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[28603] 【習作 クロス】聖なるかな~A lyrical magical eternal~
Name: 岌斗◆1092524c ID:0ba1c4ec
Date: 2011/06/29 19:43
この作品はにじファンにて投稿させていただいてます。



本作は聖なるかなとリリカルなのはのクロス(来訪)モノになります。

このSSを読むにあたっての注意!

本SSはお読みになる皆様が「聖なるかな」を知っているモノとして進めていきます。ですので、分からない箇所がありましたら、お手数ですが感想板にてご指摘をお願いします。
なるだけ答えさせていただきます。

設定はナルカナルートに準拠させます。

聖なるかな公式ファンブックになるだけ添わせたいと思います。

作者はファンディスクをプレイしていないのでファンディスクとの矛盾があるかもしれませんがご容赦ください。



[28603] 序章 天 ~この宇宙の果てで~
Name: 岌斗◆1092524c ID:0ba1c4ec
Date: 2011/06/29 19:41



虚なる闇が、流れて移ろう。
神剣宇宙の静かな流転。

そんな紺碧の静寂に漂う、虹綺の輝き。

闇の中、星に見紛わんばかりの煌めきを放つそれらは、しかし星ではない。


それは『樹』


全ての世界の根幹を成す、大いなる存在……名を『時間樹』と言う。

世界(えだ)の剪定(しゅうせい)、新たな世界(は)の創造、枯れた世界(くちば)の吸収…全ての作業を己で成し遂げ、時間樹を維持し続ける。
一つの『永遠』を手にした時間樹の目的は自身の維持以外には無く、その無欲もまた、永遠を助長させる要因となっている。


その永遠を内包する時間樹の光は星の如き輝きをもって、虚無の空間を煌々と照らし続ける…。


その輝ける虚空の中を流れる様に進む一つの集団があった。

集団と呼べる程に数は多くない。精々が3、4人といった所だろうか。

闇と煌めきだけが辺りを包む中、その集団は酷く浮いていた。

集団が浮いている事は勿論ながら、その集団にも浮いた存在がいた。


男である。


4人連れでありながら、そこに男が1人しかいないのだ。

男女比1:3ならまあ有り得るが、その比率がそのまま数に繋がるなら話は違って来る。痴情の縺れとかそらもうイロイロと…。

だがその集団は騒ぐでもなくはしゃぐでもなく、粛々と空間を進んでいた。

そんな中、一人の少女が不意に静寂を破りその口を開いた。



「飽きた」





[28603] 序章 地 ~時間樹への誘い~
Name: 岌斗◆1092524c ID:0ba1c4ec
Date: 2011/06/29 20:41
「……ナルカナ、貴女その言葉何回目だと思ってるのかしら?」

呟いた少女の左を飛ぶ赤みがかった髪をなびかせた少女が溜息混じりに答えた。

名を斑鳩 沙月という。

「だってー、飽きたモンは飽きたんだもん。仕方ないじゃない」

先程「飽きた」と呟いたナルカナと呼ばれる少女が懲りずにその小言に答える。
歳の頃は同じだろうが纏う気怠げな雰囲気や黒く伸びた髪が色香を醸し出していた。

しかしそんなアダルティさも、本人の子供っぽさの前では粉微塵である。


「…ちなみに今の二回を含めると四十一回目だぞ?」


二人の前を飛ぶ妙に老けた口調で話す少j……幼女がどうとも言えないコメントを入れる。

「失礼だな」

黙れ神性ロリ。

その名を聖レーメ。神剣に宿る神獣にして、前を飛んでいるハイ・エターナルのパートナーである。

そんな少女達の言を受け、一番前を飛んでいるこのメンバーの緑一点が口を開いた。

「まあ、分からないでもないかなぁ…。かれこれ…?」

言いながら胸元から懐中時計を取り出す。

「四日になるのか……ナルカナ、どっかに腰を落ち着けるか?」

メンバー唯一の男にしてこのグループのリーダー、そしてとある永遠神剣第一位の担い手。

名を世刻 望という。

「ちょっと望くん、ナルカナの言う通りになんかしてたらいつまで経っても進めないわよ」

沙月がすかさず望に指摘する。しかし、それは意外な所から横槍が入るのであった。

「そうは言うが……サツキよ、前の世界の滞在期間が些か短すぎたから、吾もそれなりに疲れておる。ここは吾も何処か適当な時間樹で休む事に一票を投ずるぞ」

「レーメちゃんも!?ああもう、望くん!主としてもリーダーとしてもココはビシッと…」

「すみません、俺も休むに……」

「!!」

沙月の委員長気質はまさかの裏切り(?)により休憩が決定した。

「よーし!!休憩出来そうな時間樹……はなんかつまんないな。ビビっと来た時間樹に腰を落ち着けよー!」

「そんなに元気ならまだまだ大丈夫でしょ!!」

「やーだー!景色に飽きたのー!」

ナルカナと沙月が言い合いを始める。
それを尻目に二人で肩を落としながら望とレーメは時間樹の群を見渡す。

「…ん?」

と、望の視界の端を何かが掠める。
気になった物へと近付く。

「……これは…」

「時間樹の苗木ね」

「うぉ!?」

いつの間にか傍に来ていたナルカナの言葉に望が取り乱す。それを気にも留めないナルカナはその苗木へと近寄る。

「…………」

するとみるみるナルカナの表情が険しい物へと変わって行くではないか。

不審に感じた望はナルカナに尋ねた。

「…どうした?」

「どーしたもこーしたも、マズイわよこの苗木。放っておいたら丸ごと枯れるわ」

「そうだな、かなり切迫しておる」

これまたいつの間にか接近していたレーメもナルカナに同意する。

「何!?」

「望くん!ナルカナこっち!?………ってどしたの?深刻な顔して」

どうやらナルカナを見失っていたらしい沙月が光輝を構えながらこちらへ近付き、一拍遅れた反応を見せる。

「サツキのこういう時に限った反応の遅さが普段の物腰からは想像もつかんのだが……」

レーメが呆れながら米噛を押す。

そんな中、望は真面目な顔で告げる。

「先輩、行き先が決まりました」







[28603] 序章 鞘 ~こうして唄は紡がれる~
Name: 岌斗◆1092524c ID:0ba1c4ec
Date: 2011/06/29 20:40

「じゃあ状況を整理するわね?」

沙月が持ち前の委員長気質を発揮し、時間樹の苗木についての説明を始める。

曰く、

・神剣以外の外的要因によって分枝世界の至る場所に穴が空けられている。

・その穴からマナの流出は今の所は見られないが、ふとした切掛からマナバーストの可能性が考えられる

「とりあえず此処までが現状ね。何か質問あるかしら?」

「はいはーい!なんでこの私じゃなくて沙月が取り仕切るのかしらー!?」

「無ければ次に行くわよ?」

「ナルカナ様を無視するなー!永遠神剣第一位なんだぞー!」

沙月がナルカナをスルーする。最近になって身につけた能力だ。

「今は使い手がいるであろうに…」

レーメの苦い呟きに、望が苦笑いした。今は使い手についてはアンタッチャブルなのだろう。

「最近望が黎明ばっかり使っててナルカナ様は不満なんですー!」

「神剣だけじゃないから余計にねー♪」

手痛い沙月の追撃が飛ぶ。案の定、ナルカナはその挑発にこの上無い程に食いついた。

「んなっ!あっ…アンタ!言っちゃならない事言ったわね!?」

「フフッ、その発言は認めたも同然ね!」

「スルー能力は一体何処に行ったのだ…?」

いつの間にか沙月が以前と同じ様にナルカナに突っ掛かりに行っている。

「まあまあ、先輩もそのあたりで……」

これ以上の事態の混迷化はマズイと判断した望は互いの説得を試みようとした。

が、

「ちなみに期間はサツキの方が長かったりするぞ?」

「レーメぇぇ!?余計な事は言わなくて良いぞ!?」

「勝った!!」

「何よ何よ!期間なんかほんのちょっぴり違うだけじゃない。そんな誇らしげにしても大差ないじゃない!胸勝ってるからってそんなに誇張しなくていいじゃない!!望くん、後で覚えてらっしゃい!!」

「ちなみにサツキは知らん筈なのだがナルカナと最後に通じたのは三ヶ月前だ」

「なぁんですってぇ!?」

「ますます勝った!!」

「ちなみに吾は先月だぞ?」



………………………………………………………………………………………………………………………………………………………



「「望(くん)?」」

「ついさっき逃げたぞ?」

「「待ちなさぁぁぁいっ!!!」」


閑話休題


「とーにかくっ!今回の時間樹は一筋縄とはいかないわ。少なくとも時間樹内限定とはいえ、世界を自らの意思で渡り歩ける連中がいるという事。ここが一番厄介ね」

元の冷静さを取り戻した沙月が仕切り直しにこれからの方針を打ち出す。

よく分からないボロクズの様な肉塊とか、沙月達に付いたアカイシミとか、微かに漂う焦げ臭さとかは気にしちゃいけない。

繰り返す。気にしちゃいけない。

「今回も分割行動する?私は別に構わないけど……」

ナルカナが他の時間樹で行っていたやり方を思い提案する。だがその意見に対し、沙月は静かに首を横へと振った。

「いいえ、今回は固まって動きましょう。相手の規模や正体が掴めない以上、単独で相手取る場合を考えたらリスクが大きすぎるわ」

「そうだな。吾も今回は集団行動が良いと考えるぞ」

「成程、確かに」

沙月の意見にレーメが同意し、ナルカナもそれを聞いて沙月の言に同意を示して頷いた。

「あら、意外ね?貴女の事だから『このナルカナ様に不可能は無いー!』とか言い出すと思ったのに」

沙月のからかい混じりの言葉にナルカナは反応するでもなく、物憂い視線を時間樹へ送りながら独白する様に呟いた。

「…それだけこの時間樹の状態が危ういって事。流石のナルカナ様も今回ばかりはちょっちトサカに来てるのよ」

そのナルカナの横顔に沙月は何も言えなくなり、思わず視線を横にずらす。

「とにかく集団行動は決定ね。で、侵入に際してなんだけど…、ナルカナ、レーメちゃんも、神名を極力封印した状態にして欲しいのよ」

「ん?何故だ?」

レーメが沙月の言葉に首を傾げる。

「確かにその方が良いでしょうね。今見て分かったわ」

理由がイマイチ分からないレーメを無視しながらナルカナが同意する。そんなレーメに沙月からのフォローが入った。

「あのね、レーメちゃん。この時間樹見てちょうだい?」

沙月の言葉に従いレーメが時間樹を見てみる。

「む?……んー…?………なんと!?」

やがてその疑問は驚愕へと変わり、しきりに納得したように何度も頷いた。

「うむぅ…この時間樹、その規模に比べて保有しているマナが余りに大き過ぎる……そういう事なのだな?」

「そういうコト。どんな影響が起こるか想像もつかないから、なるべく神名は自己封印。神性強度も修正した方が良さそうね……んー、でもこの感じだったらいっそ…」

沙月の中で計画が組み上がる。そしてその計画が一通りの完成をみる。

「んじゃ、行動指針も決まったから説明するわねー。レーメちゃん、悪いけど節操無し(ノゾムクン)起こしてきて?」

「何やらとんでもない字に当てられた気がするのだが……まあ行ってくるぞ」

そう言ってレーメは肉塊(望)にふよふよと近寄る。

暫くして、

「……あれ?先輩?どうしました?」

先程の記憶をすっかり亡くした望がよろけながら近づいて来た。



同情はしない。リア充エターナルめ。



改めて全員になった所で沙月が説明を始める。

「じゃあこれからを説明するわね?まずはさっき集団行動って言ったけどこれを撤回するわ」

「あら、どうしてかしら?」

沙月の突然の撤回宣言にナルカナが疑念を投げ掛ける。その問いに沙月は冷静に答える。

「この世界の穴、仮にマナホールと呼びましょうか。そのマナホールなんだけど、見て」

そう言いながらマナホールを指し示す。

「あの辺に集中してるだけで時間樹の幹まで行ってないのよ。だから…」

「根源回廊に潜って、時間樹のプログラムチェックをする係を派遣する感じか」

沙月の言葉を望が引き継ぐ。

「まあ、そんな感じかしら?で、その根源回廊へ行く係なんだけど…私とナルカナにしようと思うの」

「「「?」」」

全員が疑問を表す。プログラムチェックだけなら沙月だけで十二分に事足りる筈だからだ。

「私が根源回廊でチェックした時にバグがあっても、私じゃ修正出来ないでしょ?外から見ても分かる様な異常なんだから、バグが無いとは到底思えないわ。だから修正出来るナルカナと行動すれば手間が省けるの」

