12/11 1008 横浜基地廊下
207小隊b分隊の面目は、隊がそのままA-01という部隊に編入されると聞き、些か拍子抜け、といった空気だった。
入隊に当たっての挨拶とその後の座学のためにブリーフィングルームに向かう彼女達が通路を進んでいると、大分大柄な男が壁に寄りかかり、煙草を燻らせているのが目に入った。
国連軍第一装をだらしなく―――Yシャツの裾はズボンから出ており、ブレザーの前も全開。全体に皺が寄っている―――着込んだその男の顔には大きな傷が走っている。
その男が、彼女達を見据えた。
ぞくり、と怖気が彼女達を襲った。
引き攣った顔を捩るように嗤うその表情。腐った魚のような眼。男の方から空調に流されてくる空気は煙草と、何故か濃い枯葉と血錆の香り。
「中尉殿、何か、御用ですか?」
襟元の徽章を中尉と認めた榊が―――僅かに震えた声で―――その上官に問いかける。
その問いに、男は答えない。ただニヤニヤと彼女達を見詰めるばかりだ。
薄く開いた唇から紫煙が零れた。
「ようこそ、A-01へ」
この男が。
彼女達は目の前の上官とこれから先やっていくことに驚愕し、次にその声音に困惑した。
錆び付き、朽ちつつある鋼鉄が軋むようなざらざらとした声音。
「クーデターの時の話は聞いてるぜ。帝都守備隊相手に死者ゼロだって? 大したモンだ。期待してるぜ、お嬢さん方」
言葉の内容は彼女等を賞賛している。が、口調が違った。
どこか嘲笑のような響きを含む口調。訳もなく不快感を掻き立てる声音。
「自己紹介はどうせ後でやらぁな。じゃ、また後でな」
彼女達はそう言って背を向ける男を、呆然と見送るしかなかった。そうする以外に、何をすることも思いつかなかった。
同日 1030 ブリーフィングルーム
ヴァッシは何時も通り少し遅れて現れた。
「ヴァッシ、いつもそうだがお前は時間前に行動するという思考回路がないのか?」
半ば諦めの入った声の伊隅。それに応えるヴァッシはやはり皮肉気だ。
「スンマセンね。ここんとこ歳なのか便所が近くて」
隊員の嘆息。矯正のしようもないということだろう。
「では気を取り直して、だ。A-01へようこそ。貴様ら207小隊は丸ごとA-01連隊―――今は中隊規模しかないが―――に編入される。先ずはヴァルキリー中隊から紹介しよう」
「悪いけど紹介は後にして頂戴」
紹介を始めようと伊隅が隊員の方に目をやったその時、入り口のドアを余り面白い顔をしていない夕呼が開いた。
「馬鹿なクーデター残党のお出ましよ。伊隅、これ読んで」
ぽい、と投げ渡された余り厚くはない資料。伊隅が目を通すそれは余程慌ててタイプされたのだろう、やたらと誤字脱字が多い。
「なッ……!!」
そこには、帝国の恥部が画かれていた。
「昨日城代省宛に書簡が届いたわ。通信じゃなくて書簡、って辺りがらしいといえばらしいけどね。送り主は12・4事件残党。総勢は精々40人」
「それなら軍を投入すれば直ぐじゃないですか。何でウチ等に話が来るんですか?」
僅か40人と聞いて、速瀬が疑問を述べた。夕呼はそれに向き直る。
「それはね、連中が核を持ち出してるからよ」
その言葉に、場の人間は―――やはりヴァッシはニヤニヤと嗤っていた―――息を飲む。
公式には日本は核とそれに類する兵器を一切保有していない、ことになっている。
S-11保有量は世界でも有数だし、燃料気化爆弾も相当数を保有しているが、核は持っていない。
だが実際には違う。幾らS-11や燃料気化爆弾が優秀な破壊兵器とは言えど核には当然劣る。故に自決用として城代省は戦略級の核弾頭を幾つか保有していた。
