チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[27393] {習作} 悪魔との契約(なのはオリ主)
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/19 21:41
チリチリと音が聞こえる
ガラガラと崩れる音が聞こえる
バチャと液体がぶちまけられる音が聞こえる
一体何の音なのかさっぱり(さっぱり?)解らない
そうやって自分に嘘をつくが勿論現状は変わらない
意識は理解を拒むのに頭は意識を拒む
チリチリという音
それは炎が燃え上がる音
ガラガラという音
それは建物が崩れる音
バチャという音
明瞭だ

人の中に流れる赤い紅い朱いアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイアカイ

血だ


この数時間、いや数分
それとも数秒だろうか
よく解らない
とにかくもう見慣れてしまったものだ
いい加減飽き飽きする
しかし俺自身はもう動かない

動けない

動く気が起きない
別に今日は特別なことなんてなかった
ただ家族と買い物しにこの地獄
このデパートに来た
ただそれだけである
そしたらご覧の有様
デパートは一瞬で地獄に早変わり
地獄の大安売りである
ああそういえば俺の家族はどこに行ったのだろうか
今、俺は体を仰向けにして寝ている
この地獄に変わる前までは一緒にいたはずだ
そう思って力の入らない体というか首を無理やり動かして左右を見る
すると案の定
そこには物も言わなければ音も作らない見覚えのありすぎるガラクタが

一つは天井から崩れてきたコンクリートの破片に色々刺されたガラクタ
破片と言っても数メートルぐらいの大きさだが
それが男の体中に刺さっていた
そのせいか体から黒と赤が混じった内臓を吐き出していた
俺がついさっきまで父と呼んでいたものだった

もう一つは爆発をもろに受けたのか黒焦げのものだった
ジュー、ジューと肉が焼ける音がまだ聞こえる
これでは判別がつかないが距離的に見れば多分ついさっきまで母と呼んでいたものだったのだろう

何だかおかしい
何故自分はこんなにも冷めた思考をしているのだろう
ついさっきまで自分はどこにでもいる子供であった
くだらないことで笑い、泣き、怒り、悲しみ、喜び、悔しがり、楽しむ
そんな平凡な、そいでいて幸せな自分だった
何が自分を変えたのか
この状況で些か考えるのはおかしいかもしれないがかまいやしない
どうせもうすぐ散りゆく定めだろう
ならば自分がしたいことをするまで
そう思って数秒思考する
答えは簡単であった
目の前の地獄
それが俺を変えたのだろう
この地獄が俺から喜怒哀楽を奪ったのだろう
流石、地獄
地の底には相応しい
ああ
だから地獄に相応しいように俺を変えたのか
納得
では俺は既に人ではないものに変わったのだろうか
まぁ、別にどうでもいいことだ
さっきも考えたようにどうせもうすぐ消える運命(さだめ)だ
消えるものが人であろうがあるまいがそんなものは大した違いはないだろう
どうせ堕ちるところは一緒だろう
ならば足掻くだけ無駄、無駄、無駄
そう思い目を瞑る


だが世界とは皮肉なものでそう思うと全然終わる気配がない
面倒だがもう一度目を開ける
そこはやっぱり変わり映えのない世界
飽きるのを通り越してうざくなってきた
そう思うと苛立ちが募る
体が動かないのがこれでは最悪だ

ああ

むかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつく

ああ
こんなもの全て
■■してやりたい

「その願い叶えてあげましょうか」

その瞬間
目の前に立っていた
さっきまでそこには何もいなかったのにそこに立っていた
そこに立っているのは女性だった
年は14ぐらいの少女であった
髪は白で長く背中まで届くぐらいのロングヘア
身長は150~155の間くらい
顔は可愛らしさと綺麗さを合わせた美を三個ぐらいつけてもいい造形だった
服装は何だか中世のお姫様が着てそうなドレスを真っ黒にしたものであった
そして何よりも印象的だったものは
その瞳のアカさせあった
炎よりも紅く血よりも朱いアカ
この地獄の中でも尚アカく輝いていた
何故だろうか
どこからどう見ても人間の美少女
しかし俺はこの少女を人間と定義するのは間違いだと本能的に思った
何故だと思っていたら気付いた
この場所
この地獄にあまりにも似合いすぎている
まるで地獄を住処にしているようなものだ
この美もそう異界の美
魔とも呼んでいいくらいだ
美しすぎるものには魔が宿る
まさにその権化だ
そして願いを叶える
となるとあほらしいがこの少女は

「そう賢しいわね。私、悪魔なの」

心を読んだのか
俺が考えていたことを言う
それにしても悪魔ときたか
まぁ、地獄があるくらいだ
悪魔がいてもおかしくはないだろう
その悪魔が一体何の用だろうか

「だから言ったでしょう。貴方の願いを叶えてあげるって」

そう言ってそいつは唇を三日月の形に歪めて笑う
その笑みを見て確信する
さっきまでは半信半疑だった
死に際に幻を見たのだと思っていたが違う
こいつは

真性の■■■■だ

「話が早くて助かるわ。ねぇ、だからその願い叶えてあげましょうか」

ケタケタ笑いながらそう囁く
まさしく悪魔の囁きだ
俺の願い
俺の願いとは一体なんだろうか

「あら、忘れたフリをしてるの。それとも目を背けたの。さっき貴方願ったじゃない。全てを■■したいって」

耳がおかしくなったのか
言葉の途中でノイズが走る
肝心なところが聞こえなかった

「ああ、最高の匂いがしたわ。何せ私が惹きつけられるくらい傲慢で、醜く、おぞましくて、最低に最高だった!ああ、きっと食べたらそれだけでイってしまいそうだったもの!グッと来た!最高の逸材よ貴方!」

いきなり悪魔が嗤いだす
言ったいる意味がよく解らない
さっきまで人の意志を無視して理解しようとしていたくせにこういう時に邪魔をする
まぁ、そもそも悪魔が語っていることを俺が理解できるはずがない
悪魔の嘲いはまだ続く

「きっと貴方は私と契約したら最強最悪の存在になれるわ!人を辞め悪魔を超え神を殺す!とんでもなく異常で、とんでもなく埒外で、とんでもなく常識外!そういった存在になれるわ!」

一体この悪魔は何が言いたいのだろうか
ぼうっとしてきた意識でそれを考える
まるで願いを叶えたら俺はナニカに変わるみたいに言っている
悪魔は魂を奪うだけじゃなかったのだろうか
悪魔は答えない
ただ嗤う
黒い狂気は地獄の中で更に黒々と輝く
そして悪魔は同じことを繰り返す
その言葉こそが悪魔の定義なのだから
唇を三日月に歪めた悪魔はただ要求する
契約のサインを

「その願い叶えてあげましょうか」

そして俺の意識は消える
視界は黒色に染まる
悪魔色に



あとがき
すいません
もう趣味に走った内容です
ストーリーは滅茶苦茶変わると思います
魔法以外にも新しい力や設定も加えます
こういうのが嫌いな方は読まない方がいいです






[27393] 第一話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/20 23:21
「いい加減に起きなさい!風雷慧!」

その声で無理矢理起きてしまった
一瞬の自分の喪失
そのあやふやさを心地よく思う
数秒でようやく自分を取り戻す
しかし今度は今の状況の理解が遅れている
頭の理解の遅さを五感が自動的に補正する。便利な頭だ
視覚は風景を
嗅覚は人がいる証を嗅ぎ取り
聴覚は人のざわめきを
触覚は堅い木の感触を
味覚は別に何も
それらの情報を頭の中で整理してようやく今の状況を理解する
ここは聖祥小学校一年の教室
時間は外を見る限り放課後だろう
じゃあ周りのざわめきはクラスメイトが帰ろうとしているからでであろう
昨今の若いやつらは落ち着きが足りないなぁと自分も昨今の若者だということはとりあえず棚に上げる
そしてようやく本題?
俺を睡眠という名の安楽地獄から目を覚まさせた諸悪の根源の方を見る
目の前にいるのは平均身長ぐらいのロングヘアな少女である
しかしこの少女。他の子供と違って違う所がある
それは金髪でつり目なところだ
もう一度言う
金髪でつり目なのだ
サーヴィスにもう一度
金髪でつり目なのだ
自分のサーヴィス精神の大きさに自分でもびっくりだね
後五回ぐらい続けたいが話が進まないので仕方なく断念しようではないか
世界の修正に感謝するがいい

アリサ・
「バーニング」

「そうそう、燃え上がる魂、熱き鼓動、進は紅蓮の道。その名はアリサ・バーニング!!ってアホか!」

素晴らしい。ここまで自爆してくれるといじめ甲斐があるというものだ
では続けようか。悪魔の加護の下で

「すまない、故意だ」

「そう、それなら仕方ないわね。じゃあ私は寛容な心で貴方を滅殺するのが人として正しい判断かな」

おおっと、意外とアグレッシブな

「すまない、恋だ」

「そう、それなら仕方ないわね。恋とはまさしく燃え上がるような想いだものね。それならバーニングと間違えてもってんなわけあるかい!」

しかし二度ネタは減点だな
まだまだツッコミの経験が足りんな

「で、何の用だ。用がないなら帰らさせてもらうぞ」

「あんたのその一瞬の切り替えには私もついていけんわ。はぁ、一応の義務だから聞くけど一緒にかー」

「だが断る」

「なんで一瞬で断るの!」

「あ、アハハ」

いきなり声が増えた
まさか

「バニングス!ついに影分身の術を覚えたかっ。流石人外!」

「あんたの中での私は一体何に分類されてんのよ!しばき倒すわよ!」

「ははは、何に分類されているかなんて鏡を見給え。一瞬で理解できぐわっ」

「アリサちゃん!ダメだよ、ただでさえおかしい風雷君の頭を叩いたら更におかしくなっちゃうよ!」

「なのはちゃん、本音が漏れているよ」

仕方がないのでそちらを見る
そこにはまぁ、バニングスと並ぶ美少女と呼んでいいだろう少女が二人立っていた
一人は高町なのは
身長は三人の中で一番小さく髪の毛は栗色でツインテールで束ねている。語尾になのをつける可哀想な人類だ
もう一人は月村すずか
身長はアリサと同じくらいの身長で髪の毛はカラスの濡れ羽色でストレートに下している。清純というのがよく似合っている女の子だ
そして個人的だが俺は高町が苦手だ
何故かというと
「さぁっ、今日こそ名前で呼んで!」と強制してくるのだ
もはやストーカーと呼んでもいいレベルだ
なるほど

「高町は変態だったのか……。まぁ、特別驚くような事ではないか」

「いきなり自己完結しないでなの!ていうかどうしてそんな結論に!」

「ああ、確かになのはのそれはもう呪いレベルだものねぇ……」

「ごめんね、なのはちゃん。フォローできないよ」

「いじめだよ!」

「「「Yes,correct!」」」

「ふぇーん!」

これが俺
風雷慧の日常
あの地獄から戻ってきた日常だ
大切なものは地獄(あそこ)で失くしたが



[27393] 第二話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/04/26 22:02

結局今日も高町ストーカーから難なく逃げて街を彷徨っている
いつも通り
俺らしく
断っておくが別に俺は高町自身を特別嫌っているとかではない
……苦手にはしているが
バニングスも月村もそうだ
むしろ今の若者の事(自分も含めて)を考えると今時珍しすぎるタイプだろう。多分だがあいつらは他人のために命を張れる素晴らしい馬鹿だろう。人間としては最高クラスの人間だろう
よくあんな希少種になれたもんだと度々感心する
よほどご両親の教育が良かったのだろう
ん?
じゃあ高町の家族も高町みたいな性格をしているのだろうか?
………一家総出でストーカーか。いやらしい家族だ
なるほど。確かに希少種だと改めて実感をする
個性が薄い俺から見たら憧れはしないが感嘆はしてしまいそうだ
心の中で自嘲する
実際の顔の筋肉はまったく動かないが
すると今日見た二年前の夢を何となく思い出す
あの火災
あの地獄
そう
あの時
あの場所は地獄であった
生きる希望は光の速さよりも速くなくなり
絶望は絶望しすぎて感じられなくなる
否、絶望こそが当たり前だと認識してしまうが故に絶望を感じれなくなってしまう
そんな地獄
それが地獄
その中から何を間違ってか生還してしまった
本当に、本当に運よく助けが間に合ったらしい
奇跡だとよく言われたものだ
だがしかし、しかししかし
生還した少年は地獄を体験する前の少年ではなくなった、いや亡くなったと言った方が適格かもしれない
あの地獄を経験した後、もう既に俺は今までの俺ではなくなったからだ
喜ぶことができなくなった
怒ることができなくなった
哀しむことができなくなった
楽しむことができなくなった
笑うことができなくなった
つまり感情を表すことができなくなった
医者が言うには自己のショックで感情を出しづらくなったのだろうという一般論を言ってきた
別にそんな一般論は興味がない
重要なのは治療法がないということだ
当たり前だろう
別に病気や怪我ではないのだ
治す方法なんてない
そして何より俺が治す気がない
治そうとする気力がそもそも欠落しているのだ
治るはずがない
そう
だから俺は理解できない

何故高町はあんなに必死になって友達になろうとするのか

まったく理解できない
何で友達が必要なのだ
何で他人を信用しなきゃいけないのだろうか
まったくもって理解できない
あれなら殺人鬼の方が理解できる
結局はそういう事だろう
地獄から無事救出されたと思われた少年は実質命を救われた代わりに救われない生き物になったのだろう
まぁ、こんな思考はただの被害妄想だろう
考えるだけで馬鹿らしい。そう考えると自己嫌悪がふつふつと湧き上がる
その自己嫌悪で思わず
■■してしまいそー



一瞬の空白
ついさっきまで何を考えていたのか思い出せなくなる
自分の迂闊さに自分で呆れる
そう、確か夢の話だっただろうか
あの夢も別に久しぶりというわけではない
というか一週間に4、5回のペースで見ている
いい加減何度も同じ映画の同じシーンを見ているみたいで飽き飽きしている
だが唯一気になるところがある
あの少女
人の形をした悪魔
あの唇を三日月に歪めて笑うあの不気味すぎる笑み、あの嗤い方
今でもはっきり覚えている
しかしあら不思議なことにあの少女はあれ以降一度も会っていない
やはりあの火災の中で現実逃避をするために自分が生み出したただの妄想の産物なのか。
だがそれにしても

あの悪魔の嘲笑は
嫌でも゛本物´だと実感させる

自分でも馬鹿らしいと思うが思うことは止められない
あれは悪魔なのだと
人の魂を契約で貪り食らう化け物だと
それ故に疑問がもう一つ残る
俺は
俺はあの悪魔に対して何を願ったのだろうか
その答えもあの地獄に置いてきてしまった
知ろうにも覚えていない
聞こうにもその対象がいない
あの地獄の中、俺は一体何を願ったのだろうか
それが唯一の自分の目的かもしれない
それを知ったら俺は
変われるだろうか………
答えは誰も知るはずがない
それこそ悪魔の知恵がなければ
……………………………
いらないことを考えすぎたようだ
目の前には図書館がある
丁度いい
暇つぶしに本を読もう
そう思い目の前の建物に入ってく
いつも通り
適当に



[27393] 第三話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/19 21:45
よいしょ、よいしょと車いすを足場にして私、八神はやては目当ての本を取ろうとするがこれがなかなか取れない
まぁ、足場にするいうても足は動いてないから足場じゃないんやけどな
と自分にツッコミを入れながら頑張って目当ての本を取ろうとする
さっきも言った通り私の名前は八神はやて
普通なら小学校に通っているはずの子供や
そう普通なら
実は私は両親が既に他界しており、しかも両足が動かないというマイナスのステータスを持っているんや
簡単に言うなら不幸の美少女ていうやつやな

…………はい、そこ
自分で美少女言うんやないとかツッコまない

そう一人寂しくボケながら本を取ろうとする
寂しく
そう、私はこの孤独の状況を寂しく思っている
でも、私は学校に行くのには少し気後れする
別にお金がないとかいう世知辛い理由ではない
足のせいで他人に迷惑になる…………とも思っているけどそれは多分言い訳、いや綺麗事やと思っている
多分私は見たくないのだろう
家族がいて、元気に走り回っている自分と同い年の幸福満点の子供を
私も人間
他人を好ましいとも思うし、嫉妬もする
世の中にはそれでも我慢するような人がいるのかもしれないけど、私はそこまで人間ができてないいんや
だから黒い感情が生まれても我慢することはできないんちゃうかと思う
だからあんまり学校に行きたくない
……まぁ、こんなのはただの引きこもりの言い訳かいなぁと思いながら再び本に手を伸ばす

……………むぅ、取れへん

あとほんの数センチ
あとほんの数センチが取れへん
仕方ないから周りの人に助けを求めるか、もしくは諦めようかの二択を考える。別に誰かの手を借りてまでして見たいというわけでもないので諦めようかな~と思っていると
いきなり目当ての本が後ろから抜き取られた
一瞬、思考と動きが止まる
しかし直ぐに両方の動きを再起動する
きっと親切な人が本を取ろうとして取れない自分を見て手伝ってくれたのだろうと思いながら、ゆっくり振り返ろうとする
そういえば、後ろから伸びてきた腕はそこまで高い位置にない
もしかしたら自分と同じくらいの子供かもしれない
そう思いながら振り返る
本を取ってくれた礼と本を受け取るために
そして後ろに立っている人を見た瞬間

今までの自分の価値観が木端微塵に壊れた

目の前に立ったいたのは少年だった
年は予想通り自分と同い年くらいで
背はこの年頃の子供の平均身長くらいで、体格は結構がっしりしてるような気がする
髪の毛はやや長く、しかし伸ばしているというよりもほったらかしにしている感がでている
しかし問題はそこではない
他の特徴はどうでもいいんだ
そこらへんはどこにでもいる少年だ
問題は顔、詳しく言えば表情

そこには何の感情も浮かんでいなかった

思わず息をのむ
こんな顔をする人間。大人、子供を含めて見たことがない
普通に言えば無表情と言えばいいのかもしれないが、普通の無表情はここまで『無』に近づけない。無表情といえどもそこには少しは感情を含んでいるはずなのだから
しかし彼の表情はまさしく『無』表情だ。
何の感情も無いのだ
どうしたらこんな人間になるのだろうか
そんな風に思っていると目の前の少年は可愛らしく首を傾げて

「あれ?これが目当ての本だったのではないのかね」
と問いかけてきた

意外にも声には希薄だが感情を読み取ることが出来た
そのギャップに戸惑いながらも

「ええと、あ、ありがとう……」
とどもりながらも本を受け取った

そしたら彼はうなずぎそして直ぐ近くの空いてる席に座りながら本を読みだす
しばらく放心状態になりながら彼をじーと見てしまう
すると案の定

「何か用」
と質問されてしまう

こちらはただぼーとしていただけなので何も思いつかず少し焦ったがとりあえず目の前の本をネタにした

「ええと、な、何を読んでいるんや?」

「ん、今はやりの謎探偵ゴナン。持ち前の暴走と子供らしい安易な発想で犯人を突き止め周りのおっさんに睡眠薬をぶちこんで特技の声帯模写をして謎を解き明かす漫画。ただ子供なので時々犯人を冤罪で捕まえたり、睡眠薬の多量接種をさせてしまい、周りのおっさんが死んでしまうけど、その時は「ミスっちゃった!犯人さん、おじさん。許してピョン」という独創的な漫画」

「………………かなり前衛的な漫画やなぁ」

「言葉を選ばなくてもいいぞ」

思わず半目になってしまうのは許して欲しいと思う
そこではたと気づく
普通に会話が出来ていることを
自分は多分だが人見知りが超激しいと思っていたのに
この不思議すぎる少年には何も思わなかった
それを不思議に思いながら、口は意志に逆らって言葉を紡ぐ

「あ、あの。私、八神はやて言うんやけど君は?」

「風に雷。そして慧眼の慧で、風雷慧」

即答だった
私は何をしたいんやろうと思いながら言葉を紡ぐ
何も考えてないということは本心を勝手に語ろうとしているのだろう
口は動く
己の無意識を表すために

「ま、また会えへん!」

己の願望を
この不可思議少年との再会の約束を
まだ会って三分ぐらいしか経ってないのに
多分だがこの少年に惹かれたのかもしれない
この少年の非人間性に
答えは簡潔だった



[27393] 第四話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/20 23:21
図書館に行った翌日。八神とは約束はできないが会えたらまぁ、会ってやろうという約束をした
というわけで再び聖祥学校の教室
既に時間帯は放課後
つまり帰宅時間
ああ、何て素晴らしい時間
学校が終わったと自覚した時本当に幸福だと思ってしまうのは学校に行っている人で理解できない人はいるだろうか、いやいない!
その幸福に浸りさぁ、帰ろう♪と思っていたら

「待ったなの!」

と叫ぶ声
最上級の幸福の時間は一瞬で壊れた
小さいけど、しかし確かに幸福だった俺の時間はたやすく、呆気なく壊れてしまった
だから高町に角度45度からの鋭いチョップを入れたことを悪いと思う人間がいるだろうか
いたら征伐してやる

「いたっ!お、女の子に手をあげるのはいけないことだと思うよ!」

「やかましい。そして俺からの有難い言葉を一つ言ってやろう。耳の穴を増やしてよーく聞け。この世は男女平等だ」

「立派なことを言ってるけど、それを言い訳に叩いてるようにしか思えないの!というか耳の穴は増やせないの!」

「なに?高町、俺の言う事を聞けないなんていつからそんなに偉くなったんだ。後で掃除ロッカーに突っ込んでやる。入り口をガムテープで止めて」

「いじめだよね!いじめだよね!大切なことだから二度いうよ!」

「で、何の用だ」

「今までの会話は一体何だったの!」

見ればいつの間にか残りの二人がやってきた
こいつら他に友達がいなのかと自分を棚に上げてこの三人の交友関係の心配をした

「と、とにかく、今日こそやってもらうからね!」

高町はいきなり目的語を抜かしていきなり戯言をほざきやがった
今日こそやってもらう?
そんなに何か高町から要求されていたことがあったか、自分の記憶を点検するがまったく身に覚えがない
だが高町は必死に頼んでいる
ならばこちらもちゃんと考えねばと思考する
いや、待て
もしかしたら高町が言っていることの漢字変換を間違えたのかもしれない
頭の辞書を使ってレッツ漢字変換
やってもらう→殺ってもらう
まさか高町にそんな自殺願望があったとは人間とは見かけや性格からは解らないもんだと理解する
いや、しかしまだ他にもあるかもしれない
もう一度よく考えてみよう
やってもらう→ヤッテもらう
なるほど、これが最近の問題の性の乱れという事か
政治家の人たちが慌てるのは無理もないと現場の苦労の一端を思わぬところで得てしまった
だがしかしまだどちらが真実か決定していない
どちらを取るかによって高町の人間性が変わる
これは心してかからなければと誓い真剣に考える

「あ、あの~、何でそんな今まで見たことはないくらい真剣に考えてるの」

「何を言う。今まさにこれからの俺が高町への態度を決定的に変わるかもしれないという瞬間なんだ。真剣に考えなければ失礼だろう」

「!?あ、ありがとう慧君!」

感謝された
ここまでされたなら答えを出さなければ、誠意にならない
ならば後は今までの高町の知識で答えを出すしかない………
考える
高町と言えば……
そうだ、そうだったではないか
まさか忘れていたとは、我ながら忘れっぽいと思う
今度メモ帳を買おうと心のメモ帳に書いとく
そう
高町は
いやらし子だったではないか……
だから答えは後者だ
なるほど
欲求不満なのか
まだ子供なのにと思うが人それぞれだろう
ならば答えなければいけない。自分の意志を

「すまないな、高町。俺はお前と違って健全なんだ」

「私のお願いをどう解釈したらそうなるの!!」

ドンガラガッシャー!と何やら机や椅子が倒れる音
見ればバニングスと月村が勢いよく倒れている
スカートの中身がよく見える
白と青か……
若いなと思う
だが高町の反応を見るとどうやら不正解のようだった
ではまさか答えは前者だったのだろうか
解らない
もうここまで来たら本人に聞いてみよう

「では、何なんだ」

「ただ名前で呼んで!って言いたかっただけなの」

ああ、なるほど。こっちとしてはケリがついたこととしていたのでその発想はまったくなかった
だから言おう

「断る」と

「むぅー!いい加減素直に言って欲しいの!」

「素直に断ったはずだが……」

この少女の頭の中では俺が本当は名前で言いたいんだがみたいな変換を勝手にしているのだろうか。幸せな頭だな

「むぅ、じゃあ今回は諦めさせてもらうけど……」

おや、諦めがいい
それに不安を覚えてしまうのは気のせいだろうか
その不安を現実にするかのように高町の言葉が続く

「そのかわりお願いがあるの」

「お願い?」

不安が徐々に大きくなる
嫌な予感は嫌な現実を引き寄せるという俺の経験が痛いくらい主張している

「つまりね」

ようやく体制を整えたのか月村とバニングスも会話に入ってくる
不味いと心の警戒音が響きまくっている
そして締めは月村が言った

「これからなのはちゃんのお家で遊ばない?」

その瞬間
俺は窓から逃げた
ここは二階だが、これぐらいの位置からなら無傷で着地できる技術ぐらいはある
今までの経験に感謝
自分の状況判断と条件反射に感謝した
だが、着地予想地点の場所に何やら見知らぬお姉さんが立っている
髪の毛は三つ編みで野暮ったい眼鏡をかけていて、年齢は高校生くらいで帰りなのか制服を着ている
身長はその年齢の女性の平均身長くらいで小柄だがしかし引き締まっているという感じがしており、その野暮ったい眼鏡の下は美少女と言ってもおかしくないぐらい整っていた
その唇はすこし驚きに歪んでいた
しかしそれは人が落ちてきたことに驚いたという感じではなくむしろ

本当に落ちてきたという驚きの表情だ…………!

しまったと後悔するが遅い
空中では身動きができない
その女性の手が伸びてくる
こちらを捕まえるために
こいつらグルかと捕まる一瞬で思った
まさか高町達に出し抜かれるとは抜かった
勿論奇跡など起こらずあえなく捕まってしまった
とりあえず明日高町を掃除ロッカーに一時間ほどぶち込んでやろうと決心する


あとがき
すいません、物語の進行が遅くて
あと、感想掲示板で色々言われていますが、駄作であるのは自分でも解っていますし、厨二臭いのは百も承知です
だからこんなものは見たくないと思っている方は見なくて結構です



[27393] 第五話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/20 23:22
いつもの我が喫茶翠屋
しかし今日は少し店じまい
久しぶりの休暇なのだ
最近家族での団欒をしていなにので丁度いいだろうと思って桃子と一緒に提案したのだ
それに前の仕事での事故のおかげで家族みんなに迷惑をかけてしまった
特になのはにはつらい思いをさせてしまった
不幸中の幸いか
なのはにも友達ができて毎日の学校を楽しく過ごせているようだ
それが何よりも嬉しかった
今日はその友達も連れてくるらしい
良いことだ
アリサちゃんとすずかちゃん
二人ともいい子だ
しかも不思議なことにすずかちゃんのお姉さんの月村忍ちゃん
彼女は何と我が弟子にして頼れる長男の恭也の彼女なのである
縁とは面白いものだ
二人の関係は良好そうだ
時々なかなかの甘々空間を作成している
思わず美由希が泣いて「痛い!私の青春が痛い!」と意味が解らない叫びをあげながら逃げたぐらいだ
ふふふ、しかしまだ桃子と俺のいちゃいちゃ固有結界にはには勝てんなぁ
俺たちの固有結界に勝ちたければこの三倍をがっ

「も、桃子。どうして皿を俺に向けて投げるのかなぁ?」

「あらあら、私も解らないの士郎さん。ただ何か士郎さんが変なことを考えているように感じたかしら?つい」

鋭い
不破家にもこれほど鋭い人間はいなかったかもしれない
流石俺の桃子
そういえばとふと美由希で思い出す
今日はアリサちゃんとすずかsちゃん以外のなんとなのは初の男友達を連れてくるらしい(強制)
本当はアリサちゃん達と仲良くなった時と同じくらいから知り合っていたはずなのだが如何せん、何だか付き合いが悪いらしい

例えば、名前で呼んでと頼んでも名前で呼んでくれないとか

例えば、一緒にお昼を食べようと誘おうとしたら逃げるとか

例えば、一緒に帰ろうと誘おうとしたら逃げるとか

例えば、なのはをいやらしい子扱いするとか

例えば、なのはを罠にかけて男子トイレに侵入させたとか

…………あれー?
何だか殺意が湧いてきたぞー
ははっはっはっはははははははははははは!
まずは軽い『挨拶』からしおうかなー
お父さん頑張るぞー

「父さん。考えていることは大体わかるが殺気は抑えてくれ」

「ははは、今日は士郎さん」

「ん?やぁ、忍ちゃんに恭也」

噂をすれば影とやらか
二人とも高校から帰ってきたか
美由希はなのは達への迎え兼なのはの男友達を捕まえる為に聖祥学校へ
どうやらその子逃げるとなれば手段を選ばず、二階から飛び降りたりするらしい
一度それをした時誤って空手黒帯の体育教師の上に着地してしまい壮絶な殴り合いが起きたらしい。やんちゃで元気な子供だ

「今日は二人とも早かったなぁ。どうしたんだい?」

「いや、忍が………」

「だってぇ、なのはちゃんもそうかもしれないけど、うちのすずかにとっても初の
男友達だよ~。気になるじゃない恭也。それにいつもすずかからご飯の時やら色んなときに聞かされるのよ~。風雷君、風雷君て。」

一瞬誰かと思ったがすぐに思い出す
そう確かその男の子の名前が風雷慧という名前だった
珍しい姓だなぁと思っていたのだ
だが、そんなことよりも

「ほう、それは驚きだね。すずかちゃん、そんなに彼の事を話しているのかい?」

意外だった
すずかちゃんはもう何回か会ったが、そんなに他人をそれも男の子について話題にするというようなタイプではないと思っていた
そこらへんは最初らへんの忍ちゃんに似ている
この娘も周りの何故だか知らないが壁を作っていた
きっと理由ありだろうと思う
だが、今は少なくとも恭也に対しては心を開いている
壁を作っていた理由を忍ちゃんから聞いてそれでも一緒にいると誓ったからだろう
今はそれだけでいい
いずれ俺達にも話してほしい
それが親というものだろう
話が逸れてしまった
しかし忍ちゃんの話を聞いているとなのはが言わなかった風雷君について知ることが出来た
曰く
喜怒哀楽がない子だとか
非人間的魅力があるとか
いたずら好きとか
一度も笑わない子だとか
喧嘩慣れしているとか
等々何だかそこまで褒められたような事ではなかった
というか、その

人間だろうか

そんな思考をしていた自分に愕然とする
頭を振ってその思考を消そうとするが消えない
大体一度も笑わない人間などいるはずがないだろう
感情は隠すことはできても消すことはできないが俺の持論である
そんなことが出来るとしたら植物人間か死人くらいだろう
生きているのならその束縛からは逃れられない
そう思う

「はは、やっぱり士郎さんもそう思いますか」

見ると忍ちゃんも苦笑している
困ったという感じで

「でもですね。すずかは同じことを言うんですよ。「きっと彼はどんなことも受け入れられる。能動じゃなくて多分受動的だと思うけどって」。すずかがここまでずけずけ人の事を評価するの初めて聞きましたよ」

苦笑しながらも何だか嬉しそうだ
きっと嬉しいんだろう
妹が他人の事を話題にあげてくれるのが
それを聞いて自分もハッと気づく
そう、例え本当にそんな子だとしてもなのはの友達でいてくれているんだ
なら、悪い子ではないだろう
我ながらみっともない
まさか自分よりも遥かに年下の女の子に教わるとは。俺も修行が足りないな
その後暫く三人で途中で桃子も入り談笑していると

「……ほ…いいか……かんね……!」

「諦め……がいいな……!」

「………風雷君………いこ………?」

「あ………わかって……もう遺言………した」

「…………まに、そんな…………のかなぁ?」

そしたらようやく子供グループの到着のようだ
意外と長いことかかった
きっと例の彼が嫌がって抵抗したのかもしれない
若いなぁと思う

「さぁ、迎えに行こうか」

「ええ」

「ああ」

「はい」

三人とも息をそろえて返事するのに苦笑して四人で立ち上がり玄関の方に行く
もう玄関の方に立っているのを気配で感じ取っている
どうやら美由希がドアを開けようとしているようだ

「今開けるぞー」

とこちらから声をかけあっちの動きが少し止まる
だが直ぐに返事が返ってきた

「うん、わかったお父さん。あ、あと、驚かないでね」

いきなり意味が解らないことを言う娘だ
一体何に驚くというのだろうか
四人で首を傾げる
もしかして風雷君が来ることはサプライズということにしているのだろうか
娘ながらボケているなぁと思う
みんなその話はなのはから聞いたのになぜ忘れるのだろうか
苦笑しながらとりあえず話に乗ってあげることにした

「はいはい、わかったから開けるぞー」

そして遠慮なくドアを開ける
瞬間
美由希の言っていた意味を理解した
彼の姿を見た瞬間

理解させられた




無理矢理拉致られて高町の家にお邪魔して数分
今、俺たちは

大乱〇で白熱していた

「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!」

「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「なのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

「……………………ダメ、私、ついていけない……………」

上から俺、バニングス、月村姉、高町、月村妹の順番のコメントだ
ちなみに今の俺たちのバトルの様子は

「くっ、何でそこまで見事にカウンターを決められるの!?動体視力良すぎだよ風雷君!」

「月村姉も何でそこまでファ○コンパンチを上手いこと決めれる!こっちからしたら痛恨の一撃だ」

「ちょ、なのは!さっきから卑怯よ!ステージ端で飛ばされてようやく戻ってきたのにその度に吸い込んでまた吐き出して場外に飛ばすなんて!女なら真正面から堂々と戦いなさい!人気にでるわよ!」

「止めてよ!そんなリアルな事を言うの!だ、大体アリサちゃんだって、場外に少しでも出たら空中下攻撃をかまして直ぐKOするじゃない!人が弱っている隙にえげつないことしてるよ!」

「…………あれ?私、影薄い?」

とこんな感じで盛り上がっていた
本当ならこの○ームキューブは四人対戦なんだが月村姉が改造して6人までいけるようにしたらしい。大丈夫なのだろうか?具体的に言えば法律関係」
結局勝者は月村姉だった。いや何であんなに上手いことファル○ンパンチを決められるんだろうね
そうやって上手いこと区切りがついた所に狙ったようなタイミングで高町母がお茶などを持ってきてくれた
多分高町はこの人から大量の遺伝子を貰ったのだろう。髪の色や顔がそっくりだ

「ありがとうございます。高町母」

「うふふ、別にいいのよ。何せなのはの初めての男友達だもの。でも、とりあえず高町母じゃなくて桃子さんと呼んでほしいんだけど」

「ははは、いやいや、そんな私などにそんなことは出来ません」

高町の性格は親譲りか
病名高町症候群と認定
これにかかると相手のことを名前で言わないと気が済まなくなる。重度になると相手に強制する。救いがたい病気だ
気を付けなければと肝に銘じる
そうやって油断したのがいけないのか。何を思ったのか知らないが急に高町母が急に頬を掴んできた。考え事をしていたので反応できなかった

「にゃにひょしゅりゅんでゃすか」

掴まれたまま喋ったので変な言葉になってしまう
見れば他のみんなもいきなりの行動に驚いたり首を傾げたりしている
しばらく頬で遊んでいた桃子さんからようやく返事が返ってくる

「いやね、その、笑わないなと桃子さん思ってしまって」

「……………………………」

ああ、なるほど
見れば気にしている大人連中や高町達も耳を傾けている
そういえば言ってなかったか
別に隠すようなことじゃないから言ってもいいけど。何だか不幸自慢みたいになってしまうからあんまり言いたくないのだ

「いえ、別に。特別なことがあってこうなったんじゃないですよ。ただ、デパートの火災に巻き込まれたらこうなっただけです」

「…………………十分大事だと思うけど」

「もう一度言います。別に。そんなの国で見たらよくあることですし。世界の視点で見たら大量にある事故の内の一つです。特別なことじゃないですよ」

そうどこにでもあるような事だ
あんな地獄、世界のどこにでもある
俺はただその内の一つに触れただけ
黙った高町母の代わりに高町父が代わりに話す

「まるで…………他人事のように話すね、君は」

そうだったかなと首を傾げてみる
別にどうでもいいことだろう

「…………一つ聞きたいんだが」

今度は高町兄か

「何でしょう?」

「…………君のご両親は」

今度はそっちねと思い素直に答える

「ええ、目の前でその火災で死にましたよ」

その一言で空気が凍る
はて、何か変な事を言っただろうか
解らず悩んでいると

「………変だよ」

と高町がボソッと呟く
言葉は続く

「おかしいよ。どうしてそんな風に自分の大切な人が死んだのにそんな無感動で入れるの?どうしてそんな酷い目にあったのにそんな無感動でいれるの?どうして、どうしてなの!」

最初は探るようだったが最後のほうは言葉を矢の用に飛ばすぐらい感情が込められていた
何か高町を揺るがすような事を言ったのかもしれない
だが

「じゃあ、何だ。悲劇的に言えばいいのか」

「っつ」

「悲劇的に言ってみんなからのお涙頂戴。素晴らしく泣ける話だね。高町が言いたいことはそういうことかな?」

「わ、私が言いたいのはそういうことじゃ…………」

「同じさ。しかしこれだけは言わせて貰おう
同情なんかいらない
憐みなんかいらない
そんなものはうっとおしいだけだ。反吐が出る。
同情していいのは人を助ける時だけだ
それ以外のはただの憐みという名の見下しだ」

「ふ、風雷君。言い過ぎだよ…………」

「そうか。とは言っても俺の持論を話しただけだ。別に理解しなくてもいい」

そう言ってあっさり話題を断ち切る
雰囲気はさっきまでの賑やかさから考えられないぐらい最悪になってしまった
確かに言い過ぎた
何か言ったほうがいいのかもしれないが生憎そこまで口は達者な方ではない
どうしたものかと思っていると
パン!と手を叩く音が聞こえる
見れば高町姉が手を合わせている
これはまさか………!

「高町姉、まさか………人体錬成を……!」

「駄目よ美由希ちゃん!持ってかれるわよ!」

「ふむ、でもこのシーンは恭也が立場的にしなければいけないのではないか?」

「そして美由希は鎧になるか……」

「な、何でそうなるのー!」

俺、月村姉、高町父、高町兄のコラボレーション突っ込み
うーん。座布団一枚だ
では要件は一体なんだろうか?

「えーと、今日はお泊り会でしょう?だから、そろそろ用意とかをした方がいいんじゃないのかなーと思って」

「ほう、美由希の言うとおりだな。部屋の用意とかしないといけないからな」

ほうほう、今日はお泊り会だったのか
では、邪魔にならないうちに

「とこに行こうとしているの、風雷」

「………ちっ、トイレさ」

「………今露骨に舌打ちをしたよね。というかトイレに何故荷物が必要なのかしら。私聞きたいなぁ」

何故かってそんなの決まってる

「実はこの中には俺専用のトイレットペーパーが…」

「何でカバンの中にそんなのをいれているのよ!」

馬鹿な、いざという時に便利だぞ

「ふぅ、でも古典的な失敗をしてるようだから言うけどーートイレそっちじゃないわよ。そっちは出入り口だけ」

なん、だと

「バニングス、一体誰がそんなことを決めた」

「いや、誰が決めたとかじゃなくて」

「馬鹿者!答えがただ一つだけと決めつけるんじゃない!」

「え?何。私叱られてるの?」

「いいかバニングス。答えが一つなんて誰が決めた。誰も決めてないだろう。なのに答えがただ一つしかないと決めつけるその思考はただの諦めだ」

「!?」

「だが、俺は諦めない。地べたを這いずり回ろうが、泥水を啜ることになっても俺は諦めないぞ」

「風雷……」

「さぁ、行くぞ!!」

「待てやこら」

「ちい」

騙されなかったか
高町辺りなら誤魔化せていたはずなんだがな」。ふん、なら理論で片付けさせてもらう

「大体な、いきなりすぎて何も用意などしておらんよ。例えば服とか」

「確か恭也の子供の頃の服がまだあったわね」

「ああ、まだ押し入れにあったはずだ。サイズは見たところそこまで変わらないみ
たいだ」

高町兄、高町母、余計な真似を

「た、例えばよくあるお泊りセットとか」

「父さん、確か余りの歯ブラシとかあったよね」

「ああ、確かここに……あったあった」

ブルータスよ、お前もか

「ほ、ほら、飛び入り参加だから部屋が空いてな……」

「じゃあ、慧君の布団は恭也の方にしいとくわね」

「ああ、構わない」

に、逃げ道が

「ほ、ほら、高町家に金銭的な負担が」

「あらあら、子供が三人増えたぐらいなら大丈夫よ」

お、己!

「う、家の冷蔵庫に今日中にやらなければいけないものが」

「後でこっちで弁償してあげるわ」

止めて!俺のライフポイントはとっくにゼロだぞ

「じ、実は枕が変わると眠れないんだ!!」

「ダウト!あんた机の上で毎時間グースカグースカ寝てんじゃない!!」

ちぃ!退路は断たれたか
ならば手段はただ一つ

「こうなったら無理やりいかせてもらう!!」

「ほう、小太刀二刀御神不破流を前によくぞ吠えた少年!」

数分後あえなく負けてしまった
みんなからは筋がいいと言われたがそれは嫌がらせでしょうか



ぎぃぃぃぃぃ、ばたん
十年くらい慣れ親しんだドアが開く音で俺は目を覚ました
目を開けるとそこには慣れ親しんだ俺の部屋の天井
今日はなのは達の友達のお泊り会で部屋の中にはその友達の一人の少なくとも俺の知り合いの中で一番複雑怪奇な子供と一緒に寝ていたはずだ
目を彼が寝ていた方に向けるとそこは空っぽ
やはり、彼が出て行った音らしい
それにしてもドアが開くまで気づかないとは
彼は驚くほど気配を断つのが上手い
それに何故だか大体が我流だが体術の心得があるらしい
でなきゃいくら父さんが手を抜いたからといって数分ももたないだろう
誰に教わったのかと聞いてみると

「超野蛮な山猿から教わりました。何と無礼なことに人間であるとか言っていますが」

とか言っていた
何でも散歩していたら急にその顔気に食わん!ほわちゃーとか叫んできてバトルになってそれ以降出会ったら訓練という名の殴り合いを
しているらしい(それを警察に見られて危うく捕まりそうになったが山猿をフレアにして逃げたとか言っている)
お互い名前も知らないとか。それなのによく出会うらしい
それにしても何処に行くのだろうか
眠れないのだろうか
心配になって起き上がった
気配を探ってみると彼が行こうとしている方向は

「屋上か………」

直ぐに向かった。
念のため足音を消して


屋上
そこに彼は座っていた
今日は快晴だったからか、いつもよりも美しい星空が広がっている
まるで人々の命のきらめきだ
それを彼は見上げて座っている

「起こしてしまいましたか」

いきなり声をかけられた
気配と足音は消していたはずなのに

「凄いな、もう気づくなんて」

「流石に真後ろに立たれたら気づきます」

そう言いながら彼はこちらにその背中を向けたままである
この夜空を見ている方が大切だと背中が語っているように見える
彼の隣に座り、俺も星空を見る

「どうしたいんだい、眠れないのかい」

「惜しいですね。正確には眠りたくないが真実です」

その答えに思わず眉を歪める
何故眠りたくないのだろうか
不眠症かと思ったが彼の顔は表情こそないが不健康には見えない
隈一つもない
では何が彼をそうさせるのか
答えは直ぐに聞けた

「昔の、昔の話をするとよく夢にでるんですよ」

何の夢とは聞かない
そんなものは聞く前から答えは解っていなくては人間としてお終いだ
言葉は続く

「それもね、厄介なことにですね。両親が死んだ瞬間を見せられるのですよ」

困ったもんだと言いたげな仕草をする
俺は何も言わない

「それ以降の光景ならいいんですけど、何故だか知らないが過去を話すといつもこうなる」

彼は表情を無表情のままにしたまま話す
今更だが理解した
彼はこの星の海を見ていない
焦点が合っていない
彼が見ているのは今ではなく過去だ
そう、彼の瞳には過去に経験した地獄を見ている
見ている
いや、見続けている
現在進行形で彼は過去を見ているのだ
彼にとっては今も地獄の中にいるようなもんだ

ああ、俺は何て勘違いをしたのだろう

俺は彼には感情なんてものはない少年と思っていた
周りのみんなもそう思っているかもしれない
酷い勘違いだ
彼は亡くなった両親に対して罪悪感を覚えている
自分だけ生き残ってごめんなさいと
いや、もしかしたら両親だけではないのかもしれない
その場にいて死んだ人達にもそう思っているのかもしれない
彼は何でもなさそうに話すが逆だ
彼は何でもあるようなことを何でもなさそうに話すのだ
勿論これは勝手な決めつけかもしれない
実は本当に何にも思っていないのかもしれない
しかし彼は見たくもない光景なのにその嫌なことを俺たちに話してくれた
それだけは

勘違いではない

そう思い彼の頭を撫でた
すると彼は不機嫌そうな声で

「子ども扱いしないでください」
等言ってくる

思わず笑う
小学一年生なのだから子供なのに
弟がいたらこんな風なのかもしれないと思う
俺はそのまま頭を撫でる
彼は不機嫌そうに喋る

「いい加減止めてください恭也さん」

その時初めて名前で呼んでくれた
他者のことを名で呼ばぬ彼が俺の名を
何故と問うと

「………愚痴を聞いてくれたのは貴方が初めてだからです」

つまり認めてくれたのか
成程、彼は誰かにこの話を聞いて欲しかったのかもしれない
それがたまたま俺だった
それがたまらなく嬉しい
剣士である俺が
剣以外でも誰かに認めてもらった
ただそれだけが嬉しかった
俺たちはそのまま朝まで星を見ていた
お互いを何も言わずただ星を




[27393] 第六話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/19 21:57
風雷君の辛い過去の話から翌日
普通ならこう空気が嫌な風にギスギスする日
そうなると誰もがそう思っていた
結果は半分正解で半分はずれ
そう、何故だか知らないが

恭也さんと風雷君が物凄く仲良くなっているのだ

見た目とかそういうのが変わったとかではない
証拠の会話はこれだ

「慧君、そこの醤油を取ってくれないか」

「どうぞ、『恭也さん』」

そう恭也さんだ、あの風雷君がだ。もう一度言わせて欲しい

あの風雷君がだ

今まで一度も誰かの名前を言わなかった風雷君がだ
今までなのはちゃんの要求を一度も飲まなかった風雷君がだ
恭也さんはどんな奇跡を使ったのだろうか
どんな魔法を使ったというのだろうか
あ、なのはちゃんのお箸が折れた
今の内にお皿を退避
退避した直後

「どういうことなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉx!!」

と机をバン!と両手で叩いた
その時にはみんなも予想していたのかお皿とかを退避させていた
なのはちゃんの行動って読み易いよね
そんな中恭也さんと風雷君はいつも通りだった

「なのは、ご飯中にそんなに叫ぶのははしたないぞ」

「というか近所迷惑だ」

「そんな些細なことは今の大事と比べたら大したことではないなの!!」
あはは、なのはちゃんがいい感じにおかしくなってる

「お兄ちゃん!一体どうやって慧君から名前で呼んで貰えるようになったの!!説明を要求するなの!」

まぁ、私達も気になっていることなので誰もなのはちゃんを止める人はいない
むしろ、そうだそうだ、ブー、ブー等みんな言っている
このメンバーでは私は自然と影が薄くなってしまいそうだ。グスン
ごほん、そしてその質問に件の二人はお互いアイコンタクトをして一言

「「気が合ったから」」

ユニゾンした一言であった
一瞬
なのはちゃんから全ての動きが消えたような気がした
即座にみんなは理解した

いかん、嵐の前の静けさ状態だと

予感道り直ぐに爆発した
大声という名の嵐を

「納得いかないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

鼓膜が潰れたかと思った
事前に耳を塞いでいなければやばかったかも
運動神経はなのはちゃん低いのに肺活量はあるのかもしれない
ちなみに一番近くで聞いていた士郎さんは床に倒れて桃子さんと漫才をしていた
内容は

「桃子………俺はもう……」

「そんな!しっかりして下さい!士郎さん!!」

「ああ………俺は……桃子みたいな…………素敵で素晴らしく美しい人と………結婚できて…………幸せだ………ガクリ」

「しろ、う、さん?士郎さんぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

息が合ったプレイだ
そこを空気を読んだお姉ちゃんがスポットライトを二人に当てていた
それ以外のみんなは華麗に無視していた
それのせいで更に士郎さんの瞳には涙が………
見なかったことにしよう

「高町うざ………煩いぞ」

「今さらりとうざいって言おうとしたよね!どっちにしろ悪意が隠せてないなの!」

「え?悪意って隠すものなのか?」

「はい決定!有罪決定なの!なのは法典では死刑って決まったけど遺言はある!」

「言いたいことならあるーーーー俺を殺すには高町じゃあ役不足だ」

「OKなの。つまり戦争なの!」

「戦争?一方的な虐殺の間違いだろう」

「なのーーーーーーーーー!」

なのはちゃんが風雷君に突撃するが風雷君に頭を押さえられてそこから一歩も前に進まず、手も届かない
まるで漫画のギャグシーンだね
そう思っていると何だか風切り音が
余裕の状態だった風雷君が珍しく顔色を変えて咄嗟に頭を伏せる
すると彼の背後の壁に何か生えていた
見るとそれはえーと飛針だっけ、一度恭也さん達の修業を見せてもらった時に見たことがある
何でそれが生えてるんだろうと思ったが直ぐに気づいた
ああ、さっきの風切り音はこれを投げたから
では、誰が
みんなその思考に至ったのか飛針が飛んできたと思われる方向と思わしき方を見ると
そこには構えていた士郎さんが
冷や汗をかきながらそれでも表情を変えない風雷君
この状況では滑稽に見えるのは私の気のせいでしょうか

「あ、あの~高町父。今のーーー当たってたら死んでると思うんですが」

「安心しろ風雷君。----確信犯だ」

ちゃきと何か音が聞こえた
士郎さんが刀を構えた音だった

「----模擬刀ですよね」

「いや、そんな失礼なことはしないとも。お客様用ミラクル真剣だ。これに斬られると、あら、不思議。一つの物が二つになるんだよ」

「…………峰打ちですよね」

「HAHAHAHA,面白いジョークだね。だが俺は仕事には真面目でね。業務に従って刃の方を向けないといけないんだよ」

「ははは、聞きたくないんですけど聞かなければ俺の命が斬られそうだから聞きますけど。その仕事とは?」

「よくぞ聞いてくれた。その仕事とはな………」

「仕事とは?」

「なのはをいじめた男を抹消………いや、抹殺することだ!!」

「いかん!ただの親馬鹿か!!」

「親馬鹿結構!なのはの為ならそこらの野郎共なんぞ滅殺してやろう!」

「高町父!控えめに言いますけどあんたおかしいぞ!!」

「問答無用!!御首頂戴!!」

刀を振り上げバーサーカーの如き狂気を抱きながら風雷君に向かう
みんなマジとわかって士郎さんを止めようとするが流石は一流の剣士
スピードが段違いに速い
恭也さんも美由希さんも止めようとするが一歩遅い
風雷君も逃げようと体を動かすが、動かそうとした直後彼は気づいたようだ
逃げ場所がないのだ
横はテーブルと壁
前後は襲い掛かってくる士郎さんと驚きで棒立ちしているなのはちゃん
これでは逃げようがない
しかも士郎さんのスピードを見ると動けて一歩分
それではどう足掻いても逃げられない
風雷君、絶体絶命だと思った
だが、彼はそこでは終わらなかった
彼はその一歩を自分を動かす為に使うのではなかった
彼は足を動かし、周りにあるものを士郎さんに向けて蹴るために一歩を使った

つまり、さっきまで座っていた椅子を

当然、士郎さんはそれに対処しなければいけない
何故ならば条件が風雷君と同じなのだ
横はテーブルと壁
前後は迫りくる椅子と後ろには桃子さんが
となると迎撃するしかない
飛来物を刀で迎撃
しかし言うほど簡単ではないだろう
そもそも刀は人を斬るものだ。断じて木材などを斬るものではない
しかも高速で動いている物だ
並みの剣士では無理だ
逆に刀が勢いに負けて折られるだろう
されど、高町士郎は並みの剣士ではない
超超一流の剣士
御神不破流の師範なのだ
高速で飛んでくる椅子など

たやすく斬れる

疾っという風切り音は
斬という風切り音に変わった

余りの鋭さと速さに椅子は少し遅れて真っ二つに分裂した
一つの物は二つの物になり、それらは士郎さんを避けて飛んだ
私にはその斬った瞬間が全く見えなかった
そしてもう一つ見えなくなったものがあった
士郎さんも遅れて気づいたのか、少し目を開く
だが、次の瞬間。士郎さんは後ろを見た
そこにはさっきまで士郎さんの前にいたはずの風雷君が中腰で立っていた
一体どうやって………!!
瞬間移動でもやったのか
答えは士郎さんの口から聞けた

「上手い状況判断だ。椅子を蹴り飛ばした直後、君も走り抜けそのまま私の股の下を潜り抜けるか。確かに視界は飛んでくる椅子のせいで狭まるし、君は小学一年生だ。小柄だから十分に出来る作戦だ。しかし、それが御神流以外ならのはずだが………気配を隠すのが上手いね」

「ええ、いつも喧嘩を挑んでくる山猿に逆に奇襲を仕掛ける時に身に着けた技です。しかし流石に猿ですから、野生の勘が凄くてなかなか成功できませんが人間が相手なら不可能ではないでしょう。現に恭也さんにも通じたわけですし」

「成程、だからこんな無茶な作戦をしようと思ったのか。大した胆力だ。美由希に習わせたいものだ」

うんうんと一人頷いている士郎さん
凄いと正直に思う
あんな一瞬でそこまで頭が回るなんて私には不可能だ
例えそれを可能にする身体能力があったとしても咄嗟にしろと言われたら私には無理だろう
多分私ならあの状態でただボーと立って、為す術もなくただ剣撃を受けるだけだろう
凄いなともう一度思う
しかし、それだけの事を成し遂げた彼の顔からは緊張は取れていなかった
答えは簡単
士郎さんが説明する

「でも、その後が続かない」

「……………………………」

「確かにその年頃でそれなら素晴らし過ぎる動きだ。一種の天才かもしれないかもね。しかしだ。それでも俺にはまだまだ届かない。その気になれば。攻撃はおろか防御もさせずに俺は君を倒すことができる」

「……………………………」

事実だろう
風雷君は色々なものが士郎さんに負けている
例えば体格差
例えば経験
例えば身体能力
等々色々なものが負けている
仕方がないことだろう
そもそも風雷君は腕が立つとはいえども少し喧嘩慣れしているといっただけだ
対する士郎さんは実戦式の剣術を習得した超一流剣士だ
むしろ今の攻撃を躱せたことだけでも奇跡の領域だ
多分、武術に関して詳しい人がいたらこういうだろう
この少年は称賛に値する、と
しかし限界だ
これが彼の限界だろう
それを彼もわかっているだろう
元より聡い少年だ
彼我の実力は理解しているはずだ

「さぁ、君の負けだ!」

士郎さんは勝利を確信したのか叫び大胆にも彼に大股で近づこうとする
しかし、急に彼がおかしな行動に出た
緊張を解いたのだ
士郎さんもおかしいと思ったのだろう、歩みを止める
そして問う

「どうしたんだい?こんな場面で緊張を解くとはーーーー自殺行為だよ」

「いえ、もう終わりましたから」

へっ?と思わず間抜けな声を出してしまう
だってどう見ても風雷君の不利……………あ~ようやく理解したよ
確かにこれで終わりだね
どうやら士郎さんは気づいてないようだ
ええと、こういう時は十字を切るんだっけ?