「なるほど、分かりました。その間の俺とレーメはどうしますか?」

「マナホールが密集してる分枝世界の一帯に向かってちょうだい。中心は相手の総本山だろうから、なるべく近くでマナホールの影響が少ない分枝世界がベストなんだけど…ナルカナ、そんな場所は有りそう?」

沙月がナルカナへと尋ねる。ナルカナが枝を吟味しながら……

「あった!あそこらへんのが理想じゃない?」

どうやら理想的な地点を発見したらしい。

「うん……距離もそれなりだし、良さそうね。望くん、頼めるかしら?」

「まあ、有り得ないだろうけど…やられたりしない様に気をつけなさい!!」

「分かりました。先輩もお元気で……ナルカナも無茶するなよ?」

「お互い様よ………行くわよ、沙月!」

「ええ!」

そうして二人は根源へと吸い込まれる様に飛んで行った。

望はその様子を眺めると深く息を吸い、気合いを入れるかの如く大きく頷く。

「じゃ、行くかレーメ!」

「おうっ!」






そして、唄は紡がれる






[28603] 第1章 ~開幕の鐘は夜更けに~
Name: 岌斗◆1092524c ID:0ba1c4ec
Date: 2011/06/29 22:39
「……ぅおっ!」

多少よろけつつも着地を果たし、辺りを見渡す。

そこは闇夜に包まれた閑静な住宅街だった。まだそこまで遅い時間では無いらしく、電光があちこちの家々から漏れ出ている。

「レーメ、大丈夫か?」

望は己の相棒である神獣へと声をかける。その返事はすぐ傍から聞こえてきた。

「うむ、何の問…だ……い……」

途中で切られていくパートナーの言葉に不審を覚え、声の方へと振り向く。

そしてお互いの現状に愕然となる。



「「………何で…………」」



「何で大きくなってるんだ!?」
「何故そこまで縮んでおるのだ!?」

「「!!!??」」


慌てて自分の姿を確認し合う。

そして、住宅街に二人の声が木霊した。



「「…んなぁぁぁぁっ!!?」」




〜〜〜〜〜



「…詳しくは分からんが、封印した神名が何らかの影響を受けた…のだろうな」

「……俺の中から神名を抜いたから体が縮んで、その神名をお前の中で管理してるからお前が大きくなった…と?」

「まあ、そんな辺りであろう……詳しい事は分からん……」

「「……はぁ…………」」

二人して胡坐をかき、大きな溜息をつく。

そう、二人は今通常からは考えられない外見をしているのだ。

そのまま縮尺を大きくして少しだけ成長させたかのようなレーメに、遙か昔のまだまだガキと呼ばれていた頃まで幼くなった望。

そしてそんな二人は、体格的にこの上なく釣り合いが取れていた。

徐にレーメが口を開く。

「此処で腐っておっても事態は進まん。サツキ達からの連絡を待ち、吾らが出来る事を成すとするぞ」

思考の渦からいち早く脱し、望へと声をかける。

望もそのレーメの言葉に同意し、立ち上がる。

「そうだな、ひとまずは…衣は最悪戦闘装束を展開すれば何とかなるか。食もエターナルだからマナさえあれば一応問題ないし……住が最大の懸案事項だな」

己の置かれた状態を紐解き、今まで旅をしてきた経験知識から自分に必要な物を選別していく。

「うむ、町の文化を見る限り、ノゾムが生まれた世界に非常に近しいのではないか?」

レーメの指摘に、望が頷きかけて…そのままとある思考にぶち当たりフリーズする。
「…まずい……この文化だと…」
その焦りように、レーメも不安になり望に尋ねる。

「ノゾム…どうしたと言うのだ…?」

「レーメ、聞いてくれ。この文化レベルだと俺たちには何も出来る事が無い」

「なに!?」

「この手合いの世界だと治安がそれなりに安定してるんだよ。だから子供は保護対象として扱われる。俺たちのこの外見だと出来る事が限られてくるんだ」

「た、確かにそうじゃな…その辺りも追々考えるとしよう。今は現状把握じゃな……此処はどんな世界のどのあたりになるのじゃ?」

レーメが望へと問う。すると望は辺りを見て断定した。

「どんな世界かはまだ分からないが…此処は間違いなく日本だ」

そう言って親指でアスファルトを指す。そこには白い塗料で大きく『止まれ』の文字が書かれていた。

「……懐かしむべきなのか?」

「それは汝が決める事だろう。我は何処までもつき従うだけだ」

「それもそうか……」

呟くように告げる。少しばかり目を細めて町並みを見渡し、望は改めてレーメを見た。

「何も感じないって事は、そこまで懐かしい物でも無いんだろうなぁ…」

「思っていたより反応が薄いのう…」

レーメは少し拍子抜けした様だ。

「…あの日々に…未練が無いって言えば、嘘になる」

「……………………」

レーメは黙って先を促す。この望の言葉には、途撤もない重さがある。

これからの望にとって、とても大切な事のように思えた。



「きっと、自分が考えてる以上に…俺はこの景色を胸に刻みつけてる」


でも、それでも…


「この景色を見ても何もこみあげないのは……」


大切な仲間が…友達が……


「この景色には、いないから」



大切だったアノヒトも……



「この中には…いないんだ………」


そう呟いた望は静かに目を閉じる。


最後までその名前を呼ばなかったのは彼なりのケジメだったのだろうか。


その在り方があまりに寡黙すぎて、その背中があまりに雄弁すぎて…


レーメは声をかけられなかった。



………キィン…!!



「「…!!」」

しかし余りに唐突に、その沈黙は破られる。

「レーメ!」

「分かっておる!こっちだ!」



〜〜〜〜〜



「レイジングハート!セットアップ!!」

掛け声と共にとある少女が光に包まれる。やがてその光は納まり、中から一人の『魔法少女』が姿を現した。

そして、

「わきゃっ!?」

その少女は、

「ひゃぁっ!!」

グオオオオォォォォォォォッ!!!!

絶賛逃走中だった。

「はっ…はぁっ……はっ…!」

「落ち着いて!あなたの心にある魔法の言葉を探すんです!」

下からイタチがアドバイスを送る。

「フェレットです」

お前みたいな淫獣イタチで十分じゃい。

「…魔法の…言葉……」

そう言って少女は足を止めて心を鎮める…

ガアアアアァァァァ!!!

最早、自分たちを追いかけていた黒い影はすぐそこまで来ている。それでも少女は心の均衡を保ち続けた。

そして、

「…!見えた!!」

杖を一気に構え、少女はその言葉を叫ぶ!!



「リリカル・マジカル!」



「封印すべきは悪しき器、ジュエルシード!!」

「ジュエルシード、封印!!」

幾筋もの光が影へと伸びる!

ギシッ!!

光の帯がその不定形の身体を抑えつけた!
影と光が拮抗しせめぎ合う。

やがて……



ビリビリッ、ブチン!!



その影を抑えつけていた桜色の帯は千切れ飛び、跡形もなく砕け散った。

「ふぇっ!!?」

「そんな!?」

驚愕の声を上げるも、脅威はそこまで迫っている。

「…や…ぃやあ……」

極限状態から解放され集中の糸が切れてしまった少女に冷静さは最早残されてはいない。

巻き込んでしまった失態を後悔しながらも、事態の原因となったフェレットは特攻の構えを取っていた。

「いやああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁあっ!!!!」

絶体絶命の中、恐慌状態に陥った少女が遂に悲鳴を上げる。

それを合図にしたかの様に黒い影が少女に襲いかかる!



「レーメ!!」

「うむ!『クゥルトクゥル界の稲穂』限定四パーセント解放!」

「隙なく縛れ!“グラスプ”!!」



ギシィッッ!!!



今度こそ影が動きを止める。

大地に縫い付けられたが如く、影は白金に輝く光に縛りあげられる。

少女は声も上げられない。フェレットは縛りあげている魔法の質と、その密度に絶句している。

やがてその魔法は影に食い込み……



ギチギチ……ッ

グチンッ!!!!!



「なぁっ!!??」

フェレットもまさかそこまでの威力があるとは思わなかったのだろう。

締めあげていた縄状の魔力がそのまま影を捩じ切ったのだ。

「ふぅ…間に合ったか…」

もはや立つ事もままならず声も上げられない少女に対し、突然現れた少年は呟きながら自然に近付く。

そして、右手を差し出しながら、



「大丈夫か?」





ここに二つの翼が入り交る

桜と黒白の邂逅は、我々に何をもたらすのか

答えはまだまだ、教えない。








[28603] 第2章 ~星光と夜明けの邂逅~
Name: 岌斗◆1092524c ID:0ba1c4ec
Date: 2011/06/29 22:41
何が起きてるのか、何も分からなかった。

ただ、圧倒的な力。ただ、絶対的な暴虐。


ただ……決定的な無力………。


不思議な力だと、確かに浮かれていた。

新たな可能性だと、確かに憧れていた。


でも違う。その不思議な力には先達がいて、

その新たな可能性は既に他者に掴まれていたのだ。


それに気付いた時には……目の前に黒い牙が………

少女は漠然と悟る。ああ、此処で自分は死ぬのだと。

厭は無かった。不用意に片足を突っ込んだ代償としては当然の事だと、何故か納得出来た。

恐怖は無かった。そこにあったのは、一種の諦観。ああ、自分は良い子に成り切れていなかったのだ、と。

そう考えると、少女の眼前に迫る黒い牙は何処か断罪の刃に見えた。

何故、これ程迄に己を誅す刃が愛しいのか。その理由は分からない。

少女は微笑み、自らの喉元を晒す様に少し上を向く。

刹那、


カアアァァッ!


