのように、ビッグ・ジョーズとスカル・クラーケンが光となった。

「オレはレベル3のビッグ・ジョーズと、スカル・クラーケンをオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

光が渦となり、消えた。
エクシーズ召喚だ。

「来い、『No.17 リバイス・ドラゴン』!」
17という数字と共に、シャークのフィールドに固い鱗を持った龍が現れる。


リバイス・ドラゴン:ランク3 水属性 ドラゴン族 攻撃力2000


「ナンバーズ……!?」
「じゃあ、何なの!?」
「分からねえ……。あれはオレの時に呼んだモンスターじゃない!」

「1ターンに1度、オーバーレイユニットを使うことで、リバイス・ドラゴンの攻撃力は500ポイントアップする!」
「何!?」
シャークがスカル・クラーケンを墓地に送ると、リバイス・ドラゴンが周囲を飛ぶ青い光をひとつ食べた。


リバイス・ドラゴン:2000→2500


「まだだ! オレはマジックカード『アクア・ジェット』を発動! このターンのエンドフェイズまで、水属性の攻撃力を1000ポイントアップ!」

「出た!」
「シャークさんのマジックコンボだ!」



リバイス・ドラゴン:攻撃力2500→3500



これでビッグ・シールド・ガードナーの守備力を超えた。
「もう勝負は決まったな!」


アクア・ジェットの効果は1ターンとはいえ、遊馬の手札に攻撃力2500を超えるモンスターはいない。


……だが、手がないわけではない。


『このデュエル、勝つぞ』


遊馬の闘志に答えるかのような声がした。

傍らを見ると、いつの間にか青く光る体の少年がいた。
目は左が金。右が……白の、オッドアイなのだろうか。体のあちこちに緑色の文様や、装飾を身につけている。

「お前は……?」
『アストラル。……記憶が確かなら』
「記憶が……?」

ということは記憶喪失なのだろうか。

「どうしたの、遊馬」
「なに独り言言ってんだ?」
「お前ら……見えないのか?」
そうアストラルを示す。
「え? ……誰かいるの?」
「あいつまさか……ビビりすぎて変になっちゃったんじゃねえか?」

どうやら2人には見えていないらしい。

だが確かにここにいる。

「……オレにしか見えてないようだな」
『そのようだ。……どうやら私は記憶を失っているらしい。恐らくこの世界に来るとき、何かの衝撃で飛び散ったと推測できる』

ふと先ほど見たあのカードの飛散するシーンを思い出す。

「記憶が飛び散る……? 忘れる、じゃないのか……?」

「大丈夫かなぁ、遊馬……」
「……やっぱり無茶だったんだ、シャークにデュエルで勝つなんて」
「鉄男君まで弱気にならないでよ! このデュエルにはあなたと遊馬のデッキがかかってるのよ! シャークなんかに奪われてたまるもんですか……しっかりしなさいよ、遊馬ー!」
「……ああ、そうだったな」

詮索は後。今はデュエルだ。

シャークに視線を向ける。

シャークからは紫色のオーラが立ち上り、手の甲には17の文字が浮かび上がっている。


「行け、リバイス・ドラゴン! バイス・ブレス!」

リバイス・ドラゴンがビッグ・シールド・ガードナーへと襲い掛かる。


だが、これで分かったことがある。

シャークは遊馬を舐めている。
それもそうだろう。今まで遊馬はデュエルというものをほとんどしてこなかった。
だからデュエルの駆け引きも知らない、素人だと判断している。

でなければリバースカードを警戒する素振りを見せず、攻撃宣言をするはずがない。

「リバースカードオープン!」
遊馬は発動させたのは最初のターンに伏せたカード。

「『マジカルシルクハット』!」
ビッグ・シールド・ガードナーの姿が消え、代わりに遊馬のフィールドには3つのシルクハットが現れる。

そしてリバイス・ドラゴンのが攻撃したのは空のシルクハット。

「オレは場に1枚のカードを伏せて、ターンエンドだ! ……お前のデッキを奪ってやる!」
舌打ちをして、シャークはターン終了を宣言した。
そしてシルクハットも消える。


リバイス・ドラゴン:攻撃力3500→2500


『ナンバーズ……』
アストラルが呟く。
『奴に関する重要な記憶があったはず……私の本能が、このデュエルに勝てと言っている』
「へぇ。お前、デュエルを知ってるのか」
『そう……私はデュエリスト。私のターン!』
「オレのターン、ドロー!」

ポーカーフェイスを保ち、遊馬はドローする。

その瞬間、光の剣がリバイス・ドラゴンの身動きを封じた。

「なっ……!」
「魔法カード、『光の護封剣』を発動させてもらったぜ」

ニヤリと遊馬は笑い、ドローしたばかりのカードをシャークに見せる。

「光の護封剣だと……!? だが、3ターン凌いで何になる!」

『ゴゴゴゴーレムを守備表示でセット!』
「ゴゴゴゴーレムを攻撃表示で召喚!」
地割れからゴゴゴゴーレムが現れた。


ゴゴゴゴーレム:レベル4 地属性 岩石族 攻撃力1800


確かに守備表示ならばゴゴゴゴーレムは1回の攻撃に耐えられる。だが遊馬はあえて攻撃表示で召喚する

『攻撃力1800では、奴のモンスターには勝てない』
「分かっている。だが、次のターンリバイス・ドラゴンの攻撃力は3000に上がってしまう。
……手札から『破天荒な風』を発動! 攻撃表示のモンスター1体の攻撃力を、次の自分ターンまで1000ポイントアップさせる!」


ゴゴゴゴーレム:1800→2800


「遊馬、チャンスよ!」

「ゴゴゴゴーレム! リバイス・ドラゴンを攻撃!」


シャーク:4000→3700


だというのに、リバイス・ドラゴンはフィールドに残っている。

「なっ……!?」

「ライフは削れたのに……どうして倒せないの!?」
小鳥が鉄男に掴みかかる。

「おおっと、言ってなかったな。ナンバーズはナンバーズでなければ倒せない」
「なっ……!」

遊馬はナンバーズどころかエクシーズモンスターさえ持っていないというのに。
これではリバイス・ドラゴンを倒せない。

「……ターン終了だ」
これで倒せなかったのは大きい。
「オレのターン!」
シャークの表情に苛立ちが走る。

「リバイス・ドラゴンの効果発動! オーバーレイユニットをひとつ墓地に使い、攻撃力を500アップ!」


リバイス・ドラゴン:攻撃力2500→3000


『……思い出した。ナンバーズとは、私の記憶のピース! ナンバーズとはモンスターエクシーズの中でも特別なカード。この世界のカードでは倒すことが出来ない。そして、ナンバーズ同士でのデュエルでは、勝者は敗者のナンバーズを吸収する』
「……もしかして、この勝負に負ければお前が消えるということか?」
遊馬はナンバーズを持っていない。

