チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[26388] 【題名変更】一夏は私の愚兄(おにい)ちゃん【旧題 インフィニットストラトス(オリ主、妹)】
Name: ゴリアス◆1198178c ID:1251a596
Date: 2011/06/30 00:57
始めまして、お久しぶりです。ゴリアスと申します。

このたびISのSSを書かせて頂きたく、遅筆で子供っぽい文章力ではありますが、なにとぞご容赦いただきたく。

アニメが始まる前からISを買い揃えておりましたが、いざ始まってみると嬉しいものです。しかし、ワンクールとは切ない……。そんな折、ふと頭をよぎったこ
のISの設定。『一夏に千冬姉以外の家族が居たら?』のコンセプトを元に、溢れるパトスを抑えきれずに書き上げました。

まだまだ幼稚な文章で、表現力も足りずに、皆様には不快な思いをさせてしまうかもしれませんが、どうかご容赦頂きたく。温かい目で応援していただける
事を、心よりお願い申し上げます。

そして早速ではありますが、題名の指摘ありがとうございました。早速直させて頂きました。

更新履歴

3/7 まずは第一話を投稿+感想板指摘の題名訂正
3/7 プラス第二話を投稿
3/9 日付またいで第三話投稿+感想指摘箇所の修正
3/9 感想指摘箇所の修正
3/10 皆様からの指摘を元に、主人公の名前を変更
3/14 第四話を投稿
3/16 第五話を投稿、応援多数に感謝です!
3/19 第六話を投稿、感想にあった素数の訂正
3/19 第七話を投稿
3/21 第八話を投稿
3/24 第九話を投稿
3/25 日付をまたいで、第十話投稿です
3/27 再び日付をまたいで、第十一話投稿です
3/28 第十二話投稿しました。(第一章完結)
3/30 日付またいで、第二章第一話投稿です。感想指摘箇所も同時修正
4/2  四月に入ってようやく第二話投稿です。感想指摘箇所も修正しました。
4/4  第三話を投稿しました。
4/6  第四話を投稿しました。
4/8  第五話を投稿しました。
4/12 第六話を投稿しました。
4/14 第七話を投稿しました。
4/17 日付をまたいで第八話を投稿しました。
4/19 連投稿ならず、第九話を投稿しました。
4/21 第十話を投稿しました。
4/25 遅くなって第十一話を投稿しました。(第二章完結)
4/30 遅くなってしまいました。間章二話、投稿しました。
5/7  一週間空けて、ようやく第三章第一話投稿しました。
5/17 かなり空き、第二話を投稿しました。
5/24 一週間を空け、第三話を登校しました。
6/3  第四話投稿です。+題名を変更しました。
6/9  第五話投稿です。
6/16 第六話投稿です。
6/22 第七話投稿です。
6/30 第八話投稿です。



[26388] <第一章>第一話 私の名前は……
Name: ゴリアス◆1198178c ID:1251a596
Date: 2011/03/10 00:38

「は~い、皆さん。ちゃんと全員揃っていますね? SHRを始めますよ~?」

 教壇に立っているのは何の冗談か子供のような容姿の大人先生。名を、山田真耶と名乗っていました。副担任らしいです。勘違いしないで貰いたいのは、某魔法先生みたいに十歳くらいの容姿の先生ではないのです。あくまで、生徒のそれと変わらないと言う意味なのです。

 妙に間延びした口調と、おっとりとした雰囲気の先生で。ここ以外の学校ではナメられそうですね。しかしここの教員なんぞをやっているんだから、それなりに腕は立つんだろうと。私は勝手に解釈して、勝手に物思いに耽っていたのです。

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
「………………」

 しかし、そんな副担任の言葉に全く反応しないクラスメイト達。ま、当然ですね。ここにはパンダやウーパールーパーよりも珍しい。珍獣ならぬ、珍人が居るからなのです。

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 完全無反応なクラスメイト相手に、挙動不審になりながら手元の紙と生徒との間を何往復かした後。ようやくそこまで言い終わりました。先生、よくやりました。そう褒めてあげたいくらいに傍目から見ていて頑張っていました。

 さて、問題の珍獣……。いえ、珍人は……っと。う~む、こちらも負けず劣らずのキョドりっぷり。チラリと窓際に目線を送ったのが、後ろの席から見ても丸わかりでした。

 つられるようにそちらを見ると私達の幼馴染、篠ノ之 箒(しののの ほうき)が顔を盛大に背けているのが目に映りました。さっすが箒ちゃん、一夏に対するツンデレオーラっぱねぇ。

「織斑君。……織斑 一夏(おりむら いちか)君!!」
「は、はい!?」

 そんなことを考えている間に、目の前の珍人が大声の裏声を出します。勘弁してくれなのですよ一夏。ほ~ら、其処彼処から笑い声が……。

「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑君なんだよね。だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」

 おお。すっごい低姿勢ですよこの人。今の世の中に有るまじき姿、男性に頭をペコペコ下げる女性なんて今の時代では考えられないのです。この女尊男碑の世の中、その姿はかなりのレア物!!

「いや、そんなに謝らなくても……、っていうか自己紹介しますから。先生、落ち着いて下さい」
「ほ、本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ? 絶対ですよ!?」

 凄い勢いで顔を上げて、そのまま一夏の手を取って熱心に詰めよっている先生。う~む、この先生。天然でやっているなら恐ろしい、計算してやっているなら更に恐ろしい先生なのです。一夏の注目度が、鰻登りに上昇中なのです。

 そして観念したかのように立ち上がり、勢い良く私達の方へ振り向きました。緊張の余り顔が強張っていますし、額には妙な汗もかいています。これはだいぶ緊張しているみたいですね。

 往生際悪く、助けて貰いがちに私に視線を送ってくる一夏ですが。私は無言の笑みを返します。そこに籠められている言葉はただ一つ、『当たって砕けろ!!』

「えー………、えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 今度こそ本当に観念したらしく、自己紹介を始める一夏。まずは自分の名前、基本ですね。そこからどうやって膨らませるかが、自己紹介の大きなポイントです。

 しかし一夏、それを言ったっきり視線を彷徨わせています。まさかここで終わりなんて………。

「以上です」

 クラスの至る所からがずっこける音が聞こえました。かく言う私もその一人です。

「あ、あのー……、織斑君?」
「あ、すいません。もう話せることが無いんです」
「そ、それじゃあ、仕方ありませんね。座ってください」

 とても残念そうに着席を促す先生。一夏め、やってくれるのですよ。

「そ、それじゃあ次の人ですね。お願いします」

 ついに私の番ですか。いいでしょう。一夏の分まで、しっかりとこのクラスの印象を良い物に変えて見せます!! そう意気込んで音を立ててイスから立ち上がり、腕を組んで胸を大きく張りました。

「ただの人間に興味はありません。この中に、宇宙人、未来人、超能力者がいたなら、私の所に来なさい。以上!!」

 クラス全員が呆然としています。よし! 掴みは、ばっち……。

 パアンッ!! いきなり頭を叩かれました。しかも硬い棒のような物で。

「ったぁ―――!?」

 なにこの懐かしい叩かれ方!? まるで千年越しに出会ったロミオとジュリエットのような、十年ぶりに出会えた幼馴染のような感覚!! 慌てて叩かれた方向を見ると、黒いスーツに身を包んだよく見知った狼を思わせる顔立ちが。

「な、なぜ金剛力士像がここに?」

 パアッン!! 再び金剛力士像に叩かれました。どうやらさっきの棒は、ファイルの背表紙だったようです。目の前を星が大きく旋回しています。ああ、今夜は星空が綺麗ですね。

「貴様の脳味噌は家族の顔すらも覚えられんのか?」
「し、失礼。阿修羅像の見間違い……」

 スッパァン!! 本日三度目の頭部への衝撃。このままでは生命維持に支障をきたす可能性あり。

「か、か弱い乙女の頭を三回も背表紙で叩きますかぁ?」
「自業自得だ馬鹿者が。これ以上ふざけるようなら、次は拳骨だぞ?」
「わ、わかった……」
「わかりました、だ。教師には敬語を使え」
「教師!?」

 な、何が何やら? ここ数ヶ月お目にかかっていなかったこのお方。ここの教師と仰います。何故に?

「いい機会だ。諸君、私が織斑 千冬(おりむら ちふゆ)だ! 君たち新人を、一年間で使い物になる操縦者にするのが私の仕事だ。私の言う事をよく聴き、理解しろ。出来ない者は出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳まで鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言う事は聞け。いいな」

 な、なんという傍若無人発言。間違いなく、冬姉ぇその人に間違いないのです。いや、始めてみたときから分かっていましたが、そっくりさんと言う可能性も、ね?

「キャーーー!! 千冬様、本物の千冬様よ!!」
「ずっとファンでした!」
「私お姉様に憧れてこの学校に来たんです! 北九州から!」

 これはまた遠くからご足労様です。そしてこの現実を見て幻滅しないのがすごいです。いや、始めからこうだと思っていたんですかね?

「あの千冬様にご指導頂けるなんて嬉しいです!」
「私、お姉様のためなら死ねます!」

 止めてください、これ以上冬姉ぇの名の下に屍山血河を築くのは。

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それともなにか? 私のクラスだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 いや冬姉ぇ。自分の人気度合いをもう少し自覚してください。たとえ道端で出会った人でも、織斑千冬の名を出せば態度が急変するくらいに冬姉ぇは人気なんですよ? 今や世界で名を知らない人は居ないのでは?

 そんな鬱陶しそうな顔してないで、スマイルの一つも………。止めておいたほうがよさそうです。この中には失神する者も出てきそうですから。

「きゃああああぁぁ!! お姉様! もっと叱って! 罵って!!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾けて~」

 ここはMの巣窟ですか? もしくは同性愛者の集会場ですか?
 この周囲の状況に、一夏や私はかなり冷静になれているようですね。さっきまでの一夏は、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしていましたから。私? 私は、鳩がAK-47を食らったかのような顔をしていた事でしょう。

「で? あいさつも満足に出来んのか、お前等は?」
「いや、千冬姉、俺は……」
「でもね、冬姉ぇ、この状況は……」

 パアンッ! パアンッ! 隣の一夏と同時に本日四度目。ああ、一夏の考えている事が手に取るように分かる。私も同じ事を考えていました。冬姉ぇ、頭を叩くと脳細胞が五千個死ぬらしいですよ? ト~リ~ビア~。

「織斑先生と呼べ」
『………はい、織斑先生』

 一夏と私の声がハモって静まり返った教室に響きます。そして、このやり取りで、冬姉ぇと私達の関係がバレました。

「え……? 織斑君って、あの千冬様の弟………?」
「じゃあ、世界で唯一。男で『IS』を使えるって言うのも、それが関係して?」
「その隣の、さっきふざけた自己紹介した娘も。千冬様の妹さん?」
「ああっ、いいなぁ、代わって欲しいなぁ」

 代わって欲しい? この立たされながら衆人観衆の注目の的にされ、脳細胞を本日だけで二万個も減らす役を代わってもらえるなら喜んで代わりましょう。

 一夏も一夏で男で唯一『IS』を動かせるなんてことになるから、こんな所でこんな状況に。藍越学園の入試を受けに行ったはずが、IS学園の受験会場に行ってましたって? はは、笑えなすぎて頭が痛くなってきましたよ。

「さて、時間も無い。さっさと自己紹介を済ませろ」
「分かりました。分かりましたよ、織斑先生」

 お手上げとばかりに両手を挙げて降参のポーズをとると、改めて全員に高らかに宣言する。

「先ほどは失礼しました。私の名前は、織斑 千秋(おりむら ちあき)。こちらに居る、織斑千冬先生の妹であり。先ほど自己紹介をした、織斑一夏の妹です」

 今日この日、私のIS学園での学園生活は、始まりを告げた。






[26388] <第一章>第二話 私の兄は……バカ 
Name: ゴリアス◆1198178c ID:1251a596
Date: 2011/03/10 00:40


「千秋さんって、織斑先生の妹さんなの!?」
「織斑先生って自宅ではどんな人?」
「千秋さんもIS操縦うまいの!?」
「言い値を出すから妹権を私に譲渡して!!」

 や、やかましいのです……。
 女三人寄れば姦しいと言いますが、十人以上居ると騒音レベルになるんでしょうか? あと最後の人、そんなことが出来ても絶対にしませんから。

 今現在は一時間目の休み時間。IS基礎理論授業が終わっての小休止です。授業が終わると同時に、一斉にクラスほぼ全員が私の元にやってきました。人津波とはこのことでしょうか?

 そして私とは正反対に、一夏の所には人が来ていません。廊下を見れば、二年生や三年生が、押し合い圧し合いしながら窓から一夏を覗いています。

『男で唯一ISを動かせる少年、織斑一夏』

 その名は、もはや全国レベルまで広まってしまいました。そのニュースを居間でお茶を飲みながら見ていた私は、盛大にそのお茶を吹き出した後に一夏を尋問。洗いざらい吐かせた後に、冬姉ぇに連絡。なんやかんやのうちに『要人保護プログラム』とやらで黒服達に話をされ、私には無条件のIS学園合格通知。一夏には、IS学園入学願書を置いていきました。

 こちらとしては良い迷惑ですよ。せっかく苦労して進学したIS学園だったのに。一夏は一緒に付いて来るわ、周りからはその妹と言う事で珍人扱いだわ、オマケに冬姉ぇが教師でその妹であることもばれて珍人扱い二乗だわ。ああもう、神様怨みます。

「………ちょっといいか」

 神様に呪詛の言葉を考えていると、すぐ近くの一夏に話しかける果敢な女子が一名。箒ちゃんだ。六年振りなのにすぐに分かった。髪形が同じだし、纏っている雰囲気も変わらない。相変わらず素直になれないオーラが出まくってるし、一夏のことも気にはなっていたんだけど話しかけられない感が漂っていました。まぁ、鈍い一夏には妙に不機嫌そうに映ったでしょうけど。

「廊下でいいか?」

 おおっと、ここで大胆行動。二人っきりで話したいとの事ですか。箒ちゃん、昔よりも大胆になってない? 年月って、乙女を女に変えるんですかね?

「な、何あの子?」
「確か、篠ノ之さんでしょ?」
「何々? 織斑くんとどういう関係?」
「彼女は私達の幼馴染なのよ」

 隠しても後でバレる事でしょうから、今のうちに言っておきましょう。

「幼馴染!?」
「な、何そのアドバンテージ!?」
「う、羨ましいぃ、妬ましいぃ!!」

 そうでしょうか? あの“鈍チン覇王”一夏に、苦しめられる年月が増えるだけの気がしますがね。一夏の鈍さといったら、そりゃあたいしたもんですよ。おそらく、『付き合って下さい!!』と言っても。一夏は、『いいよ、買い物くらいなら付き合うよ』と言ってくるのだと思います。

キーンコーンカーンコーン。

 おっと、二時間目の始まる時間ですね。私を取り巻いていた女性陣も、自分の席に戻っていきます。やがて先生が登場、ゲッ、冬姉ぇ。

「よし、席に着け貴様等。ん? 織斑兄が居ないな?」

 冬姉ぇ、織斑兄って何ですか? 兄って?

 そう考えていたときに教室の前の扉が開き、一夏が入ってきました。そしてお決まりの如く叩かれる一夏。

「とっとと席に着け、織斑兄」
「………ご指導ありがとうございます、織斑先生」

 何か言いたそうな顔をした後、一夏はそれだけ言って席に戻っていきました。



「―――で、あるからして。ISの基本的な運用は、現時点で国家の認証が必要であり。枠内を逸脱したIS運用をした場合は刑法によって罰せられ……」

 う~ん。事前学習していた箇所の復習だけでも結構しんどいですね。一夏もかなり困っているようです。目の前で、必死に教科書と黒板を往復している頭の動きがチラチラと視界を掠めます。しょうがないですね。この休み時間が終わったら、特別に私と一緒に復習を……。

「な、なに?」

 ん? ああ、斜向かいの子の声でしたか。どうやら一夏に見つめられて、それに反応したようですね。むぅ、一夏め。さっそく女の子だらけの状況に耐えられなくなって、一人二人と落としにかかりましたか? いや、そんな甲斐性ないですね。おおかたノートの取り方でも参考にしていたんでしょう。

「織斑君、何か分からないところがありますか?」

 ここで山田先生。わざわざ一夏のために授業ストップです。優しいですね先生。一夏もこの優しさに答えて、もうちょっと先生の知識をひけらかせる様な。専門的な質問をするのです!

「あ、えっと………」

 ほれほれ、悩んでないで。ISの国際情勢とか、日本国の保有するISの個体数とか、現段階でISは憲法のどの段階まで重要視されているのかとか。色々あるでしょうが?

「分からないところがあったら訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから」

 胸を張っている先生。その大きく強調された胸が、私の胸元にあったら……。考えるの止めましょ、余計に空しくなるから。

「先生!」
「はい、織斑くん!」

 お、ついに質問がまとまりましたか。一夏、ここは先生の面子考えて、バシッと行くのですよ!!

「ほとんど全部分かりません」

 盛大に額を机にぶつけました。

「ど、どうした千秋!? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫か? じゃないでしょうが」

 あまりに大きな音を立ててしまったため、心配するように一夏が声をかけてきます。

「え………。ぜ、全部、ですか……?」

 先生の困った声が聞こえます。ちなみに声しか聞こえないのは、まだ私が机に突っ伏しているからです。

「え、えっと……。織斑くん以外で、今の段階で分からないって言う人はドレくらいいますか?」

 ノロノロと視界を上げて辺りを見渡します。他の子もそうしているってことは、誰も居ないってことですよね。当たり前の話ですが。

 前に視界を戻すと、一夏が不思議そうな顔で辺りを見渡しています。一夏、アンタまさか……。

「……織斑兄、入学前の参考書は読んだか?」
「一夏、アンタ黒服達の置いていった資料、読まなかったの?」

 教室に端にいた冬姉ぇがこちらに歩み寄ってきて、私と同時に口を開きほとんど同じことを言いました。

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 パアンッ! ガンッ!
 最初、冬姉ぇのファイル背表紙アタック(頭部)。後ろ、私の渾身のスクリューアッパー(顎)。見事な姉妹コンビネーションです。こんだけやっても物足んないのです。どうりで私が必死にアレを読み解いている間、このバカは遊び呆けていられた訳ですよ。

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」
「ホント、一夏って馬鹿なんだから」

 頭を叩くと脳細胞が五千個死ぬ? その程度死んだところでコイツの馬鹿は治らないのです。馬鹿は死ぬまで治らないとはよく言ったものですよ。

「あとで織斑妹のやつを借りろ」
「織斑先生。お言葉ですが、あの電話帳(笑)は私も家に置いてきました。もう暗記するほど読みましたので」

 かさ張る上に重い、あんな物を持ってくる気にはなれないのですよ。

「仕方が無い。再発行してやるから一週間で覚えろ。いいな」
「いや、一週間であの分厚さはちょっと……」
「やれと言っている」
「……はい。やります」

 ったく。本当に世話の焼ける兄なのです。

 まぁ、一夏の場合はここに望んで来た訳じゃないですからね。モチベージョンの度合いも、私より遥かに低いのは分かりきった事です。しかし起こってしまった事を巻き戻しは出来ないのです。

 一夏がISに乗れる事は周知の事実となってしまい、身柄保護と研究対象としてこのIS学園に入学させられる。一夏の身を守るためにも、そしてこれからの事を考えた結果としても、これが最善だと私は判断しました。だから一夏を説得し、何とかここの入学願書にサインをさせたのです。

「織斑妹」
「は、はい!?」

 冬姉ぇに呼ばれて、私は思い耽っていたことを一時中断します。

「ボーっとするな。授業中だぞ」
「は、はい。すいません」

 冬姉ぇに見つかってしまったので。考え事はまた今度。教壇では、転んで頭をぶつけたらしい山田先生が、再び講義を始めていました。






[26388] <第一章>第三話 私のクラスメイトは……お嬢
Name: ゴリアス◆1198178c ID:1251a596
Date: 2011/03/10 00:41



 さ~て、二時間目の休み時間。例の如く人津波に飲まれた私は、矢継ぎ早に繰り出される質問に受け答えしつつ精神をすり減らしています。そんな中、

「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」

 良く通る声と、馬鹿声が。私を質問地獄から解放してくれました。

 声のした方を向くと、そこには一夏と金髪地毛の縦ロールが話しているところでした。あの金髪縦ロールの方は覚えがあります。確か……イギリスの代表候補生、名前は“セシリア・オリコット”でしたっけか?

「訊いてます? お返事は?」
「あ、ああ。訊いてるけど……どういう用件だ?」

 あちゃぁ、一夏。その返答はダメダメですよ。向こうはメンツの大事なお国柄。自分が偉いと思っている相手に対して、普通に接しちゃダメですって。

「まあ! なんですの、そのお返事。私に話しかけられるだけでも光栄なんですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 ほらね~? タカビーなお嬢様タイプは、先ず下手から。そこからすくい投げないと、正面衝突(ガチンコ)になりますよ?

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

 ヤバイですね。このままでは、“一夏VSオリコット”の構図が出来上がってしまいそうです。

「私を知らない? このセシリア・オルコットを? イギリス代表候補生にして、入試次席のこのわたくしを!?」

 ………あっぶね~。危うく間違えたまま仲裁に入って、火に油注ぐところだった。うん、もう覚えた。オルコットさんね、オルコットさん。よし、もう少し待ってから仲裁に入るとしましょう。ん? 入試次席?

「ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 ふえ~、教官倒したんだ。すっごいな~、私は引き分けだったのに。

「入試って、アレか? IS動かして戦うってやつ?」
「それ以外に入試などありませんわ」
「あれ? 俺も倒したぞ、教官」
「は………?」

 え…………? 一夏、マジで言ってんの?

「い、一夏。それホント!?」

 固まってしまったオルコットさんを差し置いて、私は思わず会話に横槍を入れてしました。

「おう、突っ込んできたからかわしたら、かってに壁にぶつかってそのまま動かなくなったんだ」
「そ、それって開始直後の『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』をかわしたってこと!?」

 し、信じられない。それも操縦者がかわされたことに気付くのが遅れるくらいギリギリでかわしたってことですよね? そんなこと、よっぽどISに慣れている人じゃないと。『見切り』なんて……。

キーンコーンカーンコーン

 私が再び思考の世界に入っていると、チャイムが鳴り響きました。その音で、オルコットさんも我にかえったようです。

「っ………! またあとで来ますわ! 逃げないことね! よろしくて!?」

 おお、三流下っ端の逃げゼリフを吐くとは。流石お嬢様、そんな所も古風ですね。

 やがて冬姉ぇが教壇に立ち、山田先生がノートを持ちながら先の授業まで冬姉ぇが居た位置に立つ。今回は先生交代ですか、気を抜いたらチョークが飛んできそうですね。

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性に付いて説明する」

 ほう、なるほど。この講義はかなり重要度の高めの授業のようですね。この特性をしっかりと把握しておけば、実践でパニックに陥ることなく武器を使い分ける事が出来るという訳ですね。理論上は。

「ああ、その前に再来週行なわれるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 おや? 実践使用の装備の説明では? クラス代表なんてどうでもいいのですよ。ど~せ目立ちたがり屋か、そこの珍人に決まっているのですから。

「クラス代表とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席。……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点ではたいした差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いから、そのつもりで」

 ああ、委員長の選出ですか。尚更どうでもいいのです。あ~あ、早く講義再開しないかな。

「自他推薦は問わない。挙手」
「はいっ。織斑くんを推薦します!」

 やっぱり。

「私もそれが良いと思います!」

 こうなると。

「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?」
「お、俺!?」

 思ってました。

「織斑兄、席に付け。邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」

 ま、こうなると思ってましたよ。だいたい、男子のIS乗りなんて御輿を担がないわけが無い。こんな珍人、担いで担いで担ぎ上げてなんぼでしょ?

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 んお? ここに来て乱入者ですか? イベント事は大好きですが、これ以上講義への再起が伸びるのも少し悲しいですよ? おや? 誰かと思ったらオルコットさんじゃないですか、さっきも思いましたがよく通る声ですね。

「そのような選出は認められません! だいたい、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 む? 今、このお嬢なんて言いました? 男って言うのは一夏のことですよね? と言うか、この学園に男って一人しか居ませんし。

「実力から言えばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!」

 ちょっと待って、このお嬢。よもやとは思うけど、一夏どころか日本人の事馬鹿にしてない?

「わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ」

 耐えろー、耐えるんだ、私ぃ。コイツはあくまで一夏に対して言っているのであって、日本人を馬鹿にしている訳では……。ダメだ、これだと余計に耐えらんない。ともかく耐えるんだ私ィ。ここを耐え切ればきっと……。

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 よし、自分自慢になってきた。あとは冬姉ぇが収めてくれるはず……。

「だいたい、文化として後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐えがたい苦痛で―――」

 ブッッチィィィ

「イギリスだってたいしてお国自慢無いだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
「加えて言うなら、国土総面積も日本とたいして違わないわ。むしろ周りの島々を加えれば、日本の方が大きいぐらい。領海、領空、領土、全てがこぢんまりとした国じゃ、たいした自慢も無いんでしょう」

 あ゛……。

「なぁっ……!?」

 や、やっちゃった~。

「あ、あ、あ、貴方達! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 ええぃ! もう成り行き任せ!! 第一あのお嬢気に食わなかったのです!!

「侮辱なんて、無いものを侮辱する事なんてできないからねぇ?」
「どういう意味ですの?」
「そのまんまの意味よ? プライドばっかりのガッチガチ頭じゃ、そんなことも分からないの?」
「いいですわ。そこまで言うのならわたくしの実力、見せて差し上げますわよ」

 おうおう、言ってくれますねぇ。だったら切り札を早々に切りますか。

「確か、入試次席って言ってたわよね? オルコットさん?」
「ええ、そうですわよ? それが何か?」
「じゃあ私にかなう訳ないわね。少なくとも、頭では」
「どういう意味ですの?」

 ここまで言えば分かると思いますが……。

「入試主席が私だからよ!」

 胸に手を当ててそう言いのけました。一瞬の沈黙。そして、

『ええ~~~~~!?』



※あとがき

 今回より、あとがきを少々。

 三話まで投稿させて頂きました。
 いかがでしょうか? 皆様の納得のいく文章にできあがって……、いるわけないですよね。より一層精
進いたします。
 ついにセシリア乱入します。これにより、妹の存在をどうやって際立たせていくかがかなり難しくもあ
り面白くもある展開が作れるように頑張ります。
 基本的に、一夏バカです。とことんバカです。その路線で行きます。では、次の話でお会いしましょう。



[26388] <第一章>第四話 私の部屋は………何処?
Name: ゴリアス◆1198178c ID:8ef60249
Date: 2011/03/14 23:45



 教室中から上がる驚愕の声。

「千秋さん、主席だったの?」
「教官とは引き分けだったけど、テストの方でね」
「頭いいんだー?」
「今度勉強教えて~?」

 辺りから来る黄色い声に少し受け答えると、再びオルコットさんに向き直ります。

「で? 誰の実力を見せてくれるって?」
「し、しかし、ここはIS学園ですわ! ISの操縦技術が全てです! 知識しかない頭でっかちさんではどうにもなりませんわ!!」

 む、言ってくれますねぇ。だったら……。

「だったら、俺がISの操縦技術ってヤツを証明してやるよ!」

 次の対抗策を考えあぐねいていると、一夏がそう言い切りました。一夏!? な、なんでアンタまで出て来るんですか!? これは私とオルコットさんの喧嘩で……。

「良くぞ申しました。決闘ですわ!」

 バンッと机を叩くオルコットさん。向こうも冷静ではないご様子、こりゃ完全に切れてますね。

「ああ、その方が分かりやすい」
「言っておきますけど、そちらにいる妹さんとの二対一ではありませんことよ?」
「わかってるさ。真剣勝負に援軍を呼ぼうなんて、無粋な真似はしない」

 こうなったら仕方が無いです、正直私が挑めないのは残念だけど……。あれ? 冷静に考えたら、コレってヤバくないですか?

「あ、あのね、一夏……」
「それで、ハンデはどのくらい付ける?」
「あら、早速お願いかしら?」

 人の話を訊きやがれです! それとハンデをつけるのは当然とも言える措置でしょう? そっちはイギリス代表候補生、こっちは無名の一学生ですよ? 代表候補生と言う事は、当然アレも持っているはずですしね。

「いや、俺がどのくらいハンデつけたらいいのかなーっと」

 はい? ハンデを付けるのは一夏?

「プッ………、アッハッハッハッ!! 一夏、本気で言ってんの? このIS学園において、男女間の喧嘩に男子がハンデェ!? アッハッハッハッ!! やめてぇ!お腹痛いぃぃぃぃぃぃ!!」

 私の笑いにつられるようにクラス全体から爆笑の嵐。山田先生は当然として、あの冬姉ぇですら笑いを堪えているようです。一夏ぁ、アンタIS乗りじゃなくて、お笑い芸人になった方がいいんじゃないですかぁ? おもいっきり笑ってお腹がよじれそうになりましたが、再び話しを元に戻します。

「むしろハンデをつけるのはオルコットさんの方なんじゃないかな?」
「その通りですわね。わたくし、イギリスの代表候補生ですから。当然、専用機も持ち合わせておりますし」

 やっぱり、持ってやがったのですね専用機。

 ISの強さはスペックが重要な要素ではありますが、何もそれだけに限った話ではないのです。装備の相性の良さ、ブースト速度の比率、遠距離戦向き近距離戦向きetc。その他にも色々な要素が絡んできますが、中でも一番の重要度はその機体との搭乗時間です。

 ISは意識を有した超ハイテク機器。人工知能のような物を搭載しているのです。その人工知能(AI)は、搭乗者のクセやその日の体調などを汲み取り。より動きやすく、より命中精度を高め、より高度な反撃や防御を可能とし、より搭乗者に操縦しやすく自らを設定していきます。故に、専用機を持っていると言うだけでかなりのアドバンテージ。例え話で言うならば。陸上競技でこちらはスタート地点に着いたばっかり、しかし相手はもう既にトラックを半周しているようなもの。これではそもそも勝負そのものが成立しないのです。

「だったらいいよ、ハンデなんて。さっきも言ったろ? 真剣勝負だ。男の方がハンデなんて付けたら、それこそ無粋ってヤツだ」

 確かに一夏の言う事も一理ありますが。しかしこの優劣差をひっくり返せるようなカードは滅多にないですよ? それこそ一夏も専用機を用意するか、もしくはよっぽど相手が油断してくれていないと。

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで行なう。織斑兄とオルコットは、それぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

 パンっと手を打って冬姉ぇは授業を始めてしまいました。始まるまではかなり楽しみな授業内容だったはずなのに、今では半分以上が頭に入ってきません。残りの半分で考えているには、一週間後の試合の事です。

(別に私が戦うわけではないですが、一夏に負けられると最初に喧嘩を売った私も気まずいです。仕方が無いです。これから一週間、一夏の訓練に付き合いますか。まずはISの基本動作の確認と、最低限の戦術理論から……)

 思えば私、ここ最近一夏のことばっかり考えていますね。

 一夏がIS学園に入学するように交渉手段を考えたり、いざ入学するにあたっては周りの風評や同じクラスになれるかどうかを心配したり、そして今回の喧嘩のサポートを考えたり。

(これじゃあまるで恋する乙女ですね)

 そう思いながら少しだけはにかんだ笑みを浮かべると、一瞬でその考えを振り払います。

(な、何を考えているですか私は!? 一夏は兄ですよ、兄! そりゃあ最近頼りがいがあるし、さっきも考えあぐねいていたら颯爽と助け舟を出してくれたし。そういう所では評価はしますが……)

 グルグルと回る思考の中で、急に一夏の背中が目に入ります。

(でも一夏って世界でたった一人の、男子のIS乗りなんだよね)

 その背中をポーッと見つめていると、突如額にもの凄い衝撃が走りました。まるで非殺傷のゴム弾を打ち込まれたかのような。

「織斑妹、私の授業はそんなに兄の背中を見つめるくらいにつまらないか? そうか、だったらそんな暇も無いくらいのハードは物に変えてやろうか?」
「いいえ!! 申し訳ありません、織斑先生!」

 最高速で起立、その勢いのまま九十度に礼。いわゆる最高礼というヤツです。視界を下に向けると、足元と机には粉々になったチョークが散らばっています。まさか本当にチョークが飛んでくるとは……。

「しばらくそうして立っていろ、少し頭を冷やせ」
「はい! 了解しました!」

 自分でも分かるくらいに真っ赤になった顔をごまかす為に、立ったまま机に向かって一心不乱にノートをとり続けました。



 その後、毎時間の休み時間ごとにやってくる人津波を何とかなだめ、昼休み中に捕まった先輩に一夏のことを説明し、やっとやってきた放課後です。私は寮に向かうべく、廊下を一人歩いていました。だぅ~、疲れたのですよ。

 ここ、IS学園は全寮制なのです。なぜ全寮制かと言うと、ぶっちゃけて言えば危険だからなのです。IS学園は世界で唯一つのIS操縦者育成機関。即ち、ISの技術はここでしか学べないのです。そして日本を始めとした世界各国は、IS の優秀な操縦者を欲しています。となれば、どうなるかと言うと。簡単な話、ISの優秀な操縦者を誘拐なり勧誘なりして自国に掻っ攫ってしまえばいいのです。バレれば当然国際問題に発展しますが、バレなければジャスティスはいつの時代どの国でも同じ事なのです。

「あ、織斑さ~ん。妹さ~ん」

 そんなことを考えている中、背中から声をかけられました。妹さんって、私には千秋と言う名前があるんですけど。おや? 誰かと思いきや山田先生。

「よかった、今から寮の方に行こうと思ってたんです。校舎内で捕まってよかった~」

 あそこまで行って往復するのは大変ですからねー、っと苦笑いをしながら言っています。

「そうですよね。で、山田先生。私になにか?」

 もう一夏絡みを質問はゴメンですよ? そんなに訊きたいなら本人に直接どうぞ。

「あ、そうでした。織斑さんにお願いがありまして」
「お願い……、ですか?」

 先生が生徒に? なんでしょう?

「はい。織斑くん、お兄さんのことなんですよ」
「一夏がどうかしたんですか?」

 あんのバカ、また何かやらかしたですか? それとも伝言ですかね? 後者ならすんなりと受け入れますが、前者だった場合は制裁を加えないとですね。

「じつは織斑くんの寮での部屋がまだ決まっていないんですよ」
「あぁ、そんな事を言ってましたね。でもしばらくは自宅通いだったはずでは?」

 世界で唯一の男子のIS乗りと言う事は無論前例など無い。IS学園も初めての男子の受け入れに大慌てになっているらしいです。そして今問題となっているのは寮での部屋割り。さすがにIS学園だって一人一部屋与えるほど敷地や予算に余裕がある訳はなく、二人一部屋が基本となっているです。

 しかしここでまたしても、一夏が男子と言うことが邪魔をします。さすがに年頃の男女を同室にする訳にもいかず、部屋の用意が出来るまで自宅通いということになっていたはずですが?

「はい、そうなんですが。一週間後の代表決定戦のために、少しでも練習時間を多く取った方がいいという結論になりまして。それですと、自宅から通うのはかなり無理があるのでは。という話になりまして」

 たしかに。ウチからIS学園まで、いったいどのくらいかかるのやら。厳密に計算したわけではありませんが、帰省するには根性がいる距離ですね。

「そこでですね。織斑くんを、織斑さんの部屋と同室にしてもらえないかとお願いしにきたんです」
「一夏と私が同室ですか?」
「はい。さすがにお年頃の男女を一緒の部屋にするのは気が引けますが、兄妹ならば問題は少ないということで話がまとまってしまいまして」

 か、かってに話が進んでまとめられちゃったー!? 職員室の先生方、何やってんですかー!?

「あ、でもね、でもですね。ちゃんと本人の了承付きでならという前提条件の下ですよ? それで、どうでしょうか? もしもダメなようなら、他の子にお願いしてみようかと思っているんですけど……」

 う、山田先生がしょんぼりしながら上目遣いでこっちを見ていますよ。ここで断ったら私悪者じゃないですか。ん? 他の子?

「他の子って、私以外にも候補の子がいるんですか?」
「はい。篠ノ之さんです。織斑さん達とは幼馴染だそうで。織斑さんに断られてしまうと、必然的に篠ノ之さんと同室と言う事になってしまうんですが……」

 そう言われて少し想像してしまいました。一夏と同室になる箒ちゃん。最初一夏のことに驚きながらも、なんだかんだで嫌いではないから渋々同室を許可。後、二日三日かけて関係を構築。段々と近づいていく二人の距離感。そして何某かのイベント発生でついに……………。

「だああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「お、織斑さん!?」

 思わず頭を振り乱しながらさっきのビジョンを打ち消します。あっぶねー、もう少しで想像の中でとはいえ幼馴染を愚兄の毒牙に!?

「織斑さん!? 大丈夫ですか!? 保健室へ行きますか!?」
「だ、大丈夫なのです先生。ちょっと、悪魔の想像が脳裏をよぎっただけでして……」
「は、はぁ、そうなんですか……?」

 こ、こんなめに箒ちゃんをあわせる訳にはいきません。ここは私が!

「先生!」
「は、はい!」
「一夏同室の件、私は大丈夫です! どーんと来い!」

 女は度胸!

「そ、そうですか。そ、それでしたら今日から……」
「バッチこーい!」

 こうして一夏と私の同室が決定しました。



※  あとがき

 とりあえず生存報告を。地震により、パソコンのディスプレイが落っこちた以外は問題の無かった作者です。

 今回の話しで、オリジナルとの相違点が増えました。別室にする事で、箒との接点が減りますが。追々増やしていきます。コレだけは確実です。
 作者はハーレム好きです。でも、物語の展開上ハーレムは厳しいです。みんなが一夏が好きで。一夏もみんなが好き。そんな展開のまま終われたら。そう思っています。

 応援、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。



[26388] <第一章>第五話 私の見る夢は………悪夢が多い
Name: ゴリアス◆1198178c ID:8ef60249
Date: 2011/03/19 01:13



 さて、勢いで受けてしまいましたが一夏が同室ですか。普段は家に一緒に居て気付きませんでしたが、こうして一緒にされるとなると少し緊張しますね。う~ん。私の生活必需品は、とりあえず入り口からみて奥のベッド周辺にまとめましたし。部屋に届いていた一夏の荷物にはまだ手をつけていません。と、言うかこんな少なくて大丈夫なんですかね? ボストンバッグ一個のみ? 男って楽でいいですね。私なんかダンボール二つにまで絞ったというのに。

「さて、一夏の来る前にシャワーでも浴びますか」

 女の嗜み。せめて最初の日くらいは一夏に不快な思いをさせたくないですしね。一夏ってばけっこう無遠慮ですから、近づいたときに『何か臭わないか?』なんて言われたら女のプライドズタズタですよ。

 シャワーを浴びながら考える事は、これからの共同生活についてです。とりあえずシャワーは交替に使えばいいとして。問題なのは自分の時間の確保ですね。いかに兄妹とて、さすがに私も下着姿で居る訳にもいきませんし。かといって、のんびりとした時間を設けないのは私にとっても苦痛です。どうしたものか……、これが女友達とかだったら気にも留めないんですが。一応異性ですからねぇ……。

「一夏も……、やっぱり男の子なんですかねぇ」

 ポツリと呟いてしまったがため、再び妄想がスタートしてしまいました。

 誰も居ない部屋、二人っきりの薄暗い部屋の中、ベッドに腰掛けているのは私と一夏。最初は気さくに話をしていましたが、何かの弾みでちょっと気まずくなってちょっとした沈黙。チラチラと互いの視線を気にして、そしてどちらとも言わずに縮まっていく二人の距離。そしてその後は………。

「冷水カモン!!」

 妄想列車のスピードが時速二百五十キロに達した時点で、私はシャワーの温度を水に切り替えました。とたんに、シャワーのせいか妄想のせいかで火照っていた体を容赦なく冷水が打ち付けます。

「わひゃ!?」

 自分でやった事とはいえ、さすがに驚いた私は即座にシャワーを止めました。頭から落ちる滴をしばらく見つめて、盛大に頭を振るうとシャワー室から出ます。脱衣所兼洗面所で、私はマジマジと鏡に映る自分の容姿を再確認していました。

 身長はあんまり高くない、箒ちゃんよりも少し低いくらい。髪は茶色がかった黒、長さは肩より少し下くらい。一夏が切れ目なの対して、私は丸目。鼻があんまり高くないのが欠点だけど、そこそこ整った容姿をしていると自負している(中学校の時にラブレターを五通もらえたのはちょっと自慢)。胸元に視線を下ろすと、中学一から全く成長していない胸(現在Bカップ也)。太っているわけではない、むしろBMIは痩せ気味を示している。

 そこまで自己分析を終わらせた段階で、深々とため息を付きました。

「せめて山田先生……、ううん。箒ちゃんくらい胸があったらなぁ」

 体重なんか少し増えたってかまわないです。むしろ胸が増えて体重が増すんだったら、諸手を挙げて喜びます。そんなことを考えながら、バスタオルで身体を拭いていると。

「おっと、下着下着」

 ボンミスです。うっかり下着を脱衣所に持ち込むのを忘れていました。制服だけあっても下着がないんじゃ着れないじゃないですか。

「う~ん、いっか。このまま取りに行っちゃおう」

 こんなことも一夏が居たらできません。最後の羽伸ばし、と思い。水気を拭き取った全裸のままで脱衣所から部屋へと続く扉を開けて出て行きました。

「あれ? 居たのか千秋。悪いがくつろがせてもらって……る!?」

 そこには既に、ベッドに腰掛けてこちらに振り向いたばかりの一夏が居ました。

 オー、ゴッド。なぜ貴方は私にコレほどまでの試練を与えるのですか? とりあえず、私の次に取るべき行動は唯一つ。

「こぉんのエロリストがぁぁぁ!!」

 渾身の右ストレートを一夏の腹部におみまいすることです!



「だから悪かったっての。いつまでも怒ってんなよ」
「うら若き乙女の裸を見て、この程度で済んでいる状況をもっと喜びなさいよね。これが見ず知らずの男だったら、十字架に貼り付けにしてISの射撃訓練の的なんだから」
「う、確かにこの程度で済んでよかったよ」

 まったく、本当ならもう二、三十発打ち込んでやりたい気分ですよ。

「だいたい、着いてるなら一言ぐらいかけなさいよ」
「いや、お前は居ないと思ってたんだよ。シャワー室から音もしなかったし」

 つまり私が自己分析をしている間に着いたと。本当に間の悪い男ですね、一夏は。

 こんな感じで会話をしながら怒りの溜飲を下げていきます。確かに今回の件は私の落ち度もあったわけですし、全面的に一夏のせいと言う訳でもありません。しかし素っ裸を見られて黙っていられるほど、一夏と近しい関係でもない訳ですからアレくらいが妥当なのです。そうです、そうに決まっているのです。

「とりあえず、これからよろしくな千秋」
「別に、家にいる時よりも少し狭くなっただけだけどね。コレからよろしく、一夏」

 こうして、IS学園での最初の一日は終わり……と言う訳ではなかったのです。

(ね、眠れないのですぅぅぅぅぅぅぅぅ)

 改めて思えば、一夏とこうして同じ部屋で寝るなんて何年ぶりか。

 ときおり聞こえる一夏の寝息、布団のすれる音、寝返りを打ったらしい音、時計の進む音、そして自分の心臓の音。シャワーを浴びた時の妄想が再びフィードバックして、余計に眠りから遠ざけて行くのです。

(そ、そうだ。こんな時は素数を数えるのです。素数は自分と一以外に割れない孤独な数字。私に力を与えてくれます)

 そう考えて、早速素数を思い出します。

(2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,…………)

 そうして夜は更けていき、私のIS学園での最初の夜は素数でいっぱいになりました。



 夢を見ていました。そこでは私はまだ七歳くらいで、周りからはイジメの的にされている所でした。嗚呼、酷いことするなぁ。現実と違うのは、傍観している私が居る事くらいです。

 三人のイジメっ子達が私のランドセルを私の背中から引きずり剥がし、中身を物色しています。幼い私もただ黙ってみていた訳ではありませんが、一人のイジメっ子に妨害されて取り返しにも行けません。そして、投げつけられる辛辣な言葉。その言葉を聞いた瞬間、今でも胸がチクリと痛みます。でも、今の私には……。

『千秋、千秋……』

 この声の主が私の兄です。そして私には、世界最強と言われる誇るべき姉が居るのです。いつしか、私の視線は幼い私の物になっていました。目の前には、奪われたランドセルと、それを物色するイジメっ子二人と、私を邪魔する一人。私は、その憎たらしい顔面に。

『おい、起きろって! 朝飯食べれなくなるぞ!?』

 思い切り裏拳を叩きつけました。

「ぐえっ!?」
「ジャストミーート!! あれ?」

 目を覚ましてみると、ここはIS学園の自分の部屋。そして傍らには一夏がひっくり返っていたのです。

「一夏? 何やってんの?」
「それはこっちのセリフだっての」

 おはようございます。今日もいい天気です。



※  あとがき

こんばんわ、毎日余震に悩まされている作者です。

携帯の地震速報が何の役にも立たないので、心構えだけはしっかりしておこうと考えていますが。皆様はいかがお過ごしでしょうか?

今回の話で、少し千秋の過去に触れますがまだまだこれからです。これから、ぐんぐんと千秋の過去を暴いていきます。ジッチャンの名にかけて!!



[26388] <第一章>第六話 私の食事は………消化に悪い
Name: ゴリアス◆1198178c ID:8ef60249
Date: 2011/03/19 01:41




「まったく。起こしてやった兄の顔に、寝起き抜けに裏拳かますヤツがあるかよ?」
「だ~か~ら~、悪かったってば。謝ってるんだから許してよ~」

 ここは寮の廊下、未だに御冠の一夏に謝りつつ食堂に向かっている途中なのです。

「だいたい、どんな夢見てたんだ? 何か微妙にうなされてたって言うか、しかめっ面してたけど」
「ん? う~ん、どんな夢だったかなぁ?」

 一夏の騒動のせいで忘れたですよ。たしか~、何気なく嫌な夢だったような……。

「ん? よう、箒!」
「ん? 一夏?」
「ふぇ? 箒ちゃん?」

 今朝の夢を思い出そうと俯いていた私に、振って沸いた一夏の声。その声に反応して目を前に向けると、そこには昨日も見かけた幼馴染、箒ちゃんが食堂入り口前に立ち止まっていました。

「おはよう箒ちゃん。そういえば、昨日は挨拶できずじまいだったね」
「そうだったな。久しぶりだ千秋、少し背が伸びたか?」
「それを言ったら箒ちゃんでしょう? さすが剣道の全国大会優勝者、背筋がスラッとしてて羨ましいよ」

 私なんか若干猫背気味なので、やや低めに見られるんですよ?

「な、なんだ、千秋も知っているのか」
「うん、一夏が教えてくれてね。そのときのはしゃぎぷりったらなかったんだよ? あまりにはしゃぎすぎて、タンスの角に小指ぶつけたんだから」
「そ、そうなのか?」
「そうそう。その後ね……」
「お、おい千秋! 人の恥ずかしい話をペラペラしゃべんなよ!!」
「ニシシ~、じゃあ愚兄がうるさいので、私はしつれ~い。朝食はお二人でどうぞ~?」

 や~れやれ、久しぶりに会った幼馴染。積もる話もありますが、ここはちょっくら気を利かせますかね。発券機で和食セットを注文、その後トレイを持って席へ移動します。う~んと、どこか空いている所は……。

「織斑千秋さん、こちらへどうぞ」

 唐突に声をかけられ、慌てて立ち止まります。おや? 誰かと思えば。

「これはこれはオルコットさん、おはようございます」
「ええ、おはようございます。よろしければ対面にどうぞ?」

 それはつまり話があるから向かいの席に座れってことですよね? 売られた喧嘩、買わずに引いたら女が廃ります。

「ご丁寧にどうも。ありがたく座らせてもらいますね」

 そうして席に着く私でしたが、いきなり喧嘩を始めるのもどうかと思いましたので。取りあえず味噌汁をすすって、鮭の切り身をおかずにご飯を頬張ります。

「そういえば、先日聞きそびれたことがありまして」

 ほぉ~ら来た。この状況で何も言わずに去る、なんて都合のいいことある訳無いですよね。

「あら、なんでしょうか?」
「入試試験のお話ですわ。入試主席とおっしゃいましたが、教官との模擬戦は引き分けたとか」
「ええ。時間いっぱいまで粘ったドローだったわ。オルコットさんは教官を倒して、入試次席になったって話でしたけど?」
「ええ。そうですわ。もっとも、筆記試験の際もその日の体調とテスト内容しだいでは、私が一位になっていたかもしれませんけどね?」

 くっ、どこまでも食らい付いて来る女ですね。

「テストと言うのはあらゆる問題に対応できてこそだと、私は思っています。よってテスト内容のせいで成績の良し悪しを言うのは、それこそ負け犬の遠吠えと思いますが?」
「どこまでも白々しい……………。確かに、その日のテストに合わせての予習を怠った私にも積があるのは理解していますわ」

 最初の声はボソボソとしゃべられて聞き取れませんでしたが、でも好意的なことではないことは理解できるのです。

「でもだからと言って、テストの点数だけが全てではないでしょう? ここはIS学園なのですから」
「ええ、そうですね。ここはIS学園ですから。ですが学園と名の付く以上、勉学に勤しむのは当然ではないですか?」

 オルコットさんと私がメンチを切りあいます。そうしている間にも、黙々とご飯は食べ続けますが。

「どうやら、私と貴女は気の合うお友達にはなれそうにないですわね?」
「ええ。お互いに死力を尽くしましょう? 無様に負けてもいいように」
「その言葉、そっくりそのままお返し致しますわ。お兄さんにも、どうぞよろしく」

 それだけ言うと、オルコットさんはトレイを持って食堂を出て行きました。その背中を見送った後、机にベッタリと突っ伏します。そして、長々とため息を付きました。

 カッカしている相手をより燃え上がらせるために、より冷静により冷徹に。そう努めることは果てしなく、

「つ、疲れたのです」

 この独り言は誰にも聞かせられないのです。

「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よく取れ! 遅刻したらグラウンド十週させるぞ!」

 しかし私に休息はなく。朝食を胃の中に押し込み、慌てて食堂を後にしました。冬姉ぇ、大急ぎで食べると豚になるんですよ?