突如として視界を強烈な光が包む。少女は思わず目を閉じ、光が収まったのを確認すると、ゆっくりと目を開けた。

そこには……

「――――大丈夫か?」



〜〜〜〜〜



「…………ッ!!」

望の背中に乗った少女がビクリと大きく身を震わせる。

それを感じた望は慎重に言葉を選びながら少女へと声を掛ける。

「…おはよう。目は覚めた?」

「……選び抜いた言葉がそれか?」

横を歩くレーメから小さいながらも痛烈な野次が飛ぶ。

その事に一々反応してしまうのも望の特徴だった。

「……口下手なのは今に始まった事じゃないだろ」

「何を言うておるのだ。閨ではあれだけ甘い言葉を紡げる男が…」

「子供の前だぞ!?いきなり何言い出すんだよ!!」

言いながら若干焦りつつ、自分の背におぶさる少女を見遣る。

幸いにして半分は夢を見ているのか、何処か焦点の合わない目でぼんやりと辺りを見回していた。

「ちゃんと状況くらいは見極めておる。まだまだ修行が足りんぞ、ノゾム」

言いながらレーメはカラカラと笑う。

前を茹だった顔のまま進む小動物は眼中に無いようだ。

憮然とした望はそのまま歩を速めた。すると少女の意識が明確になって来たのか、望たちに声をかけてきた。

「……あなたたちは…?」

「目が覚めたか?」

「……ここは?」

「帰り道だよ。今、君のペットに案内させてる」

「僕はペットじゃありません!」

フェレットが反論する。

「ペットでなければ野良イタチか?」

レーメから更に深い一撃を見舞われる。

「……ペットで良いからイタチ扱いやめて下さい…」

がっくりとうなだれながらその言葉を何とか搾り出す。

「悪いけど、君の家の場所教えてくれないかな?」

落ち込んだフェレットに目もくれずに、望は少女に自宅の場所を尋ねる。正直な所、フェレットは臭いを辿っていただけなのでスピードがイマイチだったのだ

「あ…うん、あっちなの」

少女は指で家の方角を示す。その向きに従いながら望たちは歩を進める。

「ノゾムも一々律儀だな、あの場に寝かせて置いても罰はあたらんぞ?」

「何いってるんだよ。この子の親御さんが心配してるんじゃないか?だったら放っておける訳ないだろ」

そんな会話を聞きながら段々と少女は意識を覚醒させ、その身の状態を把握していく。

そして少女は己の現状に気付いた。

見ず知らずの男の子におんぶされている自分にだ。

「もっ、もう降ろして貰っても大丈夫なの!」

「っと!?」

言いながら少女は唐突に暴れ出す。虚をつかれた望は思わず腕の力を緩めてしまう。

「え?きゃっ!?」

ガッ、…ぺたん…

望の手から離れた少女は地面に片足を付け、そのままその場に座り込んでしまった。

「え?あれ?なんなの!?」

少女は自分のそんな状態に戸惑うばかりだ。レーメが呆れた様に溜息をつき、望は苦笑いしながら改めて少女に手を差し延べる。

「完全に腰が抜けてるんだよ。いいからそのまま力を抜いて?」

言いながら望は改めて少女を背負い直す。次の瞬間、下腹部から太股の付け根辺りにかけて、ヒヤリとした感覚が襲って来た。

まるで水を含んだ布を押し付けたような…


「……!!…」

思い当たる限り最悪の予想に、少女の顔が一気に青ざめる。

そして、連鎖の如く先程の恐怖を思い出す。

奇妙な甘美を伴う、身を引き裂くような恐怖を。

レーメが表情の変化に気付いて、努めて冷静に告げる。

「仕方ない事だと思うぞ?あれだけの恐怖は普通に生きていればまず出会う事は無い」

「………っく、ぇっ…く…」

少女からしゃくりあげる声が聞こえ出す。望たちはどうしようも無くなり、取り敢えず原因を作ったらしいフェレットを睨む事にした。

フェレットにしても自覚はあったらしく、しょんぼりとうなだれるだけだった。


誰も言葉を発する事無く、ただひたすら静かな夜道に、少女の微かな泣き声が響いていた……。



〜〜〜〜〜



「ここなの」

十五分程歩いて少女の自宅にたどり着く。

その頃には少女もそれなりに落ち着き、若干恥ずかしさに身をよじりながらもなんとか普段通りには振る舞えていた。

「わざわざありがとうなの」

「なに、礼には及ばんぞ」

「レーメ、お前運んでないだろうが」

「なにー!?ついて来てやったではないか!」

「それだけでか!?それだけでお前は感謝される基準にまで入るのか!?」

「細かい事を一々うるさいのだノゾムは!その場の空気を弁えよ!!」

「俺が悪いのか!!?」


ヒートアップしていく主従コンビにフェレットは頭を抱えて「もう知るか」と言わんばかりにそっぽを向き、少女は、

「とりあえず、お家入りたいの…」

と、小さく呟いた。



〜〜〜〜〜



「高町…さん、か」

玄関の表札を眺めて望は呟くように確認した。

「なのは」

「え?」

「私の名前、高町なのはなの」

「そっか、じゃあ高町さん」

「な・の・は!」

「いや、だから…」

「………………」

「………………」

「………………」

「……なのはちゃん」

「うんっ!」

「……その押しの弱さはノゾムの命題の一つだな…」

心底呆れたと言わんばかりにレーメは首を振って肩を竦める。


残念ながら神性ロリよ、その命題は彼が主役である限り解決する事は無い。


言いつつも望は高町家の呼鈴へと手を延ばした。






桜と黒白は邂逅を果たし

今、運命の分かれ目へその男は立たされる

先に出ずるは、夜叉か般若か……

答えは既に、決まってる。









[28603] 第3章 ~来訪、高町家 その1~
Name: 岌斗◆1092524c ID:0ba1c4ec
Date: 2011/06/29 22:42
ピー…ン…ポーン………


「はーい!」

インターホンから若い女性の声がする。

「すみません、高町さんのお宅で間違い無いでしょうか?」

「ええ、そうですが…」

「実はそちらの娘さんが路上で倒れてまし…」

ドタドタッ!!

『娘』の言葉を聞いた瞬間に複数の足音が玄関口まで慌ただしく鳴り響き、もどかしそうに鍵が開けられる。それを聞いた望は“あぁ、やっぱり心配されてたんだな”と自分の行いを少し誇らしく思ったりもした。


バタンッ!!


出てきたのは男性二人と女性が一人。男性の方は体格などから父親と兄かと予想はついた。女性は見た目が若すぎて少し判断し辛い。

女性は頬に手を当てて微笑ましい物を見るような生暖かい視線を送り、

男性陣の二人は、


望たちを見て、

なのはを見て、

改めて望たちを見て、

一つ息をつき、



「「貴様娘(なのは)に何をしたァ!!」」


次の瞬間、修羅と化し望へと襲い掛かって来た。

「は、えぇっ!?」

戸惑いもそのままに、取り敢えず望は二人の突進を右に回避。

「ッし!」

が、その回避も相手は予想済みだった様で、勢いそのままに青年の左脚が望の肩口を捉えようと伸びる。

「…!」

咄嗟に望は己の右脚を出して青年の蹴りを絡め取り、踵落としの要領で地面へとその攻撃を叩きつけた。

流石にこのカウンターは予想外だったらしく、青年はそのままバランスを失い、地面に片手をつく。追撃を避ける為に青年はその場に留まらず、両手足を駆使して望のリーチから離脱した。

(闘い慣れてる!?)

警戒もそこそこに、望はその事実に戦慄する。今の青年の足運び、判断、離脱…全てに於いて凡そ並の鍛え方では到底至れない。

……それこそ、命のやり取り、ないしはそれに準ずる事を経験しない限りは今の動きは有り得ない事を望は容易に察せた。

不意に月影が暗やむ。次の瞬間に望の全身が粟立ち、そして重大な事実を思い出す。

―――襲撃者は二人ッ――!

本能の叫ぶまま後方へ跳び、前を見る。

視界に飛び込んで来たのは、今さっき自分がいた地点に肘の半ばまでを地面へとめり込ませた、もう一人の襲撃者だった。

「ノゾム!!」

レーメが叫ぶ。だが、望は危なげなく体制を立て直すと、改めて男性を見た。

青年はアウトレンジから気配を伺っているが、殺気を飛ばして牽制している。

男性の気配を油断なく探り、そして知る。

先程の青年も、今目の前にいる男性も、よくよく気配を探り見れば



ほんの微かにだが、神気を纏っているのだ。



「…………ッ…!!!」

此処へ来て望たちの疑念はいよいよ確信に変わる。この時間樹は決定的に何かが狂っている、と。

転生体しか持ち得ない筈の神気。それを彼等は持っている。しかし、それはほんの僅かに過ぎず、最低限の転生体が持ち得る筈の神気の二割足らずだが。

その二割が望たちにとっては大問題なのだ。

転生体の二割しかないとは則ち、彼等が転生体ではないという決定的な証明である。

一瞬ではあるが、思考の海に埋没しかける。だがこの二人を相手取っての一瞬とは、十二分に敗北を想起させる物だった。

「…フッ!!!」

望の元へと手刀が伸び―――



「やめなさいっ!!!!」



―――切る前に全ての動きを止めたのは、玄関口にいた女性の一喝だった。

「あなた、恭也…少しお話しがあります。こちらへ」

口元に笑みを浮かべ、それ以外は全くの無表情という不安極まりない顔をした女性に、二人は真っ青になりながら何とか弁明しようと口を開く。

しかし、女性の対応は迅速だった。

「なのは、そろそろその子の背中から降りてあげなさい?君もわざわざこんな遅くにありがとうね。良かったら上がっていってちょうだい。あなたと恭也は早くあちらへ。都合がおしてるわ」

早口で一気にまくし立てると、女性は望へと向き直り、頭を下げてきた。

「主人と長男がいきなり失礼しました。私の名前は高町 桃子…その娘、高町なのはの母親に当たります。あちらは主人の高町 士郎と長男の高町 恭也。後は長女が家の中にいます…。娘をわざわざありがとうございました。もしご迷惑でなければ家に上がって頂けませんか?」

言いながら、一段と深く頭を下げる。その腰の低さに若干戸惑いつつも、望は何とか言を返した。

が、ここで思わぬボロが出る。

「ご…ご丁寧にどうも。せっかくですが、お断りさせて頂きます。まだ旅の途中ですし、少し確かめたい事なんかもありますので…」

ピクリ、と桃子の頬が引き攣る。

「…あらあら、二人だけでかしら?」

「今は、ですかね。ちょっと別行動でして、再会がいつになるかは分かりません」

「…その別行動のお友達は同じくらいの年頃なの?」

「ええ、まムグッ」

言いかけて突如として口を塞がれる。見るとレーメが必死の形相をしていた。

「…愚か者!今の我等を忘れたか!?このような法治国家だと子供は守られる存在だと言うたのは汝ではないか!!」

言われて、気付く。

今、俺達は子供なのだと。

焦りを抑えつつも、望は桃子へと向き直る。

「………………」

先程見せた口だけの笑顔を張り付けた桃子がいた。どうやら先程のレーメの言葉も筒抜けだったようだ。

「…えっと」

「あがるわよね?」

「………その」

「あがりなさい」

「……………はい」

こうして、望の高町家来訪が決定した





逃げ道塞ぐは、己の無策

墓穴を掘るのは果たして誰か

彼の者の夜はまだまだ長く

夜明けはまだまだ、訪れない







[28603] 第4章 ~来訪、高町家 その2~
Name: 岌斗◆1092524c ID:0ba1c4ec
Date: 2011/06/29 22:43
「しかし…運命とはどう転ぶか分かった物ではないな」

通されたリビングのソファーの上でクッションを抱えながらレーメがポツリと漏らした。その呟きに応える為に、望は軽く頷く。

ここまで案内してくれた女性が座る様に促したが、望は丁重に断っていた。

なのはを背負っていた望はソファーが汚れる事を善しとせず、結果として所在なげに立ち尽くす事となったのだ。


あの後、家に入ろうとした段階で望はなのはを降ろし、結果としてなのはの失禁が桃子に露見してしまう。その事実を受け、士郎と恭也が修羅から鬼神へとクラスチェンジを遂げるが、桃子(ゴーゴン)の眼光により二人は石像と化し、弁明もそこそこに桃子に連行されて行った。

なのはは桃子に言われて風呂へと向かい、望とレーメは高町家長女である美由希に家の中へと案内され、現在へと至る。レーメは出された紅茶を飲みつつ美由希と軽く会話をし、望は腕を軽く組みながら待っていると、程なくして桃子がリビングへと入って来た。

「あ、お母さん」

美由希が思わず反応を示す。

「ごめんなさいね、待たせてしまって」

「いえ、お構いなく」

謝罪の常套句であるやり取りもそこそこに、桃子は小脇に抱えた衣服を望へと差し出して来た。

「…これは?」

「なのはをおんぶしてたのでしょう?今立っていたのだってウチのソファーが汚れる事に遠慮してたから…違うかしら?」

桃子は的確に望の考えを見抜く。

「だからその服、洗濯しておきたいの。着替えて貰えるかしら?」

有無を言わせぬアノ笑顔。だが元々、望自身も濡れ湿った服を着ていて気分の良い物ではなく、素直に好意に甘えて衣服を受け取った。サイズがだいたい合っている事から、大方あの長男のお古だろうとアタリをつける。