「どういうことだ……………ひぃ!」

がしっと士郎さんは後頭部を思い切り後ろから鷲掴みにされました
ぎぎぎと無理矢理死刑囚、いや士郎さんは後ろに振り向かせられる
そこには

満面の笑みの桃子さんが

みんな悟った
士郎さんの命はここまでだと
だからそれぞれ士郎さんの旅路のために手を合わせたり、十字を切ったり、遺影を撮ったり、線香に火を点けたりしている(つまり、誰も士郎さんを助ける気がないんだね♪)
士郎さんは命乞いをする

「も、桃子、待ってくれ。こ、こここここここここれれれれはだだだだななななな」

「はいはい、何ですか、士郎さん?」

「そそそそそそそののののだだなな。スーハー(深呼吸)。な、なのはを虐める不届きものに成敗をしようとだなぁ」

「あらあら、私には二人は微笑ましい行為をしていただけのようにしか見えませんでしたが」

「い、いやいやいやいや、そんなことはないぞ!彼はあのなのはの頭を押さえつけるという悪行をしていたんだ!!」

「ふふふ、そうなの?-----じゃあ、お話はそれで終わりですね」

「!!!!???」

うわぁ、士郎さん、凄い顔している
でも誰も助けようとはしない
このメンバーな中には命知らずの空気を読まない人間はいないようだ
あ、風雷君。写メで士郎さんの写真をモノクロにしているぅ。しかも何故か賞金首にしている。わぁ、二千円だ。

「じゃあ、行きましょうか拷問…………私たちの愛の巣に」

「あっはっはっはっはっはっはっは、今、間にモノスゴイコトバガハサンデイタヨ
ウナキガシタノハキノセイデショウカ」

「うふふ、大丈夫よ士郎さん。-----子供達を思って言葉を変えたの」

「嫌だ!止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、こきゅりゅ!」

あ、短い悲鳴が
急に力が抜けた士郎さんはそのまま首根っこを掴まれたままずるずると引きずられ違う部屋に入ろうとする

「あ、そうそう」

すると何を思ってか。急にその満面の笑みをこちらに向けてくる
みんなピクリと一瞬で背筋を伸ばす
本能って凄いと知りたくもないことを私は知ってしまった
ついでに笑顔ってこんなにプレッシャーがあるものなんだと知ってしまった
その笑顔で一言

「絶対に見に来ちゃーーー駄目よ」

ひゅーーーーーーー、ばたん
答えも聞かずに桃子さんはドアを閉じた
誰も動くことができなかった




それから一時間
私たちは片づけをした後、それぞれの時間を過ごしている
風雷君はさっきの動きを見て恭也さんと美由希さんに修業に誘われ引きずられていった(そこらへんは親子そっくりだ。ちなみにまだ士郎さんと桃子さんは帰ってきていない)
彼は彼でノォォォォォォォォォォォォォォォォォォォと言って連れて行かれていた
味のある悲鳴だった
表情は無表情のままだったが

「それにしても士郎さんのあれは大変だったねぇ」

「本当ですよ」

お姉ちゃんとなのはちゃんの話が耳に入る
士郎さんには悪いが仕方ないだろう
あれじゃあ、なのはちゃんに何時までたっても恋人が出来ないんのではないだろうか
そう思いながらお茶をズズズーと飲む
ああ、美味しい。適度に温かいお茶が美味しい
「困るわねー。もし、すずかの想い人に何かあったら大変な事よー」

「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「目が!!目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あ、アリサちゃん!!落ち着いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

飲んでいたお茶をはしたなくも、思い切り噴出した
アリサちゃんは適度に温かいお茶を目に浴びて大ダメージ
なのはちゃんはそんなアリサちゃんを見て大慌て
結論はカオスになった
の前に

「お、おおおおおおおおおお姉ちゃん!!いききききっきなあななななりりりりいりりり何をぴゅうの!!頭大丈夫!!?」

「うんうん、いい感じの壊れ方ねぇ~。でも最後の方だけがまともに話せていたことにすずかが日々お姉ちゃんに対して何を考えていたかお姉ちゃん、理解しちゃったなぁ」

今はそんな些細なことはどうでもいい
問題は

「え?そうなの?すずかちゃん、慧君の事が好きなの?」

「へー、すずかも変わった趣味してるわね~。まぁ、気づいていたけど」

この二人、というよりなのはちゃんだ

「な、なのはちゃん!」

「うん、な…………っていたたたたたたたたた!!食い込んでる!すずかちゃん!すずかちゃんの一見繊細そうな指が私の脆い肌を呆気なく貫通してるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

無視した
今はそんなことは問題ではないはずだ
なのはちゃんの肩よりも重要なことだ
それは

「いい!なのはちゃん!」

「うん!なに!できゃりゃば私にょーー!!肩がクライマックスを超えらーー!前に!!」

なのはちゃんのキャラが壊れている感じがするが気にしない

「絶対、絶対、絶ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー対!!!」

「ねぇ!それ、わざ!!っとなの!わたしょ!のkつう!をのっばっすだめの、じがーーん稼ぎなの!うにゃ!!」

「ねぇ!なのはちゃん!真面目に聞いて!!」

「聞いた!!いったぁ!舌噛んだなの!」

「嘘つき!!遊んでるよ!!」

「じゃあ、その握力を弱めにゃ!にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!推定70キロオーバー!!?私もう死んでてる!!?」

「すずか!落ち着きなさい!!なのはの内面と肩と言語が既に原形を留めていないわ!!ついでにアンタの内面も!」

はっ!私としたことが!
えーと、こういう時は

「ほ、骨だけは拾うからね!!?」

「駄目よすずか!それ、なのはの死亡フラグ!!」

ポキッ

「「あっ」」

何だか枝を折ったかのような音
それは何故か知らないが私の手の中、つまりなのはちゃんの体内から聞こえたような気がした
…………………………………………
沈黙が漂う
私とアリサちゃんは冷や汗を一筋流す
どういう行動をすればこの場でベストなのか、それだけを考える
ゴクリと二人で息をのむ
そして息を吸う
そしてついに一言

「「おお、なのは(ちゃん)よ。しんでしまうとはなさけない」」

「死んでないよ!!」

あっ、生きてた
良かったぁー。この年で前科持ちはやだよ~


時間をかけてようやく落ち着いて話せるようになった

「も~、すずかちゃん~。痛かったよ~」

「ご、ごめんねなのはちゃん。つ、つい」

「ごめんねだけじゃあ鎖骨の痛みは帳消しにならないの」

「………………(何でなのはは明らか鎖骨が折れたはずなのにもうダメージから立ち直ってるのかしら。高町家の不思議?」

「アハハ、すずかも可愛くなったね~」

「お、お姉ちゃんっ」

「(そしてこの人はあれだけの惨状を前に顔色も変えてない。あれ?常識人は私だけ?)」

「それにしてもすずか。彼のどこに惚れたの?」

「うっ」

「あ、それ私も聞きたーい」

「私もー」

「あ、アリサちゃんやなのはちゃんも…………?」

「当然よ!友人のコイバナ程面白そうな…………応援し甲斐なものはないわ!!」

「右に同じくなの!」

「アリサちゃん。出来れば本音の方を隠してくれていたら少し感動していたんだけど……」

「で、どうなの?」

「う、の、ノーコメントでお願いします…………」

「あら?私達にそんな可愛らしい行為が通じると思っているなんて。可愛らしい子ーーーーーなのはちゃん、アリサちゃん。すずかを羽交い絞めしてちょうだい」

「了解なの!」

「任せて下さい!」

「ひゃ!ふ、二人とも止めて!お、お姉ちゃん。な、何をする気…………」

「ふっ、決まってるでしょう」

そう言ってまるで聖母のような微笑みを浮かべるお姉ちゃん
私この笑顔をどういうのか知っている
それは

「すずかが素直になるまで揉むのよ」
悪巧みと

「も、もみゅ!?や、やっぱりお姉ちゃん!そっちのけが!!?」

「やっぱりっていうのはどういうことかな!?ふふふ、でも今はその称号甘んじて受けましょう!妹の乳を揉むために!」

「駄目だよお姉ちゃん!!そのキャラ何だか知らないけど誰かに被ってる気がするの!!頭に浮かんだビジョンだと狸っぽい子に!!」

「そんなの今の私には関係ない!!」

「ひゃん!!」

揉まれた
それも鷲掴み

「ふふふ、ここがいいのでしょう、すずか?」

「や、やぁ、やめてぇ。あっ」

「ふふふ、口ではそう言っても体は正直ねー」

「「わ、わぁー」」

お願いだから止めてー!!
と変な雰囲気になっていたら

「し、死ねる………あの鍛錬死ね……………」

がちゃり
風雷君がドアを開けた

「「「「「…………………………………………………………………………」」」」」

言葉なんていらなかった
私達にはそんなものはいらなかった
悲しいことに
ばたんとドアを閉じられる
その動きでみんなの動きが再開される

「ふ、風雷君!誤解だよ!!」

「ああ、大丈夫、月村。俺は空気を読めるいい子。だから遠慮なく続きをヤッテくれ。俺はそれを遠くから侮蔑の目で見るから…………」

「お願い!!その気持ちはわかるけど、今回だけは空気を読まないで!!あと、全然フォローにもなってないし、逆に追い打ちをかけているよ!お願いだから信じて!!同性愛の趣味を持っているのはお姉ちゃんとなのはちゃんとアリサちゃんだけなの」

「え!!ここでまさかのカーブをするの!!すずか止めなさい!!変な趣向を持っているのはなのはだけよ!!私はどノーマルよ!!」

「ええ!アリサちゃん!?私を売るの!!」

「いや、わかってるんだ…………………………高町症候群にかかっていて変態なわけはないって。解っていたさーーーーーー救いようがないって」

「駄目だ!こいつ話を聞いているようでまったく聞いてないわ!!」

「ふふふふふふふふふ」
彼は不吉な笑いをしながらドアから遠ざかっていき、最終的に走りながら


「月村も変態だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

と叫んで行った
その後私達は彼を追いかけた
誤解を解くために
私は変態じゃないよ!!!

風雷慧  脱走


あとがき
質問に答えますけど、彼は声には感情が少し篭っているのに、顔に感情が宿っていないというアンバランスな人間です
だから設定は壊していない…………はずです
あと、一つ聞きたいんですが一部だけ文字を大きくしたり、ルビをするにはどうやったらいいのでしょうか
出来れば教えていただきたいです



[27393] 第七話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/19 21:57
魔窟の世界から逃げ、今俺は図書館にいる
別に他意はない
単純に適当に逃げてきたら、ここの近くに来ていたのでここに逃げ込んできたのである
それに月村ならともかくあの二人が本を読むとは思えないと思ったのだ
完璧な作戦
思わず自分の頭を撫でてしまうくらい完璧だ
さらに思わず独り言を呟く

「まったくーーーー傑作だな」と俺は笑わず

「戯言やろ」と狸は笑った

「ていうかキャラ的に言うセリフが逆やろ!!更に私は狸ちゃう!!」

「な、何を言う!お前が狸じゃなかったら何を狸と言うんだ!いい加減にしろ!」

「え!?何でや!私何で逆切れされてんの!?この場合私がキレるシーンやろ!」

「そんな空気、俺が殺して解体して並べて揃えてーーー晒してやるさ」

「やめぃ!色々迷惑や!!」

「鏡を見て言え」

「辛辣なツッコミ!」

ああ、癒される
まさか狸相手に癒されるなんてーーーー高町家よりは百億倍ぐらいマシだからな
この気持ちを一言で表したら何と言うだろうか
獣に癒し
ぴーん

「ケヤし…………」

「すいませーん。誰かこの人を病院に連れて行ってくださーい」

「病院?お前が今から行くのは動物園だろう?」

「はははは、残念ながら私には二度ネタは通じひ…………」

「----餌として」

「まさかの見世物ではなく、消費物!!?」

「こんなゲテモノを見世物になんてーーーー俺にそんな酷いことが出来るはずがないだろう」

「はい、ダウト!!現在進行形で私に酷いことをしてるくせに、どの口が言うねん!!」

「この溢れんばかりの善意と悪意を溜めているこの口が」

「確信犯か!!」

お互い挨拶という名のコントをする
しかし、そんな僕たちは実は会うのは二度目だという
はっはっはっはっは、遠慮ないなぁ、お互い

「そやねぇ、私達会うのが二回目とは思えへん程コントしてるで」

「何だろうなぁ。この連帯感」

「こ、これはまさかーーーーー恋?」

「ごめん、俺自殺するわ」

「私の心がじさつしちゃいそうや~」

がしっと握手する
呼吸を合わせて一言

「「おお、心の友よ!!」」

この会話
そう!こういうことが出来る相手を求めていたのだ
ああ、至福の時間
でも至福の時間は長くは続かない
そう、それは機能理解してしまったことであった

「「「見つけたよ(わよ)!慧君(風雷、風雷君)!!」

「な、何や!」

「下がれ八神!いや、こいつらに近づくな、話すな、触るな、同じ空気を吸うな!!もしこれらを守らなかったら高町症候群にかかってしまうぞ!!」

「た、高町症候群?」

「そう、病名高町症候群。症状はレズになったり、ストーカーになったち、親馬鹿になったりと様々な症状が出るが結果はかかったらーーーーー変態になる」

「そ、そんな恐ろしい病気が!?」

「駄目だよ!彼の言うことを真に受けたら!風雷君は屁理屈を並べることなら世界を狙えるもの!」

「屁理屈で世界を狙えるということはつまり俺の屁理屈は世界を支配できるということか………………大したものだ」

「駄目だよアリサちゃん!もう慧君には言葉は通じないと思うよ!!」

「さらりと酷いわねなのは……………」

「わ、私はどっちを信じればいいんや……………?」

「「「「無論、こっち(だ、よ、なの)!!!」」」」

「あかん!あかんでぇ!!私がボケることも、ツッコむ事も出来ないなんて!私はどうすればいいんや!!」

わいわい騒ぐ俺達
互いに譲らず、互いに主張するので話は平行線
決め手がない状態で更に騒ぐ
だが、俺たちは忘れていた
そう、ここが図書館(公共の場)だということを

「あいた!」

「きゃっ!」

「いたっ!」

「にゃっ!」

「あがっ!」

同時に悲鳴があがる
何故悲鳴がというと答えは至って単純
何かをぶつけられたからである
何かというのは

「ぼ、ボールペン?」

「シャーペン?」

「練消し……………」

「じ、Gぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!何で私だけこんなんやねん!」

「…………………明らか殺意が籠った六法全書」

みんなが一体誰がこんなことをと思い投げられてきたと思われる方向に振り向いた
そこには

こめかみに立派な青筋を立てていたお姉さんが

その視線がこう言っている

図書館で暴れんなよ糞ガキがと

その場の判断で全員逃げだした

運動神経の悪い高町と車いすの八神を残して
うらぎりものーと声が聞こえたような気がしたがそんな些細な事では俺達の逃走本能には勝てなかったのである




「まったく、ひどいよ!」

「ほんまや!」

「だからごめんって何度も言ってるでしょう」

「そうだぞ、こんだけバニングスが謝ってるんだ。そろそろ許してやれ」

「……………まるで自分は何も悪くないっていう言い方だねぇ」

「え?俺悪いことなんて一度もしたことがないよ」

「「「「はい、嘘!!」」」」

「人の言っていることを疑うなんて……………悪い子だな」

「そのセリフ、慧君には言われとうないわ!!」

「同意見だよ!」

「右に同じ」

「左に同じ」

失礼な奴らだ
今は図書館から逃げてきて公園に来ている
流石にあのままあそこに居残るほどみんな精神力は強くなかったのである
あの後は八神をみんなに紹介した
その後、高町恒例の秘技「名前で呼んで」を使い見事八神を洗脳した
恐ろしい能力だ
そういえば八神。お前は人見知りが激しいんじゃないのかと尋ねてみたら
「いやいや、あんなボケて、ツッコんでたら、そんなん乗り越えてしもうた」
ということらしい
別にどうでもいいけど

「ああ、私これからどういう顔してあそこに行けばいいんやろうか…………」

「大変だな、八神」

「だ・れ・の・せ・い・や!!」

「そこの三人娘」

「風雷?責任転嫁っていう言葉知ってる?」

「勿論知っているとも。それがどうした?」

「あははは、時々むかついてその澄ました顔を思いっきし殴りたくなるんだけど私、間違ってないよね?」

「月村、言われてるぞ」

「…………へぇ、風雷君からしたら私澄ました顔してるんだ」

おおっと藪を突いてしまったか
触らぬ月村に祟りなし
そう思いその殺意から逃れる為の方法を考えていると
「おっ」
目の前にアイスクリームの屋台が
丁度いい。これでご機嫌を取ろう

「見目麗しいお嬢様。どうかこの甘いものでご機嫌を直してください(棒読み)」

「うん……………出来ればそのセリフに感情が籠っていたら完璧だったのに」

「まっ、風雷に期待するだけ無駄でしょう。あ、あたしバニラね」

「私もバニラ!」

「私もや!」

「……………何故お前らも注文する」

「「「え?まさかすずかちゃんだけ特別扱いするの?ふーーーん」」」

何だその含みがある言い方は
まぁ、別にそれぐらいのことで財布は傷まないけど

「月村は?」

「………………………………え?あ、ああ!わ、私はチョコで!!」

「……………………何で焦っているんだ?」

よくわからんやつだ
そう思いながら屋台に近づいて注文をする
すると後ろから話し声が聞こえる

「それにしても普段は薄情者に見えるけど優しいやんか」

「そうだよね~。あ、こういうのをツンデレっていうんだよね~」

あら、とても不快な会話が

「すいません、チョコ二つに、バニラ一つ、あとそこの抹茶わさびサイダーを一つと、いちごカレー辛口を一つで」

「なんやぁーーーーーー!!その奇怪なアイスは!!?」

「何でそんなものがあるの!?ていうか止めてそんなものを注文するのは!?」

やかましい
誤解しかない事を話しているからいけないんだ

「それにしてもすずか。良かったじゃない。好み似通っているみたいよ」

「え、えへへ。そうかなぁ~」

何か聞こえたが気にしない
というか聞いてない



しばらくアイスを食べて雑談していた
余談だが八神と高町はアイスを意地で食べていい笑顔で気絶した
余りにもいい笑顔だったので写メを撮っといた
これは高町父にでも怒ったとき用のフレアにしておこう
そう思っていたら

「ぬっ」
さっきまで公園になかったものを発見した
というか余りにもくだらなさ過ぎて見る気が一瞬で失せた
見つけたものはざるを棒で立てた幼稚園どころか赤ん坊ですらしないトラップというのも馬鹿らしいものだ
よくその下には食べ物とかで釣るために何かを置いておくんだがそれが

「ね、ねぇ、あ、あのと、トラップ?らしきものの下に。い、いやらしい本が置いてあるように見えるんだけど。わ、私の気のせい?」

高町も気づいたのか律儀にみんなに伝える
他の奴らもそれには気づいていたのかみんな目をそらしたり、顔を赤らめたり、興味津々だったり、興味なしだったり、色々な反応を返してきた
はぁ、こういう馬鹿らしい物があるということは十中八九あの山猿の仕業だろう
とっとと山猿退治をするか
そう思い立ち上がり、くだらないもののそばに歩いていく

「え?慧君?ど、どうするの?」

俺は何も言わずカバンからシャベルを取り出す

「「「「えええ?ちょっと待って!明らかそのカバンには入らないサイズ(やん、じゃない)だよね!!」」」」

無視して穴を掘る
ざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっくざっく
よしこれぐらいで成長した万年発情猿を落とせるくらいの深さにしたか
あとは餌か
今度はカバンから何の変哲もないペットボトルを取り出す

「「「「????」」」」

後ろから今度は何だろうみたいな反応をしているのが気配でわかるが、これも無視してとぽとぽと中身の水をそのエロ本にかける
よしよしこれくらいかけといたら景気良くなるだろう
今度はごそごそとポケットからマッチを取り出して火を点け遠慮なくエロ本につけた
一瞬でエロ本が業火に包まれる
次の瞬間

「ほわちゃーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

などど奇声を発した山猿が藪から出てきて燃え盛っているエロ本に飛び込んだ
よくもまぁ、絶賛火事中のエロ本を抱き抱えれるもんだ
だがまだ甘い
山猿は本の方に集中していて足元を疎かにしている
そして一歩足を引いた瞬間
山猿は俺がついさっき作った落とし穴に嵌った
ぐわぁぁぁぁぁぁぁとかいう山猿の奇声が聞こえたがそんなものは気にせずにすぐさま穴に近づき上から魔法の水(灯油)を落とし、ついでにマッチを落とす
そうするとあら不思議
下に落ちた動物が燃えだすではないか
こうなるとこう言いたくなるよなぁ

「はっはっはっはっはっはっはっはっは!!!猿がゴミのようだ!」

「…………………………はっ。ちょ、ちょっとあんた!!それ殺人よ!」

「あ、ほ、ホントや!余りの状況の移り変わりについていけなかったからリアクション取れなかったけど慧君!!そんなんしたらその人死んじゃうで!!?」

「そ、そうだよ!は、早く火を消さなきゃ!!」

「み、水!!」

おやおや、皆様何を勘違いしているんだろう
これは優しい俺が答えて上げなければ

「みんな。騙されてはいけない!こいつは人の皮を被った山猿だ!!」

「「「「こいつ、もう駄目だ!!」」」」

おお、珍しく八神が関西弁を放棄して、月村が汚い言葉を吐いた
それにしても何を言うのだろうか
この山猿がもう駄目なのは見た瞬間わかっているのに改めて口に出すとは……………非合理的だね

「あんたって無表情な癖して何で喋る内容はコミカルなの!!?」

無視した
いちいち相手にするのがめんどくさくなったというのが本音だが
何やらバニングスが錯乱して俺を殺してやるとか言って月村達に止められている
最近の若者は脳が異常だね
そう呑気に思っていると

「こ、小僧!貴様ぁ!よくの儂の先祖代々伝わる法典を焼きやがったな!」

と言って穴から這い出る山猿
速攻で穴に戻すために蹴ろうとしたが流石に間に合わなかった
ちっ、流石山猿
登るのが得意なもんだ

「大体何だ。エロ本を法典にしている家系は。そのまま去勢されればいいのに」

「己、年上に対して礼儀というのが分かっておらん小僧が……………!」

「はて、この場に年上の人間がいただろうか?俺の目の前には山猿じじぃしか見えないが」

「わかった。儂が悪かった。小僧に礼儀という概念は難し過ぎじゃったな。だからこっちに来い。躾をしてやろう。何、痛くはせん」

「この前それを信じて近づいたら延髄チョップをかまして俺を気絶させてそのまま山のど真ん中に捨てていったよな。あの後餓えた野獣とかと遭遇したりして帰るのに一週間かかったんだが」

「それを言うなら小僧。お前は儂が寝ている間にどこかからか調達してきたコンクリに儂を埋め込んでそのまま海に捨てたような気がするんじゃが。コンクリから抜け出すのに二日。帰ってくるのに三日かかったんじゃが。しかもその間に鮫やら何やらに襲われたんじゃが」

「「………………………殺す!!」」

「お、落ち着いてなのーーー!!でいうか何であの炎から無傷でいられるのーー!」

「…………………………その前にさっきの過去話が本当なら何でこの二人が生きているのかを知りたいんだけど」

「……………あれ?でもそういえば、この前。風雷君が何故だか知らないけど一週間休んでいて連絡もないっていう事があったような」

「……………………………………………………きっと偶然やって」

外野が何かほざいているがそんなのは無視
今はこの万年発情期の山猿を抹殺しなければ…………!
そう思っていると山猿は何をとち狂ったのか、四人娘の方を見ていた
チャンスと思ったが、ちゃっかり片目はこちらの方をちゃんと監視していた
ええい、無駄に隙がない
そうしてチャンスを狙っていたら

「ほう、これは傑作じゃな。小僧の友達かな」

とにやにやした気持ち悪い笑顔でそう尋ねてきた
だから俺は反対の気持ちいい返事をした

「いや、残念ながら。一人はストーカーで、一人はレズで、一人は狸で、一人は変人だ。こんな個性的な友達は願い下げだ」

「「「「余りにも酷い評価(なの、よ、や)!!!」」」」

そんなことはない
俺はちゃんと見て評価している

「待ちなさい風雷!確かになのはとはやてとすずかの評価はそれでいいわ!でも私の評価はおかしいわ!!私は変人何て言われるほど高町症候群にやられてないわ!」

「ちょっと待って!その病名、既に受け入れられているの!?そしてアリサちゃんは友達をいとも簡単に捨てるの!!?」

「同感だよアリサちゃん!少なくともその意見はなのはちゃんとはやてちゃんにしか通じないよ!私は普通だもん!」

「ちょい待ちぃ、すずかちゃん!出会ってまだ一時間ぐらいしか経っていないのにその言い方は酷いんちゃうか!!それに私、人間やもん!!狸ちゃうもん!!」

「八神。それについては後でゆっくり『お話』をしよう。ついでに鏡を見せよう」

「ひど!!このメンバー、手加減ていう概念が存在しない!」

「「「「手加減なんてそんなもん、ドブに捨てたわ(よ)!!」」」」

「人間として終わってる!?」

「はっはっはっは、仲がいいのう」

うるせぇ、糞山猿
とっとと山に帰れ

「よし、儂はそこの御嬢さんたちと話したくなったぞ。というわけで小僧、あそこで売っているたい焼きを買ってこい」

などど明らか喧嘩を売っているとしか思えないセリフを言ってきやがる

「山猿………………ついに幼女まで……………」

「残念ながら儂の守備範囲はお前さんほど広くわないなぁ」

「おいこら山猿。いきなり事実を捏造するな。後ろからの冷たい目がストレスを増やす」

『年上で優しくて包容力があって家庭的でロングヘア巨乳』

「……………………………………………」

おかしい
何で俺の声が返事として返ってくるのだろうか
しかも何をふざけたことを言っているんだろう
一発この声の主をとっちめなければ

「自分で自分を殴るとは…………………マゾの所業じゃな」

「二つ聞きたいことがある。答えさせてやるから答えろ」

「何じゃ?クソ生意気な小僧。お前さんと違って寛大な儂が答えてやろう」

「一つ、その機械は何だろうか」

「何じゃ小僧。ボイスレコーダも知らんのか」

知っているけど理解したくなかっただけだ

「二つ目ーーーーーーその戯けた言葉は一体なんだ!」

「ふっ、お前さんをこの前鳩尾を四連打しておとした時に上手いこと寝言を言いそうだったから、少し『お前さんの好みは?』と聞いてみたら素直に答えてくれたぞ」

「馬鹿な!?俺の深層心理がそんなものを望んでいるなどとは!!」

「ふはははは。何ならもう一度流そうか。しかも今度はラジオをハッキングして全国に流れるようにして最後に小僧の住所をつけようではないか。あははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

「この山猿!拷問だけじゃ収まらないぞ!!」

「なにぃ?そんな口を聞いてもよいのか」

「くっ」

「わかったなら、とっとと買ってこい変態小僧」

「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「はっはっは、行ってこーーい」

ちくしょう!!
この場合何を言っても負け犬の遠吠えだがそれでも言わなければ気が済まない

「山猿!!月のない夜は気をつけろ!!きっと釘バットを持って気絶させた後、リアルアリジゴクに手足を縛った後、放置してやる!!」

「それは負け犬の遠吠えというより殺人宣言じゃぞ」

山猿が人を自称するか!





「やれやれ、やっと行きおったの」

そうしてお爺さんはよっこらせと言ってベンチに座った
あの風雷をあんな風にパシらせることが出来るなんて………………凄いお爺さん

「はい!お爺ちゃん、質問!!」

そう思っているとはやてが元気に手を挙げながらお爺さんに話しかけた
…………………度胸あるわね
人見知りだったんじゃなかったの
首をやれやれと振ってその話を聞いていると

「さっきの好みーーーーーーマジですか!!」

「たわべ!!」

こきょ
余りのあほらしさに首が嫌な音を……………
そんな私の事情を知らずに話は続く

「ああ、そんなものはーーーーー嘘じゃ」

「え!?でもさっきの声は………………」

「合成じゃ」

「無駄にハイテク技術!お爺さん器用ですね!」

「かっかっか、あの小僧をいじめるにはこのぐらいをやらないと駄目じゃぞ?昔は可愛かったんじゃがなぁ」

「へっ!そうだったんですか!?」

「そうじゃとも。-----出会い頭に思い切り後頭部を殴ったらそれきり動かなくなってのぅ。もしかしてヤッチャッタと思い急ぎ森に隠してたのぅ。サツが来ないかブルブルして布団に入っておったわ」

「ああ、つまり風雷の性格の歪みの原因はお爺さんにもあったのね………………」

「かっかっか、何を言う。あの小僧は出会った時からあんな風に歪んでおったぞ」

まぁ、少しはマシになりおったがとお爺さんは言ってたがそえよりも重要な事がある
この人は私達が知る前の風雷を知っている
なら、少しは話を聞くことが出来るかもしれない
思い立ったが吉日

「あの、その、出会った時の風雷ってどんなやつだったんですか?」

うんうんと周りも同意する
私の知り合いで一番複雑怪奇な知り合い
さっきまでのギャグシーンでも彼は結局一度も表情を変えなかった
そこまで行くともはや彼には感情というものが無いのではないかと思う

「ん?ああ、今よりも酷かったぞ。まるでこの世全てをどうでもいいと思っておったからのぅ。まぁ、それは今でもじゃが」

「そ、それは、やっぱりあの事件で……………」

事件?とはやてが首を傾げるがそんなことに構っている場合ではない

「ああ、何の事件があったが知んないがそれのせいなんじゃろうなぁ。あの小僧はこう言っておったな『地獄を味わって生きようとしたらその地獄に適応しただけだ』と」

何だそれは
つまり生きようと思っての行動が今でも続く呪いになっているという事だろうか
それじゃあんまりにも

「可哀想か」

考えていたことをお爺さんに言い当てられてつい肩を竦める

「それ、本人に言っちゃ駄目じゃぞ。あいつ同情されるのもするのも嫌らしいからのぅ」

それはまぁ、態度を見たらわかる
というか実例を見たことがある
一度あいつが生徒に家族の事でからかわれているのを見たことがある(本人は完璧に無視していたが)
すわ、止めてやろうと三人で止めようとしたら
先生が出てきて命知らずにもこう言ったのだ
「風雷君は家族を事故で失ってしまった可哀想な子供だからそんな風に言っちゃ駄目」と
その瞬間まったく反応していなかった風雷が反応した
表情は相変わらずの無表情
しかし瞳には隠す気もない怒気が
その後先生が一人減ったと言っとこう
何をしたのか知らないが
手加減を知らないやつなのだ

「そうじゃなぁ。あの小僧この前は儂が散歩で眠くなって眠っておったら儂を縛って森に放置よった。しかも周りには熊を呼ぶ餌を置いて」

「………………………………これってツッコむとこかなぁ」

「ええ。こう言うべきだと思うよーーーーー洒落になってないって」

「すずかちゃん………………遠慮がなくなってきたね」

「成程。類は友を呼ぶという事かの」

確かに

「わ、私は風雷君みたいにおかしくないよ!!」

「「「「…………………………うん、そうじゃな(そうね、そうやな、そうだね)」」」」

すずかがいじけた

「まぁ、それでも昔よりかはマシになったの。昔は声にも感情が籠ってなかったからのぁ」

まるで人形じゃった
そう呟くお爺さんには気のせいか悲しみが含まれていた

「あの、お爺さん」

なのはが何だか聞きた気な様子だ

「何だい、栗色のお嬢ちゃん」

栗色のお嬢ちゃん…………………凄い名前
なのはは無視したようだ
この子も逞しくなっちゃって

「その、何で慧君と仲良くしようと思ったんですか?」

「ん?本人から聞いておらんのか?」

「ええと。何だか『その顔気に入らん』とか言って、えと。----コミュニケーションをしたとか」

「言葉を選ばんでもいいぞ」

なのはも口が達者になったわね
誰の影響かしら
………………………………………………………………………………

「あ、アリサちゃん?どうしてそんなに拳を熱く握りしめてんの?」

「ふふふ、どうしたのはやて?そんな赤ずきんみたいな質問をして。ただ私はこんなにもみんなを汚した風雷を原形がなくなるぐらい殴ろうと決心しただけよ」

「ああ!アリサちゃんは暴力的な意味で高町症候群にかかってんのやな!」

失礼ね
私はなのは達と違ってどノーマルよ
でも確かに何でだろう
みんなも疑問に思う
まさか本当に顔が気に入らないでけでここまでするとは思えないからである
ところが

「しかし儂の理由はそれだけじゃぞ?」

「へ?じゃ、じゃあ本当に顔が気に入らないだけで?」

「応とも。あやつが余りにも無表情過ぎるからのーーーーーだからからかってやろうとしただけじゃ」

「-----あ」

呟いたのはなのはか。それともすずかか、はやてか。もしかしたら私かもしれない
疑問は一瞬で氷解した
簡単な事だ
この人もこの人なりに彼を心配していたのだ
……………方法は明らか間違ってるけど
あの無表情の彼を
感情を意地でも出さない彼を
本人は俺は感情はないとアピールしているつもりのようだけどみんなそんなわけないとちゃんと理解している
大体感情がないなら友達じゃないと嫌がることも出来ないでしょーが
意外と抜けている奴なのである
はぁ、まったく

不器用なやつ

その後、風雷はたい焼き(わさび味)を思い切りお爺さんの顔にぶつけ、そのまま乱闘になった
私の心配を返せと思いを乗せてドロップキックを二人にやったら一撃で気を失ってしまった
みんなの私を見る視線に恐怖があった気がする
気のせいだと思いたい
理不尽よーーーーーーー!!

あとがき
勝手にすずかをこんな扱いにしてすずかファンの人申し訳ない
どうか寛大な心でお許しを
次はまさしくそのすずか編にしようと思っています
ついでにすいません
西尾維新のネタをパクッテしまいました
作者のネタ不足故です



[27393] 第八話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/06/12 21:40
ようやく高町家の呪縛から逃れることが出来て幸せをこの上なく満喫することが出きる平日
ああ、俺はいつもこんなに幸せだったのかと適当に感想を抱く
学校があれほど恋しいと思ったことはなかったなぁ
どうやら俺は地獄とはかなり縁があるらしい
皮肉………………というわけではないか
まぁ、別にどうでもいいけど
そういうわけで今回は何とびっくり!

あの高町達から逃げることが出来たのだ!

今回は悪魔が余りにも俺を哀れに思ったのかバニングスと月村は早めに帰っていたのだ
そうなると敵は高町ただ一人
逃げるのはたやすい
ようやく日頃の行いが報われた感じがした
今は今日の食材を買った帰りなのである
しかもタイムセールス
タイムセールスになる度に思う
あのおばちゃんどもは人間の皮を被った鬼神なのではないかと思う
さっきまでの攻防を少し思い出す

「やいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!そこんガキぃ!!その卵寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「アヘッド、アヘッド!!獲物(食材)を刈り尽くせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ガンボー!!ガンボー!!ガンボー!!」

「家計の遣り繰りしてる小学生舐めんやないでーーーーーーーーー!!!!」

「邪魔するものはまとめて蹴散らしてやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「負けてらんないのよーーーーーーーーーーー!!あんた達にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「待ってろよーーーーーーーーーー!!俺のカワイ子ちゃん(お肉)!!!たっぷり愛し合おうぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「OKフ○ッキンシープ(文字道り羊の肉)。たっぷり憐れんでやるからよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

んんん?何か変なものが記憶に混じっているなぁ
ちゃんと消去しとかなくてわな

とまぁ、こんな感じの地獄絵図
あれ?
俺の行く先々が全部地獄に見えるのは被害妄想だろうか?

……………………………………………………

思考を一時停止した
こういう時は無心でいるべきだと経験で覚えた
覚えたくもなかったが
いらない経験ばかり覚えていくのは何でだろう?
………………止めよう
これじゃあ無限ループだ
こんなことは気にせず家に帰って飯を作ろう
そう思っていると気が楽になってきた
思い立ったが吉日
少々危険だが裏道を通って帰ろう
そう思い所謂、路地裏というところを歩き回り帰宅を急ぐ
ほんの数分歩く
そしてようやく路地裏の出口が見えてきた
気分のせいか、心なし出口の外は明るく感じる
ここから後3~4分歩けば自宅だ
今日は奮発してキムチ鍋だ
さぁー、とっとと帰るぞーと意気込んで出口から一歩出る
すると次の光景は

幼女誘拐であった
しかも見覚えのある金髪つり目と清楚そうなお嬢様風黒髪ロングヘアーの
俺の人生はいつもこんなんだ




いきなりのことだった
唐突の事だった
前触れとかはなかった
別に今日は何の変哲もない一日だった
普通に朝起きて
普通に朝食を食べて
普通に学校に行き
普通に授業を受け
普通に友達と喋り
普通に稽古を受けに行った
どこにも特別なことはなかった
なのに今起こっていることは特別というより異常な出来事
私とすずかを誘拐しようとしているということ
稽古を終えて私たちは迎えを待っている時だった
いきなり目の前に車が止まり、スーツ姿の人二人がが出てきて私達を捕まえたのだ
余りの出来事に一瞬心臓が止まったかもしれない
しかしそこは素晴らしき神秘な人間の構造
状況を完璧に理解…………………は出来なかったが自分がすることは直ぐに理解した

この人達から逃げないとーーーー不味いということを

「いや……………離しなさいよ!!」

「は、離して!!」

私とすずかは逃げ出そうともがいた
当然だ
このままいけば何があるか
想像出来ないことがここまで恐ろしいとは知らなかった
ただ私達は我武者羅に暴れた
しかし現実は非常だ
如何せん
女の子、しかも子供の私達が成人男性の筋力に勝てるはずがなかった

「おとなしくしろ!このガキ共が……………!」

「きゃっ!」

「すずか!!」

私達が暴れたからか
さっきまでよりも酷い扱いをしてくる
すずかのあの綺麗な黒髪が引っ張られる
それで私の沸点は臨界点を軽く突破した

「ちょっとあんた達!私の友達に何すんのよ!許さないわよ!」

第三者から見たら何を言っているんだろうと言われる発言だろう
何せ私達はこんな風に逆らえないのに許さないなど言っているのだ
しかし私は至って真面目だ
私は髪を見ての通り日本人とアメリカ人のハーフだ
この髪のせいでとは言いたくはないがそれで長い間友達が出来ず、ひねていた
すずかとの出会いもかなり最悪だっただろう
私はすずかにいきなりいたずらをしようとしていたのだ
そこになのはが入り色々あって今では親友といってもいいぐらいの仲になった
二人には言ってないが私は本当に二人には感謝している
今まで友達が出来ず一人で寂しかった
それを二人が救ってくれた
大袈裟ではない
何よりも大切で何よりも誇らしい友達だ
その大切な友達がこんな酷い目にあっているのだ
例え場違いだろうと何だろうと私は吠える

私の友達にその汚らわしい手で触るなと

しかし返ってきた反応は予想とは違った
てっきり怒ってくるかと思った
しかし返ってきたのは

嘲笑だった

こんな状況なのに困惑してしまう
何だろうか、友情を笑われたのかと頭が勝手に思考する
答えがわからないまま彼らが勝手に喋りだした

「はっ、素晴らしい友情ですね。こういう時は私達はその友情に涙するべきなのかな?」

ふざけた言い方だった
敬語を使っているが敬意はまったく込められていない
ただの見下しだ

「うっさいわね!!私達を離しなさい!ただじゃおかないわよ!!」

これは嘘ではない
何せすずかの姉の恋人恭也さんがいるのだから
正式名称は知らないけど確か御神流というのを修めている人だ
少しなのはやすずかと一緒に試しに訓練を見てみたけど凄すぎて何をやってるのかさっぱりわからなかった
そして忍さんがすずかや私の危機に気づいたら当然恭也さんに繋がる
そうなったらこんな奴らはちょちょいのちょいだろう

「アリサちゃん…………その言葉は多分だけど死語じゃない?」

「こんな時に何ツッコんでんのよ!!」

ええい、このシリアスシーンに!
一体誰の影響……………考えるまでもないので考えなかった
というか考えたくなかった

「ということで私達を離しといたほうが賢明よ!!」

「くくく、そうですか。そいつは大変ですね」

どうやらこいつらにはただの冗談を言っていると思われたようだ
嘲笑は耳にこびり付いてうっとおしい

「ははは、それにしてもマンガみたいな友情ですねぇ」

「何ですって!!」

「いえいえ、褒めているのですよ。-----これで彼女が人間だったら素晴らしいのですけどねぇ」

「------は?」

何を言っているのかさっぱりだった
彼女が人間だったら?
すずかのこと?
何を言っているんだろう
何処から見てもすずかは人間ではないか
もしかして二次元と現実を区別できていない可哀想なイタイ大人だろうか

「残念ながら可哀想なでもイタイ大人でもないのですよ」

私が言うよりも早く返事が返ってきた
どうやらこういう反応を予測していたらしい
もう一人の男も車の中に入りながら嗤っているのがわかる

「やはり喋っておりませんでしたか。まぁ、それは当然ですよね。話したら化け物扱いですものね」

「はぁ!?何言ってんのよ!すずかはどう見ても人間じゃない!すずか、言ってやりなさい!この現実と妄想を区別できない馬鹿達に私はあんた達と違って立派な人間だって!!」

そうすずかに一喝した
しかし答えは返ってこなかった
沈黙だった
顔を俯けて表情が読み取れなかった
まるでそう

真実であることを悟られないように

「嘘……でしょう、すずか?」

すずかが人ではない?
そんなはずがない
だってこんなにも私達と一緒なのに
思考が纏まらない
纏めようとするけど空回ってばっかり
いつもの私とは明らか違う
私はこんなにも頭が悪かったかと思ってしまう

「さて、お友達の相互理解も終わったところなので、そろそろ連れて行くとするか」

はっと再び現実を認識する
そういえば誘拐されそうになっていたのであった
再び暴れるがびくともしない
そんなことをしていると車の後部座席のドアが開けられる
本能的に理解した
このままあのドアの中に入って行ったら最悪なことが起こるかもしれないと
すずかもそれを理解したのかさっきよりも暴れる
しかし無駄だった

「ああもう、とっとと縛って向こうに連れて行くぞ」

苛立った口調で車からロープを出してくる
怯えで何も言えない
さっきまでの威勢はどこに消えたのだろう
それを相手もわかったのか
気持ち悪い笑顔を浮かべ

「残念だったな。恨むならそこのお嬢さんをうらみゃ!!!」

キーーーンという音がしたような気がした
いきなり変な風に声を出したと思ったらさっきまであんなに私達を離さなかった手が簡単に離された
いきなりのことなので着地することが出来ずに尻餅をついてしまった

「「きゃっ!!」」

本当に何が起こったのだろうか
お尻の痛みを気にしつつさっきまで私を捕まえていた男の方にすずかと同じタイミングで振り返った
そこにはさっきまでのスーツ姿の男が立っていた
たださっきまでと違うのは顔が痛みに引き攣っているのと

え~と、股間の間に足が
簡単に言うとえ~と男の急所を思い切り蹴っている足が

暫く男は硬直していた
というか硬直するしか出来なかったのだろう
すると後ろから男の急所を蹴っていた足が下された
と思いきや
再び思い切り蹴った

「たびゃん!!」

憐れな叫びが再び響く
しかし蹴っている奴は容赦なかった
それから何回も蹴った
ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス
その度に気持ち悪い悲鳴を男はあげていた
20回、いや25回ぐらい蹴られたらようやく倒れた
そしてようやく男の急所を連続で蹴っていたのかが誰だかわかった

「慧君!!?」

「風雷(外道)!!?」

「待てや、バニングス」

ちっ、かっこの中まで読むなんて……………じゃなくて!
こんなところでボケている暇なんてなかった
私の馬鹿!
そうしていると車の中にいたもう一人の男がドアを開けた
それと同時に風雷は何かを投げた
私はこう見えても運動神経は良い方なので何が投げられたかを確認することが出来た
見えたものは赤いもの
ああ、確かあれは食べると辛い味がする不思議な食べ物
その名も

キムチ!!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!目が目がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「二度ネタよ!!」

「アリサちゃん!落ち着いて!言ってもあの人には通じない!!」

わかってるわよ!
でも言わなければ伝わらないじゃない!

「落ち着けバニングス。とりあえず逃げるぞ」

そう言ってこいつかこんな時でも無表情だった
しかもこいつキムチで目が潰れている奴にも急所蹴りをやっていた
小声で「再起不能決定だな」とか呟やいていた
手加減を知らない男
風雷慧
恐ろしい奴………………
そして私達の手を引いて路地裏に駆け込んだ

「て、ちょ、ちょっと!一人で走れるわよ!」

「そ、そうだよ!」

そうお互い抗議していると風雷は振り返らずに返事してきた

「その震えた足でか?」

「な、何言ってんのよ!べ、別に震えてなんか………………」

震えていた
隠しようがないくらい震えていた
全然気づかなかった
自覚した今でも全然感じれない
それでもしっかり震えていた
その震えの名を私は知っている

恐れだ

仕方がないと事情を知っている人間はみんなそう言うだろう
まだ小学校一年生になったばかりの子供なのだ
精神年齢は他の子供達よりも遥かに高いとはいってもだ
むしろあれだけの啖呵を言ったのだ
褒められはすれ責められはしない
誰も彼女の事を臆病とは言わないだろう
むしろ勇敢と称えるだろう
しかしそんな言葉は今の私には通じないだろう
見ればすずかもそうだった

ああ、私達はこんなにも怖い目にあったんだと自覚した

そう思っているといきなり風雷が止まった
いきなりだったので風雷の背中に当たった

「な、何よ!いきなり…………」

「そ、そうだよ………………」

怒鳴る私達の声に力が籠っていないことがわかる
すると風雷が振り返った

「「???」」

私達はいきなりだがはてな顔になっていただろう
何故かというと珍しくこの無表情男が表情は変えなくても困惑しているというか言うべきかどうか迷っている雰囲気が伝わってきたのだから
それもはっきりと

「あー、バニングスと月村」

風雷は振り返らずに喋りかけてきた
何だか歯切れが悪い
一体何を言うつもりなのだろうか

「いいか。ここには今誰もいないし、誰も見ていない。あいつらも多分撒いた」

「「うん」」

というかいつの間にかそこまで走っていたのか
そういえば結構疲れている
でも本当に何が言いたいのだろうか
遠回り過ぎる

「え~と、だからな」

「あーーー!もうじれったい!何が言いたいのよ!!」

「まぁ、つまりな」

ようやく本題のようだ
こいつのことだ。どうせ下らないことだろうと思った
しかし今日は予想外の事ばかり起きる日のようだ
まさかこいつが

「例えば二人の女の子が泣いたとしても誰も見ないのではないかなー」

こんな人を気遣うようなセリフを言うなんて

「「……………………あ………」」

不意打ちだった
下らないことを言うと思っていたから
こいつが他人を気にするとは思っていなかったから
だから私とすずかは簡単に涙を流した
しかし目の前の背中に見られるのが恥ずかしかったから私達は咄嗟に彼の背中にしがみついた
身長は私達とそこまで変わらないのに何故だか知らないが大きく感じる
そんな背中だった
彼はそのままの状態でいて私達がしがみついても気にしなかった
私は久々にわんわん泣いた
すずかもわんわん泣いた
彼は黙ったままでいてくれた
それが嬉しくて更に泣いた
久しぶりの大泣きだった
結局泣き止むのに15分ぐらいかかってしまった
風雷はそのままずっと黙って背中を貸してくれた

「じゃあ、警察に行った方がいいか」

「そうね。その方がいいわね」

風雷は号泣したことについてはまるで無かったかのようにしてくれる
それが有り難かった
はぁ、パパとママにも電話しなきゃ
そう計画していたら

「待って!!」

すずかが今まで見たことがないくらいの真面目な顔と真面目な口調で叫んだ
思わず風雷と同時に振り向く

「お願い……………このまま私の家に来てくれない?…………」

すずかは何かを決意したような顔で私達を見ていた
私達から目を逸らさずじっと

「理由は?と聞くのは無粋なんだろうな」

風雷はもう悟りきったような顔(とは言っても無表情だが。こいつの隠している表情を見て私がそう判断しているのだ)ですずかを見ている
相も変わらず無表情で

「うん……………話すよ………全部
何でこんな目にあったのかも
私が何を隠しているかも………………全部話すよ」

私達は黙って頷くしかなかった
風雷は知らないけど、私はすずかの覚悟に圧倒されたからだと思う
さっきあの男達が言っていたすずかの秘密の一端
それを知られるのをすずかはかなり嫌がっていた
それを自ら話すと言うのだ
さっきあの男はそれを知ったら普通に暮らせないみたいな言い方を言っていた
つまりだ
すずかはそうなっても構わないと決意したのだ
例え嫌われても、軽蔑されても、拒絶されても
話すと決意してくれたのだ
その覚悟を決めたすずかは心なしかいつもよりも綺麗に見えた
静かで、ひっそりしているがしかし明確に光っている
そう
まるで月のように
何だか悔しいけど負けた気がした
人間としても
女としても
でも、とても清々しい
何でかなんて決まってる
私達に秘密を話してもいいと決意してくれた
つまりそれだけ私達を信頼してくれたという事なのだ
余りの嬉しさにまた泣くかと思った
でも今度は意地でも泣かない
それはそうだ
だってすずかがこんなにも良い少女になったのだ
ならば私も張り合わなきゃ駄目でしょう
それでこそ

友達というものなんだから

今日という日は特別な一日になるようだ
そう私は予感ではなく
完璧に確信した



あとがき
まだ読みにくいということですが今度はどこらへんを改行するべきなんでしょうか
あんまり開けてたら文面が汚くならないでしょうか
あ、あと、まったくルビとかフォトがわかりません
見てもさっぱりです
これが作者の限界か……………
言っていて泣けてきました



[27393] 第九話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/12 16:27
あの幼女拉致集団を撒いて二時間
ようやく話が始まりそうだ
今は月村が提案したとおりに月村邸
初めてきたが噂通り豪邸だった
別にどうでもいいけど
あ、こんな所に高そうな壺が……………

「風雷君?まさか盗もうっとか思ってないよね」

「いや、一生借りようと………………」

「ねぇ、知ってる?この家には猫がたくさんいること」

「ん?ああ、さっきから鳴き声がうるさいよな。それで?」

「その猫の中に猫の大好物を体に巻きつけて叩き込むよ」

「わぁ、僕、凄い金持ちになった気分(棒読み)」

「…………………プライドはないの?というかシリアスな雰囲気に入るとみんなが予想しているのにその予想を裏切るな!!」

「大丈夫。アリサちゃんも忍ちゃんから見たら十分コミカルよ」

「………………………………………ついていけん」

「…………………………私もです」

「わ、私もです」

今ここに集まっているのは俺、バニングス、月村、月村姉、恭也さん、え~と、さっき紹介してもらった月村メイドと月村ドジッ子メイド

………………………………………………個性豊かなメンバーだ

とてもじゃないが個性が薄い俺は混ざれない

「風雷?私、今あなたが嘘をついた気がするんだけど」

「いや、人間はなかなか現実には勝てんなと改めて実感しただけだ」

「…………………そういう思考に到った経緯がわからない…………」

気にするな
お前はそのままでいい
俺を面白がせる面白キャラで

「…………………ねぇ、本題に入っていい?」

月村姉が何だか泣きそうだ
泣けばいいのに
間違えた
泣いて詫びればいいのに

「……………………ドサド」

呟きは無視した

「えー、ゴホン」

わざとらしい咳払いでようやく本題に入った

「まずは言わせてね。すずかを助けてくれて本当にありがとう」

「俺からも言わせてくれ。ありがとう」

「うん、私も。風雷君、ありがとう」

「そういえば私も。ありがと」

と言って忍さんと恭也さんというかその場にいた全員が頭を下げた
調子が狂う
風雷慧はこんな風に誰かにお礼を言われるような人物ではないのに

「別にいいですよ。たまたま帰り道に二人が拉致られそうになったのを目撃した。つまり偶然です。お礼を言われるようなことはしていません」

「あれ?風雷。照れてる?」

「照れてません」

バニングスが面白いものを見たみたいになっているが今度は意識的に無視する

「で、手早く『本題』というのにいってくれませんか」

その瞬間
少し和んでいた空気は一気に緊張した
月村だけではない
月村姉や恭也さん、バニングスもだ
はぁ、面倒だな
どうやら余程の事情のようだ

「………………それは「待って」すずか?」

月村姉が話している途中に月村が強い意志を感じる声で遮る

「私が話すよ」

「すずか……………でも」

「いいの、お姉ちゃん。-----信じてるから」

「………………………そう。じゃあ、私から言う事はないかな」

「うんーーーーーありがとう」

そこまで月村姉と話し合い改めてこちらに振り返ってきた

「何度も言うようだけど巻き込んでごめんね」

「だーかーら、すずかのせいじゃないって!」

「俺はキムチ鍋の材料を弁償してくれたがはっ」

「風雷。もうギャグシーンはいいから真面目な話をしようね?」

「ごめん、アリサちゃん。それ私のセリフ」

「いいから話を進めなさい!」

「は、はい!(あれ?何で私が怒られてるのだろ?)」

再び真面目な空気を取り戻す
いちいちこんな風に空気を取り戻さないといけないとは難儀だね

「……………………二人とも聞いたよね?私が人間じゃないって」

「…………………ええ、聞いたわ。でも、すずかはーー」

「ごめん。アリサちゃん。最後まで話させて。ね。」

「…………………わかったわ。ーーーーーー続けて」

「うん」

返事をし、そして月村は瞳を閉じ、深呼吸をし出した
気持ちを落ち着けようと
覚悟を決めようと
他者を信じようと
1分くらい時間が経っただろうか
ようやく月村は瞳を開けた

「その通りなの。私はーーーー吸血鬼なんだ。夜の一族っていうね」

「もしもし病院ですか。急患ーー」

がしっ(携帯を奪われた音)
ぐしゃ(携帯を握力だけで潰された音)

「風雷君。-------私は本気だよ」

「ああ、確かにーーーー本気(殺る気)だな」

ちょっとした場を和ますジョークなのに
ん?おやおや、どうして俺をそんな白い目で見るのだろう
俺の素晴らしさに気づいたかね?