この場合ナンバーズに該当するのがアストラルだとしたら……。

『そういうことだ』
「……なら、尚更勝たなくちゃな」

「……いい加減諦めるんだな! 光の護封剣の効果も、あと2ターンだ!」

遊馬の前には攻撃力3000のモンスターが。


思わず『あの時』のことを思い出し、笑みを浮かべる。

あの時も、攻撃力3000のモンスターが立ち塞がった。
それでも勝てたのは仲間の存在がいたのと……


「何がおかしい!?」
「教えてやるぜ……真のデュエリストは、どんな逆境にあっても絶対に諦めないのさ!」


その仲間に諦めないということを教えられたから。


そして遊馬のデッキには、まだ逆転の手は残されている。

「諦めない……その言葉を聞くとイラッとするぜ」
シャークの目の揺らぎが強くなる。



ゴゴゴゴーレム:攻撃力2800→1800



「オレのターン!」
引いたカードを見て、遊馬は目を細めた。

どうやら心配性は治らないらしい。

『条件は揃っている』

遊馬のフィールドには守備表示のビッグ・シールド・ガードナーとゴゴゴゴーレムが。

『ビッグ・シールド・ガードナーとゴゴゴゴーレムをオーバーレイだ』

オーバーレイ。その単語が意味するところは。

「まさか……エクシーズ召喚!?」
『エクストラデッキを見ろ』
そう言われ、遊馬はすぐにエクストラデッキを確認する。

そこには今まで見たことのないカードが。

「これは……!」

しかしテキストが読めない。
ヒエラティック・テキストでもないようだ。

『No.39 希望皇ホープ。キミに与えられた力だ』

あの扉でのことを思い出す。
これが与えられた『力』だというのなら、代償として失うものは……?

だが今はデュエルに集中するべき。

「分かったぜ……。ビッグ・シールド・ガードナーとゴゴゴゴーレムをオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

「『現れろ、No.39 希望皇ホープ!』」
遊馬とアストラルの声が重なる。

39の文字と共に希望皇ホープが姿を現した。



希望皇ホープ:ランク4 光属性 戦士族 攻撃力2500



「ナンバーズ、だと……!?」
シャークが茫然として希望皇ホープを見上げる。

『これが、唯一リバイス・ドラゴンを倒せる切り札……希望皇・ホープ』

「またナンバーズが!?」
「希望皇、ホープ……? 遊馬……あんなカード持ってたんだ……」
だが驚いているのはシャークだけではない。小鳥と鉄男もだ。

「リバースカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
「……ナンバーズを呼ぼうと、お前は敵じゃない! オレのターン!」
すぐに立ち直ったシャークがドローをする。

確かに、希望皇ホープの攻撃力は2500。これではリバイス・ドラゴンを倒せない。

「オレは手札から『浮上』を発動! このカードは、墓地の水属性モンスターを守備表示で特殊召喚する! 甦れ、ビッグ・ジョーズ!」
どうやら光の護封剣を消すカードはドローできなかったらしい。舌打ちをして、シャークは魔法マジックカードを発動させた。


ビッグ・ジョーズ:守備力300


「さらに、オレはビッグ・ジョーズをリリースして、ジョーズマンをアドバンス召喚!」


ジョーズマン:レベル6 水属性 獣戦士族 攻撃力2600


「このカードの攻撃力は、自分フィールドにあるこのカード以外の水属性モンスター1体につき、300ポイントアップ!」
シャークのフィールドには水属性であるリバイス・ドラゴンがいる。


ジョーズマン:2600→2900


「残り1ターン……いい加減諦めろ!」
「……お前こそ、どうしてそう諦めさせたいんだ?」

どうして何度も遊馬に「諦めろ」と言うのか。

「シャーク……その言葉、まるで自分に言ってるようだぜ」
「っ……!?」
シャークが遊馬を睨む。

どうやら図星らしい。

「オレのターン、ドロー!」
ドローしたカードを見て、遊馬は笑みを浮かべる。
『……勝利のピースが揃った』
アストラルも、ドローしたカードの意味を理解した。

「オレは、手札からマジックカード『古のルール』を発動する!」

古のルール。手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚するカードだ。

遊馬が召喚するのはもちろん……

「来い、我が最強の僕! 『ブラックマジシャン』!」


遊馬が「遊馬」と呼ばれる以前から付き従ってくれている僕がフィールドに現れ、ホープと並ぶ。


ブラック・マジシャン:レベル7 闇属性 魔法使い族 攻撃力2500


「馬鹿か! ジョーズマンの攻撃力は2900! 攻撃力が足りないぜ!」

もちろんそれくらい遊馬だって分かっている。

「バトルだ! 希望皇ホープ、リバイス・ドラゴンに攻撃しろ!」

「どうして!?」
「何で攻撃力の低いホープで!?」

希望皇ホープの攻撃力は2500。リバイス・ドラゴンには届かない。
だが、遊馬には伏せているカードがある。

「リバースカードオープン! 『ブラック・スパイラル・フォース』! このカードは自分フィールド上にブラック・マジシャンが存在するとき、自分フィールド上に存在するモンスター1体の攻撃力を倍にする! オレが選択するのは……希望皇ホープ!」

「何だと!?」
この攻撃が通れば、リバイス・ドラゴンは倒されてしまう。


希望皇ホープ:2500→5000


だが。


「オレの伏せカードをまったく警戒しないとはな。トラップ発動!」

『ポセイドン・ウェーブ』
相手モンスターの攻撃を無効とし、自分フィールド上に存在する水属性モンスター1体につき800ポイントのダメージを与えるカードだ。

それはシャークが最初のターンに伏せていたカード。

ホープの握る剣が霧散した。
「これでオレにダメージを与えられない! トラップが無駄になったな!」
「それはどうかな?」

それも、計算通り。
だから遊馬は勝利を確信した。

「あんたが攻撃を無効化するカードを伏せていたことくらい、読んでいたさ! オレは、手札から速攻魔法『ダブル・アップ・チャンス』を発動するぜ!」
「速攻魔法だと!?」