「今回蜂起した連中は戦略核弾頭搭載の巡航ミサイルを保有していると言ってる。で、公式には熱核兵器を保有していないことになってる帝国軍としてはそれが公になるのは困る。12・4事件はなかったことにしたいしっていうのが本当のところでしょうし。それで帝国軍とは関わりがなくて戦死者が出ても訓練中の事故で話が済むあんたらA-01にお鉢が回ってきた、って寸法ね」
「声明は?」
堅い声でそう聞くのは宗像。
「アメリカとの同盟完全破棄と真の自由独立。期限は今日中だそうよ。明日の零時丁度までに実現されない場合、核を発射すると言ってるわ」
「無理だな」
応えた夕呼の言葉を即座に切り捨てたのはヴァッシだ。視線が集まる中、口元を捻りあげるような笑みは変わらず。
「そんなモンは建前だろ。政府にそんなことやる積りはねぇし、やるにしたって時間が足りん。ホントのところはどうなんです、夕呼サン?」
「建前も何も連中はそうとしか―――――」
「アンタはどう思ってるんだ、って聞いてんすよ、俺ぁ」
夕呼は舌打ちする。彼女は話の途中で腰を折られるのが嫌いな性質だ。
「人の話を途中で遮るのはやめなさいっていつも言ってるでしょう。まあそうね。死にたいんでしょう」
そんなトコでしょうね、とヴァッシは煙草に火を点けた。紫煙を吐き出し、それと共に言葉を垂らす。
「で? 香月副指令としてはどうするんで? やっぱり出撃ですか? これを解決すりゃ城代省に出来る借りはデカイでしょうしなぁ。つぅよりここに持ってきた時点で出撃か」
こりゃ楽しみだ、とヴァッシは嗤った。闘争に酔えるシチュエーションを愉しんでいるのだろう。
嘆息と共に、夕呼は通達する。
「そういうこと」
「首謀者は?」
くつくつと嗤いながら、ヴァッシは聞いた。その莫迦共を率いる奴の名前を知っておきたいと思った。
「帝国陸軍富士教導団戦術機教導隊第二中隊指揮官、浦城朱鷺重大尉だそうよ。一応教導団のトップエース―――――」
「浦木……朱鷺重!?」
その名を聞いて、呆然とした声を出したのは霧耶。その名前には聞き覚えが、十分すぎるほどにあった。
「なに、アンタの知り合い?」
「私の……伯父です……」
霧耶と浦城は本家と分家筋の間柄で、霧耶が幼少の頃は彼女の面倒をよく見ていた人物だ。
霧耶も浦城に懐いていたし、浦城も霧耶を可愛がっていた。
「何故……そんなことに……」
自失した霧耶。
頭痛が酷い。視界が揺らぐ。気持ち悪い。
そこに、ヴァッシが声を堕とす。その声は、流れる硬水のように冷やかだ。
「テメェのA-01で初めての仕事の時に俺が言った台詞だが」
霧耶がそちらを向けば、そこには刺すような視線を送るヴァッシが見えた。心なしかチリチリとした殺気を感じる。
「"嘗ての女だろうと上官だろうと、銃口を向けあったんだ。殺しあう以外に何がある"」
その言葉にレティシエは哀しげに俯いた。
霧耶は絶句する。そんな霧耶を見てどう思ったか、ヴァッシはもう一つ、堕とした。
「……"殺すときは殺せ。容赦なく、残酷に"。これはA-01設立当時からフェンリル中隊隊長として俺が掲げてる隊則だ。テメェもフェンリルな以上、従ってもらうぜ」
「………」
霧耶は応えない。応えられない。
しかし、ヴァッシは許さなかった。
「フェンリル隊復唱!! "殺すときは殺せ"!!」
『"殺すときは殺せ"!!』
「"容赦なく、残酷に"!!」
『"容赦なく、残酷に"!!』
「霧耶、忘れんなよ。"殺すときは殺せ。容赦なく、残酷に"、だ……返事はどうした!!」
「り、了解……!!」
霧耶の顔は今にも泣き出さんばかり。なればこそ、ヴァッシは容赦しない。
フェンリル隊隊則にヴァッシの趣向が入っていることを彼は否定しないが、これはある意味真だ。
殺すときに殺さなければ、殺されるのは自分だと、ヴァッシは理解していた。
そうなれば答えは見つからない。
何を、何処に無くしたのか。その答えは永久に見つけられなくなってしまう。