「吸血鬼って……………あれは伝説上の生き物じゃあ……………」

覚悟はしていたようだがバニングスも驚きを隠せないようだ
それはそうだろう
吸血鬼は存在しない架空の生き物
それが今の人間の当たり前に思っている常識だ
そんな常識が出来たのは簡単だ
まず、そんな存在を見た人間がいないからだ
昔の伝説っていうのは簡単に言えば昔の人間が証明できなかったことを人間ではない生き物がやったのだとか、呪いのせいだとか、神が怒ったんだとか。そうやって無理矢理こじつけたものだからだ
証拠がなければ存在しないと同義
のはずなのだが

「証拠ならあるよ」

そう言い彼女はこちらを見た
………………ん?
何か違和感がある
ほんの些細な事なのだが、しかし、いつもの月村とは違うところが

「すずか………………目が…………」

バニングスに言われて気づいた
そう目だ
いつもは鴉の濡れ場色をしている月村の瞳が

今は血のようなアカに………………

瞬間

地獄に立つ悪魔を想像する

月村の瞳よりも禍々しく、しかし美しいあの血のようではなく、血塗られた魔の瞳を………………

バチィ!!と頭の中で派手なスパーク(痛み)が炸裂する
しかし意識的に無理矢理表には出さない
いつものことだ
自身の体の制御には長けている
そうでなくてはいけない

「…………………これでわかったかな?私が人間じゃないっていう事が。一応言っておくけどカラーコンタクトとかじゃないから」

「ちっ」

先回りされた

「だからね。あの人が言っていたことは間違ってないの。ううん、事実なの。だって私」

化け物だから

そう言い悲しそうに笑う彼女

だから俺は即座に行った

「へぇ、で、それで?」

「「「「「「え?」」」」」」

「いや、だから吸血鬼でした。で、そんだけ?」

「そ、そんだけって、充分だと思うんだけど」

「何だ。そんなどうでもいいことだったのかよ。拍子抜けだなぁ」

「だ、だから、充分に驚くことだと思うんだけど。だ、だってクラスメイトが化け物だったんだよ?」

はぁ、まずはそこからか

「もしかして月村。お前ーーーー肉体が人とは違うから私は化け物だとか思ってないだろうな?」

「え?」

違うの?って感じで首を傾げられた
見れば周りもそうだ
なんだなんだ
どの人も認識不足だなぁ

「じゃあ問題。ここにただ思いのまま殺人を繰り返す人と何もかもを潰せるけど何も潰したくないという人ではない鬼がいました。さて、この場合どちらが化け物扱いされるでしょう?人ではあるがまるで鬼のように人を殺す殺人鬼か。人ではないけど何も壊したくないと主張する人らしい鬼か」

「そ、そんなの………………」

そこで口が止まる
当然だろう
わざとそういう問題にしたのだ
自分を投影させるように
まぁ、誰でもわかると思うけど

「で、でも、もしかして鬼はいきなり心変わりして人を壊すかもしれないでしょう!!だったらどっちでも同じだよ!」

確かにその通り
どんなものだって絶対に変わらないとは言えない
例えば優しかった人間がある日を境に残酷な人間になるなんてよくあることだ

例えばそう俺とか……………

「………………お前はそれが一番怖いのか?」

「……………そうだよ。私はそれが怖い。いつも仲良くしてくれているみんな、大好きなみんな。感謝なんて言葉じゃ飽き足りないくらい感謝しているよ。でもね、もしかしたら私は急にみんなの血を吸いたくなるかもしれないんだよ?血を吸うことに快楽を覚えるかもしれないんだよ?もしかしたらその結果」

殺してしまうかもしれないんだよ

「!!そ、そんなことーー」

「あるんだよ!アリサちゃん!勿論、お姉ちゃんみたいに上手くいく可能性もあるよ…………………でも、もし最悪の可能性になったらどうするの?そんなことになったら私耐えられない。ううん、耐えたくない。それならいっそ壊れたい。でも私はみんなと一緒にいたい。………………ねぇ、私」

どうすればいいの?

そう言いついに顔を伏せた
誰にも顔を見られたくないというように
誰も何も言えなかった
バニングスは勿論、家族である月村姉も
当たり前だ
月村が言っていることが正しいなら月村姉は月村にとって眩しいくらいのハッピーエンドをした人だ
どんなことがあったかは知らない
奇跡みたいなことがあったのだろう
そういうのが積み重なって今の月村姉がいるんだろう
月村の羨望の対象として
その本人がここで生半可な励ましなんかしてもそんなのただの嫌味にしかならない
だから彼女は黙るしかない
手の平の皮膚が破れるくらい手を握りしめながら
ふぅ
別に月村がどうなろうとぶっちゃけたところどうでもいいと思うがそれでは

俺の『契約』が果たせない

ならば動こう
俺の『名』にかけて

「つまり、お前はみんなと一緒にいたい。だがもしかしたら自分がいつか心無い化け物になるかもしれないのが怖い。そういうことだな」

「…………………そうだよ」

「ならば話は簡単だ。お前が化け物になったらーーーーー俺が殺す。それで問題はない」

またもや沈黙が下りた
今度はさっきのポカーンとした沈黙ではない
もっと重苦しい空気
そうーーーー怒りだ

「それはどういうこと?風雷君」

さっきまでの態度はまるで幻だったかのように溢れんばかりの怒気を俺にぶつけてくる
否、ここまで来ればもはや殺意だ
それほどまでにも月村姉は怒っていた
俺がたやすく月村を殺すと言ったからか
それとも妹が殺されるかもしれないと思ったからか
しかしここで引くわけにはいかない
ここで引いたらそれこそさっき言った言葉が嘘になってしまう

「どういうことって、言葉通りですが」

ぷちんと理性が千切れるような音が聞こえた気がした
勿論、幻聴だ
本当はガタン!と椅子を倒した音なのだから

「ふざけないで!私の大切な妹を…………」

「お姉ちゃん!待って!お願い、聞かせて!」

「!?すずか!何言ってるの!?この子は今ーーー」

唐突に月村姉の声が途切れる
見てしまったからだ
自分のたった一人の家族が

とても嬉しそうに笑っているのを

まやかしでも何でもない
現実だ
月村は笑っている
そうまるで
魔女に騙されて呪いをかけられたお姫様が呪いを解いてもらうかのようにだ
その笑顔のまま月村はこちらを見る

「いくつか聞いてもいい?」

「答えられるものなら」

「いつまで、それをやってくれるの?」

「お前が死ぬまでやってやろう。サーヴィスだ」

「じゃあもしも暴走しそうになってもまだ救える手があるかもしれない。でも、もしかしたら無理かもしれないという微妙な場合なら」

「その場合はお前が完璧な化け物になるまでは殺さないが、もし無理ならヤル」

「はっきり言って」

「……………お望みどおり、でははっきり言おう。どんな手段を使ってでもお前を殺そう。手加減なく、遠慮なく、容赦なく、無慈悲に、無意味に残酷なぐらいに残虐にお前を殺そう。だが安心しろ。俺はお前を殺した感触は忘れない。化け物になったお前を殺した感触ではない。人間である月村すずかを殺した感触を俺は覚えよう。だからーーーーお前は安心して友達と仲良くすればいい」

「…………………………」

そこで一端言葉が止まる
周りの雰囲気も張りつめた調子で止まる
それはそうだろう
自分の家族が、主人が、友達が
ただの少年から殺人宣言を受けているのだから
これで張りつめなければおかしいだろう
だがその雰囲気は破られた
月村の苦笑によって

「風雷君って前から思ってたけど本当にーーーーー素敵なほど残酷だね」

「それはどうもって言いたいが訂正してもらおうか。俺は無意味なくらい残酷なんだ」

偽悪趣味なんだね返されるがそこは無視する

くすくす笑いながら彼女は言葉を続ける

「うん、本当に残酷だねーーーーーそんな提案をされたら欲しくなるに決まってるよ。悪魔の契約よりも達が悪いよ」

悪魔
地獄で出会ったあの悪魔
それよりも達が悪いねぇ
それは洒落が聞いてる

「そうかい。でも、月村ーーーー決めるのはお前だぜ」

「そうだね。じゃあ言わせてもらおうかなーーーー答えは決まってるって」

それは契約の言葉だ
悪魔との契約の為の宣言だ
彼女はこちらに手を差し出した
まるで契約書に署名をするかのように
それに気づいたのか月村が面白そうに話す

「契約書が必要かな?残酷な悪魔さん」

「不要だね。悪魔との契約は魂に署名っていうのが相場だろう吸血鬼さん」

アハハハと月村は笑う
それは覚悟が決まった女の顔だ
このほんのちょっとの時間で月村は素敵な女になった
女の子とは強いな
俺が『敬意』を表するぐらい
悪書をし、そして契約の言葉は終了する

「改めてよろしく風雷君」

「そうだな。『すずか』」

まともや時が止まる
咲○さんでもいるのかしら
見れば月村が顔を赤くしながら慌ててる

「え!ちょ、ちょっと待って!?ままままま、さかの不意打ち!?私こういう時何をすればいいの!?」

「すずか。笑えばいいと思うよ」

「あ、ありがとう!お姉ちゃん!アドバイスをくれて…………………駄目!こんな時に相手の顔なんて見れないよ!」

「初々しくていいわね~。そしてすずか、さっきまでのシリアスムードを返しなさい」

「バニングスよ。後半の方だけマジトーンで話すな。メイドさんが怖がってるぞ」

「………………………………………………」

ガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガスガス

「な、何だぁ!バニングスがいきなり壁に向かって物凄いパンチを連続で放ってる……………!」

「……………………(慧よ。それはすずかちゃんは名前で呼ばれたのに自分が言われてないのが悔しいからだ)」

「………………はぁ、怒るべきか、悲しむべきか、喜ぶべきか。困る展開だよ」

「そうよ、その話よ」

いきなり会話を戻される

「まぁ、一応言っとくけど私はすずかが吸血鬼だろうが蚊だろうが気にしないからね」

「アリサちゃん、それは侮辱してるの?それとも遠まわしに喧嘩を売ってるの?」

「茶々を入れずに黙って聞きなさい!だからすずかはいつものメンバーの中では一番影が薄いのよ!」

「最近のアリサちゃんは理不尽だよ!あと、人が気にしていることを簡単に指摘しないで!」

「失礼ね!私の体の半分は寛大で出来てるわ!そしてそう思うなら改善しなさい!私を見習って」

「残り半分は容赦無用だな。そしてすずか、バニングスを見習うのは危険だ。見習うんなら俺にしとけ」

「どっちも見習いたくないよ!!」

「「その言葉、遺言ととってもいいな(わね)」」

「くっ、い、いいよ!いつまでも二人になんか負けてらんないんだから!これでも吸血鬼なんだから!」

「「よくぞ言った!では存分にごうも……………いじめてやる!」」

「どっちにしろ本心を隠せてない!?」

そう言って軽い乱闘になる
それを見ていた周りの大人グループ(高校生が入っているが)は苦笑しながらその光景を見ている
張りつめた雰囲気は終わった
ようやくただの日常になった
そう思っていた時に

「「「「「「「!!!」」」」」」」

いきなり電気が消えた
唐突な事なのでみんな反応が出来なかったが俺と恭也さんは反応した
二人で同時に別々の窓のカーテンを開けた
よく見たらもう外は真っ暗だ
しかし、いくら真っ暗でも相手が隠れていなければ意味がない
その闇に紛れて動いている者がいた
その姿はどこかの暗殺者ですかといいたくなるような服装をした明らか物騒な集団であった
この場面でこのタイミング
間違いないだろう
夕方の奴らと同業だろう
強硬策に出たという感じか
どうやらまだまだ帰れないらしい
やっかいな契約をしてしまったかなと少し後悔という程ではないがまぁ、自分でやったのだからこの後悔はただの八つ当たりだな
まぁ、いい
夜はまだ始まったばかりだからな
それにさっかくの悪魔と吸血鬼が契約した晩なんだ
これだけでは味気ない
彩りに赤色が絶対的に足りない
それに、圧倒的なーーー
そこまで考えて自分の物騒な思考に気づいた
あれ、俺ってこんなに好戦的だったっけ?
何だか今日の俺のテンションはおかしい
いつもはこう
はぁ、また面倒なことがっていうキャラではなかったか
まぁ、それこそ今はどうでもいいことだが
まぁ、とりあえず後ろで呆けている人たちに一言言って目を覚まさせるか

「どうやら、大量の招かれざる客が厚かましい事に最高級のもてなしを要求してるようですよ」

その時
その場にいる誰もが気が付かなかったことがある
今のに即座に反応した風雷慧や高町恭也でさえ気づかなかったことが
声が発せられたのだ
だがおかしいことにその声は誰にも届かなかった
否、誰も聞けていなかった
それは確かに声だったが音ではなかったのだ
では、それでは声ではないではないかと言われそうだが、そういうものであると無理矢理納得するしかないのだろう
それはもし聞けていたらみんなは女の人の声だと判断しただろう
『人』かどうかは別として
『それ』は誰にも聞かれない言葉でこう呟いていた

足りない、まだ足りない

ただそれだけを繰り返し呟いてた


あとがき
申し訳ない
完璧にすずか嬢の性格が………………!
と、とりあえずこういったシリアス以外は出来るだけ原作に近づける気です
……………………多分
とはいえようやく次はバトルに行けそうです(魔法じゃないですけど)
初めての事なのでどうかご容赦を
今回はほんのちょっと今のところ出番がないキャラを出しました
というか何度も言いますが本当にタグが使えない!
作者は馬鹿の子です
はっ、ということはタグを使える人は天才か!
新しい事実と心理を発見した気分です






[27393] 第十話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/14 13:21
「一体どういうこと……………!」

「わかりません。しかし忍お嬢様、今はそんなことを考えている場合ではーーー」

「くっ、ええ、そうねノエル。今は何とかして逃げなきゃ………………」

この会話からわかるように今は非常事態
そう今日の夕方に襲ってきた人達が集団で襲ってきたのだ
まだ生き残っている監視カメラの映像からすると20人くらいいるらしい
そう頭の中の冷静な部分がそう思考しながら、私は別の事を考える

……………………そんな、どうして?
今までこんなことなかったのに?

そう今までこんなことは一度もなかったのだ
そういう事が起きそうだとか
ちょっとした脅迫だとか
嫌がらせとかなら今まで散々受けていた(私は直接は見ていないが)
なのに今日に限ってこんなことが起きた
どれだけ思考してもわからない
契機がわからない
私が馬鹿だからだろうか?
それとも私が子供だからか
思考が駄目な方向に無限ループしそうになる
その時現実に呼び戻す彼の声を聴く

「とりあえず、まず深呼吸してください。焦っていたら最悪なタイミングでミスを起こすかもしれませんよ」

こんな状態でも相変わらずの無表情の彼
言葉も冷静そのものだ
何と言うか修羅場慣れしているという感じがしてしまう
勿論、そんなことはないのだろうが
ただ単に物凄く冷静に見えるからだろう
だがそれでも、こんな場面で冷静になれるという事が凄い事だろう
見たらいつも気丈なアリサちゃんが震えているのがわかる
かく言う私もそうだ
さっきの覚悟は友達を手にかけるぐらいなら死ぬというそういう覚悟はした
が、これとそれは別だ
ただ殺される覚悟なんてしていない
というかしたくもない
その覚悟をするという事はいつどんな時でも死を受け入れるという事ではないか
そんなの耐えられない
耐えられるわけがない

「くっ、駄目です!裏口にも侵入者が………………!」

「そんな……………………」

「ご都合主義に頼ってみますが、何か秘密の隠し通路というのはないのですか?」

「残念ながらないわ。予算があったなら考えていたけどね」

「…………………………予算があったらしていたのか忍」

「そうだ!あれは…………………………くっ、駄目だわ。対恭也用に作ったトラップは電力がなくなっているから作動しなくなってるか……………………」

「忍!お前は一応恋人に対して何故そんなものを用意する!?」

「…………………………俺たちはそんな危ない道を通ってきていたのか」

あれ?
今は危険な状態なんだよね?

「さて、漫才は一端切り上げましょうか」

「そうだな」

「同感ですね」

「「余裕あるね(わね)!!」」

思わずアリサちゃんとユニゾンする
このとてもシリアスな時にこんな漫才をするなんて
この三人は何という大物なのだろうか
しかし、返ってきた返事は全然予想と違っていた
お姉ちゃんはいきなり疲労と諦めを含んだ笑みを見せ

「余裕?そんなもんなんてないわよ。強いて言うなら空元気ね」
と言った

「「え?」」

思わず二人で呆ける
だって何だか凄い余裕ていう感じが出てたし、それにだって
それって、逃げられないっていう事を認めるっていう事ではないのか

「え?う、嘘だよね、お姉ちゃん………………?」

「…………………………ここまで来て嘘は言わないわ」

「だ、だって……………そ、そうだ!恭也さんがいるじゃない!だから大丈夫ですよね?恭也さん?」

「…………………………………………」

何でこんな時に沈黙するのだろうか
ここは「ああ、任せてくれ」ていう場面だろう
ああ、きっと緊張で喉が枯れたのかもしれない
それはそうだ
あんな大人数を相手に戦うんだ
いくら恭也さんでも緊張するに決まっている
でも大丈夫
恭也さんは強いからきっと

「……………………勝てる、自身はある。だが…………………全員を守れる自信がない……………………!」

勝手な思い込みなのはわかっている
八つ当たりなのもわかっている
それでも思うことは止めれなかった

裏切られた、と

「どうして………………どうしてなの?やっとこれからだという時に、やっと私として生きられると思ったところなんだよ。なのに何で……………………何でこんなことになるの?友達と一緒にいたいということは悪い事なの?普通に生きたいっていうのは悪い事なの?願っちゃいけない事なの?」

「そんなわけーーー」

「じゃあ、どうしてこうなるの!!」

感情が制御できない
制御できない感情は瞳からも零れる
余りにも熱く、冷たいそれ
でも、今はうっとおしいだけだった
ついに両膝がかくんと折れて床につく
もう立ち上がる力もなかった

「結局…………………………そういうことなんだね」

私達(吸血鬼)には希望も未来もなく
ただ絶望だけ
それしかないのだ
ああ、やっと自分が望んだものが得れると思っていたのに
みんなも苦痛を我慢しているような顔になっている
でも駄目なのだろう
例え生き残れても

全員が生き残れないのなら意味がない

それは私が望んだ未来ではないのだ

そう思っていたら

「茶番は終わりましたか?」

聞きなれた声
さっき私に希望を見せてくれた無表情の彼
でも、いくら彼でももう希望は見せられないだろう
そう思うと彼の毒舌も愉快な気分で聞けた
だから次の言葉には驚いた
心底

「どうやら皆さんは頭の回転が止まっているようなので、俺が作戦を考えてもいいですか?」

は?とみんなが同じ言葉を同時に放つ
作戦?
何の事だ
もしかしてこの状態を打破する何かを考えたという事なのだろうか
そんなの無理だろう
だってたかがこの人数
しかも戦えるのは恭也さんとノエルさんとファリンだけ(二人の事はまだ説明してないけど)
いくら三人が人間離れしていてもあれだけの人数にみんなを守れるとは思えない
お姉ちゃんもそう思ったのか

「あのね、風雷君?状況はわかっている?」

「状況はわかっていますが、状態がわかっていませんね。出来れば情報が欲しいですね」

「っ!だからその状況が不味いって言ってんの!」

「確かに不味いですねーーーーで?」

「でって、だからーーー」

「悪いですけどもう諦めているならとっとと死んでくれませんか?邪魔ですし」

「なっ!?」

余りの物言い
流石のお姉ちゃんも声を荒げている
だが風雷君は相変わらずの無表情
つまりだ
彼はこの状況にまったく動じていない
不利とは思っているかもしれないが不安には思ってないのかもしれない
でも、もしかしたら状況を完璧に理解してないだけかもしれない
ただ希望を見たいだけかもしれない
でも、そうだとしても
彼はこう言ってるのだ

俺は諦めないぞ、と

「何ですか?俺はこう言っているんでーーー生き残る覚悟がないのなら邪魔だから消えて下さい。足手まといですと。わかりますか?今のところ最低すずかとバニングスは俺が出来る限り何とかしないといけないんですよ。二人は生きたいと思っているようですから。だから足手纏いがいたら邪魔なんですよ」

突然出た私達の名前に驚く

こんな状況で
こんな私を

それでも助けてくれるのか

何故という思いがある
今まで彼は私達に友達になった覚えはないと散々言ってきた
おそらく嘘ではない
気にしてないのはなのはちゃんぐらいだろう
いや、気にしていないのではなく気づいてないのかもしれない
孤独を望む彼
救いを拒絶する彼
馴れ合いなど御免
それが彼だと私は認識していた
ならば何故こんなことを
そう問いかけると

「ああ、確かにその通りだ。でもな、俺は約束は簡単に破るけどーーーー契約を破るわけにはいかない」

契約
さっき誓ったあれのことか
でも、その契約内容に私を守ってというのはなかったはずだが

「何言ってんだ。契約しただろう。もしお前を殺すというのならそれは俺だと」

「あーーー」

余りにも遠まわしな言い方
口八丁の彼らしい言い方
何て不器用さ
こんな時でも彼らしい
不謹慎だけど嬉しい
みんなにはばれているけど私は彼が好きなのだ
少しませているかもしれないけど
別に特別な出来事はなかった
というかさっきまでは好意ではなかったと思う
だって前まではこういう打算があったのだ

彼ならば私が吸血鬼とかそういうのを『まったく』気にしないのではないかと
否、無視するのではないかと思っていたのだ

何でかはわからない
ただ言うならば女の勘というものだろうか
彼の無表情を超えた無表情を見ていたらそう思えてきたのである
だから好意ではなかったのだと思う
……………………さっきまでは
今まで色んな慰めを聞いてきた
気にするなとか
いつかわかってくれる人が現れるとか
そんな慰め
しかし、ぶっちゃけて言うと少しうんざりする慰めだった
しかし彼は違った
そもそも彼は慰める以前に同情すらしていなかったと思う
そういえばあのお爺さんも言っていた

『あいつ同情されるのもするのも嫌いらしいからのぅ』

本当にそうだ
でも嬉しかった
同情しなかった
つまりそれはーーーーー私と対等に接してくれたという事だ
それが私にとってどれだけ嬉しい事かーーーー
だからこの問いに答える言葉は一言で十分だった

「うん………………そうだねーーーー生きよう」

今はただそれだけを

「……………………あーーーーーもう!これじゃあ私がただの弱虫になっているだけじゃない!!」

バン!と勢いよく机を叩き、立ち上がる
そこにはさっきまでの弱気はない
そこにはただ生きてやろうじゃないかという意気込みだけがある
さっきまでの絶望しかない空間が跡形もなく消え去った
今はその絶望に抗ってやろうじゃないかという意思がみんなからありありと感じられる
凄い………………
ほんの少し彼が話しただけで場の雰囲気が変わった
さっきまでこの世の終わりみたいな雰囲気だったのに、今は運命に抗う戦場みたいな雰囲気だ
これは一種の奇跡ではないのだろうか
生きようと思う
錯覚かもしれない
現実を認識しきれてないのかもしれない
やけになっただけなのかもしれない
それでも生きよう
現実は非常かもしれない
ハッピーエンドはないかもしれない
でも、足掻くのはやめない
最後まで生き汚く、地べたを這いずり回って、泥水を啜ってでも生きよう
彼流にいえばそれが私自身への『契約』だ
決戦はもうすぐ
それまでに色々と作戦を決めないといけないらしい
緊張感が極限にまで高まる
そんな雰囲気に

「あっ、月村姉。これが終わったらあいつらから俺が失ったキムチ鍋の材料代。奪ってもいいですか?」
「あんた!空気を読みなさい!!」

この時ばかりは誰も止めなかった
逆にみんなでお皿を彼に投げつけた




「----というわけよ」

「なるほど」

とりあえず今は作戦会議
不幸中の幸いにもまだ相手が攻めてくるには時間がかかるらしい
何故かと聞けば

「聞きたい?」

と満面の笑みで返されたので丁重に辞退した
……………………絶対トラップだな
電気を使ったトラップだけではなかったのか
よく俺達は無事にここまで辿り着けたものだ
まぁ、そんな事を言っても精々足止めくらいだろう
数を少しでも減らしてくれてればいいが高望みはしない
今はただこちらの戦力と相手の戦力とこちらが使えるものと相手に使えるものを聞いていたのだ
まともに戦える人は恭也さん、月村メイド、月村ドジッ子メイド(何でも自動人形とかいうものらしいが、別にどうでもいい)
相手は案の定武装しているらしい
具体的なものはわからないが銃器と無線がを使っているのは確認されているらしい
使えるものは正直ほとんどないらしい
電気が止められたせいで結構なトラップ類が使えなくなり(それでもまだあるらしい)、武器などは恭也さんの剣術に使う得物とメイド二人が使う得物と強いて言うなら包丁とかそういう一般家庭にあるものらしい
逆に相手に使えるものーーーー相手の弱みとかはないのか
つまり政治的(少しおかしいが、まぁ、いいだろう)に何とかするものはないのかというとこの案件で生き残って、相手を生け捕りにして証拠とすれば出来ると
つまり現時点ではないということだ
ついでに何故狙われているのかと聞くと多分私、もしくはすずかの吸血鬼としての価値を欲しているのだという
詳しいことは教えてくれなかったが深入りする気はない
狙われているのが誰かがわかったのだから十分に価値がある情報だ

「…………………………難しいな」

「そうですね………………逃げようにも全ての出口はどうやら見張りがたってります。突破は時間があれば可能ですが、直ぐに応援が来るでしょう。そうなるとみなさんを守るのが…………………」

確かに
状況は絶望的だ
武器もあちらの方が断然有利
それに何より数が違う
人海戦術が最高の策とは言わないがそれでも有効な策であることは事実
事実ここまで追い込まれている
ここにいる三人は最高クラスの実力者らしいが、しかしだ
足手纏いが多すぎる
月村姉にすずか、バニングス
そして認めたくはないが俺だ
この三人だけなら辛勝になるだろうけども勝利ぐらいは出来るかもしれないらしい

無様な足枷になるとは………………最悪だな

今は自己嫌悪をしても意味がない
今はただ敵に打ち勝つ事だけを考えよう
勝利条件の為の障害をまず考える
一つはさっきも言ったように数
これに関しては言うまでもない
二つ目は武器
ナイフとかだけならまだしも銃器が相手ならお手上げだ
それも相手は多数
常人が立ち向かおうとしたらまず1秒で挽肉だ
そして三つ目
これが一番のネックかもしれない
それは
無線機
かなり邪魔だ
こちらの勝利条件を考えれば俺達は別に無理して相手をしなくてもいいのだ
全員が逃げられば完全勝利だ
こちらの戦力を一点集中して包囲網を突破してそのまま逃走
自分達はその間近くに隠れていればいい
それで勝利なのだ
だがそれで障害になるのが無線機なのだ
それで応援を呼ばれたらそれでおじゃんだ
最悪、隠れている俺達が見つかったらもう立て直しは効かない
そのままバッドエンドだ
そして残念な事に現実にはリセットボタンはないのだ
やり直しは効かない
一度失敗したらそこで終了

さて……………どうする

あれだけ啖呵を吐いてそれはないだろうとか思う人がいると思うが、はっきり言って勝利条件の達成は難しい
他のみんなもいろいろ考えているようだが、表情を見たら芳しくはないようだ
どうするかと思い何気なく天井を見る
そしてそこにあるものを見た

…………………………使えるな





「みなさん。策を一つ思いつきました」

いきなり慧君がそんなことをのたまった

「え………………って本当!?」

忍が驚き焦った声で慧君に答えを求める

「ええ、本当です。ただしいくつか必要なものと必要な準備が入ります」

「それは?」

「ええまずーーーーー」

彼は必要なものを忍に淡々と説明する
彼は未だに無表情
一体どれだけの胆力があればこんなことが出来るのか
精神でいえば彼は人類最強ではないのだろうか
少なくとも俺よりは強い
弱音を吐いた俺よりは

「ーーーーええ、一応それだけの道具も技術は突貫工事になるわね。」

「十分です。それだけ出来ればお釣りが返ってきます。後は具体的な作戦ですがーーー」

そこまで言うと彼は何故か俺の方を見た

何だ……………?

彼は一度年齢には似合わないため息をつき

「さっき恭也さん、貴方は弱音を吐きましたね」

こちらの痛いところを突いてきた

「…………………………ああ」

否定はできない
肯定するしかない
俺は弱音を吐いた
御神の剣士が
守ることを信条とした御神の剣士が
守れないかもしれないと言ったのだ
これを弱音と言わずに何という
今の俺はただの……………弱者だ

「しかし、今からの戦いにそんな弱音を吐くような心のまま着いてきてもらうわけには行けません。ということで貴方のプライドを刺激しましょう」

「………………なに?」

俺の……………プライド?

「今回の作戦で貴方はこういう立場になります。貴方が俺達すべての命を守る立場に」

「は?」

間抜けな声が出た
今この少年は何と言った
俺がここにいるみんなの命を守る立場になると言ったのか
こんな俺に
一度は無理だと弱音を吐いた俺に
それでも

守らせてくれるというのか!

「勿論、貴方が失敗したら全員の命が危うくなりますね。ようは一番大事な役割です。失敗は許されません。だからーー」

その信念を貫けますか

ああ、なるほど
すずかちゃんが彼を悪魔と言うわけだ
まるで彼の言葉は悪魔の誘惑だ
自身が望んでいる物を示され、そして叶えることが出来ると掲示する
これを悪魔と言わず何という

見事に俺が望んだものを見せつける……………!

恭也は自覚はしていないが顔の表情が変わる
それは獰猛な笑顔だ
ただの獰猛な笑顔ではない
己の命を懸けたものを貫くことが出来るという戦士の貌だ
そこまで風雷慧は見届け頷いた

「OK。それでいいです。頼みますよ、御神の剣士。貴方の剣で俺達の障害を薙ぎ払ってください」

「ーーー心得た………………!」




剣士は闘志を奮い立たせた
後は準備をするだけだな
そこらへんは月村姉とかに任せよう
今言う事は宣言だ
これからの戦いに向けての

「では、今宵の演劇(戦い)のキャストが決まりましたね。敵役はあの見るからも雑魚そうな馬鹿共と、味方役は月村姉、月村メイド、月村ドジッ子メイドとバニングスとすずか。主役は恭也さんと僭越ながら俺、風雷慧が行こうか」

みんなが一瞬動きを止めるが無視

「では話しましょうかーーーー勝利への脚本を。とその前にすずか」

「え?あ、うん、なに?」

いきなり呼ばれたのが意外だったのか少し慌てたがすぐさま答えを返す
別に簡単な要求をするだけなのに
だから慌てず彼女に頼んだ

「すずか。お前の服が必要だから速攻で脱げ」

「………………………………………」

答えは速攻だった
腰が入ったビンタという


あとがき
申し訳ない
次はバトルと言っていたのに
次こそはバトルなので
本当ですよ!
そしてすいません!
終わりのクロニクルの芸風を勝手に獲ってしまって!!



[27393] 第十一話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/06/12 21:36
時間は草木も眠る逢魔が時

場所は月村邸

そんななか私達は動いていた
周りを見ると皆似たり寄ったりの恰好をしており、その手には物騒な鉄色の物、武器がある
形や性能は違ってもこれの使い方は至って単純だ
つまり敵を殺すという
そんなものを握っていると自然と溜息をつく
随分と自分はこういうものを握るのに慣れたものだと
別に自分の人生は特別何かがあったという事はない
ただ生きていたらこうなった
それだけだ
別に自分の仕事に不満はない
どんな世界でも生きていくには金がいる
ただ自分の仕事がこういうのだった
最低で屑みたいな仕事だがそれでも金は手に入る
とどのつまり人間とはこうやって争い続ける業が深い生き物なのだろう

とまぁ、無駄な考えを保留し即座に頭を切り替える
今回の仕事は何だかマンガにでも出てきそうな内容だ
何でもここにいるご令嬢を生きて捕えなくてはいけないらしい
多少の怪我はいいらしいが、命だけは取るなというのが条件だ
何故と思うが追及は避けた方がいいのがこの業界の常識だ
好奇心が強い奴は大抵ろくでもないことになる
だから生きるには中途半端な関心が丁度いいのだ
依頼を受け、成功し、金を貰う
これが最上の関係だ

またもや話がそれてしまった
さっきのトラップのせいで疲れたのだろうか
トラップの内容の詳細はあんまり思い出したくないので言いたくないが、一言言えることがあるとしたら、製作者の性格はかなり陰険だろうというところだろう
おかげで何人か脱落した
それでもこの屋敷を包囲するには十分なぐらいだが
今はチームを分けている
まず、俺達
ターゲットを探し出し、見つけたら有無を言わさずに連れてくる探索隊
次は正面玄関にいるチーム
こいつらは正面を警戒するとともに俺達が使っている無線の中継場所みたいなものだ
最後に裏口のチーム
こちらは完全に逃走を警戒するためのメンバーだ
人数配分は俺達が一番多い
普通なら連携をするための正面玄関チームに人数を分けたいところだが、何でも依頼人の情報だとターゲットについている恋人とメイド達の実力が人外級のレベルの強さらしい。冗談に聞こえるが、まさかそんな子供でも言わないような冗談をこんな場面で言うはずがない
というわけで探索隊の俺達が一番多いのだが

バン!とまた扉を開く
最大限の警戒をしながら辺りを見回すが人影はない
念のため人が隠れられそうな場所も探してみるが人はいない
またもやはずれ
どうやらやっこさんは上手く隠れているようだ
まぁ、命とかを狙われているのなら当然の反応だろう

『こちらα、β、γ、応答しろ』

そんなこんな考えているうちに定時連絡の時間
どういうわけかこのチームでは俺がリーダーという事になってるので俺が応答しなくてはいけない
面倒だがこれも仕事だ
無線機のスイッチを押し、返事をする
ちなみにαは玄関チーム
βは俺達
γは裏口チーム
別に名前に凝る必要はなかったので素っ気ない名前にしたのだ

「こちらβ、異常なし。ターゲットは未だ確認できず」

『こちらγ、異常ない。ターゲットは未だ確認できず』

どうやらまだどこにも出てきてないようだ
困ったもんだ
こういう膠着状態は大抵長いこと続く
こういう状態では嫌でもお互い敏感になるのでお互い逃げ、追いを続けてしまうのだ
そんなことをしていると集中が切れる

まぁ、長期戦ではこちらに分があるだろう………………

さっき出た三人はともかく他の人間はこういう荒事には慣れていない、つまり足手纏いだ
さっきから守勢に回っているのもそれが原因の一つだろう
こっちも仕事
まさか武士道に乗っ取って一対一で勝負とか卑怯な事はしない、何て綺麗事を言うつもりは微塵もない
足手纏いがいたら即座にそこをつく
これもこの世界の常識だ

何はともあれまずはターゲットを見つけなくては話にならない
とりあえず再び違う部屋に行こうと思った瞬間

『あーーテステス。マイクテストー、マイクテストー。今日は晴天なりーー』

などとふざけた言葉が屋敷内に流れた
どうやら放送機材でもあるようで屋敷内全体に流れているようだ
ほんの少しの緊張が走るが、そこは経験から無視する
まずはこの行動の意味を理解しようと思考を走らせる
答えを出す前にあちらが先に答えを言う

『えーーー、この屋敷に来ている物騒な皆さん。どうか哀れで可哀想で個性が薄い俺の頼みを聞いてくれないでしょうかーーー』

戯言と判断するべきかと思考したが今は情報が欲しい
これから聞く言葉を全て頭に刻むために耳に集中する
そして次に来た言葉は私達にとって予想外の言葉だった

『俺、風雷慧は降伏するのでどうか助けてくれないでしょうか。ちなみに人質として、ここの一番の末っ子、月村すずかを捕えていますが』




どうやら作戦が始まったようだ
そう思い俺は体を隠し、気配を消しながら合図を待つ
今回の作戦は奇策というか無謀ともいえる作戦だ
誰かが、特に俺と慧君が失敗したら命を落とす
しかし、この作戦以外皆が生きて帰れるという作戦が出なかったのだ
何とか準備は間に合ったが、それでも不安要素が有りすぎる
作戦を考えられなかった自分が言う資格はないが
俺は自分が装備している武器を見る
人を殺すだけの武器
しかし、俺達御神不破流はこの殺す武器で人を守ろうとするのが真髄
作戦の事を頭の中で繰り返し、そして作戦の事を聞く前の会話を思い出す

『今回の作戦で貴方はこういう立場になります。貴方が俺達すべての命を守る立場に』

無表情の彼は宣言通りに俺のプライドをこういうセリフで突いてきた
事実、高町恭也に対してこれほど効果的なセリフはないだろう
御神流の教えというのもあるが何よりも自分の信念としていることなのだ
そこを突かれたら動くしかない
彼の言葉を利用されたと捉える考えもあるかもしれない
しかし

『その信念を貫けますか』

彼は一度くじけた俺をこの重要な役割にした
ノエルさんやファリンさんが戦えることを知った後でもだ
普通なら弱音を吐いた男よりもそっちに任せるだろう
でも、彼は俺に任せた
勿論、打算的な事もあるのかもしれない
でもだ
俺がそう思いたいだけかもしれない
でも俺はこう思う

『OK。それでいいです。頼みますよ、御神の剣士。貴方の剣で俺達の障害を薙ぎ払ってください』

俺を信用してくれたからここを俺に任せてくれたのではないのかと
過大評価かもしれない
都合のいい解釈をしてるだけかもしれない
でも、俺が知る限り一番年下で、複雑怪奇な性格で、手加減などせず、容赦もしない彼が弱気な俺をここに任せるのだろうか
そこで思い出す
彼が今のところ名前で呼ぶのは俺とすずかちゃんだけだという事を
推測だがというかこじつけで自分がそう取りたいと思っているのだろうけど

彼は認めた相手にだけ名前で呼ぶのではないか

わかっている
さっきも考えたように都合のいい解釈だというのは
しかし、俺は馬鹿だ
その誤解を勝手に信じることが出来る馬鹿だ
信用されていると勝手に解釈し、信じる
ならば
ここでその信用に応えなくては御神の剣士として
男として
人間として屑になる
その考えを胸の内に秘める
研ぎ澄まされていくという感覚がある
まるで剣を研いでいるみたいな感じだ
そうだ
この身は御神の剣士
是、一本の刀也
ただの殺人の刀ではない
人を守る守護の刀だ
ならば守れ
己が存在意義に懸けて
己が信念に懸けて
皆から託された想いの為に

こうして高町恭也は研ぎ澄まされていく
本人は気づいていないが普段の数倍は
だが彼はまだ動かない
刀は納刀したまま
ただ今宵限りの主の抜刀(合図)を待つ





「一体どういうつもりだ……………」

答えを期待したわけではない
相手は屋敷のどこかで放送しているのだから
そう思っていたら

『別に、他意はないですよ。普通ならこんな命のやり取りをしている現場にいたら怖くなるに決まっているでしょう』

返事が返ってきた
そこで更に緊張が高まる
どうやら相手は屋敷中に声を拾う機材をセットしているらしい
つまりこちらの会話は筒抜けのようだ
しかもよく聞くと声は若い
多分、今回巻き込まれたターゲットの友達の男の子だろう
だがその言葉を単純に信じることも出来ない
こちらの言葉が聞こえるのならば、逆にそれを利用して情報を入手しようという判断をする

「残念ながら君の言葉を簡単に信用するわけにはいかないな」

返事がすぐ返ってきた

『ふむ、それはそちらの立場から考えたら当然だと思うけどこっちからしたらそれを証明する術がないのですが』

「………………いくつか質問をさせてもらおう」

『いいですよ。幾らでも』

これは意外な答えだった
こちらはもしかしたら他の人間に脅されてこんな囮みたいなことをしているのかと思ったが、どうやら外れらしい
とりあえず、今は情報が最優先だ

「まず、他の人間は?」

『ええ、月村すずかを人質にした時に俺は逃げ出したから知りませんよ』

「そちらの戦力は?」

『さぁ、聞いたところでは男性一人と女性二人。その女性はメイドなんですが、これは洒落なのでしょうかね』

「何故こんなことをした」

『さっきも言った通り生きたいからですよ』

「君達は友達だったのでは?」

『残念ながらこちらは友達なんて微塵たりとも思っていません』

「だが君は夕方、こちらからの相手を撃退していると聞いたが」

『それはすいませんと言っておきましょう。一応クラスメイトですから痴漢に襲われているから助けようという正義感が動いたのですよ。今になって後悔していますが。後悔先に立たずという言葉は真理ですね』

「信用できない」

『こっちとしては信用してもらうしかないのですが』

「…………………………では直接話をしたい」

ここで切り出す
もしこれが嘘なら十中八九断るはずだ
何故なら場所が見つかったら、そこでゲームオーバーなのだから
だが

『ええ、いいですよ』

答えは二つ返事だった
少し眉をひそめるが警戒は怠らない

「……………では場所は?」

『ええ。場所は二階の広い部屋があるでしょう?食堂みたいですね。そこでお待ちしています』

そこまで言うと
ブツと相手からのコンタクトが切られた
まだ油断はできない
もしかしたらトラップがあるだけで本人はいないかもしれない
とりあえず他のメンバーに報告だけはしとかなくてはと思い無線のスイッチを入れる

『こちらα、状況は理解している』

『こちらγ、同じく』

「こちらβ、判断を仰ぐ」

暫く沈黙する
しかし答えはすぐだった

『こちらα、指定された場所に行け。油断はするな』

やはりそうなるだろう
確かにまだ証拠などはなく、怪しいところばかりだが逆を言うと事実の可能性もある
もしターゲットの内、一人を本当に人質にしていたら大変なことになる
相手は子供だ
もし錯乱して手にかけたら一大事だ
ならば必然的にそうなるだろう

「β、了解しました。これより通信は少しの間閉じます」

簡潔に言い、仲間に目配せをして、指定した場所に行く
しかし、彼らは知らない
彼が相手するのはただの子供ではない
この世で唯一といってもいいかもしれない
人間なのに悪魔の名を冠することを許された子供であるという事を

『あ、後、夕方にやられたキムチ鍋の弁償もしてもらうんで』

「……………………………………………………」

やはりただの子供だろうか



ふぅ、と電源を切って溜息をこぼす
とりあえず第一段階はクリアした
後は次の第二段階と第三段階をクリアしたら勝ちだ
だがこの二つが綱渡りみたいな作戦だ
タイミングがほんの少しでもずれたらそこで終わりだ

……………まぁ、保険はとってあるからいいけど

そう、この作戦は最低死ぬのは『一人』なのだ
誰も気づいてないようだからよかったが、誰かが気づいていたら止められていただろうなぁ
あの人達、馬鹿みたいにお人好しだし
かたかたかたと足音が極限まで消された震動が聞こえた
どうやらもう二階に来たらしい
気を再び引き締める
第二段階の内容は舌戦だ
とりあえず遠慮なく騙させてもらおう





指定された部屋に到着した
ここに来るまでにトラップはなかった
だがそれでも油断はしない
中に伏兵とかその他のトラップがないとは限らない
疑心暗鬼になるのは職業病だ
故に気配を読むテクニックは少しはあると思ったのだが、部屋の中にはそれらしい気配がない
騙されたかと思うが承知の上だ
目配せをする
各々武器を構えたり、奇襲対策をしたりなど色々な反応をする
ならば後はドアを開けるだけだ
一つ深呼吸

バン!!とドアを開ける

だが予想に反してそこは廊下よりも真っ暗だ
明かりがついてないのも原因の一つだが一番の原因はカーテンを閉じているのがあるのだろう
月の光さえ届かない
そういえばターゲットの姓には月が含まれていたなと余計な事を考える
しかし、思考とはよそに経験が体を動かせる
銃についているライトをつけようとした瞬間

「すいません。光は点けないでくれませんか」

唐突に聞こえた声に体が勝手に反応して声がした方向に銃をつきつける
勿論、他のメンバーも
さっきと同じ声
顔は見えないがシルエットから小学生くらいだとわかる
そのシルエットが二つ
その内一つは少年らしきシルエットの腕が首にまわっていた
規則正しい寝息も微かに聞こえる

………………嘘では……………なかったか

どうやら本当にターゲットの一人を人質にしたらしい
もっともそれも作戦の内かもしれないが

「すいません。それ以上近づかないでください。安全を求めているとはいえまだ完璧な交渉もしていないのに近づいてもらったら困るんで」

要求が再びくる
私は返答した

「もし、それを破ったらどうする?」

「簡単です。この人質の命を断ちます。偶然なことに俺の手にはナイフが握られているのですよ」

後ろの何人かが少し呻き声を出したのがわかる
多分だが力ずくで抑えようと思っていたのだろう
いくら銃弾のスピードが音速レベルとはいえ、流石に彼のナイフがターゲットの首を掻っ切るよりも早くには無理だ
銃が音速でも、それを撃つ私達の指は音速ではないのだ
ある意味厄介な構図だ

「では、こちらはどうすればいい」

「簡単です。俺はこれから月村邸から逃げるので、それを見逃して下さい。途中でこいつを解放するので後はご自由に」

「不可能だ。信頼できない」

「こちらも不可能です。信用できない」

お互いがお互いを疑いあう
緊張感は否応なしに高まる

「大体繰り返すが君達は友達ではなくとも学友ではあったんだろう?そんな相手をそんな簡単に見捨てるのかい」

「ええ。逆に聞きますが貴方、自分の命と学友の命、どちらが大切ですか?」

「……………なるほどな。非常に合理的だ」

「そりゃ、どうも。お褒めいただき光栄です」

「だがーーーーわかるだろう?」

「ええーーーーわかりますとも」

「「全然信じられない」」

話は平行線だ
このままでは時間だけが流れる
もう一人の方を捕まえられたらこっちは用済みなのだが、今のところの様子では難しいだろう
護衛の方が全部あちらに付いているかもしれない
そうなるとこちらの子供を何とかした方がまだ楽だ
見た目に反してかなり頭が回るようだから気は抜けない
ここからは力を使う戦いではなく、頭を使った舌戦だ

「もう一度復唱しよう。君の要求は自分の安全確保。それが済み次第、人質を解放。それだけかい」

「ええ。強いて言うならこれからも俺に手を出さない事もですかね。ついでにキムチ鍋の弁償も」

「後半無視するが、勿論、私達は君の言葉に偽りがあるのではないかと疑う」

「勿論、俺は貴方達が約束を守ってもらえるかどうかを疑う」

「どうしようかな」

「どうするべきですかね」

「はっきり言おう。実は君達二人の話を聞いているのは実は情報を知るためであって、君達の命はどうでもいいんだよ」

「嘘ですね。それならば昼間の時、何故二人を生け捕りで誘拐しようとしていたんですか?殺すだけなら事故に見せかけて暗殺することも出来ないことはないでしょう」

「依頼人の要求だ」

「ほう?では、どのように殺せと?」

「近くの廃棄ビルに誘拐してーーー」

「ダウト。減点だよ。そんなもの発見が遅くなるのと犯人の詳細がわかりにくなるだけで同じですよ。そんなことで見つかるようなヘマをしないという事は証拠隠滅能力があるということ。ならば事故でも同じですよ」

…………………………鋭い

どうやら生半可のブラフでは突破できないらしい
舐めてかかったらこちらの負けだ

「しかし、どうする?こっちとしてはわざわざその取引に応じる必要はないのだよ」

「だから人質がいるのですよ」

「だがこっちに保証する術がない。血判書でも押すかい?」

「いい線言ってますが、貴方達に武士道とかはなさそうですしねぇ」

「君にもな」

「違いない」

そこで一端息を吐く
熱い
一体この部屋に入って何分ぐらい経っただろうか
三分くらいだろうかと思って時計の方をチラリと見るともう十分ぐらい経っている
余り長い時間消費するのは得策ではない
速めにケリをつけなくては
ほんの少し銃を下す
長い間銃を同じ体制で持つと冗談じゃないぐらい疲れるのだ
その時、偶然無線のスイッチを入れてしまう
その時

『誰か!!誰か応答を!!頼む!早く救助を……………ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

一瞬でみんなの動きが止まる
今の悲鳴は何だ?
頭の回転が誤作動をしている
思考が空転する
自分が今、何をしていたのかわからなくなる
だがそこらへんは皆プロ
ほんの三秒ぐらいで現実に戻ってくる
どういうことかをほんの少しの時間で計算する
まず、他のメンバーが襲撃されている
襲撃しているのはあの銭湯可能の三人のだれか、もしくは全員
何故それを知ることが出来なかった
答えは簡単
俺達のメンバーは定時連絡から外れたから
何故
それはこれから行く場所がトラップがあるかもしれないから無線の使用を控えたからだ
何故この場所に来た
この少年に指定されたからだ
つまり結論

最初から最後まで騙されていた………………!?

即座に銃を構え少年を撃とうとしたら

ボン!と煙が発生し

ボッ!と火が点いた

いきなりの事で何もできなかったがそれでも少年を撃とうという行動は止まらなかった
引き金は即座に引かれた

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!