すると桃子はレーメへと向き直り、

「ついでに貴女のも洗っちゃいましょう。着替えならちゃんと有るから」

そう言って服を差し出す。

レーメも素直に応じ、二人して着替える事となった。

二人が着替え終わると同時に、リビングに士郎と恭也が姿を見せる。二人は望を見遣ると、頭を下げて謝罪をしてきた。

「先程は失礼したなごめんなさい」

「つい熱くなりすぎた。許してほしいごめんなさい」

「……謝罪については別に何とも思ってませんが……どうしたんですか?」

訝る望がつい二人に問い掛ける。

「「何でも無いさごめんなさい」」

そのあっけらかんとし過ぎた応対に、望は追求を諦めた。恐らくアレは開けてはならないタイプの箱だ。長年かけて培った望の危機防衛本能が悲鳴を上げている。

「……分かりました。では」

望は佇まいを改める。

「自己紹介をさせて頂きます。俺の名前は世刻 望……こちらは俺のパートナーである」

「レーメだ。よろしく頼むぞ」

言葉の先をレーメが引き継ぐ。一方の士郎たちもその紹介を受けて己を改め、

「高町家の亭主、高町 士郎だ。よろしく頼むごめんなさい」

「長男の高町 恭也だ。先の無礼、重ねて謝罪させて貰いたいごめんなさい」

「高町 士郎の妻、桃子です。娘を連れて帰って頂きありがとうございました…こちらも改めて感謝させて下さい」

「長女の高町 美由希です。よろしくお願いします」

美由希は若干苦笑い気味に自己紹介する。
望もつられそうになりながら何とか口元を引き締めて、桃子の出方を伺った。

徐に桃子が口を開く。

「少し、質問したい事があります。よろしいかしら?」

空気がピリッと張り詰める。望はそれを肌で感じながら頷く事で先を促した。

「娘を助けて頂いたそうですが……あれだけの恐怖を抱くような直接的脅威は…この海鳴には無い筈です。主人の元々の仕事柄、そういった事にはある程度精通しているという自負があります」

桃子のその言葉に他の三人も剣呑な目つきになる。それを見ながら望は、やはりこの人達は荒事に馴れているんだなと、少し場違いな感想を抱いていた。

桃子は一息置いて、

「その編目をかい潜り、この街に脅威が近付いた。もしその脅威の正体をご存知でしたら、是非とも教えて頂きたいのです。まずは、それが一つ目の質問になります」

探るような桃子の目に、望は言葉を選ぶ。
「その質問ですが、明確な回答を持ち合わせていない、と答えさせて頂きます」

「それは何故だね?」

その望の回答に、僅かに殺気を込めながら士郎が問いを重ねる。

「今回、そちらのお嬢さんを襲った脅威。その正体を俺達は知っています。しかし、それが人を襲う事はまず有り得ない」

含めるような望の言い方に士郎は眉を潜める。言葉を選ぼうと唇を濡らした矢先、恭也が激昂した。

「ふざけるな!こっちは家族が襲われてるんだぞ!!」

対応の仕方では失格も良い所だが、恭也の言い分は最もだ。大切な娘が襲われて、トラウマになってもおかしくない恐怖を刻まれているのである。

そんな危険な存在の正体を知りながら、その札を伏せる。家族としては到底許容できる物では無かった。

望は激昂を見ながら、これからの対応を考える。ある程度組み上がった所でふとレーメを見た。何も言わずにレーメは首を縦に振る。元々の口調も相まって、レーメはこの手の交渉には向いてないのだ。

全て汝に任せる、と目で語ったレーメは何も言わずに静かに眼を閉じた。

さて“此処からが本番だ”と望は自らに気合いを入れ直す。どこまで手札を晒し、どれだけ相手に信憑性を持たせられるか。そこが今回の鍵となる。


………永きにわたる旅の中、最初から全ての手札を晒す事の愚かしさを望は知り尽くしていた。


「…それを皆さんに話すには、まず“ある事象”を認めて頂かなければなりません」

真剣な望の様子に、激昂していた恭也も冷静さを取り戻す。

「……聞いてから判断しましょう」

桃子が答える。

その回答に望は頷き、そして口を開く。

「―――皆さんは“魔法”の存在を信じますか?」

「………“魔法”?」

「ええ、よくお伽話やファンタジーなんかで語られる不思議な力といったイメージを抱くあの魔法です」

「……ふむ、続けてくれないか?」

士郎が思案顔になりながらも先を促す。

「今回、お嬢さんにその魔法の力が襲い掛かったのです」

若干の戸惑いがありながらも、高町家の面々は一応の理解を示した。

「…なるほど?で、先程の“人を襲う筈が無い”というのは?」

恭也の問いに対して、望はレーメへと視線を送る。

「レーメ」

「うむ」

服から外した小さなポーチの中から先程拾った宝石の様な結晶を取り出す。

「それは?」

士郎の問いに望は簡潔に答える。

「まあ、魔法の電池みたいな物です」

レーメが取り出した結晶をしげしげと眺める士郎。不意に結晶を机に置くと、独白する様に呟いた。

「そうか……で、話の筋から察するに…この魔法の電池とやらが娘に牙を剥いた訳だ」



ヒュッ!



唐突な風切音。桃子が慌てて士郎の方を向く。

そこには、何時の間にかとりだした小刀を机に突き立てた士郎と、これまた何時の間にか士郎から結晶を取り上げた望が睨み合っていた。

「……ただの電池とは語弊がありましたね。ガソリンのような、危険を伴う電池なんですよ」

「…失礼したね。中々に血が上っていたようだ」

そう言いながら小刀を仕舞う。剣呑な目つきを更に細めて、士郎は望を試す様に尋ねた。

「ふむ…私からこの流れのまま、ひとつ尋ねる事としよう。今の動き、私ですら捉え切れなかった。先の玄関での動きもそうだ。君のような少年がそれだけの動きを見せる事など、まず有り得ない事を私は知っている…………君は一体何者かな?」

「……それは…」

答えに詰まる。この場面においては最もしてはならない悪手だった。だが、この事態そのものが望にとっては今までに未経験である。

望が答えあぐねていると、横からレーメの思わぬフォローが入った。

「それは汝等がまだ知らぬ領域に吾らがいる。それだけの話だ」

士郎の表情に疑念が灯る。

「私もそれなりに“裏”に通じている。先程に述べた通りにね」

その士郎の言葉にレーメは薄い笑みを浮かべる。

「汝の言う“裏”に魔法の様な力があったか?」

その返しに、士郎は言葉を失う。

「汝の言う“裏”と、吾らの“裏”はその方向性が全く違うのだ。少なくとも、吾らは吾らの裏で生きてきた」

そう言いながら、レーメは冷めた紅茶を口にした。

「……貴女達は…」

桃子が何かに耐える様に俯きながら口を開く。

「…貴女達は、その生き方で…いいの?」

「“いい”と言う尋ね方がそもそも間違っておるな。吾もノゾムも元より覚悟の上でこの道を歩んでおる」

桃子は縋る様に望を見遣る。

だが、悟る。望の瞳を見て…悟って、しまう。

疲弊し、傷付いて尚、己の目標へと至らんと足掻き続ける強い意志。全てを受け入れ、それでも進む覚悟。

きっと何度も裏切りにあっただろう。幾度も傷付いて倒れた事だろう。それだけの体験をしてきた事を、その目が何より雄弁に語っていた。



それでも、決めた道ならば。



ならば、桃子には最早出来る事など有りはしない……いや、そんな事は無い筈だ。まだ、何かできる事が有る筈だ。

「……貴女達の事情は一応は把握しました。今日はウチに泊まっていきなさい」

桃子が提案をする。

「いえ、そこまでお世話には……」

「いや、私からも頼もう。是非泊まって欲しい。今の話を聞く限り、行く宛ては無いのだろう?愛しい娘の恩人をそのまま見送るのは忍びないのでね」

士郎も桃子に賛同してきた。

望は困りながらレーメを見る。

「別に良いのではないか?相手のためになるのであれば断る理由は無いし、そもそもサツキ達から連絡が無ければ情報収集以外に吾らがする事など有りはしないぞ」

それならば望には断れない。

嬉しそうに桃子が手を合わせる。

「決定ね。丁度なのはもお風呂から上がったみたいだし、準備してくるわ」

桃子の言葉によって張り詰めた空気は霧散し、和やかな雰囲気が高町家を包む。



その後、なのははその日の疲れや恥ずかしさから寝床へと直行してしまい、末っ子を欠いた一家の団欒に望達も混じって、その日は床へと就く事となった。




「……………僕の扱いがあんまりだ……」
 


 


 

 

 


「……あなた」

「分かってるよ。今夜は徹夜だな」



 



差し出されたる蜘蛛の糸

手繰った先には果たして仏か

搦めし女郎は何を思い

夜明けを待つは星ひとつ






[28603] 第5章 ~家族への誘い~
Name: 岌斗◆1092524c ID:0ba1c4ec
Date: 2011/06/29 22:45



「………………………………………………………………………………………は?」

「だから、戸籍よ戸籍!高町家へようこそ、高町 望くん!」

朝一番、嬉しそうに桃子が望に話しかけて来た内容がコレである。ちなみにレーメは久々のベッドにご満悦らしく未だに夢の中で羊を数えている。



桃子曰く、

世刻 望の名前を徹底的に調べた

が、そんな名前の人間は存在しない

いないのなら作ってしまえ。

折角だから高町家の養子として戸籍登録してしまえ。

戸籍獲得成功←今ココ



「ちょっと待って下さい!!」

「あら、どうしたの?」

桃子は何か手落ちがあったのかと、少々考え直す。

「あ」

そして思い当たる節へと辿り着く。

「望くんの旅の仲間だったわね!大丈夫よ、呼んで貰って問題ないわ」

「違います!!」

言われて桃子は再び首を傾げる。

「……?」

望はその様子に若干の苛つきを覚えながら、桃子へと質問を投げかける事にした。

「戸籍を作った理由は?」

「望くん達が此処で動くのに何かと便利でしょ?」

「何故、姓を高町に?」

「望くん達の歳だと後見人より養子の方が自然でしょ?」

「…見た目通りの年齢だと思ってます?」

「まさか、昨日の交渉術を見てそうは思わないわ。理の“裏”で生きている以上、そんな事もあるんでしょう。でも今の貴方は子供なのよ?」

それを言われるとぐうの音も出ない。

仕方なく望は最後の質問を繰り出した。

「……繋ぎ止める為ですか?」

「ええ」

悪びれも無く桃子は即答する。

「…貴女達へのメリットが見えない…!」

吐き捨てる様に望が言う。

そんな望の頭に桃子は手を置きながら、諭す為に言葉を紡ぐ。

「…私達にメリットなんて要らないのよ。こんなのは只の自己満足でしかない……でもね?そんな自己満足が何物にも替えられない幸せだと思う人もいる」

言われて、気付く。自分達の旅も、半分は自己満足に塗れているのだと。

「ずっと旅して来たんでしょう?だから、少し羽根を休めなさい」

桃子の言葉に頷きかけ、望はそれでも首を横に振る。

「…お気持ちは嬉しいです。けど…俺にはまだ、この世界でやるべき事がある」

そんな望の言葉に桃子は肩を落とす。

「だから、羽根を休めるのはやるべき事を終えてからにさせて下さい」

「……!!…ええ、こちらからも是非お願いするわ!」

一転、満面の笑顔でもって望の言葉を受け入れた。



「……ぅみゅ………ノゾム〜?」

レーメが寝ぼけながら台所へと入って来る。望と桃子は顔を見合わせ、互いに笑い合った。

「…望くん?」

「いえ、桃子さんの口からでお願いします」

そう言って望は台所を後にする。

「そうね、じゃあそうさせて貰うわ…あのね、レーメちゃん…………」





〜〜〜〜〜



「……………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」


直後、高町家に二人分の笑い声が響き渡るがそれは別の話。



〜〜〜〜〜



携帯電話のアラームで目を覚ます。

「……ぅ〜」

朝はやっぱり眠い。どう足掻こうとこの眠気には勝てはしない。

それでもなのはは無理矢理に体を起こすと、彼女の一日を始めるべく身仕度を始めた。

「…あれ?」

ふと、彼女は違和感を覚える。

おかしい、何かを忘れている。

違和感が徐々に強くなっていき、なのはは周りを見渡した。

見慣れた机、ついさっきまで寝ていたベッド、まだ空きスペースが多い本棚、その本棚の上に乗ったルビーの様に紅い珠……

「あっ!!」

パジャマを脱いだ瞬間に目に入ったそれを掴み、慌てて庭先まで走る。

「あら、なのは?」

「ん?おお」

「あぁ、おは…」

誰かが何か言っているがそんな事も気にならない。なのはは庭先に顔を出してその名前を口にした。

「フェレットくん!!」

だが、返事は無い。まさかそのまま姿を消したのか?