死んでしまえば、そこから先は無い。
「聞こえねぇ!!」
「了解!!!」
くしゃくしゃの顔でそう言った霧耶から視線を外すとそれきりヴァッシは腕を組み、目を瞑って壁に体重を預けた。
夕呼が気を取り直すように息を吐き、やはり少し表情を堅くした伊隅に言った。
「伊隅、出撃のスケジュールとかはアンタに任せるけど、今日中に片がつくようにしてね」
「了解」
同日 1222 ブリーフィングルーム
中隊は再びブリーフィングルームに集った。最終ブリーフィングだ。
戦略地図がモニターに表示され、本州の真ん中より若干佐渡島寄りの、そこそこの規模を持つ基地が明るく表示されていた。
「クーデター残党は群馬県、北群馬郡の帝国陸軍基地を急襲、制圧し、そこに陣取っている。我々は可及的速やかにこれを鎮圧する必要がある。ではルートの説明に移る」
伊隅がそう言うとピアティフがキーボードを操作。画面が切り替わる。
「とは言っても殆ど一本道だ。当基地を出発後、整備車両に搭乗して首都高湾岸線跡に入り、大井町ジャンクションで首都高速一号羽田線に乗り換え。その後板橋ジャンクションまで首都高を通過し、首都高速五号池袋線を北上する。美女木ジャンクションを抜け、戸田西インターチェンジで東京外環自動車道に乗り換えた後大泉インターチェンジ、大泉ジャンクションと通過し、延々と関越自動車道跡を突き進む。高崎ジャンクション跡で全機起動、前橋ジャンクション跡まで進展する。その後フェンリル01以外は警戒待機。フェンリル01には奇襲を仕掛けてもらう」
「ちょ、大尉。聞いてませんけど。ていうかグレイゴーストじゃ無理っすよ」
そこまでブリーフィングが進んだところで、ヴァッシが声を上げた。幾らなんでもグレイゴーストで単機駆けは無謀だ。
僅かに口元を引き攣らせたヴァッシに対し、伊隅はしれっと言い放った。
「ああ。だから貴様にはこの作戦から叢雲に搭乗してもらうぞ」
「……あのー、正気っすか。慣熟訓練もしてねんすけど」
それに対しても伊隅は然も在らん、と頷くだけだ。
「そこは貴様のキャリアに期待しているぞ。何とかしろ。さて、続きだが」
「大尉!! 大尉!?」
更に言い募るヴァッシを完全に無視し、伊隅はブリーフィングに戻った。哀れ。
「フェンリル01の奇襲と同時に各機戦闘領域までNOEで接近。それから先はゴリ押しだ。気を引き締めておけ!!」
『了解!!』
「俺は了解してねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
全員の敬礼に、ヴァッシの悲痛な叫びは揉み消された。
同日 1250 ハンガー
他の隊員が慌しく出撃準備を整えている時、ヴァッシは既に強化服を着込み、叢雲の最終調整を行っていた。
「なに、結局ARDASは間に合わなかったわけ? で、代わりにロビタの改良型、と」
例の届いていなかった専用兵装の一つは結局組み上げには間に合わなかった。それの代替としてロビタを改良したものが叢雲に搭載されることになる。
「ああ、結局軽量化と強度確保の折り合いが付かなかったらしくてな。LWRSSはもう積載してある。LBTはお前の確認待ちだ」
どれ、とヴァッシは布を被ったそれを見に行った。シートが外されると、そこには随分とごつくなったLBTが鎮座していた。
「LBTを中折れ式フォールディングにして、給弾をベルトリンクに改良したもんだ。即応準備弾は48。砲身をぶった切ってるから強度的な問題でマックスでも分間50発くらいに抑えとけ」
スペック表に目を通すとOK、と言ってヴァッシはそれの確認を終え、書類に規定事項を書き込んだ。それを受け取り、ディークが搭載しろ、と指示を出す。
それはそうと、とヴァッシはディークに胡乱気な目を向けた。
