1日公表の路線価は下落幅が縮小し「リーマン・ショック以降の下落基調から転換の兆しが見える」(国税庁)との指摘もあるが、東日本大震災の影響は東北などの被災地だけでなく、首都圏にも広がり、土地の評価に暗い影を落とす。近年、超高層マンションの建設ラッシュで不動産市況をけん引してきた東京湾岸部で、震災に伴う液状化やエレベーター停止による「高層難民」などのリスクが浮かび上がったからだ。
「大きな揺れが、まるで遊園地のアトラクションのようだった」
東京湾岸の江東区東雲(しののめ)にある54階建てマンションに住む主婦(50)は、今も鉄骨が「ギシッ、ギシッ」ときしむ音が忘れられない。
震災当日の3月11日、最上階の知人は揺れに酔い、嘔吐(おうと)した。「マンション内部の見えない所に被害がないか不安」。甚大な液状化被害が報告されている千葉県浦安市などと異なり、都内の湾岸部には目に見える大きな被害が出ていないが、住民の意識には強い恐怖感が刻み込まれた。
江東区によると、液状化で路面のひびや陥没などが生じたのは16カ所、建物の半壊は15棟。多くは既に補修され、マンションエリアの周辺を歩いても、運河沿いの遊歩道に走った亀裂や、入り口と路面に生じた段差を補修した店舗などが目に付く程度だ。住民が気にするのは、実害よりも街のイメージダウン。同区豊洲のマンションに住む女性(38)は「価値が暴落するとまでは思わないけど、今売るのはやはり最悪でしょうね」と嘆いた。
みずほ証券の石沢卓志・チーフ不動産アナリストは「豊洲辺りは2割ほど値が下がるかもしれないが、これまでが過熱気味だった。需要はなくなっていないので、全体の市況は心配するほど落ち込まないのでは」と見る。一方で「90年代初めからイメージ改善が進んだウオーターフロントだが、『問題のある場所』との見方に転じるだろう」と、買い手の目は厳しくなると予想する。
ただ、首都圏で大規模な宅地を供給できるのは、今後も土地に余裕がある湾岸部に限られる。石沢氏は「業者側には地盤改良などの努力をしっかりと示すなどの工夫が求められるだろう」と見通した。【加藤隆寛】
毎日新聞 2011年7月1日 11時00分(最終更新 7月1日 11時35分)