※  あとがき

 どうも作者です。
 今回の話しでセシリアとの関係悪化! そして文が短い!
 本当に申し訳ありません。切りのいい所がここしかなかったもので。

 次回の更新は早めに行きたいと思います。頑張ります!



[26388] <第一章>第七話 私の兄は……以外に売れる
Name: ゴリアス◆1198178c ID:8ef60249
Date: 2011/03/19 11:12



 さ~てさて、二時間目の授業の時間ですね。

 二時間目はISの基本講義。ISがどのような物で、何を目的に作られたかなどを掘り下げていく授業です。

「というわけで、ISは宇宙空間での作業を想定して作られているので操縦者を特殊なバリアーで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり――――」

 ふむふむ。ISその物が、兵器としての転用を危ぶまれて発表が遅れた。というのは訊いていましたが、これの本来の姿は宇宙用のパワードスーツだったんですね。なるほど、そんな物を地上で使えば。そりゃ兵器化もできるでしょうに。

 そう考えれば、ISの様々な兵器や装備も納得がいきますね。BT(レーザー)兵器やPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)、未だ開発途中のAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)等々。どう見ても地上では用途が戦闘用としか思えないものでも、宇宙空間でなら話は別です。

 様々な兵器は宇宙空間からのあらゆる突発的災害から身を守り、PICやAICは事故などを未然に防ぎ、生体機能補助やバリアーは慣れない環境下での人間の身体を保護する役割。まさに、来世紀を担う装備ともいえますね。反復学習、大事です。あ~あ、専用機欲しい。

 キーンコーンカーンコーン

 ああ、もうおしまいですか。なにやら授業中に一夏が先生に絡まれていた気がしますが、昨日からこんな調子ですのでもう気にしな~いです。

「あっ、えっと。次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね」

 そう言って山田先生だけが出て行きます。うむ? 冬姉ぇは戻らないんですかね? でもま、そんなことよりこちらへ向かってくる人津波の方が問題ですかね。

「ねえねえ、織斑くんさぁ」
「はいは~い、質問しつも~ん」
「今日のお昼ヒマ? 放課後ヒマ? 夜ヒマ?」

 おや? 今日は私の所じゃなくて一夏の所ですか。

「しまった先越された! これ以上出遅れていらんないのに!」

 あ~、なるほど。今朝の箒ちゃんに、昨日のオルコットさん。この二人の抜け駆けとも言える行動を見て、後手後手に回っていた連中が一斉に動きましたか。

「はいは~い、並んで並んで~。整理券あるよ整理券、最優先券はあと三枚だよ~」
「こらぁ! 千秋!! 兄を使って商売するな!!」

 え? チンパンジーとかパンダって、見世物にするために日本に輸入されたんですよね?

 私が整理券を売り捌いていると、ふと視線を感じました。振り向くと、そこには女の子集団に囲まれている一夏を見る箒ちゃんが。その目には、怒りのような不安のような悲しさのような。複雑な感情の光があります。

「ほ~うきちゃん」

 そんな箒ちゃんがちょっと寂しそうに見えたので、ちょっとお節介精神で声をかけます。

「ッん! な、なんだ、千秋か」
「ここだけの話、最優先整理券があと一枚だけあるんですが……」
「!? い、いらぬ!」
「そっか~、せっかく一番の整理券なのにな~、タダなのにな~」

 おおぅ、箒ちゃんが百面相してますよ。一番と聴いた瞬間に“驚き”の表情、タダと聞いた瞬間にパァァァと擬音を付けたくなるような“笑顔”、そしてそんな表情はなかったと言いたげな“しかめっ面”と、最後にでもどうしようかと“思案気な表情”。あの短い会話の間に実に五つもの表情を作る箒ちゃんは、かなり器用なんだとわたしは考えます。

「ほれほれどぉ~? 今なら最優先で、一夏とおしゃべりタイムだよ~?」
「で、では………」
「何をしている?……織斑妹」

 パアンッ!

 ったぁ~! なにごと!? 対岸のビルからの狙撃ですか!? ゴルゴ? ゴルゴが居るのです? もしくはタマ!?

 おや? なぜ背後に阿修羅像が?

「教室で商業利益を得ようとは、貴様もずいぶん逞しいな? その逞しさ、グラウンドで発揮してみるか?」
「いえ! 滅相もございません。織斑先生!!」

 超、姿勢を伸ばして! 礼!

「ねえねえ織斑くん、千冬お姉さまって家ではどんな感じ?」

 ちょうどその時、冬姉ぇの存在が見えていないらしい女子の一人が一夏に質問をしていました。

「え? 案外だらしな―――」

 一夏、超逃げて!

 パアンッ!!

 遅かったー……。

「休み時間は終わりだ、散れ。織斑妹、席に戻れ」

 言われなくても戻らせて頂きますとも。

「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」
「え?」

 ほぇ? 訓練機の準備に時間がかかる? 三年の合同練習でもあるんですかね? もしくは、誰かが派手に格納庫にブッ込んだとか? 笑えないですよ、一台いくらすると思ってんですかね。

「予備機が無い。だから少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
「???」
「ちょ、な!?」

 せ、せ、せ、専用機ぃ!? ちょっと待ってください冬姉ぇ! 専用機が付くって事は、政府が正式に“織斑一夏を支援する”って認めたってことですか!? まだ入学して二日目のペーペーのペーである一年ですよ!?

「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」
「それって政府からの支援が出てるって事じゃあ……」
「ああ……。いいなぁ、私も早く専用機欲しいなぁ」

 教室中からそんな声が聞こえます。当然です。私だって欲しいくらいなんですから。

 一夏、さぞかし喜んで。

「え? え?」

 しかし一夏、この重大イベントに完全に乗り遅れたようで未だに訳が分からんという顔をしています。誰か、誰かこの子にISの基礎を教えてあげて……。

「織斑、教科書6ページ。音読しろ」
「え? えーと……『現在、幅広く―――』」
「『現在、幅広く国家・企業などに技術提供が行なわれているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており。各国家・企業・組織・機関では、それぞれに割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引する事はアラスカ条約第七項に抵触し、すべての条件化で禁止されています』……以上です。この先も音読しますか?」

 私が一夏の開く教科書よりも早く、何も見ないで音読して見せたのを見て。教室中が面白い顔をしています。冬姉ぇ、そんな顔をしていると写メ撮りますよ?

「織斑妹、お前どうやって……」
「教科書の基本的な部位はすべて暗記しています。伊達に入試主席を張っていません」

 穴が開くほど読んでますからね。ISの基本制動の記述、アラスカ条約全項、実践武器使用マニュアル、打鉄のスペックデータと操作理論、リヴァイブのスペックデータと操作理論、空中制御中の射撃反動相殺理論。数え上げればきりが無いです。私の持ってきた引越し用ダンボールの中身、四分の三が家からの持込書物ですよ?

「ッン! まぁ、つまりはそういう事だ。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意される事となった。理解できたか?」
「な、なんとなく……」
「加えて言うなら。専用機を持っている人間って言うのは、467人居る訳じゃない。当然ながら、国防のためのISも用意しなくてはいけない訳だから。実質、467機のうち一割から二割が専用機として運用されているの。人類の人口六十億人に対し女性は約半数、その三十億人の一握りが専用機持ち。つまり専用機持ちってのは、人類の中のエリート中のエリートって訳……」
「その通りですわ!」

 あっちゃ~。調子に乗ってしゃべりすぎましたね。うっさいのが教室の隅から出て来ましたよ。

「ようやく私の偉大さが理解できたようですわね! 織斑兄妹さん」

 いちいち腰に手を当ててこちらを見下すように胸を大きく沿っています。うざったいですね。その無駄に大きな脂肪の塊を一片残らず握りつぶしてあげましょうか? それと、織斑兄妹って新しい造語を作るなです。

「ってことは千秋、専用機持ちって偉いのか?」
「偉いって訳じゃなけど、エリートってのは確かね」
「そっかー、凄いんだなセシリアさんって」

 一夏、褒めるなんてしなくていいですよ! この女とは今朝宣戦布告をし合ったばっかりなんですから。無駄に大きな胸のことなんてほっとくのですよ!!

「そうですわよ。私はエリートなのです。今なら先日の決闘の申し込み、私にクラス代表を譲渡と言う条件で撤回してあげてもよろしくてよ?」
「男が一度申し込んだ決闘を反故にしたら、それこそ男の恥ってもんだ」

 よく言ったです一夏!!

「それに、決闘を申し込んだのはオルコットさんの方だったと記憶していますけど?」

 喧嘩を買ったのは私と一夏ですが、正式に決闘宣言をしてきたのは向こうなのです。

「なぁ!? ど、どこまでも人の上げ足を取る女ですわね」
「上げ足ってのは取るためにあるんでしょう? もういいから、さっさと席に戻りなさいよ」
「い、言われなくても戻りますわよ!」

 プリプリとしながら戻って行くオルコットさん。う~ん、からかいがいのあるヤツなのです。

「そう言えば、冬ね……。ッン! 織斑先生、束姉ぇ(たばねぇ)とは連絡を取っているんですか?」

 さっき話題に上がったので、少し気になって小声で話を振ります。

「ん? 千冬姉、束さんと連絡取れるのか?」

 こらぁ、一夏! 人がせっかく小声で―――

「え? 束って、篠ノ之束さん!?」
「そう言えば、篠ノ之って言えば―――」
「あの、先生! 篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」

 ああ、もう無理です。とりあえず、一夏をきっつく睨みつけておきますか。

「な、なんだよ千秋」
「自分の胸に聞いてみなさい」

 思わずため息です。どうせこのバカ、後で結局ばれるんだからとか思っているのですよ。

「そうだ。篠ノ之はアイツの妹だ」
『えええ~~~!?』

 クラス全体から驚愕の悲鳴。おおぅ、頭に響くのです。

「それから織斑兄」
「え?」

 パアンッ!

「学校では、織斑先生だ」
「………はい、織斑先生」

 ざまぁみやがれです一夏。しかしこちらの騒動など気にせずに、女子の津波は一斉に箒ちゃんの下へ向かっていきます。

「す、すっごーい! 有名人の身内が二人もクラスに居るー!」
「ねえねえ、篠ノ之博士ってどんな人? やっぱり天才なの!?」
「篠ノ之さんも天才だったりするの!? こんどISの操縦教えてよっ」

 うわー、えげつない女子の口撃(誤字に非ず)。このマシンガントークに一夏も付き合ったんですね~。いや、私もですけど。しかし他人がそれを受けているのを見る分には、これはこれで面白い光景なのです。特に知り合いが受けているには。

 そういえば、箒ちゃんってISに乗れるんでしょうか? 少なくとも六年前、束姉ぇがISを発表する前で乗っていた記憶はないですね。

「あの人は関係ない!」

 何事!? いきなりの爆音に慌てて思考を中断。

 何が起こったのかと辺りを見渡すと、みんなも同じ様なアホ顔をしています。特に山田先生、そんな顔をしていると余計に幼く見えますよ?

「……大声を出してすまない。だが、私はあの人ではない。教えられえるようなことは何もない」

 それだけ言って、窓の外へと視線を移してしまう箒ちゃん。箒ちゃんと束姉ぇってそんなに仲の悪いイメージはなかったですが。

 束姉ぇの奇行は相変わらずでしたが、それでも姉妹間のやり取りに違和感があったことはなかったはずですが。まぁ若干、いやかなり束姉ぇの愛情表現過多の部分がありましたが。

「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」
「は、はい」

 山田先生も箒ちゃんのことが気になるみたいですね。まぁ、仕方がないですね。なにせIS関連最大の謎、篠ノ之博士の素性を知る数少ない人間の一人なんですから。あと知っているのは……、過去ならば私や一夏も知っていますが現状を知るのは冬姉ぇだけでしょうか?

 まぁ、とりあえずは授業ですね。


※  あとがき

 予告通りに早めに仕上げました!
 一応チェックしたつもりですが、文法間違い、誤字脱字がないかどうがガクブルです。

 今回、ちょっと千秋が活躍しました。
 これから見せ場を増やしたいんですけど、専用機登場までが長い。果てしなく長い。

 なんとか登場させるまで頑張りたいです。応援よろしくお願いします!



[26388] <第一章>第八話 私のお昼は……お金がかかる
Name: ゴリアス◆1198178c ID:8ef60249
Date: 2011/03/21 11:11



「先ほどは申し損ねましたが、安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 うっぜーの再来です。この膝にカックンを食らわせたらどれだけ愉快でしょうか。

「えいっ」
「なぁ!?」

 思わずやっちゃったんだ☆

「お、織斑さん! 貴女いったい……」
「いえ、オルコットさんの膝の後ろにハエが居たんですよ。ハエが」
「そのような場所にピンポイントで止まるハエが居るわけないでしょう!?」
「仲いいなぁ、千秋とセシリアさんって」

 ……一夏、それって本気で言ってるの?

「ねぇ、一夏? 私ね、今ね、アンタの頭を無性に握りつぶしたい」
「な、何でだよ!?」
「織斑一夏くん? 私と織斑千秋さん。どこをどう取ったら仲良しに見えるでしょうか?」
「ち、違うのか?」

 違う? 違う所の話じゃないのですよ!

「どこが!? この女とは不倶戴天以上の敵よ!!」
「全くもって同感ですわ! 不倶戴天とは存じませんが、ライオンが空を飛ぶくらいにあり得ませんわ!」
「ハッ! 日本の文化くらい少しは学んできたらどうなのです!?」

 ひっさびさのマジ切れモード! 地の言葉が出ちゃっていますよ! こうなったら止められるのは……、

「休み時間とは言え大声を出すなバカ共が!」

 パアンッ! パアンッ!

 このお方だけなのです。

「で、でも冬姉ぇ! この女が……」

 パパアンッ!

「織斑先生だ」
「はい、織斑先生」

 に、二度ぶった~。今、一瞬で二度ぶった~。

「お、織斑先生! 私まで叩かれるのは納得いきませんわ!」
「他のクラス、並びに先生方に迷惑だ。喧嘩をするなら、よそでやるか静かにやれ。以上だ」

 それだけ言うと、冬姉ぇは今度こそ教室から出て行きました。さっき出て行ったのを確認したはずですが、もしかしたら私達の声を聞きつけて全力で戻ってきた? ありえな~い。職員室からここまで、全力で走っても三分以上はかかるはずですよ。

「ケチが付いたわ。続きは今度」
「ええ、その方がよろしいですわね。ではまた」

 それだけ言うと、オルコットさんも教室から出て行きました。あー! しっかしこのイライラ、どうしてくれようですか!

「一夏! メシ行くですよ!」
「お、おう、いいけど……」
「箒ちゃんも一緒に!」
「なっ!? 私もか!?」
「一夏に奢らせるから!」
「ま、待て千秋! 俺は奢るなんて一言も……」
「あ゛ん?」
「いえ、お奢らさせて頂きます」

 当然です! 元を正せばアンタのせいなんですからね! ん? 違った? 細かい事です!

「そういう訳だから! キリキリ付いて来る!」
「あ! おい! 腕を引っ張るんじゃない!?」

 箒ちゃんの腕を捕って引っ張りながら学食到着。券売機を前に一夏にお金(諭吉さん)を投入させて、まずは箒ちゃんです。

「で? 箒ちゃんは何食べるの?」
「だ、だから千秋。私は別に……」
「一緒に食べてくれないと、ここで六年前の秘密を一夏にバラす」

 そんなことを耳元でボソリと呟くと、箒ちゃんはヒクッと顔を引きつらせました。

「ん? 箒、どうした?」
「ばっ! な、なんでもない! わ、私は日替わりにしよう。今日の日替わりは鯖の塩焼きらしいしな」
「へ~、鯖か。じゃあ俺もそれにしよう。箒、二枚買ってくれ」
「う、うむ」

 二枚出しボタンを押して、日替わりを二枚頼みます。さて、私の番ですね。

「え~と、とりあえずステーキ定食に、ポタージュ付けてポテトも付けて、ハンバーガーと焼きソバと紅茶を二杯、加えてアンミツと抹茶パフェとメロンソーダフロートと……」
「おい千秋!? お前それ一人で食べるつもりか!?」
「え? そうだけど?」

 当然でしょう? 今日の私は普段の食事では追いつかないストレスです。ヤケ食い? いいえ、ドカ食いです!

「ち、千秋。さすがに食べすぎではないのか?」
「箒ちゃん。一夏はね。アタシとオルコットさんが、仲がいいって言ったんだよ?」
「そ、それは……」
「そんなことあったらさ、もうヤケ食いしかないよね?」
「しかしだな千秋。お前の胃袋にも限界と言うものが……」
「昨日はシャワー上がりに一夏に全裸見られるし、今日はコレ? ふ、ふふっ、神様は私のことたいそう嫌いなのね?」

 もうこうなったら学食のメニュー全制覇してやろうですかね!? 欲しい食券を全て買い終えた後のお釣りは、お札が全くなくなっていました。一夏の背中が煤けて見えるのは、絶対に気のせいです。

「うっしゃぁ! 一夏! 行くですよ!!」
「お、おぉ、というか千秋。その口調はなんなんだ?」
「へ? 口調?」

 おっと、地の口調が出ていましたか。まぁ、多少はしょうがないとしますか。

「気にしないで、昔のクセよ」
「そう言えばそうだったな。昔はその口調で喋っていたものだ」
「昔の話は掘り返さないの箒ちゃん。ほら、さっさと行こ」

 昔の話。それはまだ私が幼くて、一夏も箒ちゃんも小さかった頃。何も知らずに、何も疑問を抱かずに、剣呑としていた一夏と箒ちゃん。そして、知らないフリをしていた私。もう、昔の話ですが。

「おばちゃん! コレ全部!」
「はいよ! おや、これは配膳のしがいがあるねぇ!」
「大至急お願いね!」
「任せなよ! 空腹の女の子を放って置いたら暴れかねないからねぇ!」

 さっすがおばちゃん、分かっているのです。

「一夏、半分持って」
「無茶苦茶だなお前は」
「今日はそんな気分なのよ」
「はいはい、わかったよ。箒、すまないけど俺の分も持ってくれ」
「う、うむ」

 一夏が半分、私が半分のトレイを持って長机を四人分確保します。私の対面には箒ちゃんと一夏が座り、私の前には料理のお花畑が。

「ん~、美味しそう~」
「千秋、無理すんなよ? 食べきれなかったら俺が食うからな?」
「心配御無用! 私を誰だと思ってるの?」

 そう言ってから、全員でいただきますをします。

「そういや箒」
「な、なんだ?」
「ISのこと教えてくれないか? このままじゃ来週の勝負で何もできずに負けそうだ」
「……勝算があったから、あの時千秋の喧嘩に横槍を入れたのかと思ったら」
「そこを何とか。な、頼むよ」

 ステーキ定食をポタージュで流し込むように食べていた私ですが、そんな中でもしっかりと対面の二人のやり取りを聞いていました。

「……………」

 一夏からは顔を背けていますが、箒ちゃんの顔が若干ニヤついています。たぶん一夏に頼られて凄く嬉しいんでしょうが、即断してしまうのもどうかと思っているんでしょうね。

「私からも頼むよ箒ちゃん。一夏ったら―――」
「ねえ、君って噂の子でしょ?」

 む、なしてここで第三者の介入? しかもよく見ると二年生じゃないですか。一年の我々に何か用ですかね? いや、正確には一夏に用があるようですが。おや? この顔はどこかで……。

「はあ、たぶん」

 一夏がそう言うと、その二年生は一夏の隣に腰掛けて。腕を組んでテーブルに載せながら一夏を覗き込むように下から目線を送ります。

「代表候補生の子と勝負するって訊いたんだけど、本当?」
「はい、そうですけど」

 へぇ、もうそこまで噂が正確に伝わってますか。まぁ、男子IS乗りと代表候補生のバトルって言ったら誰だって食いつきますよね。私ももし一般生徒側なら間違いなく先輩側ですし。

「でも君、素人なんだよね? IS稼働時間いくつくらい?」
「いくつって……、二十分くらいだと思いますけど」
「それじゃあ無理よ。ISって稼働時間がものをいうの。その対戦相手って、代表候補生なんでしょ? だったら軽く三百時間は越えていると思うな」

 その言葉を聞いた瞬間、口に入れていたハンバーガーを慌てて飲み込み喉に詰まらせてしまいまして、慌てて紅茶で流し込みました。

「さ、三百時間!?」
「ええそうよ。っていうか、貴女の食べてる量凄いわね」
「今日は特別です」

 や、ヤバイですね。専用機をもらえるならアドバンテージは搭乗時間だけだったんですが、三百時間を越えているとなるとそこまでの条件を覆す、そんな要素はどこにもないじゃないですか。唯一の戦略と言えば、相手を前日に冷静さを欠かせて、その隙を付くってことですが。どうもズルをしているようで気が引けますし、第一に一夏が良しとしないでしょう。この男、妙なとこだけ律儀なのです。

「まぁいっか。それで本題。私が教えてあげよっか? ISについて」

 む、身を乗り出して胸を強調する姿勢。この女、デキる! 自分の魅力を十分に理解しながら、それを前面に押し出すようにして男子を陥落する。姦計に優れている女性と見た! というか、いいなぁおっぱい大きくて。

「は、はい。ぜ―――」
「けっこうです。私が教える事になっていますので」

 もはやアンミツと抹茶パフェだけになってしまいましたねぇ。やっぱり全品制覇を……。なんですって?

「あなたも一年でしょ? 私の方がうまく教えられると思うなぁ」
「………私は、篠ノ之束の妹ですから」

 ヤバッ、食べるのに夢中で状況把握が遅れました! え~と、現在絶賛箒ちゃんが先輩にケンカ吹っかけ中? どうしてこうなった?

「篠ノ之って……ええ!?」
「ですのでけっこうです」

 おお、先輩が超、驚いてますよ。アンミツうめ~、抹茶パフェも生クリームが甘すぎなくてサイコー!

「そ、そう。それなら仕方ないわね……」

 あ、先輩退場。さ~て、では私もちょっくら野暮用を済ませてきますか。

「ちょっと私も行くね。お花を摘みに」
「なんだ千秋トイレか? あんなに食うか―――」

 それを言った瞬間、一夏の頬数ミリの所を何かが数発通過していきました。私の両手がブレたのと、一夏の髪の毛が数本指の間に挟まっている事とは全く関係ないのです。

「好奇心は猫をも殺す、余計なお喋りは身を滅ぼすわよ? 一夏」
「ア、アイマム」

 まったく。愚かな兄、略して愚兄なのですよ。

 そうして一夏に制裁を加えた後、少し小走りに私はある人を探していました。食堂を出て入り口から少し離れた場所、まるで私を待っていたかのようなゆっくりとした歩幅で歩く目標の人影を発見。

「せ、先輩。ちょっと待って下さい」
「ん? ああ、さっきの。え~と……」
「千秋です。織斑千秋」
「織斑さんね。あら? 織斑ってさっきの……」
「はい。妹です」

 私が探していた人物。それは、さっき講師を買って出てくれた先輩です。

「それで、私に何か用?」
「用って程でもないんですが。どうしてウチの愚兄の講師役を?」
「あら愚問ね。学園で唯一の男子、織斑一夏くん。彼の噂を耳にしない日は無いわ。その彼が困っているんですもの、手の一つも差し伸べて貸しが作れたら嬉しいなぁって」
「と、表向きの理由はいいんですよ。本当の理由を聞きたいんですけど」
「あら……、本心ではないと?」
「そんなことで、わざわざ貴女が動くとは思えないですよ」

 この化けの皮を被った人。先ほどの行動といい、どこまでが本心でどこまでがフェイクなのか分かったもんじゃないです。

「あらぁ? 私を知っている口振りね?」
「学園に来る前に下調べをしておけば、おのずと貴女の顔写真くらいは目にします。何せ貴女は学園の顔ですから」
「顔って程じゃないと思うけどなぁ」
「傀儡である学園長を裏から牛耳っていると言う噂もありますが?」
「根も葉もない噂ね」
「まぁ、そうですね」

 そこで否定も肯定もしないのが怪しいんですけど。

「織斑千秋さんね。覚えておくわ」
「できれば好印象を持ってもらえると嬉しいんですけど」
「ええ。最高に好印象よ。私、頭のいい子は好きなのよ」

 そういいながらどこからか取り出したセンスを広げました。そこには『順風満帆』の文字が。そのセンスで口元を隠しながら颯爽と身を翻して去っていきます。

「それじゃ、またどこかで」
「ええ、またどこかで。質問の答えはその時に。十七代目、更織家当主。生徒会長、更織楯無(さらしき たてなし)先輩」

 とりあえず挨拶は済ませました。席に戻ってみると、結局一夏の講師を箒ちゃんがすることとなり。今日の放課後から特訓開始だそうです。うむ、私も気合を入れるのです!



※  あとがき

 二日空けての更新となります。いかがお過ごしでしょうか?

 ここに来て予定を大幅に繰り上げた人物の登場。更織先輩です。原作では三年生
が教えようとしていましたが、ここでは二年生に。
 そして、更織先輩と千秋を絡ませました。
 ちょっと暗躍する感じに千秋を動かしたく思ったので、ここで顔合わせを行なっ
てみました。違和感はなかったでしょうか? 不快感は無かったでしょうか?
 ありますよね、すいません。

 と、ともかく。これからも一層努力してまいります。ご助力、ご声援宜しくお願
い致します。



[26388] <第一章>第九話 私の幼馴染は………妬ましい
Name: ゴリアス◆1198178c ID:8ef60249
Date: 2011/03/24 11:46


「どういうことだ」
「いや、どういうことって言われても……」

 さ~て時間は放課後、場所は剣道場。そして一夏は絶賛お説教中。いや~、綺麗な一本負けでしたね一夏。やっぱり刀も包丁も砥がないと錆びるんですねぇ。

 そしてどこから聞きつけてきたのか、ギャラリーがたぁくさぁん。あまりに多いので、先着チケットを売り出したら売れる売れる。今、私のお財布はホックホクです。

「どうしてここまで弱くなっている!?」
「受験勉強してたから、かな?」
「………中学では何部に所属していた?」
「帰宅部。三年連続皆勤賞だ」

 そう。私も一夏も帰宅部所属でしたね。家計を助けるためにバイトをして、帰ってくるのは遅かったですけど。

「―――なおす」
「はい?」
「鍛え直す! IS以前の問題だ! これから毎日、放課後三時間、私が稽古をつけてやる!」
「え。それはちょっと長いような―――ていうかISのことをだな」
「いいな、千秋!?」
「私は別に構わないよ~」
「千秋!? 兄を売るのか!? というか俺の話を聞いてくれ!」

 答えは、聞いてない☆

「情けない。ISを使うならまだしも、剣道で男が女に負けるなど……悔しくはないのか、一夏!」
「そりゃ、まあ……格好悪いとは思うけど」
「格好を気にしている場合か!? それとも何か? このような女子に囲まれているのが楽しいのか!?」

 楽しいんですかね? 一夏は終始困ったような感じですけど。

「楽しいわけあるか! 珍獣扱いじゃなねぇか! オマケに大観衆の前で滅多打ち! 何が悲しくてこんな―――」
「私との稽古が嬉しくないのか!?」
「誰もそんなこと言ってな―――危ねえ!」

 うぉ、箒ちゃん。激昂して両手持ちで一夏に斬りかかりましたよ、竹刀ですが。一夏も何とか右手持ちで支えていますが防具なしで受けるのは厳しいですね、無論竹刀ですが。

「箒、な? 頼むから、矛先収めてくれ」
「………ふん! 軟弱者が!」

 ようやく鍔迫り合いを止めて、箒ちゃんは更衣室に向かって行きました。さて、ちょっと箒ちゃんと話でもしてきますか。

       ◇◇

(少しきつく言い過ぎただろうか……)

 胴衣を脱ぎ、袴を脱ぐ。そしてスカートを着てブラウスを羽織った。

(一夏め。急に大人っぽくなったと思ったら、子供の部分はやはり子供なのだな)

 伸びた身長と変わらぬ目、そして力強くなった腕。そのどれもが、変わった一夏であって嬉しい。その時、不意に叩かれる更衣室の扉。

「ほ~うきちゃん。入ってもいい?」
「ち、千秋か!? ちょ、ちょっと待て!」

 慌ててブラウスのボタンを閉めていく。その時に邪魔になる不必要に発育した胸部。このような物、武術をするときには邪魔にしかならぬというのに。

「ま、待たせた。入って大丈夫だ」
「おっじゃま~」

 軽快なノリで入ってきて近場のイスに腰を下ろしたのは一夏の妹、織斑千秋。この幼馴染は、どちらかと言えば変わった部分が多い。

 昔はこんな軽快なノリではなかった。もっとオドオドしていて、もっと人見知りで、もっと自分を出さないヤツだったはずだ。何時からだろうか? 彼女がこうなったのは。

「ど、どうしたのだ? こんな所に」
「いやね、さっきの一夏との打ち込みを見てて感服したのが一つと。箒ちゃんと、じっくりお話したいなって」
「そうか。そういえば、ゆっくりと二人で話す機会が無かったな」
「そ、どっかの珍人が色々と騒動を起こしてくれるから」
「ふふ、違いない」

 千秋も千秋で大変なのだな。私と離れての六年間、ずっと一夏のことを気にかけ続けていたのだろう。

「箒ちゃんは転校したあと、どこにいたとか。訊いても大丈夫?」
「いや、すまない。すべて黙秘するというのが契約で決まっている。無論千秋にならしゃべっても大丈夫なのだろうが、どこに耳があるか分からぬ以上。しゃべれないのだ」
「そっか。じゃあさ、束姉ぇの連絡先とか知ってるの?」
「姉上か……」

 私にとっての最も注目の集まる理由、それは篠ノ之束の妹ということ。しかし私がそのせいで受けた恩恵は何もなく、ただ振り回される日々だけだ。

「あ、いいんだ! 無理に教えてもらおうとか思わないから。ただ、知ってれば安全くらいは知りたいなって」
「それこそ無用だろう? あの人の心配をすることは」
「信頼、してるんだね?」
「単に諦めているだけだ」
「ふふっ」

 千秋の微笑ましげ笑うのを見て、私は少し顔が赤くなっているのを感じた。

「だ、だいたい、ポッっと居なくなってひょっこり帰ってくるような人だ。どんな心配も無駄だと、嫌でも悟るだろうが!」
「そうだね、そういうことにしておきますか」

 千秋め。やりにくい性格になりおって。

「さて、っと。ほいじゃあ私はこの辺でおいとま……、わとぉ!?」
「あ、危ない!」

 恐らく床に転がしてあった竹刀に足を取られたのだろう。バランスを崩す千秋を、慌てて私は支える。結果的に、私が背中を抱くようになってしまった。

「だ、大丈夫か? 千秋!」
「………かする」
「な、何? どこか痛めたのか?」
「フカフカする。箒ちゃんの胸」

 そこには、親の敵でも見るかのように私の胸元を注視する目の据わった千秋が居た。

「い、いや、こんなもの、武術をするのに邪魔なだけで……」
「こんなものぉ!?」

 そう叫んだ瞬間、千秋が私の胸を鷲掴みにしてきた。

「ち、千秋! 何を!?」
「こんなもの、こんなものって箒ちゃん! 私がこの神の悪戯を手に入れることを、どれほど切に望んだことか!! 健康体操を毎日行ない! 豆乳やきな粉を毎日摂取し! 一時期雑誌に載っていた豊胸クリームを買うために本気でバイトを増やそうかと考えたこの思いが!! 箒ちゃんに分かる!?」
「い、いや、そこまでは……」

 フラフラと危なげな歩調で数歩後退する千秋。ま、まずい、完全に錯乱している。胸の話題がここまで鬼門だったとは。

「いいわ、箒ちゃん。無用の長物だと言うのなら……」
「ち、千秋?」
「私が毟り取ってあげるわ!!」

 その後錯乱した千秋を静めるために、私は全力で気絶させるしかなかった。

       ◇◇

 私が目を覚ましたのは部屋のベッドで、そのあと箒ちゃんに謝りに行きました。

 箒ちゃん曰く、錯乱した私の騒ぎを聞きつけた一夏達に羽交い絞めにされて。箒ちゃんが頚椎に手刀を入れて昏倒させたとか。むぅ、大失態なのです。でもいいなぁ。神の悪戯。



※  あらすじ

 どうも、作者です。

 最近ISのSSが増えてきました。個人的には“一夏は私の嫁”、面白いです。
 これからの展開に期待してるのは、“I AM……ALL FOR ME”。斬新です。

 さて、千秋の自分に対するコンプレックスを全開にさせたところできりました。
いよいよISバトル。しかし戦闘描写は特にない、あるのはオブザーバーの視点のみ、
山場がなくて申し訳ない。

 これからも頑張ります。応援よろしくお願いします!



[26388] <第一章>第十話 私の兄は………情けない
Name: ゴリアス◆1198178c ID:85ee9672
Date: 2011/03/25 00:21



 そんなことがあって一週間。今日はオルコットさんとの対決の日です。この場所はアリーナへ続くISのピット。この日のために、一夏のコンディションはバッチリです! そう、コンディションは。

「なあ、箒?」
「なんだ一夏」

 隣では、絶対に一夏と目を合わせようとしない箒ちゃん。

「気のせいかもしれないんだが」
「そうか、では気のせいだろう」

 一夏は箒と目を合わせられないのを悟ると、今度はこっちを向いてきました。私も慌ててピットの天上を見上げます。う~ん、分けの分からないコードでいっぱいです。

「なあ、千秋?」
「な、なぁに? お兄ちゃん」

 い、今だけは甘えっ子声で喋ってあげましょう。それで気が済むならそうすれば良いじゃないですか!

「気のせいかもしれないんだが」
「そうだよ。きっと気のせいだよお兄ちゃん」

 わ~たし~のおに~いちゃ~んは、ISっのり~♪

 即興で考え付いた歌を歌いながら、天上から視線を一夏とは反対方向へ移動します。首、疲れました。

「お前達、ISの事を教えてくれるんだったよな?」
『………………』
「こ っ ち を み ろ」

 アレから六日。箒ちゃんはじっくりと一夏を鍛え上げてくれました。しかし、問題のISのことに付いてなにも触れなかったのです。私は私で、一夏が部屋に帰ってきてから頭の訓練です。とりあえず、参考書に電話帳(笑)を使い。ISの基本をみっちりと教えました。しかし蛇足が多く付き更に一夏の疲労も加わって、ISの基礎動作の理論どころか歴史すら半分までしか進みませんでした。

「し、仕方がないだろう。お前のISもなかったんだから」
「そ、そうよ! それに訓練機の貸し出しって、もの凄い手間なんだから!」

 書類申請と使用許可、仕様用途など。計六枚以上の書類申請をしないと、使用許可は降りないのです。しかもその申請すら二日前までに予約しておかないと一年の内は使う事は厳しいとされています。主に三年生が使うから、が理由らしいのです。

「そりゃそうだけど―――じゃない! 知識にしたって、体術にしたって、ISの動きとか基礎とかあっただろう!?」
『……………』

 箒ちゃん、右向けー右! 私、左向けー左!

「目 を そ ら す な っ !」

 そうして迎えてしまった一週間後、つまり今日なのです。そりゃあ一夏も御冠でしょう。なにせ一夏の専用機となるISが、未だ尚到着していないのです。未だ尚到着していないのです! 大事なことなので二回言いました。

『……………………』

 三人共に沈黙。

「お、織斑くん織斑くん織斑くんっ!」

 大事なことなので三回言いました。じゃないですね。声のした方を見ると、山田先生がパタパタと駆け足でピットにやってきたのです。

 危ないですよ先生。そんなに急いでいるとコードに足を取られるか、もしくは飛び出た機材に足引っ掛けるのですよ!

「山田先生!」
「な、何ですか織斑さん!?」
「こういう時は落ち着いて素数を数えるんです」
「え? 素数、ですか?」
「はい。素数は自分と1以外割り切れない孤独な数字、先生に力と落ち着きを与えてくれます」
「は、はい。それでは……2,3,5,7,11,13,17,19,23」
「はい問題、23の次の次の次の素数は?」
「え? え~と、え~と、35!……あ!?」
「はい、ざんね~ん。35は素数ではありません。正解は37で~す。コレによって先生の、『冬姉ぇと行く二泊三日ペアハワイ旅行』は没収~」
「えぇ!? そ、そんな!! どうか、お慈悲を、お慈悲を~!!」

 私の制服にすがり付きながら半泣きになっていますよ。そんなに冬姉ぇと旅行がしたいんですかね?

 ドゴムッ!

 その直後、私の頭部に未だかつてない衝撃が走りました。ほ、星が、星が見えた! スター!

「貴様は何度言っても学習しないなぁ?」
「ふ、冬姉ぇ……」

 パパパアンッ!

 さ、三度!? 今度は一瞬で三回ぶった!? どんな手の動きをしてるんですか!!

「織斑先生と呼べ。いい加減覚えろ、さもなくば社会的に死ね」

 社会的に!? そんな手のかかる抹殺方法を使わなくたって。しかし教育者とは思えない発言ですねぇ、冬姉ぇらしいといえばらしいですが。

「し、失礼しました織斑先生。それで山田先生、なにか御用ですか?」
「え? ハワイ旅行は?」
「ハァ……、山田先生」
「え!? あ! いえ、違うんですよ!? そ、私、本気にしてませんからね!」

 いえ先生、さっきの失言でその言葉の信憑性はどんぐり位ですよ?

「そ、そ、そ、その! それでですね! 来ました! 織斑くんの専用IS!」

 ついに、ご対面ですか。ほら一夏、呆けてないで!

「織斑兄、すぐに準備しろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でモノにしろ」

 まずは冬姉ぇと山田先生がピットの搬入口前に立ち。

「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えて見せろ。一夏」

 箒ちゃんがその後ろに続き。

「こうなった以上、もう何にも言わない。一夏、武運を」

 そうして私が続きます。そしてその後ろでは一夏が……、

「え? え? なん………」
『早く!』

 右往左往していたので全員で喝を入れました。

 ゴゴンッ!

 鈍い音がしてピット搬入口が開きます。斜めに噛み合うタイプの扉は、重い駆動音を上げながらゆっくりとその先にある物をさらけ出していきます。

―――目の前には、純白の機体が鎮座していました。

「これが……」
「はい! 織斑くんの専用IS『白式』です!」
「篠ノ之、織斑妹、お前達は先に観客席に行っていろ」
「いえ、私もここに」
「織斑先生、一夏初陣の出撃シーン独り占めとは頂けませんなぁ?」
「ふん! かってにしろ。ここに居てもこいつの試合が観戦しにくくなるだけだぞ?」
「かまいません」
「ここ以上に一夏のことを解説付きで観戦できる場所はありませんから」

 冬姉ぇにそう告げるとほんの少しだけ笑ったように見えましたが、すぐに元の表情に戻ってしまいました。

「違う織斑兄、そうじゃない。背中を預けるように、そうだ。座る感じでいい。後はシステムが最適化する」

 IS。いや、『白式』が一夏の身体にフィットするように各所の気圧を調節。それにより、カシュカシュっと音が各関節や接面部分から聞こえるのです。

「あ」
「どうかした? 一夏?」
「いや、この数値は……」
「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。気分は悪くないか、一夏」

 冬姉ぇ、心配してる。私には分かるのです。冬姉ぇは誰かを心配すると右手で左二の腕を押さえる癖があるのです。些細な変化で、声も微妙に震えます。ほんの僅か、ほんの些細な変化ですが。しかし家族である私には分かる大きな変化、一夏は鈍チンですから気付かな……。

「大丈夫、千冬姉。いける」
「そうか」

 今、一夏が察した! 分かる! 一夏が冬姉ぇの心配を察して、そしてその心配を払拭するためにわざわざ強気の発言をしたのです!

「千秋、下唇に指を持ってく癖。直ってないぞ」
「ふえっ!?」

 一夏に言われてようやく気付きました。昔言われた癖、自分でも気付かないうちに悩み事や考え事をするときに指を下唇に持ってきてしまうのです。ここ最近は考える事もなかったのですが、一夏に対する心配で再発してしまったようです。こっちを見ないで言われたのは、ISのハイパーセンサーの成せる業ですか。

「心配するな、兄貴を信じろ」
「う、うん」

 振り向きざまに笑顔。こ、こんなときだけ力強い声と笑顔。ず、ずるいのですよ。

「箒」
「な、なんだ?」
「行ってくる」
「あ、ああ、勝ってこい」

 一夏は首を縦に振ると、凄い勢いでピットアウトしていきました。ISの起こした風が、私達の髪を強く揺らします。

「さて、管制室へ行くぞ。貴様らも来い。どうせ観客席は超満員だろうからな」
「はい」
「了解しました」

 私と箒ちゃんは冬姉ぇの案内の元、管制室で一夏の初陣を見学することとなりました。



「はぁぁ……、すごいですねぇ、織斑くん」

 確かに、凄いですね。試合開始から三十分弱。あのオルコットさんの攻撃を、防ぎ、かわし、ビットを二機も撃墜しました。

 これがIS稼働時間二十分の動き? 最大稼働時間が試合時間も合わせて一時間未満? どっかで嘘ついてないですかねあの愚兄? 一時間未満の稼働時間でここまで動ける人間が、世界中に何人いるか。

「しかし織斑先生、今の一夏って………」
「ああ、あの馬鹿者。浮かれているな」
「え? なんでわかるんですか?」

 山田先生が不思議そうな顔をしています。

「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろ。あれは、アイツの昔からのクセだ。あれが出るときは、決まって単純なミスをする」
「あのバカ一夏。相手に止めをさす瞬間も、後一歩で勝てそうな時も、一番油断しやすいってこと分かってないんだから。だから毎回詰めが甘いのよ!」

 ギリリっと口の中で歯軋りの音が大きく響きました。

「へぇぇぇー……、さっすが御姉弟ですね。そんな細かい事まで分かるなんて」

 あ、冬姉ぇ照れてる。やや目が見開いているし、口も傍目では分からないくらいに開いています。

「ま、まあー、なんだ。あれでも一応私の弟だからな……」
「あー、照れてるんですかぁ? 照れてるんですねぇ」

 あ、山田先生逃げて~。冬姉ぇは家族ネタでからかわれることを極端に嫌うんですよ。

「……………」
「織斑先生、落ち着いて下さい。こんな所で殺人を犯したらいい感じに新聞の一面に載りますよ?」
「安心しろ織斑妹、こうするだけだ」

 ボソボソとした話し合いの末、山田先生の頭部が冬姉ぇの右手に鷲摑まれました。

「いたたたたたたたたたっ!」
「わ た し は か ら か わ れ る の が 嫌いだ!」
「は、はい! わかりました! わかりましたから離し―――あううぅぅ」

 眼鏡が割れなくて良かったですね、山田先生。冬姉ぇの握力は、右手でリンゴを潰せるんですよ?

 山田先生のことに気を使いながら、箒ちゃんを盗み見ます。

「…………」

 こちらの騒ぎを気にも留めずに、ひたすらにモニターを注視しています。かなりの集中力、剣道の全国大会優勝者は伊達ではないですね。

「!! 一夏!」

 箒ちゃんの驚愕とした表情に、慌てて視線をモニターに戻すと。今まさに、ブルー・ティアーズの弾道弾に直撃する一夏の姿が!

「あのバカ!!」

 黒煙が一夏を覆っています。それにより、こちらのモニターには一夏の安否が確認できません。やがて、徐々に煙が晴れてきました。

「―――ふん」

 冬姉ぇの安心した声。コレが聞こえたってことは……。

「機体に救われたな、馬鹿者め」

 まだ僅かに一夏と白式を遮っていた黒煙。しかしその黒煙も、弾けるように吹き飛ばされました。そして中から出て来たのは、先ほどとは出で立ちの変わった純白の機体。

「あれが、一夏の……」
「そうだ、第一移行(ファーストシフト)。これであの白式は、織斑兄の本当の専用機となった」

 本で読んだだけで知識しかありませんでした。

 第一移行。操縦者との『初期化(フォーマット)』と『最適化(フッティング)』を終えた期待の行う最初の変形。一夏の身体付き、動脈・静脈の流れ、心臓の鼓動速度とタイミング、筋肉や内蔵の機能指数や配置、その他様々な情報を一夏から吸収し。それを踏まえた最適な形態を弾き出し、自らを変質する。それが第一移行。第一変形(ファーストトランス)とも呼ばれるようです。

『俺は世界で最高の姉さんを持ったよ』

 一夏の声が、スピーカーから聞こえるのです。

『俺も、俺の家族を守る』
『……は? あなた、何を言って―――』
『とりあえず今は、千冬姉の名前と、同じ年の妹の意地を守るさ!』

 その言葉に、千冬姉を見ると。少し目が泳いでいて、口が半開きになっていました。照れてるんですね。かく言う私も、顔が若干火照っている感じがしますから同じですか。

 スクリーンに目線を戻すと、そこにはビットを切り裂いてオルコットさんに肉薄する一夏の姿。白式の全身が淡く輝き、一夏の持つブレードからはエネルギー状の刃が延長されています。

 射程まで、残り数メートル。瞬間、オルコットさんの懐に一夏が飛び込みました。

「行け! 一夏ぁ!!」

 思わず叫んでいました。

 そして、一夏がブレードを逆袈裟から振り上げようとして。

『試合終了。勝者―――セシリア・オルコット!』

 はい?

『あれ……?』

 あ、スクリーン越しの一夏がマヌケ面してる。いつもの私ならこの機を逃さず、携帯でシャッターチャンスだったのですが。そんな気にもならずに、ただただ呆けていました。周りを見ると、山田先生も箒ちゃんも、同じような顔をしています。

「ハァ…………」

 唯一冬姉ぇだけは、すべてを分かっているかのような表情で額を押さえています。冬姉ぇ、そんな呆れ顔をしていると皺が増えますよ~。そして状況の説明を要求するのです。



※  あとがき

 日付をまたいで二話投稿です。
 書きためができたので、せっかくなので投稿しました。

 今回は一夏のセリフ若干補正と、妄想で管制室の描写です。
 しかし山場が少ない。もっと熱く燃えるシーンと、アツく萌えるシーンを
書きたい……。

 とりあえず、千秋の入浴シーンでも……
 え? 千秋さん? ちょっと待った、その手に持っている鈍く光る指全部に
嵌めるタイプの禍々しい武装は何ですか?
 わ、わかりました。がんばります、がんばりますから右手だけは……くぁwせdrftgyふじこl!!



[26388] <第一章>第十一話 私の姉は………意外と優しい 
Name: ゴリアス◆1198178c ID:3ea73b79
Date: 2011/03/27 03:57


「よくもまあ、持ち上げてくれたものだ。それでこの結果か、大馬鹿者」

 ここは一年一組の教室です。今日の試合結果を全員の前で報告、そして事態の収束をクラス全員に告げてクラス会は終了。そしてその後に待っていたのは、一夏へのお説教タイムです。

「『とりあえず今は、千冬姉の名前と、同じ年の妹の意地を守るさ!』。守れてねぇッス」
「まったくだ。この愚弟が!」
「本当です。この愚兄が!」

 姉妹揃っての見下しお説教、一夏は自分の机で小さくなっています。

「武器の特性を考えずに使うからああなるのだ。身を持って分かっただろう。明日からは訓練に励め、暇さえあればISを起動しろ。いいな」
「…………はい」

 冬姉ぇ優し~。最後に落ち込んだ一夏をフォローしましたよ。我が姉ながら恐ろしいほどの気配り。私も見習わなければいけませんね。

「えっと、織斑くんのISは現在待機状態になっていますけど、織斑くんが呼び出せばすぐに展開できます。ただし、規則があるのでちゃんと読んでおいてくださいね。はい、これ」

 ドサッ!