ダブル・アップ・チャンス
モンスターの攻撃が無効になったとき、攻撃力を2倍にしてもう1度攻撃できる速攻魔法。


つまり……。


希望皇ホープ:5000→10000


「攻撃力、10000だと……!?」

「『行け、希望皇ホープ! リバイス・ドラゴンに攻撃!』」
遊馬とアストラルの声が重なる。


「『ホープ剣・スラッシュ!』」


「うわあああああ!」





シャーク:3700→0





「遊馬が……」
「勝った……?」
鉄男と小鳥は顔を見合わせ……抱き合った。

だが反対に、
「あんな奴に負けるようじゃ……」
「落ちぶれたぜ、シャーク!」
シャークの取り巻き2人が逃げ去っていった。






シャークが差し出したのは鉄男のデッキ。
「約束だ」
「確かに、返してもらうぜ」
「九十九遊馬……覚えておくぜ」
シャークが背中を向ける。

「シャーク……また、やろうぜ」

何故か自然と、そんな言葉が口を出た。

シャークの返事はなかったが……いつかまた、シャークとデュエルする予感を遊馬は覚えていた。




----------------------------------------------------------------
遊戯王から遊馬へ転生モノです。

遊馬の中の人があの人……ということなのです。

もちろんただのネタです。

何しろデュエルの組み立てが難しくて……。ほぼアニメ沿いでしか書けません。
カードの効果も何度も確認しながら書いていますが、間違っていたらご容赦を。


それでは、失礼しました。



[28565] VS委員長 少しやりすぎた……か?
Name: りお◆e4a4d4a0 ID:575cb3f2
Date: 2011/06/29 15:22
「そういえば、まだ名乗ってなかったな。オレは九十九遊馬だ」

そう、少年は年に似合わぬ達観したような笑みを見せた。





「……つまり、お前の記憶を取り戻すためにはナンバーズを集めないといけない、というわけか」
アストラルから話を聞き、遊馬は自室で深々と息を吐いた。

相手が他人には見えないということは、外で会話すると独り言を言っているようにしか見えない。
そのことは身を以て体験済みだ。

「……まさか、3000年前の人間……だったりしないよな?」
『?』
「いや……違うならいい」
自分でもあり得ないと分かっていながら訊いてしまったのだ。
話を逸らすという意味で、遊馬は別のことを訊く。
「しかも、お前の行動範囲は狭い、と」
『離れたくても離れられないのだ。私の記憶が完全に戻れば、その方法も分かるかもしれないが』
「そのためにはナンバーズが必要。結局はそこか……」
遊馬は手に入れたばかりのモンスターエクシーズ2枚とエクストラデッキから引き抜く。
「ナンバーズは99枚。今オレの手元にあるのは希望皇ホープとリバイス・ドラゴンの2枚。残る97枚。……先は長いな」
息を吐いて、遊馬はアストラルを見上げる。
「……なあ、アストラル」
『何だ』
「この、ナンバーズ……他人が持つとどんな影響が出る?」

その眼光は鋭く、シャークを……いや、リバイス・ドラゴンと対峙していたときのものと同じだった。

『……人格が変化し、凶暴になることがある』
「やはりな」
遊馬はエクシーズをエクストラデッキに戻し、デッキケースを机の上に置いた。
「いいぜ、協力してやるよ。ナンバーズの回収、やってやるぜ」

遊馬は決意を込めて、アストラルに言った。

記憶がないというアストラルを放ってはおけないし、持ち主を凶暴化させるナンバーズも放置できない。

それに、遊馬はかつての自分と……記憶も肉体もなく、相棒の肉体を借りるしかなかったあのときの自分と重ねているのだ。

「だが、今日は夜も遅い。……オレは寝るぜ」


こうして、遊馬とアストラルの初日は過ぎていった。








翌日も何事も無く過ぎていく。
アストラルという他人には見えない存在が加わろうとも、遊馬の生活はそこまで変化しなかった。

だがアストラルは人間の生活というものがよく知らないらしく、ことあるごとに聞いてくる。
その度に遊馬は答えてやるのだが……独り言が増えたと他人には認識されてしまうだろう。


遊馬、小鳥、そして鉄男は3人揃って下校していた。


2人は未だシャークとのデュエルの興奮が冷めていない。

「でもよぅ、どうして遊馬は今までデュエルしなかったんだよ」
「……またその話題か」
何度も鉄男は同じことを訊いてくる。
「言っただろう。やりたくなかったからだ」
「だってよ、あんなに手慣れてたじゃねえか」
「あのシャークにノーダメージ、だもんね」
「……引きが良かっただけだ」

あそこで≪光の護封剣≫を引いていなくても、ホープの効果を使って無効化していただろうが。

『観察結果その2、君は引きが強い』
しかもアストラルがいつの間にか観察をしている。


「うわあああああああ!」

もうすぐ家に着く、というときにそんな悲鳴が聞こえた。

「何だ!?」

しかも遊馬の家から。

すぐに遊馬は家に駆け込み、靴を乱暴に脱ぎ捨てる。

「どうした姉さん!」

あまり入らない姉の部屋は赤く染まっていた。
画面の全てに『ERROR』と出ているのだ。

「き、消えた……消えた、消えた……システムにウイルス……締切まであと1時間……」
自宅記者をしている姉の明里だが、どうやら原稿のデータが消失したらしい。
あまりのショックで茫然自失している。

「お、落ち着け姉さん……」
「配信落ちる~……」

まずい。
こうなった時の姉は……。

「姉さんがこうなったときは……」
「逃げた方がいいわね」
「おうっ!」
付き合いの長さ故、小鳥と鉄男もこうなったときの明里がどう出るか知っていた。

しかし、遅かった。


「遊馬! 今すぐ特ダネ見つけてこい!」


そんな叫びが家中に響き渡った。










姉に命令されるがまま、遊馬たちは街に出る。
「ああなった姉さんは手がつけられないからな……」

そのせいで、何度大変な目に遭わされたか。
特ダネのために危険な場所に放り込まれたり、大変な作業をさせられたり。

そのことを思い出し、遊馬は天を仰ぎ……嫌でも混んでいる道路が目に入った。

「……それにしても、渋滞が多くないか?」
今までここまでの渋滞は見たことがない。
「ああ」
「信号も全部赤になってるし、モノレールも停まってる」
しかも側の自動販売機からは缶ジュースが飛び出してきた。

その飛び出した缶を拾うため、お掃除ロボットが集まっくる。

『オソウジ、オソウジ』

まだプルタブの開いていない缶を拾い集めていくロボットたち。

「わっ!」
横を見たら、鉄男がお掃除ロボットに捕まっていた。
「鉄男君!?」
「だ、大丈夫か!?」

慌てて2人は鉄男救出にかかった。








『本日街で起きたシステムダウンについてですが、原因は』
力なく、明里がテレビを切る。
「原稿消えた……」

本日の夕食。
白飯に豆腐とワカメの味噌汁。そして秋刀魚の塩焼き。
そして野菜のサラダ。

九十九家では家族揃って夕食を取るのが通例だ。だから明里も、どんなに忙しくても食卓には来る。
遊馬はテーブルの上に放置されたチャンネルを取り、またニュースをつけてから手を合わせる。