総勢三十余りの銃口が火を噴く
パリンっ!!と窓ガラスが割れる音が聞こえる
当たっていたなら肉片しか残らない理不尽な掃射
撃っている間に火に反応したのかスプリンクラーが動いた
多分だは主電力とは違う予備電力で動いたのだろう
しかし、今はそんな事を気にしている時ではない
一端掃射を止める
煙はまだ晴れない
動くものはなさそうだ
スプリンクラーの人工の雨が私達を濡らす
暫くしてようやく煙が晴れる
そこには誰もいなかった
だがそこには服があった
女の子物の制服
多分ターゲットの少女が通っている学校の制服だ
だが肝心の本人はいなく、服だけだ
よく見たら周りにゴムがある
なるほど
どうやら風船で人に仕立て上げていたようだ
解った瞬間、誑かされたというよりは呆れてしまう

よくもまぁ、こんな無茶な真似を………………

ほんの少しでもカーテンから光が漏れたら一瞬でばれる
どうやら少年は窓から飛び降りたのだろう
二階からだから無理ではないが、無茶ではある
ターゲットの学友ならまだ小学一年生
骨や筋肉などいくら鍛えていたとしても未発達だろう
余程うまく衝撃を殺さなければ骨が砕けているだろう
そして多分だが少年は上手く殺せてないだろう
銃弾のせいでカーテンに穴が開いたおかげで光が漏れてきた
少年がいたと思われる場所には

赤い血が

銃弾のいくつかにかすったのだろう
見たところ致命傷というわけではなさそうだが軽いというわけではないだろう
これで上手く着地できるかは五分五分だろう
しかし、まんまと騙されたものだ
とりあえず今することはここから撤収するしかないだろう
他のメンバーはやられていると思うべきだ
すぐさま撤退して任務の失敗を伝えるしかないだろう
気が重いが仕方ない
捕まるよりましだと思い、スプリンクラーで垂れてきた水を舌で舐める
そこで違和感を感じる

待て。何故火を点ける意味がある

火は事前に灯油でも周りに撒いていたのであろう
例えば自分達を傷つける為なら火の威力が弱すぎるし、スプリンクラーがあるのだ
私達にダメージを与えれるはずがない
まさかスプリンクラーの存在を知らなかったというわけではないだろう
これほどの作戦を考えてのにそんな些細な事を見落とすとは思えない
ということは
まさか
そう思った瞬間足から力が抜けた
それは私だけではなく他のメンバーもだ
強烈な脱力感が体を支配する

……………睡眠………………薬か……………

こういうことか
つまりだ
スプリンクラーの水の中に睡眠薬を混ぜたのだ
そのための火か
ただ火を投げただけならみんな違和感から逃げられるかもしれない
だが、この状況
騙されたとわかり、他のメンバーの敗北を知った後
そんな中で違和感を感じる暇がない
しかも、相手が子供だったのもある
いくら油断は出来る限りしないようにしていたとしても心理的に完璧に緊張を保つのは難しい
そんな中をこのトラップ
見くびっていた
嘗めていた
相手はただの子供ではなかったのだ

何て…………えげつない……………子供…………だ

バタリとみんなが倒れる
誰も動くことはなかった





「はぁ、二度とこんなことしたくないぜ」

思わずため息をつく
幸せがいっぱい逃げていく
何とか着地をした後、近くの木に背をもたれさせ、脇腹に受けた傷を服を破ってガサツな応急処置をしたところだ
ギリギリなんてもんじゃない
完璧な失敗だ
本当ならもうちょっと舌戦をするはずなのに偶然にやられた
咄嗟に作戦を早めに決行したが、この様
傑作としか言えない

「大丈夫か!?慧君!?」

ようやく恭也さんがやって来た
結構返り血に濡れているし、彼自身の血も流れてるがかすり傷みたいだ
羨ましい
ちなみに恭也さんが本格的に動いたのは俺が館内放送の後でキムチ鍋の事を聞いた直後だ
相手は油断したのか無線を切るというのを拾ったのだ
まぁ、作戦通りだ
キムチ鍋の事が作戦の合図だったのだ

「遅いですよ。恭也さん。出来ればもう少し速く来てくれてもよかったですよ」

「ああ、すまない。すぐ治療を……………!」

「そうですね」

苦痛はもうどうでもいいけどこのまま血が流れ続けたら失血死をしてしまう
流石にそんな間抜けな死に方はしたくない
何とか立とうとする

「よっこら…………せ」

「馬鹿!無茶をするな!俺が運ぶ!」

「馬鹿はそっちですよ。もしその状況で敵に奇襲されたらそれこそどうするんですか」

「くっ、だが…………しかし」

「大丈夫ですよ。まだ動けなくなるほど血は失っていません」

そうして彼の顔を真っ直ぐ見る
それでようやく観念したのか
わかったと呟いて早歩きでここから去ろうとする
俺もそれについて行こうとする

はぁ、疲れた。今日は早く…………寝たい

そう思ったのがいけないのだろうか
唐突に背中から

「なんだい?もう帰るのかい」

と知らない声が聞こえた

すぐさま振り返る
俺はともかく恭也さんでさえ気づかない気配の消し方
一瞬で判断
相手はプロ中のプロと認定、否、断定

そこに立っていたのはビシッと黒いスーツを決めた男と
何だか変な服を着て刃で武装した女

変な女の方のは知らないが男の方はヤバイというのがぴんぴんする
立っている姿は重心が揺れておらず、自然とそこに立っている
隙なんてものは全然ない
完璧な武を修めている人の立ち振る舞いだ

「なるほど、君達が俺達を撃退したのか」

相手はこちらを値踏みするような目でこちらを見てくる
いけない
沈黙しているのは駄目だ
弱気を見抜かれるかもしれない

「何ですか?こちらを舐めるような目つきで見てきて。もしかしてそっち系の人ですか?」

よし
いつもの戯言が出てくる
いきなりのショックを何とか耐える

「残念ながらそんなもんじゃないさ。ただ君達がよくあれだけの人数から生き残れたねと感心したのさ」

「それならこちらも残念ながらと言いましょう。何せ相手はこちらが少人数だからか。もしくは、足手纏いがいると思っていたからか。あんまり本気ではなかったと思いますよ。」

「それを突いたのは君達の力量だ。謙遜することではないと思うけどね」

ちくしょう…………
侮ってくれないか
こちらを侮ってくれたらもう少し隙が見えてくるのだが相手は油断など欠片もない
不味い状況だ
こちらは怪我人一名に疲労一名
明らかこちらの不利だ
何せ相手は今まで何もしていないのだから
と思ってたら今まで沈黙を保っていた恭也さんが会話に加わった

「…………何故、貴様らがここにいる?」

「奇妙なことを聞く。俺達の仕事はそちらの吸血鬼の確保だ。ならここにいるのはおかしくないだろう?」

「それにしても速過ぎる!応援ならもう少しかかるはずだ!」

「ああ、そういうことか。それはそこの少年に聞けばどうだ?どうやらわかっているようだし?」

「何を言いますか。俺はどこにでもいる小学生です」

「君みたいな薄気味悪い子供がどこにでもいる小学生なら教育を変えなくてはいけないね」

「………………貴様!」

恭也さんが怒って突っかかろうとするがギリギリ止める
こういう相手に感情で戦っても結果は敗北だろう
感情だけで決まる勝負なんて皆無なんだから
それに薄気味悪いと言われても反論は出来ないことは自覚している

「で、答えは?」

「簡単だ。俺達はいざという時の保険でね。失敗したときの為の駒だよ」

そう言った瞬間
さっきまでまるで人形みたいだった女が急に動き出した

「イレイン。君の相手はそこの黒尽くめの剣士だ。----存分に戦え」

瞬間
恭也さんと女の姿が消えた
否、消えたのではない
俺の動体視力では追えないスピードで遠ざかったのだ
多分だが先に攻撃したのはイレインとかいう女の方だろう
証拠に
俺の斜め五歩ぐらいの位置に大地に強烈な足跡が残っている

恭也さんの同類か
もしくは、メイドの同類か………………

多分だが後者だろう
それならさっきまでの人形みたいな状態に納得できる
ようするに電源が入っていなかったのだ
電源(命令)が
まぁ、恭也さんなら勝つのはわからないが直ぐに負けるという事はないだろう
問題は俺だ

「さて、こちらも始めようかな」

そんな事を言いながら彼は何の構えも取らない
まさしく泰然自若
なのにまったくの隙なし

「おいおい、俺なんか相手してもメリットはまったくないぞ」

「そうでもないな。こんな奇策を考え付いた頭は完全な障害だ」

「いつ、俺が考えたと」

「時間稼ぎもそこまでにしときな。ターゲットの情報は既に頭の中に入っている。そしてこんな考えを思いつくような人間がいないこともな。そこの高町恭也を含め、自動人形もな」

「そのターゲットを探したほうが得策ではないのか」

「それは同感だがーーーーもうこの屋敷内にはいないだろう?」

「何故そう思いますか?実は秘密の部屋に隠れているかもしれませんよ?バシリスクと一緒に」

「映画の話もいいけど。まだまだ子供だな。答えるのが早いよ」

「……………………………………………………」

「まぁ、だから君を倒すという事になるのだ」

「何故?」

「簡単だ。君のズボンの左ポケットーーーー携帯が入っているだろ」

「いえ、これはーーー」

「別に答えは聞いていない。それを奪わせてもらうだけだ」

「まさかこれですずか達と連絡をとるとでも。残念ながらそういう為の暗号も作っています。速攻で俺じゃないとばれますよ」

これはブラフだ
まさかこんな局面になるとは思っていなかったし、携帯を使われるとは完璧に計算外だ(ちなみにすずかに壊されたのはダミーの玩具の携帯だ。何故そんなものを持っているかだって?野暮なことは聞きなさんな)。
少しでも攪乱になればいいのだが
だが現実は更に残酷だった

「いや、それはどうでもいいんだ」

「なに?」

「簡単だよ。君は違うかもしれないけど。もしも仲良くなくてもクラスメイトの子供が例えば人質になったとしたら、『普通』はどうする?」

「……………………………………………………」

「それも、もしも自分のせいで人質になったとしたら?」

「……………………………………………………」

「そうなって、こう言ったらどうなるかな?『この少年を返してほしくば、降伏しろと』」

もはや言葉はいらなかった

ダン!!と思い切り地を蹴る
自身の怪我の事などは構わない走り
ただ敵を打倒するために




あとがき
すいません、機器については独自の解釈をしてますし、多少ご都合的に進んでいるところがありますが
そこらへんは作者の力不足なのでどうかご了承頂きたい
次ですずか嬢編の終わりになると思います
本編に入るのはいつになるやら



[27393] 第十二話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/19 21:38

一瞬で何の躊躇いもなくぶちのめそうと走りながら心の中で宣言した
こいつはさっきまでの男達とは違いまさしくプロ中のプロ
舐めてかかったら一瞬でこちらはお陀仏
だから遠慮なく

ここでぶっ潰す………………!


「ここでキムチ鍋の材料の弁償を貰い受ける………………!」

「言うべきセリフと隠すべきセリフが逆じゃないかな?」

相手の戯言は無視した(どちらも本心だからだ)
相手を攻撃できる距離まではあと五歩といったところ
しかし、相手は俺よりも成熟した男性なのだ三歩といったところか
更にこちらは正規の格闘技の訓練は受けてないのだ
あの山猿との喧嘩ぐらいだ
こちらが不利な条件しかない
残り四歩
相手は二歩
出来ることは時間稼ぎぐらいか
そう思ってると
黒服スーツはスーツの内側に手を突っ込んだ

銃か…………………………?

この距離で?
近接戦闘に入ったらただの無用の長物になる銃を?
意図が読めない
相手の攻撃範囲まで残り一歩
もうここまで来たらどこぞの某熱血マンガの主人公のライバル?(ギャグ好き)な奴のセリフを使おう

「やけくそってかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

一歩
踏み込む
直後
相手は手を内側から引くが手の中には

「あっ」

空っぽ
と思った瞬間
目の前から黒い槍の如き攻撃が
相手のミドルキックが

「!!っ」

咄嗟に両手をクロスして防ぐ
衝撃をもろに受け後ろに吹き飛ぶ
なるほど
手はフェイク
本命は足か
本命の攻撃を悟られにくいようにそういうフェイクを入れたのだろうが、流石に解りやす過ぎだ

このまま時間稼ぎを出来たらいいのだが………………

そうは問屋が卸さなかった

タンッとむしろ優しそうな音を響かせながら
吹き飛んでいる俺に追いつき襟首を握られた
そしてそのまま流れるような頭突き
喰らったら頭蓋骨陥没は必須かなと頭はのんびり考えながら

「っ!!」

頭を必死に逸らした
と思ったら

「がっ!」

唐突に脇腹に痛みが走る
理由は明確だ
俺が頭突きの方に集中して視野狭角をしている間に相手が思いっきっり俺の脇腹を叩いたからだ
しかも銃弾で傷を負っている方の

ぶしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!

決して少なくない血が勢いよく吐き出される
その分体温が下がった気がした
だが、そっちは今はどうでもよくないが、もう一つのダメージの方が深刻なのでどうでもいい
本命はそっちではない
本命は脇腹自体
人間の人体急所の内一つ
衝撃は肋骨を突き抜け肺にまで至る
おかげで呼吸困難に陥りそうだ
苦しんでる隙に相手は容赦なく攻撃する

ドゴッ!と強烈な膝蹴りを鳩尾にやられる
どうやら人体急所を攻めるサーヴィスらしい

ガボッ!と余り口から出ない音が出てくる
胃から込みあがってくるものがあるのが嫌でもわかる
だが、それを出す余裕なんてどこにもない

そのまま、いつの間にか襟首を掴んでいた手を離したのか
空いた両手をお互いきつく掴み合い、まるでハンマーのような形になり

思い切り振りおろされる

ゴン!!と頭から嫌な音が響く
頭は勢いに乗ってそのまま地面に頭突き
容赦がないのレベルではない
これでは一方的な虐殺だなと本格的にボーとしてきた頭でどうでもいいことを考えてると

その頭をサッカーボールを蹴るように思い切り蹴られる

あら見事
俺の体がまさしくボールのように吹っ飛ばされた
もう体が………………
ゴロンゴロン転がりながら体がやばいぐらい動かないことを自覚
最初から最後までただやられるだけだった
戦隊ものの雑魚キャラでもここまで酷くないだろう
転がっていると携帯が左ポケットから落ちたのが見えた

…………あ…………………ま…………………………ず

思いとは裏腹に携帯は遠ざかっていく
奪わせてはいけないのに

相も変わらず現実は地獄以上に非情だ







「さてと」

見るからに薄気味悪い子供は動かなくなった
当然だろう
あれだけ人体急所に打ち込んだり、脳を揺さぶったりしたのだ
気絶は当然しているだろう
まぁ、少なくとも二、三日は飯もまともに食えないだろう
あれで立ち上がったら、それこそ化け物だ
とりあえず最初の目的の携帯を拾いに行く
どんな文面を書くのが一番効果的を考えながら、携帯のすぐ近くまで歩き、取る為に屈む
そこで、強烈な違和感
今まで培ってきた膨大な戦闘経験が警鐘を鳴らしまくっている
待て

何故こんなに都合よく携帯が落ちている

落ちる直前
少年は俺に蹴られた衝撃で思い切り転がっていた
確かにあれなら偶然、携帯が落ちても不思議ではない
不思議ではないのだが警鐘は止まらない

目的の携帯が『偶然』落ちた
そんな偶然あるだろうか

ならば何故落ちた?
そこまで思考が追いついた瞬間

俺は躊躇わずにその体勢から横に転がった
すると、さっきまでいた位置から風切り音が聞こえた
何かが壊れた音が聞こえたが、それを確認せず、暫く横にゴロゴロ転がりながら、ランダムで立ち上がった
すると目の前には

倒れたはずの少年が血を流しながら
焦点が合わないまま立っていた

「何で立っているのか。まず聞きたいね」

「…………それは……………簡単ですよ。足に異常がないので……………立てるのですよ」

言葉は途切れ途切れだがそれでもふざけた戯言を言ってくる
ここまで来たら天晴れと言いたくなる

「そういうことではなくてね。あれだけのダメージを受けながらどうして立ち上がれるんだい?普通なら体の痛みや何やらで起き上がるのは最低二日はいると思うんだけどね」

「…………………………素人の…………子供……………相手に…………そんなえげつないことを…………した…………んですか。最低な……………人…………です…………ね」

「君にだけは言われたくはないがね。それとも何か?君は無痛覚症なのかい?それなら、こちらはやる気がでてこないんだが」

「………………………………………………………………」

勿論、外れているのはわかっている
それならば、ここまで苦しそうにはなっていないだろう
受け身とで凌げる攻撃をした覚えもない
かといって耐えられるような攻撃ではない
精神論ーーーとかは勿論、なしだ
今までの攻撃は精神論で何とか出来る攻撃ではない
人体としての急所ばかり狙った攻撃なのだ
根性論では履がえられない
では、何だろうか

「やっぱり君は化け物だったのかな?」

「…………………それこそ…………貴方に…………言わ…………れたく…………ないです」

相も変わらず無表情
だから薄気味悪い子供なのだ
こういう顔をした人間は仕事柄、結構見ている
そういった奴らは大抵ろくでもないことを起こす
テロや大量殺人
数え上げたらきりがない
メールをした後、殺すつもりだったが、それが裏目に出たようだ
これは単純にこちらの落ち度だ

…………………それでも動けるはずがないんだが

まぁ、いくら聞いても相手が答えるはずがない
そういえば、さっきは何を投げたのだろうか
相手から気を逸らさずに横目で、さっきの場所を見てみると、そこには拳大くらいの石があった
ご丁寧にも自分の携帯を壊し場がら。さっき聞こえた壊れた音はそれか
何時の間に石を拾われたのだろうか
まさか、携帯に意識を向けられた時ではないだろう
そんな時間的余裕はなかった
となると取れる時があったとしたら

地面に一度倒れさせたときか…………………………

よくあんなダメージを受けている最中に思考が動く
それだけならプロレベルだ
とりあえず、さっきまで考えていた作戦はこうして失敗に終わった
では、今やることは何か
決まっている

彼の止めだ

いくら立ち上がったとはいえ既に相手は死に体だ
証拠に息は荒いし、焦点は会ってない
他にも足が震えている
もう二撃ぐらいやったら、それで終わりだろう
だが、もう楽観は許されない
さっきの攻撃も耐えたのだ
その次も耐えられないとは言えない
一度あることは二度ある
二度あることは三度ある
まぁ、逆の可能性もあるにはあるが、俺達はプロだ
ならば、立ち上がれる可能性を零にするべきだ
遠慮なく、手加減なく、容赦なく
卑怯上等の手段で
コンマ一秒で考え、結論を出した
そこまで出たならば後は簡単だ
俺がした行動はこうだ

手をスーツの内側に突っ込み
内側にあるものを外にだし
相手に照準を合わせ
力を込める

ドン!ドン!

火薬の匂いがした
少年は一瞬、驚いた顔をして、体を見た
そこには

穴が『一つ』空いていた

一瞬の空白
まだ傷口からは血が流れない
しかし、心臓が一度鼓動をすると
ドシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!と勢いよく血が噴き出す
まるで、赤色の間欠泉だ
さっき傷口を直接殴った時よりも派手に溢れている
少年が後ろに二歩下がる
そして
遂に力が抜け、後ろに倒れる

ドサッという音が虚しく響く
流石にもう立てないようだ
これで立てたら、それこそ化け物だ
いや、既に精神だけなら化け物か
それにしてもおかしい
俺は『二発』撃ったはずなんだが、当たったのは一つだけ
もう一つは頭の方を狙ったはずなんだが…………………
まさか避けられるとは思えない
となると俺が外しただけだろう
やれやれ、俺も鈍ったものだ
帰ったら射撃訓練をやり直そうと心の中のメモに書きながら、倒れている少年に油断なく近づく

今度こそ彼に止めを刺すために

本当ならそれはもう余分な行為
もう、この少年は死に体
放っておいとも、もはや障害にはならないだろう
というか、放っておいたら出血多量であっけなく死ぬだろう
これからの行動は普通はもしかしたら、まだ居るかもしれないターゲットを探すか
もしくは、、今もまだイレインと戦っているであろう、御神の剣士を倒しに行くために助太刀に行くか
もしくは、撤収するかだ
これらの中のどれかを選ぶのが順当だ
だがそうはいくまい
この少年の『才能』を見てしまったらそうはいけなくなった
本当ならこの少年は死んでなくてはおかしいのだ
考えてみるがいい
この少年は確かに頭が切れる
少なくとも同年代の少年少女よりは遥かに切れるだろう
だが、それだけなのだ
多少、肉弾戦の心得があるようだが、それだって素人に毛が生えてレベルだ
それで銃弾飛び交う戦場で生きられるはずがない
否、断言しよう
生きられない
なのに、この少年は虫の息だが、まだ呼吸している
当たり前のように奇跡を起こし続けている
いや、ここまで来たら奇跡などという綺麗な名称ではない
ただの『異常』だ
見るもおぞましい
聞くも耐えがたい
醜い異常現象だ

だからこそここで断ち切らなければいけない

別に正義感でもなければ義務でもない
有り得ないと思うが、もう二度とこの少年と会わないようにするためだ
これが一番確実なのだ
こんなのは二度と会いたくない類の生き物なのだ
つらつらそんな益体もない事を考えていたら、もう少年は目の前だった
躊躇なく銃を額に向けようとする
その前にまた声が聞こえる

「…………………………あ…………の…………」

よくまぁ、喋れるもんだ
異常が極まった異形だな

「何だい。遺言は聞く気はないよ」

「…………月…………村家…………の…………………ゴホン!…………人達が…………………どこに行ったか…………知りたくゲホッ!ないですか?」

血を吐き出しながらも言いたいことを最後まで話す
当然だが銃を動かす手が止まる
個人的にはどうでもいいのだが、公的には無視してはいけない情報
勿論、ブラフの可能性の方が高い
だが、それでもしも本当の事なら完璧な失態となる
仕事とはこういう嫌な事も我慢しなければならない
それは普通の仕事も汚れ仕事も変わらない
世知辛い世の中だ

「とっとと話せ。君とは本当は話したくも、見たくもない」

「…………………おやおや…………………………嫌われた…………………もんで…………………」

「いいから話せ」

「O……………K、落ちつこ……………うぜ……………とっつぁん」

「待てぃ、○パン」

こんな時でもボケるか

「…………………まぁ……………そちらも…………………………わかっ…………てる……………ように……………ここには…………いません」

「……………………………………………………」

俺は黙って先に進めるよう促す

「そう……………あの…………………人達の…………………行先は……………………………………………………」

「行先は?」

「……………………王○」

「さぁて、ロシアンルーレットだな。ちなみに六分の五な」

「……………………傑作…………………………ですね」

…………………手足の二、三本ぐらい撃ち抜いてもまだ動けるような気がするのは俺の気のせいだろうか

「ちっ、いいから話せ」

「……………………そう…………ですか……………答えは……………簡単です」

ようやく答えか
さっきまでの呑気な雰囲気は消し、答えだけを聞く態度に戻る
まぁ、答えを聞いた後、容赦なくぶち抜くけどね
息絶え絶えに無表情のまま彼は伝えた

「…………………………貴方の……………後ろです」

は?という言葉を放つ前に延髄に痛みが走る
呆気なく体の力が抜けていく
一体何が?といつもより働かない頭がようやくそう考える
気配はまったく感じなかった
では、俺よりも高い技術を持っている御神の剣士ーーーー高町恭也かと思うが幾らなんでもイレイン相手には速すぎる勝利だ
もう体は上手く動かせず、前のめりに倒れるだけだが、長年培ってきた経験と訓練のおかげだろうか
視線が後ろの方に向いてくれた
相手はーーーー知らない男だった
しかし、推測はできた
何せ高町恭也と顔のつくりが余りにも似ているのだから

くそっ…………………………最後まで…………弄ばれた

せめて最後はこの薄気味悪い少年を睨もうと思いコンマ3秒くらいで目線を戻すと
そこにはーーーーーーー悪夢が
きっとこれは幻影
きっとこれは間違い
だってそうだろう
さっきまで
死にかけても表情を変えていなかった少年が

唇を三日月の形に歪めて嗤っているように見えたのだ
まるで、そうーーーー俺の不様を嗤うかのように

そこで意識は途絶えた
最後の思考は

ああーーーーーこんな化け物に関わるべきではなかったのだ






声がぶつ切れで聞こえる
否、もうそれは声というものではない
自身が理解できるものでなかったらそれは声ではなくただの音(ノイズ)だ
何で知っている言葉なのに理解できないのだろうかと思うが、既にそんな判断を下せるような状態ではない
俺自身はもう状態理解を出来るような状態ではない
簡単に言うと危篤状態なのだ
当たり前だろう
ほんの小学一年生の体に普通ならあり得ないダメージをしこたま喰らったのだ
大の大人でも危ないクラスのダメージをまだ体が出来上がっていない小さな体で受け止めてしまったのだ
結果がこうなるのは至極当然の結末だ
ぶつ切れの声(ノイズ)が頭に響く
そういえば視覚も薄ぼんやりとしている
誰が誰と話しているのかもわからない
理解できない言語が聞こえる

「……………だ……!…………血が……………すぎ……………!」

「な……………………なら…………………か!」

「ちょ……………………い!…………………………りな………………!!」

「…………………………んだ!…………………ゃん!」

「ノ………………リさ…………!……………たち…………すか!?」

「…………………が…………」

「………………には……………力………な……………す」

雑音がうるさい
いい加減眠らせてほしい
こっちは疲れてるのだ
起きたら幾らでも相手してやるから寝させてほしい
何で疲れているのか思い出せないが、これだけ疲れてるのだ
きっと、かなりの面倒な事をしたに違いない
ならば、ここで眠るのは正当の報酬ではないか
そう思い、ぼんやりとだが開けていた瞳を閉じようとする
しかし、相手はこちらの事情をまったく気にせずに、ようやく眠れるかと思っていたのにあろうことか、いきなりほっぺを叩いてきた
周りのノイズが更にうるさくなってきた
何で眠らせてくれないんだ
それとも何だ
この知らない(知らない?)人達は俺を更に働かせるつもりだろうか
何て外道
寝ることすら許されないのか
ノイズはもう煩わしさを超えて頭痛になってきた
ああ、もう

むかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつく

ああ、こんな俺を邪魔するもの全て
■ーーーー

その瞬間
音が聞こえた

それはさっきのようなノイズではなかった
閉じかけていた目がほんの少し開かれる
何で自分がそんな事をしたのかわからない
ただ自分はどうしてもその音が気になった
ただただ確かめたかった
音がどこから聞こえるのか、使い物にならない耳をどうにか使って音源を探した
意外にも音は近くから聞こえた
そこにいたのは人だった
ぼんやりとしていてよく見えないが多分少女だと思う
ぼんやりとしていて表情も見えない
何の音なのか必死に理解しようとする
そうしていたら

不意に、顔に何かが落ちてきた

既にほとんど感覚はないが、まだ感じれる程度にはある
それは『水』だった
だがただの水ではない
温かいのだ
一体なんなのだろう?
まったくわからない
悲しいことに
この少年の思考能力は既に不味い領域に入っている
意識があるだけ奇跡なのだ
だから音が一体何なのか
水が一体何なのか
まったく理解できない
答えは簡単なのだ

音は少女の嗚咽で
水は少女の涙なのだ

そんな事も彼は理解できない
彼女が何を流しているのか
彼女は何を思っているのか
だが
だが、彼は外側の事は何も理解できないが、彼は内側ーーー己の記憶から溢れたものは理解できた

…………………………あれ?
俺は何か…………………約束……………いや、『契約』をしたんじゃなかったっけ

内容はボケた頭ではまったく思い出せない
しかし、それでもまるで喉に骨が引っ掛かったような気持ちになる
思い出せないモノを何故は俺は必死に思い出そうとしている
誰と契約したかもわからないものを
故に未練が出来た
ならば

まだ、俺は眠れない

その瞬間
記憶のフラッシュバック
俺の原初
地獄の風景
悪魔の嘲笑
そして
どこかの病室で一杯の人達を前に自分が何かを言っている光景

“今、ここに僕は契約します”

それは契約の祝詞
忘れてはいけない最初の契約

“今から僕のーーーーー”

ここから先は思い出すまでもない
思い出さなくてもこの汚れ、穢れ、壊れきった魂に刻んである
そうだ
忘れてはいけない
まだ俺は死ねないいんだ
死ぬわけにはいけないんだ
重傷?
知ったことじゃない
血が足りない?
そんなのどうでもいい
現実は非情?
それがどうした
傷が重いなら無視しろ
血が足りないなら代わりの物で補え
現実が非情ならその現実を■■しろ
だから

だからまだ死ねない

途端に視界が少し晴れる
さっきまではノイズだった声が今はまだ聞き取りずらくても声として理解する
周りが驚いているようだが無視
ただ俺は言いたいことを言うだけ
重くなった口でそれでも言う

「まだ…………………死ねない………………!」

そこで意識が闇に落ちた

最後の幻聴か
何か異形のコエが聞こえた

ーーーー残念
ーーーーもうちょっとだったのに
ーーーーまぁ、いいわ
ーーーーこれは
ーーーー貸しよ

最後に幻を視る


唇を三日月の形に歪めて嗤っているナニカを










パチクリと目を開ける
あれ?
レレレーノレ?

「知らない天井だ…………………」

日本人なら誰でもやるようなギャグをかましながら、現状を理解しようとする
見たところここは何かの家のようだ
しかも、何か豪邸の家のようでかなり部屋は広いし、高価そうだ
おっ、あそこの絵、高そう
その思考をして思い出す
昨日会ったことを
いや、昨日かどうか知らないが

確か………………最後に銃弾を受けて……………それからどうしたんだっけ?

まったく思い出さない
記憶が抜け落ちている
途中で気絶でもしてしまったのだろうか?
というかちょっと待て

何故俺がまだ生きている?

あの傷で俺はまだ生きれたのだろうか
別に医者ではないから確実とはいえないが、結構致命傷とはいかなくてもかなりの重傷のはずだったのだが
傷の部分を見ようにも体に力がまるで入らない
困った
どないしまひょとエセ関西弁を使いながら呑気に考えているといきなり

「ふ、風雷君!?起きたの!!!?」

いきなりの怒声で意識の大半が削られた

「………………すずか、ちょっと声の音量を下げよう。はっきり言ってうるさい」

「その毒舌……………!間違いなく風雷君!」

「見極め方がおかしくないか?」

「そんなことないよ!これが対風雷君用の見極め法その1だよ!」

「まるで、この世に俺の偽物がいるみたいだね。是非とも会いたいものだ………………」

「よかった……………そのおかしい会話。風雷君だぁ………………」

何やらあんまり良くない評価で喜ばれてしまったが目尻にあるものを見たらツッコめなかった
まぁ、別にどうでもいいけど

「おい、泣き吸血鬼。どうでもいいから状況の説明をしてくれ」

「泣いている女の子に対して言うセリフじゃあないよね!?しかも人が一番悩んでいたことでいじめるなんて!!」

「黙れ、泣け、金を寄越せ。そして状況を説明しろ」

「ああ……………やっぱり、優しい風雷君ていうのは夢のまた夢なんだね………………」

「十分に良心的だが」

「鏡と辞書を見てきて」

「鏡や辞書如きで俺の人間性は映らんよ」

「こういうのを天上天下唯我独尊男って言うのかな…………………………」

「俺如きでその称号は…………………………恐れ多い」

「はぁ、あんなことがあったのに何にも変わらないね風雷君」

「変わって欲しかったか?」

「ううん。全然」

ようやく、そこでいつも通りの笑顔を浮かべるすずか
他人の心配をするなんて、まったくお人好しな

「で、結局あれからどうなったんだ?」

「うん。一つずつ答えるよ」

「まず今は何時か」

「もう3日だよ」

「あれから事件はどうなった」

「お姉ちゃん達が動いているけどなんとか、犯人の人達を捕まえれそう」

「恭也さんは?」

「あの後、美由希さんとノエルさんとファリンさんが助太刀に行ったから無事だよ」

「バニングスは…………………聞くまでもないな。次」

「それはちょっと酷いんじゃないかな?アリサちゃん、かなり心配していたよ」

「後であいつの髪の毛で遊んでやる」

「…………………………具体的には?」

「あいつの髪の毛に蜂が好みそうなフェロモンをつけて、その後こう誘う『一緒に外を散歩しないか?』と」

「最上級の口説き文句が最低の騙し言葉になっている…………………………」

「そう褒めるなよ。つけあがるぜ」

「照れないんだ………………」

相変わらずのおふざけ
帰ってきたという感じがするのは気のせいではないだろう
だが、本題はそこではない

「でだ」

「…………………うん」

また少し落ち込んだような顔をするが、このままでは堂々巡りなのでこの際無視する
俺が本当に聞きたいのは

「何で、俺の傷がこんなにも早く癒えているんだ?」

「……………………………………………………」

そう
幾らなんでも3日やそこらであれだけの重傷が治るはずがない
素人目でも1~2か月は必要だろう
なのに、布団の下の体はそこまで傷ついている感じがしない
体が動かないのは麻酔でもやっているのだろうか

「答えてくれ、すずか」

「…………………………うん」

意を決してという様子で彼女は語る

「とりあえず、先に言っとくけど。風雷君の体はとてもじゃなかったけど病院まで耐えられるような体ではなかったの」

「だろうなぁ」

そりゃそうだ
あんだけ血を流したのに全然大丈夫ですとか言われたら逆に引く
何故だかジト目で見てきたが無視
話の先を促す

「だからねーーーー私の血を輸血したの」

「すずかの血?」

「そうーーーー吸血鬼(わたし)の血」

吸血鬼の血
伝承通りなら何だか吸血鬼化しそうだが、夜の一族とやらはそこまで伝承を再現してはいないようだ
実際、すずかは太陽の下を普通に歩いているし、ニンニクを食っているところも見たことがあるし、十字架も平気みたいだし、水も大丈夫そうだった
だが

「うん。そうだね。確かに私達は伝承みたいに不死身ではないし、相手を吸血鬼化はしないけどーーーー再生力と運動神経はピカイチなんだよ」

「ははぁ、なるほど。つまり」

その吸血鬼の再生力を使って俺を治療したというわけか

「でも、そんなに上手くいくものか?」

少々、ご都合主義で進んでいる気がする
そんなことが出来たなら作戦会議の段階で言ってくれてもよさそうなんだが

「だって仕方ないもの。初めての試みなんだよ」

「実験かよ」

成程、ようは賭けだったのか

「そう、賭けだったんだよ。もしかしたらまったく効かないかもしれないし、雀の涙程度の効果だったかもしれないし」

もしかしたら、風雷君は吸血鬼になっていたかもしれない

そう呟いた

ふーん、なるほど
別になっててもどうでもよかったけど
その場合は月村姉から輸血パックを貰わなければ

「で、一応風雷君の体を調べてみたら、吸血鬼化はしてないけど、少し再生能力と運動能力が上がってるかもしれないって」

なん…………………だと

「最高のプレゼントじゃないか!」

「結果論だよ!」

思わず喜んだら叱られた
やべぇ、空気読まなかっただろうか
すずかの目がすわっている
怒らせてしまったか?

「うん。私ね、今、本当に、怒っている」

言葉を確かめるようにぶつ切れにしながら、立ち上がり
何を思ったか
何故だか俺を押し倒す様な恰好で俺が寝ているベッドに上がってきた
ま、ままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままままっまあっままままままままままままままままままままままままままままままま

「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!すずか!?この格好は不味い!」

「反論なんか聞いていないよ!」

「話は聞いてくれ!?」

「そんななのはちゃんみたいなセリフ、聞く耳持たないよ!!」

「何て失礼な評価を!!俺はあんなストーカー少女と同じセリフなんぞ死んでも吐かん!」

「言い訳なんて聞きたくないよ!!」

「言い訳?違う!これは正当な主張だ!!」

「戯言だよ!」

「戯言さ!」

ぜぇぜぇとお互い何を言いたいのかわからないまま叫びまくる
というか当初の目的の体勢を直すのを忘れていた
この状態を誰かに見られたらーーーーー殺される
ていうか自殺してやる
どうやって離そうかと考える
そうか!すずかは怒ってる
多分、自分がこんなにも悩んでいたことで喜んだからだ
ならばーーー謝ればいい!
とてもあんな奇策を考えた少年とは思えない考え
所詮、小学一年生
こういった事態には慣れていないのだ
そうと決まったら無言実行

「わかった!悪かった!謝る!お前の体を気にせず喜んだのは悪かった!この通りだ!だからーーー」

「わかってない!風雷君は私が何で怒っているかわかってない!」

え?
俺が喜んだからでは?
そう思っていたら

「私が怒っているのは風雷君が死にかけたことだよ!!」

「------------」

驚いた
本当に驚いた
久々に驚いた
いや当然だろう
こんなマンガみたいに恥ずかしいセリフをかます女の子がいたら
流石に空気は読むが

「いい!私達がどんだけ、どんだけ心配したと思ってるの!3日だよ!3日も起きなかったんだよ!もう起きないんじゃないかと思ったよ!危なかったんだよ!死ぬかもしれなかったんだよ!」

「……………………………………………………」

ついには泣きながら彼女は叫んでいた
俺が言える言葉はなかった
すずかの言うとおりここの集団はみんな心配したのだろう
みんながみんな、お人好し過ぎるから
俺なら多分、涙も流さないだろう
だって、俺はーーーーー家族の葬式でも泣かなかった

「それに一番怒っているのはーーーー私との契約を破りかけたこと!!」

ちょっと待った
それだけは聞き捨てならない

「待った。別に俺はお前との契約を破った覚えはーーー」

「言ったよねーーーー一生、契約してやるって」

それは…………………………確かに言った
そう、確かに言った
忘れていたなんて言い訳にもならない
確かな契約違反だ
これだけは流石に俺が完璧に悪い
約束は破っても契約は破らないを信条としていたはずなのに
完璧な失態だ

「悪い…………………確かにそれは俺の契約違反だ…………………何の弁解も出来ない」

「駄目。そんな言葉では許せない」

きつい言葉を受ける
当然だろう
俺は彼女にとって最低な事をした
こんな謝罪なんて聞いても何の慰めにもならないだろう

「…………………そうだな。許されるはずがーーー」

「だから、風雷君の大切なものを貰うね」

「は?一体なにをっ!」

キスされた
マウストゥーマウス
イッタイナニガオコッテイルノデショウカ
十秒以上されてた気がする
いや、もしかしたら三十秒くらいしてたかもしれない
その間俺はボーとされるがままだったから時間間隔が曖昧だ
ようやく離れたすずかの顔は少し赤くなっていた

「………………貰ったよ。多分、ファーストキスを」

めがっさファーストキスです
そう言い彼女はようやくベッドから離れ、部屋から出ていこうとする
扉の前に立ち、出ようとしたところで立ち止まり、振り替えずにこちらに話しかけてくる

「………………絶対、貰うからね、『慧』君」

そう言って彼女は立ち去った
ボーとする
何が起こったのか冷静に考えようとするが考えが纏まらない
ここまで考えが纏まらないのはおかしい
ということはーーーー今は夢か
それならば起きなくては

「慧君!ようやく起きたか………………。まったく無茶する。作戦を聞いた時はびっくりしたぞ。君と恭也を囮にして、忍ちゃん達には一端逃げて俺達を世呼びに行かせるなんて…………………………って慧君!?何故窓から飛び降りおうとしている!!」

「黙ってください夢の中に士郎さん。今、俺は夢の中にいるようだから衝撃で起きようと思っているんですーーーー具体的には3階分の衝撃で」

「落ち着け慧君!今時流行の自殺なんてやっても得なんてないぞ!仕方ない!じゃあ、俺の秘蔵のなのは&桃子コレクションの一部をやるから…………………」

「んなもんいるかーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「ああ!?俺の秘蔵コレクションがまるでゴミのように破かれる!?己、そこまでしたなら覚悟はできているだろうな!!?」

「上等だ!!今なら鬼だろうが悪魔だろうが高町だろうが水戸黄門だろうがカーネ○おじさんだろうが乗り越えれるぞ!!」

ほんの数分の死闘を繰り広げ、そこで騒ぎを駆けつけてきた人に止められた
夢ではーーーなかった
無表情のままそう思った





あとがき
最後のシーンは少し遊びすぎたかもしれません
まぁ、ハーレムになるかどうかは今のところ不明ですが
個人的にすずか嬢が好きだったのでこんなシーンを
決して悪意があったわけではないので
幼稚だったと思いますが、そこらへんは寛大な心でお許しを














[27393] 第十三話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/21 22:51

みんなはどう思っているかは知らへんけど
私、八神はやての生活は彼との出会いで物凄い様変わりしてもうた
別に嫌じゃない
逆に物凄く嬉しい
今まで私は知らへんかった

友達といる楽しさ

友達と遊ぶ楽しさ

友達と話す楽しさ

どれも初めてな事で新鮮だった
そして本当に幸せな事だった
毎日目が覚めると夢だったんじゃないかと不安に思う
だから、いつも会う度に思ってしまう

ああ、夢やなかったと心の底から安心する

わかってはいるのだ
友達が出来たのは現実だという事は
それでも不安に思ってしまう
そう不安になってしまうのだ
余りにも幸せで怖いのだ
これを失った時

私はーーーー生きていけるんやろうか?

答えなんてないのはわかっている
そんなのその時にならないとわからない
出来れば『その時』なんか一生来て欲しくない
でも、私はわかってしまっている
この世に一生ーーーーいや、絶対なんてないという事に
家族と足をなくしたから
だからもしかしたらこの幸せも、もしかしたら無くなるのかもしれないのだ
どれだけ嫌と言っても現実は憎いほど望みが叶わなかったりする
勿論、反対の可能性もあるのはわかっている

でも、私はーーーーたまらなく怖い

そこまで思ってふと思い出す
あの私をこういう風な事を考えるようになった原因の少年の事を
異常なんてレベルを超越している無表情の少年を
自分と似たような境遇で、しかし決定的に違う少年を
風雷慧君
何だか変てこな苗字をしている彼
彼も私と同じで事故で両親を失っているらしい(詳しくは聞いていない)
それを切っ掛けに彼は無表情になったらしい
こう言ったら彼には失礼だけどやはり境遇は似ていると思う
違うとすれば

彼は自分も事故に巻き込まれ彼の両親の死を直接に見て

私は両親が死ぬところを見ずにただ不幸だけを聞いた

彼は事故の結果、表情が死に

私は事故とは関係なく足が動かなくなった

慧君はこの出来事をこう言うだろう

別にどうでもいいけどと

でも私はそんな簡単に割り切れない
慧君みたいに割り切れない
だから、彼に教えてほしいぐらいだ

何で慧君はみんなと一緒にいて怖くないんやと

問えるはずがなかった
問うたらこの幸せな関係が壊れてしまうんじゃないかと思うと言えるはずがなかった
八神はやては気づかない
それは相手を気遣っての遠慮ではなく
ただ答えを知るのが怖いので逃亡しているだけだと
彼女はまだ気づかない
いずれは知らなくてはいけないのに







今、私達は物凄い緊張状態になっとる
ここに集まっている誰もがそうなっとる
私の初の友達
慧君から、アリサちゃん、なのはちゃん、すずかちゃん
その友達の家族の
高町家、月村家の人達
どの人も真剣な顔だった
子ども組(慧君は相変わらずの無表情だったが、目が真剣だった)はおろか大人組も
唯一笑っているのは桃子さんだけだった
物凄い輝いとる微笑だった
にこにこと擬音が聞こえてきそうや
その表情にはただ楽しみましょうという意味しかなかった

………………この状態で笑ってるなんて…………………凄い人や………………

多分みんなも似たような感想だったと思う
誰だってこの状況を見たらそう思う
実際、この状況にあの屈強そうな士郎さんや恭也さんも冷や汗を流している
当たり前だ
ここは決戦場だ
ここは処刑場だ
ここは墓標になるかもしれない場所だ
一度でも気を抜けばーーーー二度と立ち上がれない
ああーーーー何でこんなことにぃ
確かに自分は面白かったら何だってよしを信条としているがこれは耐えられない
肉体というより精神が
今まで意図的に無視していたもの
元凶を忌々しく見る
それは




人生ゲームと王様ゲームを合体させたどうでもいい玩具だった







発端は何だったか
とりあえず今日の始まりはいつも通りだったはずだ
公園でみんなに出会い(慧君は美由希さんに鋼糸やったか?それで縛られていた。どうやら逃げようとして捕まったようだ。いつも通りや。あ、記憶の中でアリサちゃんが慧君の頭を殴って気絶させ取る)
その後、みんなでなのはちゃんの家に遊びに行ったのだ
OKや
ここまでは何のおかしなこともない(え?拉致している?違うで。あれは誘っただけや)
その後高町家のみなさんと挨拶して、少しの間他愛のない話をしていた
ここまでもおかしくはない
そう、問題はここからや
発端は忍さんやった

「みんなー。面白いゲーム持ってきたよーーー」

慧君が逃げた

恭也さんと士郎さんとアリサちゃんが追いかけ、捕まえた

「離せ!俺はまだ帰りを待っている食材たちが…………………!」

「あんた馬鹿ぁ!食材があんたの帰りを待っているはずがないでしょうが!」

「愛着を持てば誰だって聞こえる!あの愛らしい食材の声が!!」

「それはただの幻聴よ!もしくは幻覚よ!」

「頼むから帰らせてくれ!きっと、月村姉のことだ!凶悪で強烈なナニカを持ってきたんだ!!」

「そんなこと………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………きっとないはずとは言えない!!」

「アリサちゃん…………………そんだけ長考してくれたんだから嘘でもいいから忍ちゃん、フォローして欲しかった…………………」

「お、お姉ちゃん。しっかり!」

「そ、そうですよ、忍さん。元気出してください!」

「ふふふ、私の味方はすずかとなのはちゃんだけね…………………」

「「えっ」」

「……………………………………………………恭也ぁ~~。みんなが虐める~~」

「……………………………………………………泣け。今は大いに泣け。そして過去を振り返るんだ忍。そうすると自ずと答えが見えてくる。」

「ちっくしょー!この世に神も悪魔もいないーーーーーー!」

「いいから、月村姉。地面に頭を擦り付けて謝罪するがいい。そうすれば俺の中の評価がかわるかもしれぬ。-----手下ランクが」

「可愛い顔して言うセリフがそこらのやくざのセリフよりも外道や!もうちょいオブラートに包みーや!!」

「ふむーーーーこれでも大分優しく囁いたのだが」

「有り得ないくらいのドサドなの!いつか絶対慧君は言葉で人を殺す日が来ると思うなの!!」

「言葉で人を殺せるかーーーーービバ完全犯罪」

「なのは!駄目よ!!こいつにそんな事を聞いてもイカレタ回答しか返ってこないわ!だって考える頭がイカレテルもの!!」

「アリサちゃんも人の事が言えないくらい毒舌をかましている気がするのだけど…………………………」

「黙りなさい!ツッコむしかできない影薄キャラは!今の時代は文武両道(ボケとツッコミ)よ!!」

「はい、言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!アリサちゃんがすずかちゃんの気にしていることを思い切り抉ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!すずかちゃんの怒りのボルテージが物凄い勢いで上がっとるーーーーーーー!!!例えるなら格ゲーでの必殺技ゲージが上がる感じでーーー!!」

「はやてちゃん!?解説していないで二人を止めてーーーー!二人から殺意が湯水の如く溢れている気がするのーーーー!!」

「さぁさぁさぁ!始まりました!!世紀末の大勝負!!片や見た目は清楚系お嬢様。しかし、その見た目からは想像できないぐらいの怪力と体力とスピードを持つ怪人、その名も月村すずかーーーーーー!!。片や金髪つり目。見た目は我儘なお嬢様系の典型的なツンデレ少女。しかし、放つ拳や蹴りは○ジラでさえ苦しむ、その名もアリサ・バニングスーーーー!!!さぁ、今宵はどちらが勝つのでしょうか!?勝つ方に五百円を入れて下さーーーーーい!」

「はい、そこぉ!慧君!どさくさに紛れて上手い事商売をしようとしないで!ーーーーって何でお父さんと忍さんは入れようとしてるの!?」

「前から思っていたけど…………………………アリサちゃんの言葉は少し戯れの言葉を超えているよね?だったらーーーーちゃんと躾をしなきゃ。----二度と歯向かう気が起きないように」

「へぇ、すずか。あんた、私に勝てると思っているの?それならとんだ自惚れね。じゃあ、私がちゃんと教えなきゃねーーーー猫の爪と牙では犬の爪と牙には勝てないって」

「吠えたね、アリサちゃん!!主人に尻尾を振るだけの動物な癖に!!」

「かかってきなさいよ!主人を放っといてそこらを散歩するしか能のない動物のくせに!!どちらが生態的に上か決着を着けて上げるわ!!」

「二人とも止めてぇーーーーーーー!!!」


しばらくお待ちください



「「「「で、何の話だったっけ(かしら、や、かな)??」」」」

「…………………………アリサちゃん、すずかちゃん、はやてちゃん、慧君。他人の話はちゃんと聞こうよ~。ほら、忍さんが泣いてるよ~。ーーーーペ○シ片手に」

「もういいもん。もういいもん。どうせ私は誰にも見られず、聞かれず、その内『え、月村忍?ああ、あのRPGで言うとやりこみ要素祖みたいな影は薄いキャラの』って言われるのよ!!」

「……………微妙なところでリアルだな」

「忍ちゃんも悩みある女の子というわけだな……………」

「あらあら、大丈夫よ忍ちゃん。」

「そ、そうですよ忍さん。いつか幸せな日々が来ますよ」

ちょっとからかい過ぎたようや
ちょっと罪悪感を感じる
見たところアリサちゃんやすずかちゃんもそうみたいや
慧君は相変わらずの無表情やけど、何となく考えていることがわかるような気がする
多分だがーーーーまだ言い足りないっていう感じの雰囲気がバリバリ出とる
鬼や悪魔というのはきっと彼みたいな人間への評価なんやと思った

「じょ、冗談ですよ。で、何なんですか?その面白い玩具というのは?」

「そ、そうですよ。何なんですかぁ。私とっても楽しみですよ」

「お、お姉ちゃん。みんなの言うとおりどんなものを持ってきたの?」

「いや、絶対ろくでもないものだから捨ててごふっ」

私とすずかちゃんとアリサちゃんの絶妙なコンビネーションアタック
流石の慧君も反応出来んかった

「…………………………聞いてくれる?」

「「「「うんうん」」」」

なのはちゃんも話に乗ってきた
niceエアリーディング

「…………………………話を逸らさない?」

「「「「うんうん」」」」

「…………………………急にボケない」

「「「「うんうん」」」」

「…………………………忍ちゃん嬉しいーーーー!」

「「「「うんうん(うわぁ、かなり面倒くさい性格ーーー)」」」」

皆の心が一致した瞬間だった
どうせやったら熱いシーンで一致したかった
ようやく忍さんの機嫌も治って本題に戻る
ちなみに慧君はまだ蹲っていた
どうやら見事に私らの拳がクリーンヒットしたらしい
みんな見事に無視してたけど

「今回持ってきたのはじゃじゃーん」

忍さんが取り出したものはボードゲームぽいものやった

「えっと、人生ゲームですか?」

なのはちゃんが疑問に思ったことを素直に聞いとる
まぁ、順当に考えたらそんな感じなんやけど

「ふっふっふ、そう思うでしょう」

その質問には忍さんは意味深な笑顔で答えるだけ
あれ?違ったんかいな
ならば一体それは何なんやろ?

「ん~。簡単に言えば人生ゲームと王様ゲームの合体版かな」

封を開けようやく姿を現す
確かに人生ゲームみたいに進むマスみたいなものがあるが、人生ゲームに必要なお金とかが入っていない
ただマスの所が細工されているらしく裏返しに出来るようになっている

「まぁ、基本的は人生ゲームと一緒でこのルーレットで前に進む。ここからが違うのだけどそのマスに着いたら裏返す。すると裏面には指令が書いているの。その書かれている指令をクリアしながら進んでいくゲームなの」

ふむ、なるほどなぁ
確かに面白そうやなぁ

「それ指令をやらなければどうなるんですか?」

おお、アリサちゃんが私が聞きたかった事を聞いてくれた

「それは勿論ーーーー知りたい?」

「「「「ノー、マム」」」」

一致団結
我等の結束力は鉄よりも固し

「うんうん、良い返事ね~」

忍さんはさっきまでいじられたいた人とは思えないくらい清々しい笑顔を浮かべている
恭也さんはそれに呆れて溜息を吐いている
士郎さんと桃子さんと美由希さんは苦笑している
ちなみに慧君はまだ倒れている
おかしいなぁ、何時もならここらへんで目覚めてイカレタ事を言うんやけど
そこまで上手く入ったのだろうか
みんな無視しとるけど

「うん、じゃあ、これで遊ばない?みんなで」

むぅ
確かに面白そうや
でも、ハイリスクな気がする
ああ、でも私の関西人?の血が!!
ああ、ああ、ああ!!!
もう、ど・う・に・も止まらない

「はいはーーい!私はやるでーーー!!」

「はやてちゃん!?死ぬ気なの!?」

「はやて!その年で人生を捨てるのは早いわ!!」

「そうだよ!はやてちゃん、思い直して!!」

「…………………………はーい、はやてちゃんと海鳴小学校三人娘は強制参加ね」

「「「!!!?」」」

わ、凄い顔

「恭也もやるよね~」

「…………………いや、忍。俺はこのゲームから非常に嫌な予感がビシビシ伝わってーーーー」

「…………………………(ニコ)」

「やろう」

うわ、一瞬で負けはった
恭也さんでも恋人の笑顔は怖いらしい

「士郎さんや桃子さんや美由希ちゃんはどうですか?」

「うーーん、じゃあ、俺はやろうかな」

「私は遠慮させてもらうわ。私は見てる方が好きだし」

「じゃあ、私も見てるだけにしきます」

「じゃあ、士郎さんは参加ね」

流石に大人グループに対しては自重したようや
さぁ、ゲームの始まりや

「あっ、そこで死んだふりしている慧君も強制参加だからね」

「この世に救いはねぇ!!」

あ、死んだふりやったんか








「「「「「「「「ひーとりもんから右まーわり」」」」」」」

順番は決まった
ついでだから座る順番もそれに応じて変えた
一番目から
アリサちゃん、なのはちゃん、慧君、すずかちゃん、恭也さん、士郎さん、私、忍さんの順番
色々と反乱が起きそうで少しわくわくしてくる

「まずは私からね」

アリサちゃんは少し緊張した顔でルーレットを回す

ガラガラガラガラガラガラ

「3ね」

少し少ないわねとぼやきながら自分の駒を進める
さぁ、裏面をオープンだ
どんなものが出てくる!
裏面をアリサちゃんが見た瞬間


時が止まった



物凄い笑顔でアリサちゃんは静止している
ま、まさか
いきなりの当たり
思わずみんな見る
内容は……………!

『メイド服でみんなをご主人様、お嬢様とゲームが終わるまで』

「「「「「「「……………………………………………………」」」」」」」

言葉はいらなかった
理解はいらなかった
後は行動で示すべきだと本能が察知した
すなわちーーーー耳を塞ぐと

「何でよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーー!!!!」

物凄い大声に耳を閉じてもキーーンと耳鳴りがする
こ、こいつは強烈や…………………………!

「おかしいでしょう!こういう類の罰ゲームは私じゃなくて風雷とかもしくはなのはがやるべきでしょうが!私みたいなお嬢様キャラには完璧に似合わないわ!!」

「…………………どうやらバニングスは犬耳もつけたいようだな」

「…………………うん、そうだね。尻尾もつけて語尾にわんていうのもつけようね」

おう
慧君はともかくなのはちゃんの能面の顔がここまで恐怖を刻み付けるとは
恐るべし
アリサちゃんもそれを感じ取ったのか

「ひっ、あ、ああ、そ、そういえばメイド服なんてこんなところにないものねーーー。じゃあ、これは出来なーーーー」

「任せなさい、アリサちゃん」

「おっそろしぃーー!!」

何と見事に忍さんがメイド服セットを(犬耳、尻尾付き)
思わずアリサちゃんが奇声をあげとる
ええで!これがこういうゲームの醍醐味や!!

「さぁ、アリサちゃんーーーー指令を果たそうね」

「懺悔しなーーーー人間に生まれたことを」

じりじりと二人が近づいていく
アリサちゃんは逃げようとしてるけど足が恐怖で動かない
一瞬だけ時が止まり
そして

「い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

悲鳴でお楽しみくださいな





「しくしく、もうお嫁にいけない…………………………わん」

メイド服を結局着せられ語尾に犬言葉をつけられたアリサちゃんは隅っこで泣いていた
心に大きな傷を負ってしまったようやけど、代わりになのはちゃんと慧君がすっきりした感じであった
すずかちゃんは苦笑し(でも止めなかった。というか写メっとった。なかなか恐ろしい)、忍さんはつやつやした顔になった
私?
私も満足な気分になった
さぁて、次はーーー

「わ、私だね」

なのはちゃんの番や
くっくっく、次はどうなるやら

おそるおそるといった調子でルーレットを回す

ガラガラガラガラガラガラガラガラ

この音は成功へのラッパか
もしくは破滅に向かう太鼓か

「5…………………」

自分の駒を5歩進める
さぁ、オープン!!