 電話帳再来(笑)。IS起動におけるルールブックですか。これは私の知識の中には無いものですね、後で一夏に見せても~らおっと。

 ああ、一夏がげんなりしてますよ。あの顔は『何ページあるんだよコレ』って顔ですね。たいしたことないでしょう? ほんの数百ページって所じゃないですか? 三日もあれば読破可能でしょう。

「何にしても今日はコレでおしまいだ。帰って休め」

 あ~あ、最後まで気を使った言葉を。一夏もそこまで言われちゃ分かっちゃうでしょうに。いいなぁ、一夏。冬姉ぇにあんなに心配してもらえて。

「一夏、帰るよ」
「ちょっとは兄を心配しろよ」
「『とりあえず今は、千冬姉の名と―――』」
「だあぁぁぁ! わかった、わかりましたよ」

 よろしいのです。冬姉ぇにあんだけ心配されている一夏は、ちょっと痛い目を見たほうがいいのですよ。

「で、さっきから教室の入り口で一夏の様子を窺っている箒ちゃん。よかったら寮までご一緒しませんか?」
「え? 箒が居るのか?」
「!?」

 いや箒ちゃん。アレで隠れているつもりだったんですか? スカートは見えてるし、チラチラと顔を覗かせてこっちの様子を窺ってたじゃないですか。

「き、気付かれていたか」
「気配の消し方がまだまだですね。隠密には向かないんですか?」
「け、剣士とは、常に堂々としているものなのだ!」

 へぇ~、あくまで自分は忍びではなく剣士と言い張るわけですね。

「まぁ、いいか。一緒に帰ろう、寮までだけど」
「う、うむ」
「あれ? 俺の意見は?」
「え? 私は自分が部屋に入ったら鍵を掛ける予定だけど?」
「お願いします千秋様! この哀れな愚兄にどうか温情を!」

 おお~、スライディング土下座! 兄の威厳も、へったくれもありゃしねぇです。

「箒一等裁判官、どうしますか?」
「わ、私に振るのか!?」
「小官としましては、負け犬に情けをかけるべきではないかと」
「………確かに、負け犬だな」
「返す言葉もございません」

 う~む、教室に正座して三つ指を突いている一夏。ヤバイ、この構図は微妙にヤバイ。

「いかがしましょう?」
「まぁ、良いではないか。千秋、あまり悪ふざけが過ぎると後でしっぺ返しが来るぞ」
「えへへ~」

 超・ばれてましたか。

「あ、あれ?」
「ほら一夏、地べたに座んない。さっさと来ないと置いていくよ」
「一夏、早く帰るとしよう」
「え? あの、俺、もてあそばれた?」

 何を物騒なことを。ちょっとからかっただけですよぉだ。

 こうして不貞腐れている一夏をなだめ、三人並んで寮へと帰っている途中。

「一夏」
「ん? なんだ?」

 一夏の顔を見るに、どうせくだらない事を考えているのだろうとタカを括って。からかってやろうとした瞬間、箒ちゃんが一夏に話しかけてしまいました。

「その、なんだ……負けて悔しいか?」
「そりゃ、まぁ。悔しいさ」
「そうか、ならばいい」

 私もちょっとその言葉には安心しました。代表候補生にだから負けてもしょうがない。とか言われた日には、筋肉バスターからバロススペシャルのコンボを繋げなければならないところでしたよ。一夏、命拾いしましたね。

「あ、明日からは、アレだな。あ、ISの訓練もいれないといけないな」

 あ゛。出遅れた。

「で、結局。箒は教えてくれるのか? ISの操縦」
「む、無理にとは言わないぞ! なんなら、千冬さんに教えてもらった方がいいのではないか?」
「いや、千冬姉はイヤがるだろ。それに、えこひいきっぽく見られてもイヤだしな」
「そ、それなら先輩に教えてもらってはどうだ? 一日の長というものは、やはり重要だぞ」
「………まあ、箒がイヤだって言うなら他を、先輩か千秋あたりを―――」

 好機到来!

「んじゃぁ、私が―――」
「い、イヤとは言っていない!」

 じゃ、邪魔されたー! おのれ箒ちゃん! 大声出された一夏はびっくりして私の話なんか聞いてなさそうですしね。トホホ。

「そ、その……コホン。い、一夏は私に教えて欲しいのだな……?」
「そうだな」

 チクッ

 なんだろう、コレ。箒ちゃんが、昔一夏とベッタリ一緒にいたときも感じたコレ。箒ちゃんと一夏の仲に嫉妬しちゃってるとか? ナイナイ、一夏は兄貴だよ? でもだったらなんなんだろう? まだ一夏が頼りないから、幼馴染で親友の箒ちゃんを取られるのがイヤなのかな? 我ながら子供っぽいのです。箒ちゃんと一夏、二人はなんだかんだ言ってお似合いなのに。

「そ、そうか……。そうかそうか。なるほどな、ふふっ、仕方がないな」

 箒ちゃん、嬉しそう。一夏の隣に立ててることを純粋に喜んでる。私も、ずっとそのポジションだったんだよね。もう、他の人に譲った方がいいのかな? いつまでも兄離れできない妹って、思われるのもなんかイヤだし。

「では、明日から必ず放課後は空けておくのだぞ。いいな?」
「おう」

 嬉しそうな箒ちゃん、嬉しそうな一夏。私は、そこには入れないかな。やっぱり、邪魔者だよね。

「さ~て、ほいじゃあ私は先に部屋に帰ってますかね」

 極めて明るく、こんな気持ちを悟られないように。

「そういえば千秋、先ほど気になることを言っていたな?」
「ん? なにがぁ?」
「自分が先に帰ったら、部屋の鍵を閉めるとか。なぜ部屋の鍵を閉めると、一夏に不利益があるのだ?」
「へ? 私と一夏が同室だからだけど?」

 あ、箒ちゃんの顔が真っ赤になってから真っ青になった。独り信号機? 黄色がないか。

「い、い、い、い、一夏ぁ!!」

 おお、いつも携帯している竹刀袋から抜刀! そしてぇ!

 バシーン!

「痛ぇ!」
「この不埒者! 実の妹と同室とは、男の風上にも置けん! そこに直れ、叩き斬ってくれる!」
「ほ、箒、落ち着け! 千秋も助けてくれぇ!」
「私、昨日全裸見られたんだよねぇ」
「~~~~~!?」

 あ、箒ちゃんが声にならない悲鳴をあげてる。

「天誅!」
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!」

 一夏の断末魔を背中に、私は寮へと一足お先に戻りました。

 え、一夏? 当然閉め出しましたけど、なにか? なぜかそのせいで、廊下で部屋着姿の女性陣に囲まれていたため、首根っこをひっ捕まえて部屋に引きずり込みました。当然、その後は床に正座でお説教です。



※  あとがき

 連日投稿しようと思ったらいつの間にか日付がww
 こんばんわ、作者です。

 はっきり言って寝ていません。花粉症とやらの影響で鼻が詰まって寝れていませ
ん。しかも今日は十一時半から予定ありとか死ねるww

 と、ともかく、今回の話で千秋の心境にちょっと触れました。まだまだ序の口で
すが、これからもっと核心に迫りたいと思います。

 一夏は好きです。でも馬鹿です。ハーレム……、もっと頑張れば一夏なら築ける
よ! だから頑張れ! 本編でも、このSSでも!

 これからも更新頑張ります。皆様応援よろしくお願いします!



[26388] <第一章>第十二話 私の兄は代表で………私が補佐官
Name: ゴリアス◆1198178c ID:3ea73b79
Date: 2011/03/30 01:39


 さて、翌日のSHR。眠たげな目を擦りながら、机に溶けるように座っていると山田先生がやってきました。教壇に立ち、必要事項を伝達しているようです。その中には、クラス代表についてもあったため。少し耳を傾けます。

「では、一年一組の代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね」

 ふぇ? 代表はオルコットさんでしょ? 山田先生、春だからってボケちゃったんですか? って言うか、なんですかこのクラスの盛り上がりようは? 私だけ置いてけぼりですか? みんなオルコットさんが代表になったのがそんなに嬉しいんですかね? 文句の一つも出てくると思ってましたが。

 いや、私がボケてるんですかね。うん、ちょっとシャンとしよ。クラス代表の名前を聞き間違えるなんて、相当寝ぼけているのです。

「先生、質問です」

 おや? 一夏が質問? 珍しいですね。

「はい、織斑くん」
「俺は昨日試合に負けたんですが、何でクラス代表になってるんでしょうか?」

 は? …………OK、覚醒しました。ちょっと状況を整理しましょう。

 昨日の試合は一夏の敗北だった。そしてその試合はクラス代表を決める試合だった。そして試合に負けた一夏は、クラス代表になった。

 ……どうしてこうなった? 誰かダイジェスト飛ばしました? もしくはDVDの十二巻借りて来いって言ったのに十三巻借りてきました?

「それは―――」

 お、山田先生。そうでよね、ダイジェスト飛ばしてないですよね。よかった~、説明求む!

「それはわたくしが辞退したからですわ!」

 振り向くと、いつもの決めポーズをとりながら。『私、参上!』とばかりに胸を張っています。いや、聞いてないです。今は山田先生の話を聞いていたのであって、貴女の話は聞いてないのです。

「まあ、勝負はあなたの負けでしたが、しかしそれは考えてみれば当然のこと。何せわたくしセシリア・オルコットが相手だったのですから。それは仕方のないことですわ」

 このお嬢に今すぐに肉弾戦での決闘を申し込みたいのです!! しかし愚兄にすべてを託し、敗れてしまったのですからここは甘んじて受け入れましょう。

 ええ、今手の中でシャープペンがミシミシと音を立てているのは気のせいです。

「それで、まあ、わたくしも大人げなく怒ったことを反省しまして」

 へぇ、あの女にも反省という機能がついてたんですね。まぁ、サルにもあるんですから当然ですか。

「“一夏さん”にクラス代表を譲ることにしましたわ。やはりIS操縦には実戦経験が何よりの糧。クラス代表ともなれば戦いには事欠きませんし」

 ん? このお嬢今なんて言いました? “一夏さん”? まさか一夏……

「ねぇ、一夏? このSHRが終わったら、ちょぉっとお話があるんだけど、いいかな?」
「な、なぁ千秋。今さっきから、こう邪気というか殺気というか。背中がゾクゾクするんだけど、発信源はお前じゃないよな?」
「あぁ、それなら安心して。発信源は私だから」
「少しも安心できる要素がないだろ!」

 うるさいですよ一夏。ほ~ら、騒ぐから馬鹿お嬢が来ちゃったじゃないですか。うわぁ、腰に手を当てて見下しポーズですよ。まぁ、私が座ってて高低差があるからですけど。

「ちょっと織斑さん! わたくしがお話をしているのですから、横槍を入れるのは失礼ではなくって?」
「オルコットさん、たしか貴女反省しているって言ったわよね?」
「そ、そうですわよ。それが何か?」
「そうよね、だったら…。ホレ」

 そういって、右肩を少し上げてそこに視線を送ります。

「肩がどうかしまして?」
「あれ? 知らないの? とりあえず、右手を私の肩に置いて左手は後ろに回して腰に―――」
「こ、こうですの?」
「そして、右手は肩についたまま私から少し下がる―――」
「こ、これくらいでよろしくて?」
「ん~、もう半歩。うん。そして、頭を少し下げてうつむき加減になる」
「こ、こうでよろしくて?」

 はい完成!! 誰もが知っているお猿さんの芸『反省』!

「な、なんですの? このポーズは?」
「これが日本古来より伝わる、『反省』のポーズよ」
「こ、こんな妙なポーズが?」
「『郷に入りては郷に従え』、この言葉の意味くらいは知ってるでしょ? つまりはそういうことよ」
「な、なるほど。で、では一夏さん!」
「え? 俺?」

 なぜここで一夏に?

「特とご覧あそばせ。これがわたくしの反省ですわ」
「あ、ああ。ま、間違いなく『反省』だな」
「ほ、本当ですの!?」

 や、やばい、笑いこらえるのが厳しい。慌ててオルコットさんから視線を外すと、其処彼処で含み笑いをしている人がチラホラ。ですよね~。

「で、織斑さん! このポーズはいつまで続ければよろしいんですの? ポーズが長いほど反省していると思われるんですの?」

 えぇ~、なんで目をキラキラさせながら言うんですか? も、もう我慢の限界が近いんですけど~。

「い、いや、もう大丈夫。ちゃんと一夏にも伝わったから……」
「そ、そうですのね。では、改めて」

 『反省』のポーズを止めるオルコットさん。あ~、危なかった。もうちょっとで完全に大笑いしてしまう所だったのです。

「そ、それでですわね。わたくしのように優雅かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間がIS操縦を教えて差し上げれば、それはもうみるみるうちに成長を遂げ―――」
「へ? ちょ、まっ―――」

 バンッ!

 オルコットさんの会話を遮ろうとした私の言葉が、突然の机を叩く音に遮られました。結果的に、机の音がオルコットさんの言葉を遮った? 私の会話無視? グスン。

「あいにくだが、一夏の教官は足りている。私が、直接、頼まれたからな」

 おぉ~、箒ちゃんが仁王立ちしながら殺気立ってますよ。余談ですが、『私が』と『直接』をかなり強調して言っております。さすがにこの殺気にはオルコットさんも引いて……、いませんね。それどころか、かなり誇らしげというか自慢げですよ?

「あら、あなたはISランクCの篠ノ之さん。Aのわたくしに何か御用かしら?」
「ら、ランクは関係ない! 頼まれたのは私だ。い、一夏がどうしても懇願するからだ」

 はいそこー、事実を改ざんしないように! 『箒ちゃんが』、『進んで』、『志願』、が正解です。どこに当てはめるかはみんなで考えましょう。

「え、箒ってランクCなのか……?」

 おいおい一夏お兄さん、空気呼んでくださいよ。

「だ、だからランクは関係ないと言っている!」

 あらら、箒ちゃん怒っちゃったよ。ちなみに私のランクは一夏より少し上のB+。Aランクなんて、専用機持ちか軍人上がりしかいないのですよ。でもこれって訓練機で出した最初の格付けですし、変動が激しすぎて参考にもならないらしいからあんまり気にしてないのです。って、担当の先生が言ってました。

「座れ、馬鹿ども」

 おっとここで遅れて登場の、冬姉ぇの出席簿アタック!

 オルコットさんと箒ちゃんに99のダメージ! こうかはばつぐんだ! オルコットさんと箒ちゃんは力尽きてしまった。おぉー、戦士ホウキと魔法使いオルコットよ、死んでしまうとは情けない。

 ズバシッ!

「今、何かくだらないことを考えていたな? 織斑妹」
「はい、申し訳ありません織斑先生」

 わ、私の頭の中身まで見えるとは。さすが第一回世界大会優勝者、テレパスの資質まで持ち合わせるとは。冬姉ぇ、恐ろしい人(そのまんまの意味で)。

「そしてオルコットに篠ノ之。お前たちのランクなどクズだ、私からしたらどれも平等にひよっこだ。まだ殻を被ったままの段階で優劣を付けようとするな」

 ひ、ひよっこ……。まぁ、世界大会の覇者。第一回優勝者にして、第二回も決勝まで進んだ戦女神。この人からしてみれば三百時間の搭乗時間を誇るイギリス代表も、IS開発者の妹も、男性唯一のIS乗りも、入試主席も等しくひよっこなんでしょうね。

「代表候補生でも一から勉強してもらうと前に言っただろう。くだらん揉め事は十代の特権だが、あいにく今は私の管轄時間だ。自重しろ」

 ………………。とりあえず兄の背中をつついて、首だけこちらを向かせて耳打ち。

「ねぇ、一夏。仕事場の冬姉ぇて、かなりしっかりしてない?」
「ああ、俺も同じこと考えてた」

 これが仕事中の冬姉ぇ? 家での姿が出てくることなんて全くないじゃないですか。いつボロが出るのか楽しみにしていたのに、これじゃあ期待はかなり薄そうです。

 とてもじゃないですが仕事から帰ってきて直行で風呂、そのあと髪を中途半端に乾かしながら下着姿でウロウロ。一夏のいない時は、ワイシャツにパンスト姿でビールを飲みながら一夏の作り置きに『塩味がイマイチ』なんて意見を言っていた人と同一人物とは思えません。

 そういえば、私達が寮生活になって家はどうしているんですね。そりゃ冬姉ぇが帰っているんでしょうが、ハウスキープは誰がやっているんでしょう? もしかして無人なんでしょうか? 冬姉ぇちゃんと洗濯とか掃除とかやってるのかな? 料理は……、さすがにやってるでしょうけど。それ以外は結構だらしないのですよ。

 掃除のとき、カーペットの目に沿って掃除機をかけているのでしょうか。布団は二日に一回は干してくださいね、ダニが沸きます。それに朝干したら夕方の日の暮れる前には取り込んで下さい、フカフカが半減します。寝るときに布団がフカフカしてないと温かみが半減して寝にくい、と怒るのは冬姉ぇなんですからもう少し私生活にも気を配って―――。

 バ、バシンッ!

「織斑兄妹、今何か無礼なことを考えていただろう?」
「そんなことはまったくありません」
「いちかはともかくわたしはまったくありません」
「ほほぅ」

 ズバンッ! ズバンッ!

 つ、つよ!? さっきよりも強い!

『すみませんでした』
「わかればいい」

 こ、これって体罰で訴えられませんかね? あ、しまった。ここ独立法治国家だった。そしてその法治者の一人は、間違いなく冬姉ぇ(教師)ですね。

「クラス代表は織斑一夏。その補佐として織斑千秋。異存はないな」

 はーい、とクラス全員が一丸となって返事をしました。うんうん、団結するって素晴らしい。

 ……………ちょっち待ってください。

「あの、織斑先生? 私が補佐って?」
「そこの馬鹿だけではどうにもならない場面もあるだろう。妹としてそこの馬鹿兄貴をしっかり監督、補佐しろ。当然織斑兄が何かした場合、織斑妹も連帯責任を取ってもらう。これは命令だ、よって反論も異議も認めん。以上」

 そんな情報、聞いてねぇです。

 ギギィィィ

 油切れの人形のごとく一夏の方を向くと、一夏はサッと視線を逸らしました。

「一夏、アトデシメル」
「お、俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない」

 とりあえず念仏のように“俺は悪くない”を連呼している一夏は〆るとして。これからどうしようかと、頭の中で高速でスケジュールを練っている私なのでした。


<第一章 完>

※  あとがき

 閲覧、ありがとうございました。これにて<第一章>が完結となります。

 続いて<第二章>に突入するわけですが、いよいよ千秋と同じ属性持ちが登場す
るわけです。そう、同じ貧乳属性が!

 千秋とキャラが被らないように、しっかりと千秋を際立たせて行きたいと思いま
す。しかし、鈴もイジめたいですww


 これからも頑張ります、皆様応援宜しくお願い申し上げます。



[26388] <第二章>第一話 私的には……絶望した
Name: ゴリアス◆1198178c ID:3ea73b79
Date: 2011/04/02 16:06



「というわけでっ! 織斑くんのクラス代表決定、並びに千秋さんの補佐官決定おめでとう!」
「おめでと~!」

 ぱん、ぱぱーん! クラッカーが乱射され、紙テープがいっせいに一夏と私に降り注ぎます。

 ここは寮の食堂。夕食後の自由時間を使って、一夏と私のクラス代表&補佐官就任式を開いています。

 ちなみに。午前中の授業で一夏がグラウンドに大穴を空けたり、どこか聞き覚えのある声で一夏を呼ぶ声も聞こえた気がしましたけど。些細なことです。

『……………』

 そして現在開かれているパーティー。おめでたくないのです。ちっともおめでたくないのです。

 天井には輪飾り、目の前のテーブルには色とりどりのお菓子、壁には横断幕で『織斑一夏クラス代表就任、並びに織斑千秋クラス代表補佐官就任パーティー』と書かれています。長っ!

「いや~、これでクラス代表戦も盛り上がるねぇ」
「ほんとほんと」
「ラッキーだったよねー。同じクラスで」
「ほんとほんと」
「うぉい、そこの相づち打ってる女生徒! アンタ二組でしょ! なに当然な顔してウチのクラスに潜り込んでる!?」

 そうはっきりと言うと、なぜかその子は“ガーン”と擬音を付けたくなるほどにショックな顔をしています。

「ひ、ひどいわ千秋さん。こんなイベント事を一組だけで独占しようとするなんて」
「そうよそうよ、可愛そうじゃない」
「よしよし、大丈夫だよ。みんな仲間じゃない」

 え? 何で私責められてんの? しかも同じ一組女子から。おかくしくないですか? この空間はやはりカオスなんですか?

「はいは~い、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏くんと妹の千秋さんに特別インタビューしに来ました~!」

 オーっと全員が盛り上がっています。に、逃げるに逃げられないのです。

「あ、私は二年の黛薫子(まゆずみ かおるこ)。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名詞」

 あ、どうもです。『真実の探求者 黛 薫子 隠れざる秘密、高値で買います』。

「買うんですか?」
「最近はね、情報は金より高いんだよ? 何か耳寄りな情報とかなぁい? 織斑くんの私生活とか、織斑先生の日常とか」
「一夏のならしゃべりますけど。冬姉ぇの日常は……、口外した場合血の雨が降るので言えません」
「ごめん、私も命賭けてまでほしいとは思わないわ」
「賢明な判断ですね」

 屍山血河をこれ以上築くわけにはいかんですよ。

「で、ではずばり織斑くん! クラス代表になった感想を、どうぞ!」

 そういいながらボイスレコーダーを一夏の口元に近づけます。黛先輩、目がキラキラしてますよ。

「え、えーと、がんばります」
「え~。もっといいコメントちょうだいよ~。『俺に触れるとヤケドするぜよ』、とか!」

 一夏はいつから竜馬の国の生まれになったんですかね? というかえらく前時代的です。

「自分、不器用ですから」
「うわ、前時代的!」

 うわ、上には上がいましたよ。

「じゃあまあ、適当に捏造しておくからいいとして」

 よくねぇです。こいつの捏造されたコメントの評価は、私の評価にもニアイコールなんですから勘弁してくださいよ。

「んじゃ次、妹の千秋さんのコメント」
「黙秘権を行使します」

 そんなインチキ記事に付き合ってられますか。

「まあまあ、私に顔繋いでおくといいことあるかもよ?」
「たとえば?」
「二組の転校生の情報とか」
「転校生? この時期にですか?」
「この先はコメントもらってからってことで」

 さて、ここで非協力を煽って後で睨まれるのは得策ではないですし。なによりその転校生のことが気になります。先輩が言ったとおり、情報は時に金よりも高価で取引されるのです。

「クラス代表である私の兄が、全力を出せるように支援するだけです」
「はい、ありがと。じゃ、コレが転校生の情報ね」

 渡されたのは十cm四方のメモ用紙。そこに書かれていた内容は……。ちょっと、いいんですかIS学園。

「専用機のデータと、機体名、そしてスペックデータですか」
「けっこう手に入れるの苦労したんだから。君とは巧くやれそうだしね」
「黛先輩、いつでも私に声をかけてください。冬姉ぇ絡み以外なら協力します」
「ニシシ、よろしくね」

 ここに同盟を結ぶことを決意しました。この先輩、抜けてそうに見えてけっこうやり手です。

「さて最後に、セシリアちゃんもコメントちょうだい」
「わたくし、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですわね」

 よく言うです。一夏へのコメント取りが始まってからブツブツ言っていたのはインタビュー対策でしょうし、さっきから手鏡で念入りに髪のセットをしていたのはおおかた写真対策でしょう。

「コホン、ではまず、どうしてわたくしがクラス代表を辞退したか―――」
「一夏に惚れたために辞退したと記載しておいて下さい」

 はいはい、長くなるから省略省略。

「なっ、な、ななっ……!?」

 おお~、蒸気機関車のごとく頭から湯気が出そうに真っ赤ですよ。はい図星確定。

「何、馬鹿なこと言ってんだよ千秋」

 ここでKY帝王一夏参上!

「いや、一夏こそ……」
「そ、そうですわ! 何をもって馬鹿といっているのかしら!?」

 あ~あ、オルコットさんぶっちゃけちゃった。しかし一夏の表情を見ると、そんなことすらわかってませんねこのKING OF 唐変木。

「だいたいにして、あなたは―――」
「はいはい、痴話喧嘩はそれくらいにして。写真撮るから三人並んで」
「えっ?」

 ああ、写真も撮るんですか。嫌だなぁ、オルコットさんと一緒とか。

「あ、でも、三人一緒だと真ん中の人が早死にしちゃうんだっけ。じゃあ、二人ずつ撮るから。セシリアさんと織斑くん。その後織斑兄妹での順で」

 お、いい具合に分かれましたね。

「じゃあ話題の専用機持ちのツーショットもらうよ。あ。握手とかしてるといいかも」
「そ、そうですか……。そう、ですわね」

 オルコットさん、超嬉しそうにモジモジしてますよ。なんだろコレ、無性に邪魔してやりたい。

「あの、撮った写真は当然いただけますわよね?」
「そりゃもちろん」
「でしたら今すぐ着替えて―――」

 これからナニをする気ですか、写真撮るだけですよ写真を。……ピカーン! 神からの啓示!

「時間かかるからダメ。はい、さっさと並ぶ」

 おっと、時間が無いです。神の啓示を皆に指示せねば。

「全員集まって。いい、先輩がシャッター切る瞬間に―――」
「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」
「え? えっと……2?」
「ぶー、正解は74.375でしたー」

 そうしてデジカメのシャッターが切られる瞬間、先生お願いします!

 諸葛孔明:今です!(カシャッ)

「何で全員入ってるんだ?」

 成功っ! してやったりです! オルコットさんと一夏のツーショット写真。見事に邪魔をしてやりましたです! 諸葛亮先生、ありがとうございました!!

「あ、あなたたちねえっ!」
「まーまーまー」
「セシリアだけ抜け駆けはないでしょー」
「クラスの思い出になっていいじゃん」
「ねー」

 全員で口裏を合わせておき、オルコットさんを完全に丸め込みます。

「う、ぐぐぐ……」

 苦虫を噛み潰したような顔をしているオルコットさん。ふふん、一夏とツーショットなんて十年早いのですよ。

「じゃ、次は千秋さんと織斑くんね」
「え? さっきのじゃダメなんですか?」

 一応私も入ってたんですけど。

「さっきのは話題の専用機持ちとその仲間たち。今回はクラス代表兄妹って感じで、一面飾る予定だからバシッとお願いね」

 い、一面ですか。十三面とかにしてもらえませんかね? しかも小枠で。

「ほらほら早く、明後日の一面の見出しは『コレが噂の織斑兄妹、その素性に迫る!』なんだから」

 もうそんな特集組まれてるんですか!? っていうかまだコメント一言しただけなんですけど!

「あ、安心して。足りない分はコッチで捏造しておくから」

 安心できる要素がヒトッ欠片も見当たらないのですが!?

「はいはい、お兄さんと二人で並んで。こう、もっと寄り添う感じに! 『頼りにしてます、お兄ちゃん』って感じを全面に出して!」

 む、無茶苦茶言ってくれますよこの先輩。第一に。

「一夏、あんたに頼れるところって……、どこ?」
「真顔で聞くかそれ! 何かあるだろ!?」

 頼れるところ、頼れるところ……。

「ああ! 私の家での生命線!」
「なんじゃそりゃ?」
「アンタが居なかったら誰が私のご飯作るのよ?」
「そこかよ!」

 それ以外に何があるっていうんですか? あ、後マッサージが巧い所ですか! それはこの場では言うことではありませんね。いろんな意味で。

「それじゃ、撮るよ~。95×23-6250÷25は?」
「え? えーっと………」
「1935ですね」
「せいか~い」

 諸葛孔明:今です!(カシャッ)

 …………諸葛亮先生、何てことをしてくれたんのですか。

「あちゃぁ、この写真は記事に載せらんないなぁ」

 オルコットさんが『孔明の罠』をお返しに発動させようと枠外から乱入してきた時に、偶然一夏と衝突。いや、もしかしたら一夏に衝突して私を枠外に押し出そうとしていたのかもしれません。

 しかしその目論見に反し、一夏がバランスを崩し転倒。勢い余ったオルコットさんは、そのままたたらを踏んで私の所へ。そして視界から消えた一夏を探そうと、ちょうど顔をオルコットさんに向けた瞬間でした。

 だいたいの方はお察しがついたと思います。こともあろうに私とオルコットさんがキスをしているシーンをカメラに収められてしまったのです。

「な、ななな、なんてことするのですオルコットさん!」
「そ、そそそ、それはこちらのセリフですわ織斑さん!」

 さ、最悪です! よりにもよってオルコットさんと!? 龍と虎、風神と雷神に例えられそうなこの人と!? しかもファーストだったんですよ!

「さ、最悪なのです。よりにもよって初めてをこの人と」
「さ、最悪ですわ。よりにもよってファーストがこの方なんて」

 ん? オルコットさんもファーストですか。英国人って、あんがい進んでない人は進んでないんですね。発育はともかく。

「ってな訳で撮り直し! ほら、もう一回並んで」
「イッテテ、もう一回ですか? ほら千秋。セシリアも大人くししてろよな」
「わ、わかったのです」
「い、言われなくてもですわ」

 結局撮り直しで写っていた私は、ちょっとうつむき加減で真っ赤になりながら一夏の袖を握っているポーズとなってしまいました。

 なにはともあれ、この晒し上げ。いえ、就任パーティーは十時過ぎで先生方の見回り直前まで続けられました。

 余談ですが、このパーティーの最中。箒ちゃんはずっと一夏を睨みつけるように見つめていました。箒ちゃんって、本当恋愛に不器用ですよね。



※  あとがき

 第二章スタートです。
 もっと早くに投稿できればよかったんですが、思ったよりリアルがいそがしくて
今になりました。

 はい、言い訳です。トトもの3やってる暇あんなら小説進めろよ。
 と、とにかく第一話。いきなり百合ってしまって申し訳ない。もうないから、ない予定ですから! あ、でも、需要があったらやるかも(オイ

 これからも頑張ります。応援お願いいたします!



[26388] <第二章>第二話 私的には……もうちょっと右を
Name: ゴリアス◆1198178c ID:3ea73b79
Date: 2011/04/02 16:10



「あー、疲れたー」

 部屋に帰ってきた私と一夏は、早々にベッドに倒れこみました。

「疲れたのは私も一緒、本当なら一夏をスケープゴートにして逃げたかったわ」
「勘弁してくれ千秋、そんなことされたら俺はあの大観衆の前で壊れてたかもしれないぞ」

 まあ確かに、私が止めに入ったのは一度や二度ではありませんでしたが。

「んぁ~、でも疲れたー。明日の授業とかエスケープした~い」
「そんなことしてみろ、千冬姉が寮に殴りこみに来るぞ」

 む、そうなっては私の平穏な生活に大きなヒビが。そして殴りこみにくる冬姉ぇ(鬼)の形相を想像して、ちょっとガクブルしてしまいました。

「た、確かにそうなりそうね。んじゃ、早く寝ようかな」
「おう、そうしろそうしろ。俺も寝るわ」
「そうだ一夏、久しぶりにやってよ」
「ん? ああ、アレか。いいぞ、少しだけな」

       ◇◇

(わ、私が一夏の部屋を来訪するのは正当だ)

 時刻は十時半。先ほどの就任パーティーを終えてふとテーブルを見ると、学生証が乗っていた。見ると千秋の物だ。時間も遅いし明日渡してやろうと考えたが、そのときある考えが浮かんだ。

(たしか千秋は一夏と同室ではなかったか?)

 その考えは加速し、どうせ明日渡すなら今日渡しても大差は無いだろう。そして少し小話がてら部屋に入って一夏の姿でも拝めれば僥倖だ。と、理由を付けてここにいる。

(大丈夫だ、私の理由は正当だ。私の理由は正当だ!)

 その言葉を心の中で繰り返し、急ぎ一夏の部屋へ向かう。

(この格好は変ではないだろうか? 一応浴衣なのだが、はしたない女と思われた入りしないだろうか? こんな時間に男の部屋へ行くなど。いや、私は千秋に忘れ物を届けに行くだけだ。故に正当だ!)

 自分の格好を見直し、再び思わぬ一夏の部屋へ急ぐ。そしてその角を曲がれば一夏の部屋まですぐの所で、対面から来た人物と鉢合わせた。

「あ、あら? 篠ノ之さん?」
「オルコット? どうしてここに……」

 ネグリジェ、と言うのだろうか? ゆったりとしたワンピースのようになっていて、所々が微妙に透けている。なぜだか裸でいるよりも官能的に見えるのはなぜだろうか。そしてよく見ると、その手には見覚えのある財布が。

「そ、その財布は、一夏の?」
「え、ええ。先ほどの就任パーティー会場にお忘れになったらしいので、不肖ながらこのわたくしが届けて差し上げようかと」

 とそのとき、私は本能的に感じ取った。この女の狙いを。

「ほほぅ、こんな時間にわざわざ。別に明日でもいいのだろう? なぜ今行く必要がある?」
「べ、別に、『善は急げ』と申しますし。こうしてお届けして差し上げることに、なにか不備がありまして?」
「む、特には無いが」
「第一にあなたこそ、どうしてこんな所にいますの? 篠ノ之さんのお部屋はもう少し先ではなくて?」
「わ、私は千秋が忘れていった学生証を返しに来た!……だけだ」

 やや声を大きくしてしまったが、慌ててボリュームを下げる。

「あ~らあなたこそ明日でもよかったんじゃなくって? 学生証なんて、すぐに必要なものでもないでしょう。その点お財布は明日すぐにでも必要なものでしてよ」

 くぅ、痛いところを突かれた。確かにそうだ。学生証は、別に早急に使うものではない。

「しかしオルコット、よく千秋のいる部屋にこんな夜遅くに行こうと思えたな?」
「なぁ!? 一夏さんと織斑さんは同じお部屋ですの?」

 知らずにいたのか。

「……篠ノ之さん、どうやらわたくし達は同じ目的の元に動いているみたいですわね」

 突如オルコットがそんなことを言ってくる。

「あ、ああ、そのようだな」
「でしたら、共同戦線と参りません?」
「共同戦線……だと?」
「ええ。わたくしには急な用は有れど織斑さんを通過する術は無い。その点あなたは……」
「なるほど。私が千秋を押さえ込んでいるうちに、オルコットは急用が有ると一夏に話をつけて部屋に入ると」
「ですわ」

 確かに効率がいい、それにお互いの利害も一致している。

「よし、それでいこう」
「よかったですわ。抜け駆けは許しませんことよ?」
「ああ、お互いにな」

 そうして私とオルコットは連れ添って一夏の部屋に向かう。そして扉をノックしようと思ったとき、なにやら声を感じ取る。私は素早くドアに耳を当てた。

「どうかしまして?」
「シッ! ドアに耳を当てて澄ましてみろ」

 すると、朧気ながら中の声が聞こえてくる。

『ンッ! アッ! い、一夏! す、すこし強すぎ……』
『あ、ああ、すまん。しっかしお前、こんなになってるじゃないか』
『あ、アンタのせいでしょ! 最近、いそがしかったから…ンッ! 溜まって、アゥ! のよ!』
『そうか、じゃあ少し本気を出して……』
『あ、待って。そこは、優しく……、アン、落ちそう』

 な、な、な、な、な!

「し、し、し、篠ノ之しゃん! な、中では何が起こっていましゅの!?」
「い、い、い、一夏ぁ!」

 おのれ不埒者ぉ! 妹とそのようなことをするなどとぉ!!


       ◇◇

「い、い、い、一夏ぁ!」

 ズバァン!

 突如鳴り響くドアが粉砕されるような音。何事!? 背中に乗っている一夏共々、即応できなくて現在絶賛アホ面中ですよ!

 そして乱入してくるは、顔を真っ赤にして涙目の箒ちゃん。

「え? 箒?」
「箒ちゃん!? なんで? 何でいきなり乱入してくるの?」
「何ではこちらのセリフだ、この不埒者がぁ! 兄妹でそのような。い、い、い、いかがわしいことぉ!」
「へ? いかがわしい?」
「私と、一夏が?」

 み、身に全く覚えの無い冤罪です。

「見損ないましたわ一夏さん!」
「セシリアまで?」
「オルコットさんも?」

 なにこのカオスコンビ。なんか目が血走って顔が真っ赤になっててちょっと怖い。

「ご兄妹で、そのようなことを! いけませんわ! 日本の風紀はどうなっていますの!?」
「そのようなって……」
「兄が妹にマッサージしちゃいけないの?」
「と、と、とうぜ……なに?」

 あれ? 箒ちゃんが固まってる。セシリアさんも呆けてますよ。

「だから、マッサージ。こう見えて一夏巧いんだよ」
「ここ最近千秋に迷惑かけっぱなしだったからな。そのお詫びも兼ねてな」

 一夏のマッサージは本当に気持ち良いのですよ。おかげでこのままでは風邪を引いていたかもしれない体調が、少しばかり回復しました。

 とりあえず一夏にはどいてもらって、上に手を組んで伸ばしてみると背中が突っ張らないのです。

「ん、あぁ~。気持ちよかった。腕は鈍ってないみたいね」
「お前だけじゃなくて、千冬姉にもさんざんやらされてるからな。そりゃ上達もする」
「そりゃ結構なことで」

 おっと、完全に二人を放置してしまいました。

「で、箒ちゃんにオルコットさん。いったい何事? っていうか、何の用?」

 彼女たちの言ういかがわしいこと、と言うのは見当がつきませんが。しかし何か用があってここに来たんですよね? ま、まさか夜這い!? ダメですよ箒ちゃん! 乙女の貞操概念をそんな簡単に捨て去っては! オルコットさんはもう真っ黒かもしれないですけど。

「今、わたくしに対して不適切なことを考えていらっしゃいませんでした?」
「滅相もない」

 む、冬姉ぇ並みのテレパスを発見です。イギリス代表候補生というのはテレパスの資質も備えるんですね。IS操縦者はテレパスの資質が最低条件なのでしょうか? だったら鍛えなくては!

「で、本当にどうしたんだよ? こんな時間に」
「そ、そうでしたわ! 一夏さん、こちら、あなたのお財布ではなくて?」
「ん? おお! 俺のだ! どうしてセシリアが?」
「パーティー会場で落ちていたのを見つけまして、失礼ながら中身を見させて頂きましたの。それで不躾とは思いましたが、こんな時間に参りましたわ」
「いや、すげぇ助かったよ。ありがとな、セシリア」
「そ、そんな。この程度のこと」

 あ~、なんかオルコットさんがトリップしてますよ。(棒読み)

「それで箒ちゃんも一夏に忘れ物を?」

 この馬鹿兄はどんだけ忘れ物してるんですか、今度から貴重品には紐付けて首から下げさせますかね?

「いや、私は千秋にだ」
「ほぇ? わたし?」
「そうだ。お前の学生証が一夏同様にパーティー会場に置き去りにされていてな。届けに来たのだ」
「あ、たしか先輩からもらったメモをポケットに入れるためにいったん出して、その後に……」

 しまったー。失態です。あそこに放置されていても問題は無かったでしょうが、でも見知らぬ人に拾われるよりも断然良いです。

「ありがとう、箒ちゃん」
「なに、礼には及ばん」

 そう良いながら優しげに笑う箒ちゃん。時々箒ちゃんがお姉さんに見えるから困りますよ。

「さて、では帰るとするか。オルコット、今日はもう遅い。お前も帰るだろう?」
「ええ、そういたしますわ。なにぶん、今日は疲れまして。今のも含めて……」

 最後の部分がよく聞き取れませんでした。

 しかし口に手を当てながら優雅に欠伸をするオルコットさん。一つ一つの動作が優雅で、ちょっと憧れます。まぁ、一番憧れているのはある一部なんですけど。

「っん! 失礼。では、わたくし達は失礼させていただきますわ」
「また明日、教室で会おう」
「ああ、おやすみ。箒、セシリア」
「おやすみなさい。箒ちゃん、オルコットさん」

 そう言って、箒ちゃんとオルコットさんは部屋から出て行きます。それを見届けると、私達もベッドに横になりました。

「んじゃ、おやすみ一夏。ありがとね」
「ああ、おやすみ千秋。明日も頑張ろうな」
「お互いにね」

 そう言って、電気を消します。今夜はいい夢を見られそうですね。

 ……………ちゃんと別々のベッドですよ?



※  あとがき

 遅くなりました!

 ようやく、ようやくトトもの3を攻略しました(オイ
 これで積みゲーは戦場のヴァルキュリア3だけだ!(マテ

 と、とにかく、今回の話は原作中の修学旅行辺先取りです。
 千冬姉が相手でもよかったんですが、今回相手は千秋になってもらいました。

 喘ぎ声に関しては想像です。想像ですったら想像です!



[26388] <第二章>第三話 私的には……ツンデレが多い気がする
Name: ゴリアス◆1198178c ID:3ea73b79
Date: 2011/04/04 23:40



「織斑くん、織斑さん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 朝。教室の席に着くなりクラスメイトに話を振られました。

「転校生? 今の時期に?」
「一応来てるってことだけは知ってたけど、代表候補生ってことだけしか」
「千秋、情報早いな」
「当然よ。私を誰だと思ってるの?」

 まぁ、黛先輩からの横流しですがね。

「あ、代表候補生ってことは知ってるんだ。じゃあ中国所属ってことは?」
「いや、そこまでは知らなかった」

 あの先輩の情報メモには、スペックや機体名しか書かれていなかったのです。確か……甲龍『シェンロン』って銘でしたね。七つ球を集めないと動いてくれないんでしょうか?

「ああ、球が、僕の大事な球が。って感じですね?」
「千秋、なに独り言しゃべってるんだ?」

 しまった。声に出てましたか!

「な、なんでもない。ちょっと考えごと」
「そうか」

 あ~、危なかった。くっだらないこと考えてたのバレたかと思ったのです。

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?」

 む、また出たですねセシリア・オルコット。ここ最近妙に私の周辺にいるのですよ。まあ、狙いは一夏でしょうけど。

「このクラスに転入してくる訳ではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 そしていつの間にやら接近を許していた箒ちゃん。

「中国代表候補生か。中国って言ったら、やっぱり思い出すなぁ」
「ああ、まぁな」

 一夏も同じ考えに至ったようで、二人してシミジミと思い出します。今頃どうしてるですかね?

「む? 誰のことだ?」
「ああ、俺達のセカンド幼馴染だよ」
「箒ちゃんが転校しちゃったすぐ後に入ってきた転入生でね、五反田くんと四人でけっこうよく遊んだのよ」
「ああ、懐かしいな」

 思い出すのは私よりも小さなツインテール。自分より長い髪が羨ましくて、よく結ったり解いたりして遊ばしてもらっていたのですよ。今頃どうしてるですかね。一夏のニュース見たら連絡くらいしてくると思ったんですけど。

「……一夏に千秋、昔のことは結構だが。今はそんなことを気にしている余裕があるのか? 来月にはクラス対抗戦があるというのに」
「そう! そうですわ、一夏さん。クラス対抗戦に向けて、より実践的な訓練をしましょう。ああ、相手ならこのわたくし、セシリア・オルコットが務めさせていただきますわ! なにせ、専用機を持っているのはまだクラスでわたくしと一夏さんだけなのですから!」

 こんのお嬢。わざわざ私達を見てから『だけ』を強調して言いやがったのです。

 でも専用機、確かに欲しいですよ。第二世代の『リヴァイヴ』や『打鉄』も当然魅力的ですが、自分専用の機体というのは男でも女でも憧れるものなのです。

「まあ、やれるだけやってみるか」
「やれるだけでは困りますわ! 一夏さんには勝っていただきませんと!」
「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」
「一夏、私がサポートするんだから、『また』負けましたなんて言ったら。今度こそどうなるか解ってるわね?」
「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せだよー」

 ちなみに布仏(のほとけ)さんが言ったクラスみんなが幸せというのは間違ってはいないです。

 優勝したクラスには優勝賞品として学食のデザート半年フリーパスが配られるのです。あの高くて手が出ない、しかし至高の一品とまで謳われたデザート『学食限定三層DXパフェ』も食べ放題なんですよ? これは燃えないわけがないでしょう! 常識的に考えて! JK!

 そんな話をしていると、いつの間にかクラス全員が一夏の周りに集まっていました。

「織斑くん、がんばってね!」
「フリーパスのためにもね!」

 いや、どちらかと言うとそっちがメインでしょう?

「今のところ専用機持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ!」

 ああ、そう言えばそうでしたね。四組も専用機持ちがいるんでした。名前も機体も、噂程度にしか聞いたことがないのですが、こんど黛先輩に聞いてみますか。手土産を持って。

 そして二組の専用機持ちさんには申し訳ないですが、今回が手持ち無沙汰になってもらいましょう。さすがにスペックデータを見る限りでは、今回一夏との相性は悪そうですから。

「――――その情報、古いよ!」

 あれ? 私の耳おかしくなったですか? それとも昔を思い出した反動? 今教室に響いた声が、昔聞いた幼馴染の声にそっくりだったんですけど……。

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 腕を組んで片膝を立ててドアにもたれかかっているのは、見紛うことなき私達のセカンド幼馴染。

「鈴……?」
「も、もしかして、鈴ちゃん? 凰 鈴音(ファン・リンイン)ちゃん?」
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 フッと小さく笑みを漏らしていますが、そんなこと私には関係ないです!

「鈴ちゃぁぁぁぁぁん!」
「んなぁ! 千秋!?」

 鈴ちゃんに向かってダーーイブ!

「鈴ちゃん! 鈴ちゃん! いつ日本に来たのよ! 言ってくれれば空港まで迎えに行ったのに!」

 鈴ちゃんにダイブして、そのままベアハグもかくやと言わんばかりに抱きついて頭に頬擦りをかまします。私が飛びついたのに倒れないとは、相変わらず鈴ちゃんは小さくても力持ちなのです。

「ちょ、ちょっと千秋! せっかく格好付けてたのに台無しじゃない! い、いいから、離れなさーい!」

 あ~このちっこい感じ、私でも頬擦りできる身長サイズ、そしてトレードマークのツインテール! やっぱり間違いなく鈴ちゃんだぁぁぁ!

「千秋! 千秋ってば! わかったから離し―――」
「おい」
「なによ!?」

 バシンッ! バシンッ!

 こ、この頭の痛み……。ハッ! 私はいったい何を!?

「もうSHRの時間だ。席と教室にもどれ」
「ち、千冬さん……」

 ふ、冬姉ぇ、いつの間に……。

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」
「す、すみません」

 ああ、鈴ちゃんが離れちゃった。まあいいか、十分に堪能したし。

 しっかし鈴ちゃん、相変わらず冬姉ぇが苦手なんですね。まあ冬姉ぇが鈴ちゃんを威嚇するのを止めれば、少しは収まるのかもしれませんが。

「またあとで来るからね! 逃げないでよ、一夏!」
「さっさと戻れ」
「は、はい!」

 おお、脱兎。あの敏捷性は肖りたい物ですね。昔から、鈴ちゃんはいろんな所で走ってましたからね。私と一緒になって男子に悪戯された仕返しをした時も、近所のおじさんの柿をもいじゃった時も。ふふっ、思い出したら自然に笑みがこぼれました。

「っていうかアイツ、IS操縦者だったのか。初めて知った」
「うん、私も初めて知った」

 一夏のそばまで戻ってきた私は、一夏の言葉に思わず同意してしまいました。鈴ちゃんの情報洩らしがあったとは、迂闊!

「……一夏に千秋、今のがさっき言っていたセカンド幼馴染というやつか?」
「い、一夏さん? あの子とはどういう関係で―――」

 などと私達が話し合っているのを聞きつけたクラス全員が。質問の集中砲火(バレージ)、質問の十字砲火(クロスファイヤー)、質問の散弾銃(ショットガン)。

 バババババババババババシンッ!

「席に戻れ、馬鹿ども」

 そして最後の火を吹いたのは、冬姉ぇの120mm戦車榴弾(出席簿)。着弾点にいた私と一夏は言わずもがな、周りに居たクラスメイト全員も同じように被弾しました。

(転校初日といい、どうもこのIS学園に入ってから懐かしい面々に会うのですよ。これが運命、いえ。これが人生ってやつですかね?)

 などと達観したことを考えていると、今日の授業と訓練が始まりました。



※  あとがき

 またしてもみじかぁいww
 ごめんなさい。区切りのいい所で区切ったらこうなりました。

 次回はもっと早いです、がんばります。

 足跡代わりに感想を残して頂けるとうれしいです。これからも頑張ります!



[26388] <第二章>第四話 私的には……ラーメンはトンコツ派
Name: ゴリアス◆1198178c ID:3ea73b79
Date: 2011/04/07 02:16
 午前中の授業、箒ちゃんとセシリアさんは全く授業に身が入っていませんでした。結果、山田先生に注意五回。冬姉ぇの指導(出席簿)、三回。これは午前中だけという括りなら快挙です。無論、悪い意味でですが。

「お前のせいだ!
「あなたのせいですわ!」

 責任転嫁、よくないです。

「なんでだよ……」

 愚兄の言い分も尤もですが、人には他人のせいにして自分の精神を保護しなければならないときがあるんですよ一夏。

 そう。調子に乗って食べ過ぎた後、ベッドに横になってまどろみの誘惑に負けてしまったあの日。その次の日の体重計に乗ったときといったら……。

「そうね、一夏が全面的に悪いわ」
「千秋まで!?」

 そう、我が目を疑いたくなるような数字を目にしたら……、他人のせいにでもしないとやってられないでしょう!

「解ってくれるか、千秋!」
「解ってくださいますのね、織斑さん!」
「ええ、解る。我が身のように解るわ!」

 まさしく文字通りに。

「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ」
「む……。ま、まあお前がそう言うなら、いいだろう」
「そ、そうですわね。行って差し上げないこともなくってよ」
「千秋、お前は?」

 体重計、コレステロール、高カロリー、脂肪、油ギッシュ、揚げ物、肉……。

「……………」
「千秋? どうしたのだ?」
「ふぇ!? な、なに!?」

 考え事の最中に、箒ちゃんに呼び戻されました。

「いや、だから昼飯。どうする? 俺達は学食行くけど」
「あ、ああ、うん。い、行く……」
「歯切れ悪いな、どうした?」
「な、なんでもない!」

 大丈夫、食べ過ぎなければ大丈夫!

 食堂までの道中この言葉を呪文のように繰り返し念じて、なんとか精神的外傷(PTSD)を和らげようと試みます。

 そして注文したのは和食ランチ。朝は何を食べたって? 今日は朝粥定食でしたけど?

 ちなみに一夏は日替わりランチ、箒ちゃんはきつねうどん、オルコットさんは洋食ランチでした。なんか代わり映えのない食事ですね。あ、関西ではきつねうどんの事をけつねうろんと言うらしいですよ? ト~リ~ビア~。

「待ってたわよ、一夏!」

 鈴ちゃんエンカウント!