だったらこの宝石は回収しないと駄目な筈だ。思わずなのははその場でペたりと膝をつく。



………?



妙に足元が湿っぽい。いや、じめじめしているといった方がしっくりと来るだろうか。気になったので、そっと軒下を覗いてみる。


そこには、


すっかり腐った生物(ナマモノ)が横たわっていた。


「いいんだよもう……僕はオチ要員で弄られキャラとして位置付けられたんだ……弄れよもう…上も下も前も後ろもさぁ………弄ってもほじっても何も言わないからさぁ……」

「…えっと……フェレット…くん…?」

「あぁ…おはようございます……貴女は前を弄りますか?それとも………後ろをほじりますか………?」

「ナニ言ってるのかわかんないよ!?」



その後、なのはがユーノの説得に十分程かけて何とか軒下から連れ出すと母親である桃子から改めて声が掛けられた。

「おはよう、なのは」

「あ、お母さん!おはよう!」

「あのね、なのは…」

「構わんぞ、モモコ。吾らから言った方が分かりやすかろう」

余り聞き慣れない声が母の言葉を遮る。桃子の横に視線を移すと、昨夜に出会った少女が立っていた。

「おはよう、だな。吾の名はレーメ。今日からこの高町家で世話になる事となった。今後ともよろしく頼むぞ」

言いながら右手を差し出す。なのはも連られて右手を出し、

「今日からなのはの新しいお姉ちゃんになるのよ」

桃子からの爆弾発言を聞いて飛び上がらんばかりに驚く。

「にゃっ!?お世話ってそっちの!?」

「まあ、そういう事でな。よければ汝の口から名前を聞かせ願いたい」

レーメはそうなのはに言ったが、当人はそれどころではない。

昨夜の恐さやら恥ずかしさやら憧れやらで頭の中が飛びかけていて、名前を尋ねる部分を辛うじて聞き取れただけである。

「あっあ、えっと…!た、高町っにゃのひゃでっ!あっ!!?」

噛み噛みになった自己紹介をやり直す為に深呼吸を繰り返す。

が、

「うむ!ニャノヒャだな。よろしく頼むぞ、ニャノヒャ!」

満面の笑み(悪意6割)を浮かべたレーメがなのはの固まった右手を取る。しばらくはそれで呼ばれそうだ。



ふと、それは唐突にやって来た。



今、目の前にいるのは?

昨夜助けてくれた人だ。

昨夜、この人は一人だったか?

否、二人組でいた。

では、そのもう一人とは?

私を救ってくれた王子様だ。

話の流れから察するに?

…………………



油の切れたゼンマイの様に首を横へと回す。

すると、

そこには、

「おはよう、昨夜は自己紹介できてなかったね。俺の名前は…今日から、高町 望だ。よろしくね、なのはちゃん」

王子様が右手を差し出してくる。

そこがなのはのキャパシティの限界だった。

「∞%*↑◎!ヾΨζ」

「……なのはちゃん?」

「φ♯‡※?」

「…桃子さん?」

「………私にも予想外ねぇ…」

望は桃子に視線を送るが、冷汗をかきながら眼を逸らされた。

望は溜息をひとつつくと、レーメへと向き直る。

「…どうする?」

「とりあえず叩けばよかろう」

言いながらレーメはなのはに近寄り、その頭をはたく。

「…ったぁ!」

「ほれ、目覚めたぞ」

「………まぁ、いっか」

「……あれ?キミは…」

再起動を果たしたなのはが改めて望へと向き直る。その視線を受けた望は軽く咳ばらいをすると、もう一度自己紹介をした。

「改めまして、今日から高町 望です。今後ともよろしくね」

「あ、高町 なのはです…今後ともよろしく…望くん…」

まだ完全には動いてないらしく、どこか虚ろな様子だ。流石にこれ以上は学校に差し支えるため、桃子が手を叩きながら大きめの声でなのはに指示を出した。

「はい、なのはもいい加減シャキッとなさい!」

「にゃっ!はいなの!」

「あと!その格好!いくら望くん達が今日から家族になるとはいえ、少しだらし無いわよ!」

瞬間、なのはの刻は凍る。

スッと、何気なく視線を下げて自分の姿を確認する。



キャミソール一枚に可愛らしい白のパンツだけを纏った自分の姿を。



「…………」

なのはは完全な無表情と化す。

そして肩幅に脚を開き、自然な体勢をとりながら視線は斜め上四十五度を向く。

「…すぅぅー…」

大きく息を溜め、気を限界まで鎮める。

刹那



「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」



高町家史上最大の絶叫が邸宅の中に響き渡った。





彼を引き込む家の温もり

果たして得るのは心か力か

蒼き胎動の目覚めは近く

幕はまだまだ上がったばかり






[28603] 第6章 ~或る少女の目醒め~
Name: 岌斗◆1092524c ID:0ba1c4ec
Date: 2011/06/29 22:47



「行ってきます!!うわーん!!!」



あの後、いつもより格段に遅い時間になってしまったなのはだが、家族の誰もが驚愕する速度で顔を真っ赤にして泣きながら走って出ていってしまった。

あの速さなら間違いなく間に合うだろう、とやや呆然としながらなのはを見送り、高町家は普段の穏やかさを取り戻す。




〜〜〜〜〜




「翠屋?」

「ええ、私達が経営してるの。だから家の中には誰もいなくなるから…出来れば一緒に来て欲しいんだけど…」

言いにくそうに桃子が望へと相談する。

「俺は別に構いませんよ。レーメは?」

「うむ、吾も行こう」

それならばと、士郎が提案する。

「だったら、午前中はまだ客足も少ない。その間に昨夜話してくれたアレについて、もう少し詳しく教えてくれないか?」

「……そうですね。ですが、これだけは約束して下さい。それらしい物を見かけたら、絶対に手を出さずに俺に教える事。あれはヒトの手に負える物じゃない」

「…分かった。善処しよう」

「善処ではありません。『絶対』です」

やや語気を強めて望は念を押す。士郎はそれに気圧されながらも了解の意を示した。

「いやわかった。約束しよう」

その返事を聞き、望は威圧を解く。その間に桃子の準備が終わったらしく、士郎達を呼ぶ声がしていた。

「詳しい話は、行ってからにしましょう」

望はそう言うと、レーメを呼んだ。

望の外見にそぐわない迫力に、内心冷汗をかいていた士郎は思わず一息ついていた。

そんな士郎を尻目に、望はレーメにある事を伝える。

「アレの詳しい説明をする。だから一緒に持って行ってくれ」

「吾は構わんが……」

レーメは士郎達を見遣る。その目は少し胡乱気だ。

「あの人達が何故神気を持ってるのかもついでに調べる。どっちにしろ必要だ」

「…分かった」

皆で、翠屋へと向かう。

一日が、始まる。




〜〜〜〜〜




『……これで粗方の説明は終わりですね。何か質問は?』

『…特には無いな』

昼も過ぎ、店の中の盛況ぶりも随分と落ち着いた翠屋で、望は話の内容を鑑みて士郎と筆談で会話をしていた。

ここからは核心には触れないので、士郎は普通に声を出す。

「…しかし、俄には信じられんな」

「…得てしてそんな物ですよ」

「己が知らないだけの世界などいくらでも存在する。たまたま今回はその一端を垣間見ただけの話だ……汝とて分かっておろう。そんな世界を見た時の対処法など、な」

アンタッチャブル。

レーメは言外にそう告げていた。

「そう……か…」

やや肩を落としながら士郎は呻く。裏の世界でその名を轟かせた『不破 士郎』が、自分の無力を久々に突き付けられたのだ。その悔しさは計り知れない。

「ならば……君に託す他に手は無いのか」

「………ええ、元よりそのつも…ッ!!」



…キィン…!……



昨夜のあの感覚が再び訪れる。跳ね上がる様に立ち上がった望は己の相棒を見る。

「レーメ、行くぞ!」

「うむ!」

弾かれた様に飛び出した二人を眺める事しかできない士郎は静かに拳を握り締めた。




〜〜〜〜〜




グルルルルル………

少女が昨夜の悪夢を思い起こす。

「あ、あぅ…」

「なのは!気をしっかり保って!!」

ユーノが檄を飛ばしてもなのはは呆然と突っ立ったまま、小刻みに震える事しか出来なかった。



ゴォァァァアアァアア!!!



「ひっ!!」

黒い獣の咆哮に、なのはの身がすくむ。

昨日のソレよりも更に具体的な形を以ってなのはに迫る異形は、無理矢理例えるのであれば犬に似ていた。

その獰猛なる牙は目の前の存在を噛み砕かんと、なのはへ迫る!!


「…………けて………」


「なのはッ!!」

「…たす…けて……っ!」

そして、恐怖に身を侵され切った彼女の胸に去来するのは昨日の光景。

さらに恐怖へ割り込んで来るのは、死に瀕しているにも関わらず、己の芯を甘く痺れさせる切ないナニカ。



でも、


それでも、


怖い物は、怖い。



ついつい昨夜に寄り掛かった、その背中を求めてしまう。だがそれは仕方ない。

どれだけ背伸びをしようが、

どれだけ気丈に振る舞おうが、

まだ私は十年すら生きていない一人の小娘なのだから。

だから、今はまだごめんなさい。



ゴギィン!!



お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん……………


なのははもうちょっとだけ、ワガママです。



「…昨日に続いて二回目だね。大丈夫かい?」




〜〜〜〜〜




「レーメ、なのはちゃんにオーラシールドを張りながら下がっててくれ」

望の指示にレーメは首を傾げる。

「む?そんな回りくどい事をせずとも…」

「俺達はまだコイツの原因を全くと言って良い程に知らないんだ。折角だから少し探りを入れてみたい」

「そういう事なら了解だ。周辺は結界が働いておるから心配するな」

得心の行ったレーメはなのはとユーノを連れて、望の邪魔にならない場所まで下がる。

それを見届けた望は正面に向き直ると、その手に掲げた黎明を軽く振って黒い獣を弾き飛ばした。

「さて……ある程度解析するまではマラソンマッチか……まずは手加減の基準からだな」

グゥルルル……

先の振り払いを受けた獣が警戒の姿勢を見せる。

「ノゾム、そやつ…ある程度知性があるらしいぞ」

「ああ、多分中身の影響が出てる分も少なからずある」

レーメと言葉を交わしながらも、その身に一切の隙は無い。

そんな中、ユーノが望へと忠告する。

「望さん、気をつけて下さい!そのジュエルシードはこの星の原生生物を取り込んでいます!」

「ゆ、ユーノくん!?喋っちゃっていいの!?」

「なのはが気絶してる間にね、だから大丈夫だよ」

「うむ、だからニャノヒャはなんの心配もせずとも良い」

「にゃのひゃじゃなくてな・の・は!!ちゃんと呼んでなの!」

半笑いになっているレーメに顔を赤くしながらなのはが詰め寄る。

「うむうむ、程よく緊張は解れたな。改めて、大丈夫か?ナノハ」

「え?……あ…」

レーメに言われて、気付く。

先程の恐怖は、既にない。

「…うん、大丈夫なの…ありがとう、レーメちゃん」

小さく、零すようにか細い声。やはり面と向かわれると恥ずかしい物があるのだろう。

「うむ、吾はこれからノゾムのサポートをせねばならん。吾の後ろに居ればあやつの脅威は届かぬから、そこを動くでないぞ」

その言葉を聞いて、なのはは安心すると同時に、何か言い知れぬ蟠(ワダカマ)りを感じた。

そして、なのはは望を見る。




〜〜〜〜〜




ズダァン!!