「頂きます」
「配信落ちたのよ!」
「姉さん、ニュースが聞こえない」
「私も、ロボットに捕まっちゃって」
春が笑いながら言う。

こうして無事だったのだから、笑い事で済んでいるのだろう。

「へー、何それ?」
だが明里にとっては初耳だったらしい。

それだけ原稿が落ちたショックが大きいのだろう。

「ほら、このニュース」
遊馬はテレビ画面を示す。

この技術も、遊馬が過ごした世界からは考えられない。数十年後だったら実現できていたのだろうか。

『――響により交通機関が麻痺しましたが、現在は復旧しているとのことです。被害は個人データにまで及んでいるとのことですが、データ流出、書き換え等がされた痕跡はなく……』

「今はようやく戻ったようじゃな」
「そう……データが落ちたのは私だけじゃなかったのね」
「姉さん……?」

嫌な予感がする。
デュエリストとしてではなく、この人の弟を12年やってきた予感だ。

「……臭うわね」
春なんてわざとらしく着物の袖の匂いを嗅ぐ。
「ちっがーう! これは事件の臭いよ! こうしちゃいられない! エネルギー補給!」
とっさに遊馬は自分の秋刀魚を死守した。

ガキン!

箸がテーブルに勢いよく叩きつけられる音。
どうして遊馬の秋刀魚を取ろうとしたのだろう。

「……姉さん、自分の食べてくれ」
「早く調べなくちゃ!」
気を取り直して自分の秋刀魚を取った明里は、すごい勢いで骨のみとしていった。

『これが人間のエネルギー補給方法か』
遊馬の後ろでアストラルが呟くのが聞こえたが、悪いが無視。今は食事の時間だ。













アストラルは睡眠を必要としない。
遊馬が寝ている横でただ佇んでいる。

大切な使命があったはず。その使命を果たすため、遊馬に乗り移るはずだった・
だというのに記憶は99枚のカードとなり飛び散ってしまった。
ナンバーズを集めない限り、記憶は戻らない。

しかもナンバーズには乗り移った人間をコントロールする力があるらしい。

No.17リバイス・ドラゴンは間違いなくシャークに乗り移っていた。だというのにアストラルは遊馬に乗り移れない。

まるで『何か』に阻まれたかのようだ。

そのとき、アストラルの目に遊馬が普段から首に下げている鍵が留まる。

何気なく手を伸ばし……アストラルの姿は遊馬の部屋から消えた。










朝起きたらアストラルがいなかった。
遊馬から離れられないと言っていたのに、どこに行ってしまったのだろう。

そんなことを考えていると、数学教師である担任、北野右京が朝のチャイムと共に入ってきた。
「はい皆さん聞いてください。昨日の通信事故で学校のホストコンピューターがダウンしてしまっているため、教科書が使えません」
言われて教科書のデータを開いてみると、確かに教室の黒板同様に赤い画面と『ERROR』の文字が出ていた。

これだから、データでの授業は嫌なのだ。
確かに紙の教科書やノートは嵩張るし重い。でも書き込む楽しみというのもあったのだ。

それに、石版に比べたら紙は薄いし軽い。

「事故の原因は不明で」
「はい、それは僕がお答えします」
そう言って教師の前に出たのは学級委員長である等々力孝。
「おお、委員長。何か分かったのかな?」
「はい! この僕のプログラムスキルを持ってすれば余裕のことで、トドのつまり、昨日の事故は誰かが街のホストコンピューターに侵入したことが原因で、僕はそれを自力でつきとめてみせます!」
孝は、クラスの前でそう宣言したのだ。
「凄いな、委員長。……でも、今日の授業は何も出来ないからなあ……そうだな……デュエル大会でもしよっか」

とたん、クラス中が沸いた。

「やったー!」
「さっすが右京先生!」
「話が分かるぜ!」

この先生、生徒にも優しくデュエルが好きということで人気があるのだ。

今までも自習時間にはよくデュエル大会をしている。
遊馬としてもデュエルを見ているだけで楽しかったので、純粋にデュエル大会というのは嬉しくもあった。

「せっかくの僕のオンステージが……」
ただ、前に立った孝だけは恨みを篭った目で右京を見る。

どうやらデュエル大会で自分の演説が忘れられるのが嫌らしい。

「こうなったら……遊馬君! トドのつまり、僕とデュエルです!」
「……オレと?」
完璧に傍観者でいた遊馬は、突然指名されて虚を突かれた。
「何故だ?」

今まで遊馬はデュエルをしないということで、誰にも誘われなかったというのに。

「遊馬君! 君がシャークに勝ったという噂は本当ですか!?」
「……ああ」
どうやらその噂がいつの間にか広まっていたらしい。

シャークの取り巻きが喋ったのか、それとも……。

ちらりと小鳥と鉄男を見ると、鉄男の方が気まずそうに視線を逸らした。

「へへっ……ちょっと口を滑らせたらあっという間に噂が広がってな……」
どうやら発信源は鉄男らしい。
「信じられません! 今までデュエルをしなかった遊馬君が!」
「本当よ! 私も証人だもん!」

小鳥も証言したことで、孝が笑う。

「……なるほど。ではこのデュエルに勝てば、トドのつまり僕はシャークより強いということですね!」
「そいつはどうかな? ……シャークだって、あれから強くなってるだろうぜ」
1度負けたからには、シャークは遊馬の対策をしてくるだろう。
もちろん、次のデュエルも勝つつもりでいるが。

デュエルディスクとD・ゲイザーをセット。


「「デュエル!!」」


遊馬:4000
孝 :4000


「僕の先行でいきます、ドロー!」
手札を見て、孝は顔を歪める。
どうやら思い通りのカードが来なかったらしい。

まだ初ターンだというのに。

「僕は≪バグマン≫を守備表示で召喚します!」


バグマン:レベル1 闇属性 悪魔族 守備力600


「リバースカード1枚セットし、ターンエンドです!」
「オレのターン、ドロー!」

念のためにエクストラデッキを確認するが、やはりナンバーズはいない。

どちらにせよ、使うつもりはないが。

「オレは手札を1枚捨てて、手札から≪THE・トリッキー≫を特殊召喚する!」


THE・トリッキー:レベル5 風属性 魔法使い族 攻撃力2000


「そして、魔法マジックカード、≪早すぎた埋葬≫を発動!」
墓地から甦らせるのは、今墓地に送ったばかりのカード。
「甦れ、≪クイーンズ・ナイト≫!」


遊馬:4000→3200
クイーンズ・ナイト:レベル4 光属性 戦士族 攻撃力1500


「さらに手札から≪キングス・ナイト≫を通常召喚する!」


キングス・ナイト:レベル4 光属性 戦士族 攻撃力1400


「クイーンズ・ナイトがフィールド上にいるときにキングス・ナイトの召喚に成功した場合、デッキから≪ジャックス・ナイト≫を特殊召喚する!」


ジャックス・ナイト:レベル5 光属性 戦士族 攻撃力1900


「そんなっ……!?」
まさか1ターンでフィールドに4体ものモンスターが揃うとは思わなかったのだろう。孝は驚いて、モンスターを指差している。
「バトルだ! キングス・ナイトでバグマンに攻撃!」

