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放射性物質:高線量被ばく時投与の薬 低線量では効果不明

医薬品として日本でも承認されたプルシアンブルー
医薬品として日本でも承認されたプルシアンブルー

 東京電力福島第1原発の事故で被ばくへの不安が広がる中、複数の医薬品輸入代行業者が、高線量の急性被ばく時に投与される「プルシアンブルー」(PB)を個人向けに売っている。体内の放射性セシウムの排出を促し内部被ばくを軽減するとされるが、低線量被ばくへの効果は不明。逆に、不整脈などをもたらす低カリウム血症や便秘などの副作用が懸念され、国は医師の処方に基づく適切な服用を呼び掛けている。

 PBは、セシウム137が体内にとどまる期間を3分の1に縮める効果があるとされ、世界保健機関(WHO)が各国に備蓄を推奨している。日本では昨年10月に販売が承認された。

 今回の原発事故では、医薬品製造販売会社「日本メジフィジックス」(東京都江東区)がドイツから7万2000カプセル(1カプセル0.5グラム)を緊急輸入し、政府に無償提供した。政府は原発復旧作業での急性被ばく時の投与を想定しており、一般の医療機関では扱われていない。

 ところが、同社によると、複数の医薬品輸入代行業者が事故直後、インターネットで輸入代行業務を始めた。薬事法上、医薬品の輸入自体は規制されず、購入しようと思えば誰でも手に入る。

 放射線医学総合研究所(放医研)はPBについてホームページで「(セシウムによる内部被ばくが)30ミリシーベルトでは治療の利益がなく、300ミリシーベルトで有意な効果がある」と説明。医療機関に対し、投与の際は▽医師の処方に基づく▽効果を内部被ばくを計測する「ホールボディーカウンター」で測る▽治療データを放医研に報告する--ことを求めている。

 前川和彦・東京大名誉教授(救急医学)も6月30日の政府・東京電力統合対策室の会見で「低線量被ばくへの効果は未知数。すぐに使うべきだとは考えていない」と述べた。

 厚生労働省災害対策本部は「PBには副作用があり得るし、偽物が出回ることもある。個人での入手や使用は勧められない」としている。【池田知広】

 ◇プルシアンブルー

 絵の具にも使われる青色顔料で、87年、ブラジルで医療用放射線源のセシウム137が漏れた事故で入院した住民46人の治療に用いられ、特に成人で効果が大きいことがわかった。しかし、それ以外の治療データはほとんどない。ドイツの製薬会社がカプセル状にして「ラディオガルダーゼ」の名で97年から販売している。

毎日新聞 2011年7月2日 11時36分(最終更新 7月2日 12時42分)

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