2011年5月22日10時15分
イラクでは、フセイン政権崩壊後に300を超える集団墓地が見つかり、10万単位の遺体が掘り出されたという。その多くが今も身元不明のままだ。バグダッド生まれのモハメド・アルダラジー監督は、映画「バビロンの陽光」で、日本ではほとんど報じられることのない、この惨殺を描いている。
1978年生まれ。欧州で映画製作を学び、イラクとイギリスを拠点に活動している。2作目となる今作は、ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞と平和映画賞に選ばれた。まだ30代だがイラクの映画界を引っ張る存在だ。
福島第一原子力発電所の事故で、海外の映画監督や俳優の多くが来日を見合わせる中、約束通り4月中旬にやってきた。「母親が背中を押してくれた。『本当に苦難にあっている時こそ、支援を形として見せることが大事だ』と」
「バビロンの陽光」は、フセイン失脚から3週間後の話だ。クルド人の12歳の少年が祖母と共に、行方不明の父を捜して旅をする。
アルダラジー監督の子どものころの経験を基にした。「叔母は息子がイラン・イラク戦争で行方不明になり、いつも泣いていた。父を捜す少年は、私自身の投影でもあるのです」
少年役は、路上でスカウトしたヤッセル・タリーブ。祖母を演じたシャーザード・フセインの夫は、政治的な理由で行方不明になり、亡くなっている。
アルダラジー監督は「推計だが、集団墓地で見つかった遺体は25万、行方不明者は100万人を超える。今も宗派間の対立で身元不明の遺体は増え続けている」と話す。監督は映画だけでなく、遺体の身元を調べる「イラク・ミッシング・キャンペーン」も展開している。
かつて275館以上あったという映画館も湾岸戦争とイラク戦争で大半は失われたという。監督は、空気で膨らませるスクリーンとプロジェクターを車で運び、各都市で自らの作品を上映している。
苦難の道のりにあるイラク。だが、アルダラジー監督は日本をこう励ます。
「まさか日本でも行方不明の話が現実になるとは思わなかった。でも、悲しみと向き合い、言葉にして分かち合うことが大事。そうすれば、いつの日か来る幸せに、目を向けることができるはずです」(西田健作)
◇6月4日から東京で公開。
あまりの過激さに物議を醸した問題作『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』。そんな前作をかる〜く超える、サシャ・バロン・コーエン主演の最新作。