キングス・ナイトの剣がバグマンを切り裂く。

「っ、トラップを発動します! ≪血の代償≫! 僕はライフを500払い、手札から≪バグマンZ≫を召喚します!」


バグマンZ:レベル3 闇属性 悪魔族 守備力1500


「さらに、ライフを500払い≪バグマンY≫を召喚! このカードが召喚に成功したとき、自分フィールド上にバグマンZが表側表示で存在するとき、トドのつまりデッキから≪バグマンX≫に特殊召喚します!」


  孝  :4000→3000
バグマンY:レベル3 闇属性 悪魔族 守備力1600
バグマンX:レベル3 闇属性 悪魔族 守備力2000

「……なら、THE・トリッキーでバグマンYに攻撃!」
まずはバグマンYが破壊される。
「ジャックス・ナイト! バグマンZを破壊しろ!」
そしてバグマンZまで。

だが孝のフィールドには守備力2000のバグマンXが残っている。これではダイレクトアタックが出来ない。
だから孝は≪血の代償≫でライフを払いながらも、バグマンXを特殊召喚したのだ。
ダイレクトアタックによるダメージよりも、カード効果でライフを払った方がダメージは少ない。

そう計算してのことだろう。
だが、遊馬の手札にはこのカードがある。

「速攻魔法、≪ディメンション・マジック≫を発動する!」
THE・トリッキーが断頭台にかけられる。
「自分フィールド上に存在するモンスター1体をリリースし、手札から魔法使い族モンスターを1体特殊召喚する! オレはTHE・トリッキーを墓地に送り、手札から2体目のTHE・トリッキーを特殊召喚!」

THE・トリッキーの代わりに現れたのは、また別の≪THE・トリッキー≫。

「そして、フィールド上に存在するモンスターを1体破壊! オレが選ぶのは≪バグマンX≫だ!」
バグマンXが破壊される。

これで孝のフィールドはがら空き。

「行くぜ! クイーンズ・ナイト! ダイレクトアタック!」
孝が≪血の代償≫を発動させる雰囲気はない。

どうやら手札にモンスターカードが存在しないようだ。最初に焦っていたのはモンスターが手札に少なかったからだろう。


孝:3000→1500


「THE・トリッキー!」


孝:1500→0


これで遊馬の勝利だ。

やってしまってから、遊馬は少しだけ反省した。
勢い余って後攻1ターンキルをしてしまったのだ。手加減するのは苦手なのだが、学校では少し手を抜いた方がいいのかもしれない。

案の定、孝は膝をついてしまっている。

「……そんな……僕が……」
「委員長」
項垂れる孝の肩に、右京が手を置いた。
「人生もデュエルも同じだ。計算通りになんていかない。失敗したことで学べばいいんだ。失敗なんて……『バグマン』に食べてもらえばいいんだよ」
そう、右京は孝のフィールドからバグマンのカードを取る。
「バグマン。人々のバグを食べている電子の妖精。食べ過ぎたバグのせいでたまに巨大化する……。満月の夜にその姿を見た者は幸せになると言われている」
「先生! トドのつまり、そんなの本当にいるわけないじゃないですか!」
「……いるさ、きっと」
右京が微笑む。
「え……?」
だがそれが孝には信じられないのだろう。
「……今は負けてもいいんだ。そこから学べばいい」

こうなる原因を作ってしまった遊馬が思うことではないかもしれないが……なかなか良いことを言う先生だ。









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感想に続きを望むとの書き込みがあり、書いてみることにしました。
お陰様で続きを書き上げることが出来ました。この場にて皆様にお礼を申し上げます。


今回はアニメ第3話の前半。描写のなかった委員長とのデュエルを書いてみました。
ZEXALでは新カードでほぼデュエルが構成されてますが、今回は委員長に以前からある『血の代償』を使ってもらうことにしました。……攻撃力ゼロのバグマンXが攻撃表示でフィールドにいて、どうやって勝ったのか不思議です。


現在続きを執筆中です。とりあえずアニメ9話までは考えています。それ以降は今のところ未定です。





[28565] ウイルス爆弾起動を阻止せよ
Name: りお◆e4a4d4a0 ID:575cb3f2
Date: 2011/07/02 18:57
下校途中、遊馬の前に赤い車が停まった。見覚えのある車だ。
「ハァイ、遊馬」
「姉さん……」
「2人とも、ちょっとドライブしない?」
こうして遊馬と、たまたま一緒にいた小鳥はドライブ連行されることとなった。




「昨日の事件で撒かれたコンピューターウイルスは極僅かだったから良かったけど、もしそれが大量に撒かれていたとしたら街は大パニックになっていたかもしれない」

確かに、今回は信号や自動販売機だけで済んだから良かったのだ。
銀行のデータが消えたり株が暴落して大恐慌にでも陥ったら、経済が立ち直るのに年単位の時間がかかる。
病院のシステムが書き換えられたら、もっと直接命に関わるのだ。

「……で、姉さんはオレたちに何をさせたいんだ?」
「流石遊馬。話が早いわね。……それが、コンピューターウイルスは、学校の図書館から発信されていたの」
「なっ!?」
「ええ!?」
2人の叫びが重なる。
「そこで、2人に図書館を見張ってほしいの。犯人が現れる可能性は高いわ」

車が学校の前に停車した。

「何だか面白そうね」
「……そうか?」
「つべこべ言わない! 私の記事が消されたのよ! 犯人を見つけたら空手でケチョンケチョンにしてやる! 黒帯なんだから!」
こう見えても明里は空手の有段者。犯人はただではすまないだろう。

「……頼むから、大人しくしていてくれ」
犯人の身の安全のためにも。






図書館のパソコンコーナーに犯人は必ず現れる……らしい。
「もう、ちゃんと見張りなさいよ!」
小鳥は本棚に隠れてパソコンコーナーを見張っていた。

だから、親切にも遊馬は言ってやることにした。

立ち読みしていた本を閉じ、小鳥を見る。
「……小鳥。お前の方が不審者だ」
「え?」
「図書館でじっとパソコンコーナーを見ているのも怪しいだろ? 本を読みながら監視していればいい」
「……それもそうね」