「またもや鈴ちゃんに遭遇。一夏のコマンド、たたかう・じゅもん・とくぎ・にげる・おしたおす」
『最後のがおかしいだろ(ぞ・ですわよ・わよ)!』

 うむ、息の合った突っ込みです。

「まあ、とりあえずだ。そこをどいてくれ鈴。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」
「う、うるさいわね。わかってるわよ」

 鈴ちゃんが渋々といった具合に道を譲ります。その手に持っているのはラーメン。こういう学食のラーメンってあんまり美味しいイメージがないんですよね。

「のびるぞ」
「わ、わかってるわよ! だいたい、アンタを待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」

 理不尽かつ無茶苦茶なテレ隠してすね。

「それにしても鈴ちゃん久しぶりね。ちょうど丸一年、お互いに元気そうで何よりよ」
「そうね。千秋も元気そうでよかった。一夏も! たまには怪我病気しなさいよ」
「どういう希望だよそりゃ……」
「だって……、じゃないと看病とか行けないじゃない」

 私ぐらいにしか聞こえない声量で言っていますから、一夏は全く気にした様子もなくおばちゃんに食券を渡しています。こんの、鈍チン世紀末覇者め! 無想転生で葬り去ってやろうですかね?

「あー、ゴホンゴホン!」
「ンンンッ! 一夏さん? 注文の品、出来てましてよ?」

 ん? 箒ちゃんとオルコットさんがわざとらしく咳払いをしていますね。ああ、なるほど。まだ鈴ちゃんをちゃんと紹介していませんでしたね。

「向こうのテーブルが空いてるな。行こうぜ」

 私のトレイが出てきてから、ゾロゾロと民族大移動。あえて言いませんでしたが、今日も今日とて一夏の取り巻きは大勢居るのです。

「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」
「髪形変わってないけどまた結わしてもらっていい? スリーサイズに変化あった? ISの稼働時間どのくらい?」
「だぁぁ! 質問攻めにしないでよ。第一に一夏、アンタなにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」

 あ、やっぱりニュース見てたんですね。でも、その後に連絡がなかったのはどうしてなんでしょう?

「あ、ンンッ! 一夏に千秋。そろそろキチンと紹介して欲しいのだが」
「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方と付き合っていらっしゃるの!?」

 おやおや、箒ちゃんもオルコットさんもご立腹ですね。それにしてもオルコットさん、ずいぶんとトンチンカンなことを。

「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ」
「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。さっきも言っただろ? ただの幼馴染だよ」
「……………」
「? 何、睨んでるんだ?」
「なんでもないわよ!」

 そりゃ鈴ちゃんも怒るわよ。『ただの』幼馴染なんて言われちゃね。

「だから、ちゃんと紹介をしろ」
「? だから……」
「一夏ストップ、堂々巡りになりそうだから」

 このまま同じことを繰り返しそうな一夏を、慌てて引き止めます。

「別に私はいいんだけどねー」
「そう言わないで鈴ちゃん、ちゃんと紹介させてよ」

 鈴ちゃんはのびそうなラーメンを黙々と食べながら、我関せずを貫いています。

「えっとね。箒ちゃんが転校したのが小四の終わりだったでしょ? そのあと、小五の梅雨くらいに鈴ちゃんが転校してきたの。そんで、中学校二年の終わりまで一緒に居て。その後中国に帰っちゃったんだ。そんで一年ぶりの対面が今日って言う訳」
「なるほど、故にセカンド幼馴染」

 一夏的にはそう言うことらしいですね。まあ、私からすればファーストもセカンドも関係なく。幼馴染はすべからく幼馴染ですが。

「鈴ちゃん、前にも話したと思うけど。こっちが箒ちゃん。私達のファースト幼馴染で、一夏の通ってた剣術道場の娘さん」
「ふぅん、アンタがそうなんだ」

 ジロジロと遠慮なしに見る鈴ちゃん。負けじと箒ちゃんも睨み返していますねぇ。

「初めまして、これからよろしくね」
「ああ。こちらこそ」

 表面上は何も無いように挨拶をしている二人ですが、二人の視線が交わっている辺りでバチバチと音が鳴っている気がしますよ。ああ、なるほど。本能的にこの二人は相容れないと感じ取ったですか。

 さあ、今まさに決戦の火蓋が気って落とされようとしてます。睨みあう二人、視線と視線のオーケストラ。闘気と闘気のぶつかり合うワンダーランド。実況はわたくし、織斑千秋がお送りします。

「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰 鈴音さん?」

 おーっと、ここでオルコットさんの乱入だぁ!

「…………誰?」

 しかし鈴ちゃん華麗にスルー! オルコットさんの怒りも徐々に上昇中ぅぅ!

「なっ!? わ、わたくしはセシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの?」
「うん。あたし他の国とかに興味ないし」
「な、な、なっ………!?」

 完全上昇して頭の血管がプッチリと逝きそうなほど真っ赤になっているオルコットさん! その怒りを一身に受けながら完全に我関せずを貫いている鈴ちゃん! 両者まったくに譲りません!!

「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」
「そ。でも戦ったらあたし勝つよ。悪いけど強いもん」
「い、言ってくれますわね……」

 鈴ちゃんの『素で相手の神経逆撫で』が決まったー! これにはオルコットさんも手が出ない!!

「今の発言、どうなんでしょうか。解説の一夏さん?」
「いや千秋、解説ってなんなんだよ」

 ノリの悪い兄ですね!

「今繰り広げられている、鈴ちゃんvsオルコットさんの解説に決まってんでしょ」
「そういえば、お前昔っからプロレスとか好きだもんな」

 勘違いしないでください。プロレスが好きなんじゃありません、格闘技が好きなんです!

「ちょっと千秋! あたしをダシに楽しまないでよね!」

 おっと、鈴ちゃんに見つかってしまったので自粛しますか。

「ゴメンゴメン。ちょっと面白かったからつい……」
「千秋も相変わらずね。一夏もだけど」

 頬杖を付きながらあきれたようにため息をついている鈴ちゃん。

「そりゃ一年ちょっとじゃ変わらないよ」
「ううん。一年でも変わっちゃうもんだよ。色々……ね」

 ん? 向こうに帰ってからなにかあったんですかね?

「そうだ一夏! アンタ、クラス代表なんだってね?」
「お、おう。成り行きでな」
「ふーん……」

 ああ、鈴ちゃん。ドンブリ両手に持ってスープをイッキなんてはしたない。前々からレンゲを使えって言っているのに。本人曰く、『細々と女々しいからイヤ』らしいです。ダメですよ鈴ちゃん、そんなんでは意中の相手を振り向かせることは難しいですよ?

「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 む。顔を背けながらも視線だけが一夏をロックオンしています。これは鈴ちゃんの照れてるときの喋り方ですね。堂々と誘えばいいのに、まあそれができれば苦労はしませんか。

「そりゃ助か―――」

 ダンッ! ダンッ!

 うお、テーブルを叩く音×2! まあこの発言に反応する人物なんて、今の所二人しか思いつかない訳でして。

「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」
「あなたは二組でしょう? 敵の施しは受けませんわ」

 箒ちゃ~ん、オルコットさ~ん。淑女の嗜み、淑女の嗜み。顔がメッチャ怖いですよ~。ほ~ら、あっちのテーブルの子なんか。こっち見た瞬間に目を逸らしてカタカタ震えてますよ~。

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」
「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」

 はいはい、事実を改ざんしないように―――。って、前にもこの下りはありましたね。また『どうしても』を強調して言っていますし。箒ちゃん、そんなに一夏と一緒にいたいんですね。

 分かってあげてよ、一夏。

「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ。あなたこそ、後から出てきて何を図々しいことを―――」
「後からじゃないけどね。あたしの方が付き合いは長いんだし」
「そ、それを言うなら私のほうが早いぞ! それに、一夏は何度もうちで食事をしている間柄だ。付き合いはそれなりに深い」
「自宅で食事? それならあたしもそうだけど?」

 あー、懐かしいですね。一夏が疲れて帰ってきたときや、私が外泊していた頃。よく鈴ちゃんの実家の中華料理屋に食事に行ったものです。冬姉ぇはその頃もうIS操縦者として活躍していて、家には私と一夏の二人っきりでしたから。どちらかが欠けたり、一夏が疲れて帰ってくると。よく千円札一枚でご飯をタラフク食べさせてもらいました。

 小学校で問題や、ケンカ、仲直りを重ねて、いつしか幼馴染にして親友とも言える間柄になった鈴ちゃん。一夏とも最初はギクシャクしていましたが、時間というヤスリはデコボコした間柄も丸くしてくれるのですよ。五反田食堂と、鈴ちゃんの実家。この二つにはよくお世話になりました。主に家計と、私の食欲に対して。

「いっ、一夏っ! どういうことだ!? 聞いていないぞ私は!」

 そりゃ今言いましたからね。

「わたくしもですわ! 一夏さん、納得のいく説明を要求します!」

 そもそもあなたは幼馴染ですらないから、時間軸的に無理でしょう。

「説明も何も……幼馴染で、よく鈴の実家の中華料理屋に行ってた関係だ」

 あ~あ、バラしちゃった。面白かったのに。

 鈴ちゃんは優位に立ってた条件を破棄されて微妙にご機嫌斜めですし、対照的に箒ちゃんとオルコットさんはホッとした顔をしています。

「な、何? 店なのか? そうか……」
「あ、あら、そうでしたの。お店なら、別に不自然なことは何一つありませんわね」

 周りにいた女子一同も、『自宅で食事……』のらへんでビクリと肩を震わせて、『説明も何も……』の下りで胸を撫で下ろしています。まあ、有力物件に強力なライバル出現は頂けませんよね。

「そうだ鈴ちゃん、オジサン元気にしてる? あの頭撫で回しは勘弁だけど、また話したいな」
「え? あ、うん。元気―――だと思う」

 え? 元気、だと思う? それってどういうこと?

「鈴ちゃ―――」
「そ、そんなことより一夏に千秋! 今日の放課後って時間ある? あるよね? 久しぶりだし、どっか行こうよ。ほら、駅前のファミレスとか」
「あー、あそこ半年前に潰れたぞ」
「じゃ、じゃあ街道沿いの喫茶店とかは?」
「あそこも潰れちゃったよ。今はコインランドリーになってる」
「そ、そう……。じゃ、じゃあ学食でもいいから。積もる話もあるでしょ?」

 そりゃあ鈴ちゃんとゆっくり話もしたいし、向こうの話も聞いてみたいです。しかし今はちょっと時間的に押しているのですよ。

「―――あいにくだが、一夏は私とISの特訓をするのだ。放課後は埋まっている」

 待って箒ちゃん、なんで箒ちゃん限定で一緒に特訓? 私もいるでしょ、私も。

「そうですわ。クラス対抗戦に向けて、特訓が必要ですもの。特にわたくしは専用気持ちですから? ええ、一夏さんの特訓には欠かせない存在なのですわ」

 そしてオルコットさんもそこに便乗してきます。なにゆえオルコットさんまで? この間までクラス代表の座を奪い合っていた人物の発言とは思えませんね。

「じゃあそれが終わったら行くから、空けといてね。じゃあね、一夏に千秋」
「了解、一夏は無理矢理連行するよ」
「よろしく~」
「おい千秋!」

 ラーメンのスープを飲み干すと、鈴ちゃんは笑顔で手を振りながら食器を片付けて食堂を出て行きました。さて、これで特訓後にもお楽しみができましたね。

「一夏、当然特訓が最優先だぞ」
「一夏さん、わたくしたちの有意義な時間も使っているという事実をお忘れなく」
「動けなくなっても大丈夫だよ一夏。私がちゃんと引きずって連れてきてあげるから。あ、意識だけはしっかりしといてね。じゃないと気付け薬飲ませるから」
「俺には人権はないのか!?」

 え? 人権? 男のくせにISに乗れる不思議生命体が何をほざきますか?

 食事を終え、みんなで教室に戻る途中箒ちゃんにこっそりと耳打ちします。

「箒ちゃん、例の件は大丈夫?」
「無論だ。三年も新学期早々使う人はいないらしい。一夏より先にアリーナへ行き、整備を終わらせるぞ」
「了解。私、ちゃんと動かせるかなぁ?」
「大丈夫だ。今までも大丈夫だったではなか。人との訓練で、さらに磨きをかければいい」
「ありがと、じゃあまたね」

 放課後が、実は今日のメインイベントなのです。



※  あとがき

 はい、題名まったく関係ありませんね!
 すいません、完全に受け狙いです。すいません!

 じ、次回で千秋がISに乗ります! もうぶっちゃけます。てか、ぶっちゃてます。
 戦闘描写はかなり厳しいのですが、頑張って書きます! 応援してください。変
な点があったらバシバシ指摘してください。よりよく、より分かり易く書けるように頑張ります。

 次回の更新も速めにいきたいです。今期のアニメは『アリア』と『戦国乙女』が
一押し! でも『神のみ』も捨てがたい!



[26388] <第二章>第五話 私的には……代表候補生でもないのにがんばったよね?
Name: ゴリアス◆1198178c ID:3ea73b79
Date: 2011/04/10 00:27


「え?」

 ここは放課後の第三アリーナ。セシリアさんと仲良くピットから出てきた一夏は、ありえない物を見るようにこちらを凝視しています。

「な、なんだその顔は……おかしいか?」
「なによ一夏。馬鹿がさらに馬鹿みたいな顔になって」
「いや、その、馬鹿って言うか、おかしいっていうか―――」
「篠ノ之さんに織斑さん!? ど、どうしてここにいますの!?」

 オルコットさんの言うとおり、専用機持ちでない私達がここに居るのはおかしなこと。

 しかし、今の私達は違います。今この場において、一夏と対等に並べる状態に居るのです。

「どうしてもなにも、一夏に頼まれたからだ」
「そうよ。一夏の特訓のために、わざわざ申請しておいたのよ」

 現在箒ちゃんが纏っているのは、純国産量産型IS、第二世代『打鉄』。同じく私が纏っているのは、デュノア社製量産型IS、第二世代『ラファール・リヴァイヴ』。どちらもIS学園の保有する訓練機です。

「くっ、まさかこんなにあっさりと訓練機の使用許可が下りるだなんて……」
「あら、あっさりじゃないわよ。オルコットさん?」
「どういうことですの?」

 そりゃ、簡単に申請して許可されたら苦労しないのです。

「一夏に教えられるようになるまで、私も箒ちゃんもある程度練習は積んだわ。無論、一夏にはないしょでね。そして今日に合わせて申請書類を出して、教務課の人と顔を繋いでおいたんだから」
「そういうことだ。しかしこれでようやく近接格闘戦の訓練ができるな一夏。私と千秋に感謝すべきだ」
「お、おう。そ、そうだな」

 む、歯切れが悪いですね一夏。せっかく私が教務課の先生と骨を折って仲良くなっておいたというのに。

「では一夏、はじめるとしよう。刀を抜け」
「お、おうっ!」

 箒ちゃんが刀型近接ブレードを抜くと、一夏も“雪片二型”を展開します。両者ともに気合十分といった感じですね。

「では―――参る!」

 箒ちゃんが突っ込もうとした瞬間、横槍を入れる声が。一人しか居ませんね。

「お待ちなさい! 一夏さんのお相手をするのはこのわたくし、セシリア・オルコットでしてよ!」
「じゃあオルコットさんのお相手は私が勤めようかな!」

 一夏と箒ちゃんの間に入ろうとしたオルコットさんの射線に、無理矢理割り込んで妨害します。

「な!? お退きなさい!」
「全力でお断りするわ。せっかくの一夏と箒ちゃんの特訓タイム、お邪魔虫は入れさせない作戦なのでね」
「千秋! そっちの相手は任せるぞ! では一夏、参る!」
「よ、よし! 来い!」

 箒ちゃんも、手筈通りに一夏と切り結びあっています。

 これが私と箒ちゃんの立てた作戦。どちらか一方が一夏の相手をして、もう一方がオルコットさんの相手をする。

「いいですわよ。先にあなたからお片付けしましょう。ではわたくしと、ブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で踊りなさい!」
「訓練機だからって、甘く見てると痛い目見るわよ!」

 両手にマシンガンを展開し、オルコットさんと対峙します。

「いきますわよ? お覚悟はよろしくて?」
「いつでもどうぞ? とでも言うと思った!?」

 先手必勝です! 両手のマシンガンをオルコットさんにぶちまけます! しかしオルコットさんは素早く射線から回避、お返しとばかりにBTライフルを打ち込んできました。

「っと!」

 こちらも射線から回避し、次の攻撃をと思った瞬間にロックオン警報。素早く機体を右に走らせると、私が居た場所を三条のレーザーが通り過ぎていきました。

「あら? ずいぶんと余裕がありますのね? 戦いはターン制ではなくってよ?」
「そう、だったわね!」

 いつの間にか上空に居たオルコットさん。再びマシンガンが火を噴き、オルコットさんへ。しかしISのハイパーセンサーは弾丸の動きすら見えているように、優雅に回避されます。そして返されるのはライフルとビットレーザーの雨霰(あめあられ)。

 地上に居ては逃げ場がなくなると判断した私は、即座に空中に回避。オルコットさんに肉薄するようにマシンガンを打ちまくります。

「ずいぶんと、空中制動がお上手なようで」
「伊達にリヴァイヴの制御理論を暗唱できるほど読んでないわよ!」

 私の周りを飛び回るビット、打ち続けられるビットレーザーを掻い潜り、オルコットさんに肉薄します。

「甘いですわよ!」

 その直後ビットの収納されていたスカートのような所から射出される弾道弾(ミサイル)。

「甘いのは、そっちぃ!」

 しかしそれを読んでいた私は、ミサイルを迎撃。爆煙が晴れる前にそこから飛び出し、すぐ目の前に居るはずのオルコットさんに向けて銃を……。

「あ、アレ?」

 しかしそこにオルコットさんの姿はなく、直後下から直撃するレーザーライフル。

「んなぁっ!?」
「だから甘いと申しましたでしょ?」

 慌てて視線を下げると、そこには地面と平行に私に銃口を向けているオルコットさん。ハイパーセンサーで確認すると、私を取り囲むようにビットが配置されているのです。

「さあ、踊りなさい。円舞曲を!」

 こうなっては攻撃なんかできるわけがないのです。すぐさまアクロバティックな反転。そして宙返りをするような制動で、なんとか三発もらっただけで包囲を突破することができたのです。

「あら? 中々お上手ですこと。今ので沈めるつもりでしたのに」
「お褒めに預かり、恐悦至極っと」

 お次に展開したのはロケットランチャー。総弾数六発しかないので、ここぞという時のみに使いたかったですが、贅沢を言っていられる状況ではなくなってしまったのです。

「今度は度肝を抜かせてもらうのですよ!」

 六発を全弾発射(フルバースト)。しかしそのランチャーも、迎撃され、回避され、残り一発も目の前で爆散されられました。

「こんなものを単発で打っても当たりませ―――」

 そんな声が聞こえた瞬間、爆煙によって身を隠しながら至近距離まで接近していた私は大型ライフルを展開。銃身を煙の中に突っ込んで、オルコットさんに突き当てます。

「っ!?」
「ゼロ距離だったら、回避のしようもないのですよ」

 ライフル弾は十五発。いかに第三世代とはいえ、この距離で食らえばただではすみません。リコイルでブレないように脇を閉めて、リロード準備。ここまでで、約一秒。

「くらっ―――」

 しかしその一秒の間に―――、

 ズガッ!

「んなっ!?」
「油断大敵、でしてよ?」

 オルコットさんは私の背後にビットを配置、私と同じようにほぼゼロ距離からレーザーをこちらに打ち込みました。シールドエネルギーがかなり消費されています。

 そして、先ほどとは逆転して。私の銃口はオルコットさんから逸れて明後日の方向へ。オルコットさんのライフルは、真っ直ぐに私の顔面に突き付けられています。

「まだ続けますの?」
「ま、参った。のです」

 あ~あ、負けちゃったのですよ。




 一夏の訓練も終わって、ピットに戻ってきた私とオルコットさん。一夏と箒ちゃんは別のピットに戻っていった。む、今日は二人っきりで居ることが多いですね。

「織斑さん、ISの操縦時間はどのくらいですの?」

 そして更衣室で着替えをしていると、オルコットさんがロッカー越しに尋ねてきました。

「ざっと十二時間って所かしら。荒削りの技能ばっかりでイヤになるわ」
「あら、そんなことはなくってよ? わたくしの包囲配置のビットから三発しか受けずに逃げ切った空中制動、最後のロケットランチャーを囮に使った弾道計算とタイミング。どれもお見事でしたわ」

 おっどろいた~。オルコットさんが私のこと褒めてますよ。ISのこととなると、かなり紳士というか熱心というか。

 しかし、ランチャーを囮に使ったのバレてたんですね。それであんなこっちの狙い通りに目の前で爆発を。

「ありがと。でも結局勝てなかったけどね」
「勝ち負けではありませんわ。今回の勝ち負けは機体性能の差と操縦時間の差が問題であって、もしも織斑さんが第三世代を使っていたらわたくしとてもっと苦戦していましたもの」

 そこで負けるとは言わないのが、彼女なりの意地とかプライドなんでしょうね。

 近づいてくる気配を感じて横を見ると、すでに制服に着替え終わったオルコットさんが立っていました。

「もっとお互いに精進いたしましょう。あなたでしたら、いずれは国の専属IS乗りになることもあるかもしれませんわ。お先に失礼」
「ええ、お疲れ様。オルコットさん」

 優雅に髪をなびかせながら背中を向けたオルコットさんでしたが、そのまま歩み去るのかと思ったら急にピタリと立ち止まりまってこちらに向き直りました。

「織斑さん、わたしくセシリアですわ」
「? 知ってるけど?」
「ですから、オルコットではなく。セシリアと呼んでくださいな」

 ? ようは、セシリアって呼べばいいのです?

「わ、わかった。じゃあお疲れ様ね、セシリア」
「ええ。お先に失礼、千秋さん」

 そういって、今度こそ髪をなびかせながら更衣室を出ていきました。なんだったんですかね?



※  あとがき

 な、何が起こったんだ。
 気が付いたらセシリアと千秋が仲良くなっている、だと?

 二人は永遠のライバル、巨VS貧の最前線でいてもらおうと思ったのに。

 と、いうわけで。セシリアと千秋の仲を取り持ちつつ、IS戦闘シーンです。まだ
まだ幼稚な文面ですが、分かりにくい点や不明な点などがございましたら、バシバ
シ感想のほうへお願いします。

 皆様の感想お待ちしております。これからもご支援よろしくお願いいたします。



[26388] <第二章>第六話 私的には……女の子との約束は地球より重い!
Name: ゴリアス◆1198178c ID:3ea73b79
Date: 2011/04/12 00:50



「と、いう訳だから、千秋ゴメン。部屋代わって」
「うん、ゴメン。どんな訳かわからないから、とりあえず原稿用紙一枚以内にまとめて明日提出してくれるかな、鈴ちゃん?」

 現在ここは寮の部屋。夕飯も終わり、一夏に淹れさせたお茶を飲んでいるときに突然の来客。珍しく私が出ると、鈴ちゃんが立っていました。

 とりあえず私が部屋に招き入れると、なぜか足元にはボストンバッグ。なんの用かと尋ねると、いきなり先ほどの台詞をのたまいましたのです。

「ほらぁ、千秋も実の兄とはいえ男と一緒の生活ってのは寛げないでしょ? だからぁ、あたしが代わってあげようって話」
「そうねぇ。鈴ちゃんの心遣いは嬉しいんだけど、超杞憂だから大丈夫だよぉ?」
「またまたぁ、千秋ってば昔から無理する癖があるから。大丈夫、私と一夏ならうまくやれるからぁ」
「いやいや、本当に大丈夫だから。鈴ちゃんこそ、こんな野獣と二人っきりにしたらペロリと頂かれちゃうよぉ?」
「……………さっさと代われって言ってんのよ織斑 千秋」
「……………お断りですよ凰 鈴音」

 メンチの切り合い。昔から譲らない所は譲らない。そうやって来ましたし、これからもそうやっていきます。そう、相手がたとえ親友であろうとも!

「鈴」
「なによ一夏」
「荷物ってそれだけか?」
「そうよ。私はボストンバッグ一つあればどこへでも行けるからね」

 ありえないくらいのフットワークの軽さですよ。女子の旅行荷物がボストンバッグ一個? どんな服をチョイスして、どんな化粧品の詰め方をすればそうなるんですか。私なんか(以下略)。

「とにかく、今日からあたしもここで暮らすから」
「丁重にお断りしますよ鈴ちゃん。“親しき仲にも礼儀あり”」
「“三日寝食を共にすれば兄弟と思え”とも言うわよ?」
「初耳だけど」
「私が今考えたからね」

 くっ、危うく騙される所でした。やはり国籍が違うと、その国独特のことわざでもあるのかと一瞬疑ってしまうのです。そういえば、昔一回騙された事がありましたね。

「ともかく代わってよ千秋。あたしは一夏と約束があるんだから」
「約束?」

 これこそ初耳ですよ? 一夏はそんなこと再開してから一言も言ってませんでしたから。

「ねえ一夏、約束覚えてる?」
「え? 約束? 約束って言うのは……」
「う、うん。覚えてる……よね?」

 こ、この流れ……、鈴ちゃんの恥ずかしげな表情。一夏、アンタいったい何を約束したんですか!?

「えーと、あれか? 鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――」
「そ、そうっ。それ!」
「―――奢ってくれるってやつか?」

 鈴ちゃんが、一夏に毎日酢豚を奢る? なんですかその約束?

「…………はい?」
「だから、鈴が料理できるようになったら、俺にメシごちそうしてくれるって約束だろ?」

 絶対に違いますね。さっきの鈴ちゃんの表情、毎日酢豚をごちそうという勘違い。ここから推測されるのは……。

「いやしかし、俺は自分の記憶力に感心―――」

 パアンッ!

 小気味良い音が部屋に響きました。見ると、鈴ちゃんが怒りに震えながら一夏をひっぱたいています。

「え、えーと……」

 対する一夏は、何は起こったのかわからないと言ったふうに呆けています。

「ちょっと鈴ちゃ……」
「最っっっ低! 女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けないヤツ! 犬に噛まれて死ね!」

 それだけ叫ぶと、鈴ちゃんはバッグをひったくってドアをぶち破る勢いで出て行きました。

「鈴ちゃん! 待って!」

 慌てて追いかける私、しかし部屋を出る前に一夏に振り向いて。

「豆腐の角に頭ぶつけて死ね!」

 それだけ言い放って、鈴ちゃんを追いかけます。



「鈴ちゃん待って!」

 寮の出口、そこで鈴ちゃんはようやく止まってくれました。目には涙を溜めて、今にも大泣きしそうなほど顔を歪めています。

「ち、ちひゃき、な、なにみょ!」

 怒りと悲しみで顔が真っ赤になっていますし、呂律も回っていないのです。

「さっきの一夏との約束、本当だったら一夏のお嫁さんになるって約束だったんですね?」
「!? ど、どうしてアンタが知ってんの! ま、まさか一夏のヤツ……」
「違うよ。私がかってに推測して、今確認したの」

 それだけ言うと、壁にもたれかかります。鈴ちゃんも走るのに疲れたのか、もう移動しようとは思わないようです。一緒になって寮の玄関近くの壁にもたれかかって、反対側を見つめていました。

「一夏と本当にした約束はね、『料理が上達したら、毎日あたしの酢豚を食べてくれる?』って約束だったのよ」
「それって……」

 日本的に言うと、『毎日私の作った味噌汁を……』ってやつですよね。大胆な。

「そう、あたしったら本当に嬉しくてさ。料理の腕も、かなり上達したんだよ? でも、等の本人が忘れてたんじゃ……」

 確かに。約束というものは本人と約束した人間、両方が覚えていないと成立しません。それ故に、忘れないために、約束した証に誓約書と言うものが存在するのですから。

「あたしが馬鹿だったのかなぁ。覚えてるかどうかの約束にムキになって、一夏のことひっぱたいちゃって」
「そんなことないよ。忘れた一夏が悪い! これは絶対」
「千秋」
「あの馬鹿、女の子に不必要に優しいんだから。そういう感じな所もしっかりと覚えてなさいよね。まったく!」
「千秋は本当に変わらないね。一年経っても。ううん、たぶんこれから先ずっと」
「当然! 私はいつまでも、“この”織斑 千秋よ。鈴ちゃんだってそうでしょ? 鈴ちゃんはいつまでも、“今の”凰 鈴音でしょ?」
「そっか。そうだよね」

 鈴ちゃんは少しだけ明るい顔つきになって、バッグを担ぎなおしました。

「うん。少し元気でた。ありがとね、千秋」
「幼馴染で親友が落ち込んでたら助けるでしょ、普通」
「……千秋が親友でよかったかも」
「あら? 今頃気づいたの?」

 そう言いあって、お互い同時に吹き出しました。

「でも、一夏への恨みや怒りが消えたわけじゃないからね?」
「それこそ断然OKよ。あの馬鹿には一度灸を据えないといけないからね。女の子との約束が、いかに重要なものか教えてあげて」
「千秋って一夏には容赦ないよね」
「あの愚兄には、いつもひどい目に合わされてるのですよ」

 入学前から、今まで。何度トラブル&厄介ごとに巻き込まれたか。箒ちゃんとの特訓にしても、セシリアとのケンカにしても、クラス代表補佐になったことも。やばいのです。思い出したらむかっ腹が立ってきました。

「あはは、千秋の地の口調。変わってないんだね」
「……そう簡単に変わったら苦労しないわよ」

 私との古い付き合いのある女子は、たいていこの口調を知っています。とは言っても、箒ちゃんと冬姉ぇ、鈴ちゃんと蘭ちゃんくらいですかね? にしても、少し恥ずかしいのです。

「さて。千秋の変わらない所も見れたし。あたしは自分の部屋に戻るわ」
「うん。ちゃんと最初に割り振られた自分の部屋に戻ってね?」
「ほんと、千秋ってしっかりしてるわ。ここは分かってても目をつぶるべき所じゃないの?」

 やっぱりでしたか。

「じゃあね、千秋。おやすみ」
「おやすみなさい鈴ちゃん。クラス代表戦、私達は一夏を存分に鍛え上げるから」
「わかったわ。それじゃあ、あたしは約束を忘れられてた恨みを晴らすべく、全力でボコボコにするからね」

 そう言って、得意げに笑った後。私たちの部屋とは違った方へ歩いていきました。

 では私も寝ますかね。とりあえず、部屋で寝ているであろう一夏に垂直落下エルボーをかましておきますか。



 んでもって翌日。いつもどおりに箒ちゃん、セシリア、一夏、私で登校すると。生徒玄関を入ってすぐの廊下になにやら人だかりが。

 一夏が女子集団への特攻をパスしたため、私と箒ちゃんとセシリアで人混みを抜けると、そこには大きく張り出された一枚の紙。題名には、デカデカと『クラス代表対抗戦日程表』と書かれています。

「ほほぅ、もう張り出されているのか」
「わたくし達のクラスは? 一組と最初に当たるのはどこのクラスですの?」
「ちょっと待ってよセシリア。えっと、アレは二年でこっちが一年だから……。ウソ?」
「む、見つけたのか千秋……。なに?」
「あら? どうかしまして……。まあ!」

 全員が同じ位置に視線を固定して、本気で驚きました。

「あ、すいません。ちょっと、通して……。お、居た。千秋、何なんだこの人だかりは?」
「一夏!」
「お、おう、なんだ!?」
「今日からマジに特訓よ。本気で、全力で!」
「だから何を言ってん……え?」

 一夏も気づきましたね。そう。今回のクラス代表対抗戦、最初の対戦相手は二組。すなわち、

「最初の対戦相手、鈴ちゃんよ」

 昨日宣言したとおりになってしまったのです。



※  あとがき

 更新遅くなってしまい申し訳ありません。
 ちょっと多忙につき、更新スピードが下がってしまいました。

 ついに鈴との一悶着です。あと二話~三話で一巻終了となります。がんばります、
色んな意味で!

 皆様の感想お待ちしております。これからも応援よろしくお願いいたします。



[26388] <第二章>第七話 私的には……IS初勝利!
Name: ゴリアス◆1198178c ID:c3f2b8ad
Date: 2011/04/14 23:03


 季節も移ろいで五月。そろそろ葉桜が目立つ時期となりました。

 あれから数週間が経過し、鈴ちゃんの機嫌も日を追うごとに悪くなっていきます。理由を聞いてみたら、『一夏がアレから謝りに来ない』かららしいのです。

 私から一夏に忠告してもよかったのですが、なんか面白そうなのでそのまま放置しておいたのです。そして、今現在の私の状況はといえば……、

「待て千秋! どういうことか説明してもらうぞ!!」
「千秋さん! 抜け駆けは許しませんわ! きっちりと納得のいく説明を要求します!」
「だ~か~ら~! 私はなんにもしてないっての!」

 鬼ごっこをしているのです。

 鬼は『打鉄』仕様の箒ちゃんと、『ブルー・ティアーズ』仕様のセシリアです。無論捕まれば鬼の交代程度では済まされず、刀型近接ブレードの斬撃やBTライフル“スターライトmkⅢ”の射撃が待っています。死んでも逃げ切らねば!!

 事の発端は特訓開始前。一夏に激を入れようと更衣室に向かったとき、たまたま一夏の着替えを見てしまったことが発端で。その後アクシデントを重ねて、なぜか“私を半裸で押し倒している一夏”のシーンを箒ちゃんとセシリアが目撃。

 無論箒ちゃんとセシリアは一夏に制裁を加えようとしましたが、気が動転していた私は何故か一夏を保護。結果、箒ちゃんとセシリアに追い掛け回され。整備が完了していた『ラファール・リヴァイヴ』で逃亡中に、同じく『打鉄』と『ブルー・ティアーズ』で追撃をされています。

 おそらく、一夏が私を押し倒した→私が一夏を庇った→一夏と私は同意の元でああなった。という方程式が出来上がったのではないかと推測されます。以上、現実逃避終わり!

「停まりなさい、と言っているでしょう!」

 突如ビットから射出される二条のレーザー。

「納得のいく説明を、しろ!」

 そしてそれに合わせるように繰り出される、箒ちゃんの斬撃。回避は……、不可能!

「だから私は無実だって……、言ってるでしょ!」

 ロケットランチャーを呼び出し(コール)して、箒ちゃんの目の前。地面に向けて発射します。土煙で一瞬箒ちゃんの視界を奪った後、向かってくるレーザーをギリギリで回避。再び逃走なのです。

「くっ、姑息な手段を!」
「よっぽど説明したくない事情がありますのね!」

 再び鬼気と襲ってくる二人、襲い来るレーザーの雨を回避し続け箒ちゃんの斬撃を避け続けます。

「箒にセシリア、千秋も! ケンカはやめろ!」

 おっっっっっっっっせぇぇぇぇぇぇぇです!

「遅い一夏! アンタのせいでこうなったんだから、ちゃんと収拾しなさいよ!」

 私と箒ちゃん達の間に割って入ってきた背中に罵倒を浴びせますです。

「いやスマン、着替えに手間取った。とにかく、箒にセシリア! 俺と千秋は疚しいことなんかしていない!」

 よし、これで箒ちゃん達も少しは大人しく……。

「ほほぅ、一夏。貴様千秋の味方をするというのか」
「見損ないましたわ一夏さん! ご兄妹で、は、は、は、ハレンチを!」
「これはもう、叩いて矯正するしかないな」

 事態悪化!?  なにこの状況、結果的に私も矯正対象に入ってます!?

「一夏、どうにかしなさい!」
「こ、こりゃどうにもならん! とりあえず、いったん戦闘不能にして話を聞かせるしかないぞ?」
「結局力押しですか……。だぁぁぁ! 箒ちゃんにセシリア、悪く思わないでよ!」

 一夏は“雪片二型”を、私は大型ライフルをそれぞれ展開。対する箒ちゃんとセシリアの陣営も同じような装備を展開しています。

「ゆくぞ一夏、千秋!」
「一夏さん、千秋さん。お覚悟はよろしくて?」
「くそっ、千秋。援護を頼む!」
「言われなくても!」

 一夏と箒ちゃんが切り結びそのまま鍔迫り合いを始めますが、その動きが止まった一夏をセシリアが狙い打ってきます。すかさずその照準の合わせる時間を潰すべく、私もライフルでセシリアを牽制。

 一夏との鍔迫り合いを一度解いた箒ちゃんがこちらに向かって突進してきましたが、一夏が横からその突進を妨害。至近距離からライフルを構えた私に向かって、セシリアが“ブルー・ティアーズ”四機による一斉掃射で攻撃を中断させます。

 まさしく一攻一守、目まぐるしい攻防が続きました。

『一夏、このままじゃらちが明かないわよ』
『ああ、そうだな』

 プライベートチャンネルで一夏とひそひそ話なのです。

『こうなったら先に潰す方を決めましょう。どっちを先に潰す?』
『潰すって、言い方が物騒だな』
『いいでしょ別に。それで、どっちにするの?』
『………わかった。じゃあ箒にしよう。前にセシリアは俺の“単一仕様能力(ワンオフアビリティ)”を見てるから警戒されてるけど、箒は真直で見るのは始めてのはずだ。シールドをゼロにすれば戦闘不能になるからな』
『わかった。それでいきましょ。援護は任せて』
『おう、セシリアは押さえつけといてくれ』


       ◇◇

『篠ノ之さん、このままでは硬直状態になりますわよ』

 こちらが息を整えているときに、オルコットからのプライベートチャンネルが入る。

『しかし向こうの連携を破る手段がない。せめてどちらかでも落とせれば』
『でしたら、千秋さんを落としませんこと?』
『千秋をか?』
『ええ。正直、一夏さんの零落白夜、“単一仕様能力”は強力ですわ。しかし、接近を許しさえしなければ大丈夫ですの。まずは千秋さんを戦闘不能にし―――』
『なるほど、残った一夏を二人で片付けるのか』
『それがもっともシンプルな戦略ですわ』

 確かに。一夏の“単一仕様能力”は厄介だ。しかしオルコットの機体との相性の悪さは既に証明されている。射撃武器のない『白式』では、距離を詰めねば勝ち目はない。しかし今回は私が居る。オルコットに近寄ることはまずできまい。

『よし、それでいこう。千秋は私が仕留める。オルコットは―――』
『分かっていましてよ。一夏さんは絶対に近づけさせませんわ』
『よし、行くぞ!』


       ◇◇

「一夏。エネルギー残量とシールド残量だけには十分に注意してよ?」
「わかってる。さっきからの攻防で、まだ少しも削られてない」
「オルコット、一気にケリをつけるぞ」
「ええ、わかっていますわ篠ノ之さん。ミスは許しませんわよ」

 四者四様に構えている状態です。そして、一番に動いたのは箒ちゃんでした。

「参る!」
「いくぜ!」

 それに反応して一夏も動き出します。

「させませんわ!」
「それはこっちの台詞!」

 さっきの硬直状態から一気に乱戦状態へ。箒ちゃんが向かってくる一夏を振り切ろうと空中を飛び回り、その一夏の動きを止めようとセシリアがビットとライフルを乱射、しかしその乱射の照準をブラすために私もセシリアを追いながらの攻撃、その私を追ってくる箒ちゃん。

 見事に繋がったのような感じですが、はたから観ればそれは空中での大乱戦。誰が誰を狙っているのか、もはや分からなくなりつつあるような感じです。

「くっ!………一夏!」

 目線だけで一夏にサインを送ります。一夏なら、気づいてくれるはず。

「っ!」

 途端に、一夏が急反転。セシリアを目指します。

「読んでいましたわよ!」

 しかしそれを読みきっていたセシリア。一夏へと照準を定めると、ライフルを続けざまに発射。一夏も射線から回避するために急な空中転回や急制動を繰り返しています。これではセシリアに近づけないのです。

「篠ノ之さん! 今ですわ!」
「言われなくても!」

 ここぞとばかりに急加速で突っ込んでくる箒ちゃん。このリヴァイヴには近接戦用の装備はインストールされていないんですよ!?

「マ、マシンガン! こぉんのぉ!」

 距離が近すぎます! とっさにライフルを収納(クローズ)、マシンガンを呼び出し(コール)します。何度も練習してきましたが、とっさの時には名前を呼ばないとイメージが追いつきません。しかし、武装の名前を叫んでしまっては。

「甘い!」

 相手にとっては手の内が見えているもいい所。距離を若干取られ、私を中心に円を描くように接近してきます。これでは狙いが定まらないのです!

「くっ! チョロチョロと!」
「銃に頼っているからそうなるのだ! 戦士なら、腕っ節で語れ!」

 ある程度の距離まで詰めたところで、箒ちゃんが急速にこっちに突っ込んできます。手には刀型近接ブレード。一太刀食らってもシールドエネルギーはたいしたことありませんが、距離を詰められて連続攻撃されればあっという間にこっちのエネルギーはゼロです。

「まずは一太刀!」
「くぅ!?」

 手に持っていたマシンガンを投棄、若干シールドは削られましたがその空いた両手で箒ちゃんの刀に掴みかかりました。

「なぁ!?」
「肉を切らせて骨を絶つ。一夏、後は任せましたよ?」

 そう、この一瞬が欲しかったのです。この一瞬のために一夏をセシリアにぶつけて、私は苦手な箒ちゃんとの一騎打ちに望んだのです。

「ああ、よくやったぞ千秋!」

 一夏の方に目を向けるまでもなく。金色の光、“単一仕様能力”状態の一夏がこちらに向かってきます。セシリアは止めるべくライフルを乱射していますが、一夏の“雪片二型”に切り裂かれダメージを与えられません。

「すまんな、箒!」

 一夏の“零落白夜”で切り裂かれた箒ちゃんは、戦闘不能となり地面へ落下。ISを装着しているから大丈夫なのです。そして、残ったのはセシリアだけとなりました。

「まだ続ける? 言っておくけど、私も一夏も容赦はしないよ?」
「セシリア、おとなしく降参してくれ」
「降参ですって? わたくしはセシリア・オルコットでしてよ。わたしくに後退はありえませんわ!」

 あんたはどこぞの世紀末覇者ですか!? しかし、セシリアが引かない以上。こっちも交戦するしかありませんね。

「参りますわ!」

 そして“スターライトmkⅢ”と、“ブルー・ティアーズ”をこちらへ向けてきました。

 結果は、あえて言う理由がありますかね?



※  あとがき

 え~と、第二回ISバトルとなりました。
 分かりにくいと思います、突っ込み所もあると思います。どんどんして下さい。
できうる限り最速で直します!

 今回、千秋のISバトル初勝利となりました。一夏は箒相手に何度か一本とってい
るでしょうが、千秋は今回が初勝利です。題名見れば分かりますよね、すいません。

 次回も早く更新できるようにがんばります、応援よろしくお願いいたします!



[26388] <第二章>第八話 私的には……私にも愛を―――
Name: ゴリアス◆1198178c ID:c3f2b8ad
Date: 2011/04/18 12:12


「うう、納得いきませんわ」
「うう、一夏め」
「何で俺限定なんだよ」

 結果的に言えば、私がセシリアをかき回して一夏が“零落白夜”で仕留めました。けっこう簡単に言いましたけど、それでも一夏のエネルギーギリギリまで粘られましたから流石は代表候補生ですね。

「まあまあ二人とも、早く武装解除してお風呂でも入ろうよ」

 そう言って、第三アリーナAピットを開放。私と箒ちゃんは、一度ISを解除して整備班に報告と整備の依頼をしないといけないのです。私はコネがありますけどね。

「待っていたわよ一夏!」

 開放停止、閉鎖開始。その操作をした瞬間、開きかけだったピットの扉が瞬時に閉まりました。

「ふぅ、疲れてるんですかね?」

 ISの腕の部分を開放し、目頭を軽くつまみます。

「いや、千秋。私たちにも同じものが見えたぞ?」
「っと言うか、今の凰さんですわよね?」
「って本物!?」

 再び開放作業開始、そして中を見ると先ほどと同じように腕組みをしたままの鈴ちゃんが仁王立ちしていました。あれ? ちょっと涙目?

「り、鈴ちゃん。ご、ごめん! いきなりだったからつい……」
「つい!? ついであたしの幼馴染は親友を放置して締め出すわけ!?」
「いや、だからごめんね?」

 近づいて、とりあえず両掌を合わせて頭を下げます。ISに乗ってるから見下ろす形になっていますが、それでも誠意は伝わったはずなのです。

「それはそうと、貴様どうやってここに入ったのだ!?」
「そ、そうですわ! ここは関係者以外立ち入り禁止でしてよ! 

 あれ? そうでしたっけ? まあ鈴ちゃんは二組だから部外者といえば部外者ですけど。

「あたしは関係者よ、一夏関係者。だから問題なしね」

 なるほど! 一組の関係者ではなくて、一夏の関係者という訳ですね。いや~、一本取られま―――

「ほほぅ、どういう関係かじっくり聞きたいものだな……」
「盗人猛々しいとはまさにこのことですわね!」

 ってお隣二人が怒髪天を衝いていらっしゃる!? 始めてみました。人間って、本気で怒ると髪が持ち上がるんですね。重力法則を完全に無視した動きをしているのは目の錯覚ですかねぇ? いけないな~、最近疲れてるんですよきっと。

「今、兄妹揃っておかしなことを考えただろう?」
「いえ、なにも、一斬り包丁に対する警報を発令しただけです」
「とんでもない。髪は女の命。その髪が蛇のようにうねっている物理現象を解明しようとしただけです」
「お、お前たちは―――!?」

 ほ、箒ちゃん! 刀型近接ブレードを抜こうとしないで! って言うか、そろそろISの解除をさせて!

「ちょっと! 今は私の出番! 私が主役なのよ! 脇役はすっこんでて!」
「わっ、脇やっ―――!?」

 よっしゃぁ! 箒ちゃんの怒りが逸れたです!

「はいはい。話が進まないから後でね。……で、一夏。反省した?」
「へ? なにが?」
「だ、か、らっ! あたしを怒らせて悪かったなーとか、仲直りしないなーとか、あるでしょうが!」
「いや、そう言われても……鈴が避けてたんじゃねえか」
「あんたねえ……じゃあなに、女の子が放っておいてって言ったら放っておくわけ!?」
「おう」

 こいついっぺん死ねばいいのに……。女の子が放っておいてって言って放っておく馬鹿がどこにいんのよ。こんなんだから一夏には彼女ができないんですよ。いや、できても困るけど。

「なんか変か?」
「変かって……ああ、もうっ!」

 頭をかきむしる鈴ちゃん。分かりますよ、鈴ちゃん。今度部屋でじっくり愚痴を聞いてあげます。無論、一夏は簀巻きにして。

『千秋さん、凰さんはなぜあそこまでイライラしていますの?』
『セシリア? うん、まあ、一夏の鈍さが原因』
『それはわかりますわ。問題は、あそこまで怒ることを一夏さんがしたということでしょう? いったい何が原因ですの?』
『聞かないでやって、鈴ちゃんのためにも』
『そ、そうですの。わかりましたわ』

 ため息を漏らしながらプライベートチャンネルを切ると、口論もいよいよ佳境に突入していました。とりあえず、この口論の決着はクラス対抗戦で着けることにしたようです。相手に何でも言うことを聞かせられる権利も付録に付けて。

「あんたこそ、あたしに謝る練習しておきなさいよ!」
「なんでだよ、馬鹿!」
「馬鹿とはなによ馬鹿とは! この朴念仁! 間抜け! アホ! 馬鹿はアンタよ!」
「うるさい、貧乳!」

 っ! 馬鹿一夏!

 ドガァァァァンッ!

 突然の爆発音。その衝撃で部屋がかすかに揺れました。じ、地震でもおこったのかと思いましたよ。そのゆれの発信源たる鈴ちゃんは、肩から指先までISの部分展開をしています。

 IS展開にも二種類ありまして、全身展開と部分展開があります。

 全身展開はやや時間はかかりますが、ISの性能をフルに発揮できてあらゆる機能を十全に使用可能な状態にします。

 対して部分展開は、ISの一部分のみ(例えば、腕や足のみ等)を展開します。これでは性能をフルに発揮することはできませんが、展開時間は一瞬で隙がほぼありません。とっさの襲撃などに対応するときに便利です。しかしこの部分展開はイメージが難しく、ISに熟練している人でないと難しいとされています。

 などと頭の中で解説厨をしていると、鈴ちゃんの鬼のような形相で我に返りました。

「い、言ったわね……。言ってはならないことを、言ったわねっ!」

 ジッジジっとISに紫電が走っています。

 この馬鹿一夏。中学一年の頃に鈴ちゃんの胸のサイズを馬鹿にした男子が、どういう末路を辿ったか忘れたわけじゃないでしょうに!…………全員、四分の三殺しにされましたよ。

「い、いや、悪い。今のは俺が悪かった。すまん」
「今の『は』!? 今の『も』よ! いつだってアンタが悪いのよ!」

 すんごい理屈ですが、正直反論が見当たらないのです。一夏が悪い、全部!