「叢雲のスペック読んだけどよ、あれホントかよ? あのスペックじゃ部隊運用に支障が出るだろ。ていうか今のA-01の装備じゃ追従できねぇぞ?」
「さぁな。俺たちにゃ関係ねぇ」
然もあらん。仮に追従できないとしてもてんやわんやするのは彼らではなく、恐らく基地所属の整備兵だろう。
ディークらはヴァッシのA-01転属と共にNASAから送られた整備兵たちだ。
アメリカ最大のブラックボックス、ステルス技術を漏洩させるわけにはいかない。そのため所属は横浜基地となっているが、事実上はヴァッシ専属だ。
「OK。慣熟もなしに実戦運用って辺りでやっちまった感は否めねぇけどしゃあねぇか。今度ばっかりは数が違いすぎる」
「40対1だって? ギャグだな」
「まったくだ。それを騎兵隊の到着まで10分以上保たせろってんだから、ウィットの利いたジョークだぜ。お陰でこんなゲテモノに乗らなきゃならねぇ」
慣熟もなしに、と加えると、ヴァッシは叢雲のコックピットへと繋がるタラップを上り始めた。着座調整をしなければならない。
シートに座るとその違和感のなさに奇妙な覚えを得た。
「ディーク、なんか弄ったのか? なかなかナイスなソファが置いてあるぜ」
「ケツに馴染むだろ。グレイゴーストのデータをそのまま移植したからな」
なるほど、流石、とヴァッシは息を吐いた。
「で? 整備支援車両はどうなってんだ? 通常規格じゃ載せられねぇだろ」
叢雲は頭頂高23m、最大幅長9,8mの巨体だ。通常規格の整備支援車両では載せられない。
ハンガーはノースロック・グラナン社が専用のものを用意していたが、車両はどうだ、ということだ。
「そっちはN・Gからも来てねぇ。輸送車両に膝立ちで乗っけてもらえ」
「それ本気で言ってんのか? 冗談じゃねぇ……」
邪魔な機体だ。ヴァッシは思わず頭を抱えた。
LAHA構想
戦術機開発黎明期の米国において、戦術機にどの程度の武装を施すかという問題が生じていた。戦術機という全く新しい兵器に対し、どのような武装が適しているのかなど解る筈もなく、戦車などと同じ様な重装甲重武装の道をとるか、それとも航空機のように軽装甲高機動をとるかで武装開発は難航していた。
そこで当時、戦術機のフレーム規格に合わせて装備分担を行うことで軽攻撃、重攻撃と役割を分けるという考え方が生まれた。これがLAHA構想である。
LAHA構想においては軽戦術機規格であるLフレームと重戦術機規格であるNフレームが存在するが、Nフレームを採用した戦術機は現在に至るまでYF-12A、XF-108、F-111系列機の3機種に過ぎず、うち量産機はわずか1機種しかないため一般に見ることは難しい。広く見かけるのは軽戦術機規格フレームのLフレーム戦術機である。
N規格フレームとは、Lフレームよりも積載量が大きい、大型のフレームを指す。このためL規格フレームを採用した戦術機の装備では撃破し辛い対象もN規格フレームの戦術機であれば、その積載量により強力な火器を搭載できるのでこれに対応することができる、というわけである。
逆にL規格フレームはNフレームよりも小型軽量の、高機動型フレームを指す。このL規格フレームは第二世代戦術機以降でその方針が明確化されていった。第一世代機はまだLフレームとして完成していたとは言い切れず、主機出力係数に都合がつけば第三世代戦術機よりも大きな積載量を得ることが可能であった。
しかし先にも述べたとおり、Nフレーム機はたった3機種と、LAHA構想は成功したとは言い難い。3機種の内最も小さいYF-12Aであっても頭頂高19m、最大となるXF-108に至っては23mと、Lフレーム機の標準となる頭頂高17m前後から大きく逸脱していた。このことは整備環境維持が困難である、空母からの発艦が出来ないなど運用に多くの制約を付け足すことになった。またNフレーム機はその大きさゆえに操作性の悪化が著しく、また単価が嵩み、軍用機としてはかなり高価になった為、より安価で操作性の良いL規格準拠戦術機が主に生産されることとなったのである。