しかも嬉しいことに、図書館は紙の本を使っているのだ。
お陰でウイルスの難を逃れている。



待つこと数時間。
「……もうそろそろ閉館時間だわ」
小鳥が時計を見て、読んでいた本を棚に戻した。
「……小鳥」
遊馬が小鳥を小突く。

利用者のいないパソコンコーナーにやって来た生徒がいるのだ。

「あれって……」
「委員長」

等々力孝はパソコンを操作し、何かを取り出す。

「あれは……データスティック!?」

それを差し込んだ。

「うわああああ! まさかこれって……!?」

「委員長」
遊馬が後ろから孝の肩に手を置く。
「何をやっているんだ、委員長」
孝の肩越しにパソコンの画面を見れば、そこにはどこかで見覚えのあるキャラクターが。
それに気づき、孝がものすごく慌てる。
「ち、違います! 僕は犯人じゃありません! 利用されたんです!」
「利用された……だと?」
仕方なく孝を解放する。

すると孝は席に座り直し、パソコンの操作を開始した。

「犯人を追尾してるんです。このマシンで外部からアクセスした場所を探し出せばきっとそこに犯人が……くっそー! ここから調べれば犯人が分かるというデータファイルが届いて、僕はそれがウイルス爆弾を起動させるインストールファイルとは知らずに街にウイルス爆弾を撒いてしまったんです!」

それは知らない人間にはついていってはいけない、というレベルではないのだろうか。

そう思いつつも遊馬は口を出さなかった。
遊馬にパソコンの専門スキルはない。黙って孝の解析結果を待つことにし。






図書館を出て、遊馬はすぐに明里に連絡を取る。
『ウイルス爆弾が起動した!?』
「ああ。これから犯人を捕まえに行く! 姉さんは爆弾を頼む!」
それだけ言って通信を切る。

下手に追及されたくない。

図書館を出たときは菫色だった空も、今はすっかり暗くなっている。
いつシステムトラブルが起こるか分からない以上車を使いたくないので、ここまで走ってきたのだ。

そのせいで小鳥と孝はすっかり息を切らしている。

それは遊馬も同じだったが、2人よりはマシ。

そこは建設中のタワーだった。
「この中なんだな」
「はい、確かです」

3人が部屋に入ったとたん、扉が閉じる。

「!」

「驚いたな……色々とくっついて来たのか」

そこにいたのは担任の北野右京だった。

「まさか……先生が?」
「え、えー!? それってトドのつまり、右京先生が犯人ってことですか!?」
「まあ、そういうことだ」
周囲の機械が起動する。
「そんな……先生!」
小鳥も信じられないというように叫んだ。
「委員長がここを突き止めることは想定済みだ」
「トドのつまり……これも罠!」
「君が撒いてくれたウイルス爆弾は、後30分で作動する」

タイマーが動き出し、刻一刻とカウントを少なくしていく。
30から始まったそれは、ウイルス起動までのカウントダウンだ。

「君に、私のウイルス爆弾が作動するところを見てほしかったんだよ」
「それじゃ僕は……共犯者!?」
「フッフフフ……アッハハハハ!」
右京が眼鏡を外し、ネクタイを緩める。

そのとき、遊馬は見た。

右京の首筋に34のマークがあるのを。

「ナンバーズ……!」
『あれは……ナンバーズの刻印!』
突然遊馬の横にアストラルが現れる。
今までどこにいたのか知らないが、今はウイルスのことが先決だ。

「……先生、デュエルをしようぜ! デュエルで買ったらウイルス爆弾を止めろ!」
遊馬はそう言うしかない。

ナンバーズを回収すれば、右京はあの優しい性格に戻るのだから。

「デュエル……いいだろう!」

窮屈なネクタイを遊馬も緩め、D・ゲイザーをセット。

『ARヴィジョン、リンク完了』
右京、そして小鳥、孝もD・ゲイザーをセットさせた。

「「デュエル!」」


遊馬:4000
右京:4000


「頑張ってー、遊馬ー!」
「絶対に勝ってよー……でないと僕が犯人にされちゃう……」

「先行は貰う! 私のターン、ドロー! 私はモンスターを裏側守備表示でセット!」
モンスターは現れず、ただカードが横向きにセットされた。

裏側、ということはリバース効果を持つモンスターか、ホーリーエルフのように守備力の高いモンスターなのか。

「私はこれでターンエンド」
「オレのターン、ドロー!」

守備力2000のモンスターだとしたら、遊馬の手札にレベル4以下で攻撃力2000を超えるモンスターはいない。

「なら……≪ガガガマジシャン≫を召喚!」

ガガガマジシャン:レベル4 闇属性 魔法使い族 攻撃力1500

「そして装備魔法≪ワンダー・ワンド≫をガガガマジシャンに装備!」
これで装備モンスターの攻撃力は500上がる。


ガガガマジシャン:1500→2000


「ガガガマジシャンで攻撃!」
右京が伏せていたのは……。


バグマンX:レベル3 闇属性 悪魔族 守備力2000


ガガガマジシャンの攻撃は通らないが、遊馬のライフも減らない。
「……リバースモンスターじゃなかったか」
守備力の高いモンスターの方だった。

そういえば、朝に孝とデュエルしたときも孝はバグマンXを使っていた。
同じデッキ傾向だとしたら、他のバグマンも警戒しなくてはならない。

「……カードを1枚伏せて、ターン終了するぜ」
「では私のターンだ!」
右京がドローする。
「私はバグマンYを召喚!」


バグマンY:レベル3 闇属性 悪魔族 攻撃力1400


「やはり来たか……」
「続いて手札から魔法マジックカード≪バグ・ロード≫を発動! これは、お互いのプレイヤーが、自分フィールドにいるレベル4以下のモンスター1体を選択し、選んだモンスターと同じレベルのモンスターを、手札から特殊召喚できる」
右京が召喚したのは≪バグマンZ≫だった。


バグマンZ:レベル3 闇属性 悪魔族 攻撃力0


「ならオレは、≪クイーンズ・ナイト≫を選択するぜ!」


クイーンズ・ナイト:レベル4 光属性 戦士族 守備力1600


「……これで完全な勝利の布石が揃った」
満足そうに、右京が笑う。
「私は場のバグマンX、Y、Zをオーバーレイ! 3体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

『やはり来たか』
「ああ」

フィールドに34の文字が現れた。

「エクシーズ召喚! ≪NO.34電算機獣テラ・バイト≫!」


電算機獣テラ・バイト:ランク3 闇属性 機械族 守備力2900


「ナ、ナンバーズ!? 何ですか、あのモンスターは!」
知らないシリーズに孝が驚く。
「では行くぞ! 私はテラ・バイトの効果発動! このカードは1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使うことで、このターン、相手のレベル4以下のモンスターのコントロールを得る!」