「えとーーーー『このセリフを感情込めて言いなさい』」

ん?意外に普通やな
愛の告白とかやったら嬉しいんやけどなーーー
ごほんとなのはちゃんがわざとらしい咳払いをし、あー、あーと声を整え
一言

「お父さんなんて大っ嫌い!!!」

「なのはに嫌われたーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

命令が脳に伝わる前に士郎さんは泣いた顔を手で隠しながら走り去った
流石に不味いと思ったのか
恭也さんと慧君と美由希さんとなのはちゃんが追いかける

「お、落ち着いてお父さん!ほら、これは遊びだよ!!」

「なのはに弄ばれたーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「ええい、無駄にネガティブシンキングなこと。いっそ最下層まで落としたら復活できませんか?」

「慧君。君の考えていることは傷ついている人間を心の廃人コースに行かせる悪魔の思考だから」

「そうだ慧。だからーーーー力づくで止めるしかない」

「恭ちゃんはは恭ちゃんで肉体的な廃人コースをお勧め!?」

「お、お父さん!な、なのははお父さんの事好きだよ!?優しいし、かっこいいし、頼りがいがあるお父さんでーーーー」

「なのは!nice assist!!」

「でも時々不必要なくらいお母さんと甘々な空間を作ったり、男の子と話しているだけで怒り出すとかそういうところはちょっとっと思うけど。そこを省けば物凄くいいお父さんだよ!!」

「なのはぁーーーー!!それ止め!!父さんに対しての最高クラスの最悪な止め!!」

娘に奥さんとの愛と親馬鹿を否定された士郎さんは悲しみのあまりスプーンで死のうとする
慧君は止めるべきか悩んだようやったけど、その後に集団自決用の手榴弾が出てきたら止めた
こんなギャグシーンで死ぬのは流石に嫌やったらしい


結局士郎さんを宥めるのに15分かかった
大の成人男性は実の娘の言葉に多大な被害をもらってしもうたということや
当のなのはちゃんは疲れ切った顔をしている
少し同情してしまう
ま、気を取り直して
さてさて、次は本命の

「……………………………………………………」

究極クラスの仏頂面の慧君の出番や
かなり嫌な予感しかしないこのゲームにかなりの危機感を覚えとるようや
だがここまで来たらもう引き返せへん
観念したのか相変わらずの無表情でルーレットを回す

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ

「ふっふっふふふふふふふふふふふふふふふふふ。あーーーーーーはっはっはっはっはっははははははははははははははははははははははは!!!さぁ、ふら、ご主人様!!私と同じ目に合うがいいわん!!この屈辱を!!この悲しみを!!この絶望を!!思う存分味わうがいいわん!!」

思わずみんな目を背けてもうた
余りにもアリサちゃんが憐れになってしもうた
慧君を絶望させようとしてるんやろうけど、合間合間に『ご主人様』や『わん』が入っていて緊張感やら何やらが抜けてしもうてる。これじゃあ、ただのイタイ子に見えてしまうのだ
最もイタイ事は本人はそんな事を気にしていられるような精神状態ではなくなってしまったということやった
ようやくルーレットが止まる

「1か…………………」

運がない彼だった
無表情キャラは運がないのは相場であるという神の声が聞こえたような気がした
さぁ、オープンや!!

「…………………『地獄の料理をご堪能あれ』」

どういうことやろ?と私と慧君が首を傾げていたら
バッと他のみんながなぜか美由希さんの方を見た

「ちょ!地獄の料理で何故私の方を見るの!?」

「忘れはしないぞ美由希…………………………お前が生み出してしまった悲劇を」

「あの時は大変だったーーーーー何せ家族のみんながセイ○ガンを求めたからな」

「…………………………それでも駄目だったの」

「一体どうやったらあんな不可思議味になるのかしら…………………………。ある意味パティシエとして知りたいわ」

「「「ごめんなさい(ごめんね)、美由希さん(ちゃん)。フォローできません(できないよ)」」」

「酷い!余りにも酷い!もう少し慈愛の心で頑張れとか、次こそはとか言ってくれていいじゃない!!」

「お前の料理でその慈愛の心は壊された」

「恭ちゃんの馬鹿ーーーーーーー!!!」

「ぬおっ!美由希!貴様、俺の盆栽を壊すとはーーーー覚悟はできてるのだな!!」

「ふ、ふーーーんだ。いいもん!もう私には何も怖いものなんてないよ!!」

「よくぞ言った!!今日の修業は普段の3倍でーーー」

「ごーーめんなさーーーーーーい!!」

「土下座するの速いねぇ、美由希ちゃん…………………」

私は慧君と目を合わせる
どうやら美由希さんの料理はミラクル味みたいなようや
となると

「慧君ーーーー遺言は?」

「…………………………餃子が食べたかったです」

「ふ、二人とも!失礼だよ!ていうか慧君のその遺言はなに!?ふんだ!良いよ、そんだけ言うなら見せるよ!私だって頑張れば料理の1つや2つくらい出来るよ!」

20分後

「はい、出来たよ!」

「あれ?意外と見た目は」

「おかしくないな」

そこにあるのは普通のクッキー
何か変な色になっているというわけではなく、焦げてるとかいうわけではなく、何の変哲もないクッキーだ
臭いも嗅いでみたが別段変な臭いはしない
ということはさっきの美由希さんの言うとおり頑張ったのだろうか
それともその前のは単純に失敗しただけなのだろうか
慧君は意外にもそこまで警戒心を持たずに

「じゃあ、貰います」

と言ってひょいとクッキーを取って口に入れた
すると

バタン!!と明らかに重力を無視したスピードで倒れた

シーーーンと空気が凍った
みんながまずはこれは彼の体を張ったギャグかと疑うが、明らか彼の眼には冗談の色がない
倒れた足も痙攣している
これはーーーーーマジや

「け、慧君!?だ、大丈夫!」

「美由希…………………………今度は何の毒物を入れたんだ?」

「そ、そんな事はしてないよ!ただ隠し味にちょっと…………………」

「誰か美由希に常識を教えてくれ」

「…………………返す言葉もありません」

しゅんと気落ちする美由紀さん
流石に可哀想になってくるが、フォローのしようがない
と思っていると

「た、高町姉。さ、ささあさささ最高に上手かったです」

慧君が手足をがくがく震わせながら立ち上がった
いや、いくらなんでも

「む、無理しなくていいよ。美味しくなかったでしょう…………………」

「い、いえいえ、ととととっても美味しかったです。思わず天国に逝ってしまう程でした」

笑えない冗談だった

「で、でも手足が震えているよ…………………」

「感動です」

物凄い言い訳
でも、何故だか知らないけど恭也さんと士郎さんが感動している
漢だと

「顔が青いよ」

「生まれつきです」

「声が震えているよ」

「武者震いです」

「お腹から凄い音が」

「空腹なんです」

そう言って彼は残りのクッキーを全部食べた

「おおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいいいしかtったでででででdっでえででででですすっすっすすすすううsっすうううすうすすすうすうす”#%$%&’%’*+¥&”#$%$」」

「あかん!人間の言語を忘れかけとる!!」

「しっかりしろ!慧君!君は勇者過ぎるぞ!!」

「ああ!尊敬できるくらいに!!」

何だか男同士で感じるものがあったらしい
二人は男泣きしている
ちなみに原因の美由希さんは

「わ、私は実は凄い料理上手なの…………………」

自分の固有結界に入っとった
目の前の惨状から目を背けて
ちなみに彼の回復には30分かかった

…………………あれ、このゲーム
遊ぶ心でやっとったら
死ぬ?

ようやく現状を理解したみんなであった
そして冒頭に帰るのである



あとがき
今回ははやてパートです
最初らへんはギャグパート
まだ続きます
応援、本当に、ほーーーーーーんとうにありがとうございます!!
出来る限り面白い作品にしたいと思っています



[27393] 第十四話 <修正>
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/26 17:07

戦いは中盤に入る
次の犠牲者は

「わ、私だね…………………」

冷や汗を流し、緊張で顔を引き攣らせているすずかちゃん
無理もない
あれだけの阿鼻叫喚(アリサちゃんや慧君)を見たのだ
これで怯えないのは桃子さんぐらいやろう
ゴクリと唾を飲み、そして
運命のルーレットを回す

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ

何故だろう
このルーレット
回が重なることに長くなっていないだろうか
まるで緊張が高まっていた時にその緊張を長引かせるようにしているみたいだ
ゴクリと今度はみんなが唾を飲む
当たり前だ
なのはちゃんの例からわかるように回すのがすずかちゃんだからといって、罰ゲームに当たるのがすずかちゃんとは限らないのだ
この一回りにはみんなの命が懸っているのだ
そして
ルーレットが止まる
出た数字は

「4だね…………………」

真剣そのものといった表情で自分の駒を進めるすずかちゃん
その顔はまさしく戦士の顔
言葉を変えたら死ぬ覚悟をした顔
誰もそれを笑うものはいなかった
さぁ、肝心の指令は如何に…………………!

「え~と『となりの人に目一杯抱き着いてください』」

慧君が飛んで窓を突き破って逃げようとした

アリサちゃんがドロップキックで慧君を撃ち落とした

慧君が床に沈んだ

ここまでの動作
わずか4秒
おそるべし風雷慧
おそるべしアリサ・バニングス

「何をするバニングス!俺は悲しいぞ」

「喧しい!ご主人様に逃げる権利はないわん!」

「人類の主権を無視するとは…………………最低だな!」

「ほう、ご主人様にとっての主権とは何か、聞きたくなってきたわん」

「逃走の権利、人で遊ぶ権利、金を貢がせる権利、俺に絶対服従の権利だが。これくらい覚えておかなければ社会の成績が不安だぞ?」

「OK。ご主人様に必要なものはまずは生き物としての最低限守らなければいけない礼儀というのがわかったけど、どうやって覚えたいわん?」

「ふむ、必要ないとは思うが参考までにどうやって教えるつもりなのかね」

「一、拳で魂に刻む
二、蹴りで魂に靴跡をつける感じで跡を残す
三、頭突きで脳に直接訴える
これのどれかだけどせめての選択権はあげるわん」

「ふむ、せめて暴力はなしはないのかね」

「ないわねわん」

「そういうドエス系の奴は俺より高町の方がいいと思うのだが…………………」

「異議あり!私はエムじゃないなの!ノーマルなの!そして名前で呼んでほしいなの!」

「3なのか…………………前から思っていたんだがーーーーその語尾うぜぇ」

「ウルトラ失礼なの!アリサちゃん私は全部をお勧めするの!」

「私怨はよくないわ、なのはお嬢様わん。それにーーーー否定はできないものわん」

みんな酷いのーーーーーー!!と叫んでいるが二人は無視
このメンバーでは無視スキルは必須だ
覚えなければストレスが増えるだけなのだから

「捕まえたぞ!慧君!」

「なっ!士郎さん!卑怯な!それでも剣士ですか!」

「堂々と卑怯、騙し技、口先を使う君にだけは言われたくないな!」

「背中の傷は剣士の恥!」

「君は剣士ではないだろう!?」

「男は生まれた時から剣士です!」

「成程、それなら理解できるな」

「男の会話で納得しないでくださいわん!」

「ええい、さっきからわんわん喧しいわ!!」

「う、うるさいうるさいうるさいわん!!私だって好きでやっているわけじゃないんだからわん!」

「黙れ!典型的なツンデレめ!とっとと尻尾を振ってデレテみろ!」

「何を!この無表情毒舌家!閻魔様にその舌を取ってもらいなさいわん!」

「「……………………………………………………」」

「二人して傷つくなら止めたらいいのに…………………」

実はこの二人結構気が合う
お互いドエスやからか
それとも似たような趣向(いじめ)やからか
成程、類は友を呼ぶやな
その光景を微笑ましく見ていると

「…………………むぅ」

何だか面白くなさそうに見ているすずかちゃんが

「お姉ちゃん!とっとと指令をやろう!!」

「すずか!?お前ーーーー気でも狂ったか!?」

「私は何時だって正気だよ!慧君!」

そう最近の彼らは滅茶苦茶距離が縮まった気がする
まず、二人はお互いを名前で呼ぶようになったし
何より最近すずかちゃんが慧君に対して積極的になっとる
それに最近押され気味な慧君(無表情やけど)
この前1週間ぐらい慧君を見かけなかった
その間は彼が言うにはまたあのお爺さんにやられたとか言ってるけど嘘やと私は睨んでる
ていうかその後にすずかちゃんと仲良くなったんやから誰でもわかる
名前の事はなのはちゃんに知られたときえげつない魔王になって慧君を攻めていたけど、最終的になのはちゃんはダンボールに封印され取った

「じゃ、じゃあ、やるね」

顔を真っ赤にしながら背後から抱き着いたすずかちゃん
慧君は相変わらずの無表情やけど目を逸らしている
これは大分恥ずかしがってるなぁ

「すずか!そこでもっと積極的に動くのよ!狙うのよ!慧君の弱点を…………………!」

「忍。姉として子供にそういう事をアドバイスするのはいけないと思う」

「私に倫理は通じないわ!!」

「堂々と叫ぶな!」

「ええと、どうすれば?」

「舐めるのよ!具体的には首筋などを!エロくレロレロと艶めかしく!そして熱く、激しく!」

「月村姉!婉曲に言いますがあんたおかしいですよ!頭が!」

「今の私に常識は通じないわ!」

「傍迷惑この上ないわ!!」

「…………………えーと、えい!!」

おお!
すずかちゃん行ったぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁx!!!
首筋をペロリと艶めかしく、エロく、熱く、激しく行ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
慧君はビクンと体を震わせるが、何等かに意地があるのか表情にも声にも出さない
アリサちゃんとなのはちゃんは恥ずかしいのか両手で顔を隠している(ベタな事に指の隙間から見ているが)
ちなみに大人組は微笑ましいものを見るように見ている(美由希さんは「私、小学生に負けている?」と落ち込んでいる。後で胸を揉んで元気にしようと決意する私)
すずかちゃんは顔を真っ赤にしながら何回か首筋を舐めている
その度に慧君はビクビクしているけど意地でも以下略

「むぅ、慧君我慢強いね」

「…………………………」

黙ったまま彼は反応しない
ここまで理性が強固な人間よくおったなぁ
私やったら速攻で理性が切れてすずかちゃんを襲っているのに
はぁと溜息をつくすずかちゃん
すると

「ひゃ…………………」

物凄い可愛らしい声が聞こえた
思わずみんなの動きが止まる
まず、すずかちゃんの方を見る
何故ならそこら辺から声が聞こえたからだ
しかし、彼女は首を振る
私ではないと
では、誰かとみんなが3秒くらい考える
答えは直ぐに出た

「…………………慧君?」

「…………………………」

彼は何の反応もしない
しかし、我等にはこの沈黙に意味をつけられる
すなわちーーーー沈黙は肯定だと
だが、さっきは感じてはいたけど耐えてはいたではないかという疑問が浮かぶ
では、さっきとは何が違う
少し思考し、やがて気づいた
さっきすずかちゃんは溜息をついた
その時溜息が当たった場所は…………………!

「すずかちゃん!!慧君の弱点はミミーーーーーック!!」

弱点を言おうとした瞬間ピコハンを投げられた

「慧君の弱点?宝箱?」

と純粋そうに首を傾げているなのはちゃんがいたが返事をする余裕がない
何故かというと

「慧君!これ、何でこれ、瞬間接着剤をつけているんや!?」

「煩い狸を黙らせるための魔法の道具だ」

「取れへんのやけど!?」

「取ったらーーーー顔の皮膚ごと」

「こわ!!」

己、この究極毒舌家!
くっ、どうやって慧君の弱点を伝える?
このままではぁ!

「くっくっく、俺のかぴゃ」

途中で奇妙な声になった
お、ピコハンで見えないが予想は出来る

「す、すずかさん?そ、そこはちょっとぅん」

「か、可愛い。もうーーーー止まらない」

「ちょ、まっ」

おおう
見えないのが残念やけど聴覚だけでわかる
素晴らしくーーーーーエロい

「あーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

その後の悲鳴は女の子みたいだった
無表情やけど
弱点は


耳やった






「さぁ、八神。死のうか」

「いきなり死刑宣言!?」

「そうねわん。はやては死ぬべきよわん」

「はやてちゃんーーーー死は怖くないよ」

「み、みんなまで……………私との友情は!?」

「「「友情?何それ、得になるの?」」」

「新しいバージョン!?しかも、一糸乱れぬハモリ!芸人もびっくり!私もびっくり!」

「あ、あはは」

当たった内容が内容なだけにみんなからのセリフが酷い
ちなみにすずかちゃんだけはホクホクした顔になっとる
くっそー
一人だけ満足できる内容やったからって!

「ま、まぁ、士郎さんのがあるから」

「「「十三階段はあと一つか(わん、だね)」」」

「みんなのセリフに私の心が泣いた!!」

ちなみに
慧君が悶えている間に恭也さんがやったんやけど
内容は

『自分の好きなものを自分の手で一つ壊す』

何を壊したかは各人のご想像に任せる
ただ言えることは一つ
暫く、恭也さんは遺体(壊したもの)から離れなかったと言っておこう
恭也さんの瞳から輝いたものが流れたとか

「じゃあ、俺はとっとと終わった方がいいな」

士郎さんは特に気負った感じがなくルーレットを回す

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ

「さぁーて何が出るかな~」

あれだけの地獄を見たのに意外と気にしていない
ということは今のところの内容では士郎さんにダメージがないということか
……………メイド服でもいいんかな?
ようやく止まる

「お、2か」

自分の駒を進める士郎さん
これじゃあ、士郎さんのリアクションは期待できないかもしれない
ちょっと残念
まぁ、肝心の内容は何やろ

「さぁて、オープ」

言葉が途中で止まった
みんな?顔で士郎さんを見る
はて?何やろう?
あの士郎さんを硬直する内容とは
みんなでその内容を凝視する
そこには

『愛するものを盗られる』

ギシっと空気が軋んだ
愛するものを盗られる
士郎さんの場合は至って単純だ
桃子さんとなのはちゃん
しかし、ここにいるメンバーだと少し話が変わる
何せ盗るにもほとんどが女性なのだ
百○気質がないと無理
となると士郎さんの殺気の行く場所はーーーー

「…………………恭也、慧君」

「ま、待て、父さん!」

「そうです!高町父、落ち着いて!」

ヤローメンバーに行く

「大丈夫。わかってはいるんだ」

お?
意外にも落ち着いている?
予想やったらもう既に暴れまくっていると思っていたのに
そのことに二人の男はホッとしている

「よかった。父さん。これはゲームだからな」

「そうそう、これは遊びですよ」

二人も何とか士郎さんを穏やかな方向に持っていこうとしている

「ああ、そうだとも」

うんうんと恭也さんと慧君は頷いている
チェー、今回は流石に波乱はないんかなーと思ってたら

「桃子となのはは別嬪だからなーーーー何れは祓わなければいけないと思っていた」

予想を斜め下の方向の発言を士郎さんが
二人はギョッとした顔で士郎さんを見た
士郎さんの手には
あら、立派な刀が

「ちょ!ちょっと待ってください!士郎さん!!」

「そうだ!落ち着け、父さん!!」

「では、聞くが…………………もし二人が大切なものが盗られそうになったら、その盗ろうとしている盗人に対してどうする?」

「生まれたことを後悔させた後、次に感覚を持ったことを後悔させ、その後ごめんなさいと言えることを後悔させてやります」

「右に同じ」

「ああ、俺も同意見だ。だからーーーー」

「「だから?」」

「……………die」

言葉を放った後
士郎さんは獣のように二人に飛びかかった
まるで某金属一杯の恐慌に出てきた用務員のお爺さんみたいに






「…………………生まれた意味って何だろう?」

「た、大変!?慧君が悟りを開いちゃった!!」

「…………………そりゃ、あれだけの目にあっていたら悟りの一つや二つは開くでしょうわん」

「…………………今回、慧君。運がないね」

「日頃の行いちゃうか」

「…………………八神、このハバネロ食べるかい?俺の好意だ」

「…………………それを好意と思っているのが間違いやと何で気づかへんのや……………」

ちなみに士郎さんはある意味指令を果たせなかったので桃子さんのスィートルームにご招待されている
時折、ギャーーーーと聞こえるのは気のせいやと断じる
気のせいじゃなかったらーーーー世にも恐ろしいものを見てしまう

「さぁ、次はヤガミノバンダヨ」

慧君の怖い声は意図的に無視した
大丈夫
今まで出た指令なら別に怖いもんはないはずや
今の私にーーーー怖いもんなし!!
そぉい!!

ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ

何でやろうか
このルーレット
明らか私が力を込めた分より力いっぱい回っとる
やはり呪いなんか?
出た数字は

「ろ、6ぅ!」

そう6
今まで出てこなかった数字や
つまり、最悪な予感が
他のメンバーは既に瞳に嗤いの感情が込められている
慧君もそうやけどこのメンバーも大概人の心を捨てていると思う
嫌々自分の駒を進める

一歩一歩がこんなに怖いなんて……………

そして遂に6歩進んだ
そして
裏面をゆっくりオープンする
少しだけ最初の方が見えた
そこには

『女性陣のーーーー』

「ほわちゅあーーーーーーーーーーーーーー!!!」

勢いよく裏返した
私の勘が告げている
すなわち続きの言葉はーーーー胸を揉め!!
きゃっほーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!
我が世の春が来たーーーーーーーーーーーーーー!!!
まずは忍さん!
次に美由希さん!
そして順にすずかちゃん、アリサちゃん、なのはちゃんのを揉み尽くそう!!
生まれて初の上機嫌に彼女の家のある本が震えたというがそれはまた別の話
そしてリバースカードオープン!!

『女性陣の手によって自分の胸を揉まれろ』

「はい?」

どうやら私は疲れているらしい
まるで自分の胸が揉まれるみたいに書いているように見えてしもうた
少し目をゴシゴシ擦る
そして目をパチクリする運動をし再び見る

『女性陣の手によって自分の胸を激しく揉まれろ』

変わらなかった
むしろ文面がやばくなっている
咄嗟の事で頭の理解が遅れている
チッチッチ、ポーーーン
はっ、に、逃げなきゃ!!
だが悲しいかな
彼女の足は悪く、そしてここにいるメンバーはそんな弱点を平気で突く人でなしのメンバーなのだ

「わっ!」

「リーダー、捕獲しました」

「よくやったわ。美由希補佐官」

「光栄であります。忍リーダー」

「み、みなさん。じょ、冗談ですよね……………」

「はやてちゃんーーーー私達は何時だって本気よ」

「そ、その情熱は違う場所で……………」

「はやてちゃんにそれを言う資格はないなの」

「な、なのはちゃん!助けて!」

「ごめんね、はやてちゃん。この罰ゲームーーーー女性陣からって書いてあるの。つまりーーー」

「つ、つまり?」

「「「「「ここにいる女の子からみんなにはやてちゃんは揉まれるの」」」」」

「いややぁーーーーーーーーー!!そんな百○空間、いややぁーーーーーーーーーーーーー!!私はみんなと違ってノーマルなんやーーーーーーーーーーーー!!!」

「ふっふっふわん。そんな可愛らしい言い訳が通じると思っているのわん」

「そうだね、はやてちゃん。後ーーーーーアリサちゃん。もう違和感がないね」

うるさいわね!というアリサちゃんのセリフに構っている余裕は残念ながら全然ない

いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!
おかしいやろ!
キャラ的にも!
世界の修正力的にも!
八神はやてが胸を揉むのではなく、揉まれる立場になるなどあり得るだろうか、いやない!!
平行世界の八神はやても超びっくりやで!!
と、とりあえず何とか生き残る方法を!

自分が揉むのはいいが揉まれるのは嫌な関西弁少女
流石、ここのメンバーと仲良くなれただけはある
傍迷惑この上ない

「そ、そうや!慧君、士郎さん、恭也さん!たーーーー」

「俺、トイレ行ってくるわ」

「俺は盆栽の手入れに」

「俺は皿洗いに」

野郎三人はさっさと逃げていった
しかし、慧君はさりげなく盗聴器らしきものを置いて行ったのが偶然見えたし、恭也さんと士郎さんの二人は明らか見え、聞こえ出来る距離である
結論は一つ

人間、諦めが肝心やと

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

本日二度目の可愛らしい悲鳴が上がったとか
もうお嫁に行けへん
ぐすっ






それからというもの勝負は非情やった
誰もが不幸な目にあった(忍さんは二度ネタしかあたらないので割愛)
誰もが悲しい目にあった
誰もが恥ずかしい目にあった
思わず何人かは世を嘆き、儚い命を断とうとしたものもいる
心身ともに限界を迎えかけた
その時

「わ、私が……………最初の……………ゴールや」

コツンと駒が置かれる
ゴール地点に
長かった
本当に長かった
泣くかと思ったのは百回や二百回やなかった
こういう時に支えてくれるはずの友達は今回は全員敵
誰もが孤立無援
だが、そこでようやく私が最初のゴールに辿り着いた

「な、長い……………旅路やった……………」

ようやく終われるかと思うと我慢していた涙が零れるかと思った
それを恥じることはないと私は思う
というか今まで泣かなかった私を褒めてほしいくらいや
緊張感が切れる
そう思った瞬間

「あら?これ、裏面があるわ?」
と桃子さんの素敵な死刑宣言が

思わず視界がブラックアウトしたのを誰が体力がない等と責められるだろうか
どこかのアニメのセリフを思い出す
例え鎧を纏おうと心の弱さ(ストレスに負けた繊細な心)は守れないのやーー

「あら?はやてちゃん。お疲れのようね。じゃあーーーー私がオープンしてもいいかしら」

誰も何も言わなかった
当然やろう
だって、誰も何かを言うような体力や精神力を残していないのやから
もうここにいるのは呼吸するだけど骸
ようは、好きにしてくれという事

「じゃあ、遠慮なく」

桃子さんは楽しげにオープンする
ははははははは、次は何やーーーー
紐なしバンジーかーーー
桃子さんのスィートルームにご招待かーーーー
究極クラスの甘々空間の満喫かーーーーー
それとも恐怖!スィーツ無限!夜の体重計をご覧にあれかーーーー

これだけの罰ゲームが瞬時に頭に浮かぶのは今までの罰ゲームの凄惨さを語っている
しかし、考えていたのと違った
内容は

『はやてちゃんは桃子さんの話を聞く』

「はい?」

思わず間抜けな言葉を放つ
今までの罰ゲームとは少し違う気がする
何というか
いきなりのシリアスという感じというか

「…………………騙されるな八神。それはそういう風に見せかけたえげつながふっ」

途中で目にも止まらないお皿(鋼)が慧君の頭にぶつかったのがで言葉が止まった
無視した
ついでに誰が投げたのかも無視した

「んー。じゃあ、桃子さんの話、聞いてくれる?」

そう言って桃子さんは背中に隠していた紙を見せた
その紙に書いてある内容は

「桃子さん……………これは……………」

「ええ。そのまんまよ」

思わず紙を見て動きを止めてしまう
予想外の内容
考えもしなかった内容
いや、考えること自体を否定していたのかもしれない
だって
今までそんな事をしてくれる大人なんかいなかったのやから
紙の内容はこうだった

養子届と

そして桃子さんは続けた

「私達の養子にならないかしら。はやてちゃん」

その時の私は
一体

どんな顔をしていただろうか

よく
わからなかった



あとがき
応援してくれているみなさん
本当にありがとうございます!
まさかこの駄作がこんなにも誰かを笑わせることが出来るとは思いもよらなかったです
厚かましい願いですが出来れば、これからもこの作品を見守ってほしいです



[27393] 第十五話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/05/28 22:52
結局
八神は願いには応えなかった
ただ煮え切らない態度で

「…………………考えさせてくれます?」

と答えただけ
別にどうでもいいことだ
だって、俺には全く関係ない
他人事だ


決めるのは八神であって
俺ではない


なら、いちいち気にするのは間違いだろう
桃子さんも気にせず

「うん。わかったわ。何時でも待ってるわね」

と流石大人なだけあってその振る舞いには余裕がある
高町のごり押しの頼みじゃないところが物凄い大人だ

「今、誰かに貶された気がする…………………」

無視した
とりあえず、もう結構な時間なので帰ることになった
何時の間にか日は落ちている
時の流れとは早いものだ
お蔭で拉致られてここに来たのを忘れてしまいそうになる
月村ファミリーとバニングスは車に乗って帰る
俺は徒歩
すずかとバニングスからは乗ってもいいと言われているが、そんな事をしたら逃げ場がないので謹んで毎回遠慮してもらっている
本来ならここに八神も乗せてもらって帰るのだが
今日は違った
八神は何を思ったのか

「…………………………なぁ、慧君。…………………………送ってってくれへん?」

などと、なかなかおかしな頼みを放ってきた
思わず眉をひそめる
何時もとは違う事をしようとする八神
こういう時に自分の勘が一番頼りになる
その自分の勘が俺にこう告げている



混ぜるな、危険ーーー



間違えた今日の俺の勘は少し反抗期らしい
きっと、高町症候群が俺の脳内に直接、毒を注入しているからだろう
こいつは危険だ
今度、解毒剤を飲まなければと心のスケジュールにチェックを入れる
今度こそ本当の俺の勘が告げる


こいつは危険だと



ならば、俺は素直に返すのがせめてもの八神に対しての敬意だと思い
素直に答える

「すまないな、八神。俺、帰り道こぶあっ」

「あらあら。慧君。はやてちゃんを送ってあげるなんて紳士ねぇ」

ま、まさか躊躇なく延髄をやるとは…………………………
当たり所が悪かったら死んでるぞ高町母
というか冗談ではない
このままでは八神を送ってしまうではないか
これはいかん
早急に訂正を

「八神、違うぞ。俺が断じて送るあぁ!」

「ああ、まるで男の鏡だな」

き、恭也さん
お前もか
ええい、まだ終われんよ!

「違うぞ!俺はらぁ!」

「もう、慧君ってかっこつけだねぇ」

「だから、おべ!」

「そう言うな。美由希。男の子とは恰好をつけたくなるのだよ」

「貴様ら、俺を怒らセーブル!」

「そうよね~。そこらへんは恭也と似ているわね~」

大人組の波状攻撃
その内三人は超最強クラスの武闘家
本能か
習性か
またはわざとかは知らんが見事に人体急所を攻めてくる
少しは躊躇ってほしい

ああ、いかん
頭がクラクラしてきた
これがーーーーー死?
こ、こんな馬鹿げた攻撃で死ぬなんて、死んでも死にきれんっ

『その願い、叶えてあげましょうか?』

馬鹿野郎!
お前みたいな明らか伏線だらけのキャラがこんなギャグシーンに出てくるんじゃない!

『私は願い(出番)が欲しいのよ』

やめぃ!
せっかくのお前の意味深キャラが台無しだ!
さっきまでのシリアスシーンの空気を返せ!!

『また来るわー』

二度と来るな!!

「慧君!しっかりして!どんな悪夢を見ているの!?」

「こいつ…………………ダメージの余り倒れたかと思ったら、いきなり虚空に殴りに行くものね。」

「慧君…………………遂に脳が…………………!」

「すずか。貴方の初期のキャラがもう原形が残って居ないというのが今の発言でわかったわ」

「そういう意味じゃあ、キャラ崩壊していないのはアリサちゃんとはやてちゃんだけだよ…………………」

「止めなさい、なのは。それ以上のそういう発言は危険よ」

はっ!
俺は今まで何を…………………
そう、確か

「じゃあ、はやてちゃんを送るの、よろしくね」

そう
つまり八神のお届の断りを失敗したという事だ











「…………………ごめんなぁ。こんな遠回りさせて」

「別にもうどうでもいいよ」

結局
高町家&月村姉の策謀で八神を送ることになった
まぁ、面倒臭いのは本音だが、別にどうでもいいのも事実だ
それに結構、夜の散歩も好きなのだ
特に今日は風も丁度いい具合に吹いているし
何より月が綺麗だ
まぁ、気が利いてないことに疾風には程遠いのが少し空気を読んでいないところかもしれない
そう気障な考えをしながら、八神の車椅子を押す
さっきから八神はそこまで話さない
何時もの八神を知っていたら、誰でも奇妙に思うだろう
普段のあの元気の八神から今の姿はあまり想像できない
初対面でもわかるぐらい落ち込んでいる
何が原因なのか…………………等と言うのは無粋だし、丸解りだ
原因は桃子さんが出した紙
養子届だろう
どういった経緯でああいう話になったのかは詳細は不明だが、大体は想像できる
何せ、あのお人好し家族の事だ
『つい』家族がいなくて、足が悪く、学校も行けてない少女を助けたくなるかもしれない
まぁ別に俺には関係ないことだが
他人は他人
俺は俺である
そして前にもすずかに言った通り

決めるのは八神だ

「…………………はぁ。私、どうすればいいんやろぅ」

「何がだ?」

「わかってるくせに」

「それでも聞くのが俺の信条」

「そんな信条。ドブに捨てた方がいいで。この性悪少年」

「とても胸を揉まれて快感の叫びを上げていた少女の口から出る言葉じゃないな」

「耳を舐められて女の子みたいな悲鳴を上げていた少年からそんな事は言われたくないわ」

「「……………………………………………………」」

お互いがお互いの心の傷を抉ったせいで沈黙が漂った

「…………………………この話はなしや」

「…………………………同感だ」

一致団結
俺達のトラウマは思い出すものではない

「ていうか、真面目な話をしてるんやけど」

「ふむ、それは失礼。マドモワゼル」

「似合わへんなぁ」

そこでようやく八神は苦笑する
そこで思い出す
高町母から養子の話を聞いた時の八神の表情を
俺にはないものを
あの時
八神が出した表情は驚きではなかった
いや、勿論
驚きも含まれていた
しかし、それ以外の感情の方がもっと強く出ていた
あれはそう


困惑、もしくは動揺
そして
恐怖だ…………………


よくわからない
最初の困惑と動揺はまだ理解できる
しかし、恐怖とはどういうことだ
彼女は俺と同じで孤独主義だったか?

それはありえない
彼女の顔は、瞳は、声は
初めて会った時と比べて遥かに幸福そうに見え、聞こえる
彼女は俺とは違い、誰かを求めるタイプだ

まぁ、高町とは違って健全なタイプか…………………

高町は高町で誰かとの繋がりを強く求めるが、少しそれが強過ぎではないだろうか
そう、まるで、誰かの役に立ちたいと思っている感じである
脅迫観念とまでは言わないが、それの四歩手前ぐらいには行っていると思う

誰かの為になりたい
誰かを助けたい

そんな考えを持っている感じである
誰かの為にならなければいけないと言った方がいいかもしれない
自分に強制しているといった感じだ
高町が俺と未だ話し続けているのはそこらへんだろう

まぁ、同情とはまた違うからどうでもいいけど

助けられる気もないが
話が脱線してしまった
ええと、確か八神が他人を求める理由だったか
そんなの簡単だろう



八神は孤独が嫌だったのだろう
友達、もしくは家族が欲しかった
ただーーーーそれだけ




当たり前だ
ただの小学一年生の少女が一人を好きになるなんて、それこそ俺ぐらい壊れてなければいけない
八神はどこを見ても『普通』の少女だ


当たり前の事で喜び


当たり前の事で怒り


当たり前の事で哀しみ


当たり前の事で楽しむ


そんな普通のどこにでもいる当たり前で足が悪い女の子だ
悪いことではない
むしろ一番良い事だ
この世の中で生きていくのに一番良い事は普通に生きることだ
異常など邪魔どころか有害だ
異常は世界から排斥され続ける
逃れようなく
堪えようなく
例外なく
俺もその一人だろう
ま、今は俺の事は関係ない
だから八神はまだましな方だろう
彼女には幸せになる権利がある
だからこそ
わからないのだ
他人からも
本人も
幸せを望んでいる八神
それがどうして


幸せになることを恐れる?



疑問は解消されないと気持ち悪い
だから、率直に聞こう

「で、お前どうするんだ?」

「…………………んー?私はそうやなーー。…………………どうしたいんやろなーー」

車椅子を襲ているから八神の顔は見えない
だから、どんな表情をしているのかもわからない
構わず続ける

「別に断る理由はないと思うが」

「何で?」

「メリットの方が多い」

「例えば?」

「資金援助、家族増加、学校も行けるかもしれない、少なくとも今よりも生活の不安は取り除けるなど」

「そうやなーー」

「逆に断る理由としたらーーーーー相手の家族が嫌いとか」

「有り得へんな」

「そうか。もしくはーーーーまだ未練があるかだ」

「…………………………何の?」

「…………………………家、もしくは」



家族の




返事はなかった
それとも沈黙が返事なのか
判別はつかなかった
判別するつもりもなかった
どう考えてもそれはただの決めつけだからだ
暫く沈黙が続く
どういうことか
今日は気持ち悪いくらい静かで、澄み切っている
音といえば八神の車椅子から出る音ぐらいだ
この無音という音の中で素晴らしいくらい響いている
空は面白いくらい澄み切っている
夜天の名に相応しい美しさだ
星は光り
月は輝く
まるで何かを照らすかのように
そこで益体もないことを思いついてしまう


そう
まるで
この場の全てが八神の為の舞台みたいだなんて


正直クサすぎる
今日のあの遊びか
もしくはこの場の雰囲気に当てられ過ぎたのだろう
そうじゃなきゃおかしい
そこまで考えていると八神がようやく話し出す
無音と夜天の加護を受けている少女が

「…………………そうやなぁ。多分私が躊躇している一番の理由はお父さんとお母さんの事があるんやろうなぁ。いや、やろうなぁじゃないわ。きっとそうなんや」

さっきの沈黙は考えを纏めるものだったのか
すらすら言葉を放つ八神
それに籠っている感情を読み取ることは出来なかった

「ふぅん。それは愛着?」

「それもある」

「じゃあ、執着」

「それもあるなぁ」

「じゃあ、義理」

「それもあるなぁ」

愛着
執着
義理
それがあるのは結構
他人の事を言うつもりもないし
他人の事を言える立場ではないので
だが、さっきから八神はこう言っている
『それもあるなぁ』と
つまり
本質ではないという事だ
一番大事な根幹ではないという事
では、彼女が一番躊躇っている理由は果たして何だろうか
俺は俺で躊躇せず聞いた

「じゃあ、お前は結局何がつっかえているんだ」

「…………………………慧君ならわかると思ってるんやけど」

「は?俺が?何で?」

「…………………慧君と私は似てないけど似ているから」

俺と八神が似てる
それは最高級の冗談だ
どこをどう見ても俺達は似ていない
顔も性格も経歴も違う
そのはずだ

「確かに顔と性格は全然ちゃうけどーーーー経歴は似てへんかな」

「どこが」

「例えばーーーー両親が死んだこととか」

「………………………………………」

確かにそれだけなら似ているだろう
共に似たような時期に両親を亡くしたもの同士
そこだけならば
しかし
それでも俺と八神は全然違うとしか言えない
選んだ道が
選んだ場所が
選んだ始まりが
選んだ終わりが
何もかもが違い過ぎる
強いて言うなら
八神はハッピーエンド(普通)を選び
俺はバッドエンド(異常)を選んだといったところだ
だから、違う
それは八神
誤解なんだ
俺なんかと似ていてはいけないのだ

「…………………まぁ、多少は違うと思うけど」

「いや、全然だね。俺とお前が似ているだなんて…………………背筋が寒くなるぞ」

「乙女に言うセリフじゃないで!?」

「雌に言うには丁度だ」

「ええい!まだ私の事を獣として見てるんか!」

「勿論だとも」

「この分からず屋!!」

無視した
これで会話の流れは途絶えた
素晴らしいね
この俺の状況判断
神すら凌駕するね
八神が白い目で見てくるが更に無視
すると
おやおや、溜息を吐いたよ八神
幸せが逃げるよ?

「どの口が言うか…………………」

何だかご機嫌斜めだな
別にどうでもいいけど

「…………………慧君。この話題を真面目に話したくないやろ」

「…………………………何のことやら?」

「…………………わかりやすいなぁ」

ちっ
数分ももたせられなかったか

「…………………そんなに私と似ているって言われるのが嫌?」

「…………………………俺に似ている人なんていないよ」

いるとしたらそいつは犯罪者か何かだろう
少なくとも異常者に違いない

「そうかなぁ。私は慧君がそこまで異常者に見えへんけど」

「OK。眼科だな」

「(無視)だって、慧君ーーーーかなりのお人好しやんか」

「は?」

ちょっと待った
聞き捨てならない
そのセリフは見逃せない

「八神。訂正しろ。俺はお人好しではない。ただの人でなしだ」

「…………………………卑屈言うんか、偽悪言うんか。どちらかわからへんけど、まぁ、別にいいで。」

完璧に八神は話を聞いていない
ふざけてもらっては困る
お人好しーーーー善人と言うのは俺に与えられるような称号ではない
それこそ。そういうのは高町家の人間に相応しい
まるでお人好しという言葉に似合う為の性格を持っているんだから


だってそうだろう?

もし俺が本当に善人なら

あの地獄で

オレハ

オレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハオレハ



アノトキナニカデキタハズナノダカラーーーー



「け、慧君?ど、どうしたんや?急に黙ってしまって…………………」

八神の言葉で現実に戻ってくる
嫌な思考に浸っていたようだ
自分が今まで何をしていたのか
一瞬の忘我を味わう
そこまで経って、ようやく八神が俺を見ていることに気づいた
その瞳には
隠しようもない


恐怖が映っていた


どうやら自分の顔は余程怖い顔をしているらしい
少し気を引き締める
いつもの無表情になるように意識的に更に心がける
ようやく、自分の表情が元に戻った感じがする
やれやれ、まだまだ精神修行が足りないらしい
これでは、その内何かに化かされるかもしれない
八神もようやくホッとした顔になる

「ごめんな…………………何か悪い事を言ったみたいで…………………」

「別に…………………俺の事情なんだから、八神は全く関係ない」

「…………………………それでもごめんな」

はぁ
ぶっちゃけるといちいち謝られるとうざい
まるで、相手の事も自分の事情とでも言いたいのかな、このおちびさんは
あーーー
駄目だ駄目だ
少しやさぐれている感じがする
俺はもう少しお人形さんキャラのはずだ

「で、だ。八神。結局ーーーーお前は何を恐れているんだ」

話を逸らす意味も含めて桃子さんの話を聞いた時の八神の反応について聞く
少々いきなりだったが

「へっ…………………………」

いきなりの事で八神は少し間抜けな声を出したが、こう見えても八神は聡い
直ぐに俺が何を聞いたのかを理解して黙る
その反応からすると、どうやら俺が思った推測は間違いではなかったらしい
やはり、あの時
八神は確かにーーーーー恐怖を抱いたのだ
一体何に恐怖したかは
八神が答えるかによってわかる

再び沈黙
何時の間にか俺達の足は止まっていた
どこにでもある道路で俺達は話をする
今、俺達を見ているとしたらそれこそ、月と星ぐらいだろう
そんなくだらないことを考えてると
八神がこちらを見た


泣きそうな顔で


「…………………………あんなぁ、私」

「ああ」

俺はただ返事するだけだった
今の俺がすることはそれだけだろう

「お父さんとお母さん。両方死んだんや」

「ああ」

「それもいきなり」

「ああ」

「それも私の知らないところで」

「ああ」

「だからな」

「ああ」

「だからな私」

「ああ」



「失くすのがーーーーー怖い…………………………!」




遂に彼女の瞳から雫が零れてくる
透明な綺麗な軌跡が
八神の整った顔を輝かす
俺は黙ることしかできなかった

「だってそうやろ!いきなりやで!それも私の知らへんところでいきなり!!二人共や!!二人とも!!別にその日は別に何も特別な事はなかったはずや!!そしてお父さんとお母さんも別に死んでしまうような悪い事をする親やなかったし、危険な仕事をしているわけでもなかった!!」

「……………………………………………………」

「でも死んだ!!特に悪い事もしてへんのに死んでしもうた!!何でや!?お父さんとお母さんは悪い事をしてへんで!!?でも、何の因果も関係なく!呆気なく死んでもうた!!」

「……………………………………………………」

「運が悪かったから?確かにそうやろうな!でも、そんなつまらない理由で死んでしまうなんていおかしいやろ!?たった運が悪かっただけで人が死んでいいはずがあらへん!!そんなの間違っている!!おかし過ぎる!!」

「……………………………………………………」

「それに何や!この足は!!自分で言うのも何やけど私かって別に何も悪い事はしてへん!!礼儀もルールも法律も今のところ破った覚えはない!!なのに何で私の足はこんな風に動かんのや!!ねぇ、何でや!!」

「……………………………………………………」

いつもの八神からは考えられないくらいの強い叫び
強い慟哭
強い嘆き
それだけ彼女は我慢していたのだろう
何でこの世界はこんなにも理不尽なのだと涙を流しながら訴える
それを俺は黙って聞いた
彼女の言うとおりだ
この世は何の因果も関係なく誰かもが死ぬ
何も悪いことなどしていない人も呆気なく死ぬ
運が悪かったから?
そんなのどこにでもある普通の原因だ
残念な事に神様というクソヤロウは世界は運が悪い人や失敗したもの、異常者には残酷だというルールを作ったらしい
ふざけた話だ
失敗した者や異常者には残酷というのはまだわかる
でも、ただ運が悪い人にも残酷と言うのはおかしいというものだ
それを彼女は嘆いている


親の事とーーーー自分の事と


それも当たり前だろう
一見、気にしていないような態度をとる八神だが
気にしていないわけない
まだ6歳なのだ
いくら少し精神年齢が同年齢の子供よりも高いといえどもそれでも子供だ
むしろ今までよく我慢したものだ
親を失い
追い打ちをかけるかのように両足の異常
世を悲観するなと言う方が無茶だ
もし、高町達に会わなければこの少女はもっと孤独を味わっていたかもしれない
孤独は間違いなく彼女を侵していたはずだ
なのに何故養子の話を恐怖する?
何故?



そこまで思い
そしてーーーー話は繋がった
ああ、そういうことか



理由に至った
一瞬で成程と思ってしまう
答えの回答は直ぐに八神が言う



「だからーーーー私は怖い。桃子さん達と家族になるのは嬉しい。心の底から嬉しいんや。でもーーーーーその分失ってしまったら私は」



耐えられへん



つまりこの少女は家族になるのが嫌なのではなく
ただ、もしかしたら得たものを失うのが怖いのだ


はぁ、やれやれ
本気で俺は呆れた
成程、まぁ、両親が死んでしまったから、そういう思いは人一倍だと思うが、それでも呆れてしまう
もう少し年を取った八神なら大丈夫かもしれないが、それはそれ
そんなIFの話をする気もない
だから遠慮なく言った


「馬鹿らしい」


罵倒を


「なん…………………やて?」

八神が驚愕と怒りの表情をごちゃ混ぜにした表情でこちらを見る
そん事はどうでもいい

「耳が悪いのか?じゃあ、サーヴィスにもう一度言ってやろうーーーーー馬鹿らし過ぎる」

二度言う
八神を徹底的に罵倒する
ぶちっという音が聞こえた気がした
多分それはーーーー八神の堪忍袋の緒が千切れる音だろうと他人事のように考えていた
そして


「慧君は…………………………わからへんのか?私の気持ち」

「ああーーーーまったく全然わからないねーーーーーまるで自分がこの世で一番不幸ですと不幸自慢している子供の事なんて」

完全な売り言葉
それを黙って聞いているほど
八神は温厚ではなかった


バシッ!と音が鳴る

それは八神が俺を殴ろうとした音で

俺がその手を止めた音だ


「いきなり何をする八神ーーーー危ないぞ?」

「うるさい!!慧君なら!慧君ならわかってくれると思っていたのに!!」

「おやおや、八神は傷の舐めあいをご所望かな。ははははははーーーー願い下げだ」

「何でや!!慧君かて怖いはずやろ!?得たものを失うのは!!だって慧君かってーーー」

「確かに俺も両親を目の前で亡くしたね。ああ、その気持ちは少しは理解できるとも」

「だったらーーー」

「だが、俺は一度も新しいものを得るのに恐怖を抱いたことなどない」

「…………………!!」

そう一度だってない
この孤独も
この生活も
この生き方も
あのときにした『契約』も
俺は自分で選んだのだ
その全てが自分にとって新しいものだった
しかし、俺は恐怖もしてないし、後悔もしていない
これからもする気などない
否、してはならない
それはあの時
あの場で死んでいった人たちへの冒涜だ
恐怖など以ての外だ

「で、でも、それでもーーー」

「それにだ。八神」

相手の言葉を遮って俺は言う

「お前は認めているではないかーーーー失うかもしれない。しかしーーーーー得れるものはあると」

「…………………!!」

「そうだ。確かにこの世には絶対はない。どんなものでもいつかは無くなるかもしれない。壊れるかもしれない。だが、それを言うなら逆もあるんだ。無くならないかもしれないし、壊れないかもしれない。永遠には続かないかもしれないし、永遠に続くかもしれない。ほら、絶対なんてどこにもないのだから。」

そう
この世には絶対などない
残酷な意味でも
優しい意味でも
俺達は残酷な方を味わったけど
八神はもう良い筈だ
もうそろそろ優しさを貰ってもいいころだ
俺と違ってこの子には何の罪もない
まだやり直せる


だってこの子には
立派な心がある


だからか
俺の言葉はいつもと違う気がする
いつもなら見捨てるはずなのに
まぁ、月と星に狂わせられたという事にしてもらおう


「だからーーーー八神」

「っう…………………」

「一つ問うーーーーお前は結局何が望みなんだ?」

「…………………………私の…………………望み」

「そうだ。もうごちゃごちゃと何かを言いあうのは止めよう。はっきり言って不毛だ。大体この話は元々はシンプルだ。結局ーーーー決めるのは俺でもなければ高町家でもない。決めるのはーーーーお前だ」

「……………………………………………………」

「怖いとか何とかそんなのはどうでもいいだろう?もうそんな段階はとっくの昔に過ぎているし、どうでもいい。もうここまで来たら一つだ。つまりーーーーお前がどうしたいかだ」

「私の…………………………したいこと」

「そうだ。願えよ(叫べ)」

「……………………………………………………」

「我儘でもいい。エゴでもいい。願えよ(叫べ)。」

「……………………………………………………」

「もうそろそろーーーー許されてもいい頃だ」

「……………………………………………………」

そこで話を断ち切る
もう俺から話すことはない
話す気もない
後はーーーー八神の仕事だ

「わ、私は…………………………」

葛藤している
自分がそんな我儘を言っていいのか
恐怖に打ち勝てるのか
彼女にとっては辛い葛藤かもしれない

「私は…………………………」

しかしだ
いづれは乗り越えなければいけない壁だ
彼女がこれからを生きていくのに避けては通れない儀式

「私は…………………………」

彼女も理解しているだろう
彼女は無駄なくらい聡いのだから
というか俺の知り合い全員無駄に聡いが
だから大丈夫のはずだ
馬鹿の俺と違って
八神は立派な

「私は…………………………!」


立派な心を持っているのだから



「私はみんなと一緒にいたい!!」



願った(叫んだ)
彼女は打ち勝ったのだ
未練を
執着を
愛着を
恐怖を
彼女は打ち勝ったのだ
失うのが怖くても、その先に得れるものがあるという事を信じたのだ

「私はみんなと一緒にいたい!なのはちゃんやアリサちゃん、すずかちゃん。士郎さんや桃子さんや美由希さんや恭也さん。忍さんやノエルさん、ファリンさんと一緒にいたい!!」

八神はまだ続ける
まるで、自身の願いを世界に刻み付けているみたいだ
それでいい
それでいいんだ
お前は俺じゃないんだ

「それにーーーー慧君とも」

「止めとけ八神」

「嫌や」

「…………………………抜くぞ」

「何を!?」

「それは…………………(ふっ)」

「何やーー!その無表情の声だけ笑いはーーー!!?」

「いや、禿げた八神を想像するとつい」

「か、髪は女の子の命やで!!」

「それは良い事を聞いたーーーーその儚き命散らそうか」

「散らすぐらい千切るきなん!!?」

「風に乗ると綺麗だぞ?」

「その分私の頭が涼しくなるわ!!」

ようやく俺達らしい会話に戻る
それに気づいたのか
八神はようやくいつもの表情に戻り苦笑した

「そうやな。何や、私が悩んでいたことなんてこんなちっぽけな事やったんやな」

「八神の存在と一緒でな」

「やかましい」

「……………………………………………………悲しいよ?」

「無表情でそんな風に言われても説得力ないで」

「その分を溢れんばかりの言葉で補っているのだよ」

アハハと彼女は笑う
無表情で俺は答える

「うん決めた。私、明日桃子さんに言ってくるわ」

「そうか」

「…………………………普通頑張れとか言うんちゃうか」

「言う必要があるのか?」

「アハハ。そうやなぁー」

「そうだろ」

「うんーーーーありがとうな」

「お礼を言うくらいなら土地を寄越せ」

「要求高いな!!」

それから俺達はつまらない事を言いながら歩き出した
彼らを見るのは星と月の夜天だけである



それからどうなったかを口に出すのは無粋というものだろう
まぁ、強いて言うなら
高町家の人口密度と
聖祥学校の人口密度が増えたという事ぐらいだ











これは桃子さんに話に言った時の事や
誰にも言ってない事
私が疑問に思ったことを聞きたかったのだ
多分、これを逃したら聞けなくなるかもしれへんから

「なぁ、桃子さん」

「なぁに?はやてちゃん。ちなみにお義母さんと呼んでくれてもいいわよ」

「あ、アハハ。それはもうちょっと後に」

「あら残念。で、何かしら?」

「あ、はい。えと、そのーーーーこの話(養子縁組)慧君には提案しなかったんですか?」

「……………………………………………………」

そう
それが疑問やった
こんなに優しい人達がまさか私だ養子の話をするとは思えへん
つまりや
慧君はもしかしたら

「…………………………ええ。慧君にも勿論提案したわ。」

「…………………………やっぱり、断ったんですか?」

「ええ。でもね、何て断ったと思う?」

「え?ええと…………………………わかりません」

「ふふふ。そうよね。慧君ね。こう言ったのよ。『ありがとうございます。でも、すいません。確かに俺の両親は死にました、肉体的にも精神的にも。でも、『ここに』いるんですよ。心の中にいるだなんてクサい事は言いません。でも、『ここに』まだいるんですよ。だからーーーー俺にとっての家族はあの人達だけなんです。この仮面(無表情)を突き通すと決めた時から』

「……………………………………………………」

「私、尊敬したわ。あの子にそんな風に思ってもらえるようなーーーー素敵なご両親だったのね」

でも、それは
その返答やと
彼は未だにーーーー過去に囚われていると解釈することも出来るんちゃうか?