登場メカ設定
XF-108レイピア改 叢雲 (ノースロック・グラナン社社内呼称エクスカリバー)
XF-108レイピアはLHA構想に基づいて設計された重装甲重武装型戦術機である。中隊規模でHIVEの攻略が可能なAAA(Aggression-Area-Annihilation 敵対領域殲滅)級戦術機として設計され、後にHI-MAERF計画において開発、製造された戦略航空機動要塞XG-70ヴァルキリー(国連登録名称スサノオ)の護衛機に方針を転換した戦術機で、世代的には第2世代機の走りとなる機体。そのため第1世代機と第2世代機両方の特徴が混在して見受けられる。凡そ戦術機として求めうるすべての性能を詰め込んだ意欲的な機体。
本機はその設計段階において衛星軌道からのHIVE領空侵入から最深部まで無補給で侵攻可能な航続距離と光線級のレーザー照射にある程度耐えうる防御性能、超長距離からマグヌス・ルクスに対して先制攻撃を加え、且つ一撃で制圧できるだけの長射程と打撃力、そしてBETAの大群を強行突破することが可能な加速性能と速度性能、面制圧火力を有していることが求められた。
この様な無茶苦茶な要求スペックを一定値満たし、量産計画機としては破格の性能を持つに至ったXF-108だが、G弾の開発に伴う米軍の戦略転換によってAAA級戦術機が不要とされたことで方針を転じ、XG-70護衛機としての開発が進んだが、XG-70がHIBEへの単独侵攻を目的とした戦術機であることからその設計思想に矛盾が生じていた。また、LAHA構想中のN規格準拠機としてもその機体コンセプトが余りに先鋭的であったことと、操作性が余りにラジカルであったことから操縦可能な衛士が限られる、単機性能を突き詰めすぎた為に開発コストが高沸、さらに大型化に歯止めがかからなかった等の要因もあり、開発は中止された。
しかし開発中止を不服としたノースロック社技術陣は自社開発を続行、1980年に完成させていた。採用の見込みのない戦術機を何故自社資金で開発したのかについては不明だが、ノースロック社は時期主力戦術機開発競争に打ち勝つための技術開発と、フラッグシップ的な意味を含めて開発を続行したと思われる(狂信的なドイツ系技術者集団として知られるノースロック・グラナン社開発第13課が当時の社長を脅迫し、開発を続行したとも言われるが詳細は不明)。このため本機はHI-MAERF計画の中で計画されたXF-108とは異なり、どちらかといえば当初のAAA級戦術機に近い設計思想を持つ。
その後XG-70と共にオルタネイティヴ4へ移譲されることが決定すると同時にノースロック・グラナン社開発第13課がレイピアPAV1、PAV2両機のモスボール凍結を解除、叢雲へと現用改修しており、区分としては準第3世代機となる。改修後、XG-70護衛随伴機としてA-01部隊に配備された。
機体フレームはチタニウム合金の削り出し及びスーパーカーボンを導入した通常フレームとモノコックフレームを併用することにより驚異的なフレーム強度を確保している。しかしこれに加えて下記のような性能を付加しようとした結果機体は大型化し、頭頂高23m、最大幅長9,8m(叢雲改修後)の威容を誇ることとなった。また大型であることから歩行性能は現用改修後もF-15程度に留まっている。