テラ・バイトから伸びた光がガガガマジシャンを拘束した。

「これが完全なる私のデュエルだ!」
「ガガガマジシャン!」
ガガガマジシャンが相手フィールドに映る。
「行け、ガガガマジシャン!」

ガガガマジシャンがクイーンズ・ナイトを襲う。

だが。

トラップ発動! 攻撃の無力化!」
クイーンズ・ナイトへの攻撃が吸い込まれる。
「残念だったな。完全な勝利へは程遠いみたいだぜ」

ナンバーズを扱う相手は、凶暴性が増す代わりに視野が狭くなる傾向があるらしい。
お陰でリバースカードへの警戒が緩い。

あの時のシャークという右京といい、遊馬が伏せたカードへの警戒がなさすぎる。

「くっ……! 完全なデュエルを! 完全こそが全て! 完全さを求めるために私は街のプログラムを書き換えたというのに!」
「……世の中に完全な物なんてない!」
あの優しい先生が、ここまで豹変するものなのか」
『どうしたというのだ、遊馬』
「……心が痛いんだよ」
『観察結果その5、人間は心が痛くなる。……記憶しておこう』
「私はカードを2枚伏せ、ターンエンド!」
右京がターン終了を宣言したことにより、ガガガマジシャンが遊馬のフィールドに戻ってくる。

タイマーが25分をきる。

『ウイルス爆弾作動まで、後25分』

時間がない。
だが焦るな。

焦って目の前の敵を疎かにしてはいけない。

「オレの『私の』ターン!」

ドローしたカードを手札に加え、遊馬は別のモンスターを召喚する。

「オレは≪キングス・ナイト≫を召喚!」


キングス・ナイト:レベル4 光属性 戦士族 攻撃力1600


「礼を言うぜ、先生。……お陰で1ターン分浮いた」
本来なら最初のターンでクイーンズ・ナイトを召喚するつもりだったが、右京が裏守備表示モンスターを出したために止めたのだ。
あれがモンスター破壊を持つリバースモンスターでは、これからの作戦が成り立たなくなっていたからだ。

だがバグ・ロードのお陰で予想よりも早くクイーンズ・ナイトを召喚することが出来た。

「キングス・ナイトの効果発動! フィールド上にクイーンズ・ナイトがいるときにこのカードの召喚に成功した場合、デッキから≪ジャックス・ナイト≫を特殊召喚することが出来る!」


ジャックス・ナイト:レベル5 光属性 戦士族 攻撃力1900


「これで、絵札の三銃士が揃った」
遊馬が笑みを浮かべ、先ほどドローしたカードを発動させる。
魔法マジックカード≪融合≫発動! ジャックス・ナイト、クイーンズ・ナイト、キングス・ナイトを融合!」

エクストラデッキから融合モンスターを呼び出す。

「現れろ、≪アルカナ ナイトジョーカー≫!」


アルカナ ナイトジョーカー:レベル9 光属性 戦士族 攻撃力3800


「攻撃力3800、だと……!?」
4ターン目で強力モンスターが呼び出されたことに、右京が驚愕する。
アルカナ ナイトジョーカーの攻撃力はテラ・バイトを上回っている。

だが。

『遊馬、ナンバーズはナンバーズでしか倒せない』
アストラルが若干焦った様子で遊馬に言う。
「分かってるぜ、そんなこと。……だが、こうでもしないと同士討ちだ」

テラ・バイトの効果はレベル4以下のモンスターを対象に取る。だがアルカナ ナイトジョーカーのレベルは9。テラ・バイトの効果を受けない。

「……さらに、オレはワンダー・ワンドの効果を発動! 装備モンスターとこのカードを墓地に送ることで、デッキからカードを2枚ドロー!」
レベル4のガガガマジシャンを墓地に送ることで、遊馬のフィールドにレベル4以下のモンスターはいなくなった。

ドローしたカードを見て、迷わずそのうちの1枚をセットする。
「リバースカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

その宣言を聞き、右京が余裕を取り戻した。

「そんな! どうして遊馬君は攻撃しなかったんですか! トドのつまり、チャンスだったんですよ!」
「確か……ナンバーズはナンバーズでしか倒せない、って……」
小鳥が、シャークとのデュエルを思い出して孝に教える。
すると孝は絶望したような表情になった。
「そんな! 遊馬君はそのナンバーズを……!」
「ううん、持ってるわ。でも……」

希望皇ホープを召喚するにはレベル4モンスターが2体必要。
だというのに、遊馬は融合素材としてしまった。
それに、ホープを召喚したとしてもホープの攻撃力は2500。テラ・バイトの守備力2900を下回っている。

「うわー、まずいですよ! いくら利用されたとはいえ、ウイルス爆弾を送信してしまったのは僕! トドのつまり、僕も犯人にされちゃいますよー!」

「私のターン!」
確かに、相手のコントロールを奪えるモンスターがいないのではテラ・バイトの効果を使えない。
だが攻撃する手は他にもあるのだ。
「手札から魔法マジックカード、≪おろかな埋葬≫を発動! 自分のデッキからモンスター1体を墓地に送る。そして≪終末の騎士≫を召喚! このカードが召喚に成功したとき、デッキから闇属性モンスター1体を墓地に送る!」


終末の騎士:レベル4 闇属性 戦士族 攻撃力1400


トラップ発動、≪バグ・スイッチ≫! 自分の墓地にバグマンX、Y、Zがいるとき、守備表示モンスターを攻撃表示に変えることで≪スーパーバグマン≫を表側守備表示で特殊召喚できる!」
右京が選択するのは当然テラ・バイト。どうやら、おろかな埋葬と終末の騎士で墓地に送ったのはバグマン2体らしい。


電算機獣テラ・バイト:守備力2900→攻撃力0


「スーパーバグマンの効果発動! このカードが表側表示でいるとき、攻撃表示モンスターの攻撃力と守備力を入れ替える!」


  スーパーバグマン:レベル4 闇属性 悪魔族 守備力3000→0
電算機獣テラ・バイト:攻撃力0→2900
  終末の騎士   :攻撃力1400→1200

アルカナ・ナイトジョーカー:攻撃力3800→2500


「さらに私の攻撃だ! 行けテラ・バイト! アルカナ ナイトジョーカーに攻撃!」
「ならこっちも罠トラップを発動するぜ! ≪魔法の筒マジックシリンダー!≫」
テラ・バイトの攻撃が魔法の筒に吸い込まれ……右京へと跳ね返される。

「ぐあああああっ!」


右京:4000→1100


「よくも私のライフに傷を…っ! 私はトラップを発動! ≪ダメージ・ワクチンΩMAX≫! このカードはダメージを受けたとき、受けたダメージ分ライフポイントを回復する」