「ちょっとは手加減してあげようかと思ったけど、どうやら死にたいらしいわね……。いいわよ、望み通りにしてあげるわ。―――全力で、完膚なきまでに、叩きのめしてあげる!」

 鈴ちゃんが鬼の形相で一夏を睨み付けて去っていきました。

 先ほどまで鈴ちゃんが居たところのさらに後方、そこには直径三十センチほどのクレーターができていました。この壁は特殊合金製で、ちょっとやそっとではこんなにはなりません。つまり、ちょっとやそっと以上の力がでこうなったってことですね。

「………パワータイプですわね。それも一夏さんと同じ、近接格闘型」
「……近接格闘型IS、『甲龍(シェンロン)』。スペックデータを見る限りでは燃費と安定性の方に重点を置いた長期戦型。はっきり言って一夏の機体との相性は悪い。どうするの、一夏? 鈴ちゃん本気だよ?」
「どうもしないさ。向こうがやる気なら、受けてたつ」

 まあ、そういうと思ってましたけどね。

「あ、あの、千秋さん? そこまで詳細なISのデータ、どこで手に入れまして?」

 それは黛先輩からなのですが、ここはやっぱり……。

「禁則事項です」

 これですよね!



「なんだ千秋、まだ起きてるのか?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」

 自室に戻った私達は、さっさと寝てしまおうと思ったんですけど、私はやることがあったので衝立を立ててノートパソコンに向かっていました。パソコンをやる時には私はメガネ装備です。

「いや、起きてたけど。……それって、俺のスケジュール表か?」
「そ。アンタのISのデータを打ち込んで、そこから導き出される鈴ちゃんの機体との相互差を出してるの。それを元に、アンタの今後の訓練スケジュールの調整」
「へぇ、お前パソコン打つの速いな。ブラインドタッチだっけ?」
「アンタねぇ、私がどこでバイトしてたと思ってんのよ?」

 パソコンから目を離し、呆れ顔で一夏を見ます。

「あ~、確かコンピューターソフトウェアの会社だったか?」
「そうよ。IS絡みのね。そんな所に二年も居れば、詳しくも上手にもなるもんでしょうが」

 やや自傷気味に言いますが、事実なのです。

 最初は書類運びやファイルの整理、機材の運搬なんかをやっていましたが。長くなるにつれて徐々にプログラムの方も教えてもらって、半年くらいしたら机に座ってる時間のほうが長くなっていましたね。

「私もこれ終わったら寝るから、先に寝てたら?」
「いや、だったら肩揉みでもしようか?」
「……魅力的な提案だけどまた今度にする。アンタにされたらそのまま寝そうだからね」
「そうか。じゃあ、おやすみな」
「おやすみ一夏、来週の本番頑張りなさいよ」
「おう」

 そう言って一夏は自分のベッドに横になりました。十分位したら規則的な寝息が聞こえてきたのです。

「ふぅ、危なかったです」

 そう呟いて、一夏に気づいて慌てて最小化したファイルを再び最大化しました。そこには、クラス対抗戦の座席見取り表と、料金表が表示されています。

「よし、料金表は完璧。これであとは……」

 私の本番は、対抗戦前日ですね。

 え? 一夏のスケジュール? 片手間でやっていますが何か?



「さーさー、チケット要らんかチケット要らんか」
「S席三千円、A席二千五百円、S席はあと二枚で完売だよー!」
「S、Sを一枚!」
「A席高すぎ! 三年生権限で二千三百円にまけて!」

 そして前日、アリーナ内のとある特設会場では観客席チケットが飛ぶように売れています。

「黛先輩、これならクラスが負けてもしばらくはデザート食べ放題ですね!」
「本当ね。いやいや、我ながら自分の商才がニクイ」

 長いすに料金表とチケットだけの元値でこれだけの売り上げ。こりゃ笑いが止まりませんですよ。

「はいはい、並んで並んで~。C席はあと五枚~」
「ほほぅ、では私も二枚もらおうか」
「はいはい、どちらを~?」

 あれ? 何故か声が後ろから聞こえたような? それに、と~っても聞き覚えのある―――

「貴様らの首を……な」

 とたんに襟首を捕まれ、強制的にパイプ椅子から持ち上げられました。

「お、お、お、お、織斑先生!?」
「ふ、ふ、ふ、ふ、冬姉ぇ!?」
「学校では織斑先生と呼べ。そして貴様らの逞しい商魂に敬意を表し、特別室に案内しよう。では、行こうか」

 あ~、私たち努力の結晶(売り上げ)が~。ドナドナ~。

「織斑妹、ずいぶんと余裕があるな?」
「へ?」

 冬姉ぇに地面から数ミリ浮かされて運ばれた先は、生徒指導室でした。

「黛はこれで……何度目だったか? まだ懲りていないらしいなぁ?」

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 ちょっ! 黛先輩!? 人間としておかしいくらいに震えてますよ!

「織斑妹は初めてか、良いかよく覚えておけ千秋」
「な、何をでしょうか?」

 耳元でボソリと呟かれたのです。

 この時ばかりは冬姉ぇの顔を見なくてよかったと思うのです。だって、おそらくそこには般若が居るでしょうから。

「世の中には、金では買えない恐怖というものがあるということをだ」

 地獄の釜の開く音がしました。



「う~ん、いい朝ですねぇ」

 翌朝、私は寮の自室で目を覚ましました。清々しい朝です、まさに絶好の対抗戦日和ですね。

「千秋、起きたか。悪いけど先行くぞ、今日は先にクラス代表の集まりがあるんだ」
「ん、りょうか~い」

 寝ぼけ眼で一夏を見送った後、洗顔をして制服に着替えて。最後に鏡にスマイルを浮かべます。

「よし、今日も完璧!」

 寮の自室を出て鍵をかけると、まずは食堂に向かいます。今日の朝ごはんは何にしようかなぁ~?

「あれ?」

 おかしいのです。昨日の放課後の記憶が思い出せないのです。なんでしょう、これ?

「あ、おはよう織斑さん」
「あ、黛先輩。おはようござます」
「今から食堂? 一緒に行きましょ」
「はい、是非に」

 黛先輩と二人で食堂に向かう途中、強烈な違和感を覚えたのです。

「あの、黛先輩。私達、昨日会いました?」
「え? 昨日? 昨日ねぇ……」
「そう、昨日の放課後………」

 ガタ

 あれ?

 ガタガタガタ

 あ、あれ? なんでこんなに身体が震えるんですか? ちょ、なんで! 顔をあげると黛先輩も同じように身体が痙攣しています。

「ま、ま、黛先輩。ど、どうしたんです、か?」
「お、織斑さんこそ。どう、どうしたの、その、身体の震え、は?」

 な、なんででしょうか。昨日のことを思い出そうとすると、急に身体が震えだすのです。

「ま、黛先輩。昨日のことは思い出さないようにしましょう。なぜだか分かりませんが、思い出したことを後悔する気がするんです」
「そ、そうね。とりあえず、朝食とりましょうか」

 身体の震えは収まっていましたが、なんなんでしょうこの身体の震えは。



※  あとがき

 鈴戦の一歩手前で、切ってみました。
 と、言うわけで鈴ちゃんがかわいそうだと思う方は『鈴×一夏はジャスティス』と感想に書きこんでください。もしもこのままでいいと思う方がいらっしゃれば、
『千秋×一夏はジャスティス』と書き込んでください。
 そうすることで、若干今後に修正が入るかもしれません(笑)

 冬姉ぇに制裁をくらった千秋ですが、元気です。じゃっかん記憶障害がおこって
いるだけです、大丈夫です。

 皆様の応援ありがとうございます。これからもがんばりますので、よろしくお願
い致します!



[26388] <第二章>第九話 私的には……居ても大丈夫!
Name: ゴリアス◆1198178c ID:c3f2b8ad
Date: 2011/04/19 00:16



 先輩との朝食を終え、アリーナに向かってみると会場は超満員。観客席どころか、立ち見まで満席でしたよ。

「うわ、すごっ」
「千秋、お前も居たのか」
「あら千秋さんに篠ノ之さん、あなた達も入れないで居ますの?」

 そこに、箒ちゃんとセシリアがやってきました。

「この満席じゃ、どうにもならないわね」
「致しかたあるまい。どこかのリアルタイムモニターで見るしかないようだな」
「ええ、そうですわね。一番近くのリアルモニターはどちらでしょう?」
「あ、いいとこ知ってる。いこ」
「あら、どちらですの?」
「いい所? どこに行くのだ?」
「解説付き、一夏の一番身近な人物の居る場所よ」

 一つしかないですよね。

「で、貴様らはここに来たと言うわけか」
「マム、イエスマム!」

 あれ? 何でしょう? 冬姉ぇからかつて無いほどの恐怖心を覚えますよ? 冬姉ぇの言葉には絶対に逆らってはいけないと、頭ではなく体が命令しています。

 ここは第二アリーナの管制室です。大きなリアルタイムモニターがあり、生徒の出入りも自由な場所なのです。しかし場所的に先生方が詰め居ている場所であり、特に今日は大事な弟の初戦。冬姉ぇが居ないわけがないと考えてここに来てみれば案の定なのです。

「ち、千秋。何もここで観なくても……」
「そ、そうですわ千秋さん。どこか違う所でゆっくりと……」
「え~? だってここ以上の大スクリーンって三年生の階しかないし。ここだったらISの専門家の解説付きだよ? 未来のIS界を背負って立つ人間としては、やっぱりここは抑えておかないと」
「誰がIS界の未来を背負って立つというんだ。しかし織斑妹、おまえ昨日の今日でよく私と平然と対峙できるな」
「ほぇ?」

 また昨日ですか。もう思い出せないことは思い出さないことにしましたよ。

「昨日? 昨日って、織斑先生に会いました?」
「…………記憶がトンでいるのか? まあいい、IS操縦者にはよくあることだ、慣れろ」

 記憶が、トぶ? なんでしょう? 何かを思い出せそうな……。

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

「ああ、もう! 始まってしまいましよ!」
「已むを得まい。ここで観るしかなさそうだ」
「貴様ら観るのは構わんが静かにしろ、織斑妹無理に思い出そうとするな」

 む、冬姉ぇがそう言うならそうしますか。

 スクリーンに目を向けると、ピット出入り口の先端で両者睨み合っています。

「さて、始まるぞ」
『はい』

 全員が頷きます。一夏はご存知“雪片二型”を呼び出し(コール)し、鈴ちゃんは大きな青竜刀が二つ繋がったような武装を呼び出し(コール)。

『では両者、試合を開始してください』

 ビーッ!

 鳴り響くブザー、その音が切れた瞬間に一夏と鈴ちゃんは空中で切り結びました。

「よし!」
「わたくしの教えた三次元躍動旋回はちゃんと使いこなせているようですわね」
「私がスケジュール調整までしてあげたんだから、負けたら承知しないからね」

 三者三様の意見を言いながら、ハラハラと観戦しているのです。

 何合かの衝突があった後、鈴ちゃんのISの肩アーマーがスライドし、中心の球体が一瞬光りました。しかし一夏はそれを見た瞬間に急速回避。一夏が今まで背にしていたアリーナの壁が若干へこみました。

「な、なんだあれは……」
「『衝撃砲』ですわね」
「あれ? セシリアよく知ってるね」
「わたくしは代表候補生でしてよ? この程度知っていて当然ですわ!」
「オルコット、『衝撃砲』とはなんだ?」
「『衝撃砲』は空間自体に圧力をかけて砲身を生成、そして余剰で生じる衝撃、それ自体を砲弾化して打ち出す『ブルー・ティアーズ』と同じ第三世代兵器ですわ」
「鈴ちゃんのIS『甲龍』の武装の一つ衝撃砲《龍咆》。砲身どころか砲弾すら見えない不可視の大砲。あの肩のアーマーに装備された特殊兵装の一つ。砲弾がないから弾切れもないし、エネルギー消費量も少なくて済むのがあの装備の最大の特徴ね」

 私がセシリアの解説を補足していると、冬姉ぇが驚きの表情をしてこちらを見ています。

「織斑妹、なぜお前が凰のIS装備の詳細情報を持っている?」
「以前、黛先輩に」
「まったくアイツは……。ちなみにその情報、むやみやたらと口外していないだろうな?」
「一夏を除いて、人前では今喋りました」
「だったらいい」

 ISの情報は国家機密が多く関わってきます。そんな物をホイホイと口外しては、物理的にも社会的にも拘束されかねないのです。また黒服たちがやってくるのはゴメン被りたいですよ。


       ◇◇

「ちょっと、なんで私の衝撃砲、そんなにヒョイヒョイかわせるのよ!」
「コーチが鬼なんでね、装備一式の知識は嫌って言うほど叩き込まれたよ!」
「チッ! 千秋ね。姑息な真似してくれるじゃない!」

 鈴は舌打ちをしているが、こっちは大助かりだ。千秋の言うとおり、訓練内容を『急加速急停止』と『移動技術の基礎と応用』に絞ったのは正解だ。

 そして千秋の立てたスケジュールも訓練をより的確に、より覚えやすく組まれたものだった。基礎から始まり、じゃっかん身体が慣れてきたところで応用へ、そしてその先へ。そう言ったスケジュール内容が組まれていた。

「後で、なんか奢ってやらないと!」

 そう呟きながら、再び襲い来る衝撃砲を回避する。

 それでも向こうは代表候補生、こっちは乗り始めて間もない未だ新米の域を出ないペーペー。事前知識があったとしても、さっきの衝撃砲は危なかった。

 この状況下で相手に負けないもの、それは『心』だけだ。気持ちはだけは絶対に負けない。俺の背中を押してくれたあいつらのためにも、この勝負負ける訳にはいかない。

 その『意思』が、絶望的な状況に一筋の光明を見出す。あとは信じて、突き進むのみ。

「鈴」
「なによ?」
「本気でいくからな」

 真剣に、間合いを把握して見つめる。俺の気概に押されたのか、鈴はなんだか曖昧な表情を浮かべた。

「な、なによ……そんなこと、当たり前じゃない……。とっ、とにかくっ! 格の違いってのを見せてあげるわよ!」

 鈴はバトンのように両刃青竜刀を一回転させて構え直す。俺は衝撃砲がその砲火を吹く前に距離を詰めようと加速姿勢に入った。


       ◇◇


※  あとがき

 はい、すいません。また短いです。
 文章構成を考えないで、ただひたすらに書いた結果が『投稿するには切れが悪
い。よし、半分で切るか』でした。アホかと。

 つ、次! 次の更新ともう一話くらいで、“原作の一巻分”が終了します。いや
~、長かったですね~。蛇足付けまくって、一巻分だけで二章と十一話。ドンダケ
~ww

 次回も頑張ります。応援よろしくお願いいたします。



[26388] <第二章>第十話 私的には……これが、最善だったよね?
Name: ゴリアス◆1198178c ID:c3f2b8ad
Date: 2011/04/21 22:49



「『瞬時加速(イグニッション・ブースト)、ですか?』」
「そうだ、私が直接教えた。と言っても概念だけだ。完成させたのは織斑兄と、妹のサポートあってこそだが」
「そうか、だから一夏はその単語を知ってたのね」

 正直いきなり一夏からその言葉が出てきたときには口から心臓出るかと思いましたよ。

「千秋、どういった物なんだ。『瞬時加速』と言うものは」

 箒ちゃんが焦れたように聞いてきます。

「簡単に説明すると、助速なしにトップスピードを出せる技術だよ。ゼロからマックスまでの期間がなくて、いきなり最高速で敵に突撃かませる技。反面、ほとんど直進しかできなくなるのが難点だけどね」
「だが有効に使えれば、代表候補生だろうが十分に通じる技だ。かつて私が世界最強にいたときによく使っていた技でもある」

 そいつは驚きです。冬姉ぇIS関係になると、途端に口が重くなりますからね。冬姉ぇの得意技を一夏が受け継ぐ。武装といい、“単一使用能力”といい、技といい。ホント一夏って冬姉ぇに愛されてますね、ちょっと本気で嫉妬しますよ。

「一夏さんが仕掛けますわよ!」

 セシリアが叫んだ瞬間、一夏が雄叫びを上げながら鈴ちゃんに突っ込んでいきました。冬姉ぇの宣言どおり、“零落白夜”使用した状態での『瞬時加速』。

 鈴ちゃんの方は、あまりの急激な一夏の加速に全く反応できていません。

「勝っ………!」

 ドオオオオォォォォォォォォッン!

 鈴ちゃんに一夏の刃が届きかけた瞬間。一夏と鈴ちゃんの更に奥、アリーナステージ中央に何かが急速落下して来ました。それを境に、アリーナステージの映像が砂嵐に変わってしまいました。

『なっ!?』
「何事だ!?」
「アリーナ内に侵入者です。所属不明、識別コード不明。完全な未確認機(アンノウン)です!」

 近くにいた山田先生が矢継ぎ早に情報を報告しています。あ、山田先生。いらっしゃったんですね。

「アリーナ内にいる生徒を至急退避、試合中の二人にも至急避難するように通達! 戦闘職員はIS装備で第二アリーナに緊急招集だ!」
「了解!」

 み、未確認機!? な、何が起こっているんですか!

「お前たちもすぐに避難しろ。ここにも危険がないとは限らん」
「そんな、一夏を置いて逃げるなどと!」
「大丈夫だ、織斑兄もピットに……」
「もしもし!? 織斑くん、聞いてます!? 凰さんも! 聞いてますー!?」

 突然叫びだした山田先生。先生、ISのプライベートチャンネルは声を出さなくっても会話できるんですよー?

「どうした?」
「それが……。織斑くんと凰さんが、未確認機を自分たちで食い止めると―――」
「あ、あの馬鹿! 実戦経験もないくせに!」

 なにを考えているですか馬鹿一夏! 早く避難しなさいよ!

「……本人たちがやると言っているんだから、やらせてみてもいいだろう」
「お、お、織斑先生! 何をのんきなことを言っているんですか!?」

 違います山田先生。今、冬姉ぇは相当動揺しているのです。本心とは真逆のことが口から出てくるのは、冬姉ぇの動揺したときの特徴ですから。その証拠に、右手は今も左二の腕を掴みっぱなしです。

「落ち着け。コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」

 そう言いながら、冬姉ぇはコーヒーをサーバーから紙コップに注いでいます。そしてそれを注視していた私は、冬姉ぇの手が砂糖とは違う方へ伸びた所でその手を掴みました。

「織斑先生。そちらは塩ですよ?」
「…………すまんな、千秋」
「どうってことないよ、冬姉ぇ」

 耳元でボソボソやり取りして、冬姉ぇの持ったカップに砂糖を二杯入れてあげます。

「ほら、少しは落ち着け」
「は、はぁ、いただきます」

 山田先生がコーヒーを飲んでいると、子供が背伸びをして大人の真似事をしている光景のようでホッコリしますね。

「先生! わたくしにISの使用許可を! すぐに出撃できますわ!」
「そうしたいところだが、―――これをみろ」

 冬姉ぇが山田先生の前の端末を操作すると、スクリーンに第二アリーナステータスチェックが表示されました。

「遮断シールドがレベル4に設定、……? しかも扉がすべてロックされて―――あのISの仕業ですの!?」
「そのようだ。これでは避難することも救助に向かうこともできないな」

 飛び込んでくる不利な状況の嵐にさすがの冬姉ぇも通常ではいられなくなったのか、関係のない画面を開いたり閉じたりしています。

「で、でしたら! 緊急事態として政府に助勢を……フガッ!?」
「はいはい、セシリアストップ。先生方のことだからもうやってるよ。それでも尚この状況ってこと。そうですよね、織斑先生?」

 後ろからセシリアの口を物理的に塞ぎます。頼むから冬姉ぇをこれ以上刺激しないでください! 今でも導火線に火が点いてる状況なんですから。これ以上刺激してこんな所で爆発されたらたまったもんじゃないですよ!?

「そうだ。政府への連絡は既に終了し、今現在も三年の精鋭と二年のエース数名がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる」

 なるほど、ようは遮断シールドを解除できれば一夏を救出に行けるわけですか。

「山田先生、ちょっとこっちの端末お借りしてもいいですか?」
「え? あ、はい。どうぞ」

 山田先生の一つ横の席を借りて端末をいじります。呼び出したのはステータス画面の更に先、システム操作画面です。

「ふむふむ、こっちはパス付き。こっちの方はっと……、あ~、クラックソフトが足らないなぁ。でも、これだけコンピューターあれば並列には困らないよね」

 システム画面を見て回って、問題箇所を検索。こちらのできる事を浮き彫りにしていきます。

「山田先生、この通信機って使えるんですよね?」
「え? ええ、大丈夫ですけど。どこにつなげるんですか?」
「ちょっと、整備課に」

 インカムを装着して、両手をフリーに。さて、後は向こうがOKしてくれるかですね。

『はい、整備課です』
「あ、すいません。そちらに黛薫子さんはいらっしゃいますか? 火急の用があるので、大至急つなげて欲しいんですけど」
『は、はぁ、あの、お名前は?』
「織斑千秋と申します」

 そして待つこと数秒、どうやら話だけはしてくれるみたいですね。

『織斑さん? 今、ものすっごく立て込んでるから。後でにしてくれる?』
「アリーナシステムのクラック作業ですね?」
『ッ!? 知ってるなら話が早い、切るわよ?』
「待ってください。私にもやらせてください」
『やるって……。織斑さん、システムクラックできるの!?』
「人並み以上には………」
『―――――わかったわ。今は一人でも人手が欲しいの、なにがお望み?』
「最新型のクラックソフトを、第二アリーナの管制室に送ってください。インストールと使い方を含めて、三分で覚えます」
『了解したわ。あと私はなにをすればいいの?』
「防壁が二箇所、多少緩んでるところがあります。そこに二人がかりでクラックを仕掛けましょう」
『防壁が緩んでるところが二箇所? そんな所あったの?』
「さっき見つけました」

 正確には緩んでると言うのは変な言い方ですね。ここだけ防壁が薄いんです。まるで、少したったら管制室からここを通ってアリーナへ向かえと挑発しているような。しかし四の五の言っている場合ではないのも事実です。

「場所に関してはデータを今からそちらに転送しますので確認してください。ソフトの方はどうなりました?」
『ちょっと待って。今転送中……、よし転送完了』
「来ました。えっと、これって……。私が前に使っていたソフトのヴァージョンアップ版ですね。でもパッチが七回も当てられてるからもう一回覚えなおしか。場所の方は確認取れましたか?」
『うん、今見てる所。確かにここなら外壁よりも簡単にいきそうだけど、ここを開いても部隊を突入させることはできないわよ?』
「大丈夫です。そこが開けば、ウチのクラスの代表候補生が突入できますから」
『な~るほど。それじゃ、使い方は大丈夫?』
「インストールも終了しました。いつでも行けます」
『OK、タイミングはそっちで指示してね?』

 そこまで聞くと、一度インカムを外して冬姉ぇと何やら話をしているセシリアに向き直ります。

「セシリア! 今から十分後、ここから一番近い第五ゲートを開けるから。そこからアリーナに突入して! 織斑先生、セシリアにISの使用許可を!」
「えっ、織斑さん!?」
「千秋さん、本当ですの!?」
「織斑妹、どうやって第五ゲートを開けるつもりだ?」
「黛先輩と協力して、第五ゲートにシステムクラックを仕掛けます。どんなに早くても十分少々かかるでしょうが、突入部隊を待つよりは早いはずです」
「だったら何故外部隔壁と、突入部隊付近の第一ゲートを解放しない?」
「外部隔壁と第一ゲートの防壁は特別頑丈なんです。どんなに頑張っても二十分以上は……。そうなったら、一夏達が! お願いです先生、やらせて下さい!」

 勢いよく席から立ち上がると、私は思いっきり頭を下げます。

 無茶なお願いなのはわかっているのです。こんなことをしなくても、突入部隊を待てばいいことですから。でも、なにもできないのは嫌なのです。何もしないのは、嫌なのです。今、自分にできる最善をしたい。一夏を、助けいのです。

「………わかった、やってみろ」
「織斑先生、危険過ぎます! 突入部隊を待ったほうが……」
「オルコット、第五ゲートで待機だ。織斑妹がクラックを成功させたら、すぐに突入しろ」
「了解致しました、感謝しますわ!」

 セシリアが優雅に駆け出して行きます。いいなぁ、走ると揺れて……。

「揺れるっていいですよね」
「え? 織斑さん、何か言いました?」
「山田先生には縁も所縁もない。私は夢もキボーもない話ですよ」

 ハァ、持つ者に持たざる者の気持ちは永遠に理解できないのですよ。

「織斑妹、この通信は黛に繋がっているのか?」
「え? あ、はい。そうですけど……」

 いつの間にか近くに来ていた冬姉ぇが、インカムを持ちながら私のことを覗き込んでいました。

「よし、少し借りるぞ」

 冬姉ぇはインカムを耳に押し当てると、マイクを口元に調節します。

「黛、聞こえるか? 織斑だ」
『ひゃ、ひゃい!? お、織斑先生!』
「時間がない、手短に話すぞ。第五ゲートのクラックには何分かかる?」
『わ、私一人では少なく見積もっても十五分以上かかりますけど。織斑さんしだいで、短縮も可能かと』
「そうか。織斑妹は十分でやると言っている、できるか?」
『ッ!? や、やってみせます!』
「よし……。頼むぞ」

 それだけ言って、冬姉ぇは私にインカムを返して壁に寄りかかりながらコーヒーを飲み始めました。でも、今もまだイラつきと不安は抑えきれないようですね。

「黛先輩、お待たせしました」
『お帰り、それじゃあ行きましょうか』
「はい!」

 さ~て、これからが本番ですよ! あれ? そういえば箒ちゃんが居なかったような……。

 それから五分、私たちは敵の防壁プログラムに手を焼いているのです。

『デコイ焼くよ!』
「防壁、2.5秒開きます! ダミーを0.7秒でイケますか!?」
『遅い! 0.5秒でイケるわ!』
「ッ! 締め出された!? もう一回!」
『早く! リカバリーまで三十秒!』

 敵防壁プログラムとの交戦。こっちが敵の防御プログラムを掻い潜ってダミーを挿入し、更にそこから防御システムそのものを停止させる作業。しかし時間をかければ敵はこっちのシステムの正体に気付き、即座に対応プログラムを作り上げてしまうのです。

「一夏と交戦しながらこっちのシステムも把握するとか、どんな頭してんですか敵パイロットさんは!?」
『ある程度は自立プログラムに任せてるんでしょ。大事な所だけ口出しして、自分の手柄。どっかの会社の上司みたいね』
「ふん。きっとソイツは社会に出たら無能の烙印を押されるに決まっていますよ!」

 軽口を叩きながら余裕を見せているようですが。額と手には汗がベットリとしてて気持ち悪いですし、背中もさっきから寒かったり暑かったりで嫌な汗をかいています。

「これで、どうだぁ!」

 最後の仕上げとばかりに、力いっぱいエンターキーを叩きます。すると、画面に表示されたのは『ゲート開放』の文字。やったです!

「第五ゲート、開放!」
『ざまぁみさらせぇ!』

 黛先輩の汚い言葉と共に、突如砂嵐しか移っていなかったスクリーンに映像が戻ります。

「織斑先生! 映像回復しました!」
「なに!?」

 その映像に移っているのは、“零落白夜”を使用した一夏が『瞬時加速』で未確認機に切り込んでいく映像でした。その一撃は、未確認機の右腕を完全に切り落とします。

「やった!」

 しかしその反動で一夏は未確認機に残った左腕で顔面を掴まれてしまったのです。

「“零落白夜”で、墜とせない!?」
「いや、敵シールドはゼロになったのだろう。しかしこれは模擬戦ではない、敵はシールドがゼロになろうが構わずに攻撃をしかけてくる」
「そ、んな!?」

 そのとき敵の掌に光が集まるのが見えました。おそらく、掌になにか武装を仕込んでいるんでしょう。

「い、一夏ぁっ!!」

 思わず立ち上がって叫んでしまいました。ま、間に合わなかったですか!?

『………狙いは?』
『完璧ですわ』

 そのオープンチャンネルの声と共に、未確認機は『ブルー・ティアーズ』四機の狙撃で打ちぬかれ、地上へと落下していきます。

「ま、間に合った……」
「そのようだな」

 よ、よかったのです。そう思った瞬間、体から力が抜けてしまいました。

「千秋!」

 フワフワとする頭で聞いたのは、最愛の姉の必死な言葉。どうしました、冬姉ぇ? あれ? なんで冬姉ぇの顔がこんなに近くて、横向きなんだろう?

「千秋、しっかりしろ!」
「だ、大丈夫。ちょっと、疲れただけだから……」
「…………そうか。よくやったぞ、千秋」
「え、えへへ、冬姉ぇに褒められたのなんて、何ヶ月ぶりだろう?」
「ゆっくり休め、今日のお前は頑張った」
「うん。お言葉に、甘えさせてもらっちゃおう、かな」

 ああ、何ヶ月どころではない。何年ぶりだろう、姉の腕の中で眠るなんて。



※  あとがき

 遅くなりました。何回も見直しって大切ですよね。

 やっときました! 主人公の主人公らしい描写。はい、ツッコミ所満載です。皆
様のスルースキルにも限度があると思います。
 おかしな点などを指摘して頂ければ、最高速で修正と加筆を加えさせていただき
ます。

 今回、ちょっと姉妹間のやり取りが多めに含まれていますが誰得? 作者得です
ww

 次回も更新がんばります。どうか、温かい御支援の程、宜しくお願い申し上げま
す。



[26388] <第二章>第十一話 私的には……こんなに泣いたの久しぶり
Name: ゴリアス◆1198178c ID:c3f2b8ad
Date: 2011/04/25 00:25



 目が覚めると、真っ白な天井が私を迎えてくれました。

「知らない天井です」
「起きたか、千秋」

 ベッドに横になっていたらしく、状態を起こすと隣のベッドで一夏が寝ていました。

「一夏? なんでアンタがここにいんの?」
「俺もあのISとの戦闘で意識飛ばしちまってな。俺もお前も保健室送りだ」
「保健室? 意識、飛ばした?」

 ああ、そういえば。一夏の救助にセシリアが間に合った所から記憶がないのですよ。

「さっきまで千冬姉や、箒や鈴、セシリアもいたんだが。お前が起きる少し前に帰っちまったよ。千冬姉の話では、お前は過労だってさ。ここ最近ずっと俺の訓練に付き合ってくれてたのに、あんな結果になっちまって悪かったな」
「べ、別に、大丈夫よ。一夏が気にする必要なんてないもん、アレは事故よ事故」
「そう、だな。ああ、でもありがとうな。お前が防壁のクラックしてくれたんだろ? おかげで何とか勝てたよ」
「意識失ってちゃ格好つかないけどね。でもね一夏」

 よかったのです。本当に、よかったのです。

「無事で……、よかった」

 一夏の元気な姿を見れて、本当によかったのです。あれ? 何だろう? なんで視界がボヤけるんだろう?

「ち、千秋。泣くなよ」
「え? あれ?」

 これ、涙? なんで? 嬉しいのに、涙が。

「ち、ちが、別に、悲しいわけじゃ……」

 なんでこんなに涙腺緩くなってんですか! と、止まりなさいです。一夏に誤解されちゃうでしょ。俯いて全部流してしまおうと思いましたが、後から後から流れてきます。

「千秋」

 唐突に近くで聞こえた一夏の声。慌てて顔を上げると、一夏がベッド脇に立っていました。

 一夏は突然、何も言わないで私を抱きしめたのです。

「んッ!? なぁ!?」
「千秋、ゴメンな。俺が弱いから、こんなに心配かけちまって。俺、強くなるから。千秋や千冬姉や、箒や鈴やセシリアを守れるくらい強くなるから。だから泣くな」
「……………約束できる?」
「ああ、天地神明と千冬姉の名前にかけて」
「うん。約束したからね、一夏。誓約書、いる?」
「いるかんなもん」

 ですよね。

 そのまま抱きしめ続けてくれる一夏に甘えて、私もちょっと一夏の背中に手を回してみようかと思った矢先。

「一夏、千秋起きたぁ? 差し入れ兼お見舞い持ってきた………けど」

 うん。私ってシリアス似合わないよね。わかってる。でも、ちょっとくらい良かったんじゃない神様!?

 保健室の入り口では、鈴ちゃんがお見舞い品らしい袋を手に掲げたまま固まっていました。

「な、な、な、な、な、なにしてんのよアンタ達!?」
「り、鈴ちゃん。こ、これは違うんだよ!? な、慰め。そう! 慰めてもらってたの!」
「な、慰めぇ!? なんで慰めてもらうのに一夏に抱きつかれてんのよ!? しかもアンタまで一夏の背中に手ぇ回そうとしてたでしょ!?」
「そ、そんな!? してない! 断固してないよ!?」
「って言うか一夏! 慰めだって言うんなら私も慰めなさいよ! ほら、ギューってしてよ!」
「な、なんで鈴ちゃんまで慰められなきゃいけないのよ!?」
「そ、それは……。そう! 一夏とのISバトルが中止になっちゃったからよ! かわいそうでしょ? だから慰めなさい!」
「いや、それ一夏も条件同じだから! って言うか、鈴ちゃんはそんなに一夏をボコにしたかったの!?」
「そ、そんなんじゃなくて。一夏と触れ合う機会が減っちゃったでしょ!? だから、ほら、ギューって!」
「ち、千秋。別に俺は構わないぞ? ちょっとなら……」
「アンタは黙ってなさい!」
「はい、申し訳ありません」

 こうしてカオスと化した空間は、保健室の養護の先生が来るまで続けられて。私と鈴ちゃんはお互いに自爆した影響で、顔を合わせると赤面するようになってしまいました。



 保健室での自爆テロ(笑)も終わって、寮の自室に帰ってきました。う~ん、やっぱり自分の部屋が一番落ち着くのですよ。

「一夏~、肩揉んで~。対抗戦前の約束~」
「はいはい、仰せのままに」

 ん~、役得~。気持ち~。

「一夏、アンタマッサージ師になったら?」
「そんな選択肢が残ってたらそれも良かったかもな」

 ま、ですよね。ISに乗れる世界初の男性、織斑一夏。この名前を持ちながら今更別の職業なんかに就けませんよね。

「なんだかんだ言っても、やっぱり神様って残酷だよね」
「どしたんだよ、急に」
「ん? いやね。もしも一夏がISに乗れるってことが分からないで、普通の学校に進学してたら。今日みたいなことは起こらなかったし、一夏がケガとかしないでも済んだんだよね?」
「ん? そう、だな。あの日に普通に藍越学園を受験してたら、こんなことはなかったんだよな」
「ごめんね」
「どうしたんだ急に?」
「だって、一夏がIS学園に来るように色々説得しちゃったの私じゃない。だから、ごめん」

 そう。一夏がIS学園に来るようにアレコレと手を焼いて、半ば強引に入学願書にサインをさせたのは何を隠そう私なのです。つまり、それさえなければ。一夏は多少の不自由はあれど、普通の学校に入ることもできたかもしれなかったのです。そう思うと、やっぱり少し罪悪感があるのですよ。

「ハァ。千秋、そんなこと気にするな」
「へ?」

 そ、そんなこと!? 私がかなり真剣に悩んでることがそんなこと!?

「確かにIS学園に入って大変だったけど、箒や鈴、セシリアに会えた。千冬姉のこともわかったしな。俺は後悔なんてしないぞ? むしろ、ありがとな。多少強引にでもここに連れて来てくれてさ、千秋のおかげだ」

 ………………、バカ。そんなこと言われたら、また涙が流れそうじゃない。

「ん~、サンキュ一夏。それじゃあお礼にお茶を淹れてあげましょう」

 一夏の手を半ば強引に振りほどいて、急いで簡易キッチンに向かいます。この顔、見られてないですかね?

「ん? おう、頼むよ」
「任せなさいって」

 普段は滅多にこんなことをしない私ですが、今日は特別です。なんだか気分もいいですしね。

「~♪~♪~♪」

 思わず鼻歌が出てしまうほどなのですよ。

 コンコンコン

 そんなとき、寮の扉から控え目がちにノックされました。

「ああ、いいよ。俺が出る」

 一夏が扉を開けに行きました。こんな時間に誰ですかね? 鈴ちゃん? 箒ちゃん? いや、まさかのセシリア? もしくは第四勢力!? 一夏の貞操ピーンチ! って、んなわけないか。

「はい、どちら様で?」
「あの~、織斑くんと織斑さんいますか~?」
「山田先生?」

 などと脳内一人漫才をしていると、一夏の声が妙に驚いています。そりゃそうですよね、なぜ山田先生がここに? ハッ!? まさかのガチ第四勢力!?

 あと山田先生、一夏の声は聞こえてるんですから一夏は絶対にいますよ。

 ツッコミを入れていると、一夏が寮の扉を開きました。私も気になったのでヤカンを火にかけたままそっちに行ってみたのです。

「あ、織斑さんもいますね。じゃあ、お引越しです」
「はい?」

 私がいる=じゃあお引越し。

 うん、この二次方程式の解を求めるには現在の公式とは全く別の公式を導く必要がありますね。今から数学者教授達に頑張ってもらわないと。ではなくって!

「山田先生? 術語だけではどうにもなりません、主語を入れてもう一度お願いします」
「え? あ! はい! そうですよね、すいません!」

 ペコペコと何度も頭を下げてくる先生。確か某ネットゲームに居たな、ペコペコって。なんで騎士が乗るやつと、聖騎士が乗るやつってデザインが違うんだろう? 威厳?

「えっと、お引越しするのは織斑さんです。部屋の整理がついたので、今日から織斑くんとは別のお部屋になります。うら若き男女が、兄妹とはいえ同室なんて問題ですからね」
「え!? い、今からですか!」
「はい、ちゃっちゃとやっちゃいましょう」
「ちょ、ちょっと待ってください。別に今日じゃなくっても……」
「え? でも、いつまでも同じ部屋でいる訳にもいきませんし。織斑さんだってくつろげないでしょう?」
「い、いえ、別に―――」

 ま、まずいのです。何でか知らないけど私の中でなにかが、この部屋を離れたくないと警報を発しているのですよ。

「どうした千秋? なにをそんなに慌ててるんだ?」

 これだぁ!

「いえ、私が居なくなると一夏のスケジュール管理や、代表補佐としての仕事に支障が出るかもしれないんですよ。ですので、私はこの部屋のままがいいと思うのですが」
「なんだそんなこと心配してたのか。大丈夫だよ、お前がいなくてもスケジュール通りに訓練もするし。細かな打ち合わせは食事の時とかでいいだろ? だから安心しろ」

 ビキィ! 何かにヒビが入った音が私の中から響きました。

 このバカ、人の気も知らないで!

「先生、気が変わりました。一秒でも早くこの部屋を出ます!」
「え? は、はい! で、では、始めますね」
「あ、だったら俺も……」
「一夏は黙ってそこに座って茶でも啜っていて下さい!」

 ええ、いいですよ。そこまで言うなら今すぐ即行で出て行ってやろうじゃないですか!

 んでもって、最後の荷物を抱えて私は部屋の前に立ちます。

「んじゃ、私は部屋移るから。お茶、結局淹れてもらっちゃったね」
「別に気にすんな。それじゃ、また明日な」
「うん、また明日ね」

 そう言って、一夏はドアを閉めてしまいました。

「ハァ、劇的な展開はある訳ないですよね」

 ええい、悩んでも仕方がないのです! こうなれば、新しい状況に慣れるべく精神力を使うのですよ!

「えっと、新しい部屋ってのが……」

 山田先生にもらった紙を見て、ペタペタと廊下を歩きます。そして着いたのが、ここ。

「1045室か……」

 一夏の部屋とはだいぶ離れてしまいましたね。でもま、しょうがないか。とりあえず荷物は先に先生がカートで持って行ってくれているみたいなので、私の仕事は部屋の先住人への挨拶と荷解きですね。

「どうか変な人じゃありませんように!」

 一応小声で神に祈りを捧げて、いざ出陣!

「こんばんは~、今度一緒の部屋になる織斑千秋です~」

 すんごい低姿勢で部屋に入りました。

 しかし中に入るとそこは無人。どうやらお出かけ中のようです。

「ありゃ? 拍子抜けだな。まあいいか、今日から私の部屋でもあるわけだし。中で待たせても~らおっと」

 独り言を呟きながらベッドにダーイブ。奥の方は私物なんかが置いてあるから、きっと先住人さんのベッドなんでしょう。

 どんな人なんでしょう? なにか分かる物とかないですかね? ちょっと興味本位でベッドの方を覗き込んで見ました。

「こ、これは…………!?」

 私の目の前には、この世の物とは思えないものが鎮座していました。


       ◇◇

(わ、私はなんと大胆なことをしてしまったのだ!?)

 つい先ほどの話だ。一夏が謎のISに襲われ、私の激によって何とかそやつを撃退したもののケガをしてしまった。保健室で一夏に正直な思いを伝えようともうまくいかず、焦りを覚えていたのだ。

 そしてそのままの勢いで一夏の部屋へ直行し、一夏が出てくれたのをこれ幸いに半ば押し付けの形で『個人戦に優勝した場合付き合ってもらう!』と宣言してしまった。

「う、うああぁぁぁ」

 ああ、思い出しただけでも顔から火が出そうだ。しかしこれで約束したには変わりない。約束した以上、反故にするのは男が廃るはずだ。

(ふ、ふふふ、これで個人戦を勝ち抜けば、一夏と私は……)

 ダメだ、自然に顔がニヤけてしまう。このような顔を人前に晒すわけにはいかぬ。

(早く部屋に帰らねば。このようなときに一人部屋はありがたいな)

 自然に速まる足、そして部屋の前について鍵を回した時に違和感を覚える。

「鍵が、開いている?」

 おかしい、たしか私は鍵をしっかりと閉めたはずだ。いかに勢いに任せていたとはいえ、毎日の習慣をそうそう忘れるはずがない。

 しかし強盗や物取りの線も薄い。ここはIS学園だ。当然ながらセキュリティーのほうは完全だし、生徒間でのそのような犯罪行為は事例がない。いぶかしみながらドアを開け、忍び足で中へ入る。

「………れは、…………ころ」

 すると更におく、ベッドのあるほうから何やらブツブツと声が聞こえてくる。竹刀袋はベッドの脇だ。得物がないのは心許ないが、剣術の一環として身につけた古武術ならば並みの相手には引けを取らぬ自信がある。

「出会いがしら、一撃が勝負……」

 呼吸を整え、再び足音を忍ばせる。そして、自分のいつも使っているベッドを完全に視界に納めた。

「ッ!?」

 そこに居た者は……、

「ちょ、ちょっとなによこのサイズ。何をここに入れるっての? スイカ? バスケットボール? 背中のお肉どころじゃないわよ。全身の脂肪を集めたってまだユルユルじゃないのこれ? 彼我の戦力差はいかほど? これがニュータイプの力…………」
「何をしておるのだ、千秋?」

 六年ぶりに出会いつい先ほどまで保健室に居た私の幼馴染が、私の下着を物色していた。

       ◇◇


「何をしておるのだ、千秋?」
「ふぇ!? ほ、ほ、ほ、箒ちゃん!? な、なんで! いつの間に!?」
「ここは私の部屋だ。鍵が開いていたので物取りでも居るのかと思い、足音を忍ばせて入ってきたら。何をしておるのだ貴様は」
「い、いや~、山田先生に新しい部屋を紹介してもらったんだけど、先住人の方がいらっしゃらないので、ちょっとどんな人なのかと思ってベッドを除いてみたらこれがあったものですから……」

 そう言って、手に持っていたブラジャーを差し出しました。

「か、かってに触るでない! そ、それに、新しい部屋だと!? 千秋もここの部屋になったのか?」
「う、うん。箒ちゃん、聞いてないの?」
「いや、ちょっと待て……」

 私からブラジャーをひったくって箒ちゃんは横を向いています。しばらく考え込んで、思い出したようです。

「ああ、あの件か。確かに山田先生から、もうしばらくしたら新しいルームメイトが来ると聞いていたが千秋のことだったのか」
「そう、みたいだね」

 山田先生、ちゃんと話を通しておいてくださいよ。

「ならば問題はないな。これからよろしく頼むぞ、千秋」
「うん。こっちこそよろしく、箒ちゃん」

 そう言って、私達はお互いに握手を交わします。明日からの学校生活が少し楽しみになった瞬間でした。

「ところで、いつまで私のベッドの上に居るつもりなのだ?」
「あ、ゴメン」

 ………楽しみになった瞬間でした!



※  あとがき

 どうも、作者です。
 遅くなりまして申し訳ありません。

 これにて、第二章の終了となります。この後間章を挟みまして、いよいよお待ち
かねの彼女達の登場となります! 言わずとも分かりますね、あの腹黒とクーデレ
の二人です!

 がんばります、マジで頑張ります! この二人は絡ませるのが難しいですが頑張
ります!

 皆様の感想を心よりお待ちしております。足あと代わりに残していって頂ければ
幸いと存じます。



[26388] <間章>前編 私たちの日常
Name: ゴリアス◆1198178c ID:c3f2b8ad
Date: 2011/04/30 00:06



 夢を、夢を見ていたのです。

 そこは大きな武家屋敷。襖(ふすま)の立ち並ぶ板張りの縁側を、ただひたすら歩いていました。前へ前へ、永遠と続く襖と庭の風景を見ながら前へ。どうして前へ歩いているのか、ここは何処かなのか。そんなことすら気にならずに、ただ前へ。

 しばらく歩くと、目の前に立ちふさがる二人の人影を見つけたのです。

 一人は平安時代に出てくるような格好で、漫画なんかでよく見る陰陽師のような格好でした。扇を持ち、黒い布で覆っていたために顔は見えませんでしたが。

 もう一人は厳つい全身鎧(フルプレート)に身を包んだ、西洋系の鎧を着た人。大きな盾と、細身の剣を持った威圧感のある人でした。

 二人とも顔が見えず、表情も分かりませんでした。しかし私は、分かっていたかのように立ち止まり。ジッと二人の言葉を待ちます。

『我々は出会ってはならないのかもしれない』

 陰陽師風の重々しく口を開きました。

『しかし出会いたいと願う心もある』

 今度は全身鎧の人が続けます。

『我々は共に在ってはならぬのかも知れぬ』
『しかし共に在りたいと願う心もある』
『我々は番ってはならぬのかも知れぬ』
『しかし番いたいと願う心もある』

 交互に、全く正反対のことを言う二人。そこまできて、私は妙なことに気付きました。

 色がないのです。二人だけではない、この武家屋敷全体。もっと言えばこの世界全体に色がないのです。セピア色とは違う、かと言って透明でもない。モノクロのような、灰色のような、初めから色彩が消滅しているような世界。しかし見ていて気持ち悪さはなく、ただただこのような世界だったと認識できる。

『我々は交わってはならぬのかも知れぬ』
『しかし交わりたいと願う心もある』
「それでも………」

 そのとき、私の意志とは無関係に私の口が動きました。

「いつか貴方達に出会えることを、私は切に願う」


『千秋、千秋起きないか。千秋!』

 ん~、急にうるさくなったのですよ。さっきまで同じようなことしか言わなかったくせに。

『千秋! 早く起きないと朝食に間に合わんぞ!』

 んぁ? ああ、そうか夢ですか。じゃあこのうるさいのは目覚まし時計ですね。早く止めないと……。

『なぁ!? ど、どこを触っているのだお前は!?』

 あれ? 目覚まし時計ってこんなに柔らかかったっけ? ブニブニといい手応え、それでいてずっと揉んでいたくなるような感触。

『ん! あっ! ち、千秋! い、いい加減に……』

 マシュマロみた~い。でもマシュマロってあんまり好きじゃないんですよね。歯で噛んだ瞬間のあのグニャッとした感じと、歯にくっつく感じが。でもこの感触は好き~。

「いい加減にせんか馬鹿者!!」

 ドゴムッ!

 おはようございます。今日は曇っていて湿気が多いです。私の頭には朝なのに星が回っています。



「ね、ね、箒ちゃん機嫌治してよ~」
「知らぬ、私はもう金輪際お前のことは起こさぬと決めたのだ」
「そんなこと言わないでさ~。お願い! 箒ちゃんに起こしてもらわないと私の明日からの学校生活に(主に冬姉ぇ的な意味で)支障が……」
「朝からなにやってんだ、箒に千秋?」

 食堂に向かう途中、箒ちゃんに謝り倒しているところで一夏の登場。天の恵み!?

「ねぇ、一夏からもお願いしてよ。アンタ私の寝起きの悪さ知ってるでしょ」
「あ~、なるほどな。箒、すまないが勘弁してやってくれ。千秋の寝起きの悪さは天下一品なんだ」

 うぐぅ! ひどい言われようなのです。でも本当のことなんで言い返すこともできず、私はショボンとしていました。

「…………まぁ、千秋も反省しておるようだ。ここは一夏に免じて許しておこう」

 サンキューでごぜーます! あと、一夏が頼んだら態度を急変するのはどうかと思います!

「……、ありがと一夏」
「……、おう」

 小声で一夏とやり取りして、いつも通りの風景に戻ります。

「あら、一夏さんに千秋さん、篠ノ之さんも」
「おう、セシリア。おはよう」
「おはようセシリア」
「おはようオルコット」
「おはようございますですわ」

 三人揃って食堂へ向かう途中セシリアとも合流。そして全員で同じテーブルにつきました。今日の朝ごはんは日替わり、メニューはギンダラの西京漬けと味噌汁と納豆と漬物です。

 ん~、今日も美味しそうですね。この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます!

「そう言えば千秋さん、この前の小テストの点数はいかがでしたの?」

 ギンダラを口に入れて、幸せを噛み締めているとセシリアが優雅にパンをかじりながら話しかけてきたのです。

「98点、証明問題でミスった。そういうセシリアは?」
「………95点でしたわ」
「箒ちゃんは?」
「私は61点だ。やはりテストとなると調子が出んな」
「三人とも凄いな、俺なんか38点だぜ?」

 ハァ!? こぉんのぉ、バカ兄は~。

「い~ち~か~、あんなに教えてあげたのに38点ですって~?」

 ふ、ふふ、あんなに勉強に付き合ってあげたのに38点? 38点ですって~!?