現用改修の際にアビオニクス系も大幅に改新され、OBLの導入、超長距離射撃用FCSの搭載、ルックビハインド機能の付加、高性能CPUの導入、新OSの搭載、多目標追跡能力の強化、IRST(Infra-Red Search and Track 赤外線走査追尾)システムの追加など多岐に渡る装備品の更新が行われている。加えてYF-23ブラックウィドウⅡPAV2グレイゴースト改より頭部複合センサー群と遠深度モノセンサーアイ併用のセンサーシステム、通称”トンボ眼”並びにフェイズド・アレイ・レーダーを受け継いだ(“トンボ眼”に関しては叢雲が受け継いだというのは正確ではない。というのもグレイゴースト改にて試験が実施されていたセンサーシステムは元機レイピア設計段階で既に計画されていたが、当時の技術では小型化できなかったためオミットされた物の小型化版で、そのテストがグレイゴーストで行われていたのである。ここに技術の進歩を見ることが出来る)ため、電子戦用戦術機並のアビオニクス性能を備えている。
主要部の装甲は間隙に熱蒸散ゲルを充填した超硬セラミック、劣化ウラン、スーパーカーボン、チタニウム、アルミニウム、防弾鋼板のモジュラー式複合装甲板で、更にそれを表面硬化高炭化鉄鋼板で覆い、そこに積層対レーザー蒸散装甲、積層対レーザー蒸散塗装を配した。最大装甲厚は550㎜、化学エネルギー弾頭に対して3200~3050㎜(RHA換算)、運動エネルギー弾頭に対して2510~2380㎜(RHA換算)の性能を持つ装甲強度は戦術機として必要な強度を遥かに超越しており、戦艦並の装甲性能をもつ。帝国軍の採用する87式突撃砲に使用されるのを始めとする36㎜劣化ウラン芯徹鋼弾は勿論のこと現用戦車の主砲、120㎜L44滑空砲による劣化ウラン弾芯APFSDSのゼロ距離射撃を防御し得る。
さらに積層対レーザー蒸散装甲板と間充足熱蒸散ゲルの採用によって光線級ルクスのレーザー照射に対して最大で約45秒、重光線級マグヌス・ルクスのレーザー照射に対して最大約25秒間の耐久力(いずれも単体からの照射に対して)を持つに至り、積層という特徴から同一箇所への複数回のレーザー照射を防御することも可能である。
通常このような超重装甲化の弊害として機体重量の肥大という問題が生じるが、本機においては速度調整とARDAS203㎜滑空砲システムの反動制御のためのカウンターウェイトとしても意味合いもある。なお叢雲に改修されるに当たって本機には装甲形状によるステルス性能が付加されたため、その装甲形状は元機レイピアとは懸け離れたものとなっており、非常に鋭角的で攻撃的なデザインとなっている。
主機は機体設計段階から機体重量が膨大なものになることが想定されていたため、極めて高出力のものが装備されていた。その後設計段階が進むにつれ、想定以上に機体重量が肥大化したため、胸部フレームを拡張して主機を2基搭載することとなり、これによって本機は他の機体とは桁違いの主機出力係数を得ることとなった。更に現用改修を受けるに当たりYF-23改に搭載、試験運用されていたものを最大出力はそのままにスウィートスポットを広げた改良型高性能主機(無論コスト度外視の超高級品)が導入され、更にその出力を増すこととなった。
本機の特徴の一つに速力と加速性能があるが、これは主跳躍ユニットに現行最高出力を誇るターボ・ラム・ジェットエンジンJ-58-K3が片側2基、計4基(推力1基辺り15422㎏、計61688㎏)用いられ、更に加速器として酸化剤に液体酸素、燃料にケロシン系燃料を使用する液体燃料ロケットエンジンを跳躍ユニット基部に1基ずつ搭載することに起因し、アフターバーナーと併用した際には完全装備であっても9,5G以上という驚異的な加速度を記録する。結果瞬間最高速度は900km/h以上となっており、現用のあらゆる戦術機を凌駕する。推力重量比も代表的な現用戦術機が激震が約0,48、ストライクイーグルが約0,6、不知火が約0,7、ラプターが約0,85、武御雷であっても約0,9と、1を上回る戦術機が存在しない中で2,5以上という圧倒的な推力重量比を誇る。その上で航続距離、活動限界も他の戦術機よりも遥かに長く、極めて広大な無補給行動範囲を持つ。しかし最高速度900km/hはAB使用のJ-58-K3とロケットエンジンを併用した場合に観測される速度で、巡航速度は820km/hとなっている(それでも十二分に速いが)。