右京:1100→4000



「私が目指すのは、完全勝利だ! 私のライフには傷ひとつ負わせない!」
だが、この攻撃を防いだことは大きい。

「カードを1枚伏せてターンエンド!」
「オレのターン!」

完全勝利を目指すというのなら。ライフが減るのを許せないというのなら。
あのカードはライフ回復のためのカード。

「手札から魔法マジックカード、≪天使の施し≫を発動! デッキからカードを3枚ドローし、2枚墓地に送る!」
手札入れ替えのカード。だが真の目的は手札を墓地に送ることにある。
『これで勝利のピースが揃った』
「ああ……! ≪死者蘇生≫を発動! 墓地から甦らせるのは……≪ブラック・マジシャン・ガール≫!」
先程送ったばかりのブラック・マジシャン・ガールを甦らせる。

『はーい!』

相変わらず元気が良い。


ブラック・マジシャン・ガール:レベル6 闇属性 魔法使い族 攻撃力2000→1700


「か、可愛い……」
ブラック・マジシャン・ガールを見て孝が顔を赤らめた。
「攻撃力1700で何が出来る!」
確かに、ブラック・マジシャン・ガールの攻撃力はスーパーバグマンに遠く及ばない。

しかし。

「まだだ。手札から魔法マジックカード、≪賢者の宝石≫発動!」
ブラック・マジシャン・ガールの手に賢者の宝石が現れる。

「現れろ、≪ブラック・マジシャン≫!」
ブラック・マジシャン・ガールの隣にブラック・マジシャンが並ぶ。


ブラック・マジシャン:レベル7 闇属性 魔法使い族 攻撃力2500→2100


『お師匠サマ!』
『待たせた』

この2人がフィールドにいるだけで、こんなにも心強い。

「いくらモンスターを増やしたところで、テラ・バイトの攻撃力には届かない!」
「それはどうかな?」
遊馬が笑い、さらに手札から魔法マジックを発動させる。

魔法マジック発動! ≪千本サウザンドナイフ≫!」

ブラック・マジシャンがナイフを手にし、標的となったスーパーバグマンへと投げる。

「なっ、何……!?」
スーパーバグマンが破壊される。

  ブラック・マジシャン  :2100→2500
ブラック・マジシャン・ガール:1700→2000
 アルカナ ナイトジョーカー:2500→3800

  電算機獣テラ・バイト  :2900→0
    終末の騎士     :1200→1400


「上手い! これなら、トドのつまりスーパーバグマンの効果は消え、攻撃力と守備力が入れ替わっていたモンスターは元に戻ります!」
「しまった! テラ・バイトの攻撃力はゼロ……!」
「確かに、ナンバーズはナンバーズでしか破壊されないが、ダメージ計算は適用されるぜ」
それはシャーク戦でも分かっている。

なら、ナンバーズを使わなくてもデュエルには勝てる。

「……行け、テラ・バイトに攻撃だ!」

アルカナ ナイトジョーカーがテラ・バイトに攻撃する。

「ぐおおおおっ!?」
いくらもう1枚ダメージ・ワクチンΩMAXを伏せていようとも、この3体の攻撃は防ぎきれない。


右京:4000→0


「やった! 遊馬が勝った!」
「凄いです! 勝利です」
孝が小鳥の手を取ってくるくると回る。

タイマーは残り10分と少し残っていた。

アストラルが手を伸ばすと、右京からカードが1枚飛んでいく。

≪No.34電算機獣テラ・バイト≫だ。
そして右京の34の痣も消える。







「先生……先生……!」
「ぅう……」
小鳥に肩を何度も揺さぶられ、ようやく右京は目を覚ました。
「……私は……何を……」
「先生、ウイルス爆弾を止めてくれ」
「ウイルス爆弾……?」
右京は少しの間ぼーっとしていたが、やがて首を振った。
「……駄目だ。あれを止めることは出来ない。解除スイッチがないんだ」
「何だって!?」

カウントはこの間にも減っているというのに。




『3……2……1……』
「きゃああああ!」
「もう終わりだー!」


『ゼロ』


だというのに、街に異変はない。


「大パニックって、何の事だい?」
「……先生、街のプログラムを書き換えたんだろ?」
その言葉に、遊馬も瞠目してしまった。
「……確かに準備のときには街に予想外の迷惑をかけちゃったけど」
「じゃ、じゃあ……」

スタジアムに光が灯る。

「よし、付いた。これで完全だ」
右京がガッツポーズをした。
「皆、D・ゲイザーで空を見てみなさい」
言われた通り、遊馬もD・ゲイザーをセットし直し空を見る。


すると、空に巨大なモンスターが浮かんでいた。

「あれは……バグマン!?」
「「巨大バグマンだ!」」
小鳥と孝も声を上げた。
「……私は気付いたんだ。この街の夜景は偶然あるマトリクスコードを描いていた」
「それにD・ゲイザーが反応して、あれが……?」
「だが、そのコードは不完全だったんだ。あの建物の明かりがついていないせいで」
「先生が求めていた完全って、あれの明かりをつけることなのか!?」
「そうだけど?」
思わず孝がこける。

遊馬も脱力しつつ……安心した。

やはり先生はいつもの、優しい先生だ。

「遊馬君……これ」
孝が自分のデッキからバグマンを選び抜いた。

バグマン。
人々のバグを食べている電子の妖精。食べ過ぎたバグのせいでたまに巨大化する。
満月の夜にその姿を見た者は幸せになると言われている。


しかも、今日はその満月。
「トドのつまり、先生は皆を幸せにしたかったんですね」
『観察結果その4。私の記憶のピース、ナンバーズカード。それに触れた者は心の中の欲望や闇が増幅するようだ。記憶しておこう』






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ということでVS右京先生でした。
まさかのナンバーズなしでの勝利。


ここの遊馬のデッキですが、5:5の割合で昔のカードを入れるようにしているんですが……安定してません。デュエル毎にデッキ調整をしているということにしておいてくれるとありがたいです。正直のところまだアニメ、漫画に登場してないカードも沢山あるはずですし、把握しきれないというのが現状です。そのためどうしても昔のカードの出番が多くなります。

そして、今回BMGが初登場。
映画でBMとBMGが喋ってるのを見て、やっぱりあの2人は精霊なのだと確信してます。これからも出番があればどんどん喋らせたいという願望があったり。

委員長とのデュエルで三銃士を出したのは、右京とのデュエルの布石でもありました。
アルカナ ナイトジョーカーの効果はナンバーズも無効化できそうなので、これから出番が増える可能性大です。
……ホープの出番がその分減りそうな気がしますが。



7月2日 辻褄を合わせるためアニメには登場していないカードを使わせました。



※制限カードについてですが、現在のデッキについては適応させておりません。
 理由としては遊馬の昔のデッキがアニメ終了時(2004年)と現在では当然違うこと。そして遊馬のデッキを確認したところ、第7話で「死者蘇生」を2枚確認したことにあります。
 ご了承ください。



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