「しまったヤブヘビ!? ち、千秋落ち着け! 話せば分かる!」

 一夏は席を立ち上がって逃げようとしていますが、遅いのです!

「問答……」

 シャイニング―――

「無用!!」

 ウィザーーード!!

「oh Great!」

 Air Gear最新三十二巻、大好評発売中なのです!

「イッテテテ、朝からシャイニングウィザードかますやつがあるかよ」
「次はフランケンシュタイナーをかけるわよ」

 まだ床にヘタリ込んでいる一夏を見下ろす形で話を続けます。

「勘弁しろ。第一に、あの技は女がかけるような技じゃないだろ」
「? どういう意味?」

 身長差の問題ですか? それとも筋力の?

「いや、だってフランケンシュタイナーって股で相手の頭挟むんだろ? あの構図って………」
「なっ!? なっ!? なっ!?」

 あ、あ、あ、朝からなに考えてんですか!

「こんのぉ!」

 一夏の頭を両手で重ねた拳槌で打ちつけその勢いで下がった背中を抱え込みます。

「変態がぁ!」

 そして一瞬中に浮かせ、その勢いで背中から地面に叩きつけました!

「デラベッピン!!」

 TFPB(サンダーファイヤーパワーボム)、完遂!

 まだ伸びている一夏を他所に、私達は何事もなかったかのように食事を続けます。さすがに一ヶ月も同じような光景を見れば慣れますよね。

「それにしても口惜しいですわ。またしても今一歩、千秋さんに追いつきませんで」
「伊達に入試主席は張ってないわよセシリア。IS関係の知識だったら、未だに負ける気はしないわ」
「ぐぅぅ、でしたらわたくしはISの技術に関しては千秋さんに負ける気はいたしませんわ!」
「なぁ! 搭乗時間300時間を越えてる人間がそれを言う!?」
「これはわたくしが積み重ねた結果ですわ。千秋さん的に言うのでしたら、『技術面での誰にも負けない努力』に他なりませんわ!」

 うぐぐ、言ってくれますね!

「だったら私は知識面でセシリアには負けたこと一度もないわ!」
「でしたらわたくしは技術面で、千秋さんに個人的に負けたことはございませんわ!」

 お互いに立ち上がってのメンチの切り合い。私もセシリアも一歩も引こうとしないのです。この女、どう料理してやろうですか……。

『勝負よ(ですわ)!』

 そしてほぼ同時に机を叩いて同じことを言いやがりました。

「お前ら毎度同じことやってて飽きないな」

 復活した一夏があきれたように言ってきますが、女には引けない戦いがあるんですよ!






[26388] <間章>後編 私たちの日常
Name: ゴリアス◆1198178c ID:c3f2b8ad
Date: 2011/04/30 00:12



「で? 記念すべき第十回目の勝負、今回は何で白黒つけるの?」

 時間と場所を移し、昼休みの教室です。授業中も散々メンチを切り合っていた私達ですが、それでも勝負意欲が尽きないのはなぜでしょうね。

 セシリアの机まで来て、前のいすに座って対面します。ギャラリーは一夏と箒ちゃんと、クラスメイトが数人。

「今の所、千秋さんが勝ち越していましたわね」
「そうよ、五勝四敗で今のところ私の勝ち越し。今回の種目はセシリアが決める番よね」

 この勝負はIS知識では私、IS技術ではセシリアに軍牌が上がる状況で。知力ではなくIQの高さや運で勝負するというコンセプトの行われているのです。ちなみに、前回は将棋、その前がポーカー、その前はスピード、その前はバックギャモンでした。

「今回は、チェスですわ!」

 そう言いながら、セシリアはカバンの中からチェスの盤を取り出しました。

 チェス……、またこっちには厳しい物がきましたね。向こうはチェスの本場、対してこっちは将棋の延長線上でしか把握してない以上。戦略や場数も、圧倒的に向こうの方が有利なのは明白です。しかし、勝負は勝負なのです。

「ルールのご説明は必要でして?」
「問題ないわ。早速始めましょう」
「よろしいですわ。では、試合開始(ゲームスタート)ですわ!」

 盤に駒を並べ、開始を宣言するセシリア。さて、この状況からどう動かしますかね。

「お先にどうぞ、千秋さん」
「あら? ずいぶんと余裕じゃない」
「『一目を置く』という言葉が日本にはあるのでしょう?」
「それ、囲碁でのことわざよ」

 でも先手を譲ってくれるなら、最初に行かせていただきましょう。私は兵士(ポーン)を動かします。

「あら、そうでしたの? 勉強になりますわ」

 そう言って、セシリアも自陣の駒を動かしました。

「…………いきなり騎士(ナイト)を動かしますか」
「戦略ですわ。さあ、どうぞ?」

 確かに旨い手です。兵士と違って動きが変則的な騎士をいきなり戦場に持ってこられると、何もできずに兵士が食われていく可能性があります。故に兵士を無駄に動かすことができず、先に騎士を潰しに行かねばならなくなりました。

「ちょっと、ネチっこくない?」
「なら、そのようなことはございませんでしてよ?」
「ああ、そうですかっと」

 そう言いながら、再び別のポーンを。試合はまだ始まったばかりなのです。

 五分経過………

「チェックですわ」

 現在二十七手目。ここに来てかなり厳しい状況に追いやられました。

 現在私の取られた駒は、僧侶(ビジョップ)が一つの城壁(ルーク)が一つ、兵士が二つ。対して私が取った駒は、騎士が一つに、兵士が四つ。そして現在騎士に王手(チェック)をかけられている状況なのです。

「……………」

 正直厳しいですね。右に逃げれば兵士が固まっていますから、追撃はなさそうですが動きが封じられます。ここは、少し危険ではありますが中の方に逃げておいきましょう。

 私は王(キング)を動かします。

「………」

 セシリアの表情が少し動きました。やはり、私を壁際に追い込む作戦でしたか。

 さて、ここから考えられる作戦は。騎士を囮にして、格下の僧侶や城壁で落とすといった所でしょうか? いかに騎士を二つ失おうとも、僧侶や城壁も立派に曲者です。将棋で言う、飛車と角ですからね。

「千秋さん、あなたは今こう考えていますわね? 『騎士を捨てて、僧侶か城壁でこっちの王を落とそうとしている』と」
「ッ!?」

 読まれた! なんで!? 今回は私顔に出してないし、目の動きも気をつけてた。純粋に私の思考を読みきったの!?

「甘い、甘いですわ千秋さん! そのような単純な戦略をわたくしが練ると思いまして!? わたくしの優雅にして華麗な戦略、とくとご覧なさい!」

 そう言いながら、セシリアは更に自陣の駒を手に取ります。

 ッ!! その駒は……

「これがわたくしの『戦略』ですわよ!」

 そう言いながら、私の陣地に深々と切り込んできたセシリアの駒。

「チェックですわ」

 …………一番厄介な駒が出てきましたよ。最強の駒、女王(クイーン)。

 僧侶と城壁の機動力を合わせ持つ、最強の駒。戦場のどこに居ても脅威足りえるプレッシャー。それ故にとある言葉が存在しますが、そんなことを気にしていられる状況ではなくなってしまいました。

「ここで女王がくるとはね」
「切り札は、相応の時に切るものでしてよ」

 その意見には全く同感ですね。今は身に沁みて理解できる言葉ですが。

「でもこれって戦略って言うよりは力押しよね?」
「なんとでもおっしゃって下さい。『勝てば官軍ですわ』」
「よく中国のことわざまで知ってるじゃないの」

 にしても困りました。このまま行けば、後四手で詰みですよ。なにか策を考えなくては……。

「奇策は無理、強行突破も無理、さてどうするか……」

 しかし王手をかけられている以上、王を動かさない訳にもいきませんし。已む無く、王を逃がします。しかしそれによって、徐々に壁際に追いやられてしまいました。

「さあ、どうなさいますの千秋さん。後二手でチェックメイトですわよ」
「くぅぅ」

 おっしゃる通り、後二手でこの女王をどうにかしないとアウトの状況です。しかしなにも思い浮かびません。藁をも掴む気持ちで王を壁際に移動させますが、やはりしっかりと女王を動かして王の動きを封じてきました。
あれ?

「チェック。もう降参なさったら?」
「………ねぇ、セシリア? 戦場で最も恐ろしい物って知ってる?」
「恐ろしい物ですの? いいえ、存じませんけど……」
「じゃあ教えておいてあげるよ、戦場で最も恐ろしい物、それはね。“油断”だよ!」

 私はそう言い切って自陣の騎士で女王を取りました。

「ああ!?」
「『クイーンは迂闊に動かすな』、これってチェスの定石じゃなかったっけ?」
「くぅ、うううぅぅぅぅぅ!」

 セシリアが悔しそうに唸っています。

 確かに女王は盤上最強の駒。僧侶と城壁の機動力を合わせ持ち、盤の至る所に移動できる駒です。しかし、その機動力に振り回されて、移動先の注意を怠ってしまうことが多々あるのですよ。

 結果、兵士や騎士といった見落としがちな駒に取られてしまうことがあるのです。そこで生まれた言葉が、『クイーンは迂闊に動かすな』と言う訳なのですよ。

「ま、まだですわ! 千秋さんを追い込んでいるのは変わりないんですから、ここから……」
「残念だけどこっから先は、ずっと私のターン!」

 女王の脅威が消えた以上守備に徹する必要もなくなり、流れは私に向いているのですよ。

「とりあえず、邪魔な騎士は潰しておかないとね」
「あぁ!? そ、そんな……」

 どんどん行くですよー!

「んで、こっちの兵士も城壁でいただき。そんで、チェック!」
「い、いつの間に……」

 ようやくこっちに流れを掴めたのです。このまま乗っていければ……、

「でしたらこちらはその城壁、いただきますわ」
「はいかかった! その僧侶が邪魔だったのよね」

 セシリアが駒を動かしたことによって、こちらは一直線に空いた敵の陣へと兵士を進めます。これによって、私の兵士は敵の陣の最後のマスまで進みました。

「!? しまっ……」
「『プロモーション』、兵士を女王に!」

 そしてこれによりセシリアの王の目の前には僧侶によって道をふさがれ、右斜め左斜め共に兵士が陣取っています。そして、僧侶の遥か前方、私の陣地には女王。すなわち、これがどういうことかと言うと……、

「チェックメイト!」

 右手をL字型にして、銃のようにセシリアに向けました。

「ま、参りましたわ」

 セシリアは力なくそう言って、ガックリとうな垂れました。

「勝ったー! これで六勝四敗! 一気に引き離した!」
「くぅぅぅ、次は、次こそは勝ちますわ!」
「残念だけど、次は私が勝負決める番だからね」
「それでも勝ってみせますわ!」

 自分の決めた勝負で負けたのがよほど悔しかったのか、セシリアの食いつきがいつも以上にいいのです。

「やれるものならやってみなさいっての」
「言いましたわね! いいですわ! 今ここで決着をつけて差し上げますわよ!?」
「上等よ! その言葉、撤回するには遅すぎるわよ!」
「その前に貴様ら、なにか重要なことを忘れていないか?」

 あれ? なんだろうこの状況、ものすっごいデジャヴ。セシリアは真っ青になったまま固まっています。私は錆付いたブリキのように首を回して後ろを向くと、そこには阿修羅が居ました。

 セシリアさん? どうして貴女は気付かなかったのですか?

「昼休みはとっくに終了しているぞ? 馬鹿者が!」

 ズゴムッ!

 冬姉ぇの超☆合☆金☆拳骨が私とセシリアの頭に炸裂しました。今日は星をよく見る日なのです。



「うぁぁぁ、まだ頭が痛いよ~」
「自業自得だぞ千秋、早く準備せんか」

 またまた時間が移って夜。夕飯を終えた私と箒ちゃんは、お風呂の準備をするために自室に戻ってきました。

「わかってるよ。ん、シャンプー持った、トリートメント持った、クレンジングオイルとコンディショナー持った、タオル持った、洗顔フォーム持った、湯上り用の豆乳持った。完璧」
「よし、行くとするか」

 箒ちゃんと私、一緒に歩いて大浴場へ向かいます。やっぱりお風呂は大きいのがいいですよね!

「む? どうしたのだ千秋? なぜ脱がない?」
「箒ちゃん、私ね、今ね、箒ちゃんとルームメイトになったこと後悔してるよ」
「な、なぜだ?」
「自分の胸に聞いてください」

 まさに文字通り! 自分の胸囲(むね)に聞いてください!

「なにそのスイカ、胸についてて重くない? 毟り取ってあげようか?」
「ち、千秋! 目が据わっているぞ! 前にも言っただろう! こんな物、武術をやるうえで邪魔にしかならぬのだ」
「そうは言っても……」

 ああ、脂肪吸引機があったら箒ちゃんの胸に押し当ててあげるのに……。そんなことを考えながら、入浴前の水分補給をしていたときです。

「あら? 千秋さんに篠ノ之さん、今からですの? ご一緒してもよろしくて?」
「む、オルコットか。お前も今からなのか?」
「ええ、今日はちょっと嫌なことがありましたので、気分転換に」

 ……………グハッ!!

「ち、千秋どうしたのだ!?」
「千秋さん!? なぜ口に含んだ水を思いっきり吐き出して倒れていますの!?」
「か、神は……死んだ」
「なぜそこでニーチェが出てくる!?」

 そりゃ死んだ気にもなりますよ。なんですかこの構図、なんなんですか!?

「箒ちゃんにセシリア、アンタ達揃って私のことバカにしてんの?」
「な、何を言っている?」
「そ、そうですわ千秋さん。何を根拠にそんなことを?」
「その、無駄に大きなスイカップに決まってんだろうがぁぁぁぁぁぁ!!」

 私の渇望をナメるなぁぁぁぁぁぁ!!

「なんなんですかそのスイカップ達は!? 私への当てつけ? 当てつけですか!? Bカップじゃ太刀打ちできないのは分かってるですよ! それなのにこれ見よがしに見せ付けてくれちゃって! しょせん私のような貧乳は、行き場なんてないってこと!? 露天風呂は貧乳進入禁止ゾーンだし、サウナだって願い下げです! 私のような貧乳は、場違いな大浴場辺りで針の筵(むしろ)に包まってろってか!?」
「ち、千秋、落ち着け!」
「そ、そうですわ千秋さん、小さくても需要は……」
「誰の胸が洗濯板だぁぁぁぁぁぁ!?」
「そんなこと言っていませんわ!」

 どうせ私なんてBクラスですよ、したから数えたほうが早いですよ! 男性の求める胸のサイズの平均はC~Dと聞いたことがありますが、そんなに巨乳が好きですか!? 大きいおっぱいがいいんですか!?

“はい、大好きです”

 作者、殺すのDEATH!!

「とりあえず千秋さん落ち着いてください、作者を殺すのは後にしまして」
「そうだぞ千秋、作者を殺すのは後にしろ。この場の収集がつかないだろう」

 ハッ!? 落ち着け、落ち着くんだ織斑千秋。そうだ、KOOLだ。KOOLになるんだ。

「だ、大丈夫。大丈夫よ。箒ちゃん、セシリア」
「そ、そうか」
「よかったですわ」
「うん。大丈夫。だからその大きいやつを隠してくれないかな? かな?」
「ち、千秋? 目に光が灯ってないぞ?」
「千秋さん、まだ治っていませんの?」
「ナカにダレもイませんよ?」
「それは禁止ワードですわぁぁぁぁ!!」

 そんなこんなでドタバタしながら、私たちの入浴時間は過ぎていたのです。いけませんね、入浴とはもっと静粛に行われるべきなのに。誰が原因でこんなことに。

 え? 私ですか?



「あー、いいお湯だった」
「こっちは気が気ではなかったぞ。終始お前の獲物を狩る狩人の目が突き刺さっていたのでな」
「う~、ごめん。次回からは気をつける」

 今回が始めての一緒の入浴だったのが災いしたのです。いつも箒ちゃんは剣道部の練習で遅いので、入浴時間は最後のほうですからね。

「もうすぐ六月だな」
「そうだね。もう二ヶ月か、早かったような濃かったような」
「そうだな。一夏のおかげで平穏とは言えん学園生活だな」
「そんなこと言ったらIS学園に来た時点で、平穏とは無縁でしょう?」
「それもそうか」

 お互いに笑いあいます。

「ではもう寝るとしよう、おやすみ千秋」
「箒ちゃんも、おやすみ。また明日も頑張ろうね」
「ああ、お互いに頑張ろう。電気、消すぞ」

 そうして暗闇に包まれました。

 頭をよぎるのは今までの一夏絡みの事件。セシリアとの決闘、鈴ちゃんとの再会と試合、そして謎のIS襲撃事件。冬姉ぇに聞いても緘口令の一言でぶっちぎられましたし、黛先輩の方でも動きは掴めていないそうです。

(たぶんこのまま有耶無耶に消されるんだと思いますけど、にしても納得がいかないですよ)

 もうすぐ六月、一夏に関わっている以上無事平穏に終わるなんて考えていませんから。

(願わくは、どうか面白くありますように)

 そう願って、私は眠りにつきました。



※  あとがき

 どうも作者です。
 遅くなって申し訳ありません!! お待ち頂いた、諸姉諸兄の方々。お待たせいた
しました!

 もう言い訳はありません。ただただ、時間のみが無駄にかかってしまいまして。
このような期間を空けてしまいましたことをお詫び申し上げます。

 今回の話は日常編です。コメディーやパロディーをふんだんに使った仕様となっ
ております。不快に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、なにとぞご容赦頂き
たく。

 また誤字や脱字、ご意見などございましたら。感想の方へドシドシと書き込んで
頂きたく存じます。皆様の温かいご声援、心からお待ちしております。



[26388] <第三章>第一話 これより……私は掃除をする!
Name: ゴリアス◆1198178c ID:c3f2b8ad
Date: 2011/05/07 09:42


 六月初めの土日連休。私と一夏はその休みを使って家のほうへ帰ってきました。目的はただ一つ。家のハウスキープがちゃんとできているかが心配だったのです。

 結果は、残念でした。いやいや、気持ちよかったですよ。二ヶ月分のホコリ大掃除! 邪魔だった一夏はどっかに遊びに行ってもらったんですが、本当なら一夏にも手伝ってほしかったですよ。

「ま、アイツがそこまで気が利くわけないか」

 私が照れ隠しに遠慮した素振りを見せたら、本当にそれを鵜呑みにしましたしね。しかし時間は午後一時近く、さすがにお腹が鳴ったのです。

「ん~、帰りの電車賃を考えると。やっぱり自分で作るのが一番なんだけどねぇ」

 そういいながらため息をつきます。

 私には料理スキルはありません。皆無です、絶無です、空っきしです! 以前一度だけ台所に立ちましたが、それ以降は一夏から禁止令が出されました。曰く、『千秋に料理させると、台所が壊滅する』らしいです。

 私の料理は戦略兵器ですかっての!?

 なんて落ち込んでもいらんないので、とりあえずは着替え。そして財布を持ってレッツお出かけ、向かった先は……、

「おっじさ~ん、『業火野菜炒め定食』ひとつ~!」
「ん? 千秋?」
「お、千秋!」
「あ、千秋さん」
「あるぇ? 一夏に五反田君に蘭ちゃんも」

 五反田食堂。絶賛一夏たちも食事中でした。思わず園崎さん家の魅音ちゃんのようなしゃべり方になっちゃったのです。

「おう千秋。一夏たちと同じもんでいいなら食ってけ」
「ありがとうございます。ご馳走になります!」

 渡りに舟! 今月のピンチをまたもや救ってくれました! ありがとう厳さん! でもおっかないからその筋肉ムキムキの二の腕を露出すんのはやめて!

「なんだ、五反田君の所に来てたんだ」
「ああ、お前こそどっか行かなくていいのか?」
「今から出かけたって夕方までしか遊べないでしょ? 今日の夜には帰んないといけないんだから」

 寮生活も楽じゃないのです。

「で、さっきの話の続きだ一夏。鈴と、えーと誰だっけ? ファースト幼馴染と再会したって?」
「ん? 箒ちゃんのこと?」
「ホウキ……? ダレですか?」
「俺と千秋のファースト幼馴染」
「ちなみにセカンドは鈴な」
「サードで蘭ちゃん?」
「いや、そこまで幼馴染とは言わないだろ?」

 バカ一夏め。そこは蘭ちゃんも幼馴染に加えてあげないとかわいそうでしょ。ほ~ら一夏が否定したから蘭ちゃん少し落ち込んじゃったじゃない。

「ところで蘭ちゃん、今日はけっこう気合の入った格好してるけど。これから出かけるの?」
「い、いえ、出かける予定はないんですけど……」

 チラチラとカレイの煮付けを食べている一夏に視線を送っています。なるほど、そういうことですか。

「い~ちか。蘭ちゃんの格好、綺麗だと思わない?」
「ち、千秋さん!?」
「ん? ん~、そうだなぁ。蘭はもっと動きやすそうな格好のほうが似合うんじゃないか?」

 こんのバカは…………。

「そ、そうでしょうか……」
「いや、その格好も似合うぜ? でもさ、もっとこう、あんまりヒラヒラしてない方が俺としては好きかな」
「!? で、では、今から着替えて……」
「いや、蘭ちゃん。食事冷めちゃうし、一夏も深い意味はないと思うから」
「ハッハッハッ、蘭。今さら着替えた所で印象は変わらな………」

 五反田君が何か言いかけた所で、蘭ちゃんの視線が絶対零度になりました。それの直撃を浴びた五反田君はその場で凍結、解凍できるまでは身動きは取れなそうですね。

「でもIS学園ですか。寮生活なんて羨ましいですよ」
「いや、けっこう大変だぜ? 寮監は怖いし妹と同室強制されるし」
「ど、同室!?」

 ガタンッと音を立てて蘭ちゃんが立ち上がります。ワンテンポ遅れて、いすがガタタッと倒れました。

「ど、どうした? 落ち着け」
「そうだよ蘭ちゃん、落ち着いて」
「そうだぞ落ち着け」

 ギンッ! 再び凍結する五反田君。せっかく解凍が終わったのに、缶詰工場に持って行きましょうかね?

「い、一夏さん? 同じ部屋っていうのは、つまり、寝食をともに……?」
「別に普通のことだろ? いつもの家での生活となんら変わらないよな?」
「いや、けっこう違うよ? ニュアンス的に」

 家族として家に一緒にいるのと、家族とはいえ旅行でもないのに同室になるとでは全然意味合いが違ってくるのですよ。蘭ちゃんからすれば特にね。

「い、今もそうなんですか?」
「いや、今は別々の部屋だよ。もう一ヶ月になるのか?」
「そうだね。私が箒ちゃんの部屋に移ってから一ヶ月くらいかな?」

 もう一ヶ月ですか。月日が経つのは早すぎるのですよ。

「でも、四月中は一緒に居たんですよね?」
「ん、そうなるな」

 くらっ……といった感じに一瞬意識が遠のいたらしい蘭ちゃん。五反田君から何にも聞いてなかったんですかね? そして五反田君の方はメッチャ青い顔をしながら汗をかきまくってますよ。あと一夏、くだらないこと考えてんじゃないの。

「……お兄。後でO☆HA☆NA☆SHIしましょう?」
「お、俺、この後一夏と出かけるから……。は、ハハハ……」
「では夜に」

 哀れ五反田君の妹を思う心は、蘭ちゃんの神経を逆なでしたに過ぎませんでしたマル。

 それにしても蘭ちゃん、変わりがなくって良かったのです。まぁ、二ヶ月程度で変わったらそれこそびっくりですけど。カッコ、ウチの家の中はのぞきます、カッコトジ。

「しかし鈴ちゃんに箒ちゃんにセシリア。一夏の周りも段々とハーレムじみてきたわよね」
「こら千秋、ハーレムってなんだよ」
「文字通りよ。ハーレム、正式にはハレム。過去のイスラム圏での女性の居室のことを指し、日本の大奥とも酷似している文化で。ハレムの中から本妻や副妻を選ぶ風習も……」
「だれもハーレムの意味なんか聞いてないっての。なんでそんな言い方を……」
「決めました!」

 おう、一夏のセリフを遮るとは、中々に強者ですね蘭ちゃん。

「私、来年IS学園を受験します!」
「!? お、お前、なに言って―――」

 ガタタッ!

 その言葉に過剰に反応したのが五反田君、思わず立ち上がってしまいました。その影響でイスが大きな音を立てて倒れました。

「一夏、頭!」
「おう!」

 ビュッ―――――グワァッン!

 直後、さっきまで中華鍋を振っていた厳さんの方から加熱されていない空の中華鍋が飛んできたのです。そしてそれは見事に五反田君の額に命中し、五反田君自身はそのまま後ろに倒れそうになったですが、地面に激突する寸前に一夏が服を掴んでそっと下ろしたのです。

「今の勢い、死んだんじゃないの?」
「この程度で死ぬようなら私も苦労しません」

 う~ん、蘭ちゃんも苦労しているんですねぇ。

「でも受験するって? 蘭ちゃんの学校ってエスカレーター方式のスーパーネームバリュー校、『聖マリアンヌ女学院』でしょ? そこの中等部生徒会長といえば、受験なんか無縁の世界でしょうに」
「大丈夫です。私の成績なら余裕です」
「でもIS学園って筆記だけじゃ入れないんじゃなかったか?」
「うん。ISを起動させて、簡単な稼働状況判定と模擬戦をやるの。ほら、一夏がセシリアともめたあの試験」
「ああ、アレか」

 私もアレを通過して、入試主席になったんですよね。まぁ、稼動状況だけではセシリアに負けてますけど。

「………これを」

 そういって蘭ちゃんは一枚の折りたたんだ紙を取り出しました。なんですか? 推薦依頼書? そんなのはありませんよ?

「なにこれ………、って、あにぃ!?」
「どうした千秋……、おおぉ!」
「問題はすでに解決済みです」

 IS簡易適正試験、A判定。そこには様々な数値が並び、最終判定でA評価がされています。

「それって希望者が受けれるやつだっけ? たしか、政府がIS操縦者を募集する一環でやってるっていう」
「ええ、そう。私もこれを受けてみてからIS学園受験に望んだの。凄いね蘭ちゃん、A判定なら入試試験でB以上はほぼ確定だよ」
「ほ、本当ですか!?」
「間違いないって、私も簡易でAだったし。まあ、入試になったらB+だったけど」

 一夏よりもIS操縦上手いんじゃないですか?

「で、ですので」

 そういって咳払いをした蘭ちゃんは、再び椅子に座りなおします。

「い、一夏さんには先輩として是非ご指導を……」
「ああ、いいぜ。受かったらな」
「それ以前に、アンタがIS操縦を完全にマスターしないとね。入試B+って、アンタよりも高いんだから」
「え!? そ、そうなんですか!?」
「まぁ、入試時点ではだけどね」

 今ではたぶん一夏の方が上手いでしょうね。やはり専用機というアドバンテージと、実戦という経験値は何物にも変えられません。『若いうちの苦労は買ってでもしろ』とはよく言ったものです。

「でも、約束しましたよ!? 絶対、絶対ですからね!」
「お、おう」

 物凄い勢いで一夏に迫る蘭ちゃん。そこ勢いに押されてか、一夏が二回頷いています。

「おい、って言うか蘭! お前何勝手に学校変えること決めてんだよ! なあ母さん!」

 あ、五反田君復活。復活に定評のある彼でも、さすがに中華鍋は結構効いたらしいですね。

「あら、いいじゃない別に。一夏くん、蘭のことよろしくね」

 そうニコニコしながら言っているのは、二児の母であるはずの蓮さん。

 二児の、二児の母です。大事なことなので二回言いました。おかしくないですか? 五反田君が私たちと同じ年ですから、最低でも三十代前半くらいのはずなんですよ? 目の前にいる女性のことを初対面の人、百人に『何歳に見えます?』って聞いたら大半がこう言うでしょう『二十代半ば?』。残りの人はもっと若く言うかもしれません。

 …………おかしいですよね? あの体系と顔、どうみても二人生んでるとは思えないですよね? 不老長寿の薬はいつの間に開発されたんですか? 是非とも私に分けてくださいよ!

「あ、はい」
「はい、じゃねぇ!」

 そんな私の思考を他所に、一人ヒートアップしている五反田君。うんうん、孤軍奮闘頑張れ!

「ああもう、親父はいねぇし! いいのか、じーちゃん!」
「蘭が自分で決めたんだ。どうこう言う筋合いじゃねぇわな」
「いやだって―――」
「なんだ弾、お前文句があるのか?」
「…………ないです」

 うんうん、相変わらず見事なパワーバランスです。

「弾、相変わらずの弱さだな。身内にしっかり意見しないと―――」
「え? アンタそのセリフ冬姉ぇの前で、もっかい吐ける? 頑張って、骨は拾ってあげるから」
「誠に申し訳ありませんでした。前言撤回させていただきます」

 私に向き直って深々と頭を下げる一夏。この男、史上最強の身内のことを忘れていたようですよ。『史上最強の姉チフユ』、少年サンデーで掲載無理かな? 無理だよね。

「では、そういうことなので。ごちそうさまでした」

 合掌しながらそういった蘭ちゃんは食器を片付けに厨房へ入っていきました。

「おい、一夏」

 蘭ちゃんが離れた隙をみて、五反田君が一夏と小声で話しています。

「お前、すぐに彼女を作れ。すぐに!」
「はあ?」
「はあ、じゃなねぇ! すぐ作れ! 今年―――いや、今月中に!」

 おやおや五反田君も必死ですねぇ。しかしこのカボチャの煮物、どうしてこんなに甘いですかね? これ一切れでパンプキンプディング一個分のカロリー取れてないですか?………明日は間食自重しよ。

「千秋! お前も何とか言ってくれ! このままだと、お前年下の姉が出来ちまうぞ!」
「私は蘭ちゃんサイドなので、私に何かを頼むのはお門違いよ?」
「ちくしょう! 俺の周りは敵だらけか!?」

 そんなことないですよ五反田君。ミミズだってオケラだってアメンボだって、きっとどこかに仲間はいるはずなんですから。

「お兄」

 あ、蘭ちゃんが戻ってきた。おやおや、なぜでしょう? 蘭ちゃんの背後に修羅が見えます。まさかスタンド!? 蘭ちゃんはついにスタンドに目覚めましたか! 台所でヤジリに触りました!?

「お、おおおお、おう。ななななんだ?」

 五反田君はあのスタンドのオーラにあてられて震えています。一夏はあのスタンドが見えていないのか、のんびりとしています。この鈍感野郎め。

 そして蘭ちゃんが目で語っている言葉はただ一つ。


『ヨ ケ イ ナ コ ト ヲ ス ル ナ』


 その目は確かにそう語っていました。まずいです。いや、定食は美味しいんですけど。あの目線を向けられたら百年の恋も冷めるんじゃないでしょうか?

「で、では私はこれで」

 私の懸念を察したのか、もしくは自分で気付いたのか。たぶん両方でしょうけど。蘭ちゃんはそそくさと居住の方へ向かって去っていきました。

「さて、では私も蘭ちゃんのところにお邪魔しますかね。ごちそうさまでした」
「なんだ、千秋は一緒に遊びに行かないのか?」
「今回はパス。六時に家の前で待ち合わせってことで」

 食器を下げて、厳さんに一礼します。

「蓮さん、蘭チャンの所に行ってもいいですか?」
「ええいいわよ。玄関の鍵はかかってないはずだから」
「ありがとうございます」

 ちなみに、蓮さんのことは『蓮さん』と呼ばなくてはならないのです。前に一度『おばさん』と呼んだら……。止めましょう。私はまだ精神疾患にはなりたくないのです。

 そうして蘭ちゃんの部屋の前についたので、ノック。

「は~い」
「私だよ~」
「ち、千秋さん? ちょっと待って下さい」

 やや待ち、そして扉が開きます。

「お待たせしました」
「や、ちょっと入ってもいい?」
「ええ、どうぞ」

 蘭ちゃんの部屋に入るのも久しぶりですね。勉強でもしていたんでしょうか、机の上には参考書とノートが開かれています。

「きゅ、急にどうしたんですか?」
「いや、ちょっとお話しない? 私これからちょっと暇でさ」
「え? 今から、ですか?」

 おや? ちょっと予定が合わないですかね?

「一夏のIS学園での土産話とかあるよ~?」
「ちょぉっとお待ちください。今、お茶とお茶菓子をお持ちします」
「よろしく~」

 慌てて用意しに行った蘭ちゃんの背中を見ながら思います。ちょっと卑怯だった?



※  あとがき

 やったー! 一週間には間に合ったー!!
 こんばんわ、ゴリアスです。

 更新速度が大幅に遅れてしまいましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか? わ
たくしはゴールデンウィークというなの地獄を堪能しておりました!
 はぁ? 休暇? そんなもん前世に置いてきたぜベイベェー! 死ぬわ、マジ死
ぬわ! サービス業ハンパネェ!!

 今後も更新遅れるかもしれませんが、どうか温かい目で、ご支援を賜りたいと存
じます。よろしくお願い申し上げます。



[26388] <第三章>第二話 これより……私は、はたかれる!
Name: ゴリアス◆1198178c ID:c3f2b8ad
Date: 2011/05/17 02:49


「たっだいま~って、あっるぇ? 箒ちゃん不在~?」

 せっかくお土産話もあるっていうのに。

「まあいいか。今日は色々疲れたのです」

 あの後、根掘り葉掘り一夏のことを聞かれて。黙秘権と守秘義務を盾にどうにか逃げ切りました。しかし、疲れた。やっぱり恋する乙女のハートは∞(無限大)ですね。

「無限大な夢の後の~、何もない世の中じゃ~♪」

 初代デジモンのOPを口ずさみながら手早く着替えて、楽な格好になります。そしてベッドに横になりました。

「さ~て、今月は学年個人別トーナメントですか」

 思い出すのは先月の対抗戦。あの事件は結局有耶無耶とされ対抗戦そのものが中止。その件に関しては緘口令が敷かれ、直接戦闘した一夏と鈴ちゃんとセシリア、そして私までもが誓約書にサインをさせられました。まあ、四六時中見張りがつけられるよりは百倍マシですけど。

(やっぱり考えられるのは二つ。他国からの一夏を狙った強制介入か、束姉ぇの仕業か)

 後者ならば目立った問題はないのです。

 あの、天才束姉ぇです。いつも大きな事件を起こしてみんなを騒がせますが、あの人が親友や自分の溺愛している妹、そしてその親友の兄妹に被害を及ぼすとは考えにくいのです。

 問題は前者であった場合。一夏を誘拐し、その後どうするのか。考えられるのは……

(一夏を解剖、解析して。男性の乗れるISを開発すること……ですかね)

 現在IS乗れるのは女性のみ(一部例外は除き)。しかしそこに、男性の乗れるISが実戦投入されたらどうなるか? 簡単な話です。世界のパワーバランスが一変します。どんな小国だろうとも、極秘裏に開発しそして数を揃えて一気に実戦投入する。それだけで近隣諸国をあっという間に制圧、領土を莫大に広げることが出来るでしょう。その後に、用済みになった一夏をなかったことにしてしまえばいいのです。

 もちろん、そんなことすれば国連が黙っていませんし。男性の乗れるISを作ったことで一夏誘拐の疑惑が一気に上昇、結果足がついて世界戦争レベルの戦力を集中してその国は終わるでしょうけど。

(情報が足りないのです。あのISの正体、その後どうなったのか、そして現在置かれている一夏の状況。全ての情報が!)

 冬姉ぇが情報封鎖を引いているのはわかってます。そしてIS学園の方でも。いったい何が起こっているのか、、さっぱりわからないのが現状です。

(焦っても、仕方ないのかなぁ)

 そんなことを考えていると、急にまぶたが重くなってきました。

(ああ、そうか。今日は早く起きて、それからずっと動きっぱなしだったんだっけ……)

 唐突に訪れた眠気に、私は身を委ねてしまいました。



 ああ、またこの夢ですか。

 歩いているのは武家屋敷、左には庭園右には襖。その板張りの廊下をただひたすらに真っ直ぐに。そして出会うのは二人の人物。陰陽師風の人と、西洋騎士風の人。

「また貴方達ですか」
『然り、我等はここにて出会うべき者』
『されど、ここにて出会うべきにあらぬ者』
「ここはいったいどこですか?」
『然り、ここはどこでもある場所』
『されど、どこでもない場所』
「貴方達はいったい何者ですか?」
『然り、我等はまだ何者でもない』
『されど、我等はいかなる者でもある』
「なぜこの世界には色がないんですか?」
『然り、この世界には元より色など存在せぬ』
『されど、この世界には全ての色が存在する』

 埒があきませんね。と、そこまできて今回の夢に大きな違和感を覚えました。

「私、自分の意思でしゃべってる?」
『然り、貴女は貴女の望んだ言葉をしゃべるべきだ』
『されど、その言葉を統べる術を学ぶべきだ』

 西洋騎士風のやつがしゃべった時、庭園の方から青い鳥がやってきました。陰陽師風の人が手を差し出し、その手に止まらせます。ん? ちょっと待って、なぜその鳥だけ色がついているの?

『幸せの青い鳥は、待っているだけじゃ掴めないのさ』

 私の意識はそこで途切れました。



「う~、おはよ~」

 SHRギリギリで教室に到着。机に向かうと、そこには一夏と箒ちゃんとセシリアが輪を作っていました。

「おはよう千秋、どうしたんだ今日は? 食堂にも顔出さないし、箒とも一緒に居なかったな」
「朝は寝坊したから買い置きのカロリーメイト、箒ちゃんはやることあるらしくて別行動だったの」
「体調でも悪いんですの? よろしければ保健室までご一緒しますわよ?」
「いい、大丈夫だよセシリア。ちょっと夢見が悪かったの」
「そうか。起こしたときに妙に寝汗をかいていたのはそのためか」
「風邪かと思ったんだけどね。実際熱もなかったし、シャワー浴びてたら食事する時間なくなっちゃった」

 う~ん。お腹が満たされていないのです。カロリーメイトは腹持ちがいいのですが、その分満腹感は程遠いものなのですよ。こんなことならスニッカーズにするべきでしたか。

「アッキーン、これでも食べるぅ~?」

 空腹に悩んでいると、背後からやってきたのは布仏さん。手に持っているのはチョコレートです。

「た、食べる~! ありがと布仏さん!」
「えへへ~、アッキンがお腹すかせているのを見るのは忍びないからねぇ」

 うぅ、人の情が身に沁みます。ちなみにアッキンというのは私の布仏流あだ名らしく、前回訂正しようとしてもできなかったので諦めました。ああ、糖分が美味しい。

「ありがとう、本当にありがとう布仏さん」
「布仏さんなんて他人行儀だよ~、本音って呼んで~」
「うんうん、ありがとう本音ちゃん」

 ちなみに彼女、こんなにのほほんとしていますが。これでも生徒会役員であり、生徒会長更職楯無の家に代々仕えてきた布仏家の人間でもあるのです。まあ、普段の彼女からは想像も出来ませんが。

「おりむーも食べる~? まだまだあるよ~?」

 そう言いながら以上に長い服の裾からザラザラと私の机に小さなチョコから大きなチョコまで広げます。ど、どこに入っていたんでしょうか? もしくはその裾は、例の青ダヌキさん由来の……

「いや、俺はいい。というか、おりむーって止めてくれないのな」
「なんで~? おりむーはおりむーだよ~?」
「いや、いいや」

 諦めなさい一夏、彼女はそういう人種なのよ。

「諸君、おはよう」
『おはようございます!』

 そしてSHRの時間になり阿修羅……失礼、織斑千冬女史が登場。それにより、緩んでいた空気がピシリと引き締まったような気がしました。

 颯爽と歩く姿はまさしく威厳の塊です。『我が前に道なくとも我が作らん』と言わんばかりに大地を踏みしめています。と、こんなことを言ったら私死にますかね? 死にますよね!

(あ、ちゃんと自宅に帰った時に用意した夏用スーツ着てる。よかった、無駄になんなくて)

 ここ最近暑くなってきましたからね、生地の厚いスーツではそろそろ辛いかと思って夏用スーツを出しておいて正解でした。あの凛とした姿に一役買っているかと思うとちょっと誇らしいです。

「今日から本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないように。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着で構わんだろう」

 いやいや冬姉ぇ、下着姿はまずいでしょ。下着姿は。女子しかいないならまだしも、今年は珍人がいるんですよ? うら若き乙女の十六の青春に大きなトラウマ残しますよ? 将来彼氏の前で下着姿になれなくなったらどうするんですか! え? 何で下着になるのかって? ヤボだなぁお客さん。

 ちなみに指定の水着とはスクール水着です。絶滅危惧種と謳われ、男の欲望のはけ口とも言われているアレです。紺色のやつで、ご丁寧に胸の部分には名前を書く欄もあります。少し前、オークションにIS学園指定の水着が流され。落札価格が十万を軽く超えたそうです。バカばっかりですね。

「では山田先生、ホームルームを」
「は、はいっ!」

 連絡事項を終えた冬姉ぇは、さっさと山田先生に投げてしまいました。メガネを拭いていた山田先生は、慌ててメガネをかけなおしています。ああ、いいですねアレ。なんかホッコリしますよ。

「ええとですね。今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」
「え…………」
「「ええええええええええええええええ!?」」

 き、聞いてねぇです! 黛先輩からのメールもなかったし、独自情報網からも入手無しですよ!? なにこのサプライズ、軽く嬉しい!

「失礼します」
「……………」

 クラスに入ってきた二人の転校生を見て、ざわめきが止まりました。全員呆気に取られています。無論私もそうです。だって、転校してきたうちの一人が。男子だったんですから。

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 転校生の一人、デュノア君が礼儀正しく一礼しています。しかし呆気に取られている私達は反応が出来ず、ただ呆然としていました。

「お、男………?」

 誰かがそう呟いたのが聞こえました。そう、ですよね? 見間違いじゃありませんよね?

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を―――」

 改めてよ~く観察します。

 人懐っこそうな顔。礼儀正しい立ち振る舞いと中性的に整った顔立ち。髪は濃い金髪のロンゲ、それを首の後ろ辺りで束ねています。体は一夏と比べれば華奢、身長も男子にしては低いでしょう。しかし全体的に整った感じの美少年。

 惜しい! これでもう少し筋肉質であったら! あと数センチ、身長高ければ! 私のストライクゾーンど真ん中だったのに!!

「きゃ……」
「はい?」
「きゃあああああああああああああああーーーーーーーっ!!」

 衝撃波。ソニックウェーブ。好きに呼んでください。ともかく、それが発生したのかと思いました。よく教室の窓ガラスは割れませんでしたね。IS学園の窓ガラスは防弾性なんでしょうか?

「男子! 二人目の男子!」
「しかもウチのクラス!」
「美形! 守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれてよかった~~~~!!」

 個人的には同感なんですけどね。ってか最後の女子、人類の至宝を前に感動するのは分かりますが話を宇宙規模まで発展させないように!

「あー、騒ぐな。静かにしろ」
「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 冬姉ぇと山田先生(主に冬姉ぇ)の声で、ようやく黄色い声援が収まりました。

 頭が割れそうなほどの轟音を聞き続けたわたしの脳は未だにクラクラしていますが、そこは意識をしっかりと持ってもう一人の転入生を注視します。

 輝く銀髪、その髪を腰近くまで伸ばしておろしています。色合いは綺麗なんですがどうもその髪は手入れをしているようではなく、所々ではねたり縮れたりしています。右目はの瞳は真紅、とっても綺麗な目です。たしかアルビノ種というやつではなかったでしょうか? そして左目には眼帯。黒い皮製のものらしく、彼女の容姿には合わないのです。身長はデュノア君よりもさらに小さく、女子にしてもちょっと低めでしょう。そしてこちらに向ける目線は絶対零度。

 結論、軍人さんっぽい人がやってきました。

「……………………」

 そしてその軍人さん、さっきから一っ言も発しないまま腕組みをして直立不動です。時折こちらへ向ける絶対零度の視線は変わらず、未だに無言。しかし、今はもうある一点に集中しています。

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 そう、冬姉ぇに向けて。

「はい、教官!」

 冬姉ぇがそういった瞬間、いきなり佇まいを正して敬礼をする軍人さん(ラウラさん)。その行動にクラス全員がポカンとしています。当然、私もですよ? 冬姉ぇは冬姉ぇで、敬礼を向けられて面倒くさそうな顔をしています。

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」

 どうやら軍人さんの印象は間違っていなかったようですね。直立不動の敬礼姿勢、そして冬姉ぇを『教官』と呼称したことからも明らかです。

 冬姉ぇがドイツで軍事教官をしていたことは先生間では有名らしく、情報を集めていたら意外と簡単に集まりました。しかし未だに冬姉ぇのIS学園に来る前の過去の話は、本人から一度も聞かされていないのです。一夏も聞いていないようですし。

(ちょっとくらい、頼ってくれても良くないですかね。冬姉ぇ?)

 私達はやっぱりまだ頼りないんですかねぇ?

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ!」
「……………」

 うん、単純明快な自己紹介をありがとう。

 で?

「あ、あの、以上……ですか?」
「以上だ」

 ああ、何ということでしょう。この転校生、コミュニケーションという言葉をどこかに忘れてきてしまったようです。いけませんねぇ、転校初日に忘れ物は。

「冬姉ぇもそういう所しっかり教育しておいてよ………」

 ボソリと呟いた言葉です。おそらく一夏も含めてクラスで三名も聞き取れていないでしょう。しかし、その三名に転校生も含まれてしまったのは誤算だったのです。その呟いた瞬間、私とバッチリ目が合ってしまいました。

 ほぇ? なんかこっちにカッカッと靴を鳴らしてやってきますよ? しかもなぜか怒っているような―――


 バシンッ!!


「…………」
「ふっ?」

 いきなり鋭い衝撃が左側から襲い掛かりました。その反動で、私は右を向いたまま動けません。

「私は認めない。貴様があの人の妹であるなど、認めるものか!」

 え? 何? 私、何されたの?

 混乱から帰ってこれず、未だに頭の中がグルグルしているのです。そしてようやく思考が正常化すると、今度は左頬を鈍い痛みが襲います。左手を添えると、まだ熱を持っていて左手が冷たく感じました。

 私、ぶたれたの? 左頬を? 平手打ちで?

「いきなり、ご挨拶ですね!」
「ふん!」

 やられたらやり返す! ケンカの常識!! 私はそのまま戻ろうとした彼女に掴みかかろうとして……

「やめんか馬鹿者共」

 冬姉ぇに羽交い絞めにされました。

「! 教官………」
「放して冬姉ぇ! この女には一発返さないと気がすまない!」
「落ち着け織斑妹、この場は私に免じて収めろ」

 ……………

「わかりました。織斑先生」
「よし。ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 あの場で引かなければ、私は冬姉ぇの顔に泥を塗ることになります。それだけは避けたかった私は、何とか矛を収めました。

「さ、災難でしたわね千秋さん」
「大丈夫か千秋、痛むようなら保健室から氷をもらってくるが……」
「大丈夫。ありがと、箒ちゃんにセシリア」

 心配してくれる級友二人に軽くお礼を言って、改めてあの女を睨みつけます。しかし私の視線などどこ吹く風と言わんばかりに、さっさとISスーツに着替え始めました。しかも、まだ一夏達のいる教室で。

「んなぁ!?」
「どうなさいまして……、まぁ!」
「ッ!? 一夏ぁ! さっさと行かんか!」
「お、俺!? って、んなこと言ってる場合じゃない! おい、デュノア。行くぞ!」
「へ? 行くってどこへ……」
「アリーナの更衣室だ! このままじゃ女子の着替えのど真ん中に遭遇しちまう!」

 デュノア君を連れて教室を駆け出す一夏。その一夏達を発見した他のクラスの連中が、一斉に二人をおいかけていきました。

「一夏達、次の授業間に合うのかな?」
「あの集団に捉まったら難しいでしょうね」
「軟弱者め。日頃の鍛錬を怠っているから、いざというときに困るのだ」

 それに関しては全く同意見ですね。

「んで、箒ちゃん。さっきから持ってるソレは、ナニ?」
「ナニって、ISスーツに決まっているだろ?」
「ソレガISスーツダッテイウノ?」
「そ、そうだが?」
「セシリアノソレモ?」
「そ、そうですけど……」

 …………神様! 持つ者と持たざる者、公平にとはこの際言いません! せめて見劣りしないくらいにはできなかったんですか!? 出来なかったんでしょうね! ですからこの状況が生まれているんですからね!

「ハァ、持ってる人って本当に羨ましいよ」
「ち、千秋? なんのことを言っているのだ?」
「気にしないで箒ちゃん。負け組みが勝ち組を羨ましがっている、そう考えて」
「そ、そうか―――」

 大きいことは正義って、どこの誰が言ったんですかね? ちょっと表でお話したいくらいですよ。

 無論コブシで!



※  あとがき

 超、遅くなってしまい申し訳ありません。
 楽しみにしてくださっている諸兄諸姉の方々には、まっことに申し訳ありません
でした!

 これからは何とかペースを上げられると思うので、どうか見捨てずに温かいご支
援と感想、ご指摘の方をよろしくお願い致します。

 まずは、挨拶までで。



[26388] <第三章>第三話 これより……私はブチ切れる!
Name: ゴリアス◆1198178c ID:c3f2b8ad
Date: 2011/05/24 23:10


「遅い!」

 あ、一夏が怒られてる。

 現在グラウンドにいるのは一組と二組、その整列に参加していない二人が冬姉ぇからお叱りを受けています。言うまでもなく、一夏とデュノア君です。

「くだらんことを考えている暇があったらとっとと列に並べ!」

 バシーンッ!