「そうね。そう解釈することも出来るわ。でもーーーーそれを何とかするのも私達の仕事よ。はやてちゃん」

「あ…………………………そうですね」

そうや
彼が未だに過去に囚われているんやったら私達で戻らせればいいんや
私を過去から解き放った彼を
自分で言ってるくせに自分の事は棚に上げている彼を
あの無表情という仮面で隠されている彼の本当を
私達が
何とかするんや






あとがき
今回はちょっと急すぎたかもしれませんし、説教もちょっと無理矢理感があるかもしれません
やはり、まだまだ未熟者です
ええと、感想の返事の一部についてお答えを
ギャグになっている
ええ、仰る通りです
自分でも何でこうなったのかさっぱりです
いつ、原作に入るか
お答えしましょう
次からです
少々いきなりで無理矢理感がありますが、ぶっちゃけて言うと
原作前にやっとくべきと思ったイベントはこれで終了したのです
最低でも主人公の過去の一部始終と月村編とはやて編
これが原作前に出来たらよかったのです
そして皆さんに言っときたいことが
作者、原作のセリフなどそういったものを全て覚えていません
だから、そういったものはオリジナルになると思います(日付なども)
まぁ、闇の書が起きた日付ぐらいは守りますが
だから、そこらへんはご了承を
ちなみに主人公が魔法に関わりだすのはAS編からと決めてあるので
無印ではチョイ役だと思います



[27393] 第十六話  <無印編スタート>
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/06/02 19:58

ーーーーー物語は歪んだわ
ーーーーー不誠実にでも確実に
ーーーーー地獄はどこにでもある
ーーーーーでも、天国はない
ーーーーーああ、何て素晴らしい
ーーーーー不平等で雁字搦めな自由
ーーーーーさぁ、始めましょう
ーーーーー魔の力の物語の始まりを
ーーーーー壊れた誰かさんの物語を
ーーーーーそれを私は面白可笑しく嗤いましょう
ーーーーーだって滑稽なんだから







俺、風雷慧は聖祥学校の三年生になった
時が流れるというのは早いものだ
もう二年経ったのだ
まぁ、別に何やら特別な事があったというわけではないので、特別感慨に浸るような毎日ではなかっただからだろう
まぁ、別にどうでもいいけど
だが、問題が幾つか出来てしまったのだ
そう、問題とは

「何?いつもの無表情顔で私達を見てくるなんて?」

「それがこう真摯に見てくれるような視線だったらいいんだけど…………………………」

「こう、何だか人をなぁ。まるでこう…………………………」

「厄介者みたいに見るのはどうかと思うなの…………………………」

上からバニングス、すずか、八神、高町の順番だ
そう
これが問題だ
教師連中がどんな会議をしたのか知らないが
何を思ったのか
俺達を同じクラスにしてしまったのだ
そうなると大変
俺はそうなると

「毎時間、高町症候群の汚染源と話し合わなければいけないのか…………………………」

「まだ言ってたの!?もう二年目だよ!!」

「確かに…………………高町症候群は怖いわ。でも大丈夫よ」

「アリサちゃん!!ありがとう!!微妙に弁護しきれてないけど、流石私のとーーーー」

「ちゃんと手洗い嗽、殺菌をしているから」

「もう誰も信じられないよ!!」

「なのはちゃん!駄目だよ!人間不信になったら!!」

「そやで!なのはちゃん!なのはちゃんの良い所は最後まで諦め編とこやろ!?」

「は、はやてちゃん、すずかちゃん…………………」

「最後まで頑張ろうよ」

「そやで。少なくとも私達は応援しているで」

「……………………………………………………実は二人は私が孤軍奮闘しているのを見るのが面白いから応援している、何て言わないよね」

「「ビクッ」」

「…………………………………………………………………………………………………………この外道が!!」

「ほう、そうかね?」

「なのはが言葉遣いを放棄した!?」

「やさぐれてしもうた!?」

「新しいなのはちゃんの誕生!?ついでにちゃっかり慧君が話に合わせている!!」

相変わらずのボケとツッコミの応酬
まったく変わらないと思ってしまうがまぁ、これはご愛嬌というやつで
ワイワイ騒いでると(高町を虐めていると)

「はーーーーい、授業を始めますよーーーー」

先生が入ってきた
がやがや騒いでいたクラスメイトも各自自分の席に戻る
かく言う四人娘も帰っている
俺は元々自分の席に座っていたので不要
というか勝手に俺の席に集まるな

「はーーーい。それではーーー」

先生の声が辺りを支配する
よし、じゃあ、俺は真面目にーーーー

「そぉい!!」

「何と!!?」

いきなり先生がチョークを投げてきた
余りにも唐突な奇襲
しかし、それぐらい躱せなくて何が人間か!!

「戯け者が!!」

チョークを紙一重の所で避ける
ふっ、これぐらい
高町父のせいで否応なしに反応できる…………………………!
俺の勝ちってなにぃ!!!
驚愕の二連続
まさかと思うだろう
何故かと言うと

「二段重ねだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

そう
先生はチョークを2個投げたのだ
それも単純に2個投げたのではない
時間差をつけてだ
それも俺が避けるであろう場所を推測して


これが先生になるには覚えなければいけない必須スキルか…………………………!


勿論そんなことはない
何が悲しくてこんな大道芸みたいなスキルを教育者が覚えなければいけないのだ
こんなもの必須スキルにしなければいけない社会は一端崩壊するべきだろう
一揆上等で
だから皆さん
とち狂ってこんな無駄過ぎるスキルを覚えてはいけませんよ

「あっぶなーーーーーーーい!!!」

ギリギリで躱す俺
ああ、髪の毛に白いラインが…………………………
俺はどこぞの死神様の息子じゃないぞ!!
ちなみに投げられたチョークは勿論当たらなかったのでスピードが落ちるまで止まらない
するとどうなるか?
聡い皆さんはわかりますよね?
補足説明をするが、今ここは学校で、教室です
そして授業中です
俺ほどではないが皆さん良い子です
つまり席に座っています
ここまで来たらわかるだろう
つまり、チョークは
後ろの人に当たる
そして何の因果か
後ろの席は

「うにゃ!!」

運動神経が切れている高町なのである
バタン!と椅子ごと人が倒れる音が教室の中で響く
そうするといつものメンバーが

「だ、大丈夫!?なのは!!」

「なのはちゃん!しっかりして!!傷は浅いよ!!」

「き、着物の人が呼んでいる~~なの」

「駄目やなのはちゃん!今時そんなありきたりなボケじゃあ誰も笑ってくれへんで!!」

「はやて!今はボケ指導をする時間じゃあないわ!!今は救護兵(メディック)を呼ぶ時間よ!!」

「任せて!お姉ちゃんから少し習っているから!」

「ほんまか!任せたで!!」

「うん!----右斜め四十五度から終わりを告げるチョップを…………………………!」

「そう言う意味での治療か!!ツッコミを入れる場所が多々あるけどとりあえず一つだけ言うわーーーー殺るのなら躊躇っちゃ駄目よ?なのはが苦しむから」

「なのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!意地でも死ねないなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「そんな!?なのはちゃんの戦闘力がーーーー473なのになってしもうた!!」

「その戦闘力高いの!?」

などどいつも通りのボケとツッコミをやっている
あちらは無視しなければいけない
あの空間に入ったら精神が汚される
もしくは精神が穢される
だから今やることは

「先生!いきなり何をするかね?危ないではないか」

「あら?授業を寝ようとしていたクソ生徒にはそんなことを言う権利はないわね」

「おやおや、最近の教師は可愛い生徒にクソ生徒等とそんな暴言を吐くのかい。嘆かわしい、教育の崩壊だね。しかも人権侵害。我が法典に乗っ取れば死刑よりも重い罪だが俺は寛大なので特別に許してあげようではないか。感謝してもいいですよ?」

「はっはっはっは。風雷君?君の敬語がおかしいのはまぁ、もう諦めています。でも、何でかなぁ。敬語にしては敬意が籠っていない発言が多々あるのですが、それは先生の気のせいでしょうか」

「それは自分に疾しい事がある証拠だよ先生。そういえば先ほども俺はまだ寝ていないのに勘だけで寝そうだと思いチョークを投げてきたね。証拠もないのにそんなことをするとはーーーー疑い深いね」

「へぇ。まぁ、確かに勘だけどその勘は今まで培ってきた経験がそう告げたのだけど」

「確かに経験が大事なのは認めよう。しかしだ。その経験で疑心暗鬼の陥るのもどうかと思いますよ。何事も信頼や信用がなければいけないと思いますよ。何事も余裕が大事です。これ重要ですよ。テストに出ます」

「成程、確かに認めましょう。信頼、信用は大事だと。しかしですね。大分甘く見ても私には貴方が私に対して信頼や信用を抱いているようには見えないのですが」

「はっはっはっはっは。それはそうでしょう。誰がいきなりチョークを投げてくる教師を信頼、信用すると思いますか?そんなことをするのは頭が花畑などこぞの高町症候群の感染源のツインテールの人間?だけですよ」

「え!?ここでいきなり私に跳弾が飛んでくるの!?」

「ええい。高町。うるさいぞ。5分だけでいいから、息を止めておけ」

「そんなことをしたら酸欠で私が死ぬの!!そんなこともわからない慧君じゃないでしょ!!」

「当たり前だとも。しかしだ、高町。限界とはーーーー超えるものだろ?」

「良い事を言っているけど、もし失敗したら私はお陀仏なの!!」

「なに、安心しろーーーーきっと生命保険は出る」

「死ぬことを望んでいるの!?私の命をお金で売らないでよ!」

「まさか。高町をお金で売るはずがないではないか。俺はただーーーー少々高町の存在が少しうざ…………………………気になりだしただけなのだから」

「まるで愛の告白みたいだけど、その前に言いかけた『うざ』っていう言葉が全て台無しにしているよ!!」

「うるさいぞ高町。授業に集中しろ」

「私が悪者みたいな扱い!!さっきまで暴れていたのは慧君と先生ーーーーっていつの間に真面目な授業モードに入っているの!!?さっきまでその板書もなかったよね!?」

「うるさいわよなのは」

「なのはちゃん、授業中だよ」

「なのはちゃん、授業終わった後やったら幾らでも付き合ってあげるで」

「高町さん。授業妨害は止めてください」

「高町、みんなの迷惑だ」

「うにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

今日もいつも通りの日常だった
まったくーーーー困ったもんだ











「……………………………………………………」

「ご、ごめんごめん。なのは。わ、悪かったって」

「さ、流石にやり過ぎやったって反省してるから」

「だから、その、機嫌直して?ね、お願い?」

「いや、別ぐはっ」

は、反応が早くなったではないか…………………………
流石俺と2年間つるんだだけあるな
だが、八神よ
幾らなんでも車椅子のタイヤで俺の足を踏むのはやり過ぎではないかね
というか何故俺がここにいる

「え?確か…………………………慧君が逃げようとしたから私とアリサちゃんで抑え込んだんだよ」

「成程、だが俺は何故今まで気を失っていたのであろうか。俺は確かに逃げようとしたがその後の記憶がいきなり途切れているのだがすずか」

「…………………………疲れが溜まっていたんだよ」

「そうかそうかーーーー土葬してくれるわ!!」

「あかんで、慧君!日本じゃあ火葬やで!?」

「ツッコみどころが違うわ!はやて!」

「動くなぁ!すずか、バニングス」

「うにゃ!!いきなり何するの!?」

「こちらにはなの質がいるぞ!抵抗せずに俺の攻撃を受けろ!さもなくばーーーー」

「「「「さ、さもなくば?」」」」

「高町をまともにするぞ!!」

「な!!何て恐ろしい…………………………」

「くっ、卑怯やで!慧君!!」

「そうだよ!どうせなら正々堂々でやらなきゃ誰も認めてくれないよ!!?」

「正々堂々?素晴らしい言葉だね。だが、そんなものでは現実には打ち勝てんのだよ」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………実はみんななのはの事が嫌い?」

ヤイヤイ屋上で騒ぐ俺達
今は昼休み
つまり、昼食の時間だ
屋上には俺たち以外にも人がいるが、みんなこちらを見る視線にはまたかという感情が籠っている
まぁ、3年間似たような事をしているからなぁ
だからこそ先生のあの態度
既に俺に慣れている感じである
慣れとは恐ろしいものだ

「…………………………そもそも、慧君が毎時間寝ていたり、先生にチョッカイを出すからいけないいじゃないのかな」

ようやく機嫌が直ったのか
高町が会話に参戦する

「何を言う高町。俺は紳士だぞ」

「へぇ、風雷は頭がおかしいから常識もおかしいとは知っていたけど。紳士の定義も知らないとは私も知らなかったわ」

「ほう、淑女の定義も本質も知らないどこぞの金髪我儘つり目少女に言われるとは。俺も焼きが回ったかな?」

「「……………………………表で死ね!!」」

「二人とも相変わらずやね~」

「普通そこは表に出ろじゃないかな?」

「すずかちゃん。二人ともそんな当たり前の枠組みに収まるような人間じゃないなの」

「…………………………さり気なく恐ろしいなぁ。なのはちゃん」

馬鹿話をしながらとりあえず弁当を食べようとするが
ここで問題発生

「なぁ、お前ら。俺は弁当ではないのだが」

ご飯は作れるが流石に早起きする体力というか気力がないので、いつも俺はコンビニでパンかおにぎりだ
だが、残念な事に気が利かない連中なので俺のご飯を持ってきてくれてはいないようだ
薄情な奴らめ

「というわけで俺は取りに行くのでーーー」

「逃げようとする理由は与えないよ」

WOW
すずかさん?
何でしょう?
その素晴らしい笑顔は
まるで、得物を追い詰める獣みたいな笑顔ではないか

「しかしだな。すずか。それでは俺のご飯がないではないか」

「ご飯ならあるよ」

「ほう、どこにあるのかな?」

「はい、あ~~~~~ん」

「……………………………………………………」

風雷慧は逃げ出した

アリサ・バニングスははやてごと車椅子を投げた

二人と一つはぶつかった

風雷慧と八神はやては地に沈んだ

ここまでの行動
僅か……………………………………………………0,5秒
恐るべし風雷慧
恐るべしアリサ・バニングス

「いきなり何をする!!流石に車椅子は死ぬぞ!」

「ほんまや!それに何で私ごと投げるんや!!?私は慧君やアリサちゃんと違ってギャグシーンに無敵修正はかからへんのやで!」

「嘘つけ!速攻で復活しておいて、説得力の欠片もないわ!!」

「その前にアリサちゃん…………………………どうやってはやてちゃんが乗っている車椅子を持ち上げて投げれたの?怪力のレベルじゃあ納得できないんだけど…………………………」

「努力と気合、そして根性よ!」

「無茶苦茶なの!」

「化物め…………………」

「精神的にも化けもんやな…………………」

「そこ!無表情毒舌男と冗談狸娘!聞こえてるわよ!」

俺達は全然変わらない
それはそうだ
たった2年
しかも俺達はまだ小学三年生
変わるには速すぎる
変わったと言えば
八神が高町家にお世話になっていることぐらいか
ちゃんと養子の話を受け入れたらしい
まぁ、知っていることだけど
だが、八神は
『八神』の姓を捨てることはしなかった
誰も聞きはしなかったが、みんな何となく悟っているのだろう
だから何も言わない
それでいい

「そういえばさっきの授業でも言っていたけどみんなは将来について考えている?」

「何だ高町。いきなりだな」

「そうやな~。話題のネタがなくなったって感じがしているな~」

「にゃはは、でも、気になるのも本当だよ」

「ま、それもそうね。私の場合はパパの会社を継ぐだけど…………………すずかは?」

「はい、あ~~~ん。…………………うん?なぁにアリサちゃん?」

「…………………………あ~~~んていう優しそうな言葉と違ってすずか。貴方、今、無理矢理風雷の口に入れたわね…………………………」

「ふふふ、何の事かな?とりあえず私は機械関係の仕事が興味あるかな」

「へぇー、そうなんだー」

ちなみに俺はすずかに無理矢理入れられたご飯を喉に詰まらせてやばいことになっている
唯一八神だけが

「誰か医者をーーーー!!」

と叫んでくれているのが救いであった
すずかよ
俺、何か悪い事しましたか?

「はやてちゃんは?」

「え?私か?」

速攻で俺を切り捨てていく八神
所詮、この世で信じられるのは自分だけだね
ごふっ

「私はな~。そんな将来設計がまだ出来てへんからな~。まぁ、得意なもので行くなら料理かな?」

「はやてちゃんは料理が上手いからね~」

「そうよね。調理実習の時、みんなとレベルが違ったものね」

「いやいや、一人暮らししていたら自然と覚えるもんやで」

「はやてちゃん、謙遜し過ぎなの」

あはははと楽しそうな声が何故か遠くから聞こえる
あれ?
おかしいな?
確かそこまで距離はなかったはずなんだが
アッチョンブリケ

「ねぇねぇ。慧君はーーーって慧君が泡を吹いて死にかけなのーーーーーーーー!!」

「放っておきなさいなのはーーーー世界に貢献できるチャンスよ」

「駄目だよアリサちゃん!私のもう一つの夢が!!」

「…………………………言わんでもわかるのが恐ろしいなぁ。でもーーーーこの状態を招いたのは…………………………」

あっはっはっはっは
地獄というのはどこにでもあって困るね







「で、何の話だったか」

「将来の事よ」

「…………………………ツッコみたい!!何で何事もなく復活しているところとか物凄くツッコみたい!!でも、それをすると関西人の魂が拒絶する!!ああ!それにしてもーーーー金が欲しい!」

「で、慧君は何になりたいの?」

「確かに気になるね」

八神が無視されていじけているがそれも無視
我等の無視スキル
伊達ではないぞ

「俺も八神と似たようなもんでまだ全然決まってない」

「ふ~~ん。でも、アンタ。結構頭良かったよね」

「性格さえよければ結構凄いよね」

「…………………………すずかよ。俺の性格は全否定かい?」

「いいなぁ~。みんな。私は何の取り柄もないしにゃ!!」

「ほう、取り柄がないとな」

「それは聞き捨てなりませんな。なのはちゃん」

「理数系だけならアリサちゃんも超えるのにね」

「なのはの癖に生意気ね。つまりなのはは、自分以下のレベルは無能って言いたいんだ~」

「ふにゃう!ふにゃにゃにゃ!にゃう」

「高町…………………君が何を言いたいのかわからないよ」

「にゃう!!」

「遺言さやって」

「ほう、ではーーーー手加減はいらないわね」

「にゃう!!?」

「逝きなさいなのは!破滅のグランバ○ッシューーーーーーーーー!!」

「にゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「あ、ベルが鳴ったぞ」

まぁ、単に頬を抓っただけなのだが















「やれやれ、ようやく下校か。ではーーー」

「逃がさないよ、慧君」

「行かせない…………………!」

「ちっ!もう気づいたか…………………!」

俺はただ一人で帰りたいだけなのに…………………!
どうして誰も認めてくれないんだ!!

「これが若さゆえの過ちってやつなのね…………………」

「アリサちゃん。それは心の中で言うべきや」

「だが、残念ながら今日は高町姉もいなければ恭也さんもいないだろう」

「な!?何故それを!」

「ふふふ。あの人外と付き合っていたら嫌でも気配を読む術を覚えるわ」

「説得力があるね…………………」

ふふふ、言うなバニングスよ
俺も泣きたい
泣かないけど
だが、これで俺を止めるものはなし!!

「ええーーーーあんたが思考をしている間に私達に捕まるという馬鹿な事をしなければね」

最近の自分は甘くなったと思う今日この頃である






「むっ」

結局高町達に捕まり無理矢理一緒に帰宅させられている時
妙な気配を感じた
この気配は間違いない…………………
あの山猿の気配だ
皆も雰囲気を察知したのか俺から少し離れている
慣れとは…………………恐ろしいものだ
さて、どこから来るか…………………
右か
左か
前か
後ろか
くっ、駄目だ
上手く気配を捕えられない…………………!
その時

ガタリと下から音が聞こえた

ま、まさか…………………!

「下かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

気づいた時には流石に遅かった

ガッターーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!とマンホールが跳ね上がり

「がふっ!!」

俺の顎に直撃
バタリと一時離脱
ああ、脳が揺れる

「お、お爺さん?な、何で下水道から?」

「おう。久しぶりじゃなぁ。御嬢ちゃん達。大体八話分くらいかのう」

「駄目ですよ。お爺さん。その言い方は色々と不味いです」

「はっはっは。黒髪御嬢ちゃんもなかなか良い事を言うのう。」

「あの、その前に一体何で下水道から来たんですか…………………?」

「何、簡単じゃよ。この前この小僧が儂を不意打ちで人中を殴ってきおって。それで気絶していたら何時の間にか浄水場でのう。危なく洗浄されるとこじゃったぞ」

「逆に何で生きているのか私は疑問なんだけど…………………」

「金髪お嬢ちゃん、意外と人間やればできないことはないんじゃぞ」

「限度っていうのがあると思うんやけど…………………」

「儂と小僧はとうの昔に乗り越えたわい。そんなもの」

「…………………ある意味サイ○人?」

「はっはっは。いいのう、サ○ヤ人。あれは日本の文化の極みごふっ!」

「ああ!お爺さんの鳩尾にマンホールが上手い事めり込んだ!!」

「山猿…………………よくもやってくれたね?しかしだ。俺は意外と寛大な男。サーヴィスもつけて十倍返しで我慢してやろうではないか。感謝で涙を流してもいいもんだね。そして俺の靴を舐めてもいいくらいだね?」

「ごふっ!き、きしゃま…………………!」

「ははははははははは!!何?きしゃま?面白い赤ちゃん言葉だね。山猿爺の癖に退化したのかい?それはいかんな。はっきり言おうーーーー脳の病気だ」

「おんのれクソガキ!人生最大級の恥を晒す気はあるのだろうな…………………………」

「今時そんな脅し文句では誰も怖がらんよ。せめてこれぐらい言わなくてはーーーー髪を引き千切って皮膚を剥いで爪を剥いで眼球を抉って耳を切り落として去勢して指を千切ってその断面を鑢で思い切りさすって勿論足の方の指も同じことをしてさらに内臓を一つ一つ抉り出してしかし生きる程度に傷つけないぞこの山猿爺…………………………!」

「この危険思想な小僧が!!」

「この有害存在が!!」

そして俺達の闘いはクライマックスに!
他のメンバーを距離的に置いて行って







「逃げられたわね」

「逃げたね」

「逃げられたなぁ」

「逃げられたなの」

私達は今、塾の帰り道
塾から出たらまずはその一言が出てきた
むぅ、せっかく慧君を捕まえれたのに
まさかのどんでん返しなの…………………………
それにしても

「全戦全敗なの」

「そうよね~」

「どうやったらいいんだろ…………………………」

「私の関西直伝のジョークでも全敗とは思わんかったわ…………………………」

この全然全敗というのは解る人には解る
つまりだ

慧君をどうにかして笑わせる、もしくは何らかの感情表現を出させるという事だ

ちなみにこの作戦には私の家族にすずかちゃん家にアリサちゃん家も参戦してくれているなの
でも、今のところ効果はなし
相変わらずの無表情スタイル
城壁とかでもここまで固くはないと思うなの

声だけは喜び、しかし表情には出さず

声だけは怒り、しかし表情には出さず

声だけは悲しみ、しかし表情には出さず

声だけは楽しみ、しかし表情には出さず

無表情にして無感情
とまでは言わないけど仮面でもあそこまでじゃないと思う

「はぁ。弱音を吐くみたいで嫌だけど…………………………『今の』私達にはこれが限界だと私は思う」

唐突にアリサちゃんが言う
へっ?
でも、それって

「諦めるの?アリサちゃん…………………………慧君を笑わせることを…………………………」

それは悲しいことである
私は最後まで諦めたくない
自惚れかもしれないけど私は慧君の友達である
…………………………何だか実際自惚れだとか変な電波が飛んできたけど無視なの
だからこそ、私は慧君に笑って欲しい
諦めたくはない
それを言うと

「はいはい。いきなり結論を急がない。私も諦める気はないわよ」

「え?で、でも、さっき……」

「人の話はちゃんと聞きなさいなのは。私はこう言ってでしょう。『今の』私達にはって」

「だから………………アイタ!」

「落ち着きなさいなのは」

「アリサちゃん…………………………いきなり指○なんて…………………………」

「恐ろしい…………………………それが出来るアリサちゃんもそうやけど、それを躊躇いもなく友人にするその精神が恐ろしい…………………………」

「あんたらは特別にカラミ○ィエンドをぶちかましてあげるわ」

「「…………………………成程、類は友を呼ぶって本当だったんだね(ほんまやったんやね)」」

「…………………………誰を類にしたかは無視してあげるわ」

「あの~。話題から遠ざかってますけど…………………………」

「あ、ごめん、なのは。空気よりも薄過ぎて忘れたわ」

「……………………………………………………アリサちゃん」

「ん?何かしら?」

「……………………………………………………慧君に似てきたね」

「ちょっと話し合いましょうか」



しばらく
お待ちください



「何度でも言うわよ、なのは。誰があんな無表情根暗毒舌契約至上主義の偽悪趣味の最低最悪の口先八丁男に似てきたなんて世界がなのは色に染まったとしても有り得ないわ。いえ、神が許したとしたら、その神を殴り殺してでもその事実をもみ消すわ」

「…………………………にゃう…………………………」

「アリサちゃん。なのはちゃん、今は聞ける状態じゃないよ…………………………」

「私の話を無視するとは…………………………なのはの癖に生意気ね」

「そんなん言うから似てきたって言われるんや」

「お黙りなさい狸!!狸に喋る権利なんて存在することすら許されないわ!!」

「何やと!?お犬様だからってわんわん言い過ぎなのもはしたないと思うで!この忠犬アリサ公!!」

「「よく言った!ならば、ここで果てろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

「2人とも落ち着いて。キャラとかそういうのが壊れてるよ」

「…………………………何ですずかちゃんは落ち着いてられるの?」

「…………………………慣れって怖いよね」

「…………………………ごめんなさい」

何故かいたたまれなくなって謝ってしまったの
た、確かに私達の暴走のストッパーは大抵すずかちゃんだったの
あれ?
でも、慧君に対しては結構すずかちゃんも暴走気味な気が…………………………

「なのはちゃんーーーー女の子はあることに気づくと変わるの」

「にゃ?そ、それって?」

「…………………………なのはちゃんにはまだまだ早いかな?」

「それって私だけ子ども扱い?」

「「「…………………………ふっ」」」

「!!!」

結論
みんな慧君ウィルスにやられていると判明

「と、とりあえず、何が言いたいのかな?アリサちゃん」

「う~ん。結構簡単な事よ?」

「それでも聞きたいよ」

「じゃあ、言うけど…………………………まず私達は風雷の無表情の仮面を取りたいOK?」

「「「OK」」」

「色々やったわねぇ」

「そやなぁーーーーあの忍さん作成の祝!ロケットファイヤー!!555(ゴーゴーゴー!!)を受けても何も表情を変えなかった時はある意味尊敬したもんやなぁ。あれ、確かホーミングで慧君を2時間ぐらい追い掛け回してたよなぁ?」

「うん。そうだねぇ。私的にはお姉ちゃん作成のイグアナとかえるとペリカンとキジのキメラに追われても無表情なとこが尊敬出来たけど。無表情で顔が引きつっていて、レアな顔だったから思わず写メで200枚くらい撮ってしまったよ」

「私は忍さん作成の全長30メートルくらいのリアル機龍のメッカゴジャラに思い切り踏みつぶされそうになっても生きている慧君に驚いたの」

もう1つ結論を言おう
どこぞの無表情少年が彼女達から離れようとする理由にはシリアスな理由だけではなく、きっとコミカルな命の危険を感じたからだろうというのは誰でも理解できるだろう
むしろ、こんな目に合わされてもちゃんと接してくれるあの少年はかなりと言うレベルでは説明がつかないほど忍耐強いのでは…………………………
というかすずかさん?
貴方、2年前に少年にキスをしてそれからピャアで素晴らしい関係になろうとしているのではないのでしょうか?
というか皆さん
貴方達は人としての心を持っているのでしょうか
無表情の少年が人生が終わるまで生きられるか心配です
シリアスな理由ならともかくこんな理由で死んだら誰でも死んでも死にきれないでしょう

「とまぁ。色々やったけど効果はなかった」

「「「うん」」」

「でも、私はそもそもアプローチの仕方が間違っていた、そう思うの」

「「「???」」」

それって?

「だってさ。私達、アイツがまず『何で』無表情に拘るのか知らないじゃない」

「「「あ…………………………」」」

誰もがそんなことを考えていなかった
みんな必死で慧君を笑わそうとすることだけに必死になっていた(その努力の方向性はかなりというか人としても間違っていると思うが。もう今更なことだった)
しかし、確かにそうだ


『何故』あそこまで徹底して表情を無にするのかの理由を知らない


いや、そもそもだ
私達は慧君の事を『全く知らない』
勿論、少しは知っている
名前は風雷慧
年は私達と同じ
誕生日は四月一日
特技は運動と料理
後は超毒舌家
これぐらいの事は2年の付き合いで知っている
逆に言えばこれぐらいしか知れない
他に何か知っているといえば


彼を変えさせる要因となった事故の話


しかしだ
これだけが彼を無表情にさせているとは思えない
何故ならば


それじゃあ何故そこまで『契約』を大事にしようとするのだ


どういう事かは知らないけど
慧君は『契約』というものを絶対に守ると誓っているらしい
どういう事かは知らない
そもそもアリサちゃんとすずかちゃんから聞いた話なのでよくわからないところがある
とりあえず、事故だけではそんな事を思うとは思えない
ということは

「そうねーーーー私達に会う前の4歳から6歳ぐらいに何かあったと思うのが妥当ね」

みんなも頷く
確かにその2年は私達は慧君の事は全く知らない
その間に何が有ったかも知らない
でも、それでも
私達は前に進んでいる
そう思えた気がした
慧君を笑わせるための
慧君を救うための
少し大袈裟な言い方かもしれないけど、それでも想いは間違っていないと思う

「よし!これで私達の今後の方針は決まったわね!」

アリサちゃんは私達の顔を一通り見た後、そう締めた
私もチラリとみんなの方を見てみると、他の3人もやる気満々みたいなの
よかった!
やっぱり私達は5人一組の仲良しじゃあないと!!
勿論、わかっている
私達の関係はいつかは変わるという事を
時間の流れは止まらない
何時か
私達は離れ離れになるだろう
会いに行くことは出来るけど、それは会いに行けるじゃなくて会いに行こうという意思を持たなければいけない関係になるという事を
それでも、こんな淡い願いをなのはが持つのはいけないことでしょうか?
永遠なんてものがないのは知っている
でも、私は願いたい


どうかーーーー私達がいつまでたっても仲良く、一緒にいられますようにと


しかし、その願いは叶えられることはなかった
皮肉なことに
その願いを壊したきっかけはなのは自身だった
彼女は聞いた

『お願い…………………………助けて!』

それを聞いた瞬間
彼女の望みは断たれた
またしても皮肉なことに
魔法という
奇跡を叶える力で










「ふぅ、ようやくタイムセールという最強の壁を乗り越えて家に帰れる…………………………」

夜の帰り道
あの山猿は手加減なしのハイキックを蹴りこみ、ノックダウンした
とりあえずゴミ袋に入れてゴミに偽装してゴミ捨て場に置いといた
これで明日はゴミ収集車で砕かれて自然に有毒な存在が一つ消えるだろう

良い事をしたな…………………………

自分を自画自賛
今日も調子がいい
それにしても
ふぅと溜息を放つ
何も変わらない日常
今日の延長線上でしかない明日
日々を怠惰に生きるしかない生活
勿論、不満を言うのは筋違いだろう
むしろ感謝をするべきだ
世の中にはこんな退屈という感情すら知らずに、日々を生きることで精一杯な人間がたくさんいる
だからこそ、不満など言うはずがない
俺が不満を言いたいのは日常ではなく
自分の事である
余りにも『普通』に生きている自分に吐き気を催す
これではいけないと脳が直接訴える
しかし、頭の冷静な部分がこう言っている


未熟者の分際で調子に乗るなと


わかっている
頭の冷静な部分の言っていることの方が正しい
まさしくそうだ
まだ、たったの小学三年生
誕生日のせいで9歳になったばかり
そんなただのガキに出来ることなんて一つもない事なんてとっくの昔に理解できている
だからこそ、今は将来に向けて準備をするための期間だという事も理解している
だが、頭はそう思えても感情は許してくれない
その感情はこう告げてくる


忘れるな
お前がしたことを
お前があの時思ったことを
お前があの時誓ったことを



忘れるはずがない
今でも鮮明に、グロテスクに覚えている
その記憶が俺を焦らせる

早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く!!と

ちっと思わず舌打ちする
今日の俺は少し通常とは違うようだ
多分、今日の授業で将来について話したからだろう
やれやれ
まだまだ修行が足りない
あれしきのことで乱れるとは
とりあえず今日のところはとっとと帰って頭をリセットすることだろう
そう思っていると

「ん?」

視界の端に何やら青いものを見つけた
輝きに釣られて思わずそっちの方に視線を向けてみると


そこには青く光る石が


珍しい石だ
特にそういうことには興味がないが、それでもわかる
大体青く光る石という時点で誰でも珍しいとわかるだろう
思わず近づいて拾ってしまう
拾っても尚青く光る石
どうやら光の反射とかではないようだ

ふむ…………………………まぁ、ただの石のようだけど…………………まぁ、あの4人娘には丁度いいかもしれない

こういう光物は女の子が好きだろう
別に機嫌を取るとかそういう意図はない
今度、あいつらが不機嫌になったときのフレアになってくれたらいい
そんな程度であった


しかし
この判断が
彼の運命を大幅に狂わせることになる


そしてソレは直ぐに来た


「ロストロギア…………………ジュエルシード…………………」


声が聞こえた
思わず顔をそちらの方に勢いよく振り向く
何故そこまで焦ったのか
答えは簡単だ

さっきまでそこには何の気配もなかったはずだからだ

最近は恭也さんとかのおかげで気配を読み取るのは上手くなったと思う
それなのに
相手はすり抜けてきたのだ
そんな事が出来るとしたら
自分よりも遥かに上の人間
つまり、達人クラスの人間
そんなものに対して視線を向かないでいることなどとてもじゃないが出来ない
だからこそ、勢いよく振り向いた
振り向いた先には


金色の死神が浮いていた



それを拵えているのは闇色のマント
それが構えているのは黒色に鎌
それを輝かせているのは金色の長い髪
更には赤い、宝石のような両の目
顔はかなりの美少女
10人が10人とも可愛いというクラスの綺麗さ
しかし、この場ではそんなものを感じ取ることはできない
構えている物や、服などや浮いていることも理由の一つだが
何よりも

その瞳はまるで人形のような瞳に見えたからだ

そう
さり気なく無視していたがこの少女は浮いている
如何な摩訶不思議を使えばこんなことが出来るのか
立体映像?

この現実感がその考えを拒否する
では、どうやって浮いているのか
御伽噺の魔女ではあるまいし
しかし、今はそんなことを考えている余裕は一斉ない
何故なら
その人形じみた瞳には
隠しようもない敵意が込められていたからだ
その敵意が言葉として放たれる
言外に逃げられないと言いたげに


「それを力ずくででも回収させて貰います…………………!」


これが彼のファーストコンタクト
無表情の■■の悪■と魔法との







あとがき
ようやく本編に入りました
無印はそこまで長くやる気もありません
出来るだけ直ぐ終わらせるつもりです
それにしてもようやくフェイトが出てきた~
長い道のりだった…………………
まさか、本編の前に15話もやっちまうとは…………………
早くオリジナルストーリーに行きたいものです
高町はやては誕生しませんでした
ご期待に応えれずすいません



[27393] 第十七話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/06/10 22:08
黒衣の少女の詰問を受けて、俺は完璧に臨戦態勢になった
いざという時に動く心構えも体勢も準備できた
後することといえば、情報の入手だ
少なくとも、コミュニケーションはとってくれそうな感じがする子だ
さっきは、また月村家で殺し合ったあの男みたいにプロが出てくるかと思えば、そんなことはなかった
さっきまで気配はなかったが、今は普通に出てる
もしかしたら空中からいきなり出てきたからかもしれない
とりあえず、素人目だが見たところ恭也さん達のレベルではないことはわかる
ならば、多分だが対処できる…………………
とりあえず、さっきの考えを実行

「ロストロギア?ジュエルシード?何だそれは?俺にはまったく心当たりがないのだが?」

これは本当
そんなものに関わった覚えはない
強いて言うならジェエルシードを日本語訳にしたら宝石の種だが
そんなものがあったら、俺は今頃金欠で悩んでいない
だから、もしかしたら勘違いという事があったらいいなぁ
しかし、案の定

「…………………とぼけないでください」

という返事が返ってきた
こうなるともう戦いは避けられないかもしれないが、それでも口は止めない
実力不足の未熟者である俺が使える武器はこの口先と子供という事で相手を油断させる先入観しかない
だが、相手も同年齢なので後者は通じないだろう
しかし、とぼけないでくださいと来たか
ということは、俺はとぼけるように見えるような事をしたとことか…………………
だが、それでも思い当たることはないが…………………

「とぼけるというのはいきなりだと思うがね。大体ジュエルシードとは一体なんだ?それは一体どんな形をしているんだ?」

そこまで言い切ると少女のさっきまでの剣呑な雰囲気がいきなり霧散して

「???」

可愛らしく小首を傾げたのだ
?何だ?
俺は今、何か変な事を言っただろうか?
金色の少女は?顔を維持したまま

「えと…………………その、本当に知らないんですか?」

「あ、ああ。まったくジュエルシードとかいうのは知らないし、聞いたこともないし、見たことも、触ったこともないと思うが…………………………」

「…………………………こういう事を初対面の人に言うのは失礼だとはわかっているんですけど…………………………実はその言葉は私を騙す為の嘘という事は…………………………」

「いや、全然。まったくもって知らない」

「……………………………………………………」

おやまぁ
何故か急にだんまりになってしまったぞ?
ああ、それにしても
その子犬みたいな表情
ぞくぞくするね?
高町とはまた違う方向性でいじめ甲斐がありそうだ
そう思っていたら

「ごめんなさい!!」

謝られてしまった
状況はこうだ

金髪の美少女に謝らせている男子小学生の図
しかも、相手は冗談で言うごめんではなくマジ
しかも、よく見たら相手の服装はレオタードみたいで少し目の毒
しかも、男子小学生の方には何故謝られているのかまったく覚えがない

これで罪悪感を覚えない人がいるだろうか?いや、いない(反語表現。俺レベルになるとこれぐらいできないと誰も認めてくれないのだよ。実力が有り過ぎるのも考え物だね)
更にそんな服装の少女を謝らさていたら誤解を受けてしまいそうだと思わない人間がいるだろうか?いや、断じていない!!

「いや、ちょっと待った。謝られる理由がないのだが…………………………」

何だかグダグダな雰囲気になってきた
さっきまでの殺伐とした雰囲気は何だったのだろうか
自分はシリアスをギャグの『空間にしたことは一度や二度ではないが、やられたことはなかった
少し反省

「だって、その…………………………決めつけで貴方を襲おうとしたから…………………………」

「?決めつけって…………………………何か決めつけられるような何かを俺がしたのか?」

前言を繰り替えすが、まったく身に覚えがない
はっ!
もしかしたら、ついに夢遊病の気が…………………………!
高町達にやられている虐めというかもう殺す気満々の攻撃のせいで俺のストレスがマックスを超えたためについに現実逃避を……………………………………………………流石俺の体。生き残ろうという意思は一人前だね

「で、結局何のかね?俺にはさっぱりだ」

「……………………………………………………」

すると少女は少しこう悪いと思いながらも指をさしてきた
俺の手を
その手には
さっき拾った珍しい青い石が握られている

「ん?ああ、この石?珍しいだろう?」

「いや、あの、その…………………………」

「青く光る石なんて滅多にないからさ。仕方ないから俺の知り合いにあげようかと思ってさっき、拾ったんだ」

「あの、だから…………………………」

「まぁ、あの四人はそんな綺麗なものをか好きになるような感性を持っているかは知らないが少なくとも、弾除けになるだろうと俺は睨んだ」

「え、え~と…………………………」

「で、この石がどうしんだい?まさか、これがジュエルシードとかいう変な名前の石とか言わないよな?」

「あ、はい!そうなんです!それがジュエルシードなんです!」

「なるほど、そうかそうか…………………………俺の感性が現状を生み出した原因かーーーーーーーーーー!!」

OH,MY,GOD!!
まさか俺の高すぎる感性がこんなグダグダ空間を作り出す原因となるとは…………………………
恐るべし俺
素晴らしい俺
少女がいきなり叫んだ俺に驚いてビクッとなっていたが無視
はぁ、ともあれ

「成程、これが欲しかったのね」

こういう珍しい石を集めているコレクターかな
と建前で思っとく
詳しく聞くつもりもない
別にどうでもことだからだ

「あ、はい。だから、その。後から言っといて失礼とはわかっているんですがーーーーそれを譲ってください!」

そう言って少女は頭を下げた
その行為で彼女の性格が大まかだが理解する
成程、彼女は物凄い生真面目なのだろう
高町達とは違うベクトルで珍しいタイプ
ついでに天然
こういうタイプの人間はかなり世渡りが下手だろう
生真面目で生きるにはこの世は嘘だらけだからだ
つまり、損をする性格だという事だ
不器用なんだなと思う
そんな頼み込むような事なんてしなくても、思いっきり力づくで奪えば良い事なのに
それこそ
さっき浮いていた不思議な力で
その鎌みたいな戦斧で
まったくーーーー馬鹿みたい
しかしだ
俺はそういう類の馬鹿は好きだ
だから

「ほれ」

躊躇いなく彼女に差し出した

「え?」

彼女は何故か驚き顔

「何だその顔は?お前はそれを欲しがっていたのだろう?ならば、出てくるのは驚きではなく喜びの顔だろ」

「え!で、でも、いいんですか!?」

「いや、別に俺自身は別にどうでもいいものだったし。それなら欲しがっている人にあげるのが筋というものだろ」

「でも、さっき…………知り合いに上げるって…………………………」

「気にするな…………………………手は幾らでもある」

さて
とりあえず八神には秘技ハリセンバズーカをくれてやる
高町は今度はカーテンで動けなくして一時間ぐらい放置してやろう
バニングスはそうだな…………………………ドッグフードをやれば大丈夫だろう
すずかは………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………止めよう、貞操に関わる

「だから遠慮なく貰え」

「あ…………………………」

無理矢理彼女の手に石を握らせる
彼女はいきなりの事だからか、驚いた顔でそれをボーっとした顔で見る

「じゃあ、達者でな。二度と会う事はないだろう」

そう言って俺は家路につく
え~と、帰ったらご飯と掃除
それをしたら寝るか
今日は調子が悪いし、授業も別に大丈夫だし
そうやって今後の予定を即座に決めていく
切り替えの早さも既にプロレベルだ
御神の剣士でもこうもあっさり物事を切り捨てはしないだろう
だからこそ次の言葉は彼にとって意外だった

「あ、あの!お礼をさせてください!!」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ONE,MORE.PLEASE」

「えと、だからお礼をさせてください!!」

「OK。話し合おう」

「え?あ、はい!お礼の話ですね!」

「違う!まずは何故お礼の話になるかというお話だ!」

「え?だ、だって、良い事をしてもらったらお礼をしなきゃ…………………………」

「話を整理しよう。まず俺はこの石を拾った。OK?」

「は、はい」

「次に君はこれを欲しがっていた。OK?」

「は、はい」

「そして俺は別にいらないからそれを君にあげた。OK?」

「はい」

「そして結論はこうだーーーーお礼などいらない以上。状況終了。じゃあ」

「待ってください!」

「ええい!何が不満なのかね!?君もちゃんとはいと答えていたではないか!!」

「結論が不満なんです!」

「何を言う!みんな幸せの御伽噺みたいなハッピーエンドだったではないか!!これで不満とはーーーー欲求不満なのかね?」

「はい?何のですか?」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ごめんなさい」

思わず謝ってしまう
彼女の姿は自分の失くしてしまった姿
そう、まさに純粋無垢
真っ白な状態
そんな彼女を見ていると自分の黒さが露骨に目立ってしまい、とてもじゃないが良心がもたない
すいません…………………………俺の心のダークマター

「あ、あの!大丈夫ですか!?」

「いや、すまないーーーー少し現実と理想の違いに心を打たれていたんだ」

「は、はぁ」

「では、そういうわけで」

「待ってください」

ちぃっ!
誤魔化しきれなかったか
ならば、見せてやろう
西尾維○風なら戯言遣い
ひ○らし風なら口先の魔術師と言われる俺の実力を…………………………!


しばらくおまっちゃあください
あ、間違えちゃったテヘ!


「ぐふぅ。こ、これがボケ殺しの最高の極致ーーーー天然か…………………………!」

完敗だった
今まで口先八丁野郎と言われていた看板はここで完璧に壊された
ありとあらゆる戯言も
ありとあらゆるボケも通用しなかった
空気を読まないのではない
二度繰り替えすが天然なのだ
おお、この少女は汚れを知らない…………………………!

「じゃ、じゃあ、お礼させてくださいね?」

「…………………………………………………………………………………………………………ORZ」

死人に鞭打つとはこのことか

「はぁ、わかったよ…………………………ほら、これが俺の住所」

そう言って彼女に俺の住所を渡す
偽の住所を渡そうか考えたがその結果
危ない人のところに逝ったら大変なので自重した
ちなみに誤字ではない

「はい、わかりました!あの、それでは…………………………」

「ああ、またな」

「…………………………はい!」

諦めの境地に浸っていたらまさかの極上の笑顔
金色の髪と同じで輝いている
夜の中
地上でも輝く金色の太陽
気障な言い方だが、彼女には似合っている表現だと思う
思わず何回でも見たくなる笑顔だ
そういえば

「名前。聞いてなかったけど。名前は?」

「あ、そ、そうでしたね………。私の名前はフェイト。フェイト・テスタロッサです」

「フェイト(運命)?そいつはまた素敵な名前だな。名づけた人はいいセンスを持っているよ」

その瞬間

テスタロッサはさっきとは比べられないぐらいの輝いた笑顔を浮かべた

太陽だってこうは輝かない
運命を冠する少女は光色に輝く
なるほど
名前をつけてくれた親に対して物凄い愛情を抱いているのだろう
それはとてもいいことだ

少しーーーー羨ましかった

それだけ愛せる親がいるのが…………………………
止めよう
こんなのただの感傷と
嫉妬だ
だからこそ
俺は言う事を言おう

「テスタロッサ」

「?はい?」

「親は…………………………大事にしろよ」

「…………………………はい!」

そこで俺達は別れた











そしてまたいつもの学校
自分の教室のドアを開けると

「かかった!」

「何!!」

上から黒板消しが!
今時こんなトラップを使うなんて!
しかしだ

「甘いわ!」

そんなの前に出たら効かん

「すずか!」

「うん!」

「へ?」

何を目配せしたのか
すずかが八神の車椅子を持ったかと思うと

「そうりゃ!」

「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!二度ネタかいなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

車椅子ごと投げられてこちらに飛んできた
なるほど
俺は前に移動したばかりですぐさま動けない
そこで車椅子(+八神)の大きさなら一歩二歩では避けきれない
まさに物量作戦か
だが、そうや問屋は卸さないぜ!

「ふんっ」

飛んできた車椅子に自分から両手を近づけ、触れる
俺には飛んできた車椅子を受け止めるような馬鹿力はない
だが、力がなかったら技量で誤魔化すのが俺のやり方だ…………………………!
こちらに力という圧力がかかる前に
そのベクトルを無理矢理逸らす
合気道みたいに力ではなく、技術で逸らす
成功する確率は五分五分
何せ俺は合気道を習ったわけではない
これは自己流だ
いけるか…………………………!
そして

逸らした!

上に!

「天井が近いわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ドガシャ!!と何だかめり込む音が聞こえたが無視だ
八神はそんなに軟な人間ではないと実体験しているからだ
だから今は

「いきなり奇襲とはーーーー相当人間を捨てたねお前ら」

「失礼ね。あんたより人間性と優しさと容赦は捨ててないわよ」

「右に同じくだよ」

「そのセリフ、俺の後ろで天井から生えている物体を見ながら言えるか?」

「「うん」」

「OK。お前らは十分に鬼畜だ。来世からやり直せ」

ここまで酷い人間は初めて見た
人間とはここまで醜く、酷く、残酷な人間になれるものなのだな…………………………
実感した

「あれ?」

おかしい
ここで高町症候群の感染源の人間からつっこみが入るはずなのだが…………………………
高町の席の方を見てみると

ボーっとしているある意味高町らしい姿があった

「…………………………何やってんだ?あれ?」

「さぁ?私達が会った時には既にあの状態だったわよ」

「右に同じだよ」

「…………………………………………………………………………………………………………(ぷらん、ぷらん)」

「ふむ、そうか」

昨日は特別変ではなかったし
帰るときも(俺は戦線離脱したが)そうだ
そうなると家に帰った後か
何かあの家族で問題が…………………………?