なお本機のジャンプユニットはP&W114wbターボ・ファン・ジェットエンジンとJ-58-K3の複合エンジンとなっている。これは通常静止状態からは作動できないというラム・ジェットエンジンの欠点を克服する為に取られた措置で、114wbの超音速の排気をJ-58-K3のエア・インテークに取り込むことで通常通りのジャンプユニット運用を可能にする設計であった。これにより本機はいつ如何なる状況下においても安定した推力を確保できたのである。
本来的にJ-58シリーズのラム・ジェットエンジンはターボ・ファン・ラムジェットエンジンと呼ばれる内部にターボジェットと同等の機構を取り付け、ラムジェットが作動する高速に達するまではターボジェットとして機能する、ターボジェットの外周部にラムジェットの機能を付加する形式を取るエンジンで、高バイパス比ターボジェット(high-bypass-ratio-turbojet)とも呼ばれるエンジンである。そのシステムの概要は流入空気をターボジェットへ回すか、完全にバイパスしてラムジェットとして機能させるかを飛行速度に応じてバイパスフラップで制御するというものだ。しかし戦術機においては空気力学的に超音速まで機体を加速することは事実上不可能であり、それを解消し、ラムジェットエンジンを駆動させうるシステムとして上記のような特異なエンジン配置がなされたのである。本機においては駆動域まで加速されたエンジン排気よるラムジェットとターボジェット双方による推力が齎されており、スペックデータ以上の推力があったことは想像に難くない。なおJ-58-K3は本機に搭載すべく小型・軽量化し、上記のようにラムジェット・ターボジェット複合エンジンとして運用できるように改良されたもので、事実上J-58シリーズとは別物と言って差し支えのない代物であった。
機動力を確保するために頭部脇の胴体と腰部に二対四基の逆噴射高機動ジェットノズルが装備されており、急停止、急速旋回に使用する。その推力は4基合計で推力重量比1,2にものぼる高出力を誇り、それはメインジェットエンジンがそれだけの推力を以ってしなければ停止することもままならない推力を持つ、ということに直結する。それでもテスト段階で最高速力に到達した叢雲が、停止のために高機動ノズルを最大出力で吹かしたにも拘らず完全停止までに500m以上を要したというデータもある。当然衛士にかかる負担は尋常なものではなく、パイロットシートには事故防止用の装置が取り付けられた。
なお叢雲に改修する際にそれに依らないでの機動性能を確保するために、ジェットノズルにはそれぞれ3枚の推力偏向パドルを搭載し、グレイゴースト改より肩部高機動スラスターを受け継ぎ、膝部装甲ブロックに二次元推力偏向ノズルを採用したサブスラスターを装備したことでその機動力は更に強化されていた。これにより本機は圧倒的な突進力と並の衛士では御し得ない超高機動性を同時に手にすることとなったのである。
