なぜ信用できないのか? 政府が発表する原発情報に
Business Media 誠 7月1日(金)19時35分配信
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爆発後の3号機の外観(出典:東京電力) |
【原口一博×武田邦彦 それでも原発は必要か:なぜ信用できないのか? 政府が発表する原発情報に】
東京電力の記者会見を見ていて「情報を隠しているのでは」と不信に感じた人も多いはず。また枝野官房長官が「直ちに健康に影響がない」とコメントするたびに、不安に駆られた人もいるだろう。なぜ国民は政府が発表する情報に、不信感をもっているのだろうか。この問題について、民主党の原口一博議員と中部大学の武田教授が語り合った。全8回でお送りする。
●情報をきちんと出していたのか
――東京電力の福島第1原発で事故が起きましたが、国民の多くは「政府はきちんと情報を出していないのでは」と不信に感じているのではないでしょうか?
原口:率直に言って、その通りだと思います。この問題については大きく分けて、2つを考えなければいけません。1つは情報開示の問題。もう1つは事故に対する指揮系統の乱れです。
福島第1原発で事故が発生しましたが、僕は「政府の初動の対応、そしてその後の対応は間違っている」と言ってきました。今回のように「レベル7」の事故が起きたときには、ミニマックス原理(各選択肢において、最悪の結果を見つける。その中で、一番よい結果をもたらす選択肢を選ぶ)で行動しなければいけません。
例えば避難地域について、政府は原発からの距離によって決めています。またパニックを恐れ放射性物質の拡散予測システム「SPEEDI(スピーディ)」のデータも、ものすごく遅れて公表しました。こうした政府の対応は、失敗だと思っています。
僕は総務大臣を務めていましたが、総務省には災害が起きた場合の「危機管理ルーム」があります。そこには災害の情報を一元化し、マネージメントするためのすべてのモノが配備されている。同じモノが経済産業省などにもあるはずなのに、うまく機能しませんでした。今回は地震、津波、原発――3つの災害が同時に起きた複合災害。官邸のコントロール機能はとても大事なのに、原発の災害については原子力安全委員会の委員長も官邸につめさせてしまった。
しかし委員長をつめさせてしまうと、そこでの決裁権者がいなくなってしまう。もっと言うと、東電の決裁権者も集めていた。そして原発の事故現場との連絡がうまくいかず、ミスを繰り返しました。いまだに原発の最前線で働く人たちの意見というのは、きっちり入ってきません。
非常事態に官邸がうまく機能しなかったことで、どのような結果を招いたのか。例えば佐賀大学の元学長・上原春男先生は、原発の冷却系の設計をされていました。上原先生は3月12日に官邸に呼ばれ「海水を間断なく注入し続けてください」と指示しました。また「非常用復水器が停止した」と聞き、上原先生は水素爆発とメルトダウンを予測し、3月13日には「循環冷却装置を作ってください」と言いました。地震直後から海水を注入していれば、ひょっとしたら「非常用復水器の停止」はなかったかもしれません。
もし3月12、13、14日に、官邸が決断することができていたら、海に大量の汚染水を放出することもなかったかもしれない。汚染水による2次、3次被害を救うことができたかもしれません。またメルトダウンも起きていなかったかもしれません。
●政府は本当のことを言ってくれない
武田:僕はブログを書いていますが、多くの読者から質問のメールが届きます。その内容のほとんどは「政府は原発が爆発する可能性が分かっていても、絶対に発表しない」というもの。多くの読者は確信しているんですよ。政府は絶対に本当のことを言ってくれない、ということを。
そしてもし原発が爆発すれば、政府はこんな対応をするのではないでしょうか。「原発が爆発しました。しかし健康に被害はないので、そのままじっとしていてください」と。しかし政府がこんな発表をしても、国民は「それも嘘だ」と疑ってしまう。多くの国民は心の底から、政府を信じていないのではないでしょうか。
「政府の言っていることは信じられないので、自分で情報を入手しなければいけない。インターネットを使って情報を仕入れ、それをTwitterなどで流さなければいけない」――このように考え、そして行動している人も多いことでしょう。なぜこんなことをしているかというと、自分の身や子どもの健康を守る術がないから。今の政府の対応を見ていると、国民を守ろうとしていません。しかしなぜ国民を守ろうとしないのか、その理由が分かりません。
その「なぜ」を突き詰めていくと「ひょっとしたら政府は電力会社からお金をもらっているのかもしれない」と疑ってしまう。もしくは国民のパニックを恐れていたのかもしれない。はたまた単に決断ができないだけなのかもしれない。理由はよく分かりませんが、「とにかく政府の言っていることは信用できない」と感じている人が多いのではないでしょうか。
原口:ご指摘の通り、国民の多くは今の政府を信用していませんね。
武田:例えば東京〜大阪間を結ぶ、大型客船が運行することになったとします。その船には乗客を守るための救命ボートや救命具を用意しなければいけません。また大きな事故が起きた場合を想定して、救助隊らはその準備も行う必要があります。
ところが福島第1原発では事故が起きたとき、政府は近隣の住民を助けようとしませんでした。チェルノブイリで事故が起きたとき、旧ソ連の対応はいろいろ問題がありました。しかし事故が起きた翌日にはキエフからバスを出動させ、原発の周辺地域に住む住民を避難させました。
福島第1原発で事故が起きたとき、政府はなぜ住民をすぐに避難させることができなかったのでしょうか。原発というのは自民党時代からかかわっていることなので、民主党だけの問題ではありません。しかし時の政府として、住民をすぐに避難させることができなかったことはものすごく大きな問題です。政府のどこに問題があったのでしょうか?