獣が石畳に叩き付けられ、のたうち回る。

その様子を見ながら望は冷静に戦いから得た情報を整理する。

(…形態から考えた限り、取り込んだ動物は犬か、実体を持ったが故にパワーを得たが、痛みも反映されるらしいな)

ドゴォッ!!

望の手に黎明は握られてはいない。この程度なら黎明は必要ナシだろうと既に収めていた。

今は相手のデータ採りの為に軽く仕掛けながら相手が来た時に柔術でカウンターを繰り返している。

流石に獣だけあってフットワークは軽いが、節がある為にその動きは読み易い。

バチィン!

そんな均衡が続く中、レーメから声が掛けられる。

「ノゾム!判明したぞ、そやつが内包しておるのは『星の導』だ!」

「了解!こっちもだいたい知りたい事は判ったからな、そろそろ止めだ!」

得たい情報は大まかではあるが入手した。

後は無力化だけだ。

望がそう思いながら黎明を引き抜こうとした瞬間、



「リリカル・マジカル!!」



―――謎の掛け声が、響いた。




そして少女は動き出す

その胸の内をさらけ出し

響く言葉は勇気の証

届ける相手は―――――









[28603] 第7章 ~高町なのはは揺るがない~
Name: 岌斗◆1092524c ID:7ea2b776
Date: 2011/06/30 17:01
魔物をやっつけてくれた、王子様がいた


私を助けてくれた、王子様がいた


でも、私では王子様を、守れない


私では王子様を支えられない


そんなの、いやだ


守られるだけは、嫌だ


ただ足を引っ張るだけは嫌だ!


だから、あの言葉を思い描こう…


だから、その言葉を刻み込もう…!





―――不屈の心は、この胸に―――!!





〜〜〜〜〜



「それは、昨夜の!?」

レーメが自分の真後ろからの光景に驚きを露にする。

「守られてるだけなのは嫌だから!」

「なのは!彼に任せた方が!!」

「私だって望くんの力になりたいの!!」

こうなってしまっては止められない。何処か望に通ずる頑固さを見せるなのはに、思わずレーメは肩を落としながら呟いた。

「案外…望との相性は良いのかも知れんな……」

そう言ってる間にもなのはは魔力を練り上げる。その魔力に、レーメはどこかチリチリした物を首筋に感じていた。



〜〜〜〜〜



思いが、足りない。

力が、足りない。

悔しくても、今は雌伏の時だ。

新しい力に先達がいた。

ならばその力を、自分だけの目的に振るえば良い。

新しい可能性は掴まれていた。

ならばその可能性を、自分で創ってしまえば良い。

目的は出来た。可能性はこれからだ。

だったら後は、踏み出すだけ。



覚悟は、いらない。

いるのは、勇気だ。





「リリカル・マジカル!!!」





〜〜〜〜〜



「!?これは!」

光の帯が獣に伸びる。若干の驚きを持ちながらも、望は獣と距離を取った。

ゴァァァァァァァァァァァ!!

桜色の帯は獣へと十重二十重に絡み付く。それを見ながらも望は昨夜の光景を思い、隙は見せなかった。


ギ……ギシ……ギッ………!


「…?」

昨夜の物とは明らかに質が違う。昨夜より格段に堅い。そして…

「…ッ!?」



僅かに感じる、神剣の気配。



「……どういう事だよ…」

力の流れは極々微弱。微弱ではあるが、確実な神剣のソレに、望は呆然とする。

ギリ…ギリ………ギシッ!!

その間に、戦いは終局を迎えようとしていた。

「ジュエルシード、ナンバーXVI!封印!!」

《Sealing》

なのはが構えていた杖から電子音声が響き、獣が徐々に消滅していく。

中から出てきたのは小型犬だった。

「なんと…あれ程に小さな犬だったとは……」

近付きながらレーメは感嘆ともとれる言葉を発する。

「…なぁ、レーメ……」

「……皆まで言うな。吾も混乱の渦中におるのだ…」

望たちの疑問に、未だ解決の糸口は無い。



〜〜〜〜〜



ごつんっ!

「ったぁーい!!酷いと思うの!」

とりあえず望はなのはに拳骨を見舞う。

ぱかんっ!

レーメもそれに倣いなのはの頭をハタいた。

なのはも最早涙目である。

「なんであんな無茶をしたんだ!」

「ナノハ!流石にアレは看過できた物ではないぞ!?」

「だって………」

望とレーメから同時に詰め寄られる。

「望さんもレーメさんも、許してあげて下さい。なのはだってきっと力になりたかったんですよ」

ユーノがなのはの擁護に回る。

「…ならば…仕方ない……か?」

渋々とレーメが矛を収めかける。

「……だって…!」

「「「?」」」

しばらく俯いたまま、動かなかったなのはは、いきなり望に詰め寄ると二人へと思いの丈をぶつけた。

「守られるだけは嫌なの!私だってお手伝いぐらいは出来るの!だから私だけ仲間外れしないでなの!!」

「……ッ!」

望が片手でなのはの胸倉を掴み上げ、そのままなのはを宙吊り状態にする。

「望さん!?」

「黙ってろ!!」

ユーノが思わず望を制止しようとするが、それ以上の剣幕で返される。

「俺達は君が危険な目に遭わないように動いてるんだ!それでも君が万一の場合に備えれる為にと思って、君にその杖を持たせたままにした!!」

「確かに怖いの!!でもこんな怖い目に遭うのが、なのはだけじゃ無いって思ったらもっと怖くなったの!だからっ!!」

「仲間外れにするなだと!?遊び感覚じゃ無いってんなら…そんな事が言える筈ないだろう!!!」

望は一息つき、改めて両手でなのはの胸倉を掴み上げ、吠える様に告げた。

「昨日今日で力を手に入れただけの餓鬼が、戦いを舐めた口を利くな!!」

軽くとはいえ、殺気をなのはに叩き付ける。たったそれだけでなのはは何も喋れなくなった。

「ノゾム、程々にしておけよ。ナノハはまだまだこれからの子供なのだ」

「…分かってる……でもキッチリと線引きをさせないと後が厄介だ」

レーメが一応は、と望に釘を刺しておく。

「あ、あの…わたしっ…!」

なのはの絞り出すような言葉に、漸く望は手を離す。地面にへたり込んだなのはにユーノが駆け寄る。

「…熱くなってすまない、なのはちゃん。でも…これだけは覚えておいてくれ。“力は振るう為の物じゃない”……」

「…………」

なのははその場に座り込んだまま動かない。

そしてそんななのはを見ながらも、望は青い結晶へと近寄る。それに待ったをかけたのはユーノだった。

「待って下さい!!それは危険なんです!昨日も貴方達が回収したみたいですが、それは何も知らない人が扱うべきじゃない」

その言葉にレーメが呆れて溜息をつく。

「イタチよ……その言葉、そのまま汝に返ってくるぞ?」

「え…?」

「では聞くが……これは何なのだ?」

「何って………とある遺跡から発掘された願望を叶える失われた遺産、ロストロギア・ジュエルシードですよ」

「違う」

ユーノの説明を望は一言で切り捨てる。

「何を言ってるんですか!専門家が見立て、文献を参考にして調べ上げた結果なんですよ!?」

「その文献からして既に違っておったのだ。これはそんな物ではない」

レーメが手の上で結晶を転がしながらそう言う。

「なっ……じゃ、じゃあ貴方達はそれが何か知っているんですか!?」

「ああ、知っておるぞ」

レーメは望に視線を送る。

「まぁ、その程度なら話しても問題無いか……レーメ、俺から説明する。お前はなのはちゃんをフォローしてあげてくれ」

「うむ、こちらは任せておけ」

レーメはなのはを抱き起こし、その場を後にする。

恐らく高町家か翠屋に帰るのだろうとぼんやりと考えた。

「さて…」

一息、

まず切り出したのはユーノだ。

「この結晶、遺跡発掘や探索を生業としているスクライア一族が判断した物です。でも貴方はそれを真っ向から否定した……では問います。これは一体何だと言うのですか?」

望の様子は変わらない。先程の事もあってか若干不機嫌そうな雰囲気を纏ってはいるが。

そして、望の口から語られる。


「これは」


世界の正体の、極々僅かな片鱗が。



「これは…“パーマネントウィル”………大いなる器より零れ落ちた、神々の意思の結晶だ」





〜〜〜〜〜





「ナノハ……そう気を落とすでない」

帰路に就きながら、レーメはなのはへと語りかける。なのはは神社の境内から黙ったままだ。

「……………」

「のう…ノゾムも悪気があってあんな事を言っておる訳ではない……そこは理解してやってくれ…」

少し切なげにレーメは言う。

……かつての神剣宇宙の旅の中、望まぬ戦いを強いられた子供や、強制的なオリハルコンネームの覚醒によってエターナル同士の戦いに利用され、訳も解らぬままに死んでいった幼い命を思い、レーメは沈痛な面持ちになる。

その度に望は一つひとつの命に涙を流し、集められる限りの骸を集めてはそれぞれに墓標を刻んでいた。

あの時の己を全て押し殺した虚ろな瞳が、レーメには耐えられなかった。

きっと望は、何も知らない命が戦いに晒される事を極端に嫌うのだろう。

「……が」

「ん?」

ずっと俯いていたなのはが口を開く。

「なのはが…弱すぎるから……何も知らないから……怒られたの…」

「それは違うぞ、ナノハ。ノゾムは戦いが何かを知らぬままに、命の危機を伴う場に踏み込んだ事を叱っておったのだ」

優しくレーメは諭す。これからは不用意に首を突っ込まない事を約束させる為の言葉を紡ごうとした瞬間、



「じゃあ、戦いが何かを知れば良いの」

「……………はぇ?」



予想の遥か彼方を素通りした言葉がなのはの口から出てきた。

「戦いが何か知らないから望くんは怒ったの。なら、戦いが何かを知れば望くんはきっと怒らないの」

「いや、あの…」

「なのはは諦めないの。レーメちゃん、よかったらレーメちゃんにも色々教えて欲しいの」

「だからな、ナノハ……」

「力が足りないなら、特訓するの。望くんには追い付けなくても、せめて足を引っ張らない様に」

その言葉を聞き、レーメは悟りの境地へと至る。空を見上げ、シリアスを展開しているであろう望を想い、。

「……ノゾムー……こやつは想像以上のタマだぞー……」

やがて翠屋が見えると、なのはは勢い良く駆け出す。レーメが慌てて後を追う。

「不屈の心は、この胸に!なの!!」

「いきなり何を言っておるのだ!?」

レーメが何が言っているが、今のなのはには聞こえない。勢いそのままになのはが翠屋へと駆け込んだ。

「あら、なのは?随分と…」

「お父さん!!」

「ん…なんだい?なの



「戦いを教えて欲しいの!!」



…その日、海鳴市では震度二の地震を観測し、とある喫茶店の窓ガラスが割れる被害を出した。





少女の信念は揺るがない

覚悟が無くとも勇気を剣に

彼の元へと向かわんが為に

さあ、物語を始めよう



[28603] 第8章 ~片鱗の真実、世界の歪み~
Name: 岌斗◆1092524c ID:22c7709b
Date: 2011/06/30 17:04
「…神の…意思……?」