背部に装着するための専用装備も考案、設計されている。物としてはフォールディングタイプのLWRSS40㎜3連装回転砲身機関砲と、同じくフォールディングタイプのARDAS203㎜滑空砲の2つで、これら二種の兵装は速度調整用のウェイトも兼ねており、弾薬が尽きてもパージしないことが推奨されていた。両システムの基部には武装パイロンが装備され、両肩武装パイロンとは別に装着されるため通常通り各種兵装をパイロンに装着することも可能。これにより本機は計4基の武装パイロンを備えることとなり、手持ちも含めると最大で203㎜滑空砲1門、40㎜3連回転砲身1門、突撃砲6門を装備でき、他の戦術機とは桁違いの火力を得た。
なお本機の過剰なまでのフレーム強度はこのような超重装備を施した状態で高速・高機動戦闘を行った場合、通常フレームのみでは負荷に耐え切れずにフレームが歪曲してしまうためではないかという意見もある。しかしA-01部隊に配備された当初、ARDAS203㎜滑空砲システムは諸事情により間に合わなかった。なお通常の兵装担架は両肩装甲ブロックに装備されている。これは後に同社が開発するYF-23と同様の方式であり、同社はXF-108製造において技術蓄積したものと思われる。
以上がXF-108の解説となり、速力、機動力、火力、攻撃能力及び防御力(つまりは単機性能)が特に重視された機体であると言える。また極めて大型であることから拡張性も高い。そのため単機性能であればあらゆる戦術機を上回る能力を持っているが、コスト対効率や部隊運用を考えた際には優秀な機体とは言いがたい。
整備性も悪く、整備員泣かせの機体である。機体開発にYF-22ラプター以上の資金が注ぎ込まれ、機体製造コストもF-22A数機分、F-15Aに換算すれば一個中隊が装備品込みで組めるほどのコストがかかり、仮に量産化されていても余りの高額故に頭数を揃えることは難しく、整備性の悪さからしてその稼働率はあまり高いものではなかっただろうというのが大方の予想であり、性能が突出しすぎているため、トータルバランスを見た場合F-15Eにすら劣る戦術機となってしまう。
また操作性も極めて悪い機体で、このことも本機が量産に向かないと評される要因の一つとなっている。ただA-01での運用に際しては特殊任務部隊としての性格上一騎当千の戦術機が求められており、非常に有用な戦術機であると目されている。また整備に当たっても専用ハンガーが用意され、ノースロック社からの各種パーツの限定生産も予定されていることから、不知火同様の高い稼働率を維持できるものとされている。
LWRSS(Limit Wide Range Suppression System)40㎜3連装回転砲身機関砲システム
自動脅威判定機能付き口径40㎜3連装回転砲身機関砲。
現用戦術機の主兵装となる36㎜チェインガンは携行弾数、発射速度は申し分ない反面、面制圧能力に欠け、また脅威判定は衛士自身が行うため無駄に弾丸を消費しやすいという欠点がある。本システムはこれを解決するために艦艇搭載用ボフォース40㎜対空機関砲を改良、軽量化、3連装回転砲化し、脅威判定機能を付加したFCSを搭載した兵装システムである。
弾種は劣化ウラン芯徹鋼弾と劣化ウランペレット弾の二種。劣化ウラン芯徹鋼弾は36㎜弾より大口径になった分威力は増大し、弾頭重量が約50%増大したため弾頭の遠心性も向上した。劣化ウランペレット弾はFCSの脅威判定によりプログラムされ、目標至近で1000個の劣化ウランペレットを最大到達半径100m、有効到達範囲20mに渡りまき散らすというものである。
本システムは対BETA用の限定広域制圧システムであるが対戦術機戦においてもかなりの威力を発揮する。戦術機同士の戦いは基本的に遭遇戦が多く、比較的近距離で行われるためその驚異的な面制圧能力の前では高い機動力を持つ第三世代戦術機に対しても脅威とであるとされている。
通称はラブレス
口径 40mm
銃身長 75口径
初速 1060m/s
発射速度 870発/分
最大射程 6800m
即応準備弾数 950発