 冬姉ぇの出席簿アタックのキレは今日も健在のようです。それを受けた一夏と、クスクス笑っているデュノア君が一組の列の一番端に並びました。ちなみに私は真ん中らへんです。

 う~、この距離では話すには遠すぎますね。デュノア君には聞きたいことが色々あったんですが。

「…………しゃい………合うくせ……」

 ん? ボソボソと聞こえるのはセシリアの声ですね。あ、一夏の横だ。いいな~。

 しかし私にはどうすることも出来ないので、とりあえず見回っている冬姉ぇの監視を潜って近くの人とお話でも……

「はあ!? 一夏、アンタなんでそうバカなの!?」

 …………なんてことを考えていたら、鈴ちゃんの大声が響きました。

 鈴ちゃん、南無。

「―――安心しろ。バカは私の前にも二名いる」

 これからの惨劇は直視に耐えません。私はそっと目をつぶってセシリア達とは逆を向きます。

「アッキン、どうしたの?」
「本音ちゃん、貴女も直視しないほうがいいよ」
「ん~? 何のことか分からないけど、アッキンがそうした方がいいって言うならそうするぅ~」

 うんうん、いい子ですよ本音ちゃん。

 ババシーンッ!!

 嗚呼、無常の出席簿アタック。



「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
『はい!』

 一組、二組共に気合の入った返事です。当然ですよね。ようやく生のISに触っての訓練ですから。……生のISって言い方おかしくないですかね? 機械であるはずのISが生とはこれいかに?

「今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。―――凰! オルコット!」
「な、なぜわたくしまで!?」

 あ~、諦めてセシリア。たとえとばっちりであろうとも、冬姉ぇに理屈の類は通用しないのです。言うなれば、『冬姉ぇがルール』だから。

「専用機持ちはすぐに始められるからな。いいから前に出ろ」
「だからってどうしてわたくしが……」
「一夏のせいなのになんでアタシが……」

 一夏、アンタたぶんこの訓練中に一度は事故を装って撃たれるよ?

「お前らすこしはやる気を出せ。―――――――」

 ん? なに言った? 冬姉ぇがほとんど口を動かさないで何か言いましたよ? 読唇術のスキルでもあれば、あの会話の内容が読み取れたのに! 今度どっかで習いましょうかね?

「やはりここは! イギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」
「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね! 専用機持ちの!」

 おぅ、鈴ちゃんとセシリアのやる気が急上昇!? なに? なにを言われたの? 何かを奢ってもらうとか? いや、そんな単純な理由じゃあの二人のやる気が上昇するとは思えませんね。もっと直接的な、やる気が跳ね上がるような何か……

「よもや一夏となにか!? おのれ鬼畜姉ぇめ! ついに弟の貞操まで売り渡したか!?」
「何を不適切なことを口走っている、大馬鹿者」

 あれ? なぜ阿修羅が私の目の前に? やだなぁ、冬姉ぇは今しがた鈴ちゃん達のところに……

 ズドムッ!

「先生には敬意を払え、そして私語は慎め。馬鹿者が!」
「ご指導、ありがとうございました。織斑先生」

 ああ、これは現実なんですね。

「千秋! 話の腰を折らないでよ! で、先生。相手はどこですか?」
「あら、わたくしは凰さんがお相手でもぜんぜん構いませんでしてよ?」
「ふふん、こっちのセリフ。返り討ちよ」
「慌てるなバカども。対戦相手は―――」

 キィィィィィン………

 ん? 耳鳴り? 違いますね。もっと物理的な……。そう、飛行機が飛ぶときのような、質量を持ったものが空気を切る音ですね。発信源は……

「ああああーっ! ど、どいてくださ~~~いっ!」

 ここよりも上空―――

 ドガーン!

 何!? 何事!? 人が真剣に悩んでるときに! 空から落下物!?

「親方! 空から女の子が!」
「へっ? 誰が親方!?」

 うん、名も知らない二組の女子よナイスツッコミです! で、いったい何事なのですか?

「で、何が起きたの?」
「え? 親方のくだりは?」
「ただのお約束よ」
「まあいいけど。私にも詳しいことは分かんない。ただ、ISッぽい物が織斑くんに衝突したということしか……」
「ッ!? 大丈夫なのアイツ!」

 周辺を確認すると、土煙の周辺にデュノア君、鈴ちゃんとセシリアと箒ちゃんは助けるために近寄っています。いけない、私も行かないと。

「一夏ぁ! 大丈夫!?」
「あ、ああ! 白式の展開がギリギリ間に合った……」

 ん? ヘンな所で切りましたね? お、ようやく土煙が晴れて………

 アレ? 何でしょう? 何でしょうか、この構図。ああ、見たことありますよ。確かこれって、O☆SHI☆TA☆O☆SHIって言うんですよね? 主に、男性が女性に夜這いをかけるときにするっていうあの……

 一夏と先生が何か言葉を交わしていますが、そんな物はもう聞こえませんよ?

 シュン

 近くで空気が軽く動く音がしました。見ると、セシリアと鈴ちゃんがISを展開しています。

「セシリア。今、一夏の頭がある位置に《ブルー・ティアーズ》を一発発射。それを囮にして、頭一個分空けた空中に本命のライフルを打ち込んで」
「了解しましたわ」
「鈴ちゃんは《双天牙月》を組み合わせて両刃状態しておいて。セシリアのライフル命中を合図に、思いっきり首を狙って投擲。かわされた瞬間に《衝撃砲》を使って一夏を誘導、戻ってきた刃の餌食にして」
「うん、わかった」

 さて、一夏。覚悟はいいですね? いいですよね? 答えは☆聞いてない。

「ってえ!」

 セシリアがレーザーを一発発射。そしてその発射から数秒後にライフルを発射します。その狙いは寸分違わず一夏の頭一個分上。そして一夏は私の予測どおり。最初のレーザーは何とか回避しましたが、その直後に来る本命に見事に命中!

「んなっ!?」
「次ッ!」

 そして間髪入れずに鈴ちゃんの双天牙月の投擲。それに何とか反応した一夏はギリギリで回避しましたが、その後に来る衝撃砲により誘導され、双天牙月の戻ってくるコースど真ん中に居ます。

「マズッ!」
「はっ!」

 ドンッ! ドンッ!

 しかしそれを防いだのは第三者でした。発射された二発の銃弾は的確に双天牙月の両端、刃の部分を叩き軌道を狂わされたのです。

「あの状況で、ダレが?」

 キンキンという薬莢の跳ねる音のするほう、一夏の方を再度向くと。状態だけを起こし、両手でしっかりと大口径のアサルトライフルをマウントした山田先生が居ました。

「んなぁ!?」
「や、山田先生ですの!?」
「マ、マジ?」

 セシリアも鈴ちゃんも唖然としています。当然ですよね。あの、子犬と称される山田先生がアサルトライフルを構えている姿なんて。しかもその命中精度が完璧だなんて。ウサギがゴルゴ13だったくらいにびっくりですよ。表現が分かりにくいのです。

「山田先生はああ見えて代表候補生だったからな。今くらいの射撃は造作もない」
「む、昔の話ですよ。それに候補生止まりでしたし」

 いや、十二分に凄いですよ。入学初日に『それなりに腕は立つんだろう』と評価はしていましたが、ここまでとは思わなかったのです。

 しかし冬姉ぇに褒められただけですぐに通常状態に戻ってしまいました。残念です。あの状態のままでいられれば、もっと生徒から尊敬されるでしょうに。いや、今のままでも十分親しみやすいんですけどね?

「しかし、危なかった」

 一夏がそんなことをボヤキながらISを解除しました。チャ~ンス。

「よかったぁ、一夏。IS解除してくれて……」
「え? 千秋……さん?」
「私の力じゃIS持ち上げるなんて出来ないし、そもそも物理攻撃が通らないもんねぇ?」
「ち、千秋さん? 何故わたくしの腹に腕を回しているのですか?」
「決まってるじゃない………」

 バック………

「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 ドロォォォォォォォッッッッッッッッッッッップ!!

「常時ラブコメ現象発動男がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「社会的には死んでも君を!?」

 1,2,3! カンカンカンカン

「い、一夏、大丈夫なの? けっこう危ない角度で落っこちたよ?」
「大丈夫だよデュノア君。この程度で死ぬようなら、私が過去に三十回は殺してるから」

 いや、冬姉ぇの分を換算するともっとですかね?

「織斑兄妹、静かにしろ。さて小娘ども、いつまでボケている。さっさとはじめるぞ」
「なんで俺まで……」
「え? あの、二対一で………?」
「いや、さすがにそれは………」
「織斑先生、無謀じゃないですか? 山田先生がかわいそうですよ………」
「かわいそう? ああ、安心しろ。今の二人に山田先生が負けることは、億が一にもありえん」

 うわっ、言い切った! セシリアも鈴ちゃんも、今の一言で完全に火がつきましたね。セシリアはともかく、鈴ちゃんの沸点の低さには定評がありますから。一夏の発言? そんなのありました?

「では、はじめ」

 冬姉ぇの声を合図に、まずは鈴ちゃん、後にセシリア、最後に山田先生の順で上空へ舞い上がりました。

「手加減はしませんわ!」
「さっきのは本気じゃなかったしね!」
「い、行きます!」

 山田先生の雰囲気が変わりましたね。またさっきの状態に戻ったというところでしょうか? 車を運転すると性格が豹変する人は知っていますが、ISでも同じことが起こるんでしょうか? いや、むしろ顕著になるんでしょうね。色々と。

「さて、今の間に………そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生の使っているISの解説をしてみせろ」
「あっ、はい」

 冬姉ぇに名指しで指名されて、空中戦闘に注視していたデュノア君がしっかりとした声で説明し始めました。

「山田先生の仕様さているISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第三世代型にも劣らないもので、安定した性能と高い汎用性、豊富な後付武装が特徴の機体です。現在配備されている量産型ISの中では最後発でありながら―――」

 そこまで聞いて、私は聞くのを止めました。自分の中にある知識と完全に一致したからです。さすがデュノア社の御曹司、自分の親の会社製品を完璧に覚えていますね。頭もいい、けっこう好物件かもしれません。

「まあ、いったんそこまででいい。………終わるぞ」

 デュノア君のことに夢中になっているうちに、いつの間にか追い詰められいたセシリアと鈴ちゃん。山田先生の投擲したグレネードを二人仲良く食らって、地面に激突しました。

「くっ、うぅ……。まさかこのわたくしがこうも簡単に……」
「あ、アンタねぇ……、なに面白いように回避先読まれてんのよ……」
「ふぁ、凰さんこそ! 無駄にバカスカと衝撃砲を撃つからいけないんですわ!」
「こっちのセリフよ! なんですぐにビット出すのよ! しかもエネルギー切れるの早いし!」

 あ~あ、見てらんないのです。

「はいはい! 二人ともそこまで!」

 パンッパンッ!

 手を叩きながら仲裁に入ります。

「鈴ちゃんは確かに衝撃砲撃ちすぎ。相手が遠距離戦機体なら、もっと相手の懐に侵入できる起動を学ばないとね。そしてセシリアはもっと一発一発を当てるようにしないと。鈴ちゃんの『甲龍』と違って『ブルー・ティアーズ』は燃費がよくないんだから、鈴ちゃんに刺激されて多量に撃つのは愚作よ」
「ぐぅ………」
「無駄に頭回るじゃない、千秋」
「伊達や酔狂で入試主席は張ってないのよ。私の勉強量、侮んないでくれる?」
「ま、反論できる余地もないし。分かったわよ」
「わたしくも、わかりましたわ」
「うん、素直が一番」

 そう言って、二人を起こそうとしましたが。あいにくとISを持ち上げられるほどの膂力はないので、自分で起き上がってもらいました。ああ、ホントに専用機欲しいなぁ。

「さて、これで諸君にもIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」

 冬姉ぇが手を叩きながらみんなの注目を集めます。



※  あとがき

 作者です。皆様の応援の感想、ありがとうございます!
 仕事の関係で、どうやら一週間に一度の更新速度となりそうですが、どうかご容
赦のほどを。

 次回の更新も一週間後を予定しております。どうか、気長にお待ちいただきます
よう、心からお願い申し上げます。

 記事数ももうすぐ三十を超えようかとしております。
 それを機に、題名の変更なんぞを考えております。まだ具体的な案は出ていない
のですが、その際には事前告知をしたいと思いますので。どうがご了承のほど、よ
ろしくお願い申し上げます。



[26388] <第三章>第四話 これより……私は渇望する!
Name: ゴリアス◆1198178c ID:c3f2b8ad
Date: 2011/06/03 02:31



「専用機持ちは織斑兄、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰だな。では八人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな? では分かれろ」

 冬姉ぇが言い終わるや否や、一夏とデュノア君の周りの人口密度が大幅に上昇しました。当社比2.2倍くらい。

「織斑君、一緒にがんばろう!」
「わかんないところ教えて~」
「デュノア君の操縦技術見たいなぁ」
「ね、ね、私もいいよね? 同じグループに入れて!」
「私と織斑君は前世より繋がっていたの! さぁ! 何の恐れも抱かずに私の胸に飛び込んできて!」

 やばい、私のクラスに厨二属性のヤンデレがいる……。

「この馬鹿どもが……。出席番号順に一人ずつ各グループに入れ! 順番はさっき言った通り。五分以上かかるようなら今日はISを背負ってグラウンドを百周させるからな!」

 私達大ピンチ!?

「全員! クラス代表補佐官、織斑千秋の名において命じます! 速やかに織斑先生の指示を実行せよ!!」
『マム! イエス、マム!!』

 一組のメンバーだけでなく、二組のメンバーからも同じ言葉が返ってきて。グループ分けは一分かからずに完了しました。あ、危ないところでした。もう少しで楽しい楽しいIS授業が、地獄の鬼教官プログラムになるところでした。

「…………なぜその行動力を最初から示さん」

 ふぅっとため息をつく冬姉ぇ、幸せ逃げますよ?

 そんな冬姉ぇに見つからないように私達はヒソヒソと話を続けているのです。

「……やったぁ。織斑くんと同じ班っ。この苗字に生んでくれた両親に感謝っ。……」
「……う~、セシリアかぁ……。さっきボロ負けしてたし。ハァ……」
「……凰さん、よろしくね。あとで織斑君のお話聞かせてよっ……」
「……デュノア君! わからないことがあったら何でも聞いてね。ちなみに私はフリーだよっ……」
「………………」
「……織斑くんかぁ。品性の欠片も無くて、女心に疎くって、オマケに冬姉ぇのことを時々凝視しているときがあるからちょっとなぁ………」
「コラテメェ、千秋! 他の女子に混じってなに口走ってんだよ!?」

 ちぃ! バレたか! 相変わらず勘だけはそれなりに鋭い男なのです。この女子の集会を利用して、ちょっとでも一夏の包囲網を縮めてやろうと思ったのに。

 しかしそんなどうでもいいことは置いといて。あのボーデヴィッヒさんの班。あそこだけ妙に暗いのです。セシリアと鈴ちゃんの班が昼食会、一夏とデュノア君の班が合コンとするなら。さしずめあちらの班はお葬式でしょうかね? バックには白黒の垂れ幕と菊の花が似合いそうなのですよ。

「ええと、いいですかー? みなさん! これから訓練機を一班一体取りに来てください。数は『打鉄』が三機、『リヴァイヴ』が二機です。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早い者勝ちですよー?」

 う~む、山田先生がいつもの十倍以上は輝いて見えるのです。やっぱりさっきの現役に勝てたことが要因ですかね? この自信たっぷりの山田先生も捨てがたいですが、いつもの山田先生も好きなのでちょっと複雑ですね。どっちがいいんでしょうか?

 ちょっと一夏に話を振ってみようと顔を横に向けると、一夏が微妙にニヤけているのです。何を見ているのかと目線を追ってみれば……

「………………」

 こいつ、どうしてやろうDEATHかね? ふと目線を逸らすと、箒ちゃんも同じように一夏を睨みつけています。0.2秒のアイコンタクトの後、

 ズガガンッ!!

 左右から両足を踏んでやりました。無論カカト、しかも全体重をかけた震脚レベルで。

「いってぇ!? なっ……なっ、なんだなんだ!?」
「何をジロジロ見ている。さっさと実習を始めるぞ」
「お兄ぃ、さっさと実習を始めようよ。ほら、早くしないと首が………ね?」
「ほ、箒さん? 千秋さん?」
「何だ?」
「何かな? お兄ぃ?」

 うふ、うふ、うふふふふ。

 これ以上あのモーモーさんのプルンプルンに見とれているようなら、大事な何かを失いますよ一夏。そう、絶対に手放してはいけないものを何か、ね?




       ◇◇



(ま、まずい。千秋がお兄ぃ呼びをするときはまずい!)

 あ、アレは忘れもしない中学二年のこと。今のように突然その呼び方に変わり、そのことに気づかなかった俺は普通に接してしまったんだ! そして次の瞬間に俺に襲い掛かったのは、思いやる気持ちなどかけらもない全力の延髄切りだった。アレをくらった瞬間は、俺も意識が飛んだね。川岸に知らないじいちゃんと会話しちまったぜ。

(よし、ここはひとつフレンドリーにご機嫌を取りつつ―――)

 しかしそうは問屋が卸さなかったようで、箒と千秋が離れたのを良いことに他の班員が俺を囲っていた。

「織斑くん、ISの操縦教えてっ」
「ああーん、このIS重ーい。私箸よりも重いもの持ったことなーい」
「実戦訓練の基本はツーマンセルよね。じゃあ織斑くん、組みましょう」
「ねえねえ専用機ってやっぱりいい感じ? いいなー、うらやましいなー」

 だ、だめだ。千秋のご機嫌をとろうにも、箒に話しかけようにも、同じ班員に囲まれて身動きが取れない。オマケに俺が班長だから適当にあしらうこともできないのが厄介だ。

「え、えっとだな………」
『各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやってもらうので、設定でフィッティングとパーソライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かすところまでやってくださいね』

 『打鉄』のオープンチャンネルから聞こえてくる山田先生の声。チャ、チャンス! 訓練で少し優しく接すれば機嫌も直るかもしれない。これだ、これに賭けるしかない!!

「よし! それじゃあ出席番号順にISの装着と起動、そのあと歩行までやろう。一番目は―――」
「お兄ぃ」
「は、はははははい! な、なななんでしょうか!?」

 そのとき後ろで腕組みをしながらこちらを睨みつけていた千秋が突然口を開いた。思わずドモってしまったのは、恐いからなんかじゃないぞ!?

「ちょっと私は山田先生の所に行ってくる。私の順番は最後に回して」
「は、はい! 了解しました!」

 姿勢を伸ばして元気よく返事。人との対応の基本だよな。……目上の人との。

「ねぇねぇ、今織斑さん。織斑くんのこと、『お兄ぃ』って呼んだよね?」
「うんうん。いつもは『一夏』なのに」
「え? なんで? なんでなんで?」
「二人だけの秘密のサインとか?」
『キャーーー!』

 女子のヒソヒソ話が聞こえてくるが、そんな良いもんじゃないぞ諸君。あの呼び方をされたが最後、とにかくご機嫌を取ることに腐心しないと命が危ない!

「と、とりあえず。出席番号一番の人から…………」

 ともかく。ご機嫌を取る相手がいなくなってしまったので、俺は俺のやるべきことをやるだけだ。箒との関係修復もしないとだしな。べ、別に問題を先送りにしたんじゃないからな!?



       ◇◇




 さて、一夏はあとで〆るとして。今は別件を済ませますかね。

 これを機に少しは箒ちゃんとの関係も改善しておけばいいのですよ。箒ちゃんは私の親友、泣かせたりしたらドロップキックからバロススペシャルですよ!

「え~と、お、いたいた。山田先生!」
「え? あ、はい! なんですか、織斑さん?」
「あのですね。さっきの空中制動について、もう少し詳しくお話聞かせてもらえませんか?」
「え? でも、ですねぇ……」
「歩行訓練でしたら前回経験してますし、順番も最後に回してもらいました。やっぱりさっきの模擬戦を見て、頼りになる山田先生に聞くのが一番と思いまして……」
「ッ!? そうですよね! なんてって私は頼りになる先生ですから! なんでも聞いちゃってください!」
「ありがとうございます!」

 け い か く ど お り !

 普段から頼られなれていない先生は、頼ってきた生徒になんとか答えようとするものです。そこを付いた見事なまでの作戦、本来授業中に授業とは関係ないことを話し合うのはNGですが。相手が先生ならば問題ナッシング! フッフッフッ、諸葛亮先生も草葉の陰で御満足いただけるほどの作戦ですよ。

「では、先ほどの模擬戦での実戦機動に関してですね」
「はい。よろしくお願いします!」

 んでもって、懇々と話しを聞きまして。

「なるほど。つまり実戦では接近型を回避するのは、空中制動ではなく武器の使用概念の変更であると」
「そうですね。こちらが銃火器をメインとした武装を組んでいる以上。接近戦対応型、もしくは接近戦専用型との戦闘の場合、どうしても相手の間合いに入ってしまうことがあります。そうなったとき、武器の使用概念変更という考え方が非常に重要となりますね」
「具体的には?」
「例えば、そうですね。敵が接近してきた場合、織斑さんはマシンガンをどのように使いますか?」
「え? マシンガンですか? そりゃあ、連射性に任せてひたすらに相手をロックし続けて自分は後退、ですかね?」
「そうですね。基本的にはそれでも十分に通用します。ですが、相手が自分よりも遥かに力量が勝っていた場合、もしくは機体スペックがかけ離れている場合。そうなったら、どうなりますか?」
「…………回避されますね。そして自分の懐に入り込まれます」

 客観的に見て、そうなるのが目に見えています。現に箒ちゃんに一度、してやられました。

「はい、よくできました。ではここで武器の使用概念変更という考え方を使って見ます。簡単に言えば、マシンガンで敵をロックしないんです」
「? それじゃあ余計に当たらないんじゃないですか?」

 ロックとは、文字通りロックオン。標的に照準を合わせる行為です。これをしなければ、120mm砲弾を持っていようがPSG-1を持っていようが意味がないのです。

 誰かが言っていました。『どんな武器を持っていようが、当たらなければ怖くない』と。

「はい、当てる必要はないんです。と言うか、そんな相手にロックしていようが簡単には当たりません」
「当てる必要が、ない?」
「そうです。ISのハイパーセンサーによって、IS操縦者は弾丸の軌道をおおよそ予測できます。よって大口径ライフルで極音速で狙撃でもしない限りは、熟練者が乗っているISに弾丸を当てることは不可能なんです。では初速の低いマシンガンでどうするか? どうしますか、織斑さん?」
「え、え~と…………」

 か、考えろ、考えろ織斑千秋。この程度で音を上げてどうする。持ってる知識をフル稼働して、この難問を乗り越えろ!

「………相手の意表をつきます」
「はい、よくできました」

 そう言って、笑いながら山田先生は頭を撫でてくれます。ああ、なんかいいかも……。

「では、具体例ですね。具体的には、マシンガンで弾幕。と言うよりも壁を作るんです」
「壁、ですか?」
「そうです。弾丸をばら撒き、そのばら撒いた弾幕に相手を突っ込ませるんですね。当然ながら相手は回避行動をとりますから、そうなれば………」
「こちらが全力後退してもお釣りが来るくらいの時間が稼げる」
「はい。百点満点です」

 そうか。近接戦闘型に馬鹿正直に当てに行くんじゃなくて、もっと効率的に敵に回避行動をとらせることができればいいんだ。そうすればこっちが体制を立て直すことくらいは十二分にできる。

「あ、ありがとうございました! おかげでちょっと頭がすっきりしました」
「いえいえ、頑張って下さいね」
「はい!」
「千秋~、そろそろお前の番だぞー!」

 お、ちょうどよく一夏の呼び声ですね。

「すぐ行く! 先生、ありがとうございました!」
「はい。またいつでも聞きにきてくださいね」
「はい!」

 先生に返事をしてから、私は急いで班の方へ走ります。

 やっぱりISは最高! 私の知らない知識が、私の知らない情報が、ここには溢れてる! もっともっと知りたい、もっともっと触れたい! いつか、いつか私にも………。

「専用機、来るのかなぁ?」

 そんなことをツィートしまうほど、私は興奮してたのです。



「んで一夏、私にこれをどうしろっていうの?」
「いや、俺も何回も注意したんだけどな。みんな言うこと聞いてくれなくて……」

 なぜか『白式』を展開している一夏の横に並び、腕組みをしています。なにアンタ、クラス代表のクセしてナメられてんじゃないの? まあ、素直に言うことを聞かせられるメンツではないことは認めますが。

 ジロリッ

 班のメンバーの方へ顔を向けると、全員がサッと目を逸らしました。箒ちゃん、貴女もか……。

「じゃあなに? アンタこれによじ登れって?」
「いや、そうは言わないけどな?」

 目の前に悠然と聳え立っているのは『打鉄』。純日本産の訓練機であり、IS学園にも多数搬入されている機体である。うん、そこまではOK。問題はその現在の状態。

「……なんで立ったまま固定されてんのよ」
「……すまん」

 通常、ISは座ったまま乗り降りします。その理由は純粋にコックピットに届かないからです。専用機持ちは量子化して持ち歩いたりしていますが、私たち量産機を使っている人間はそうは行きません。一回一回コックピットに乗り込み、ISを起動し、フィッティングとパーソライズを済ませ、ハイパーセンサーの稼動を調節し、各武装のチェックをして始めて出撃できるのです。現に私と箒ちゃんも訓練機を使うときに各作業を体験済みです(まあ、黛先輩に大きく手伝ってもらいましたが)。

「んで、どうしろと?」
「それはだな……、スマン千秋! 時間的に押してるから説明省く!」

 フワッと、私の体が宙に浮く感じがしたのです。体が横になって、一夏の顔がさっきよりさらに近くになっています。

「フ、なっ!?」
「あ、暴れないでくれよ。こうするしかないんだから」

 現在の状況を確認しましょう。私は体を横向きにされ、そして一夏が私を持ち上げている状態。いわゆる、お姫様抱っこの状態になっています。そして『白式』はゆっくりと上昇しながら、『打鉄』のコックピットの辺りまで到着。そこで一夏は器用に私をコックピットに近づけました。

 や、やばぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。顔が熱いのです! 体も熱いのです! 視界が熱っぽいのです! なにこの状況、一夏に抱っこされたから今日は『一夏記念日』!? ネタ古すぎっしょ!!

「そこの装甲を持って背中を預ける感じに、まだ手を離すなよ? 離したら俺が支えきれなくなるから」
「あ、あう、うん。わ、わかった」

 落ち着け、落ち着くんだアタシ! そうだ! こういう時は素数を思い出すんだ! 素数は自分と一以外割り切れない孤独な数字、アタシに落ち着きを取り戻してくれる! あ、アレ? 1って素数だっけ? 混乱して思考がまとまらないのですよ!!

「そのまま腕を通して。よし、後はできるよな」
「う、うん。だい、だいじょう、ぶ」
「どうした? 顔、赤いぞ」
「ッ!? な、なんでもなかばい!」
「なんで博多弁?」
「なんでもないでごわす!」
「今度は薩摩か?」

 ダメだぁ! 口を開くと動揺を悟られる。作業に没頭するのですよ。え~と、各関節のロックを閉じて、展開部を閉鎖。気圧調節時のカシュっという音が聞こえると、ハイパーセンサーが立ち上がります。

 ハイパーセンサーの広域視界になって、ようやく落ち着きを取り戻せました。

「ふぅ……」
「よし千秋、そのまま歩行してみてくれ」
「OK一夏」

 そのまま『打鉄』を歩かせます。しかしISで歩行とはまたシュールな光景なのです。本来ISは自足歩行の必要がないのです。PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)と呼ばれる機能により、ISは浮遊や飛行が可能ですから。

「いいぞ千秋、じゃあ戻って来い」
「了~解」

 しばらく無心で歩いていると、一夏から通信が入ったのでPICを起動。機体が浮き上がったのを確認すると、背面アクロバットで一夏の所までひとっ飛びです。

「お待ちどうさま」
「おう、お疲れさん」

 私は立ち上がったまま降りるような愚行はしませんよ~。ちゃんと一回座ってISを解除、そして皆の列へ戻ります。しかし戻ってみるとそこには羨望の眼差しで私を見つめる女性陣(箒ちゃん除く)が。な、なんでしょうか?

「織斑さんって、ISの操縦上手なんだね」

 一人が口を開きます。え、え~と、確か相川さんでしたか?

「そうだよね~。さっきのPICでの飛行なんて、超憧れちゃうよ」
「背面アクロバットをあんなにサラッと決めちゃうとか誰得?」
「ここの読者さんですねわかります」
「やっぱり千冬様の妹だけはあるよね~」
「い、嫌だなぁ。そんなことないよ」

 誰得って、誰も得しないと思いますよ? あと、ここの読者って何ぞ?

「私の場合は一夏の特訓に付き合った時に先にISに慣れてたからで、みんなもちょっと乗ればすぐにできるようになるよ」
「そうなんだ。よし、頑張ろう!」
「最初の目標はまず織斑さんね!」
「近くに目標があるっていいよね!」
「よ~し、頑張るぞぉ!」
『おー!』

 班員たちが盛り上がって次の訓練に移ろうとしている中、私は別のことを考えていました。

(冬姉ぇの妹、か)

 それは昔から言われていたことです。冬姉ぇの妹だからすごい、冬姉ぇの妹だから偉い、冬姉ぇの妹だけど胸がない………。よし、後で一夏を殴ろう。

 昔っからそんなことを言われ続けてきたので、もう慣れっこですが。でも何も考えない訳ではないのですよ。

(いつか、いつか冬姉ぇすら追い抜いてみせる)

 そう、それが私の最終目標。一夏を知識量で圧倒した程度じゃ足りない。代表候補生と入試争いで勝っても足りない。仮に専用機を持ったとしてもまだ足りない。このIS学園で最強を名乗っても足りない。

 いつか、いつの日か。冬姉ぇの持つ称号を拝命するその時まで、私は止まることも休むこともできないのです。しちゃいないのです。

「お~い、千秋! 早く来いって! ウチの班遅れ気味なんだからさ!」
「ごめ~ん、今行く!」

 いつの間にか班員たちから置いてけぼりを食らっていた私は、急いで駆け出しました。その途中、チラリと見るのは冬姉ぇ。今もまた、デュノア君に見とれていた生徒を一人制裁していました。

(だから、待っていてくださいね。世界最強の称号保持者『ブリュンヒルデ』!)

 そんな私の視線に気づいたのか、それとも偶然か。冬姉ぇの口角がちょっとだけ上がった気がしました。

(早く上がってこい、ひよっこが)

 そんな風に受け取ってしまうのは、私がひねくれてるから?




※  あとがき

 出来たー! 完成したー! 頑張ったよ、褒めて褒めて~!!

 はい、申し訳ありません作者です。深夜仕事明けでテンションが最高にハイって
やつです(グリグリグリ)

 やっと第四話の投稿と相成りまして、皆様には大変長らくお待たせいたしまし
た。待ってくださった諸姉諸兄の方々には感謝の念が耐えません。

 また、感想を書き込みしてくださっている皆々様には、誠に言葉もないほど感謝
をしております。

 不況不況といわれ、皆様の心も下向き加減とは存じますが。私の稚拙な文章を読
んでいただけたことを、心より感謝申し上げます。

 これからも、ご愛顧賜りますように深くお願い申し上げます。



[26388] <第三章>第五話 これより……私は行動する!
Name: ゴリアス◆1198178c ID:9a267547
Date: 2011/06/09 01:15






       ◇◇

 時間と、そして場所を変えて話をしよう。

 ここはIS学園学生寮、時間はもう日付が変わって一時間が経とうとしている。そして証明の落とされた暗闇の中、見えにくいが早足で歩いているひとつの人影。真っ黒なスラックス、真っ黒なパーカー、そしてそのパーカーを被っているために顔は見えない。体つきから判断して、女性には間違いのだが。

 現在歩いているのは寮のエントランス。二年生棟の近くだ。そこを歩いているのだから、彼女もまた二年生なんだろう。

「ここよ」

 その彼女に、またしても声がかかる。声色からしてこちらも女性。柱の影から出てきた女性は真っ黒なフード付きコートを着ていて、こちらもフードを被っているため顔は見えない。どちらも顔が見えず、姿も闇に溶け込んで朧気。まるで人目をはばかっているかのよう。

「遅れてしまいましたか?」
「時間通りよ。私が早く着きすぎただけ」
「それはよかった」
「じゃ、合言葉を」

 その言葉に、パーカーの女性は一瞬躊躇したようだったが、首を左右に振ってあたりを確認した。そして、コートの女性の言葉を待つ。

「………衝撃の?」
「ファースト」
「撃滅の?」
「セカンド」
「抹殺の?」
「ラスト」
「意地があんのよ」
「女の子には」

 そこまで言って、パーカーの女性は一つため息をついた。

「OKね」
「毎回この合言葉やめません?」
「ダメよ。私たちが違法なことをしているのは変わりないんだから」
「それには異論を挟みませんけど」
「ほらこれ、そっちの指定したブツよ」

 コートから取り出したのは、B4ほどの封筒。厚みから見て結構な量が入っていそうだ。

「そっちは?」
「はい、これです。どうするかはご自由に」
「拝見するわね」

 パーカーの女性が取り出したのはメモリーカード。それを携帯端末に刺して込んで、データを確認しているようだ。

「OK、交渉成立」
「次回も、よろしくお願いしますね」
「ええ、ではまた」

 そう交わして二人は分かれる。一人はそのまま二年生棟に、もう一人は一年生棟に、それぞれ帰っていった。

       ◇◇






「あ、一夏とデュノア君だ。おはよ~」
「む、一夏?」
「おう、千秋に箒」
「おはよう、篠ノ之さんに織斑さん」

 朝の爽やかな朝食の時間、テーブルに着いていた私と箒ちゃんでしたが。一夏とデュノア君との遭遇で、すこし騒がしくなったのです。

「なあ千秋、あの人だかりなんだか知ってるか?」
「ああ、アレね……」

 一夏が指差しているのは食堂の一角、多数の女子が群がっている場所があるのです。

「何かのイベントか何かかな?」
「限定メニューの争奪戦か? もくは限定のパンの売出しとか……」
「あ~、まぁ二人には絶対に必要のないもので、私達には他者を蹴落としてでも欲しい物、かな?」
『?』

 デュノア君と一夏、両方が首を傾げています。しばらくして女子の集団は散り、後に残ったのは私のよく見知った人物でした。

「なあアレって、黛先輩じゃないのか?」
「うん、そだね」

 やっぱりなのです。

「お、やあやあ! 噂の専用機持ちの男性二人と、その妹さんとお友達ではないかい」
「おはようございます黛先輩」
『おはようございます』

 目上の人にはまず挨拶、社会の基本ですよね。

「うん、おはよう」
「今日も朝から大忙しでしたね」
「まぁねぇ、いいネタ入れられたし。これからしばらく忙しいよ」
「何ですか? いいネタって?」

 あ、ヤバッ、本人の前でした!

「あー、いや! こっちの話! じゃあ織斑さん、また後で!! 男子二人、後で取材させてね!」

 それだけ言うと、黛先輩はマッハで食堂を出て行きました。

「なんだったんだ、ありゃ?」
「聞かない方が身のためよ一夏。アンタの精神的な、ね」
「何だ!? 聞くとどうなるんだ俺!」

 それこそ聞かない方がいいのですよ。






 授業中、一夏が冬姉ぇに指導(出席簿アタック)されまくったこと以外は概ね順調に終わった午前中の授業。今は午後に備えて栄養補給(昼食)の時間なのですが、今日の私は一夏達とは別行動です。場所は人気のない図書室。そこで私は一番奥の角の机に陣取り、持ち込んだカバンから封筒を取り出します。中に入っているのは、先日黛先輩から受け取った資料。

「え~と、これがISのスペックデータ。これが本国での成績っと……」

 中の資料に記されているのは、デュノア君のこと。彼の本国での成績や、過去、ISのスペックに、デュノア社での立ち位置。事細かに記載されています。

「う~ん、やっぱり先日の謎のIS事件との関連は薄いか。こっちの杞憂ですかねぇ」

 これを黛先輩に依頼した理由は二つ。一つは黛先輩にすら感知できないほど水面下で転校の話と男性パイロットが存在していたこと。もう一つは、先日の謎のIS事件の黒幕との懸念。

 一つの目の理由としては、情報通の黛先輩ですら転校の話はおろか男性パイロットが他にいることすら寝耳に水の話だったということ。いかに情報統制をしようとも、現在の情報社会で噂にすらならないのは不思議を通り越しておかしいの領域なのです。

 そして二つ目は単純です。突如としての男性パイロットを装っての一夏との接触、そして拉致が目的ではないかと思ったためなのです。

 その二つの意味を込めて、黛先輩に調査を依頼したのですが。

「こりゃぁ、完全に空振りでしたかね」

 そう呟いて資料を仕舞おうとしたときに、とあることに気がつきました。

「ん? これって………」

 そして再び資料を広げます。全部の資料を再び比較、検索、そして導き出された結論は……。

「私の予感って、ひょっとして当たる?」

 そんなことを呟いてしまうほどに、この資料には違和感バリバリでした。






 そんな違和感を抱いて、授業中はデュノア君をガン見しながら迎えた放課後。(途中何回か気づかれたのか後ろを振り向かれてしまって、慌てて目線を逸らしましたけど。)一夏達は今日も今日とて特訓らしいですが、私は私でやることがあるのです。そして、やってきたのは整備課です。

「ふんふん、なるほどね。ウチのパソコンを一時間だけ貸して欲しいって訳ね?」
「はい、そうなんですよ」
「しっかしなぁ、ウチの整備班もパソコンがないと出来ないことが多いからなぁ」

 現在目の前にいるのはツナギを着た黛先輩です。用件は、『一時間だけパソコンを全台使わせて欲しい』との交渉です。え? 無理がある? 無理を貫いて道理を蹴っ飛ばすのです!

「そこを何とか、お願いします!」
「こればっかりは私の一存じゃ……」

 でぇい! こうなったら伝家の宝刀! 私の今回最強の切り札ぁ!

「黛先輩、こちらを………」
「………ッ! こ、これは!?」
「一夏の寝乱れ姿ver.15禁です。こちらにネガも用意しました」
「すぐに全員に話しつけるわ! 三分頂戴! ときに織斑さん、この写真って……」
「無論誰にも出回っていません。焼き増しして売り捌こうが、保存用にして先輩が保有するかは御自由に」
「それでこそ! 三分頂戴ね!」

 漫画的描写である土煙を上げそうな速度で整備課の皆さんに話しかけている黛先輩。いや~、流石伝家の宝刀ですね。

 んでもって三分後……

「お待たせぇ。って、どうしたの?」
「い、いえ、なんでもないです」

 そりゃ目も丸くなりますよ。あの漫画的描写が起きそうな速度で駆け回ったのに息切れ一つしていないうえに、本当に整備課の皆さんを三分で説得して見せた黛先輩の手腕に、ね。

「ご苦労様です先輩。ではこれが、約束の品です」
「うわぁお! これは……、過激な」
「私の保有する物の中でも星三つの作品ですよ」

 まあ、隠し玉はもう四つほどあるんですがね。

「でもこれ、どうやって現像したの? この手合いの写真って、写真屋さんじゃ現像してもらえないでしょ?」
「写真部の現像室を(無断で)お借りしました」

 いや~、現像室って寒いんですね。今回は制服でやっていましたが、次回からはコートでも持って行きましょうかね。

「へぇ~、織斑さんって現像も出来るんだ」
「いやいや、流石にそこまでは習得してませんでしたよ。ただ、写真部のマニュアルが思いのほか丁寧でして、見ながら簡単に現像できました」
「ほうほう、なるほどね。じゃ、ありがたくっと。そうだ、何か手伝えることある? こんなお宝もらっちゃったら、一つか二つはお返ししないと割に合わないでしょ?」
「いえ、いいんです。むしろ、絶対に手伝わないでください」
「? そりゃまたなんで?」
「…………黛先輩。今からここは無人になります、OK?」
「あ~、なるほど……」

 さすが黛先輩。普段からしょっちゅう(?)法を犯しているだけはあります。今の一言で分かってもらえましたか。

 今から私のやることは、ちょっと所ではなくヤヴァイことなのです。バレたら生徒指導室でお説教程度ではすみません。それこそお手々が後ろに回ることになるのですよ。

「つまり私達に見られるとまずいって訳ね? いろんな意味で」
「やってる途中に邪魔されて……、なんてのは避けたいもので」

 それ以上に避けたいのは、バレた場合に共犯者の疑いがかけられてしまう事なのです。黛先輩はもちろんのこと、何の罪もない整備課の人達が全員補導されたなんて言ったらこれからの人生に深いダメージを負ってしまうのですよ。まあ、そんなミスは絶対にしませんけど。

「じゃあ私もどっか行ってた方がいいのかな?」
「ええ、そうですね。何があっても、どんなことがあってもいいようにアリバイを作っておいてください」
「了解。整備課全員にも伝えておくよ。私はそうね、食堂でパフェでも食べながらさっきの写真をどうするか考えておくわ」
「……お願いします」
「ん、無茶しないでね? それじゃ、一時間後に。…………あ!」

 そう言って出て行こうとした先輩でしたが、大慌てで戻ってきて机の中を物色し始めました。な、なんですかその奇行は!? 新手のギャグですか!? もしくは奇病!?

「そうそう、忘れてた。これ、あげるよ」

 お目当てのものを見つけたのか、私のもとまでやってきた黛先輩。そして差し出されたのは、B4サイズの茶封筒。

「なんです、これ?」
「ん~、前回の依頼の副産物って所? 今回の報酬過多の分の埋め合わせと思ってくれればいいよ。ほいじゃ、頑張ってねぇ~」

 そう言って笑顔で出て行ってしまう黛先輩。

「なんだったの?」

 気になってパソコンの前に座ってから、さっきの封筒を開けてみます。

「これって………、あのボーデヴィッヒとか言う子のデータ?」

 出てきたのはラウラ・ボーデヴィッヒの詳細データ。さすがに副産物というだけはあって細かい点は省かれていますが、それでも十分に機密に抵触する可能性のあるものばかりです。

「ハァ、いつか黛先輩が刑務所にぶち込まれないか不安なのですよ」

 そう呟きながら、改めてデータに目を通します。

 書かれているのは、ISの大まかなスペック、搭載武器、出生記録、現在の所属、そしてそこに至るまでの経緯といった所ですか。

「…………へぇ、AICってもう開発されてたのね。しかし、試験実験体……ですか」

 非人道的。その言葉が頭を過ぎりました。元来、人間をそのように生産するのは人道に反するとして多くの物から批判を受ける対象となります。しかし生まれてくる命にはなんの罪もないのに、そうして生まれてきたというだけで非難を受けるのはどうなんでしょうか。

 どんな命にも、どんな人間にも、平等に愛される資格があるというのに、どうして人間は自分より下を作りたがるんでしょうかね。

「っと、いかんのです。長考タイプに入ってしまうとこだったのですよ」

 いけない、いけない。今やるべきことはそれではないのです。

「では、始めますか」

 指を鳴らして、ポケットから取り出したメモリースティックをパソコンに差し込みます。そして有線を介して整備室にあるパソコンを接続。準備完了なのです。

「では、一丁ヤリますか!」

 まずはネットワークからフランスのサーバーに接続、そこからいくつかのウォールを突破してデュノア社のコンピューターにアクセスします。

「ここまでは順調っと……」

 それからハッキングプログラムを使用し、セキュリティを突破。一気にプライベートスペースまで殴り込みをかけました。なにせパソコンの台数はスパコンも含めて十数台。並列処理速度は無類なのですよ。

「とは言っても巡回型のセキュリティーシステムもあるから、どんなに長く居られても三十分が限度なんだけどね」

 数々のウィンドーをマルチタスクしながら、欲しい情報を探していきます。

「これも違う、これも違う。ん? これはプライベートの日記か。いや、これは読んでる時間ないな。コピーかけたらバレるし……。えっと、これもダメか。全部自動更新にされてるからなぁ」

 さすがデュノア社。ここまで徹底してデータを秘匿しているとはね。

「ん? 待てよ。だったら作成ファイルの履歴を辿れば……」

 ………………

「……ビンゴ」

 この瞬間、私の予感は確信へと一歩近づいたのです。






       ◇◇

 夕食を食べ終えてちょっとした食休みを終えたあと、いつもなら一夏と一緒に部屋に帰るんだけどちょっとした寄り道をしたくなったと言って別れる。しばらく歩いて、寮と校舎の渡り廊下まで来た。

 もう、この辺でいいかな?

「いつまで尾行(つい)てくるつもりだい?」
「あちゃぁ、バレてたんだ? やっぱ慣れないことするもんじゃないわね」

 そうボヤキながら柱の影から出てきたのは。一夏の妹、織斑千秋さんだった。

「尾行(つけ)てきてるのは分かったけど、まさか織斑さんとは。それで、僕に何か用かな?」
「ん~、用というか。個人的に聞きたいことがあったからかな? 二人っきりで」
「二人っきりで?」
「うん、そう」

 そういいながら、スタスタと僕に近寄ってくる織斑さん。

 ど、どうしよう? こ、告白とかじゃないよね? まさか一夏の妹さんにそんなことされるなんて。でも傷つけたくないし、でもでもでも! まずい、まともに顔が見れないよ。

「んでね、尾行もばれちゃったし。単刀直入に聞くよ?」
「う、うん。どうぞ?」
「………何が目的で一夏に近づいたの?」

 ………瞬時に頭を切り替える。

 もう一度見た織斑さんの顔は、明らかな疑念に満ちていた。

「何がって、なんにもないよ。ただ、一夏とはお友達になれたらいいなぁって思ってはいたけど」
「へぇ、そうなんですか」
「それがなにか?」
「いえいえ、ちょっと気になる話を小耳に挟んだもので」
「気になる話?」

 なんだろう。この子、何を知ってるんだ? まさかバレた!?

「ええ。デュノア君が生まれた年、その年に生まれたデュノア社嫡男はいなかったはずなんですよねぇ」
「あ、ああ、そのことか。それは僕が養子だから………」
「そしてなぜかIS関連に関係する全ての最初の更新が、デュノア君が十二歳になった年。しかもご丁寧に日付は一週間かっきりにズラしてありました。ISの適性検査はどんなに判断が遅くっても三日程度なのです。この掲載理由、詳しくお話願えませんか?」
「……………どこでその情報を聞いたんだい? デュノア者のIS操縦者データは、公には公開されていない非公式だったはずなのに」
「蛇の道は蛇、ってね。英語だと『Set a thief to catch a theif. 』かな?」
「なるほど、『悪人は悪人を知る』って訳だ」
「ずいぶんないいようですね」

 ちょっとムキになっちゃったかな? でも秘匿されているデュノア社のデータを知っているなんて、ただ事じゃないよ。

「今度お父様に忠告しておかないと」

 そんなことできないくせに言ってみる。

「あー、それはご勘弁願えないかな? そんなことされると、私のお手々が後ろに回っちゃうのよ」
「そっかー、それは大変だね」
「ええ、ホントに大変なの」

 そろそろ、化かしあいも限界かな?

「じゃ、用件がそれだけなら僕は失礼するよ。ああ、データのことは言わないし、くれぐれも御内密に」
「そう、どうしても言わないって訳ですか………。でしたら!」

       ◇◇





※  あとがき

 こんばにちわー! いやいや、現在THE風邪の真っ最中DEATH!

 マジしんどいっすわ、現在進行形で間接とか背中とか激重。オマケに身内でトラ
ブル発生とかマジ勘弁だわ。

 そんな中お届けした第五話、一言で言うと『どうしてこうなった』。
 なぜか千秋とシャルルがバトルモードに突入しております。次で肉弾バトルファ
イトになるため、その描写が難しいです。

 シャルファンの皆様ごめんなさい、最初に言っておきます。シャル、組み敷かれ
ます、押し倒されます、馬乗りにされます。そんな内容でもよかったらどうか読ん
でやってください。

 皆様の熱い声援、また温かいご支援と感想、大変痛み入ります。それに答えられ
るように粉骨砕身してまいりますので、ご支援のほどよろしくお願い申し上げます。



[26388] <第三章>第六話 これより……私は取っ組み合う!
Name: ゴリアス◆1198178c ID:9a267547
Date: 2011/06/16 02:02





「でしたら!」

 あまりにもシラを切り続けるデュノア君に、私のほうが我慢できなくなってしまったのです。組み敷こうと思って胸倉に伸ばした腕は、あっさりと弾かれて距離を取られてしまいました。

「いきなりだね。織斑さんはもうちょっと話し合いができるタイプだと思ったけど」
「お生憎様、人を見かけで判断すると痛い目見ますよ!」

 何とか袖と襟を掴もうと手を伸ばすと、その手を掴まれてそのまま一気に捻り上げられ、腕を後ろに持ってきて関節を決められてしまったのです。

「こう見えても代表候補生なんで」

 そうですよね。他国から襲われるかもしれない身分。加えてISを操縦するにあたって有利になるんですから、格闘技の一つや二つ習得しててもおかしくはないのですよ。にしても、間接完璧に決まってますよこれ。抜け出んの不可能じゃないですか?

「ッ!」
「あ、ごめっ……」

 隙あり!