「ああ」

ユーノの呟きに望は同意を示す。

「そんなの……聞いた事もありませんよ」

「確かにそうだろうな。真っ当に生きてる人間であればその名を知る事も無いから」

何の事は無いといった風に望は飄々と言う。流石にユーノも訝しげになる。

「なら、何故望さんはその事を知っているんですか?」

「あー…そこに近い位置に居たから……かな。一応コレはトップシークレットの部分に当たるからそんなに深くは聞かないで欲しい」

「神に近い所に?…それこそ眉唾モノですよ。信じろってのが無茶です」

ユーノの言葉を受けて望は先程の剣幕が嘘の様に困った表情になる。

「……とりあえず『そういう物』だっていう知識として持っておいてくれ。他言は無用で頼むよ」

「…仮に貴方の言う事を事実とするなら」

今までの話を聞きながらユーノは望へ質問をぶつける。

「どうして『神』の結晶なる物が『神でないモノ』に反応したんですか?」

「……それは…」

答えに窮する望。

望自身すら先日に知ったばかりの為に、ユーノの疑問を晴らす解答を持ち合わせてはいなかった。

しかしそこに、全く唐突に助け舟が出される。




「それはこの世界に存在する生命、それらの一部に『神の欠片』が内包されているからです」




突然の声。未だレーメの張った結界は有効な筈。そんな空間への闖入者に望の視線は吸い込まれた。

「誰ですか!?」

ユーノが警戒心を全開にしながら、声を発した者へ向き直る。

そして望はその者を見ると意外そうに小さく呟いた。



「ナルカ……いや、イルカナか…?」



望が闖入者……小柄な黒髪の少女を見て呟くと、その少女は小さく微笑んで返答した。

少女の名前はイルカナ。ナルカナの一部から切り離され、それが独立した意思を持った存在だ。『とあるきっかけ』を境に顕現し、ナルカナが存在を認めて自らの想いを確信してからは、必要に応じて生み出せるナルカナの分身体としての役割を担っている。

「『イルカナ』としてはお久しぶりですね、望さん」

望はそんなイルカナに軽い笑みを浮かべる。

「そうだな……久しぶり、イルカナ。で、今のイルカナはナルカナとリンクしてるのか?」

「いいえ、つい先程切りましたよ」

「…なんで?」

半眼になりながら望は尋ねる。

「だって、こんなに可愛くなった望さんを見たナルカナの反応が自分で見れないなんて……面白くないじゃないですか♪」

チロリと小さく舌を出し、可愛らしい仕種で望に向き直る。望はそれに頭を抱えながら小さく零した。

「……相変わらずの小悪魔ぶりで…」

「褒めても何も出ませんよ?」

褒めてねーよ。

突然イルカナが少し内股になり太股を擦り寄せる………って

「あっ……でも…ちょっと…出てきたかな……んっ」

「何がだ!?」

「ナニって勿論あi…」

「言うな!?言うなよ絶対!!!」

テメェこのSS18禁板に送りてえのか!!

「んふっ、ちょっとした冗談じゃないですか…んぅ」

「嘘つけぇ!!」

「…くすっ、そこの彼の為にもこの辺にしておきましょうか……」

妖艶な笑みを望に送りながら若干前屈みのユーノをちらっと見る

「ぇぅあぅ!?」

バタバタと慌てた様に手を振るユーノ。悪戯な笑みに戻ったイルカナはくるりと一回、その場で回る。

「悪ふざけはそろそろ止しましょう。先の話に戻りますね」

イルカナが表情を引き締める。望たちの表情も自然と厳しい物へと変わった。

「まずはそこの……イタチさん…?の質問ですが……」

「…………もうイタチでいいです……」

あ、コイツついに投げやがった。

「…この世界の住人に、たまたまソレを扱う才能が備わっていた………今はそう理解しておいて下さい」

「いや、でもそんな…」

「貴方が我々を信頼していない以上、これ以上の問答に意味はありません」

イルカナがユーノの言葉をピシャリと断ち切った。確かに一理あると考えたユーノは渋々ながらも引き下がる。

「望さん………」

「いや、その前に」

言いながら望は軽くフィンガースナップをする。

「レーメが張った結界の強化をした。これで隠匿は大丈夫だろう」

(!?…魔法陣も展開せずにそんな真似を?)

決して言葉には出さず、しかし内心では戦慄に震える。

「ええ、ですが…彼は聞かせて大丈夫なのでしょうか…?」

イルカナはユーノを見た。思わずユーノは身構えようとするが、その前に視線を外される。

「ある程度関わっちゃってるし、核心に触れなきゃ大丈夫だろうけど…」

「…あまり大丈夫ではありませんね。この話は核心に触れてしまいます」

「そうか………」

どうしたものかと首を傾げる。結界の張り直しをしようにも、イルカナのこの様子だと気付く者がでてしまう可能性がありそうだ。

隠密性ではレーメに一日の長がある。イルカナは『何かと派手な』ナルカナの分身体なので、実は隠密は苦手分野だったりする。

軽い沈黙を守っていたイルカナが、徐(オモムロ)に口を開く。

《………そうですね、こちらの言葉で話します。これなら理解されないでしょう。大丈夫ですか?》

イルカナのその小さな唇から紡がれた言葉は、ユーノにとって全く未知の体系の言語だった。

人では決して届かない高みに在り、尚且つ時に扱う者への強制力すら有する言霊の極みとも言える言語。



それは、神剣言語と呼ばれている。



「???」

ユーノは突然に発された謎の発音に混乱していた。

《……精神への直接的な呼びかけじゃ駄目なのか?》

訝しみながらも望も神剣言語を話す。

《その手の物は世界によっては盗聴される可能性があります。得策とは言えません》

《そうか……で、ナルカナが直接出向かずにお前を使ったんだ………いや、ナルカナだから十分有り得るのか…面倒臭い〜とか思いっきり言ってそうだし……》

《……ナルカナは根源回廊に潜って一日も経たない内から十五分おきに貴方の名前を呼んでますよ?》

この男は……、といった様子でイルカナはやれやれと首を振る。だが、昔から言わないと分からない男だったと改めて実感し、何かを悟るとイルカナは思考の海にダイブしかけた望を現実に引き戻す。

《望さん、続けますよ?》

《…ぁっ!ああ、済まない》

コホンと軽く咳ばらい。イルカナは話し始める。

《この時間樹には、致命的なバグが存在しています》

《ああ、それは来てすぐに思い知った……具体的な内容が判明したのか?》

イルカナがはい、と軽く頷く。

《ナルカナと沙月さんがログ領域から情報を収集していく内に、ある事実が判明しました》

《うん…?》

次の瞬間に発された言葉は望の想像を遥かに超えた物だった。





《この時間樹にはエターナルは愚か……転生体すら、いませんでした》

《………何だって?》

《更に言えば、この時間樹には殆どと言って良い程に…神剣が……無いんです…》





少女は語る、歪みの片鱗を

少女は語る、真実の一端を

少女は語る、世界の在り方を

少年は決める、守るべき何かを







[28603] 第9章 ~遥か彼方の……~
Name: 岌斗◆1092524c ID:d2aaa1c9
Date: 2011/07/01 22:17


《神剣が………無い…?》

《…言い方に少し語弊はありますが、概ねそれで構いません》

望は呆然と立ち尽くす。イルカナのフォローを受けても衝撃は抜けきっていないらしい。

《…ちょっと待ってくれ、例え苗木だろうと時間樹は時間樹だ。管制人格も無しにどうやってその身を維持してたんだ…?》

《エト・カ・リファの時もそうでしたが、ある程度、管制人格が軌道に乗るまで時間樹の育成をすれば、後は休眠しても維持に問題ありません………ただ…》

《…ただ?》

イルカナが軽く間を置く。それに望は何か嫌な予感を感じながら先を促した。

そして、その予感は最悪の形で以て望を打ち砕く。



《この時間樹の管制人格たる神剣使いは休眠をせずに『自らを滅ぼして細分化し、その身を時間樹の内部に溶け込ませた』らしいのです》



その言葉に望は息を呑む。

《そんな!?》

《不可能、ではありません。神剣による自殺ならエターナルであろうと起こり得ます。ログ領域の情報を読み取るに、その神剣は…天位神剣第三位に属していました…》

望の混乱は悪化の一途を辿るのみである。本当に何が起こっているのか、いくら何でもイレギュラーが多過ぎる。

《…エターナルが自らを滅ぼした……時間樹の護り手も遺さずに…?》

混乱しながらも望は首を傾げ、その一点に注目する。

神の尖兵である『ミニオン』や『エターナルアバター』の様な存在は時間樹である以上、維持や抑止に必要な物であり、ある程度確保して然るべきなのだ。

イルカナの様子を見るに、そのようなモノから襲撃を受けた様には見えない。

《ですが、事実としてそのエターナルは滅びています………この時間樹に途徹もない歪みを作り出して、ですが》

《歪…み……》

まだ何かあるのか、と望は半ば絶望交じりに呟く。

しかし、次にイルカナから紡がれた言葉が全ての謎の『答え』であり時間樹の歪みの『元凶』だった。

《そのエターナルが自滅した時期が早過ぎたのです。時間樹は未熟で、自らを維持するシステムすら確立しないままにエターナルを受け入れた。その結果として………》

そこまで言ってイルカナは一度心を鎮める為に胸元に手を置いた。

深呼吸を一つ、望に向き直る。



《……時間樹に『神剣使いは吸収すべき栄養分である』というプログラムが生まれ、この時間樹に存在する神剣使い達を吸収し始めたのです…》





〜〜〜〜〜



一部の窓ガラスが粉砕されたとある喫茶店の中、複数の人間が何やら重苦しい雰囲気を纏いながら話しこんでいた。

「ナノハ…考え直す気はないのか…?」

半分諦めながらも一応はなのはに尋ねてみるレーメ。

実は四回目の質問だったりもする。

「決めたもん!」

こちらも四回目の全く同じ返事を寄越す。高町なのはという少女は、本当に決めた事には完全に意固地になるらしい。ずっとこの一点張りだ。

眉間を押さえながらレーメは視線をなのはの右横に移す。

「シロウよ……どうにか……」

「なななのははがががたたたた戦いをををしえててて」

「……ならんな」

壊れたラジカセの如く言葉を操るのはなのはの父親である高町 士郎。

かれこれ約三十分前からこの調子である。

「モモコよ……何か知恵は無いか?」

「うーん…私が言うのも何だけど…こうなっちゃったらねぇ……」

苦笑いしながら返すのは士郎の妻、桃子。彼女はなのはの母親であるが故に、なのはの頑固さは骨身に染みている。

「「はぁ……」」

桃子とレーメ、二人揃って溜息をつく。

そんな中、ふと桃子は顔を上げて首を傾げる。

「あら?…なのはがあんな事言い出すって事は……」

「うむ、今回は自ら進んで顔を突っ込んだのだ。そして力の差を感じて…」

「…顔を突っ込んでも大丈夫なようになりたがった…と」

「まあ、『力』という『エサ』は入れ食い状態の魅力があるからなぁ」

レーメと桃子がそんな会話をしていると、何か気になる語句があったのか、士郎が顔をこちらに『ぐりん!』と向ける。そのまま猛烈な勢いでレーメに詰め寄り、あくまでも静かな口調で士郎は含めるように尋ねた。

「レーメちゃん……『なのはが力を手に入れた』と言ったね…?」

「あ、ああ…簡潔に言えばそれで…」

「理由…原因はわかるかな?」

「…あー………どう話した物か…」

軽く考えを巡らせる。

力を得た少女、戦力外通知を受けた少女、それをバネにしようとしている少女…。

今ここで正直に話せばどうなるか………。

………………………………………………………………………………………………………………………自分には関係無いじゃん。

聞かれたのはあくまでも『力を手に入れた理由』であって『教えを請うた理由』ではないのだ。

仲間を売る事はできないが、イタチを売るのは躊躇う必要がない。



だってアイツ、イタチだし?