原口:僕もその点については問題意識をもっています。武田先生がおっしゃるように、旧ソ連は大量のバスを用意し、赤ちゃん、子ども、妊婦、女性を優先して避難させました。また動物も逃がしています。
そして現在、年間5ミリシーベルト以上あるところでは、原則住むことができません。また年間3ミリシーベルト以上あれば18歳以下の人は立ち入り禁止になっています。日本政府のように距離で避難地域を決めていません。なぜ日本政府は放射線量で、避難地域を決めることができなかったのか。これはとても大きな問題です。
武田:そう思います。
●菅首相に辞めてもらいたい理由
原口:原発にかかわっている大臣が、何人いるかご存じでしょうか。実は5人もいるんですよ。全員の名前を挙げることができる人は、ほとんどいないでしょう。モニタリングポストは文部科学省、戦略にまつわることは科学技術省、このほか防災担当大臣もかかわっています。テレビには官房長官や経済産業省がよく出ていますが、原発には多くの人が携わっています。
さきほど武田先生は船を例に挙げられましたが、原発はいわゆる“エンジン”だけあって、救命ボートや救命具などを用意せずに運転を続けてきたんです。3月11日に事故が起き、その日の20時50分に2キロ圏内で避難指示が出されました。そして21時23分に3キロ圏内の避難指示と10キロ圏内の屋内退避指示が出された。
政治家の中には「自分たちはたいしたことをした。避難距離を広げたんだから」と思っている人がいるかもしれませんが、それではダメ。住民にはすぐに救命具をつけさせ、そして救命ボートで逃げるべきだったんです。
文部科学省は学校などで許容される放射線量について、1時間の限度を3.8マイクロシーベルトと発表しました。これは国際放射線防護委員会が、年間の積算放射線量20ミリシーベルトとしているものを根拠としています。しかしこの20ミリシーベルトについて、僕は大反対しました。
「現在のチェルノブイリと同じようにやりましょう。なぜやらないんですか?」と僕が訴えると、ある人はこう言いました。「それをやると、避難する人がたくさんになってしまう。学校だけで1000校以上の児童・生徒を、避難させなければいけない。それはできないんだ」と。
武田:ひどい話ですね。
原口:もしそれが本当の理由であれば、本末転倒です。未曾有の事故が起きているのに、動かせないことを理由に、動かせないようにした。20ミリシーベルトに決定した人たちは、それだけ放射能のリスクに子どもたちをさらしていることを本当に分かっているのか。これも本当に大きな問題です。
今でも3月20日のことを、よく覚えています。このタイミングで復水器を付けなければ、汚染水が海に流れてしまう。計算すれば分かることですから。菅首相に「だから今やらなければいけない」と訴えると、「分かった」と言ってくれた。しかし放射線量が高いことと「どこの管に付ければいいのか分からない」と話していました。一国の首相が、そんな細かいところまで差配する必要はないんです。
僕は「今やってくれ」と言いましたが、混乱したんでしょうね……菅首相は決断できませんでした。そして汚染水は3月23日にもれてしまいました。
今回の事故を大きくした理由の1つに、政府が「東電まかせ」にしていることが挙げられます。まず政府は、福島第1原発の収束予算を立てなければいけない。その予算で、徹底的にありとあらゆることをやっていかなければいけません。国土交通省は原発の地下を全部コンクリートにする準備を進めています。その準備は3月から始めているのに、いまだにゴーサインが出ません。
僕が、なぜ菅首相に辞めてもらいたいかというと、大きな権限を持った人間が決断をしないから。このままだともっと被害は大きくなり、日本は100年の悔いを残すかもしれない。もちろん地震という天災の面はありますが、東電の事故、そしてその後の処理については人災です。
【土肥義則,Business Media 誠】
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最終更新:7月1日(金)19時35分
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