 私のとっさに上げてしまった悲鳴を聞いて、少し間接の決めを緩めてしまったデュノア君。その隙に腕を反対方向に捻って、決めを解くとそのまま柔道の要領で無理矢理廊下に組み伏せました。そのまま馬乗りになり、同時に両足で両手を封じてマウントポジションです。

「しまっ!?」
「女の子の悲鳴を聞いただけで、間接の決めを緩めてしまうのはどうかと思いますよ? デュノア君?」
「この技ってJUDO? 驚いたよ、織斑さんって運動もできるんだね。てっきり頭脳派かと」
「さっきも言ったでしょう? 人を見かけで判断すると痛い目見るって」
「みたいだね………」
「さて、答えてもらいますよ。何で一夏に近づいたんですか? 返答次第では、私の手が後ろに回る覚悟でこのまま職員室に連行しますよ」
「……………」

 くっ、あくまで黙秘権を貫くつもりですか。

「そっちがその気なら、こっちもそれ相応の態度を取らせてもらいますよ?」
「………織斑さんは、どうしてそこまで一夏のことを?」
「そんなの決まっているでしょう。兄妹だから……」
「違うね。君の行動力は、明らかに兄妹愛なんかじゃない」

 その瞬間、デュノア君の視線が私を貫きました。何をされた訳でもない。しかし、どこかを射抜かれたような感覚。まるで私の深層を見透かしているような。

「警察に捕まるような行為を平気でやってのける君の行動力。疑わしい相手を全力でここまで追い詰める実践力。どうしてそこまで一夏を思って行動できるんだい?」
「それ……は」

 な、なんでしょう。なぜあの瞳に見据えられると、こんなにも心が苦しくなって……。あ、あれ? おかしい、正常な思考ができない。って、今はそんなこと考えてる場合じゃなくて!

「隙ありだよ」
「キャッ!?」

 不覚! 考え込んでいるうちに両足の押さえつけが緩んでいました。あっさりと両手を開放したデュノア君は、そのまま状態を起こして私を振り落とします。

 しかし私もタダでは転びません。何とか道連れにしようと、再び襟に手を伸ばしますが倒れながらのせいで狙いがうまく定まらずに。結果、肩から脇の下、胸元、腰、と手のひらで撫でるだけとなってしまったのです。

「ッ!?」

 あれ? なにこの急激な違和感……。

「ゴメンね、織斑さん。秘密があるのは認めるけど、今ここでバラす訳にはいかないんだよ」
「それは、そうでしょうね」

 お互いに再び正対し、向かい合う形となりました。

「でもこれだけは信じて欲しい。僕は一夏に危害を加えるつもりはないし、この学園で何かをする気もない。ただ僕は、ここで三年間を過ごしたいだけなんだよ」
「……………」
「って、信じてもらえないかもしれないけどさ」
「そうですね。信じるには、材料が少なすぎます」

 でもなぜでしょう。あの違和感を覚えた瞬間から彼に対する警戒心がちょっとだけ薄れた気がするのです。

「ですが。今回はこれで終わりにしておくのですよ」
「え!?」
「勘違いしないでください? 私の貴方に対する警戒心は、今も継続中です」
「だったらなぜ?」
「さぁ? ただの気まぐれ、ですかね? ですが貴方が原因で一夏に……。いえ、私の仲間に精神的肉体的問わず危害が及んだその時は……」
「わかってる。その時は、僕も覚悟を決めるよ」
「それならいいのですよ。では、私はこれにて失礼。明日以降はお互いに仲良くやりましょう、デュノア君?」

 それだけ告げて、私はその場を離れようとデュノア君に背を向けます。

「織斑さん、もしかして気づいた?」
「? なんのことですか?」
「い、いや! なんでもない」
「? そうですか。では、失礼」

 とりあえずは、シャルル・デュノアは灰色としておきますか。これから先、敵になるかもしれませんけど。でも今は、違うということだけ分かればいいのですよ。






「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからなんじゃないかな?」
「ああ、確かにそんな感じはしますね。一夏の今までの戦い方から察するに」
「そ、そうなのか? 一応分かってるつもりだったんだが……」

 デュノア君との格闘戦があってから四日後、本日土曜日。私達は午後の自由時間を使って実習に励んでいるのです。とはいっても、今回は訓練機の申請が間に合わなかったので生身で教える羽目になっていますが。まったく、土曜日はほぼ全校の生徒が一斉にアリーナを使うので申請が通り難いのですよ。

「知識で分かってるのと、体が動くことは違うの。まったく、何のためにセシリアと沢山模擬戦組んでると思ってるのよ……」
「まあまあ、織斑さん。さっきの一夏との訓練で分かったんだけど、間合いの詰め方がまだ甘いんだよ」
「うっ……、確かに。『瞬時加速』も読まれてたしな……」
「あのときの『瞬時加速』は全くの愚作。苦し紛れに使ったんでしょうけど、正直アレじゃ私相手でもいい的よ」
「確かにアレじゃあ回避されちゃうね」
「冬姉ぇの現役時代使ってたのは、もっと速度にキレがあって。かつ、急制動とその直後の二段式『瞬時加速』って技法もあった。でも今の一夏にそれを求めるのは無理があるから、今持ってる手札をうまく使えるようにしないと」
「一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。さっきも織斑さんが言ったけど、一夏の『瞬時加速』は直線的だからね。反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうんだよ」
「直線的か……うーん」
「だからって無理に軌道変えようとしたら、空気抵抗や慣性の法則で機体に負荷がかかるから止めなさいよ? 最悪、パイロットも巻き込んで大事故に繋がる恐れもあるんだから」
「お、おう」

 現在講師を務めているのは私こと、織斑千秋と。先日の対戦者、デュノア君なのです。

 なぜこうなったかと言えば、純粋な講師不足です。私以外の講師×3の行っている事は、どうも理論的ではないと言いますか、ぶっちゃけ分かり難いと言いますか……。

『こう、ズバーッとやってから、ガギンッ! ドガンッ! という感じだ』

 うん、それで分かるのは多分その言語に特化した人だけだと思うよ箒ちゃん?

『なんとなくわかるでしょ? 感覚よ感覚。……はあ? なんでわかんないのよバカ』

 そうね。それで分かったら世界から教科書という物体と、予習と復習という行為が消えるわね鈴ちゃん。

『防御のときは右半身を斜め上前方へ五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ』

 三人の講師の中では一番理論的ではありますが、正直専門的過ぎて分かり辛いんですよセシリア。

 と、まぁそんな訳でして。今までは私が三人の言葉を噛み砕いて説明していたのですが、デュノア君の登場によってその手間がグンと縮まったのです。具体的には……、

『グイッと捻ってから、ズガンッという感じだ』
『うんそうだね。さっき接近した瞬間に近接ブレードを一旦引いて、体を捻ってから攻撃したほうが次の動作に移りやすいし、一撃の威力も上がるよ』

 by箒ちゃん

『ね? 分かるでしょ? この感覚なのよ、この感覚』
『え~と、これは……』
『鈴ちゃんが言いたいのは、回避する瞬間の感覚ってことじゃない?』
『ああ、そうか。つまり回避する瞬間の感覚と、さっきの切り返しの感覚が一緒ってことなのか』

 by鈴ちゃん

『攻撃の時は左半身を後方へ五度傾けますの』
『デュノア君、パス』
『イギリスでは様式美っていうのもあるからね。攻撃の時や防御の時も、概観が美しくなるように教えられるんだよ。多分そのことを言ってるんだと思うよ』

 byセシリア

 と、言った感じです。私としては、難解な言葉を訳せる人間が増えてくれるのは大助かりなのですよ。無論、側に置いておいた方が監視し易いという面もあるんですがね。

 そんなことを考えていると、すぐ近くの壁にどっからか飛んできた銃弾が命中しました。

「フニャ!?」
「あ、ゴメーン! 大丈夫?」
「き、気を付けて下さいよ! こっちは生身なんですから!」

 二年生らしい人達が頭を下げながら戻って行きます。

 現在、この第三アリーナには通常の倍近くの人口密度となっています。それはと言うのも、そこにいる珍人&灰色君のせいなのです。

 噂の男性IS乗り、しかも一人は金髪美青年の代表候補生。もう一人はあまりの人気に写真が手に入らない、新入生専用機持ち。そりゃあ三年だろうと、二年だろうと。一目見よう、もしくはお近づきになろうと考えて第三アリーナに集結。結果、今に至るという訳なのです。

「こりゃ黛先輩に写真渡しのは失敗でしたかね?」
「千秋、なにか言ったか?」
「ふぇ? 何にも?」
「そうか、聞き違いか」

 あっぶな~。箒ちゃんって耳いいのね。武芸者ってみんな健康ですよね、当たり前ですけど。本物の剣の達人って、真剣で葉っぱを相剥ぎできるって聞いたんですけど。今度できるのか聞いてみましょうかね?

「そう言えば、一夏の『白式』って後付武装(イコライザ)がないんだよね?」

 おっと、今度は一夏の『白式』の話になっていますよ。

「ああ、何回か調べてもらったんだけど、拡張領域(バススロット)が空いてないらしい。だから量子変換(インストール)は無理だって言われた」
「こらこら一夏、ちゃんと説明しなさいよ。それじゃただの欠陥機でしょうが」

 まったく、コイツに説明を任せるといつもこれですよ。

「え? 違ったか?」
「違くはないけど、正解でもないわよ。一夏の『白式』は、全体の要領の大半を『単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)』に使ってるから。って言うのが研究者さん達の結論よ」
「ああ、なるほど。やっぱりそうなんだ」
「千秋、『単一仕様能力』って何だっけ?」

 ……………ふぅ。

「あ、あの、千秋さん? 何故、携帯電話を取り出しているのですか?」
「ああ、気にしないで。あ、もしもし葬儀場ですか? 明日の予約は空いてますかね?」
「それって誰の葬儀なんだ? なぁ、誰の葬儀なんだ!?」

 うっさいですねぇ。

「ハァ、まあこの脳細胞が完全に死滅してしまっている愚兄に。もう一度、もう一度だけ。この天使のような可愛い妹が教えて差し上げますから。涙を流し、神のような慈悲を噛み締め、崇め奉りなさい」
「はい。誠に申し訳ありません。魔王(ちあき)様」
「いま、何て書いて『ちあき』と読みました?」
「女神と書いて『ちあき』と読みました」

 ふん。まあいいでしょう。これ以上話をしても先に進まないのですよ。

「『単一仕様能力』とは。呼んで字の如く。唯一仕様(ワンオフ)の特殊才能(アビリティー)のことであり。ISと操縦者、両方の状態が最高の相性を引き出せた時にのみ自然発動する能力のことよ」

 一夏の『零落白夜』を見た瞬間から、ありとあらゆる手段を使って調べ上げた情報を思い出しながら説明していきます。と、そこに。デュノア君が付け足しをしてくれました。

「そして、普通なら第二形態(セカンド・フォーム)から発現するのが殆どなんだよ。しかも、それでも発動しない機体の方が圧倒的に多いんだ。だからそれ以外の特殊能力を複数の人間が使えるようにしたのが第三世代型兵器。オルコットさんのブルー・ティアーズや凰さんの衝撃砲がそうだよ」
「他にも第三世代兵器と言えば、BT兵器があるわね。まだ先の話になるけど、もしも第四世代なんてものが登場したら火薬兵器じゃなくてBT兵器が主兵装となるんじゃないかしら。BT兵器の多様性は世界各国が注目している所でもあるし。セシリアがいい例でしょ」

 しかし、もしもそんなことになったら。世界はそれと同時に一夏をこぞって欲しがるんでしょうね。なにせ白式の単一仕様能力は、エネルギー効率さえ見直せれば最強の対BT兵器能力ですから。エネルギー系であるならば、銃弾だろうがシールドだろうが切り裂いてみせる! って、どこの主人公の能力ですか。

「なるほど。それで、白式の唯一仕様(ワンオフ)ってやっぱり……」
「当然。『零落白夜』に決まってるでしょ」

 『零落白夜』。一夏のIS『白式』の武装、『雪片二型』を介して発動する『単一仕様能力』であり。かつて冬姉ぇがIS世界大会、『モンド・グロッソ』を『暮桜』で勝ち抜く時に使っていた能力。

 ………ずいぶんと『』が多くなった説明でしたが、要はそういうことですね。雪片から延長される、エネルギー状のブレード。そのブレードに触れたエネルギーは、完全に霧散させられてしまう。まさに最強の、対エネルギー能力。今度から一夏相手にエネルギー系の武装使うの止めよ。セシリアと組むのも控えたほうが良さそうね。

「今、わたくしの株が暴落した気がするのですが?」
「え? なんの話? 私にはさっぱり分からない」

 おっかしいなぁ~。一夏と違って顔に出ないタイプなのに。

「それにしてもチートよね。第一形態(ファースト・フォーム)から『単一仕様能力』があるとか。隠してたら相当の切り札になるじゃない、コレ」
「うん。そうだね。前例が全くないし。しかも一夏の能力って、初代『ブリュンヒルデ』が使ってたISと同じなんだよね?」
「まあ、姉弟だからとか、そんなもんじゃないのか?」

 はいはい、お馬鹿発言再び。

「一夏。一つ勘違いしないように言っておくけど、姉弟だからとか姉妹だからって同じ能力が発現するって訳じゃないのよ?」
「そ、そうなのか?」
「うん。さっきも織斑さんが言ったけど、ISと操縦者の相性が重要だから。いくら再現しようとしても意図的にできるもんじゃないんだよ」
「そっか。でもまあ、今は考えても仕方ないだろうし、そのことは置いておこうぜ」
「あ、うん。それもそうだね。じゃあ、射撃武器の練習してみようか。はい、これ」

 ん? なんでしょう? 今一瞬だけど、デュノア君が残念そうな顔をしたような。残念? さっきの会話に残念がるような場面なんてありました?

「千秋さん、何をそんなに難しい顔していますの?」
「へ? あ、ああ、なんでもないの。ちょっと最近の食生活について考えてて」
「まあ、ダメですわよ? ちゃんと三食しっかりと取らないと、貧血や体調不全に繋がりますわ」
「お気遣いどうも。まぁ、セシリアはね。ちょっとくらい増えても、体形的には全く支障はないんでしょうけど。私なんて………」

 そうなんですよ。私ってば、減るときは胸から減るくせに、増えるときは腹から増えるんですよ。なので、ちょっと太るとすぐに括れとカップに影響が。

「そ、そんなことありませんわ。わたくしだって、本国ではモデルもやっていますのよ? その為の厳密なカロリー調整と、体形維持の運動は欠かしませんもの」
「あ、そっか。代表候補生って、モデルとかアイドルとか、そういう人も多いんだっけ」
「ええ。国を挙げてのことですから、国が支援する以上見返りもありませんと」
「世知辛いわね。要は“支援してやるから国益寄こせ”ってことでしょ?」
「そんな言い方なさったら、実も蓋も鍋まで残りませんわ」

 ま、それだけに的を射ている言い方でしょう?

「へぇ、オルコットもモデルとかするんだ」
「あら? 凰さんもですの?」
「うん。ほらコレとか」

 鈴ちゃんが見せてくれた携帯には、バッチリとカジュアルな格好を着こなし、ちょっぴりメイクをした鈴ちゃんがウィンクをしながら写りこんでいたのです。

「ほぇ~。鈴ちゃんカッコいいね」
「あら、凰さんは私服ですのね。わたくしはドレス姿での撮影でしたのに」
「へぇ、相手役は?」
「い、居ませんわそんなの!」
「まあまあセシリア、ムキにならないの」

 ドンッ!

「しっかし代表候補生って大変なのね。国の威信を背負っているというか」

 ドンッ!

「そうですわ。並大抵の覚悟では、代表候補生は務まりませんわよ」

 ドンッ!

「アタシだって結構苦労してるんだから、そこら辺はわかってよね」

 ドンッ!

「まぁ、分かってたつもりなんだけどね……」

 ド―――(゚д゚)―――ンッ!

「何、今の音!? 明らかに異質……、って言うか一夏ぁ!!」
「え? な、俺か!?」
「アンタよアンタ! さっきから無駄に音が大きいのよ!!」

 デュノア君に火薬武器を貸してもらう所までは聞いてましたが、それにしたって空撃ちしすぎでしょ! 弾薬だってタダじゃないんですよ!?

「あ、ごめんね織斑さん。うるさかった?」
「ううん。いいのよデュノア君。デュノア君は何にも悪くないから」

 諸悪の根源は一夏、その考えはどんなことがあっても揺らがないのです。

「あれ? 何故か兄との態度とに大きな隔たりを感じるのですが、そこら辺は如何に?」
「え? ジャーマンスープレックス? ツームストーンパイルドライバー?」
「ごめんなさい。身の程知らずの発言でした」

 素直でよろしい。

「そうだ、シャルル。ちょっと気になってたんだが」
「ん? なに、一夏?」
「シャルルのISって『ラファール』なんだよな? 千秋がいつも使ってるのとけっこう違う感じなんだけど」
「ああ、僕のは専用機だからね。かなりいじってあるよ。正式にはこの子の名前は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。基本装備をいくつか外して、その上で拡張領域を倍にしてある」
「倍ッ!? それはまた、思い切った拡張だね」

 というよりも、そんなにあっても使えないのですよ。確かにたくさん持っていれば様々な状況に対応できますが。その反面、使い手が混乱してしまうケースもあるのです。コレを使おうか、アレを使おうかと悩んでいるうちに戦闘終了。なんてこともあるかもしれないのですよ。それ以前に全部覚えきれませんしね。

「ああ、ホントだよな。ちょっと分けて欲しいくらいだぜ」
「あはは。あげられたらいいんだけどね。そんなカスタム機だから今量子変換(インストール)してある装備だけでも二十くらいあるよ」
「うーん、ちょっとした火薬庫見たいだな」
「っていうか、そんなに入れてて使いこなせるの?」

 自慢じゃありませんが、私は物を覚えるのは得意です。二十以上の装備があろうと、全部覚えるのは簡単でしょう。戦闘中だろうが、早弁中だろうが、それを思い出すのも容易なことです。

 しかしそれをすべて使いこなせるかと聞かれると、答えはNOです。装備の使い方は一通り目を通していますし、ちゃんと使うことはできます。しかし、これは前の実戦で思ったことですが、量子変換した物を戦闘中に正確にイメージするのはかなり難しいのです。例えばマシンガンを呼び出し(コール)しようと思っても、そいつを正確にイメージできなければ呼び出せませんし。前回はソレで箒ちゃんに接近を許してしまった節もあります。

「うん。それに関しては自身あるよ」
「へぇ、今度ご教授願えないかな?」
「あはは。いいよ、よろこんで」
「へぇ、シャルルと千秋っていつの間に仲良くなったんだ?」
「内緒よ。ねぇ、デュノア君」
「あ、あはは。そ、そうだね」
「なんだよそれ~」

 まあ実際は仮面なんですけどね。





※  あとがき

 わ~い、一週間の投稿間に合ったぞ~!
 さ~てっと、いや~今週って長いね~。あはは~、睡眠時間が一週間通して十時
間未満とかマジ死ねる~。もうホントにね、死ねばいいのにウチの上司♯

 さて、愚痴も言ったし。如何でしたでしょうか? 第六話。シャルとの和解(?)
と、シャルとの協同講師の状況をリアルタイムでお送りしました。

 次回、よいよ参ります。ツンデレ無乳が! はい、すいませんラウラファンの皆
様。ぶっちゃけ好きです、井上さんの声も、真っ赤になりながらのキスとかも、超
好きです。早く本編で書きたい。

 最近ISのSSが増加してきて、お仲間がどんどん増えるのはとっても嬉しいです。
特に、『メイプル』様の“いんふぃにっと・けもも”と、チラシ裏で『釜の鍋』様
の“へいお待ち!五反田食堂です”がお気に入りです。皆様も、是非ご覧あれ!



 皆様の感想心よりお待ちしております。ご指摘、誤字の報告なども、感想の方に
お願い致します。



[26388] <第三章>第七話 これより……私は仲直りをして拒絶されます
Name: ゴリアス◆1198178c ID:9a267547
Date: 2011/06/22 00:25
 え? 今回から挨拶始めるの?
 え~っと、皆さんこんばんわ、こんにちわ! 皆さんに支えられている作品のヒ
ロインやらしてもらってます。織斑千秋です!

 精一杯頑張りますので………って、ちょっと、まだ途中……!?





 そんな風にふざけ合っていると、さっきまで騒々しかった周りが、ざわめいているのに気づいたのです。

「ねえ、ちょっとアレ……」
「ウソッ、ドイツの第三世代型だ」
「まだ本国ではトライアル段階だって聞いてたけど……」

 『ドイツ』、『第三世代型』。この単語を聞いただけで、このざわめきの原因が分かってしまいました。私は意を決して、その注目の先へと目を向けます。

「……………」

 予想通り。絶対零度の瞳がありました。

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長を務め、ドイツ内でかなりの名が通っている少女。銀髪隻眼、そして赤の瞳。なぜ冬姉ぇを慕いまくっているのかや、隻眼になった理由などは載っていませんでしたが。黛先輩からもらった資料には大まかな情報が載っていたのです。

 そして彼女の搭乗しているIS、ドイツの『シュヴァルツェア・レーゲン』。そいつに搭載されている兵器が厄介です。AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)。そう呼ばれている武装は、私が未だに開発段階だと思っていた武装で。簡単に言うと金縛りの術なのです、ニンニン。

 コホン、失礼。

 AICとは、ISのPICを発展させて武装化した物で、その性能は相手の運動能力を完全に制止させてしまうことができるのです。コレを使えば、銃弾だろうとレールガンから発射されたコインだろうと[都知事による規制]から発射された白濁色の液体だろうと、空中に縫い付けてしまうことができます。まあ、目視出来ていればの話ですが。

「おい、そこの女」

 私が視線を向けていることに気づいた彼女が、さっそく発破を仕掛けてきました。

「私のことかな? 『ドイツの冷水』さん」

 向こうはISの拡声機能を使っていますが、こっちはそんな物はないので普通に喋ります。

「ふん。コソコソと私のことを調べたか」
「いやいや、『シュヴァルツェ・ハーゼ』の『ドイツの冷水』といえば、結構有名なんですよ?」
「ふん、貴様が嗅ぎ回っていた事に変わりはないだろう」
「まあ、そうですね。で、用件は?」
「貴様の兄が専用機持ち出そうだな。ならば話が早い。私と戦うように話をつけろ」
「どうして私が。いえ、私達が貴女と戦う理由あるんですか?」
「貴様らになくとも、私にはあるのだ」

 まあ、そうでしょうね。そんなことは調べるまでもなく分かりますよ。

 ドイツ、冬姉ぇ、そして私達。全然関係していないようで、実はかなり密接に関係しているのです。そう始まりは、第二回『モンド・グロッソ』決勝戦。冬姉ぇの大舞台の日に起こったのです。その日、私達は何者かに拉致されて……………







       △△

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『泣くな千秋、私なら大丈夫だ。一夏、よく妹を守り通したな。偉かったぞ』
『でも千冬姉、千冬姉の決勝戦が!』
『冬姉ぇゴメンね、ゴメンなさい冬姉ぇええええええ!』
『だから泣くなと言うのだ。決勝戦なんか、お前達二人に比べたらどうってことない』
『そんなことない! 私知ってる、私知ってるから! だから、ゴメンなさい! 冬姉ぇ、ゴメンなさい!!』
『千冬姉、ゴメンよ! ゴメンよ!』
『いいんだよ。千秋、一夏。いいんだ。お前達が無事なら、それでいいんだよ』

       △△






 私は悔しくって唇を噛み締めていると、黙っている私に痺れを切らしたのかボーデヴィッヒさんはISで浮遊しながら私に近づいてきました。

「貴様らがいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえたことだろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を――――貴様らの存在を認めない!」

 そうだよね。加えていうなら、もう一つ。たぶん冬姉ぇが現役を引退したのも、私達が原因。あの時みたいに私達がもう一度誘拐されたら堪らない、そう考えた冬姉ぇは引退を決意したんじゃないかと思っている。今思えば、あの誘拐は決勝戦での対戦国の差し金だったのかもしれませんね。

 もしくは、冬姉ぇはあの事件の黒幕に辿り着いた? そしてその黒幕の闇の大きさに、私たちを巻き込むまいと自らの半身とも言えるISを手放したのかもしれない。まあ、どちらにしても私達が原因なんですけどね。

 そしてさっきの口ぶりからすると、冬姉ぇの強さに憧れている。そして教官としてとても慕ってくれているらしいのです。そのことには感謝します。冬姉ぇはあんまり人から好かれるタイプではないので、あんな冬姉ぇを純粋に慕ってくれることはとても嬉しいのです。

 故に、その経歴に傷をつけた私達を絶対に許せないのでしょうね。

「だ、そうだけど。どうするの、一夏?」
「また今度な」

 でしょうね。一夏からしてもやる意味もなければやる気もない。ないない尽くしのこの状況で、元々日和見主義の一夏がやり合うはずもないのですよ。

「そうか、ならば戦わざるをえない状況にしてやろう」

 言うが早いか、ボーデヴィッヒさんは真っ黒なISを戦闘状態へと移行。次の瞬間には、左肩に装備された実弾砲が私に向けられていました。

「ッ!?」

 そう、私に。IS装備もなく完全な無防備な私に、セーフティーの外された銃が狙いを定めていました。

「妹を傷付けられて、黙っているかな?」

 う、撃たれる!?

 ズガギンッ!

 しかしその砲身が火を吹くことはなく。まさしく一瞬で飛んできたデュノア君のシールドに守られ、その砲身は一夏の《雪片二型》で下向きに叩き付けられていました。

「まさか生身の人に武器を向けるなんて、ドイツの人はずいぶんと良識がないんだね? ジャガイモ掘りすぎて人との接し方を忘れちゃったのかな?」
「おいアンタ、俺の妹に何しようとしてんだよ!」
「貴様ら………」

 デュノア君は、一夏の援護のために大口径アサルトライフルを展開して、照準をボーデヴィッヒさんに合わせています。展開早ッ!?

「フランスの第二世代型(アンティーク)と、まだ乗り立てのシロウトごときが、私の前に立ちふさがるとはな」
「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代型(ルーキー)よりは動けるだろうからね」
「素人だろうと、玄人だろうと。俺の家族に手を出すやつはタダじゃおかないぜ」

 涼しい顔をしたデュノア君と、歯を食いしばって怒る一夏。その二人と絶対零度の瞳で睨み合うボーデヴィッヒさん。両者、今にも激突しそうな雰囲気なのですよ。

 しかし驚くべきはデュノア君の武装展開の早さ。通常、一つの武器を出すのに一秒弱、セシリアですら一秒はかかります。しかしデュノア君は、腕を出した瞬間には展開を終了し射撃可能状態まで持っていきました。これはつまり、頭の中にイメージが明確に出来上がるまでの速度が超高速であることを意味するのです。

 聞いたことありますね。かつてIS世界大会、『モンド・グロッソ』にて公開された技能の一つ。展開した武装を最速で呼び出し(コール)、収納(クローズ)する技術。あれが、『高速切替(ラピッド・スイッチ)』ですか。

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 うお!? 大音量スピーカー!? おそらく私への発砲未遂を見た誰かが、先生に報告したのでしょう。

「………ふん。今日は引こう」

 あ、あれ? やけにあっさり引いちゃうのね。それにしても、無防備の状態の人間に発砲とか、どんだけ私達のこと目の仇(かたき)にしてるんですかね。

「千秋さん、大丈夫?」
「千秋! ケガとかないか?」
「千秋さん! おケガはありませんか?」
「千秋! 大丈夫か?」
「大丈夫、千秋!? あのドイツ人、なに考えてんのよまったく!」
「う、うん。大丈夫。二人が割って入ってくれたから」

 ようやくホッとした矢先、箒ちゃんに鈴ちゃんにセシリアが駆け寄ってきてくれました。ホント、一夏はともかくデュノア君が入ってくるとは思ってもいなかったのですよ。

「なんか大変な騒ぎになっちゃったし、今日はもうあがろっか。四時を過ぎたし、どのみちもうアリーナの閉館時間だしね」
「おう、そうだなシャルル。あ、銃サンキュ。色々と参考になった」
「それなら良かった」

 ま、一夏が銃の特性と現状の把握ができただけでも今日は収穫でしたかね。

「よし、戻ろうぜ」
「待って一夏ちょっとデュノア君と話があるの、先に戻ってて」
「ん? そうか? わかった。じゃあ、また後でな」
「う、うん。後で」

 それだけ言って、一夏はピッドに戻っていきました。他のメンバーもそれぞれ戻っていき。一夏の居なくなったアリーナは、途端に人口密度が薄くなったのです。まあ、それでもデュノア君が居るから少しは残ってるんですけどね。

「で? 話って?」
「先日の件です」
「えっと、この前の取っ組み合いの話の続き?」
「ええ、そうですね。でもそれだけじゃないです。何故、私を助けたんですか?」
「何故って、理由なんか要るの?」
「仮にも、貴方のことを疑い続けると宣言した身です。貴方から好意的な感情を持たれているとは考え難い。しかし貴方はそんなことお構いなしと助けに入りました。その真意を知りたいんです」
「真意も何も。目の前で傷付きそうな女の子が居て、自分が何とかできる状態だったら助けるのが普通じゃない?」
「つまり、深い意味はなかった。と?」
「う、うん」

 ……………ふぅ。ったく、馬鹿みたいですね私。

「そ、それじゃあ。僕もう行くね? あんまり遅いと、一夏も心配するし」
「………さい」
「え?」
「この前はごめんなさい。って言ったの」
「え? それって……」
「この前の言葉、信用します。貴方がここで三年間過ごしたいだけって言った言葉。私の懸念していることとは無関係だってこと。確証はまだ取れませんけど」
「ず、ずいぶんといきなりだね。どういった心境の変化?」
「私も恩知らずではないってことですよ。無条件で守ってくれた人を、これ以上疑るほど人でなしでもありません」

 そういって、肩を竦めました。

「シャルル君。よかったら、そう呼ばせてもらえない? 仲直りの意味も含めて。って、一方的に疑ってたのは私だけどね。本当にごめんなさい」

 誠意を持って頭を下げます。これが、確信もないのに疑ってしまったせめてもの償いなのです。

「そ、そんな、いいよ! 頭上げて、織斑さん! みんな見てるから!」
「許して、くれるの?」
「ゆ、許すもなにも、秘密があるのは本当だし。そういった意味では、みんなを騙している訳だし」

 “秘密”以降は小声で話すシャルル君。本当に秘密、あるんですね。

「でもよかった。許してくれて。一夏の友達に嫌われてるのは、ちょっと気が引けるしね。ね、私のことも千秋って呼んでよ。アッチもコッチも織斑じゃ紛らわしいでしょ?」
「う、うん。それじゃ、千秋さんで」
「うん。これからもよろしく、シャルル君。さ~て、安心したらお腹空いてきちゃった。これから一緒に食堂いかない?」
「いや、止めとくよ。さすがにこれ以上遅れたら一夏が心配するしね」
「そっか。じゃ、また明日。またね、シャルル君!」

 そう言って、私も第三アリーナを後にしました。あ~、すっきりした。今日はなんだかよく眠れそうなのですよ。






「と、思ったんですけどね~?」
「いっや~、ゴメンネ織斑さん。ちょっと手伝ってもらうつもりだったんだけどさ」
「いえ、いいですよ? 先輩には日頃からお世話になってますから」

 現在、私は整備課にて大量のデータの打ち込み作業を行っております。その総数、聞いて驚け50MB! 人間の打ち込める量じゃねぇって! 無論一人ではないですがね?

 ここに来る経緯は、こんな感じです。

~回想スタート~

『織斑さんはけーん!』
『な! 出たなショッカー!?』
『お前達、やーっておしまい!』
『アラホラサッサー』
『そうはさせん!』
『なにやつ!?』
『俺は太陽の子! 仮面ライダーブラック、RX!』
『変身ポーズの隙に織斑さん確保! 撤収!』
『バイバイキーン!』
『な!? 待て、クライシス!』

~回想エンド~

 と、いった経緯なのです。

「はい、そこー! 嘘言わない! アリーナから帰ってる途中の織斑さんに、食事を奢る条件で手伝ってもらう確約付けただけでしょうが!」
「てふぇ☆」
「はいはい、ふざけてないで手を動かす! 食堂終わるまでに作業終了しなかったら出前になっちゃうよ?」

 そ、そんな!? こんな味気のないオイル臭い場所で、寿司詰め状態になりながら黙々と飯を食えと!? ご飯をこよなく愛する私としては、そんなことは断固お断りなのですよ!

「わかりました! 全力で終わらせます!!」
「そぅ、その意気その意気」

 そうして一時間くらいが経過したでしょうか? 私に振られた分はほとんど終わらせて、今は疲れた手と目を休ませているのです。

「ふぃ~。ん? 黛先輩、ちょっといいですか?」
「ん~? 何~? 今は目を使う作業はご遠慮願いたいよ~?」

 目薬を点しながら私の質問に答えてくれる先輩。器用ですねぇ。

「あの子、整備課の子ですか? にしてはツナギも着てませんし、雰囲気も違うんですが」

 私の指差した先には、未完成らしいISの原型を前に空中投影キーボードで入力作業をしている水色髪の女の子。はて? どっこかで見たような。もっと近づけばわかるんでしょうけど、さすがに反対側の壁際まで行くのは億劫なのですよ。

「え? ああ、あの子。って、織斑さん知らないの? 情報に強い貴女が」
「いや、見覚えはあるんですよ。しっかし誰だったか……」
「まぁ、知名度はお姉さんのほうが高いしね。彼女は更識さん。更識 簪(さらしき かんざし)さんよ」
「え? 更識って、あの?」
「そ、たっちゃん。ん~っと、生徒会長の更識楯無さんの妹さん。知らない?」
「え~っと……、ああ! 思い出した! たしか日本の代表候補生! 四組のクラス代表でしたね」

 うっかりしてましたよ。四組のクラス代表! 一夏がクラス代表になったときに、他のクラス代表をチェックしていたときに見たっきりでしたね。そう言えば、どことなくお姉さんに似ているような。

「でも、なんで彼女が整備課に? しかも未完成のISを弄ってるんですか?」
「その未完成のISってのが、彼女のISなのよ」
「え゛?」
「倉持技術研究所、知ってるでしょ?」
「ウチの愚兄が大変お世話をかけているところですね」

 なんたって世界でただ一人、ISを動かせる男子なんていう貧乏くじを背負わされた研究所ですからね。そりゃあ名誉なことでしょうけど、訳の分からない理由でISを動かせる男子に合わせてIS作れだなんて。日本政府も無茶を通り越して無謀なことを言うのですよ。

「そ。その倉持技研は、本来彼女のIS作成も請け負っていた訳。これでだいたい分かるかな?」
「ええ、十二分に」

 つまりウチの愚兄に人員回しすぎて、倉持技研も人材不足。とてもじゃないけど、そっちの方まで手がまわらねぇよクソったれぃ。って感じですね。技研の方々、本当にご苦労様です。

「んで、彼女が自分で組み上げてるって訳。私達も手伝うって言ったんだけどさ、自分一人で組み上げたいんだってさ」
「ふ~ん。何ででしょうね?」
「たぶん、たっちゃんが自分一人でIS組み上げたからでしょ」
「え? そうなんですか?」
「そうよ。彼女の前のIS『グスイート・トゥマン・モスクヴェ』っていう機体を基盤にして、ほとんど彼女一人で立ち上げたのが現在のIS『ミステリアス・レイディ』。構成パーツのほぼ全てにナノマシンを組み込んだ水を使った彼女だけのISよ」
「さすが、詳しいですね」
「あのねぇ。これでも私は整備課の人間なのよ?」

 いや、それは分かっていましたけどね?

「それにして、生徒会長をたっちゃんですか」
「だってさ。更識も、楯無も、呼びにくいじゃん。たっちゃんの方が親しみあるっしょ?」

 いえ、呼びにくさではどっこいどっこいですよ。

「さ~ってと、終わったぁ! 織斑さんはどう?」
「もう少しです。……よし、コッチも終わりっと。なんとか時間内に終わりましたね」
「さすがにこんな所で食べるご飯は味気ないからね。そんじゃ、食堂行きましょ。かなりギリだけど、まだ間に合うわ」
「あの、他の皆さんは?」
「あ~、大丈夫。彼女達は泊り込みとか慣れてるから。ほら、そこに寝袋とか簡易ベッドとかあるでしょ?」

 あ、本当だ。工具の山に隠れてましたけど、寝袋やら簡易ベッドがチラホラと。

 むっ!? あ、あれは、蓑虫式寝袋!? な、なぜドラ○もんの秘密道具がここに!? 深く突っ込まないでおこう、青狸さんが出てきたら大変なのです。主に著作権的な意味で。イン○ィニット・ドラとすに介入してはいかんのですよ! きっと帰ってきてくれると、私は信じています!

「あ、黛先輩ちょっと待って下さい」
「んぁ? どったの?」
「ちょっと更識さんに挨拶してきます。身内が迷惑かけているので、そのお詫びも兼ねて」
「へ? ちょっ、織斑さん!?」

 善は急げなのです。引き止める感じに先輩が叫んでましたが、ものの三分程度で終わらせるのですよ。なるべくフレンドリーな感じで、後ろから声をかけます。

「始めまして。え~と、更識簪さん。ですよね?」
「…………だれ?」

 むむ? ほとんどディスプレイから目を逸らさずに話してきましたよ。

「私は織斑千秋、織斑一夏の妹。ウチの愚兄がいつもご迷惑をかけているようで」
「織斑………一夏君の?」

 お、ようやく振り向いてくれましたね。

「改めまして。織斑一夏の妹、織斑千秋です。貴女は更職楯無さんの妹、更職簪さんですよね? よろしく」

 そう言って、手を差し出します。握手を求めているつもりでしたが、ただその手をジッと見られました。

「え、え~と、握手とかどうかな?」
「私は、そういうの興味ないから」

 うわぁぉ、好戦的ですよこの子。でもま、仕方がないですよね。自分のISの作成が遅れている元凶の妹と、仲良く馴れ合う気にもなりませんよね。

「私に、構わないで」

 そう言って再び空中投影ディスプレイに目を走らせる更職さん。え、え~と、これってアレですか? “敵側の人間がノコノコ来てんじゃねぇよ駄馬が!”って感じですかね?

「え~っと、更職さん?」
「…………で」
「へ?」
「名字で、呼ばないで」
「あ、ごめん。簪さん、でいいのかな?」
「もう話すことはない。それじゃ」

 あっちゃあ、完全に拒絶の意思ですよコレ。仕方がない、今日は引きますか。

 とりあえず、私と黛先輩。他、作業の終わっている面々はご飯に向かったのです。







※  あとがき

 いや~、早めに上げられたことをうれしく思います。

 今回は更職妹さんとのファーストコンタクトとなります。最初っから拒絶感バリ
バリですが、そこをなんとかしていきたいと考えている千秋なのです。

 今回から、挨拶を始めてみました。毎回違うキャラでできたらいいな~ww

 さて、ラウラ辺にも突入しましたし、もうちょっとでアニメに追いつくぞー、頑
張ろう! 皆様のご支援もありまして、ここまでやってこれたのは、すべからく皆
様のおかげと思っております。これからも、ご支援、ご声援よろしくお願い致しま
す。



[26388] <第三章>第八話 これより……ジャックされます!
Name: ゴリアス◆1198178c ID:9a267547
Date: 2011/07/01 23:59
※  あいさつ(織斑 一夏)

やっほ~、みんな元気かなぁ? ご存知天才束さんだよ~ん!
ん? なに、作者? え? 今回はいっくんの番だって?
わかってるに決まってるじゃぁ~ん、私は天才束さんだよぉ?
え? じゃあなんで来たんだよって? だぁってさぁ~、今回やぁ~っと、やぁ~っと私の出番があったん
だよ? そうなったら出るしかないでしょう?
もっと私の出番増やそぉーよぉー? メイプルさんの“せいびのかみさま”では私ヒロインだし、君の推し
てる釜の鍋さんの“へいお待ち!五反田食堂です!”ではプロローグも含めて四話には出てきてるんだよ!?

へ? 話が長いって? もぅ、いいもん! 他の人が優遇してくれてるからコレくらいで勘弁してあげるん
だから………『た~ば~ね~!?』 おっと、チィちゃんだ。
まったねぇ~ん、バイバイキ~~ン!!

よかった、天災は去った…………以下、メインです。





 またです。最近この夢は見なかったのに。また見てしまったのですよ。

「まったく。最近はけっこう夢見よかったんですけどね。どういった訳か、この夢見ると寝汗が凄いんですけど」
『然り、それは貴女がまだ我々と出会うべき時に至っていないからである』
『されど、我々は貴女に出会うことを心より待ちわびている』

 陰陽師風の人と、西洋騎士風の人は、決まって交互に話をします。最初が陰陽師風の人、次が西洋騎士風の人。この順番も相変わらずです。

「貴方達は、いったい何者なんですか? って、前も同じ質問しましたね」
『然り、我等はまだ何者でもない』
『されど、我等はいかなる者でもある』
「同じ返答ですか。では、質問を変えましょう。貴方達の目的は何ですか?」
『然り、我等は貴女に出会うためにここにいる』
『されど、出会ってはならぬもの故この世界にいる』

 この世界。と言われて、私は再びこの景色に目を向けます。武家屋敷のようなところ、右には襖、左には庭園。毎回同じ風景、そして色がないのも同じです。しかしここ最近の夢は、私の意思どおりにしゃべれるので質問ができるので助かっているのですよ。

「この世界は、まるで死んでいるみたいですね」
『然り、この世界は未だ死んでいるようなもの』
「え?」
『されど、この世界はまだ生まれてもいないもの』

 生まれていないで、死んでいる? どういうことでしょうか?

「死ぬためには生まれる必要があるのでは?」
『然り、故にこの世界はまだ形作られていないもの』
『されど、ここに居るべきために形作られたもの』

 ??? まったくわからないのですよ。

「では問います。この世界を生まれさせるにはどうすればいいんですか?」
『……………』
『……………』

 おや? 急に黙ってしまったのです。もしかして、返事を考えてるんですかね?

『然り、……それは貴女の意思によるもの』
『されど、……それすなわち始まりにして終わり』

 え? 始まりにして、終わり?

『この世界を形作り、あるべき姿に成す。これは必然』
『されど、それを成すことでまた終わりを告げることも必然』
「どういうことですか? この世界が生まれてしまったら、終わってしまうって!?」

 そのとき、世界にヒビが入ります。そのヒビは徐々に大きくなり、やがて世界全てにヒビ入りました。武家屋敷にも、庭園にも、そして目の前にいる二人にも。

「な!?」
『貴女は見つけなければならない、貴女の貴女たるものを』
『貴女は選ばねばならない、貴女の貴女だけの道を』
「どういうことですか!?」

 そう叫んだとき、それが引き金であったように世界が砕け散りました。ガラスのように舞い散っていく世界。私は足場を失ってそのまま奈落へ落ちていくように感じました。

『選ぶのです。支え、見守る者となるのか。従い、守る者となるのか。貴女自身が』

 落ちている最中、頭に響いたのは陰陽師風の人の声。私はその声に反論しようとして……






「ッ!! ハッ!?」

 目を覚ますと、そこは寮の自室でした。時刻は深夜四時、もう少しで日の出なのです。

「なんだったの、今の夢って。何かの、暗示?」

 頭を乱暴にかきむしって、今見た夢を思い出します。うっわ、寝汗すっごい。こんな状態で二度寝したら、明日の朝は愉快なことになってそうですね。しかもこんなびっしょりじゃ、寝るに寝られませんよ。ヤバ、パンツまでグショグショじゃん。

「ハァ、シャワーでも浴びよっと」

 箒ちゃんを起こさないように、そ~っと歩いて脱衣所に。そして、なるべく静かにシャワーを浴び始めます。

(さっきの夢、あの二人は私に何かを伝えようとしていたの?)

 頭の中で反芻するのはさっきの夢の内容。特に最後の部分なのです。

『貴女は見つけねばならない、貴女の貴女たるものを』
『貴女は選ばねばならない、貴女の貴女だけの道を』
『選ぶのです。支え、見守る者となるか。従い、守る者となるのか。貴女自身が』

 考えても考えても、答えはできてません。

(選ぶって言っても、何を選べって言うんでしょう。支え、見守る者。従い、守る者。何のことを言ってるのかさっぱりなのですよ)

 ハァ~、昨日は遅くまで黛先輩に付き合わされてたので若干寝不足なのです。こりゃ冬姉ぇ以外の授業でちょっとだけ睡眠時間を回復するしかないですね。

「千秋? 起きているのか?」
「あ! 箒ちゃん? ゴメン! 起こしちゃった?」

 そんなことを考えていると、外から箒ちゃんの声が。いかんのです、やっぱりシャワーはまずかったですかね。

「いや、朝の鍛錬の時間なので起きたらシャワー室から音がするのでな。千秋がベッドにいなかったから、こっちかと思って声をかけたのだ」
「そっか。それならよかった。起こしちゃったら悪いもんね」
「なに構わん。では私はこれから朝の鍛錬に行ってくる。二度寝しても起こさんからな」
「だ、大丈夫だよ! いってらっしゃい」
「うむ。朝食前には帰ってくる。食堂へは一緒に行こう」
「うん、わかった」

 その言葉の後、扉の閉まる音。朝早くからご苦労ですねぇ箒ちゃん。まだたぶん四時半くらいじゃないですか? いつもこの時間に起きてるの?

「むぅ、私も早寝早起きの習慣を付けたほうがいいのかな?」

 そう思ったけど、絶対に無理なので考えた矢先に却下なのです。

「今悩んでもわからないってことは、情報のソースが少ないってことなのです。こんな状況で悩んでも前には進めないので、この話はいったん終了!」

 情報源(ソース)がない以上、それ以上先に進めないのは情報戦の常。だったらソースの出揃うまで、他のことに頭を使ったほうが有意義なのですよ。

「よし! 今日もファイトだ私!」

 頬を叩いて眠気を一時的に吹き飛ばすと、勢いよくシャワー室の扉を開きました。

「プギャ!?」

 そして一歩前に踏み出した瞬間に、洗濯籠の角に足の小指をぶつけたのです………。






       ◇◇

 時と、そして場所を変えて話をしよう。

 そこは奇妙な部屋だった。

 ただただ機械の部品が所狭しと散りばめられ、その隙間を機械仕掛けのリスやらネズミやらが駆け巡っている。その中に響くのはただ永遠と空中に投影されたキーボードを叩く音のみ。

 チキチキチキチキチキチキチキチキチキチキ

 空中に投影されているのは、おそらくISだろう。しかし各所に表示されているステータスを現在の研究者たちが見れば、最初に出てくる言葉は『何かの冗談か?』だろう。

 現行ISを大幅に上回るスペックと、ステータス。そして各所に記されている武装や外装は、どこの国にも未だに開発不能なオーバーテク。こんなものを作成できるとしたら、その人物はおそらく未来人か人成らざる者だろう。そして今回の場合は後者であった。“天才”と言う名の、人成らざる人。神の気紛れによってもたらされた天恵、その者の名を“篠ノ之 束(しののの たばね)”といった。

 ちなみに格好がこれまた奇天烈でもあった。上は半そでのワイシャツ、しかもボタンの合わせの所やそでにフリルのついた昔の貴族風で。下はロング丈のスカート。もちろん裾にはフリルがあしらわれている。そして髪は黒髪を思いっきり詰めて金髪のショートのカツラをかぶっていて、何を思ったのか肩から下げているのはパン型のバッグ。そこから察するのは、一人『ヘンデルとグレーテル』だろう。

「ふんふふ~ん、ここをこうして、これをあーしてっと。わぁお、一気に性能が大幅アップだよ」

 鼻歌交じりにする作業は、今の科学者たちには到底できないこと。彼女が片手間で作る物は、今の技術者には到底できない物。それを平然とやってしまうのが、篠ノ之束という人種だった。

「ふんふふふ~ん。ん? おんやぁ?」

 そのとき、彼女のキーボードを打つ手が止まった。そして傍らにおいてあったボックスを漁り、中から取り出したのは菱型の立体的クリスタル。ISのコアだった。

「まぁ~た君はオーナーの所にトんでたのかい?」

 彼女はそう言いながらコアに話しかける。その口調はとがめるようなものではなく。小さな子供を諭すような優しいものだ。まるで、咎を犯してしまった罪人を許す聖母のような。

「ダメだよ? 君の出番はもう少し後なんだから。早く会いたい気持ちはわかるけど、もう少し我慢しててね?」

 そう言ってコアを再びBOXへと戻し、彼女はキーボードを打つ手を再開する。

「くふふふふ、待ち遠しいね? 楽しみだね? 彼女はいったいどんな選択をするのか。本当に楽しみで仕方がないよ」

 彼女のテンションを示すようにマルチタスクされた画面がドンドン増え、そして驚異的な速さで全画面が同時進行でスクロールされていく。

「彼等を支え、そして助力する補助者となるのか。彼等を守り、ツギハギだらけの体を盾とする守護者となるのか。本当に楽しみだよ」

 独り言をブツブツといって、そして最後にマルチタスクした画面を全て閉じる。最後に残ったのは、やはり空中に投影されたISの全身図のみとなった。

「君もそう思わないかい、“紅椿”?」

 そういって、投影されているISに始めて目線を合わせる。さっきまでの作業は、手元も画面を見ずにコアに目を向けて話していていたこと。改めて向けられたISの全身図の右下に、ローマ字で綴られているのはAKATSUBAKIの文字。おそらくこのISの機体名だろう。

「さ~て、次はも~っと楽しくなるよね?」

 篠乃之束は面白くて仕方がないとばかりに、顔をニヤケさせて次の作業にとり掛かる。

       ◇◇






※  あとがき


 え~っと、すいません。一週間以上間が開いてしまいました。
 そしてその割には内容が少なくて申し訳ありません。

 最近休みが減った上に不定期で、けっこう厳しいです。でも、頑張ります!

 次の更新ももっと早くできるようにしたいです。よろしかったら感想などを残し
ていただけると幸いです。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.788604021072