〜〜〜〜〜



《…つまり、話を要約すると…》

一つ、この時間樹には神剣使いを吸収するプログラムがある。

一つ、吸収された神剣使いは僅かな欠片に分かれ、エネルギーとして時間樹の中を流転している。

一つ、神剣使いがバラバラに散った事により、神剣そのものすら細かく分かれ、欠片となった神剣使いの元へ行こうとしている。

一つ、この時間樹での『魔法文明』とは、神剣の力を誤解した物である。

《…歪みしか無いように思えてきた……》

《本当ですね…自分で言いながらうんざりしてきました》

イルカナも疲れたように呟く。だが逆に望はそこにとある仮説を立て、一つの謎を解きにかかった。

《…でもおかげでスッキリした事がある》

《?…何がです?》

《実はな、イルカナ……》

そして望はこの世界での顛末を話す。

それを聞いたイルカナは大きく頷いた。

《望さんの考えは分かりました。恐らくそれで間違いないでしょう》

《パーマネントウィルが人を襲い、悪しき願望器と呼ばれる理由……か…》

《…神剣の自覚が無ければ同じ事ですよ。転生体でも無いのに使いこなせる訳が無いんです》

《…だよなぁ…》

望は頭を抱えてその場にうずくまる。イルカナも深い溜息をつくが、すぐに現状報告に入った。

《落ち込んでも始まりません。まずは沙月さんとナルカナの現状ですが…》

《ああ、どんな感じになってるんだ?》

《沙月さんはログ領域内部にて必要な情報の仕分けをしています。根幹からシステムが間違っていたので、他のバグを探していて、合流は遅れるかも知れません》

《そうか……なるべく早くに会いたいな…》

……イルカナの額に大きな『#』が浮かんだ事に望は全く気付いてはいない。

《……次にナルカナですが、バグに対する大まかな対策を立てて、現在はそのシステムを改善するアーティファクトを製造しています。それが済めば、私でも代役が務まるとの事なので、終わり次第飛んで来るそうです》

《全く……でもそんな所が何よりナルカナらしいよ…》

僅かな微笑みを浮かべながら、望は目を細める。

《…望さん……その表情は反則ですよ?》

「…?」

顔を赤らめながらイルカナが横を向く。望は訳も分からず首をカクンと傾げた。

「んぷッ!」

イルカナが慌てて顔を押さえる。指の隙間から紅いモノが流れ落ちる。

「ッ!イルカナ!!」

「だっ大丈夫、大丈夫ですから!」

ダパダパと血を流しながら望を近付けまいと手で制する。

(今の望さんは極めて危険!この可愛さは反則でしょう!?)

先程の深刻な雰囲気はもはや見る影もなく、シリアスは完膚亡きまでに叩きのめされた。

いかにイルカナとてこの空気を持ち直す事は不可能だろう。

「とにかくっ!とにかく今はそういう事なのでっ!」

「…あれ?」

慌てながら距離をとるイルカナに、望はまたもや首を傾げる。

「イルカナは高町さんにお世話にならないのか?…厚かましい話ではあるけど、ステイの為に招待したがってるぞ?」

《いえ、私はこれからマナホールの調査をしに行きます。原理の調査だけなので一週間もかかりません》

どれだけ慌てようとも流石はしっかり者のイルカナ。核心に触れる部分は神剣言語を忘れない。

…流れ続ける鼻血さえ無きゃなー…。

《…分かった。それが終わったら是非来てくれ。あの家は…温かい》

《ええ、その時は是非》

イルカナも笑いながら神社を去る。

やがてイルカナの気配が消え、それとほぼ同時に結界も霧散する。望は帰ろうと高町家に向かい足を動かそうとした。

「…………あ」

軽く横を向いた所であるモノが目に入る。

「……イタチ扱いでも掘っても良いから忘れるのだけはやめてくれよう…」

……もはやオチでしか無くなったユーノはめそめそ泣きながら愚痴っていた。

「いや、済まない。完璧に忘れてたよ…」

申し訳なさそうに望が謝罪する。何とか立ち直ったユーノは望の肩に乗り、望と共に家路へ向かう。




…尚、今夜の高町家の夕食メニューが『イタチ鍋』に決まりかけている事を彼らが知るのは、自分達がリビングへ入ってからである。






少女は己の役目を果たし

イタチはその身を夕餉に晒す

蒼き胎動に休みは無く

少女の思いに揺るぎは無い








[28603] 第10章 ~決意の証、罪の眠り~
Name: 岌斗◆1092524c ID:d2aaa1c9
Date: 2011/07/01 22:36


「……………で」

「うゅ……ナノハの説得に失敗した…」

「どころか火に油を注いだ、と」

場所は望とレーメに宛がわれた部屋。向かいあった二人は情報交換も兼ねて、今後の方策を話し合っていた。

そんな中、レーメは己の失策を望に伝え、望は腕を組みながらレーメの話を聞いている。

「ノゾムよ……アレは汝が」

「言わなくても分かってる。胸倉掴んだ時にも驚かずにこっちを見続けてたんだ………色々と、俺に似過ぎだよ…あの子…」

一通りの話を聞いた後に頭を抱えながら、それでも何かを懐かしむように望は目を細める。

「……どうするのだ?」

たまり兼ねたレーメがなのはの今後について尋ねる。望はそれに軽く腕を伸ばしながら応じた。

「しばらくは様子を見よう。見込みの種はあるんだろ?」

「無い事はないのだが……」

レーメが少し言い澱(ヨド)む。

「…?」

「ナノハの奴……どうも運動神経が切れておるというか…」

「…運動音痴、と」

黙ったまま、レーメがコクリと頷く。対する望は別段に気にした風も無く、気軽に言い放った。

「そこらへんは問題無いさ。俺だって力を手に入れる前は、運動出来た方じゃなかったしな」

「だが…」

「レーメ、忘れるなよ。俺達は今までスタンドプレーでやって来たから総合力を求めてきたんだ。でもなのはちゃんは違う…彼女をアシスト出来る存在がいる。だから彼女には死角があっても、ある程度までは問題無いんだよ」

望の言う事にレーメは軽い衝撃を受ける。確かに望の言う通りだ。自分達も複数人で行動しているが、望が本気で戦う時は一人になってしまう。

故に、いつの間にかレーメは戦闘力を総合で見てしまう癖がついてしまっていた。

「…うむぅ…一理あるな…」

「だったらそれでOKだろ?」

「確かにノゾムの言う通り…なのだが…」

その理論は今、現在進行形で根底から覆されようとしている。



「そろそろ助けに行かんとあのイタチが三枚おろしになるぞ?」



望がダッシュの姿勢を取るのに二秒と掛からなかった。





〜〜〜〜〜



「殺ァっ!!!」



シャン!!



銀光一閃。

恭也の腰元から放たれた白銀の煌めきは、音すら置き去りにして白い軌跡を描く。だが恭也自身は納得がいかないらしく、顔をしかめるばかりだった。

「まだだ!まだ剣筋が甘い!!」

先の一撃を放った恭也は苛立つように道場の隅へ行き、刀の手入れを始める。

小太刀を主に使用する御神流にしては珍しく、それはいわゆる『打刀』と呼ばれる一般的な日本刀であった。

「…恭也、何をしているんだ」

鬼気迫る勢いで刀を研ぐ恭也に、道場に上がって来た士郎が静かに声をかける。

「父さん…ごめん……でも、俺は父さんみたいに冷静でいられないから…」

刀を研ぐ手を止め、恭也は士郎に己の心情を吐露する。懺悔をする迷える子羊が如く、揺れた眼差しで士郎を見た。

「俺が未熟なのは十分に分かってる!…でもっ、これだけは!!」

そんな恭也の肩を士郎は静かなままにそっと叩く。恭也は思わず顔を上げると、そこには全てを含んだ、己の『父』であり『師匠』である高町 士郎の柔らかな表情があった。

やがてゆっくりと士郎は口を開く。

「恭也………今はそれで良いんだ」

「父さ…師匠………でも…」

「人とは誰しも未熟なのだよ。私とて、まだまだ人として至らないさ……だが、その未熟さ故に人は上り詰める事が出来る」

「………」

「己が未熟である事を忘れるな。そうすればお前は、更に強くなれる……」

「……ありがとうございます…師匠……」

御神の師弟は互いを見合い、志も新たに次へ至る決心を確かめあった。

「さて…」

不意に士郎が沈黙を破る。視線を道場の中に遣り、目標を確認すると満足そうに微笑んだ。

「恭也、師弟としてはここまでだ」

言いながら士郎は蝋燭を付けた純白の鉢巻きを頭に巻き、どこから出したのか釘をしこたま打ち付けた『金属バット』を腰だめに構える。

「…フッ、分かったよ…父さん」

軽く笑いながら恭也も刀の水気を綺麗に拭き取り、丹念な手つきで仕上げを施す。

そんな道場の中央には、



泡を吹きながらピクリとも動かず、天井から吊され、ぐるぐるに縛り上げられたままのユーノ・スクライアの姿があった。




そう、師弟としてはここまで。

これからは、

ここから先は、

娘を愛する家族(修羅)の領域だ……!!




「「まずは皮から、だな」」




落ち着け、お前ら。



〜〜〜〜〜



「ストォォォォォォッップ!!!!」

望が道場に着いた瞬間は正しく間一髪だった。士郎がバットを振り上げた姿勢のまま固まる。それを確認しながらも、慌てて望はユーノへと駆け寄った。

「おい!ユーノ!?」

「ぶくぶくぶくぶく…」

「……手遅れ…だったか………」

ユーノをそっと縄から外し、望は士郎に向き直る。

「……士郎さん…何故……?」

「…家族を想う事は、罪なのかね?」

士郎はその瞳に僅かな罪悪感を滲ませながら返す。しかし望は追撃をやめない。

「……彼も…家族でしょう……貴方は受け入れたんじゃないんですか!?」

「だがそいつは娘を危険に晒した!!…だからっ!………だか…ら……」

血を吐くが如く、士郎は胸の内を打ち明ける。

「それを危険だと思うなら、他にやり様はあったでしょう?」

「私は……不器用だったんだ…それしか知らなかったんだよ……」

「そんな事を言っても…ユーノは戻っては来ないんですよ!?」

「……私は…わたしはぁぁ……っ!!」

ついに士郎が泣き崩れる。そんな士郎を庇う形を取りながら、恭也が二人に割って入った。

「やめてくれ!!父さん一人だけじゃない、俺だって一緒に殺ったんだ!」

「…恭也さん、でもそれは………」

「恭也……!こんな所に情けなど無用なのだ!!」

「父さん、でも!!」

「…お二人の言い分は分かりました……詳しくは…」

「ああ…すまない………罪には然るべき罰がある……そうだな…」

「俺も行くよ……父さん……」

娘を愛する親子は手を取り合い、その場を静かに去ろうとする。そんな二人の背中を望は静かに追いかけた…………。




「……ドラマの見すぎだ、アホどもめ!!!」





〜〜〜〜〜




「………ってな感じで術の発動を促す訳なんだけど」

「…自分の魔力タンクを開くパスワードみたいな?」

「そうそう。そんな感じかな」

時間は経ち、なのはの自室。なのははユーノから本格的に魔法の講義を受けていた。


あれから結局、望を仲介に置いたなのはと士郎・恭也の愛娘連合軍は実に三時間にわたる攻防戦を繰り広げた末に、

「お父さん達なんか大っ嫌い!!!!」

という核爆弾を落とされた連合軍の惨敗に終わる。

二人は断腸の思いで望に全てを託すと、心の荒野を潤す為に、缶ビール片手になのはのアルバムを引っ張り出して自室へと引き上げた。

さっきから啜り泣く声が鬱陶しい。

そんな呻(ウメ)き声をBGMに、望はなのは育成計画を練り上げた。

技術面は持ち込んだユーノに

戦闘面は要員の恭也・士郎・望に

戦いの心構えはレーメに任せて、なのはの育成計画は始まった。

元々が責任感の強い望なので、一度協力すると決めたからにはかなり真剣に取り組んでいた。

今はユーノによる座学の時間。フィーリングで適当に使う力の危険性を指摘する目的だったが、なのはは驚くほど真剣な姿勢を見せていた。

「……とまあ、こんな所かな。次はあさってだからね」

「ありがと、ユーノくん!」

やがてユーノの講義が終わる。夜も良い時間なので寝る事になるのだが………



「そういえば望くんって何処で寝てるの?」



争いの火種は、尽きそうに無い。





 



少女は新たな道を選び

少年は新たな種を育てる

親バカの船は儚く轟沈し

ここに新たな可能性が生まれた









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