「有り得んな」

「有り得ないわね」

「有り得ないよね」

「…………………………………………………………………………………………………………(ぷらん、ぷらん)」

あの万年新婚夫婦に仲良しすぎる兄妹
あの家族で問題を作る方が難しいだろう
そんなことをするぐらいなら世界にとっての未曽有の危機を起こしたほうが簡単というものだ

「絶対に逆だと思うよ…………………………例え相手が高町家の人達でも」

無視した
最近はみんな反抗期だ
昔はあんなに可愛かったというのに
時の流れとは残酷なものだ

「……………………………………………………慧君にだけは言われたくない」

再び無視
それにしても高町如きに無視されるとは
俺も舐められたものだ
意地でもこちらに振り向かそう

頭を撫でる

反応なし

ほっぺを抓る

反応なし

デコピン

反応なし

耳たぶを引っ張る

反応なし

鼻を塞ぐ

反応なし

手を抓る

反応なし

胸を触る

反応ーーー


「うにやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


あり
やれやれ
ようやくか
高町の癖に粘ったものだ

「なななななななななななななななななににににににににににににににににすすすすすするるうるのののにのお!!!!」

「何って、色々触っただけだが」

「その中に触ってはいけないところがあったの!」

「はて?まったく覚えがないが」

「ダウトなの!!さっき思いっきり私の、その、えっと」

「んん?どうしたのかね、高町?言えないのかね?自分がどこを触られたのか」

「うっ」

「自分では言えないような場所を触られるとは…………………………高町はいやらしい子だな」

「ち、違うもん!私はいやらしくなんてないの!」

「では、堂々と言えばいいではないか。自分が触られた場所を」

「うっ」

「……………………………………………………俺の勝ちだ。たかごふっ」

「風雷?少し頭冷やしましょうか」

「何でだろう?助けてもらったのに、何故だか釈然としないよ……………………………………………………ってはやてちゃんが天井からぶら下がって愉快なオブジェになってるなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

結局相変わらずの日常だった
昨日の事があってもそんなに変わらない
変わるにはまだ弱かった











またいつも通り騒いだ後、直ぐに家に帰ると

そこには、あらま
昨日の金髪少女が立っていた

おやおや
何だか近所に変な誤解が生まれそうな絵だぞ
ポンと肩を叩かれた
そこには近所のおじさん
おじさんは不気味なくらい爽やかな笑顔を浮かべ、俺に何かを手渡してきた
それは

コ○ドーム

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

おじさんはサムズアップし、そして颯爽と立ち去ろうとする
とりあえず俺は拳大のコンクリートを拾い、おじさんの頭に70キロぐらいのスピードで投げつけといた
今度から周りのはもっと気をつけよう
そう誓った日であった








「ご、ごめんなさい。いきなり来てしまって…………………………」

「いや、別に。ちゃんと時間を指定していなかった俺も悪いだろうし」

「でも…………………………」

「はいはい。これじゃあ、無限ループに入るのでこの話題は終了」

あれから死体(おじさんの)を隠し、テスタロッサを家に入れた
流石に女の子をずっと家の外に置いとくほど鬼畜ではない
それにしても

「テスタロッサ。お前、学校って知ってるか?」

「?はい、知ってますけど」

「……………………………………………………学校がいつぐらいまでやるか知っているか?」

「あ…………………………いえ、知りません」

ふぅと溜息をつく
やはりか
この少女は聞くと昼からずっと待っていたらしい
よくまぁ、補導されなかったものだ

「まさかここまで世間知らずとはねぇ。世の中色んな人がいるものだ(←二階から飛び降りたり、教室で女の子の胸を揉んだりする男)」

「う、うぅ」

こういう時はこういう格言が使える

目くそ鼻くそを笑うと

それにしても

学校が終わる時間を知らないか…………………………

目の前の少女は明らか同年齢、もしくは一つ年上か年下だ
そんな少女が小学校の終わる時間を知らないはずがない
それに

昨日
彼女は漆黒の服を身に纏い
空を飛んでいた

見間違いではない
夢ではない
幻ではない
現に少女はここにいる
それこそが証拠だ

やれやれ、今度は一体どんな厄介ごとだか…………………………

少女はこう言った
せめて事情を話しますと
別にどうでもいいのに
まぁ、こうなったら泣き言を言っても仕方がない
少女にお菓子を渡しながら

「じゃあ、聞かせて貰おうかーーーー君の動く理由を」

「……………………………………………………はい」

少女は深呼吸をし始めた

スー

ハー

スー

ハー

まるで決心するかのように
一分ぐらい経った頃だろうか
キッとこちらを見て
ただ一言

「魔法ってーーーー信じれますか」











「なるほどーーーー異世界というより並行している世界から来たのが君であり。魔法っていうのはその世界での技術か…………………………」

「は、はい。そうです」

何だか凄い難儀な話だった
それはそうだ
いきなり違う世界から来て、自分は魔法少女ですとカミングアウトされたら真っ当な人間なら優しくかつ強引に病院に連れて行くだろう
それをしないのは簡単な事だ
証拠を見ているからだ
だが

「肝心なところを聞いていないのだが」

「…………………………」

「何故あの『石』を集めている」

「…………………………」

肝心なところ
あの青い石
確かロストロギア
ジュエルシードとか言ったか
あれを見つけた時
彼女の眼は人形みたいに冷え切っていたが、その冷気には鬼気迫るものがあった
絶対零度の焔
その焔の名は
使命感だ
小学生の少女には似つかわしくない言葉
それを聞きたかったのだが

「……………………………………………………」

「…………………………だんまりか」

話してはいけないのか
それとも
話したくないのか
それはわからない
何せ会って一日だ
時間だけで言うなら一時間ぐらいだ
それぐらいで相手の事を理解できるはずがない
理解する気もそこまでないのだが
まぁ、それなら仕方ない

「わかった。じゃあ、聞かない。お礼はそれでいいよ」

「え?」

「だから、もうお礼はいいよって言ったんだよ」

「…………………………!そ、そんな!たったこれだけでお礼だなんて…………………………!」

「別に俺がいいって言っているんだよ。そっちの都合は関係ない」

「それは…………………………でも…………………」

「そうだ。あの、えっと、ジュエルシードってあれだけなのか?」

「え?い、いえ、まだたくさんあります」

「ふぅん、それは厄介だな。じゃあ、見つけたら渡してやるよ」

「え!!そ、そんな!悪いですよ!それに危険な事があるかもしれません!」

ふぅん
危険な事をやっているのか
ま、この少女は自分でやろうとしているようだから止める気もないけど

「じゃあ、尚更だ。そんなものが街中にごろごろあると迷惑だ。欲しがっている奴にあげるのが一番だろ」

「それは…………………」

「それにこれが一番合理的だ」

「でも…………………そんな助けてばっかりじゃあ…………………」

「ふぅ。じゃあ、こうしよう。一個拾うたびにそうだなぁ。何かご飯を買ってきてくれ」

「は?…………………そ、そんなことで…………………」

「そんなこと?馬鹿な!家計が赤字の俺にはこれは死活問題だ!!」

「は、はい!」

「生活の危機だ!命の危機だ!人生の危機だ!そのためにはご飯が必要なのだ!だからテスタロッサ!協力してくれ!!」

「わ、わかりました!」

よし、乗り切ったぞ
空気とは便利なものだ(同い年の女の子にご飯を要求するヒモの才能あり)
とりあえず
俺達はお互い夕方からこの家に出来る限り毎日集まると約束した
やれやれ
やっと堅苦しいのが終わった
そう思っていると

「あ、あの。そういえば、私、貴方の名前を聞いてません…………………」

「へ?あ、そう。俺の名前は風雷慧。好きに呼んでくれても構わない」

「風雷慧ですか…………………何だかかっこいいですね」

この少女のセンスは大丈夫だろうか
そういえばさっきから気になっていたことについて言う

「さっきから敬語を使っているけど、俺は別に敬ってもらうような人物でもなければ年上でもないと思うから、敬語はいらないぞ」

「え?で、でも」

「敬語で話して来たら…………………鼻の穴にピーナッツを突っ込む」

「!!!わ、わかりましーーーーわかったよ。その、ケイ」

「よろしい」

これで俺達の奇妙な関係が始まった
あれ?
俺は
何で
この少女を
手伝おうと思ったのだろうか?
自分の事なのにまったく理解できない
我ながらおかしなものだ
まぁ、どうでもいいことだ

その時
その場の誰にも聞こえず
誰にも感じれず
誰にも理解できない異形のコエが響いた
それはこう言っていた…………………………はずだ

ーーーー滑稽ねぇ

ーーーー無の表情という仮面で素顔を隠しても

ーーーー演じれるのは道化役だけなのに

ーーーー相変わらず現実から目を逸らすのがお得意ね

ーーーーまぁ

ーーーーそれもいつまで続くかしら

ーーーーせめて

ーーーー客が楽しめる程度には続くといいわねぇ

そして
『それ』は
唇を三日月に歪め
ケタケタ嗤い出した
それを誰も見ることも感じることも出来なかった









これはその後のシーン

「ただいま」

「あら?おかえりー、フェイトーーー。どこに行ってたんだい?せめてあたしに一言言って欲しかったよ~」

「うん。ごめんね、アルフ…………………」

「謝らなくてもいいんだよ、フェイトォ。ただ、心配しただけなんだよ」

「うん…………………ありがとうアルフ」

「お礼なんていいんだよ。フェイトは私のご主人様なんだから」

「うん。それでも、ありがとう、アルフ」

「うん。それで、どこ行ってたんだい?」

「それは…………………」

「それは?」

「…………………………昨日知り合った男の子のところに」

「OK。フェイト。今から少し野生に帰るけど、許してくれるかな?」

「あ、アルフ!?いきなりどうしたの!」

「己、クソガキ!よくもフェイトに毒牙を…………………………!」

「ち、違うから!アルフ!落ち着いて!」

「がるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる!!」

「アルフーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

それは少女の何気ない日常
しかし
その少女には
笑い顔があった
どこぞの少年とは違って
とても
楽しそうに

「??今日のフェイトはいつもとは違うねぇ?」

「え?そうかな?別に私はいつも通りなんだけど…………………………」

「いや、その何ていうか…………………………いつもより元気に見えるんだよ」

「…………………………そう、かな」

「何か良い事でもあったのかい?」

「…………………………うん、あったよ」

「へぇ!それは良かったよ!で、何があったんだい、フェイト?」

「うん」

そう言い彼女は微笑んだ
アルフが言うならいつもよりも元気な顔で


「友達が…………………………出来たかもしれないの」


そう
幸せそうに
大切そうに
呟いた







あとがき
すいません
楽しみにしていた人は遅くなって
でも、これからはもっと不定期になると思うのでそこらへんはどうかご了承してください
さて、ようやく話が進みだしてきましたが、なかなか進みません
そこで今回は我らが主人公について
この主人公のコンセプトは一度バッドエンドを迎えたです
例えば
FATEの衛宮士郎
例えば
リトルバスターズの理樹
これらの主人公と慧は境遇は結構似ていますが、決定的なところが違います
それは何でしょうか?
答えは次回に



[27393] 第十八話    <微グロ注意>
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/06/12 22:10
唐突だけど私
高町なのはは

魔法少女になったの

ここで慧君が聞いたら

「病院に行こうか、高町。何、大丈夫だ。いい医者を知っている。二、三発しばいてもらったら自身の純情さをあっという間に汚してくれるだろう」

とか言うのだろう
…………………………瞬時に彼の毒舌を想像してしまう自分に仲良くなったと喜んでいいのか、悲しむべきなのか
でも
残念ながら
私はおかしくなったのではなく
夢見がちでもなく

本当の魔法少女になってしまったの

切っ掛けは夢だった
その夢はただ私にこう伝えた

『……………助け、て』

その言葉だけだった
でも、私が覚えるのに十分な言葉だった
そして
昨日の塾の帰り道
物凄い既視感

私は…………………この場所を知っている

そう思ったら私は走っていた
皆が私に何か言っていたようだったけど、私は聞いている余裕はなかった
そして
そこには

白いナマモノガーーーー

間違えた
本当は

傷ついたフェレットさんがいた

その傷ついたフェレットさんは直ぐに動物病院に連れて行った
その時は直ぐに帰ったけど

胸騒ぎは全然収まらなかった

家族のみんなには悪いけど、私は真夜中にフェレットさんを預けた動物病院に向かった
すると
そこには

大きな怪物がいた

その怪物は夕方に助けたフェレットさんを追いかけていた
悪い予感は的中した
何をすればいいのかわからなかった
だけど、そこでフェレットさんが

「来てくれたんだ…………………!」

と喋ったのである
その時は大いに驚いたけど、同時に何か納得したの
今日の夢はこのフェレットさんが見せたのだと
そしてフェレットさんは私にこう頼んだ

「僕と契約して魔法少女になってよ」

また間違えた
どうやら電波が届いたなの
真実は

「お願いします!これを使って一緒に戦ってください!」

だったっけ?
そして私はフェレットさんの首にかかってた赤い宝石みたいなものをもらい
そして

魔法少女になった

赤い宝石は杖に
ただの制服は自分を守るバリアジャケットに
そして私は大きな怪物をやっつけ
そして何か青い石を封印した?
その後
フェレットさんが倒れ、何だか不吉な予感をもたらすサイレンがしたので、速攻で逃げたの
慧君と一緒にいたらそういった勘と逃げ足が自然と高くなるので良かったかもしれない
…………………感謝はしないけど
公園まで逃げたらフェレットさんが起きて、お互い自己紹介を始めた
名前はユーノ君というらしい
本当はもっと話したかったが、もうかなり遅いので家に帰ることにした
誰にも見つからないようにそーっと帰ろうとしたけど、お兄ちゃんとお姉ちゃんに見つかって叱られちゃった
にゃはは、やっぱり無理だったよ
でも、お父さんとお母さんにユーノ君を飼ってもいいかとお願いしたら了承してもらったからよかったよ~
そしてはやてちゃんとの会話

「ほぉー。今日のあの傷らけのフェレットがよくここまで持ち直したな~」

「にゃ、にゃはは。そ、そうだね~」

鋭い
さっき公園でフェレットさんは自分の最後の魔力で体を治したらしくて、夕方の時よりも体はよくなっている
ど、どうしよう!

「なるほどなぁ~。最近の獣医さんは腕が凄いんやな~」

「…………………………」

自己完結してくれたの
腕が良くても治るスピードは変わらないと思うなの…………………………

「ん~。それにしても。このフェレット」

「え?どうしたの?」

「どこかで、見た気がするんやけどな~。そう、確かーーーーそうや!夢の中で!」

「!!!」

本当に驚いた
ユーノ君が言うにはあれはユーノ君が放った念話とかいうので魔力を『持っている』人に届くらしい
そうなると

はやてちゃんも魔力を持っているという事なの…………………………?

ユーノ君に聞きたいところだけど、本人はお母さんとお姉ちゃんに遊ばれている(何だか嬉しそう?)
もしかしたら、後で本当の事を話したらはやてちゃんも一緒に手伝ってくれるかもしれない
そう思っていたのに

「き、気のせいじゃないかなー。ほら、既視感っていうのがあるの」

「まぁ、それもそうやなぁ~。夢の中で見た生き物が現実で出てくるなんて御伽噺じゃないんやからな~。」

私は誤魔化してしまった
そうだ
はやてちゃんは足が悪い
それなのにジュエルシードの探索なんて危険な事を手伝わせることなんて出来ないなの
だから私の考えは間違っていない
間違って………………いないなの












そして次の日
私はまだ昨日の話にボーっとしていた
アリサちゃんやすずかちゃんが声をかけてくれていたけど、私は生返事を返すことぐらいしかできなかった
ボーっとしていたら慧君に、その、む、胸を触られたの…………………
う~、も、もうお嫁に行けになの…………………
それを言ったら慧君に五千年早いとか言われたの
怒ってタックルをしたら、慧君にカーテンで縛られて、二時間ぐらい放置されたの
みんなはいつも通りの事だと認識し、私は無視られたの
あれ?
これって公認の虐めなのではないのでしょうか?

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

考えるのは止めとこうなの…………………………
最悪な結末を考えてしまいそうだから
でも、そのお蔭で(勿論、感謝はしないけど)、ユーノ君との念話に集中できたの
最初はどうやってするのかわからなくて戸惑っていたけど、ユーノ君にコツを少し教わったら直ぐに出来たの
何でも他の世界から来た魔法使いで、何か発掘をしている人で
その発掘した者が事故で地球に落ちてきたらしいから、責任を感じてジュエルシードを集めに地球に来たらしい
頑張ったけど、遂に体力や魔力を使い果たし、あの念話を送ったらしい
そして私にこう言った

『昨日は本当にありがとうございました。これからは僕一人で大丈夫なので…………………』

私は考えもせずに咄嗟に言葉が出た

『それは駄目だよ』

『え?で、でも…………………』

『確かにユーノ君の気持ちもわかるよ。でもーーーー私も知ったから』

『…………………………』

「だからーーーー私も手伝うよ』

『…………………………うん。ありがとう』

『お礼なんかいいよ~。私が好きでやるって言ってるんだから』

『うん。それでもありがとう』

「にゃははは…………………」

何だか照れてしまいました
すると

「…………………………高町さん」

先生からの声が

「はい?何ですか?」

「……………………………………………………保健室に行きなさい」

何でもいきなり笑い出したので、遂に目覚めたのかと思い、みんなで戦々恐々としていたらしいです
違うもん!
私は目覚めてなんかないもん!!














ということで、早速今日からジュエルシード集めをしようとユーノ君と念話で話していたら

「…………………………高町」

慧君が話しかけてきました
これはかなり珍しい事です
いつも話しかけるのは私達からであって、その度に慧君は逃げようとします
もう出会って二年経っているのに
その慧君が自分から私に話しかけてくれるなんてレア中のレアです
現にクラスでは

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!風雷の行くルートは高町ルートだったのかぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「てっきり、月村ルートだったと思っていたのに!!まさかのダークフォース…………………!」

「くそっ!!俺はてっきり八神狸だと推測したのに!」

「侮りがたし!風雷慧!高町なのは!」

「私は一番喧嘩しているアリサちゃんを押していたのに…………………」

「予測できないわね…………………流石、風雷慧」

「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!馬鹿どもめ!!俺は最初から予想していたぞ!!風雷は一番ツンとしている高町に気があることを!!」

「その通りです!!あの風雷君は隠れツンデレだという事を私は理解していました!!」

「お前ら!最初は確か究極のダークフォース、高町の姉を押していただろう!!?」

「「勝ったもん勝ちです(だ)!!」

「「「「「「「貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」

このクラスも大概変人です
きっと慧君症候群が広がり始めているのです
世界はいつかこんな風に混沌になるのでしょうか…………………………
当の本人も似たような事を考えていたのか、彼らを憐れんでるような感じです(いつも通りの無表情だけど)
ところで私ルートっていうのは一体何のことでしょうか?

「高町にはまだ早い大人の会話だ」

「え?でも、みんな大抵同い年…………………」

「精神年齢がだ」

「ふぇ~。そうなんだ。みんな凄いなの」

「……………………………………………………」

みんな成長が早いなの
私もそうなりたいなぁ~

「高町。本題だが」

「え?あ、うん。何?」

そういえばそうだった
この無表情の少年は私に何を言おうとしていたのかを聞いていなかった
少しは仲良くなれたのかな…………………
とお気楽に考えていたら

「…………………お前、『何』をしようとしている」

急に冷水を浴びせられたような感覚に陥った
思わず慧君の方に勢いよく振り返る
彼は相変わらずの無表情
何も変わらない
何も変化していない
なのに
私は初めて
この少年に畏怖の念を感じてしまった

「…………………図星か」

「な、何の事?わ、私にはさっーーー」

「嘘をつくならもう少し上手くしろ。それでは幼稚園の子供も騙せない」

逃げることは許されなかった
誤魔化すことも出来ない
彼の前にそんなことなどできるはずがない
元々、話術では私は慧君に勝てるはずがないのだ
すずかちゃんやアリサちゃんも言っていた
体術もそうだけど、話術に関しては私達では勝てないと
私にできるのは
思ったことを口に出すだけで
本当の事を隠すことではないのだーーー

「はぁ。まぁ、別にどうでもいいか」

どうしようと思っていたら、いきなり彼からそんな言葉が出てきた
さっきまで感じていた威圧感が綺麗に無くなっている
それとも、さっきまでのは気のせいか

「えっ!?い、いいの!?」

「聞いて欲しいのか?」

「いや、そういうわけじゃあ…………………」

「ああ。別に聞いて欲しいと言われても聞く気はないし」

「結局は面倒臭いだけなの!!?」

「誰が高町の話なんぞ聞くか」

「二年経ってもこの扱い!私達、進歩がないよ!!」

「誰がお前との関係を進歩させるか。それならば俺はまだ○ナルドと仲良くなるわ」

「くぅっ。何故だか言い返せないところがあるから反論出来ないなの…………………」

「バカ町が俺に勝とうなんぞーーーー地球の歴史分ぐらい早い」

「一体、私と慧君の差はだれだけあるの…………………?」

「恐らく未だ発見されていないぐらいの距離の惑星分」

「全然わからないの」

「安心しろ。俺もわからん」

「どこに安心する要素が有るの…………………」

結局はいつも通りの会話
結局、彼は一体、私に何を言いたかったのだろうか

「まぁ、何をしようとしてるのか知らんし、興味もない」

「…………………………」

そう思っていたらいきなりこんな事を告げてきた

「ただ、まぁ、少しだけ忠告をしとこう」

「忠告?」

「この二年間の義理の分だ」

「…………………………」

「忠告の内容は至って簡単だーーーー嫌な予感には従え。嫌な音が聞こえたら、近づくな。嫌な臭いを嗅いだら、探すな。それらは大抵当たるぞ」

「嫌な予感と嫌な音と嫌な臭い…………………………」

「後はそうだなーーーーー予想するときは常に最悪な状態を予想しろ。現実はその三歩ぐらい上の最悪を出すからな。少しでもショックを和らげれるだろう」

「常に最悪な状態を、予想する…………………………」

「それだけだ」

そこまで言ったら彼はそのまま帰ってしまった
彼が何故私が秘密にしていることをわかったのかはわからなかった
でも、さっきの言葉は

「心配、してくれたのかな?」

それは嬉しい事だった
あの無表情で容赦のない彼が私をそんな風に思っていたことが
本当にたまらなく嬉しかった
少しやる気が出た
だからこそ
私は考えなかった

何故、慧君みたいな子供が『そんなこと』を忠告できるのかという事を

それに
私はこれからこの四つの忠告
その全部を破ることになることも
私は知らなかった

そして
そんな私に告げる何かが来た
それは
ジュエルシードの反応だった
音でもない
臭いでもない
見たわけでもない
しかし、感覚がそれを訴えた
私の闘いの始まりを
キラっと私の首にぶら下がっているレイジングハート
それが光った気がした
まるで主が戦場に導かれるのを祝福するかのように














そして神社にジュエルシードの反応が来たので、途中でユーノ君と合流して向かった
そして神社特有の長い階段の下に着く
でも、どうして神社ってこんなに会談が長いんだろうか
そんなどうでもいいことを考えていると


ゾクリという悪寒と

………チャリという音が

嗅いだことがあるがここまで強烈な臭いはない何だか鉄臭い臭いがした


思わず足が一瞬止まる

今、私は何を感じた
今、私は何を聞いた
今、私は何を嗅いだ

慧君の忠告が頭を掠めるが、それを噛み締めるレベルにいかない
見ればユーノ君も止まっている
フェレットの顔だからよくわからないが、その瞳には恐怖が宿っている気がする
多分、私もだが
おかしい
おかしい
おかしい
おかしい

昨日の怪物でもここまでの悪寒は感じなかった

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

心臓が激しいぐらい鼓動を打つ
本能はこう告げている

ニゲロ
ソコカラサキニチカヅクナ
ミナケレバ、ミツカラナケレバイキレル
ダカラ
ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ

ニゲロ!!!

本能は体を止める
まったくもって正常な反応だ
これで回れ右をしたら私は普通の世界に帰れるだろう
否、生きて帰れるだろう
しかしだ
体は何時まで経っても回れ右をしない
本能は体を動かそうとするが
高町なのはの根源がそれを実行させない
その根源とは

高町なのははいい子でなければいけないという思いだ

過去のトラウマが一気に蘇る
怪我をした父
仕事で忙しくなった母
それを手伝うために一緒に忙しくなった姉
鬼気迫る勢いで剣の練習をする兄
そして


誰にも構ってもらえず、一人寂しく、ポツンとしている私


その瞬間
私は一歩進んでいた
前に
本能はそれを防ごうとするが、私はそれを意思の力で阻む
きっとこの一歩は私に後悔させる
だけど
高町なのはが高町なのはである限り
この行動を止められない
一歩
一歩
一歩
一歩
一歩
一歩
そして遂に階段を
登りきる
そこで
私は
慧君の忠告を身を以て理解する

そこには


黒々とした何だかわからないバケモノがーーーー

それは獣みたいな姿をしていた

しかし、おかしい事にそれは普通の獣のサイズではないのである
そして何とその獣の顔は口が顔を裂いていた
そして、目が二つではなく、たくさんあった
その眼は

全部血塗られたアカだった

だが、しかし
それはジュエルシードの影響で出来た怪物ではなかった
だってそれで出来た怪物は

それに喰われていたのだから

グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ

そこは神社の霊験さなど欠片もなく、ただそこには赤い血と、何だかわからない赤黒いナニカが散らされていた。その近くには女の人が倒れていたが、とてもじゃないがそんなことを気にしていられない
ナニカを理解できない
理解してはいけない
理解したら今の均衡状態が壊れる
でも、頭は勝手に理解しようとする
意思では止められない
そう、それは

人や動物の中に入っているナイゾーーーー

「うっ!おぇぇぇぇぇぇ!!」

理解した瞬間
胃の中の物が逆流してしまった
無理もない
彼女は精神年齢は同年齢の子供よりは高いとはいえまだ子供である
それにここに来た理由は困っている人を手助けするという聞いたら物凄い良い事だが
こんなことになるとはまったく思っていなかったのである
所詮、子供である
こんな命懸けになるとは思っていなかったのである
覚悟なんて上等なものは持っていなかったのである
慧君の言っていることを完璧に理解した
嫌な予感には従え
嫌な音が聞こえたら近づくな
嫌な臭いがしたら探すな
そして
常に最悪な予想をしろ
まさしくその通りだ

現実は三歩先の最悪を作る

ギョロリとそれはこちらを睨んだ
するとそれは

唇を三日月に歪め嗤って

「■■■■ーーーーーーー!!」

直ぐ傍に倒れている女の人は無視してこちらに襲い掛かってきた

「ひっ!」

とてもじゃないが反応出来ない
体を動かすことなぞ出来るはずがない
そんなことが出来るのならもう逃げている
ああ、私はここで死ぬのか
死んでしまうのか
死ぬんだろうな
死ぬ
呆気なく
何もせず
何もできず
何かを成し遂げることもなく
こんなところで、私はーーーー
私はーーーー
私は…………………
私は…………………

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


死ねない!
私はまだ
私はまだ死ねないの!!
死ぬのか怖い
それもある
でも
それ以上に

まだ…………………………みんなと一緒に笑っていたい!!

その心が
その不屈の闘志が
彼女の胸元の宝石を刺激し、そして

『ALL,RIGHT.MY,MASTER』

デバイス(相棒)が答えた
宝石は瞬時に杖となり
制服は瞬時に私を守るバリアジャケットになった

「そんな!起動パスワードもなしにレイジングハートを起動させた…………………………!」

そんな言葉を聞いている余裕はなかった
目の前の脅威を何とかすることが先決だ
私はまだ魔法の何たるかを知らない
だから。私はただ想うだけ
守ってと
レイジングハートはそれを読み取ってくれた

『PROTECTION』

目の前に桃色の障壁を張り、もう目と鼻の先に迫っていたバケモノと

激突

ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッィィィィィィィィィィィィンンンンンンン!!

不協和音が辺りに響き渡る

「くっ!うぅっ」

とてつもない反動に思わず杖を落としそうになる
しかし、それは我慢
それをした瞬間
待ち受けるのはさっきみた光景だ
どれぐらいの時間が経ったか
バケモノは突き破れないと理解したのか
唐突に後ろに下がった

「っ!ハァ!ハァ!ハァ!」

いきなり圧迫感が消えた
それを幸いに今まで無意識に止めていた呼吸が再開される
後、数秒続いていたら酸素が足りなくて死んでいたかもしれない
バケモノはしばらくそのアカイ瞳でこちらを睨んできた
私はそれを受けるだけ
恐怖はある
しかし、今はそれを凌駕する意思で何とか立っていられる
そして
何を思ったのか
バケモノは急に
ニタリと口を再び三日月に歪め
そのまま

バッ!!

と去っていた

つい追いかけなければと思うが、とてもじゃないが動く気力がない
体力もない
そのまま地面に膝をついてしまった

「なのは!!大丈夫!?」

ユーノ君の心配する声が聞こえる
私は心配をかけないように笑いかけようと思い、振り替えると
さっきまであのバケモノに喰われていた怪物は

ただの小さな犬に変わった

「------あ」


そこに倒れているのはただの小さな犬であった
そこに倒れている女の人のペットなのだろう
首輪をされていた
しかし、今のその犬は
元の気の色がわからないぐらい赤く染まっていた
ユーノ君がその犬に近づく
彼の顔は悲しそうだった

「…………………………多分、さっきのバケモノはこの犬に取付いていたジュエルシードを狙っていたんじゃないかな」

そうなのかもしれない
実際、その犬からは何の反応もない
でも、違うのだ


今、聞きたいことは『それ』についてじゃない


「…………………ねぇ…………………ユーノ君…………………その、お犬さんは」

生きているの?

その言葉は口には出さなかった
でも、ユーノ君には出さずとも伝わったのだろう
彼は
沈黙したままだった
何よりのーーーー答えだった

「------あ」

思考が停止する
わかっている
頭ではわかっている
これはどうしようもないことだということは
だって、私が来たころにはあの一方的な捕食は始まっていた
階段の時の怯えで止まっていた時間などほんの少しだけだ
でも、それでも
考えは止まらない


何故、もう少し早く来れなかったのだと


勿論、早く来ても助けられなかったかもしれない
自分は魔法を使ったのはまだ二回目だ
そんな自分が何かを出来ると思うのは自惚れだ
でも
私には力があったのだ
守れる力が
他の人にはない
守れる力が
なのにこの様
慧君がいたらこう言うだろう

不様だなと

否定なんて出来ない
肯定あるのみだ
現に私は今

こうやって不様に

「うっ、ひっ、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

泣いているのだから

まったく知らないお犬さんに対して
私はただ泣くことしか出来なかった
それがただ悔しくて
それがただ情けなくて
それがただ腹立たしくて
私はただ泣いた
ユーノ君はそんな私をただ黙って見ていてくれた


これが私の
最初の闘いであり
最初の葛藤だった













あとがき
今回でようやくオリジナル展開
このバケモノはが何なのかはまだまだ秘密
今回は早めに出せましたわ
さて、この前の主人公考察ですが、わかる人にはわかったでしょう
簡単に答えを言っときましょう
正解は他の主人公と違い、誰にも『助けられなかった』存在
それは風雷慧です
だからこそ、彼は他者との繋がりを拒否したくなるのです
勿論、他の主人公もこうなると言っておりません
自分なりにもしもこういった主人公が助けられなかったらこうなるのではと思った姿であります
つまり主観です
だから余り批判しないでくださいね
いや、お願いします
それとデバイスの言葉は出来るだけ何とかしますが、無理なところは日本語で行くのであしからず



[27393] 第十九話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/06/18 22:33

高町の様子がおかしい
それは高町家や俺達を含む全員の見解であった
誰でもわかる
まず目に見えて元気がなくなった
例えば

『バニングスよ。実は俺ーーーーカボチャの事が好きだったんだ!』

『いきなり、野菜への告白を聞かされて私はどうすればいいの!?』

『そ、そんな!!?慧君は…………………カボチャの事が好きだったの…………………?』

『すずかちゃん!?それは冗談に付き合ってるだけやな!?』

『……………………………………………………』

『『『『………………………………………………………………………………』』』』

このように俺達への漫才に付き合わなくなったり

『…………………………なのは、お父さんと一緒に出掛けようではないか!!どこがいい?遊園地か?水族館か?それとも動物園か?もしくはロマンチックにプラネタリウムなんてどうだ?』

『……………………………………………………やだ。今、お父さんと出かける気分じゃないの』

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!なのはに振られたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

などど中々辛辣なコメントを言ったり(よくやった。高町)
いつもとは違うのは丸解りだ
ちなみに高町父はその後、高町母にスィートルームに連れてかれてた
ドチャという音が暫く響いていたらしい
更に恐ろしい事に高町家の家の構造上、そんな部屋があるはずがないし、見たこともないらしい

………………………………………………………………………………考えるのはよそう

とりあえず由々しき事態と思われたみんなは集まり(俺は無理矢理、高町姉によって連れてかれた。理不尽だ)、高町を元気づける作戦を考えた
考えた結果
バニングスのお茶会をしましょうに決まった
それが一番まともな意見だったからだ
他にはこんなものがあった

『第六次みんなのトラウマいじくり大会を』

『却下よ。あれで、何人かが致命傷を負ったじゃない。というかあんたもやられてたでしょうが』

『こうなったら、第十五次人生王様ゲームを提案するわ』

『却下だよ!お姉ちゃん!大体、あれで自分の愛用していたスパナを恭也さんに斬られて、あわや別れるかというところまで逝きかけたじゃない!!』

『一緒に盆栽をーーーー』

『駄目だよ、恭ちゃん…………………………恭ちゃんの趣味は少なくとも子供には受けないよ。それならお料理教室をーーーー』

『■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

『結局、慧君のトラウマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

『では、第五十三次!!なのはの可愛らしい所、愛らしい所を褒める会を!!』

『それ、やる度にいつも士郎さんは桃子さんにスィートルームに連れられてるやんか!!』

『こうなったら私の意見だけね。私は第二十七次拳で熱く語り合おう回を提案するわ』

『あれって、この前は何故か最終的に慧君とすずかちゃんの一騎打ちになって最後には彼が貞操の危機を感じて敵前逃亡をしてしまい、すずかちゃんが優勝しただったよなーーーー確かなのはは最初に脱落していたと俺は記憶していたが』

『すずか。貴方の意見は?』

『わ、私はーーーー第三十一次慧君強奪戦をーーーー』

『それ。得するのあんただけじゃないーーーーー待ちなさい風雷。喰われるとか呟きながら逃げるんじゃないわ。敵前逃亡は士道不覚悟よ』

『ふふふ。争奪じゃなくて強奪なところがポイントなんだよ』

『こうなったら私だけやなぁ。私は初の試み、ボケとツッコミの熱き友情、二時間ドラマを提案するで!!』

『残念ながら俺達は一人一人が極端なボケとツッコミをするからテレビを見ている皆さんには受け入れられないと思うぞ』

などど話し合っていた
俺達は一体何をしていたのだとコメントしたくなるだろうけど、みんな結構真面目だ
というわけど、高町を連れて月村家でお茶会になった
ちなみに俺はそんなものには行くつもりはなかったのだが、お茶会前日に高町父によって奇襲をかけられ、目が覚めたら何故か月村邸ですずかの膝の上だった
思わず、ポケットに入れてあったナイフで自殺を試みようとしたが、みんなに取り押さえられて失敗した
その後は皆から危険と思われたのか、恭也さんに鋼糸で縛られてしまった
それをチャンスと思ったすずかはまたもや膝枕をしようとする
転がって逃げ続けていたが、流石は夜の一族
身体能力は高いので、逃げきれなかった
終いには

「う、腕枕にしてみる?」

などと聞いてくる始末
勘弁してください
二年前からすずかの頭のねじがやばいくらい抜けている
他のメンバーはそこから助けずにニヤニヤするだけ
おのれ、こうなった原因は全て高町にある!
今度は教卓の下に封印してやる
そう、密かに復讐を誓っていると(ただの八つ当たり)、高町と恭也さんが来たのか。車の音がした
これでも耳はいい方なのだ
これだけ広大な家でも結構聞ける

助かった…………………

ねじがやばいくらい抜けているすずかでも、流石にこんなに恥ずかしい恰好を友達に見せるのは恥ずかしいだろう
そう思っていたが
何故だか知らないが彼女は俺を膝枕したまま動かない
おやおや

「すずかよ。何故動かないのかな」

「?何で動く必要があるの?」

「なるほど。では、ちゃんと説明してやろう。このような痴態をお前の友人に見せるのは少々恥ずかしいだろう?だからーーーー」

「慧君。今更何を言っているの?もう既にそんな段階は終わっていると思うよ」

「………………………………………………………………………………」

そんなわけあるかとツッコもうとしたが、過去を振り返ってみると
何故だか
その声は出なかった

ああ
随分と俺も汚れたものだ
昔の純粋だった自分が懐かしい…………………

「…………………ん~。確かにこういう部分だけは今でも純粋だよね~」

「すずかは随分と慣れてしまって…………………俺は悲しいよ?」

「それは褒め言葉だねーーーーん?それとも…………………次の段階に行って欲しいというおねだりかな?」

「メイデー!メイデー!!助けて誰か!!すずかが妖艶な眼差しと表情で俺を見てくるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

危険だ!
最悪なぐらい危険だ!
貞操の危険がする!
お願いします!誰でもいいから助けて下さい!
ああ!

「すずか!顔が近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い!!!」

「うん。だってーーーー近づけてるんだもの」

体にある全ての力を使って、その場を転がって離脱しようとする
しかし、それはすずかの手によって阻まれた
ああ、俺は何でついナイフで自殺などしようと思ったのだろうか?
高町にも言ったのに
現実は常に三歩ぐらい最悪だと

「はーーーーーーい。もうすぐなのはちゃん達が来ますーーー」

シーーーーーーーンと動きと時が止まった
状況を説明しよう
今のは急に扉を開けた月村ドジッ子メイド
そして俺達の今の状態は
俺は鋼糸で縛られている状態で
そんな俺を膝枕して、しかも押さえつけていて、しかも顔を俺の顔に迫らせようとしている

Q、この状況を第三者が見たらどう思うでしょう?

A,とても気不味い状況だと思います

「…………………………ファリン?」

「ひぃっ!!わ、わわわわわわわわーーーー忘れ物しちゃいますた☆」

ドジッ子メイドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
それは諸刃の剣だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

「ふふふ。じゃあ、一緒に探したあげるね?」

「!!!!」

だから言ったのに

「じゃあ、慧君。続きはまた今度で」

「俺は二度とこんなことをするつもりは御座いません」

違うぞ
俺はすずかのプレッシャーに負けたわけではないぞ
ただ、俺は場の空気を読んだだけなのだ
断じて負けたわけではないぞ!













ようやく高町も集まって、お茶会の始まり
ちなみに俺はその間に逃亡を五回ぐらい試したが、見事失敗した
くそぅ
最初の四回はともかく
五回目はダンボールを使って逃げたのに…………………………
まさか、あんなところに赤外線センサーがあるとは
一番いい線だった
今度はドラム缶辺りで攻めてみようと思う
まぁ、それはともかくとして
今回のメイン
高町だが
まだ少しどんよりとしているが、少しは元気を出したようだ(ちっ!)
現に

「あ…………………このジュース、美味しい…………………」

「あ、それ?確かーーーー風雷?あんたが持ってきた奴よね?」

「ああ、そうだーーーー厳密には勝手に士郎さんが俺の荷物から出したものだが」

「へぇ、後半は無視するけど。これ、何ていうジュースなん?」

「それ自体は普通のリンゴジュースだぞ」

「え?でも、これ…………………」

「ああ、だからーーーー少し隠し味をしたんだ」

「……………………………………………………物凄い不安が」

「まさかなぁーーーー適当に入れたら媚○になるとは………………………新しい化学反応だね」

「「「「ぶうぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅうぅ!!!」」」」

「何だ四人とも。口に飲んだものを吐くとは。行儀が悪い」

「げほっ!ごぼっ!な、何てものを作っているのよ!!というかどうやったら、そんな化学反応が出るのよ!」

「ゴキーーーーいや、何でもない」

「お願い!すずかちゃん!洗面所貸してなの!少し汚いけど、頑張って胃の中を洗浄するなの!!」

「どうしたんだ、高町?何か劇薬でも飲んだのかい?そいつは大変だな」

「だ・れ・の・せ・い・か・な!?」

「高町父。だって、俺はこれを捨てる途中で奇襲されたのだから」

「お父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

「まぁ、○薬なのは嘘だけど。奇襲されたのは本当だが」

「ふぅん。そうなんだ~。どっちにしろ後で桃子さんに報告やねぇーーーーーすずかちゃん。何でそんな真っ赤な顔で、しかも、妖しい目つきで慧君を見ているんや?」

「ふぇ?…………………………だって…………………熱い…………………………」

風雷慧は逃げ出した

月村忍は指を鳴らした

風雷慧が踏んだ床が沈み、体の半分が埋まった

「月村姉!!何の真似だ!今、俺は忙しい!要件は手早く頼む!」

「じゃあ、簡単に言うわねーーーーすずかをよろしく」

「聞いてもそれを実行するとは言ってないぞ!というか何故興奮している!?」

「ほら、病は気からって言うじゃない?」

「それは妄想のレベルを超えていますぞ!!とりあえず、こう言わせてもらおう!だが、断る!」

「じゃあ、こう言おうかしらーーーーすずかによろしくされて」

「何て恐ろしい事を言うんだ月村姉!やられている立場の視点だとかなりぶるわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!な状態なんですぞ、貴様!」

「はぁ、はぁ」

「す、すずか!危ない息遣いで迫ってくるな!」

「さぁ、なのはちゃん、はやてちゃん、アリサちゃん。私達は出ましょうーーーーここから先は二人の時間だから」

「そこぉ!!神妙な顔で他の奴らを連れ出すな!----いざという時の盾がなくなるではないか!」

「慧君ーーーーそんな本音を聞いてこの場に留まろうとする人がいると思っているのかしら?」

「高町!お前が欲しがっていたあの無駄に高機能なマウス!」

「うん!わかったよ!」

「懐柔されるのが早い!欲望に忠実過ぎだよ!」

「それが俺達さ!」

「最低なグループだね!」

「ちょっと待ってください!確かに風雷となのはとすずかはかなり最低ですけど、私は普通です!」

「そうやで!私達は普通やで!」

「あ…………………………?」

「ちょ!今の反応はなんや!アリサちゃん!!」

「え?……………………………………………………ああ、はやて。何かしら?」

「まさかと思うけどーーーー私の存在を忘れていた、とか言わへんやろな?」

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………まさか!私が大親友の事を忘れるわけないでしょ!!」

「じゃあ、その間は何なんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ようやく俺達らしい会話になった
将来にまったく役に立たない会話だが
ん?
何だその生き物は?

「ん?そういえば慧君には紹介してなかったよね。じゃあ、紹介するよ。この子はユーノ君ていうの。フェレットなの」

「きゅー」

「へぇ、フェレットかぁ~。まったく知らんな」

「そうよねぇ~。私もそんなの詳しく知らないわ」

「というか日本にそんなにいるのかな?」

「あんまり聞かんなぁ~」

「にゃ、にゃはは。そういうところは置いとこうよ~」

「きゅ、きゅ~」

「それにしてもーーーー高町の癖にネーミングセンスが悪くないとは…………………お前、本物か?」

「…………………………ツッコんじゃダメ、私。ツッコんだらそこから悲劇に繋がるなの…………………………!」

「進歩している…………………!あのなのはが進歩している…………………!」

「流石なのはちゃんーーーーみんなからやられて慣れているだけがあるね…………………」

「…………………そういえば、前から聞きたかったんだけどーーーーみんなは何でなのはを虐めるのかな?」

「「「「……………………………………………………」」」」

「…………………プリーズ、アンサー」

「…………………体が勝手に(←性格がひねくれているから。負の方向に)」

「…………………右に同じ(犬の本能。いや、本性?)」

「…………………左に同じ(上の分を猫に変えただけ)」

「…………………真ん中に同じ(単純に面白がっている)」

「………………………………………………………………………………ぐれるぞ、この野郎共!!」

「「「「!!!た、高町が(な、なのは、なのはちゃん)、遂に史上初のキャラ崩壊を…………………………!これが人が一度は通る反抗期ってやつか(反抗期ね、反抗期なんか)!!!」」」」

「きゅ~!!」

何だかフェレット野郎は猫に追い掛け回されていた
はっはっは、もてていて羨ましいよ
ん?
何だかこちらに助けを求めるような目つきをしているね?
中々感情表現豊かなフェレットだ
もしかしたら、実は人間だとか
あっはっはっはっはっは
最近は色んなものに出会っているから、簡単に否定できんな(吸血鬼や魔法少女など)
そうやって久しぶりにこのメンバーで和んでいた(俺はまったく和めなかったが。主に貞操的な意味で。最近のすずかには恐怖を感じてしまう)
このまま、お茶会は続くと思ったら


不意に
高町の顔が少し強張った


幸か不幸か
他のメンバーは気づいていない
無理もない
強張っているとはいえほんの些細な変化だ
俺みたいに無駄なくらい注意深くなくては気づかない変化だ
その無駄な注意深さで俺はもう一つ気づいた
あのフェレットの雰囲気も若干変わっている
そっちに関しては自信がないが
そう思っていたら

「あ。ゆ、ユーノ君?」

フェレットが逃げ出した
勿論、猫に追われていたから逃げ出した
そう解釈する方が正しいだろう
しかし

「あ、危ないから、私が探してくるね?」

その下手糞な演技を見て、おかしいと思わない人間がいないだろうか

「そう?私達も手伝おうか?」

「う、ううん。大丈夫だよ。なのは一人で大丈夫」

「それならええんやけど…………………」

「うん。じゃあ、行くね」

高町はフェレットを追いかけて走る
それを俺は


止めなかった



止める理由がなかった















そして
結果はご覧の通りだった
時間が経っても帰ってこない高町を段々と心配し、少しみんなで探そうと決断を仕掛けたところで

あのフェレットが『一匹』だけで帰ってきた

その後
フェレットの誘導に従い、走って行った先には
高町が倒れていた
とりあえず背負ってこの家まで連れてきて、ベッドで寝かせた
いやはや
それにしても、バニングスと八神の狼狽えっぶりは凄かったね
すずかは冷静そうだったが
まぁ、別にどうでもいいけど
どっちかというと
俺が問題にすべきことは

「何で俺が看病役なのだ…………………」

そうなのだ
何故、俺がこんなことをしなければいけないのだ
普通、こういうのはバニングスか恭也さんの役回りだろうに(ちなみにそれらのメンバーは今。この状況を起こす諸悪の原因となったと思われるフェレットを断罪している最中だ。きっと、今頃、素敵なフェレット悲鳴が響き渡っていることだろう。俺も聞きたかったな~…………………」
そう思いながら、数分経つと

「…………………ぅん」

どうやら高町が起きたようだ

「あれ?…………………ここは?…………………」

「大した寝惚けっぷりだな。ここは夢のスィートルームに決まっているだろう?」

「にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!恐怖の世界の幕開けなのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

「…………………冗談だ」

寝起きのハイテンションか…………………
お前は薙○か

「そ、そういえば、慧君。どうしてここに?」

「まだ寝惚けているのか。ここは月村邸。それでお前があのフェレットを探しに行ったら、何故だか知らないが、倒れていた」

「あ…………………」

ようやく思い出したのか
そこで一気に暗くなる

「覚悟しとけよ?バニングス辺りは手加減しないと思うぞ」

「…………………にゃはは。容易に想像できるね」

「そうだな。じゃあ、呼んでこようか。どっちにしろ、お前の事をみんなに知らさなければ、俺が怒られる」

そうして今まで、座っていた椅子から立ち上がり、部屋のドアに歩いていく
ドアのノブを掴んだところで

「…………………………慧君は、聞かないの?」

などと聞いてきた
俺は振り返らずに

「聞いて欲しいのか?」

「…………………………どうなんだろう?」

「じゃあ、聞かない」

「…………………………どうして?」

「興味がないの一言」

「…………………………手厳しいなぁ」

顔は見えないが、どうやら苦笑しているようだ

「何を言う高町。俺は今も昔もこの性格だ。それをいつもと違うと思っているのなら。それは単にお前が今、何かに、もしくは誰かに甘えたいと思っているからではないか?」

「……………………………………………………」

そこで彼女は沈黙した
図星か

「…………………………時々、慧君は私の考えていることをわかっているんじゃないかと思う時があるなの」

「そんなことは出来ないさ。超能力者じゃああるまいし。俺が出来るのは精々推測するぐらいだけだ。」

「…………………ある意味それだけでも凄いと思うの」

「ふぅん」

そこで会話が途切れる
沈黙が部屋を少し支配する
とっとと、この部屋を出ようと思った矢先
高町が声を放つための息継ぎが聞こえたので、断念する

「ねぇ…………………慧君」

「はぁ、何だ」

「もしも…………………………もしもね。自分にもう少し力があれば。自分がもう少し速く動けたら。そんな後悔が生まれてしまったら、それを払うためにはどうすればいいと思う?」

「それは人によって解答は千差万別だ。参考にはならない」

「それでもいいから、教えて」

…………………ふむ
さっきよりも意志が少し感じる
その声から察するに
何というか


今の自分よりも、前に進みたい
立ち止まりたくない
そんな意思か…………………


何があったか
詳しい事は知らない
それでも
推測は出来る
この前
金髪少女
テスタロッサに出会った事
ジュエルシード
そして

魔法


時期はぴったしだ
だからーーーー推測は出来る
だけど
それを言うのは野暮というものだろう
だから、俺は解答の方に集中する
まるで、この意思に報いるかのように

「そうだなーーーーー俺なら、そんな後悔を抱くよりも、自分が誓った事をするだろうな」

「自分が、誓った事…………………」

「そうだ。そもそもだ、高町。後悔?そんな七面倒な事を考えるのはお前の『性』には合わないだろう」

「------え?」

「お前は頭で考えて動く人間ではないと言っているんだ。お前はもっとシンプルな馬鹿だろう。性に合わない事でぐちぐちしてんな。『似合わないぞ』」

「------あ」

言うだけ言って、俺はその場を後にした
最早言う事など、一つもないのだから
ドアを開け、そのまま出ていく
そうして、密かに後ろを振り向く
そこには


さっきまで、うじうじしていた少女は消えていて

迷いを払った少女の顔があった

バタンとドアを閉める
俺の役目はこんなところだろう

「なぁ、すずか」

右に振り向く
そこには

鴉の濡れ場色の綺麗な髪をしていて
顔も美少女な
吸血鬼が立っていた











目の前にいつもの無表情の少年が立っている
まるで、彼だけが時の歯車から抜け出たように彼は変わらない
そんな彼を私はーーーー好きになった
誰からの異常に見られる彼を
だからこそーーーー不安になる
この少年が
無表情の仮面を被ることを当然としている少年が
『これからも』そんな生き方をするのではないかと

「で、どういうつもりだ?」

「…………………まぁね。こういうのは慧君が一番得意かなって思って」

「残念ながら俺は人をどん底まで突き落す手法しか知らない人間だが」

「その割にはなのはちゃんには的確なアドバイスをしていたようだけど」

「きっと、幻聴でも聞いていたんだろう」

「じゃあ、そういうことにしといてあげる」

「…………………含みがある言い方だな」

「じゃあ、慧君の真似をして言ってあげる。そう思うのは自分に疾しい事がある証拠だよ」

「失礼な。俺はいつだって清廉潔白だ」

「嘘つき」

「そうとも」

はぁ
相変わらずの偽悪趣味
達が悪い事に本人は自分を本物の悪人とか思っている
とんだ自意識過剰だ
鈍感なのは他人だけにしてほしい
いや、やっぱり他人にもしてほしくない
というか私限定に鈍感にならないでほしい
あれだけアプローチをしているのに何で何も言ってくれないのかな?

私…………………そこまで魅力ないかな…………………

これでも女の子
結構、自分の美容に関しては気を付けているんだけど
ちなみに
その努力はちゃんと成功している
現にいつもいるメンバーの四人全員がかなり人気だからだ
これは関係ない話だが
それのせいで最近どこぞの親馬鹿辻斬りの人は夜な夜な歩き回って、娘たちに変な虫がつかないように虫の居場所まで『訪ねて』いるようだ
そして、どこぞの無表情ギャグ人間も、人気者を独り占めにしていると周りから思われており、それのせいで時々、奇襲されているようだ。まぁ、全部返り討ちにしているようだが。この少年の経験した修羅場とのレベルの差が違い過ぎるからだろう

だから、別に彼女自身にはまったくもって問題はないのだが

そのくせ…………………なのはちゃんの胸に触るし…………………

ちなみに
かなりショックを受けているように話しているが、実際はそれの後、彼女は廊下にある消火栓を振り回して、少年の頭を思いっきり、しばき倒し、倒れた彼の胴体に思いっきり、机の面の部分をめり込ませ、動きが止まっているところに、掃除ロッカーを思いっきり、勢いよく倒していた。それも顔面に
悪魔の所業ならず、吸血鬼の所業とはこのことか
その後
ケロリと復活している彼も彼だが
年々と回復スピードが上がっている気がするのは気のせいだろうか

いっそーーーーリミッターを振り切ろうかな?

「ん?どうして、慧君は唐突に窓から逃げようとしているのかな?」

「わからん。ただ、俺の本能が叫んでいるんだ。ここは危険地帯だと」

「慧君の本能は当てにならないから信じない方がいいと思うよ。それに今はシリアスタイムだから逃げられないよ」

「くそっ!シリアスタイムだったか…………………」

何語だ

「で、本題は?」

「…………………うん」

さっきまでのコメディ空間を一瞬で忘れる
今はこの話を聞くために一人で来たのだ
その話題とは

「ねぇ、慧君ーーーーなのはちゃんがしていることに『気づいていた』?」

そう
こう聞いているけど、彼は気づいていたと思う
だって、なのはちゃんが倒れているところを見ても

彼はまるでやはりなという感じで溜息をついただけなのだから

相変わらずの無表情で

溜息をついていただけだった

まるで

別にどうでもいいと言わんばかりに

だから
彼の返事もそんな感じだった

「ああ、大体は推測だが、分かるさ」

それがどうしたと言わんばかりの口調だった

「…………………多分、危ない事をしているんだよね?」

「そうだろうな。具体的には知らないが」

「…………………止めないの?友達の危機だよ」

ある意味期待した言葉
それに彼は
表情通り
無情にも

「は?いつ、俺が高町の『友達』になったんだ?それに」


別に高町が勝手に危険に立ち向かってるんだ

その結果

死ぬのならば

高町はその程度だったという事だろう

と心底不思議そうに答えた



「………………………………………………………………………………」

結局
彼と私達の関係はそこまで進んでいない
その事を表すかのような言葉であった

わかっていることであった
二年前のあの事件の事もあるのだが
彼は敵味方問わず
手加減も容赦も加減も知らない
残酷な人間だという事を
それが例え
『私達』であっても例外はない
わかっていたことだけど
少しーーーー悲しい
あれだけ仲良くしていたのが


実は振りだという事を言われているのと同義なのだから


そう落ち込んでいたら

「それに、今のところ、俺の友は『二人』だけだ」

「え?」

二人?
誰?
そういう思考が私の中でぐるぐる回る
二人
二人といえば
何か関係線がなかったか
そこまで考えたら、急にピンときた


彼が名前で呼んでいる人の数は何人だったっけ


そう考えた瞬間
彼は急に早歩きで去っていく

「待ってよ、慧君!」

「いーーーや、待たない。俺はこれから用事があるのだから」

「そんなことよりも、さっきの!」

「知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない知らない」

「もう!意地っ張り!!」

私は彼の小さくも頼もしい背中に向かって走る
確かに私達はまだ全然親しくなってかもしれない
それでも
それでも
前には進めているのかもしれない
でも、今はそんなことを考えている暇はなかった
だって

今の私は
きっと
恥ずかしいくらい笑っているから








あとがき
いやぁーーー。進みませんな
それにしてもれいおにくすさん
自分で言うのも何ですけど、この駄作を読んでくれてありがとうございます
月並みの言葉ですけど、出来れば最後までよろしくお願いします



[27393] 第二十話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/06/23 22:10
高町がぶっ倒れた後はそのまま流れ解散だった
流石の外道連中もあのまま遊ぼうとは思わなかったらしい
俺はって?
俺は優しいのだから、高町が弱っていたら、そのまま帰らそうとするに決まっているではないか
だから俺は
高町が怪我したおかげで早く帰れるぜ!
ベリーベリーラッキー!!
なんて全然思ってなんかいないぜ
俺は高町の弱っているところを隙にして逃げよう
なんて全然思ってなんかいないぜ

…………まぁ、どっちにしろ今日は早めに帰らなければいけないのだが

理由は今の状況だ

「あ、ケイ。こんにちわ」

「ああ、そうだな。テスタロッサ」

今日は所謂、俺達の密会の日なのである
三、四日に一度は俺の家に集まり
俺がジュエルシードを拾っていたら、テスタロッサに渡す
それが密会の理由だ
俺があれを集めるのは、そんなややこしいのがこの町にあるのが面倒なだけだが
テスタロッサは結局、集める理由は口にしない
まぁ、別にどうでもいいけど
とりあえず、話を進めようか

「ど、どうだった?その…………………ジュエルシードは?」

彼女は早速、本題に入った
それはそうだ
元々、そういう密会なのだから
それにしても

一応期待しているけど、過度な期待はしていない、という感じだな…………………

まぁ、無理もない
何でもこのジュエルシードとかいうのは魔力がないと見つからないというかわからないらしい
そして、テスタロッサが言うには俺には魔力とかいうのは全然ないらしい
すなわちだ
俺がジュエルシードを見つけられる可能性は零に近いという事だ
この前のあれは偶然という名の奇跡だろう

…………………いや

この世に偶然はない
あるとしたらそれは必然だ
偶々見つけたのではなく
見つけるべくして見つけた
そういうものだろう
どこぞのマンガの言葉を借りるなら

何ともまぁ----皮肉な言葉だ

それではーーーーこれは決まっていたことだと言われているのではないか

あの時

あの場所で

開かれてしまった

あの地獄

あの悲劇

それも予定調和と言われているみたいで

物凄く----■したくなる

「あ、あの…………………ケイ?ど、どうしたの?」

テスタロッサの言葉で現実に戻ってくる
彼女の瞳にはーーーー恐れが宿っていた
俺を見て

…………………………………………………………………………………………………………

やれやれ
まだまだ精神修行が足りない
これでは何時までたっても解脱できない
まぁ、する気もないし、予定もないのだが
時々、長考するとすぐこうなる
今日はとっとと要件を済まして、お開きにするのが得策だろう

「ほれ」

「え?」

ポケットから出した青い石を彼女に投げ渡す
彼女は条件反射か
それを少し危なげにキャッチする
それでも、あんな急に渡されたのに受け止められたのは、彼女の身体能力のおかげだろう
すずか程ではないが、バニングスレベルはあるかもしれない
え?高町はどうしたかって?
言わぬが華よ
じゃあ、とっととお開きにーーーー

「どどどどどどどどどどどどどど、どうして、ここっこのジュエルシードを見つけたんですか!!!」

「耳が!耳がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

まさかの大音量
この少女をカラオケに連れってはいけないと心に誓う
マイクなど持たせたら、大変だ
ああ、耳から血が

「だ、大丈夫!?」

「何、心配いらない。だから少し声のボリュームを落としてくれたまえ。耳がいかれる」

ううと呻きながら少し黙る
天然少女はこれだから侮れない
うっかりで殺されたら洒落にならない

「そ、それで、どうやって見つけたの?」

「何、簡単さ。見つけた奴から奪…………………譲ってもらったのさ」

「ど、どうやって?」

「それは………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………テスタロッサ。お前は知らなくていいんだ」

「な、何でそんなに声に慈しみの心が溢れているのかな?」

方法は至って簡単だった
偶々ジュエルシードをゲヘヘと笑っている男子小学生を見つけたので(注、この笑い方は少年視点です。良い子のみんなは現実を見ようね)、少し取引をしたのだ
彼は快く承諾した
何と取引したかって?
■町姉印の■ッキーさ
何で伏字が入るかって?
俺が口に出したくないからだよ
その後
少年は暫く悶えていたらしいが見ていないので知らない
ちなみに
彼はこのジュエルシードを彼女に渡すつもりだったらしい
それなのに女の人からのクッ■ーを貰うとは
浮気だねこれは
だから、ちゃんと俺は彼女の方にも事実を伝えておいたさ
きっと、今頃は恋人と熱い時間を過ごしているだろう
羨ましくない限りだ

「まぁ、別にそんな事はどうでもいいではないか。それで?そっちの収穫は?」

「え?あ、うん。私の方も一個封印することが出来た」

「へぇ、それは重畳」

「ただ----敵も現れた」

「ふむ?」

「相手は栗色の髪の女の子で」

「ふむ?」

「髪の毛を私みたいに二つに分けていて」

「ふむ?」

「年も私達ぐらいで」

「ふむ?」

「真っ直ぐな目つきをした女の子」

「ふむふむ。成程成程」

完璧にどこぞの馬鹿町だ…………………!
まさかここまで推測していたのが当たるとは…………………俺の心眼も馬鹿にはならんな
まぁ、わかりきっていたことだ
明らかに雰囲気を変えた高町を見ていてわからない方がどうかしている
最も、もっと深い意味で理解しているのは精々、俺とすずかと高町家の武闘派連中だけだろう
いや、高町母もわかってそうだが
となるとやはり高町もイタイ子(魔法少女)の仲間入りか
今度から、少し距離を開けなくては
まぁ、別にどうでもいいけど

「で、それは障害となり得るのか?」

「…………………今のところは大丈夫。戦ってみたけど、彼女は魔力は凄いけど完璧な素人だった。見たところ遠距離専門。つまり、砲撃魔道士。威力は凄いけど----当たらなければ大丈夫」

「ふぅん」

砲撃魔導師ねぇ
どうやら、あいつはとことん高町家の遺伝子を継いでいないらしい
まぁ、近接に適した魔法使いであったとしても、あの運動神経では無理だろう
せめて少しは運動をしていたら、才能とは別に鍛えられていただろうけど
そういう意味では運がいいのか

「まぁ、俺が知ったところでどうなるというわけではないか。それに魔法については俺は素人以下だ」

「う、ううん。そんなことはないよ。い、いざという時に相談するかもしれないし…………………」

「…………………魔法について全く知らない俺がどうやって戦術に口出すというのかね」

そうするとわたわたし出す彼女
相変わらず超がつくぐらいお人好しだ
俺がこんな風に自分を卑下するような事を言えば、このように何故だか知らないがフォローしようとする
この少女は優し過ぎるし、素直すぎる

まったく、傑作だな…………………

ここまで純な少女はこの現代には希少種といってもいいぐらいだ
それをいうなら俺の知り合いたちもそうなのだが
ベクトルは違うというか、何と言うか
俺の周りはこんなのばっかりだ

「まぁ、本題に戻そうか。他にジュエルシードの当てはあるのかね?」

「え?あ、うん。今度はちょっと遠そうだけど。大体の場所の当てはある…………………」

「そいつは重畳。先行き明るい事だ。出来ればこのまま行ってもらいたいものだ」

「うん。そうだね」

テスタロッサは苦笑しながら、笑った
俺はいつも通り笑わなかったが
それにしても
初対面の印象とは違って、結構楽しそうに笑う
最初は人形みたいな少女というのがイメージだったが
今はどこにでもいる少女だ
素はこうなのか
それとも彼女が変わったのか
まぁ、別にどちらであってもいいのだが

「とりあえず、うっかりをしないようにな」

「うん。あ、だから、次会うのは少し後になるけど…………………」

「ああ、わかった」

だけど
この会話は無駄になる
それについてはまた少し後の話














プルルルル、プルルルル、プルルル

おや、電話か
珍しい
固定電話が鳴るのはかなりの珍しさだ
最近は携帯という文明の機器が成長しているのだから
それにしても面倒だな
無視したら、その内止まるだろう

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル

…………………………ストーカーレベルの嫌がらせだぞ

だが、しかし
こういうのは取ったら負けというのがルールなはず
ならば、もう少し辛抱を

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル

…………………………すいません、無理です
というか家の電話ってこんなに長くかけれましたっけ?

「はい、もしもし。斉藤です」

『いきなり偽名を名乗るとはいい度胸をしているね、慧君』

「人違いです」

がしゃん
俺は一瞬で受話器を置いた
ふぅ、さて
今日は何をしようかな
暇つぶしにヨガのポーズでもしとくかな
と計画をしていたら

プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル

また電話が鳴った
溜息を一つつく
そして、再び電話を取る

「はい、もしもし。後藤です。ストーカーなら訴えますし、セールスならお断りです」

『その前に君が今までしてきた悪行を裁かれる方がいいだろうな』

「何を言いますか。間違え電話の癖にそんなことを言うとは----人としてどうかと思うがね」

『そっくりそのまま返させてもらおう』

「残念ながら返品は受け付けていません」

『君の存在を地獄に返品というのはどうだろうか』

「お生憎様。俺はどうやら地獄には嫌われているようなので、きっと返してはくれないでしょう」

『君のその減らず口にはある意味尊敬するよ』

「そいつはどうも。名も知れぬ人。ということで要件は聞き終わったので、切ってよろしいでしょうか?」

『まだ、本題にも入っていないのだが』

「いえいえ。知らない人の話は聞いてはいけないというのが世間一般の常識ですから」

『ほう?君が世間一般の常識を語るとは。君も遂に末期かい?』

「何を言いますか。この親馬鹿野郎殿。俺はこの世の誰もが認める常識人だぞ」

『はっはっは、戯言は常識を語った後に言うべきだぞ。とりあえず本題に入らせて貰おうか』

「はっはっは、聞く気はご---」

『旅行に行こう』

「ストーカーについて行く趣味はありません」

がしゃん
再び受話器を置く
さて、今日はセ○ィロスを打倒するか
そう思っていたら


極寒の殺気を感じた



思わず振り向く
体の細胞一個一個が臨戦態勢に入る
更には喉が一気に乾く
でも、そんなことを気にしている暇など一切なかった
何故なら


刀を持った高町父が思い切り、突きでドアを破ってきたのだから



ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
という音が辺りに響く
でも、そんなことに意識を裂いている時間など欠片もない
今は

何故こんなことを!!

「よくも俺のドアを!!俺の心が済むまで弁償してもらうぞ!親馬鹿変態め!」

「言うべきセリフと隠すべき本心が違うと思うぞ」

答えなど聞いている暇はない
今はとりあえずするべきことをしなければいけない
とりあえず
直ぐ近くに置いておいた三本の包丁を指で掴みそのまま投擲
ヒュゥ!と風を切り裂いて彼の体を貫く
などということはまったく起きず
高町父は必要最小限の動きで躱し、切り払う

「己!ス○ロボ並みの切り払いのスキルを得ているとは…………………………!流石は御神の剣士!」

「否!それでこその御神なのだよ!」

減らず口を叩きながら、俺はそのまま背後に跳躍
そこを直ぐに高町父の刀が一閃
勿論、必然だ
普通なら俺は今の動きは避けれなかった
後、『一歩』進んでいたら、俺はお陀仏だっただろう
だが

「くっ!慧君!君は何時の間に暗器術を覚えた!」

「あんたたちといたら嫌でも」

そう
さっき俺は包丁を投げていた
だが、その時
置いていたのは『三本』だった
だが、俺が投げたのは『二本』
つまり、そういうことだ


二本は投げ、本命の一本はなるだけ隠したのだ
この為に


幸いなことに俺は今は長袖だったので、一瞬だけなら隠せた
そして、跳躍しながら高町父の足元を狙った
それ故に高町父は一歩を踏めなかった
最も、これ以降はどうしようもないのだが

「止めだ…………………………御首頂戴!!」

「ちぃ!ここまでか…………………………!」

結局
今の俺にはほんの数秒逃げるのが限度
能力も
経験も
技術も
体も
何もかもが負けている
勝てるとしたら若さだけなのだ
この後
直ぐに俺の意識は闇に落ちる














「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

起きてみたら俺は知らない車に乗っていた
…………………縛られて

「あ、起きた」

「起きたわね」

「起きたね」

「起きたんか」

その後に来たのは不愉快なノイズ
成程
状況の理解は完璧だ

「早く悪夢から覚めなければ…………………こんな悪魔に囲われている世界にいたら魂がいくらあっても足りないぐらいの拷問が待っている…………………!」

「…………………へぇ、殊勝ね。貴方の今言ったセリフを有言実行させてあげましょうか?」

「アリサちゃん、駄目だよ。慧君の狡猾な罠にはまっているよ。そのままだと私達が悪魔だと認めることになるよ?」

「あ!?ほ、本当だ!!」

「流石すずかちゃんや!私達が気づかへんかった事に気づくなんて…………………流石慧君の本妻ぐふっ!!」

「もう、やだ!はやてちゃん!そんな本妻だなんて…………………まるで他にもいるみたいな言い方」

「やだ、すずか…………………最後だけ能面のような顔で呟かないで、怖いから」

「そもそもだ。俺はすずかを本妻にした覚えも、他にもいる覚えもないのだが」

「「「「外野は引っ込んでて(でなさい、んや)!!」」」」

「貴様ら…………………この!俺に挑発とは…………………覚悟はできているんだろうな?」

「ほう、その縛られた状態で何ができるのかしら?」

「この逞しい面構えで煩殺」

「死になさい」

「それでここは…………………ああ、思い出した」

旅行で行くという事は
とりあえず海鳴ではないだろう
はぁ
面倒臭い















「へぇ、結構いい旅館ですね」

「だろ?休養になるのは確かだろ?」

「はっはっは!もっと父を褒めるがいいこぷっ!」

「おっと、石鹸が滑った」

「おっと、桶と高町父秘蔵の写真が滑った」

「貴様ら!年上への敬意とかそういうのがないのか!?」

「貴方のどこに尊敬するところがあるのか五文字以内で答えてほしいですね」

「同感だ」

「無論全身だ」

「むかつくことに五文字は出来てやがる」

「しかし。それだと性格の部分は褒められないと自覚しているのだな父よ」

「OK。その恰好のまま表に出ろ」

「さて、体も洗ったし、本命の風呂に入りますか」

「うむ」

「…………………………ここまでの仕打ちは久しぶりだぞ」

結局
無理矢理拉致されて旅館に泊まるおことになった
傑作とはまさしくこの事だ
これで高町父や高町姉、恭也さんがいなかったら、とっくの昔に逃げていた

『わーーー!大きいお風呂!』

『本当ね~。いいお風呂だわ』

『ふっふっふ。旅行を楽しみにした甲斐がありましたね。はやてちゃん、お風呂に入るよ』

『お願いします~。はぁ~極楽極楽~』

『はやてちゃん、おじさん臭いよ?』

『ふっふっふ。まぁ、桃子さんもみんなが喜んでくれて嬉しいわ』

『にゃはは。気持ちいい~』

OK
俺はここを離脱するべきだと俺の戦闘経験が叫んでいる
嫌な予感に逆らわず自然な感じで、風呂から上がろうとする
恭也さんも似たような考えに到ったのか
同じタイミングで立とうとする
その肩に
ガシッと高町父の手が乗る
万力の如く
ここからは視線での会話

離せ、殺すぞ

父といえども容赦はせんぞ

盗聴するぞ。後、覗くぞ。後、やれるものならやってみな

一瞬
恭也さんと目配せして
アクション
俺は男の急所を
恭也さんは避けずらく、そして人体急所の脇腹を
全部逸らされた
ちっ!

こんなところで無駄なパワーを見せるんではない!
その若さは桃子さんと一緒に発散してくれ!

以下同文だ!

あっはっはっは!俺と桃子はいつもハッスルさげふっ

あれ?
何故か上から桶が落ちてきたよ?

「士郎さーーーーーーーん。何だか変な感じがしたので桶を投げましたが?」

「それだけで投げたのか!?高町母!」

「落ち着け慧!!母さんと父さんのラブラブ度は既に人体のレベルを超えているのだ!!」

「ぐっ、そ、その通りだ!俺と桃子の愛は固有結界どころか他人すら侵食するぞ!」

「傍迷惑この上ないわ!!」

とりあえずもう一度視線での会話に戻る

とりあえず聞きます----正気ですか?

無論----正気だとも

一応聞くぞ父よ。あのメンバーにそんなことをすると----輪廻転生を何回するかわからないぞ

恭也よ
それは命はご勘弁出来ないと断言しているぞ

そういうことなんですよ。高町父
認識が甘いぞ

お互い視線でのやり取りで静かに会話を進行する
何故こんな技能を持っているかだと?
逆に聞くが、持っていたら物凄い便利だぞ
そう思っていたら

『じゃあ、コイバナをしましょう』

物凄い不穏当な発言を月村姉が提案した
再び逃げようとする俺と恭也さん
それを捕まえる高町父
暫し、乱闘が続く
そんなことを気にせず会話が続く

『じゃあ、まずは…………………アリサちゃんから言ってみよう!』

『は?な、何でですか!こ、こういうのは経験者の忍さんか桃子さんかすずかの方に行くべきです!』

『そ、そんな経験者だなんて…………………いい』

『すずかちゃん、不穏当やで』

『だって~。私や桃子さんやすずかじゃあわかりやす過ぎで面白くないでしょう?だから、今回は今のところはっきりしていない人に集中しようかな~って忍ちゃんは思ったわけよ』

『お、横暴です!じゃ、じゃあ、先に聞きます!どうして恭也さんや士郎さんや風雷を好きになったの!?』

『恭也だから』

『士郎さんだから』

『慧君だから』

「「俺もだぐぷっ!」」

咄嗟に俺が殴らなければやばかったかもしれない
流石は俺

『はい、質問に答えたわよ、アリサちゃん。さぁ、答えを。ハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリーハリー!!!』

『せ、急かさないでください!きゅ、急に言われても…………………』

『ふむ。それもそうよねぇ~。じゃあ、好みのタイプを聞かせてよ』

『た、タイプですか…………………そうですねぇ…………………とりあえず馬鹿な男は嫌です』

『率直ねぇ…………………』

『あ、あの、頭が悪い意味で馬鹿って言っているんじゃないですよ』

『わかってるわよ。性格的な意味ででしょ』

『はい』

『まぁ、それはよくわかるわ-----さて、次はもっと本格的にね』

『手厳しい!!?』

『じゃあ、まずは年齢』

『出来れば同年齢で…………………』

『背』

『高めで』

『顔』

『顔も大事ですけどやはり性格ですかね』

『頼りたい派?頼られたい派?』

『どっちともですかねぇ』

『ふむ、なるほど』

そこで月村姉は納得したのか
少し会話が止まる
だが、直ぐに始まる

『じゃあ、次はそこで逃げようとしているなのはちゃん』

『にゃ!ば、ばれました!』

『逃げたらそのタオルを剥ぎ取って男湯に投げ入れるわよ』

『じょ、冗談ですよね?』

『……………………………………………………(じり)』

『わかりましたから、にじり寄らないでください』

『わかればよろしい』

『でも、私もそういうのはよくわからないんですけど…………………。強いて言うなら、さっきのアリサちゃんへの質問の一部を変えるぐらいです』

『どれかしら?』

『お母さん…………………娘のこういうところだけ食いつかないでよぉ…………………』

『あら?お母さんも知りたいのよ』

『うう…………………』

『で、どれかしら?』

『ええと…………………出来れば私は頼れる人がいい…………………』

『成程ねぇ』

また再び会話が少し途切れる
とりあえず隣で

「なのは…………………お父さんは頼れるぞ」

とか

「我が妹よ…………………そんじょそこらの男を連れてきても許さないぞ」

とか言っている親馬鹿とシスコンをどうしようかと本気で悩む
悩んでいるうちに再開

『じゃあ、最後のはやてちゃん』

『どんと来てええでーー。忍さん』

『…………………流石ね、はやてちゃん。このメンバーで二番目にポーカーフェイスが上手いわ』

『…………………一番目は?』

『桃子さん』

『白旗』

そりゃそうだ

『で、はやてちゃんの好みは?』

『そうやなぁ。確かに聞かれるとわからんもんやなぁ…………………』

『じゃあ、身近な例だったら?』

『身近な例やったら…………………慧君し-----』

『あげないよ!!!』

『最後まで言わせてーな』

というか
俺はお前の物ではないぞ
すずかよ

『そういえば、すずかは慧君のどこが好きなの?』

『どこがって!?全部だよ!!強い所も弱い所も手加減がない所も容赦がない所も遠慮がないところも無慈悲なところも冷酷なところも残酷なところも残虐なところも無表情なところも毒舌なところも背が普通なところも戦っているところも口では何とか言いつつも微妙ーーーーーーーーーーーに優しい所も偽悪なところも欲深い所もかなりのネガティブ思考な癖に微妙なポジティブ思考なところも口癖が別にどうでもいいと言うところもなのはちゃんを虐める時は凄い楽しそう?なところも士郎さんに負けて気絶したときに見れる可愛らしい寝顔も私が少し積極的にやろうとしている時に逃げ出そうとする愛らしい所もどれだけやられても不屈な精神で逃げるところもタイムセールスに負けた時悔しそうに俯いているところとか全部大好きなんだよ!!!!びっくりマークを遠慮なく使いたいぐらい大好きなんだよ!!!!!大事な事だからもう一度言うよ!!大好きなんだよ!!!!!!!!』

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………愛ってこえぇ

暫くすずかには触れないでおこう
野郎二人の生暖かい目線がうざかった



あとがき
今回はあんまりネタに走れなかったです




[27393] 第二十一話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/06/26 19:07

怖い怖い温泉から上がり
しかし
俺達はかなりの緊張感を感じていた
流したはずの汗が流れる
さっきから心臓(命)の胎動が煩い
手が震え
足が震える
頭が異常事態に陥っているせいか
視界が赤い
更には視野狭角まで起こしている
見れば周りも似たようなものである
誰もかれもが俺と似た様子だった
違うのは高町母だけだ
この状態を笑うとは
レベルが違う
歴戦の勇者である高町剣士組でさえ強張っているのに
誰もが自分の為に戦っていた
裏切り
罵り
騙し
敗北させ
勝利する
そこにはただ単純な構造
原初の時代からあった弱肉強食
弱いものが強いものに喰われる
最もシンプルで
最も正しい世界のルール
ただそれだけが、この場を支配していた
俺はただ恨んだ
この状況を生み出した物を
それは

卓球だった

……………………………………………………前にもこんなことがあったような?

切っ掛けは些細な事だった












「さて、風呂も上がり、コーヒー牛乳も飲んだことだし」

「美少女&美女の艶姿も見れたことだし、やることはただ一つ」

「卓球をしましょう」

上から月村姉、高町父、バニングスの順番だ
というかバニングスよ
その年でその二人とタイミングを合わせるとは…………………人間を止めてきたね?

「「「失礼ね(だな)。私達は(俺達は)あんた(貴方、君)程人間を止めてないわ(止めてない)!」」」

「…………………お前らが言うか」

吸血鬼(本物)に御神の剣士(常識外)にバニングス(非常識の代名詞)
見事に人外の代名詞が揃っているではないか
常識人は俺一人

…………………いつから、ここは人外魔境になったのやら

「…………………今、物凄い、慧君にツッコまへんといけない気がしたで?」

「何を言う狸。存在そのものがツッコミ待ちの貴様にそんなことを言われる理由はないな」

「…………………そろそろ決着を着ける時やなぁ。その誤解の」

「貴様、人語を解するでない。たかだかイヌ科の哺乳類の分際で粋がるでない。身の程を知れ。というかとっとと二足歩行に帰れ。そして野生に帰れ。そして喰われろ」

「…………………これって十分に殺人が起きてもいい状況やなー?」

「落ち着いてはやてちゃん----慧君相手に生半可な計画と殺意は通じないよ」

「…………………………卓球の話の戻ろうよ」

「おーー。何か卓球のラケットが勝手に動いているぞ~」

「へぇー……………………………………………………ってそれは心霊現象じゃないの!?」

「「「「「「へ?」」」」」

「待ちたまえBOY&GIRLS」

「手品でしょう?」

「映写機があるんじゃないですか?」

「磁石ちゃうんか?」

「違うよ。きっとこの場所が軽いものは浮くような特別な力場を用意しているんだよ」

「えーーー。きっとあれだよ。風の力だよ~」

「何てリアクションが軽いお子様だ…………………」

「…………………理由の大半は忍。お前の面白愉快なスーパー科学のせいではないか?」

「…………………昔のお化けを怖がっていたなのははどこに行ったのだろうか」

「きっとお化けを怖がっていた時期よ、士郎さん」

ぐだぐだだなぁ
いつも通りだけど

「ふーー。まぁ、いいわ。風雷。ちょっと付き合いなさい」

「トイレに?」

「別にいいけど----その瞬間、貴方はすずかにヤられるわ」

「肝に銘じておこう」

「…………………いや、トイレに付いていくこと事態を否定してへんで」

「時々慧君は警察に行って裁判を受けて有罪を受けて電気椅子を受けるべきだと思うんだよね」

「時々すずかちゃんは慧君の事を本当に好きなのか疑問に思う事があるなの」

「…………………これって本当に小学生の会話かしら」

「…………………言うな」

まったく話が進まない
これでは何の提案をしていたのかわからなくなる

「だから、卓球の相手をしてって言ってるのよ」

「別にいいが----倒してしまっても構わんのだろう?」

「ほう-----私相手にそのセリフ。吐いた唾は戻せないわよ」

「では、君の敗北に賭けよう」

「慧君、思い切りパクリ」

「でも、それがちゃっかり似合うのはなんでなんや…………………」

「上等だバニングス-----お前がMに目覚めるくらい叩き潰してやる」

「卓球でどうやってそんな事が出来るか解らないけど、口先だけなら誰でも言えるわよ」

「そしてアリサちゃんは見事に悪役をこなしている」

「あらあら、仲がいいわねぇ」

「俺と桃子の関係程ではないけどなーーーーーーーーーーー!!」

「私もよーーーーー!!士郎さーーーーーーーん!!」

「恭也!!私達も対抗しよう!!」

「…………………無茶を言わないでくれ」

外野は無視しよう
それに俺達はこうは言っているが、そこまでやる気はない
精々遊ぶかーー程度である

「じゃあ、私から先制でいい?」

「どうぞ」

バニングスがラケットを構え、球をほんのちょっと宙に投げる
その間に会話が聞こえた
それが切欠であった

「それにしても普通に卓球するのは面白くなくありませんか?」

「まぁ、一理ありだな」

「そうねぇ」

高町母の言葉が聞こえる
地獄への誘いの声が

「じゃあ、負けたら罰ゲームっていうことで」

「そぉい!!」

「そうりゃああ!!」

さっきまでのほのぼのとした雰囲気はどこにいったのやら
お互い全力投球
お互いの身体能力と技術が許せるレベルのラリー
すなわち

遊びのレベルではない

「っしゃああああああああああああああ!!貰った!!」

「ちぃぃ!!やるじゃない!!」

一点リード!
このまま切り抜ける

「調子こいてんじゃないわよ!!」

「かかってきやがれ三下!!」

「何だか無駄に熱いね」

「それが罰ゲームのせいやなかったらかっこいいんやけどな~」

「駄目だよ、はやてちゃん。それを説明しなきゃ誤魔化せるかもしれないのに」

さぁ、次は俺のサーブだ!!
行くぞ!!

「慧君!得意料理は!?」

「生麦生米生卵!!」

「アリサちゃん!!もう一度聞くけど男の好みは!?」

「どこぞの螺旋○!!」

「それって早口言葉だよね!!」

「アリサちゃん!!さっきは馬鹿が嫌いって言ってたけど、熱血馬鹿は好きなんか!?」

「というかはやてちゃんになのはちゃん。脊髄反射で二人の集中を散らそうとするなんて…………………高町&風雷症候群の第二期に突入しちゃったのかな?」

「失礼な!風雷症候群の末期レベルに堕ちているすずかちゃんに言われたくないよ!!」

「褒め言葉だよ-----でも、なのはちゃんは貶し言葉で言ったから卓球殺ろうか」

「しまった!?墓穴を掘りぬけてしまったなの!!」

「なのはちゃん…………………リボンは拾うで」

「そこは本体を拾って欲しいなの~~~~~~~~~~~~~~~」

白熱していくバトル
ちなみに八神は

「な、何でや!!足が動かへん私が何故やらなきゃいけへんのや!!」

「はやてちゃん…………………自分の障害を理由にやらないっていうのは駄目だと桃子さんは思うの」

「せ、正論や…………………ここで慧君みたいに暴論を出してくれたら逃げれたのにここで正論…………………実はこのメンバーで一番酷いのは…………………」

「大丈夫よはやてちゃん-------足は美由希がやるから」

「ごめんね、はやて------私、まだ生きたいの」

「御神の剣士やのに家族を売るんかーーーーーーーーーー!!」

そこら中で発生する悲鳴

「父よ…………………今こそ超えさせてもらおう…………………!」

「はん!まだまだ青いな、恭也。その程度の啖呵しか言えないのなら、底が知れるぞ」

「言ってろ!父はいずれ息子に超えられる立場だ!!」

「確かにそれは認めよう------しかし!!桃子への愛は超えさせないぞ!!」

「それは心底どうでもいい!!」

「何だと!!?桃子への愛がどうでもいいだとぅ!!!」

「士郎さん。凄い自己完結だね」

そこら中で発生する修羅場



ああ
この場に平和的な解決を促そうとする者がいない…………………!



結果
風雷慧VSアリサ・バニングス
勝者 風雷慧

「かはは、傑作だぜ」

「…………………今度はぜ○りん?」

月村すずかVS高町なのは
勝者 月村すずか

「今度から相手を見ようね」

「確かすずかちゃんが無理矢理やらせてたよね!?」

高町桃子VS八神はやて
勝者 八神はやて

「あ、あれ?わ、私、勝ってい、る?」

「若い子は凄いわね~~」

高町士郎VS高町恭也
勝者 月村ファミリー(原因は最終的にラケットでの果し合いになり、仲裁したノエル&ファリン&忍に止められたため)

「ぐ、ぐふっ。ろ、ロケットパンチだと…………………」

「そんな漢のロマンを…………………避けられるわけないではないか…………………!」

「「…………………………申し訳ありません」」

「やっぱり、科学者は夢追い人じゃなきゃね☆」

色々とろくでもない結果だ
それにしても八神
やるな
まさか、足が動かない状態で高町母に勝つとは

「さ~て、運命の罰ゲームの時間だよ~。敗北者の皆さん」

「「「「くっ!!」」」」

「あらあら」

((((((…………………………この人には勝てない))))))

誰もが高町母に勝てない
そう改めて思わせる余裕の笑顔であった

「じゃあ、まずはアリサちゃんね」

「任された」

「ちぃ!何よ!今更怖いものなんてないわ!」

「(無視)そうだな…………………………ここは思い切ってバニングスのキャラを壊そう」

「は?」

「そのお嬢様キャラを捨てて、元のすずかみたいな清純キャラになれ」

「!!!何て理不尽な!私に自分を捨てろと申すか!!」

「アリサちゃん。既に壊れ始めてるよ。そして------まるで今の私は清純じゃないみたいな言い方をされたような気がしたような…………………」

「さぁ、とっととやろうか」

「う…………………わ、わかったわ…………わかったよ」

「おやおや、それだけではわからないな」

「くっ…………………わ、私は別に何もしてないよ(精一杯清純の振りをしている)」

「「「「「「「「「「……………………………………………………」」」」」」」」」」

「な、何かな?」

「…………………バニングス------すまない」

「な、何で今までにないくらいマジトーンで謝るの?」

「……………………………………………………ごめん」

思わず謝ってしまうくらいだった
キャラが立っていない
そう
あのバニングスのキャラがだ
謝る理由は十分だった

「さ、さて、次はなのはちゃんね」

「う、うん」

「じゃあ、ミノムシの物まねでもしてもらおうかな?」

「ミノムシの物まねってどうやるの!?」

「そこはなのはちゃんのイマジネーションで攻略だよ~」

「やったとしても恥辱プレイだよ!」

「な、なのはがそんな言葉を知っているだなんて……………………………………お父さん悲しい!」

「お父さんは黙ってて!!」

「ふぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「!なのはちゃん!あれだよ!!あの士郎さんの悶える姿!あれを真似たらいけるかも!!」

「そ、そんな!嫌だよ!!お父さんの物まねなんかしたら、なのは、変態扱いされちゃう!!」

「さり気なく酷いけどそこは無視するね。でも、罰ゲームを無視したら------スィートルーム逝きかもしれ------」

「私!頑張るよ!!」

「素直ななのはちゃんが私は一番好きだよ」

そこからは描写できない
ただ、言わせてもらおう
思わず八神が関西弁を投げ捨ててしまう出来事であったという事を

「…………………次は桃子さんね。はやてちゃん…………………さよなら」

「止めてぇな!!そんな今生の別れみたいなこと言わんといてーな!!」

「あらあら忍ちゃんは後で『お話』をしましょうか」

「恭也…………………ごめんね。私…………………帰れないよぉ…………………!」

「忍ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「…………………どないしょ」

「(にこにこ)」

「眩しい…………………!この笑顔が眩しい…………………!」

「あらあら、別に罰ゲーム的なものじゃなくていいのよ」

「え…………………そ、それなら」

「うん。何かしら?」

「お、お、お義母さんって…………………呼んでいいですか」

「喜んで」

「お、お義母さん…………………」

「ええ」

「…………………あれ?ホームドラマが展開されている?」

「はやて!俺の事はパーパと呼んでもいいのだぞ!!」

「じゃあ、俺の事はにーにか」

「じゃあ、私は----」

「は、恥ずかしいですよ!!」

「「家族だから恥ずかしくなどない!!」」

「…………………このセリフ。シリアスと取るか、ギャグと取るかで印象が変わるな」

「風雷、君。空気を読んだ方がいいわ…………………いいと思うよ。せっかくいい雰囲気なんだ…………………いい雰囲気なのに」

「どっちかと言うと必死に頑張るアリサちゃんが健気過ぎて顔を合わせられない」

「騙されちゃ駄目だよ、アリサちゃん。今、すずかちゃん。物凄い良い笑顔をしているから」

罰ゲームなのに意外と良い展開になる高町家

「さ~て♪最後は士郎さんと恭也ね」

「「くぅっ!!」」

「そうねぇ…………………いっそ逆にしてみよう。士郎さん-----なのはちゃんを嫌いって言ってください」

「な!!忍ちゃん…………………君は今、どれだけショッキングな事を言っているかわかっているのかい?」

「大丈夫です。私には何の影響もないので」

「泣くぞ。いい年したおじさんが物凄いマジトーンで泣くぞ。しかも、絵もマジになって泣くぞ。将来のお義父さんが本気で泣くぞ?」

「その苦しみは全て慧君にぶつけて下さい」

「あの悪魔小僧のせいかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「んん?何だか殺気を感じるぞ」

「慧君。今のうちに遺言と生命保険に入っておいた方がいいと思うよ」

この後
俺は高町糞父に気絶されたので知らないが、罰ゲームを棄権した高町父は高町母のスィートルームに連れられたらしい
え?ここは高町家ではないではないかってか?
馬鹿だなぁ
あの人に常識が通じると思っていたのかい
ちなみに恭也さんの罰ゲームの内容を聞きたかったのだが、何故か聞かせてくれなかった
高町母曰く
大人の事情よらしい
よくわからんものだ

「………………………………………………………………………………あれ?私の出番は?」

頑張れ
高町姉
負けるな
高町姉
きっと、誰も貴女を応援していない

「ひど!!」
















あの後
結局その場の流れで流れ解散になった
俺は結局汗を流したのにかなりの汗がべたついた状態になってしまったので風呂に再び入ることにした
すずかに気づかれないように来るのは大変だった
女って怖い

「はぁ、まったく、最近は周りが騒々しい」

独り言を吐きながら、服を脱ぐ
ちなみに何故か俺の着替えは用意されていた
何でも高町母が俺のサイズにぴったしのを造っていたらしい
何時の間にサイズをしられたのだろうか
まぁ、あの人だからな
ある意味○EY作品の奥方たちにも負けない個性を有しているからな
何が出来てもおかしくはない


昔の妄言(高町家は魔窟と言ったこと)は皮肉でもなく事実だったのか…………………………


我ながら冒険をしているものである
いよいよ逃走の準備をしなくてはいけないかもしれない
などと考えながら風呂へのドアを開ける
がらりと音を響かせ
俺は中に入る
むわっとした湯気が顔に当たる
脱衣所でもそれとなく見たが、運がいい事に誰もいないらしい
日頃の行いのおかげだろう
ちゃんとゴミ掃除(八神退治)をしといたのがよかったのかもしれない
これならば、多少のマナー違反も免れるだろう
シャワーとかなら、卓球の前にしたのでただ風呂に入りたかっただけなのである
風呂は命の洗濯とはよく言ったものである
俺の今までの疲労も選択してくれそうだ
ここに無理やり連れられたという疲労は洗い流せそうにないが
まぁ、この風呂で二割ぐらい許してやろう
さぁ
風呂に入ろうぞ
と思っていたら


チャプと
風呂の水が揺れる音が



ありゃ
先客がいたのか
まぁ、別に脱衣所の中にある加護の中を全部覗いたわけではないので、もしかしたら、誰かがいるという可能性は十分にあった。
だから、別に驚くことではない
強いて言うなら
多少のマナー違反を見逃してくれる頭が柔らかいお客さんであることを祈りたい
いい加減
体の汗の感触が気持ち悪い
目を瞑ってもらおう

「すいません。入らせてもらい、ま、す?」

風が吹いた
そのお蔭でさっきまで薄ぼんやりとしか見えなかった相手の姿が見えるようになった
不幸にも
湯気が少し晴れた
その先には


美しい
金色の髪を持った
天使と見間違うぐらい
可愛らしい
少女が
裸で
お湯につかっていた



少女もこちらの存在に気づいていなかったのか
大きな瞳をパチクリと更に大きく開けている
その瞳は赤く
顔もお湯につかっているためにほんのり赤く染まっている
しかも、その顔はかなりの美少女
絵画レベルの神聖さを感じてしまう
まだ未成熟ながらも素晴らしいと言わざるを得ないだろう
そう
一つミスがあるとしたら
この場面を見ているのが芸術家、もしくは女の人ではなく
どこにでもいる男子小学生であることだろう
しかも、相手が既知の存在であることを言い訳を難しくしていることだろう

「え?ケ、イ?」

「………………………………………………………………………………いやいや、俺は慧などと言う名前ではありませんよ。マドモワゼルテスタロッサ」

「…………………………私の名前」

「……………………………………………………ジーザス」

何ていう初歩的なミスをしてしまったのだろう
我ながら最悪だ
意外と自分は困惑しているらしい
咄嗟の事態における思考の纏め方を修行することを次の課題にしておこうと心のメモに書きまくる
まだまだ修行が足りない
体も
心も
気力も
宿題は山ほどあるなぁ
そうやって下らない事を考えて現実逃避をしていると
テスタロッサは偶然か知らないが
自分の体を見る
そう
何の服も来ていない
生まれたままの姿を晒している自分を

「…………………………!!!!」

バッと体を両手で隠す
ボッと顔が赤く燃え上がる
しかし、悲しいかな
いくら小さくとも
どれだけ両手で体を隠そうとも
その細い両手では隠しきれないぐらい
体というのは大きなものなのだ
不幸中の幸いと言うべきか
湯より下の方は見えてなかったのが救いであった


NICE湯
NICE湯煙
お前たちは最高に空気を読んだぞ…………………!



バチィ!!
ん?
何だろう?
このスパーク音は?
まるで、そう
電気が弾けた音と言うべきか
静電気と言うべきか
そう言ったものが弾けたような音が聞こえた気が

「う、う、ううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「ま、待て待て、テスタロッサ!!一般人に魔法を使う気か!!うぉっ!幾何学的な紋様が…………………!そしてスパーク音が強烈に…………………!ちょっ、待て!ここが風呂場だぞ!!水が大量にある場所だぞ!!漏電なんか簡単に起こる場所だぞ!!そして、あれ!?確かここは男湯だったはずだぞ!!?そして、たかだか裸を見られたぐらいで、そこまで怒ることは-----」

「うぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

どうやら最後の言葉が止めだったようだ
テスタロッサを中心に雷が走る
勿論、ここは風呂場
水は風呂に入っているテスタロッサは当然
俺の足元も水で濡れている
つまりだ
雷は俺の元まで届く
これで俺がベストコンデション
つまり
いつもの調子であったら、逃げられただろう
上空に飛んで逃げることなど簡単だ
しかしだ
俺はつい、さっきまで
バニングスとやらと卓球をしていたのだ
疲労は結構ある
それがなくても長旅の疲れとやらが知らぬ間に体に蓄積されている
つまり
結局は
結論は一つ
時の流れとは残酷だという事だ

「しびればびれぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

俺の儚い悲鳴が世界に刻み込まれる
まさか俺がこんな二流のお笑い芸人みたいな悲鳴をあげるとは
世も末だ
そして
これが俺が初めて見て
初めて受けた魔法とは
子供たちの夢が壊されるね

そうして
俺の
意識は
闇に堕ちた
ギャグ的に
今回はこんなんばっかだ









あとがき
何だかすずかの性格が完璧に壊れています
作者もここまで壊れるとは思っていませんでした
え?
アルフとの遭遇シーンはって?
やだなぁ
あのアリサ・すずかメンバー相手にそんなことが出来るとお思いですか?
アルフは賢い獣です
恐らく
野生の本能で危機を察知したのでしょう
大したものです
え?
ユーノは?
血圧測定器に押しつぶされているでしょ
はっはっはっはっは
そういえば
皆さんに聞きたいことがあります
皆さんはこの作品でどういうところが笑えるのですか
是非とも知りたいです
出来れば、教えてください
今後の参考にしたいと思います





[27393] 第二十二話
Name: 悪役◆8e496d6a ID:2d3d82d8
Date: 2011/07/01 21:19

ふと
地獄アカイ夢を見た
地獄の業火から逃れるすべはなく
罪の重みからは逃れず潰れる末路
己が声によって作られは消える悲鳴の合奏
事実
その場所は地獄であった
嘆きは嘆きでしかなく
祈りは祈りでしかなく
希望は希望でしかない
涙はただ流れ、枯れ果て、蒸発する
それらは絶望の先でしか生まれないのだから
根源が闇ならば
それらは闇に還るしかないのだから------
ああ
それは何て


虚しいクルシイ連鎖-----



救われない終わり
報われない終わり
地獄はこれらの結末を許容する
いや
もしかしたら、地獄でなくても世界そのものが許容してるのかもしれない
だから
この結末を
俺は一生記憶し、記録し続けなくてはいけない
忘れるな/忘れてはいけない
これが

■■■の罪なのだから

ふと
上を見てみる
そこにはとてつもない邪な気配
悪霊とはこういったものだろう
だが、正確にはソレは悪霊ではない
悪霊よりも数百倍の悪意の塊
ただ、人の魂を嗤いながら契約と言う名の強奪で奪い取る


悪魔なのだから



悪魔はただ嗤う
人の愚かさを
人の滑稽さを
人の迂闊さを
人の間抜けさを
ただ嗤う
三日月型に口を歪めて
心底愉快そうに










そして夢から覚める
目覚めは最悪
普段の何百倍の最悪さ
泥の中に沈み込んでもこの気持ち悪さは再現できないだろう
あの日以来
風雷慧の目覚めというのはこういうものになったのである
別にどうでもいい
それぐらいどうってことない
そんなことで堪えるほど、俺は弱くはない
ただ
少し寝苦しい
ここは余りにも狭い
少し広い場所に行こう
そう思い、布団を跳ね除ける
そこでようやく自分の状況を思い出す
そういえば、旅行に来ていたのであった
部屋が自分がいつも寝ている部屋よりも広い和室
そこら中に何故だか寝転がっている少女共
そういえば
寝る前に何故か俺の部屋はここだと伝えられたんだっけ
脱出を幾度も試みようとしたが
最終的にバニングスと相討ちになってそのまま気絶したんだっけ
あの拳
本当に素人なのか時々、疑問に思う
そして、今更気づいたが
何故か知らないが、すずかが俺のベッドに侵入してきていた
確か、最後の記憶ではすずかはもっと離れていたはずだが
寝ていたとはいえ、俺が気づかないとは

末恐ろしい子供だ…………………!


すずかの危険度レベルを三つぐらい上げとく
しかも、恐ろしい事に
この少女は俺の方に更ににじり寄ろうとしている
しかも!!

浴衣をはだけさせて…………………!


すずかの危険度レベルが右肩上がりだ
そろそろ命の危険レベルに達する
強くなろうと改めて誓う
そう下らない事を考えていたら気づいた
すずかはいる
バニングスはいる
八神はいる
高町は-----

高町はいない


「…………………ふぅん」

偶然とは恐ろしいものだと思う
まぁ、テスタロッサがいた時点でわかっていたが
それにしても
これは高町の幸運を褒め称えるべきか
高町の不運を嘆いてやるべきか
まぁ
どっちにしろ俺には関係ないが
とりあえず涼みに行こう
幸い
部屋にいるのはちびっ子達だけ
抜け出るのはたやすい
恭也さんや高町父、高町姉ならこうはいかなかった
最低な状況だったが
最悪な状況ではなかったというべきか
別に感謝はしないが
そうして
俺は部屋から抜け出た















何とかして屋上に上がる
山の上だからか、いつもより星空が見え、近い気がする
更には悪くはない風が吹く
これでいい女といいお酒があれば良しと大人の人は言うのだろうか
俺にはあんまりわからないが
この自然だけで十分だからだろうか
欲がない…………………何て解脱した仏僧みたいな事は死んでも言わないけど
単純に自分が子供だからだろう
どうでもいいことだけど
それにしても
海鳴も都会と言うわけではないけど
こういう山奥の風もいい
星空もいつもより綺麗だし
それにほら
何だか金色の光が流れ星みたいに落ちてくるよ
ははは、素晴らしいね~
……………………………………………………

「って、星落シぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

思わず叫ぶ
くっ
ほ、星が落ちてきたとき、一体どこまで逃げればいいのだろうか?
そんなこと
WIKIPED○Aにも載ってないぞ!!
あああああああああああ
どうする、○イフル!!

「え、え~と、ケイ。私だよ?」

「くっ!遂に幻聴まで聞こえたか!それとも走馬灯か!?どっちにしろBADエンド確実ではないか!!」

「お、落ち着いて……………」

「大体、俺の脳は一体どういう風に考えたら星が喋るって考えられるんだ!我が脳みそながら物凄く凄いぜ!流石は俺!世界を狙える頭脳だね」

「け、ケイ~。落ち着いて~」

「ええい!さっきから物凄い甘ったるいボイスで囁きよって!!俺の心がそこまで落ちぶれていたのか!!」

「ど、どうしよう…………………」

「しかも、さっきから聞き覚えのある声。これは…………………風呂場で聞いたよう-----」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!推定二十万ボルト、とととととととととととととととととととととととととととととと!!!」

電気ショックを受けるのは初めて…………………とは言えないのが残念である
月村姉に感謝する気はないが電気体勢を付けてくれたことは助かった
じゃなきゃ、今ここで儚き命を散らしていたかもしれない


















「何だ、テスタロッサか。どうした?こんな時間に?」

「…………………地球の人って凄いんだね。魔法を喰らって直ぐに回復できるだなんて」

「なぁに。この場所で生きるにはこのスキルは必須スキルだよ。誇ることではない」

「わぁ!凄い!!」

わぁ
物凄いキラキラした目で見られている…………………
良心が
良心が痛む…………………!
や、止めろ!
見るな…………………!
そんな目で俺を見るな!

「??どうしたの、ケイ?」

「いや、何でもない。人の業の深さを改めて知っただけだ」

「????」

子犬みたいに首を傾げる
まったく、困ったもんだ
やり辛いというか
からかい辛いというか
その分からかい甲斐はあるのだが

「で、どうしたんだ?」

「え、あ、うん。この宿の傍でジュエルシードを見つけたの」

「なるほど。それで?」

「うん。それで、さっき、白いバリアジャケットを着た魔導師と戦って、ジュエルシードを一つ奪った」

「ほう、それは幸先がいいな」

「うん-----このまま万事上手くいくといいんだけど」

「それは誰もが思う初歩的な願望だよ」

「うん。そうだね」

そう言い
彼女は微笑み、俺の隣に座る
これが八神や高町ならとりあえずしばいているが、まぁ、テスタロッサだからなぁ

「…………………ごめんね」

「?何が?」

「だって、その…………………………友達なんでしょう」

「……………………………………………………友達かどうかは別として、何で知っているかっていうのは聞くまでもないか」

そりゃぁ、あんだけこの宿で一緒にいたら、嫌でも気づく

「うん。ごめんね」

「お前が謝ることじゃあないだろ」

「でも…………………ケイの知り合いを傷つけた」

「俺に謝ることじゃあないだろう」

「……………………………………………………」

はぁ
まったく真面目な事
それじゃあ、生き辛いだけだろうに
少しは人生手を抜いたほうが楽だという事は解っていることだろうに
それでも止めれないのがテスタロッサらしいというか
何というか
はぁ
本当に
かったりぃ

ポンと子気味良い音を鳴らして
彼女の頭に手を乗せた

「け、ケケケケケケケ、ケイ!!?」

「テスタロッサ。気をつけろ。その言い方ではまるで物凄い笑い方をしている怖い子供だ」

「え!?あ、う、うんうん!!」

「無駄に元気なうんだな…………………」

「いや、だって!」

「初心だねぇ…………………」

初期のすずかを思い出してしまったよ
何故、今みたいに汚れてしまったのか

……………………………………………………………………………………………………………………………………

あら、やだ
涙が流れてきそうだよ

「け、ケイ!どうしたの?そんな顔を押さえて…………………」

「ああ、すまない。つい、心の汗を流してしまいそうになって」

「た、大変なんだね…………………」

「そうだとも」

おっと
話がそれてしまった
我ながら悪い癖である
別に治す気は全くないが

「やりたいことがあるんだろう?」

「え?」

「自分が傷ついてでも、相手が傷ついてでも、成し遂げたい何かがあるんだろう?」

「……………………………………………………」

「それなのに、お前はこんなことで諦めるのか。良心が咎めたから。手伝ってもらっている人の知り合いを傷つけたくないから。そんなことで諦めてしまう程お前の意志は薄っぺらいのか?」

「!違う!!」

「そら見ろ」

「あ…………………」

それが答え
例えどれだけ傷つけられても
例え何を傷つけようとも
自分がすることは変わらない
言っていることは単純かもしれない
しかし
それを実行するのがどれだけ大変か
現代を生きている人間なら誰でも知っていることだろう
言うは易く行うは難し
まさしくその通りだ
実体験している自分がそれを言うのだから間違いない
だから
俺はこういう馬鹿は好きだ

「いいか、テスタロッサ。世の中に完璧に正しい選択があると思うか」

「それは…………………」

「ないだろう?」

「…………………………」

「宗教家の皆さんがありがたいことに唱えている残念な神様とやらはそんな楽な抜け道は作ってくれなかったという事さ」

「…………………………」

「じゃあ-----一番楽な選択肢は何だと思う?」

「…………………………わかんない?」

「答えは簡単----『停止』していることだ」

そう
何もしなかったらいいのだ
そうすれば何も辛い事はないし
何も苦しい事もないし
何も悩む必要もない
ある意味、最高の抜け穴だ
抜け道は作らなかったくせに
抜け穴は作っておくとは
神とかいうクソヤロウは狡猾なもんだ
誰だって、楽なのが一番なのだから
でも-----

「でもさ。俺達人間の中には一番楽な方法があるとわかっても、それを選ばない馬鹿な奴がいるんだよ」

「…………………………」

「で、テスタロッサはどれなのかな?」

「楽な方法を選ぶ賢い人間かな?それとも-----」

「決まってるよ」

そこで彼女は笑顔を浮かべた
さっきの苦笑ではなく
凛々しい笑顔であった
良い笑顔だ
さっきまでの少女の顔ではなく
戦う覚悟を決めた戦士の顔だ
まったく-----
女の子の成長は早いものだ-----













「ん。じゃあ、それで良し」

そう言って彼は頭に載せていた手を退けた
少し
残念だと思った
何でかはわからないけど
ただ、温かいのが離れたのが残念だった
彼は私を慰めている間も無表情だった
言葉だけは感情が籠っているように聞こえるけど
その顔には何も映っていなかった
その瞳にも
一体
彼は何を見ているのだろうか
その空ろな瞳は
何を見つめているのだろうか-----

「どうした?」

「え?あ、ううん。何でもないよ」

つい、彼の横顔を覗き込んでしまった
ちょっと反省
人の顔を睨むのはマナー違反だと思うから
そこまで、考えて思い出した
何で、私がここにいるのかを
ジュエルシードを取りに来たのが、この場所に来た理由だけど
ケイの所に来た理由は-----

「ねぇ、ケイ?」

「何だ?」

「何かあった?」

「…………………………さぁ?気のせいじゃないか?」


…………………本当かな?

残念な事に
フェイトとこの無表情の少年の付き合いはまだ短い
いつものメンバーで特に勘の強いすずか・アリサ・はやてなら気づけたかもしれない(というかなのは以外のほとんどか)
それは嘘だと
皮肉な事に
彼が一番多用し、頼りにしている、言葉こそが彼の感情を知る手段なのだ
まさしく傑作だ

「そう…………………なら良いんだけど」

「ああ-----そろそろもうお子様は眠る時間だ。早く帰った方がいい」

「もう、ケイも同じ年でしょ」

「精神が違うのだよ」

「…………………そうなのかな?」

「そういうことにしておけ」


納得はいかなかったが、確かに休養は必要だ
ジュエルシードの監視に
魔道士との戦い
それに封印
並みの魔導師ならとうの昔に倒れているぐらいの作業をこなしたのだ
自分の才能でそれらを補っているとはいえ、体は疲労を欲しているのがよくわかる
それに
さっきからアルフから念話が来ている
そろそろ帰らないとアルフが寂しがるだろう

「うん。じゃあ、また」

「ああ、またな」

それを聞いてふと思った

そういえば…………………
私、またって…………………

それは何気ない発見だった
それを
私は
何と思ったのだろう-----
今は
胸にしまって

「待てい!!いくら夜中だからだって、空を飛ぶのは問題だと思うぞ!!」

「はっ!」

状況まで胸にしまってしまっていたフェイトであった
ちなみに結界も張っていない
手にある相棒が少しチカチカ光っていた
まるで呆れたように















結局
あのまま黄昏る気分ではなくなったので部屋に戻る
すると

がちゃりとドアを開けると
そこには



魔人すずかが立っていた




見ればバニングスや八神がガタガタ震えながら寝た振りをしている


一体何が合ったらこんな超進化を…………………?


「ねぇ、慧君-----イッタイドコニイッテイタノカナ?」

「やだなぁ、すずかさん。言葉がカタカナになっているし、君の良心の欠片であるカチューシャが真っ黒に何故か色が変わっているぞ」

「ハハハハハハハハハハ、ナノハチャントドコニイッテイタノカナ?」

「おいおい、何を言っ-----」

気づいた

気づいてしまった


そういえば高町は姿を消していたという事を・・・・・・・・・・・・・


そしてその後に俺も屋上に上がった
そしてすずかの妄想力は伊達ではない
伊達であって欲しかった
そうなると結論は一つ


Q,夜中に男女がいなくなったら貴方はどう思いますか?特に妄想癖があるかた
A,答えは貴方の心の中に


「うん。そうだね…………………今までが私らしくなかった」

「待て、すずか。いきなり悟りを開くな。こういう場面で開かれた悟りというのは大抵がろくでもないということを俺は知っている」

「こうなったら------XXX版に移行する覚悟を…………………!」

「貴様!小学生の癖に何て覚悟を持つのだ!!」

「愛だよ!!愛が私にそうさせた!!」

「しっかりしろ!お前のキャッチコピーは清純系のお嬢様だろう!?」

「そんなもの!とうの昔に廃棄されたよ!!」

「廃棄するなよ!!くそっ!これがゆとり教育の弊害か…………………!」

「「いやいや!!違うでしょ(やろ)!!!」」

「馬鹿め!!引っ掛かったな!!」

「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!寝たふりしてやり過ごす作戦が台無しやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「己、風雷!!わざとツッコミ所満載のセリフを言って私達の気を引くなんて!!策士!!えげつないくらいの卑怯な策士…………………!天は何故こいつにこんな狡賢い才能を与えたのよ!!」

「それが○元突破!!それが------」

「それ以上の狼藉は許せんで!!」

「慧君、無駄だよ!!ネタに走って逃げようだなんて、無意味どころか無価値のレベルの逃走だよ!!」

「馬鹿な!?古今東西、ネタに走るのは最強の逃亡手段なのに!!」

「それを何故超えたかって?そんなの決まっているよ-----私のレベルは既に大魔王クラス!」

「大魔王から逃げられない!?」

「ルー○も効かない…………………まさしく逃走不可能の絶体絶命、背水の陣ってやつね…………………」

「さぁ、どうするんや、慧君…………………!」

「こうなったら、一か八かの最後の賭けだ!!」

「ふっ、一体何をするというの?」

「帰って寝る。今日はもうしんどい」

「だーめ❤」

その後
帰ってきた高町なのはが見たものは
みんなの命から溢れたアカイ水で散らばっている惨劇の劇場であった
何が合ったのか


何故かみんな壁にめり込んでいたり

天井に足からめり込んでいたり

床に愉快な刺さり方をしていたり

布団と座布団に埋もれて見えなかったり


非情にツッコミ所満載の対処できない事態であった
さっきまで自分がシリアスに戦っていたのがあほらしくなる光景だった
とりあえず
ド○えもんみたいにあの中で寝ようと思った










あとがき
夢の話は若干TYPEMOONぽくなってしまいました
これからも回想とかこういうのはそんなものになってしまうかもしれません
バトルシーンはまだか…………………!


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.776684045792